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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20221115BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 512
H01G4/30 201K
H01G4/30 201L
H01G4/12 360
H01G4/30 201D
H01G4/30 516
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019155182
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021034630
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和泉 達也
(72)【発明者】
【氏名】平田 朋孝
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-114583(JP,A)
【文献】特開2014-036140(JP,A)
【文献】特開2019-036708(JP,A)
【文献】特開2014-011170(JP,A)
【文献】国際公開第2006/082833(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/046554(WO,A1)
【文献】特開2019-153778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaZrO3系のペロブスカイト相を含む複数の誘電体層と、Cuを含む複数の内部電極層とが積層された積層体を備え、
前記誘電体層は、元素M1(ただし、元素M1は、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算による、元素M1を介したCaZrO3とCuとの結合エネルギーが-9.8eV以下である元素)をさらに含み、かつ前記内部電極層との界面の少なくとも一部に、前記元素M1を含む界面層を有し、
前記誘電体層に含まれる元素の量をモル部で表した場合、前記界面層における前記元素M1の量のZrの量に対する比m1が0.03≦m1≦0.25であり、
前記誘電体層は、前記元素M1を含む二次相をさらに有し、
前記界面層中に前記二次相のうち少なくとも一部が含まれている、積層型電子部品。
【請求項2】
前記元素M1は、Al、Si、Mn、TiおよびVから選ばれる少なくとも1種類の元素である、請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項3】
CaZrO3系のペロブスカイト相を含む複数の誘電体層と、Niを含む複数の内部電極層とが積層された積層体を備え、
前記誘電体層は、元素M2(ただし、元素M2は、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算による、元素M2を介したCaZrO3とNiとの結合エネルギーが-12.3eV以下である元素)をさらに含み、かつ前記内部電極層との界面の少なくとも一部に、前記元素M2を含む界面層を有し、
前記誘電体層に含まれる元素の量をモル部で表した場合、前記界面層における前記元素M2の量のZrの量に対する比m2が0.03≦m2≦0.25であり、
前記誘電体層は、前記元素M2を含む二次相をさらに有し、
前記界面層中に前記二次相のうち少なくとも一部が含まれている、積層型電子部品。
【請求項4】
前記元素M2は、Al、Si、Mn、TiおよびVから選ばれる少なくとも1種類の元素である、請求項に記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサが挙げられる。温度補償用の積層セラミックコンデンサには、誘電体層にCaZrO3系(以下、CZ系と略称することがある)の誘電体材料が用いられることがある。ここで、CZ系とは、CaZrO3のみならず、Caの一部、Zrの一部、またはCaおよびZrの一部が適宜の元素により置換された、CaZrO3固溶体も含む材料系である。
【0003】
例えば、特開2001-351828号公報(特許文献1)には、CZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層を備えた積層セラミックコンデンサが開示されている。特許文献1に記載されたCZ系の誘電体材料は、CZ系のペロブスカイト化合物を主成分とし、Al、Si、Mnなどを副成分としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-351828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているCZ系の誘電体材料は、上記の副成分により、誘電体層中の結晶粒界同士の結合が強化され、化学的に安定となるため、高温高湿下での信頼性試験における絶縁抵抗の劣化を抑制することができる。しかしながら、誘電体材料が化学的に安定となることは、一方で誘電体層と内部電極層との結合力の低下につながる虞がある。
【0006】
この開示の目的は、CZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層と内部電極層との結合力を向上させることができる、積層型電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この開示に従う積層型電子部品の第1の態様は、CaZrO3系のペロブスカイト相を含む複数の誘電体層と、Cuを含む複数の内部電極層とが積層された積層体を備える。誘電体層は、元素M1をさらに含み、かつ内部電極層との界面の少なくとも一部に、元素M1を含む界面層を有する。ただし、元素M1は、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算による、元素M1を介したCaZrO3とCuとの結合エネルギーが-9.8eV以下である元素である。そして、誘電体層に含まれる元素の量をモル部で表した場合、界面層における元素M1の量のZrの量に対する比m1が0.03≦m1≦0.25である。
【0008】
この開示に従う積層型電子部品の第2の態様は、CaZrO3系のペロブスカイト相を含む複数の誘電体層と、Niを含む複数の内部電極層とが積層された積層体を備える。誘電体層は、元素M2をさらに含み、かつ内部電極層との界面の少なくとも一部に、元素M2を含む界面層を有する。ただし、元素M2は、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算による、元素M2を介したCaZrO3とNiとの結合エネルギーが-12.3eV以下である元素である。そして、誘電体層に含まれる元素の量をモル部で表した場合、界面層における元素M2の量のZrの量に対する比m2が0.03≦m2≦0.25である。
【発明の効果】
【0009】
この開示に従う積層型電子部品は、CZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層と内部電極層との結合力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この開示に従う積層型電子部品の第1の実施形態である積層セラミックコンデンサ100の断面図である。
図2図2(A)は、Al添加されたCZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層11を備えた積層セラミックコンデンサ100の層間剥離の調査結果の模式図である。図2(B)は、Al無添加のCZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層を備えた積層セラミックコンデンサの層間剥離の調査結果の模式図である。
図3】誘電体層11の微細構造を調べるために準備した試料の断面図である。
図4】誘電体層11の透過型電子顕微鏡(以後、TEMと略称することがある)観察像の模式図である。
図5】この開示に従う積層型電子部品の第2の実施形態である積層セラミックコンデンサ100Aが備える誘電体層11AのTEM観察像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この開示の特徴とするところを、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す積層型電子部品の各実施形態では、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さないことがある。
【0012】
-積層型電子部品の第1の実施形態-
この開示に従う積層型電子部品の第1の実施形態を示す積層セラミックコンデンサ100について、図1ないし図4を用いて説明する。
【0013】
<積層セラミックコンデンサの構造>
積層セラミックコンデンサ100の構造について、以下に説明する。図1は、積層セラミックコンデンサ100の断面図である。積層セラミックコンデンサ100は、積層体10を備えている。積層体10は、積層された複数の誘電体層11と複数の内部電極層12とを含む。
【0014】
積層体10は、積層方向に相対する第1の主面および第2の主面と、積層方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、積層方向および幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面13aおよび第2の端面13bとを有する。積層体10は、上記の各面により囲まれた直方体形状である。なお、直方体の角部および稜線部は、バレル加工などにより丸みを付けられていてもよい。
【0015】
複数の誘電体層11は、外層部を構成するものと内層部を構成するものとを含む。外層部は、積層体10の第1の主面と第1の主面に最も近い内部電極層12との間、および第2の主面と第2の主面に最も近い内部電極層12との間に配置されている。内層部は、それら2つの外層部に挟まれた領域に配置されている。
【0016】
誘電体層11は、CZ系のペロブスカイト相を含む。CZ系とは、前述したように、CaZrO3のみならず、Caの一部、Zrの一部、またはCaおよびZrの一部が適宜の元素により置換された、CaZrO3固溶体も含む材料系である。Caの一部を置換し得る元素としては、例えばBa、SrおよびMgなどが挙げられる。Zrの一部を置換し得る元素としては、例えばHf、Ti、MnおよびSnなどが挙げられる。また、Caサイトに存在する元素の量のZrサイトに存在する元素の量に対する比は、1以外であってもよい。
【0017】
また、誘電体層11は、元素M1をさらに含む。ただし、元素M1は、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算による、元素M1を介したCZとCuとの結合エネルギーが-9.8eV以下である元素である。この元素M1の詳細は、後述される。
【0018】
複数の内部電極層12は、第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとを含む。第1の内部電極層12aは、誘電体層11を介して第2の内部電極層12bと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第1の端面13aまでの引き出し電極部とを備えている。第2の内部電極層12bは、誘電体層11を介して第1の内部電極層12aと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第2の端面13bまでの引き出し電極部とを備えている。
【0019】
1つの第1の内部電極層12aと1つの第2の内部電極層12bとが誘電体層11を介して相対することにより、1つのコンデンサ素子が形成される。積層セラミックコンデンサ100は、複数個のコンデンサが後述する第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bを介して並列接続されたものと言える。
【0020】
内部電極層12は、Cuを含む。内部電極層12は、誘電体粒子をさらに含んでいてもよい。上記の誘電体粒子は、積層体10の焼成時において、内部電極層12の焼結収縮特性を誘電体層11の焼結収縮特性に近づけるために添加されるものであり、その効果が発現されるものであればよい。
【0021】
積層セラミックコンデンサ100は、第1の外部電極14aと第2の外部電極14bとをさらに備えている。第1の外部電極14aは、第1の内部電極層12aと電気的に接続されるように積層体10の第1の端面13aに形成され、第1の端面13aから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。第2の外部電極14bは、第2の内部電極層12bと電気的に接続されるように積層体10の第2の端面13bに形成され、第2の端面13bから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。
【0022】
第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bは、下地電極層と下地電極層上に配置されためっき層とを有する。下地電極層は、焼結体層、導電性樹脂層、金属薄膜層およびめっき層から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0023】
焼結体層は、金属粉末とガラス粉末とを含むペーストが焼き付けられたものであり、導電体領域と酸化物領域とを含む。導電体領域は、上記の金属粉末が焼結した金属焼結体を含んでいる。金属粉末としては、Ni、CuおよびAgなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。酸化物領域は、上記のガラス粉末に由来するガラス成分を含んでいる。ガラス粉末としては、B23-SiO2-BaO系のガラス材料などを用いることができる。
【0024】
なお、焼結体層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。また、焼結体層は、積層体10と同時焼成されてもよく、積層体10が焼成された後に焼き付けられてもよい。
【0025】
導電性樹脂層は、例えば金属微粒子のような導電性粒子と樹脂部とを含む。導電性粒子を構成する金属としては、Ni、CuおよびAgなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。樹脂部を構成する樹脂としては、エポキシ系の熱硬化性樹脂などを用いることができる。導電性樹脂層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。
【0026】
金属薄膜層は、スパッタリングまたは蒸着などの薄膜形成法により形成され、金属微粒子が堆積された厚さ1μm以下の層である。金属薄膜層を構成する金属としては、Ni、Cu、AgおよびAuなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。金属薄膜層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。
【0027】
下地電極としてのめっき層は、積層体10上に直接設けられ、前述の内部電極層と直接接続される。当該めっき層には、Cu、Ni、Sn、Au、Ag、PdおよびZnなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。例えば、内部電極層12を構成する金属としてCuを用いた場合、当該めっき層としては、内部電極層12との接合性がよいCuを用いることが好ましい。
【0028】
下地電極層上に配置されためっき層を構成する金属としては、Ni、Cu、Ag、AuおよびSnなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。当該めっき層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。好ましくは、Niめっき層およびSnめっき層の2層である。
【0029】
Niめっき層は、下地電極層上に配置され、積層型電子部品を実装する際に、下地電極層がはんだによって侵食されることを防止することができる。Snめっき層は、Niめっき層上に配置される。Snめっき層は、Snを含むはんだとの濡れ性がよいため、積層型電子部品を実装する際に、実装性を向上させることができる。なお、これらのめっき層は、必須ではない。
【0030】
<誘電体層の微細構造>
この開示に係る積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11は、前述したようにCZ系のペロブスカイト相を含み、元素M1をさらに含む。ただし、元素M1は、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算による、元素M1を介したCZとCuとの結合エネルギーが-9.8eV以下である元素である。この元素M1について、以下で説明する。
【0031】
ここで、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算とは、原子核近傍の内核電子を直接取り扱わず、これらを価電子に対する単なるポテンシャル関数に置き換えて、平面波基底に基づく第一原理計算を行なう方法である。今回の第一原理計算は、内核電子がGGA(Generalized Gradient Approximation)型擬ポテンシャルに置き換えられている。
【0032】
擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算によりCZとCuとの結合エネルギーを計算するために、CZとCuとの界面のモデル構造が設定された。モデル構造は、CZ層とCu層とからなる第1のモデル構造と、CZ層とCu層との間にMnが存在している第2のモデル構造とが設定された。
【0033】
第1のモデル構造に基づいて計算されたCZとCuとの結合エネルギーEbinは、-9.10eVであった。そして、第2のモデル構造に基づいて計算されたMnを介したCZとCuとの結合エネルギーEbinは、-12.49eVであった。さらに、元素M1としてAl、Si、TiおよびVが用いられた場合の第2のモデル構造に基づいて、元素M1を介したCZとCuとの結合エネルギーEbinが計算された。それらの結果は、表1にまとめて示されている。
【0034】
【表1】
【0035】
また、図2には、元素M1の添加の有無による誘電体層と内部電極層との結合力の違いを明らかにするため、積層セラミックコンデンサの層間剥離が調査された結果が示されている。図2(A)は、AlがCZに対して1.0mol%添加されたCZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層11と、Cuである内部電極層12とを備えた積層セラミックコンデンサ100の層間剥離の調査結果の模式図である。図2(B)は、Al無添加のZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層と、同じくCuである内部電極層とを備えた積層セラミックコンデンサの層間剥離の調査結果の模式図である。
【0036】
なお、積層セラミックコンデンサの層間剥離の調査は、超音波顕微鏡(Constant depth mode Scanning Acoustic Microscope:以後、C-SAMと略称することがある)観察により行なわれた。上記のC-SAM観察に用いられた積層セラミックコンデンサは、積層方向の厚さが1.2mm、積層方向に直交する長さが2.0mm、積層方向と長さ方向に直交する幅が1.2mmである。
【0037】
C-SAM観察は、観察対象となる積層セラミックコンデンサが所定の条件で飽和加圧水蒸気中に放置された後に行なわれた。また、C-SAM観察は、上記の積層セラミックコンデンサを水中に保持し、50MHzの超音波を照射して、その反射波から画像を構築することにより行なわれた。C-SAM観察結果における個々の像が、個々の積層セラミックコンデンサに対応する。
【0038】
表1に示されているAlを介したCZとCuとの結合エネルギーEbinは、-9.89eVである。これは、Al添加されたCZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層11と、Cuである内部電極層12との結合エネルギーを示すと仮定する。そして、図2(A)に示されているように、Al添加されたCZ系の誘電体材料が用いられた積層セラミックコンデンサ100の100個のC-SAM観察結果において、内部に剥離が認められたものはなかった。
【0039】
また、元素M1としてSi、Mn、TiおよびVが添加されたCZ系の誘電体材料が用いられた積層セラミックコンデンサ100の100個のC-SAM観察結果においても、内部に剥離は認められたものはなかった。なお、Si、Mn、TiおよびVは、Alと同じくCZに対して1.0mol%添加されている。
【0040】
一方、元素M1が添加されていないCZとCuとの結合エネルギーEbinは、-9.10eVである。これは、元素M1が添加されていないCZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層と、Cuである内部電極層との結合エネルギーを示すと仮定する。そして、図2(B)に示されているように、元素M1が添加されていないCZ系の誘電体材料が用いられた積層セラミックコンデンサの100個のC-SAM観察結果において、内部に剥離が認められたものが47個あった。
【0041】
なお、C-SAM観察結果におけるパターンの違いは、積層セラミックコンデンサにおいて誘電体層と内部電極層との剥離が発生した箇所の、上面からの深さの違いを表している。誘電体層と内部電極層との剥離は、ある深さの全面に亘って発生している場合もあれば、部分的に発生している場合もある。両者を合わせて剥離発生としてカウントした。以上の結果は、表2にまとめて示されている。
【0042】
【表2】
【0043】
すなわち、誘電体層11が、前述の第一原理計算において、当該元素を介したCZとCuとの結合エネルギーが-9.8eV以下である元素M1を含むことにより、誘電体層11と内部電極層12との結合力を向上させることができる。結合エネルギーEbinは、その値が小さいほどCZとCuとの結合力が強くなる。したがって、元素M1としては、Mn、TiおよびVのように、当該元素を介したCZとCuとの結合エネルギーが-12.0eVより小さいものがより好ましい。
【0044】
誘電体層11の微細構造を調べるため、TEM観察およびEDXによる元素分析を行なった。この調査において、誘電体層11には、MnがCZに対して3.0mol%添加されたCZ系の誘電体材料が用いられた。また、内部電極層12には、Cuが用いられた。
【0045】
TEM観察およびEDX分析のための試料作製について、図3を用いて説明する。図3は、積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11の微細構造を調べるために準備した試料の断面図である。
【0046】
後述する製造方法により、積層セラミックコンデンサ100の積層体10を得た。積層体10の幅方向の中央部が残るように、積層体10を第1の側面側および第2の側面側から研磨して研磨体を得た。図3に示されるように、長さ方向の中央部近傍において内部電極層12と直交するような仮想線OLを想定した。そして、仮想線OLに沿って研磨体の静電容量の取得に係る誘電体層11と第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとが積層された領域を積層方向に3等分し、上部領域、中央領域および下部領域の3つの領域に分けた。
【0047】
研磨体から上部領域、中央領域および下部領域を切り出し、それぞれをArイオンミリングなどにより薄膜化して、各領域からそれぞれ3つの薄膜試料を得た。以上のようにして得られた積層体10の上部領域、中央領域および下部領域の3つの薄膜試料について、TEM観察およびTEMに付属しているEDXによる元素分析を行なった。
【0048】
後述するTEM観察結果およびEDXの分析結果は、上部領域および下部領域と中央領域とで有意な差が見られなかった。したがって、以下で説明する中央領域から得られた結果を、この開示に係る積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11の微細構造と見なす。
【0049】
誘電体層11は、3μmの厚みを有しており、画像解析による等価円直径の平均値として求めた誘電体材料の結晶粒の平均粒径は、0.2μmである(結晶粒は不図示)。なお、結晶粒の粒界は、TEM観察像から目視により決定した。
【0050】
図4は、図3の中央領域における、誘電体層11のTEM観察像の模式図である。TEM観察およびEDXによる元素分析により、積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11は、内部電極層12との界面に、元素M1を含む界面層BLを有していることが分かった。界面層BLは、CZ系の誘電体材料の結晶粒の内部電極層12と接している粒界近傍に、Mnが固溶したものと推定される。なお、界面層BLは、Mn以外の固溶元素を含んでいてもよい。また、界面層BLの少なくとも一部は、ペロブスカイト型構造を有していなくてもよい。
【0051】
図4に示されている誘電体層11中の分析位置AないしGの違いによるMnの量の変化を、EDX分析により調査した結果が、表3にまとめて示されている。なお、誘電体層11中のMnの量は、誘電体層11に含まれる元素の量をモル部で表した場合の、Mnの量のZrの量に対する比m1として表されている。
【0052】
【表3】
【0053】
すなわち、この開示に係る積層セラミックコンデンサ100において、誘電体層11に含まれる元素の量をモル部で表した場合、界面層BLにおけるMnの量のZrの量に対する比m1は、0.03≦m1≦0.25である。この場合、前述したように、Mnを介することでCZとCuとの結合エネルギーが小さくなり、誘電体層11と内部電極層12との結合力を向上させることができる。
【0054】
界面層BLは、図4に図示されているように、誘電体層11と内部電極層12との界面全体に存在していることが好ましい。ただし、界面層BLは、誘電体層11と内部電極層12との界面の少なくとも一部に存在していればよい。
【0055】
上記のEDX分析は、元素M1としてMnを含む誘電体層11について行なわれたものであるが、前述の元素M1において、界面層BLにおける元素M1の量のZrの量に対する比m1は、上記の範囲に規定される。
【0056】
同様に、擬ポテンシャル法が用いられた第一原理計算によりCZとNiとの結合エネルギーを計算するために、CZとNiとの界面のモデル構造が設定された。モデル構造は、CZ層とNi層とからなる第3のモデル構造と、CZ層とNi層との間に元素M2としてAl、Si、Mn、Ti、Vが存在している第4のモデル構造とが設定された。それらのモデル構造に基づくCZとNiおよび元素M2を介したCZとNiとの結合エネルギーEbinの計算結果は、表4にまとめて示されている。
【0057】
【表4】
【0058】
表3に示されているように、第3のモデル構造に基づいて計算されたCZとNiとの結合エネルギーEbinは、-12.26eVである。これは、CZ系の誘電体材料が用いられた誘電体層と、Niである内部電極層との結合エネルギーを示すと仮定する。一方、上記の元素を介したCZとNiとの結合エネルギーEbinは、いずれも-12.3eVより小さくなっている。
【0059】
したがって、内部電極層がNiである場合においても、CZ系の誘電体材料に元素M2が添加されることにより、誘電体層11と内部電極層12との結合は、誘電体材料に元素M2が添加されていない場合に比べて強固になる。なお、元素M2が添加されたCZ系の誘電体材料が用いられた積層セラミックコンデンサ100の100個のC-SAM観察結果において、内部に剥離が認められたものはなかった。
【0060】
すなわち、誘電体層11が、前述の第一原理計算において、当該元素を介したCZとNiとの結合エネルギーが-12.3eV以下である元素M2を含むことにより、誘電体層11と内部電極層12との結合力を向上させることができる。結合エネルギーEbinは、その値が小さいほどCZとNiとの結合力が強くなる。したがって、元素M2としては、Mn、TiおよびVのように、当該元素を介したCZとCuとの結合エネルギーが-13.5eVより小さいものがより好ましい。
【0061】
また、TEM観察およびEDXによる元素分析により、内部電極層がNiである場合においても、CZ系の誘電体材料に元素M2が添加された誘電体層11は、内部電極層12との界面に、元素M2を含む界面層BLを有していることが分かった。そして、誘電体層11に含まれる元素の量をモル部で表した場合、界面層BLにおける元素M2の量のZrの量に対する比m2は、0.03≦m2≦0.25である。この場合、元素M2を介することでCZとNiとの結合エネルギーが小さくなり、誘電体層11と内部電極層12との結合力を向上させることができる。
【0062】
-積層型電子部品の第2の実施形態-
この開示に従う積層型電子部品の第2の実施形態を示す積層セラミックコンデンサ100Aについて、図5を用いて説明する。積層セラミックコンデンサ100Aは、積層体10Aを備えている。その他の構成要素については、積層セラミックコンデンサ100と同様であるため、説明は省略される。また、積層セラミックコンデンサ100Aの巨視的な構造は、積層セラミックコンデンサ100の巨視的な構造と同様であるため、図示は省略される(図1参照)。
【0063】
図5は、積層セラミックコンデンサ100Aが備える誘電体層11AのTEM観察像の模式図である。積層セラミックコンデンサ100Aにおける積層体10Aは、積層された複数の誘電体層11Aと複数の内部電極層12とを含む。誘電体層11Aは、CZ系のペロブスカイト相を含み、前述の元素M1をさらに含む。また、内部電極層12は、Cuを含む。
【0064】
積層体10Aにおける誘電体層11Aは、第1の実施形態と同様に、内部電極層12との界面に、元素M1を含む界面層BLを有している。一方、誘電体層11Aは、上記の元素M1を含む二次相SPをさらに有する。そして、二次相SPのうち少なくとも一部は、界面層BL中に含まれている。すなわち、第2の実施形態では、第1の実施形態のような単純な膜状の界面層と二次相SPとを合わせたものを、界面層BLとしている。
【0065】
二次相SPは、元素M1の酸化物、および元素M1と誘電体層11Aを構成する他の元素との化合物などを含む、CZ系のペロブスカイト相とは異なる相である。誘電体層11Aと内部電極層12との界面にこのような二次相があるということは、元素M1が誘電体層11Aと内部電極層12との界面の広い範囲に、前述の量の範囲内で十分存在していることを示している。したがって、積層セラミックコンデンサ100Aは、誘電体層11Aと内部電極層12との結合力を、さらに向上させることができる。
【0066】
なお、誘電体層11Aが前述の元素M2を含み、内部電極層12がNiを含む場合も、元素M2を含む二次相SPが界面層BLに含まれることにより、誘電体層11Aと内部電極層12との結合力を、さらに向上させることができる。
【0067】
-積層型電子部品の製造方法-
この開示に従う積層型電子部品の実施形態を示す積層セラミックコンデンサ100の製造方法について、製造工程順に説明する。積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、以下の各工程を備える。なお、以下で用いられている各符号は、図1に示されているものに対応する。
【0068】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、CZ系のペロブスカイト相を構成する元素と、元素M1とを含む誘電体粉末(誘電体原料粉末)を用いて、複数のセラミックグリーンシートを得る工程を備える。誘電体原料粉末には、必要に応じて種々の添加物が含まれていてもよい。なお、「グリーン」という文言は、「焼結前」を表す表現であり、以後もその意味で用いられる。すなわち、セラミックグリーンシートは、焼結前誘電体層に相当する。セラミックグリーンシート中には、誘電体原料粉末以外に、バインダー成分が含まれている。バインダー成分については、特に限定されない。
【0069】
上記の誘電体原料粉末は、CZ系のペロブスカイト相を構成する元素の化合物と、元素M1の化合物とが混合された後に仮焼されることにより作製される。また、誘電体原料粉末は、予め作製されたCZ系のペロブスカイト相粉末と、元素M1の化合物とが混合された後に仮焼されることにより作成されてもよい。さらに、予め作製されたCZ系のペロブスカイト相粉末が用いられる場合、その後の仮焼工程はなくてもよい。CZ系のペロブスカイト相粉末は、固相合成法および液相法などにより得ることができる。
【0070】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、例えば内部電極層用ペーストを印刷することにより、セラミックグリーンシートに内部電極層パターンを形成する工程を備える。内部電極層パターンは、焼結前内部電極層に相当する。内部電極層用ペーストは、Cuを含む金属粉末と、誘電体粒子と、バインダー成分とを含む。
【0071】
上記の誘電体粒子は、前述したように、積層体10の焼成時において、内部電極層12の焼結収縮特性を誘電体層11の焼結収縮特性に近づけるために添加されるものであり、その効果が発現されるものであればよい。すなわち、この誘電体粒子は、誘電体原料粉末と同じものであっても、異なるものであってもよい。なお、この誘電体粒子は、必須ではない。バインダー成分についても、特に限定されない。なお、内部電極層パターンの形成は、上記の内部電極層用ペーストの印刷以外の方法であってもよい。
【0072】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層し、グリーン積層体を得る工程を備える。グリーン積層体は、焼結前積層体に相当する。
【0073】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、グリーン積層体を焼結させ、積層された複数の誘電体層11と、複数の内部電極層12とを含む積層体10を得る工程とを備える。
【0074】
なお、この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、複数のセラミックグリーンシートを得る工程において、CZ系のペロブスカイト相を構成する元素と、元素M2とを含む誘電体粉末(誘電体原料粉末)が用いられてもよい。その際は、セラミックグリーンシートに内部電極層パターンを形成する工程において、Niを含む金属粉末と、誘電体粒子と、バインダー成分とを含む内部電極層用ペーストが用いられる。
【0075】
この明細書に開示された各実施形態は、例示的なものであって、この開示に係る発明は、上記の各実施形態に限定されるものではない。すなわち、この開示に係る発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、上記の範囲内において、種々の応用、変形を加えることができる。
【0076】
例えば、積層体を構成する誘電体層の数および材質、ならびに内部電極層の数および材質に関して、この発明の範囲内で種々の応用または変形を加えることができる。また、積層型電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、この開示に係る発明はそれに限らず、多層基板の内部に形成されたコンデンサ要素などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
100 積層セラミックコンデンサ
10 積層体
11 誘電体層
12 内部電極層
12a 第1の内部電極層
12b 第2の内部電極層
13a 第1の端面
13b 第2の端面
14a 第1の外部電極
14b 第2の外部電極
BL 界面層
SP 二次相
図1
図2
図3
図4
図5