IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

特許7176543異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム
<>
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図1
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図2
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図3
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図4
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図5
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図6
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図7
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図8
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図9
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図10
  • 特許-異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】異常診断システム、異常診断方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/68 20060101AFI20221115BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20221115BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20221115BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20221115BHJP
【FI】
B64C27/68
G01R31/34 F
G05B23/02 302S
H02P29/024
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020025007
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021131590
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川津 信介
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130563(WO,A1)
【文献】特開2006-94574(JP,A)
【文献】特開2016-222031(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049313(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0057630(US,A1)
【文献】国際公開第2016/009824(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
B64C 27/68
G01R 31/34
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(20)を移動させるためのモータ(11)を含む複数のモータシステム(10)の異常診断を行う異常診断システム(130)であって、
前記複数のモータシステムのうち、前記異常診断の対象となるモータシステムである診断対象システムに対して比較対象となる前記モータシステムである比較対象システムを特定する比較対象特定部(131)と、
前記診断対象システムと、前記比較対象システムと、からそれぞれ前記モータの動作状態に関連する値である状態関連値を取得する状態関連値取得部(132)と、
前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、の比較を実行し、前記比較の結果を利用して、前記診断対象システムにおける異常の有無を診断する診断部(133)と、
を備え、
前記移動体は、鉛直方向に見て自身の重心位置(CM)を中心として互いに点対称の位置にある複数の回転翼(30)、または、鉛直方向に見て前記重心位置を通る自身の軸線(AX)を中心として互いに線対称にある複数の回転翼(30)を有する電動航空機であり、
前記複数のモータシステムは、前記モータを用いて前記複数の回転翼をそれぞれ回転駆動させ
前記診断部は、
前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、をそれぞれ比較して第1差分を求め、
前記第1差分が第1閾値よりも大きい場合に、前記診断対象システムに異常が発生したと診断し、
前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が、鉛直方向に見て前記重心位置(CM)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して点対称の位置にある前記回転翼、または、鉛直方向に見て前記軸線(AX)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して線対称にある前記回転翼、である対称位置回転翼である場合の前記第1閾値は、前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が前記対称位置回転翼でない場合の前記第1閾値に比べて、小さい、異常診断システム。
【請求項2】
請求項に記載の異常診断システムにおいて、
前記診断部は、前記第1差分が前記第1閾値よりも大きい場合に、前記診断対象システムと、前記比較対象システムと、の両方に異常が発生したと診断する、異常診断システム。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の異常診断システムにおいて、
前記複数のモータシステムは、それぞれ、前記複数のモータシステムを制御する統合制御部(120)から送信される目標制御値に応じて制御され、
前記比較対象特定部は、
各前記モータシステムに送信される前記目標制御値を取得し、
前記診断対象システムに送信された前記目標制御値と、他の前記モータシステムに送信された前記目標制御値と、をそれぞれ比較して第2差分を求め、
前記第2差分が第2閾値以下であることが閾値期間以上継続した場合に、前記第2差分に対応する前記モータシステムを、前記比較対象システムとして特定する、異常診断システム。
【請求項4】
請求項または請求項に記載の異常診断システムにおいて、
前記複数のモータシステムは、高信頼性システムと、前記高信頼性システムよりも低い信頼性を有する低信頼性システムと、を含み、
前記診断部は、前記比較において、前記比較対象システムが前記高信頼性システムであり、且つ、前記診断対象システムが前記低信頼性システムである場合には、前記第1差分が前記第1閾値よりも大きい場合に、前記診断対象システムに異常が発生したと診断する、異常診断システム。
【請求項5】
請求項に記載の異常診断システムにおいて、
前記診断部は、前記比較において、前記比較対象システムと前記診断対象システムとが、前記高信頼性システムおよび前記低信頼性システムのうちのいずれかで互いに共通する場合には、前記第1差分が前記第1閾値よりも大きい場合に、前記比較対象システム前記診断対象システムのいずれにおいても異常が発生したと診断する、異常診断システム。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の異常診断システムにおいて、
前記モータシステムは、前記モータ(11)と、前記モータを制御するインバータ回路(121)と、を有し、
前記状態関連値は、前記インバータ回路に電源(70)から供給される電圧値と、前記モータシステムの温度値と、のうちの少なくとも1つを含む、異常診断システム。
【請求項7】
移動体を移動させるためのモータを含む複数のモータシステムの異常診断を行うための異常診断方法であって、
前記複数のモータシステムのうち、前記異常診断の対象となるモータシステムである診断対象システムに対して比較対象となる前記モータシステムである比較対象システムを特定する第1工程(S110)と、
前記診断対象システムと、前記比較対象システムと、からそれぞれ前記モータの動作状態に関連する値である状態関連値を取得する第2工程(S115)と、
前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、の比較を実行し、前記比較の結果を利用して、前記診断対象システムにおける異常の有無を診断する第3工程(S125~S135)と、
を備え、
前記移動体は、鉛直方向に見て自身の重心位置(CM)を中心として互いに点対称の位置にある複数の回転翼(30)、または、鉛直方向に見て前記重心位置を通る自身の軸線(AX)を中心として互いに線対称にある複数の回転翼(30)を有する電動航空機であり、
前記複数のモータシステムは、前記モータを用いて前記複数の回転翼をそれぞれ回転駆動させ
前記第3工程は、
前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、をそれぞれ比較して第1差分を求める工程と、
前記第1差分が第1閾値よりも大きい場合に、前記診断対象システムに異常が発生したと診断する工程と、
を含み、
前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が、鉛直方向に見て前記重心位置(CM)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して点対称の位置にある前記回転翼、または、鉛直方向に見て前記軸線(AX)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して線対称にある前記回転翼、である対称位置回転翼である場合の前記第1閾値は、前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が前記対称位置回転翼でない場合の前記第1閾値に比べて、小さい、異常診断方法。
【請求項8】
移動体を移動させるためのモータを含む複数のモータシステムの異常診断を行うためのコンピュータプログラムであって、
前記複数のモータシステムのうち、前記異常診断の対象となるモータシステムである診断対象システムに対して比較対象となる前記モータシステムである比較対象システムを特定する第1機能と、
前記診断対象システムと、前記比較対象システムと、からそれぞれ前記モータの動作状態に関連する値である状態関連値を取得する第2機能と、
前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、の比較を実行し、前記比較の結果を利用して、前記診断対象システムにおける異常の有無を診断する第3機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記移動体は、鉛直方向に見て自身の重心位置(CM)を中心として互いに点対称の位置にある複数の回転翼(30)、または、鉛直方向に見て前記重心位置を通る自身の軸線(AX)を中心として互いに線対称にある複数の回転翼(30)を有する電動航空機であり、
前記複数のモータシステムは、前記モータを用いて前記複数の回転翼をそれぞれ回転駆動させ
前記第3機能は、
前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、をそれぞれ比較して第1差分を求める機能と、
前記第1差分が第1閾値よりも大きい場合に、前記診断対象システムに異常が発生したと診断する機能と、
を含み、
前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が、鉛直方向に見て前記重心位置(CM)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して点対称の位置にある前記回転翼、または、鉛直方向に見て前記軸線(AX)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して線対称にある前記回転翼、である対称位置回転翼である場合の前記第1閾値は、前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が前記対称位置回転翼でない場合の前記第1閾値に比べて、小さい、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のモータシステムの異常診断に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機や車両や船舶等の移動体の電動化に伴い、モータを含むモータシステムが移動体に搭載されて用いられる。例えば、モータシステムは、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)等の電動航空機の回転翼や、船舶のスクリューや、車両や電車の車輪を回転駆動させるために、移動体に搭載される場合がある。モータシステムは、例えば、モータと、モータに電力を供給するインバータ回路と、インバータ回路を制御する制御装置とを含むシステムとして構成される。このようなモータシステムでは、従来と同様に、例えば、特許文献1に記載のモータの故障診断のような異常診断を行うことが望まれる。特許文献1では、モータに供給する相電流における所定の特徴の有無(特定周波数の信号の有無)や、相電流値およびモータ回転数の実測値から求められるトルク電流値(q軸電流値)における所定の特徴量有無に基づき、異常の有無が診断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-49178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の診断方法では、相電流等における特徴量と、予め記憶させておいた特徴量とを比較して異常の有無を検出している。また、特許文献1とは異なる従来の異常診断方法としては、例えば、相電流値が所定の電流範囲を超えたか否かにより異常の有無を検出する方法が採用され得る。このような従来の異常診断方法では、異常の有無を確実に判定するために、特徴量や電流範囲として、明らかに異常であることが認められるような値や範囲が設定される。このため、相電流値が異常時の特徴量よりも小さな特徴量となるような異常や、相電流値が所定の電流範囲内に収まったまま生じる異常が生じた場合には、異常発生を検出できないという問題があった。このような問題は、相電流に基づき異常の有無を診断する構成に限らず、インバータ回路への供給電圧や、モータシステムの温度など、モータシステムの動作に関する任意のパラメータに基づき異常の有無を診断する構成において共通する。そこで、複数のモータシステムにおける異常の有無を精度良く診断可能な技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態として、移動体(20)を移動させるためのモータ(11)を含む複数のモータシステム(10)の異常診断を行う異常診断システム(130)が提供される。この異常診断システムは、前記複数のモータシステムのうち、前記異常診断の対象となるモータシステムである診断対象システムに対して比較対象となる前記モータシステムである比較対象システムを特定する比較対象特定部(131)と、前記診断対象システムと、前記比較対象システムと、からそれぞれ前記モータの動作状態に関連する値である状態関連値を取得する状態関連値取得部(132)と、前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、の比較を実行し、前記比較の結果を利用して、前記診断対象システムにおける異常の有無を診断する診断部(133)と、を備える。前記移動体は、鉛直方向に見て自身の重心位置(CM)を中心として互いに点対称の位置にある複数の回転翼(30)、または、鉛直方向に見て前記重心位置を通る自身の軸線(AX)を中心として互いに線対称にある複数の回転翼(30)を有する電動航空機であり、前記複数のモータシステムは、前記モータを用いて前記複数の回転翼をそれぞれ回転駆動させる。前記診断部は、前記診断対象システムから取得された前記状態関連値と、前記比較対象システムから取得された前記状態関連値と、をそれぞれ比較して第1差分を求め、前記第1差分が第1閾値よりも大きい場合に、前記診断対象システムに異常が発生したと診断する。前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が、鉛直方向に見て前記重心位置(CM)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して点対称の位置にある前記回転翼、または、鉛直方向に見て前記軸線(AX)を中心として前記診断対象システムが回転駆動させる前記回転翼に対して線対称にある前記回転翼、である対称位置回転翼である場合の前記第1閾値は、前記比較対象システムが回転駆動させる前記回転翼が前記対称位置回転翼でない場合の前記第1閾値に比べて、小さい。
【0006】
この形態の異常診断システムによれば、複数のモータシステムのうちの、診断対象システムと比較対象システムとからそれぞれ状態関連値を取得して比較を実行し、比較の結果を利用して診断対象システムにおける異常の有無を診断するので、例えば状態関連値に対して異常検出のための閾値を設定し、かかる閾値を超えたか否かにより異常の有無を診断する構成に比べて、より精度良く診断できる。
【0007】
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、複数のモータシステムを含む電駆動システム、移動体、電動航空機、車両、船舶、モータシステムの異常診断方法、これらの装置や方法を実現するためのコンピュータプログラム、かかるコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態としての異常診断システムを適用した電動航空機の構成を模式的に示す上面図である。
図2】モータシステムを含む電駆動システムの機能的構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態における異常診断処理の手順を示すフローチャートである。
図4】第1実施形態における比較対象特定処理の手順を示すフローチャートである。
図5】第2実施形態における比較対象特定処理の手順を示すフローチャートである。
図6】第3実施形態における異常診断処理の手順を示すフローチャートである。
図7】第3実施形態における第1閾値決定処理の手順を示すフローチャートである。
図8】4つのモータシステムの配置位置と、各モータシステムの状態関連値とを示す説明図である。
図9】第4実施形態におけるモータシステムのペアリングの一例を示す説明図である。
図10】第4実施形態における対象システム特定処理の手順を示すフローチャートである。
図11】第5実施形態における異常診断処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.装置構成:
図1に示す電動航空機20は、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)とも呼ばれ、鉛直方向に離着陸可能であり、また、水平方向への推進が可能な有人航空機である。電動航空機20は、機体21と、9つの回転翼30と、各回転翼に対応して配置されている9つのモータシステム10とを備える。
【0010】
機体21は、電動航空機20において9つの回転翼30およびモータシステム10を除いた部分に相当する。機体21は、本体部22と、主翼25と、尾翼28とを備える。
【0011】
本体部22は、電動航空機20の胴体部分を構成する。本体部22は、軸線AXを対称軸として左右対称の構成を有する。本実施形態において、「軸線AX」とは、電動航空機20の重心位置CMを通り、電動航空機20の前後方向に沿った軸を意味している。また、「重心位置CM」とは、乗員が搭乗していない空虚重量時における電動航空機20の重心位置を意味する。本体部22の内部には、図示しない乗員室が形成されている。
【0012】
主翼25は、右翼26と左翼27とにより構成されている。右翼26は、本体部22から右方向に延びて形成されている。左翼27は、本体部22から左方向に延びて形成されている。右翼26と左翼27とには、それぞれ回転翼30とモータシステム10とが2つずつ配置されている。尾翼28は、本体部22の後端部に形成されている。
【0013】
9つの回転翼30のうちの5つは、本体部22の上面の中央部に配置されている。これら5つの回転翼30は、主に機体21の揚力を得るための浮上用回転翼31a~31eとして機能する。浮上用回転翼31aは、重心位置CMに対応する位置に配置されている。浮上用回転翼31bと浮上用回転翼31cは、浮上用回転翼31aよりも前方において、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。浮上用回転翼31dと浮上用回転翼31eは、浮上用回転翼31aよりも後方において、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。9つの回転翼30のうちの2つは、右翼26および左翼27に配置されている。具体的には、右翼26の先端部の上面に浮上用回転翼31fが配置され、左翼27の先端部の上面に浮上用回転翼31gが配置されている。
【0014】
9つの回転翼30のうちのさらに2つは、右翼26および左翼27にそれぞれ配置され、主に機体21の水平方向の推進力を得るための推進用回転翼32a、32bとして機能する。右翼26に配置された推進用回転翼32aと、左翼27に配置された推進用回転翼32bは、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている。各回転翼30は、それぞれの回転軸(後述のシャフト17)を中心として、互いに独立して回転駆動される。各回転翼30は、互いに等角度間隔で配置された3つのブレードをそれぞれ有する。
【0015】
図2に示すように、各回転翼30に対応する合計9つのモータシステム10は、電駆動システム100の一部として構成されている。電駆動システム100は、予め設定されている飛行プログラム、或いは、乗員や外部からの操縦に応じて各モータシステム10を制御し、回転翼30を回転駆動させるシステムである。
【0016】
9つのモータシステム10は、互いにほぼ同じ構成を有する。各モータシステム10は、モータ11と、インバータユニット(INVユニット)12と、電圧センサ13と、電流センサ14と、回転センサ15と、記憶装置16と、シャフト17を備える。モータシステム10は、後述の電動統括ECU110からの指令に応じた回転トルクおよび回転数となるように、回転翼30を回転させるシステムである。
【0017】
モータ11は、シャフト17を介して回転翼30を回転駆動させる。モータ11は、本実施形態では3相交流ブラシレスモータにより構成され、後述のインバータ回路121から供給される電圧および電流に応じてシャフト17を回転させる。なお、モータ11は、ブラシレスモータに代えて、誘導モータやリラクタンスモータ等の任意の種類のモータにより構成されていてもよい。
【0018】
インバータユニット12は、インバータ回路121と、モータ制御部122とを備える。インバータ回路121は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のパワー素子を有し、モータ制御部122から供給される制御信号に応じたデューティ比でスイッチングすることにより、モータ11に駆動電力を供給する。
【0019】
モータ制御部122は、モータシステム10を全体制御する。具体的には、モータ制御部122は、後述する統合制御部120からの指示に応じて駆動信号を生成し、かかる駆動信号をインバータ回路121に供給する。また、モータ制御部122は、各センサ13~15の検出値を用いてインバータ回路121をフィードバック制御する。本実施形態において、モータ制御部122は、CPU、ROM、RAMを有するマイクロコンピュータにより構成されている。
【0020】
電圧センサ13は、後述の電源70から供給される電圧を検出する。電流センサ14は、インバータ回路121とモータ11との間に設けられており、モータ11の各相の駆動電流(相電流)を検出する。回転センサ15は、モータ11の回転数を検出する。電圧センサ13、電流センサ14および回転センサ15の検出値は、記憶装置117に時系列に記憶されると共に、モータ制御部122を介して電動統括ECU110へと出力される。記憶装置16には、各種制御プログラムや、各種センサの検出値に加えて、後述の異常診断処理の結果や、ユーザにより実行される異常診断処理の結果の履歴が記録される。
【0021】
電駆動システム100は、上述の9つのモータシステム10に加えて、電動統括ECU110を備える。電動統括ECU110は、電駆動システム100を全体制御すると共に、モータシステム10の異常診断を行う。本実施形態において、電動統括ECU110は、CPU、ROM、RAMを備えるコンピュータにより構成されている。電動統括ECU110が備えるCPUは、ROMに予め記憶されている制御プログラムをRAMに展開して実行することにより、統合制御部120および異常診断システム130として機能する。
【0022】
統合制御部120は、予め設定されている飛行プログラム或いはユーザによる操縦桿の操舵等に応じて、各モータシステム10を制御する。このとき、統合制御部120は、各モータシステム10に対して目標制御値を定期的に送信する。「目標制御値」は、モータシステム10の制御を行う際に目標とする値であり、本実施形態では、モータ11の目標回転数が該当する。なお、目標回転数に代えて又は目標回転数に加えて、目標トルク値が目標制御値に該当してもよい。本実施形態において、目標制御値の送信間隔は、20msec(ミリ秒)である。なお、20msecに限らず任意の期間であってもよい。
【0023】
異常診断システム130は、各モータシステム10の異常診断を行うためのシステムである。異常診断システム130は、比較対象特定部131と、状態関連値取得部132と、診断部133とを備える。
【0024】
比較対象特定部131は、診断対象システムに対して比較対象となるモータシステム10(以下、「比較対象システム」と呼ぶ)を特定する。
【0025】
状態関連値取得部132は、診断対象システムと比較対象システムの両方から、モータ11の動作状態に関連する値(以下、「状態関連値」と呼ぶ)を取得する。本実施形態において、状態関連値は、電流センサ14により検出される相電流値である。
【0026】
診断部133は、診断対象システムと比較対象システムの両方から取得された状態関連値同士を比較し、その比較結果を利用して診断対象システムにおける異常の有無を診断する。異常診断の詳細については、後述する。
【0027】
電動航空機20には、上述の電駆動システム100に加えて、飛行や異常診断を行うための様々な構成要素が搭載されている。具体的には、電動航空機20には、センサ群40と、ユーザインターフェイス部50(「UI部」50と呼ぶ)と、通信装置60と、電源70とが搭載されている。
【0028】
センサ群40は、高度センサ41、位置センサ42、速度センサ43を含む。高度センサ41は、電動航空機20の現在の高度を検出する。位置センサ42は、電動航空機20の現在位置を緯度および経度として特定する。本実施形態において、位置センサ42は、GNSS(Global Navigation Satellite System)により構成されている。GNSSとしては、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いてもよい。速度センサ43は、電動航空機20の速度を検出する。
【0029】
UI部50は、電動航空機20の乗員に対し、電動航空機20の制御用および動作状態のモニタ用のユーザインターフェイスを供給する。ユーザインターフェイスとしては、例えば、キーボードやボタンなどの操作入力部や、液晶パネルなどの表示部などが含まれる。UI部50は、例えば、電動航空機20のコクピットに設けられている。乗組員は、UI部50を用いて、電動航空機20の動作モードの変更や、各モータシステム10の動作試験を実行できる。
【0030】
通信装置60は、他の電動航空機や、地上の管制塔などと通信を行う。通信装置60としては、例えば、民間用VHF無線機などが該当する。なお、通信装置60は、民間用VHF以外にも、IEEE802.11において規定されている無線LANや、IEEE802.3において規定されている有線LANなどの通信を行う装置として構成されてもよい。電源70は、リチウムイオン電池により構成され、電動航空機20における電力供給源の1つとして機能する。電源70は、各モータシステム10のインバータ回路121を介してモータ11に三相交流電力を供給する。なお、電源70は、リチウムイオン電池に代えて、ニッケル水素電池等の任意の二次電池により構成されていてもよく、二次電池に代えて、または二次電池に加えて、燃料電池や発電機等の任意の電力供給源により構成されてもよい。
【0031】
A2.異常診断処理:
図3に示す異常診断処理は、電動統括ECU110の電源がオンすると開始される。診断部133は、9つのモータシステム10のうちから、診断対象システムを特定する(ステップS105)。本実施形態では、9つのモータシステム10に対して、予め診断対象システムとして特定される順序が予め定められている。そして、診断部133は、ステップS105において、かかる順序に従って診断対象システムを特定する。
【0032】
比較対象特定部131は、比較対象特定処理を実行して、比較対象システムを特定する(ステップS110)。図4に示すように、まず、比較対象特定部131は、各モータシステム10に対して統合制御部120から送信された目標制御値、すなわち、目標回転数を取得する(ステップS205)。このとき、診断対象システムに加えて他の8つのモータシステム10に対してそれぞれ送信された目標制御値が取得される。
【0033】
比較対象特定部131は、診断対象システムと、各他のモータシステム10との目標制御値の差分(以下、「第2差分」と呼ぶ)を求める(ステップS210)。比較対象特定部131は、比較対象特定処理を開始してから閾値期間が経過したか否かを判定する(ステップS215)。本実施形態において、閾値期間は、100msecである。なお、100msecに限らず、任意の期間であってもよい。閾値期間が経過していないと判定された場合(ステップS215:NO)、処理は上述のステップS205に戻る。
【0034】
これに対して、閾値期間経過したと判定された場合(ステップS215:YES)、比較対象特定部131は、第2差分が第2閾値以下であることが閾値期間継続したモータシステム10があるか否かを判定する(ステップS220)。ステップS220の閾値期間は、ステップS215の閾値期間と同じである。本実施形態において、第2閾値は、診断対象システムの目標制御値の10%の値である。なお、10%に限らず5%や15%など、互いに類似する値であると認められ得る任意の割合であってもよい。また、例えば、100rpmなどの固定値であってもよい。上述のように、統合制御部120は、20msecごとに目標制御値を各モータシステム10(モータ制御部122)に送信しているため、100msec継続して目標制御値が第2閾値以下である、すなわち、互いに類似する数値であると認められることがおよそ5回連続するようなモータシステム10が存在するか否かが、ステップS220では判定されることとなる。
【0035】
第2差分が第2閾値以下であることが閾値期間継続したモータシステム10があると判定された場合(ステップS225:YES)、比較対象特定部131は、該当のモータシステム10を比較対象システムとして特定する(ステップS225)。第2差分が第2閾値以下であることが閾値期間継続したモータシステム10は、診断対象システムと同様な目標制御値を閾値期間継続して統合制御部120から受信している。このため、かかる目標制御値に応じてモータシステム10が制御された結果、該当のモータシステム10は、診断対象システムと同様な動作状態になっていることが推定される。なお、該当するモータシステム10が複数ある場合には、本実施形態では、閾値期間における第2差分の合計値が最も小さなモータシステム10が比較対象システムとして特定される。なお、閾値期間における第2差分の合計値が最も小さなモータシステム10に代えて、前回比較対象システムとなってからの期間が最も長いモータシステム10や、予め各モータシステム10に設定されている優先度のうち、最も高い優先度のモータシステム10など、任意の選択方法により、比較対象システムを選択して特定してもよい。
【0036】
第2差分が第2閾値以下であることが閾値期間継続したモータシステム10がないと判定された場合(ステップS225:NO)、比較対象特定部131は、診断対象システムに対して予め対応付けられているモータシステム10を、比較対象システムとして特定する(ステップS230)。本実施形態では、ステップS230が実行される場合に備えて、予め各モータシステム10に対して、比較対象システムが対応付けられている。そして、ステップS225が実行されず、ステップS230が実行される場合には、かかる対応付けに従って、比較対象システムが特定される。ステップS225またはステップS230の完了後、処理は、図3に示すステップS115に進む。
【0037】
図3に示すように、状態関連値取得部132は、診断対象システムおよび比較対象システムの両方から、それぞれ状態関連値を取得する(ステップS115)。上述のように、本実施形態において、状態関連値は、電流センサ14により検出される相電流値である。状態関連値取得部132は、各モータシステム10のモータ制御部122に問い合わせることにより、電流センサ14の検出値を取得する。本実施形態において、ステップS115において取得される相電流値は、U相、V相、W相のそれぞれの電流値の所定期間の平均値である。所定期間としては、例えば、100msecである。
【0038】
診断部133は、診断対象システムの状態関連値と、比較対象システムの状態関連値との差分(以下、「第1差分」と呼ぶ)を求める(ステップS120)。診断部133は、ステップS120において、U相、V相およびW相のそれぞれの差分を、第1差分として求める。なお、本実施形態において第1差分は正の値である。すなわち、第1差分は、より大きな状態関連値からより小さな状態関連値を差し引くことにより求められる値を意味する。
【0039】
診断部133は、ステップS120で求められた第1差分が、第1閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS125)。本実施形態では、U相、V相およびW相のそれぞれの相の差分のうち、少なくとも1つの相の差分が第1閾値よりも大きいか否かが判定される。第1閾値は、以下のような実験またはシミュレーションによって予め得られて設定されている。すなわち、互いに異なる2つのモータシステム10に対して、同じ目標制御値を与え動作させる。このとき、一方のモータシステム10は予め異常を発生させておき、他方のモータシステム10は正常とするペア(以下、「第1ペア」と呼ぶ)と、両方とも正常な2つのモータシステム10からなるペア(以下、「第2ペア」と呼ぶ)とで、それぞれ同じ目標制御値を与える。そして、各ペアにおいて、状態関連値、すなわち、各相電流の値を測定し、それぞれの差分を求め、第2ペアの差分よりも大きく、第1ペアの差分よりも小さな値を、第1閾値として求める。
【0040】
第1差分が第1閾値よりも大きいと判定された場合(ステップS125:YES)、診断部133は、異常発生と診断する(ステップS130)。これに対して、第1差分が第1閾値よりも大きくないと判定された場合(ステップS125:NO)、診断部133は、異常無しと診断する(ステップS135)。診断対象システムにおいて異常が発生していない場合には、第1差分値は小さな値である可能性が高い。他方、診断対象システムにおいて異常が発生している場合、比較対象システムとは異なる動作となり、検出される状態関連値が診断対象システムとは大きく異なる可能性が高い。したがって、この場合、第1差分は第1閾値よりも大きな値となり得る。ステップS130又はステップS135の完了後、所定はステップS105に戻る。
【0041】
上述の異常診断処理の結果は、本実施形態では、UI部50の表示部に表示される。なお、UI部50への表示に代えて、または、UI部50への表示に加えて、電動統括ECU110が有する記憶部に診断履歴として記憶することや、通信装置60を介して、他の装置、例えば電動航空機20を管理する管理サーバに診断結果を通知することなどを行ってもよい。
【0042】
以上説明した第1実施形態の異常診断システム130によれば、複数のモータシステム10のうちの、診断対象システムと比較対象システムとからそれぞれ状態関連値である相電流値を取得して比較を実行し、比較の結果を利用して診断対象システムにおける異常の有無を診断するので、診断対象システムを単独で診断する構成、例えば相電流値に対して異常検出のための閾値を設定し、かかる閾値を超えたか否かにより異常の有無を診断する構成に比べて、異常の有無をより精度良く診断できる。
【0043】
また、診断対象システムから取得された状態関連値と、比較対象システムから取得された状態関連値とを比較して得られる第1差分が第1閾値よりも大きい場合に、診断対象システムに異常が発生したと診断するので、それぞれのシステムから状態関連値を取得した後の処理を簡素にできる。
【0044】
また、診断対象システムとは異なる他のモータシステム10であって、統合制御部120から送信される目標制御値と診断対象システムに送信された目標制御値との差分である第2差分が第2閾値以下であることが閾値期間以上継続したモータシステム10が存在すれば、かかるモータシステム10が比較対象システムとして特定されるので、診断対象システムと同様な動作状態であり、類似する状態関連値が得られる可能性の高いモータシステム10を、比較対象システムとして特定できる。このため、両システムの動作関連値を比較したときに異常の有無を精度良く診断できる。
【0045】
B.第2実施形態:
第2実施形態の異常診断システム130は、比較対象特定処理の具体的な手順において、第1実施形態の異常診断システム130と異なる。第2実施形態における異常診断システム130を含む電動航空機20の装置構成および異常診断処理のその他の手順は、第1実施形態の異常診断システム130と同じであるので、同一の構成および同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0046】
図5に示すように、比較対象特定部131は、各モータシステム10から状態関連値を所定時間継続して取得する(ステップS205a)。状態関連値は、上述のように、相電流値である。所定時間は、本実施形態では、200msecである。なお、200msecに限らず任意の期間としてもよい。
【0047】
比較対象特定部131は、ステップS205aにより取得された状態関連値を利用して、各モータシステム10について、状態関連値の所定時間での時間変化率を求める(ステップS210a)。時間変化率は、所定時間内で取得された各測定値のうち、時間的に隣り合う測定値の変化率をそれぞれ求め、その平均値として求められる。なお、所定時間の最初の測定値と、最後の測定値とから、変化率を求めるなど、他の任意の手法により、時間変化率を求めてもよい。
【0048】
比較対象特定部131は、ステップS210aで求められた時間変化率が閾値変化率以下のモータシステム10があるか否かを判定する(ステップS215a)。時間変化率が閾値変化率以下のモータシステム10があると判定された場合(ステップS215a:YES)、上述のステップS225が実行され、該当のモータシステム10が比較対象システムとして特定される。これに対して、時間変化率が閾値変化率以下のモータシステム10がないと判定された場合(ステップS215a:NO)、上述のステップS230が実行され、診断対象システムに対して予め対応付けられているモータシステム10が比較対象システムとして特定される。ステップS225またはステップS230の完了後、処理は図3に示すステップS115に進む。
【0049】
以上説明した第2実施形態の異常診断システム130は、第1実施形態と同様な効果を有する。加えて、状態関連値の時間変化率が閾値変化率以下であるモータシステム10が存在する場合、当該モータシステム10が比較対象システムとして特定されるので、状態関連値が大きく変化せず、安定した動作状態であるモータシステム10を比較対象システムとして特定できる。このため、動作状態の急激な変化に起因して第1差分が大きくなるようなモータシステム10が比較対象システムとして特定されることを抑制し、異常診断の精度が低下することを抑制できる。
【0050】
C.第3実施形態:
第3実施形態の異常診断システム130は、異常診断処理の具体的な手順において、第1実施形態の異常診断システム130と異なる。第3実施形態の異常診断システム130を含む電動航空機20の装置構成は、第1実施形態の異常診断システム130と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
図6に示す第3実施形態の異常診断処理は、ステップS122を追加して実行する点において、図3に示す第1実施形態の異常診断処理と異なる。第3実施形態の異常処理におけるその他の手順は、第1実施形態と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0052】
図6に示すように、ステップS120が実行され、第1差分が求められると、第1閾値決定処理が実行される(ステップS122)。第1閾値決定処理とは、ステップS125で用いられる上述の第1閾値を決定するための処理を意味する。
【0053】
図7に示すように、診断部133は、ステップS110で決定された比較対象システムが回転駆動させる回転翼30は、対称位置回転翼であるか否かを判定する(ステップS305)。対称位置回転翼とは、鉛直方向に見て電動航空機20の重心位置CMを中心として診断対象システムが回転駆動させる回転翼30に対して点対称の位置にある回転翼30、または、鉛直方向に見て重心位置CMを通る電動航空機20の軸線AXを中心として診断対象システムが回転駆動させる回転翼30に対して線対称にある回転翼30を意味する。
【0054】
比較対象システムが回転駆動させる回転翼30は、対称位置回転翼であると判定された場合(ステップS305:YES)、診断部133は、予め設定されているより小さな値を、第1閾値として決定する(ステップS310)。これに対して、比較対象システムが回転駆動させる回転翼30は、対称位置回転翼でないと判定された場合(ステップS305:NO)、診断部133は、予め設定されているより大きな値を、第1閾値として決定する(ステップS315)。ステップS310又はステップS315の完了後、処理は図6に示すステップS125に進む。ステップS310における「より小さな値」とは、ステップS315で決定される値と比べてより小さな値を意味する。同様に、ステップS315における「より大きな値」とは、ステップS310で決定される値と比べてより大きな値を意味する。上述のように、比較対象システムが回転駆動させる回転翼30が対称位置回転翼であるか否かに応じて、第1閾値の大きさを変える理由について図8を用いて説明する。
【0055】
図8において、横軸は電動航空機20の横位置を示し、縦軸は状態関連値を意味する。また、図8の下段には、電動航空機20を模式的に破線で示している。図8では、4つの浮上用回転翼31b、31c、31f、31gをそれぞれ回転駆動させる合計4つのモータシステム10における状態関連値(相電流値)の一例を示している。
【0056】
図8に示すように、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている2つの浮上用回転翼31b、31cに対応する相電流値Ib、Icは、他の2つの浮上用回転翼31f、31gに対応する相電流値If、Igに比べて、互いに近い値となっている。同様に、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている2つの浮上用回転翼31f、31gに対応する相電流値If、Igは、他の2つの浮上用回転翼31b、31cに対応する相電流値Ib、Icに比べて、互いに近い値となっている。電動航空機20が昇降する際には、機体21の姿勢を水平方向と平行に維持する必要がある。このため、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている2つの浮上用回転翼は、互いに同様な回転数で動作する。その結果、これら2つの浮上用回転翼31に対応する相電流値は互いに近い値となる。このように、比較対象システムが回転駆動させる回転翼30が対称位置回転翼である場合には、相電流値は互いに近い値となるため、正常状態においても、第1差分は小さな値となる。そこで、この場合には、第1閾値を比較的小さな値に設定し、異常状態を精度良く診断できるようにしている。他方、比較対象システムが回転駆動させる回転翼30が、対称位置回転翼でない場合には、相電流値は互いに大きく異なる値となるため、正常状態においても、第1差分は大きな値となる。そこで、この場合には、第1閾値を比較的大きな値に設定し、正常状態を精度良く診断できるようにしている。
【0057】
なお、図8では、軸線AXを中心として互いに線対称の位置に配置されている2つの浮上用回転翼の相電流値(状態関連値)について説明したが、重心位置CMを中心として互いに点対称の位置にある回転翼30を回転駆動させるモータシステム10においても、状態関連値(相電流値)として互いに近い値が検出される。例えば、図1に示す浮上用回転翼31bと、浮上用回転翼31eとは、重心位置CMを中心として互いに点対称の位置にある。このため、これら2つの浮上用回転翼31b、31eに対応する相電流値は、互いに近い値となる。したがって、浮上用回転翼31bを回転駆動させるモータシステム10が診断対象システムであり、浮上用回転翼31eを回転駆動させるモータシステム10が比較対象システムである場合における第1閾値は、比較的小さな値に設定されることとなる。
【0058】
以上説明した第3実施形態の異常診断システム130は、第1実施形態の異常診断システム130と同様な効果を有する。加えて、比較対象システムが回転駆動させる回転翼30が対称位置回転翼である場合の第1閾値は、対称位置回転翼でない場合の第1閾値に比べて小さいので、異常の有無を精度良く診断できる。一般に、互いに対称位置にある回転翼は同様な動作を行うため、状態関連値が互いに類似する値になる傾向にある。これに対して、互いに対称位置に無い回転翼は、互いに異なる動作を行うために、状態関連値が互いに異なる値になる傾向にある。このため、本形態の異常診断システムによれば、異常の有無を精度良く診断できる。
【0059】
D.第4実施形態:
第4実施形態においては、比較対象システムの動作を、診断対象システムの動作と一致するように積極的に制御して、状態関連値が互いに近い値となるようにする。具体的には、図9に示すように、例えば、浮上用回転翼31bと浮上用回転翼31cとを第1ペアP1として予め設定し、浮上用回転翼31dと浮上用回転翼31eとを第2ペアP2として予め設定する。統合制御部120は、昇降する際に、第1ペアP1と、第2ペアP2とを所定周期ごとに交互に、ペアを構成する2つの浮上用回転翼で同一の動作を行わせるようにし、他方のペアにおいて、昇降の浮上力を得るために適宜必要な回転数で回転させるように制御する。各ペアP1、P2を構成する2つの浮上用回転翼は、互いに回転駆動させる回転翼30が第3実施形態における上述の対称位置回転翼である。なお、他の5つの回転翼30については、ペアは設定されていない。
【0060】
第4実施形態では、図10に示す対象システム特定処理が異常診断システム130により実行される。この対象システム特定処理は、診断対象システムおよび比較対象システムを特定するための処理を意味する。第4実施形態では、2つのペアP1、P2に含まれる合計4つの回転翼30を除く他の5つの回転翼については、第1実施形態と同様にして診断対象システムと比較対象システムが特定される。他方、2つのペアP1、P2に含まれる4つの回転翼30については、対象システム特定処理によって、診断対象システムと比較対象システムが特定される。
【0061】
図10に示すように、比較対象特定部131は、統合制御部120からの通知に基づき、同一動作に制御されているペアを、今回の対象ペアとして特定する(ステップS405)。対象ペアとは、診断対象システムと比較対象システムを特定する対象となるペアを意味する。
【0062】
比較対象特定部131は、対象ペアのうちの一方の回転翼30に対応するモータシステム10を診断対象システムとし、他方の回転翼30に対応するモータシステム10を比較対象システムに設定する(ステップS410)。このようにして診断対象システムおよび比較対象システムが特定されると、図3に示すステップS115~S130、またはステップS115~S135が実行され、診断対象システムについての異常診断が実行される。なお、ステップS130またはステップS135の完了後、対象ペアにおいて、診断対象システムと比較対象システムとを入れ替えて、再びステップS115~S130、またはステップS115~S135が実行されてもよい。
【0063】
以上説明した第4実施形態の異常診断システム130は、第1実施形態の異常診断システム130と同様な効果を有する。加えて、比較対象システムの動作を、診断対象システムの動作と一致するように積極的に制御して、状態関連値が互いに近い値となるようにするので、正常状態における第1差分が比較的小さな値となるように制御できる。このため、異常発生時に第1差分を正常状態に比べて非常に大きくでき、異常状態を精度良く診断できる。
【0064】
E.第5実施形態:
第5実施形態の異常診断システム130は、異常診断処理の具体的な手順において、第1実施形態の異常診断システム130と異なる。第5実施形態の異常診断システム130を含む電動航空機20の装置構成は、第1実施形態の異常診断システム130と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0065】
図11に示す第5実施形態の異常診断処理は、ステップS130に代えてステップS130aを実行する点と、ステップS135に代えてステップS135aを実行する点において、図3に示す第1実施形態の異常診断処理と異なる。第3実施形態の異常処理におけるその他の手順は、第1実施形態と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0066】
第1差分が第1閾値よりも大きいと判定された場合(ステップS125:YES)、診断部133は、診断対象システムと比較対象システムの両方のシステムにおいて異常発生と診断する(ステップS130a)。これに対して、第1差分が第1閾値よりも大きくないと判定された場合(ステップS125:NO)、診断部133は、診断対象システムと比較対象システムの両方のシステムにおいて異常無しと診断する(ステップS135a)。ステップS130a又はステップS135aの完了後、所定はステップS105に戻る。
【0067】
以上説明した第5実施形態の異常診断システム130は、第1実施形態の異常診断システム130と同様な効果を有する。加えて、第1差分が第1閾値よりも大きいと判定された場合に、診断対象システムと比較対象システムの両方のシステムにおいて異常発生と診断するので、仮に比較対象システムにおいて異常が生じていたために第1差分が第1閾値よりも大きい場合においても比較対象システムに対して異常発生と正確に診断できる。また、第1差分が第1閾値よりも大きくないと判定された場合に、診断対象システムと比較対象システムの両方のシステムにおいて異常無しと診断するので、今回の比較対象システムを改めて診断対象システムとして異常診断を行うことを省略でき、異常診断に要する時間や電動統括ECU110の処理負担を軽減できる。
【0068】
F.他の実施形態:
(F1)比較対象システムを特定する方法は、各実施形態に開示の方法に限定されない。例えば、モータシステム10において、一部が比較的高い信頼性を有するシステム(以下、「高信頼性システム」と呼ぶ)であり、残りが比較的低い信頼性を有するシステム(以下、「低信頼性システム」と呼ぶ)である場合、以下のように比較対象システムを特定してもよい。例えば、診断対象システムが低信頼性システムである場合には、高信頼性システムを比較対象システムに用いてもよい。かかる構成においては、第1差分が第1閾値よりも大きい場合には、診断対象システムに異常が発生したと判定してもよい。また、例えば、診断対象システムが低信頼性システムである場合には、低信頼性システムを比較対象システムに用いてもよい。かかる構成においては、第1差分が第1閾値よりも大きい場合には、診断対象システムに加えて比較対象システムにおいても異常が発生したと判定してもよい。診断対象システムと比較対象システムのいずれも低信頼性システムであることから、異常が生じる可能性は互いに等しい。このため、上記のように判定することにより、異常が発生しているシステムについて異常が発生していないと誤診断することを抑制できる。また、例えば、診断対象システムが高信頼性システムである場合には、高信頼性システムを比較対象システムに用いてもよい。かかる構成においても、上記構成と同様な理由から、第1差分が第1閾値よりも大きい場合には、診断対象システムに加えて比較対象システムにおいても異常が発生したと判定してもよい。なお、高信頼性システムは、例えば、モータシステム10において少なくとも一部の構成要素が冗長系を備えるシステムが該当し、低信頼性システムは、そのような冗長系を備えないシステムが該当する。
【0069】
(F2)各実施形態において、状態関連値は、相電流値であったが、本開示はこれに限定されない。例えば、電源70からインバータ回路121に供給される電圧値と、モータシステム10の温度値とのうちの少なくとも1つを、状態関連値として用いてもよい。モータシステム10の温度値とは、モータシステム10における代表的な温度であり、例えば、インバータ回路121の近傍に設置した温度センサから得られる温度や、モータシステム10の筐体に接触して配置された温度センサから得られる温度や、モータシステム10の外部に設置された温度センサの検出温度を、所定のテーブルや演算式に当てはめて得られるモータシステム10内の推定温度などを意味する。電源70からインバータ回路121に供給される電圧値や、モータシステム10の温度値は、モータシステム10の動作状態に関連する。具体的には、インバータ回路121に供給される電圧値が大きいほど、モータ11の駆動電圧は大きくなる傾向にあり、また、モータ11の回転数やトルクが大きいほど、インバータ回路121やモータ11からの発熱量は多くなり、モータシステム10の温度値は高くなる。かかる構成によれば、電源70からインバータ回路121に供給される電圧値と、モータシステム10の温度値とのうちの少なくとも1つを、状態関連値として用いるので、比較的時定数の大きなパラメータを状態関連値として用いて異常診断を行うことができる。このため、例えば、診断対象システムから状態関連値を取得するタイミングと、比較対象システムから状態関連値を取得するタイミングとの相違に起因して、状態関連値に相違が生じることを抑制でき、状態関連値の比較の結果を利用した異常の有無の診断を、より精度の高い診断にできる。また、上述したインバータ回路121への供給電圧値と、モータの温度値とに限らず、例えば、モータ11の回転数、モータ11の回転速度、モータ11のトルクなどを状態関連値として用いてもよい。
【0070】
(F3)第3実施形態では、比較対象システムが回転駆動させる回転翼30が対称位置回転翼であるか否かに応じて第1閾値の値を設定していたが、本開示はこれに限定されない。例えば、各実施形態とは異なり、複数の回転翼30のうちの一部の複数の回転翼30が同一のシャフト17に互いに軸方向にずれて配置されている構成においては、比較対象システムが回転駆動させる回転翼30が、診断対象システムが回転駆動させる回転翼30と同一の回転軸を有する回転翼30であるか否かに応じて第1閾値の値を設定してもよい。比較対象システムが回転駆動させる回転翼30が、診断対象システムが回転駆動させる回転翼30と同一の回転軸を有する回転翼30である場合には、両回転翼30は、互いに同様な動作状態を有し、状態関連値も互いに近い値となり得る。このため、かかる場合には、第1閾値として比較的小さな値を設定すればよい。
【0071】
(F4)各実施形態では、診断対象システムの状態関連値と、比較対象システムの状態関連値との差分(第1差分)が第1閾値よりも大きいか否かにより異常の有無を診断していたが、本開示はこれに限定されない。例えば、比較対象システムの状態関連値に対する診断対象システムの状態関連値の割合が、所定の割合範囲内か否かにより異常の有無を診断してもよい。かかる構成においては、比較対象システムの状態関連値に対する診断対象システムの状態関連値の割合が、所定の割合範囲内である場合に異常無しと診断し、所定の割合範囲外である場合に異常発生と診断する。所定の割合範囲としては、例えば、90%以上110%以下としてもよい。また、かかる範囲に限らず任意の範囲に設定してもよい。
【0072】
(F5)各実施形態では、異常診断処理は、電動統括ECU110の電源がオンすると開始されていたが、本開示はこれに限定されない。例えば、電動統括ECU110の電源がオンしていることに加えて、下記(条件1)または(条件2)が成立した場合に実行されてもよい。
(条件1)診断対象システムが稼働中である。
(条件2)診断対象システムが休止中である。
上記(条件2)における「休止中」とは、モータ制御部122への通電は行われているが、モータ11への給電は行っていない停止状態、停止状態から起動する最中である起動状態、モータシステム10の電源がオフされる直前の状態(電動統括ECU110から電源オフの指令が出力されてから、実際にモータシステム10への給電が停止されるまでの状態)などを含む広い意味を有する。また、かかる構成においては、診断項目に応じて異常診断処理の実施契機を異ならせてもよい。例えば、各センサ14~16の検出値が動作関連値である場合には、電動統括ECU110の電源がオンされ且つ上記(条件1)が成立したことを契機として異常診断処理が実行されてもよい。また、例えば、各センサ14~16のオフセット値を診断する場合には、電動統括ECU110の電源がオンされ且つ上記(条件2)が成立したことを契機として異常診断処理が実行されてもよい。
【0073】
(F6)各実施形態におけるモータシステム10、電駆動システム100、異常診断システム130、統合制御部120、電動統括ECU110等の構成はあくまでも一例であり、様々に変更可能である。例えば、異常診断システム130は、電動航空機20に限らず、自動車や列車などの電動車両や、船舶などの任意の移動体に搭載されてもよい。また、統合制御部120は、電動航空機20に搭載されずに、例えば、地上の管制塔などに設置されたサーバ装置により構成されてもよい。かかる構成においては、通信装置60を介した通信により各モータシステム10や異常診断システム130を制御するようにしてもよい。
【0074】
(F7)本開示に記載のモータ制御部122、統合制御部120、異常診断システム130及びそれら手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のモータ制御部122、統合制御部120、異常診断システム130及びそれら手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のモータ制御部122、統合制御部120、異常診断システム130及びそれら手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0075】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
20…移動体(電動航空機)、11…モータ、10…モータシステム、130…異常診断システム、131…比較対象特定部、132…状態関連値取得部、133…診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11