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特許7176782カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法、カンキツ植物を製造する方法、及び判定キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法、カンキツ植物を製造する方法、及び判定キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20221115BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20221115BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20221115BHJP
   A01H 6/78 20180101ALI20221115BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6895 Z
A01H1/00 A
A01H1/00 Z
A01H6/78
C12N15/29 ZNA
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020219824
(22)【出願日】2020-12-29
(65)【公開番号】P2022104707
(43)【公開日】2022-07-11
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩
(72)【発明者】
【氏名】島田 武彦
(72)【発明者】
【氏名】野中 圭介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 朋子
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】アレル解析に基づく育種効果の遺伝統計学的検証基盤の開発,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2015年07月16日,課題番号:23580055
【文献】β-クリプトキサンチンの供給源となる国産カンキツ周年供給のための技術と実証事例,βクリプト周年供給コンソーシアム,2019年03月31日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/29
A01H 1/00
A01H 6/78
C12Q 1/6813
C12Q 1/6851
C12Q 1/686
C12Q 1/6895
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法であって、
カンキツ植物において、下記の(a)~(c)を満たすとき:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるCiclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)の翻訳開始点から2469位の塩基又はこれに相当する塩基がAであるアレルについてホモ接合性である
(b)配列番号3に示す塩基配列からなるCiclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から4436位の塩基又はこれに相当する塩基がTであるアレルについてホモ接合性である;かつ
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるCiclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から5019位の塩基又はこれに相当する塩基がCであるアレルについて、ホモ接合性である、
当該カンキツ植物は、上記(a)~(c)を満たさない他のカンキツ植物個体と比較して、果肉中のカロテノイド含有量が相対的に多いカロテノイド高含有であると判定する工程を含む、方法。
【請求項2】
上記カンキツ植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記判定する工程において、前記(a)~(c)に示された塩基又はこれに相当する塩基を含む領域を増幅するプライマーセットを用いて、前記カンキツ植物のDNAにおける前記領域を増幅する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
カンキツ植物同士を交雑した交雑植物又はその後代系統から、請求項1から3のいずれか1項に記載された方法によって、上記(a)~(c)を満たさない他のカンキツ植物個体と比較して、果肉中のカロテノイド含有量が相対的に多いカロテノイド高含有のカンキツ植物を判別する判別工程
を含む、果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を製造する製造方法。
【請求項5】
前記判別工程において判別したカンキツ植物又はその後代系統と、他のカンキツ植物とを交雑する交雑工程をさらに包含する、
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記交雑工程において交雑により得られたカンキツ植物又はその後代系統から、請求項1から3のいずれか1項に記載された方法によって、上記(a)~(c)を満たさない他のカンキツ植物個体と比較して、果肉中のカロテノイド含有量が相対的に多いカロテノイド高含有のカンキツ植物を判別する判別工程をさらに包含する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
カンキツ植物における、果肉中のカロテノイド含有量の調節に関する分子マーカーであって、
下記(a)~(c)の塩基に相当する塩基自体か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるCiclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)の翻訳開始点から2469位の塩基;
(b)配列番号3に示す塩基配列からなるCiclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から4436位の塩基;及び
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるCiclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から5019位の塩基である分子マーカーの、少なくとも1つを含む領域を増幅するプライマーセットを備えた、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する判定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法、カンキツ植物を製造する方法、分子マーカー、及びカンキツ植物に関する。
【背景技術】
【0002】
カンキツ植物は、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、ビオラキサンチンをはじめ多種類のカロテノイドを含んでいる。カロテノイドは、プロビタミンとしての作用のほか、抗酸化作用などの機能性を保持する。特にウンシュウミカンに豊富に含まれるβ-クリプトキサンチンは、骨粗鬆症や糖尿病などの生活習慣病の予防に役立つことが明らかになり、β-クリプトキサンチンの機能性を訴求した商品開発が国内外で進展しつつある。β-クリプトキサンチン含有素材を安定的に供給するための生産体制の確立や消費拡大に向けて、β-クリプトキサンチンを高含有化した商品性の高い新品種の育成が急務である。
【0003】
カロテノイドの含有量の多いカンキツ植物を育種する方法として、交雑の最適な親品種の組み合わせを推定する遺伝統計学的手法が挙げられる。この方法においては、様々な親品種を組み合わせて交雑することにより得られた実生個体を用いて、果肉中に含まれるカロテノイド含有量を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果に基づいて、目的の成分の遺伝率等を算出する。これにより、最適な親品種の組み合わせを推定して、カロテノイドの含有量の多い個体を育成する。
【0004】
また、DNAマーカーを用いて交雑により得られた個体を判別することで、カロテノイドの含有量の多いカンキツ植物を選抜する技術がある。非特許文献1には、カンキツ植物のカロテノイド代謝に関与する遺伝子の発現量に関与するQTLを分析したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sugiyama et al., 2013. Expression Quantitative Trait Loci Analysis of Carotenoid Metabolism-related Genes in Citrus. J. Japan. Soc. Hort. Sci. Preview. doi: 10.2503/jjshs1.CH-054
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、果肉中のカロテノイドの含有量は複数の遺伝子が関与する量的形質であり、上位性などカロテノイド代謝遺伝子間の相互反応により本来の遺伝効果が正しく評価できないなどの事例がみられる。このため、遺伝統計学的手法により表現型のみで評価した従来技術では、最適な親品種の組み合わせや遺伝率等の予測精度が質的形質と比較して低い。また、カンキツ植物は、一般に交配から結実までに5~7年程度の期間を要するため、遺伝統計モデルの算出に長い年限を要する。
【0007】
また、非特許文献1には、フィトエン合成酵素(PSY)及びゼアキサンチンエポキシダーゼ(ZEP)の発現量に作用するQTLが記載されているが、果肉中のカロテノイド含有量の多い個体を判別するためのアレルについては記載されていない。
【0008】
本発明の一態様は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、果肉中のカロテノイドの含有量の多いカンキツ植物を容易に判別することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法は、
カンキツ植物において、下記(a)~(c)の塩基に相当する塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)Ciclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)の翻訳開始点から2469位の塩基;
(b)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から4436位の塩基;及び
(c)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から5019位の塩基
を、カンキツ植物において果肉中のカロテノイド含有量に関する分子マーカーとして判定する工程を含む。
本発明の一態様に係る果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を製造する製造方法は、
果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物と、他のカンキツ植物とを交雑する交雑工程と、
前記交雑工程により得られたカンキツ植物又はその後代系統のカンキツ植物から、請求項1から5のいずれか1項に記載された方法によって、果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を判別する判別工程と
を含む。
本発明の一態様に係るカンキツ植物における、果肉中のカロテノイド含有量の調節に関する分子マーカーは、
下記(a)~(c)の塩基に相当する塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)Ciclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)の翻訳開始点から2469位の塩基;
(b)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から4436位の塩基;及び
(c)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から5019位の塩基
である。
本発明の一態様に係る果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物は、上述した本発明の一態様に係る製造方法によって得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、果肉中のカロテノイドの含有量の多いカンキツ植物を容易に判別することが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】5の標的遺伝子領域における各アレルの予想される総カロテノイドに対する効果を示す図である。
図2】5の標的遺伝子領域における各アレルの予想されるβ-クリプトキサンチンに対する効果を示す図である。
図3】5の標的遺伝子領域における各アレルの予想されるビオラキサンチンに対する効果を示す図である。
図4】正の効果を有するアレル及び負の効果を有するアレルによる総カロテノイド含有量の比較を示す図である。
図5図4中のPSYアレル型条件における、正の効果を有するZEPアレルによる総カロテノイド含有量の比較を示す図である。
図6】正の効果を有するアレル及び負の効果を有するアレルにおけるβ-クリプトキサンチン含有量の比較を示す図である。
図7図6中のPSYアレル型条件における、正の効果を有するZEPアレルにおけるβ-クリプトキサンチン含有量の比較を示す図である。
図8】正の効果を有するアレル及び負の効果を有するアレルにおけるビオラキサンチン含有量の比較を示す図である。
図9図8中のPSYアレル型条件における、正の効果を有するZEPアレルにおけるビオラキサンチン含有量の比較を示す図である。
図10】PSY-SNP06を用いたTaqMan-MGB SNP遺伝子型解析の結果を示す図である。
図11】ZEP-SNP17を用いたTaqMan-MGB SNP遺伝子型解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0013】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、核酸は、DNAの形態(例えば、cDNA若しくはゲノムDNA)、又は、RNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNA又はRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。本明細書において使用される場合、塩基の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記を使用する。
【0014】
本発明の一態様は、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する技術に関する。本発明の一態様は、カンキツ植物において、果肉中のカロテノイド含有量の多い個体を判別するために使用することができる。本発明の一態様は、カンキツ植物のゲノムに存在する、果肉中のカロテノイド含有量の決定に関与する遺伝子の遺伝子型を判定することで、果肉中のカロテノイド含有量に基づいてカンキツ植物個体を判別する。なお、本発明の一態様において、果肉中のカロテノイド含有量の概念には、あるカンキツ植物個体の果肉中に含まれるカロテノイドの量が、他のカンキツ植物個体と比較して相対的に多い又は少ないことを表す含有の程度が含まれる。
【0015】
カンキツ植物は、ミカン科ミカン亜科のミカン属(Citrus)、キンカン属(Fortunella)、およびカラタチ属(Poncirus)等に属する植物である。カンキツ植物は、例えば、「不知火」、「璃の香」、「みはや」、「あすみ」、「あすき」、「麗紅」、「津之輝」、「西南のひかり」、「津之望」、「はるひ」、「清見」、「せとか」、「はるみ」、「はれひめ」、「甘平」、「天草」、「スイートスプリング」、「たまみ」、「西之香」等の品種に属する植物であり得る。
また、カンキツ植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物であり得る。育種素材の候補植物としては、例えば、交配に用いる親植物、及び、遺伝子組換え技術を利用した分子育種に用いられる植物が含まれる。また、育種のプロセスで得られた植物としては、例えば、カンキツ植物を属内交雑した植物、カンキツ植物の上述したような品種に属する植物を種内交雑した植物、及びこれらの後代系統である。また、カンキツ植物は、ある品種に属するカンキツ植物と他の品種に属するカンキツ植物との交雑植物のように種間交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。さらに、カンキツ植物は、果肉中のカロテノイド高含有量であることが分かっている品種同士を種間交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。また、カンキツ植物は、果肉中のカロテノイド高含有であることが分かっている個体同士を種内交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。
【0016】
本明細書において、植物とは、植物体の一部又は全部であってもよい。植物体の一部としては、例えば、繁殖素材(例えば、葉、枝、種子等)等が挙げられる。
【0017】
カンキツ植物の果肉中に含まれるカロテノイドには、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、ビオラキサンチン等が含まれる。カロテノイドは、プロビタミンとしての作用のほか、抗酸化作用などの機能性を保持する。特にウンシュウミカンに豊富に含まれるβ-クリプトキサンチンは、骨粗鬆症や糖尿病などの生活習慣病の予防に役立つことが明らかとなっている。このように、β-クリプトキサンチンを含むカロテノイドを果肉中に多く含むカンキツ植物は商品価値が高い。したがって、果肉中のカロテノイド含有量の多いカンキツ植物を容易に育種できれば、非常に有益である。
【0018】
〔カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量の調節に関する分子マーカー〕
本発明の一態様に係る分子マーカーは、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量の調節に関する分子マーカーである。分子マーカーは、下記(a)~(c)の塩基に相当する塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドである:
(a)Ciclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)の翻訳開始点から2469位の塩基;
(b)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から4436位の塩基;及び
(c)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から5019位の塩基。
【0019】
Ciclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)はカロテノイド代謝遺伝子である。PSY遺伝子は、カンキツ植物におけるカロテノイドの合成に関わる酵素であるフィトエン合成酵素をコードする遺伝子である。PSY遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしているポリヌクレオチドからなる。なお、PSY遺伝子の翻訳開始点は、配列番号1に示す塩基配列の527位の塩基である。
【0020】
Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)は、カロテノイド代謝遺伝子である。ZEP遺伝子は、カンキツ植物におけるカロテノイドの合成に関わる酵素であるゼアキサンチンエポキシダーゼをコードする遺伝子である。ZEP遺伝子は、配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしているポリヌクレオチドからなる。なお、ZEP遺伝子の翻訳開始点は、配列番号3に示す塩基配列の268位の塩基である。
【0021】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、例として、SNPマーカー、AFLP(分子増幅断片長多型)マーカー、RFLPマーカー、マイクロサテライトマーカー、SCARマーカー、CAPSマーカーである。
【0022】
上記(a)~(c)の塩基に相当する塩基自体、又は当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドの組み合わせは、本実施例に記載されたSNPマーカー又はこれと同一視できるSNPマーカーである。SNPマーカーは、(i)SNPに相当する塩基自体の組み合わせ、(ii)SNPを含む連続したポリヌクレオチドの組み合わせ、又は、(iii)3つのSNPを含む連続したポリヌクレオチドであり得る。
【0023】
(i:SNPマーカー)
本発明の一態様に係る分子マーカーを用いれば、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定することができる。
【0024】
ここで、SNPは、DNAの塩基配列中のある特定の領域内に一塩基の変異が見られるDNA多型を意味している。SNPマーカーにおいて、SNPは、クレメンティンのゲノム配列(Clementine genome sequence v1.0)を基準とした一塩基多型である。基準植物であるクレメンティンのゲノム配列は、Phytozomeのゲノムデータベース(https://phytozome.jgi.doe.gov/pz/portal.html)に公表されている。
【0025】
「(a)~(c)の塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーである。「(a)~(c)の塩基に相当する塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーと同一視できるSNPマーカーである。「(a)~(c)の塩基」は、PSY遺伝子又はZEP遺伝子上の変異である。PSY遺伝子及びZEP遺伝子は、基準となるカンキツ植物(クレメンティン(Clementine genome sequence v1.0)由来の塩基配列からなる。他のカンキツ植物においては、基準となる塩基配列に対してSNP以外の部分でも塩基配列が異なる部分が含まれ得る。このSNPマーカーが位置するゲノム上の領域は、多数のカンキツ植物間で保存されているため、ホモロジー検索等の手法によって、このSNPマーカーを特定することができる。
【0026】
すなわち、他のカンキツ植物において、PSY遺伝子又はZEP遺伝子に対応する遺伝子(すなわち植物間で高度に保存されている遺伝子)が存在する場合、「(a)~(c)の塩基に相当する塩基」とは、ホモロジー検索等の手法によって、(a)~(c)の塩基に相当するとされたPSY遺伝子又はZEP遺伝子に対応する遺伝子上の塩基を指す。例えば、後述する(a2)~(c2)に記載のポリヌクレオチドや、(a3)~(c3)に記載のポリヌクレオチドが、PSY遺伝子又はZEP遺伝子に対応する遺伝子の一例である。
【0027】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、上記の(a)~(c)SNPを組み合わせたSNPマーカーである。このSNPマーカーは、本発明者らが新たに同定したSNPマーカーであり、当業者は、このSNPマーカーのそれぞれのSNPを表す塩基配列に基づき、当該SNPマーカーのゲノム上の位置を特定することができる。後述する実施例に示すように、PSY遺伝子のアレルであるPSY-a、及び、ZEP遺伝子のアレルであるZEP-eが、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド高含有に強い効果を示す。SNP(a)~(c)の一形態は、実施例に示すPSY-SNP6、ZEP-SNP17、及びZEP-SNP21であり、上記2つのアレルを同定するためのSNPの最小セットである。
【0028】
(a)のSNP(以下、SNP(a)ともいう)は、PSY遺伝子の翻訳開始点から2469位の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。また、(b)のSNP(以下、SNP(b)ともいう)は、ZEP遺伝子の翻訳開始点から4436位の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。さらに、(c)のSNP(以下、SNP(c)ともいう)は、ZEP遺伝子の翻訳開始点から5019位の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。
【0029】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)がAであり、SNP(b)がTであり、かつ、SNP(c)がCであるアレルについてホモ接合性であるとき、当該カンキツ植物はカロテノイド高含有であると判定することができる。すなわち、分子マーカーは、SNP(a)~(c)をハプロタイプブロックとして解析することにより、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定することができる。
【0030】
ここで、カンキツ植物がカロテノイド高含有であるとは、カンキツ植物の果肉に含まれるカロテノイドの量が、他のカンキツ植物個体と比較して相対的に多いことが意図される。
【0031】
(ii:SNPを含むポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(a)ともいう)、SNP(b)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(b)ともいう)、及び、SNP(c)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(c)ともいう)の組み合わせであってもよい。
【0032】
ポリヌクレオチド(a)は、(a1)PSY遺伝子の塩基配列において、SNP(a)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(a2)(a1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(a3)(a1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0033】
ポリヌクレオチド(b)は、(b1)ZEP遺伝子の塩基配列において、SNP(b)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(b2)(b1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(b)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(b3)(b1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(b)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0034】
ポリヌクレオチド(c)は、(c1)ZEP遺伝子の塩基配列において、SNP(c)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(c2)(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(c)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(c3)(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(c)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0035】
(a1)~(c1)のポリヌクレオチドは、例えば、PSY遺伝子の塩基配列に基づき、カロテノイド高含有のカンキツ植物(例えば、カロテノイド高含有の津之輝)から得ることができる。
【0036】
(a2)~(c2)のポリヌクレオチドは、(a1)~(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)~(c)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に、数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1、2または3個)の塩基の修飾(置換、欠失、挿入または付加)を含むものであり得る。このようなポリヌクレオチドの塩基配列は、当該技術分野における当業者にとって明らかであり、上述したデータベースに登録されているクレメンティンのゲノム配列を参照することにより、又は、カロテノイド高含有のカンキツ植物のゲノム上におけるSNPの近傍領域の塩基配列を解読することにより、決定することができる。
【0037】
(a3)~(c3)のポリヌクレオチドは、(a1)~(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)~(c)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に対して、例えば、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するものであり得る。このような塩基配列の同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、2つの塩基配列をアライメントとすることによって決定することができる。
【0038】
ポリヌクレオチド(a)におけるSNP(a)に相当する塩基がAであるアレルについてホモ接合性であり、ポリヌクレオチド(b)におけるSNP(b)に相当する塩基がTであるアレルについてホモ接合性であり、かつ、ポリヌクレオチド(c)におけるSNP(c)に相当する塩基がCであるアレルについてホモ接合性であるときに、当該カンキツ植物はカロテノイド高含有であると判定することができる。すなわち、分子マーカーは、ポリヌクレオチド(a)~(c)をハプロタイプブロックとして解析することにより、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定することができる。
【0039】
(iii:3つのSNPを含むポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)~SNP(c)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(d)ともいう)であってもよい。ポリヌクレオチド(d)は、SNP(a)~SNP(c)の部位間の領域を、SNP(a)~SNP(c)の部位と共に含んでいる。ポリヌクレオチド(d)は、例えば、カロテノイド高含有カンキツ植物における対応するSNP(a)~SNP(c)の部位間の領域を参照することで得られる。ポリヌクレオチド(d)の塩基配列は、カロテノイド高含有カンキツ植物の塩基配列と少なくとも部分的に一致する。
【0040】
また、本発明の一態様に係る分子マーカーは、ポリヌクレオチド(a)と、SNP(b)とSNP(c)との間の領域の連続したポリヌクレオチドとの組み合わせであってもよい。
【0041】
本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、カンキツ植物において果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法としては特に限定されず、例えば、SNPを検出する公知のSNP分析方法を用いることができる。このような公知のSNP分析方法には、カンキツ植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が含まれる。また、本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、カンキツ植物において果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法の一態様は、後述する本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法である。
【0042】
〔カロテノイド高含有カンキツ植物〕
本発明の一態様に係るカロテノイド高含有カンキツ植物は、後述する製造方法によって得られる植物である。カロテノイド高含有カンキツ植物は、上述した分子マーカーで特定される上述したSNPを有し、果肉中のカロテノイドの含有量の多い植物である。
【0043】
本発明の一態様に係るカロテノイド高含有カンキツ植物は、後述する製造方法に示すように、カロテノイド高含有カンキツ植物と、他のカンキツ植物とを交雑して得られた植物及びその後代系統から、上述した分子マーカーを用いてカロテノイド高含有カンキツ植物を判別することで得られる。なお、上述したSNPを有するように遺伝子工学的に改変したカロテノイド高含有カンキツ植物についても、本発明の範疇に含まれる。
【0044】
〔カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法〕
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法は、カンキツ植物において、下記(a)~(c)の塩基に相当する塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)Ciclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)の翻訳開始点から2469位の塩基;
(b)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から4436位の塩基;及び
(c)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から5019位の塩基
を、カンキツ植物において果肉中のカロテノイド含有量に関する分子マーカーとして判定する工程を含む。
【0045】
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法は、上述した本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、カンキツ植物の被検体において、果肉中のカロテノイド含有量を判定する。本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法は、カンキツ植物の被検体のゲノム上において、SNP(a)~SNP(c)を上述した分子マーカーにより特定することで、被験カンキツ植物が、カロテノイド高含有であるか否かを判定する。
【0046】
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法において、被検体であるカンキツ植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物である。被検体であるカンキツ植物は、例えば、カロテノイド高含有カンキツ植物とカロテノイド高含有植物との交雑植物、カロテノイド高含有カンキツ植物とカロテノイド低含有植物との交雑植物、及び、カロテノイド低含有カンキツ植物とカロテノイド低含有植物との交雑植物、並びにこれらの後代系統であり得る。また、被検体であるカンキツ植物は、果肉中のカロテノイド含有量が不明なカンキツ植物同士を交雑した交雑植物及びその後代系統であり得る。
【0047】
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法は、(a’)Ciclev10011841m.g遺伝子(PSY遺伝子)の翻訳開始点から2469位の塩基がAであるアレルについてホモ接合性であり、(b’)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から4436位の塩基がTであるアレルについてホモ接合性であり、かつ、(c’)Ciclev10025089m.g遺伝子(ZEP遺伝子)の翻訳開始点から5019位の塩基がCであるアレルについて、ホモ接合性であるときに、当該カンキツ植物はカロテノイド高含有であると判定する。
【0048】
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法において用いる分子マーカーの詳細については、上述した本発明の一態様に係る分子マーカーの説明を援用する。
【0049】
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法において、分子マーカーを用いてカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を検査する方法としては特に限定されず、公知のSNP分析方法を用いることができ、例えば、カンキツ植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が挙げられる。本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法は、前記分子マーカーを含む領域を増幅するプライマーセットを用いて、前記カンキツ植物のDNAにおける前記領域を増幅してもよい。このようなプライマーセットは、一例として、SNP(a)~SNP(c)を含む領域を増幅するプライマーセットである。
【0050】
カンキツ植物の被検体のDNAにおける前記領域の増幅は、カンキツ植物の被検体から抽出したDNAを鋳型にして、SNPを含む領域を増幅するプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行うことができる。そして、得られた増幅断片におけるSNPの塩基(遺伝子型)を決定し、決定された塩基(遺伝子型)とカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量との関係を示すデータに基づいて、カンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する。
【0051】
PCRにおいて用いるプライマーセットは、標的のSNPを含む領域のDNA断片を増幅することができるものである限り、特に限定されず、増幅断片の長さが短くなるようにプライマーセットを設計してもよい。例えば、プライマー増幅断片の長さが、好ましくは、200塩基対(bp)以下、150bp以下、120bp以下、又は100bp以下となるようにプライマーセットを設計する。プライマーセットは、フォワードプライマーである第1のプライマーと、リバースプライマーである第2のプライマーとが含まれる。これらのプライマーの長さは、例えば、15bp以上、16bp以上、17bp以上、18bp以上、または19bp以上であってもよく、50塩基bp以下、40bp以下、または30bp以下であってもよい。
【0052】
SNP(a)を含む領域を増幅するプライマーセットは、例えば、配列番号5に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第1のプライマーと、配列番号6に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第2のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、カロテノイド高含有カンキツ植物においては配列番号7に示す塩基配列からなるPCR増幅産物が得られ、SNP(a)に相当する塩基を検出することができる。なお、配列番号7に示す塩基配列において、SNP(a)に相当する塩基をRで表している。
【0053】
SNP(b)を含む領域を増幅するプライマーセットは、例えば、配列番号8に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第3のプライマーと、配列番号9に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第4のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、カロテノイド高含有カンキツ植物においては配列番号10に示す塩基配列からなるPCR増幅産物が得られ、SNP(b)に相当する塩基を検出することができる。なお、配列番号10に示す塩基配列において、SNP(b)に相当する塩基をYで表している。
【0054】
SNP(c)を含む領域を増幅するプライマーセットは、例えば、配列番号11に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第5のプライマーと、配列番号12に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第6のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、カロテノイド高含有カンキツ植物においては配列番号13に示す塩基配列からなるPCR増幅産物が得られ、SNP(c)に相当する塩基を検出することができる。なお、配列番号13に示す塩基配列において、SNP(c)に相当する塩基をYで表している。
【0055】
SNP分析におけるPCRは、単独のプライマーセットを含む反応系でDNA断片を増幅するシングルプレックスPCR、または、複数のプライマーセットを含む反応系で遺伝子増幅するマルチプレックスPCR、のいずれであってもよい。マルチプレックスPCRの場合は、異なる波長を有する蛍光物質(例えば、NED、6-FAM、VIC、PET)により標識したプライマーセットを混合してもよい。
【0056】
PCRの反応条件は、用いるDNAポリメラーゼおよびPCR装置の種類、増幅断片の長さ等に応じて適宜に設定され得る。サイクル条件としては、変性工程、アニーリング工程および伸長工程の3工程を1サイクルとする3ステップPCR法、および、変性工程とアニーリングおよび伸長工程との2工程を1サイクルとする2ステップPCR法を適用することができる。PCR反応条件の一例としては、90~100℃で40~60秒(例えば、95℃で50秒)、90~100℃(例えば、95℃)で5秒の30~60サイクル(例えば、40サイクル)、アニーリング10~20秒(例えば、15秒)、及び65~80℃で10~30秒(例えば、72℃で20秒)。アニーリング温度は、60~70℃(例えば、66℃)の初期アニーリング温度から50~60℃(例えば、56℃)の最終アニーリング温度まで、所定サイクル毎に段階的に低下させる条件が挙げられる。鋳型となるDNAの状態に応じて、SNPを安定的に検出するために、PCR反応条件を調整してもよい。
【0057】
SNP分析におけるPCRとして、PCRによる増幅およびSNPマーカーの特定を行うTaqMan(登録商標)-PCR法のようなリアルタイムPCRを用いてもよい。すなわち、プライマーセットを用いて増幅した増幅断片に含まれるSNPを検出するTaqMan(登録商標)プローブをさらに用いてもよい。リアルタイムPCR法を用いることにより、高処理能力の判別方法を提供することができる。なお、PCRにより増幅した増幅断片においてSNPを特定する方法としては、自動DNAシークエンサー等を用いて増幅断片の塩基配列を決定することにより、解析してもよい。
【0058】
カンキツ植物の被検体から、PCRにより増幅するDNAを抽出する方法としては、特に限定されず、公知のDNA抽出方法を用いることができる。また、市販のDNA抽出キットを用いて、DNAを抽出してもよい。被検体の種類および夾雑物の量等に応じて、DNA抽出工程の前に、適宜に前処理を行ってもよい。また、被検体から抽出されたDNAは、PCR反応において鋳型として用いるために、必要に応じて洗浄または精製してもよい。さらに、被検体から抽出されたDNAを2種類の制限酵素で消化した制限酵素切断断片をPCRにより増幅してもよい。
【0059】
また、本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法においては、SNP(a)~SNP(c)と連鎖不平衡状態にある遺伝子多型を分析し、SNP(a)~SNP(c)を同定してもよい。上記連鎖不平衡状態は、一例として、連鎖不平衡係数が0.9以上の連鎖不平衡状態である。
【0060】
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法によれば、分子マーカーにより、被験カンキツ植物が、カロテノイド高含有であるか否かを判定することができる。したがって、判定結果に基づきカロテノイド高含有カンキツ植物及びその後代系統を選抜することができる。
【0061】
本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法によれば、幼苗の段階でカロテノイド高含有のカンキツ植物を選抜することが可能であり、育種選抜のための期間を大幅に短縮することができる。また、幼苗の段階で選抜されたカロテノイド高含有の実生のみを栽植して生育することで、圃場の利用効率を向上させることができる。
【0062】
〔果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を製造する製造方法〕
本発明の一態様に係る製造方法は、果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を製造する方法であって、果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物と、他のカンキツ植物とを交雑する交雑工程と、前記交雑工程により得られたカンキツ植物又はその後代系統のカンキツ植物から、本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法によって、果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を判別する判別工程とを含む。
【0063】
したがって、本発明の一態様に係る分子マーカー、カロテノイド高含有カンキツ植物、及びカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法に関する説明を、果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を製造する方法の説明に援用する。
【0064】
交雑工程において、親植物として使用する果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物は、本発明の一態様に係るカロテノイド高含有カンキツ植物であり得る。また、交雑工程において用いる果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物は、本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法により選抜された果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物であってもよい。すなわち、本発明の一態様に係る製造方法は、前記交雑工程の前に、本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法により、被験カンキツ植物から果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を判別する判別工程をさらに含み得る。
【0065】
判別工程は、本発明の一態様に係るカンキツ植物における果肉中のカロテノイド含有量を判定する方法により、交雑工程により得られたカンキツ植物又はその後代系統のカンキツ植物から、果肉中のカロテノイド高含有のカンキツ植物を判別する。
【0066】
本発明の一態様に係る製造方法によれば、分子マーカーによりカンキツ植物において果肉中のカロテノイド高含有であるか否かを判定し、判定結果に基づき選抜したカロテノイド高含有のカンキツ植物を製造することができる。
【0067】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0068】
(植物材料)
実験に使用した全ての植物は、農研機構の果樹茶業研究部門の研究場において栽培した。ゲノムDNAは、これらの植物の完全に開いた青葉から抽出した。砂じょう組織を収穫期の完熟した果肉から回収し、液体窒素で即座に冷凍し、カロテノイド含有量の液体クロマトグラフィー(LC)に用いた。表1は、本実施例で使用した植物材料を示している。
【0069】
【表1】
【0070】
(祖先13品種におけるカロテノイド代謝遺伝子のSureSelect target enrichment)
表1の祖先13品種(founder)のゲノムDNAをSureSelect target enrichmentに用いた。SureSelect試薬キット(Agilent Technologies, Santa Clara, CA, USA)を用いて、ゲノムDNAサンプルをランダムに断片化し、SureSelectプライマーミックス(Agilent Technologies)を用いて増幅した。アダプターを添加したDNAライブラリーをSureSelectカスタムライブラリーにハイブリダイズし、捕捉したDNAをDynabeads MyOne Streptavidin T1 beads(Thermo Fisher, Waltham, MA, USA)を用いて精製した。
【0071】
標的カロテノイド代謝遺伝子(PSY、HYb、ZEP、NCED)をインデックスプライマーで濃縮した。各標的遺伝子のインデックスプライマーを、クレメンティンのゲノム配列(Clementine genome sequence v1.0)を参照して設計した。濃縮した断片をAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter, Brea, CA, USA)を用いて精製した。精製物を、HiSeq2500システム(Illumina, San Diego, CA, USA)における次世代シーケンシング分析の対象とした。前処理したリードをクレメンティンのゲノム配列上にマッピングした。
【0072】
(GoldenGateアッセイ及びFluidigmアッセイによるSNP遺伝子型解析)
GoldenGate分析(Illumina)及びFluidigmアッセイ(Fluidigm, South San Francisco, CA, USA)を用いて、SNP遺伝子型解析を行った。GoldenGateアッセイのために、Illumina Assay Design Tool(ADT)を用いて、取り扱い説明書にしたがってビーズアレイを設計した。iScanシステム(Illumina)におけるGoldenGateアッセイシステムを用いて、SNP遺伝子型解析を行った。Genome Studioソフトウェアを用いてGenotyping module(Illumina)の機能により、スキャンイメージデータを遺伝子型スコアに変換した。
【0073】
Fluidigmアッセイのために、TaqMan minor groove binder(TaqMan-MGB)プローブ及びプライマーセットを、Primer Express ver. 3.0 (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて設計した。FAM(5-carboxyl-fluorescein)及びHEX(hexachloro-fluorescein)をオリゴヌクレオチドの5’末端の標識に用いた。Fluidigm Nanofluidic 96.96 Dynamic Arrayにおいて、NPType chemistry(Fluidigm Corp., South San Francisco, CA, USA)を用いて、遺伝子型解析を行った。熱サイクルは、初期の混合サイクル(70℃で30分;25℃で10分)の後、ホットスタートTaqポリメラーゼ活性化ステップ(94℃で15分)及びタッチダウン増幅プロトコルを実行し、さらに、94℃で20秒及び65℃で1分を10サイクル(1サイクル毎に0.8℃減少)行った後、94℃で20秒及び57℃で1分を26~46サイクル行った。26~46サイクルの間に、4サイクル毎に20℃で30秒保持し、Biomark imager (Fluidigm Corp)を用いて、チップの終点蛍光イメージを収集した。Fluidigm SNP Genotyping Analysis Softwareを用いて、データを分析した。
【0074】
(親から子に遺伝するSNPのフィルタリング)
コンピュータソフトウェア“MARCO”を用いたSNP遺伝子型の両親から後代への遺伝を評価するために、GoldenGateアッセイ及びFluidigmアッセイにより検出したSNPの、親子関係を持つ78組の組み合わせを用いた。親と子の間の遺伝が確認された信頼性の高いSNPを、トリオSNPと称した。
【0075】
(育種材料におけるカロテノイド含有量の定量)
8つの代表的なカロテノイド(フィトエン、α-カロテン、ζ-カロテン、ルテイン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン及びビオラキサンチンを定量した。サンプルをホモジナイズし、ヘキサン:アセトン:エタノール=50:25:25(v/v)の溶液中で抽出した。ヘキサン相に区分された色素が乾燥するまで蒸発させた。これを、0.1%(v/v) 2,6-ジ-tertブチル-4-メチルフェノールを含むメチルtertブチルエーテル(MTBE)中に溶解した。脂肪酸がエステル化したカロテノイドを含む抽出物を、10%(w/v) methanolic KOHで鹸化した。
【0076】
鹸化後、NaCl飽和水を加えて水溶性の抽出物を取り除いた。色素を、2mLのMTBE相中に再区分した。逆相HPLCシステム(Jasco, Tokyo, Japan)を用いて20μl等分を得た。逆相HPLCは、1mL/minのフローレートにおいて、YMCカロテノイドに合わせて250mm×4.6mmi.d.のS-5カラム(Waters, Milford, MA)を用いて行った。溶出液を、フォトダイオードアレイディテクター(MD-910, Jasco, Tochigi, Japan)を用いて監視した。各サンプルを所定の勾配溶離スケジュールにより分析した。90% メタノール、5% MTBE、及び5% 水の組成を、線形勾配で、95% メタノール及び5% MTBEに12分かけて変更し、86% メタノール及び14%MTBEに8分かけて変更し、75% メタノール及び25% MTBEに10分かけて変更し、50% メタノール及び50% MTBEに20分かけて変更した。それらの特異的な保持時間と基準試料の吸光スペクトルとを比較して、ピークを同定した。フィトエンは286nm、ζ-カロテンは400nm、t-ビオラキサンチン、c-ビオラキサンチン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、α-カロテン,及びゼアキサンチンは452nm、β-カロテンは453nmにおける吸収係数に基づいて、標準溶液の濃度を推定した。サンプル濃度を標準曲線から推定した。ビオラキサンチン及びカロテンを、異性体の和の濃度とした。各カロテノイド濃度を標準曲線から推定し、100生重量グラム当たりのミリグラム(mg/100FWG)として表した。
【0077】
(13品種におけるカロテノイド代謝遺伝子のSureSelect target enrichment解析)
本発明者らの以前の研究において、PSY、HYb、ZEP、及びNCEDの各遺伝子座、並びに、第8連鎖群におけるPDS及びZDSの転写レベルを制御するQTL(TCL)が、カロテノイドの含有量及びカロテノイド代謝遺伝子の転写レベルに静的に影響することが示された。この研究において、本発明者らは、果肉中のカロテノイド高含有に関連する最適なアレルを探索した。日本の品種育成素材の13種の祖先種において、理論上最大で26種のアレルが存在する。カンキツ品種は、自然交配を繰り返した結果、限られた数の祖先種の複雑なモザイクゲノム構造を有している。それゆえに、SNPに基づいて、5種の標的遺伝子から、祖先13品種のいくつかに共通する独立したアレルの数が推定される。
【0078】
多くの祖先品種のゲノム配列は公開されたデータベースからは得られないので、TCLを除く標的遺伝子の遺伝子領域におけるSNP情報を得るために、SureSelect target enrichmentシステムを用いた。カロテノイド代謝遺伝子はゲノム中にいくつかの異性体を有するので、クレメンティンのゲノム配列中の、PSYのCiclev10011841m.g、HYbのCiclev10005481m.g、ZEPのCiclev10025089m.g、及びNCEDのCiclev10014639m.gの遺伝子領域のゲノム配列を、標的遺伝子の遺伝子領域をカバーするライブラリーを生成するために用いた。
【0079】
本発明者らの以前の研究において、これらの遺伝子座は、カロテノイド含有量及びカロテノイド代謝遺伝子の転写レベルに影響することが示されている。HiSeq2500 system(Illumina)を用いて, 4つの代謝遺伝子を濃縮したライブラリーを作成し、CLC Genomic Workbench 6.5.1(CLC bio, Aarhus, Denmark)を用いて、NGSデータをクレメンディンゲノム配列の参照配列に揃えて配列化して比較した。
【0080】
祖先13品種の4つの標的遺伝子において、多くのSNP及び塩基の挿入又は欠失が見られた。祖先13品種のNGSデータをクレメンティンの対応する参照遺伝子と比較したとき、PSY、HYb、ZEP及びNCEDにおける信頼性の高いSNPの数は、それぞれ、107、31、54及び19であった。PDS及びZDSの転写レベルを制御する原因遺伝子は特定されていない。同じ祖先品種由来の共通のハプロタイプ内にある原因遺伝子は、同じSNP遺伝子型を表すことから、原因遺伝子の独立したアレルの数を推定するために必要なTCLの候補SNPを、ミカンゲノムデータベース(https://mikan.dna.affrc.go.jp/)におけるTASUKEプログラムにより探索した。SNP情報に基づいて、GoldenGateアッセイシステム(Illumina)及びFluidigm BioMar HDアッセイシステム(Fluidigm)を用いて、PSYの17個のSNPマーカー、HYbの15個のSNPマーカー、ZEPの31個のSNPマーカー、NCEDの8個のSNPマーカー、及びTCLの5個のSNPマーカーを、SNP遺伝子型解析のために開発した。
【0081】
(SNPマーカーのSNP遺伝子型情報に基づく祖先13品種の独立したアレル)
76個のSNPマーカーの全てを、祖先13品種及びこれに親子相関のある78組の子の遺伝子型解析に用いた。祖先13品種のゲノムの混合及び長い栽培の歴史を考慮すると、共通のハプロタイプに親から子に受け継がれたSNP以外に新規な変位が頻繁に起こっている。これらの変異により共通の祖先種由来の同一のアレルの同定が阻害される。新規の変異のSNPを除くためにトリオ解析を行い、SNP遺伝子型が両親から後代に遺伝しているかの判定に基づいて信頼性の高いSNPを得た。親子関係にある78組み合わせをコンピュータソフトウェア“MARCO”で評価し、トリオ解析のフィルタリングを通過した57個のSNPがトリオSNPとして有効であった。
【0082】
同一のトリオSNP遺伝子型を有するアレルを、独立したアレルとして割り当て、12、10、24及び6個のトリオSNPを、それぞれ、PSY、HYb、ZEP及びNCESの独立したアレルを見つけるために用いた。祖先13品種における独立したアレルの数は、PSYは7、HYbは7、ZEPは11、NCEDは5、TCLは4であった。
【0083】
(ベイズ統計分析による5種の標的遺伝子のアレル組成と果肉中のカロテノイド組成との相関)
5種の標的遺伝子のアレル組成とカロテノイド組成との関連を、263系統から得たデータを用いて、ベイズ統計分析により評価した。結果を図1~3に示す。図1は、5種の標的遺伝子領域における各アレルの予想される総カロテノイドに対する効果、図2は、β-クリプトキサンチンに対する効果、図3は、ビオラキサンチンに対する効果を示す。5種の標的遺伝子において、測定された8種のカロテノイド含有量及び総カロテノイド含有量とのいくつかの顕著な相関が検出された。PSY、ZEP及びNCEDは総カロテノイド含有量に顕著に相関し、PSY及びZEPはβ-クリプトキサンチン含有量に顕著に相関し、PSY、HYb、ZEP、NCED、及びTCLはビオラキサンチン含有量に顕著に相関した。5種の標的遺伝子の独立したアレルに関して、PSY-aは、果肉中の総カロテノイド含有量の増加に強い正の効果を有していた。一方、PSY-c及びPSY-gは、総カロテノイド含有量の減少に中程度の負の効果を有していた。ZEPアレル間で、果肉中の総カロテノイド含有量の増加に強い正の効果を有していた。一方、ZEP-a、ZEP-b、及びZEP-cは総カロテノイド含有量の増加に中程度又は弱い正の効果を有していた。ZEP-f、ZEP-g、ZEP-h、及びZEP-kの4つのアレルは、果肉中の総カロテノイド含有量の減少に中程度又は弱い負の効果を有していた。さらに、NCEDアレル間で、NCED-aは果肉中の総カロテノイド含有量の増加に弱い正の効果を有していた。これらの遺伝子とは異なり、HYb及びTCLは、果肉中の総カロテノイド含有量における効果は不明確であった。β-クリプトキサンチン含有量に関して、PSY-aは中低の正の効果を有している一方で、PSY-c及びPSY-gは弱い負の効果を有していた。一方、ZEP-aは弱い正の効果を有していた。他のアレルは、β-クリプトキサンチン含有量における効果は不明確であった。ビオラキサンチン含有量に関して、PSY-aは弱い正の効果を有していた一方で、ZEP-c及びZEP-eもまた、弱い正の効果を有していた。他のアレルは、果肉中のビオラキサンチン含有量に対する効果は不明確であった。
【0084】
他のカロテノイドに関して、PSY、HYb及びZEPにおけるいくつかのアレルがこれらの含有量の増加に弱い効果を有していた。とりわけ、PSY-aは、ルテインを除く複数のカロテノイドにおいて、広範な効果を有していた。
【0085】
PSY-aは、グレープフルーツ、キシュウミカン、ハッサク、スイートオレンジ、クネンボ、地中海マンダリン、キングマンダリン、及びマーコットのいずれかのアレル由来である。ZEP-eは、キングマンダリン及びマーコットのいずれかのアレル由来である。
【0086】
従来の交雑育種法によるBCR高含有品種の育成の過程において育種選抜した品種及び育種系統において、PSY-a及びZEP-e(又はZEP-a)のアレルが集積していた。PSY-a及びZEP-eは、果肉中の総カロテノイド含有量の増加において、統計的に強い正の効果を有することが示された。これらのアレルは、β-クリプトキサンチン及びビオラキサンチン含有量の増加を調節し得るが、総カロテノイド含有量に対する効果と比較するとその効果は小さい。カロテノイド含有量に負の効果を有する多くのアレルは、育種世代の進行中に失われた。
【0087】
(果肉における増加したカロテノイド含有量に対するPSY及びZEPの最適なアレルの効果の検証)
果肉中の総カロテノイド含有量に対するPSY及びZEPの最適なアレルの効果を検証するために、Box plot解析を行った。図4及び5は、果肉中の総カロテノイドの増加に関して、最適なPSY及びZEPアレルの効果を検証するためのBox plot解析の結果を示す。図4は、正の効果を有するアレル(PSY-a)及び負の効果を有するアレル(PSY-c又はPSY-g)による総カロテノイド含有量の比較を示す。Cond.1(条件1)は、PSY-a=0、(PSY-c又はPSY-g)=2である。Cond.2(条件2)は、PSY-a=0、(PSY-c又はPSY-g)=1である。Cond.3(条件3)は、PSY-a=0、(PSY-c又はPSY-g)=0である。Cond.4(条件4)は、PSY-a=1、(PSY-c又はPSY-g)=1である。Cond.5(条件5)は、PSY-a=1、(PSY-c又はPSY-g)=0である。Cond.6(条件6)は、PSY-a=2、(PSY-c又はPSY-g)=0である。図5は、図4中のPSYアレル型条件における、正の効果を有するZEPアレル(ZEP-a、ZEP-b、ZEP-c、又はZEP-e)による総カロテノイド含有量の比較を示す。
【0088】
図4は、PSYアレルの6つの組み合わせにおける総カロテノイド含有量の分布を明らかにした。6つの組み合わせは以下の通りである。条件1:負のアレル(PSY-c又はPSY-g)のペア、条件2:最適アレル(PSY-a)を除く負のアレル単独、条件3:最適アレル(PSY-a)及び負のアレル(PSY-c又はPSY-g)の両方を含まない、条件4:最適アレル(PSY-a)単独及び負のアレル(PSY-c又はPSY-g)単独、条件5:いずれの負のアレル(PSY-c又はPSY-g)も含まない最適アレル(PSY-a)単独、及び条件6:2つの最適アレル(PSY-a)。条件1及び2の平均値と条件3の値を比較したとき、PSY-c及びPSY-gがカロテノイド含有量の減少に負の効果を有することが明らかになった。一方、2つのPSY-aアレルを有する条件6の平均値は、条件3、4及び5よりも高かった。
【0089】
加えて、上記の6つの条件に対して、総カロテノイド含有量への正の効果を発揮する4つのZEPアレル(ZEP-a、ZEP-b、ZEP-c、及びZEP-e)の可能性を調べた(図5)。PSY-aを含まない条件3において、総カロテノイド含有量の平均値は、ZEPアレルの数に比例して増加した。条件1及び2において、PSYアレルとZEPアレルとの間の上位相互作用を示す、ZEPアレルの数に応じた増加に関する一貫した効果は観察されなかった。この結果から、PSYはZEPよりもカロテノイド代謝経路の上流に位置することが理解できる。その結果、負の効果を持つPSYアレルは、正の効果を有するZEPアレルの効果を打ち消し得る。条件5において、総カロテノイド含有量の平均値は、最適ZEPアレルの数に比例して増加した。条件6において、ZEPアレルを有する場合の総カロテノイド含有量の平均値は、有さない場合よりも高かった。それゆえに、これらの結果から、PSY及びZEPの最適アレルは、果肉中の総カロテノイド含有量を増加する能力を有することが確認された。
【0090】
Box plot解析はまた、β-クリプトキサンチン及びビオラキサンチン含有量についても行った(図6~9)。図6は、正の効果を有するアレル(PSY-a)及び負の効果を有するアレル(PSY-c又はPSY-g)におけるβ-クリプトキサンチン含有量の比較を示す。図7は、図6中のPSYアレル型条件における、正の効果を有するZEPアレル(ZEP-a、ZEP-b、ZEP-c、又はZEP-e)におけるβ-クリプトキサンチン含有量の比較を示す。図8は、正の効果を有するアレル(PSY-a)及び負の効果を有するアレル(PSY-c又はPSY-g)におけるビオラキサンチン含有量の比較を示す。図9は、図8中のPSYアレル型条件における、正の効果を有するZEPアレル(ZEP-a、ZEP-b、ZEP-c、又はZEP-e)におけるビオラキサンチン含有量の比較を示す。
【0091】
BCRに関して、平均値の増加にPSY-aのわずかな効果が観察された一方で、正の効果を有するZEPアレルは、β-クリプトキサンチン含有量の増加を導く効果が観察された。さらに、ビオラキサンチンに関して、正の効果を有するZEPアレルの数値の増加は、条件5を除いてビオラキサンチン含有量に相関がなかった。これらの評価試験から、PSY-aの最適アレルは、カロテノイド代謝経路の流れを強くする能力有することが強調され、β-クリプトキサンチン及びビオラキサンチンの増加に伴い、総カロテノイド含有量を増加させることが示された。
【0092】
正の効果を有するZEPアレルはまた、総カロテノイド含有量を増加させることが確認され、その効果は、ビオラキサンチン含有量よりもβ-クリプトキサンチン含有量の増加に優先的に影響した。正のアレルを有するZEPアレルは、それ自体ではβ-クリプトキサンチン含有量の増加に強力な影響は有さないが、カロテノイド代謝経路における上流遺伝子と下流遺伝子との間のサンドイッチ効果によって、PSY-aとのシナジー効果によりβ-クリプトキサンチン含有量を増加させると考えられる。
【0093】
(マーカー支援選抜のためのPSY-a及びZEP-eの最適アレルを同定するためのトリオSNPの最小セット)
PSY-a及びZEP-eの最適アレルのシナジー効果は、果肉中のカロテノイド(特にβ-クリプトキサンチン)の含有量増加において有望である。DNAマーカー選抜による分子育種を効率的に促進するために、MinimalMarkerソフトウェアを用いて、トリオSNPの最小セットを評価し、最適なPSYアレル及びZEPアレルを決定した。評価したトリオSNPを表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
PSYについて、45の最小セットを見出した。これらは、6個のトリオSNPの異なる組み合わせを含み、7個のPSYアレルの何れの組み合わせも区別した。例えば、PSY-SNP-05、PSY-SNP06、PSY-07、PSY-SNP08、PSY-SNP09,及びPSY-SNP10は、最小セットの1つであった(表3)。最適なPSY-aアレルは、PSY-SNP06のみにより他のアレルから区別可能であった。
【0096】
【表3】
【0097】
ZEPについて、1の最小セットを見出した。これは、7個のトリオSNP(ZEP-SNP01、ZEP-SNP03、ZEP-SNP05、ZEP-SNP14、ZEP-SNP17、ZEP-SNP20、及びZEP-SNP21)を含んでいた(表4)。最適なZEP-eアレルは、ZEP-SNP17及びZEP-SNP21の2つのトリオSNPにより区別可能であった。
【0098】
【表4】
【0099】
交配に使用する親品種のPSY及びZEPアレルのアレル遺伝子型の組み合わせにより、交雑実生のマーカー選抜に必要なSNPの数は、算出した上記最小セットよりも少なくなり得る。例えば、種子親ZEP-c及びZEP-eと花粉親ZEP-e及びZEP-eとの交配から得た種子の遺伝子型は、ZEP-eのホモ接合型であるか、又はZEP-c及びZEP-eのヘテロ接合型である。この場合、ZEP-SNP17又はZEP-SNP20のただ1つのトリオSNPがZEP-eのホモ接合型を有する種子を判別するに十分である(図10)。
【0100】
他のトリオSNPは、上記最小セットには含まれておらず、それらが親のアレル遺伝子型を区別するときに、マーカー支援選抜に適用することも可能である。近年、TaqMan-MGB SNP遺伝子型解析、KASP遺伝子型解析等のような様々なSNP検出システムが開発されている。これらのシステムに互換性のあるSNPマーカーは、表2に列挙したトリオSNPの配列情報に基づいて構築することができる。
【0101】
(マーカー支援選抜のためのPSY-SNP06及びZEP-SNP17を用いたTaqMan-MGB SNP遺伝子型解析)
マーカー支援選抜のためのPSY-SNP06及びZEP-SNP17を用いたTaqMan-MGB SNP遺伝子型解析の結果を図10及び図11に示す。図10は、PSY-SNP06を用いたTaqMan-MGB SNP遺伝子型解析の結果を示し、図11は、ZEP-SNP17を用いたTaqMan-MGB SNP遺伝子型解析の結果を示している。図10及び図11において、FAM蛍光シグナル値をX軸にプロットし、HEX蛍光シグナル値をY軸にプロットした。NTCはコントロールを表す。
【0102】
図10及び図11に示すように、親のアレル遺伝子型が有効な場合は、ホモ接合型PSY-a及びホモ接合型ZEP-eを有する苗を、単一のDNAマーカーによるマーカー支援選抜において、カロテノイド高含有として選択することができる。
【0103】
上述した実験により、PSY遺伝子及びZEP遺伝子が、成熟した果肉中におけるカロテノイドの流れの制御において重要な役割を果たすことが示された。結果として、PSY-a及びZEP-eの2つのアレルの連携によりカロテノイド高含有が達成されることが示された。これらの重要なアレルは、TaqMAN-MGB SNPマーカーを用いたマーカー支援選抜により遺伝子型が特定された。これらの結果に基づけば、DNAマーカーを用いることにより、果肉中の栄養価を向上させるためのカロテノイド代謝の設計が容易になり得る。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、農業分野、植物育種分野等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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