(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】スポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
B23K9/29 C
(21)【出願番号】P 2020179083
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2022-05-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599095159
【氏名又は名称】株式会社ムラタ溶研
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】村田 彰久
(72)【発明者】
【氏名】村田 唯介
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/137949(WO,A1)
【文献】特開2008-212969(JP,A)
【文献】特開2013-031885(JP,A)
【文献】実公昭59-014053(JP,Y2)
【文献】特開2016-203187(JP,A)
【文献】特開2000-024780(JP,A)
【文献】特開昭60-072684(JP,A)
【文献】特開2020-011292(JP,A)
【文献】特許第6487417(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/141768(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/166962(WO,A1)
【文献】特開2015-091594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32、10/00 - 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチボディと、
前記トーチボディに着脱自在に挿着され、陰極に接続されるタングステン電極棒を保持する電極コレットと、
前記タングステン電極棒を同心状に支持してタングステン電極棒との間にシールドガスが流れるガス通路を形成すると共に、ガス通路から前記タングステン電極棒の先端部へ向かってシールドガスを噴出する狭窄ノズルと、
前記トーチボディの先端部に設けられ
、狭窄ノズルから突出するタングステン電極棒の先端部を周囲から取り囲
む導電性を有する筒状の電極用ノズルとを備え、
前記電極用ノズルは、トーチボディの先端部に設けられ、アースケーブルを介して陽極に接続されると共に、シールドガスのガス抜き口を形成した導電性を有する筒状のアース接続金具と、アース接続金具の先端部に着脱自在に設けられ、冷却水が流通する冷却水通路、冷却水流通路に連通する冷却水供給口及び冷却水流通路に連通する冷却水排出口を形成した導電性を有する筒状の冷却ノズル体と、冷却ノズル体の先端部に着脱自在に設けられ、先端部が先窄まり状に形成されて先窄まり状の先端がタングステン電極棒の先端よりも外方に位置する導電性を有する筒状のノズルチップとを備えていることを特徴とするスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ。
【請求項2】
前記冷却ノズル体は、基端部が筒状のアース接続金具の先端部に着脱自在に螺着され、先端部に筒状のノズルチップの基端部が着脱自在に螺着される筒状の内筒と、内筒の周囲に配置され、内筒との間に冷却水が流通する環状の冷却水流通路を形成する筒状の外筒とを備え、前記外筒に冷却水流通路に連通する冷却水供給口及び冷却水流通路に連通する冷却水排出口を形成したことを特徴とする請求項
1に記載のスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ。
【請求項3】
前記アース接続金具と冷却ノズル体の外筒をそれぞれ黄銅により形成し、前記冷却ノズル体の内筒とノズルチップをそれぞれ銅材により形成したことを特徴とする請求項
2に記載のスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ。
【請求項4】
前記ノズルチップの先端面に、ノズルチップの直径方向に沿って形成され、角継手の角部に嵌合されるV字状の位置決め溝を形成したことを特徴とする請求項
1~3の何れかに記載のスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ。
【請求項5】
前記ノズルチップの先端部外周面に、T継手の隅部に面接触状態で接触する対向状の位置決め面を形成したことを特徴とする請求項
1~3の何れかに記載のスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ステンレス板、鋼板、銅板、アルミ板等の金属板(母材)をスポット溶接(仮付け溶接)するために用いるものであり、特に、非消耗式のタンクズテン電極を備えたTIG溶接トーチに改良を加えたスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にスポット溶接(仮付け溶接)は、二枚の金属板を仮付けする場合や、金属板の接合箇所にあまり高い接合強度を必要としない場合等に用いられるものであり、スポット溶接(仮付け溶接)を行う際の継手の形状には、重ね継手、突合せ継手、角継手、へり継手、T継手等が使用されている。
【0003】
一般に、二枚の金属板を重ねて行うスポット溶接には、抵抗溶接が広く利用されているが、抵抗溶接は、電気抵抗の少ない銅板やアルミ板等の金属板のスポット溶接(仮付け溶接)に不向きである。
【0004】
そのため、銅板やアルミ板等の金属板のスポット溶接には、例えば、非消耗式のタンクズテン電極を備えたTIG溶接トーチを使用するTIG溶接が用いられている。
【0005】
TIG溶接トーチを用いるTIG溶接において良好なスポット溶接を行うには、下記の各点に注意する必要がある。
(1)スポット溶接する箇所にアークが確実に移行するように狙い位置を定める。
(2)タングステン電極棒と金属板の距離を一定に保ち、アーク長が一定になるようにする。
(3)タングステン電極棒と金属板との短絡を防止する。
【0006】
しかし、TIG溶接トーチを用いるTIG溶接においては、スポット溶接の狙い位置を定めたり、アーク長を一定に保ったり、短絡を防止したりするには、作業者の経験が必要になるうえ、技量に個人差があるので、熟練者でなければ良好なスポット溶接を行えないと言う問題がある。
【0007】
また、タングステン電極棒と金属板が短絡した場合には、タングステン電極棒の先端が消耗し、タングステン電極棒を研磨しなければならず、作業性が極めて悪くなると言う問題がある。
【0008】
上述した問題を解決するTIG溶接トーチしては、本件発明者が先に開発したスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ(特許文献1)が知られている。
【0009】
即ち、前記狭窄ノズル付きTIG溶接トーチは、図示していないが、導電性を有する筒状の電極用ノズルを、トーチの先端部にタングステン電極棒の先端部周囲を取り囲むように取り付け、導電性の電極用ノズルを金属板(母材)の溶接すべき箇所に押し付けて接触させることにより、スポット溶接の狙い位置を容易に定めることができるようにする共に、アーク長を一定に保つことができるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した狭窄ノズル付きTIG溶接トーチにおいても、未だ解決すべき問題点が残されている。
【0012】
即ち、前記狭窄ノズル付きTIG溶接トーチは、筒状の電極用ノズルの周囲に筒状の断熱カバーを配置し、電極用ノズルと断熱カバーとの間に、シールドガスが流れる環状の冷却通路を形成し、スポット溶接時に加熱される電極用ノズルを冷却するようにしているが、電極用ノズル内の加熱された後のシールドガスが環状の冷却通路内に流れるようになっているため、電極用ノズルをあまり冷却することができないという問題があった。
【0013】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、手スポット溶接時に電極用ノズルを確実且つ良好に冷却できるようにしたスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係るスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチは、トーチボディと、前記トーチボディに着脱自在に挿着され、陰極に接続されるタングステン電極棒を保持する電極コレットと、前記タングステン電極棒を同心状に支持してタングステン電極棒との間にシールドガスが流れるガス通路を形成すると共に、ガス通路から前記タングステン電極棒の先端部へ向かってシールドガスを噴出する狭窄ノズルと、前記トーチボディの先端部に設けられ、狭窄ノズルから突出するタングステン電極棒の先端部を周囲から取り囲む導電性を有する筒状の電極用ノズルとを備え、前記電極用ノズルは、トーチボディの先端部に設けられ、アースケーブルを介して陽極に接続されると共に、シールドガスのガス抜き口を形成した導電性を有する筒状のアース接続金具と、アース接続金具の先端部に着脱自在に設けられ、冷却水が流通する冷却水通路、冷却水流通路に連通する冷却水供給口及び冷却水流通路に連通する冷却水排出口を形成した導電性を有する筒状の冷却ノズル体と、冷却ノズル体の先端部に着脱自在に設けられ、先端部が先窄まり状に形成されて先窄まり状の先端がタングステン電極棒の先端よりも外方に位置する導電性を有する筒状のノズルチップとを備えていることに特徴がある。
【0016】
前記冷却ノズル体は、基端部が筒状のアース接続金具の先端部に着脱自在に螺着され、先端部に筒状のノズルチップの基端部が着脱自在に螺着される筒状の内筒と、内筒の周囲に配置され、内筒との間に冷却水が流通する環状の冷却水流通路を形成する筒状の外筒とを備え、前記外筒に冷却水流通路に連通する冷却水供給口及び冷却水流通路に連通する冷却水排出口を形成することが好ましい。
【0017】
前記アース接続金具と冷却ノズル体の外筒をそれぞれ黄銅により形成し、前記冷却ノズル体の内筒とノズルチップをそれぞれ銅材により形成することが好ましい。
【0018】
前記ノズルチップの先端面に、ノズルチップの直径方向に沿って形成され、角継手の角部に嵌合されるV字状の位置決め溝を形成することが好ましい。
【0019】
前記ノズルチップの先端部外周面に、T継手の隅部に面接触状態で接触する対向状の位置決め面を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチは、電極用ノズルに冷却水が流通する冷却水流通路を形成しているため、スポット溶接時に電極用ノズルを確実且つ良好に冷却することができる。その結果、本発明に係るスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチは、サーマルピンチ効果が高められ、アークがエネルギー密度の高い安定したアークとなり、溶融プールの安定性及び深い溶け込みが得られる。また、電極用ノズルの温度が一定に保たれ、スポット径の安定性を図ることができる。更に、電極用ノズルが確実且つ良好に冷却されるため、作業者が電極用ノズルに触れても火傷をすることがなく、作業者の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチの正面図である。
【
図2】同じく狭窄ノズル付きTIG溶接トーチの縦断面図である。
【
図3】同じく狭窄ノズル付きTIG溶接トーチの要部の拡大縦断面図である。
【
図5】狭窄ノズル付きTIG溶接トーチに用いる電極用ノズルの拡大縦断面図である。
【
図6】
図5に示す電極用ノズルを分解した状態の拡大縦断図である。
【
図7】
図5に示す電極用ノズルの冷却ノズル体を分解した状態の拡大縦断図である。
【
図8】狭窄ノズル付きTIG溶接トーチに用いる電極用ノズルの他の例を示し、角継手のスポット溶接を行う場合に用いる電極用ノズルの拡大縦断面図である。
【
図9】
図8に示す電極用ノズルの拡大底面図である。
【
図10】狭窄ノズル付きTIG溶接トーチに用いる電極用ノズルの更に他の例を示し、T継手のスポット溶接を行う場合に用いる電極用ノズルの拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1~
図4は本発明の実施形態に係るスポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1を示し、当該狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1は、ステンレス板、鋼板、銅板、アルミ板等の二枚の金属板W(以下、母材Wと言う)をスポット溶接(仮付け溶接)するために用いるものであり、電極用ノズル7に冷却水が流れる冷却水流通路7dを形成して電極用ノズル7を冷却すると共に、電極用ノズル7を上下方向に複数に分割し、最も下端部側に位置する部分を別の形状のものに交換できるようにして様々な継手形状(突合せ継手、角継手、へり継手、T継手、重ね継手等)に対応できるようにしたものである。
【0024】
前記狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1は、筒状のトーチボディ2と、トーチボディ2に着脱自在に挿着され、陰極に接続されるタングステン電極棒3を保持すると共に、シールドガスGを通す筒状の電極コレット4と、タングステン電極棒3を同心状に支持してタングステン電極棒3との間にシールドガスGが流れるガス通路5eを形成すると共に、ガス通路5eからタングステン電極棒3の先端部へ向かってシールドガスGを高速で噴出させる狭窄ノズル5と、トーチボディ2の先端部に設けられ、先端部が先窄まり状に形成されて狭窄ノズル5から突出するタングステン電極棒3の先端部を周囲から取り囲むと共に、アースケーブル6を介して陽極に接続される導電性を有する筒状の電極用ノズル7とを備えており、前記電極用ノズル7に、シールドガスGのガス抜き口と、冷却水が流通する冷却水流通路7dとを形成したものである。
【0025】
尚、
図1及び
図2において、8は電極コレット4の中間部を覆う絶縁材(例えば、布入りベークライト)製の筒状のコレットホルダー、9はコレットホルダー8を電極コレット4に固定する止めネジ、10は電極コレット4の基端部にホース用接続金具11を介して接続されたシールドガス供給用のガスホース、12は電極コレット4にケーブル用止めネジ13により接続固定されたトーチケーブル、6は電極用ノズル7に端子用止め具14により接続固定されたアースケーブル6、15はトーチボディ2に設けられてスイッチケーブル(図示省略)を介して電源制御部に接続されるトーチスイッチである。
【0026】
前記トーチボディ2は、
図2に示す如く、先端部(
図2に示すトーチボディ2の下端部)が小径に形成された絶縁材(例えば、布入りベークライト)製の筒状のトーチ本体2Aと、トーチ本体2A内に挿着固定され、導電性を有する材料(例えば、黄銅や銅等)により先端部が小径に形成された筒状接続金具2Bとを備えており、トーチ本体2Aの小径の先端部外周面には、電極用ノズル7が着脱自在に螺着される雄ネジ2aが形成されている。
【0027】
また、筒状接続金具2Bの小径部分の先端部(
図2に示す筒状接続金具2Bの下端部)内周面には、狭窄ノズル5が着脱自在に螺着される雌ネジ2bが形成され、筒状接続金具2Bの大径部分の基端部(
図2に示す筒状接続金具2Bの上端部)内周面には、電極コレット4が上下自在に螺挿される雌ネジ2cが形成されている。
【0028】
更に、筒状接続金具2Bの小径部分の中間部内周面には、筒状接続金具2Bの先端に向って漸次縮径する第1テーパ面2dが形成されている。
【0029】
前記電極コレット4は、
図2に示す如く、先端部(
図2に示す電極コレット4の下端部)に半径方向へ縮拡径自在な小径のコレットチャック部4aが形成され、基端部(
図2に示す電極コレット4の上端部)の外周面の一部にトーチボディ2の筒状接続金具2Bの基端部内周面に形成した雌ネジ2cに軸線方向へ移動自在(上下動自在)に螺着される雄ネジ4bを形成した黄銅製(又は銅製)の筒状のコレット本体4Aと、先端部がコレット本体4Aの基端部にコレット本体4Aと一直線状にネジ接続され、基端部にホース用接続金具11を介してガスホース10が接続される黄銅製(又は銅製)の筒状のケーブル・ホース接続金具4Bとを備えており、ガスホース10から供給されたシールドガスGがケーブル・ホース接続金具4B内及びコレット本体4A内を順次流れるようになっている。この電極コレット4のケーブル・ホース接続金具4Bの内径及びコレット本体4Aの内径は、タングステン電極棒3の外形よりも大径に形成されており、ケーブル・ホース接続金具4Bの内周面とタングステン電極棒3の外周面との間、コレット本体4Aの内周面とタングステン電極棒3の外周面との間には、シールドガスGが流れる環状通路が形成されている。
【0030】
また、コレット本体4Aのコレットチャック部4aには、
図3に示す如く、シールドガスGが流通可能な割り溝4cが形成され、コレットチャック部4aの先端部内周面には、タングステン電極棒3を把持する凸部4dが形成されている。
【0031】
更に、コレット本体4Aのコレットチャック部4aの先端には、
図3に示す如く、筒状接続金具2Bの第1テーパ面2dに係合する第2テーパ面4eが形成されている。従って、電極コレット4をトーチボディ2の筒状接続金具2B内にねじ込んで行くと、電極コレット4のコレットチャック部4aに形成した第2テーパ面4eが筒状接続金具2Bの第1テーパ面2dに係合し、電極コレット4のコレットチャック部4aが縮径する方向へ締め付けられ、コレットチャック部4aの凸部4dによって電極コレット4に挿通されたタングステン電極棒3を把持する。このとき、コレットチャック部4aの割り溝4cの溝幅は、コレットチャック部4aが締め付けられることにより狭まっても、シールドガスGが流通可能な隙間が形成されるような寸法に設定されている。そのため、コレットチャック部4aの割り溝4cを通過したシールドガスGは、筒状接続金具2Bの小径部分の内周面とタングステン電極棒3の外周面との間に形成された環状通路を通って狭窄ノズル5の内部へ流通できるようになる。
【0032】
そして、電極コレット4のコレット本体4Aには、ケーブル用止めネジ13を介してトーチケーブル12の端子12aが接続固定されている。このトーチケーブル12は、電源制御部(図示省略)の陰極端子に接続されている。従って、電極コレット4に挿着されたタングステン電極棒3は、電極コレット4を介して電源制御部(図示省略)の陰極に接続されることになる。
【0033】
前記狭窄ノズル5は、タングステン電極棒3の先端部外周に配置されてタングステン電極棒3の先端部が突出する状態で且つタングステン電極棒3を同心状に支持し、タングステン電極棒3との間に環状のガス通路5eを形成してシールドガスGをガス通路5eからタングステン電極棒3の先端部周囲に高速で噴射させるものである。
【0034】
即ち、前記狭窄ノズル5は、導電性及び強度性等に優れた銅材(ベリリウム銅又はクロム銅)により筒状体に形成されており、
図3及び
図4に示す如く、タングステン電極棒3の先端部周囲にタングステン電極棒3と同心状に配置され、タングステン電極棒3の先端部外周面との間に環状のガス通路5eを形成する筒状のノズル本体5aと、ノズル本体5aの内周面に円周方向へ所定の間隔をおいて突出形成され、タングステン電極棒3をノズル本体5aの中心位置に保持するノズル本体5aの長手方向に沿う複数の位置決め用突条5bと、複数の位置決め用突条5b間に形成され、ノズル本体5aの長手方向に平行に延びてガス通路5e内を流れるシールドガスGを整流化する複数のガス整流溝5cとを備えており、ノズル本体5aの基端部(
図3に示すノズル本体5aの上端部)外周面には、トーチボディ2の筒状接続金具2Bの先端部内周面に形成した雌ネジ2bに着脱自在に螺着される雄ネジ5dが形成されている。
【0035】
また、位置決め用突条5b及びガス整流溝5cは、
図4に示す如く、それぞれノズル本体5aの内周面に円周方向へ等角度ごとに配置されており、ノズル本体5aの先端開口からシールドガスGをタングステン電極棒3の先端部周囲に均等に流せるようになっている。
【0036】
更に、位置決め用突条5b及びガス整流溝5cは、ノズル本体5aの先端から離れた位置に形成され、また、位置決め用突条5b及びガス整流溝5cの下流側に位置するガス通路5eの内径は、位置決め用突条5b及びガス整流溝5cの上流側に位置するガス通路5eの内径よりも大きく形成されている。その結果、ガス通路5e内に流入したシールドガスGは、ガス整流溝5cを通過して整流化され、ガス通路5eの下流側部分で安定化してからノズル本体5aの先端開口から噴出されることになる。
【0037】
前記電極用ノズル7は、導電性を有する金属材により先端部が先窄まり状の筒状に形成されており、上下方向に三つに分割され、最も下端部(先端部)側に位置する部分(ノズルチップ7C)を別の形状のものに交換できるようにして様々な継手形状(突合せ継手、角継手、へり継手、T継手、重ね継手等)に対応できるようにしたものである。
【0038】
即ち、電極用ノズル7は、トーチボディ2の先端部に設けられ、アースケーブル6を介して陽極に接続されると共に、シールドガスGのガス抜き口7aを形成した導電性を有する筒状のアース接続金具7Aと、アース接続金具7Aの先端部(
図2及び
図3に示すアース接続金具7Aの下端部)に着脱自在に設けられ、冷却水が流通する冷却水流通路7d、冷却水流通路7dに連通する冷却水供給口7e及び冷却水流通路7dに連通する冷却水排出口7fを形成した導電性を有する筒状の冷却ノズル体4Bと、冷却ノズル体4Bの先端部(
図2及び
図3に示す冷却ノズル体7Bの下端部)に着脱自在に設けられ、先端部が先窄まり状に形成されて先窄まり状の先端がタングステン電極棒3の先端よりも外方に位置する導電性を有する筒状のノズルチップ7Cとを備えている。
【0039】
具体的には、前記アース接続金具7Aは、
図2、
図3、
図5、
図6に示す如く、比較的安価な導電性を有する材料(例えば、黄銅)により筒状に形成されており、アース接続金具7Aの基端部(
図2及び
図3に示すアース接続金具7Aの上端部)内周面には、トーチ本体2Aの先端部外周面に形成した雄ネジ2aに着脱自在に螺着される雌ネジ7bが形成され、アース接続金具7Aの先端部(
図2及び
図3に示すアース接続金具7Aの下端部)内周面には、冷却ノズル体4Bが着脱自在に螺着される雌ネジ7cが形成されている。
【0040】
また、アース接続金具7Aの先端部には、円周方向へ所定の間隔を空けて形成され、電極用ノズル7内のシールドガスGを溶融プールより発生する金属蒸気と一緒に外部へ逃がす複数の穴状のガス抜き口7aが形成されている。この穴状のガス抜き口7aの数、形状及び大きさ数等は、電極用ノズル7内のシールドガスGを外部へ逃がして電極用ノズル7内のシールドガスGの乱流を防止でき、且つ電極用ノズル7内の溶融プールより発生する金属蒸気を外部へ良好且つ確実に排出できるように設定されている。本実施形態では、アース接続金具7Aには、穴状のガス抜き口7aが円周方向へ沿って90度毎に四つ形成されている。
【0041】
更に、アース接続金具7Aは、当該アース接続金具7Aにアースケーブル6の端子6aを接続するための端子用止め具14を備えている。この端子用止め具14は、アース接続金具7Aのワッシャ16を介して螺着されたボルトから成る。また、アースケーブル6は、電源制御部(図示省略)の陽極端子に接続されている。尚、この端子用止め具14は、図示していないが、アース接続金具7Aに螺着された小ネジとしても良く、或いは、アース接続金具7Aに螺着された頭なしネジ及び頭なしネジに螺合するナットから成る端子用止め具としても良い。
【0042】
前記冷却ノズル体4Bは、
図2、
図3、
図5~
図7に示す如く、基端部が筒状のアース接続金具7Aの先端部(
図2及び
図3に示すアース接続金具7Aの下端部)に着脱自在に螺着され、先端部に筒状のノズルチップ7Cの基端部(
図2及び
図3に示すノズルチップ7Cの上端部)が着脱自在に螺着される筒状の内筒7B′と、内筒7B′の周囲に配置され、内筒7B′との間に冷却水が流通する環状の冷却水流通路7dを形成する筒状の外筒7B″とを備えており、前記外筒7B″の周壁に、冷却水流通路7dに連通する冷却水供給口7e及び冷却水流通路7dに連通する冷却水排出口7fがそれぞれ形成されている。
【0043】
前記内筒7B′は、導電性を有する材料(例えば、無酸素銅)により形成されており、内筒7B′の先端部(
図2及び
図3に示す内筒7B′の下端部)外周面には、外筒7B″の先端面(下端面)が気密状に当接する下部フランジ7gが形成され、内筒7B′の基端部(
図2及び
図3に示す内筒7B′の上端部)外周面には、雄ネジ7hを形成した上部フランジ7iが形成されている。
【0044】
また、内筒7B′の先端部内周面には、ノズルチップ7Cが着脱自在に螺着される雌ネジ7jが形成され、内筒7B′の基端部外周面には、アース接続金具7Aの雌ネジ7cに着脱自在に螺着される雄ネジ7kが形成されている。
【0045】
前記外筒7B″は、比較的安価な導電性を有する材料(例えば、黄銅)により形成されており、外筒7B″の基端部(
図2及び
図3に示す外筒7B″の上端部)内周面には、内筒7B′の上部フランジ7iに形成した雄ネジ7hに気密状に螺着される雌ネジ7lが形成され、外筒7B″の上面には、アース接続金具7Aの下端部が嵌合される窪み部7mが形成されている。
【0046】
また、外筒7B″の周壁には、冷却水流通路7dに連通する冷却水供給口7e及び冷却水排出口7fがそれぞれ形成されている。冷却水供給口7eには、継手(図示省略)を介して冷却水を供給する冷却水供給用配管又は冷却水供給用ホース(何れも図示省略)が接続され、冷却水排出口7fには、継手(図示省略)を介して冷却水を排出する冷却水排出用配管又は冷却水排出用ホース(何れも図示省略)が接続されている。
【0047】
前記ノズルチップ7Cは、
図2、
図3、
図5、
図6に示す如く、導電性を有する材料(例えば、無酸素銅)により冷却ノズル体4Bよりも小径で且つ先端部が先窄まり状に形成されており、ノズルチップ7Cのノズル径(ノズルチップ7Cの先端開口の内径)は、溶接電流の大きさによって所定の内径に形成されている。ノズルチップ7Cのノズル径及び溶接電流を変えることによって、溶融プールの大きさ(外径)を調整できるようになっている。
【0048】
また、ノズルチップ7Cの基端部(
図2及び
図3に示すノズルチップ7Cの上端部)外周面には、冷却ノズル体4Bの先端部内周面に形成した雌ネジ7jに着脱自在に螺着される雄ネジ7nが形成されている。ノズルチップ7Cは、冷却ノズル体4Bに着脱自在となっているため、ノズルチップ7Cを別形状のノズルチップ7Cに交換できるようになっている。
【0049】
そして、電極用ノズル7は、トーチボディ2の先端部に取り付けたときに、狭窄ノズル5の先端部から突出するタングステン電極棒3の先端部と同心状に配置されると共に、電極用ノズル7の先端(ノズルチップ7Cの先端)がタングステン電極棒3の先端よりも外方に位置し、タングステン電極棒3の先端部を取り囲むようになっている。従って、狭窄ノズル5及びタングステン電極棒3の先端部は、タングステン電極棒3の先端部を取り囲むようになっている。
【0050】
尚、狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1のトーチボディ2の外周面には、
図2に示す如く、トーチスイッチ15が設けられており、このトーチスイッチ15はスイッチケーブル(図示省略)を介して電源制御部(図示省略)に接続されている。
【0051】
また、電源制御部(図示省略)は、トーチスイッチ15の操作に従って狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1にシールドガスGを供給すると共に、シールドガスGの流れが安定してから電圧を所定時間印加してアーク(アークプラズマ)を発生させるように制御されている。また、スポット溶接する際の電流値や時間は、母材Wの材質や板厚等によって決定されている。
【0052】
而して、上述した狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1を用いて突き合せた二枚の母材Wをスポット溶接する場合について説明する。
【0053】
先ず、溶接電流の大きさに応じてタングステン電極棒3の先端と電極用ノズル7の先端面との距離(アーク長)を設定する。
【0054】
アーク長を所定の値に設定したら、電極用ノズル7の先端面を二枚の突き合せた母材Wのスポット溶接する箇所に面接触状態で当接させる(
図3参照)。
【0055】
このとき、溶接電流、シールドガスGの流量、シールドガスGの種類、溶接時間等の溶接条件は、母材Wの材質や板厚等に応じて最適の条件下に設定されている。また、タングステン電極棒3を陰極とし、電極用ノズル7を陽極としている。そのため、母材Wの電極用ノズル7が接触する位置がアースとなる。更に、電極用ノズル7の冷却ノズル体4Bには、冷却水が常時流されている。
【0056】
電極用ノズル7を母材Wに当接させたら、トーチスイッチ15を押す。そうすると、狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1にシールドガスGが供給されると共に、シールドガスGの流れが安定してからタングステン電極棒3と母材Wとの間に電圧が印加される。そうすると、シールドガスGの雰囲気中でタングステン電極棒3の先端と母材Wとの間にアーク(アークプラズマ)が所定時間発生する。これにより、母材Wの一部が溶融し、母材Wにスポット溶接が行われる。
【0057】
尚、狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1に供給されたシールドガスGは、電極コレット4内を流下し、狭窄ノズル5のガス通路5e内に流入する。
【0058】
ガス通路5eに流入したシールドガスGは、その速度を増して高速ガスとなると共に、複数のガス整流溝5cを通過することにより整流され、高速整流ガスとなってノズル本体5aの先端開口からアークの周囲に直線状に噴出される。
【0059】
狭窄ノズル5から噴出されたシールドガスGは、タングステン電極棒3の先端部周囲に流れて電極用ノズル7内の空間に流入した後、電極用ノズル7のアース接続金具7Aに形成した穴状のガス抜き口7aから溶融プールより発生する金属蒸気と一緒に外部へ放出される。
【0060】
また、スポット溶接しているときには、電極用ノズル7の冷却ノズル体4Bに形成した冷却水流通路7dに冷却水が流通しており、電極用ノズル7を常時冷却するようになっている。
【0061】
上述した狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1は、電極用ノズル7に冷却水が流通する冷却水流通路7dを形成しているため、スポット溶接時に電極用ノズル7を確実且つ良好に冷却することができる。その結果、スポット溶接用の狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1は、サーマルピンチ効果が高められ、アークがエネルギー密度の高い安定したアークとなり、溶融プールの安定性及び深い溶け込みが得られる。また、電極用ノズル7の温度が一定に保たれ、スポット径の安定性を図ることできる。更に、電極用ノズル7が確実且つ良好に冷却されるため、作業者が電極用ノズル7に触れても火傷をすることがなく、作業者の安全性を確保することができる。
【0062】
また、狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1は、アース接続金具7Aと冷却ノズル体4Bの外筒7B″を比較的安価な黄銅製とし、冷却ノズル体4Bの内筒7B′とノズルチップ7Cを無酸素銅製としているため、電極用ノズル7全体を銅製としたものに比較してコスト低減を図れる。
【0063】
図8及び
図9は狭窄ノズル付きTI8およびずG溶接トーチ1に用いられる電極用ノズル7の他の例を示し、当該電極用ノズル7は、角継手のスポット溶接に用いられるものであり、トーチボディ2の先端部に設けられ、導電性を有する筒状のアース接続金具7Aと、アース接続金具7Aの先端部に着脱自在に設けられ、導電性を有する筒状の冷却ノズル体4Bと、冷却ノズル体4Bの先端部に着脱自在に設けられ、導電性を有する筒状のノズルチップ7Cとを備え、ノズルチップ7Cのみを別の形状のノズルチップ7Cに交換したものである。
【0064】
即ち、前記ノズルチップ7Cは、
図8及び
図9に示す如く、ノズルチップ7Cの先端面に角継手の角部に嵌合されるV字状の位置決め溝7oをノズルチップ7Cの直径方向に沿って形成したものであり、その他の部分の形状及び構造は、
図2、
図3及び
図5に示すノズルチップ7Cと同様の形状及び構造に形成されている。尚、
図8に示すアース接続金具7A及び冷却ノズル体4Bは、
図2、
図3及び
図5に示すアース接続金具7A及び冷却ノズル体4Bと全く同じものであり、同じ部位・部材には、同一の参照番号を付している。
【0065】
図10~
図12は狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1に用いられる電極用ノズル7の更に他の例を示し、当該電極用ノズル7は、角継手のスポット溶接に用いられるものであり、トーチボディ2の先端部に設けられ、導電性を有する筒状のアース接続金具7Aと、アース接続金具7Aの先端部に着脱自在に設けられ、導電性を有する筒状の冷却ノズル体4Bと、冷却ノズル体4Bの先端部に着脱自在に設けられ、導電性を有する筒状のノズルチップ7Cとを備え、ノズルチップ7Cのみを別の形状のノズルチップ7Cに交換したものである。
【0066】
即ち、前記ノズルチップ7Cは、
図10~
図12に示す如く、ノズルチップ7Cの先端部外周面に、T継手の隅部に面接触状態で接触する対向状の位置決め面7pを形成したものであり、その他の部分の形状及び構造は、
図2、
図3及び
図5に示すノズルチップ7Cと同様の形状及び構造に形成されている。尚、
図10に示すアース接続金具7A及び冷却ノズル体4Bは、
図2、
図3及び
図5に示すアース接続金具7A及び冷却ノズル体4Bと全く同じものであり、同じ部位・部材には、同一の参照番号を付している。
【0067】
図8及び
図10に示す電極用ノズル7を用いた狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1は、
図1及び
図2に示す狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ1と同様の作用効果を奏することができると共に、角継手やT継手のスポット溶接を確実且つ容易に行うことができる。
【0068】
尚、上記の各実施形態においては、電極用ノズル7のアース接続金具7Aと冷却ノズル体4Bとを別体としたが、他の実施形態においては、アース接続金具7Aと冷却ノズル体4Bの外筒7B″とを一体的に形成して良い。
【0069】
また、上記の各実施形態においては、電極用ノズル7の冷却ノズル体4Bとノズルチップ7Cとを別体としたが、他の実施形態においては、冷却ノズル体4Bの内筒7B′とノズルチップ7Cとを一体的に形成しても良い。
【0070】
更に、上記の各実施形態においては、電極用ノズル7のアース接続金具7Aと冷却ノズル体4Bの内筒7B′とを着脱自在に螺着するようにしたが、他の実施形態においては、アース接続金具7Aと冷却ノズル体4Bの外筒7B″とを着脱自在に螺着するようにしても良い。
【0071】
更に、上記の各実施形態においては、冷却ノズル体4Bの内筒7B′とノズルチップ7Cとを着脱自在に螺着するようにしたが、他の実施形態においては、冷却ノズル体4Bの外筒7B″とノズルチップ7Cとを着脱自在に螺着するようにしても良い。
【符号の説明】
【0072】
1は狭窄ノズル付きTIG溶接トーチ
2はトーチボディ
3はタンクズテン電極棒
4は電極コレット
5は狭窄ノズル
5eはガス通路
6はアースケーブル
7は電極用ノズル
7aはガス抜き口
7dは冷却水流通路
Gはシールドガス