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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/18 20060101AFI20221115BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20221115BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B60R19/18 P
F16F7/00 K
F16F7/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019088955
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020183201
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 明俊
(72)【発明者】
【氏名】嘉数 道夫
(72)【発明者】
【氏名】中森 貴俊
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-053438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0006554(US,A1)
【文献】国際公開第2009/098971(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/18
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材であって、
車両のフレームに間隙をおいて取付けられた複数の衝撃吸収用セルを備えており、
前記衝撃吸収用セルは、側面で衝突荷重を受ける多角筒体で、前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がりながら、前記衝突荷重の方向に潰れることで、前記衝突荷重を吸収する構成であり、
隣り合う前記衝撃吸収用セル間の間隔寸法は、各々の衝撃吸収用セルが前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がる際、互いに干渉しない寸法に設定されており、
前記衝撃吸収用セルは、多角筒体と、前記多角筒体の軸方向における端部開口を部分的に塞ぐ蓋状板部とを備えており、
前記衝突荷重で前記多角筒体が潰れる際、前記蓋状板部が前記衝突荷重の方向と交差する方向に広がりながら折れ曲がることで、前記衝突荷重を吸収する衝撃吸収部材。
【請求項2】
請求項1に記載された衝撃吸収部材であって、
前記衝突荷重の方向に複数の前記衝撃吸収用セルが重ねられた状態でセル集合体を構成しており、
複数組の前記セル集合体が前記車両のフレームに間隙をおいて取付けられている衝撃吸収部材。
【請求項3】
車両衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材であって、
車両のフレームに間隙をおいて取付けられた複数の衝撃吸収用セルを備えており、
前記衝撃吸収用セルは、側面で衝突荷重を受ける多角筒体で、前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がりながら、前記衝突荷重の方向に潰れることで、前記衝突荷重を吸収する構成であり、
隣り合う前記衝撃吸収用セル間の間隔寸法は、各々の衝撃吸収用セルが前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がる際、互いに干渉しない寸法に設定されており、
さらに、前記衝突荷重の方向に複数の前記衝撃吸収用セルが重ねられた状態でセル集合体を構成しており、
複数組の前記セル集合体が前記車両のフレームに間隙をおいて取付けられており、
所定の前記衝撃吸収用セルの外側面と、その衝撃吸収用セルに重ねられた前記衝撃吸収用セルの外側面とが連結板部により連結されており、
前記衝突荷重で前記多角筒体が潰れる際、前記連結板部が前記衝突荷重の方向と交差する方向に広がりながら折れ曲がることで、前記衝突荷重を吸収する衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時の衝撃を吸収するバンパーの構造に関する発明が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載のバンパー100は、図14に示すように、バンパーカバー102の内側空間に衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材105が収納されている。衝撃吸収部材105は、樹脂の射出成形品であり、複数本の縦方向リブ105xと複数本の横方向リブ105yとから格子状に形成されている。即ち、衝撃吸収部材105は、略角筒形の複数のセルSeが前後左右に連続してつながった状態で形成されている。そして、車両の衝突時に衝撃吸収部材105の各々のセルSeが潰れることで、衝突荷重が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-111322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記バンパー100の衝撃吸収部材105は、略角筒形の複数のセルSeが前後左右に連続してつながった状態で形成されている。このため、衝突荷重を受けて、衝撃吸収部材105の所定のセルSe(所定セルSe)が潰れようとする際、そのセルSeの周囲にあるセルSe(周囲セルSe)が所定セルSeの潰れを抑えるため、前記セルSeが潰れ難くなる。このため、車両衝突時の衝撃吸収部材105のセルSeの潰れ残りが多くなる。したがって、車両衝突時に予め決められた潰れ量を確保しようとすると、衝撃吸収部材105が大型化し、重量も大きくなる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、セルの潰れ残りを少なくして、衝撃吸収部材のサイズ、及び質量を従来よりも小さくできるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各発明によって解決される。第1の発明は、車両衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材であって、車両のフレームに間隙をおいて取付けられた複数の衝撃吸収用セルを備えており、前記衝撃吸収用セルは、側面で衝突荷重を受ける多角筒体で、前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がりながら、前記衝突荷重の方向に潰れることで、前記衝突荷重を吸収する構成であり、隣り合う前記衝撃吸収用セル間の間隔寸法は、各々の衝撃吸収用セルが前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がる際、互いに干渉しない寸法に設定されており、前記衝撃吸収用セルは、多角筒体と、前記多角筒体の軸方向における端部開口を部分的に塞ぐ蓋状板部とを備えており、前記衝突荷重で前記多角筒体が潰れる際、前記蓋状板部が前記衝突荷重の方向と交差する方向に広がりながら折れ曲がることで、前記衝突荷重を吸収する
【0007】
本発明によると、衝撃吸収用セルは、側面で衝突荷重を受ける多角筒体であり、前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がりながら、前記衝突荷重の方向に潰れることで、前記衝突荷重を吸収する。さらに、隣り合う衝撃吸収用セル間の間隔寸法は、各々の衝撃吸収用セルが前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がる際、互いに干渉しない寸法に設定されている。このため、衝突荷重を受けて、所定の衝撃吸収用セルが潰れようとする際、その所定の衝撃吸収用セルの周囲にある衝撃吸収用セルが前記所定の衝撃吸収用セルの潰れを妨げることがない。したがって、衝突荷重が衝撃吸収用セルに対して加わったときに、衝撃吸収用セルが効果的に潰れ、衝撃吸収用セルの潰れ残りを少なくできる。これにより、車両衝突時に予め決められた潰れ量を確保するための衝撃吸収部材のサイズを必要最小限に設定できる。即ち、衝撃吸収部材のサイズ、及び質量を必要最小限にできる。
また、蓋状板部を設けることにより、衝撃吸収用セルの潰れ開始荷重を大きくできる。さらに、蓋状板部の板厚寸法等を調整することで、潰れ荷重を調整可能になる。
【0009】
第2の発明によると、衝突荷重の方向に複数の前記衝撃吸収用セルが重ねられた状態でセル集合体を構成しており、複数組の前記セル集合体が前記車両のフレームに間隙をおいて取付けられている。このため、衝撃吸収用セルの重ね数によって車両衝突時の衝撃吸収部材の潰れ量を調整できる。
【0010】
第3の発明は、車両衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材であって、車両のフレームに間隙をおいて取付けられた複数の衝撃吸収用セルを備えており、前記衝撃吸収用セルは、側面で衝突荷重を受ける多角筒体で、前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がりながら、前記衝突荷重の方向に潰れることで、前記衝突荷重を吸収する構成であり、隣り合う前記衝撃吸収用セル間の間隔寸法は、各々の衝撃吸収用セルが前記衝突荷重の方向に対して交差する方向に広がる際、互いに干渉しない寸法に設定されており、さらに、前記衝突荷重の方向に複数の前記衝撃吸収用セルが重ねられた状態でセル集合体を構成しており、複数組の前記セル集合体が前記車両のフレームに間隙をおいて取付けられており、所定の前記衝撃吸収用セルの外側面と、その衝撃吸収用セルに重ねられた前記衝撃吸収用セルの外側面とが連結板部により連結されており、前記衝突荷重で前記多角筒体が潰れる際、前記連結板部が前記衝突荷重の方向と交差する方向に広がりながら折れ曲がることで、前記衝突荷重を吸収する。このため、連結板部を設けることにより、衝撃吸収用セルの潰れ開始荷重を大きくできる。また、連結板部の板厚寸法等を調整することで、潰れ荷重を調整可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、衝撃吸収部材のサイズ、質量を従来よりも小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態1に衝撃吸収部材を備える車両用バンパーの模式縦断面図(図2のI-I矢視断面図)である。
図2】前記衝撃吸収部材を備える車両用バンパーの平面図である。
図3】前記衝撃吸収部材の部分斜視図(図2のIII矢視斜視図)である。
図4】前記衝撃吸収部材の変形の様子を表す部分斜視図である。
図5】前記衝撃吸収部材の部分平面図(図2のV矢視平面図)である。
図6】前記衝撃吸収部材の変形の様子を表す部分平面図である。
図7】前記衝撃吸収部材の縦断面図(図2のVII-VII矢視断面図)である。
図8】前記衝撃吸収部材の変形の様子を表す縦断面図である。
図9】前記衝撃吸収部材に加わる衝突荷重と潰れストロークとの関係を表すグラフである。
図10】変更例1に係る衝撃吸収部材の部分斜視図である。
図11】変更例2に係る衝撃吸収部材の部分斜視図である。
図12】変更例3に係る衝撃吸収部材の部分斜視図である。
図13】変更例4に係る衝撃吸収部材の部分斜視図である。
図14】従来の車両用バンパーの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態1〕
以下、図1図13に基づいて本発明の実施形態1に係る衝撃吸収部材について説明する。本実施形態に係る衝撃吸収部材は、車両10のフロントバンパー20で使用される上部衝撃吸収部材30である。ここで、図中に示す前後左右、及び上下は、前記フロントバンパー20を備える車両10の前後左右、及び上下に対応している。
【0016】
<車両10の前部構造の概要について>
フロントバンパー20等について説明する前に車両10の前部構造について簡単に説明する。車両10の車体前部には、図1図2に示すように、エンジンルームEの左右両側で車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバ14が設けられている。左右のフロントサイドメンバ14の前端位置には、ラジエータ(図示省略)を支持する枠状のラジエータサポート15が縦向きに取付けられている(図1参照)。また、ラジエータサポート15の前面側には、左右のフロントサイドメンバ14とほぼ同軸の位置に左右のブラケット16が設けられている。そして、左右のブラケット16には、図2に示すように、フロントバンパー20のバンパーリインフォース40の左右端部がそれぞれ連結されている。
【0017】
<フロントバンパー20の構成概要について>
フロントバンパー20は、図1図2に示すように、バンパーリインフォース40と、上部衝撃吸収部材30と、下部衝撃吸収部材35(図1参照)と、バンパーカバー21、及びバンパーグリル23等とを備えている。バンパーリインフォース40は、車幅方向に延びる梁状部材であり、例えば、アルミ合金等により角筒状に形成されている。そして、バンパーリインフォース40の前面40fには、上部衝撃吸収部材30が取付けられている。また、バンパーリインフォース40の下側には、支持フレーム43が連結されており、その支持フレーム43によって下部衝撃吸収部材35が水平に支持されている。
【0018】
上部衝撃吸収部材30と下部衝撃吸収部材35、及びバンパーリインフォース40は、図1図2等に示すように、バンパーカバー21によって前方から覆われている。バンパーカバー21は、フロントバンパー20の外形意匠を構成する部材であり、そのバンパーカバー21の車幅方向における中央位置には、空気取入れ口として働くとともに、装飾部材であるバンパーグリル23が取付けられている。
【0019】
<上部衝撃吸収部材30について>
上部衝撃吸収部材30は、車両10の前方衝突時の衝撃を吸収する部材であり、図2に示すように、五組のセル集合体30wから構成されている。五組のセル集合体30wは、車幅方向(左右方向)に一定の間隙(間隙寸法=S)を開けた状態でバンパーリインフォース40の前面40fに固定されている。五組のセル集合体30wは等しい構成であり、衝突荷重Fが加わる方向(前後方向)に重ねられた三個の衝撃吸収用セル31から構成されている。
【0020】
衝撃吸収用セル31は、図3図4等に示すように、軸心が上下方向を向くよう立てられた六角筒体310と、その六角筒体310の上部開口の中央部、あるいは下部開口の中央部を塞ぐ蓋状板部318とを備えている。衝撃吸収用セル31は、六角筒体310の側面(前面)で衝突荷重Fを受けられるように構成されている。
【0021】
六角筒体310は、図5等に示すように、前壁部311と、左前傾斜壁部313と、左後傾斜壁部314と、後壁部312と、右後傾斜壁部316と、右前傾斜壁部315とにより車幅方向(左右方向)に長い平面六角形に形成されている。即ち、六角筒体310を構成する前壁部311と後壁部312とは左右方向に平行に延びて、等しい長さ寸法に設定されている。また、左前傾斜壁部313、及び左後傾斜壁部314と、右前傾斜壁部315、及び右後傾斜壁部316とは左右対称に形成されている。そして、六角筒体310の高さ寸法は、図3等に示すように、前後寸法よりも十分に小さな値に設定されている。
【0022】
六角筒体310は、図4等に示すように、前方から衝突荷重Fを受けたときに、左前傾斜壁部313と左後傾斜壁部314間の稜線310rと、右前傾斜壁部315と右後傾斜壁部316間の稜線310rとが折れ曲がり、前後方向に潰れるようになる。このとき、六角筒体310の左右の稜線310rが折れ曲がることで、六角筒体310は左右方向に広がりながら前後方向に潰れるようになる。ここで、車幅方向(左右方向)に並べられたセル集合体30wの間隔寸法S(図2参照)は、隣り合うセル集合体30wの衝撃吸収用セル31(六角筒体310)が同時に左右方向に広がるように潰れた場合でも、互いに干渉しないような値に設定されている。
【0023】
六角筒体310の上部開口位置、あるいは下部開口位置には、蓋状板部318が設けられている。蓋状板部318は、図3等に示すように、断面山形をした板材であり、六角筒体310の前壁部311と後壁部312間に渡されている。蓋状板部318の左右方向の長さ寸法は、六角筒体310の前壁部311と後壁部312との長さ寸法よりも小さく設定されている。蓋状板部318の前後方向における中央位置には、山の稜線に相当する折り曲げ線318eが左右方向に延びるように形成されている。このため、衝突荷重Fを受けて六角筒体310が前後方向に潰れる際、蓋状板部318は折り曲げ線318eの位置で六角筒体310から上方、あるいは下方に突出するように折れ曲がる。
【0024】
セル集合体30wは、上記したように、前後方向に重ねられた三個の衝撃吸収用セル31から構成されている。即ち、図5に示すように、バンパーリインフォース40に固定される三段目の衝撃吸収用セル31の六角筒体310の前壁部311に対して二段目の衝撃吸収用セル31の六角筒体310の後壁部312が接合される。また、二段目の衝撃吸収用セル31の六角筒体310の前壁部311に対して一段目の衝撃吸収用セル31の六角筒体310の後壁部312が接合される。
【0025】
ここで、セル集合体30wは、例えば、ポリプロピレン樹脂を射出成形することにより一体成形される。このため、三段目の衝撃吸収用セル31の前壁部311と二段目の衝撃吸収用セル31の後壁部312とは一体化されている。また、二段目の衝撃吸収用セル31の前壁部311と一段目の衝撃吸収用セル31の後壁部312とは一体化されている。さらに、一段目と三段目との衝撃吸収用セル31では、六角筒体310の上部開口の位置に蓋状板部318が設けられており、二段目の衝撃吸収用セル31では、六角筒体310の下部開口の位置に蓋状板部318が設けられている。ここで、衝撃吸収用セル31を構成する六角筒体310と蓋状板部318との肉厚寸法は、例えば、2mm以下に設定されている。
【0026】
<上部衝撃吸収部材30の動作について>
車両10の前方衝突時に上部衝撃吸収部材30のセル集合体30wに対して前方から衝突荷重Fが加わると、図4(斜視図)、図6(平面図)、図8(縦断面図)に示すように、セル集合体30wを構成する一段目から三段目の衝撃吸収用セル31が前後方向に潰れる。即ち、衝撃吸収用セル31の六角筒体310は、左前傾斜壁部313と左後傾斜壁部314間の稜線310rと、右前傾斜壁部315と右後傾斜壁部316間の稜線310rとが折れ曲がり、前後方向に潰れるようになる。このとき、六角筒体310の左右の稜線310rが折れ曲がることで、六角筒体310は左右方向に広がりながら前後方向に潰れるようになる。ここで、隣り合うセル集合体30wの間隙寸法がSに設定されているため、隣り合うセル集合体30wの衝撃吸収用セル31(六角筒体310)が同時に左右方向に広がるように潰れても、隣り合う衝撃吸収用セル31が互いに干渉しない。
【0027】
また、衝突荷重Fを受けて六角筒体310が前後方向に潰れる際、蓋状板部318は折り曲げ線318eの位置で六角筒体310から上方、あるいは下方に突出するように折れ曲がる。即ち、一段目と三段目の衝撃吸収用セル31では、蓋状板部318が六角筒体310から上方に突出するように折れ曲がり、二段目の衝撃吸収用セル31では、蓋状板部318が六角筒体310から下方に突出するように折れ曲がるようになる。このように、衝撃吸収用セル31の六角筒体310が潰れ、蓋状板部318が折れ曲がることで、衝突荷重Fが吸収される。
【0028】
図9は、上部衝撃吸収部材30に加わる衝突荷重F(N)と潰れストローク(mm)との関係を表すグラフである。実線は、図3等に示す上部衝撃吸収部材30(衝撃吸収用セル31)の肉厚寸法が2mmのときのグラフである。ここで、例えば、衝撃吸収用セル31の肉厚寸法を2mmよりも小さくすれば、図9の点線に示すように、潰れ開始荷重を低下させることができる。また、例えば、セル集合体30wの二段目の衝撃吸収用セル31の蓋状板部318を省略すれば、潰れ開始荷重を低下させることができる。さらに、衝撃吸収用セル31の六角筒体310の左右の内角(六角形の内角)を小さくすることで、潰れ開始荷重を低下させることができる。逆に、衝撃吸収用セル31の肉厚寸法を2mmよりも大きくすれば、図9の一点鎖線に示すように、潰れ開始荷重を大きくすることができる。また、衝撃吸収用セル31の六角筒体310の左右の内角(六角形の内角)を大きくすることで、潰れ開始荷重を大きくすることができる。
【0029】
<本実施形態で使用した用語と本発明における用語との対応>
前記上部衝撃吸収部材30が本発明の衝撃吸収部材に相当する。また、衝撃吸収用セル31の六角筒体310が本発明の衝撃吸収用セルの多角筒体に相当する。さらに、フロントバンパー20のバンパーリインフォース40が本発明の車両のフレームに相当する。
【0030】
<本実施形態に係る上部衝撃吸収部材30の長所について>
本実施形態に係る上部衝撃吸収部材30によると、衝撃吸収用セル31は、側面(前面)で衝突荷重Fを受ける六角筒体310(多角筒体)であり、衝突荷重Fの方向に対して交差する方向(左右方向)に広がりながら、衝突荷重Fの方向(前後方向)に潰れることで、衝突荷重Fを吸収する。さらに、隣り合う衝撃吸収用セル31間の間隔寸法Sは、各々の衝撃吸収用セル31が衝突荷重Fの方向に対して交差する方向に広がる際、互いに干渉しない寸法に設定されている。このため、衝突荷重Fを受けて、所定の衝撃吸収用セル31が潰れようとする際、その所定の衝撃吸収用セルの周囲にある衝撃吸収用セル31が所定の衝撃吸収用セル31の潰れを妨げることがない。したがって、衝突荷重Fが衝撃吸収用セル31に対して加わったときに、衝撃吸収用セル31が効果的に潰れ、衝撃吸収用セル31の潰れ残りを少なくできる。これにより、車両衝突時に予め決められた潰れ量を確保するための上部衝撃吸収部材30のサイズを必要最小限に設定できる。即ち、上部衝撃吸収部材30のサイズ、及び質量を必要最小限にできる。
【0031】
<変更例1、2>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、図3に示すように、セル集合体30wの一段目と三段目の衝撃吸収用セル31の蓋状板部318を六角筒体310の上側に設け、二段目の衝撃吸収用セル31の蓋状板部318を六角筒体310の下側に設ける例を示した。しかし、図10に示すように、二段目の衝撃吸収用セル31の蓋状板部318を六角筒体310の上側に設けることも可能である。これにより、セル集合体30wが斜め上方から衝突荷重Fを受けた場合に、そのセル集合体30wが下方に曲がり難くなる。さらに、六角筒体310の下側の蓋状板部318をなくすことで、六角筒体310の内部に異物が溜まり難くなり、異物が六角筒体310の潰れを妨げることがない。なお、衝突荷重Fの加わる方向によっては、図11に示すように、三段目の衝撃吸収用セル31の蓋状板部318を六角筒体310の下側に設けることも可能である。
【0032】
<変更例3>
本実施形態では、衝撃吸収用セル31の蓋状板部318を六角筒体310の前壁部311と後壁部312との中央部をつなぐように設ける例を示した。しかし、図12に示すように、衝撃吸収用セル31の蓋状板部319を六角筒体310の左側と右側とに屋根状に設けることも可能である。即ち、変更例3では、右側の蓋状板部319によって前壁部311と後壁部312との右側部分と、右前傾斜壁部315、右後傾斜壁部316とがつなげられている。また、左側の蓋状板部319によって前壁部311と後壁部312との左側部分と、左前傾斜壁部313、左後傾斜壁部314とがつなげられている。左右の蓋状板部319には、前後方向中央位置に左右方向に延びる折り曲げ線319eが形成されている。
【0033】
上記構成により、衝突荷重Fを受けて六角筒体310が前後方向に潰れる際、蓋状板部319は折り曲げ線319eの位置で六角筒体310から上方に突出するように折れ曲がるようになる。即ち、衝撃吸収用セル31の六角筒体310が潰れ、蓋状板部319が折れ曲がることで、衝突荷重Fが吸収される。なお、蓋状板部319を六角筒体310の下側に設けることも可能である。
【0034】
<変更例4>
また、本実施形態では、衝撃吸収用セル31の蓋状板部318,319を六角筒体310の平面視において内側に配置する例を示した。しかし、蓋状板部318,319の代わりに、図13に示すように、左右の連結板部320を使用することも可能である。左右の連結板部320は、一段目の六角筒体310の左後外側面と二段目の六角筒体310の左前外側面間、及び一段目の六角筒体310の右後外側面と二段目の六角筒体310の右前外側面間をつなぐように設けられている。また、左右の連結板部320は、二段目の六角筒体310の左後外側面と三段目の六角筒体310の左前外側面間、及び二段目の六角筒体310の右後外側面と三段目の六角筒体310の右前外側面間をつなぐように設けられている。
【0035】
左右の連結板部320は、上方に凸となる屋根状に形成されており、前後方向中央位置に左右方向に延びる折り曲げ線320eが形成されている。これにより、衝突荷重Fを受けて六角筒体310が前後方向に潰れる際、連結板部320は折り曲げ線320eの位置で六角筒体310から上方に突出するように折れ曲がるようになる。即ち、衝撃吸収用セル31の六角筒体310が潰れ、連結板部320が折れ曲がることで、衝突荷重Fが吸収される。なお、連結板部320を六角筒体310の下側に設けることも可能である。
【0036】
<その他>
本実施形態では、衝撃吸収用セル31を六角筒体310により形成する例を示したが、例えば、五角筒体、あるいは四角筒体により形成することも可能である。また、本実施形態では、衝撃吸収用セル31を前後方向に三個重ねてセル集合体30wを構成する例を示した。しかし、前後方向に重ねる衝撃吸収用セル31の個数は適宜変更可能である。また、本実施形態では、バンパーリインフォース40の前面40fに五組のセル集合体30wを車幅方向に並べて取付ける例を示した。しかし、セル集合体30wの取付け組数は適宜変更可能である。また、本実施形態では、セル集合体30wを射出成形により一体で形成する例を示した。しかし、射出成形により衝撃吸収用セル31を形成し、個々の衝撃吸収用セル31を接着等してセル集合体30wを形成することも可能である。また、本実施形態では、車両のフロントバンパー20の衝撃吸収部材30について例示したが、リヤバンパーの衝撃吸収部材に本発明を適用することも可能である。また、例えば、バンパー以外にクラッシュボックス等にも本発明の衝撃吸収部材を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
10・・・車両
20・・・フロントバンパー
30w・・セル集合体
30・・・上部衝撃吸収部材(衝撃吸収部材)
31・・・衝撃吸収用セル
310・・六角筒体(多角筒体)
318・・蓋状板部
319・・蓋状板部
320・・連結板部
40・・・バンパーリインフォース(フレーム)
F・・・・衝突荷重
S・・・・間隔寸法
図1
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