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  • 特許-容器用樹脂被覆金属板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】容器用樹脂被覆金属板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/09 20060101AFI20221115BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B32B15/09 A
B65D65/42 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022544349
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013678
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2021052875
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】北川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】平口 智也
(72)【発明者】
【氏名】河合 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 安秀
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-105263(JP,A)
【文献】国際公開第2021/020548(WO,A1)
【文献】特開2006-205575(JP,A)
【文献】特開2007-253453(JP,A)
【文献】国際公開第2021/020549(WO,A1)
【文献】特開2014-130272(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040541(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 23/00-25/56
B65D 65/00-65/46
C08J 5/00- 5/02
C08J 5/12- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の両面にポリエステル樹脂からなる延伸フィルムを被覆した容器用樹脂被覆金属板であって、
前記ポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレート単位を92mol%以上含み、
前記金属板に被覆後の前記フィルム表面の延伸方向のラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅が20cm-1以上25cm-1以下であり、
前記ラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1にあるC=Oピーク強度と1615cm-1±5cm-1のC=Cピーク強度の比(I1725/I1615)が0.50以上0.70以下である、容器用樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記金属板に被覆された前記フィルム表面の180℃×10分後の加熱処理後の延伸方向及び前記延伸方向に対して45°方向、135°方向のラマン分光法による1725cm-1±5cm-1のC=Oピークの半値幅の差が0.8cm-1以上1.2cm-1以下である、請求項1に記載の容器用樹脂被覆金属板。
【請求項3】
成形加工後に容器の外面側となる前記フィルムが、30質量%以下の酸化チタンを含有する、請求項1または2に記載の容器用樹脂被覆金属板。
【請求項4】
成形加工後に容器の外面側となる前記フィルムが、少なくとも2層を有し、
2層の場合には、
膜厚が1.0μm以上5.0μm以下の上層と、膜厚が7μm以上35μm以下の下層とを有し、前記下層は金属板に面しており、
3層以上の場合には、
膜厚が夫々1.0μm以上5.0μm以下の最表面層と最下層と、膜厚が6μm以上30μm以下の中間層とを有し、前記最下層は金属板に面しており、
前記上層、前記最表面層、及び前記最下層は0質量%以上2質量%以下の酸化チタンを含有し、
前記中間層、及び前記下層は10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有する、請求項3に記載の容器用樹脂被覆金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、食品缶詰、飲料缶及びエアゾール缶の缶胴及び蓋等に用いられる容器用樹脂被覆金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品缶詰用素材であるティンフリースチール(TFS)、アルミニウム等の金属板には、耐食性・耐久性・耐候性などの向上を目的として、塗装が施されていた。しかし、この塗装を施す工程は、焼き付け処理が煩雑であるばかりでなく、多大な処理時間を要し、さらには多量の溶剤を排出するという問題を抱えていた。
【0003】
これらの問題を解決するため、塗装鋼板に替わり、熱可塑性樹脂フィルムを加熱した金属板に積層してなるフィルムラミネート金属板が開発され、食品缶詰、飲料缶及びエアゾール缶用素材として工業的に用いられている。
【0004】
これらの素材には、加工性、密着性などの基本特性のほか、缶体外面への印刷やディストーション印刷のような印刷熱処理後に加工等を行うため、耐熱性や熱処理後加工性に関する特性も要求される。従来のポリエステル樹脂で被覆された金属板では、耐熱性や熱処理後加工性を改善するために、ポリエステル樹脂の組成や融点範囲を制御して対応してきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、樹脂組成と融点が特定の範囲にあるポリエステル系フィルムを金属容器に適用している。しかし、210℃の雰囲気下で2分間の加熱では寸法変化率が2.0%以下であるものの、ディストーション印刷のような印刷加熱後の加工では、加工後にフィルム剥離等が発生し、熱処理後加工性が十分ではなかった。
【0006】
また、特許文献2では、ポリブチレンテレフタレート主体のポリエステルとポリエチレンテレフタレート主体のポリエステルを特定割合で配合し、130℃×15分間の熱収縮率を特定範囲内に調整したポリエステルフィルムを用いたフィルムラミネート金属板が開示されている。接着剤層塗工後の乾燥における収縮シワの発生を抑えることができ、また、缶の成形性、特に絞り成形やしごき成形等に優れ、金属との熱ラミネート性、耐衝撃性、保味保香性にも優れる。しかしながら、融点が200℃以上223℃以下の範囲にあるポリブチレンテレフタレート主体のポリエステルが質量比で40%以上80%以下添加されているため、印刷後の熱処理によりフィルムの結晶化が進行し、熱処理後加工性が不十分である。
【0007】
特許文献3では、容器成形後に外面側になる表面に形成された第1のポリエステル樹脂層と、容器成形後に内面側になる表面に形成された第2のポリエステル樹脂層とを備える2ピース缶用ラミネート金属板が開示されている。第1のポリエステル樹脂層は、ポリエチレンテレフタレートまたは共重合成分の含有率が6mol%未満である共重合ポリエチレンテレフタレートを30質量%以上60質量%以下、ポリブチレンテレフタレートまたは共重合成分の含有率が5mol%未満である共重合ポリブチレンテレフタレートを40質量%以上70質量%以下、およびポリオレフィン系ワックスを外割で0.01%以上3.0%以下の割合で含有する。第2のポリエステル樹脂層は、共重合成分の含有率が22mol%未満である共重合ポリエチレンテレフタレートであり、第1および第2のポリエステル樹脂層の残存配向度が30%未満である。しかしながら、第1のポリエステル樹脂層は、ポリブチレンテレフタレート成分を40質量%以上70質量%以下含有するため、レトルト白化性は改善するものの、熱処理によりフィルムの結晶化が進行し、熱処理後加工性が不十分である。
【0008】
特許文献4では、ポリエステルフィルムの酸成分中に3価以上のカルボン酸成分を特定量含む共重合ポリエステルをフィルム化した二軸延伸ポリエステルフィルムを用いている。このポリエステルフィルムの融点および極限粘度を特定の範囲とすることにより、金属板との熱ラミネート性に優れる金属ラミネート用ポリエステルフィルムが得られることが開示されている。また、熱ラミネート後に缶成形を行う際の高次加工性にも優れ、さらに熱ラミネートした金属板の切断部におけるヘアの発生が抑制され、しかも成形缶の耐衝撃性を低下させることがない。しかしながら、ヘアの発生は抑えられているものの、融点が210℃以上235℃以下であるため、印刷後の加熱温度が制約され、耐熱性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-289989号公報
【文献】特開2009-221315号公報
【文献】特開2014-166856号公報
【文献】特開2010-168432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑み、食品缶詰用素材に要求される樹脂フィルムの密着性及び被覆性の基本特性に優れ、さらに熱処理後加工性に優れる容器用樹脂被覆金属板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、課題解決のため鋭意検討を行った。その結果、ポリエステル樹脂からなる延伸フィルムがエチレンテレフタレート単位を92mol%以上含み、金属板に被覆後の当該フィルム表面の延伸方向のラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1付近のC=Oピーク半値幅が20cm-1以上25cm-1以下であり、1725cm-1±5cm-1にあるC=Oピーク強度と1615cm-1±5cm-1のC=Cピーク強度の比(I1725/I1615)が0.50以上0.70以下であることで、密着性、被覆性などの基本特性に加え、熱処理後加工性に優れることを見出した。なお、この時のラマン分光分析は、熱処理前のフィルム表面に対して行う。
【0012】
さらに、金属板に被覆されたポリエステル樹脂表面の180℃×10分後の加熱処理後の延伸方向、及び前記延伸方向に対して45°方向、135°方向のラマン分光法による1725cm-1±5cm-1のラマンピークの半値幅の差が0.8cm-1以上1.2cm-1以下にすることで、高度な熱処理後加工性を確保することが可能である。
【0013】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1] 両面にポリエステル樹脂からなる延伸フィルムを被覆した容器用樹脂被覆金属板であって、前記ポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレート単位を92mol%以上含み、前記金属板に被覆後の前記フィルム表面の延伸方向のラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅が20cm-1以上25cm-1以下であり、前記ラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1にあるC=Oピーク強度と1615cm-1±5cm-1のC=Cピーク強度の比(I1725/I1615)が0.50以上0.70以下である、容器用樹脂被覆金属板。
[2] 前記金属板に被覆された前記フィルム表面の180℃×10分後の加熱処理後の延伸方向及び前記延伸方向に対して45°方向、135°方向のラマン分光法による1725cm-1±5cm-1のC=Oピークの半値幅の差が0.8cm-1以上1.2cm-1以下である、[1]に記載の容器用樹脂被覆金属板。
[3] 成形加工後に容器の外面側となる前記フィルムが、30質量%以下の酸化チタンを含有する、[1]または[2]に記載の容器用樹脂被覆金属板。
[4] 成形加工後に容器の外面側となる前記フィルムが、少なくとも2層を有し、2層の場合には、膜厚が1.0μm以上5.0μm以下の上層と、膜厚が7μm以上35μm以下の下層とを有し、前記下層は金属板に面しており、3層以上の場合には、膜厚が夫々1.0μm以上5.0μm以下の最表面層と最下層と、膜厚が6μm以上30μm以下の中間層とを有し、前記最下層は金属板に面しており、前記上層、前記最表面層、及び前記最下層は0質量%以上2質量%以下の酸化チタンを含有し、前記中間層、及び前記下層は10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有する、[3]に記載の容器用樹脂被覆金属板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、食品缶詰素材に要求される基本性能である樹脂フィルムの密着性及び被覆性に優れ、さらに熱処理後加工性に優れる容器用樹脂被覆金属板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明に係る容器用樹脂被覆金属板の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、本発明の容器用樹皮被覆金属板は、金属板2の両面にポリエステル樹脂からなるフィルム(樹脂被覆層3、4)を被覆してなる。
【0017】
以下、本発明の容器用樹脂被覆金属板について詳細に説明する。まず、本発明で用いる金属板2について説明する。
【0018】
本発明の金属板2としては、缶用材料として広く使用されているアルミニウム板や軟鋼板等を用いることができる。特に、下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物からなる二層皮膜を形成させた表面処理鋼板(以下、TFSと称す)等が最適である。
【0019】
TFSの皮膜付着量については、加工後密着性、耐食性の観点から、何れもCr換算で、金属クロム層は70mg/m以上200mg/m以下、クロム水酸化物層は10mg/m以上30mg/m以下であることが好ましい。
【0020】
次いで、本発明の容器用樹脂被覆金属板の両面に有するポリエステル樹脂からなるフィルム(樹脂被覆層3、4)について説明する。なお、延伸フィルムは一軸又は二軸延伸フィルムを含み、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0021】
前記フィルムはポリエステル樹脂からなり、前記ポリエステル樹脂層は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、且つ、耐熱性が要求されるので、エチレンテレフタレート単位は92mol%以上である。好ましくは93mol%である。
【0022】
酸成分としてのテレフタル酸は、機械的強度、耐熱性、耐食性等の特性確保のため必須であるが、更に、イソフタル酸と共重合させることで、加工性、密着性等が向上する。イソフタル酸成分をテレフタル酸成分に対し2mol%以上10mol%以下共重合させることで、深絞り成形性、加工後密着性が向上するため、好適である。
【0023】
一方、上記特性を損ねない範囲で他のジカルボン酸成分、グリコール成分を共重合してもよい。ジカルボン酸成分としては、例えば、ジフェニルカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等を挙げることができる。また、他のグリコール成分としては、例えば、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用してもよい。また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパン等の多官能化合物を共重合してもよい。
【0024】
また、樹脂材料は、その製法によって限定されることはない。例えばテレフタル酸、エチレングリコール、及び共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合させて共重合ポリエステルとする方法がある。また、ジメチルテレフタレート、エチレングリコール、及び共重合成分をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法等を利用して、樹脂材料を形成できる。共重合ポリエステルの製造においては、必要に応じて、蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の添加物を添加してもよい。白色度を向上させる場合には、蛍光増白剤の添加が有効である。
【0025】
さらに、本発明の容器用樹脂被覆金属板の両面を被覆する、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル樹脂層は、金属板に被覆後のフィルム表面の延伸方向のラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅が20cm-1以上25cm-1以下の範囲にあり、1725cm-1±5cm-1にあるC=Oピーク強度と1615cm-1±5cm-1のC=Cピーク強度の比(I1725/I1615)が0.50以上0.70以下の範囲にあることが重要である。これは本発明において最も重要な要件であり、これにより、本発明の目的である密着性、被覆性及び熱処理後加工性の確保が可能となる。ここで、「金属板に被覆後のフィルム表面」とは、金属板に面していない側のフィルム表面を意味する。以下、その理由について述べる。
【0026】
ラマン分光法で測定した1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅はポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化度の指標である。
【0027】
ここで、1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅が20cm-1より小さい場合は、結晶化度が高く、ポリエチレンテレフタレートの分子鎖が比較的規則正しく整列している状態を示す。その結果、破断強度は向上するが、柔軟性は低くなり破断伸びが低下する傾向にある。一方、1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅が25cm-1より大きい場合は結晶化度が低く、ポリエチレンテレフタレートの分子鎖が比較的ランダムに配列している状態を示す。その結果、破断強度は低下するが、柔軟性が高くなるため破断伸びは大きくなる傾向にある。したがって、加工性を確保するためには、結晶化度が低い方が有利であり、耐食性を確保するためには、結晶化度が高い方が有利であることから、1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅は20cm-1以上25cm-1以下とした。
【0028】
1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク強度と1615cm-1±5cm-1のC=Cピーク強度の比(I1725/I1625)が0.50未満の場合には、テレフタル酸由来のベンゼン環とカルボニル基がランダムな配座をとる割合が高くなる。その結果、分子鎖間の相互作用が弱くなるため衝撃的な応力に対してフィルムにクラック等が発生しやすくなる。一方で、(I1725/I1625)が0.70超の場合には、テレフタル酸由来のベンゼン環とカルボニル基が同一平面に配座する割合が高くなり、分子鎖間が緻密になって延性が低くなるため加工時の変形に追従できなくなる。したがって、(I1725/I1625)を0.50以上0.70以下とした。
【0029】
また、熱処理後加工性の観点からは、加熱によるポリエステルフィルムの構造変化が各方向において、異方性が小さく均一であることが好ましい。
【0030】
さらに、熱処理後加工性を向上させるためには、金属板に被覆されたポリエステル樹脂表面の180℃×10分後の加熱処理後の延伸方向、及び前記延伸方向に対して45°方向、135°方向のラマン分光法による1725cm-1±5cm-1のC=Oピークの半値幅の差が0.8cm-1以上1.2cm-1以下であることが好ましい。ラマンピークの半値幅の差が1.2cm-1以下であれば、加工が加わった際のフィルム密着性がより良好である。より好ましくは、ラマンピークの半値幅の差が0.8cm-1以上1.0cm-1以下である。
【0031】
また、加工度が高い成形や成形時の金型との離形性の確保、あるいは連続成形ラインでの搬送等でのスタック防止のため、容器成形後に外面側に位置する樹脂被覆層にワックスが添加されていることが好ましい。ワックスの種類は特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン等のオレフィン系ワックスや、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸系ワックスやカルナウバワックス等の天然ワックス等を用いることができる。ワックス成分の添加量は、容器成形後に容器の外面側に位置する前記樹脂被覆層が、0.10質量%以上2.0質量%以下含有することが好ましい。
【0032】
容器成形後の容器外面または容器内面側のポリエステル樹脂被覆層の固有粘度(IV)は、0.50dl/g以上0.90dl/g以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.52dl/g以上0.80dl/g以下、より好ましくは、0.55dl/g以上0.75dl/g以下である。樹脂被覆層の固有粘度が0.50dl/g以上であれば、樹脂被覆層の分子量が高く、十分な機械的強度が確保できる。一方、樹脂被覆層の固有粘度が0.90dl/g以下であれば、優れた成膜性が得られる。なお、樹脂被覆層の固有粘度(IV)は、重合条件(重合触媒量、重合温度、重合時間等)の制御や溶融重合の後にさらに窒素等の不活性雰囲気下や真空下での固相重合法等によって調整できる。
【0033】
容器成形後に外面となるポリエステル樹脂被覆層は、成形後や印刷処理時の意匠性を高めるため、白色であることが求められる場合がある。この場合、樹脂被膜層全体の重量に対して、酸化チタンの含有量が30質量%以下であれば、より加工度が高い成形加工を行った際にも、金属板と樹脂被覆層との密着性や加工性に影響はない。酸化チタンの含有量が8%以上であれば、加工後でも十分な白色度が確保できるので好ましい。したがって、好ましい下限は8%以上、より好ましくは10%、更に好ましくは12%以上の酸化チタンを含有していることが好ましい。酸化チタンの含有量のより好ましい上限は、25%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0034】
酸化チタンの添加方法としては、以下の(1)~(3)に示すような各種方法を用いることができる。なお、方法(1)を利用して酸化チタンを添加する場合には、酸化チタンをグリコールに分散したスラリーとして反応系に添加することが好ましい。また、酸化チタンを添加した樹脂被膜層3の厚みは、加工後の白色度を確保するために、10μm以上とすることが好ましい。より好ましい下限は12μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。酸化チタンを含む樹脂層の厚みが10μm以上であれば、割れを生じることなくより厳しい加工に対応できる。一方、酸化チタンを含む樹脂層の厚みが40μm以下であれば経済的である。より好ましくは、35μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。
(1)共重合ポリエステル合成時のエステル交換又はエステル化反応の終了前、若しくは重縮合反応開始前に酸化チタンを添加する方法
(2)共重合ポリエステルに添加し、溶融混練する方法
(3)方法(1)、(2)において、酸化チタンを多量に添加したマスターペレットを製造し、粒子を含有しない共重合ポリエステルと混練し、所定量の酸化チタンを含有させる方法。
【0035】
容器成形後に内面または外面となるポリエステル樹脂被覆層は、複層構造として、層ごとに機能をもたせてもよい。例えば、上層及び金属板に面する下層の2層構造や、最表面層(上層)、中間層(主層)、及び金属板に面する最下層(下層)の少なくとも3層からなる構造を有していてもよい。複層構造として各層に機能をもたせる例としては、最表面層及び/又は最下層にワックスを含有させて樹脂被膜層全体としてのワックス量を少なく抑え、効果的に加工性を制御することが挙げられる。また、複層構造で中間層に顔料を多めに添加することにより、加工性等を確保しつつ、層全体としての色調を制御することも考えられる。このような場合、最表面層及び最下層の膜厚は、1.0μm以上5.0μm以下とする。最表面層及び最下層の膜厚の、好ましい下限は1.5μm以上、より好ましくは2.0μm以上である。最表面層及び最下層の膜厚の、好ましい上限は4.0μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下である。また、中間層の膜厚は、6μm以上30μm以下とする。中間層の膜厚の、好ましい下限は8μm以上、より好ましくは10μm以上である。中間層の膜厚の、好ましい上限は25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。層としての白色度と加工性を両立させるためには、最表面層及び最下層は、0質量%以上2質量%以下の酸化チタンを含有し、中間層は、10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有するとよい。
【0036】
また、2層構成の場合は上層にワックスを含有させて、樹脂被膜層全体としてのワックス量を少なく抑え、効果的に加工性を制御することが挙げられる。3層の場合と同様に上層の膜厚は、1.0μm以上5.0μm以下とする。上層の膜厚の、好ましい下限は1.5μm以上、より好ましくは2.0μm以上である。上層の膜厚の、好ましい上限は4.0μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下である。また、下層の膜厚は、7μm以上35μm以下である。下層の膜厚の好ましい下限は9μm以上、より好ましくは11μm以上である。下層の膜厚の好ましい上限は30μm以下、より好ましくは25μm以下である。層としての白色度と加工性を両立させるためには、上層は、0質量%以上2質量%以下の酸化チタンを含有し、下層は、10質量%以上30質量%以下の酸化チタンを含有するとよい。
【0037】
特に最表面層に酸化チタンを添加した場合、印刷用インクとの密着性が向上し、印刷性が改善する。最表面層の酸化チタン量は、印刷性の観点から0.5質量%以上添加されていることが好ましい。一方、最表面層の酸化チタン量が2質量%以下であれば、樹脂被覆層の加工性がより良好であるため、最表面層の酸化チタン量は2質量%以下とすることが好ましい。
【0038】
前述のように、3層構造の各層に機能を持たせる場合、最表面層及び最下層の膜厚が1.0μm以上であれば、その機能がより効果的に発揮される。すなわち、樹脂被覆層の破断又は削れの発生をより効果的に抑え、容器成形後に外面となるポリエステル樹脂被覆層の表面の光沢が十分に確保できる。一方、このように最表面層及びは最下層に機能を持たせる場合、5.0μm以下であれば経済的である。
【0039】
[製造方法]
次に本発明の容器用樹脂被覆金属板の製造方法について説明する。まず、金属板に被覆する複層構造の樹脂層の製造方法について説明する。
【0040】
樹脂層の製造方法については特に限定はしない。以下一例を示す。各ポリエステル樹脂を必要に応じて乾燥した後、公知の溶融積層押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出す。それに続いて静電印加等の方式によりキャスティングドラムに密着させ冷却固化し未延伸シートを得る。この未延伸シートをフィルムの長手方向及び幅方向に延伸することにより二軸延伸フィルムを得る。延伸倍率は目的とするフィルムの配向度、強度、弾性率等に応じて任意に設定することができる。延伸方法は、フィルムの品質の点でテンター方式によるものが好ましく、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方式および長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方式が望ましい。
【0041】
次に、樹脂層(フィルム)を金属板にラミネートして樹脂被覆金属板を製造する方法について説明する。本発明では、例えば、金属板をフィルムの融点以上の温度まで加熱し、圧着ロール(以後ラミネートロールと称す)を用いて樹脂フィルムをその両面に接触させ熱融着させる方法(以後ラミネートと称す)を用いることができる。
【0042】
ラミネート条件については、本発明に規定する樹脂層が得られるように適宜設定される。まず、ラミネート開始時の金属板の表面温度は、金属板と接する樹脂層のTm(融点)以上とする必要がある。具体的には、Tm℃以上(Tm+40)℃以下に制御する必要がある。金属板の表面温度を樹脂層のTm以上することで、樹脂層が溶融し金属板表面上を濡らし、金属板との良好な密着性を確保することができる。一方、(Tm+40)℃超となると、ラミネートロールに樹脂層が付着する懸念があるとともに、金属板に被覆後のフィルム表面の樹脂層の結晶構造を本発明の規定範囲内に制御することが困難となる。このため、所望とするラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅が得られなくなる。好ましくは、Tm℃以上(Tm+25)℃以下、さらに好ましくは、Tm℃以上(Tm+15)℃以下である。
【0043】
本発明では、金属板に被覆後のフィルム表面の樹脂層の結晶構造を適正な状態に制御する必要があるため、ラミネートロールの表面温度を樹脂層のTg(ガラス転移点)以上に調整する必要がある。具体的には、樹脂層と接触するラミネートロールの表面温度を、Tg℃以上(Tg+80)℃以下に制御する必要がある。
【0044】
また、ラミネートロールとの接触時間の調整も重要なファクターである。接触時間は、10msec以上20msec以下に制御する必要がある。ラミネートロールの表面温度と、接触時間を上記の範囲に調整することで、所望とする結晶構造を実現することができる。
【0045】
ラミネートロールの表面温度がTg℃未満の場合、又は、ラミロールとの接触時間が10msec未満の場合には、テレフタル酸由来のベンゼン環とカルボニル基が同一平面に配座する割合が高くなり、(I1725/I1615)が0.70を超えてしまう。また、ラミネートロールの表面温度が(Tg+80)℃を超えた場合、又は、ラミロールとの接触時間が20msecを超えた場合には、テレフタル酸由来のベンゼン環とカルボニル基がランダムな配座をとる割合が高くなり、(I1725/I1615)が0.50未満となってしまう。
【0046】
さらにラミネートを行う前に、樹脂層については加熱を行うことが好ましい。樹脂層を予め軟化させておくことで、ラミネート時における、樹脂層断面内の温度分布をより均一なものとすることができる。これにより、樹脂層断面内の結晶構造も、金属板との界面から表層に到るまでの構造変化が緩やかなものとなって、より均質な性能を発揮することができる。具体的には、ラミネート前の樹脂層の温度を、Tg℃以上(Tg+30)℃以下に制御することが好ましい。
【0047】
ラミネート終了後は、すみやかにクエンチ(水冷)を行い、樹脂層の結晶構造を固定する必要がある。クエンチまでの時間は、1秒以内に制限する必要があり、好ましくは、0.7秒以内である。クエンチの水温は、樹脂層のTg以下であることが必要である。
【実施例
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0049】
(金属板の製造方法)
冷間圧延、焼鈍、調質圧延を施した厚さ0.22mm・幅977mmからなる鋼板を用い、脱脂、酸洗後、クロムめっきを行い、クロムめっき鋼板(TFS)を製造した。クロムめっきは、CrO、F、SO 2-を含むめっき浴中で電解めっきを行い、中間リンス後、CrO、Fを含む化成処理液中で電解処理を行った。化成処理の際、電解条件(電流密度・電気量等)を調整して金属クロム付着量とクロム水酸化物付着量を、Cr換算でそれぞれ120mg/m、15mg/mとした。
【0050】
(容器内外面側の樹脂被覆用フィルムの製造方法)
表1に示す樹脂組成のポリエステル樹脂を常法に従い、乾燥・溶融させ、Tダイより共押出した後、冷却ドラム上で冷却固化させ、未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを二軸延伸・熱固定して、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0051】
【表1】
【0052】
(容器用樹脂被覆金属板の製造方法)
前記で得たクロムめっき鋼板にポリエステルフィルムのラミネートを行った。片方の面に容器成形した後に容器外面側になるポリエステルフィルム(A)をラミネートするとともに、他方の面に容器内面側になるポリエステルフィルム(B)をラミネートした。図1に樹脂被覆鋼板の概略図を示す。
【0053】
ポリエステルフィルム(A)を金属板にラミネートする際に、金属板の表面温度は、ポリエステルフィルム(A)を構成するポリエステル樹脂層(a1)のTm℃以上(Tm+40)℃以下に制御した。また、ラミネートロール(a)表面温度は、ポリエステルフィルム(A)のTg℃以上(Tg+80)℃以下とした。ラミネートロール(b)の表面温度は、ポリエステルフィルム(B)の(Tg+10)℃以上(Tg+110)℃以下とし、金属板との接触時間は、10msec以上20msec以下とした。ラミネートロールa、bは、内部水冷式であり、ロール内に冷却水を循環させることで、フィルム接着中の温度制御を図った。ラミネート前の樹脂層の温度は、ポリエステルフィルム(A)の(Tg+30)℃以上(Tg+100)℃以下とし、樹脂層断面内の温度分布の均一化を図った。その後、金属帯冷却装置にて水冷を行い、容器用樹脂被覆金属板を製造した。
【0054】
(容器用樹脂被覆金属板の評価)
以上より得られた樹脂被覆金属板及び金属板上に有する樹脂層に対して以下の特性を測定、評価した。測定、評価方法を、下記に示す。
【0055】
(1)ラマン分光法によるフィルム表面の結晶性評価
熱処理前のラミネート金属板の平板サンプルについて、ラミネート鋼板の長手方向(0°)、幅方向(90°)のラマンピークの半値幅を求めた。なお、本実施例の場合、各長手方向と幅方向は、夫々フィルムの延伸方向に対応する。また、この測定から1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク強度と1615cm-1±5cm-1のC=Cピーク強度の比を求めた。
【0056】
つぎに、180℃×10分の熱処理を行い、熱処理後の平板サンプルの長手方向(0°)、幅方向(90°)、長手方向に対して時計回りに45°及び135°の角度で1725cm-1±5cm-1のラマンピークの半値幅を測定し、各方位の半値幅の差を求めた。
(測定条件)
測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製ラマン分光分析装置AlmegaXR
励起光源:半導体レーザー(λ=532nm)
顕微鏡倍率:×100
アパーチャ:25μmφ
測定方向:レーザー偏光面がラミネート金属板の断面に対して、それぞれフィルム長手方向(0°)、幅方向(90°)、長手方向から時計回りに45°、135°方向に平行になる方向
【0057】
(2)密着性
樹脂被覆金属板を長手方向に120mm、幅方向に30mmのサイズで切り出し、サンプルとした。サンプルの缶内面側の短辺からフィルムを一部剥離し、剥離した部分のフィルムを、フィルムが剥離されたクロムめっき鋼板とは反対方向(角度:180°)に開き、引張速度30mm/minでピール試験を行い、幅15mmあたりの密着力を評価した。
(評点)
◎◎:11N/15mm以上
◎:8N/15mm以上11N/15mm未満
〇:5N/15mm以上8N/15mm未満
×:2N/15mm未満
◎以上を所望の密着性を有すると判断した。
【0058】
(3)被覆性
樹脂被覆金属板にワックスを塗布後、直径165mmの円板を打ち抜き、絞り比1.52で浅絞り缶を得た。次いで、この浅絞り缶に対し、絞り比1.60で再絞り加工を行い、絞り缶を作製した。絞り缶のフィルムの加工状態を目視観察した。
(評点)
◎:成形後フィルムに損傷が認められない状態
○:成形可能であるが、部分的にフィルムの損傷(3mm未満)が認められる状態
×:缶が破胴し、成形不可能
〇以上を所望の被覆性を有すると判断した。
【0059】
(4)熱処理後成形サンプルのフィルム密着性(熱処理後加工性)
上記(3)の被覆性評価で成形可能(○以上)であった缶を対象とした。成形後の缶を用いて、引張速度30mm/minでピール試験を行い、幅15mmあたりの密着力を評価した。評価対象は、缶内面の缶胴部である。
(評点)
◎◎:7N/15mm以上
◎:5N/15mm以上7N/15mm未満
〇:3N/15mm以上5N/15mm未満
△:1N/15mm以上3N/15mm未満
×:1N/15mm未満
〇以上を所望の熱処理後加工性を有すると判断した。
【0060】
密着性、被覆性、熱処理後加工性の評価結果を表2にまとめた。
【0061】
【表2】
【0062】
本発明例は、密着性及び被覆性に優れ、さらに熱処理後加工性に優れる。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、密着性、被覆性、及び熱処理後加工性の少なくとも一つが劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の容器用樹脂被覆金属板は、食品缶詰用素材やエアゾール缶用素材に要求される容器用途、包装用途として好適である。そして、絞り加工等を行う容器用素材として用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 容器用樹脂被覆金属板
2 金属板
3、4 樹脂被覆層(フィルム)
【要約】
食品缶詰用素材に要求される樹脂フィルムの密着性及び被覆性の基本特性に優れ、さらに熱処理後加工性に優れる容器用樹脂被覆金属板を提供することを目的とする。
金属板の両面にポリエステル樹脂からなる延伸フィルムを被覆した容器用樹脂被覆金属板であって、前記ポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレート単位を92mol%以上含み、前記金属板に被覆後の前記フィルム表面の延伸方向のラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1のC=Oピーク半値幅が20cm-1から25cm-1であり、前記ラマン分光分析による1725cm-1±5cm-1にあるC=Oピーク強度と1615cm-1±5cm-1のC=Cピーク強度の比(I1725/I1615)が0.50以上0.70以下である、容器用樹脂被覆金属板。
図1