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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】転写印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20221115BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221115BHJP
   B41M 3/12 20060101ALI20221115BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B44C1/17 F
B41J2/01 101
B41M3/12
B41J2/01 111
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B41M5/00 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018210980
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2019171840
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018015589
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018063446
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515291166
【氏名又は名称】株式会社クイックアート
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】飛山 達哉
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-308284(JP,A)
【文献】特開2013-059973(JP,A)
【文献】特開2010-173145(JP,A)
【文献】特開2011-215616(JP,A)
【文献】特開2017-185808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/00
B41J 2/01
B41M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクによって画像が形成された転写シートを用いて被転写物に前記画像を転写する転写印刷方法において、
水性顔料性のインクと、前記インクの表面の全体に付着する非水溶性で加熱溶融性の粉体であって、粒径とその占有率とによって表される前記粉体のグレードが、150μmを越える粒径の粉体を含まず、44μm~150μmの粒径の粉体を50%~52%含み、残余が44μm未満の粒径の粉体であるものを準備するとともに、
非撥水性で、かつ、前記インクで前記画像を形成して前記粉体を振り掛けるまでの間、前記粉体の付着性を保持するだけの前記インクの非浸透性を有する転写シートを準備し、
前記転写シートの表面に前記インクによって前記画像を形成し、
前記転写シートの表面に前記粉体を振りかけて前記インクの表面の全体に隙間なく前記粉体を付着させ、
非画像形成部分の前記粉体を除去して前記被転写物に前記転写シートを重ね合わせ、
前記画像形成部分を前記粉体が溶融する温度で加熱・加圧することで、前記転写シートの前記画像を前記被転写物に転写すること、
を特徴とする転写印刷方法。
【請求項2】
請求項1に記載の転写印刷方法によって前記被転写物に転写した前記画像の上に、金箔、銀箔、銅箔又はアルミ箔を含む箔を載せ、前記箔の上から前記画像形成部分を前記接着剤層が溶融する温度で加熱・加圧することで前記画像に前記箔を貼り付けた後、前記箔を前記被転写物から取り除くことで、前記画像形成部分のみに前記箔を貼着すること、
を特徴とする転写印刷方法。
【請求項3】
前記粉体がウレタン、アクリル、ポリエステル又はポリアミド若しくはこれらを含む混合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の転写印刷方法。
【請求項4】
前記画像を複数に分けて形成し、第一の画像を形成した後に第二の画像を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の転写印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像が形成された転写シートを用いて、布地などの被転写物に前記画像を転写する転写印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像を形成した転写シートを布地等の被転写物に重ね合わせ、加熱加圧することで前記画像を前記被転写物に転写する転写印刷方法(全面移行型転写印刷方法)が知られている。この種の転写印刷方法では、基材の表面に剥離層が形成された転写シートに画像を形成するとともに、ホットメルト層(接着剤層)を前記転写シートの全面に形成し、この転写シートを被転写物に加熱加圧して転写する方法が一般的である。しかし、前記ホットメルト層が画像とともに前記被転写物へ転写されて、画像以外の余白部分にもホットメルト層が被転写物に形成されてしまい、例えば被転写物が被服であるような場合には繊維の風合いが失われて不快感を与えるという問題がある。また、例えばガラスなどの透明な被転写物に転写印刷を行う場合に、画像を形成した部分以外の部分に
ホットメルト層が転写されてしまうと、当該部分の透光率が低下して被転写物の外観を損ねるという問題がある。そこで、形成した画像をなぞるように前記画像の上のみにホットメルト層を形成し、当該ホットメルト層とともに加熱加圧により前記画像を被転写物に転写する方法が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。この方法によれば、画像を形成した部分以外の部分にはホットメルト層が形成されないため、上記の問題は解決することができる。
しかし、前記画像に完全に一致させてホットメルト層を形成することは困難で、特に画像が微細又は複雑である場合や手書きの場合には対応が非常に難しいという問題がある。また、ホットメルト層を形成するための特殊なプリンターが別途必要になったり、手作業で行う場合には多大な時間と労力を要したりするという問題もある。
【0003】
そこで、特許文献3に記載の昇華捺染方法では、昇華捺染インクを用いて転写紙に画像を印刷し、その画像の上に熱溶融性の粉体を散布した後、余分な前記熱溶融性粉体を取り除いて、被転写物に重ね合わせ、加熱圧着して前記転写紙の画像を前記被転写物に昇華転写させるものである。
しかし、昇華転写印刷は高価な専用の印刷機が必要で、一般家庭で転写印刷を行うことは困難であるという問題がある。また、白色や淡色の生地との相性は良いが、茶色や黒色、紺色などの濃色の生地へ印刷すると、デザインが生地に沈み込んだような印象になってしまうため不向きであるという問題がある。さらに、印刷後の被転写物をアイロンがけ(再加熱)するとインクが気化してしまい、色落ちしやすいという問題がある。 また、特許文献4には、昇華捺染インクを用いた昇華転写のほかに、水性顔料性のインク(水性顔料インク)を用いた熱転写方法が記載されている。水性顔料インクを用いることで特許文献3に記載された昇華捺染方法の上記の欠点は解消することはできるもの、特許文献4に記載の方法で熱転写すると、画像のうちの一部でインクが転写されない部分(画像の部分欠落)が生じるため、転写品質が悪いという問題がある。特に、例えば0.5mmといった微細な線や点を転写すると画像欠落が生じやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-308284号公報
【文献】特許第6074563号公報
【文献】特開平4-308284号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0120652号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこれら従来の技術が有する問題点を解決するべくなされたもので、画像が微細又は複雑であったり手書きであったりしても、当該画像に一致させてホットメルト層を容易に形成することが可能で、低コストで画像を形成した部分以外の部分にホットメルト層を形成することなく、被転写物の風合いの低下や転写後の被転写物の外観の低下などを最小に抑制することができる転写印刷方法の提供すること、接着性の粉体を用いて熱転写した場合に部分的な画像欠落が無く、微細な線や点であっても形成した画像をそのまま被転写物に転写することができ、再加熱した際にも色落ちが無い転写印刷方法の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の発明者が鋭意研究を行ったところ、特許文献4に記載の熱転写方法で転写画像の一部欠落が生じる原因として接着剤となる樹脂粉体の粒子径が大きく関与しているとの結論に達した。すなわち、引用文献4には、200μm未満の粒径を有する粉体を用いるとしているが、例えばキログラム単位で販売されている市販の樹脂粉体は、均一粒径の樹脂粉体の集合物ではなく、概ね150μm~250μm内でばらつきのある樹脂粉体の集合物である。この大きさの樹脂粉体は粒子径が大きすぎて、インクの表面に樹脂粉体の隙間が生じやすく、当該隙間が欠落画像となるものと推測される。例えば、インクに直接付着せずに他の樹脂粉体の上に乗った形でインク上に振り掛けられた樹脂粉体が、転写紙を傾けたり振動を与えたりした際に、その自重によってインクの上から容易に脱落してしまい、当該脱落した部分が隙間となって画像欠落が生じると推測できる。そして、この画像欠落の大きさは、樹脂粉体の粒子径が大きいほど大きい。
【0007】
このような推測の下、本発明の発明者は請求項1に記載するように、インクによって画像が形成された転写シートを用いて被転写物に前記画像を転写する転写印刷方法において、水性顔料性のインクと、前記インクの表面の全体に付着する非水溶性で加熱溶融性の粉体であって、粒径とその占有率とによって表される前記粉体のグレードが、150μmを越える粒径の粉体を含まず、44μm~150μmの粒径の粉体を50%~52%含み、残余が44μm未満の粒径の粉体であるものを準備するとともに、非撥水性で、かつ、前記インクで前記画像を形成して前記粉体を振り掛けるまでの間、前記粉体の付着性を保持するだけの前記インクの非浸透性を有する転写シートを準備し、前記転写シートの表面に前記インクによって前記画像を形成し、前記転写シートの表面に前記粉体を振りかけて前記インクの表面の全体に隙間なく前記粉体を付着させ、非画像形成部分の前記粉体を除去して前記被転写物に前記転写シートを重ね合わせ、前記画像形成部分を前記粉体が溶融する温度で加熱・加圧することで、前記転写シートの前記画像を前記被転写物に転写する方法に想到した。
【0008】
この方法によれば、画像が微細又は複雑であったり手書きであったりしても、当該画像に一致させてホットメルト層を容易に形成することができること、昇華印刷のように高価で専用の印刷機は不要であること、再加熱した際にも色落ちが無く、一般家庭においても好みの画像をTシャツ等に転写印刷することが可能になること、画像を形成した部分以外の部分にホットメルト層を形成することなく、被転写物の風合いの低下や転写後の被転写物の外観の低下などを最小に抑制することができることなど、従来の転写印刷方法及び引用文献3に記載した昇華捺転写印刷方法の課題を解決することができる。そのほか、画像を形成したインクの表面に隙間なく粉体が付着されるようにしているので、転写できずに欠落する部分を無くして形成した画像をそのまま高品質で被転写物に転写することができ、引用文献4に記載された転写方法の課題も解決することができる。
【0009】
請求項2に記載するように、前記被転写物に転写した前記画像の上に、金箔、銀箔、銅箔又はアルミ箔を含む箔を載せ、前記箔の上から前記画像形成部分を前記接着剤層が溶融する温度で加熱・加圧することで前記画像に前記箔を貼り付けた後、前記箔を前記被転写物から取り除くことで、前記画像形成部分のみに前記箔を貼着するようにしてもよい。前記粉体としては、例えば請求項に記載するようなウレタン、アクリル、ポリエステル又はポリアミド若しくはこれらの樹脂粉体又はこれらの混合体を用いることができる。なお、請求項2に記載の方法においては、前記粉体に替えて前記液体樹脂を用いることができ、常温で液体であり、かつ、前記インクと混合できるもので、加熱によって固化又は硬化することで前記画像を布地などの被転写物に固着させることができるものであれば、市販されている種々のものを用いることができる。例えば不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂を用いることができる。
【0010】
請求項に記載するように、前記画像を複数に分けて形成し、第一の画像を形成した後に第二の画像を形成してもよい。このようにすることで、複数に分けて画像を転写することで、例えば異なる色合いのインクから形成される画像であっても被転写物に転写することが可能になる。
本発明に用いられる前記粉体の色は、無色透明、前記画像と一致したもの、前記画像と異なるものなどを用いることができるが、白色のものを用いることで、例えば黒地の被転写物に黒、青、赤など目立たない色のインクで画像を形成するような場合に、画像と被転写物との間に白色層を形成することができ、前記画像を目立たせることができる。
また、画像の異なる部分ごとに異なる色の粉体又は異なる種類の粉体を用いる場合は、当該部分の画像を形成して粉体を付着させた後、違う部分の画像を形成して別の色の粉体を形成する作業を繰り返せばよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の転写印刷方法の一実施形態にかかり、転写印刷の手順を示す図である。
【0012】
図1(a)に示すように、基材1の上に剥離層2を形成した転写シートIを準備する。転写シートIとしては、以下の条件を満たすものを選択する。
(i)非撥水性でインクの乗りが良好なもの
(ii)画像を形成した後、前記粉体を振り掛けるまでの間、前記粉体の付着性を保持するだけのインクの非浸透性を有するものであること
このような転写シートIとしては市販のものを用いることができる。好適には、有限会社コーワテクノア社製のMPシートを用いることができる。
次に図1(b)に示すように、剥離層2を形成した転写シートIの表面に、インクジェットプリンタや手書きでインク3を塗工し、画像を形成する。インク3としては、後述する粉体(樹脂粉体4)が付着できる溶剤を含むインク3を用いる。例えば、水を主成分とする溶剤に顔料を添加した水性顔料インクを好適に用いることができる。このような顔料インクで転写した画像は、耐洗濯性、耐水性、耐候性に優れるという利点がある。
このようなインク3としては、インクジェットプリンタに一般に使用されている市販のもの(例えば、セイコーエプソン社製PXシリーズインク)を用いることができる。
【0013】
塗工したインク3が樹脂粉体4の付着性を保持している間に、図1(c)に示すように、篩いなどを用いて転写シートIの上から画像を形成した転写シートIの表面の全面に、樹脂粉体4をまんべんなく振りかける。樹脂粉体4としては、転写シートIに浸透しておらず、かつ、未だ乾燥していない状態のインク3に付着でき、転写時の加熱により溶融して被転写物である布地IIに固着できるものであればよく、その材質や形状は問わないが、転写時の加熱(加熱温度140℃~180℃)で溶融する市販のウレタン樹脂の粉体やポリエステル樹脂の粉体(例えば東レ株式会社製「ケミット」(登録商標)Rシリーズ)、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂の粉体を好適に用いることができる。これら樹脂粉体4は単独で用いてもよいが、複数種類を混合して用いてもよい。
【0014】
また、樹脂粉体4は、上記したようにインク3によって形成された画像を欠落なく被転写物に転写できるもの、すなわち、インク3の表面に振り掛けられた樹脂粉体4が、インク3を塗工していない部分の樹脂粉体4を除去した後にも隙間なくインク3の表面を覆うことができるものを選択する。1kg単位など、袋詰めなどの形態で市販されている樹脂粉体(樹脂粉体4の集合物)には、所定粒径を越える樹脂粉末4を含むものがある。しかし、所定粒径よりも大きい粒径の樹脂粉末4が含まれていると、画像を形成しなかった部分の樹脂粉体4を除去する際の振動や転写紙の傾斜によって、インク3に直接付着せずに他の樹脂粉体4の上に乗った状態の所定粒径を越える樹脂粉体4の一部が自重によりインク3の上から脱落してしまい、当該脱落した部分で樹脂粉末4間の隙間ができると考えられる。そのため、このような脱落が生じないように、前記所定粒径の樹脂粒子4のみによって構成されたグレードのものを用いる。
【0015】
下記の表1は、市販されている共重合ポリエステルを主体とする樹脂粉体(樹脂粉体4の集合物)のグレードi~vと、各グレードi~vに含まれる樹脂粉体4の粒度のばらつきとの関係を示すものである。また、図3は、各グレードi~viに含まれる樹脂粉体4の粒径(横軸:μm)と各粒径ごとの樹脂粉体4の占有率(立軸:%)との関係を示すグラフである。
【0016】
【表1】
【0017】
表1に示すグレードi~vの樹脂粉末4を用いて、本発明の方法により木綿地のTシャツへの転写印刷を行った。その結果、グレードivが良好(目視で確認できるような画像欠落は認められず)で、グレードvが最適(画像欠落は認められず)であった。グレードivとグレードvは、いずれも占有率のピーク値が粒径44μm未満のところにあり、前記ピーク値はほぼ50%(グレードivで50%、グレードvで48%)であった。また、150μm以上の樹脂粉体4の含有率はともに0で、75μm未満の占有率はグレードivで87%、グレードvで93%であった。この試験により、図3に示すグラフにおいて粒径の分布が一点鎖線で囲まれた領域内に収まるグレードのものを好適に用いることができることがわかった。なお、共重合ポリエステルを主体とする樹脂粉体4によって接着ができる被転写体であれば、木綿地以外の他の生地への転写についても同様の結果が得られると推測できる。また、樹脂粉体4の材質を適宜に選択することで、木材、石材、陶器、ガラス、金属などあらゆる被転写物への転写についても同様の結果が得られると推測できる。
【0018】
樹脂粉体4は無色透明の他、白色又は他の色に着色したものを用いることができる。
無色透明のものを用いることで、転写後もインク3の本来の色を発色させることができる。着色した樹脂粉体4を用いることで、インク3と協働して転写後にグラディエーションを生じさせたり、インク3の色を際立たせたりすることができる。例えば黒の布地IIに青色や赤色といったインク3を用いて形成した画像を転写するような場合は、布地IIの色によって画像が目立たなくなるが、白色の樹脂粉体を用いることで、画像を際立たせることができる。
【0019】
次に図1(d)に示すように、インク3を塗工していない部分の樹脂粉体4を除去する。インク3を塗工していない部分で樹脂粉体4は剥離層2の上に乗っているだけであるので、転写シートIから容易に余分な樹脂粉体4を振り落とすことができる。また、インク3の上に乗った樹脂粉体4は、インク3への直接付着、表面張力や毛管現象などによって樹脂粉体4間を上昇したインク3への付着、樹脂粉体4どうしの付着力(静電力など)などにより、余分な樹脂粉体4の振り落しの際には脱落せず、インク3の表面を隙間なく覆う。図1(d)に示すように転写シートIを反転させ、図1(e)に示すように、インク3を塗工した部分(画像を形成した部分)に樹脂粉体4が隙間なく付着した転写シートIを、被転写物である布地IIに重ね合わせる。
【0020】
以後、通常の転写印刷と同様に布地IIの上から転写シートIを重ねた部分を加圧・加熱し、樹脂粉体4を溶融させて画像を布地IIに転写させる。加圧・加熱によって、インク3と樹脂粉体4とが混ざり合い(混ざり合ったインクを符号3′で示す)、図1(f)に示すように、インク3′の冷却後に画像が布地IIに強固に固定される。この後、転写シートIを布地IIから剥がす。布地IIの画像が転写されていない部分には接着層が形成されないので、当該部分は布地IIの元のままの風合いが保たれる。
【0021】
図2は本発明の転写印刷方法の他の実施形態にかかり、その手順を示す図である。
転写シートIを準備する工程(図1(a))及び転写シートIから布地IIに画像を転写する工程(図1(e)(f))は先の実施形態と同様であるので、ここではその図示及び説明は省略する。
この実施形態では、インク3の色や種類が異なる部分ごとに、色や種類の異なる樹脂粉体4a,4bを使い分けるものとする。以下の説明では、例えば赤色のインク3aを用いた部分には赤色の樹脂粉体4aを用い、青色のインク3bを用いた部分では青色の樹脂粉体4bを用いるものとして説明する。
【0022】
図2(a)に示すように、転写シートIの表面に赤色のインク3aで画像の一部を形成し、インク3aが付着性を保持している間に、図2(b)に示すように赤色の樹脂粉体4aを振りかけてインク3aに付着させる。図2(c)に示すように、余分な樹脂粉体4aを振るい落とした後、青色のインク3bを塗工して画像の残りの部分を形成する。
【0023】
この後、図2(d)に示すように青色の樹脂粉体4bを振りかけてインク3bに付着させる。このとき、赤色のインク3aの上にも樹脂粉体4bが振りかけられることになるが、樹脂粉体4aによって赤色のインク3aへの青色の樹脂粉体4bの付着が阻害される。また、赤色のインク3aの乾燥後に青色の樹脂粉体4bを振りかけるようにすれば、たとえ赤色のインク3a上の樹脂粉体4aの一部に隙間があったとしても、赤色のインク3aに青色の樹脂粉体4bが付着することはない。
【0024】
以上の手順で赤色のインク3aに赤色の樹脂粉体4aを付着させ、青色のインク3bに青色の樹脂粉体4bを付着させた転写シートIを、図2(e)に示すように反転させ、布地II(図1参照)に重ね合わせて加熱・加圧することで、赤青二色のインク3a,3bで形成された画像が、赤青二色の樹脂粉体4a,4bからなる接着層によって布地IIに転写・固定される。
【0025】
[他の実施形態]
上記の実施形態ではインクで画像を形成した後に粉体を振り掛けているが、この実施形態では、粉体を混合したインクで画像を形成している。また、前記粉体に代えて、常温で液体であり加熱することで固化又は硬化する液体樹脂をインクに混合してもよい。前記液体樹脂は、加熱することで固化又は硬化して、布地などの被転写物に前記画像を固着できるものであればよく、市販ものを用いることができる。例えば、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂などを用いることができる。粉体と液体樹脂とを適量ずつインクに混合させてもよい。この実施形態で用いることのできるインクは、前記粉体又は液体樹脂と混合できるものであればよい。粉体又は液体樹脂を混合させたインクを使って画像を形成した後の工程については、上記の実施形態と同様である。この実施形態によれば、画像形成後に粉体の添加を行う必要がなく、また、画像を形成した部分以外の部分(非画像形成部)の粉体を除去する必要もない。
【0026】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明により限定されるものではない。
例えば、上記の説明では粉体4,4a,4bはウレタンやポリエステル、アクリル、ポリアミドなどの樹脂粉体又はこれらを混合した混合樹脂粉体であるとして説明したが、転写時の熱により溶融して被転写物に接着・固定されるものであればこれ以外の樹脂粉体でもよく、また、同様の作用・効果を奏するのであれば、樹脂以外の粉体を用いてもよい。
また、本発明に使用できるインクとしては、上記した水性顔料インクに限らず、油性インクや染料インク(昇華インクを含む)も使用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の転写印刷方法は、被服やタオル、幟、旗などの布地への転写のほか、接着剤である粉体の材質を適宜に選択することで、木材、石材、陶器、ガラス、金属などあらゆる被転写物への転写に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の転写印刷方法の一実施形態にかかり、その手順を説明する図である。
図2】本発明の転写印刷方法の他の実施形態にかかり、その手順を説明する図である。
図3】本発明に用いられる樹脂粉体のグレードごとの粒径のばらつきを示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 基材
2 剥離層
3,3a,3b インク
4,4a,4b 樹脂粉体
I 転写シート
II 布地(被転写物)
図1
図2
図3