(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】分散体の製造方法、セラミックス焼成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/12 20060101AFI20221115BHJP
B28B 3/20 20060101ALI20221115BHJP
C04B 35/632 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B28C7/12
B28B3/20 K
B28B3/20 E
C04B35/632
(21)【出願番号】P 2020034361
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 幹男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩平
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113367(JP,A)
【文献】国際公開第2019/012917(WO,A1)
【文献】特表2002-517375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 7/12
B28B 3/20
C04B 35/632
C04B 38/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の固体粒子と、水と、水以外の液体とを混合することにより、分散体を製造する方法であって、
少なくとも2種類の上記固体粒子のハンセン球(S1、S11、S12、S13、S14、S15、S16、S17)と、少なくとも1種類の上記液体のハンセン球(S2、S21、S22、S23、S24)とが相互に重なり、かつ、上記液体とハンセン球が重なる上記固体粒子のうちの1種類の、水とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが、上記分散体の製造に用いる全ての上記固体粒子のうちの最大となるように、上記固体粒子と上記液体とを選択し、上記分散体の製造に用いる、分散体の製造方法。
【請求項2】
上記液体とハンセン球が重なる上記固体粒子のうちの1種類の配合割合が、質量比で、上記分散体の製造に使用する全ての上記固体粒子の中で最も大きくなるように上記固体粒子を選択し、上記分散体の製造に用いる、請求項1に記載の分散体の製造方法。
【請求項3】
上記ハンセン溶解度パラメータ距離Raが最大となる上記固体粒子が第1固体粒子であり、該第1固体粒子を、上記分散体の製造に使用可能な固体粒子候補群の中から上記ハンセン溶解度パラメータ距離Raが最大であるものとして選択し、上記分散体の製造に用いる、請求項1又は2に記載の分散体の製造方法。
【請求項4】
上記液体とハンセン球が重なる上記固体粒子のうち、上記第1固体粒子以外の固体粒子である第2固体粒子を、上記固体粒子候補群の中から上記ハンセン溶解度パラメータ距離Raが2番目に大きいものとして選択し、上記分散体の製造に用いる、請求項3に記載の分散体の製造方法。
【請求項5】
上記液体とハンセン球が重なる上記固体粒子のうち、上記第1固体粒子以外の固体粒子である第2固体粒子を、上記分散体の作製に使用する全ての上記固体粒子のうち、配合割合が質量比で1番目又は2番目に大きいものとして選択する、請求項3に記載の分散体の製造方法。
【請求項6】
複数種類の固体粒子と、水と、水以外の液体とを混合することにより、分散体を製造する方法であって、
水とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが28MPa
1/2以上である固体粒子候補群のうち、少なくとも2種類の固体粒子を選択し、該固体粒子のハンセン球(S1、S11、S12、S13、S14、S15、S16、S17)と、液体候補群のうちの少なくとも1種類の液体の上記ハンセン球(S2、S21、S22、S23、S24)とが相互に重なるように上記固体粒子及び上記液体を選択し、上記分散体の製造に使用する、分散体の製造方法。
【請求項7】
上記固体粒子候補群から選択される上記固体粒子の少なくとも1種類の配合割合が、質量比で、上記分散体の製造に使用する全ての上記固体粒子の中で最も大きくなるように上記固体粒子を選択し、上記分散体の製造に用いる、請求項6に記載の分散体の製造方法。
【請求項8】
上記固体粒子がセラミック原料であり、
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法により得られる上記分散体を成形し、焼成する、セラミックス焼成体(1)の製造方法。
【請求項9】
上記セラミックス焼成体(1)がハニカム構造体(2)を有する、請求項8に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に固体粒子が分散された分散体の製造方法、セラミックス焼成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス焼成体を含む製品の製造過程では、セラミック原料となる固体粒子を液体に分散させることにより、スラリー、ペースト、坏土などの分散体が製造される。この分散体を成形、焼成することにより、セラミックス焼成体が製造される。質量や体積の大きなセラミックス焼成体での焼成時の温度差による割れの防止等の観点から、液体としては、有機溶媒の使用が避けられ、水が使用される。
【0003】
水を使用する際には、分散性の問題があり、これまでの考えや理論で選定された固体粒子、液状の分散剤、及び水等から構成される分散体は、分散性が安定しない。つまり、原料の組合せにより、分散性の傾向が異なる。また、原料の種類を固定していても、メーカ、ロット等が変わると、分散性の傾向が変わることもある。分散性が変わると、たとえ同じ焼成条件で焼成しても、セラミックス焼成体にクラックなどの不具合が発生することがある。分散体の製造時の混合時間を長くすることにより分散性が一時的に改善して高分散状態が得られることもあるが、高分散状態は経時的に損なわれる傾向がある。分散性の改良のためには、特許文献1に開示のように、ハンセン溶解度パラメータ(すなわち、HSP)理論を用いることが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、HSP理論における研究は、1つの原料に対する水以外の溶媒の最適選定、または複数溶媒の組み合わせの最適選定に関するものである。複数の固体原料と水を使用することを前提とすると、固体粒子と液体との組み合わせが、目的や用途によって無限になる。つまり、水と、複数の固体粒子とを混合する場合においては、分散性を高めるための指標が技術的に確立されていない。したがって、作業者の勘、コツに頼るか、実験での試行錯誤により組合せが決定されているのが実情である。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、分散性が良好な分散体の製造方法、及び分散体を用いたセラミックス焼成体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、複数種類の固体粒子と、水と、水以外の液体とを混合することにより、分散体を製造する方法であって、
少なくとも2種類の上記固体粒子のハンセン球(S1、S11、S12、S13、S14、S15、S16、S17)と、少なくとも1種類の上記液体のハンセン球(S2、S21、S22、S23、S24)とが相互に重なり、かつ、上記液体とハンセン球が重なる上記固体粒子のうちの1種類の、水とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが、上記分散体の製造に用いる全ての上記固体粒子のうちの最大となるように、上記固体粒子と上記液体とを選択し、上記分散体の製造に用いる、分散体の製造方法にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、複数種類の固体粒子と、水と、水以外の液体とを混合することにより、分散体を製造する方法であって、
水とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが28MPa1/2以上である固体粒子候補群のうち、少なくとも2種類の固体粒子を選択し、該固体粒子のハンセン球(S1、S11、S12、S13、S14、S15、S16、S17)と、液体候補群のうちの少なくとも1種類の液体の上記ハンセン球(S2、S21、S22、S23、S24)とが相互に重なるように上記固体粒子及び上記液体を選択し、上記分散体の製造に使用する、分散体の製造方法にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、上記固体粒子がセラミック原料であり、
上記製造方法により得られる分散体を成形し、焼成する、セラミックス焼成体(1)の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記第1、第2の態様の分散体の製造方法では、固体粒子及び液体として高分散化に適した組合せが選択される。したがって、上記製造方法によれば、水を含みながらも、分散性が良好な分散体を製造することができる。その結果、例えば、分散体の密度のばらつきを小さくすることができる。
【0011】
上記第3の態様のセラミックス焼成体の製造方法では、上記分散体を成形しているため、成形体の密度のバラツキを小さくすることができる。これにより、セラミックス焼成体に割れ等の不具合が発生することを防止できる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、分散性が良好な分散体の製造方法、及び分散体を用いたセラミックス焼成体の製造方法を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、固体粒子のハンセン球を示す説明図である。
【
図2】
図2は、浸透速度法による接触角の測定装置の構成を示す概略図である。
【
図4】
図4(a)は、比較例1における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図4(b)は、比較例1における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図4(c)は、比較例1における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図5】
図5(a)は、比較例2における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図5(b)は、比較例2における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図5(c)は、比較例2における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図6】
図6(a)は、比較例3における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図6(b)は、比較例3における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図6(c)は、比較例3における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図7】
図7(a)は、比較例4における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δpとの平面上で示す説明図であり、
図7(b)は、比較例4における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図7(c)は、比較例4における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図8】
図8(a)は、実施例1における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図8(b)は、実施例1における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図8(c)は、実施例1における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例2における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図9(b)は、実施例2における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図9(c)は、実施例2における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例3における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図10(b)は、実施例3における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図10(c)は、実施例3における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例4における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図11(b)は、実施例4における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図11(c)は、実施例4における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図12】
図12(a)は、実施例5における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図12(b)は、実施例5における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図12(c)は、実施例5における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図13】
図13(a)は、実施例6における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図13(b)は、実施例6における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図13(c)は、実施例6における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図14】
図14(a)は、実施例7における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図14(b)は、実施例7における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図14(c)は、実施例7における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図15】
図15(a)は、実施例8における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図15(b)は、実施例8における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図15(c)は、実施例8における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図16】
図16(a)は、実施例9における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図16(b)は、実施例9における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図16(c)は、実施例9における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図17】
図17(a)は、実施例10における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図17(b)は、実施例10における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図17(c)は、実施例10における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図18】
図18(a)は、実施例11における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図18(b)は、実施例11における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図18(c)は、実施例11における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図19】
図19(a)は、比較例5における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図19(b)は、比較例5における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図19(c)は、比較例5における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図20】
図20(a)は、比較例6における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図20(b)は、比較例6における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図20(c)は、比較例6における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図21】
図21(a)は、比較例7における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図21(b)は、比較例7における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図21(c)は、比較例7における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図22】
図22(a)は、比較例8における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図22(b)は、比較例8における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図22(c)は、比較例8における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図23】
図23(a)は、実施例12における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図23(b)は、実施例12における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図23(c)は、実施例12における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図24】
図24(a)は、実施例13における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図24(b)は、実施例13における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δpと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図24(c)は、実施例13における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図25】
図25(a)は、実施例14における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図25(b)は、実施例14における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図25(c)は、実施例14における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【
図26】
図26(a)は、実施例15における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと双極子間力δ
pとの平面上で示す説明図であり、
図26(b)は、実施例15における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりを双極子間力δ
pと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図であり、
図26(c)は、実施例15における固体粒子と液体とのハンセン球同士の重なりをロンドン分散力δ
dと水素結合力δ
hとの平面上で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
分散体の製造方法に係る実施形態について説明する。分散体は、固体粒子と水と液体とを混合することによって製造される。液体は、水以外の液体である。分散体の製造では、2種類以上の固体粒子と、1種類以上の液体が用いられる。固体粒子は、具体的には粉末であり、例えば無機物から構成される。液体は、例えば液状有機物から構成され、分散剤、潤滑剤、バインダ等と呼ばれるものである。このような液体のことを、以下適宜「非水液体」という。
【0015】
分散体の製造に使用する固体粒子、非水液体としては、少なくとも2種類の固体粒子のハンセン球と、少なくとも1種類の非水液体のハンセン球とが相互に重なるものを選択する。例えば、2種類の固体粒子のハンセン球同士が相互に重なり、これらのハンセン球の少なくとも一方が非水液体のハンセン球と重なる場合には、ハンセン球が相互に重なっていることを意味する。また、2種類の固体粒子のうちの一方のハンセン球と、非水液体のハンセン球とが相互に重なり、これらのハンセン球のいずれか一方が、もう一方のハンセン球と重なる場合にも、ハンセン球が相互に重なっていることを意味する。また、2種類の固体粒子、非水液体の3つのハンセン球が相互に重なっている場合にも、ハンセン球が相互に重なっていることを意味する。つまり、3つのハンセン球に重なりが2箇所以上ある場合に、少なくとも2種類の固体粒子のハンセン球と、少なくとも1種類の非水液体のハンセン球とが相互に重なっていることを意味する。なお、ハンセン球同士が少なくとも点接触していれば、ハンセン球同士が重なっていること意味する。ハンセン球同士が相互の体積の一部を共有していたり、一方のハンセン球が他方のハンセン球を内方していても、ハンセン球同士が重なっていることを意味する。
【0016】
また、非水液体とハンセン球が重なる固体粒子のうちの1種類のハンセン溶解度パラメータ距離Raが、分散体の製造に用いる全ての固体粒子のうちの最大となる固体粒子を、少なくとも選択し、分散体の製造に使用する。ハンセン溶解度パラメータ距離Raは、水のハンセン溶解度パラメータと、固体粒子とのハンセン溶解度パラメータとの距離である。以降の説明では、ハンセン溶解度パラメータを適宜「HSP」と表記する。
【0017】
したがって、分散体の製造には、下記条件A、条件Bを満足する固体粒子、非水液体を組み合わせて使用することができる。
条件A:固体粒子候補群及び非水液体候補群の中から、少なくとも2種類の固体粒子のハンセン球と少なくとも1種類の非水液体とのハンセン球とが相互に重なる固体粒子と非水液体との組合せを決定する。
条件B:条件Aを満足する固体粒子のうちの1つは、水とのHSP距離Raが、分散体の製造に用いる全ての固体粒子の中で最大となる。
【0018】
固体粒子候補群、非水液体候補群は、作製しようとする分散体に応じて決定される。例えば、分散体をセラミックス焼成体に用いる場合には、焼成後に例えば固体粒子の原料同士が化学反応し、所望の材質のセラミックス焼成体が得られるように、固体粒子候補群を決定できる。固体粒子候補群は、メーカ、ロット、採取場所などが異なる固体粒子を含むことができる。非水液体候補群は、例えば固体粒子の分散に用いられる、液状の溶剤、分散剤、潤滑剤、バインダなどを含むことができる。
【0019】
固体粒子の材質は、特に限定されず、例えば分散体の使用目的に応じて決定される。固体粒子は、例えばセラミック原料を含む。例えば、分散体が、排ガス浄化フィルタ用のハニカム構造体、その端面を封止するための封止部の製造に用いられる場合には、固体粒子としては、シリカ、水酸化アルミニウム、タルク、カオリン、アルミナ、造孔材などが挙げられる。分散体が、排ガス浄化触媒を担持して使用されるモノリス担体用のハニカム構造体の製造に用いられる場合には、固体粒子としては、カオリン、水酸化アルミニウム、シリカ、アルミナ、タルク、造孔材等が挙げられる。分散体が、触媒機能(具体的には、貴金属触媒の助触媒機能)を有するハニカム構造体の製造に用いられる場合には、固体粒子としては、セリア、ジルコニア、セリアジルコニア固溶体、アルミナ等が挙げられる。その他にも、分散体は、固体電池のセパレータ、電極、センサの固体電解質体、碍子などの製造に使用される。この場合には、固体粒子としては、固体電解質、アルミナなどが挙げられる。非水液体としては、両性溶媒、酸性溶媒、塩基性溶媒などの活性溶媒;不活性溶媒等が用いられる。
【0020】
分散体の性状、粘度は特に限定されない。分散体は、スラリー、ペースト、坏土等と呼ばれ、水と水以外の非水液体と固体粒子との混合物を含む概念である。分散体では、例えば、固体粒子及び水以外の非水液体が分散質であり、水が分散媒である。
【0021】
分散体の製造にあたっては、固体粒子及び非水液体のハンセン球、水と固体粒子とのハンセン溶解度パラメータ距離Raを決定する。以下、ハンセン球、HSP距離Raについて説明する。
【0022】
まず、HSP理論について説明する。一般に、この理論では、溶質、溶媒、気体における表面エネルギーを数値化し、表面エネルギーを3つの項によって分類する。3つのエネルギーは、ロンドン分散力δd、双極子間力δp、水素結合力δhである。各エネルギーの単位はMPa1/2である。つまり、HSP値は、ロンドン分散力δd、双極子間力δp、水素結合力δhをそれぞれ座標軸とする、ハンセン空間と呼ばれる3次元空間内の座標として表される。
【0023】
HSP理論に基づいて、例えば、溶質Aと溶媒Bとの溶解性を調べる場合について検討する。溶質AのHSP値が(δdA,δpA,δhA)であり、溶媒BのHSP値が(δdB,δpB,δhB)であるとすると、これらのHSP値間の距離(つまり、HSP距離Ra1)は下記式Iで表される。
Ra1={4・(δdA-δdB)2+(δpA-δpB)2+(δhA-δhB)2}1/2 ・・・式I
【0024】
HSP距離Ra1が小さいほど、溶媒に溶質が溶解しやすくなる。溶解しない溶質の場合には、溶媒が分散媒となり、溶質が分散質となり、分散媒に分散質が分散しやすくなる。分散媒と分散質の場合には、Ra1≦5の場合には高分散状態が得られ、Ra1≦2の場合には超高分散状態が得られる。
【0025】
上記のHSP理論に対して、本開示では、ハンセン球の重なりと、固体粒子と水とのHSP距離Raに着目している。つまり、少なくとも2種類の固体粒子と、非水液体と、水との混合では、ハンセン球の重なりと、HSP距離Raに基づいて、分散性が評価され、これにより、高分散状態の分散体が得られる。HSP距離Raは、式Iに基づいて、溶媒BのHSP値として水のHSP値を用いることにより算出される。なお、水のHSP値は、δd:15.5、δp:16.0、δh:42.3である。
【0026】
固体粒子、非水液体のハンセン球、HSP値の測定は、HSP値が既知である少なくとも14種類の純溶媒の試薬を、良溶媒と貧溶媒とに分類することによって行われる。
【0027】
ハンセン球、HSP値は、例えば解析ソフトウエアにより求められる。解析ソフトウエアとしては、Dr.Hansenが開発したソフトウエアHSPiPのバージョン5.2.05を用いることができる。HSPiPについては、https://www.hansen-solubility.comに詳細が記載されている。まず、溶媒試薬の分類結果にスコアを付け、次いで、そのスコアを解析ソフトウエアに入力する。具体的には、良溶媒をスコア1とし、貧溶媒をスコア0とすることができる。これにより、解析ソフトウエア上で、ロンドン分散力δ
d、双極子間力δ
p、水素結合力δ
hをそれぞれ座標軸とする3次元のハンセン空間内にハンセン球を描くことができる。
図1に、ある固体粒子のハンセン球S1を例示する。非水液体のハンセン球S2も
図1と同様にハンセン空間内に描かれる。HSP値は、ハンセン球の中心(具体的には、中心座標)として決定される。なお、上記の解析ソフトウエア、バージョンが入手不可能な場合には、同様の測定原理を用いた入手可能な他のソフトウエア、他のバージョン、同様の測定原理を用いた計算によりハンセン球、HSP値を求めることができる。
【0028】
良溶媒と貧溶媒との分類は、ある測定値の閾値に基づいて決めることができる。上記の解析ソフトウエアを用いる場合には、フィティング値を確認することにより、閾値を決定することができる。フィティング値が1に近いほど、ハンセン球が正しく描けていることを意味する。したがって、フィティング値が1又は1未満の最大の数値となるように閾値を決定することができる。なお、これまでの実験による経験的な判断ではあるが、フィティング値が0.8未満の場合には、十分な測定精度が得られていないおそれがあるため、溶媒試薬を再選定して測定することが好ましい。
【0029】
固体粒子のハンセン球、HSP値を決定する上での良溶媒と貧溶媒との分類は、(1)目視法による沈殿状態の確認、(2)ストークス法による粒径の測定値、(3)濃厚系粒径アナライザによる粒径の測定値、(4)浸透速度法による接触角の測定値に基づいて行われる。(1)目視法による分類ができない場合に(2)ストークス法による粒径の測定を選択する。(2)ストークス法による粒径の測定ができない場合に(3)濃厚系粒径アナライザによる粒径の測定を選択する。(3)濃厚系粒径アナライザによる粒径の測定ができない場合に(4)浸透速度法による接触角の測定を選択する。具体的な方法を以下に示す。なお、分類、測定は、室温(温度20~25℃)の条件で行われる。
【0030】
(1)目視法
溶媒試薬中での沈殿を目視にて確認する。具体的な手順は、例えば下記の(1-1)~(1-3)の通りである。
(1-1)HSP値が既知である溶媒試薬を少なくとも14種類準備する。
(1-2)各溶媒試薬20ml中に測定対象となる固体粒子0.05gを入れ、30回降る。これにより、溶媒試薬中に固体粒子を分散させた後、静置する。
(1-3)静置から15分経過後の溶媒試薬中での固体粒子の沈殿状況を目視にて確認する。沈殿が観察された場合を貧溶媒とし、沈殿が観察されなかった場合を良溶媒と判定する。以上の操作を少なくとも14種類の溶媒試薬について行う。
【0031】
(2)ストークス法
ストークス法により固体粒子の粒径を測定し、その粒径に基づいて良溶媒と貧溶媒の分類を行うことができる。粒径が小さいものほど良溶媒となる。具体的な手順は、例えば下記の(2-1)~(2-5)の通りである。
(2-1)HSP値が既知である溶媒試薬を少なくとも14種類準備する。
(2-2)測定対象となる固体粒子2gを25mLのメスシリンダに入れる。次いで、メスシリンダの20mLの線まで溶媒試薬を入れ、メスシリンダを30回振った後、静置する。なお、静置後、目視にて溶媒試薬中で固体粒子が素早く沈殿した場合には、以降に説明する粒径の測定を必ずしも行わなくてもよく、分散性が悪い貧溶媒と判定できる。
【0032】
(2-3)静置から5分後、10分後、15分後、20分後、25分後に、清澄層と堆積層との界面の高さをそれぞれ3回測定し、その平均値を算出する。これにより、各経過時間後の界面高さの平均値が得られる。界面高さの平均値と経過時間とから、沈降速度ν(単位:cm/s)を算出する。
【0033】
(2-4)下記式IIで表されるストークスの式により、粒子径Dp(単位:cm)を算出する。式II中、η:試薬の粘性係数(単位:cm・s)、ν:沈降速度(単位:cm/s)、ρp:粒子の密度(単位:g/cm3)、ρ0:試薬の密度(単位:g/cm3)、g:重力加速度である。粒子の密度ρpは、比重瓶を用いて測定する。重力加速度gは、980cm/s2である。粒子径Dpの測定を少なくとも14種類の溶媒試薬について行う。粒子径Dpは平均粒子径である。
(2-5)粒子径Dpの閾値に基づいて、溶媒試薬を良溶媒と貧溶媒とに分類する。閾値の決定方法は上記の通りである。なお、例えば粒子径Dpの小さい順に溶媒試薬を整理しておくと分類が容易になる。
【0034】
【0035】
(3)濃厚系粒径アナライザ
濃厚系粒径アナライザを用いて固体粒子の粒径(具体的には平均粒子径)を測定し、その粒径に基づいて良溶媒と貧溶媒の分類を行うことができる。測定には、例えば、大塚電子(株製の濃厚系粒径アナライザ「FPAR-100」を用いる。粒径が小さいものほど良溶媒となる。具体的な手順は、例えば下記の(3-1)~(3-4)の通りである。
(3-1)HSP値が既知である溶媒試薬を少なくとも14種類準備する。
(3-2)測定対象となる固体粒子と溶媒試薬を用いて、粒子濃度5.0×10-4g/ccの分散液を作製する。
(3-3)濃厚系粒径アナライザに分散液を投入し、粒子径を測定する。粒子径の測定を少なくとも14種類の溶媒試薬について行う。
(3-4)粒子径の閾値に基づいて、溶媒試薬を良溶媒と貧溶媒とに分類する。閾値の決定方法は上記の通りである。なお、例えば粒子径の小さい順に溶媒試薬を整理しておくと分類が容易になる。
【0036】
(4)浸透速度法
浸透速度法により固体粒子と各溶媒試薬との接触角を測定し、その接触角に基づいて良溶媒と貧溶媒の分類を行うことができる。測定は、
図2に示す測定装置5により行われる。
図2に示すように、測定装置5は、昇降装置51、鉄製カラム52、電子天秤53、記録装置54とから構成される。昇降装置51は昇降台511を備え、この昇降台511に溶媒試薬を入れたビーカ55が配置される。鉄製カラム52と電子天秤53とは連結されており、電子天秤により、鉄製カラム52内の重量を測定できる。鉄製カラム52の下面は濾紙521から構成されており、鉄製カラム52内には測定対象となる固体粒子の粉末50が充填されている。鉄製カラム52はビーカ55上につり下げられている。記録装置54は、例えばコンピュータであり、電子天秤53の測定結果を記録する。この測定装置5を用いた接触角の測定、分類は、具体的には、例えば下記(4-1)~(4-4)の手順で行われる。
【0037】
(4-1)HSP値が既知である溶媒試薬を少なくとも14種類準備する。
(4-2)溶媒試薬をビーカ55内に入れる。測定対象となる固体粒子の粉末50を鉄製カラム52に充填する。
(4-3)昇降装置51を作動させ、鉄製カラム52の下面側をビーカ55内の溶媒試薬中に浸漬する。これにより、鉄製カラム52内の固体粒子の粉末50に溶媒試薬が浸透する。浸漬後、1秒毎に、電子天秤53にて浸透重量を測定し、記録装置54で測定結果を記録する。浸透重量は、鉄製カラム52内の充填粉体(具体的には、粉末50)を浸透してきた溶媒試薬の重量のことである。
(4-4)下記式IIIで表されるウォッシュバーン式により、接触角θ(単位:°)を算出する。式III中、l:液体の浸透高さ(単位:m)であり、t:浸透時間(単位:s)であり、r:充填粉体の毛細半径(単位:m)であり、γ:液体の表面張力(単位:mN/m)であり、η:液体の粘度(単位:mPa・s)である。なお、液体(具体的には、溶媒試薬)の密度と浸透重量から、カラム内へ浸透してきた液体の体積を算出することができ、この体積と容器の断面積から浸透高さlを算出することができる。接触角θの測定を少なくとも14種類の溶媒試薬について行う。
l2/t=r・γcosθ/2η ・・・式III
(4-5)接触角の閾値に基づいて、良溶媒と貧溶媒とに分類する。接触角が小さいほど、充填粉体内での溶媒試薬の浸透が速いことを意味し、浸透が速い溶媒試薬ほど良溶媒となる。一方、接触角が大きいほど、充填粉体内での溶媒試薬の浸透が遅いことを意味し、浸透が遅い溶媒試薬ほど貧溶媒となる。閾値の決定方法は上記の通りである。なお、例えば接触角θの小さい順に溶媒試薬を整理しておくと分類が容易になる。
【0038】
非水液体のハンセン球を決定する上での良溶媒と貧溶媒との分類は、例えば、目視にて非水液体と溶媒試薬との溶解性を確認することにより行われる。具体的には、HSP値が既知である溶媒試薬を少なくとも14種類準備する。スクリュー管に測定対象となる非水液体1mlを入れ、さらに溶媒試薬1mLを入れる。スクリュー管を20回振った後、管内の状態を目視で確認した。非水液体が溶媒試薬に溶解している場合には、その溶媒試薬を良溶媒と判定する。非水液体が溶媒試薬に完全には溶解しておらず一部が分離している場合、又は、非水液体が溶媒試薬に全く不溶で両者が完全に分離している場合には、その溶媒試薬を貧溶媒と判定する。判定は室温(温度20~25℃)の条件で行われる。以上の操作を少なくとも14種類の溶媒試薬について行う。
【0039】
固体粒子、非水液体のハンセン球の測定に用いる溶媒試薬としては、例えば、δdが14~21であり、かつ、δpが0~20であり、かつδhが0~22の純溶媒を選定する。溶媒試薬の数が多い程、HSP値及びハンセン球を高精度に測定できるが、14~20種類であれば十分高精度に算出できる。これ以上の数を増しても測定結果はほぼ変わらず、少なくとも14種類の溶媒試薬を用いれば十分である。HSP値が既知の溶媒試薬、そのHSP値を表1に示す。表1に示すリストの中から少なくとも14種類の溶媒試薬を用いることにより、ハンセン球、HSP値を決定することができる。
【0040】
【0041】
測定に使用する溶媒試薬の選定方法は、限定されないが、溶媒試薬の各表面エネルギーの値(つまり、δd、δp、δh)が、近い試薬同士の組合せを避け、広範囲にばらけるような組合せを選択することが好ましい。
【0042】
具体的には、表1に示す溶媒試薬のうち、例えば第1群に属する溶媒試薬を全て使用し、測定対象となる固体粒子、非水液体に応じて第2群、第3群から溶媒試薬を選択して使用することができる。非水液体、目視法にて測定できる固体粒子については、第1群に属する溶媒試薬と、第2群に属する溶媒試薬とを組み合わせて使用することができる。この場合において、フィティング値が悪い場合には、フィティング値が1に近づくように、さらに第3群の溶媒試薬を追加して使用することが好ましい。また、測定方法によっては、良溶媒、貧溶媒の判定ができない溶媒試薬がある。そのため、測定方法に合わせて第2群と第3群から溶媒試薬を選定することができる。
【0043】
以上のようにして、固体粒子、非水液体のハンセン球を求めることができる。また、ハンセン球から固体粒子のHSP値が求められる。その結果から、固体粒子の、水とのHSP距離Raを算出することができる。
【0044】
図1に示すように、ハンセン球S1は三次元空間内に表される。分散体の製造にあたっては、少なくとも2種類の固体粒子と、1種類の非水液体とのハンセン球が重なるように、固体粒子、非水液体を選択的に使用する。ハンセン球の重なりの具体例は、実験例にて示す。
【0045】
本形態の製造方法では、複数種類の固体粒子(具体的には、粉末)と、水と、水以外の液体とを混合することにより、分散体を製造する。そして、分散体の製造に使用する固体粒子と、液体とを、ハンセン球の重なり、水とのHSP距離Raに基づいて決定する。これにより、固体粒子、非水液体として高分散化に適した組合せを選択することができる。その結果、水を含みながらも、分散性が良好な分散体を製造することができる。したがって、分散体の密度のばらつきを小さくすることができる。また、分散体の粘度の経時変化を小さくすることも可能になる。
【0046】
非水液体とハンセン球が重なる固体粒子のことを、以下適宜、「液体親和性固体粒子」という。液体親和性固体粒子のうちの1種類の配合割合が分散体の製造に使用する全ての固体粒子の中で最も大きくなるように固体粒子を選択し、分散体の製造に用いることが好ましい。この場合には、分散性がより良好な分散体を製造することができる。これは、使用量の最も多い固体粒子と液体との親和性が良好になるためである。なお、配合割合は、質量比である。
【0047】
また、分散体の製造に用いる全ての固体粒子のうち、水とのHSP距離Raが最大となる固体粒子を第1固体粒子とすると、この第1固体粒子を、分散体の製造に使用可能な固体粒子候補群の中でHSP距離Raが最大であるものとして選択することが好ましい。この場合にも、分散性がより良好な分散体を製造することができる。これは、固体粒子候補群の中で最も水との親和性が低い第1固体粒子と、液体との親和性が良好になるためである。
【0048】
HSP距離Raが最大の固体粒子の選択と、ハンセン球同士が重なる固体粒子と液体との組合せの選択とは、いずれを先に行ってもよい。つまり、選択の順序は、相互に入れ替わってもよい。たとえば、固体粒子候補群のHSP値を求め、固体粒子候補群を水とのHSP距離Raが大きい順に並べる。次いで、水とのHSP距離Raが大きい固体粒子と液体とのハンセン球が重なるように、固体粒子と液体とを選択して、分散体の製造に使用することができる。一方、先にハンセン球の重なりから、固体粒子と液体との組合せを調べ、これらの組合せの中から水とのHSP距離Raが大きいものが含まれる組合せを選択することも可能である。
【0049】
液体親和性固体粒子のうち第1固体粒子以外の固体粒子である第2固体粒子を、固体粒子候補群の中からHSP距離Raが2番目に大きいものとして選択し、分散体の製造に用いることが好ましい。この場合にも、分散性がより良好な分散体を製造することができる。これは、固体粒子候補群の中で最も水との親和性が低い第1固体粒子、第2固体粒子と、液体との親和性が良好になるためである。
【0050】
液体親和性固体粒子のうち、第1固体粒子以外の固体粒子である第2固体粒子を、分散体の作製に使用する全ての固体粒子のうち、配合割合が1番目又は2番目に大きいものとして選択することが好ましい。この場合にも、分散性がより良好な分散体を製造することができる。これは、使用量が多い第2固体粒子と液体との親和性が良好になるためである。なお、配合割合は、質量比である。
【0051】
以上のように、本態様によれば、分散性が良好な分散体の製造方法を提供することができる。
【0052】
(実施形態2)
分散体の製造方法に係る他の実施形態について説明する。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0053】
本形態で製造される分散体は、実施形態1と同様に、固体粒子と水と非水液体とを混合することによって製造される。分散体の製造に使用する固体粒子と非水液体とを以下のようにして選択する。
【0054】
水とのHSP距離Raが28MPa1/2以上である固体粒子候補群から少なくとも2種類の固体粒子を選択する。そして、これらの固体粒子のハンセン球と、非水液体候補群のうちの少なくとも1種類の非水液体のハンセン球とが相互に重なるよう固体粒子及び液体を選択する。固体粒子と水とのHSP距離Raは、実施形態1に示すように、各HSP値を測定し、その距離を算出すればよい。
【0055】
水とのHSP距離Raが28MPa1/2以上である固体粒子候補群から固体粒子を選択する理由は、次の通りである。水とのHSP距離Raが28MPa1/2未満の場合は、水に対する固体粒子の分散が著しく悪化することが無いため、混錬や攪拌による機械エネルギーにより、良好な分散体を得ることができる。一方、水とのHSP距離Raが28MPa1/2以上の場合は、水中で固体粒子同士が凝集体を形成する可能性が高く、上述の機械エネルギーでは凝集体を分散させることが困難である。よって、水とのHSP距離Raが28MPa1/2以上である固体粒子候補群から固体粒子を選択することが好ましい。
【0056】
上記のようにして選択される固体粒子と液体とを用いることにより、分散性が良好な分散体を製造することができる。
【0057】
固体粒子候補群から選択される固体粒子の少なくとも1種類の配合割合が、分散体の製造に使用する全ての固体粒子の中で最も大きくなるように固体粒子を選択し、分散体の製造に用いることが好ましい。この場合には、分散性がより良好な分散体を製造することができる。これは、使用量の最も多い固体粒子と液体との親和性が良好になるためである。なお、配合割合は質量比である。その他は、実施形態1と同様に実施することができ、同様の効果を奏する。
【0058】
(実施形態3)
分散体を用いて、セラミックス焼成体1として、ハニカム構造体2を製造する実施形態について説明する。
図3に示すように、ハニカム構造体2は、例えば円筒状の外皮21と、外皮21内を多数のセル22に区画する隔壁23とを有する。隔壁23は格子状に設けられている。セル22は、外皮21の軸方向Xに沿って延びる。外皮21の軸方向Xは、ハニカム構造体2の軸方向Xでもある。
【0059】
ハニカム構造体2には、貴金属触媒などの排ガス浄化触媒を担持して用いられるモノリス基材と、封止部を形成して、排ガス中の粒子状物質の捕集に用いられる排ガス浄化フィルタがある。封止部の図示は省略するが、封止部は、ハニカム構造体2の軸方向Xの両端28、29に形成され、各セル22は、第1端28又は第2端29が封止部により封止され、第1端28又は第2端29では、封止部と、封止部によって封止されていない開口部とがチェック模様状に配置される。以下、モノリス基材用のハニカム構造体のことを「第1ハニカム構造体」といい、排ガス浄化フィルタ用のハニカム構造体のことを「第2ハニカム構造体」という。
【0060】
第1ハニカム構造体、第2ハニカム構造体は、いずれも、
図3に示すハニカム構造を有し、コージェライト、SiC、チタン酸アルミニウムなどから構成される。例えば同じコージェライトであっても、第1ハニカム構造体と、第2ハニカム構造体とでは、耐熱性、強度、気孔率などの要求性能が異なるため、異なる原料が用いられる。
【0061】
第1ハニカム構造体がコージェライトから構成される場合には、カオリン、水酸化アルミニウム、シリカ、アルミナ、タルク、造孔材などの中から原料が選定される。また、第2ハニカム構造体がコージェライトから構成される場合には、多孔質シリカなどのシリカ、水酸化アルミニウム、タルク、造孔材などの中から原料が選定される。一方、原料と水との濡れ性を向上させて分散性を高めるために、非水液体として、潤滑油、分散剤が用いられる。
【0062】
ハニカム構造体の製造方法は、次の通りである。まず、候補群の中から選定された原料の固体粒子と、候補群の中から選定された非水液体と、水とを混合し、混練により、坏土を調整する。この坏土が分散体である。次いで、坏土をハニカム形状に押し出して成形体を得る。この成形体を乾燥させ、焼成させることにより、ハニカム構造体が得られる。
【0063】
実施形態1及び2のように、固体粒子と非水液体とを選定して坏土を調整することにより、分散性の良好な坏土を得ることができる。これにより、焼成後に、クラックやセルのよれ等の不具合が発生することを防止できる。実施形態1及び実施形態2の分散体を用いることにより、ハニカム構造体2の隔壁23のように、セラミックス焼成体1が薄肉部を有する場合であっても、成形後又は焼成後に薄肉部に形状異常が発生することを防止できる。また、非水液体の量を減らしても高分散状態の分散体を得ることができるため、坏土内での非水液体成分の偏りが低減する。その結果、焼成時のストレスが抑制され、焼成体に生じうる不具合をより一層防止できる。
【0064】
(実験例1)
本例では、候補群の中から、コージェライトから構成されるハニカム構造体の製造に使用する固体粒子、非水液体を選定する例である。具体的には、モノリス基材用の第1ハニカム構造体の製造に用いる固体粒子、非水液体を選定する。
【0065】
本例では、第1ハニカム構造体の製造には、その原料の固体粒子として、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、タルクが用いられる。そして、これらの原料と、水と、液状の分散剤とを混合することにより分散体を製造し、分散体を成形、乾燥、焼成することにより、ハニカム構造体が製造される。まず、ハニカム構造体の原料に用いられる固体粒子、非水液体のHSP値を実施形態1に示す方法により測定した。
【0066】
表2~4に、HSP値の測定対象、その測定に用いた溶媒試薬を示す。表中の丸印は、該当試薬を使用したことを示し、空欄は該当試薬を使用しなかったことを示す。なお、表2~4には、実験例2において説明する排ガス浄化フィルタ用の第2ハニカム構造体の製造原料となる測定対象、溶媒試薬も示してある。なお、表中、アルファベットを付けた測定対象は、メーカ、産地、品名(品番)等が異なるものであることを示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表5に、固体粒子のHSP値、水とのHSP距離Raの測定結果を示し、表6に、非水液体のHSP値の測定結果を示す。また、表7~表22には、測定対象となる固体粒子、非水液体のHSP値の測定に使用した溶媒試薬の分類結果を示す。スコア1が良溶媒であり、スコア0が貧溶媒であることを示す。なお、表7、表8、表10~表14における「-」は、目視にて判定を行ったことを意味する。各測定対象の3次元のハンセン球の図示は省略するが、例えばソフトウエアにより、
図1と同様なハンセン球を得ることができる。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
表5~表22に示すように、実施形態1に示す方法により、測定対象となる固体粒子及び非水液体についての、溶媒試薬の分類が可能である。その結果から、ハンセン球、HSP値を測定することができる。そして、固体粒子の水とのHSP距離Raを算出することができる。ハンセン球は、通常、ロンドン分散力δ
d、双極子間力δ
p、水素結合力δ
hをそれぞれ座標軸とする、ハンセン空間と呼ばれる3次元空間内に表されるが、本実験例1では、
図4~
図18に示すように、ハンセン球同士の重なりを明示するため、ハンセン球を3つの二次元座標にそれぞれ示す。なお、実験例2における
図19~
図26についても同様である。
【0090】
図4~
図18における(a)は、ロンドン分散力δ
d、双極子間力δ
p、及び水素結合力δ
hを軸とする3次元座標で表されるハンセン球を、ロンドン分散力δ
d及び双極子間力δ
pを軸とする2次元座標に投影した図であるといえる。つまり、
図4~
図18における(a)は、ロンドン分散力δ
d及び双極子間力δ
pを軸とする2次元座標上でのハンセン球の外形を示す。
図4~
図18における(b)は、3次元座標で表されるハンセン球を、双極子間力δ
p及び水素結合力δ
hを軸とする2次元座標に投影した図であるといえる。つまり、
図4~
図18における(b)は、双極子間力δ
p及び水素結合力δ
hを軸とする2次元座標上でのハンセン球の外形を示す。
図4~
図18における(c)は、3次元座標で表されるハンセン球を、ロンドン分散力δ
d及び水素結合力δ
hを軸とする2次元座標に投影した図であるといえる。つまり、
図4~
図18における(b)は、ロンドン分散力δ
d及び水素結合力δ
hを軸とする2次元座標上でのハンセン球の外形を示す。なお、後述の実験例2における
図19~
図26についても同様である。
【0091】
なお、
図4~
図26に示す各ハンセン球は、以下の固体粒子、非水液体のものである。ハンセン球S11は、水酸化アルミニウムAのハンセン球である。ハンセン球S12は、水酸化アルミニウムDのハンセン球である。ハンセン球S13は、タルクAのハンセン球である。ハンセン球S14は、タルクBのハンセン球である。ハンセン球S15は、タルクCのハンセン球である。ハンセン球S16は、タルクDのハンセン球である。ハンセン球S17は、多孔質シリカのハンセン球である。ハンセン球S21は、キャノーラ油のハンセン球である。ハンセン球S22は、分散剤Aのハンセン球である。ハンセン球S23は、分散剤Bのハンセン球である。ハンセン球S24は、分散剤Cのハンセン球である。
【0092】
表23、表24の実施例1~12、比較例1~4に示すように、モノリス基材用の原料となる固体粒子、分散剤を選定した。選定の欄の「○」は、その固体粒子、非水液体を選定したことを意味し、空欄は、選定しなかったことを意味する。選定は、上記測定結果から、水とのHSP距離Ra、
図4~
図18に示されるハンセン球の重なりに基づいて行った。
図8~
図18に示すように、実施例1~12では、2つの固体粒子のハンセン球S1と、1種類の非水液体のハンセン球S2とが相互に重なるように固体粒子の選定を行った。
図4~
図7に示すように、比較例1~4で使用される固体粒子、非水液体には、ハンセン球S1、S2が重ならない組合せが存在している。なお、
図4~
図18では、上記のごとくハンセン球が二次元の円として表されるため、ハンセン球の重なりは円の重なりとして表されている。後述の実験例2における
図19~
図26についても同様である。
【0093】
表23、表24、
図4~
図18に示される組合せの2種類の固体粒子と、1種類の非水液体と、さらに、カオリンと、シリカと、アルミナと、水とを混合し、第1ハニカム構造体用の坏土を調整した。本例の分散体(具体的にはモノリス用の坏土)の製造に使用する固体粒子の中で配合量(ただし、質量比)が最も多い原料は、タルクであり、2番目に多い原料は、水酸化アルミニウムである。また、表23、表24に示されるように、固体粒子候補群の中で、水とのHSP距離が最も大きい原料は、タルクAであり、2番目に大きい原料は、タルクDである。なお、表23、表24、後述の表25におけるハンセン球の重なりの欄の「○」は、2つの固体粒子のハンセン球S1のいずれもが、非水液体のハンセン球S2と重なることを意味し、「×」は、2つの固体粒子のハンセン球S1の一方が、非水液体のハンセン球S2と重ならないことを意味している。
【0094】
次に、実施例1、2、比較例1、2の坏土の分散性を調べるために、坏土密度のばらつきを測定した。具体的には、混練後であって成形前の坏土を取り出し、ランダムに8か所の位置から坏土をくりぬいて測定サンプルを得た。その測定サンプルを直径25mm、長さ20mmの測定冶具の中に入れ、加圧速度1mm/min、圧力1kNの条件で測定サンプルを圧縮させた。その後、測定治具から取り出した測定サンプルの高さと重量を測定し、その結果から密度を算出した。次に、予め原料の配合によって計算できる理論坏土密度に対する、実際の坏土密度の測定値の差を算出した。理論坏土密度よりも測定値が小さく、そのずれ幅が大きい場合は、測定サンプルの濡れ性が悪いことを意味している。この場合には、粒子表面に空気が存在し、例えば焼成により、クラックなどが発生するおそれがある。一方、理論坏土密度と測定値とが同様の値となれば、分散性が良いと言える。その結果を表23に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
表23、表24より知られるように、比較例では、いずれも理論坏土密度よりも実測した坏土密度結果の平均値が約10%低くなっていた。また、表中には示していないが、坏土の採取場所によるバラツキが大きく、坏土密度の実測値が理論値に比べて17%低い箇所があった。これに対し、実施例では、理論値からのずれは平均値で5%以下であり、特異的に低い箇所もなく、バラツキが小さかった。
【0098】
また、実施例、比較例の坏土を用いて、実施形態3と同様にして、成形、乾燥、焼成を実施し、ハニカム構造体を製造した。昇温速度条件を変更しないことを前提とした結果、比較例に対し、実施例では、いずれも焼成時の不良率が半分以下となった。
【0099】
(実験例2)
本例では、コージェライトから構成されるハニカム構造体の製造に使用する固体粒子、非水液体を選定する例である。具体的には、排ガス浄化フィルタ用の第2ハニカム構造体の製造に用いる固体粒子、非水液体を選定する。第2ハニカム構造体は、第1ハニカム構造体と同様の構造を有する。第2ハニカム構造体のセルを、その軸方向の両端において交互に封止する封止部を形成することにより、排ガス浄化フィルタが形成される。
【0100】
排ガス浄化フィルタ用の第2ハニカム構造体の製造には、所望のコージェライト組成となるように、多孔質シリカ、水酸化アルミニウム、タルクが用いられる。そして、これらの原料と、水と、液状の分散剤とを混合することにより分散体を製造し、分散体を成形、乾燥、焼成することにより、ハニカム構造体が製造される。
【0101】
実験例1で測定した各測定対象の、HSP値、水とのHSP距離Ra、ハンセン球に基づいて、排ガス浄化フィルタ用の原料を選定した。その結果を表24、
図19~
図26に示す。表25、
図19~
図26に示す組合せで、固体粒子、非水液体を選定し、これらの固体粒子、非水液体と、さらに、水酸化アルミニウムと、水とを混合し、第2ハニカム構造体用の坏土を調整した。本例の分散体(具体的には排ガス浄化フィルタ用の坏土)の製造に使用する固体粒子の中で配合量(ただし、質量比)が最も多い原料は水酸化アルミニウムであり、2番目に多い原料はタルクである。また、固体粒子候補群の中で水とのHSP距離が最も大きい固体粒子は、多孔質シリカであり、2番目に大きい固体粒子はタルクAである。
【0102】
【0103】
表25より知られるように、多孔質シリカの水とのHSP距離Raが39.0であり、その数値が使用する固体粒子の中で最大である。さらに、表25、
図23~
図26に示すように、実施例12~実施例15では、2種類の固体粒子のハンセン球S1が、いずれも非水液体のハンセン球S2と重なりを有する。したがって、実施例の坏土は、実験例1の結果に基づくと、分散性が良好になるといえる。一方、表25、
図19~
図22に示すように、比較例5~比較例8では、2種類の固体粒子のハンセン球S1の少なくとも一方が、非水液体のハンセン球S2と重なりを有さない。したがって、比較例5~比較例8の坏土は、実験例1の結果に基づくと、分散性が悪いといえる。
【0104】
本発明は上記各実施形態、実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。実施形態、実施例では、分散体として、ハニカム構造体の製造に用いられる坏土について主に説明したが、本発明は、セラミック原料などの固体粒子と、水と、非水液体とを混合する他の技術分野にも適用できる。具体的には、ガスセンサ、固体電池、スパークプラグなどが例示される。本技術は、セラックスなどの焼成体を含む製品に広く適用される。
【符号の説明】
【0105】
1 セラミックス焼成体
2 ハニカム構造体
21 外皮
22 セル
23 隔壁
S1 固体粒子のハンセン球
S2 液体のハンセン球