(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】電極、電極の製造方法、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20221115BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221115BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221115BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20221115BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20221115BHJP
H01G 11/04 20130101ALI20221115BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20221115BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20221115BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20221115BHJP
H01M 4/505 20100101ALN20221115BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01G11/30
H01G11/04
H01G11/86
H01G11/84
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2019223183
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘高
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123778(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/181952(WO,A1)
【文献】特開2017-063013(JP,A)
【文献】特開2017-142997(JP,A)
【文献】特開2016-189325(JP,A)
【文献】特開2013-211260(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイナスに帯電する活物質粒子の表面にカチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体が形成された複合粒子、を備え、
導電率が0.40mS/cm以上であ
り、
前記複合粒子は、前記活物質粒子と前記カチオン性有機物と前記アニオン性導電材との合計のうち、前記カチオン性有機物の割合が2質量%以上5質量%以下、前記アニオン性導電材の割合が2質量%以上であり、
前記カチオン性有機物以外に結着材を含まない、
電極。
【請求項2】
前記導電率が0.60mS/cm以上である、
請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記活物質粒子と
、前記カチオン性有機
物と、少なくとも前記アニオン性導電材を含む導電材成分と、の合計のうち、10質量%以下の範囲で前記導電材成分を含む、請求項1
又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記複合粒子では、
前記アニオン性導電材が、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基のうちの1以上を有する、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンブラック、グラファイトのうちの1以上であるか、
前記カチオン性有機物が、窒素原子を含むか、
前記活物質粒子が、リチウム複合酸化物であるか、
のうちの1以上を満たす、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記複合粒子は、前記複合体の膜状物が前記活物質粒子の表面に付着したものである、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の電極である正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在するイオン伝導媒体と、
を備えた、
蓄電デバイス。
【請求項7】
マイナスに帯電する活物質粒子の表面にカチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体が付着した複合体付着粒子が200℃以上かつ前記複合体が凝集する凝集温度未満の温度で熱処理された複合粒子を含む電極材を用いて電極を作製する電極作製工程、
を含
み、
前記電極作製工程では、前記活物質粒子と前記カチオン性有機物と前記アニオン性導電材との合計のうち、前記カチオン性有機物の割合が2質量%以上5質量%以下、前記アニオン性導電材の割合が2質量%以上である前記複合粒子を含み、前記カチオン性有機物以外に結着材を含まない、前記電極材を用いる、
電極の製造方法。
【請求項8】
前記電極作製工程では、乾式で前記電極を作製する、
請求項7に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
請求項
7又は8に記載の電極の製造方法であって、
前記電極作製工程の前に、
前記活物質粒子の表面に前記カチオン性有機物を接触させてカチオン性有機物付着粒子を作製する、カチオン性有機物付着工程と、
前記カチオン性有機物付着粒子に前記アニオン性導電材を接触させて、前記複合体付着粒子を作製する、複合体付着工程と、
前記複合体付着粒子を200℃以上かつ前記凝集温度未満の温度で熱処理して前記複合粒子を作製する、熱処理工程と、
を含
み、
前記カチオン性有機物付着工程では、前記活物質粒子と前記カチオン性有機物とを分散媒及び/又は溶媒を用いて混合して前記複合体付着粒子を作製し、蒸発及び/又は昇華によって前記分散媒及び/又は溶媒を除去する、
電極の製造方法。
【請求項10】
電機電極作製工程では、前記活物質粒子と
、前記カチオン性有機
物と、少なくとも前記アニオン性導電材を含む導電材成分と、の合計のうち、10質量%以下の範囲で前記導電材成分を含む前記電極材を用いる、
請求項
7~9のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項11】
前記電極作製工程では、前記電極材を用いて電極材層を形成し、該電極材層を100℃以上かつ前記凝集温度未満の温度で加熱する、
請求項
7~10のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項12】
前記電極作製工程では、前記電極材層を100℃以上250℃以下の温度で加熱する、
請求項
11に記載の電極の製造方法。
【請求項13】
前記電極作製工程では、前記電極材を用いて電極材層を形成し、該電極材層を圧縮する、
請求項
7~12のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理を200℃以上300℃以下の温度で行うか、
前記熱処理を還元雰囲気又は不活性雰囲気で行うか、
のうちの少なくとも一方を満たす、
請求項
7~13のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項15】
請求項
7~14のいずれか1項に記載の電極の製造方法で製造した正極と、負極活物質を有する負極と、の間にイオン伝導媒体を介在させて、蓄電デバイスを作製する、蓄電デバイス作製工程、
を含む、蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電極、電極の製造方法、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、活物質粒子を導電材で被覆して、電極の導電性を高めることが提案されている。例えば、特許文献1では、活物質粒子の表面に炭素質が存在する複合粒子において、炭素質中の酸素含有率を5.0質量%以下とし、炭素質の被覆率を60%以上とすることが提案されている。特許文献1では、活物質粒子と、有機化合物と、水と、を含む所定のスラリーを噴霧乾燥し、得られた乾燥物を500℃以上1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて焼成して、複合粒子を製造している。また例えば、特許文献2では、活物質粒子を導電材であるグラフェンで被覆した複合粒子において、グラフェンを適度に官能基化することが提案されている。特許文献2では、活物質粒子と酸化グラフェンとを公知のミキサーや混練機を用いて粉砕・混合して複合化し、空気中150℃~250℃での加熱や還元剤の使用によって酸化グラフェンを還元して、複合粒子を製造している。
【0003】
また、活物質粒子を樹脂などで被覆して、活物質の溶出や電解液の分解などを抑制することが提案されている。例えば、特許文献3では、活物質粒子であるリチウム複合酸化物粒子の表面に、カチオン性材料層とアニオン性材料層とを交互に積層している。
【0004】
また、活物質粒子を被覆する技術ではないが、例えば、非特許文献1では、正に帯電した分枝状ポリエチレンイミン(b-PEI)を基板上に形成し、負に帯電した酸化グラフェン(GO)の懸濁液に基板を浸すことで、GOとb-PEIとのポリイオンコンプレックスを生成させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-88317号公報
【文献】国際公開第2014/115669号パンフレット
【文献】国際公開第2013/161309号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jianli Zou, Franklin Kim, Nature Communications NCOMMS6254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、スラリーを噴霧乾燥する際などに有機化合物が活物質粒子の表面から離散しやすいため、活物質粒子の表面に形成される炭素質の量が十分でなく、電極の導電性が低いことがあった。また、特許文献2のように、活物質粒子と導電材とを公知のミキサーや混練機を用いて複合化し、それを用いて電極を形成しても、導電材と複合化されていない活物質粒子があることなどにより、電極の導電性が低いことがあった。また、特許文献3及び非特許文献1では、活物質粒子を導電材と複合化することは検討されていなかった。このため、電極の導電性を高めることが望まれていた。
【0008】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、電極の導電性を高めることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を行った。そして、リチウム複合酸化物のようなマイナスに帯電する活物質粒子の表面に、カチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体を形成させることに想到した。得られた粒子を熱処理して電極に用いると、電極の導電性が向上することを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本開示の電極は、
マイナスに帯電する活物質粒子の表面にカチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体が形成された複合粒子、を備え、
導電率が0.40mS/cm以上である。
【0011】
また、本開示の蓄電デバイスは、
上述した電極である正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0012】
また、本開示の電極の製造方法は、
マイナスに帯電する活物質粒子の表面にカチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体が付着した複合体付着粒子が200℃以上かつ前記複合体が凝集する凝集温度未満の温度で熱処理された複合粒子を含む電極材を用いて電極を作製する電極作製工程、
を含むものである。
【0013】
また、本開示の蓄電デバイスの製造方法は、
上述した電極の製造方法で製造した正極と、負極活物質を有する負極と、の間にイオン伝導媒体を介在させて、蓄電デバイスを作製する、蓄電デバイス作製工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本開示の電極、電極の製造方法、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法では、電極の導電性を高めることができる。こうした効果が得られる理由は、例えば以下のように推察される。マイナスに帯電した活物質粒子の表面にプラスに帯電したカチオン性有機物を付着させ、その後、マイナスに帯電したアニオン性導電材を接触させることで、静電引力によって活物質粒子の表面にアニオン性導電材が引きつけられる。さらに200℃以上かつ複合体が凝集する凝集温度未満の温度で熱処理すると、活物質粒子と導電材とが好適な状態で複合化し、電極の導電性が向上すると考えられる。
【0015】
なお、本明細書において「マイナスに帯電」とは、中性条件(pH=7)でのゼータ電位がマイナスであることをいう。また、「プラスに帯電」とは、中性条件でのゼータ電位がプラスであることをいう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】蓄電デバイス20の構成の一例を示す模式図。
【
図4】実験例7の熱処理前後の複合粒子のSEM観察画像。
【
図11】実験例13の成膜後の試料に含まれる複合粒子のSEM観察画像。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(電極)
本開示の電極は、マイナスに帯電する活物質粒子の表面にカチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体が形成された複合粒子、を備えている。
【0018】
複合粒子は、マイナスに帯電する活物質粒子の表面に、カチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体が形成されたものである。複合粒子は、例えば、複合体の膜状物が活物質粒子の表面に付着したものとしてもよい。複合体は、カチオン性有機物とアニオン性導電材とが静電引力により結合したものであり、イオンコンプレックスとも称される。なお、カチオン性ポリマーとアニオン性化合物(ここではアニオン性導電材)とが静電引力により結合した複合体は、特に、ポリイオンコンプレックスとも称される。カチオン性ポリマーは、複数のモノマーが重合した、繰り返し構造をもっており、例えば重量平均分子量が300以上である。なお、複合体は、カチオン性有機物やアニオン性導電材が変質している部分を含んでもよい。
【0019】
複合粒子に含まれる活物質粒子は、マイナスに帯電するものであれば特に限定されず、その材質として、例えばリチウムイオン電池の正極活物質に用いられる酸化物型の活物質等が挙げられる。酸化物型の活物質は、リチウムと1種以上のその他の金属元素を含むリチウム複合酸化物としてもよい。リチウム複合酸化物は、リチウムと遷移金属元素とを含むリチウム遷移金属複合酸化物としてもよく、遷移金属としてニッケル及びコバルトを含むものとしてもよいし、ニッケル及びマンガンを含むものとしてもよいし、コバルト及びマンガンを含むものとしてもよいし、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むものとしてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物は、具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物などを用いることができる。リチウム複合酸化物は、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMcO2(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1、MはMg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb及びMoのうちの1以上)などとするものとしてもよいし、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMncO2(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1)やLi(1-x)CoaNibMncO4(0≦a≦1、0≦b≦1、1≦c≦2、a+b+c=2)などとするものとしてもよい。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2やLiNi0.4Co0.3Mn0.3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、Mg、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb及びMoのうちの1以上などを含んでもよい趣旨である。
【0020】
複合粒子に含まれるカチオン性有機物は、特に限定されないが、窒素原子を含む窒素含有化合物としてもよく、炭素鎖中に窒素原子を含むものとしてもよい。カチオン性有機物は、2個以上の窒素原子を含むものとしてもよく、4個以上窒素原子を含むものとしてもよい。窒素原子を含む窒素含有化合物としては、例えばアミン類やその誘導体などが挙げられ、具体的には、エチレンアミン類やアリルアミン類、アルキルアミン類、ポリアミン類やそれらの誘導体などが挙げられる。カチオン性有機物は、カチオン性ポリマーでもよいしカチオン性非ポリマーでもよい。本明細書では、複数のモノマーが重合し、繰り返し構造をもっており、重量平均分子量が300以上のカチオン性有機物をカチオン性ポリマーと称し、カチオン性ポリマー以外のカチオン性有機物をカチオン性非ポリマーと称する。なお、カチオン性有機物の「分子量」は、重量平均分子量を示すものとする。
【0021】
カチオン性ポリマーは、直鎖状のポリマーとしてもよいし、分枝状のポリマーとしてもよい。カチオン性ポリマーは、分子量が5000以下が好ましく、2500以下としてもよく、1000以下としてもよい。カチオン性ポリマーは、分子量が300以上としてもよいし、400以上としてもよいし、500以上としてもよい。カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ジアルキルアリルアンモニウムクロライド重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級アンモニウム塩重合物、変性ポリビニルアルコールジアルキルアンモニウム塩重合物、ジアルキルジアリルアンモニウム塩重合物カチオン性特殊変性ポリアミン化合物、カチオン性ポリアミドポリアミン化合物、カチオン性尿素-ホルマリン樹脂化合物、カチオン性ポリアクリルアミド化合物、カチオン性アルキルケテンダイマー、カチオン性ジシアンジアミド化合物、カチオン性ジシアンジアミド-ホルマリン縮合化合物、カチオン性ジシアンジアミド-ポリアミン縮合化合物、カチオン性ポリビニルホルムアミド化合物、カチオン性ポリビニルピリジン化合物、カチオン性ポリアルキレンポリアミン化合物、カチオン性エポキシポリアミド化合物が挙げられる。
【0022】
カチオン性非ポリマーは、例えば分子量が300未満のカチオン性有機物である。カチオン性非ポリマーは、例えば、2個以上6個以下の窒素原子を含むものとしてもよく、4個以上5個以下の窒素原子を含むものとしてもよい。カチオン性有機物は、直鎖状でもよいし、分枝状でもよいし、環状でもよい。カチオン性非ポリマーは、分子量が300未満が好ましく、250以下がより好ましく、200以下がさらに好ましい。また、カチオン性非ポリマーは、分子量が50以上が好ましく、100以上がより好ましく、125以上がさらに好ましい。カチオン性非ポリマーとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピペラジン、N-アミノエチルピペラジンなどのエチレンアミン類や、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミンなどのアリルアミン類、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンなどのアルキルアミン類、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジンなどのポリアミン類や、それらの誘導体などが挙げられる。このうち、エチレンアミン類が好ましく、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンがより好ましく、トリエチレンテトラミンやテトラエチレンペンタミンがさらに好ましい。
【0023】
複合粒子に含まれるアニオン性導電材は、特に限定されないが、水酸基、カルボキシル基及びエポキシ基のうちの1以上を有する炭素材料(酸化炭素材料とも称する)としてもよい。炭素材料は、グラフェンでもよいし、カーボンナノチューブでもよいし、フラーレンでもよいし、カーボンブラックでもよいし、グラファイトでもよい。アニオン性導電材は、酸化グラフェンでもよいし、酸化カーボンナノチューブでもよいし、酸化フラーレンでもよい。酸化グラフェンは、例えば、黒鉛を原料とし、改良ハマーズ法で合成してもよい。
【0024】
複合粒子は、活物質粒子とカチオン性有機物とアニオン性導電材との合計のうち、10質量%以下の範囲でアニオン性導電材を含むものとしてもよい。つまり、活物質粒子の質量をX(g)、カチオン性有機物の質量をY(g)、アニオン性導電材の質量をZ(g)とすると、Z×100/(X+Y+Z)の値が10以下であるものとしてもよい。本開示の複合粒子では、活物質粒子と導電材とが好適な状態で複合化しているため、導電材が少なくても、電極の導電性を高めることができる。このZ×100/(X+Y+Z)の値は、7以下が好ましく、5以下としてもよい。Z×100/(X+Y+Z)の値は0.1以上としてもよいし、1以上としてもよいし、2以上としてもよい。また、複合粒子において、Y×100/(X+Y+Z)の値は、10以下としてもよいし、7以下としてもよいし、5以下としてもよく、0.1以上としてもよいし、1以上としてもよいし、2以上としてもよい。また、複合粒子において、X×100/(X+Y+Z)の値は、99.8以下としてもよいし、99以下としてもよいし、97以下としてもよいし、95以下としてもよく、80以上としてもよいし、85以上としてもよい。
【0025】
電極は、導電率が0.40mS/cm以上である。導電率は、0.60mS/cm以上であることが好ましく、1.00mS/cm以上であることがより好ましく、1.20mS/cm以上であることがさらに好ましい。導電率は、より高いことが好ましいが、作製の容易性の観点から、例えば10.0mS/cm以下や5.0mS/cm以下としてもよい。電極は、抵抗率が250000Ωm以下であることが好ましく、200000Ωm以下がより好ましく、150000Ωm以下がさらに好ましく、100000Ωm以下が一層好ましい。抵抗率は、より低いことが好ましいが、作製の容易性の観点から、例えば5000Ωm以上や10000Ωm以上としてもよい。電極は、電気抵抗が100kΩ以下であることが好ましく、90kΩ以下であることがより好ましく、70kΩ以下であることがさらに好ましく、50kΩ以下であることが一層好ましい。電気抵抗は、より低いことが好ましいが、作製の容易性の観点から、例えば1kΩ以上や5kΩ以上としてもよい。
【0026】
電極は、例えば、上述した複合粒子を含む電極材層が集電体上に形成されたものとしてもよい。電極材層は、複合粒子に含まれるカチオン性有機物以外に結着材を含むものとしてもよいし、結着材を含まないものとしてもよい。また、電極材層は、複合粒子に含まれるアニオン性導電材以外に導電材を含むものとしてもよいし、導電材を含まないものとしてもよい。結着材は、活物質粒子同士を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物としてもよい。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)としてもよい。導電材は、電極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものとしてもよい。集電体は、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性等向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものとしてもよい。これらについては、表面を酸化処理したものとしてもよい。集電体の形状としては、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmである。
【0027】
電極は、複合粒子に含まれるカチオン性有機物以外には結着材を含まないことが好ましい。上述したカチオン性有機物は活物質粒子同士を繋ぎ止める機能を有するため、別途結着材を加えなくても電極を形成できるからである。また、別途結着材を加えない分だけ、電極中の活物質粒子の割合を増やすことができ、電極のエネルギー密度を高めることができるからである。なお、電極は、耐久性の観点から、カチオン性有機物以外に結着材を含むものとしてもよい。
【0028】
電極は、カチオン性有機物以外の結着材を含む場合、結着材として結着材粒子を含むことが好ましい。結着材粒子を含む電極を作製する場合には、結着材を溶解させる有機溶剤が不要だからである。結着材を溶解させる有機溶剤(例えばN-メチルピロリドン)は揮発性が悪いことが多いが、そうした溶剤が不要なため、電極を作製する際に有機溶剤を揮発させる工程を簡略化できる。結着材粒子の粒子径は、例えば50nm~300nmとしてもよい。
【0029】
電極材層は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、10質量%以下や7質量%以下、5質量%以下などの範囲で結着材成分を含むものとしてもよいし、0.1質量%以上や1質量%以上、2質量%以上などの範囲で結着材成分を含むものとしてもよい。また、電極材層は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、10質量%以下や7質量%以下、5質量%以下などの範囲で導電材成分を含むものとしてもよいし、0.1質量%以上や1質量%以上、2質量%以上などの範囲で導電材成分を含むものとしてもよい。なお、結着材成分には、少なくともカチオン性有機物が含まれるが、耐久性向上の観点から、さらにカチオン性有機物以外の結着材が含まれるものとしてもよい。その場合、カチオン性有機物以外の結着材は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、3質量%以下や2質量%以下、1.5質量%以下などの範囲で電極材層に含まれるものとしてもよく、0.03質量%以上や0.3質量%以上、0.7質量%以上などの範囲で電極材層に含まれるものとしてもよい。また、導電材成分には、少なくともアニオン性導電材が含まれるが、導電性向上の観点から、さらにアニオン性導電材以外の導電材が含まれるものとしてもよい。その場合、アニオン性導電材以外の導電材は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、3質量%以下や2質量%以下、1.5質量%以下などの範囲で電極材層に含まれるものとしてもよく、0.03質量%以上や0.3質量%以上、0.7質量%以上などの範囲で電極材層に含まれるものとしてもよい。
【0030】
(電極の製造方法)
次に、電極の製造方法について説明する。この製造方法は、例えば、カチオン性有機物付着工程と、複合体付着工程と、熱処理工程と、電極作製工程と、を含むものとしてもよい。
【0031】
・カチオン性有機物付着工程(工程(a))
この工程では、カチオン性有機物付着粒子を作製する。この工程では、例えば以下のように、分散媒や溶媒を用いて活物質粒子とカチオン性有機物とを混合するのが好ましい。分散媒や溶媒としては、水系のものを用いてもよいし、有機系のものを用いてもよいが、水が好ましい。カチオン性有機物付着工程では、例えば、上述した活物質粒子を分散媒に分散させて活物質粒子の分散液を作製する。また、上述したカチオン性有機物を溶媒に溶解又は分散媒に分散させてカチオン性有機物の溶液又は分散液を作製する。そして、活物質粒子の分散液にカチオン性有機物の溶液又は分散液を混合して撹拌する。これにより、活物質粒子のマイナス電荷とカチオン性有機物のプラス電荷とが静電引力で引き合い、活物質粒子の表面にカチオン性有機物が付着し、カチオン性有機物付着粒子が得られる。その後、ロータリーエバポレーター等を用いて分散媒や溶媒を蒸発させて除去し、あるいは、フリーズドライ等により分散媒や溶媒を昇華させて除去し、活物質粒子表面にカチオン性有機物が強固に付着したカチオン性有機物付着粒子を得る。カチオン性有機物付着工程では、分散媒や溶媒を除去するにあたり、カチオン性有機物が活物質粒子の周囲に留まるようにするため、つまり、カチオン性有機物が分散媒や溶媒とともに除去されないようにするため、分散媒や溶媒を蒸発又は昇華させて除去することが好ましい。カチオン性有機物付着工程において、分散媒や溶媒を除去する工程を省略してもカチオン性有機物付着粒子が得られるが、分散媒や溶媒を除去した方が、カチオン性有機物が活物質粒子の周囲により確実に付着するため好ましい。
【0032】
・複合体付着工程(工程(b))
この工程では、熱処理前の複合粒子である複合体付着粒子を作製する。この工程では、例えば以下のように、分散媒や溶媒を用いてカチオン性有機物付着粒子とアニオン性導電材とを混合するのが好ましい。分散媒や溶媒としては、水系のものを用いてもよいし、有機系のものを用いてもよいが、水が好ましい。複合体付着工程では、例えば、カチオン性有機物付着工程で得られたカチオン性有機物付着粒子を分散媒に分散させたカチオン性有機物付着粒子の分散液を準備する。また、上述したアニオン性導電材を分散媒に分散させたアニオン性導電材の分散液を準備する。そして、カチオン性有機物付着粒子の分散液にアニオン性導電材の分散液を混合して撹拌する。これにより、活物質粒子に付着したカチオン性有機物とアニオン性導電材とが静電引力で引き合い、カチオン性有機物とアニオン性導電材とを含む複合体が生成し、活物質粒子の表面に複合体が付着した複合体付着粒子が得られる。その後、吸引ろ過等によって分散媒や溶媒を除去し、粉末状の複合体付着粒子を得る。なお、複合体付着工程では、分散媒や溶媒を除去するにあたり、複合体に利用されなかったカチオン性有機物が分散媒や溶媒とともに除去されるようにするため、分散媒や溶媒をろ過法などで除去することが好ましい。複合体付着工程で生成する複合体は、層状構造等の規則構造を有する場合が多い。こうした規則構造は、熱処理工程後にも保たれ、活物質粒子の周りに適度な空隙を生じさせると考えられる。
【0033】
・熱処理工程(工程(c))
この工程では、複合体付着工程で得られた複合体付着粒子を熱処理して、熱処理済みの複合粒子を作製する。熱処理は、200℃以上かつ複合体が凝集する凝集温度未満の温度で行う。凝集温度以上では、複合体は膜状物ではなくなる。熱処理温度は、カチオン性有機物がカチオン性ポリマーである場合、例えば200℃以上400℃以下の温度であり、好ましくは200℃以上350℃以下、より好ましくは200℃以上300℃以下である。熱処理温度は、カチオン性有機物がカチオン性非ポリマーである場合、例えば200℃以上300℃以下である。熱処理時の雰囲気は、特に限定されるものではなく、例えば大気雰囲気などでもよいが、導電性向上の観点からは、還元雰囲気又は不活性雰囲気が好ましい。大気雰囲気の場合は、200℃以上350℃以下の温度で熱処理を行うことが特に好ましい。熱処理時間は、例えば1時間以上5時間以下である。この熱処理によって、アニオン性導電材に含まれる酸素を含む置換基の一部又は全部が還元されたり、カチオン性有機物の一部又は全部が分解されたりする。これにより、グラフェンの電気伝導率が向上し、活物質粒子と直接接触する導電材が増加するため、複合粒子を電極に用いた際に活物質粒子間の電子移動が容易になり電極の導電率が向上する。また、カチオン性有機物の分解によってアニオン性導電材の間に適度な空隙ができるため、複合粒子を電極に用いた際に活物質粒子の周りにイオン伝導媒体が入り込み易くなり、活物質粒子とイオン伝導媒体との間でのリチウムの授受が容易となる。
【0034】
図1は、上述した工程(a)~(c)の一例を示す説明図である。工程(a)では、正極活物質粒子11の水懸濁液に、カチオン性有機物の水溶液を混合して撹拌し、必要に応じて水を蒸発又は昇華させる。これにより、正極活物質粒子11の表面にカチオン性有機物12が付着したカチオン性有機物付着粒子13が得られる。正極活物質粒子11の表面はマイナスに帯電しているため、このマイナス電荷と、カチオン性有機物12のプラス電荷とで静電吸着結合して、カチオン性有機物付着粒子13となる。工程(b)では、カチオン性有機物付着粒子13の水懸濁液に、アニオン性導電材である酸化グラフェンの水懸濁液を混合して撹拌し、ろ過等によって水を除去する。これにより、正極活物質粒子11の表面にカチオン性有機物12と酸化グラフェンとの複合体14が付着して、熱処理前の複合粒子である複合体付着粒子10が得られる。工程(c)では、複合体付着粒子10を、還元雰囲気下200℃以上300℃以下の温度範囲で3時間程度保持して、還元熱処理を行う。この還元熱処理によって、酸化グラフェンに含まれる水酸基やカルボキシル基、エポキシ基などの置換基の一部又は全部が還元されたり、カチオン性有機物の一部又は全部が分解されたりして、複合体14の一部又は全部がポーラスなグラフェン膜になった膜状物である、導電膜15になる。こうして、複合粒子16が得られる。
【0035】
(d)電極作製工程
この工程では、例えば、上述した熱処理工程で得られた複合粒子を含む電極材を用いて電極を作製する。電極は、例えば、複合粒子を含む電極材を準備し、集電体の表面に電極材層を形成し、必要に応じて、結着性を高めるべく加熱したり、電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。電極材は、複合粒子に含まれるカチオン性有機物以外に結着材を含むものとしてもよいし、結着材を含まないものとしてもよい。また、電極材は、複合粒子に含まれるアニオン性導電材以外に導電材を含むものとしてもよいし導電材を含まないものとしてもよい。結着材や導電材、集電体としては、上述した電極の説明で例示したものを用いることができる。電極材層の形成は、乾式で行うことが好ましいが、湿式で行ってもよい。湿式で電極材層を形成する場合、電極材は、水や、水に分散剤、増粘剤、SBRなどのラテックス等を加えたものを用いて、ペースト状やスラリー状にして塗布してもよい。また、湿式で電極材層を形成する場合、電極材は、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いて、ペースト状やスラリー状にして塗布してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。電極材層の形成方法としては、例えば、静電スクリーンなどを用いたスクリーンコーティング、アプリケータロールなどのローラコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0036】
電極材層を加熱する場合、加熱温度は、100℃以上かつ複合体の凝集する凝集温度未満の温度としてもよく、例えば、100℃以上250℃以下の温度範囲としてもよいし、150℃以上250℃以下の温度範囲としてもよい。また、加熱温度は、上述した熱処理温度未満の温度としてもよいし、上述した熱処理温度以下の温度としてもよい。加熱雰囲気は、導電性向上の観点から還元雰囲気又は不活性雰囲気としてもよいし、加熱の簡便性の観点から大気雰囲気としてもよい。また、電極材層を圧縮する場合、例えばロールプレスなどにより圧縮してもよい。ロールプレスにより圧縮を行う場合、例えば0.1m/min以上10m/min以下や、0.5m/min以上5m/min以下などのプレス速度で圧縮してもよい。また、ロールプレスにより圧縮を行う場合、例えば10kg/cm以上110kg/cm以下や、30kg/cm以上90kg/cm以下などの線圧で圧縮してもよい。電極材層は、例えばホットロールプレスなどにより、加熱しながら圧縮してもよい。その場合も、加熱温度や加熱雰囲気、プレス速度、線圧などは、上述の範囲などから適宜設定すればよい。
【0037】
電極材は、複合粒子に含まれるカチオン性有機物以外には結着材を含まないことが好ましい。上述したカチオン性有機物は活物質粒子同士を繋ぎ止める機能を有するため、別途結着材を加えなくても電極を形成できる。また、別途結着材を加えない分だけ、電極中の活物質粒子の割合を増やすことができ、電極のエネルギー密度を高めることができる。
【0038】
電極材は、カチオン性有機物以外の結着材を含む場合、結着材として結着材粒子を含むことが好ましい。結着材粒子を用いる場合には、結着材を溶解させる有機溶剤が不要である。結着材を溶解させる有機溶剤(例えばN-メチルピロリドン)は揮発性が悪いことが多いが、そうした溶剤が不要なため、電極を作製する際に有機溶剤を揮発させる工程を簡略化できる。結着材粒子の粒子径は、例えば50nm~300nmとしてもよい。
【0039】
電極材は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、10質量%以下や7質量%以下、5質量%以下などの範囲で結着材成分を含むものとしてもよいし、0.1質量%以上や1質量%以上、2質量%以上などの範囲で結着材成分を含むものとしてもよい。また、電極材は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、10質量%以下や7質量%以下、5質量%以下などの範囲で導電材成分を含むものとしてもよいし、0.1質量%以上や1質量%以上、2質量%以上などの範囲で導電材成分を含むものとしてもよい。なお、結着材成分には、少なくともカチオン性有機物が含まれるが、耐久性向上の観点から、さらにカチオン性有機物以外の結着材が含まれるものとしてもよい。その場合、カチオン性有機物以外の結着材は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、3質量%以下や2質量%以下、1.5質量%以下などの範囲で電極材に含まれるものとしてもよく、0.03質量%以上や0.3質量%以上、0.7質量%以上などの範囲で電極材に含まれるものとしてもよい。また、導電材成分には、少なくともアニオン性導電材が含まれるが、導電性向上の観点から、さらにアニオン性導電材以外の導電材が含まれるものとしてもよい。その場合、アニオン性導電材以外の導電材は、活物質粒子と結着材成分と導電材成分との合計のうち、3質量%以下や2質量%以下、1.5質量%以下などの範囲で電極材に含まれるものとしてもよく、0.03質量%以上や0.3質量%以上、0.7質量%以上などの範囲で電極材に含まれるものとしてもよい。
【0040】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在するイオン伝導媒体と、を備えている。蓄電デバイスは、特に限定されないが、例えば、リチウムを電荷のキャリアとするものとしてもよく、リチウムイオン電池や、リチウム二次電池、リチウムイオンキャパシタとしてもよい。蓄電デバイスの一例について、以下に説明する。
【0041】
本開示の蓄電デバイスにおいて、正極としては、上述した電極を用いることができる。この正極は、上述した複合粒子を含み、複合粒子は、リチウムを吸蔵放出する活物質粒子を含む。こうした活物質としては、上述したリチウム複合酸化物などが挙げられる。
【0042】
負極は、リチウムを吸蔵放出する負極活物質を含んでいる。負極活物質は特に限定されないが、リチウム金属、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面からみて好ましい。この負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は正極と同様のものを用いることができる。
【0043】
イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO2)2N,LiN(C2F5SO2)2などが挙げられ、このうちLiPF6やLiBF4などが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。
【0044】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0045】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、蓄電デバイス20の構成の一例を示す模式図であり、コイン型の蓄電デバイス20の構成の概略を表す断面図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状のケース21と、正極活物質を有しこのケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、ケース21の開口部に配設されガスケット25を介してケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27を備えている。この蓄電デバイス20において、正極22は、
図1に示す複合粒子16を備えている。
【0046】
(蓄電デバイスの製造方法)
次に、蓄電デバイスの製造方法について説明する。この製造方法は、上述した電極の製造方法で製造した正極と、負極活物質を有する負極と、の間にイオン伝導媒体を介在させて蓄電デバイスを作製する蓄電デバイス作製工程を含む。この工程では、例えば、正極と負極との間にセパレータを介在させ、セパレータにイオン伝導媒体を含浸させてもよい。負極や、イオン伝導媒体、セパレータとしては、上述した蓄電デバイスで例示したものを用いることができる。
【0047】
以上説明した電極、電極の製造方法、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法では、電極の導電性を高めることができる。こうした効果が得られる理由は、例えば以下のように推察される。マイナスに帯電した活物質粒子の表面にプラスに帯電したカチオン性有機物を付着させ、その後、マイナスに帯電したアニオン性導電材を接触させることで、静電引力によって活物質粒子の表面にアニオン性導電材が引きつけられる。さらに200℃以上かつ複合体が凝集する凝集温度未満の温度で熱処理すると、活物質粒子と導電材とが好適な状態で複合化し、電極の導電性が向上すると考えられる。
【0048】
また、上述した電極に含まれる複合粒子では、複合体が規則構造を有するため、活物質粒子の表面に適度な空隙が存在する。こうした空隙にイオン伝導媒体が染み込むことができ、イオン伝導媒体と活物質粒子との間のイオン伝導も円滑に行われる。
【0049】
また、上述した電極に含まれる複合粒子では、活物質粒子と導電材とが複合化しているため、電極を作製する際に、活物質粒子や導電材等を有機溶媒に分散させなくても、活物質粒子や導電材の凝集や偏析が生じにくく、両者を均一に混合できる。このため、有機溶媒の使用量を削減できる。
【0050】
また、上述した電極に含まれる複合粒子では、カチオン性有機物が結着材としても機能し得る。つまり、複合粒子は、活物質粒子と導電材成分(アニオン性導電材)と結着材成分(カチオン性有機物)とが複合化されたものであり得る。こうした複合粒子を用いた電極では、活物質粒子と導電材と結着材との分散性が高く、ほぼ全ての活物質粒子の周囲に導電材や結着材を配置することができるため、活物質粒子近傍への導電材や結着材の均一な配置が可能であり、導電材や結着材の機能が発揮されやすい。このため、電極中の導電材や結着材の割合を低減できるし、アニオン性導電材以外の導電材やカチオン性有機物以外の結着材を含まないものとすることもできる。このため、電極や蓄電デバイスのエネルギー密度を向上できる。
【0051】
また、上述した電極に含まれる複合粒子では、カチオン性有機物が活物質粒子同士を繋ぎ止める機能も有する。このため、カチオン性有機物以外に結着材を含まない電極材を用いても、電極を形成し得る。ところで、正極の結着材として一般的に用いられているPVDFやPVDF-コポリマーなどのPVDF系の結着材は、活物質粒子に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物やリチウム遷移金属複合硫化物などと有機溶媒でスラリー化する際に、スラリーがアルカリ性となることで脱フッ酸したり、加熱により重合反応が起こったりして、スラリーのゲル化を引き起こすことがある。こうしたスラリーのゲル化は、スラリーの保存期間を短くし、成膜の際にはぶつの生成や成膜不能等の不具合に直結する。しかし、上述した複合粒子を用いた電極では、PVDF系の結着材を含まない電極材を用いても電極を形成できるため、こうした不具合の発生を抑制したり、電極材のハンドリング性を向上したりできる。また、カチオン性有機物以外の結着材を含む電極材を用いる場合、結着材の偏析が生じることがある。しかし、上述した複合粒子を用いた電極では、カチオン性有機物以外の結着材を含まない電極材を用いても電極が形成できるため、結着材の偏析を抑制できる。
【0052】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。例えば、上述した複合粒子は、リチウムイオン電池やリチウム二次電池以外の蓄電デバイスに用いてもよい。具体的には、リチウムイオンキャパシタ等に用いてもよいし、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン等を電荷のキャリアとする蓄電デバイスに用いてもよい。また、上述した電極は、負極に用いてもよい。また、上述した電極の製造方法では、工程(a)~(c)で作製した複合粒子を用いて電極を作製したが、別途準備した複合粒子を用いて電極を作製してもよい。
【実施例】
【0053】
以下には、本開示の電極を具体的に作製した場合について、実施例として説明する。ここでは、実験例1~18が実施例に相当し、実験例19~26が比較例に相当する。
【0054】
1.活物質粒子の準備
正極活物質粒子として、Li1.14(Ni0.335Co0.335Mn0.33)O2粒子(戸田マテリアル(株)製、NCM-01ST-5P。以降、NCM粒子とも称する。)を準備した。なお、このNCM粒子0.5gを静電スクリーンを用いてアルミ集電箔上に塗布し、それをホットロールプレスを用いて成膜しようとしたが、全く集電箔上に付着せず、膜にはならなかった。
【0055】
2.複合粒子の作製
[実験例1]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、テトラエチレンペンタミン(東京化成工業製、T0098。以降、テトラエチレンペンタミンをTEPAとも称する。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、TEPA付着粒子を得た。TEPA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、酸化グラフェン(アライアンスバイオシステムズ製、HCGO-W-175。以降、酸化グラフェンをGOとも称する。)を1質量%含む水分散液を25g(5質量%相当)加え、1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例1とした。
【0056】
[実験例2]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、TEPAを5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、TEPA付着粒子を得た。TEPA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.4g(2.5質量%相当)加え、1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例2とした。
【0057】
[実験例3]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、分枝状ポリエチレンイミン(重量平均分子量Mw800,ALDRICH製408719-100ML, 以降ポリエチレンイミンをPEIとも称する。) を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEI付着粒子を得た。PEI付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.4g(2.5質量%相当)加え、1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粉末を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粉末を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例3とした。
【0058】
[実験例4]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、エチレンジアミン(東京化成工業製、E0077。以降、エチレンジアミンをEDAとも称する。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、EDA付着粒子を得た。EDA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、酸化グラフェン(アライアンスバイオシステムズ製、HCGO-W-175。以降、酸化グラフェンをGOとも称する。)を1質量%含む水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え、1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例4とした。
【0059】
[実験例5]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、ジエチレントリアミン(東京化成工業製、D0493。以降、ジエチレントリアミンをDETAとも称する。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、DETA付着粒子を得た。DETA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例5とした。
【0060】
[実験例6]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、テトラエチレンペンタミン(東京化成工業製、T0098。以降、テトラエチレンペンタミンをTEPAとも称する。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、TEPA付着粒子を得た。TEPA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を25g(5質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例6とした。
【0061】
[実験例7]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、TEPAを5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、TEPA付着粒子を得た。TEPA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例7とした。
【0062】
[実験例8]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、TEPAを5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、TEPA付着粒子を得た。TEPA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を25g(5質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の大気中で3時間熱処理し、実験例8とした。
【0063】
[実験例9]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、TEPAを5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、TEPA付着粒子を得た。TEPA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の大気中で3時間熱処理し、実験例9とした。
【0064】
[実験例10]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、ペンタエチレンヘキサミン(富士フイルム和光純薬製、164-12022。以降、ペンタエチレンヘキサミンをPEHAとも称する。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEHA付着粒子を得た。PEHA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を25g(5質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例10とした。
【0065】
[実験例11]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、PEHAを5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEHA付着粒子を得た。PEHA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例11とした。
【0066】
[実験例12]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、分枝状ポリエチレンイミン(重量平均分子量Mw800)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEI付着粒子を得た。PEI付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を25g(5質量%相当)加え、1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例12とした。
【0067】
[実験例13]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、分枝状ポリエチレンイミン(重量平均分子量Mw800)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEI付着粒子を得た。PEI付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例13とした。
【0068】
[実験例14]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、分枝状ポリエチレンイミン(重量平均分子量Mw800)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEI付着粒子を得た。PEI付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を5g(1質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例14とした。
【0069】
[実験例15]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、分枝状ポリエチレンイミン(重量平均分子量Mw1800、和光純薬工業製、167-17811。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEI付着粒子を得た。PEI付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を25g(5質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例15とした。
【0070】
[実験例16]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、直鎖状ポリエチレンイミン(重量平均分子量Mw2500、Polysciences製、24313-2。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PEI付着粒子を得た。PEI付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例16とした。
【0071】
[実験例17]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、ポリアリルアミン(重量平均分子量Mw1600、ニットーボーメディカル製、PAA-01。以降、ポリアリルアミンをPAAとも称する。)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PAA付着粒子を得た。PAA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を25g(5質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例17とした。
【0072】
[実験例18]
NCM粒子4.5gを蒸留水20mLに分散させ、ポリアリルアミン(重量平均分子量Mw1600)を5質量%含む水溶液を5g加えて1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、PAA付着粒子を得た。PAA付着粒子を蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.6質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、吸引ろ過を行い、残った粒子を80℃で一昼夜乾燥させた。得られた複合粒子を250℃の窒素気流下で3時間熱処理し、実験例18とした。
【0073】
[実験例19]
複合粒子ではなくNCM粒子そのものを、実験例19とした。
【0074】
[実験例20]
実験例20では、カチオン性有機物を用いず、湿式でNCM粒子とGOとを混合して、GO2.5質量%の複合粒子を得た。具体的には、NCM粒子4.87gを蒸留水20mLに分散させ、1質量%GO水分散液を12.5g(2.5質量%相当)加え1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、80℃の乾燥機で一昼夜粒子を乾燥させ、得られた複合粒子を実験例20とした。
【0075】
[実験例21]
実験例21では、カチオン性有機物を用いず、乾式でNCM粒子とGOとを混合して、GO2.5質量%の複合粒子を得た。具体的には、NCM粒子4.87gとGO粒子0.125g(2.5質量%相当)を乾式(フードプロセッサ)で撹拌・複合化し、得られた複合粒子を実験例21とした。
【0076】
[実験例22]
実験例21の複合粒子を、250℃窒素気流下で3時間熱処理し、実験例22とした。
【0077】
[実験例23]
熱処理温度を250℃から350℃に変更した以外は実験例6と同様にして得られた複合粒子を実験例23とした。
【0078】
[実験例24]
熱処理温度を250℃から350℃に変更した以外は実験例7と同様にして得られた複合粒子を実験例24とした。
【0079】
[実験例25]
熱処理を行わなかった以外は実験例13と同様にして得られた複合粒子を実験例25とした。
【0080】
[実験例26]
熱処理温度を450℃に変更した以外は実験例13と同様にして得られた複合粒子を実験例26とした。
【0081】
3.成膜及び試料の作製
(1)実験例1~3
複合粒子0.50g(電極材)を静電スクリーンを用いて厚さ30μmのアルミ集電箔上に形成し、それをホットロールプレスを用いて成膜した。成膜条件は、プレス温210℃、プレス速度1m/min、線圧62.5kg/cmとした。その後、膜を円形の2cm
2のパンチで打ち抜き、試料を作製した。実験例1~3では、いずれも成膜が可能であった。
図3に、一例として、実験例2の成膜後の外観写真を示す。なお、
図3では、中央付近に成膜されていないように見える部分があるが、これは撮影時のハレーションによるものであり、実際には、電極材を塗布した範囲全体に電極材が成膜されていた。
【0082】
(2)実験例4~26
複合粒子0.49gとバインダーとしてのPVdF(アルケマ製HSV900。粒子径約200nm)0.01g(2質量%相当)と、を乾式(フードプロセッサ)で混合し、電極合材(電極材)を作製した。得られた電極合材を静電スクリーンを用いて厚さ30μmのアルミ集電箔上に塗布し、それをホットロールプレスを用いて成膜した。成膜条件は、プレス温210℃、プレス速度1m/min、線圧62.5kg/cmとした。その後、膜を円形の2cm2のパンチで打ち抜き、試料を作製した。実験例4~26では、いずれも成膜が可能であった。
【0083】
4.SEM観察
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、複合粒子や電極のSEM観察を行った。
図4は実験例7の熱処理前後の複合粒子のSEM観察画像であり、
図4Aは熱処理前の複合粒子、
図4Bは熱処理後の複合粒子である。
図5は実験例6の複合粒子のSEM観察画像であり、
図6は実験例8の複合粒子のSEM観察画像であり、
図7は実験例23の複合粒子のSEM観察画像である。また、
図8は実験例25の複合粒子のSEM観察画像であり、
図9は実験例13の複合粒子のSEM観察画像であり、
図10は実験例26の複合粒子のSEM観察画像である。また、
図11は実験例13の成膜後の試料に含まれる複合粒子(試料の一部を箔からかき取った粒子)のSEM観察画像である。なお、カチオン性有機物の種類が違っても、SEM観察画像に大きな違いは見られなかった。
【0084】
5.導電性の評価
導電性の評価は、以下のように行った。上述した試料(アルミ集電箔を含む)を、それよりも直径の大きな測定電極で厚さ方向に挟み、テスターを用いて電気抵抗Rを測定した。また、アルミ集電箔も含む試料の厚さLをマイクロメーターで測定した。試料の面積Aは2cm2とした。そして、R=ρ×L/Aの式から抵抗率ρを求め、さらに導電率1/ρを求めた。
【0085】
6.結果と考察
表1に複合粒子の合成方法をまとめ、表2に試料の作製方法及び導電性の評価結果をまとめた。
【0086】
【0087】
【0088】
実験例20,21は、湿式、乾式で酸化グラフェンを混合しただけの複合粒子を用いた試料であるが、酸化グラフェンを用いなかった実験例19に対して導電性がほとんど向上しなかった。実験例21の複合粒子を250℃で還元熱処理をした実験例22も、導電性はあまり向上しなかった。これに対して、本開示の手法で複合化し、200℃以上かつ複合体が凝集しない温度で熱処理を施した実験例1~18では、実験例19~22よりも電気抵抗が低いことから、導電性が向上していることがわかった。また、実験例1~18では、メッシュを通して、静電スクリーン印刷法で成膜をしても、グラフェンが剥離せず活物質に結合していた(例えば
図11参照)。以上より、実験例20~22のように、正極活物質とグラフェンを単純混合しただけでは、グラフェンが正極活物質から剥離しやすく、グラフェンだけが凝集するなどしてグラフェンの分散性が低くなり、導電性が低くなると推察された。これに対して、実験例1~18のように、本開示の手法で複合化した複合粒子を用いた試料では、グラフェンと正極活物質とが強固に結合していることにより、導電材であるグラフェンが正極活物質とともに分散するため、グラフェンの分散性が高くなり、導電性が高まると推察された。また、本開示の手法で複合化した複合粒子では、正極活物質とグラフェンとが強固に結合しているため、正極活物質とグラフェンとの間の電子の移動も円滑になり、そうした点でも電極の導電性が向上すると推察される。
【0089】
実験例1~18のうち、分子量の低いEDAやDETAを用いた複合粒子(実験例4,5)は、正極活物質粒子と複合化させた際、80℃で乾燥させても完全に乾ききらず、アミン臭がしていた。これは、EDAやDETAは正極活物質粒子との吸着が弱く正極活物質粒子から外れやすいことを示していると推察された。そして、EDA付着粒子やDETA付着粒子を水に分散させて酸化グラフェンと反応させた際には、EDAやDETAが正極活物質粒子から外れて遊離した複合体を生成してしまい、TEPAを用いた実験例7ほどは導電性が向上しなかったと推察された。このことから、カチオン性有機物(例えばエチレンジアミンの誘導体)は、活物質からの外れにくさや操作性の面から、N原子の数が4以上であるか、分子量が125以上であるか、の少なくとも一方を満たすものが好ましいと推察された。
【0090】
ところで、正極活物質粒子であるNCM粒子(基準)は、結着材を用いない場合には成膜できなかったことから、電極材を用いて電極を形成するには結着材の役割を果たす副材が必要であることがわかった。これに対して、本開示の複合粒子を用いた場合には、実験例1~3からわかるように、別途結着材を用いなくても成膜が可能であった。このことから、本開示の複合粒子に含まれるカチオン性有機物(例えばTEPAやPEI)が、結着材としても機能するものと推察された。
【0091】
実験例1~18のうち、PVdFを用いずに成膜した実験例1~3では、PVdFを用いて成膜した対応する実験例6,7,13よりも、導電性が向上した。また、実験例1~3では、実験例6,7,13よりもPVdFを減らした分だけ、活物質粒子の割合を多くできた。このことから、本開示の複合粒子を用いれば、成膜時に結着材を添加しなくても電極を形成できるため、導電性を高めるだけでなく、電極中の活物質の分率を高めてエネルギー密度を高めることができると推察された。
【0092】
実験例1~26のうち、カチオン性有機物が非ポリマーである実験例1,2,4~11,23,24について検討すると、特に、実験例1,6では、導電材を複合化しない試料(実験例19)と比較すると電気抵抗が約1/37、導電率が約24倍となり、導電性が大きく向上した。一方、実験例23,24は、350℃という比較的高温で還元熱処理をした点以外は実験例6,7と同じであるが、実験例6,7よりも導電性が低かった。ここで、250℃で熱処理を行った実験例1,2,4~11の複合粒子では、例えば
図4~6に示すように熱処理後にも複合体が凝集していないが、350℃で熱処理を行った実験例23,24では、例えば
図7に示すように、複合体が凝集し、膜状物でなくなっていた。このことから、350℃熱処理をした実験例23,24では、複合体が熱分解などによって劣化して凝集し、導電性が低くなったものと推察された。窒素気流下で熱処理を行った実験例6,7と、大気中で熱処理を行った実験例8,9とを比較すると、実験例6,7のほうが導電性が大きく向上した。これは、還元雰囲気で熱処理すると、酸化グラフェンに含まれる含酸素置換基を効率的に減少させられるためと推察された。以上より、熱処理時の雰囲気は、酸化雰囲気よりも還元雰囲気や不活性雰囲気が好ましいと推察された。
【0093】
実験例1~26のうち、カチオン性有機物がポリマーである実験例3,12~18,25,26について検討すると、特に、実験例12では、導電材を複合化しない電極(実験例19)と比較すると電気抵抗が約1/30、導電率が約20倍となり、導電性が大きく向上した。一方、実験例26は、450℃という比較的高温で還元熱処理をした点以外は実験例13と同じであるが、実験例13よりも導電性が低かった。また、実験例25は、熱処理を行わなかった点以外は実験例13と同じであるが、実験例13よりも導電性が低かった。ここで、250℃で熱処理を行った実験例3,12~18の複合粒子では、例えば
図9に示すように熱処理後にも熱処理前(
図8参照)と外観があまり変わらない状態でポリイオンコンプレックスが存在しているが、450℃で熱処理を行った実験例26では、
図10に示すように、ポリイオンコンプレックスは、活物質上で凝集し、膜状物でなくなっていた。これは、ポリイオンコンプレックスの一部が熱分解などによって劣化したためと推察され、これにより、導電性が他の実験例よりも低くなったものと推察された。なお、熱処理温度が350℃の場合には、
図10ほどではないが、凝集傾向が若干見られたことから、350℃付近からポリイオンコンプレックスの劣化が始まると推察された。また、実験例25は、所定の熱処理をしていないため、酸素含有置換基がグラフェンに多く残存し、導電性が低くなったものと推察された。なお、実験例25の複合粒子を250℃の窒素気流下で熱処理したのが実験例13であるが、実験例25の複合粒子を250℃の大気中で熱処理した場合、ポリイオンコンプレックスが劣化しやすい傾向がみられ、実験例13よりは導電性が劣っていたものの、実験例19~22よりも導電性を高めることができた。
【0094】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示は、電池産業の分野等に利用可能である。
【符号の説明】
【0096】
10 複合体付着粒子、11 正極活物質粒子、12 カチオン性有機物、13 カチオン性有機物付着粒子、14 複合体、15 導電膜、16 複合粒子、20 蓄電デバイス、21 ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。