(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】白癬菌の遺伝子をLAMP法により検出するためのプライマーセット及びそれを含むキット並びにそれらを用いて白癬菌を検出する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/689 20180101AFI20221115BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20221115BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2018029718
(22)【出願日】2018-02-22
【審査請求日】2021-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592142670
【氏名又は名称】佐藤製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】槇村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一朗
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 良治
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/068218(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133153(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0029906(US,A1)
【文献】高野弘 ほか,LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法の原理と応用,モダンメディア,2014年,Vol. 60,pp. 211-231
【文献】YO, Ayaka et al.,Detection and identification of Trichophyton tonsurans from clinical isolates and hairbrush samples by loop-mediated isothermal amplification system,J. Dermatol.,2016年,Vol. 43,pp. 1037-1043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68-1/6897
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白癬菌の遺伝子をLAMP法により検出するためのプライマーセットであって、
(A)前記白癬菌がT. ルブラムであり、
配列番号1
~4で示される塩基配列からなる
4種のオリゴヌクレオチド
を含むか、又は、
(B)前記白癬菌がT. メンタグロフィテスであり、
配列番号7
~10で示される塩基配列からなる
4種のオリゴヌクレオチド
を含む、
プライマーセット。
【請求項2】
少なくとも1種のループプライマーをさらに含む、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
前記ループプライマーが、配列番号13又は14で示される塩基配列から選択される少なくとも1種の塩基配列の範囲内で相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである、請求項2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
前記ループプライマーが、配列番号5、6、11及び12で示される塩基配列から成る群から選択される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、請求項2又は3に記載のプライマーセット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプライマーセットを含む、試料中の白癬菌を検出するためのキットであって、
前記(A)のオリゴヌクレオチドが含まれている場合、前記白癬菌はT. ルブラムであり、
前記(B)のオリゴヌクレオチドが含まれている場合、前記白癬菌はT. メンタグロフィテスである、キット。
【請求項6】
試料中の白癬菌を検出する方法であって、以下の工程、
請求項1~4いずれか1項に記載のプライマーセット又は請求項5に記載のキットを用いて、該遺伝子中の核酸をLAMP法により増幅する工程、及び、
増幅された核酸を検出する工程、
を含み、前記プライマーセット又は前記キットに、
前記(A)のオリゴヌクレオチドが含まれている場合、前記白癬菌はT. ルブラムであり、
前記(B)のオリゴヌクレオチドが含まれている場合、前記白癬菌はT. メンタグロフィテスである、方法。
【請求項7】
前記増幅された核酸を、濁度測定、蛍光物質を用いた蛍光測定、イムノクロマトグラフィー、核酸ハイブリダイゼーション又は電気泳動により検出する、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白癬菌の遺伝子をLAMP法により検出するためのプライマーセット及びそれを含むキット並びにそれらを用いて該遺伝子を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白癬は、皮膚角質や爪を感染の場とする真菌症の一種である。トリコフィトン・ルブラム(Trichophyton rubrum、T. ルブラム)やトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes、T. メンタグロフィテス)などの皮膚糸状菌が、白癬患者から検出される白癬起因菌の90%以上を占める。その他の白癬起因菌には、カンジダ属真菌(特にカンジダ・アルビカンス)やアスペルギルス属真菌、フザリウム属真菌などが挙げられる。
日本国内の足白癬・爪白癬患者の罹患率は足白癬で25%、爪白癬で10%であると言われている。一方で、白癬症状に類似する所見を呈する非感染性疾患も多数存在しており、白癬を主訴として受診する患者のうち、実際に白癬であったのは2/3程度であって、他の患者は白癬ではなかったという結果が得られている。そのため、適切な治療法選択のために、より簡便で迅速な白癬の診断方法が求められている。
【0003】
白癬の診断方法としては、患部より採取した検体(爪、角質など)を、直接鏡検法又は培養法により分析する方法が知られている。直接鏡検法は、水酸化カリウムでタンパク質を融解させ菌体を露出させた後に、それを顕微鏡により観察する方法である。培養法は、選択培地上で菌を数週間培養して、コロニー等を詳細に観察することによりその菌種を同定する方法である。
【0004】
近年、分子生物学の発展により、白癬起因菌の同定に菌由来の核酸に対する核酸増幅検出法を用いることが可能となり、リアルタイムPCRやnested PCRを用いた方法が報告されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
一方、LAMP法は一定温度で迅速にDNAを増幅する方法あり、増幅されたDNAは、濁度又は蛍光検出などによって、目視でも確認可能となる方法である(特許文献2~4)。この方法を用いた先行報告として、百日咳菌やジフテリア毒素等の検出方法が知られているが(特許文献5及び6)、LAMP法を用いた白癬菌の検出方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-067605号公報
【文献】国際公開第00/28082号
【文献】国際公開第02/24902号
【文献】特開2001-242169号公報
【文献】特開2007-124970号公報
【文献】特開2007-228868号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】M. Ebihara et al., Br J Dermatol. 161(5):1038-44; 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
直接鏡検法では、菌種の同定は困難であり、偽陽性も高く、真菌要素の存在の確認にさえ熟練した技術が必要とされる。真菌培養法では、結果が得られるまで数週間を要し、感度も低い。特に爪白癬由来の検体は培養が難しいため、検体採取に熟練した技術が必要とされる。他方、nested PCR法及びリアルタイムPCR法は、厳密な温度管理のためにサーマルサイクラーを必要とし、増幅されたDNAの確認には、電気泳動装置やリアルタイム蛍光測定装置が必須である。そして、これらの方法は、実験室での精密な操作を必要とするので、臨床現場での診断法としては使用されていない。
したがって、本発明は、より簡便で迅速な白癬の診断方法、白癬菌の検出方法又は白癬菌の遺伝子の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、白癬菌の遺伝子のDNA配列に基づいて設計した少なくとも4種の特定のプライマーを用いると、LAMP法により簡便かつ迅速に該白癬菌の遺伝子を検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すプライマーセット及びそれを含むキット並びにそれらを用いた方法を提供するものである。
<1>配列番号1~4で示される塩基配列を含む4種のオリゴヌクレオチド、又は、配列番号7~10で示される塩基配列を含む4種のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、白癬菌の遺伝子をLAMP法により検出するためのプライマーセット。
<2>少なくとも1種のループプライマーをさらに含む、上記<1>に記載のプライマーセット。
<3>前記ループプライマーが、配列番号13~16で示される塩基配列から選択される少なくとも1種の塩基配列の範囲内に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである、上記<2>に記載のプライマーセット。
<4>前記ループプライマーが、配列番号5、6、11及び12で示される塩基配列から成る群から選択される塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、上記<2>又は<3>に記載のプライマーセット。
<5>前記白癬菌が、T. ルブラム又はT. メンタグロフィテスである、上記<1>~<4>のいずれか1項に記載のプライマーセット。
<6>上記<1>~<5>のいずれか1項に記載のプライマーセットを含む、試料中の白癬菌を検出するためのキット。
<7>前記白癬菌が、T. ルブラム又はT. メンタグロフィテスである、上記<6>に記載のキット。
<8>試料中の白癬菌を検出する方法であって、以下の工程、
上記<1>~<5>のいずれか1項に記載のプライマーセット又は上記<6>又は<7>に記載のキットを用いて、該遺伝子中の核酸をLAMP法により増幅する工程、及び、
増幅された核酸を検出する工程、
を含むことを特徴とする、方法。
<9>前記増幅された核酸を、濁度測定、蛍光物質を用いた蛍光測定、イムノクロマトグラフィー、核酸ハイブリダイゼーション又は電気泳動により検出する、上記<8>に記載の方法。
<10>前記白癬菌が、T. ルブラム又はT. メンタグロフィテスである、上記<8>又は<9>に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、LAMP法により簡便かつ迅速に白癬菌の遺伝子を検出することができる。そして、本発明は、白癬の診断又は白癬菌の検出において、以下の有利な効果を奏する。
1.例えば、爪又は皮膚角質検体から白癬菌を同定する場合、DNA抽出ステップを含めて約2日でT. ルブラム又はT. メンタグロフィテスの存在を調べることができるなど、短期間で感度の高い検出が可能である。
2.LAMP法による核酸増幅のため、濁度測定、蛍光物質を用いた蛍光測定、イムノクロマトグラフィー、核酸ハイブリダイゼーション及び電気泳動などの様々な方法により増幅産物の有無を判定することが可能であり、特に、検出濁度測定又は蛍光物質を用いた蛍光測定は、他の方法と比較して短時間で判定することができる。
3.熟練した技術を必要としないため、白癬菌の存在を機械的に判定できる。
4.対象の真菌の判定に適切な選択培地の選択及び用意の手間を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の4種のオリゴヌクレオチドを含むプライマーセットを用いたLAMP法によって増幅されたDNAの蛍光測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載の「白癬菌」とは、トリコフィトン属、ミクロスポルム属(Microsporum)又はエピデルモフィトン(Epidermophyton)属などの真菌のことをいう。前記白癬菌は、例えば、T. ルブラム、T. メンタグロフィテス、T.トンスランス(tonsurans)又はミクロスポルム・カニス(canis)であってもよく、好ましくはT. ルブラム又はT. メンタグロフィテスである。
【0014】
本明細書に記載の「白癬菌の遺伝子」とは、前記白癬菌の属又は種に特徴的な遺伝子のことをいい、該属又は種を特定するのに有用であり得る。前記白癬菌の遺伝子は、例えば、T. ルブラム、T. メンタグロフィテス又はT.トンスランスの遺伝子であってもよく、好ましくは、表1に示されているようなGenBank登録番号U18352(配列番号13)のT. ルブラムの遺伝子又はGenBank登録番号KC146353(配列番号14)のT. メンタグロフィテスの遺伝子である。
【0015】
【0016】
本明細書に記載の「LAMP法」とは、前記特許文献2~4に示されているように、等温で連続的に進行する鎖置換反応によって、末端にヘアピン構造を有する増幅産物を生成する、複数のプライマーによる遺伝子増幅法のことをいう。まず、初期反応において、2種類のインナープライマー(FIP、BIP)と2種類のアウタープライマー(F3プライマー、B3プライマー)及び鎖置換型DNAポリメラーゼにより鋳型DNAから両端に一本鎖ループ部分をもつダンベル状の構造が合成される。この構造が増幅サイクルの起点構造となって、この構造の3'末端側から自己を鋳型としてDNAの伸長・合成反応が進む。増幅産物は多数の繰り返し構造からなり、繰り返し構造の単位はプライマーに挟まれた被増幅領域を構成する2本の核酸の塩基配列が逆向きになった同一鎖内の相補性領域からなる。鋳型がRNAの場合には、鋳型がDNAの場合の反応液組成にさらに逆転写酵素を添加することで同様に起点構造を合成することができ、増幅を進めることができる(特許文献2)。
【0017】
上述のように、LAMP法には少なくとも4種のプライマーが必要である。増幅する標的DNAの、3'末端側から順にF3c、F2c、F1cという領域を、5'末端側から順にB3、B2、B1という領域を規定し、少なくともこの6つの領域に対して、実質的に同一又は相補的なオリゴヌクレオチドの塩基配列に基づいて、前記少なくとも4種のプライマーを設計する。オリゴヌクレオチドを構成する塩基配列の特徴付けのために用いられる同一又は相補的という用語は、いずれも完全に同一又は完全に相補的であることを要しない。すなわち、ある配列と「同一」とは、ある配列に対してハイブリダイズすることができる塩基配列に対して相補的な配列をも含むことができる。他方、「相補的」とは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができ、相補鎖合成の起点となる3'末端を提供することができる配列を意味する。「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような塩濃度及び/又は温度条件のことをいい、例えばKCl、MgSO4及び/又は(NH4)2SO4をそれぞれ5~15mM含む増幅反応液を55~70℃でインキュベートするという条件であってもよい。
【0018】
標的DNAの塩基配列に基づいて設計されるプライマーは、それぞれFIP、F3プライマー、BIP及びB3プライマーのいずれかを構成する。FIPは、標的DNAのF2c領域と実質的に相補的なF2領域の塩基配列を3'末端にもち、5'末端に標的DNAのF1c領域と実質的に同一の塩基配列をもつように設計する。この場合において、F2及びF1cの配列間に標的DNAに依存しない配列が介在していてもよい。前記標的DNAに依存しない配列の長さは0~50塩基、好ましくは0~40塩基であってもよい。F3プライマーは、標的DNAのF3c領域と実質的に相補的なF3領域と実質的に同一の塩基配列をもつように設計する。BIPは、標的DNAのB2c領域と実質的に相補的なB2領域の塩基配列を3'末端にもち、5'末端に標的DNAのB1c領域と実質的に同一の塩基配列をもつように設計する。BIPもFIPと同様に、B2及びB1cの配列の間に標的DNAに依存しない配列が介在していてもよい。B3プライマーは、標的DNAのB3c領域と実質的に相補的なB3領域と実質的に同一の塩基配列をもつように設計する。
【0019】
本発明のプライマーセットに含まれる「4種のオリゴヌクレオチド」は、前述のFIP、F3プライマー、BIP及びB3プライマーに相当し、前記白癬菌の遺伝子の塩基配列に基づいて設計され得る。前記FIP又はBIPの長さは、30~50塩基であってもよく、好ましくは35~45塩基である。前記F3プライマー又はB3プライマーの長さは、15~25塩基であってもよく、好ましくは18~22塩基である。表2に、前記白癬菌の遺伝子の塩基配列における、F3c、F2c、F1c、B1、B2及びB3領域を例示する。
【0020】
【0021】
表3に本発明の例示的なプライマー及びその塩基配列を示すが、これらと実質的に同一のプライマーも使用することができる。すなわち、各プライマーの塩基配列は、LAMP法によって標的遺伝子を増幅するという機能を有する限りは、1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有してもよい。
【0022】
【0023】
本明細書に記載の「ループプライマー」とは、前記ダンベル状の構造の5'末端側のループの1本鎖部分(例えば、B1領域とB2領域の間又はF1領域とF2領域の間)に相補的な配列を有するプライマーのことをいう。LAMP法では、前記ループプライマーを少なくとも1種以上併用することにより、DNA合成の起点を増やすことができるので、増幅時間を短縮することが可能となる(特許文献3)。前記ループプライマーは、DNA合成過程でできたFIP又はBIPがハイブリダイズしないループ領域にハイブリダイズするように設計する。
【0024】
ある態様では、前記プライマーセットは、少なくとも1種以上のループプライマーを含んでもよい。任意のループプライマーは、U18352の100~121位若しくは166~208位、又は、KC146353の76~105位若しくは149~182位の範囲で設計されてもよい。前記ループプライマーの長さは、10~25塩基であってもよく、好ましくは15~20塩基である。
【0025】
表4に本発明の例示的なループプライマー及びその塩基配列を示すが、これらと実質的に同一のプライマーも使用することができる。すなわち、各プライマーの塩基配列は、LAMP法によって標的遺伝子を増幅するという機能を有する限りは、1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有してもよい。
【0026】
【0027】
ある態様では、本発明のプライマーセットは、「試料中の白癬菌を検出するためのキット」に含まれる。前記キットは、前記プライマーセットの他に、例えば、Bst DNAポリメラーゼ、反応バッファー、dNTPs、陽性対照用DNA、反応チューブ又は取扱説明書を含んでもよい。
【0028】
本明細書に記載の「試料」とは、白癬菌若しくはその遺伝子又はそれを含む組成物のことをいう。前記試料としては、種々のものを採用することができ、例えば、白癬患者若しくは白癬が疑われる患者の検体、又は、実験室で培養した菌株であってもよい。前記検体は、皮膚又は爪若しくは体毛などの皮膚付属器であってもよく、これらは、生体から直接採取したものであっても、衣類や日用品などに付着若しくは環境中に分散したものであってもよい。前記試料から、周知の方法でDNA又はRNAなどの核酸を抽出して、LAMP法の鋳型として使用することができる。
【0029】
本明細書に記載の「核酸をLAMP法により増幅する」工程では、DNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社、品番LMP206)の添付文書に記載されている方法などの、当技術分野で用いられているLAMP法を制限なく用いることができる。例えば、前記プライマーセットを含むプライマー混合液、Bst DNAポリメラーゼ、反応バッファー、dNTPs及び蒸留水を混合し、反応チューブに分注して、そこに前記試料又はそれから抽出した核酸を鋳型として添加する。前記反応チューブを、例えば55~70℃、好ましくは60~65℃で30~90分間インキュベートして、前記核酸を増幅する。前記プライマー混合液は、FIP、F3プライマー、BIP及びB3プライマーを、モル比で6~10:0.5~1.5:6~10:0.5~1.5の割合で混合して調製してもよく、好ましくは7~9:0.8~1.2:7~9:0.8~1.2の割合で混合して調製する。任意のループプライマーLF及びLBを用いる場合には、前記プライマー混合液は、FIP、F3プライマー、BIP及びB3プライマー並びにループプライマーLF及びLBを、モル比で6~10:0.5~1.5:6~10:0.5~1.5:2~6:2~6の割合で混合して調製してもよく、好ましくは7~9:0.8~1.2:7~9:0.8~1.2:3~5:3~5の割合で混合して調製する。
【0030】
本明細書に記載の「増幅された核酸を検出する」工程は、公知の方法により行うことができる。例えば、前記増幅された核酸は、増幅産物を含む溶液の濁度測定、蛍光物質を用いた蛍光測定、イムノクロマトグラフィー、核酸ハイブリダイゼーション又は電気泳動により検出してもよく、該検出は、目視により行うことができる。あるいは、前記濁度測定の場合には、リアルタイム濁度測定装置により経時的に濁度を測定してもよく、又は、濁度測定装置により最終産物の濁度を測定してもよい。蛍光測定の場合には、例えば蛍光物質を反応チューブに添加し、リアルタイムPCR装置により蛍光度を測定してもよく、蛍光光度計により最終産物の蛍光を測定してもよい。前記蛍光物質としては、溶液中の核酸の解析又はLAMP反応の進行度の解析に用いられる種々のものを採用することができ、例えば、YO-PRO-1若しくはサイバーグリーン(SYBR Green)などのインターカレーター、又は、LAMP反応の副産物(ピロリン酸イオンなど)で活性化されるカルセインであってもよい。
【0031】
前記試料中に標的の遺伝子が含まれていた場合は、前記増幅する工程により該遺伝子が増幅される。他方、前記試料中に標的の遺伝子が含まれていない場合は、何の核酸も増幅されない。したがって、本発明に従って、前記試料中の白癬菌の遺伝子の有無を判定することができ、白癬菌を検出又は白癬患者を診断することができる。また、前記プライマーセットは、異なる白癬菌の種に由来する遺伝子を標的としているので、前記患者が、T. ルブラム若しくはT. メンタグロフィテスのいずれか又は両方に感染しているかを診断することができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
この実施例では、本発明の4種のオリゴヌクレオチドが、LAMP法におけるプライマーセットとして機能し、標的遺伝子を増幅できることを示す。
プラスミドDNAは、QIAGEN Plasmid Midi Kit(株式会社キアゲン、品番12143)を用いて、T. ルブラム遺伝子組み換え大腸菌から抽出した。LAMP法用の2×DNA増幅試薬及びBst DNA ポリメラーゼは、DNA増幅試薬キット(栄研化学株式会社、品番LMP206)として市販されているものを使用した。LAMP増幅反応液は、2×DNA増幅試薬を12.5μL、100μMプライマー混合液(TrF3:TrB3:TrFIP:TrBIP=1:1:8:8(モル比))を2.6μL、10μMのYO-PRO-1(インビトロジェン、品番Y3603)を2.5μL、Bst DNA ポリメラーゼを1.0μL、プラスミドDNAを2.0μL(1.4×1010コピー)、そして、全量25μLまでのUltraPureTM DNase/Rnase-Free Distilled Water(インビトロジェン、品番10977)を混合して調製した。陰性対照として、プラスミドDNAを含まないLAMP増幅反応液を調製した。このLAMP増幅反応液を57℃でインキュベートし、1サイクル2分ごとに蛍光を測定した。
【0033】
結果を
図1に示す。T. ルブラムの標的遺伝子を含むプラスミドDNAを含むLAMP増幅溶液(A)では、50サイクルから蛍光強度が増加したが、陰性対照(B)では、蛍光強度は増加しなかった。このことは、TrF3、TrB3、TrFIP及びTrBIPの4種のプライマーによって、T. ルブラムの標的遺伝子が増幅されたことを示す。したがって、本発明の4種のオリゴヌクレオチドを含むプライマーセットが、白癬菌の遺伝子をLAMP法により検出するのに有用であることがわかった。
【0034】
実施例2
この実施例では、本発明の4種のオリゴヌクレオチド及び2種のループプライマーが、LAMP法におけるプライマーセットとして機能し、標的遺伝子を増幅することができることを示す。
鋳型DNAとして、プラスミドDNA又はゲノムDNAを使用した。プラスミドDNAは、QIAGEN Plasmid Midi Kitを用いて、T. ルブラム遺伝子組み換え大腸菌又はT. メンタグロフィテス遺伝子組み換え大腸菌から抽出した。ゲノムDNAは、QIAamp(R) DNA Micro Kit(株式会社キアゲン、品番56304)を用いて、T. ルブラム又はT. メンタグロフィテスに感染していることが既知の手段で明らかになっている爪検体から抽出した。プライマー混合液は、T. ルブラム検出用のプライマーセット(TrF3、TrB3、TrFIP、TrBIP、TrLF及びTrLB;プライマーセットTr)又はT. メンタグロフィテス検出用のプライマーセット(TmF3、TmB3、TmFIP、TmBIP、TmLF及びTmLB;プライマーセットTm)を、F3:B3:FIP:BIP:LF:LB=1:1:8:8:4:4の割合で混合して調製した。表5に示すように、LAMP増幅反応液を調製し、増幅反応を行った。増幅されたDNAに対してインターカレートする蛍光物質(YO-PRO-1)のシグナルを、リアルタイムPCR装置(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社、StepOnePlus、CT-97)により測定した。
【0035】
【0036】
表6に、蛍光強度が閾値を超えたときのサイクル数(Ct値)を示す。プライマーセットTrを使用した反応液では、T. ルブラムの遺伝子を含む鋳型DNAが増幅され、プライマーセット
Tmを使用した反応液では、T. メンタグロフィテスの遺伝子を含む鋳型DNAが増幅された。したがって、プライマーセットTr又はプライマーセットTmによって、T. ルブラム又はT. メンタグロフィテスの標的遺伝子を、それぞれ増幅して検出することができることがわかった。
【表6】
【0037】
実施例3
この実施例では、各プライマーセットを用いた反応の特異性を示す。
鋳型DNAとして白癬菌陰性爪由来DNA及び16種類の真菌種由来ゲノムDNAを適正量(5~100ng)用い、実施例2に記載の方法に従って、プライマーセットTr又はプライマーセットTmを含む反応液を使用したDNAの増幅及び検出を行った。表7に、使用した真菌種及びプライマーセットの反応特異性を示す。
【0038】
【0039】
プライマーセットTrを含む反応液では、鋳型DNAがT. ルブラムの遺伝子を含むときにだけDNAの増幅が検出され、プライマーセットTmを含む反応液では、鋳型DNAがT. メンタグロフィテスの遺伝子を含むときにだけDNAの増幅が検出された。白癬菌でない真菌類由来のDNAは、いずれの反応液でも増幅されなかった。したがって、プライマーセットTr又はプライマーセットTmを含む反応液を使用すれば、それぞれT. ルブラム及びT. メンタグロフィテスの遺伝子が特異的に増幅されるので、試料中の白癬菌、特にT. ルブラム又はT. メンタグロフィテスの存在を特異的に検出できることがわかった。
【0040】
従来の真菌培養法では、結果が得られるまで数週間、例えば8週間かかる上に感度も低く、特に爪白癬由来の検体は培養が難しいため熟練した操作が必要だった。一方、LAMP法では、結果が得られるまでせいぜい2日程度しかかからず、操作も比較的容易であり、高度な装置はもちろん選択培地の用意さえ不要であった。
【0041】
以上より、本発明の少なくとも4種のオリゴヌクレオチドを含むプライマーセットによって、検体などの試料中の白癬菌の遺伝子をLAMP法により特異的に感度よく検出することが可能となった。そして、その検出結果は、従来の方法による結果と十分に対応するが、従来の方法より簡便かつ迅速に得ることができるものである。
【0042】
本明細書に記載のプライマーセットに代えて、表8及び表9に記載のプライマーセットを使用して、白癬菌の遺伝子をLAMP法により検出することも可能である。
【0043】
【0044】
【配列表】