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特許7176759脂肪族炭化水素及び一酸化炭素の製造方法
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  • 特許-脂肪族炭化水素及び一酸化炭素の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】脂肪族炭化水素及び一酸化炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/207 20060101AFI20221115BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20221115BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20221115BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20221115BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20221115BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20221115BHJP
   C07C 5/03 20060101ALI20221115BHJP
   C07C 9/22 20060101ALI20221115BHJP
   C07C 11/02 20060101ALI20221115BHJP
   C07C 15/18 20060101ALI20221115BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
C07C1/207
B01J23/42 Z
B01J23/44 Z ZNM
B01J23/46 Z
B01J23/46 311Z
B01J23/89 Z
C01B32/40
C07C5/03
C07C9/22
C07C11/02
C07C15/18
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019523929
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2018021645
(87)【国際公開番号】W WO2018225759
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2017111492
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会 第98春季年会(2018) 予稿集 発行日 平成30年3月6日 日本化学会 第98春季年会(2018) 開催日 平成30年3月22日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACT-C)先導的物質変換領域「次元制御されたナノ空間体と不均一系集積型遷移金属ナノ触媒に融合した先導的π電子物質創製触媒システムの創出」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】ベク ヒヨル
(72)【発明者】
【氏名】魚住 泰広
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-526928(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103773315(CN,A)
【文献】Journal of the American Chemical Society,2009年,Vol. 131, No. 49,pp. 17738-17739,Figure 1., Supporting Information, ISSN 1520-5126
【文献】YAMADA, Yoichi M.A.,Development of batch and flow immobilized catalytic systems with high catalytic activity and reusabi,Chemical and Pharmaceutical Bulletin,2017年,Vol.65, No.9,p.805-821,ISSN 1347-5223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/207
B01J 23/42
B01J 23/44
B01J 23/46
B01J 23/89
C01B 32/40
C07C 5/03
C07C 9/22
C07C 11/02
C07C 15/18
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンワイヤと、それに担持された、白金、パラジウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属を含む金属微粒子と、からなる触媒を、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル及び脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種の基質に作用させ、前記少なくとも1種の基質の脱カルボキシル化、脱アルコキシカルボニル化及び脱カルボニル化の少なくとも1つの反応を進行させる触媒反応工程、
を含む、脂肪族炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記シリコンワイヤは、シリコン基板上に形成された複数のシリコンワイヤからなるシリコンワイヤアレイとして形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の基質が、置換基を有してよい炭素数6~25の脂肪族炭化水素鎖を有する脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル又は脂肪族アルデヒドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの反応の一部又は全部を、マイクロ波の照射下で進行させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒反応工程において、前記触媒を、前記少なくとも1種の基質に対して、金属量として0.001mol%以上の割合で作用させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の貴金属がロジウムである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの反応を、少なくとも1種の酸無水物の存在下で進行させる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の触媒反応工程と、
前記触媒反応工程中、及び/又は前記触媒反応工程後に、脱カルボキシル化、脱アルコ
キシカルボニル化及び脱カルボニル化の少なくとも1つの反応によって生じた一酸化炭素を収集する工程と、
を含む一酸化炭素の製造方法。
【請求項9】
シリコンワイヤと、それに担持された、ロジウムを含む金属微粒子と、からなる触媒であって、
(1)脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル及び脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種の基質に作用させ、前記少なくとも1種の基質の脱カルボキシル化、脱アルコキシカルボニル化及び脱カルボニル化の少なくとも1つの反応を進行させるための;又は、
(2)不飽和脂肪族アリールに作用させ、水素化反応を進行させるための、前記触媒
【請求項10】
前記シリコンワイヤは、シリコン基板上に形成された複数のシリコンワイヤからなるシリコンワイヤアレイとして形成されている、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
シリコンワイヤと、それに担持された、ロジウムを含む金属微粒子と、からなる触媒を、不飽和脂肪族アリールに作用させ、水素化反応させる工程、
を含む、飽和脂肪族アリールの製造方法。
【請求項12】
前記シリコンワイヤは、シリコン基板上に形成された複数のシリコンワイヤからなるシリコンワイヤアレイとして形成されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
不飽和脂肪族アリールが、置換基を有してよい炭素数2~25の不飽和脂肪族炭化水素鎖を有する不飽和脂肪族アリールである、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオディーゼル燃料等に使用できる脂肪族炭化水素及び一酸化炭素の製造方法、並びに、同方法に用いる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカンは、バイオディーゼル燃料として有用であり、また、一酸化炭素は石油合成原料に使用できる。アルカンは、例えば、生物材料(Biological material)の油脂である脂肪族カルボン酸から製造することができる。炭素数nの脂肪族カルボン酸から、炭素数n-1のアルカンを合成する技術としては、例えば、非特許文献1-4が挙げられる。
【0003】
非特許文献1では、パルミチン酸を基質として白金/炭素を触媒として5 mol%もの白金を用いて反応を行っている。この時の反応温度は330 ℃と極めて高温である。また触媒の2回再利用を行っているが、対応するアルカンの収率は80%未満(76%)であり、収率も高くない。
【0004】
非特許文献2の反応は、シリカ(酸化ケイ素)担持パラジウム触媒での反応である。しかし、60気圧という極めて高い水素圧力下、270 ℃という高温で80%のアルカンが得られるのみである。
【0005】
非特許文献3の反応は、ジルコニア(酸化ジルコニウム)担持のニッケル触媒を用いた反応である。触媒量を10 mol Niと大量の触媒を用い、高圧ガス保安法にかかる12気圧の水素雰囲気下、260 ℃の反応温度で実施されている。
【0006】
非特許文献4では、酸化ニオブ担持の白金触媒を大量(l mol% Pt)用い、250 ℃の高温下反応が行われたものである。
【0007】
すなわち、非特許文献1-4では、触媒量を1-10 mol%程度という大量の触媒を用いる必要がある。また反応温度も高く、さらに高圧ガス保安法に触れる10気圧を超える水素雰囲気下で反応が行われている。なお、触媒の再利用に関する実質的に有効な報告はなく、非特許文献1では再利用は検討されているが、触媒量5 mol%と大量の触媒を用い、2回の再利用のみが検討され、70%代の収率で対応するアルカンが合成されるのみであった。
【0008】
また、炭素数nの脂肪族カルボン酸から、炭素数nのアルカンを合成する技術としては、例えば、非特許文献5-8がある。しかし、この反応では、石油合成原料である一酸化炭素は生成しない。
【0009】
非特許文献5では、タングステン触媒を大量に用い、350 ℃の高温、50気圧の高圧水素下で反応が実施され、生成物の選択性にも問題がある。
【0010】
非特許文献6では、ジルコニア(酸化ジルコニウム)担持のニッケル触媒を大量用い、260℃の高温、40気圧の高圧水素下で反応が実施されている。
【0011】
非特許文献7では、シリカアルミナ担持のニッケル触媒を大量用い、260 ℃の高温、40気圧の高圧水素下で反応が実施されている。
【0012】
非特許文献8では、コール担持のモリブデン触媒を大量用い、280 ℃の高温下で反応が実施されている。
【0013】
したがって、より効率的且つ選択的に、バイオディーゼル燃料等に使用できる脂肪族炭化水素を製造する触媒、並びに同触媒を用いた脂肪族炭化水素の製造方法が求められていた。さらに、再利用効率の高い触媒が求められていた。また、より温和な条件で脂肪族炭化水素を製造できる触媒が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Energy Environ.Sci., 2010, 3, 311-317
【文献】Chemistry Central Journa1 2013, 7, 149
【文献】Chem. Eur. J. 2013, 19, 4732-4741
【文献】Catal. Sci. Technol. 2014, 4, 3705-3712
【文献】Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 5089-5092
【文献】J. Am. Chem. Soc, 2012, 134, 9400-9405
【文献】Angew. Chem. lnt. Ed. 2012, 51, 2072-2075
【文献】Adv. Synth. Catal. 2011, 353, 2577-2583
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、脂肪族炭化水素の製造に用いることができる新規な触媒、及び同触媒による触媒反応工程を含む化合物の製造方法、特に脂肪族炭化水素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ロジウム等の所定の貴金属を少なくとも含む金属微粒子をシリコンワイヤに担持した触媒が、より少ない触媒量で且つより温和な条件で、炭素数nの脂肪族カルボン酸等から炭素数n-1のアルカン及び一酸化炭素を選択的に合成できることを知見した。特に、ロジウムを少なくとも含む金属微粒子を利用した態様の同触媒は再利用効率が高いことを知見した。このような知見に基づき、本発明は完成されたものである。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] シリコンワイヤと、それに担持された、白金、パラジウム及びロジウムからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属を含む金属微粒子と、からなる触媒を、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル及び脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種の基質に作用させ、前記少なくとも1種の基質の脱カルボキシル化、脱アルコキシカルボニル化及び脱カルボニル化の少なくとも1つの反応を進行させる触媒反応工程、
を含む、脂肪族炭化水素の製造方法。
[2] 前記シリコンワイヤは、シリコン基板上に形成された複数のシリコンワイヤからなるシリコンワイヤアレイとして形成されている、[1]に記載の方法。
[3] 前記少なくとも1種の基質が、置換基を有してよい炭素数6~25の脂肪族炭化水素鎖を有する脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル又は脂肪族アルデヒドである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記少なくとも1つの反応の一部又は全部を、マイクロ波の照射下で進行させる、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記触媒反応工程において、前記触媒を、前記少なくとも1種の基質に対して、金属量として0.001mol%以上の割合で作用させる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記少なくとも1種の貴金属がロジウムである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記少なくとも1つの反応を、少なくとも1種の酸無水物の存在下で進行させる、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] [1]に記載の触媒反応工程と、
前記触媒反応工程中、及び/又は前記触媒反応工程後に、脱カルボキシル化、脱アルコキシカルボニル化及び脱カルボニル化の少なくとも1つの反応によって生じた一酸化炭素を収集する工程と、
を含む一酸化炭素の製造方法。
[9] シリコンワイヤと、それに担持された、ロジウムを含む金属微粒子と、からなる触媒。
[10] 前記シリコンワイヤは、シリコン基板上に形成された複数のシリコンワイヤからなるシリコンワイヤアレイとして形成されている、[9]に記載の触媒。
[11] [9]又は[10]に記載の触媒を、不飽和脂肪族アリールに作用させ、水素化反応させる工程、
を含む、飽和脂肪族アリールの製造方法。
[12] 不飽和脂肪族アリールが、置換基を有してよい炭素数2~25の不飽和脂肪族炭化水素鎖を有する不飽和脂肪族アリールである、[11]に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、脂肪族炭化水素の製造に用いることができる新規な触媒、及び同触媒等による触媒反応工程を含む化合物の新規な製造方法、特に脂肪族炭化水素及び一酸化炭素の新規な製造方法を提供することができる。
【0019】
本発明に用いる触媒は、より少ない触媒量で、脂肪族カルボン酸等(例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル及び脂肪族アルデヒド)から脂肪族炭化水素を合成できる。また、同触媒による反応は選択性が高く、炭素数nの脂肪族カルボン酸等から炭素数n-1のアルカン等の脂肪族炭化水素及び一酸化炭素を選択的に合成できる。特に、ロジウムを少なくとも含む金属微粒子を利用した態様の同触媒は、再利用効率が高い。本発明によれば、所定の触媒を用いているので、より温和な条件で合成を行うことが可能である。さらに、本発明の触媒は、不飽和脂肪族アリールから飽和脂肪族アリールを合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、SiNA-Rhの断面のSEM観察の結果を示す図(写真)である。
図2図2は、SiNA-RhのTEM観察及びEDX分析の結果を示す図(写真)である。図2のA及びBはTEM写真であり、図2のAはスケールバーが20nmでロジウムナノ粒子が均一に分散していることを、図2のBはスケールバーが5nmでロジウムナノ粒子が均質であることを示す。図2のCはEDXチャートでロジウムの存在を示す。図2のD~FはEDXイメージであり、図2のDは全体のイメージ、図2のEはロジウムのマッピング、図2のFはロジウムとシリコンを合わせたマッピングを示す。
図3図3は、SiNA-Rhのロジウムナノ粒子の粒度分布計測の結果を示す図である。
図4図4は、SiNA-Rhのロジウムナノ粒子のXPS分析の結果を示す図である。
図5図5は、炭素に担持したロジウムナノ粒子のXPS分析の結果を示す図である。
図6図6(写真)は、SiNA-RhのICP-MS分析の結果を示す図である。図6のAはロジウム担持前のSiNAの写真、図6のBはロジウム担持後のSiNA-Rhの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0022】
<触媒の製造方法>
本発明に使用可能な触媒(以下、「本発明に用いる触媒」という場合がある。)は、シリコンワイヤと、それに担持されたロジウム、パラジウム及び白金からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属を含む金属微粒子からなる触媒である。ここで、シリコンワイヤは、一又は複数であってよい。前記触媒の一形態は、シリコン基板、及び、該シリコン基板上に形成された複数のシリコンワイヤからなるシリコンワイヤアレイに担持された、前記金属微粒子からなる触媒である。シリコン基板表面上に形成されたシリコンワイヤアレイを利用する形態では、シリコンワイヤ間のナノオーダーのスペースを効率的に触媒反応に利用することができるので、反応効率に優れる。また、同形態の触媒は、フローリアクター用の触媒に適する。
【0023】
前記形態の触媒は、本明細書の記載に基づき、さらに、例えば文献Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 127-131等に記載の手法を参照し、製造することができる。
【0024】
以下、本発明に用いる触媒の製造方法の例を説明する。
シリコン基板として、p型又はn型のシリコン基板を用いることができる。抵抗率は特に制限されず、例えば0.01~10,000 Ω、又は0.1~100 Ωの抵抗率であってよい。シリコン基板は、任意の厚さであってよく、例えば100~1,000 μmの厚さであってよい。シリコン基板は、任意の好適な平面寸法を備えていてよく、例えば2 インチウェハであってよい。
【0025】
シリコン基板を洗浄する。洗浄溶液は特に制限されず、例えばH2SO4/H2O2(混合体積比率1:1~4:1)等を用いることができる。次いで、シリコン基板にSi-H表面基の導入(水素終端化)を行うため、HF/H2O(混合体積比率1:10~1:50)等で処理する。次いで、AgNO3等の銀水溶液を含む濃HF/H2O溶液 (40~48 %、特に46 %)(例えば銀イオン濃度0.5-5 mg/mL、特に1.12 mg/mL)等(混合体積比率(1:1~5:1、特に3:1)を、水素終端化された基板と反応させ、Ag微粒子被覆基板を作製する。
【0026】
次いで、Ag微粒子被覆基板を、好適なエッチング溶液中でエッチングする。すなわち、銀粒子が触媒となってエッチングが進行するため、銀が存在する部分にシリコン細孔が生じ、エッチングが進行しない部分がシリコンワイヤを形成する。好適なエッチング溶液は、特に制限されず、例えばHF/H2O2(混合体積比率3:1~6:1)等を用いることができる。エッチングは、例えば1~10分間で実施できる。例えば、約46 %HFを含有する溶液を使用する場合、エッチングは、60 ℃で2~5分間実施することができる。
【0027】
次いで、HNO3等で処理し、Ag微粒子を除去する。次いで、HF/H2O(混合体積比率1:10~1:50)等で処理し、Si-H表面の再構築を行う。
【0028】
以上の様にして、本発明に使用可能な、シリコン基板上に一般に垂直に形成された複数のシリコンワイヤからなるシリコンワイヤアレイを製造することができる。
【0029】
本発明に使用可能な前記形態のシリコンワイヤアレイにおけるシリコンワイヤ間のスペースは、平均径(以下、直径又は幅ということがある)が、例えば1~5,000 nm程度、10~1,000 nm程度、又は50~400 nm程度であって、スペースの長さ(深さ)は、例えば0.1~100 μm程度、0.5~50μm程度、又は1~10 μm程度である。スペースのアスペクト比(長さ/直径)は1~500、10~100又は40~80を有し得る。シリコンワイヤアレイの上記の様なナノ構造は、例えば、シリコンワイヤアレイの断面の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)等による構造分析により確認することができ、ここでスペースの平均径、長さ、シリコンワイヤの密度と表記しているものは、走査型電子顕微鏡で観察して、シリコンワイヤアレイの断面38 μmの範囲を測ったその平均値のことを意味する。
【0030】
本発明に使用可能なシリコンワイヤアレイは、上記のナノ構造を提供する。同シリコンワイヤアレイに担持された、ロジウム等を含む金属微粒子からなる本発明に用いる触媒は、シリコンワイヤアレイが形成するナノスペースにおける触媒反応により、より多量の基質と触媒とのアクセス可能性が向上し、より温和な条件下において、より高い触媒活性、触媒の再利用性、安全性及び選択性を提供できると考えられる。
【0031】
本発明に使用可能なシリコンワイヤの物理特性は、本明細書の記載及び公知の手法を参照し、目的とするシリコンワイヤに応じてエッチング条件、例えばAg微粒子のサイズ、Ag微粒子溶液の濃度、エッチング溶液の組成、エッチングの時間等を変えることにより調整可能である。なお、本発明に使用可能なシリコンワイヤの一形態は、シリコンからなる径がナノオーダー(具体的には、1~10000 nm)のシリコンワイヤを有するシリコンナノワイヤである。本発明に使用可能なシリコンナノワイヤの平均径は、例えば1~5,000 nm程度、10~1,000 nm程度、又は50~400 nm程度であって、長さは、例えば0.1~100 μm程度、0.5~50μm程度、又は1~10 μm程度である。シリコンナノワイヤのアスペクト比(長さ/直径)は1~500、10~100又は40~80を有し得る。
【0032】
本発明に使用可能な触媒は、シリコンワイヤ(前記形態の触媒では、シリコン基板上に形成されたシリコンワイヤアレイ)に、ロジウム等を含む金属微粒子を担持することを特徴とする。本発明に用いる金属微粒子の好適なサイズの一例は、ナノオーダーの微粒子である。したがって、本明細書中では、微粒子をナノ粒子として説明することがある。
【0033】
本発明に用いるナノ粒子としては、白金、パラジウム、及びロジウムからなる貴金属群から選択される少なくとも1種の貴金属(以下、「前記貴金属」という場合は、この3種の貴金属を意味するものとする。)を含むナノ粒子を使用する。このようなナノ粒子は前記貴金属(例えばロジウム)の一種のみからなるナノ粒子であってもよく、また、前記貴金属(例えばロジウム)以外に、例えば、遷移金属及び貪金属から選ばれる1種又は2種以上の金属を含む合金からなるナノ粒子であってもよい。また、前記貴金属を2種以上含んでいてもよい。より具体的には、前記ナノ粒子は、前記貴金属の1種のみからなるナノ粒子、前記貴金属の2種以上を含む合金からなるナノ粒子、又は前記貴金属の1種又は2種以上と、第4~第6周期の遷移金属群及び貪金属群(好ましくは第4~第6周期の遷移金属群)から選ばれる1種又は2種以上とを含む合金からなるナノ粒子である。第4~第6周期の遷移金属群及び貪金属群に属する金属の例には、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、金、水銀、タリウム、鉛及びビスマスが含まれる。また、第4~第6周期の遷移金属群の好ましい金属群の例には、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、銀、カドミウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム及び金からなる遷移金属群1;ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム及び金からなる遷移金属群2;が挙げられる。再利用率が高い触媒の例は、ロジウムを少なくとも含むナノ粒子を利用した触媒(以下、「本発明の触媒」という場合がある。)である。より具体的には、ロジウムのみからなるナノ粒子;ロジウムと前記貴金属(但しロジウム以外)の1種又は2種以上を含む合金からなるナノ粒子;ロジウムと、第4~第6周期の遷移金属群、及び貪金属群から選ばれる1種又は2種以上とを含む合金からなるナノ粒子;ロジウムと、前記貴金属(但しロジウム以外)、第4~第6周期の遷移金属群、及び貪金属群から選ばれる1種又は2種以上とを含む合金からなるナノ粒子;ロジウムと、前記貴金属(但しロジウム以外)、及び第4~第6周期の遷移金属群から選ばれる1種又は2種以上とを含む合金からなるナノ粒子;ロジウムと、前記貴金属(但しロジウム以外)、及び第4~第6周期の遷移金属群1から選ばれる1種又は2種以上とを含む合金からなるナノ粒子;又はロジウムと、前記貴金属(但しロジウム以外)、及び第4~第6周期の遷移金属群2から選ばれる1種又は2種以上とを含む合金からなるナノ粒子;を利用した触媒である。より具体的には、ロジウムのみ、並びにロジウムとともに、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛及びビスマス(又は、白金、銅、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、及びイリジウム)から選ばれる1種又は2種以上を含む合金からなるナノ粒子を挙げることができる。なお、ナノ粒子中に含まれる貴金属等の金属原子の価数については、触媒作用を示す限り、特に制限はない。触媒活性の点では、通常、0価であるのが好ましい。但し、触媒活性を示す限り、一部が、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物等の形態で存在していてもよい。2種類以上の金属を含むナノ粒子の態様における、金属の含有比(例えば、ロジウムとロジウム以外の金属の含有比)は、任意に設定できる。本発明に用いるナノ粒子が、ロジウムを含有する態様では、特に高い触媒活性及び再利用性を発揮することができる。
【0034】
本発明に用いる触媒に担持されるナノ粒子の平均粒子径は、(例えば、シリコン基板上に形成されたシリコンワイヤアレイに担持させる態様では、シリコンワイヤアレイのシリコンワイヤ間のスペースに含浸し)、シリコンワイヤに担持され、触媒として機能する限り、特に制限はないが、通常0.01~500 nm、0.1~100 nm、又は1~10 nm程度である。ここで平均粒子径と表記しているものは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)で観察して200個の粒子の大きさを個別に測ったその平均値のことを意味する。
【0035】
本発明に用いる触媒の製造方法の一例は、シリコン基板上に形成されたシリコンワイヤアレイに、ナノ粒子を担持させる工程を含む方法である。シリコンワイヤアレイに、ロジウム等の前記貴金属の少なくとも1種を含む金属ナノ粒子を担持させる方法としては、ロジウム等の前記貴金属の金属塩水溶液にシリコンワイヤアレイを接触させることにより行うことができる。金属塩水溶液の接触方法としては、シリコンワイヤアレイを金属塩水溶液に浸漬する方法や、シリコンワイヤアレイにスプレー噴霧する方法等が挙げられる。
【0036】
金属塩水溶液としては、金属塩を含む水溶液であればよく、例えばロジウムであれば、塩化ロジウム、酢酸ロジウム等のロジウム塩水溶液等が挙げられる。また、水溶液に限らず、有機溶媒(例えばアセトン等の水混和性有機溶媒)を併用したもの、金属塩が有機溶媒に溶解したものを用いることもできる。水溶液中に水混和性有機溶媒を添加すると、シリコンワイヤへの担持を促進できる。本発明では、金属塩水溶液を単独で又は複合して用いることが出来る。例えば、ナノ粒子として、前記貴金属の2種以上、又は前記貴金属の1種以上とともに前記貴金属以外の金属を含む態様を製造する場合は、各金属の金属塩を含む水溶液を用いる。各金属の金属塩の水溶液をそれぞれ調製して混合してもよいし、同時ないし順次、水中に各金属の金属塩を添加して、調製してもよい。
【0037】
シリコンワイヤアレイに金属ナノ粒子を担持させる場合、金属塩水溶液は、金属濃度が1~1,000 mmol/L、又は10~100 mmol/Lのものを使用することが一般的であり、本発明においても金属濃度が当該範囲のものを使用することができる。例えば、シリコンワイヤアレイに対して金属塩水溶液は、金属量として例えば、1~1,000 μmol/g、又は10~100 μmol/gとなるように使用することができる。
【0038】
上記処理によって、シリコンワイヤアレイの表面に金属塩を接触させた後、水、有機溶媒等で洗浄し、乾燥することでシリコンワイヤアレイに担持された、ロジウム等の前記貴金属を含む金属ナノ粒子からなる触媒を製造できる。
【0039】
製造された金属ナノ粒子が担持されたシリコンワイヤアレイは、シリコンワイヤアレイに対するナノ粒子の担持量が、金属量として、通常0.1~10 μmol/g、又は1.0~5.0 μmol/gである。また、mol%として示す場合は、シリコンワイヤアレイに対してナノ粒子の担持量は、金属量として、通常0.001~1.0 mol%、又は0.01~0.1 mol/%である。
【0040】
さらに、金属ナノ粒子を不溶化するために還元工程を経てもよい。かかる還元工程は、水溶性の金属ナノ粒子を純金属や、酸化物あるいは水酸化物の錯体や化合物にして不溶化させることで、金属ナノ粒子が金属塩水溶液やアレイ内部の液体に溶解してアレイ表面から流出してしまうのを防止するためであり、これにより、金属ナノ粒子をアレイ表面に固定させることができる。還元方法は、金属ナノ粒子を固定できるのであれば、液相による還元でも、気相による還元でもよい。例えば、液相による還元としては、アレイをアンモニア水溶液に浸漬する方法があり、気相による還元としては、加熱による水素熱処理をする方法がある。
【0041】
触媒金属の不溶化処理に用いる還元剤としては、アンモニア、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等の還元作用のある化合物や水素等の還元性ガス、水酸化ナトリウム等の塩基性化合物を用いる。還元工程の具体的な方法としては、酸系の触媒金属塩にアルカリを加えることによる析出沈殿法等である。
【0042】
シリコンワイヤアレイ表面の金属の還元工程の後、熱処理をしてもよい。熱処理は、上記の還元工程により酸化物あるいは水酸化物の錯体や化合物となった触媒金属を純金属に還元したり、不純物の除去をする工程となる。また、金属種の異なる複数の触媒金属を使用する場合には、それらを合金化するための工程ともなる。なお、上記気相による還元が、熱処理工程を兼ねる場合もある。
【0043】
熱処理の条件は、一般的に知られている条件により行えばよく、例えば、200 ℃で2時間加熱する等の条件である。かかる熱処理により、アレイ内部へ含浸した疎水性有機化合物を揮発させることも可能である。
【0044】
本発明に用いる触媒に担持されるナノ粒子の平均粒子径、粒度分布、合金の組成、ナノ粒子の担持量等は、本明細書の記載及び公知の手法を参照し、目的とする触媒に応じて、金属塩水溶液にシリコンワイヤアレイを接触させる条件、例えば、金属塩水溶液の濃度、反応温度、時間等の条件、金属塩水溶液の混合比等を変えることにより、調整可能である。
【0045】
本発明に用いる触媒は、反応後、水、有機溶媒等で洗浄し、乾燥することで、再利用可能である。特に、本発明の触媒は再利用性に優れ、反応性を維持した状態(反応条件等によるが、例えば収率80% 以上)で例えば2回以上、5回以上、又は10回以上再利用することができる。
【0046】
<触媒反応>
本発明に用いる触媒は、溝呂木-ヘック反応、ニトロ基還元反応、ヒドロシリル化反応、C-Hアリール化反応、脱カルボキシル化反応、脱カルボニル化反応、水素化反応等に使用できる。具体的には、例えば、脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応、脂肪族カルボン酸エステルの脱アルコキシカルボニル化反応、脂肪族アルデヒドの脱カルボニル化反応、不飽和脂肪族炭化水素の水素化反応、不飽和脂肪族アリールの部分水素化反応等に好適に使用できる。また、本発明は、本発明に用いる触媒を、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル及び脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種の基質に作用させ、前記少なくとも1種の基質の脱カルボキシル化、脱アルコキシカルボニル化及び脱カルボニル化の少なくとも1つの反応を進行させる工程(触媒反応工程)を含む、脂肪族炭化水素の製造方法に関する。また、本発明は、前記触媒反応工程と、前記触媒反応工程中、及び/又は前記触媒反応工程後に、脱カルボキシル化、脱アルコキシカルボニル化及び脱カルボニル化の少なくとも1つの反応によって生じた一酸化炭素を収集する工程と、を含む、一酸化炭素の製造方法にも関する。
【0047】
以下、本発明の触媒反応の例を説明する。なお、前記脂肪族炭化水素の製造方法及び前記一酸化炭素の製造方法において、基質として用いられる脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、及び脂肪族アルデヒドの例については、以下の触媒反応において基質として用いられる脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、及び脂肪族アルデヒドの例と同様であり、また触媒反応工程の条件等についても同様である。
【0048】
(脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応及び脂肪族カルボン酸エステル脱アルコキシカルボニル化反応)
本発明に用いる触媒による脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応及び脂肪族カルボン酸エステルの脱アルコキシカルボニル化反応は、気相あるいは液相のいずれにおいても行うことができる。気相反応においては、反応基質と通常0.1~10 atmの水素ガスを気相で触媒と接触させ、また液相反応においては、通常0.1~10 atmの水素ガス存在下に反応基質を触媒と液状で接触させることにより反応が行われる。液相反応においては、溶媒を特に使用する必要はないが、必要に応じ使用することもできる。使用可能な溶媒は、反応基質と均一相をなすものが適しており、例えば、炭化水素、エーテル、エステル、アルコール等を用いることができる。
【0049】
反応温度は、通常50℃以上、50~500℃、50~400℃、50~300℃、50~250 ℃、又は150~200 ℃の範囲である。また、反応時間は、目的物質の収率等に応じて適宜選択すればよく、特に制限はないが、通常数秒~数十時間程度、1~48時間、又は6~24時間程度である。反応温度を上記範囲にするために、脱カルボキシル化又は脱アルコキシカルボニル化反応の進行前、及び/又は進行中の少なくとも一部において、反応系(少なくとも前記所定の触媒と前記所定の反応基質とを含む反応系)に対してマイクロ波照射を行うことが好ましい。マイクロ波照射により上記温度範囲に加熱することで、反応の進行を顕著に促進することができる。なお、他の加熱手段と併用してもよい。マイクロ波照射の方法については特に制限はない。例えば、市販のマイクロ波合成装置(CEM社製)等を利用することができる。
【0050】
本発明に用いる触媒の使用量は、一般的には反応基質に対し、金属量として0.0001 mol%以上であり、また0.0006 mol%を超える。同上限値は、1 mol%以下、又は1 mol%未満である。好ましくは、0.001~1 mol%、0.01~0.1 mol%、又は0.02~0.07 mol%である。
【0051】
本発明に用いる触媒による脂肪族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸エステルからの脂肪族炭化水素の製造方法は、触媒の存在下に、反応基質を反応させることを特徴とするものであるが、かかる反応を、添加剤の存在下で実施してもよい。添加剤を加えることにより、さらに目的生成物の収率を向上させることができる。そのような添加剤としては、酸無水物、例えば、ピバル酸無水物、又は2,4,6-トリメチル安息香酸無水物等が挙げられる。添加剤の添加量は、通常反応基質に対し0.1~200 mol%、1~100 mol%、又は1.5~10 mol%の範囲から適宜選択することができる。また、基質として脂肪族カルボン酸エステルの少なくとも1種を用いる態様では、反応系に水を添加することによっても、反応の進行を促進することができる。
【0052】
本発明の製造方法の反応基質となる脂肪族カルボン酸は、好ましくは、置換基を有してよい炭素数6~25の脂肪族炭化水素鎖の水素をカルボキシル基で置換した化合物である脂肪族カルボン酸である。置換基を有してよい脂肪族炭化水素鎖は、より好ましくは炭素数13~19である。ここで、脂肪族炭化水素鎖は、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素鎖であってよい。これらの脂肪族炭化水素鎖としては、直鎖又は分岐のアルキル(へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、ウンデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、ノナデシル等)、及び任意の位置に1以上の二重結合を有する直鎖又は分岐のアルケニル(ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、ウンデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、ノナデセニル、オクタデカトリエニル等)等が挙げられる。なお、脂肪族炭化水素鎖上のカルボキシル基の数は1又は2以上であってよく、好ましくは1である。カルボキシル基の置換位置は特に限定されないが、例えば脂肪族炭化水素鎖末端である。置換基は、反応に不活性な置換基であれば特に限定されず、例えば、ヒドロキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アシル基、エステル基、シアノ基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。なお、脂肪族炭化水素鎖上の置換基の数は1又は2以上であってよく、好ましくは1である。脂肪族炭化水素鎖上の置換基の置換位置は特に限定されないが、例えば脂肪族炭化水素鎖末端である。また、反応基質として利用可能な脂肪族カルボン酸エステルの例には、前述の反応基質として利用可能な脂肪族カルボン酸のエステル(-C(=O)ORのR部分の炭素数は、C1~C10、C1~C6又はC1~C4である)が含まれる。前記脂肪族カルボン酸エステルは置換されていてもよく、置換基の例としては、脂肪族カルボン酸が有していてもよい置換基の例と同様である。なお、不飽和脂肪族炭化水素鎖を有する脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応又は脂肪族カルボン酸エステルの脱アルコキシカルボニル化反応を行う場合、同反応と同時に、不飽和脂肪族炭化水素鎖上の不飽和結合の水素化反応を行うことも可能である。
【0053】
本発明の製造方法の反応基質となる脂肪族カルボン酸の例としては、限定されないが、例えば、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、オレイン酸、2-へキシルデカン酸、オクタデカン二酸、及びレチノイン酸等である。本発明の製造方法の反応基質となる脂肪族カルボン酸エステルの例としては、限定されないが、例えば、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、オレイン酸、2-へキシルデカン酸、オクタデカン二酸、及びレチノイン酸等のエステル(-C(=O)ORのR部分の炭素数は、C1~C10、C1~C6又はC1~C4である)である。
【0054】
本発明に用いる触媒による脂肪族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸エステルからの脂肪族炭化水素の製造方法では、効率的かつ選択的に脂肪族炭化水素の製造が可能である。本発明の製造方法による、反応基質に対する脂肪族炭化水素の収率は、反応条件等によるが、例えば30 %以上、40 %以上、50 %以上、60 %以上、70 %以上、80 %以上、90 %以上、95 %以上又は99 %以上であり得る。なお、本発明の方法では、炭素数がn(nは2以上の整数。好ましくは6~25の整数。但し、ここでいう炭素数には、脂肪族カルボン酸中のカルボン酸(-COOH)の炭素数、又は脂肪族カルボン酸エステル中のエステル(-COOR:Rは炭化水素基)の炭素数を含まない。)の脂肪族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸エステルから、炭素数がn-1又はnの脂肪族炭化水素(例えば、飽和脂肪族炭化水素)を製造することができる。特に、炭素数がn-1の脂肪族炭化水素(例えば、飽和脂肪族炭化水素)の選択性が高い。
【0055】
また、本発明に用いる触媒による脂肪族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸エステルからの脂肪族炭化水素の製造方法では、COが選択的に生成し、CO2の生成が少ない。本発明の製造方法において生成するガス成分のうちCO2の含有量は、反応条件等によるが、例えば10 %以下、5 %以下、1 %以下又は0 %であり得る。
【0056】
(脂肪族アルデヒドの脱カルボニル化反応)
本発明に用いる触媒による脂肪族アルデヒドの脱カルボニル化反応は、気相あるいは液相のいずれにおいても行うことができる。気相反応においては、反応基質と通常0.1~10 atmの不活性ガスを気相で触媒と接触させ、また液相反応においては、通常0.1~10 atmの不活性ガス存在下に反応基質を触媒と液状で接触させることにより反応が行われる。液相反応においては、溶媒を特に使用する必要はないが、必要に応じ使用することもできる。使用可能な溶媒は、反応基質と均一相をなすものが適しており、例えば、炭化水素、エーテル、エステル、アルコール等を用いることができる。
【0057】
反応温度は通常50~250 ℃、又は100~180 ℃の範囲である。また、反応時間は、目的物質の収率等に応じて適宜選択すればよく、特に制限はないが、通常数秒~数十時間程度、又は6~18時間程度である。加熱方法の具体例については、上記脂肪族カルボン酸等の脱カルボキシル化反応等における記載を参照できる。
【0058】
触媒の使用量、添加剤の使用に関しては、上記脂肪族カルボン酸等の脱カルボキシル化反応等における記載を参照できる。
【0059】
本発明に用いる触媒による脂肪族アルデヒドからの脂肪族炭化水素の製造方法の反応基質となる脂肪族アルデヒドは、好ましくは、置換基を有してよい炭素数6~25の脂肪族炭化水素鎖の水素をアルデヒド基で置換した化合物である脂肪族アルデヒドである。脂肪族炭化水素鎖の例としては、上記脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応における記載を参照できる。脂肪族炭化水素鎖上のアルデヒド基の数は1又は2以上であってよく、好ましくは1である。脂肪族炭化水素鎖上のアルデヒド基の置換位置は特に限定されないが、例えば脂肪族炭化水素鎖末端である。置換基の例としては、上記脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応における記載を参照できる。置換基の数は1又は2以上であってよく、好ましくは1である。置換基の置換位置は特に限定されないが、例えば脂肪族炭化水素鎖末端である。なお、不飽和脂肪族炭化水素鎖を有する脂肪族アルデヒドの脱カルボニル化反応を行う場合、同反応と同時に、不飽和脂肪族炭化水素鎖上の不飽和結合の水素化反応を行うことも可能である。
【0060】
本発明の製造方法の反応基質となる脂肪族アルデヒドの例としては、限定されないが、例えば、オクタデカナール等である。
【0061】
本発明に用いる触媒による脂肪族アルデヒドからの脂肪族炭化水素の製造方法では、効率的かつ選択的に脂肪族炭化水素の製造が可能である。本発明の製造方法による、反応基質に対する脂肪族炭化水素の収率は、反応条件等によるが、例えば30 %以上、40 %以上、50 %以上、60 %以上、70 %以上、80 %以上、90 %以上、95 %以上又は99 %以上であり得る。本発明の方法では、炭素数がn(nは2以上の整数。好ましくは6~25の整数。但し、ここでいう炭素数には、脂肪族アルデヒド中のアルデヒド(C(=O)H)の炭素数は含まない。)の脂肪族アルデヒドから、炭素数がn-1又はnの脂肪族炭化水素(例えば、飽和脂肪族炭化水素)を製造することができる。特に、炭素数がn-1の脂肪族炭化水素(例えば、飽和脂肪族炭化水素)の選択性が高い。
【0062】
また、本発明に用いる触媒による脂肪族アルデヒドからの脂肪族炭化水素の製造方法では、COが選択的に生成し、CO2の生成が少ない。本発明の製造方法において生成するガス成分のうちCO2の含有量は、反応条件等によるが、例えば10 %以下、5 %以下、1 %以下又は0 %であり得る。
【0063】
(不飽和脂肪族アリールの部分水素化反応)
本発明の触媒による不飽和脂肪族アリールの部分水素化反応は、気相あるいは液相のいずれにおいても行うことができる。気相反応においては、反応基質と通常0.1~10 atmの水素ガスを気相で触媒と接触させ、また液相反応においては、通常0.1~10 atmの水素ガス存在下に反応基質を触媒と液状で接触させることにより反応が行われる。液相反応においては、溶媒を特に使用する必要はないが、必要に応じ使用することもできる。使用可能な溶媒は、反応基質と均一相をなすものが適しており、例えば、炭化水素、エーテル、エステル、アルコール等を用いることができる。
【0064】
反応温度は通常50~250 ℃、又は50~100 ℃の範囲である。また、反応時間は、目的物質の収率等に応じて適宜選択すればよく、特に制限はないが、通常数秒~数十時間程度、又は6~24時間程度である。
【0065】
触媒の使用量、添加剤の使用に関しては、上記脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応における記載を参照できる。
【0066】
本発明の触媒により不飽和脂肪族アリールの不飽和脂肪族炭化水素鎖を部分水素化することができる。本発明の触媒による不飽和脂肪族アリールからの飽和脂肪族アリールの製造方法の反応基質となる不飽和脂肪族アリールは、好ましくは、置換基を有してよい炭素数2~25の不飽和脂肪族炭化水素鎖を有するアリールである。置換基を有してよい不飽和脂肪族炭化水素鎖は、より好ましくは炭素数2~20である。ここで、不飽和脂肪族炭化水素鎖は、直鎖状又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素鎖であってよい。これらの不飽和脂肪族炭化水素鎖としては、任意の位置に1以上の二重結合を有する直鎖又は分岐のアルケニル(エテニル、プロぺニル、ブテニル、ペンテニル等)及び任意の位置に1以上の三重結合を有する直鎖又は分岐のアルキニル(エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル等)等が挙げられる。置換基の例としては、上記脂肪族カルボン酸の脱カルボキシル化反応における記載を参照できる。置換基の数は1又は2以上であってよく、好ましくは1である。置換基の置換位置は特に限定されないが、例えば脂肪族炭化水素鎖末端である。
【0067】
本発明の製造方法の反応基質となる不飽和脂肪族アリールの例としては、限定されないが、例えば、スチルベン等である。
【0068】
本発明の触媒による不飽和脂肪族アリールからの飽和脂肪族アリールの製造方法では、効率的かつ選択的に飽和脂肪族アリールの製造が可能である。本発明の製造方法による、反応基質に対する飽和脂肪族アリールの収率は、反応条件等によるが、例えば収率40 %以上、50 %以上、60 %以上、70 %以上、80 %以上、90 %以上、95 %以上又は99 %以上であり得る。
【0069】
各触媒反応工程(前記脂肪族炭化水素及び一酸化炭素の製造方法の触媒反応工程を含む)の前に、所定の触媒を準備する工程を付加してもよく、及び/又は各触媒工程の後に、生成物を分離、精製、収集及び修飾のいずれか少なくとも1つの処理を行う工程を付加してもよい。
【実施例
【0070】
以下、本発明を、実施例を参照してさらに詳細に説明するが、これらにより本願発明の範囲が限定されることはない。
【0071】
<実施例1>
シリコンナノワイヤアレイに担持された金属ナノ粒子触媒の調製
ナノ構造を有するシリコン基板であるシリコンナノワイヤアレイ(以下、「SiNA」ともいう)を、市販のシリコン基板を用いて、文献Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 127-131に記載された方法に従って製造した。同文献では、ナノ構造を有するシリコン基板にパラジウムナノ粒子を担持した触媒(以下、「SiNA-Pd」ともいう)が報告されている。このパラジウム触媒は、溝呂木-ヘック反応、アルケンの水素化、ニトロ基の還元、α,β-不飽和ケトンのヒドロシリル化、芳香族ハロゲン化物とチオフェン・インドールとのC-Hアリール化反応に適用されている。
【0072】
本発明では、上記ナノ構造を有するシリコン基板に、各種金属ナノ粒子、特にロジウムナノ粒子を担持したもの(以下、「SiNA-Rh」ともいう)及びロジウムを含む金属複合体のナノ粒子を担持したものを調製した。また、ナノ構造を有するシリコン基板にパラジウムナノ粒子を担持したもの(SiNA-Pd)、白金ナノ粒子を担持したもの(SiNA-Pt)、及び、各種金属複合体のナノ粒子を担持したものを調製した。
【0073】
具体的には、以下の方法で製造した。p-タイプシリコン基板(2 インチ; 厚さ(325 ±25) μm; 0.1-100 Ω; 1.45 g)(E&M)をH2SO4/H2O2で処理し、洗浄及びSi-H表面基の導入(水素終端化)のためのフッ化水素酸(HF)水溶液での処理をそれぞれ行った。AgNO3を水素終端化された基板と反応させ、Ag微粒子被覆基板を得、HF/H2O2水溶液で処理し、シリコンナノワイヤアレイを得た。Ag微粒子の除去及びシリコンナノワイヤアレイのSi-H表面の再構築は、HNO3、及び5 % HF水溶液(10 mL)に1分間漬けてそれぞれ行い、その後純水で洗浄、窒素を吹き付けて水を取り除いた。
【0074】
塩化ロジウム3水和物(59.2 mg)を純水(4.5 mL)に溶かして、50 mM水溶液を調製した。これに1.5 mLのアセトンを加えた後、上記調製したSiNAをこの溶液に室温中5分漬けた。その後、基板を純水、アセトン(各20 mL)で洗浄し、窒素を吹き付けて乾燥させることで、SiNA-Rhが調製(1.45 g)された。
【0075】
パラジウムナノ粒子、白金ナノ粒子及び金属複合体(合金)のナノ粒子についても、対応する金属塩水溶液をそれぞれ用いて、上記と同様にして各ナノ粒子を担持したシリコンナノワイヤアレイを製造した。
【0076】
実施例のロジウムナノ粒子触媒を固定化したシリコンナノワイヤアレイについて、構造を分析した。
【0077】
SiNA-Rh(サンプルBHY-12-171B)の断面のSEM(Scanning Electron Microscope)(JEOL JSM6330F)写真を、図1に示す。SiNA-Pdの断面のSEM写真は、ナノスペースの長さが5 μm、ナノスペースの幅が800 nm未満であり、ナノスペースの幅の平均が約80 nmであることを示し、アスペクト比は約60であることを示した。
【0078】
SiNA-Rh(サンプルBHY-12-171B)のTEM(JEOL JEM-2100F)イメージから200個の粒子の大きさを個別に測定したところ、約1-10 nmの直径(φ=約4 nm)のロジウムナノ粒子の分散を示した(図2のA,B及び図3)。SiNA-Rhの断面のエネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy: EDX, JED-2300T)イメージは、シリコンナノワイヤアレイにロジウムナノ粒子が担持されていることを示した(図2のC~F)。
【0079】
SiNA-Rh(サンプルBHY-8-37-Rh)及び炭素に担持したロジウムナノ粒子のRh3d X線光電子分光分析(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS)(VG ESCALAB 250 spectrometer, Thermo Fisher Scientific K.K.)は、0価ロジウム種の形成を示した(図4及び5)。
【0080】
SiNA-Rh(計6サンプル, 2 x 2 cm2)についての誘導結合プラズマ質量分析(Inductively coupled plasma mass spectrometry: ICP-MS)(Perkin Elmer NexionTM 300D)は、SiNA上のロジウムナノ粒子の担持量が約2-5 μmol/gであることを示した(図6)。写真は、ロジウム担持前のSiNA(左)(サンプルBHY-8-37)及びロジウム担持後のSiNA-Rh(右)(サンプルBHY-8-37-Rh)の写真である。
【0081】
なお、他のナノ粒子を担持したシリコンナノワイヤアレイについても同様に分析し、同様の構造及び担持形態であることを確認した。
【0082】
<実施例2>
SiNA-Rhを用いたステアリン酸からヘプタデカンの合成
10 mLの耐圧ガラス容器に、SiNA-Rh(67 mg, 270 nmol Rh, 0.054 mol% Rh)、ステアリン酸(142.3 mg, 0.5 mmol)を加え、水素圧9.9 barにセットして、CEM社製マイクロ波合成装置(CEM Discover-SPもしくはCEM Discover System)にて、200 ℃設定、最高出力200 W(温度安定時30-50 W)にて6時間反応を行った。反応追跡のため常温常圧にして、微量サンプリングをした後、引き続き200 ℃設定、最高出力200 W(温度安定時30-50 W)にて反応を行った。6時間ごとに微量サンプリングを行い、24時間で反応を完了した。反応混合物1 mgにN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール0.1 mLを加え、さらにメタノール0.1 mLを加え、30秒間ドライヤーで乾燥させ、ガスクロマトグラフィー(DB-WAX, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。回収したSiNA-Rhは、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトンで洗浄後、窒素を吹きかけて乾燥させ、再利用した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
ロジウムナノ粒子を担持した触媒は、ステアリン酸(0.5 mmol)を基質とし、SiNA-Rhを約0.05 mol%(例えば、先行技術文献の触媒の20分の1以下の触媒量)を用い、9,9barの水素雰囲気下、マイクロ波照射により200℃ の反応温度とすることで、24時間反応に附したところ、炭素数nのステアリン酸に対応する炭素数n-1の化合物であるヘプタデカンが収率94%で得られた。また、先行技術でも問題になる、副生成物となる炭素数nの化合物であるオクタデカンは生成しなかった。また、ガス成分として一酸化炭素が得られ、副生成物の可能性となる二酸化炭素は全く生成しなかったことをガスクロマトグラフィーで確認した。なお、上記表1中、各entryのH2:CO:CO2の値は、6時間ごと(6時間後、12時間後、18時間後及び24時間後それぞれ)に反応系を開放し、反応系中の気体を収集し、GC分析した値に基づいて算出した値(6時間、12時間及び18時間のそれぞれの開放後には、再び反応系中に水素を再充填して、さらに6時間反応させて、同様に測定、算出した。)である。
【0085】
この触媒を回収して、同じ反応に再利用したところ、2回目の反応では89 %、3回目の反応では85 %、4回目の反応では87 %でヘプタデカンが得られた。この時もガス成分として一酸化炭素のみが得られ、二酸化炭素は生成しなかった。さらに、触媒の回収・触媒反応(24時間)を、20回まで繰り返したが、ヘプタデカンの収率(P1)は80%以上であり、またいずれの回でも、二酸化炭素は検出されず、一酸化炭素のみが得られた。
なお、マイクロ照射を行わずに反応系を200℃まで加熱した以外は、上記表中のentry1と同様にして、反応の進行を試みたが、反応時間6時間後には、未だヘプタデカンは検出されなかった。
【0086】
<実施例3>
各種金属ナノ粒子を担持した触媒を用いたステアリン酸からヘプタデカンの合成
10 mLの耐圧ガラス容器に、SiNA-Rh(67 mg, 270 nmol Rh, 0.054 mol% Rh)、ステアリン酸(284 mg, 1 mmol)を加え、水素圧9.9 barにセットして、CEM社製マイクロ波合成装置(CEM Discover-SPもしくはCEM Discover System)にて、200 ℃設定、最高出力200 W(温度安定時30-50 W)にて6時間反応を行った。反応混合物1 mgにN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール0.1 mLを加え、さらにメタノール0.1 mLを加え、30秒間ドライヤーで乾燥させ、ガスクロマトグラフィー(DB-WAX, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。合金ナノ粒子を担持した触媒及びロジウム以外の貴金属の金属ナノ粒子を担持した触媒についても同様に反応を行い、収率を確認した。結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
金属ナノ粒子を担持した触媒で炭素数nのステアリン酸に対応する炭素数n-1の化合物であるヘプタデカンが得られた。副生成物となる炭素数nの化合物であるオクタデカンは生成しなかった。ガス成分として一酸化炭素が得られ、二酸化炭素は全く生成しなかった。なお、金属ナノ粒子を担持しなかったものについては、反応は進行しなかった(entry 1)。また、マイクロ照射を行わずに反応系を200℃まで加熱した以外は、上記表中の各entryと同様にして、反応の進行を試みたが、反応時間6時間後には、未だ脂肪族炭化水素は検出されなかった。
また、触媒として、RhCl3・3H2O(0.056mol% of MNPs)を用いた以外は、上記と同様にして、触媒反応の進行を試みたが、反応は進行しなかった。
【0089】
合金ナノ粒子を担持した触媒及びパラジウムナノ粒子を担持した触媒について、再利用性を検討した。回収した触媒は、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトンで洗浄後、窒素を吹きかけて乾燥させ、再利用した。再利用時の反応について、結果を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
SiNA-Pdを用いて反応を行った場合、6時間で収率32 %、再利用時には12 %でヘプタデカンが生成した(entry 2)。SiNA-Ptを用いて反応を行った場合、6時間で収率38 %、再利用時には22 %でヘプタデカンが生成した(entry 3)。SiNA-PdPt(パラジウムと白金の合金ナノ粒子)を用いて反応を行った場合、6時間で収率49 %、再利用時には15 %でヘプタデカンが生成した(entry 1)。SiNA-PdRh(パラジウムとロジウムの合金ナノ粒子)を用いて反応を行った場合、6時間で収率37 %、2回目利用で33 %、3回目利用で33 %、4回目利用で8 %でヘプタデカンが生成した(entry 4)。SiNA-PdPtRh(パラジウムと白金とロジウムの合金ナノ粒子)を用いて反応を行った場合、6時間で収率39 %で、再利用で4 %でヘプタデカンが生成した(entry 5)。SiNA-PdPtRhNi(パラジウムと白金とロジウムとニッケルの合金ナノ粒子)を用いて反応を行った場合、6時間で収率41 %で、再利用で26 %でヘプタデカンが生成した(entry 6)。SiNA-PdRu(パラジウムとルテニウムの合金ナノ粒子)を用いて反応を行った場合、6時間で収率36 %で、再利用で25 %でヘプタデカンが生成した(entry 7)。表1の結果とも比較すると、SiNA-Rhを用いて6時間で反応をみた場合、収率47 %、2回目利用で41 %、3回目利用で57 %でヘプタデカンが生成しており、この条件での反応系においては、上記のものより良い結果となった。
【0092】
<実施例4>
SiNA-Rhを用いたカルボン酸からアルケンの合成
10 mLの耐圧ガラス容器に、SiNA-Rh(70 mg, 265 nmol Rh, 0.053 mol% Rh;又は71.0 mg, 270 nmol Rh, 0.054 mol%)、カルボン酸(0.5 mmol)を加え、水素圧9.9 barにセットして、CEM社製マイクロ波合成装置(CEM Discover-SPもしくはCEM Discover System)にて、200 ℃設定、最高出力200 W(温度安定時30-50 W)にて24時間反応を行った。反応混合物1 mgにN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール0.1 mLを加え、さらにメタノール0.1 mLを加え、30秒間ドライヤーで乾燥させ、ガスクロマトグラフィー(DB-WAX, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
SiNA-Rhは、飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、分岐脂肪族カルボン酸に作用し、アルケンを生成した。なお、オレイン酸からは主生成物としてヘプタデカンが、2-へキシルドデカン酸からは主生成物としてペンタデカンが生成した。
【0095】
<実施例5>
ピバル酸添加系におけるSiNA-Rhを用いたステアリン酸からヘプタデカンの合成
10 mLの耐圧ガラス容器に、SiNA-Rh(67 mg, 270 nmol Rh, 0.054 mol% Rh)、ステアリン酸(142.3 mg, 0.5 mmol)、ピバル酸無水物(0.75 mmol)を加え、水素圧9.9 barにセットして、CEM社製マイクロ波合成装置(CEM Discover-SPもしくはDiscover System)にて、200℃設定、最高出力200 W(温度安定時30-50 W)にて6時間反応を行った。反応混合物1 mgにN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール0.1 mLを加え、さらにメタノール0.1 mLを加え、30秒間ドライヤーで乾燥させ、ガスクロマトグラフィー(DB-WAX, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。結果、ヘプタデカンが収率89 %で得られた。また一酸化炭素がガス成分として得られ、二酸化炭素は生成しなかった。
【0096】
回収したSiNA-Rhは、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトンで洗浄後、窒素を吹きかけて乾燥させ、再利用した。再利用2回目では収率93 %、3回目では88 %、4回日では87 %、5回目では87 %、6回目では89 %、7回目では87 %、8回目では86 %、9回目では84 %、10回目では89 %、11回目では86 %でヘプタデカンが得られた。またガス成分としては一酸化炭素が得られた。ピバル酸の使用により効率が向上した。また、10回以上再利用が可能であった。
【0097】
<実施例6>
SiNA-Rhを用いたオクタデカナールからヘプタデカンの合成
20 mLの試験管に、SiNA-Rh(69.941 mg, 270 nmol Rh, 0.054 mol% Rh)を入れ、オクタデカナール(134.3 mg, 0.5 mmol)を加え、アルゴンで30秒パージした。アルゴン雰囲気(1atm)下、DFCミキサー(700 rpm)(Device for Flow Chemistry社)を用いて、150 ℃にて18時間反応を行った。18時間後、室温まで冷ました。内部標準物質としてドデカンを添加し、ガスクロマトグラフィー(DB-WAX, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。
【0098】
反応混合物をCH2Cl2に溶解し、蒸発させた。ヘキサンを用いたシリカゲルカラムにより、反応混合物を精製した。精製した溶液を真空下蒸発乾燥させた。1H NMR(JEOL JNM AL400 spectrometer)により分析した。
【0099】
ロジウムナノ粒子を担持した触媒は、オクタデカナール(0.5 mmol)を基質とし、SiNA-Rhを約0.05 mol%を用い、アルゴン雰囲気(1 atm)下、150 ℃ の反応温度とすることで、18時間反応に附したところ、炭素数nのオクタデカナールに対応する炭素数n-1の化合物であるヘプタデカンが単離後収率86 %(104 mg)で得られた。副生成物となる炭素数nの化合物であるオクタデカンは生成しなかった。
【0100】
【化1】
【0101】
<実施例7>
SiNA-Rhを用いたtrans-スチルベンからビベンジルの合成
10 mLの試験管に、SiNA-Rh(108.16 mg, 465 nmol Rh, 0.093 mol% Rh)を入れ、スチルベン(90.0 mg, 0.5 mmol)を加え、2 mL EtOHを加えた。内部標準物質としてドデカンを添加した。1分間水素バブリングを行った。水素雰囲気(1 atm)下、DFCミキサー(700 rpm)(Device for Flow Chemistry社)を用いて、70 ℃にて24時間反応を行った。24時間後、室温まで冷まし、ガスクロマトグラフィー(HP-1, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。
【0102】
ロジウムナノ粒子を担持した触媒を用いて、trans-スチルベン(0.5 mmol)を基質とし、SiNA-Rhを約0.09 mol%を用い、水素雰囲気(1 atm)下、70 ℃ の反応温度とすることで、24時間反応に附したところ、trans-スチルベンが水素化されたビベンジルが収率99 %(90.7 mg)で得られた。
【0103】
【化2】
【0104】
<実施例8>
脂肪族カルボン酸エステルから脂肪族炭化水素の合成
実施例1と同様にして、SiNA-Rhを作製した。10 mLの耐圧ガラス容器に、SiNA-Rh(67 mg, 270 nmol Rh, 0.054 mol% Rh)、ステアリン酸メチル(149.3 mg, 0.5 mmol)及びH2O(6.5mol)を加え、水素圧9.9 barにセットして、CEM社製マイクロ波合成装置(CEM Discover-SPもしくはCEM Discover System)にて、200 ℃設定、最高出力200 W(温度安定時30-50 W)にて48時間反応を行った。反応混合物1 mgにN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール0.1 mLを加え、さらにメタノール0.1 mLを加え、30秒間ドライヤーで乾燥させ、ガスクロマトグラフィー(DB-WAX, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。結果を以下に示す。
【0105】
【化3】
【0106】
実施例1と同様にして、SiNA-Pd1Pt0.54を作製した。10 mLの耐圧ガラス容器に、SiNA-Pd1Pt0.54(0.071 mol% Pd1Pt0.54)、ステアリン酸エチル(1mmol)を加え、水素圧9.9 barにセットして、CEM社製マイクロ波合成装置(CEM Discover-SPもしくはCEM Discover System)にて、200 ℃設定、最高出力200 W(温度安定時30-50 W)にて6時間反応を行った。その後は、上記と同様にして、ガスクロマトグラフィー(DB-WAX, アジレント・テクノロジー社製)にて収率を確認した。結果を以下に示す。
【0107】
【化4】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の触媒によれば、より少ない触媒量で効率的且つ選択的に脂肪族炭化水素及び一酸化炭素を製造することができる。また、本発明の触媒によれば、より温和な条件で反応が可能であり且つ触媒の再利用効率が高いことから、コスト面でも有利である。また、本発明の触媒を用いた製造方法により得られた脂肪族炭化水素はバイオディーゼル燃料として有用であり、また、一酸化炭素は石油合成原料に使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6