(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工
(51)【国際特許分類】
D06M 13/44 20060101AFI20221115BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20221115BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
D06M13/44
C09K21/12
D06M101:32
(21)【出願番号】P 2019525593
(86)(22)【出願日】2018-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2018023045
(87)【国際公開番号】W WO2018235756
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017122436
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592092032
【氏名又は名称】大京化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591286270
【氏名又は名称】株式会社伏見製薬所
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【氏名又は名称】川上 桂子
(74)【代理人】
【識別番号】100216770
【氏名又は名称】三品 明生
(74)【代理人】
【識別番号】100217364
【氏名又は名称】田端 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】岩城 輝文
(72)【発明者】
【氏名】小山 重人
(72)【発明者】
【氏名】多田 祐二
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-291467(JP,A)
【文献】特開2001-316454(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110785(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC D06M 13/00 - 15/715
C09K 21/00 - 21/14
D06M 101/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)
【化1】
で表されるアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを含むポリエステル系合成繊維構造物のための難燃剤。
【請求項2】
請求項1に記載の前記難燃剤が界面活性剤の存在下に溶媒に分散されてなるポリエステル系合成繊維構造物のための難燃加工剤。
【請求項3】
溶媒が水である請求項2に記載のポリエステル系合成繊維構造物のための難燃加工剤。
【請求項4】
請求項1に記載の前記難燃剤によって難燃加工された難燃加工ポリエステル系合成繊維構造物。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の前記難燃加工剤によってポリエステル系合成繊維構造物を難燃加工することを特徴とするポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工方法。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の前記難燃加工剤をポリエステル系合成繊維構造物に付着させ、乾燥させた後、80~200℃の温度で熱処理することを特徴とするポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系合成繊維構造物のための難燃加工に関し、詳しくは、アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンからなり、ポリエステル系合成繊維構造物に後加工によって難燃性を付与するポリエステル系合成繊維構造物のための難燃剤、そのような難燃剤によって難燃加工されたポリエステル系合成繊維構造物、そのような難燃剤を含む難燃加工剤、そのような難燃加工剤を用いるポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工方法、更には、そのような難燃加工方法によって得られる難燃加工ポリエステル系合成繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系合成繊維構造物に後加工によって難燃性を付与する方法が種々知られている。後加工の代表的な方法として、例えば、浴中処理法やパディング法を挙げることができる。
【0003】
ポリエステル系合成繊維構造物に後加工によって難燃性を付与する方法としては、古くは、リン酸グアニジンやリン酸カルバメートのような水溶性塩類を難燃加工剤として、パディング法にてポリエステル系合成繊維構造物に付与する方法が主流であったが、このような水溶性塩類によって加工された難燃加工ポリエステル系合成繊維構造物は、吸放湿により繊維構造物の表面に結晶物が析出したり、また、繊維構造物の表面に水が付着した場合に際付き(きわつき)とも称される輪染みを生じたりする問題があった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そこで、これまでも、上述したような問題に対応すべく、ハロゲン系化合物やリン系化合物を乳化物又は分散物とし、それを浴中処理法やパディング法によってポリエステル系合成繊維構造物に付与する方法が研究されてきた(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0005】
上記ハロゲン系化合物の代表的なものとして、例えば、1,2,5,6,9,10-ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)が知られているが、近年、この化合物は環境に有害であることから、その使用が規制されるに至っている。
【0006】
一方、上記リン系化合物としては、リン酸エステルやリン酸アミドが知られている。これらの従来から知られているリン酸エステルやリン酸アミドは、ポリエステル系合成繊維との親和性が十分とは言えず、これらのリン酸エステルやリン酸アミドをポリエステル系合成繊維構造物にパディング法で付与して難燃加工したとき、繊維構造物の表面に未固着のリン酸エステルやリン酸アミドが残留するので、難燃加工したポリエステル系合成繊維構造物をその難燃加工後に洗浄することが必須であった。そして、上記難燃加工後の洗浄を行わないときは、得られるポリエステル系合成繊維構造物にチョークマークを生じたり、摩擦堅牢度が著しく低下する問題があった。
【0007】
更に、上記リン酸エステルやリン酸アミドはリン含有量が少ないので、これらをポリエステル系合成繊維構造物に付与して、十分な難燃性を達成するには、上記難燃剤を多量に付与する必要があり、風合いの低下等の問題もあった。
【0008】
一方、これまでも、分子中にアミノ基、フェノキシ基及び/又はメトキシ基を有する幾つかの環状ホスファゼン化合物が高いリン含有量を有することから、ポリエステル系合成繊維構造物のための難燃剤として用いることが既に幾つか提案されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0009】
しかし、上述したように、従来、難燃剤として提案されている環状ホスファゼン化合物は、その構造や置換基の種類にもよるが、水への分散性が悪い、ポリエステル系合成繊維構造物との親和性に劣る、又は湿熱下で加水分解しやすい等の理由から、そのような環状ホスファゼン化合物を難燃剤として用いて難燃加工したポリエステル系合成繊維構造物は、チョークマークが発生したり、繊維構造物の表面に水が付着した場合に際付きを生じたり、又は繊維構造物の表面に経時的に結晶物が析出したりする等の種々の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-38374号公報
【文献】特公昭53-8840号公報
【文献】特開2003-193368号公報
【文献】特開平8-291467号公報
【文献】特開平10-298188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、従来のポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工のための難燃剤における上述した問題を解決するために、アミノ基及び/又はフェノキシ基を有する種々の新規な環状ホスファゼン化合物の製造とその難燃性能について広範囲に且つ詳細に研究した結果、アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンが加水分解し難く、安定であり、しかも、ポリエステル系合成繊維構造物との親和性にもすぐれており、ポリエステル系合成繊維構造物のための難燃剤として有用であることを見出した。
【0012】
即ち、本発明者らは、上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを界面活性剤の存在下で溶媒に分散させて難燃加工剤とし、この難燃加工剤を用いて、例えば、パディング法にてポリエステル系合成繊維構造物に難燃加工を施すことによって、難燃加工後の洗浄をせずとも、際付きやチョークマークの発生、摩擦堅牢度の低下、経日的な変色や結晶析出等のポリエステル系繊維構造物の物性低下を伴うことなしに、満足すべき難燃性をポリエステル系合成繊維構造物に付与し得ることを見出して、本発明に到ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、下記構造式(1)
【0014】
【0015】
で表されるアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを含むポリエステル系合成繊維構造物のための難燃剤が提供される。
【0016】
また、本発明によれば上記難燃剤が界面活性剤の存在下に溶媒に分散されてなるポリエステル系合成繊維構造物のための難燃加工剤が提供される。
【0017】
特に、上記難燃剤が界面活性剤の存在下に、溶媒として水に分散されてなるポリエステル系合成繊維構造物のための難燃加工剤が提供される。
【0018】
更に、本発明によれば、上記難燃剤によって難燃加工された難燃加工ポリエステル系合成繊維構造物が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、上記難燃加工剤によってポリエステル系合成繊維構造物を難燃加工することを特徴とするポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工方法、特に、上記難燃加工剤をポリエステル系合成繊維構造物に付着させ、乾燥させた後、80~200℃の温度で熱処理するポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工方法や、上記難燃加工剤をポリエステル系合成繊維構造物に100~140℃の温度で浴中処理するポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工方法が提供される。
【0020】
上記に加えて、本発明によれば、上記難燃加工方法によって難燃加工された難燃加工ポリエステル系合成繊維構造物が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明による難燃剤を含む難燃加工剤を用いて、ポリエステル系合成繊維構造物に難燃加工を施すことによって、際付きやチョークマークの発生、摩擦堅牢度の低下、経日的な変色や結晶析出等のポリエステル系繊維構造物の物性低下を伴うことなしに、満足すべき難燃性をポリエステル系合成繊維構造物に付与することができる。しかも、本発明による難燃加工剤を用いるポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工によれば、難燃加工後のポリステル系合成繊維構造物の洗浄を必要としないので、難燃加工における負荷を大幅に軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、ポリエステル系合成繊維構造物とは、少なくともポリエステル繊維を含む繊維と、そのような繊維を含む糸、綿、編織布や不織布等の布帛をいい、好ましくは、ポリエステル繊維、これよりなる糸、綿、編織布や不織布等の布帛をいう。更に、上記編織布や不織布等の布帛は、単層であっても、2層以上の積層体であってもよく、また、糸、綿、編織布や不織布等からなる複合体であってもよい。
【0023】
本発明において、上記ポリエステル繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5-スルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリオキシベンゾイル、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリ(D-乳酸)、ポリ(L-乳酸)、D-乳酸とL-乳酸の共重合体、D-乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体、L-乳酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)等のポリカプロラクトン、ポリリンゴ酸、ポリヒドロキシカルボン酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、β-ヒドロキシ酪酸(3HB)-3-ヒドロキシ吉草酸(3HV)ランダム共重合体等のポリ脂肪族ヒドロキシカルボン酸、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート-アジペート共重合体等のグリコールと脂肪族ジカルボン酸とのポリエステル等を挙げることができるが、しかし、これら例示したものに限定されるものではなく、更に、難燃剤等の機能性化合物をポリエステルの製造時にポリエステルに共重合させたもの、また、重合時又は製糸時に抗菌剤等の機能性化合物をブレンドしたものであってもよい。
【0024】
本発明に従って難燃加工されたポリエステル系合成繊維構造物は、例えば、座席シート、シートカバー、カーテン、壁紙、天井クロス、カーペット、緞帳、建築養生シート、テント、帆布等に好適に用いられる。
【0025】
本発明によるポリエステル系合成繊維構造物の難燃剤は、下記構造式(1)
【0026】
【0027】
で表されるアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを含む。
【0028】
上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンは、例えば、適宜の有機溶剤中、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンにナトリウムフェノキシドを反応させて、モノクロロペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを主成分とする反応混合物を得、次いで、耐圧容器中、密閉条件下に適宜の有機溶剤中、上記化合物にアンモニアを反応させ、得られた反応混合物から副生物を除去することによって得ることができる。
【0029】
勿論、本発明による難燃剤は、その効果が損なわれない範囲において、その他のアミノフェノキシシクロトリホスファゼンや、更には、従来、知られているその他の難燃剤を含んでいてもよい。
【0030】
本発明によれば、上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンからなる難燃剤は、それらが適宜の溶媒に分散されてなる難燃加工剤として好適に用いられる。
【0031】
即ち、本発明によるポリエステル系合成繊維構造物のための難燃加工剤は、上述した難燃剤が界面活性剤の存在下に溶媒に分散されてなるものである。ここに、上記難燃加工剤における上記難燃剤のための好ましい溶媒、即ち、分散媒は水である。
【0032】
しかし、本発明によれば、難燃加工剤としての性能を阻害しない範囲であれば、上記分散媒は有機溶媒でもよく、また、有機溶媒、特に、水溶性有機溶媒と水の混合物であってもよい。
【0033】
従って、本発明による難燃加工剤は、好ましくは、上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを界面活性剤と共に水に混合し、湿式粉砕機を用いて粉砕して、微粒子化させることによって得ることができる。
【0034】
本発明においては、上記界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤のいずれをも用いることができる。
【0035】
しかし、本発明によれば、なかでも、界面活性剤としては、
(a)下記一般式(I)
【0036】
【0037】
(式中、Rは炭素数6~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、飽和であっても、不飽和であってもよい。mはエチレンオキシドの平均付加モル数を表し、平均で1~20の整数であり、nはプロピレンオキシドの平均付加モル数を表し、平均で1~20の整数である。)
で表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、
(b)下記一般式(II)
【0038】
【0039】
(式中、R1はベンジル基、スチリル基又はクミル基を表し、mは平均で1~3の整数であり、nはエチレンオキシドの付加モル数を表し、平均で5~30の整数であり、M1+ はアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。)
で表されるアリール化フェノールエチレンオキシド付加物の硫酸エステル塩及び
(c)下記一般式(III)
【0040】
【0041】
(式中、M2+ はアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを示し、a及びcはそれぞれ独立に平均で1~3の数であり、b及びdはエチレンオキシドの付加モル数を表し、それぞれ独立に平均で5~30の数である。)
で表されるスチレン化フェノールエチレンオキシド付加物のスルホ琥珀酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0042】
上記一般式(II)で表されるアリール化フェノールエチレンオキシド付加物の硫酸エステル塩又は上記一般式(III)で表されるスチレン化フェノールエチレンオキシド付加物のスルホ琥珀酸エステル塩において、M1+ 又はM2+ がアルカリ金属イオンである時は具体的には、好ましくは、ナトリウムイオン又はカリウムイオンである。
【0043】
本発明において、界面活性剤は、上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼン100重量部に対して、通常、3~15重量部の範囲で用いられる。
【0044】
上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼン100重量部に対して、用いる界面活性剤の量が15重量部よりも多いときは、得られる難燃加工ポリエステル系合成繊維構造物の摩擦堅牢度が低下し、また、際付きが生じるおそれがある。他方、用いる界面活性剤の量が3重量部よりも少ないときは、上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを水に分散できないことがある。
【0045】
また、本発明において、難燃加工剤における難燃剤の量は、特に、限定されるものではないが、通常、20~50重量%の範囲である。
【0046】
本発明において、上記界面活性剤を水に分散させるときに有害な影響を与えない範囲において、必要に応じて、上記界面活性剤と共に、上記以外の他のアニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤を併用してもよい。また、必要に応じて、上記界面活性剤に代えて、カチオン系界面活性剤を用いてもよい。
【0047】
上記以外の他のアニオン系界面活性剤としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル塩等の硫酸エステル塩や、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物リン酸エステル塩、ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、スチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体のハーフエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、スチレン-無水マレイン酸共重合体のハーフエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリアクリル酸金属塩等を挙げることができる。
【0048】
上記以外のノニオン系界面活性剤としては、例えば、アリール化フェノールアルキレンオキシド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物、高級アルコールアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、多価アルコール脂肪族エステルアルキレンオキシド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキシド付加物等のポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤や、アルキルグリコキシド、ショ糖脂肪酸エステル等の多価アルコール型ノニオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0049】
また、カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、ポリエチレンポリアミン誘導体等を挙げることができる。
【0050】
本発明において、上記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、アリール化フェノールエチレンオキシド付加物の硫酸エステル塩及びスチレン化フェノールエチレンオキシド付加物のスルホ琥珀酸エステル塩のいずれかと併用するに際して、上記のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤又はカチオン系界面活性剤は、単独で用いてもよく、また、必要に応じて2種類以上を組み合わせてもよい。
【0051】
本発明において、上記界面活性剤以外に、難燃加工剤の性能が阻害されない範囲において、貯蔵安定性を高めると同時に前記難燃剤を分散させる目的で、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、デンプン糊等の保護コロイド剤を分散助剤として含んでいてもよい。
【0052】
また、本発明において、前記難燃剤を分散させる分散媒として用いることができる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、エチルセロソルブ等のエーテル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、メチレンクロライド、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類を挙げることができる。
【0053】
特に、本発明においては、上記有機溶媒は、好ましくは、メタノール等のアルコール類、アセトン、エチルセロソルブ等のエーテル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等の水溶性有機溶媒を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独にて、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、水と混合して用いられる。
【0054】
一般に、ポリエステル系合成繊維構造物に難燃剤を付与して難燃加工する際に、上記難燃剤の平均粒子径は、その加工によってポリエステル系合成繊維構造物に与えられる難燃性能に重要な影響を及ぼす。難燃剤は、その平均粒子径が小さいほど、ポリエステル系合成繊維構造物に高い難燃性能を与えることができるので好ましい。一方、難燃剤は、その平均粒子径が大きいほど、難燃加工剤としての貯蔵安定性が悪く、難燃剤が難燃加工剤中で沈殿し、固まりになって、所謂ハードケーキを形成するので、好ましくない。
【0055】
そこで、本発明によれば、前記難燃加工剤を用いて、ポリエステル系合成繊維構造物に難燃加工を施すに際して、難燃剤がポリエステル系合成繊維構造物の内部に十分に拡散し、付着して、難燃剤による難燃性能が耐久性を有するように、前記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンは、平均粒子径が3μm以下の微粒子として水に分散されてなる難燃加工剤として用いられることが好ましく、特に、平均粒子径が0.3~1.0μmの範囲にある微粒子として水に分散されていることが好ましい。
【0056】
本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系合成繊維構造物を難燃加工するに際して、難燃加工剤は、通常、水に希釈して、加工液として用いられる。このような加工液は本発明によるアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを、通常、0.5~5重量%の範囲で含むことが好ましい。
【0057】
また、本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系合成繊維構造物を難燃加工するに際して、難燃剤アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンのポリエステル系合成繊維構造物に対する必要な付着量は、対象とするポリエステル系合成繊維構造物の形態や種類によって異なるので、限定されるものではないが、通常、0.5~5重量%の範囲である。
【0058】
必要な付着量が5重量%を越えるときは、難燃加工後のポリエステル系合成繊維構造物の風合いが粗硬になる等の不具合を生じる場合がある。
【0059】
本発明による難燃剤を用いて、ポリエステル系合成繊維構造物に難燃性を付与するには、ポリエステル系合成繊維の紡糸時に本発明による難燃剤を練り込む方法によることもできるが、前述したように、本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系合成繊維構造物に後加工として難燃加工を施す方法によることが好ましい。
【0060】
ポリエステル系合成繊維構造物に後加工によって難燃性を付与する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、好ましい1つの方法として、難燃加工剤をポリエステル系合成繊維構造物に付着させ、乾燥させた後、80~200℃の温度で1~5分間熱処理して、本発明によるアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを繊維内部へ吸尽させる方法を挙げることができる。この方法において、ポリエステル系合成繊維構造物に難燃加工剤を付着させるには、例えば、パディング法、スプレー法、コーティング法等によることができる。
【0061】
パディング法は、難燃加工剤又はこれを希釈した加工液に、例えば、布帛のようなポリエステル系合成繊維構造物を浸漬した後、上記布帛をローラー(マングル)にて絞って、難燃剤を上記布帛に付着させる方法である。スプレー法は、難燃加工剤又はこれを希釈した加工液を布帛に霧状に噴霧して、上記布帛に難燃剤を付着させる方法である。また、コーティング法は、難燃加工剤を増粘し、これを布帛の裏面に均一に塗布して、難燃剤を布帛に付着させる方法である。
【0062】
本発明によれば、このようにして、ポリエステル系合成繊維構造物にアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを付着させた後、乾燥させ、上述したように、80~200℃の温度で1~5分間熱処理して、アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを繊維内部へ吸尽させ、かくして、ポリエステル系合成繊維構造物に難燃剤を付与して、すぐれた難燃性を与えることができる。
【0063】
また、本発明による難燃加工剤を用いて、ポリエステル系合成繊維構造物を難燃加工する別の方法として、例えば、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機等のパッケージ染色機を用い、難燃加工剤又はこれを希釈した加工液にポリエステル系合成繊維構造物を浸漬し、100~140℃の温度で浴中処理して、難燃剤を繊維内部へ吸尽させる浴中処理法を挙げることができる。
【0064】
本発明によれば、このような浴中処理によるポリエステル系合成繊維構造物への難燃加工剤の付与は、ポリエステル系合成繊維構造物を染色する前、染色と同時又は染色した後のいずれの工程に行ってもよい。
【0065】
本発明による難燃加工剤は、その性能が阻害されない範囲において、必要に応じて、前述した以外に、難燃加工剤の難燃性を高めるための難燃助剤、耐光堅牢度を高めるための紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい。更に、必要に応じて、従来から知られている難燃剤を含んでいてもよい。
【0066】
本発明による難燃加工剤は、ポリエステル系合成繊維構造物に与える難燃性に有害な影響を及ぼさない範囲において、従来、知られている他の繊維加工剤と併用することもできる。このような繊維加工剤としては、例えば、柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、硬仕上げ剤、風合い調節剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0067】
以下に本発明による難燃剤の合成方法を示す参考例、本発明による難燃加工剤の製造及び本発明による難燃加工の実施例を比較例と共に挙げて、本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は、それらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0068】
尚、以下において、難燃加工剤中の不揮発分とは、難燃加工剤中の難燃剤の割合をいい、難燃加工剤中の難燃剤と共に界面活性剤と消泡剤を含むときは、難燃剤と界面活性剤と消泡剤の合計量の割合をいう。
【0069】
難燃剤の平均粒子径は、難燃加工剤中の難燃剤の粒度分布を(株)島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-2000Jで測定して得た体積基準のメディアン径をいう。
【0070】
また、以下においては、特に断りが無い限り「%」及び「部」とあるのは、それぞれ「重量%」及び「重量部」を意味する。
【0071】
以下の参考例において得られたホスファゼン化合物は、1H-NMRスペクトルと31P-MNRスペクトルの測定、硝酸銀を用いた電位差滴定法による塩素元素(残留塩素)の分析、並びにLC/MS分析の結果に基づいて同定した。また、それらホスファゼン化合物について、TG/DTA分析によって、融解温度と5%重量減少温度を測定した。
【0072】
A.難燃剤の製造
参考例1
(アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンの合成)
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた10Lのフラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン521g(1.50モル)を仕込み、トルエン2000mLを加え、溶解して、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液を得た。
【0073】
ナトリウムフェノキシド784g(6.75モル)にTHF(テトラヒドロフラン)3000mLを加えて得た溶液を上記ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液に内温20℃から35℃で滴下した後、昇温し、1時間還流した。次に得られた反応混合物からTHFを留去し、110℃にて8時間撹拌した。
【0074】
このようにして得られた反応混合物を2%水酸化ナトリウム水溶液2000mLで洗浄し、次に、脱塩水1000mLで2回洗浄した。得られたトルエン層からトルエンと微量の水を留去して、固体状の反応生成物892gを得た。この固体状の反応生成物を予め調製した標品を用いてHPLCで分析した結果、モノクロロペンタフェノキシシクロトリホスファゼンとジクロロテトラフェノキシシクロトリホスファゼンが主成分であることを確認した。
【0075】
上記固体状の反応生成物891gとトルエン350mLを2Lのステンレス製耐圧容器に入れ、次に、耐圧容器内を400hPaまで減圧後、アンモニア131g(7.72モル)を加え、密封下50℃にて15時間撹拌した。この後、耐圧容器を開けて、反応物にトルエン3500mLを加え、希釈して、トルエン層を脱塩水で洗浄した。
【0076】
上記トルエン層を減圧濃縮し、黄褐色粘稠物812gを得た。この粘稠物123gを採り、酢酸エチルとヘキサンを溶離液として、シリカゲルを充填したカラムで精製した。目的物を含むフラクションを減圧濃縮後、室温まで冷却して、白色固体43.2gを得た。
【0077】
上記白色固体の分析結果を以下に示す。
1H-NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、δ、ppm):
N-H:2.6(2H)
C-H:6.8~7.5(25H)、
31P-MNRスペクトル(121MHz、CDCl3、δ、ppm):
P-(OPh)2:9.3~10.1(2P)、
P-(NH2)(OPh):18.4~19.8(1P)、
LC/MS(positive-ESI)m/z:617(M+H+)、
加水分解塩素:0.01%以下、
TG/DTA分析:
融解温度:76℃
5%重量減少温度:315℃。
【0078】
以上の分析結果から、上記白色固体はアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンであることを確認した。収率30.7%、HPLC純度99.3%(面積百分率)。
【0079】
参考例2
(2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼンの合成)
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた5Lのフラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン521g(1.50モル)を仕込み、ジエチルエーテル2150mLを仕込み、水浴で冷却しながら、撹拌し、溶解させて、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのジエチルエーテル溶液を得た。
【0080】
上記溶液を撹拌しながら、これに内温25℃以下で25%アンモニア水766g(アンモニアとして11.3モル)を滴下した後、内温30℃で2時間反応させた。得られた反応混合物を分液漏斗に移し、水層を分離し、ジエチルエーテル層を中性になるまで脱塩水で洗浄した。
【0081】
得られたジエチルエーテル層を脱水した後、ジエチルエーテルを留去して、2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラクロロシクロトリホスファゼン276gを淡黄色固体として得た。収率59.6%。
【0082】
上記淡黄色固体の分析結果を以下に示す。
1H-NMRスペクトル(300MHz、アセトン-d6、δ、ppm):
N-H:2.1(m)
C-H:6.8~7.5(20H)、
31P-MNRスペクトル(121MHz、アセトン-d6、δ、ppm):
P-(NH2)2:10.0~12.0(1P)、
P-Cl:18.0~20.0(2P)
【0083】
次に、撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた5L容量のフラスコ内に上記2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラクロロシクロトリホスファゼン276g(0.894モル)を仕込み、更に、THF1200mLを加え、撹拌し、溶解させて、2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラクロロシクロトリホスファゼンのTHF溶液を得た。
【0084】
ナトリウムフェノキシド622g(5.36モル)をTHF2500mLに溶解させてTHF溶液を得、このTHF溶液を上記2,2-ジアミノ-4、4,6,6-テトラクロロシクロトリホスファゼンのTHF溶液に内温25℃以下で加えた後、15時間還流した。反応終了後、減圧下でTHFを留去した。得られた残渣をジエチルエーテル2000mLに溶解させ、2%水酸化ナトリウム水溶液2000mLで洗浄した後、脱塩水1000mLで2回洗浄した。
【0085】
得られたジエチルエーテル層を脱水し、ジエチルエーテルを留去し、得られた残渣にヘキサン660mLを加え、1時間撹拌した後、濾過した。得られた固体を減圧下に60℃で乾燥して、2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼン433gを白色固体として得た。
【0086】
上記白色固体の分析結果を以下に示す。
1H-NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、δ、ppm):
N-H:2.2(4H)、
C-H:7.0~7.5(20H)、
31P-MNRスペクトル(121MHz、CDCl3、δ、ppm):
P-(OPh)2:10.0~11.5(2P)、
P-(NH2)2:18.5~20.5(1P)、
LC/MS(positive-ESI)m/z:540(M+H+)、
加水分解塩素:0.01%以下、
TG/DTA分析:
融解温度:107℃
5%重量減少温度:344℃。
【0087】
以上の分析結果から、上記白色固体は2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼンであることを確認した。収率53.5%、HPLC純度99.9%(面積百分率)。
【0088】
参考例3
(2,2,4-トリアミノ-4,6,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンの合成)
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた10Lのフラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン521g(1.50モル)を仕込み、トルエン2000mLを加え、溶解させて、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液を得た。
【0089】
ナトリウムフェノキシド540g(4.65モル)にTHF2200mLを加えて得た溶液を上記ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液に内温20℃から35℃で滴下した後、昇温し、1時間還流した。次に得られた反応混合物からTHFを留去し、110℃にて8時間撹拌した。
【0090】
このようにして得られた反応混合物を2%水酸化ナトリウム水溶液2000mLで洗浄し、次に脱塩水1000mLで2回洗浄した。得られたトルエン層からトルエンと微量の水を留去して、クロロフェノキシシクロトリホスファゼン混合物765gを得た。この混合物を予め調製した標品を用いてHPLCで分析した結果、2,2,4-トリクロロ-4,6,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンを含有していることを確認した。
【0091】
上記クロロフェノキシシクロトリホスファゼン混合物764gとトルエン300mLを2Lのステンレス製耐圧容器に入れ、次に、耐圧容器内を400hPaまで減圧後、アンモニア251g(14.8モル)を加え、密封下50℃にて15時間撹拌した。この後、耐圧容器を開けて、反応物にトルエン3500mLを加え希釈し、トルエン層を脱塩水で洗浄した。
【0092】
上記トルエン層を減圧濃縮し、黄褐色粘稠物464gを得た。この粘稠物28.1gを採り、酢酸エチルとヘキサンを溶離液として、シリカゲルを充填したカラムで精製した。目的物を含むフラクションを減圧濃縮後、室温まで冷却し、白色固体12.9gを得た。
【0093】
上記白色固体の分析結果を以下に示す。
1H-NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、δ、ppm):
N-H:1.6~2.8(6H)
C-H:7.1~7.4(15H)、
31P-MNRスペクトル(121MHz、CDCl3、δ、ppm):
P-(OPh)2:9.9~11.3(1P)、
P-(NH2)2、P-(NH2)(OPh):17.8~20.5(2P)、
LC/MS(positive-ESI)m/z:463(M+H+)、
加水分解塩素:0.01%以下、
TG/DTA分析:
融解温度:138℃
5%重量減少温度:259℃。
【0094】
以上の分析結果から、上記白色固体は2,2,4-トリアミノ-4,6,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンであることを確認した。収率30.8%、HPLC純度99.4%(面積百分率)。
【0095】
参考例4
(2,4-ジアミノ-2,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼンの合成)
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた10Lのフラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン521g(1.50モル)を仕込み、トルエン2000mLを加え、溶解させて、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液を得た。
【0096】
ナトリウムフェノキシド697g(6.00モル)にTHF2700mLを加えて得た溶液を上記ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液に内温20℃から35℃で滴下した後、昇温し、1時間還流した。次に得られた反応混合物からTHFを留去し、110℃にて8時間撹拌した。
【0097】
このようにして得られた反応混合物を2%水酸化ナトリウム水溶液2000mLで洗浄し、次に脱塩水1000mLで2回洗浄した。得られたトルエン層からトルエンと微量の水を留去して、クロロフェノキシシクロトリホスファゼン混合物688gを得た。この混合物を予め調製した標品を用いてHPLCで分析した結果、2,4-ジクロロ-2,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼンを含有していることを確認した。
【0098】
上記クロロフェノキシシクロトリホスファゼン混合物688gとトルエン600mLを2Lのステンレス製耐圧容器に入れ、次に、耐圧容器内を400hPaまで減圧後、アンモニア134g(7.85モル)を加え、密封下50℃にて15時間撹拌した。この後、耐圧容器を開けて、反応物にトルエン4500mLを加え、反応混合物を溶解させた後、希塩酸と脱塩水1000mLで2回洗浄した。
【0099】
溶離液として酢酸エチルとヘキサンの混合物を用いて、シリカゲル充填カラムクロマトグラフィーで副成物であるアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンとトリアミノトリフェノキシシクロトリホスファゼン等を分離した。
【0100】
溶離液を減圧濃縮した後、残渣を酢酸エチル溶液として、析出した結晶を濾過、乾燥して、2,4-ジアミノ-2,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼン484gを白色固体として得た。
【0101】
上記白色固体の分析結果を以下に示す。
1H-NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、δ、ppm):
N-H:2.6、2.8(4H)
C-H:6.8~7.5(20H)、
31P-MNRスペクトル(121MHz、CDCl3、δ、ppm):
P-(OPh)2:8.5~10.5(1P)、
P-(NH2)(OPh):18.0~20.0(2P)、
LC/MS(positive-ESI)m/z:540(M+H+)、
加水分解塩素:0.01%以下、
TG/DTA分析:
融解温度:97℃
5%重量減少温度:298℃。
【0102】
以上の分析結果から、上記白色固体は2,4-ジアミノ-2,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼンであることを確認した。収率59.8%、HPLC純度99.3%(面積百分率)。
【0103】
参考例5
(2,4,6-トリアミノ-2,4,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンの合成)
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた10Lのフラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン521g(1.50モル)を仕込み、トルエン2000mLを加え、溶解させて、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液を得た。
【0104】
ナトリウムフェノキシド610g(5.25モル)にTHF2400mLを加えて得た溶液を上記ヘキサクロロシクロトリホスファゼンのトルエン溶液に内温20℃から35℃で滴下した後、昇温し、1時間還流した。次に得られた反応混合物からTHFを留去し、110℃にて8時間撹拌した。
【0105】
このようにして得られた反応混合物を2%水酸化ナトリウム水溶液2000mLで洗浄し、次に脱塩水1000mLで2回洗浄した。得られたトルエン層からトルエンと微量の水を留去して、クロロフェノキシシクロトリホスファゼン混合物850gを得た。この混合物を予め調製した標品を用いてHPLCで分析した結果、2,4,6-トリクロロ-2,4,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンを含有していることを確認した。
【0106】
上記クロロフェノキシシクロトリホスファゼン混合物849gとトルエン320mLを2Lのステンレス製耐圧容器に入れ、次に、耐圧容器内を400hPaまで減圧後、アンモニア221g(13.0モル)を加え、密封下50℃にて15時間撹拌した。この後、耐圧容器を開けて、反応物にトルエン3500mLを加え希釈し、濾過した。得られた濾塊にメタノールを加え、加温して溶解し、室温まで冷却した。析出した固体を濾取し、これを乾燥し。白色固体321gを得た。
【0107】
上記白色固体の分析結果を以下に示す。
1H-NMRスペクトル(300MHz、DMSO-d6、δ、ppm):
N-H:4.1(6H)
C-H:6.8~7.5(15H)、
31P-MNRスペクトル(121MHz、DMSO-d6、δ、ppm):
P-(NH2)(OPh):17.3~17.7(3P)、
LC/MS(positive-ESI)m/z:463(M+H+)、
加水分解塩素:0.01%以下、
TG/DTA分析:
融解温度:213℃
5%重量減少温度:278℃。
【0108】
以上の分析結果から、上記白色固体は2,4,6-トリアミノ-2,4,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンであることを確認した。収率46.3%、HPLC純度99.1%(面積百分率)。
【0109】
B.難燃加工剤の製造
実施例1
(難燃加工剤Aの製造)
アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ポリオキシエチレン(5モル)ポリオキシプロピレン(9モル)オクチルエーテル0.5重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルのアンモニウム塩1.0重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを平均粒子径0.529μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が28.6重量%になるように水の量を調整して、本発明による難燃加工剤Aを得た。
【0110】
比較例1
(難燃加工剤Bの製造)
リン酸グアニジン47重量部を水53重量部に溶解させて、比較例による難燃加工剤Bを得た。
【0111】
比較例2
(難燃加工剤Cの製造)
アニリノジフェニルホスフェート40重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルのアンモニウム塩1.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、4時間にわたって粉砕処理して、上記アニリノジフェニルホスフェートを平均粒子径0.547μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が41.6重量%になるように水の量を調整して、比較例による難燃加工剤Cを得た。
【0112】
比較例3
(難燃加工剤Dの製造)
テトラ(2,6-ジメチルフェニル)-m-フェニレンホスフェートの結晶性粉末40重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルのアンモニウム塩1.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物をホモジナイザー3000rpmにて1時間粉砕処理し、上記ホスフェートを平均粒子径50μm以下とした処理液を得た。
【0113】
次に、この処理液を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して上記ホスフェートを平均粒子径1.142μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が41.6重量%になるように水の量を調整して、比較例による難燃加工剤Dを得た。
【0114】
比較例4
(難燃加工剤Eの製造)
ヘキサアミノシクロトリホスファゼン20重量部を水80重量部に溶解させて、比較例による難燃加工剤Eを得た。
【0115】
比較例5
(難燃加工剤Fの製造)
2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルのアンモニウム塩1.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記ホスファゼンを平均粒子径0.435μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が28.6重量%になるように水の量を調整して、比較例による難燃加工剤Fを得た。
【0116】
比較例6
(難燃加工剤Gの製造)
2,2,4-トリアミノ-4,6,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルのアンモニウム塩1.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記ホスファゼンを平均粒子径0.444μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が28.6重量%になるように水の量を調整して、比較例による難燃加工剤Gを得た。
【0117】
比較例7
(難燃加工剤Hの製造)
2,4-ジアミノ-2,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ポリオキシエチレン(5モル)ポリオキシプロピレン(9モル)オクチルエーテル1.5重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド15モル付加物のスルホ琥珀酸エステルのナトリウム塩1.4重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記ホスファゼンを平均粒子径0.526μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が30.0重量%になるように水の量を調整して、比較例による難燃加工剤Hを得た。
【0118】
比較例8
(難燃加工剤Iの製造)
2,4,6-トリアミノ-2,4,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ポリオキシエチレン(5モル)ポリオキシプロピレン(9モル)オクチルエーテル1.5重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド15モル付加物のスルホ琥珀酸エステルのナトリウム塩1.4重量及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記ホスファゼンを平均粒子径0.455μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が30.0重量%になるように水の量を調整して、比較例による難燃加工剤Iを得た。
【0119】
比較例9
(難燃加工剤Jの製造)
ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ポリオキシエチレン(5モル)ポリオキシプロピレン(9モル)オクチルエーテル0.5重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルのアンモニウム塩1.0重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記ホスファゼンを平均粒子径0.478μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が28.5重量%になるように水の量を調整して、比較例による難燃加工剤Jを得た。
【0120】
C.ポリエステル系合成繊維構造物の難燃加工
(1)浴中染色同時難燃処理
【0121】
実施例2及び比較例10
経糸としてフルダルポリエステル繊維(酸化チタン3.5重量%含有)からなるレギュラーポリエステル繊維を用い、緯糸として黒原着ポリエステル繊維からなるポリエステル繊維を用いて両面朱子織とした織物を常法にて精練、プレセットを施したポリエステル繊維布帛に対して、実施例2として、本発明による難燃加工剤A、比較例10として、比較例7~9による難燃加工剤H、I及びJを6%owf(それぞれ難燃剤純分として1.62%owf)、分散染料スミカロンブルーE-RPD0.2%owfにて、130℃で40分間、染色同時難燃処理した後、乾燥して、難燃加工ポリエステル布帛を得た。これらの難燃加工したポリエステル布帛について、性能試験の結果を表1に示す。
【0122】
(1-1)難燃剤付着量
上述した浴中染色同時難燃処理における難燃剤付着量は、難燃加工前後のポリエステル布帛の重量変化率から、難燃加工剤を入れずに染色処理したポリエステル布帛の加工前後の重量変化率を差し引いて求めた。
【0123】
(1-2)難燃剤の吸尽効率
上述した難燃剤付着量を染色同時難燃処理時に添加した難燃剤(1.62%owf)使用量で除して吸尽効率を算出した。即ち、
難燃剤付着量/添加した難燃剤量(1.62%owf)×100=吸尽効率
【0124】
(1-3)難燃性能試験
上記難燃加工ポリエステル布帛の難燃性能について、JIS L 1091のD法(コイル法)にて4点評価した。接炎回数4回を超えるものを良好とした。
【0125】
上記性能評価の試験結果を表1に示す。
【0126】
【0127】
(2)パディング難燃加工
(2-1)被処理布帛の準備
ポリエステルニット(目付重量200g/m2)を分散染料Dianix Black
AM-SLR(DyStar社製)4%owfにて130℃で30分間、浴中染色処理した後、常法にて還元洗浄し、乾燥して、黒色に染色したポリエステルニットを得た。
実施例3を含むそれ以降の実施例及び比較例においては、上記黒色に染色したポリエステルニットを被処理布帛として難燃加工した。
【0128】
実施例3及び比較例11
実施例3として、本発明による難燃加工剤Aを水で希釈した加工液を用い、それぞれ上記被処理布帛を難燃加工して、本発明による難燃加工ポリエステル布帛を得、また、比較例11として、ブランク、本発明による難燃加工剤A、比較例による難燃加工剤B、C、D、E、F、G、H、I、J又はこれらを水で希釈した加工液を用いて、それぞれ上記被処理布帛を難燃加工して、比較例としてのポリエステル布帛を得た。これらの難燃加工したポリエステル布帛について、性能試験の結果を表2から表3に示す。
【0129】
本発明による難燃加工剤Aを用いてポリエステル布帛を難燃加工した比較例11は、難燃剤の付着量が少ないために、ポリエステル布帛に満足すべき難燃性を付与することができなかったことを示す。
【0130】
上述した難燃加工剤による難燃加工において、難燃加工前後のポリエステル布帛の重量差と水で希釈された難燃加工剤の濃度及び難燃加工剤中の難燃剤含有量より難燃剤付着量を計算した。
【0131】
D.性能試験
実施例3及び比較例11において難燃加工したポリステル布帛の性能評価は以下のようにして行った。即ち、本発明による難燃加工剤を用いて上記被処理布帛をパディング法にて難燃加工し、100℃で5分間乾燥し、130℃で1分間乾燥した。このようにして得た難燃加工ポリエステル布帛を洗浄することなく、そのままで、摩擦堅牢度、際付き、チョークマーク、ブリードアウト、耐光堅牢度及び湿熱試験の評価を行った。
【0132】
難燃性能については、上記で得た難燃加工ポリエステル布帛に対し、カチオン性フッ素系撥水剤1.0重量%を含む浴でパディング法にて撥水剤を付着させた後、130℃で3分間乾燥し、150℃で3分間熱処理をした難燃撥水加工した布帛を得、これを燃焼試験に供した。上記撥水剤は難燃性を阻害する物質として添加した。
【0133】
(摩擦堅牢度)
難燃加工した被処理布帛をJIS L 0849の摩擦に対する染色堅牢度試験方法によって試験を行い、JIS L 0849の8.1.2に記載の摩擦試験機II形(学振形)を使用し、汚染用グレースケール(JIS L 0805)で級数を判定した。5級が最も摩擦堅牢度がよく、3級以上を良好とした。
【0134】
(際付き性)
ウレタンフォームの上に難燃加工した被処理布帛を置き、表面に5mLの純水、沸騰水、及び塩化カルシウム3%水溶液をそれぞれ滴下し、24時間後に試料の表面を観察し、輪染みや際付き等が見られないものを良好とした。
評価基準
○: 輪染みや際付きがみられない。
×: 輪染みや際付きがみられる。
【0135】
(チョークマーク)
難燃加工した被処理布帛の表面を爪で軽くこすり、傷による白化の程度を確認した。
評価基準
○: 白化、粉落ちがみられない。
×: 白化、粉落ちがみられる。
【0136】
(ブリードアウト)
難燃加工した被処理布帛の表面にポリエステルタフタ、濾紙及び分銅800gを順に載せ、荷重800g/15.9cm2、100℃で2時間の雰囲気中で処理し、ポリエステルタフタへの移染を汚染用グレースケール(JIS L 0805)で評価した。5級が最も汚染が少なく、3級以上を良好とした。
【0137】
(耐光堅牢度)
JIS L 0842の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法によって試験を行った。フェードメーター(スガ試験機(株)製)を用い、難燃加工した被処理布帛に83℃にて144時間カーボンアーク灯光を照射した。次いで、変退色用グレースケール(JIS L 0804)により級数を判定した。5級が最も堅牢度が良く、3級以上を良好とした。
【0138】
(湿熱試験)
難燃加工した被処理布帛を40℃、95%RHの雰囲気中に500時間放置した後、変色や結晶の析出の有無を確認した。
評価基準
○: 変色や結晶の析出がみられない。
×: 変色や結晶の析出がみられる。
【0139】
(難燃性能試験)
FMVSS(米国連邦自動車安全基準)No.302の自動車内装材燃焼試験規格に基づいて水平燃焼速度を測定し、燃焼速度101mm/分未満を良好とした。
評価基準
◎: 難燃性、自己消火性
○: 1~61mm/分未満
△: 61~101mm/分未満
×: 101mm/分以上
【0140】
上記性能評価の試験結果を表2から表3に示す。
【0141】
【0142】
【0143】
本発明による難燃加工剤Aを用いて難燃加工したポリエステル布帛は、表2の実施例3に示すように、難燃性、摩擦堅牢度及び耐光堅牢度にすぐれており、難燃加工した繊維品の洗浄なしに、際付きやチョークマークが生じず、湿熱試験による変色や難燃剤の析出も抑制されている。
【0144】
但し、表2の比較例11中、難燃加工剤Aを用いる難燃加工においては、ポリエステル布帛への難燃剤付着量が少なすぎた結果、得られた難燃加工ポリエステル布帛の難燃性能は不十分となったが、際付き性、摩擦堅牢度、チョークマーク、ブリードアウト、湿熱試験のいずれにおいてもブランクと遜色ない結果となった。
【0145】
比較例1~3は、難燃剤として、リン酸グアニジン、アニリノジフェニルホスフェート及びテトラ(2,6-ジメチルフェニル)-m-フェニレンホスフェートの結晶性粉末を用いて、それぞれ難燃加工剤B、C及びDを得たものであるが、表1の比較例11に示すように、いずれの難燃加工剤を用いた場合も、難燃加工したポリエステル布帛には際付きがみられた。また、難燃加工剤C及びDについては、表2の比較例11に示すように、摩擦堅牢度と耐光堅牢度のいずれにおいても劣っており、ブリードアウトも顕著であった。
【0146】
比較例4は水溶性のヘキサアミノシクロトリホスファゼンを水に溶解させて、難燃加工剤Eを得たものであるが、表2中、比較例11に示すように、際付きがみられた。
【0147】
比較例5及び6は、1個のリン原子に2個のアミノ基が結合しているgeminal-ジアミノ基を有する2,2-ジアミノ-4,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼンと2,2,4-トリアミノ-4,6,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンを用いて、それぞれ難燃加工剤FとGを得たものである。これらの難燃加工剤は、難燃剤が有する上記geminal-ジアミノ基が湿熱環境下において容易に加水分解するために、得られた難燃加工ポリエステル布帛には、表2中、比較例11に示すように、湿熱試験において顕著な変色がみられた。
【0148】
比較例7~9は、難燃剤として、2,4-ジアミノ-2,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼン、2,4,6-トリアミノ-2,4,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼン及びヘキサフェノキシシクロトリホスファゼンをそれぞれ水に分散させて、それぞれ難燃加工剤H、I及びJを得たものである。
表3中、比較例11に示すように、難燃加工剤Hについては、ポリエステルとの親和性が十分ではないために、湿熱試験において難燃加工したポリエステル布帛の表面に経日的に結晶物が析出した。難燃加工剤Iについては、ポリエステルとの親和性が不十分であるので、際付きやチョークマークがみられた。また、難燃加工剤Jについても、ポリエステルとの親和性が十分ではないので、際付きがみられた。
【0149】
実施例2と比較例10は、実施例として加水分解し難いアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンを分散させた難燃加工剤A、比較例として加水分解し難い2,4-ジアミノ-2,4,6,6-テトラフェノキシシクロトリホスファゼンを分散させた難燃加工剤H、2,4,6-トリアミノ-2,4,6-トリフェノキシシクロトリホスファゼンを分散させた難燃加工剤I、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼンを分散させた難燃加工剤Jをポリエステル布帛に対し難燃剤濃度が1.62%owfとなるように浴中処理したものである。
【0150】
実施例2による難燃加工剤Aは付着量1.45%owf、吸尽効率89.5%であるが、比較例10の難燃加工剤Hは付着量0.95%owf、吸尽効率58.6%、難燃加工剤Iは付着量0.03%owf、吸尽効率1.9%、難燃加工剤Jは付着量0.25%owf、吸尽効率15.4%であって、加水分解し難いアミノフェノキシホスファゼンのうち、実施例2のアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンがポリエステル布帛への親和性が特異的に高いということができる。
【0151】
実施例4
(難燃加工剤Kの製造)
アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ソルビタンモノオレエートエチレンオキシド6モル付加物1.0重量部、クミルフェノールエチレンオキシド11モル付加物の硫酸エステルのナトリウム塩1.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記難燃剤を平均粒子径0.674μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が29.6重量%になるように水の量を調整して、本発明による難燃加工剤Kを得た。
【0152】
実施例5
(難燃加工剤Lの製造)
アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ポリオキシエチレン(18モル)ポリオキシプロピレン(12モル)オクチルエーテル0.5重量部、ジスチレン化フェノールエチレンオキシド14モル付加物の硫酸エステルのナトリウム塩1.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記難燃剤を平均粒子径0.520μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が29.1重量%になるように水の量を調整して、本発明による難燃加工剤Lを得た。
【0153】
実施例6
(難燃加工剤Mの製造)
アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ポリオキシエチレン(18モル)ポリオキシプロピレン(12モル)オクチルエーテル1.0重量部、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩1.0重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記難燃剤を平均粒子径0.536μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が29.1重量%になるように水の量を調整して、本発明による難燃加工剤Mを得た。
【0154】
実施例7
(難燃加工剤Nの製造)
アミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼン27重量部、ジスチレン化フェノールエチレンオキシド13モル付加物0.5重量部、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド7モル付加物の硫酸エステルのアンモニウム塩1.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.05重量部を水35重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、3時間にわたって粉砕処理して、上記難燃剤を平均粒子径0.454μmの微粒子として分散させた。得られた分散物を105℃の温度で40分間乾燥したとき、その不揮発分濃度が29.1重量%になるように水の量を調整して、本発明による難燃加工剤Nを得た。
【0155】
(3)パディング難燃加工
(3-1)被処理布帛の準備
ポリエステルニット(目付重量200g/m2)を分散染料Dianix Black
AM-SLR(DyStar社製)4%owfにて130℃で30分間、浴中染色処理した後、常法にて還元洗浄し、乾燥して、黒色に染色したポリエステルニットを得た。
【0156】
実施例8として、本発明による難燃加工剤K、L、M、Nを水で希釈した加工液を用い、それぞれ上記被処理布帛を難燃加工して、本発明による難燃加工ポリエステル布帛を得た。
これらの難燃加工したポリエステル布帛について、性能試験の結果を表4に示す。
【0157】
難燃剤がアミノペンタフェノキシシクロトリホスファゼンからなる難燃加工剤K、L、M及びNをそれぞれ用いて難燃加工したポリエステル布帛は、表4の実施例8に示すように、難燃性、摩擦堅牢度及び耐光堅牢度にすぐれており、難燃加工した繊維品の洗浄なしに、際付きやチョークマークが生じず、湿熱試験による変色や難燃剤の析出も抑制されている。
【0158】
上述した難燃加工剤による難燃加工において、難燃加工前後のポリエステル布帛の重量差と水で希釈された難燃加工剤の濃度及び難燃加工剤中の難燃剤含有量より難燃剤付着量を計算した。
【0159】
E.性能試験
実施例8において難燃加工したポリステル布帛の性能評価は以下のようにして行った。即ち、本発明による難燃加工剤を用いて上記被処理布帛をパディング法にて難燃加工し、100℃で5分間乾燥し、130℃で1分間乾燥した。このようにして得た難燃加工ポリエステル布帛を洗浄することなく、そのままで、摩擦堅牢度、際付き、チョークマーク、ブリードアウト、耐光堅牢度及び湿熱試験の評価を行った。
【0160】
難燃性能については、上記で得た難燃加工ポリエステル布帛に対し、カチオン性フッ素系撥水剤1.0重量%を含む浴でパディング法にて撥水剤を付着させた後、130℃で3分間乾燥し、150℃で3分間熱処理をした難燃撥水加工した布帛を得、これを燃焼試験に供した。上記撥水剤は難燃性を阻害する物質として添加した。
【0161】
(摩擦堅牢度)
難燃加工した被処理布帛をJIS L 0849の摩擦に対する染色堅牢度試験方法によって試験を行い、JIS L 0849の8.1.2に記載の摩擦試験機II形(学振形)を使用し、汚染用グレースケール(JIS L 0805)で級数を判定した。5級が最も摩擦堅牢度がよく、3級以上を良好とした。
【0162】
(際付き性)
ウレタンフォームの上に難燃加工した被処理布帛を置き、表面に5mLの純水、沸騰水、及び塩化カルシウム3%水溶液をそれぞれ滴下し、24時間後に試料の表面を観察し、輪染みや際付き等が見られないものを良好とした。
評価基準
○: 輪染みや際付きがみられない。
×: 輪染みや際付きがみられる。
【0163】
(チョークマーク)
難燃加工した被処理布帛の表面を爪で軽くこすり、傷による白化の程度を確認した。
評価基準
○: 白化、粉落ちがみられない。
×: 白化、粉落ちがみられる。
【0164】
(ブリードアウト)
難燃加工した被処理布帛の表面にポリエステルタフタ、濾紙及び分銅800gを順に載せ、荷重800g/15.9cm2、100℃で2時間の雰囲気中で処理し、ポリエステルタフタへの移染を汚染用グレースケール(JIS L 0805)で評価した。5級が最も汚染が少なく、3級以上を良好とした。
【0165】
(耐光堅牢度)
JIS L 0842の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法によって試験を行った。フェードメーター(スガ試験機(株)製)を用い、難燃加工した被処理布帛に83℃にて144時間カーボンアーク灯光を照射した。次いで、変退色用グレースケール(JIS L 0804)により級数を判定した。5級が最も堅牢度が良く、3級以上を良好とした。
【0166】
(湿熱試験)
難燃加工した被処理布帛を40℃、95%RHの雰囲気中に500時間放置した後、変色や結晶の析出の有無を確認した。
評価基準
○: 変色や結晶の析出がみられない。
×: 変色や結晶の析出がみられる。
【0167】
(難燃性能試験)
FMVSS(米国連邦自動車安全基準)No.302の自動車内装材燃焼試験規格に基づいて水平燃焼速度を測定し、燃焼速度101mm/分未満を良好とした。
評価基準
◎: 難燃性、自己消火性
○: 1~61mm/分未満
△: 61~101mm/分未満
×: 101mm/分以上
【0168】
上記性能評価の試験結果を表4に示す。
【0169】