(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】制御システムおよびクレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/00 20060101AFI20221115BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B66C23/00 C
B66C13/22 M
(21)【出願番号】P 2021551744
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038521
(87)【国際公開番号】W WO2021070971
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2019187994
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-092279(JP,A)
【文献】特開2019-156609(JP,A)
【文献】国際公開第2013/190821(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物を搬送するクレーンのアクチュエータを制御する制御システムであって、
前記アクチュエータの目標作動量に関する信号を生成する信号処理部と、
前記目標作動量に関する信号とフィードバックした前記アクチュエータの作動量に関する信号との差分に基づいて前記アクチュエータを制御するフィードバック制御部と、
前記フィードバック制御部と協働しつつ前記目標作動量に関する信号に基づいて前記アクチュエータを制御し、教師信号に基づいて重み係数を調整することで前記アクチュエータの特性を学習するフィードフォワード制御部と、
前記荷物の目標速度に関する信号から、前記信号処理部への入力信号でありパルス状成分を有する前記荷物の目標移動位置に関する信号を生成する前側処理部と、
を備え、
前記信号処理部は、前記荷物の目標移動位置に関する信号からパルス状成分を除去して前記荷物の目標移動位置に関する信号を前記目標作動量に関する信号に変換する、
制御システム。
【請求項2】
荷物を搬送するクレーンのアクチュエータを制御する制御システムであって、
前記アクチュエータの目標作動量に関する信号を生成する信号処理部と、
前記目標作動量に関する信号とフィードバックした前記アクチュエータの作動量に関する信号との差分に基づいて前記アクチュエータを制御するフィードバック制御部と、
前記フィードバック制御部と協働しつつ前記目標作動量に関する信号に基づいて前記アクチュエータを制御し、教師信号に基づいて重み係数を調整することで前記アクチュエータの特性を学習するフィードフォワード制御部と、を備え、
前記信号処理部は、
入力信号から所定値以上の周波数を除去して前記荷物の目標軌道に関する信号を生成する第一処理部と、
前記目標軌道に関する信号に基づいて前記目標作動量に関する信号を生成する第二処理部と、を有する
制御システム。
【請求項3】
前記教師信号は、前記目標作動量に関する信号と前記作動量に関する信号との差分である、請求項1又は2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記第一処理部は、ローパスフィルタにより構成されている、請求項
2に記載の制御システム。
【請求項5】
前記ローパスフィルタの伝達関数は、式(1)により表される、請求項4に記載の制御システム。
【数1】
T
1
、T
2
、T
3
、T
4
、C
1
、C
2
、C
3
、C
4
:係数、s:微分要素
【請求項6】
前記フィードバック制御部と前記フィードフォワード制御部とは、互いに並列に設けられ、且つ、前記信号処理部と直列に設けられている、請求項1~5の何れか一項に記載の制御システム。
【請求項7】
前記フィードフォワード制御部は、
前記クレーンにおけるアーム部の旋回角度、前記アーム部の起伏角度、および前記アーム部の伸縮長さから、前記アーム部の先端の現在位置を算出し、
前記荷物の目標位置に対する前記荷物の現在位置の差分に基づいて前記重み係数を調整し、
前記重み係数が調整され
た複数のサブシステムを用いて、
前記荷物の現在位置と前記アーム部の先端の現在位置とから
、ワイヤロープの繰出し量を算出し、
前記荷物の現在位置と前記荷物の目標位置とから、前記ワイヤロープの方向ベクトルを算出し、
前記ワイヤロープの繰出し量と前記ワイヤロープの前記方向ベクトルとから、前記荷物の目標位置における前記アーム部の先端の目標位置を算出し、
前記アーム部の先端の目標位置に基づい
てフィードフォワード制御信号を生成する請求項1~6の何れか一項に記載の制御システム。
【請求項8】
前記フィードバック制御部は、
前記クレーンのアーム部の旋回角度、前記アーム部の起伏角度、および前記アーム部の伸縮長さから、前記アーム部の先端の現在位置を算出し、
前記荷物の目標位置に対する前記荷物の現在位置の差分に基づいて前記荷物の現在位置と前記アーム部の先端の現在位置とから
、ワイヤロープの繰出し量を算出し、
前記荷物の現在位置と前記荷物の目標位置とから、前記ワイヤロープの方向ベクトルを算出し、
前記ワイヤロープの繰出し量と前記ワイヤロープの前記方向ベクトルとから、前記荷物の目標位置における前記アーム部の先端の目標位置を算出し、
前記アーム部の先端の目標位置に基づい
てフィードバック制御信号を生成する請求項1~7の何れか一項に記載の制御システム。
【請求項9】
前記フィードフォワード制御部は、複数のサブシステムを有する複数のサブシステム群を有し、
複数の前記サブシステム群はそれぞれ、複数の前記アクチュエータに対応付けて設けられている、請求項1~8の何れか一項に記載の制御システム。
【請求項10】
複数の前記アクチュエータは、前記クレーンのアーム部を構成するブームを旋回させるためのアクチュエータ、前記ブームを起伏させるためのアクチュエータ、前記ブームを伸縮させるためのアクチュエータ、および前記クレーンのフックを昇降させるためのアクチュエータを含む、請求項9に記載の制御システム。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の制御システムを備えたクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御システムおよびクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーン等において、各アクチュエータが操作端末等で操作されるクレーンが提案されている。このようなクレーンは、操作端末からの荷物を基準とした操作指令信号によって操作される。このため、オペレータは、各アクチュエータの作動速度、作動量、作動タイミング等を意識することなく直観的に操作できる(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のクレーンの場合、操作端末における操作具の操作速度に関する速度信号と操作方向に関する方向信号とが操作端末からクレーンに送信される。このため、操作端末からの速度信号がステップ関数の態様でクレーンに入力される移動開始時や停止時において、クレーンは、不連続な加速度が生じて荷物に揺れが発生する可能性がある。そこで、クレーンの速度、位置、荷物の振れ角速度および振れ角をフィードバック量とした最適制御を適用するとともに、予見ゲインによって遅れを補償することで、クレーンの目標位置への位置決めを図りつつ荷物の振れ角を最小とする速度信号によってクレーンを制御する技術が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2に記載のクレーンは、予め定められたクレーンの数学モデルに基づいて、クレーンの位置決め精度を向上させて荷物の振れを最小にするように制御されている。従って、数学モデルの誤差が大きい場合、将来の予測値の誤差も大きくなり、クレーンの位置決め精度が低下し、荷物の振れが増大してしまう点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-228905号公報
【文献】特開平7-81876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、荷物を基準としてアクチュエータを制御する際に、荷物の揺れを抑制しつつ操縦者の意図に沿った態様で荷物を移動させることができるクレーンの制御システムおよびクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
本発明に係る制御システムの一態様は、
クレーンのアクチュエータを制御する制御システムであって、
アクチュエータの目標作動量に関する信号を生成する信号処理部と、
目標作動量に関する信号とフィードバックしたアクチュエータの作動量に関する信号との差分に基づいてアクチュエータを制御するフィードバック制御部と、
フィードバック制御部と協働しつつ目標作動量に関する信号に基づいてアクチュエータを制御し、教師信号に基づいて重み係数を調整することでアクチュエータの特性を学習するフィードフォワード制御部と、を備え、
信号処理部は、入力信号からパルス状成分を除去して入力信号を目標作動量に関する信号に変換する。
上述のような制御システムを実施する場合に、好ましくは、制御システムは、荷物の目標速度に関する信号から、信号処理部への入力信号でありパルス状成分を有する荷物の目標移動位置に関する信号を生成する前側処理部を備えてもよい。この場合、信号処理部は、前記荷物の目標移動位置に関する信号からパルス状成分を除去して荷物の目標移動位置に関する信号を目標作動量に関する信号に変換する。
又、上述のような制御システムを実施する場合に、好ましくは、制御システムは、入力信号から所定値以上の周波数を除去して荷物の目標軌道に関する信号を生成する第一処理部と、目標軌道に関する信号に基づいて目標作動量に関する信号を生成する第二処理部と、を有してもよい。
又、上述のような制御システムを実施する場合に、好ましくは、教師信号は、標作動量に関する信号とフィードバック制御部においてフィードバックされたアクチュエータの作動量に関する信号との差分であってもよい。
【0009】
本発明に係るクレーンの一態様は、上述の制御システムを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る制御システムによれば、フィードフォワード制御部への入力信号である目標作動量に関する信号が、パルス状成分を含んでいない。このため、フィードフォワード制御部において実施される学習の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、クレーンの全体構成を示す側面図である。
【
図2】
図2は、クレーンの制御構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における制御装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、クレーンの逆動力学モデルを示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態における制御システムの制御構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、クレーンの制御工程を示すフローチャートを表す図である。
【
図7】
図7は、目標軌道算出工程を示すフローチャートを表す図である。
【
図8】
図8は、ブーム位置算出工程を示すフローチャートを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態]
以下に、
図1と
図2とを用いて、本発明の一実施形態に係る作業車両として移動式クレーン(ラフテレーンクレーン)であるクレーン1について説明する。なお、本実施形態においては、作業車両としてクレーン1(ラフテレーンクレーン)ついて説明を行うが、作業車両は、オールテレーンクレーン、トラッククレーン、積載型トラッククレーン等でもよい。また、ワイヤロープで荷物を吊り下げる作業装置にも適用可能である。
【0013】
なお、以下の説明において、「(n)、(n+1)、(n+2)」は、単位時間t毎に取得される情報(例えばワイヤロープの繰り出し量)のうち、n番目、n+1番目、n+2番目に取得した情報を意味する。つまり、「(n)」は、情報の取得開始からn×t時間経過後に取得した情報を意味する。また、「(n+1)」は、情報の取得開始から(n+1)×t時間経過後に取得した情報を意味する。また、「(n+2)」は、情報の取得開始から(n+2)×t時間経過後に取得した情報を意味する。
【0014】
図1に示すように、クレーン1は、不特定の場所に移動可能な移動式クレーンである。クレーン1は、車両2、作業装置であるクレーン装置6およびクレーン装置6を荷物W基準で操作可能な荷物移動操作具32(
図2参照)を有する。
【0015】
車両2は、クレーン装置6を搬送する走行体である。車両2は、複数の車輪3を有する。車両2は、エンジン4を動力源として走行する。車両2には、アウトリガ5が設けられている。アウトリガ5は、車両2の幅方向両側に油圧によって延伸可能な張り出しビームと、地面に垂直な方向に延伸可能な油圧式のジャッキシリンダと、から構成されている。車両2は、アウトリガ5を車両2の幅方向に延伸させるとともにジャッキシリンダを接地させることにより、クレーン1の作業可能範囲を広げることができる。
【0016】
クレーン装置6は、荷物Wをワイヤロープによって吊り上げる作業装置である。クレーン装置6は、旋回台7、ブーム9、ジブ9a、メインフックブロック10、サブフックブロック11、起伏用油圧シリンダ12、メインウインチ13、メインワイヤロープ14、サブウインチ15、サブワイヤロープ16、およびキャビン17等を具備する。
【0017】
旋回台7は、クレーン装置6を旋回可能に構成する駆動装置である。旋回台7は、円環状の軸受を介して車両2のフレーム上に設けられる。旋回台7は、円環状の軸受の中心を回転中心として回転自在に構成されている。旋回台7には、アクチュエータである油圧式の旋回用油圧モータ8が設けられている。旋回台7は、旋回用油圧モータ8によって一方向と他方向とに旋回可能に構成されている。
【0018】
荷物位置検出部である旋回台カメラ7bは、旋回台7の周辺の障害物や人物等を撮影する監視装置である。旋回台カメラ7bは、旋回台7の前方の左右両側および旋回台7の後方の左右両側に設けられている。各旋回台カメラ7bは、それぞれの設置個所の周辺を撮影することで、旋回台7の全周囲を監視範囲としてカバーしている。また、旋回台7の前方の左右両側にそれぞれ配置されている旋回台カメラ7bは、一組のステレオカメラとして使用可能に構成されている。つまり、旋回台7の前方の旋回台カメラ7bは、一組のステレオカメラとして使用することで、吊り下げられている荷物Wの位置情報を検出する荷物位置検出部として構成することができる。なお、荷物位置検出部(旋回台カメラ7b)は、後述するブームカメラ9bで構成してもよい。また、荷物位置検出部は、ミリ波レーダー、加速度センサ、GNSS等の荷物Wの位置情報を検出できるものであればよい。
【0019】
旋回用油圧モータ8は、電磁比例切換弁である旋回用バルブ23(
図2参照)によって回転操作されるアクチュエータである。旋回用バルブ23は、旋回用油圧モータ8に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、旋回台7は、旋回用バルブ23によって回転操作される旋回用油圧モータ8を介して任意の旋回速度に制御可能に構成されている。旋回台7には、旋回台7の旋回角度θz(
図4参照)と旋回速度とを検出する旋回角度検出部である旋回用センサ27(
図2参照)が設けられている。
【0020】
ブーム9は、荷物Wを吊り上げ可能な状態にワイヤロープを支持する可動支柱である。ブーム9は、複数のブーム部材から構成されている。ブーム9は、ベースブーム部材の基端が旋回台7の略中央に揺動可能に設けられている。ブーム9は、各ブーム部材をアクチュエータである伸縮用油圧シリンダ51で移動させることで軸方向に伸縮自在に構成されている。
【0021】
また、ブーム9の先端部には、ジブ9aが設けられている。ブーム9およびジブ9aは、アーム部の一例に該当する。アーム部は、例えば、ブーム9およびジブ9aのうちのブーム9のみであってもよい。また、アーム部は、ブーム9と、ブーム9の先端部に支持されたジブ9aと、を含んでもよい。アーム部の先端部は、移動式クレーンがブームのみを備えている場合には、ブームの先端部を意味する。一方、移動式クレーンが、ブーム9およびジブ9aを備えている場合には、アーム部の先端部は、ジブ9aの先端部を意味する。
【0022】
伸縮用油圧シリンダ51は、電磁比例切換弁である伸縮用バルブ24(
図2参照)によって伸縮操作されるアクチュエータである。伸縮用バルブ24は、伸縮用油圧シリンダ51に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。ブーム9には、ブーム9の長さを検出する伸縮長さ検出部である伸縮用センサ28と、ブーム9の先端を中心とする方位を検出する方位センサ29とが設けられている。
【0023】
ブームカメラ9b(
図2参照)は、荷物Wおよび荷物Wの周辺の地物を撮影する検知装置である。ブームカメラ9bは、ブーム9の先端部に設けられている。ブームカメラ9bは、荷物Wの鉛直上方から荷物Wおよびクレーン1周辺の地物や地形を撮影可能に構成されている。
【0024】
メインフックブロック10とサブフックブロック11とは、荷物Wを吊る吊り具である。メインフックブロック10には、メインワイヤロープ14が巻き掛けられる複数のフックシーブと、荷物Wを吊るメインフック10aとが設けられている。サブフックブロック11には、荷物Wを吊るサブフック11aが設けられている。
【0025】
起伏用油圧シリンダ12は、ブーム9を起立および倒伏させ、ブーム9の姿勢を保持するアクチュエータである。起伏用油圧シリンダ12は、シリンダ部の端部が旋回台7に揺動自在に連結され、ロッド部の端部がブーム9のベースブーム部材に揺動自在に連結されている。起伏用油圧シリンダ12は、電磁比例切換弁である起伏用バルブ25(
図2参照)によって伸縮操作される。起伏用バルブ25は、起伏用油圧シリンダ12に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。ブーム9には、起伏角度θx(
図4参照)を検出する起伏角度検出部である起伏用センサ30(
図2参照)が設けられている。
【0026】
メインウインチ13とサブウインチ15とは、メインワイヤロープ14とサブワイヤロープ16との繰り入れ(巻き上げ)および繰り出し(巻き下げ)を行う巻回装置である。メインウインチ13は、メインワイヤロープ14が巻きつけられるメインドラムがアクチュエータであるメイン油圧モータ52によって回転され、サブウインチ15は、サブワイヤロープ16が巻きつけられるサブドラムがアクチュエータであるサブ油圧モータ53によって回転されるように構成されている。
【0027】
メイン油圧モータ52は、電磁比例切換弁であるメインバルブ26m(
図2参照)によって回転操作される。メインウインチ13は、メインバルブ26mによってメイン油圧モータ52を制御し、任意の繰り入れおよび繰り出し速度に操作可能に構成されている。
【0028】
同様に、サブウインチ15は、電磁比例切換弁であるサブバルブ26s(
図2参照)によってサブ油圧モータ53を制御し、任意の繰り入れおよび繰り出し速度に操作可能に構成されている。メインウインチ13とサブウインチ15とには、メインワイヤロープ14とサブワイヤロープ16の繰り出し量l(n)をそれぞれ検出する巻回用センサ33(
図2参照)が設けられている。
【0029】
キャビン17は、筐体に覆われた操縦席である。キャビン17は、旋回台7に搭載されている。図示しない操縦席が設けられている。操縦席には、車両2を走行操作するための操作具やクレーン装置6を操作するための旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21m、サブドラム操作具21s等が設けられている(
図2参照)。
【0030】
旋回操作具18は、旋回用油圧モータ8を操作することができる。起伏操作具19は、起伏用油圧シリンダ12を操作することができる。伸縮操作具20は、伸縮用油圧シリンダ51を操作することができる。メインドラム操作具21mは、メイン用油圧モータを操作することができる。サブドラム操作具21sは、サブ油圧モータ53を操作することができる。
【0031】
キャビン17には、荷物Wの移動方向と移動速さを入力する荷物移動操作部である荷物移動操作具32が設けられている。荷物移動操作具32は、水平面において荷物Wの移動方向と速さについての指示を入力する操作具である。
【0032】
荷物移動操作具32は、操作レバーおよび操作レバーの傾倒方向および傾倒量を検出する図示しないセンサから構成されている。荷物移動操作具32は、操作レバーが任意の方向に傾倒操作可能に構成されている。荷物移動操作具32は、操縦席の着座方向から前方向(以下、単に「前方向」と記す)をブーム9の延伸方向として図示しないセンサで検出した操作スティックの傾倒方向とその傾倒量についての操作信号を制御装置31(
図2参照)に伝達するように構成されている。
【0033】
例えば、ブーム9の先端が北を向いている状態において荷物移動操作具32が前方向に対して左方向に傾倒角度θ2=45°の方向に任意の傾倒量だけ傾倒操作された場合、クレーン1は、ブーム9の延伸方向である北から傾倒角度θ2=45°の方向である北西に、荷物移動操作具32の傾倒量に応じた速さで荷物Wを移動させる。なお、荷物移動操作具32は、遠隔操作端末に設けられる構成でもよい。
【0034】
図2に示すように、制御装置31は、各操作弁を介してクレーン装置6のアクチュエータを制御する制御装置31である。制御装置31は、キャビン17内に設けられている。制御装置31は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。制御装置31は、各アクチュエータや切換えバルブ、センサ等の動作を制御するために種々のプログラムやデータが格納されている。
【0035】
制御装置31は、旋回台カメラ7b、ブームカメラ9b、旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sに接続され、旋回台カメラ7bからの映像、ブームカメラ9bからの映像、を取得し、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sのそれぞれの操作量を取得することができる。
【0036】
制御装置31は、旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メインバルブ26mおよびサブバルブ26sに接続され、旋回用バルブ23、起伏用バルブ25、メインバルブ26mおよびサブバルブ26sに各バルブの目標作動量である目標作動信号Md(
図4参照)を伝達することができる。
【0037】
制御装置31は、旋回用センサ27、伸縮用センサ28、方位センサ29、起伏用センサ30および巻回用センサ33に接続され、旋回台7の旋回角度θz、伸縮長さLb、起伏角度θx、メインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16(以下、単に「ワイヤロープ」と記す)の繰り出し量l(n)および方位を取得することができる。
【0038】
制御装置31は、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sの操作量に基づいて各操作具に対応した目標作動信号Mdを生成する。
【0039】
このように構成されるクレーン1は、車両2を走行させることで任意の位置にクレーン装置6を移動させることができる。また、クレーン1は、起伏操作具19の操作によって起伏用油圧シリンダ12でブーム9を任意の起伏角度θxに起立させて、伸縮操作具20の操作によってブーム9を任意のブーム9長さに延伸させたりすることでクレーン装置6の揚程や作業半径を拡大することができる。また、クレーン1は、サブドラム操作具21s等によって荷物Wを吊り上げて、旋回操作具18の操作によって旋回台7を旋回させることで荷物Wを搬送することができる。
【0040】
制御装置31は、方位センサ29が取得したブーム9の先端の方位に基づいて、荷物Wの目標軌道信号Pdαを算出する。さらに、制御装置31は、目標軌道信号Pdαから荷物Wの目標位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出する。制御装置31は、目標位置座標p(n+1)に荷物Wを移動させる旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メインバルブ26mおよびサブバルブ26sの目標作動信号Mdを生成する(
図4参照)。
【0041】
クレーン1は、荷物移動操作具32の傾倒方向に向けて傾倒量に応じた速さで荷物Wを移動させる。この際、クレーン1は、旋回用油圧モータ8、伸縮用油圧シリンダ51、起伏用油圧シリンダ12およびメイン油圧モータ52等を目標作動信号Mdによって制御する。
【0042】
このように構成することで、クレーン1は、ブーム9の延伸方向を基準として、荷物移動操作具32の操作方向に対応する移動方向と操作量(傾倒量)に対応する移動速さを含む荷物Wの目標移動速度の制御信号である目標移動速度信号Vdを単位時間t毎に算出し、荷物Wの目標位置座標p(n+1)を決定するので、操縦者が荷物移動操作具32の操作方向に対するクレーン装置6の作動方向の認識を喪失することがない。
【0043】
つまり、荷物移動操作具32の操作方向と荷物Wの移動方向とが共通の基準であるブーム9の延伸方向に基づいて算出されている。これにより、クレーン装置6の操作を容易かつ簡単に行うことができる。なお、本実施形態において、荷物移動操作具32は、キャビン17の内部に設けられているが、端末側無線機を設けてキャビン17の外部から遠隔操作可能な遠隔操作端末に設けてもよい。
【0044】
次に、
図3から
図8を用いて、クレーン装置6の制御装置31における目標作動信号Mdを生成するための荷物Wの目標軌道信号Pdα、およびブーム9の先端の目標位置座標q(n+1)を算出する制御工程の一実施形態について説明する。
【0045】
図3に示すように、制御装置31は、目標軌道算出部31a、ブーム位置算出部31b、作動信号生成部31cを有している。また、制御装置31は、旋回台7の前方の左右両側の一組の旋回台カメラ7bをステレオカメラとして使用し、荷物位置検出部として荷物Wの現在位置情報を取得可能に構成されている(
図2参照)。
【0046】
図3に示すように、目標軌道算出部31aは、制御装置31の一部であり、荷物Wの目標移動速度信号Vdを荷物Wの目標軌道信号Pdαに変換する。目標軌道算出部31aは、荷物Wの移動方向および速さから構成されている荷物Wの目標軌道信号Pdαを荷物移動操作具32から単位時間t毎に取得することができる。
【0047】
また、目標軌道算出部31aは、取得した目標移動速度信号Vdを積分して単位時間t毎の荷物Wのx軸方向、y軸方向およびz軸方向の目標軌道信号Pdαを算出することができる。ここで、添え字αは、x軸方向、y軸方向およびz軸方向のいずれかを表す符号である。
【0048】
ブーム位置算出部31bは、制御装置31の一部であり、ブーム9の姿勢情報と荷物Wの目標軌道信号Pdαからブーム9の先端の位置座標を算出する。ブーム位置算出部31bは、目標軌道算出部31aから目標軌道信号Pdαを取得することができる。
【0049】
ブーム位置算出部31bは、旋回用センサ27から旋回台7の旋回角度θz(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、伸縮用センサ28から伸縮長さlb(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、起伏用センサ30から起伏角度θx(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、巻回用センサ33からメインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16(以下、単に「ワイヤロープ」と記す。)の繰り出し量l(n)を取得する。ブーム位置算出部31bは、旋回台7の前方の左右両側にそれぞれ配置されている一組の旋回台カメラ7bが撮影した荷物Wの画像から荷物Wの現在位置情報を取得する(
図2参照)。
【0050】
ブーム位置算出部31bは、取得した荷物Wの現在位置情報から荷物Wの現在位置座標p(n)を算出する。ブーム位置算出部31bは、取得した旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)からブーム9の先端の現在位置であるブーム9の先端(ワイヤロープの繰り出し位置)の現在位置座標q(n)(以下、単に「ブーム9の現在位置座標q(n)」と記す。)を算出する。
【0051】
また、ブーム位置算出部31bは、荷物Wの現在位置座標p(n)とブーム9の現在位置座標q(n)とからワイヤロープの繰り出し量l(n)を算出する。また、ブーム位置算出部31bは、目標軌道信号Pdαから単位時間t経過後の荷物Wの位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出する。
【0052】
さらに、ブーム位置算出部31bは、荷物Wの現在位置座標p(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)とから荷物Wが吊り下げられているワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)を算出する。ブーム位置算出部31bは、逆動力学モデルを用いて荷物Wの目標位置座標p(n+1)と、ワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)とから単位時間t経過後のブーム9の先端の位置であるブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する。
【0053】
作動信号生成部31cは、制御装置31の一部であり、単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)から各アクチュエータの目標作動信号Md等を生成する。作動信号生成部31cは、ブーム位置算出部31bから単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を取得する。
【0054】
作動信号生成部31cは、ブーム9の現在位置座標q(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)とから旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メインバルブ26mまたはサブバルブ26sの目標作動信号Md、後述するフィードバック作動信号Md1およびフィードフォワード作動信号Md2を生成する。
【0055】
次に、
図4に示すように、制御装置31は、ブーム9の先端の目標位置座標q(n+1)を算出するためのクレーン1の逆動力学モデルを定める。逆動力学モデルは、XYZ座標系に定義され、原点Oをクレーン1の旋回中心とする。制御装置31は、逆動力学モデルにおいて、q、p、lb、θx、θz、l、fおよびeをそれぞれ定義する。
【0056】
qは、例えばブーム9の先端の現在位置座標q(n)を示し、pは、例えば荷物Wの現在位置座標p(n)を示す。lbは、例えばブーム9の伸縮長さlb(n)示す。θxは、例えば起伏角度θx(n)を示す。θzは、例えば旋回角度θz(n)を示す。lは、例えばワイヤロープの繰り出し量l(n)を示す。fは、ワイヤロープの張力fを示す。eは、例えばワイヤロープの方向ベクトルe(n)を示す。
【0057】
このように定まる逆動力学モデルにおいてブーム9の先端の目標位置qと荷物Wの目標位置pとの関係が、荷物Wの目標位置pと荷物Wの質量mとワイヤロープのばね定数kfとから式(2)によって表さる。また、ブーム9の先端の目標位置qが、荷物Wの時間の関数である式(3)によって算出される。
【数2】
【数3】
f:ワイヤロープの張力、kf:ばね定数、m:荷物Wの質量、q:ブーム9の先端の現在位置または目標位置、p:荷物Wの現在位置または目標位置、l:ワイヤロープの繰出し量、e:方向ベクトル、g:重力加速度
【0058】
ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、以下の式(4)から算出される。ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、ブーム9の先端位置であるブーム9の現在位置座標q(n)と荷物Wの位置である荷物Wの現在位置座標p(n)の距離で定義される。
【0059】
【0060】
ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、以下の式(5)から算出される。ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、ワイヤロープの張力f(式(2)参照)の単位長さのベクトルである。ワイヤロープの張力fは、荷物Wの現在位置座標p(n)と単位時間t経過後の荷物Wの目標位置座標p(n+1)から算出される荷物Wの加速度から重力加速度を減算して算出される。
【0061】
【0062】
単位時間t経過後のブーム9の先端の目標位置であるブーム9の目標位置座標q(n+1)は、式(2)をnの関数で表した式(6)から算出される。ここで、αは、ブーム9の旋回角度θz(n)を示している。ブーム9の目標位置座標q(n+1)は、逆動力学を用いてワイヤロープの繰り出し量l(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)と方向ベクトルe(n+1)とから算出される。
【0063】
【0064】
次に、
図5を用いて、学習型逆動力学モデルを含むクレーン1の制御システム34による目標作動信号Md(フィードバック作動信号Md1およびフィードフォワード作動信号Md2)の生成について説明する。
【0065】
クレーン1は、クレーン1の制御システム34として、荷物移動操作具32、旋回用センサ27、起伏用センサ30、伸縮用センサ28、旋回台カメラ7b、目標値フィルタ35、目標作動量算出部36、フィードバック制御部37およびフィードフォワード制御部39とを含む。
【0066】
制御システム34は、
図4に示すように、制御装置31の目標軌道算出部31a、ブーム位置算出部31bおよび作動信号生成部31cが協働することにより、フィードバック制御部37とフィードフォワード制御部39とを構成している。
【0067】
本実施形態の場合、制御システム34は、
図5に示すように、クレーンのアクチュエータを制御する制御システムであって、アクチュエータの目標作動量に関する信号を生成する信号処理部(目標値フィルタ35および目標作動量算出部36)と、目標作動量に関する信号(目標作動信号Md)とフィードバックしたアクチュエータの作動量に関する信号(実作動信号Mdr)との差分に基づいてアクチュエータを制御するフィードバック制御部37と、フィードバック制御部37と協働しつつ目標作動量に関する信号(目標作動信号Md)に基づいてアクチュエータを制御し、教師信号(目標作動信号Mdと実作動信号Mdrとの差分)に基づいて重み係数を調整することでアクチュエータの特性を学習するフィードフォワード制御部39と、を備える。そして、制御システム34の場合、信号処理部(目標値フィルタ35および目標作動量算出部36)は、入力信号(目標移動位置信号Pd)からパルス状成分を除去して入力信号(目標移動位置信号Pd)を目標作動量に関する信号(目標作動信号Md)に変換する。
【0068】
具体的には、
図5に示すように、目標値フィルタ35は、荷物Wの目標移動位置の制御信号である目標移動位置信号Pdから荷物Wの目標軌道信号Pdαを算出する。目標値フィルタ35は、信号処理部および第一処理部の一例に該当し、所定の周波数以上の周波数を減衰させる。目標値フィルタ35には、荷物移動操作具32の目標移動速度信号Vdを積分器32aによって変換した荷物Wの目標移動位置信号Pdが入力される。積分器32aは、前側処理部の一例に該当する。
【0069】
荷物Wの目標移動位置信号Pdは、信号処理部に入力される入力信号の一例に該当する。目標移動位置信号Pdは、例えば、パルス状(ステップ状)の信号である。目標移動位置信号Pdは、目標値フィルタ35が適用されることにより、パルス状成分を除去された目標軌道信号Pdαに変換される。換言すれば、目標移動位置信号Pdは、目標値フィルタ35が適用されることにより、目標軌道の時間変化(換言すれば、位置座標の各軸方向の速度)がパルス状(ステップ状)になるような急激な変化が抑制された目標軌道信号Pdαに変換される。このような目標軌道信号Pdαは、パルス状成分を含まないため、フィードフォワード制御部39における微分操作による特異点(急激な位置変動)の発生が抑制される。目標値フィルタ35は、式(1)の伝達関数G(s)からなるローパスフィルタである。伝達関数G(s)は、T1、T2、T3、T4、C1、C2、C3、C4を係数、sを微分要素として部分分数分解した形式で表現している。
【0070】
式(1)の伝達関数G(s)は、x軸、y軸およびz軸毎に設定されている。このように、伝達関数G(s)は、1次遅れの伝達関数を重ね合わせたものとして表現することができる。目標値フィルタ35は、荷物Wの目標移動位置信号Pdに伝達関数G(s)を乗算することで、目標移動位置信号Pdを目標軌道信号Pdαに変換する。
【0071】
【0072】
目標作動量算出部36は、信号処理部および第二処理部の一例に該当し、逆動力学モデルを用いて、クレーン1の姿勢情報、荷物Wの現在位置情報および荷物Wの目標軌道信号Pdαから各アクチュエータの目標作動信号Mdを生成する。目標作動量算出部36は、逆動力学モデルを有する。
【0073】
目標作動量算出部36は、目標値フィルタ35に直列に接合されている。目標作動量算出部36は、目標値フィルタ35が算出した目標軌道信号Pdα、旋回台カメラ7bから取得した荷物Wの現在位置情報から算出した荷物Wの現在位置座標p(n)および各センサから取得したクレーン1の姿勢情報(旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)、繰り出し量l(n))から逆動力学モデルを用いて単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する。
【0074】
次に、目標作動量算出部36は、逆動力学モデルにおいて算出した目標位置座標q(n+1)から各アクチュエータの目標作動量を表す目標作動信号Mdを生成する。目標作動信号Mdは、目標作動量に関する信号の一例に該当する。
【0075】
フィードバック制御部37は、目標作動信号Mdと目標作動信号Mdに対する各アクチュエータの実作動量を表す実作動信号Mdrの差分に基づいて、目標作動信号Mdを補正した各アクチュエータのフィードバック作動量であるフィードバック作動信号Md1を生成する。実作動信号Mdrは、アクチュエータの作動量に関する信号の一例に該当する。
【0076】
フィードバック制御部37は、目標作動信号Mdを補正するフィードバック制御器38を有する。フィードバック制御器38は、目標作動量算出部36に直列に接続されている。フィードバック制御部37は、クレーン1の各センサから実作動信号Mdrを取得することができる。フィードバック制御部37は、実作動信号Mdrを目標作動信号Mdにフィードバックさせるように構成されている。
【0077】
フィードバック制御部37は、目標作動量算出部36から荷物Wの目標作動信号Mdを取得する。また、フィードバック制御部37は、クレーン1の各センサから実作動信号Mdrを取得する。フィードバック制御部37は、取得した目標作動信号Mdに取得した実作動信号Mdrをフィードバック(ネガティブフィードバック)する。
【0078】
フィードバック制御部37は、目標作動信号Mdに対する実作動信号Mdrの差分に基づいてフィードバック制御器38によって目標作動信号Mdを補正し、フィードバック作動信号Md1を算出する。
【0079】
このようなフィードバック制御部37は、クレーン1のブーム9(アーム部)の旋回角度、ブーム9(アーム部)の起伏角度、およびブーム9(アーム部)の伸縮長さから、ブーム9(アーム部)の先端の現在位置を算出する。又、フィードバック制御部37は、荷物の目標位置に対する荷物の現在位置の差分に基づいて荷物の現在位置とブーム9(アーム部)の先端の現在位置とから、ワイヤロープの繰出し量を算出する。又、フィードバック制御部37は、荷物の現在位置と荷物の目標位置とから、ワイヤロープの方向ベクトルを算出する。又、フィードバック制御部37は、ワイヤロープの繰出し量とワイヤロープの方向ベクトルとから、荷物の目標位置におけるブーム9(アーム部)の先端の目標位置を算出する。そして、フィードバック制御部37は、ブーム9(アーム部)の先端の目標位置に基づいてフィードバック制御信号を生成する。具体的には、フィードバック制御部37は、各時間ごとのブーム9(アーム部)の先端の目標位置およびわーわロープの繰り出し量の変化に基づいて各アクチュエータの目標速度信号を算出し、目標速度信号にクレーンのアクチュエータの実応答が一致するように補正するためのフィードバック制御信号を生成する。
【0080】
フィードフォワード制御部39は、フィードバック制御部37と並列に設けられている。フィードフォワード制御部39は、学習型逆動力学モデル40を用いて、クレーン1の姿勢情報、荷物Wの現在位置情報および荷物Wの目標作動信号Mdから各アクチュエータのフィードフォワード作動量であるフィードフォワード作動信号Md2を生成する。
【0081】
フィードフォワード制御部39は、例えばクレーン1が有する複数の特性をn個のサブシステムで表した学習型逆動力学モデル40を有している。学習型逆動力学モデル40は、目標作動量算出部36に並列に接続されている。また、学習型逆動力学モデル40は、複数の第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・第nサブシステムSMnが並列に結合されている。サブシステムSM1~SMnは、サブシステム群の一例に該当する。本実施形態の場合、一つのサブシステム群は、クレーン1の一つのアクチュエータ(例えば、旋回用油圧モータ8)に対応している。図示は省略するが、本実施形態の場合、フィードフォワード制御部39は、制御対象であるクレーン1のアクチュエータの数に対応する数のサブシステム群を有している。
【0082】
つまり、学習型逆動力学モデル40の各サブシステムは、フィードバック制御器38と並列に接続されている。学習型逆動力学モデル40は、第1サブシステムSM1に重み係数w1、第2サブシステムSM2に重み係数w2、第3サブシステムSM3に重み係数w3・・・および第nサブシステムSMnに重み係数wnが割り当てられている。
【0083】
フィードフォワード制御部39は、目標作動信号Mdに対する実作動信号Mdrの差分に関する信号(教師信号)に基づいて、各モデルの重み係数w1、w2、w3・・・およびwnを調整する。
【0084】
このように、フィードフォワード制御部39は、学習型逆動力学モデル40の重み係数を調整することでクレーン1の特性を有する学習型逆動力学モデル40を習得可能に構成されている。
【0085】
フィードフォワード制御部39は、目標作動信号Mdを取得する。また、フィードフォワード制御部39は、フィードバック制御部37から目標作動信号Mdに対する実作動信号Mdrの差分を教師信号として取得する。フィードフォワード制御部39は、目標作動信号Mdに対する実作動信号Mdrの差分に基づいて、各モデルの重み係数w1、w2、w3・・・およびwαnを調整する。
【0086】
つまり、フィードフォワード制御部39は、目標作動量と実作動量との差分に基づいて学習型逆動力学モデル40の1層の重み係数を調整することで、各サブシステムの特性がクレーン1の実特性に適応する。
【0087】
フィードフォワード制御部39は、目標作動信号Md、旋回台カメラ7bから取得した荷物Wの現在位置情報から算出した荷物Wの現在位置座標p(n)および各センサから取得したクレーン1の姿勢情報(旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)、繰り出し量l(n))から学習型逆動力学モデル40を用いて単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する。
【0088】
次に、フィードフォワード制御部39は、算出した目標位置座標q(n+1)から各アクチュエータのフィードフォワード作動信号Md2を生成する。フィードフォワード制御部39は、生成したフィードフォワード作動信号Md2をフィードバック作動信号Md1に加算する。
【0089】
クレーン1の制御システム34は、フィードバック制御部37が算出したフィードバック作動信号Md1とフィードフォワード制御部39が算出したフィードフォワード作動信号Md2とをクレーン1の各アクチュエータに送信する。つまり、制御システム34は、フィードバック作動信号Md1およびフィードフォワード作動信号Md2に基づいて、制御対象であるアクチュエータを制御する。
【0090】
制御システム34は、フィードバック作動信号Md1とフィードフォワード作動信号Md2とを各アクチュエータに送信後、クレーン1の各センサが検出した実作動信号Mdrをフィードバック制御部37によって目標作動信号Mdに減算する。制御システム34は、目標作動信号Mdに対する実作動信号Mdrの差分に基づいて学習型逆動力学モデル40の重み係数を調整する。
【0091】
制御システム34は、フィードフォワード制御部39の学習型逆動力学モデル40の特性とクレーン1の特性との乖離度合いが小さいほど、目標作動信号Mdに対する実作動信号Mdrの差分が小さくなる。また、制御システム34は、目標作動信号Mdに対する実作動信号Mdrの差分が小さくなるにつれて、学習型逆動力学モデル40の重み係数の調整量が少なくなる。
【0092】
つまり、制御システム34は、学習型逆動力学モデル40の特性が学習によってクレーン1の特性に近似するにつれて、フィードバック制御部37が算出したフィードバック作動信号Md1による制御割合が減少し、フィードフォワード作動信号Md2による制御割合が増加する。
【0093】
次に
図6から
図8を用いて、制御システム34におけるクレーン1のフィードフォワード学習制御について詳細に記載する。
【0094】
図6に示すように、ステップS100において、制御システム34は、目標軌道算出工程Aを開始し、ステップをステップS101に移行させる(
図7参照)。そして、目標軌道算出工程Aが終了するとステップをステップS200に移行させる(
図6参照)。
【0095】
ステップS200において、制御システム34は、ブーム位置算出工程Bを開始し、ステップをステップS201に移行させる(
図8参照)。そして、ブーム位置算出工程Bが終了するとステップをステップS110に移行させる(
図6参照)。
【0096】
図6に示すように、ステップS110において、制御システム34は、算出した目標位置座標q(n+1)から目標作動信号Mdを算出し、ステップをステップS120に移行させる。
【0097】
ステップS120において、制御システム34は、クレーン1の各センサから実作動信号Mdrを取得し、ステップをステップS130に移行させる。
【0098】
ステップS130において、制御システム34は、目標作動信号Mdと実作動信号Mdrとの差分を算出し、ステップをステップS140に移行する。
【0099】
ステップS140において、制御システム34は、フィードバック制御器38で目標作動信号Mdと実作動信号Mdrとの差分に基づいて目標作動信号Mdを補正したフィードバック作動信号Md1を生成し、ステップをステップS150に移行させる。
【0100】
ステップS131において、制御システム34は、目標作動信号Mdと実作動信号Mdrとの差から学習型逆動力学モデル40の重み係数w1、w2、w3、・・・wnを調整し、ステップをステップS300に移行させる。
【0101】
ステップS300において、制御システム34は、ブーム位置算出工程Bを開始し、ステップをステップS301に移行させる(
図8参照)。そして、ブーム位置算出工程Bが終了するとステップをステップS132に移行させる(
図6参照)。
【0102】
ステップS132において、制御システム34は、目標位置座標q(n+1)からフィードフォワード作動信号Md2を生成し、ステップをステップS150に移行させる。
【0103】
ステップS150において、制御システム34は、フィードバック作動信号Md1とフィードフォワード作動信号Md2と加算し、ステップをステップS160に移行させる。
【0104】
ステップS160において、制御システム34は、クレーン1の各アクチュエータにフィードバック作動信号Md1とフィードフォワード作動信号Md2とを加算した信号を送信しステップをステップS100に移行させる。
【0105】
図7に示すように、ステップS101において、制御システム34は、目標移動速度信号Vdが積分器32aで変換された目標移動位置信号Pdを取得したか否か判定する。ここで、目標移動速度信号Vdは、オペレータのレバー操作に基づいて生成される信号であって、荷物の移動方向及び移動速度を指示するための信号である。つまり、目標移動速度信号Vdは、クレーン1(荷物)の位置を指示する信号ではない。そこで、本実施形態の場合、目標移動速度信号Vdを積分器32aにより積分して目標移動位置信号Pdに変換する。目標移動位置信号Pdは、パルス状(ステップ状)の信号である。ステップS101において目標移動位置信号Pdを取得した場合(ステップS101において“YES”)、制御システム34はステップをステップS102に移行させる。一方、目標移動位置信号Pdを取得していない場合(ステップS101において“NO”)、制御システム34はステップをステップS101に移行させる。
【0106】
ステップS102において、制御システム34は、ブームカメラ9bで荷物Wを検出し、荷物Wの現在位置座標p(n)を算出し、ステップをステップS103に移行させる。
【0107】
ステップS103において、制御システム34は、取得した目標移動位置信号Pdと目標値フィルタ35である伝達関数G(s)とから、目標軌道信号Pdαを算出し、目標軌道算出工程Aを終了させ、ステップをステップS200に移行させる。ここで、目標軌道信号Pdαは、離散的な位置情報である目標移動位置信号Pdの間を補完する位置情報及びこの位置情報に時間の情報が追加された軌道(経路)情報と捉えてよい。
【0108】
図8に示すように、ステップS201・S301において、制御システム34は、ブーム位置算出部31bが取得した旋回台7の旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)およびブーム9の起伏角度θx(n)からブーム9の先端の現在位置座標q(n)を算出し、ステップをステップS202・S302に移行させる。
【0109】
ステップS202・S302において、制御システム34は、ブーム位置算出部31bにより、荷物Wの現在位置座標p(n)とブーム9の現在位置座標q(n)から上述の式(4)を用いてワイヤロープの繰り出し量l(n)を算出し、ステップをステップS203・S303に移行させる。
【0110】
ステップS203・S303において、制御システム34は、ブーム位置算出部31bにより、荷物Wの現在位置座標p(n)を基準として、目標軌道信号Pdαから単位時間t経過後の荷物Wの目標位置である荷物Wの目標位置座標p(n+1)を算出し、ステップをステップS204・S304に移行させる。
【0111】
ステップS204・S304において、制御システム34は、ブーム位置算出部31bにより、荷物Wの現在位置座標p(n)と荷物Wの目標位置座標p(n+1)とから荷物Wの加速度を算出し、重力加速度を用いて上述の式(5)を用いてワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)を算出し、ステップをステップS205・S305に移行させる。
【0112】
ステップS205・S305において、制御システム34は、ブーム位置算出部31bにより、算出したワイヤロープの繰り出し量l(n)とワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)とから上述の式(6)を用いてブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出し、ブーム位置算出工程Bを終了してステップをステップS110またはステップS132に移行させる(
図6参照)。
【0113】
クレーン1の制御システム34は、目標軌道算出工程Aとブーム位置算出工程Bとを繰り返すことで、ブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出し、単位時間t経過後に、ワイヤロープの繰り出し量l(n+1)と荷物Wの現在位置座標p(n+1)と荷物Wの目標位置座標p(n+2)からワイヤロープの方向ベクトルe(n+2)を算出する。
【0114】
また、制御システム34は、ワイヤロープの繰り出し量l(n+1)とワイヤロープの方向ベクトルe(n+2)とから、更に単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+2)を算出する。
【0115】
つまり、制御システム34は、ワイヤロープの方向ベクトルe(n)を算出し、逆動力学を用いて荷物Wの現在位置座標p(n+1)と荷物Wの目標位置座標p(n+2)とワイヤロープの方向ベクトルe(n+2)とから単位時間t後のブーム9の目標位置座標q(n+2)を順次算出する。
【0116】
制御システム34は、ブーム9の目標位置座標q(n+2)に基づいて目標作動信号Mdを生成し、各アクチュエータを制御する。
【0117】
このように制御システム34の学習型逆動力学モデル40は、物理的な特性が明確な複数のサブシステムから構成されている。また、学習型逆動力学モデル40は、複数のサブシステムからの出力にそれぞれ重み係数を掛けることで1層のニューラルネットワークとみなすことができる。
【0118】
学習型逆動力学モデル40は、目標作動信号Mdと実作動信号Mdrとの差分に基づいて重み係数w1、w2、w3・・・wnを独立して調整することで、第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・第nサブシステムSMnの物理的な特性をクレーン1の特性に近似させることができる。
【0119】
このように、クレーン1の制御システム34は、クレーン1の作動中に、その動特性の変化に柔軟に対応しながら学習型逆動力学モデル40の重み係数w1、w2、w3、・・・wnを同定する。つまり、制御システム34は、高次の伝達関数が複数の低次の第1サブシステムSM1、第2サブシステムSM2、第3サブシステムSM3・・・第nサブシステムSMn毎に調整される。
【0120】
これにより、制御システム34は、荷物Wを基準としてアクチュエータを制御する際に、荷物Wの動きからクレーン1の動特性を学習することで、荷物Wの揺れを抑制しつつ操縦者の意図に沿った態様で荷物Wを移動させることができる。なお、本実施形態において制御システム34は、学習型逆動力学モデル40を複数のサブシステムとして構成したが他の物理的な特性が明確なモデルでもよい。
【0121】
また、制御システム34は、学習型逆動力学モデル40に入力される目標軌道信号Pdαを4次のローパスフィルタである目標値フィルタ35を介して生成しているので目標軌道信号Pdαにおける特異点の発生が抑制されている。従って、制御システム34は、特異点が抑制された目標軌道信号Pdαを学習型逆動力学モデル40に入力することで、学習型逆動力学モデル40の学習の収束が促進される。これにより、制御システム34は、荷物Wを基準としてアクチュエータを制御する際に、荷物Wの揺れを抑制しつつ操縦者の意図に沿った態様で荷物Wを移動させることができる。
【0122】
上述の実施形態は、代表的な形態を示したに過ぎず、一実施形態の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【0123】
2019年10月11日出願の特願2019-187994の日本出願に含まれる明細書、図面、および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、移動式クレーンに限らず、種々のクレーンに適用できる。
【符号の説明】
【0125】
1 クレーン
2 車両
3 車輪
4 エンジン
5 アウトリガ
6 クレーン装置
7 旋回台
7b 旋回台カメラ
8 旋回用油圧モータ
9 ブーム
9a ジブ
10 メインフックブロック
10a メインフック
11 サブフックブロック
11a サブフック
12 起伏用油圧シリンダ
13 メインウインチ
14 メインワイヤロープ
15 サブウインチ
16 サブワイヤロープ
17 キャビン
18 旋回操作具
19 起伏操作具
20 伸縮操作具
21m メインドラム操作具
21s サブドラム操作具
23 旋回用バルブ
24 伸縮用バルブ
25 起伏用バルブ
26m メインバルブ
26s サブバルブ
27 旋回用センサ
28 伸縮用センサ
29 方位センサ
30 起伏用センサ
31 制御装置
31a 目標軌道算出部
31b ブーム位置算出部
31c 作動信号生成部
32 荷物移動操作具
32a 積分器
33 巻回用センサ 34 制御システム
35 目標値フィルタ
36 目標作動量算出部
37 フィードバック制御部
39 フィードフォワード制御部
38 フィードバック制御器
40 学習型逆動力学モデル
51 伸縮用油圧シリンダ
52 メイン油圧モータ
53 サブ油圧モータ
W 荷物
Vd 目標移動速度信号
Pd 目標移動位置信号
Pdα 目標軌道信号
w1、w2、w3、w4 重み係数