IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 松谷化学工業株式会社の特許一覧

特許7176732果汁入りビール様アルコール飲料及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】果汁入りビール様アルコール飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/00 20060101AFI20221115BHJP
   C12G 3/021 20190101ALI20221115BHJP
【FI】
C12C5/00
C12G3/021
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018222643
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020080772
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-060930(JP,A)
【文献】特開2005-312302(JP,A)
【文献】特開2014-036645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 5/00-5/04
C12G 3/00-3/08
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)及び(B)を満たす果汁入りビール様アルコール飲料:
(A)D-プシコース、D-アロース、D-タガトース及びD-ソルボースを含む希少糖0.1質量%以上0.8質量%以下
(B)レモン果汁0.1質量%以上1.5質量%以下、又はリンゴ果汁5.0質量%以上25.0質量%以下
【請求項2】
果汁入りビール様アルコール飲料の製造方法であって、糖化工程後かつ発酵工程前に、
レモン果汁又はリンゴ果汁と、D-プシコース、D-アロース、D-タガトース及びD-ソルボースを含む希少糖とを添加し、D-プシコース、D-アロース、D-タガトース及びD-ソルボースを含む希少糖が0.1質量%以上0.8質量%以下含まれるようにする、果汁入りビール様アルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁入りビール様アルコール飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒等のビール様アルコール飲料は非常に嗜好性の高いものであることから、その市場における製品は年々多様化している。そのため、消費者の細かいニーズに対応するため、従来様々な技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、酒類およびビール風味飲料の製造に際して、希少糖を含有する副原料を添加する、芳醇さや風味等の香味、ボディ感(コク味、濃厚さ)、及びキレのバランスに優れた酒類及びビール風味飲料の製造方法を開示している。さらに特許文献2は、アルコールが含まれる食品にアルロースを添加することにより、アルコールの苦みとアルコール臭などをマスキングするアルコール感の改善剤を開示している。
【0004】
一方、近年、リンゴ、サクランボ、柑橘類、パイナップル、マスカット等の様々なフルーツを副原料として用いた、いわゆるフルーツビール(以降、「果汁入りビール様アルコール飲料」ともいう。)は、フルーツ風味を有することと、苦味が比較的弱いことから、苦味を苦手とする人にとっては飲みやすく、人気となっている。
しかし、果汁等を添加して製造したビールや発泡酒は、発酵後、ビールの強い香気により果実の香気がマスクされるといった課題があった(例えば、特開2005-312302)。
【0005】
すなわち、果汁等を添加して製造するビール様アルコール飲料において、果汁に由来する果実の香味に優れたものを得るという課題は、未だ解決されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-60930
【文献】WO2018/066895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製造工程中に添加した果汁に由来する、果実の香味に優れたビール様アルコール飲料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは種々検討したところ、思いがけなく、特定量のレモン又はリンゴの果汁と希少糖とを、糖化工程後、発酵工程前に配合することにより、レモン又はリンゴの香味に優れたビール様アルコール飲料及びその製造方法を提供できることを見出した。
【0009】
以上より、本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の(1)~(4)から構成されるものである。
(1)以下の(A)及び(B)を満たす果汁入りビール様アルコール飲料:
(A)希少糖0.1質量%以上0.8質量%以下
(B)レモン果汁0.1質量%以上1.5質量%以下、又はリンゴ果汁5.0質量%以上25.0質量%以下
(2)希少糖が、D-プシコース、D-アロース、D-タガトース及びD-ソルボースからなる群から選ばれる一種以上である、請求項1記載の果汁入りビール様アルコール飲料。
(3)果汁入りビール様アルコール飲料の製造方法であって、糖化工程後かつ発酵工程前に、レモン果汁又はリンゴ果汁と希少糖とを添加し、希少糖が0.1質量%以上0.8質量%以下含まれるようにする、果汁入りビール様アルコール飲料の製造方法。
(4)希少糖が、D-プシコース、D-アロース、D-タガトース及びD-ソルボースからなる群から選ばれる一種以上である、請求項3に記載の果汁入りビール様アルコール飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レモン又はリンゴの果汁に由来する、レモン又はリンゴの香味に優れたビール様アルコール飲料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にいう「ビール様アルコール飲料」とは、酒税法で定義される発泡酒及びその他の発泡性酒類(ビール及び発泡酒以外の酒類で発泡性を有するもの)を指す。
【0012】
本発明の「果汁入りビール様アルコール飲料」は、ビールや発泡酒の一般的な製造工程を利用して製造することができる。具体的には、例えば、まず、麦芽と、水又は温水を混合し(原料混合工程)、必要に応じてアミラーゼ等の酵素を加えて糖化液を得る(糖化工程)。次に、その糖化液をろ過して得られる麦汁に副原料である糖類(後述する希少糖を含む。)とホップを添加して煮沸を開始し、煮沸終了直前に果汁を添加して煮沸工程を完了させる。そして、その煮沸液をろ過して冷却した後に酵母を添加し、常法により発酵・熟成を行う。
【0013】
本発明で使用する果汁は、果実を潰して得られた果汁であり、果肉や果皮が含まれてもよい。また日本農林規格(以下、JASという)で定められた果実飲料(濃縮果汁、果実ジュース等)を使用してもよい。
本発明における果汁の由来果実は、好ましくはレモン又はリンゴであり、より好ましくはレモンである。
【0014】
また、添加するレモン果汁の量は、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。リンゴ果汁の量は、5質量%以上25質量%以下であり、好ましくは10質量%以上20質量%以下である。これは、添加するレモン果汁又はリンゴ果汁の量がそれぞれ0.1質量%未満又は5質量%未満となると、果実由来の香味を感じることができず、レモン果汁又はリンゴ果汁の量がそれぞれ1.5質量%を超える又は25質量%を超えると、果汁由来の酸味が過多となり、ビール様アルコール飲料本来の香味バランスを崩すこととなるためである。なお、果汁を添加するタイミングは、発酵工程前、かつ、麦汁の煮沸終了直前が望ましい。
【0015】
本発明における希少糖は、糖の基本単位である単糖のうち、自然界に大量に存在するD-グルコース(ブドウ糖)に代表される天然型単糖に対して、自然界に微量にしか存在しない単糖(アルドース、ケトース)およびその誘導体(糖アルコール)と定義付けられている。アルドースでは、D-アロースが、ケトースでは、D-プシコース、D-タガトース、D-ソルボース、L-フラクトース、L-プシコース、L-タガトース、L-ソルボースが希少糖として挙げられる。
【0016】
本発明にいう希少糖は、少なくとも希少糖としてD-プシコース、D-アロース、D-タガトース及びD-ソルボースからなる群から選ばれる一種以上の希少糖をいい、これらの希少糖以外の糖を含んでもよい。
【0017】
希少糖を得る方法は、特に限定されないが、例えば、単糖(D-グルコースやD-フラクトース)にアルカリを作用させる方法(アルカリ異性化法)や、澱粉、グルコース、フラクトースにイソメラーゼやエピメラーゼといった酵素を作用させて異性化する方法(酵素異性化法)などによって得られ、D-プシコース等の希少糖を含ませたシロップ、アモルファス、結晶、粉末化物などの糖組成物であってもよい。なお、市場で入手できる商品としては、「レアシュガースウィート」(松谷化学工業社製)(以下、「RSS」という。)が挙げられる。
【0018】
本発明の果汁入りビールアルコール飲料(以下、「製品」ともいう。)に含まれる希少糖の量は、0.1質量%以上1.0質量%未満であり、好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。これは、製品中に含まれる希少糖の量が0.1質量%未満になると、果実の香味を十分に増強することができないし、製品中に含まれる希少糖の量が1.0質量%以上となると、希少糖の甘味によってビール様アルコール飲料本来の香味バランスを崩すこととなるためである。なお、希少糖の添加時期は、発酵工程の前とすることが望ましい。
【0019】
本発明の果汁入りビール様アルコール飲料には、副原料を用いることができ、酒税法のビール、発泡酒及びその他の発泡性酒類の副原料として定められた物品の範囲内で使用するものであれば、特に限定されない。
【0020】
本発明の果汁入りビール様アルコール飲料のpHは、特に限定されないが、好ましくはpH4.0~5.0である。
【0021】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【実施例
【0022】
(果汁の検討)
まず、使用する果汁を検討するため、表1の組成に従って、レモン、リンゴ又は洋ナシの果汁を使用して発泡酒を製造した。使用した希少糖含有シロップである「RSS」は、Bx75であり、その固形分中の組成は、ブドウ糖約45%、果糖約29%、D-プシコース5~6%、D-アロース1~2%の他、各種希少糖である(「応用糖質科学、第5巻、第1号、p44-49、2015」を参照)。
糖化工程は、500mlの水に麦芽を加え、60℃で60分、65℃で15分及び70℃で15分加熱することにより行い、残渣を除去して麦汁を得た。この麦汁に異性化糖か、異性化糖とRSSを添加し、煮沸工程開始後にホップを加え、煮沸工程終了1分前に果汁を投入した。これを水で1リットルに調整後、酵母を添加し、一次発酵を5日間、二次発酵を14日間実施した。
【0023】
このようにして得られた発泡酒の希少糖含有量は、常法に従い、エタノール除去、脱塩を実施した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析した(「応用糖質科学、第5巻、第1号、p44-49、2015」を参照)。その分析結果は表2に示す。
【0024】
また、各発泡酒の官能評価は、よく訓練されたパネラー6名により行った。具体的には、果実の味、香りの各評価項目について、異性化糖を添加して製造した対照品と比較したときに、1:まったく感じない、2:わずかに感じる、3:同等、4:強く感じる、5:非常に強く感じる、の5段階で評価し、その6名の評価の平均値を算出して行った。また、果実感の総合評価は、それら評価の平均値を算出して行うこととし、3.5以上を好ましいとした。甘味の評価は、発泡酒を甘いと感じた人数が、パネラー6名のうち3名以下の場合は○、4名以上の場合は×とした。最後に、果実感の総合評価に甘味の評価を加味し、発泡酒全体の味質のバランスについて、良い(〇)、悪い(×)の総合評価を行った。評価結果は表3に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
その結果、レモン果汁又はリンゴ果汁を添加して製造した製品において、希少糖を添加した場合に、レモン又はリンゴの香味に優れた発泡酒が得られた(実施例1、2)。一方、洋ナシ果汁を添加して製造した場合には、希少糖を添加しても、洋ナシの香味が劣る発泡酒となった(比較例1)。
【0029】
(希少糖含有シロップの配合量の検討)
(1)レモン果汁を添加した発泡酒での検討
表4の組成に従って、レモン果汁を添加した発泡酒を製造した。製造方法及び分析方法は上述の方法と同様とし、得られた各発泡酒の評価方法も上述と同様とした。分析結果は表5に、評価結果は表6に示す。
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
その結果、製品における希少糖含有量が0.11質量%以上0.76質量%以下の場合に、レモンの香味に優れた発泡酒を得ることができた(実施例1及び3~5)。一方、製品における希少糖含有量が1.01質量%の場合には、甘味が強くなり過ぎ、香味のバランスが崩れた発泡酒となった(比較例3)。
【0034】
(2)リンゴ果汁を添加した発泡酒での検討
次に、表7の組成に従って、リンゴ果汁を添加した発泡酒を製造した。製造方法及び分析方法は上述の方法と同様とし、得られた各発泡酒の評価方法も上述と同様とした。分析結果は表8に、評価結果は表9に示す。
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
その結果、製品における希少糖含有量が0.10質量%以上0.76質量%以下の場合に、リンゴの香味に優れた発泡酒を得ることができた(実施例2及び実施例6~8)。一方、製品における希少糖含有量が1.00質量%の場合に、甘味が強くなり過ぎ、香味のバランスが崩れた発泡酒となった(比較例5)。
【0039】
以上より、レモン又はリンゴの果汁を含むビール様アルコール飲料において、その製品中に希少糖が0.1質量%以上0.8質量%以下含まれるように、希少糖を糖化工程後かつ発酵工程の前に添加すれば、レモン又はリンゴの香味に優れたビール様アルコール飲料を提供することができる。