(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/25 Z
(21)【出願番号】P 2021513714
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2020016115
(87)【国際公開番号】W WO2020209359
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019076446
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永友 翔
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131454(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/198654(WO,A1)
【文献】特表2013-544041(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086004(WO,A1)
【文献】特開2017-224890(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に直接又は間接に積層されている圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極とを備え、
前記IDT電極は、互いに間挿しあう第1の電極指と第2の電極指とを有し、
弾性波伝搬方向に見たときに、前記第1の電極指と前記第2の電極指とが重なり合っている領域を交差領域とした場合、前記交差領域が、前記第1,第2の電極指が延びる方向の中央に位置している中央領域と、前記中央領域の前記第1,第2の電極指が延びる方向外側に配置された第1,第2のエッジ領域とを有し、前記第1,第2のエッジ領域における弾性波の音速が、前記中央領域における弾性波の音速よりも低く、
前記圧電膜において、前記中央領域における前記圧電膜の厚みHtと、前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHeとが異な
るように、前記圧電膜の前記支持基板側の面において、凹部または突出部が設けられており、
前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、前記中央領域における前記圧電膜の厚みHt及び前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHeの少なくとも一方が1λ以下である、弾性波装置。
【請求項2】
前記支持基板と、前記圧電膜との間に積層された中間層をさらに備え、前記圧電膜が前記支持基板に間接的に積層されている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記中間層が、酸化ケイ素膜である、請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記支持基板と、前記圧電膜との間に積層されており、前記圧電膜に弾性波のエネルギーを閉じ込めるための閉じ込め層をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記中間層と、前記支持基板との間に積層されており、前記圧電膜に弾性波のエネルギーを閉じ込めるための閉じ込め層が配置されている、請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記IDT電極が、第1,第2のバスバーを有し、前記第1の電極指が前記第1のバスバーに接続されており、前記第2の電極指が前記第2のバスバーに接続されており、前記第1のバスバーと前記第2の電極指の先端との間及び前記第2のバスバーと前記第1の電極指の先端との間がそれぞれギャップ領域とされており、前記ギャップ領域における前記圧電膜の厚みHgが、前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHeと等しくされている、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記第1,第2のバスバーが設けられている部分における前記圧電膜の厚みHbが、前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHeに等しい、請求項6に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記IDT電極が、第1,第2のバスバーを有し、前記第1の電極指が前記第1のバスバーに接続されており、前記第2の電極指が前記第2のバスバーに接続されており、前記第1のバスバーと前記第2の電極指の先端との間及び前記第2のバスバーと前記第1の電極指の先端との間がそれぞれギャップ領域とされており、前記ギャップ領域における前記圧電膜の厚みHgが、前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHe及び前記中央領域における前記圧電膜の厚みHtと異なっている、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記IDT電極が、第1,第2のバスバーを有し、前記第1の電極指が前記第1のバスバーに接続されており、前記第2の電極指が前記第2のバスバーに接続されており、前記第1のバスバーと前記第2の電極指の先端との間及び前記第2のバスバーと前記第1の電極指の先端との間がそれぞれギャップ領域とされており、前記第1,第2のバスバーが設けられている部分における前記圧電膜の厚みHbが、前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHe及び前記中央領域における前記圧電膜の厚みHtと異なっている、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項10】
前記中間層の上面が前記圧電膜の前記中間層側の底面に接触しており、前記圧電膜の厚みが相対的に薄い部分と、前記中間層との間に空隙が設けられている、請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項11】
前記空隙に、前記圧電膜とは異なる材料が充填されている、請求項10に記載の弾性波装置。
【請求項12】
前記圧電膜がタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムからなる、請求項1~11のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項13】
前記閉じ込め層が、前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも伝搬するバルク波の音速が高い高音速材料からなる高音速層を有する、請求項4または5に記載の弾性波装置。
【請求項14】
前記閉じ込め層が、前記圧電膜を伝搬するバルク波の音速よりも伝搬するバルク波の音速が低い低音速材料からなる低音速層を有し、前記低音速層が、前記高音速層よりも前記圧電膜側に配置されている、請求項13に記載の弾性波装置。
【請求項15】
前記閉じ込め層が、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層と、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層とを有する音響ブラッグ反射器である、請求項4または5に記載の弾性波装置。
【請求項16】
前記閉じ込め層において、弾性波を前記圧電膜に閉じ込めるためのキャビティが設けられている、請求項4または5に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IDT電極の交差領域において、音速が相対的に低いエッジ領域が設けられている、弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、横モードリップルを抑制するために、一部の領域の音速を低くした弾性波装置が知られている。例えば下記の特許文献1に記載の弾性波装置では、弾性波伝搬方向に見たときに、隣り合う電極指が重なっている領域を交差領域としたときに、交差領域内に低音速領域が設けられている。すなわち、交差領域の中央の領域の両側に、第1,第2のエッジ領域が設けられている。この第1,第2のエッジ領域では、電極指の幅が大きくされていたり、電極指の質量付加層を積層することにより、低音速化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような弾性波装置では、電極指の幅が部分的に大きくされたり、質量付加層を付け加える必要があるため、電気機械結合係数やQ特性が劣化するおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、電気機械結合係数の劣化やQ特性の劣化が生じ難い、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、支持基板と、前記支持基板上に直接又は間接に積層されている圧電膜と、前記圧電膜上に設けられたIDT電極とを備え、前記IDT電極は、互いに間挿しあう第1の電極指と第2の電極指とを有し、弾性波伝搬方向に見たときに、前記第1の電極指と前記第2の電極指とが重なり合っている領域を交差領域とした場合、前記交差領域が、前記第1,第2の電極指が延びる方向の中央に位置している中央領域と、前記中央領域の前記第1,第2の電極指が延びる方向外側に配置された第1,第2のエッジ領域とを有し、前記第1,第2のエッジ領域における弾性波の音速が、前記中央領域における弾性波の音速よりも低く、前記圧電膜において、前記中央領域における前記圧電膜の厚みHtと、前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHeとが異なっており、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、前記中央領域における前記圧電膜の厚みHt及び前記第1,第2のエッジ領域における前記圧電膜の厚みHeの少なくとも一方が1λ以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電気機械結合係数やQ特性の劣化が生じ難い弾性波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
【
図3】
図3は、LiTaO
3膜厚と、SiO
2の規格化膜厚と、音速との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る弾性波装置の実施例及び比較例のインピーダンス-周波数特性を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第5の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第6の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第7の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第7の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第8の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第9の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第10の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図であり、
図2はその平面図である。なお、
図1は、
図2中のX-X線に沿う部分の断面図である。
【0012】
弾性波装置1は、支持基板2を有する。支持基板2上に中間層3を介して圧電膜4が積層されている。圧電膜4上にIDT電極5及び反射器6,7が設けられている。それによって、1ポート型弾性波共振子が構成されている。
【0013】
圧電膜4は、タンタル酸リチウム(LiTaO3)からなる。もっとも、圧電膜4は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の他の圧電体からなるものであってもよい。圧電膜4は支持基板2上に中間層3を介して間接的に積層されているが、圧電膜4は、支持基板2に直接積層されていてもよい。弾性波装置1では、圧電膜4に他の部分と厚みが異なる部分を設けることにより、音速が低められている。以下、これをより詳細に説明する。
【0014】
図2に示すように、IDT電極5は、複数本の第1の電極指5aと、複数本の第2の電極指5bとを有する。複数本の第1の電極指5aと、複数本の第2の電極指5bが互いに間挿しあっている。複数本の第1の電極指5aの一端は、第1のバスバー5cに接続されている。複数本の第1の電極指5aの他端が第2のバスバー5d側に延ばされている。複数本の第2の電極指5bの一端は、第2のバスバー5dに接続されている。複数本の第2の電極指5bの他端が第1のバスバー5c側に延ばされている。
【0015】
弾性波伝搬方向は、第1,第2の電極指5a,5bと直交する方向である。弾性波伝搬方向に見たときに、第1の電極指5aと第2の電極指5bとが重なり合っている領域が交差領域Cである。すなわち、弾性波が励振される領域である。
【0016】
交差領域Cは、第1,第2の電極指5a,5bが延びる方向中央に位置している中央領域tと、中央領域tの外側に連なっている第1,第2のエッジ領域e1,e2とを有する。
【0017】
他方、第1の電極指5aの先端と第2のバスバー5dとの間の部分が、
図2に示すギャップ領域gである。第2の電極指5bの先端と第1のバスバー5cとの間の部分もギャップ領域gとなる。
【0018】
図1に示すように、中央領域tにおける圧電膜4の厚みをHtとし、第1,第2のエッジ領域e1,e2における圧電膜4の厚みをHeとする。なお、第1のエッジ領域e1における圧電膜4の厚みと、第2のエッジ領域e2における圧電膜4の厚みは等しくされている。
【0019】
弾性波装置1では、He<Htとされている。また、ギャップ領域gにおける圧電膜4の厚みをHgとし、第1,第2のバスバー5c,5dが設けられている部分の下方の圧電膜4の厚みをHbとする。本実施形態では、Ht=Hg=Hb>Heとされている。
【0020】
支持基板2は、シリコン基板からなる。もっとも、支持基板2の材料は、他の誘電体や半導体を用いてもよく、特に限定されない。例えば、水晶やサファイアなどを用いてもよい。
【0021】
中間層3は、低音速膜であることが好ましい。低音速膜とは、伝搬するバルク波の音速が、圧電膜4を伝搬するバルク波の音速よりも低い膜をいう。低音速膜の材料としては、酸化ケイ素、フッ素ドープド酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、カーボンドープドオキサイドなどが挙げられる。本実施形態では、中間層3は、酸化ケイ素(SiO2)膜からなる。
【0022】
圧電膜4では、第1,第2のエッジ領域e1,e2における圧電膜4の厚みを薄くするために、圧電膜4の下面に凹部4b,4aが設けられている。このような凹部4a,4bをうずめるように、酸化ケイ素膜からなる中間層3が圧電膜4の下面に積層されている。
【0023】
IDT電極5及び反射器6,7はAl,Cu,Pt,W,Mo等の金属またはこれらの金属を主体とする合金からなる。金属材料は特に限定されない。また、IDT電極5及び反射器6,7は、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜であってもよい。
【0024】
弾性波装置1では、第1,第2のエッジ領域e1,e2における、圧電膜4の厚みHeが、中央領域tにおける圧電膜4の厚みHtよりも薄くされているため、第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速を低めることができる。これを、
図3を参照して説明する。
【0025】
図3は、LiTaO
3膜厚と、SiO
2の規格化膜厚と、音速との関係を示す図である。ここでは、支持基板2上にSiO
2膜及びLiTaO
3膜がこの順序で積層されている。なお、IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとする。
図3におけるLiTaO
3膜の膜厚は、λで規格化した値である。同様に、
図3では、SiO
2膜の膜厚が、波長規格化膜厚で、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.8、1.0、1.5及び2.0の場合と、SiO
2膜の波長規格化膜厚が0すなわちSiO
2膜が設けられていない場合の結果が示されている。
【0026】
図3から明らかなように、SiO
2膜が設けられていない場合には、圧電膜であるLiTaO
3膜の膜厚が増加するにつれて、音速が低くなっている。したがって、低音速領域を作るには、圧電膜の厚みを部分的に厚くすればよいことがわかる。
【0027】
これに対して、SiO2膜の膜厚が、0.3λ以上の場合には、LiTaO3膜の膜厚を厚くすれば音速が高くなり、薄くすれば音速が低くなることがわかる。
【0028】
また、
図3から明らかなように、例えば、LiTaO
3膜の膜厚が0.1λ、SiO
2膜の膜厚が0.3λの場合に比べて、LiTaO
3膜の膜厚が0.3λ、SiO
2膜の膜厚が0.1λの場合のほうが音速が高くなる。すなわち、両者の合計膜厚を一定とした場合、LiTaO
3膜の膜厚が増加するにつれて、音速が高くなっている。これに対して、SiO
2膜の膜厚が0.1λの場合、LiTaO
3膜の膜厚が0.05λ以上、0.2λ以下の範囲では、
LiTaO
3
膜の膜厚が大きくなると音速が低下する傾向があることがわかる。したがって、このような範囲内の膜厚のSiO
2膜を選択した場合、両者の膜厚合計を一定とし、かつLiTaO
3膜の膜厚を薄くした場合に、音速を低くし得る範囲があることがわかる。すなわち、LiTaO
3膜と、SiO
2膜の膜厚とを選択することにより、LiTaO
3膜の膜厚を厚くすることで高音速化を図ったり、逆にLiTaO
3膜の膜厚を薄くして高音速化を図ることができる。
【0029】
図1に示すように、弾性波装置1では、He<Htとされている。したがって、中央領域tに比べて、第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速が低められて、低音速領域とされている。なお、弾性波装置1では、ギャップ領域gの音速は、第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速よりも高くされている。第1,第2のバスバー5c,5dが設けられている部分の音速は、ギャップ領域gよりも低くなっている。本実施形態では、中央領域tにおける圧電膜4の厚みHt及び第1,第2のエッジ領域e1,e2における圧電膜4の厚みHeの少なくとも一方が1λ以下である。
【0030】
上記のように、第1,第2のエッジ領域e1,e2の音速が中央領域tにおける音速よりも低められており、ギャップ領域gにおける音速が第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速よりも高い。したがって、弾性波装置1では、特許文献1に記載の弾性波装置のように、横モードのリップルを抑制することができる。
【0031】
上述したように、弾性波装置1では、第1,第2のエッジ領域e1,e2の音速を低めるために、圧電膜4に凹部4a,4bを設けているだけである。したがって、第1,第2のエッジ領域e1,e2において第1,第2の電極指5a,5bの形状を変更する必要はない。また、第1,第2の電極指5a,5bに質量付加層を形成する必要もない。そのため、このような電極指の形状の変更や質量付加層の積層による、電気機械結合係数の劣化やQ特性の劣化が生じ難い。
【0032】
なお、第1,第2のエッジ領域e1,e2における圧電膜4の厚みを薄くした構造を得るには、特に限定されないが、例えば以下の製造方法を採用することができる。
【0033】
支持基材上にLiTaO3膜を圧電膜4の厚みよりも厚く形成する。しかる後、LiTaO3膜を研磨して薄くし圧電膜4を得る。次に、レーザーや適宜の掘削方法により凹部4a,4bを形成する。しかる後、圧電膜4の凹部4a,4bに充填するように、中間層3としての酸化ケイ素膜を製膜する。次に、支持基板2と、または支持基板2上に薄い酸化ケイ素膜が設けられた構造と、上記圧電膜4及び中間層3の積層体とを積層する。しかる後、支持基材を剥離し、IDT電極5及び反射器6,7を設ける。
【0034】
上記のようにして、弾性波装置1を容易に得ることができる。
【0035】
本発明に係る弾性波装置の実施例及び比較例のインピーダンス-周波数特性を
図4に示す。
図4の実線が実施例の結果を、破線が比較例の結果を示す。比較例の弾性波装置においては、第1,第2のエッジ領域e1,e2における圧電膜4の厚みHe及び中央領域tにおける圧電膜4の厚みHtは同じである。なお、上記本発明に係る弾性波装置の設計パラメーターは以下の通りとした。
【0036】
支持基板2:シリコン基板
中間層3:酸化ケイ素膜、中央領域tにおける酸化ケイ素膜の厚みは0.335λ、第1,第2のエッジ領域e1,e2における酸化ケイ素膜の厚みは0.285λ
圧電膜4:50°YカットX伝搬のLiTaO3単結晶膜
厚みHt=Hg=Hb=0.3λ、厚みHe=0.35λ
IDT電極:電極指の対数=100対、電極指ピッチで定まる波長λ=2μm、電極膜の構成=圧電膜4側から、Ti膜及びAlCu膜の積層金属膜、Ti膜の厚み=12nm、AlCu膜の厚み=120nm
電極指ピッチ=1μm
圧電膜4の厚みHt=600nm=0.3λ
酸化ケイ素膜の厚み:673nm=0.335λ
ギャップ領域gの第1,第2の電極指5a,5bの延びる方向に沿う寸法:2λ
【0037】
図4から明らかなように、比較例の弾性波装置では、エッジ領域の音速が低められていないため、共振周波数と反共振周波数との間の帯域内及び反共振周波数より高い領域において、矢印Dで示す多数の横モードによるとみられるリップルが現れている。これに対して、実施例では、上記リップルが大幅に低減されていることがわかる。
【0038】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。なお、
図5及び以下に述べる
図6~
図9、
図11~
図14で示す側面断面は、
図1と同じ位置の断面を示していることを指摘しておく。
【0039】
図5に示す弾性波装置21では、圧電膜4の下面に相対的に厚みが厚い領域を形成するよう突出部4cが設けられている。この突出部4cは、中央領域tの直下に位置している。
【0040】
このように、圧電膜4において、残りの部分と交差幅方向において厚みが異なる領域を設けるには、突出部4cを設けてもよい。なお、交差幅方向は、第1,第2の電極指5a,5bが延びる方向と平行である。本実施形態においても、IDT電極5は第1の実施形態と同様に構成されている。そして、圧電膜4はLiTaO3膜からなり、中間層3は酸化ケイ素膜からなる。中間層3の厚みは第1の実施形態と同様である。本実施形態においても、第1,第2のエッジ領域e1,e2における圧電膜4の厚みHeが、中央領域tにおける圧電膜4の厚みHtよりも薄くされている。したがって、第1,第2のエッジ領域e1,e2を低音速の領域とすることができる。なお、He=Hg=Hbである。この場合、ギャップ領域gにおける音速は、第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速よりも高くなる。したがって、横モードリップルを効果的に抑制することができる。
【0041】
さらに、弾性波装置21では、支持基板2と中間層3との間に低音速層としての低音速膜22が積層されている。支持基板2は、シリコン基板からなる。したがって、高音速層としての支持基板2と、低音速膜22とにより、閉じ込め層23が構成されている。ここで、低音速膜22とは、伝搬するバルク波の音速が相対的に低い低音速材料からなる膜である。支持基板2は、高音速材料からなり、それによって、低音速膜22と支持基板2とにより閉じ込め層23が構成される。すなわち、高音速材料が低音速材料よりも圧電膜4から遠い側に位置しているため、弾性波を圧電膜4側に閉じ込めることができる。
【0042】
上記低音速材料及び高音速材料としては、相対的な音速関係を満たす限り特に限定されない。もっとも、好ましくは、低音速材料としては、酸化ケイ素、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、また、酸化ケイ素にフッ素や炭素やホウ素、水素、あるいはシラノール基を加えた化合物、上記材料を主成分とする媒質等の様々な材料を用いることができる。
【0043】
また、高音速材料としては、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、シリコン、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶、アルミナ、ジルコニア、コ-ジライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする媒質、上記材料の混合物を主成分とする媒質等の様々な材料を用いることができる。
【0044】
中間層3は、酸化ケイ素膜からなり、この場合、低音速膜22についても酸化ケイ素膜を用いてもよい。
【0045】
図6は本発明の第3の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。弾性波装置31では、
図5の閉じ込め層23に代えて、
図6に示す支持基板2及び閉じ込め層32が設けられていることを除いては、弾性波装置21と同様である。
【0046】
支持基板2は、シリコン基板からなる。閉じ込め層32は、支持基板2と中間層3との間に積層されている。このように、支持基板2と独立に閉じ込め層32を設けてもよい。
【0047】
さらに閉じ込め層32は、音響ブラッグ反射器からなる。すなわち、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層32a,32cと、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層32b,32dとが交互に積層されている。このように、高音響インピーダンス層が低音響インピーダンス層よりも圧電膜4に対して遠い側に積層されている構造を有すれば、弾性波を反射し、圧電膜4側に弾性波のエネルギーを効果的に閉じ込めることができる。
【0048】
本発明においては、上記のように閉じ込め層32として音響ブラッグ反射器を用いてもよい。この場合、低音響インピーダンス層及び高音響インピーダンス層の積層数は特に限定されない。
【0049】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。弾性波装置41では、支持基板2と圧電膜4との間に閉じ込め層42が設けられていることを除いては、弾性波装置21と同様に構成されている。ここでは、閉じ込め層42は、
図5に示した中間層3の機能をも有する。
【0050】
閉じ込め層42は、酸化ケイ素からなる。閉じ込め層42の上面は、圧電膜4の下面に接触している。もっとも、閉じ込め層42内には、キャビティ42aが設けられている。キャビティ42aは、IDT電極5において、前述した交差領域Cが位置している部分の下方を含む領域に設けられている。それによって、弾性波の支持基板2側への漏洩を抑制することができ、弾性波のエネルギーを圧電膜4内に効果的に閉じ込めることができる。このように、本発明においては、キャビティ42aを有する閉じ込め層42を用いてもよい。
【0051】
図8は、本発明の第5の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。弾性波装置51では、圧電膜4の下面に突出部4d,4eが設けられている。突出部4d,4eは、第2,第1のエッジ領域e2,e1に設けられている。すなわち、弾性波装置51では、He>Ht=Hg=Hbとされている。したがって、圧電膜4の厚みが相対的に厚い第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速が、中央領域tにおける音速よりも低められている。このように、酸化ケイ素膜の膜厚及びLiTaO
3膜の膜厚と音速との関係を選択することにより、圧電膜4の厚みを第1,第2のエッジ領域e1,e2において厚くして低音速化を図ってもよい。
【0052】
弾性波装置51は、その他の構造は弾性波装置1と同様である。
【0053】
図9は、本発明の第6の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。弾性波装置61では、圧電膜4に凹部が設けられている。このような凹部をうずめるように、中間層3が圧電膜4の下面に積層されている。それによって、中央領域tにおける圧電膜4の厚みHtが、第1,第2のエッジ領域e1,e2における圧電膜4の厚みHeよりも薄くされている。そして、Ht<He=Hg=Hbとされている。したがって、弾性波装置51と同様に、圧電膜4の厚みを中央領域tに比べて第1,第2のエッジ領域e1,e2において相対的に厚くすることにより、第1,第2のエッジ領域e1,e2の低音速化が図られている。
【0054】
上記弾性波装置21,31,41,51,61においても、弾性波装置1と同様に、圧電膜4の厚みを部分的に異ならせることにより低音速領域を設けている。したがって、電気機械結合係数の劣化やQ特性の劣化が生じ難い。
【0055】
図10は、本発明の第7の実施形態に係る弾性波装置の平面図であり、
図11はその側面断面図である。
図11は、
図10中のX-X線に沿う部分の断面を示す。
【0056】
弾性波装置71では、IDT電極5が、第1のダミー電極5e及び第2のダミー電極5fを有する。第1のダミー電極5eは、第1のバスバー5cに一端が接続されており、先端がギャップを介して第2の電極指5bの先端と対向している。第2のダミー電極5fは、一端が第2のバスバー5dに接続されている。第2のダミー電極5fの先端は、第1の電極指5aの先端とギャップを隔てて対向している。このギャップがギャップ領域gを構成している。第1,第2のダミー電極5e,5fが設けられていることを除いて、電極構造は第1の実施形態の弾性波装置1と同様とされている。
【0057】
また、
図11に示すように、弾性波装置71では、第1の実施形態と同様に、He<Htとされている。すなわち、圧電膜4の第1,第2のエッジ領域e1,e2における厚みHeが、中央領域tにおける圧電膜4の厚みHtよりも薄い。したがって、第1,第2のエッジ領域e1,e2の音速は、中央領域tの音速よりも低められている。
【0058】
他方、ギャップ領域gの圧電膜4の厚みHgは、Hg>Heである。したがって、ギャップ領域gにおける音速は、第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速よりも高い。
【0059】
なお、第1,第2のダミー電極5e,5fが設けられている領域をダミー領域d1,d2とする。より具体的には、弾性波伝搬方向に見たときに、第1,第2のダミー電極指5e,5fと重なっている領域がダミー領域d1,d2である。このダミー領域d1,d2における圧電膜4の厚みをHdとする。弾性波装置71では、Hd<Hg=Hbとされている。このように、Hd<Hbとすることにより、横モードのリップルによる影響をより効果的に抑制することができる。もっとも、Hd<Hbとする必要はない。
【0060】
弾性波装置71において、支持基板2及び中間層3は弾性波装置1と同様に構成されている。
【0061】
弾性波装置71のように、本発明においては、IDT電極5は第1,第2のダミー電極5e,5fを有していてもよい。
【0062】
図12は、本発明の第8の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。弾性波装置81では、圧電膜4の厚みが異なる部分が以下のように設計されていることを除いては、弾性波装置71と同様である。
【0063】
He<Ht=Hd<Hg<Hb
【0064】
本実施形態においても、He<Htであり、ギャップ領域gでは電極材料は付与されていないため、交差領域C及びギャップ領域gにおける音速に比べて、第1,第2のエッジ領域e1,e2の音速を低めることができる。したがって、横モードによるリップルを効果的に抑圧することができる。さらに、Hd<Hbであるため、それによっても、横モードによるリップルを効果的に抑圧することができる。
【0065】
図13は、本発明の第9の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。弾性波装置91では、支持基板2上に上面が平坦な中間層3が積層されている。そして、圧電膜4の底面に凹部4gが設けられている。凹部4gは中央領域tの下方に位置している。すなわち、Ht<He=Hg=Hbとされている。このように、凹部4gを設けることにより、Ht<Heとされている。圧電膜4の厚みが相対的に薄い部分と、中間層3との間に空隙が設けられている。弾性波装置91は、その他の構造は、
図8に示した弾性波装置51と同様とされている。ここでも、He>Htとされているため、弾性波装置51と同様に、第1,第2のエッジ領域e1,e2における音速を低めることができる。
【0066】
なお、製造に際しては、凹部4gを形成した後に、圧電膜4の下面に支持基板2及び中間層3の積層体を積層すればよい。
【0067】
図14は、本発明の第10の実施形態に係る弾性波装置の側面断面図である。弾性波装置101は、凹部4g内に、すなわち空隙内に、圧電膜4とは異なる材料からなる、異種材料層102が充填されている。その他の構成は弾性波装置91と同様である。凹部4g内に異種材料層102を充填した後に中間層3としての酸化ケイ素膜を製膜し、支持基板2と貼り合わせてもよい。
【0068】
異種材料層102の材料は、圧電性を有しない材料であることが好ましい。それによって、弾性波装置91の場合と同様にして、第1,第2のエッジ領域e1,e2の音速を、中央領域tの音速よりも低めることが容易となる。
【0069】
上記異種材料層102を構成する材料としては、圧電膜4と異なる材料であれば特に限定されないが、圧電性を有しない材料が好ましく、このような材料としては、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、アルミナ等の絶縁性材料や、シリコン等の半導体材料を挙げることができる。
【0070】
弾性波装置91,101においても、第1の実施形態と同様に電気機械結合係数の劣化やQ特性の劣化が生じ難い。
【符号の説明】
【0071】
1,21,31,41,51,61,71,81,91,101…弾性波装置
2…支持基板
3…中間層
4…圧電膜
4a,4b,4g…凹部
4c,4d,4e…突出部
5…IDT電極
5a,5b…第1,第2の電極指
5c,5d…第1,第2のバスバー
5e,5f…第1,第2のダミー電極
6,7…反射器
22…低音速膜
23,32,42…閉じ込め層
32a,32c…低音響インピーダンス層
32b,32d…高音響インピーダンス層
42a…キャビティ
102…異種材料層