(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】工作用粘土
(51)【国際特許分類】
G09B 19/10 20060101AFI20221115BHJP
A63H 33/00 20060101ALI20221115BHJP
C08L 1/26 20060101ALI20221115BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20221115BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20221115BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G09B19/10 D
A63H33/00 F
C08L1/26
C08K3/16
C08L89/00
C08L83/04
(21)【出願番号】P 2018230467
(22)【出願日】2018-12-08
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504080043
【氏名又は名称】有限会社アドバンス
(74)【代理人】
【識別番号】100087778
【氏名又は名称】丸山 明夫
(72)【発明者】
【氏名】坂口 龍辞
【審査官】早川 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120033(JP,A)
【文献】特開2010-250176(JP,A)
【文献】特開2006-58867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00-37/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
G09B 1/00-9/56、17/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材、糊剤、塩化カルシウム、粘着抑制成分を含有する水性粘土材料に、色素と大豆プロテインとを添加して成ることを特徴とする工作用粘土。
【請求項2】
請求項1に於いて、
前記骨材はタルクを含有し、
前記糊剤は、CMCを含有し、
前記粘着抑制成分は、シリコーンオイルを含有する、
ことを特徴とする工作用粘土。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に於いて、
前記水性粘土材料は、前記骨材が12~36質量%、前記糊剤が4~12質量%、前記塩化カルシウムが9~27質量%、前記粘着抑制成分が0.1~2質量%、水が40~60質量%の範囲で、合計で100質量%であり、
前記合計で100質量%の水性粘土材料100質量部に対して、前記大豆プロテインを0.002質量部~10質量部添加して成る、
ことを特徴とする工作用粘土。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼稚園や保育園或いは小学校等で用いられる工作用の粘土に関する。詳しくは、種々の色に着色でき、工作時に手が粘土の色で染まることがなく、さらに、手触り感がさらさらしていてべたつかず、造形し易く、所望の形状を良好に造形できるという、優れた特性を備えた工作用粘土に関する。
【背景技術】
【0002】
幼稚園や保育園或いは小学校等では種々の色の粘土が望まれており、その色が工作時に手に着かないことが望まれている。さらに、手触り感がさらさらしていてべたつかず、造形し易いものであることも望まれている。
本出願人は、先に、手触り感がさらさらしていてべたつかず、造形し易く、所望の形状を良好に造形できるという優れた特性を備えた粘土を出願している(特開2018-120033号公報;特許文献1)。
工作時に手が粘土の色で染まることを防止することを謳う先行技術として、特開2017-111224号公報(特許文献2)、特開2006-058867号公報(特許文献3)を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-120033号公報
【文献】特開2017-111224号公報
【文献】特開2006-058867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人が先に出願した特許文献1では、合成色素「食用赤色106号」を微量添加することにより「赤色」に、「青色1号」を微量添加することにより「青色」に、「黄色4号,黄色5号」を微量添加することにより「黄色」に、「竹炭パウダー」を微量添加することにより「黒色」に、それぞれ鮮やかに着色できることを確認している。
本発明は、特許文献1の粘土の優れた特性(合成色素の微量の添加で鮮やかな色に着色できる、手触り感がさらさらしていてべたつかない、造形し易い、所望の形状を良好に造形できるという特性)を保持しつつ、さらに、工作時に手が粘土の色に染まることがないという優れた特性を併せ持つ工作用粘土を、安価に提供することを目的とする。
【0005】
なお、特許文献2は、植物由来の色素を混合した粘土について、その色素が手に付着することを防止するものであり、鮮やかな色合いの合成色素については、付着を防止できないと思われる。また、植物由来の色素を混合しているため、品質保持のためには、防腐剤の添加が必須になると思われる。
また、特許文献3は、相対的に高価な牛乳由来の脱脂粉乳、カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウムの何れか1種以上を、色移り防止剤として添加するものであるため、コスト的な問題がある。また、北海道という一地域に産地が偏在している牛乳由来であるため、災害時等、安定的・継続的に材料を入手できるかという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、微量の色素添加で鮮やかに着色でき、手触り感がさらさらしていてべたつかず、造形し易く、所望の形状を良好に造形できるという特性を備えた粘土に、「工作時に手が粘土の色で染まることを防止する」という特性を低コストで付加するべく試行錯誤を重ねた結果、大豆プロテインを見出すに至り、以下の本発明を成した。
[1]構成1
骨材、糊剤、塩化カルシウム、粘着抑制成分を含有する水性粘土材料に、色素と大豆プロテイン(粉末状大豆蛋白)とを添加して成ることを特徴とする工作用粘土。
大豆プロテインとしては、保水力に優れるとともに水への溶解性に優れ、さらに好ましくは、ゲル化力、結着力、乳化力も有り、惣菜や食肉・水産加工等に用いられ得る粉末状大豆蛋白を例示することができる。
[2]構成2
構成1に於いて、
前記骨材はタルクを含有し、
前記糊剤は、CMCを含有し、
前記粘着抑制成分は、シリコーンオイルを含有する、
ことを特徴とする工作用粘土。
前記骨材は、さらに、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、二酸化珪素、炭酸マグネシウム、卵殻等から選ばれた1種以上を含有していてもよい。これらを含有するとき、骨材全体に於けるタルクの量は、例えば、骨材を100質量%としたとき、60質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。例えば、タルク20質量部、硫酸カルシウム4質量部で、骨材を構成することができる。
前記糊剤は、さらに、メチルセルロース、コーンスターチ、マンナン粉、米粉、うるち米、多糖類等から選ばれた1種以上を含有していてもよい。米粉やうるち米を含有させると粘りが強くなり、伸展性もさらに良くなる。これらを含有するとき、糊剤全体に於けるCMCの量は、例えば、糊剤を100質量%としたとき、好ましくは75質量%以上、更に好ましくは85質量%以上である。
前記粘着抑制成分は、さらに、グリセリン、プロピレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウムから選ばれた1種以上を含有していてもよい。これらを含有するとき、粘着抑制成分全体に於けるシリコーンオイルの量は、例えば、粘着抑制成分を100質量%としたとき、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。シリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサンを好適に用いることができる。
なお、本発明の目的を損なわない成分であれば、上記で例示した以外の微量成分を含有していてもよい。
【0007】
[3]構成3
構成1又は構成2に於いて、
前記水性粘土材料は、前記骨材が12~36質量%、前記糊剤が4~12質量%、前記塩化カルシウムが9~27質量%、前記粘着抑制成分が0.1~2質量%、水が40~60質量%の範囲で、合計で100質量%であり、
前記合計で100質量%の水性粘土材料100質量部に対して、前記大豆プロテインを0.002質量部~10質量部添加して成る、
ことを特徴とする工作用粘土。
水性粘土材料の配合としては、例えば、骨材としてタルク20g及び硫酸カルシウム4g、糊剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)8g、塩化カルシウム18g、粘着抑制成分としてジメチルポリシロキサン0.5g、及び、水49.5gとしたものを例示することができる。
水性粘土材料100質量部に対して、大豆プロテインが0.002質量部未満では色移り防止効果が無く、大豆プロテインが10質量部を越えると工作用粘土にならない。
【発明の効果】
【0008】
構成1の粘土は、骨材、糊剤、塩化カルシウム、粘着抑制成分を含有する水性粘土材料に、色素と大豆プロテイン(粉末状大豆蛋白)とを添加して成ることを特徴とする工作用粘土であるため、鮮やかな色に着色でき、手触り感がさらさらしていてべたつかず、造形し易く、所望の形状を良好に造形でき、さらに、工作時に手が粘土の色に染まることがないという優れた特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
タルク(含水珪酸マグネシウム)としては、例えば、平均粒径が50~1[μm] 程度のものを好適に用いることができる。また、食品添加物として提供されているものであれば、安全性の面からも好ましい。
大豆プロテインとしては、例えば、不二製油株式会社製の「粉末状大豆たん白」を、好適に用いることができる。
【0010】
CMC(カルボキシメチルセルロース/カルボキシメチルセルロースナトリウム)としては、1%水溶液・25℃での粘度が800~8000[mPa・s]、好ましくは2000~7000[mPa・s]、更に好ましくは2500~6000[mPa・s]の範囲を、好適に用いることができる。また、この範囲で水性粘土材料としたときは、該水性粘土材料に、粉末状大豆たん白を良好に練り込むことができる。
例えば、ダイセルファインケム株式会社製の「CMCダイセル(同社の登録商標)の品番2200,2260;何れも高純度品でエーテル化度0.8~1.0」や、日本製紙株式会社製の「サンローズ(SUNROSEは同社の登録商標)の品種F」、或いは、第1工業製薬株式会社製の「セロゲン(同社の登録商標)3H,4H,BSH-6,BSH-12,F3H,F-BSH-12,F-6HS9」等が該当するか、又は部分的に該当する。また、食品添加物として提供されているものであれば安全性の面からも好ましい。エーテル化度は、好ましくは0.60~1.00、更に好ましくは、0.65~0.95の範囲を好適に用いることができる。
【0011】
シリコーンオイルとしては、25℃での動粘度が1~1000[mm2/s]、好ましくは10~900[mm2/s]、更に好ましくは50~800[mm2/s]の範囲を好適に用いることができる。また、シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン等のジメチルシリコーンオイルを好適に用いることができる。例えば、信越化学工業株式会社製の「KF-96」シリーズ等が該当するか、又は部分的に該当する。食品用に提供されている「KF-96ADF」シリーズであれば、安全性の面からも好ましい。
【0012】
以下、実施例、比較例を述べる。
実施例(5例)と比較例(5例)の工作用粘土をそれぞれ作成して、それぞれの特性を評価した。
(1)実施例1
大豆プロテイン:粉末状大豆たん白 0.1[g]
(不二製油株式会社製,フジプロ)
骨材-1:タルク(含水珪酸マグネシウム) 20[g]
(商品名:食添タルクS-1,平均粒径8.7[μm])
骨材-2:硫酸カルシウム 4[g]
(商品名:食品添加物硫酸カルシウム,物質名:硫酸カルシウム二水和物)
糊剤:CMC 8[g]
(商品名:セロゲンFシリーズ(食品工業用),物質名:カルボキシメチルセルロースナトリウム,25℃・1%水溶液での粘度:約3000[mPa・s])
塩化カルシウム:塩化カルシウム 18[g]
(商品名:RS(塩化カルシウム),物質名:塩化カルシウム二水和物)
粘着抑制成分:シリコーンオイル 0.5[g]
(信越化学株式会社,商品名:KF-96ADFシリーズ,物質名:ジメチルポリシロキサン,25℃での動粘度:約150[mm2/s])
水:水 49.5[g]
を、配合し、さらに、
色素:合成色素「商品名:食用赤色106号」
(三栄源エフエフアイ(株)製)
を、微量添加して、練り合わせた。
【0013】
評価結果は、他の実施例や比較例とともに表に示す。評価の基準は下記の通り。
記
(a)着色
×:粘土の色が鮮やか且つ均一である, ○:粘土の色が鮮やか又は均一でない
(b)色移り
×:工作時に手が粘土の色に染まる, ○:工作時に手が粘土の色に染まらない
(c)手触り感
×:手に付着する, ○:さらさらしている
(d)造形性
×:脆く壊れて造形できない ○:造形可能
ここで、評価対象の造形物としては、薄片状の部位を有するトリケラトプス(ジュラ期の生物)類似の動物像で、幅が5mm程度のサイズのものとした。
(e)伸展性(造形前の塊状物の両端を持って引っ張ったとき切れた長さ)
×:長さ≦50cm, ○:1m<長さ
(2)比較例1
大豆プロテインを含有させない他は、実施例1と同じ材料・同じ配合で、工作用粘土を作成した。
【0014】
(3)実施例2(粘着抑制成分少なめ)
粘着抑制成分である「ジメチルポリシロキサン」を「0.2[g]」(少なめ)とした他は、実施例1と同じ材料・配合で、工作用粘土を作成した。
(4)比較例2
大豆プロテインを含有させない他は実施例2と同じ材料・同じ配合で、工作用粘土を作成した。
(5)実施例3(粘着抑制成分多め)
粘着抑制成分である「ジメチルポリシロキサン」を「1.9[g]」(多め)とした他は、実施例1と同じ材料・配合で、工作用粘土を作成した。
(6)比較例3
大豆プロテインを含有させない他は、実施例3と同じ材料・同じ配合で、工作用粘土を作成した。
(7)実施例4(水少なめ)
水を「42[g]」(少なめ)とした他は、実施例1と同じ材料・配合で、工作用粘土を作成した。
(8)比較例4
大豆プロテインを含有させない他は、実施例4と同じ材料・同じ配合で、工作用粘土を作成した。
(9)実施例5(水多め)
水を「58[g]」(多め)とした他は、実施例1と同じ材料・配合で、工作用粘土を作成した。
(10)比較例5
大豆プロテインを含有させない他は、実施例5と同じ材料・同じ配合で、工作用粘土を作成した。
【0015】
【0016】
上述の実施例1~5や、本願発明者のその他の多くの試験例より、骨材(例:第1の骨材であるタルク及び第2の骨材である硫酸カルシウム)12~36質量%と、糊剤であるCMC4~12質量%と、塩化カルシウム9~27質量%と、粘着抑制成分であるジメチルポリシロキサン0.1~2質量%と、水40~60質量%とを、合計で100質量%となる配合の水性粘土材料と成し、この水性粘土材料100質量部に対して大豆プロテイン0.002~10質量部を配合するとともに、微量の色素を添加したとき、十分に良好な結果を得られることが分かった。即ち、鮮やかな色に着色でき、手触り感がさらさらしていてべたつかず、造形し易く、所望の形状を良好に造形でき、さらに、工作時に手が粘土の色に染まることもないという結果を得た。
【0017】
また、実施例1と比較例1から分かるように、水性粘土材料が同一の場合でも、大豆プロテインを配合しない場合には、工作時に粘土の色が手に色移りするという不具合が生じた。このことは、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、実施例5と比較例5の場合でも同様であった。
また、大豆プロテインを配合した場合(実施例1~5)は、大豆プロテインを配合しない場合(比較例1~5)よりも、成形性、溶解性が良好であった。保水性、ゲル化力、結着性が優れており、また、低粘度で作業性が良いためと思われる。
【0018】
なお、CMCとともに、コーンスターチ、メチルセルロース、マンナン粉、米粉、うるち米、多糖類の1種以上を用いて実施例1と同様に配合した場合も良好な結果を得た。特に、米粉やうるち米を配合した場合には、粘りがさらに強くなり伸展性が良かった。
同様に、ジメチルポリシロキサンとともに、ヒアルロン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコールの1種以上を用いて実施例1と同様に配合した場合も、良好な結果を得た。
また、塩化カルシウムを配合することによって、本発明の目的に好適な粘土を得られるとともに、防腐効果や防黴効果を得られた。
また、表の評価には示さなかったが、タルクを配合することにより、剥離性、硬化性、軟化防止、付着防止に、良好な結果を得た。
また、硫酸カルシウムを配合することにより、抗菌効果を得られた。
【0019】
また、実施例1で微量添加した三栄源エフエフアイ(株)製の合成色素「商品名:食用赤色106号」に代えて、「商品名:青色1号」を微量添加、「商品名:黄色4号,黄色5号」を微量添加、「(株)日本エイム製・商品名:竹炭パウダー」を微量添加した場合にも、それぞれ、同様に色移りを防止でき、良好な結果を得た。