(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】光ファイバアレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/24 20060101AFI20221115BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G02B6/24
G02B6/02 401
G02B6/02 461
(21)【出願番号】P 2020511009
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013703
(87)【国際公開番号】W WO2019189620
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018064385
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒生 侑季
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0247980(US,A1)
【文献】特開2005-202329(JP,A)
【文献】特開2015-118270(JP,A)
【文献】特開2014-163946(JP,A)
【文献】特開平09-203815(JP,A)
【文献】特開2003-156648(JP,A)
【文献】特開2015-068892(JP,A)
【文献】特表昭63-502623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
G02B 6/255-6/27
G02B 6/30- 6/34
G02B 6/36- 6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコアと前記複数のコアを取り囲むクラッドとを備えたガラスファイバと、前記ガラスファイバを覆う樹脂被覆とを備えるマルチコア光ファイバであって、前記クラッドの外周形状が第1凸曲面、第2凸曲面、第1面、第2面を有し、前記マルチコア光ファイバの長手方向に直交する断面における前記第1凸曲面と前記第2凸曲面の形状が第1軸に関して対称で前記第1軸から離間するように突出しており、前記マルチコア光ファイバの長手方向に直交する断面における前記第1面と前記第2面の形状が前記第1軸に直交する第2軸に関して互いに対称で、前記第1凸曲面の延長および前記第2凸曲面の延長よりも前記第2軸側に切り込まれ
、前記クラッドの第1面及び第2面の前記第2軸方向の長さが、前記クラッドの外周形状の前記第1軸方向の長さより長い、マルチコア光ファイバと、
前記マルチコア光ファイバの一端で前記樹脂被覆から露出した前記ガラスファイバを収容する溝であって、前記溝の長手方向に直交する断面における前記溝の内周形状が開口から溝底に向けて近づくように対向配置された第1側面および第2側面と、前記開口に対向し前記第1側面および前記第2側面に連なる底面と、による台形状である溝を有し、前記ガラスファイバを配置する配置部品と、
前記ガラスファイバを前記配置部品に向けて押して前記溝に固定する押圧部材と、
を備えた光ファイバアレイであって、
前記配置部品の溝の台形状は、前記ガラスファイバが前記押圧部材で前記溝底に向けて押される前に、前記クラッドの前記第1凸曲面が前記溝の前記第1側面に接触し、前記第1凸曲面と前記第2面との境界部分が前記底面に接触し、前記第2凸曲面が前記第2側面に接触する形状で設けられており、
前記ガラスファイバが前記押圧部材で前記溝底に向けて押される前の前記クラッドの中心を通る前記第2軸と前記第1側面あるいは前記第2側面とのなす角をφとした場合、φがπ/2以下であり、
前記クラッドの第1面が前記押圧部材と面で接触した状態で、前記クラッドの前記第1凸曲面が前記第1側面に接触し、前記第2凸曲面が前記第2側面に接触する、あるいは、前記第1凸曲面と前記第2面の境界部分が前記第1側面に接触し、前記第2面と前記第2凸曲面の境界部分が前記第2側面に接触している、光ファイバアレイ。
【請求項2】
前記台形状は、前記クラッドの前記第1凸曲面が前記溝の前記第1側面および前記底面にそれぞれ接触し、前記第2面が前記第2側面に接触することが可能な形状である、請求項1に記載の光ファイバアレイ。
【請求項3】
前記開口に対する前記第1側面の延長と前記第2側面の延長とのなす角をθとした場合、θがπ/2以上である、請求項
1または2に記載の光ファイバアレイ。
【請求項4】
前記配置部品は、前記マルチコア光ファイバの一端で樹脂被覆から露出した前記ガラスファイバを並列配置されている、請求項1から
3のいずれか一項に記載の光ファイバアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバアレイに関する。
【0002】
本願は2018年3月29日に出願された日本特許出願第2018-064385号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠するとともに、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0003】
マルチコア光ファイバは、共通のクラッドに覆われた複数のコアを含み、光ファイバ1本当たりの伝送容量を大きくしている。2本のマルチコア光ファイバ同士を接続するには、例えば、まず、マルチコア光ファイバをV型の溝(V溝)に配置し、コアの配列を特定の方向に揃え(回転調芯ともいう)、上方から押え板で押さえつける手法が知られている。
【0004】
マルチコア光ファイバが断面視で円形状の場合には、コアの配列方向を特定の方向に揃えにくい。このため、例えば、特許文献1には、クラッドの外表面の一部を切り取って平坦面にした、長手方向に垂直な断面が略D型のマルチコア光ファイバの構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2011/0229086号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る光ファイバアレイは、複数のコアと前記複数のコアを取り囲むクラッドとを備えたガラスファイバと、前記ガラスファイバを覆う樹脂被覆とを備えるマルチコア光ファイバであって、前記クラッドの外周形状が第1凸曲面、第2凸曲面、第1面、第2面を有し、前記マルチコア光ファイバの長手方向に直交する断面における前記第1凸曲面と前記第2凸曲面の形状が第1軸に関して対称で前記第1軸から離間するように突出しており、前記マルチコア光ファイバの長手方向に直交する断面における前記第1面と前記第2面の形状が前記第1軸に直交する第2軸に関して互いに対称で、前記第1凸曲面の延長および前記第2凸曲面の延長よりも前記第2軸側に切り込まれ、前記クラッドの第1面及び第2面の前記第2軸方向の長さが、前記クラッドの外周形状の前記第1軸方向の長さより長い、マルチコア光ファイバと、前記マルチコア光ファイバの一端で前記樹脂被覆から露出した前記ガラスファイバを収容する溝であって、前記溝の長手方向に直交する断面における前記溝の内周形状が開口から溝底に向けて近づくように対向配置された第1側面および第2側面と、前記開口に対向し前記第1側面および前記第2側面に連なる底面と、による台形状である溝を有し、前記ガラスファイバを配置する配置部品と、前記ガラスファイバを前記配置部品に向けて押して前記溝に固定する押圧部材と、備えた光ファイバアレイであって、前記配置部品の溝の台形状は、前記ガラスファイバが前記押圧部材で前記溝底に向けて押される前に、前記クラッドの前記第1凸曲面が前記溝の前記第1側面に接触し、前記第1凸曲面と前記第2面との境界部分が前記底面に接触し、前記第2凸曲面が前記第2側面に接触する形状で設けられており、前記ガラスファイバが前記押圧部材で前記溝底に向けて押される前の前記クラッドの中心を通る前記第2軸と前記第1側面あるいは前記第2側面とのなす角をφとした場合、φがπ/2以下であり、前記クラッドの第1面が前記押圧部材と面で接触した状態で、前記クラッドの前記第1凸曲面が前記第1側面に接触し、前記第2凸曲面が前記第2側面に接触する、あるいは、前記第1凸曲面と前記第2面の境界部分が前記第1側面に接触し、前記第2面と前記第2凸曲面の境界部分が前記第2側面に接触している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】本開示の一態様に係る光ファイバアレイの斜視図である。
【0008】
【0009】
【0010】
【
図1D】
図1Aの光ファイバアレイが含む溝基板が有する台形溝の正面断面図である。
【0011】
【
図2】樽型ファイバの長手方向に対して垂直な断面図である。
【0012】
【
図3A】樽型のガラスファイバと台形溝との関係を説明するための図である。
【0013】
【
図3B】樽型のガラスファイバと台形溝との関係を説明するための図である。
【0014】
【
図3C】樽型のガラスファイバと台形溝との関係を説明するための図である。
【0015】
【
図4A】試料1の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯する前の状態を示す図である。
【0016】
【
図4B】試料1の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯した後の状態を示す図である。
【0017】
【
図5A】試料2の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯する前の状態を示す図である。
【0018】
【
図5B】試料2の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯した後の状態を示す図である。
【0019】
【
図6A】試料3の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯する前の状態を示す図である。
【0020】
【
図6B】試料4の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯する前の状態を示す図である。
【0021】
【
図6C】試料5の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯する前の状態を示す図である。
【0022】
【
図6D】試料6の台形溝に配置された樽型のガラスファイバの、回転調芯する前の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。本開示の一態様に係る光ファイバアレイは、(1)複数のコアと前記複数のコアを取り囲むクラッドとを備えたガラスファイバと、前記ガラスファイバを覆う樹脂被覆とを備えるマルチコア光ファイバであって、前記クラッドの外周形状が第1凸曲面、第2凸曲面、第1面、第2面を有し、前記マルチコア光ファイバの長手方向に直交する断面における前記第1凸曲面と前記第2凸曲面の形状が第1軸に関して対称で前記第1軸から離間するように突出しており、前記マルチコア光ファイバの長手方向に直交する断面における前記第1面と前記第2面の形状が前記第1軸に直交する第2軸に関して互いに対称で、前記第1凸曲面の延長および前記第2凸曲面の延長よりも前記第2軸側に切り込まれ、前記クラッドの第1面及び第2面の前記第2軸方向の長さが、前記クラッドの外周形状の前記第1軸方向の長さより長い、マルチコア光ファイバと、前記マルチコア光ファイバの一端で前記樹脂被覆から露出した前記ガラスファイバを収容する溝であって、前記溝の長手方向に直交する断面における前記溝の内周形状が開口から溝底に向けて近づくように対向配置された第1側面および第2側面と、前記開口に対向し前記第1側面および前記第2側面に連なる底面と、による台形状である溝を有し、前記ガラスファイバを配置する配置部品と、前記ガラスファイバを前記配置部品に向けて押して前記溝に固定する押圧部材と、を備えた光ファイバアレイであって、前記配置部品の溝の台形状は、前記ガラスファイバが前記押圧部材で前記溝底に向けて押される前に、前記クラッドの前記第1凸曲面が前記溝の前記第1側面に接触し、前記第1凸曲面と前記第2面との境界部分が前記底面に接触し、前記第2凸曲面が前記第2側面に接触する形状で設けられており、前記ガラスファイバが前記押圧部材で前記溝底に向けて押される前の前記クラッドの中心を通る前記第2軸と前記第1側面あるいは前記第2側面とのなす角をφとした場合、φがπ/2以下であり、前記クラッドの第1面が前記押圧部材と面で接触した状態で、前記クラッドの前記第1凸曲面が前記第1側面に接触し、前記第2凸曲面が前記第2側面に接触する、あるいは、前記第1凸曲面と前記第2面の境界部分が前記第1側面に接触し、前記第2面と前記第2凸曲面の境界部分が前記第2側面に接触している。これにより、クラッドの第1面及び第2面の第2軸方向の長さがクラッドの外周形状の第1軸方向の長さより長いマルチコア光ファイバを溝内で容易に回転させることができる。
【0025】
(2)本開示の光ファイバアレイの一態様では、台形状は、クラッドの第1凸曲面が溝の第1側面および底面にそれぞれ接触し、第2面が第2側面に接触することが可能な形状である。これにより、マルチコア光ファイバを溝内で容易に回転させることができる。この場合、(3)開口に対する第1側面の延長と第2側面の延長とのなす角をθとした場合、θがπ/2以上であってもよい。
【0026】
(4)本開示の光ファイバアレイの一態様では、配置部品は、マルチコア光ファイバの一端で樹脂被覆から露出したガラスファイバを並列配置している。これにより、並列配置された各マルチコア光ファイバを各溝内で容易に回転させることができる。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら、本開示による光ファイバアレイの好適な実施の形態について説明する。
【0028】
特許文献1に記載のマルチコア光ファイバは、中心軸を含み平坦面に平行な平面に関して非対称である。光ファイバ母材の外表面の一部を切り取って平坦面にしてから線引きすると、光ファイバが、平坦面の側に反りやすく(カールしやすく)なる。これを解決するために、マルチコア光ファイバの外周形状を、対向する二つの平坦面を有するようにすることが考えられる。しかし、対向する二つの平坦面を有するマルチコア光ファイバをV溝に配置すると、マルチコア光ファイバがV溝の底に沈み込むので、コアの配列方向を特定の方向に揃えにくくなるという問題がある。本開示は、クラッドの第1面及び第2面の第2軸方向の長さがクラッドの外周形状の第1軸方向の長さより長いマルチコア光ファイバにおける複数のコアの配列方向を容易に所望の方向に揃えられる光ファイバアレイを提供することを目的とする。
【0029】
図1Aは、本開示の一態様に係る光ファイバアレイ1の斜視図である。光ファイバアレイ1は、溝基板40、平面板60、複数本のマルチコア光ファイバ10から構成される。なお、溝基板40が本開示の配置部品に相当し、平面板60が本開示の押圧部材に相当する。溝基板40は、上方(図示のY軸の正方向)に向けて開口した台形溝50を有している。台形溝50が本開示の溝に相当する。台形溝50は図示のZ軸方向に沿い、マルチコア光ファイバ10の一端で露出した樽型のガラスファイバ12を支持可能である。
【0030】
図1Bは
図1のII-II線矢視断面図である。本実施形態の台形溝50は、複数(例えば8本)設けられており、図示のX軸方向に並んでいる。本実施形態では、台形溝50をアレイ状に8本有する例を挙げて説明するが、本発明は、台形溝50を1本のみ有する場合にも適用可能である。平面板60は、例えば平板状で、平坦面61が台形溝50を覆ってマルチコア光ファイバ10の先端から露出した石英系ガラスからなる樽型のガラスファイバ12の上方への移動を規制する。本実施形態では、マルチコア光ファイバ10は、図示のX軸方向に例えば8本並んでいる。なお、樽型のガラスファイバ12が本開示のガラスファイバに相当する。
図1Cは
図1Bの部分拡大図である。樽型のガラスファイバ12は、複数(例えば4個)のコア20と、各コア20の周囲にクラッド30を有しており、図示のZ軸方向(光軸に相当する)に延びている。
【0031】
図1Dは台形溝50の正面断面図である。台形溝50の内周形状は、例えば、下向きの等脚台形である。詳しくは、台形溝50は、対向配置された第1側面51および第2側面52を有し、第1側面51および第2側面52は、開口53から下方(溝底)に向けて近づくようなテーパ状である。第1側面51の延長と第2側面52の延長とのなす角はθである。また、底面54は、開口53に対向する位置に設けられ、第1側面51の下端および第2側面52の下端に連なっている。
【0032】
図2は、樽型ファイバのZ軸に直交する断面図である。コア20は、図示の第2軸方向に沿って等間隔に配列されている。クラッド30は、4個のコア20の全周を取り囲んでおり、図示のX軸およびY軸の双方に対して線対称な非円形状(例えば樽型)である。クラッド30の外周形状は、クラッドの短軸(第1軸)に対して線対称の位置にある第1凸曲面31および第2凸曲面32と、クラッドの短軸と直交するクラッドの長軸(第2軸)に対して線対称の位置にある上面(第1面)33および下面(第2面)34と、を有する。
【0033】
詳しくは、第1凸曲面31は、クラッド30の短軸(言葉を換えれば、クラッドの中心)から離間するように突出して湾曲している。第2凸曲面32は、例えば第1凸曲面31を構成する円周とは異なる円周上にあり(なお、第1凸曲面31を構成する円周と同一の円周上にあってもよい)、第1凸曲面31と同様に、クラッド30の短軸から離間するように突出して湾曲している。上面33は、第2軸に平行で、第1凸曲面31および第2凸曲面32を構成する円周の延長よりも第2軸側(クラッド30の中心に向けて内側)に切り込まれている。下面34は、上面33とは反対側の位置で第2軸に平行であり、上面33と同様に、第1凸曲面31および第2凸曲面32を構成する円周の延長よりも第2軸側に切り込まれている。
【0034】
このように、クラッド30の外周形状を、交差する第1軸および第2軸の双方に対して対称形状にしたので、ファイバのカールを防止することができる。なお、コアおよびクラッドは、石英系ガラスを主成分とし、必要に応じて屈折率調整用の添加物を加えてもよい。例えば、コアはGeO2が添加された石英系ガラスとし、クラッドは純石英系ガラスとすることも可能である。あるいは、例えば、コアは純石英系ガラスとし、クラッドはF元素が添加された石英系ガラスとしてもよい。また、各コアの径や屈折率は同一でなくてもよい。
【0035】
図3A,
図3B、
図3Cは、樽型のガラスファイバ12と台形溝50との関係を説明するための図である。樽型のガラスファイバ12のクラッド30は、断面形状が曲面と平面で構成されるため、上面33と第1凸曲面31との境界部分A点、第1凸曲面31と下面34との境界部分B点35、下面34と第2凸曲面32との境界部分C点36や、第2凸曲面32と上面33との境界部分D点がエッジとなっている。
【0036】
第1凸曲面31(第2凸曲面32)の曲率半径をr、第1凸曲面31の中心から第2凸曲面32の中心までの距離をdとすると、線分BCは、次の式1で表すことができる。
【0037】
【数1】
クラッド30の最大高さをhとすると、ガラスファイバ12が平面板60に押圧されて回転するためには、h
1≦線分BC であることが必要であるから、次の式2となる。
【0038】
【数2】
この式2をh
1について解くと、次の式3となる。
【0039】
【0040】
台形溝50の底面54の長さ(図示のX軸方向、以下同じ)をWとした場合、Wには、コア20の位置ずれを防止するための上限値と下限値がある。具体的には、
図3Aに示すように、底面54の長さWは、クラッド30の下面34が底面54と平行に配置されており、下面34の長さと等しい場合に最大値Wmax(式4)となる。
【0041】
【数4】
この場合、第1凸曲面31(第2側面52)の中心からB点(C点)に降ろした直線は、第1側面51(第2側面52)と直交(正接)する。
【0042】
台形溝50の深さh2とした場合、h2は、クラッド30の頭出し量をhhead、底面54の長さの最大値Wmaxを用いて表せば、次の式5となる。
【0043】
【0044】
一方、底面54の長さWは、
図3B、
図3Cに示すように、第1凸曲面31の中心、および第2凸曲面32の中心を通る第2軸(クラッド30の長軸)が第1側面51と直交し、第1凸曲面31と下面34との境界部分35(B点)が底面54に接触する場合に最小値Wminとなる。
図3B、
図3Cに示したc、a、e、f、gを用いると、c+a+e=f+gの関係があり、c=h
1/2だから、aは次の式6、eは次の式7となる。
【0045】
【0046】
【0047】
また、f=(d+r)/tanθであり、g=r/sinθであるから、これらを式6に代入すると、次の式8となる。
【0048】
【0049】
図4A,
図4Bは、本開示の光ファイバアレイの第1具体例を説明する概念図であり、
図4Aは樽型のガラスファイバを回転調芯する前の状態を示す図である。台形溝50の形状は、樽型のガラスファイバ12が平面板60で下方に押される前に、クラッド30の第1凸曲面31から下面34を経て第2凸曲面32までの範囲が、台形溝50の第1側面51、底面54、および第2側面52の計3箇所で接触する形状である。
【0050】
より詳しくは、
図4Aに示した台形溝50(試料1とする)は、クラッド30の第1凸曲面31が第1側面51に線(光軸方向に延びた線、以下同じ)で接触し、第1凸曲面31と下面34との境界部分35が底面54に線で接触し、第2凸曲面32が第2側面52に線で接触する形状である。試料1の台形溝50は、クラッド30の中心を通る第2軸(図中に1点鎖線で示す)と第1側面51とのなす角をφとした場合、樽型のガラスファイバ12の沈み込みを確実に防ぐために、φがπ/2以下となる形状であることが好ましい。この場合、台形溝50の深さh
2は、φがπ/2以下を満たす深さである。
【0051】
図4Bは、樽型のガラスファイバを回転調芯した後の状態を示す図である。試料1の台形溝50に樽型のガラスファイバ12を配置した後、平面板60を樽型のガラスファイバ12に向けて降ろすと、平坦面61がクラッド30の例えば上面33と第2凸曲面32の境界付近に接触する。平面板60が樽型のガラスファイバ12をさらに下方に押すと、第1凸曲面31と下面34との境界部分35が底面54から離れて、樽型のガラスファイバ12が時計回りに回転し、上面33が平坦面61に面で接触し、下面34が底面54と平行になる。この時、第1凸曲面31と第1側面51が接触する線の底面54からの高さと、第2凸曲面32と第2側面52が接触する線の底面54からの高さはほぼ等しくなっている。
【0052】
このように、台形溝50を、樽型のガラスファイバ12が下方に押された後には、クラッド30の上面33および下面34が平坦面61に平行に配置されるような台形状なので、樽型のガラスファイバ12を台形溝50に配置した際に、樽型のガラスファイバ12が従来に比べて下方に沈み込まない。そして、試料1の台形溝50に配置した樽型のガラスファイバ12について、平面板60で押した後のコア20の配列位置を評価したところ、理想位置からのずれ量(最大コア偏心量)が±1.0(μm)以内に収まった。
【0053】
図5A,
図5Bは、本開示の光ファイバアレイの第2具体例を説明する概念図であり、
図5Aは樽型のガラスファイバを回転調芯する前の状態を示す図である。第2具体例では、台形溝50(試料2とする)の形状は、樽型のガラスファイバ12が平面板60で下方に押される前に、クラッド30の第1凸曲面31が第1側面51および底面54にそれぞれ線で接触し、下面34が第2側面52に面で接触する形状である。試料2の台形溝50は、第1側面51の延長と第2側面52の延長とのなす角をθとした場合、樽型のガラスファイバ12の沈み込みを確実に防ぐために、θがπ/2以上となる形状であることが好ましい。溝深さをd
thとした場合、台形溝50の深さh
2は、d
thよりも小さな深さである。なお、台形溝50(試料1)は、第1側面51と第2側面52とのなす角θがπ/2以下の場合でも成り立つ形状であるが、試料1の場合にもθをπ/2以上としてもよい。
【0054】
図5Bは、樽型のガラスファイバを回転調芯した後の状態を示す図である。試料2の台形溝50に樽型のガラスファイバ12を配置した後、平面板60を樽型のガラスファイバ12に向けて降ろすと、平坦面61がクラッド30の例えば上面33と第2凸曲面32の境界付近に接触する。平面板60が樽型のガラスファイバ12をさらに下方に押すと、第1凸曲面31が底面54から離れるとともに、下面34と第2側面52の面接触が解かれて、樽型のガラスファイバ12が時計回りに回転し、上面33が平坦面61に面で接触し、下面34が底面54と平行になる。この時、第1凸曲面31と下面34の境界部分35と第1側面51が接触する線の底面54からの高さと、下面34と第2凸曲面52の境界部分36と第2側面52が接触する線の底面54からの高さは等しくなっている。この試料2の台形溝50に配置した樽型のガラスファイバ12について、平面板60で押した後のコア20の配列位置を評価したところ、最大コア偏心量が±1.0(μm)以内に収まった。
【0055】
図6A,
図6B、
図6C、
図6Dは、樽型のガラスファイバを回転調芯する前の状態を示す図である。
図6Aに示した台形溝50(試料3とする)は、底面54の長さWがクラッド30の下面34よりも長くされている。このため、下面34が底面54に面接触し、第1凸曲面31(第2凸曲面32)が第1側面51(第2側面52)に接触していない。平面板60を樽型のガラスファイバ12に向けて降ろした場合には、平坦面61が上面33に面接触するが、樽型のガラスファイバ12が左右方向に動いてしまう。コア20の配列位置を評価したところ、最大コア偏心量が±1.0(μm)以内に収まらなかった。
【0056】
図6Bに示した台形溝50(試料4とする)は、台形溝50の深さh
2が大きいため、樽型のガラスファイバ12が下方に沈み込んでいる。また、底面54の長さWがクラッド30の最大高さをh
1よりも短くされている。このため、第1凸曲面31が第1側面51および底面54にそれぞれ線で接触し、第1凸曲面31と下面34との境界部分35が第2側面52に線で接触している。平面板60を樽型のガラスファイバ12に向けて降ろした場合には、平坦面61が第2凸曲面32に接触して、第1凸曲面31が底面54に押し付けられることから、樽型のガラスファイバ12は回転できない。
【0057】
図6Cに示した台形溝50(試料5とする)は、クラッド30の中心を通る第2軸(図中に1点鎖線で示す)と第1側面51とのなす角φがπ/2を超えており、樽型のガラスファイバ12が下方に沈み込んでいる。このため、第1凸曲面31が第1側面51および底面54にそれぞれ線で接触し、下面34と第2凸曲面32との境界部分36が第2側面52に線で接触している。平面板60を樽型のガラスファイバ12に向けて降ろした場合には、平坦面61が第2凸曲面32に接触して、第1凸曲面31が第1側面51や底面54に押し付けられるので、樽型のガラスファイバ12は回転できない。
【0058】
図6Dに示した台形溝50(試料6とする)は、第1側面51の延長と第2側面52の延長とのなす角θがπ/2未満であり、樽型のガラスファイバ12が下方に沈み込んでいる。このため、第1凸曲面31が第1側面51に線で接触し、下面34が第2側面52に面接触している。平面板60を樽型のガラスファイバ12に向けて降ろした場合には、平坦面61が上面33と第2凸曲面32との境界付近に接触するが、第1凸曲面31が第1側面51に、下面34が第2側面52にそれぞれ押し付けられるので、樽型のガラスファイバ12は回転できない。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
符号の説明
【0060】
1…光ファイバアレイ、10…マルチコア光ファイバ、11…樹脂被覆、12…樽型のガラスファイバ、20…コア、30…クラッド、31…第1凸曲面、32…第2凸曲面、33…上面、34…下面、35…第1凸曲面と下面との境界部分、36…下面と第2凸曲面との境界部分、40…溝基板、50…台形溝、51…第1側面、52…第2側面、53…開口、54…底面、60…平面板、61…平坦面。