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  • 特許-繊維配向方法及び繊維配向装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】繊維配向方法及び繊維配向装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20221115BHJP
   G06F 113/26 20200101ALN20221115BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F113:26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019023885
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020135057
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-008363(JP,A)
【文献】特表2014-521534(JP,A)
【文献】三木光範 外1名,オブジェクト指向に基づく複合材料設計,計算工学,日本計算工学会,1996年06月28日,Vol.1,No.2,pp.69-73
【文献】次世代構造解析 「力の通り道」が設計を変える,日経ものづくり,日経BP社,2011年09月01日,第684号 ,pp.62-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B32B 5/00 - 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含む材料の成形物の繊維配向を決定する繊維配向方法であって、
前記成形物の形状と負荷状態とに応じて荷重経路を算出する荷重経路算出工程と、
前記成形物の応力を指標化したPointing Stress Vectorを算出するPointing Stress Vector算出工程と、
前記荷重経路と前記Pointing Stress Vectorとに基づいて繊維配向を決定する繊維配向工程と
を備えることを特徴とする繊維配向方法。
【請求項2】
前記Pointing Stress Vector算出工程では、前記Pointing Stress Vectorとして、応力テンソルに基づいて算出されるPointing Stress Vectorを用いることを特徴とする請求項1記載の繊維配向方法。
【請求項3】
前記繊維配向工程では、前記荷重経路と前記Pointing Stress Vectorとを、重み付け係数を用いて組み合わせた繊維配向ベクトルを算出することを特徴とする請求項1または2記載の繊維配向方法。
【請求項4】
前記重み付け係数は、前記成形物の応力成分であることを特徴とする請求項3に記載の繊維配向方法。
【請求項5】
前記重み付け係数は、前記成形物の破壊指数であることを特徴とする請求項3に記載の繊維配向方法。
【請求項6】
前記繊維配向工程では、決定された繊維配向が予め定められた繊維の最小曲率半径よりも大きいか否かを判定する曲率判定工程を備えることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維配向方法。
【請求項7】
決定された繊維配向に基づいて計算された収束パラメータが所定の値以下であるか否かを判定する収束判定工程を備えることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維配向方法。
【請求項8】
前記収束パラメータは、変形量に基づいて定められることを特徴とする請求項7記載の繊維配向方法。
【請求項9】
繊維を含む材料の成形物の繊維配向を決定する繊維配向装置であって、
前記成形物の形状と負荷状態とに応じて荷重経路を算出する荷重経路設定部と、
前記成形物の応力を指標化したPointing Stress Vectorを算出するPointing Stress Vector算出部と、
前記荷重経路と前記Pointing Stress Vectorとに基づいて繊維配向を決定する繊維配向部と
を備えることを特徴とする繊維配向装置。
【請求項10】
前記Pointing Stress Vector算出部は、前記Pointing Stress Vectorを応力テンソルに基づいて算出することを特徴とする請求項9記載の繊維配向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維配向方法及び繊維配向装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、繊維を含む複合材料においては、成形品の剛性が最適となるように繊維配向を設計する必要がある。例えば、非特許文献1においては、設計点ごとの繊維配向角を設計変数とすることにより、繊維配向を最適化する手法が開示されている。また、他の手法として、非特許文献2に示すように、ポテンシャル流の流線を繊維の流れ方向とし、破壊指数が最小となるように繊維配向を最適化する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】本田 真也、“曲線繊維複合材およびスマート複合材の最適設計に関する研究”、[online]、平成25年6月8日、日本機械学会計算力学部門 設計情報学研究会、[平成30年6月25日検索]、インターネット(URL: http://www.ifs.tohoku.ac.jp/cmd/reference/LS4_PDF/DI4_honda.pdf)
【文献】Yusuke Yamanaka、他4名、“Fiber Line Optimization in Single Ply for 3D Printed Composites Vol.6 No.4 p.121-131”、[online]、平成28年10月、Open Journal of Composite Materials、平成28年10月、[平成30年7月4日検索]、インターネット(URL: http://file.scirp.org/pdf/OJCM_2016101214324183.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に示す手法においては、隣り合う設計点における繊維配向角において連続でない解が得られる場合があり、設計上の繊維配向による実際の成形が不可能となる場合がある。また、非特許文献2に示す手法においては、成形品が複雑形状である場合に、流線で繊維配向を示すことが困難となる場合がある。したがって、いずれの手法においても、形状等の条件によっては、設計が困難であり、剛性と強度とを両立させた繊維配向とすることができない。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、設計が容易であり、かつ剛性と強度とを両立させた繊維配向とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための繊維配向方法に係る第1の手段として、繊維を含む材料の成形物の繊維配向を決定する繊維配向方法であって、前記成形物の形状と負荷状態に応じて荷重経路を算出する荷重経路算出工程と、前記成形物の応力を指標化したPointing Stress Vectorを算出するPointing Stress Vector算出工程と、前記荷重経路と前記Pointing Stress Vectorとに基づいて繊維配向を決定する繊維配向工程とを備える、という構成を採用する。
【0007】
繊維配向方法に係る第2の手段として、上記第1の手段において、前記Pointing Stress Vector算出工程では、前記Pointing Stress Vectorとして、応力テンソルに基づいて算出されるベクトルを用いる、という構成を採用する。
【0008】
繊維配向方法に係る第3の手段として、上記第1または2の手段において、前記繊維配向工程では、前記荷重経路と前記Pointing Stress Vectorとを、重み付け係数を用いて組み合わせた繊維配向ベクトルを算出する、という構成を採用する。
【0009】
繊維配向方法に係る第4の手段として、上記第3の手段において、前記重み付け係数は、前記成形物の応力成分である、という構成を採用する。
【0010】
繊維配向方法に係る第5の手段として、上記第3の手段において、前記重み付け係数は、前記成形物の破壊指数である、という構成を採用する。
【0011】
繊維配向方法に係る第6の手段として、上記第1~5のいずれかの手段において、前記繊維配向工程では、決定された繊維配向が予め定められた繊維の最小曲率半径よりも大きいか否かを判定する曲率判定工程を備える、という構成を採用する。
【0012】
繊維配向方法に係る第7の手段として、上記第1~6のいずれかの手段において、決定された繊維配向に基づいて計算された収束パラメータが所定の値以下であるか否かを判定する収束判定工程を備える、という構成を採用する。
【0013】
繊維配向方法に係る第8の手段として、上記第7の手段において、前記収束パラメータは、変形量に基づいて定められる、という構成を採用する。
【0014】
繊維配向装置に係る第1の手段として、繊維を含む材料の成形物の繊維配向を決定する繊維配向装置であって、前記成形物の形状と負荷状態とに応じて荷重経路を算出する荷重経路設定部と、前記成形物の応力を指標化したPointing Stress Vectorを算出するPointing Stress Vector算出部と、前記荷重経路と前記Pointing Stress Vectorとに基づいて繊維配向を決定する繊維配向部とを備える、という構成を採用する。
【0015】
繊維配向装置に係る第2の手段として、前記Pointing Stress Vector算出部は、前記Pointing Stress Vectorを応力テンソルに基づいて算出する、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、荷重経路及びPointing Stress Vectorに基づいて繊維配向を決定する。したがって、成形品の繊維配向が荷重経路及びPointing Stress Vectorと近しくなり、成形品において荷重を繊維に沿って伝達することが可能であり、すなわち成形品の剛性と強度を高めることが可能である。また、荷重経路及びPointing Stress Vectorは、それぞれ負荷点から支持点に向けて連続的につながる。したがって、荷重経路に基づいて連続的に繊維配向を決定することが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る繊維配向装置を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態における剛性指標の算出方法を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る繊維配向方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態における剛性指標と荷重経路の一例を示す図である。
図5】(a)が変化量と計算回数との相関を示すグラフであり、(b)が計算回数ごとの繊維配向の一例である。
図6】本発明の一実施形態における繊維配向表示の一例を示す図であり、(a)が断面斜視図であり、(b)が全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る繊維配向方法及び繊維配向装置の一実施形態について説明する。
【0019】
本実施形態に係る繊維配向装置1は、応力解析部2と、剛性指標算出部3と、荷重経路設定部4と、Pointing Stress Vector算出部5と、繊維配向部6と、収束判定部7と、繊維配向出力部8とを備えている。なお、繊維配向装置1は、CPU、ハードディスク及びメモリを有するコンピュータの一機能として備えられている。このような繊維配向装置1は、3DプリンタやAFP装置およびATL装置等により成形される樹脂及び繊維により構成される複合材料によって成形品を成形する際に繊維配向を決定する。
【0020】
応力解析部2は、成形物の設計形状と、その成形物にかかる荷重等とを取得し、この成形物の応力状態を解析する。
【0021】
剛性指標算出部3は、ひずみエネルギに基づいて、成形物の設計形状と、成形品の負荷状態とにおいて定められる全節点の応力を解析し、剛性指標U*を算出する。具体的には、図2に示すように、荷重点A及び支持点Bを定め、図2(a)に示すようにC点を固定しないときのひずみエネルギUと、図2(b)に示すようにC点を固定したときのひずみエネルギU’とを有限要素法等の手法を用いて算出することにより、任意点C(節点)の剛性指標U*が下式(1)のように表される。剛性指標U*は、荷重点Aと任意点Cとの結合の強さを示すパラメータである。剛性指標算出部3は、下式(1)に基づいて、全ての節点における剛性指標U*を算出する。
【0022】
【数1】
【0023】
荷重経路設定部4は、成形物の設計形状と全節点の剛性指標U*とに基づいて、荷重経路を算出する。荷重経路設定部4は、成形物の設計形状及び負荷状態における剛性指標U*の分布に基づき、荷重の伝達経路(荷重経路)を算出する。具体的には、荷重経路設定部4は、図4に白の破線で示すように、荷重点との結合の強い箇所(剛性指標U*の値が大きい場所)を順次結んだ線を荷重経路として設定する。図4において、色の濃度は剛性指標U*の値の大きさを示しており、色が薄い(白い)程、剛性指標U*が大きい。このような荷重経路は、荷重点から支持点に向けて連続的に形成される。なお、荷重経路は、各節点におけるベクトルとして出力される。
【0024】
Pointing Stress Vector算出部5は、成形物の設計形状と負荷状態から各節点における応力テンソル(式(2)参照))に基づいて、Pointing Stress Vectorを算出する。具体的には、Pointing Stress Vector算出部5は、成形物の設計形状と負荷状態に基づく各節点の応力テンソルから、式(3)に示すベクトル式Vx、Vy、Vzを導出する。そして、Pointing Stress Vector算出部5は、ベクトル式Vx、Vy、Vzに沿う方向をPointing Stress Vectorとして定義する。このようなPointing Stress Vectorは、成形物の強度を最適化するために算出されるパラメータであり、応力がどのように集中するかを可視化するものである。したがって、Pointing Stress Vectorに沿って繊維を配向することで、成形物における強度を向上することが可能である。
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
繊維配向部6は、算出された荷重経路に基づいて繊維配向を決定する。具体的には、繊維配向部6は、荷重経路とPointing Stress Vectorとを下式(4)に基づいて重み付けした繊維配向ベクトルを算出する。なお、式(4)において、Vustarは荷重経路を表し、VstressはPointing Stress Vectorを表している。また、式(4)における重み付け係数αは、例えば、応力成分とされ、成形物における座標ごとに変化する変数で表される関数が用いられる。さらに、繊維配向部6は、繊維配向ベクトルに沿って繊維を配向した際の繊維の曲率半径を算出する。そして、繊維配向部6は、繊維の強度を損なわない程度に設計形状に配向するため、繊維の曲率半径が、予め定められた最小曲率半径よりも大きいか否かを判定する。
【0028】
【数4】
【0029】
収束判定部7は、繊維配向部6により決定された繊維配向における変形量を算出すると共に記憶し、前回算出された変形量と今回計算した変形量との変化率(収束パラメータ)を算出する。そして、収束判定部7は、変形量の変化率が予め定められた判定値よりも小さいか否かを判定する。
【0030】
繊維配向出力部8は、決定した繊維配向をモニタへと出力する。また、繊維配向出力部8は、3DプリンタやAFP装置およびATL装置等の制御装置に対して、繊維配向のデータを出力する。
【0031】
このような本実施形態に係る繊維配向装置1による繊維配向方法について説明する。
まず、繊維配向装置1は、応力解析部2により成形物の応力を解析し、剛性指標算出部3において、上式(1)に基づいて、剛性指標U*を算出する(ステップS1)。そして、繊維配向装置1は、荷重経路設定部4において、剛性指標U*に基づいて荷重経路を算出する(ステップS2)。なお、ステップS2は、本発明における荷重経路算出工程に相当する。
【0032】
そして、繊維配向装置1は、Pointing Stress Vector算出部5において、応力テンソルを算出する(ステップS3)。そして、繊維配向装置1は、Pointing Stress Vector算出部5において、上式(3)に基づいて、Pointing Stress Vectorを算出する(ステップS4)。なお、ステップS3、S4は、本発明におけるPointing Stress Vector算出工程に相当する。
【0033】
続いて、繊維配向装置1は、繊維配向部6において、荷重経路とPointing Stress Vectorとを上式(4)に基づいて重み付けして繊維配向ベクトルを算出する(ステップS5)。さらに、繊維配向装置1は、繊維配向部6において、定義された繊維配向ベクトルの曲率半径が最小曲率半径よりも大きいか否かを判定する(ステップS6)。そして、繊維配向ベクトルの曲率半径が最小曲率半径よりも小さい場合、すなわち、判定がNOの場合には、新たな剛性指標U*及びPointing Stress Vectorを算出して繊維配向を変更するため、再度ステップS1へと戻る。なお、ステップS7は、本発明における曲率判定工程に相当する。
【0034】
また、繊維配向の曲率半径が最小曲率半径よりも大きい場合、すなわち、判定がYESの場合には、繊維配向装置1は、収束判定部7において、繊維配向が収束しているか否かを判定する(ステップS7)。具体的には、収束判定部7は、前回算出された繊維配向による変形量からの変化率を算出する。収束判定部7は、この変形量の変化率が所定の値以下となった場合に繊維配向が収束したと判定する。例えば、図5に示すように、繊維配向は、ステップS1~S8のフローを繰り返すたびに徐々に変形量が一定となる。そして、繊維配向が収束していない場合、すなわち、ステップS7の判定がNOの場合には、新たな剛性指標U*及びPointing Stress Vectorを算出して繊維配向を変更するため、再度ステップS1へと戻る。なお、ステップS7は、本発明における収束判定工程に相当する。また、ステップS6は、本発明における繊維配向工程に相当する。
【0035】
また、繊維配向が収束した場合、すなわち、ステップS7の判定がYESの場合には、繊維配向装置1は、繊維配向出力部8において、図6(a)、(b)の破線に示すように、定義された繊維Fの配向を表示すると共に、外部装置へと出力する(ステップS8)。なお、図6においては、略半球状かつ球面に複数の開口を有する成形品に対して、繊維Fを配向した場合を示しており、上段が断面斜視図であり、下段が全体斜視図である。
繊維配向装置1は、このようなステップS1~S8のフローを繰り返すことにより、成形品の繊維配向を決定する。
【0036】
このような本実施形態に係る繊維配向方法によれば、荷重経路とPointing Stress Vectorとに基づいて繊維配向を決定する。したがって、成形品の繊維配向が荷重経路に近しくなると共に応力が集中する部位において密に配向されるようになる。これにより、成形品において、荷重を繊維に沿って伝達できると共に、応力が集中する部位において変形を防止することが可能であり、すなわち成形品の剛性及び強度を高めることが可能である。
【0037】
また、本実施形態に係る繊維配向方法によれば、Pointing Stress Vectorは、応力テンソルに基づいて算出される。すなわち、剛性指標U*の算出に用いられる節点に基づいて、Pointing Stress Vectorを算出することが可能である。したがって、成形物のPointing Stress Vectorの算出が容易である。
【0038】
また、本実施形態に係る繊維配向方法によれば、Pointing Stress Vectorと荷重経路との重み付け係数αは、成形物における座標により変化する関数である。これにより、例えば、応力が集中している位置においては、Pointing Stress Vectorに重み付けがなされ、応力が小さい位置においては、荷重経路に重み付けがなされるため、成形物における位置により、適切な繊維配向とすることが可能である。したがって、成形品の剛性及び強度を適切に高めることが可能である。
【0039】
また、本実施形態に係る繊維配向方法によれば、繊維配向の曲率半径が最小曲率半径よりも大きいか否かを判定する曲率判定工程を備えている。繊維は所定の曲率を超えて屈曲されると荷重を伝達することができず、成形品の剛性を損なうこととなる。しかしながら、本実施形態に係る繊維配向方法では、繊維の屈曲可能な曲率半径を超えた繊維配向となることがない。したがって、繊維の剛性を損なうことなく配向することができ、すなわち成形品の剛性及び強度を高めることが可能である。
【0040】
また、本実施形態に係る繊維配向方法によれば、繊維配向の変形量が収束したか否かを判定する収束判定工程を備えている。これにより、繊維配向は、変形量が最適となるように決定される。さらに、収束判定工程を曲率判定工程の後段に備えることにより、無理のない繊維配向としつつ、好適な剛性及び強度を有する繊維配向とすることが可能である。
【0041】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0042】
上記実施形態においては、収束判定工程において、変形量の変化率により収束を判定するものとしたが、本発明はこれに限定されない。収束判定工程においては、収束パラメータとして剛性の変化率により収束を判定するものとしてもよい。また、収束判定工程において、応力の変化率により収束を判定するものとしてもよい。また、収束判定工程において、破壊指数の変化率により収束を判定するものとしてもよい。この場合については、収束判定部7は、決定された繊維配向に基づく剛性や応力、破壊指数を算出し、同様に前回の剛性や応力、破壊指数からの変化率に基づいて収束を判定する。
【0043】
上記実施形態においては、重み付け係数αは、応力成分としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、重み付け係数αは、破壊指数を用いることも可能である。破壊指数は、複合応力場の応力の度合いを示す変数であり、応力成分と同様に、成形物における応力が大きい位置の値が大きく、成形物における応力が小さい位置の値が小さくなる。これによっても、応力が集中している位置においては、Pointing Stress Vectorに重み付けがなされ、応力が小さい位置においては、荷重経路に重み付けがなされるため、成形物における位置により、適切な繊維配向とすることが可能である。
【0044】
上記実施形態においては、曲率判定工程を実施するものとしたが、成形品の形状によっては省略するものとしてもよい。
【0045】
上記実施形態においては、繊維配向装置の動作として繊維配向方法を説明したが、本発明はこれに限定されない。繊維配向方法は、3DプリンタやAFP装置、ATL装置、または成形品の設計を行うコンピュータにおける一機能とすることも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 繊維配向装置
2 応力解析部
3 剛性指標算出部
4 荷重経路設定部
5 Pointing Stress Vector算出部
6 繊維配向部
7 収束判定部
8 繊維配向出力部
A 荷重点
B 支持点
C 任意点
F 繊維
図1
図2
図3
図4
図5
図6