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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】金属製ボトル缶およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 23/08 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
B65D23/08 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019506962
(86)(22)【出願日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2018011353
(87)【国際公開番号】W WO2018174144
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017055789
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇作
(72)【発明者】
【氏名】湯川 泰洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸司
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-137846(JP,A)
【文献】特開2008-056350(JP,A)
【文献】特開2014-118432(JP,A)
【文献】特開2010-017979(JP,A)
【文献】特開2001-019877(JP,A)
【文献】特開2002-355924(JP,A)
【文献】特開2008-056846(JP,A)
【文献】特開2010-267937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 23/00-25/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ部が形成された口部、肩部、胴部、及び底部から成るボトル形状の金属製基材を含み、
前記口部の外面には、前記金属製基材上に仕上げニス層が直接設けられており、
該仕上げニス層の前記ネジ部でのMEK抽出率が2~8質量%であることを特徴とする金属製ボトル缶。
【請求項2】
前記仕上げニス層の前記ネジ部でのMEK抽出率が7~8質量%である、請求項1に記載の金属製ボトル缶。
【請求項3】
レトルト殺菌が可能である、請求項1に記載の金属製ボトル缶。
【請求項4】
前記金属製基材がアルミニウム製である、請求項1に記載の金属製ボトル缶。
【請求項5】
前記仕上げニス層のマトリックスが、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびアミノ樹脂を含む混合樹脂である、請求項1に記載の金属製ボトル缶。
【請求項6】
前記混合樹脂がアクリル樹脂を含んでいない、請求項5に記載の金属製ボトル缶。
【請求項7】
請求項1に記載の金属製ボトル缶の製造方法であって、
絞りしごき加工により、有底円筒体を用意し、
前記有底筒体の開口部をトリミングして缶体とし、
前記缶体の外側側面の全体に仕上げニス層用塗料を塗布するが、ボトル缶としたときのネジが形成される口部となる部分では該仕上げニス層用塗料が直接金属面に塗布される塗布工程;
前記仕上げニス層用塗料のための第一次焼付けを行う工程;
第一次焼付けが行われた後、前記缶体の内面に内面塗膜用塗料を塗布する工程;
前記内面塗膜用塗料と前記第一次焼付けされた仕上げニス層用塗料との焼付けである第二次焼付けを行って、仕上げニス層と内面塗膜とを形成する工程;
及び、
第二次焼付け後、ネッキング加工およびネジ部加工を行って、ネジ部が形成された口部、肩部、胴部、及び底部から成るボトル形状の金属製基材を得る工程;
を含み、前記第一次焼付けは、少なくとも前記第二次焼付けよりも高温で行われると共に、前記第二次焼付は、前記一次焼付けで採用された焼付け条件に応じて、仕上げニス層の前記ネジ部でのMEK抽出率が2~8質量%となるような焼付け条件で行うことを特徴とする金属製ボトル缶の製造方法。
【請求項8】
前記第一次焼付けを、210~260℃の温度で60~120秒かけて行い、前記第二次焼付けを180~225℃の温度で50~140秒かけて行う請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第一次焼付けを、220~260℃の温度で60~120秒かけて行い、前記第二次焼付けを195~225℃の温度で80~140秒かけて行う請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第一次焼付けを、210~220℃の温度で60~80秒かけて行い、前記第二次焼付けを180~195℃の温度で50~110秒かけて行う請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口部外面の基材上に仕上げニス層が直接設けられている金属製ボトル缶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製ボトル缶(以下、ボトル缶と略称することがある。)は、ビールなどのアルコール飲料やコーヒーなどのソフトドリンク飲料の容器として広く使用されている。
【0003】
ボトル缶は、通常、次のような手順で製造される。アルミニウム板を絞りしごき加工(DI加工)により有底円筒状の缶体に成形する。外面にインキあるいは仕上げニス層との密着性を向上させるためのサイズ塗料塗布とその焼付け工程、印刷・仕上げニス塗布とその焼付け工程、および、内面塗装とその焼付け工程を順次行う。その後、缶体の開口部側を縮径すると共に、キャップ取付け部を形成するネッキング加工工程、および、キャップ取付け部にキャップを螺合するためのネジ部を形成するネジ部加工工程を経て製造される。
【0004】
ボトル缶の製造時には、ネジ部加工などの工程で加工領域に高い負荷がかかる。そのため、かかる工程において仕上げニス層の割れや剥離等の発生を抑制することが大切である。レトルト殺菌時やホット保管時に割れや剥離等から水分が侵入し、仕上げニス層が剥がれてしまうからである。一方で、最終的に得られるボトル缶においては、キャップ内面塗膜とボトル缶の口部の仕上げニス層とのブロッキングを防止し、開栓トルクを小さくして開栓し易くすることも重要である。
【0005】
これらの要求を同時に満たす手段として、特許文献1は、有底円筒成形体をサイズコート・焼き付けした後、ネジ部を除いて印刷し、次いで耐ブロッキング剤を添加した塗料を用いて塗装し、該外面塗膜をゲル分率が80~
96%の硬化状態に調整してネッキング加工及びネジ加工を施し、ネジ加工後に、ボトル缶の少なくともキャップ取付け部分をアフターベークするボトル缶の製造方法を提案している。特許文献1の製造方法は、サイズコートを設けて仕上げニス層と基材との密着性を高めていること、ネジ加工の時点では仕上げニス層の焼付けをあえて不完全な状態にし、仕上げニス層を柔らかくしておき、割れや剥離等の発生を防ぐこと、および、最後に仕上げニス層を再度焼き付け、硬化させることでキャップ内面塗膜とボトル缶の口部の外面塗膜とのブロッキングを防ぐことに特徴を有する。
【0006】
しかし、特許文献1の製造方法は、サイズコートを設ける都合上、サイズコート塗布工程及び乾燥焼付工程が必要である。またサイズコート用塗料を用意する必要もあるため、材料費や設備費等の製造コストがかさむという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-007154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、ボトル缶の口部外面における仕上げニス層の割れや剥離等の発生が抑制されており、且つ安いコストで製造することができる金属製ボトル缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ネジ部が形成された口部、肩部、胴部、及び底部から成るボトル形状の金属製基材を含み、
前記口部の外面には、前記金属製基材上に仕上げニス層が直接設けられており、
該仕上げニス層の前記ネジ部でのMEK抽出率が2~8質量%であることを特徴とする金属製ボトル缶が提供される。
【0010】
本発明の金属製ボトル缶においては、以下の態様が好ましい。
(1)前記仕上げニス層の前記ネジ部でのMEK抽出率が7~8質量%である。
(2)レトルト殺菌が可能である。
(3)前記基材がアルミニウム製である。
(4)前記仕上げニス層のマトリックスが、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびアミノ樹脂を含む混合樹脂である。
(5)前記混合樹脂がアクリル樹脂を含んでいない。
【0011】
また、本発明によれば、前記金属製ボトル缶の製造方法であって、
絞りしごき加工により、有底円筒体を用意し、
前記有底筒体の開口部をトリミングして缶体とし、
前記缶体の外側側面の全体に仕上げニス層用塗料を塗布するが、ボトル缶としたときのネジが形成される口部となる部分では該仕上げニス層用塗料が直接金属面に塗布される塗布工程;
前記仕上げニス層用塗料のための第一次焼付けを行う工程;
第一次焼付けが行われた後、前記缶体の内面に内面塗膜用塗料を塗布する工程;
前記内面塗膜用塗料と前記第一次焼付けされた仕上げニス層用塗料との焼付けである第二次焼付けを行って、仕上げニス層と内面塗膜とを形成する工程;
及び、
第二次焼付け後、ネッキング加工およびネジ部加工を行って、ネジ部が形成された口部、肩部、胴部、及び底部から成るボトル形状の金属製基材を得る工程;
を含み、前記第一次焼付けは、少なくとも前記第二次焼付けよりも高温で行われると共に、前記第二次焼付は、前記一次焼付けで採用された焼付け条件に応じて、仕上げニス層の前記ネジ部でのMEK抽出率が2~8質量%となるような焼付け条件で行うことを特徴とする金属製ボトル缶の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の金属製ボトル缶の製造方法においては、以下の態様が好ましい。
(6)前記第一次焼付けを、210~260℃の温度で60~120秒かけて行い、前記第二次焼付けを180~225℃の温度で50~140秒かけて行こと。
(7)前記第一次焼付けを、220~260℃の温度で60~120秒かけて行い、前記第二次焼付けを195~225℃の温度で80~140秒かけて行うこと。
(8)前記第一次焼付けを、210~220℃の温度で60~80秒かけて行い、前記第二次焼付けを180~195℃の温度で50~110秒かけて行うこと。
【0013】
尚、本発明においてMEK抽出率(メチルエチルケトンによる抽出率)は、仕上げニス層の硬化度合を表す。硬化が進むほど未反応成分が少なくなるのでMEK抽出率の値は小さくなる。ボトル缶口部の仕上げニス層のMEK抽出率は、後述する実験例で行った方法により測定される。
また、本発明においてレトルト殺菌とは、100℃以上での加圧加熱殺菌を意味する。具体的には、例えば、後述する実験例で行った方法により行われる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属製ボトル缶は、サイズコートが無いにも関わらず、口部での仕上げニス層の割れや剥離等の発生が有効に抑制されており、且つ、開栓トルクが小さく開栓性にも優れている。その理由を、本発明者等は、MEK抽出率が限定的な範囲(2~8質量%)となるように仕上げニス層の硬化度合を調整しているためと考えている。このような仕上げニス層は、基材に対する密着性が厳しい加工に耐えられる程度に高く、硬度はキャップ内面塗膜とのブロッキングを起こさない程度に高い。よって、サイズコートを設けることなく、また、ネッキング加工前の時点で硬化を完了させておいても、加工密着性、開栓性ともに優れたボトル缶を得ることができるのである。
【0015】
本発明の金属製ボトル缶の製造方法は、ボトル缶の口部外面ではサイズコートを介さず基材上に直接仕上げニス層が設けられているので、サイズコート用塗料の塗布工程及び乾燥焼付け工程が不要となり、安いコストで製造することができる。またサイズコート用塗料の乾燥焼付け工程がなく、加熱回数が減少することにより、熱による基材の強度低下を回避できるという利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のボトル缶は、キャップとネジ係合するためのネジ部を有する口部、肩部、胴部および底部からなるボトル形状の金属製基材(以下、単に基材と呼ぶことがある)を含み、この金属製基材の口部の外面に仕上げニス層が形成されているものである。かかる構造を有する限り、ボトル形状を有する金属製基材は、口部から底部までが一体に形成された缶体であってもよいし、或いは口部と胴部が一体で、底部が別のピースからなる缶体であってもよい。
【0017】
口部外面では、基材上に仕上げニス層が直接設けられており、換言すると、基材上にサイズコート等の下地層やインク層が形成されることなく仕上げニス層が形成されている。
【0018】
基材には、ボトル缶に利用される金属を何ら制限なく使用することができるが、加工性の観点から、アルミニウム製基材が好ましい。アルミニウムは、純アルミニウムはもちろん、アルミニウム合金も含むものとする。
【0019】
本発明では、口部外面の仕上げニス層のMEK抽出率が2~8質量%の範囲に調整されている。これにより、優れた開栓性を確保でき、また、仕上げニス層の割れや剥離等の発生を抑制することができる。特に優れた開栓性を確保できるという点では、2~4質量%が好ましく、仕上げニス層の割れや剥離等の発生抑制効果が高いという点では、MEK抽出率は4~8質量%が好ましく、さらに、開栓性を確保し、仕上げニス層の割れや剥離等の発生を抑制し得ることに加え、基材内面に形成される内面塗膜の剥がれや割れも有効に防止できるという点を考慮すれば、MEK抽出率は、7~8質量%の範囲にあることが最も好ましい。
MEK抽出率が高すぎると、硬化不十分であり、開栓時にキャップ内面の塗膜とブロッキングし、開栓性トルクが大きくなり、開栓性が損なわれる虞がある。MEK抽出率が低すぎると硬化過剰であり、ネジ部加工時、キャッピング時あるいは開栓時に仕上げニス層の割れや剥離等が発生する。さらには、レトルト殺菌等の加熱処理がなされたとき、内面塗膜に剥がれ等が生じる虞がある。
【0020】
仕上げニス層は、MEK抽出率が上記範囲に含まれる限り公知の材料で構成されていてよい。仕上げニス層のマトリックスとしては、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂などが用いられ、硬化度合をコントロールしやすいという観点から、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびアミノ樹脂を含む混合樹脂が好適に用いられる。かかる混合樹脂としては、アクリル樹脂が含まれていない非アクリル系の混合樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびアミノ樹脂を選択的に含む混合樹脂がより好ましい。なお、上述の「アクリル樹脂を含まない」とは、アクリル樹脂それ自体だけでなく、硬化によりアクリル樹脂を形成する樹脂(例えば、エポキシアクリレート樹脂)をも含まないことを意味する。
【0021】
本発明のボトル缶は内容物により40~60℃程度に温めた状態(以下、ホット状態と呼ぶことがある)で保管し、ホット状態と同様の温度で開栓される場合がある。このようなホット状態での開栓性をより向上させる観点から、仕上げニス層を構成する樹脂のガラス転移点Tgは、51~60℃が好ましく、更に53~58℃であることがより好ましい。ガラス転移点Tgが高すぎると加工時に仕上げニス層に割れや剥離等が発生する虞があり、ガラス転移点Tgが低すぎると上記ホット状態での開栓時の開栓トルクが大きくなる虞がある。
【0022】
更に、仕上げニス層には、添加剤、例えば公知の硬化剤や触媒が含まれていてもよい。
【0023】
また、本発明のボトル缶には、通常、金属と内容物(飲料)との接触を避けるため、内面塗膜が設けられる。
このような内面塗膜は、それ自体公知のものであってよく、これに限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル樹脂、及びこれらの共重合体を樹脂成分とする塗料により形成される。特に、エポキシ/尿素系樹脂塗料、エポキシ/フェノール系樹脂塗料、エポキシ/アクリル/メラミン系樹脂塗料、エポキシ/アクリル/フェノール系樹脂塗料等により内面塗膜を形成する場合が多い。
【0024】
既に説明したように、本発明のボトル缶では、ネッキング加工前の段階で仕上げニス層の硬化度合が上述した範囲に制御されている。そのため、サイズコートが存在せず、且つ製造工程がシンプルであるにも関わらず、口部でのネジ部加工による仕上げニス層の割れや剥離等の発生が抑制されている。よって、本発明のボトル缶をレトルト殺菌やホット保管などの加熱条件下に置いた後ホット状態で開栓しても塗膜剥がれが起こる心配がない。
即ち、本発明の金属製ボトル缶は、レトルト殺菌が可能である。事実、後述の実験例1~11を参照すると、60℃で開栓したとき、本発明のボトル缶では、仕上げニス層の剥離が全く起こっていない。また、仕上げニス層の割れに関しても、大きな割れはなく、あったとしてもごく微少な割れであり、製品として許容範囲内である。
【0025】
また、本発明のボトル缶では、基材外面に仕上げニス層や基材内面に内面塗膜を形成するための焼付け条件として適宜の温度及び時間を選択することにより、優れた開栓性を示す。
例えば、後述の実験例に示されているように、ボトル缶の基材がアルミニウム合金製であり、且つ、ネジキャップの基材もアルミニウム合金製のとき、水道水を充填してネジキャップを装着した後、125℃、30分間のレトルト殺菌(加熱水蒸気による熱処理)を行った後、60℃で24時間保管を行い、60℃で開栓したときの開栓トルクは、150N・cm未満である。開栓性がより優れる点で、係る開栓トルクは、140N・cm未満が好ましく、120N・cm未満がさらに好ましい。
【0026】
かかる特徴を有する本発明のボトル缶は、次の工程により製造される。
金属製基材を用意する工程;
仕上げニス層用塗料を塗布する工程;
第一次焼付けを行う工程;
内面塗膜用塗料を塗布する工程;
第二次焼付けを行う工程;
ネッキング加工およびネジ部加工を行う工程;
【0027】
まず、例えば厚み0.35~0.40mmのアルミニウム合金板(JIS3104合金)から円形ブランクを打ち抜く。この円形ブランクをカップに成形し、絞りしごき加工により有底円筒体とする。この有底円筒体の開口部を所定の高さにトリミングして金属製基材となる缶体とし、洗浄し、乾燥する。
【0028】
次いで、ボトル缶とした際に口部となる領域を除いた側面に、公知の方法により印刷を施した後、口部となる領域を含む側面全体に仕上げニス層用塗料を塗布する。塗料の組成は、口部の仕上げニス層のMEK抽出率が上述した範囲内となるように、樹脂の種類や量、触媒や硬化剤といった添加剤の有無やその量を検討して決定する。
【0029】
仕上げニス層用塗料の塗布層の厚みは、特に制限されるものではないが、一般に、第二次焼付け(以下で詳述する)後の膜厚が2~7μmとなるように設定され、ロールコート等公知の方法により塗布される。
【0030】
第一次焼付けは、仕上げニス層用塗料の焼付けであり、この焼付けでは、前述したMEK抽出率を有する仕上げニス層はまだ形成されない。この段階で、所定のMEK抽出率を有する仕上げニス層が形成されてしまうと、次の内面塗膜を形成するための焼付け(第二次焼付け)により、仕上げニス層のMEK抽出率が低下してしまい、本発明の範囲外となってしまうからである。
【0031】
第一次焼付けを行った後、内面塗膜用塗料が金属製基材(缶体)の内面に塗布され、この後、第二次焼付けが行われる。
この第二次焼付けにより、仕上げニス層と内面塗膜とが形成される。
【0032】
上述した説明から理解されるように、仕上げニス層は、第一次焼付けと第二次焼付けとの二段階で形成される。従って、これらの焼付け条件は、最終的に形成される仕上げニス層のMEK抽出率が所定の範囲となるように設定されるのであるが、第二次焼付けでは、内面塗膜用塗料の焼付けも行われるため、形成される内面塗膜の性状も考慮して、第二次焼付けの焼付け条件を設定しなければならない。例えば、第二次焼付けが必要以上に高温、長時間で行われると、内面塗膜の分解や剥がれなどを生じ易くなってしまうからである。
【0033】
従って、第一次焼付け条件は、仕上げニス用塗料が適度に硬化し、その後の第二次焼付けによっての硬化により、所定のMEK抽出率となるように設定されるが、その後の第二次焼付けにより内面塗料の特性が損なわれないように設定しなければならない。
例えば、第一次焼付けは、一般に、仕上げニス層の硬化度合の観点から、210~260℃の温度及び60~120秒の時間の範囲内で選択することができ、選択された第一次焼付け条件に応じて、第二次焼付けは、所定のMEK抽出率(2~8質量%)が得られるように、180~225℃の温度及び50~140秒の時間の範囲内で適宜の範囲が選択される。
【0034】
特に本発明において、特に良好な開栓性を有するボトル缶を得ようとする場合には、比較的高温、長時間で第一次焼付けを行うことが好適であり、例えば、220~260℃で60~120秒間、より好適には230~250℃で70~105秒間で第一次焼付けを行うことが望ましい。このような第一次焼付け条件に応じて、第二次焼付けを、195~225℃で80~140秒間、より好ましくは200~225℃で80~140秒間、さらに好ましくは205~220℃で90~100秒間の範囲内で選択することができる。
【0035】
また、レトルト殺菌時などでの内面塗膜の剥がれ等をより効果的に防止しようとする場合には、比較的低温、短時間で第二次焼付けを行うことが好ましく、例えば、180~195℃で50~110秒かけて第二次焼付けを行うことが望ましい。
【0036】
また、上述した第一次焼付け、第二次焼付けはいずれもボディオーブンを用いることが好ましい。既存のボトル缶の工程で一般的に第一次焼付けに使用されるピンオーブンは、塗装機と連動しているピンに缶を乗せてオーブンを通過させ、焼付けられるが、塗装機の不測の停止にも連動して停止してしまう。一方、本発明による第一次焼付けに使用されるボディオーブンは、塗装機のピンから抜き取った缶体を缶体同士接触させることなく、一定間隔でオーブンコンベア入口に缶体を整列させてのせることができ、塗装機の稼働状態から独立させることを特徴としているため、焼付け温度と時間を正確に制御することが出来る。従って、本ボディオーブンを用い、オーブン内の温度と焼付け時間が上記数値範囲内に含まれるように、オーブン内の設定温度やコンベアの速度等を調整するのが好ましい。
【0037】
上記のようにして、外面に塗布され且つ焼付けされた仕上げニス層用塗料を第二次焼付けにより硬化させると、MEK抽出率が上記範囲内にある仕上げニス層が少なくとも口部外面ネジ部相当領域に形成される。かくして得られた缶体は、その後、複数回のネッキング加工に供される。ネッキング加工では、ダイネック成形により缶上部を所望の径に縮径する。縮径の程度はボトル缶の口部の口径、内容量等に応じて適宜決定される。
【0038】
次いで、ネジ部加工に供され、その後、口部先端にカール加工が施される。ネッキング加工からカール加工にかけては、必要に応じて口部相当領域を公知の手段により加熱又は加温してもよい。仕上げニスのTg以上に加熱又は加温し、塗膜の加工伸び追従性を助長させることで、ネジ部加工等の厳しい加工における仕上げニス層の割れや剥離等の発生をより効果的に抑制することができる。具体的には、口部の温度が50~100℃、より好適には70~90℃の状態でネジ部加工およびカール加工を行えるようにネジ部加工の前に口部相当領域を加熱又は加温するとよい。
【0039】
本発明のボトル缶は、上述した製造方法により製造することができるが、その製造方法はこれに限定されず、種々の設計変更が可能である。例えば、工場設備等に応じて各工程の順番を前後させてもよい。また、ボトル缶の胴部において、基材と印刷層の間に下地層を設ける工程を更に加えてもよい。
また、仕上げニス層用塗料は、金属製基材の外面全体に塗布されていてもよいが、本発明では、ボトル口部のネジ形成部の外面に形成されている仕上げニス層のMEK抽出率が所定の範囲にあればよい。
【実施例
【0040】
[測定]
(MEK抽出率測定)
得られたボトル缶の内面塗膜を濃硫酸で脱膜後、水洗および風乾させた。このボトル缶の、ネジ部を30mm×30mmに切り出して試片とし、秤量した(A)。次に、秤量後試片をMEK(メチルエチルケトン)に浸漬し、MEKを沸騰させて1時間還流した。還流後、試片を未使用のMEKにて2回洗浄し、乾燥後、秤量した(B)。秤量後の試片を濃硫酸にて仕上げニス層を剥離し、水洗いし、乾燥し、秤量した(C)。秤量した数値より下記式にて抽出率を算出した。
MEK抽出率(質量%)=100×(A-B)/(A-C)
式中、Aは抽出前の試片質量を表し、
Bは抽出後の試片質量を表し、
Cは仕上げニス剥離後の試片質量を表す。
ネジ部加工前のネジ部相当領域のMEK抽出率は、ネジ部と同様にして測定した。
【0041】
[評価]
(開栓性評価)
得られたボトル缶に65℃の水道水400gを入れ、20℃での内圧が
100kPaとなるように窒素雰囲気でキャップ巻締を行った。使用したキャップは、JIS5000系アルミニウム合金製で内面塗膜はエポキシフェノール系樹脂である。蒸気式静置レトルト装置を用いて125℃で30分間加熱することによりレトルト殺菌した後、水冷して充填ボトル缶を作製した。その後充填ボトル缶を60℃恒温室に1日保管した。60℃での開栓トルクをトルクメータ(日本電産シンポ社、型番TNK-100B)で測定した。開栓トルクは開栓における各缶の最大トルク値を各缶の基準値とした。測定された開栓トルクが小さいほど開栓性に優れる。N=5缶を測定し、それらの最大値を以下の基準で悪い、標準、良い、非常に良い、の4段階に評価した。標準、良い、及び非常に良い、が許容レベルである。
悪い:150N・cm以上
標準:140N・cm以上150N・cm未満
良い:120N・cm以上140N・cm未満
非常に良い:120N・cm未満
【0042】
(ネジ部における仕上げニスの割れ、剥離評価)
上記開栓性評価と同様にして、充填ボトル缶を作製し、同様に60℃保管した後、同様に60℃で開栓した。開栓後のボトル缶のネジ部を目視観察し、ネジ部における仕上げニス層の割れ及び剥離について評価を行った。N=5缶を評価し、以下の基準で悪い、標準、良い、非常に良い、の4段階に判定した。
なお、ニス剥離とは、面積をもった剥離である。
また、目視観察状態から、標準、良い、非常に良い、を許容レベルとした。
悪い:1缶以上に剥離あり。
標準:5缶とも剥離なし。
大きな割れはない。2~5缶/5缶に微小な割れがある。
良い:5缶とも剥離なし。
大きな割れはない。1缶/5缶に微小な割れがある。
非常に良い:5缶とも剥離及び割れのいずれもなし。
【0043】
(ネジ部における内面塗膜の割れ、剥離評価)
得られたボトル缶に常温の実内容物(ミルク入りコーヒー、煎茶)を400gを入れ、前記開栓性評価と同様にして、キャップ巻締、レトルト殺菌、水冷を行い、充填ボトル缶を作製した。その後充填ボトル缶を常温で開栓し、開栓後のボトル缶のネジ部の内面塗膜を目視観察し、内面塗膜の割れ及び剥離について評価を行った。
内容物毎にN=5缶を評価し、以下の基準で悪い、標準、良い、非常によいとの4段階で判定した。なお、塗膜剥離とは、面積をもった剥離である。また、目視観察状態から、標準、良い、非常に良い、を許容レベルとした。
悪い:1缶以上に剥離あり。
標準:5缶とも剥離なし。
大きな割れはない。2~5缶/5缶に微小な割れがある。
良い:5缶とも剥離なし。
大きな割れはない。1缶/5缶に微小な割れがある。
非常に良い:5缶とも剥離及び割れのいずれもなし。
【0044】
<実験例1>
板厚0.38mmのアルミニウム合金JIS3104板から円形ブランクを打ち抜いた。円形ブランクを、絞り成形後、再絞りしごき成形し、有底円筒体とした。この有底円筒体の開口部をトリミングして缶体を得た。次いで、缶体を洗浄乾燥し、ボトル缶とした際に口部となる領域を除いた側面に印刷をした。また、口部となる領域を含む側面全体にポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびアミノ樹脂を選択的に含む混合樹脂をマトリックス樹脂とする仕上げニスを、第二次焼付け後の膜厚が4μmになるように塗布した。次いで、ボディオーブンで230℃で80秒の第一次焼付けを行った。続いて、缶体内面に内面塗料をスプレー塗布し、220℃で95秒の第二次焼付けを行った。この缶体を複数回のダイネック成形により缶上部をネッキング加工した後、口部にネジ部加工し、更に口部先端部をカール加工した。これにより、缶胴径66mmφ、口部径38mmφの400ml用ボトル缶を作製した。得られたボトル缶につき、測定、評価を行い、結果を表1に示した。
尚、この例では、ネジ部内面塗膜割れ、剥離評価が良くなかった。
【0045】
<実験例2>
第一次焼付けを230℃で105秒、第二次焼付けを205℃で95秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。
【0046】
<実験例3>
第一次焼付けを230℃で105秒、第二次焼付けを220℃で95秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。この例では、ネジ部内面塗膜割れ、剥離評価が良くなかった。
【0047】
<実験例4>
第一次焼付けを250℃で70秒、第二次焼付けを220℃で95秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。この例では、ネジ部内面塗膜割れ、剥離評価が良くなかった。
【0048】
<実験例5>
第一次焼付けを250℃で105秒、第二次焼付けを220℃で95秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。この例では、ネジ部内面塗膜割れ、剥離評価が良くなかった。
【0049】
<実験例6>
第一次焼付けを215℃で70秒、第二次焼付けを190℃で80秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。
【0050】
<実験例7>
第一次焼付けを210℃で60秒、第二次焼付けを190℃で80秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。
【0051】
<実験例8>
第一次焼付けを220℃で80秒、第二次焼付けを190℃で80秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。
【0052】
<実験例9>
第一次焼付けを215℃で70秒、第二次焼付けを180℃で50秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。
【0053】
<実験例10>
第一次焼付けを215℃で70秒、第二次焼付けを195℃で110秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。
【0054】
<実験例11>
第一次焼付けを215℃で70秒、第二次焼付けを175℃で80秒とした以外は、実験例1と同様にして充填ボトル缶を作製し、測定、評価した。結果を表1に示した。
【0055】
【表1】