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特許7176785ドローン、ドローンの制御方法、および、ドローン制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ドローン、ドローンの制御方法、および、ドローン制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B64D 1/18 20060101AFI20221115BHJP
   B64C 13/18 20060101ALI20221115BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20221115BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20221115BHJP
   B64D 45/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B64D1/18
B64C13/18 Z
B64C27/08
B64C39/02
B64D45/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020563047
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048518
(87)【国際公開番号】W WO2020137554
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018245162
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019026157
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515019537
【氏名又は名称】株式会社ナイルワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【弁理士】
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100139778
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(72)【発明者】
【氏名】和氣 千大
(72)【発明者】
【氏名】柳下 洋
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-508925(JP,A)
【文献】特開2018-127076(JP,A)
【文献】特開2006-176073(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1844727(KR,B1)
【文献】特開2017-206066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0061247(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 1/00 - 99/00
B64D 1/00 - 47/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行制御部と、
前記飛行制御部による飛行中において薬剤を散布する吐出部と、
を備える、複数の回転翼を有する薬剤散布用のドローンであって、
前記ドローンの姿勢角を検出する姿勢角検出部と、
前記姿勢角に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤の薬剤投下点を予測する薬剤投下点予測部と、
予測される前記薬剤投下点に基づいて、前記ドローンの作業態様を制御する、薬剤投下点制御部と、
を備え、
前記薬剤投下点制御部は、前記ドローンの進行方向に沿う追い風に対しては速度を上げる指令を前記飛行制御部に送信し、前記ドローンの進行方向と逆向きに吹く向かい風に対しては速度を下げる指令を前記飛行制御部に送信
前記薬剤投下点制御部は、前記追い風に対しては散布流量を上げ、前記向かい風に対しては前記散布流量を下げる、
ドローン。
【請求項2】
前記薬剤投下点制御部は、進行方向に対する前記姿勢角が無風の状態に比べて小さいとき、前記ドローンの速度を上昇させる、
請求項記載のドローン。
【請求項3】
前記薬剤投下点制御部は、進行方向に対する前記姿勢角が無風の状態に比べて大きいとき、前記ドローンの速度を低下させる、
請求項1又は2に記載のドローン。
【請求項4】
前記薬剤投下点制御部は、前記ドローンの進行方向に沿う追い風が前記ドローンに吹き付けているとき、吐出開始点および吐出停止点を、無風の状態における前記吐出開始点および前記吐出停止点よりも進行方向後方に移動させる、
請求項1乃至のいずれかに記載のドローン。
【請求項5】
前記薬剤投下点制御部は、前記ドローンの進行方向と逆向きに吹く向かい風が前記ドローンに吹き付けているとき、吐出開始点および吐出停止点を、無風の状態における前記吐出開始点および前記吐出停止点よりも進行方向前方に移動させる、
請求項1乃至のいずれかに記載のドローン。
【請求項6】
前記薬剤投下点制御部は、水平面において前記ドローンの進行方向とは異なる方向に吹く風が前記ドローンに吹き付けているとき、前記ドローンの水平方向の位置を進行方向左右側方であって風上側に移動させる、
請求項1乃至のいずれかに記載のドローン。
【請求項7】
前記ドローンに吹き付ける風の風速と、前記ドローンの高度と、に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤が風により流される影響があるか否かを判定し、前記薬剤の流される距離が所定以上である場合には、前記姿勢角に基づいて予測される前記薬剤投下点を風下側に補正する補正部をさらに備える、
請求項1乃至のいずれかに記載のドローン。
【請求項8】
前記ドローンの対地速度を算出する対地速度算出部と、
前記姿勢角と、前記ドローンの重量および前記飛行制御部が稼働させる推進器の発揮推力の少なくとも1個と、に基づいて、前記ドローンの対気速度を算出する対気速度算出部と、
前記対地速度および前記対気速度に基づいて、進行方向の風速および風向を算出する風速算出部と、
をさらに備える、
請求項1乃至のいずれかに記載のドローン。
【請求項9】
前記姿勢角の絶対値が所定以上のとき、退避行動をとり、前記退避行動は、離陸禁止、前記薬剤の吐出停止、帰還、緊急着陸、およびホバリングの少なくとも1個の行動を含む、
請求項1乃至のいずれかに記載のドローン。
【請求項10】
前記薬剤投下点制御部は、現在の前記姿勢角と無風状態の姿勢角との差、前記薬剤投下点の変位量、および風速のうち少なくとも1個を複数の段階に区分けし、区分けされる段階に応じて前記作業態様を制御する、
請求項1乃至のいずれかに記載のドローン。
【請求項11】
前記薬剤投下点制御部により制御された前記作業態様に基づいて、前記ドローンが消費する消費エネルギーを予測する消費エネルギー予測部をさらに備える、
請求項1乃至10のいずれかに記載のドローン。
【請求項12】
前記消費エネルギーに基づいて、前記ドローンに搭載されるバッテリの交換タイミング、および飛行可能時間の予測値の少なくともいずれかを更新する、
請求項11記載のドローン。
【請求項13】
前記バッテリの交換タイミング、および前記飛行可能時間の予測値の少なくともいずれかの情報を操作器に送信し、当該情報を、前記操作器を介して使用者に通知する、
請求項12記載のドローン。
【請求項14】
飛行制御部と、
前記飛行制御部による飛行中において薬剤を散布する吐出部と、
を備える複数の回転翼を有する薬剤散布用のドローンの制御方法であって、
前記ドローンの姿勢角を検出するステップと、
前記姿勢角に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤の薬剤投下点を予測するステップと、
予測される前記薬剤投下点に基づいて、前記ドローンの作業態様を制御するステップと、
を含み、
前記ドローンの作業態様を制御するステップは、前記ドローンの進行方向に沿う追い風に対しては速度を上げる指令を前記飛行制御部に送信し、前記ドローンの進行方向と逆向きに吹く向かい風に対しては速度を下げる指令を前記飛行制御部に送信
前記ドローンの作業態様を制御するステップは、前記追い風に対しては散布流量を上げ、前記向かい風に対しては前記散布流量を下げる、
ドローンの制御方法。
【請求項15】
飛行制御部と、
前記飛行制御部による飛行中において薬剤を散布する吐出部と、
を備える複数の回転翼を有する薬剤散布用のドローンの制御プログラムであって、
前記ドローンの姿勢角を検出する命令と、
前記姿勢角に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤の薬剤投下点を予測する命令と、
予測される前記薬剤投下点に基づいて、前記ドローンの作業態様を制御する命令と、
をコンピュータに実行させ、
前記ドローンの作業態様を制御する命令は、前記ドローンの進行方向に沿う追い風に対しては速度を上げる指令を前記飛行制御部に送信し、前記ドローンの進行方向と逆向きに吹く向かい風に対しては速度を下げる指令を前記飛行制御部に送信
前記ドローンの作業態様を制御する命令は、前記追い風に対しては散布流量を上げ、前記向かい風に対しては前記散布流量を下げる、
ドローンの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ドローン、ドローンの制御方法、および、ドローン制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にドローンと呼ばれる小型ヘリコプター(マルチコプター)の応用が進んでいる。その重要な応用分野の一つとして農地(圃場)への農薬や液肥などの薬剤散布が挙げられる(たとえば、特許文献1)。欧米と比較して農地が狭い日本においては、有人の飛行機やヘリコプターではなくドローンの使用が適しているケースが多い。
【0003】
準天頂衛星システムやRTK-GPS(Real Time Kinematic - Global Positioning System)などの技術によりドローンが飛行中に自機の絶対位置をセンチメートル単位で正確に知ることができるようになったことで、日本において典型的な狭く複雑な地形の農地でも、人手による操縦を最小限として自律的に飛行し、効率的かつ正確に薬剤散布を行なえるようになっている。
【0004】
その一方で、農業用の薬剤散布向け自律飛行型ドローンについては安全性に対する考慮が十分とは言いがたいケースがあった。薬剤を搭載したドローンの重量は数10キログラムになるため、人の上に落下する等の事故が起きた場合に重大な結果を招きかねない。また、通常、ドローンの操作者は専門家ではないためフールプルーフの仕組みが必要であるが、これに対する考慮も不十分であった。今までに、人間による操縦を前提としたドローンの安全性技術は存在していたが(たとえば、特許文献2)、特に農業用の薬剤散布向けの自律飛行型ドローンに特有の安全性課題に対応するための技術は存在していなかった。
【0005】
また、マルチコプタ式のドローンにおいては、進行方向に対する機体角度を変化させることで、機体の飛行速度および加速度を変化させる。薬剤散布用ドローンにおいては、機体の角度変化に応じて薬剤ノズルの向きが変化し、ひいては薬剤の投下点が変化する。薬剤が意図しない地点に投下されると、薬剤を散布すべきでない場所に散布されることにより周囲の物体が汚染されたり、薬剤が過剰に散布されることで土壌が汚染されるおそれがある。また、薬剤が充分圃場に投下されないことで、薬剤による効果が充分に得られないおそれがある。したがって、ドローンの機体角度に応じて飛行が制御され、薬剤による圃場への効果を実効たらしめることが可能なドローンが必要とされている。特許文献3には、飛行速度および飛行高度、ならびに風向および風速に基づいて、散布する薬剤の散布量、散布角度、散布方向を制御する薬液散布用無人航空機が開示されている。また、特許文献3には、検知した風向および風速に基づいて、風上に向かって無人航空機を制御することで、機体が風で流されるような状況であっても、当初意図していた飛行経路上を通過させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許公開公報 特開2001-120151
【文献】特許公開公報 特開2017-163265
【文献】特許公開公報 特開2017-206066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
機体の姿勢角に応じて飛行を制御することで、薬剤の投下点を調整し、薬剤による圃場への効果を実効たらしめることが可能なドローンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一の観点に係るドローンは、飛行制御部と、前記飛行制御部による飛行中において薬剤を散布する吐出部と、を備える薬剤散布用のドローンであって、前記ドローンの姿勢角を検出する姿勢角検出部と、前記姿勢角に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤の薬剤投下点を予測する薬剤投下点予測部と、予測される前記薬剤投下点に基づいて、前記ドローンの作業態様を制御する、薬剤投下点制御部と、を備える。
【0009】
前記薬剤投下点制御部は、進行方向に対する前記姿勢角が無風の状態に比べて小さいとき、前記ドローンの速度を上昇させるように構成されていてもよい。
【0010】
前記薬剤投下点制御部は、進行方向に対する前記姿勢角が無風の状態に比べて大きいとき、前記ドローンの速度を低下させるように構成されていてもよい。
【0011】
前記作業態様は、前記ドローンの速度、高度、前記薬剤の散布流量、ならびに前記ドローンの直線移動において前記薬剤の吐出を開始する吐出開始点、および前記薬剤の吐出を停止する吐出停止点の設定値のうち、少なくともいずれかを含むように構成されていてもよい。
【0012】
前記薬剤投下点制御部は、前記ドローンの進行方向に沿う追い風が前記ドローンに吹き付けているとき、前記吐出開始点および前記吐出停止点を、無風の状態における前記吐出開始点および前記吐出停止点よりも進行方向後方に移動させるように構成されていてもよい。
【0013】
前記薬剤投下点制御部は、前記ドローンの進行方向と逆向きに吹く向かい風が前記ドローンに吹き付けているとき、前記吐出開始点および前記吐出停止点を、無風の状態における前記吐出開始点および前記吐出停止点よりも進行方向前方に移動させるように構成されていてもよい。
【0014】
前記薬剤投下点制御部は、水平面において前記ドローンの進行方向とは異なる方向に吹く風が前記ドローンに吹き付けているとき、前記ドローンの水平方向の位置を進行方向左右側方であって風上側に移動させるように構成されていてもよい。
【0015】
前記ドローンに吹き付ける風の風速と、前記ドローンの高度と、に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤が風により流される影響があるか否かを判定し、前記薬剤の流される距離が所定以上である場合には、前記姿勢角に基づいて予測される前記薬剤投下点を風下側に補正する補正部をさらに備えるように構成されていてもよい。
【0016】
前記ドローンの対地速度を算出する対地速度算出部と、前記姿勢角と、前記ドローンの重量および前記飛行制御部が稼働させる推進器の発揮推力の少なくとも1個と、に基づいて、前記ドローンの対気速度を算出する対気速度算出部と、前記対地速度および前記対気速度に基づいて、進行方向の風速および風向を算出する風速算出部と、をさらに備えていてもよい。
【0017】
前記姿勢角の絶対値が所定以上のとき、退避行動をとり、前記退避行動は、離陸禁止、前記薬剤の吐出停止、帰還、緊急着陸、およびホバリングの少なくとも1個の行動を含むように構成されていてもよい。
【0018】
前記姿勢角の絶対値が所定以上のとき、前記ドローンの目標とする飛行速度および加速度の少なくとも1個を低下させるように構成されていてもよい。
【0019】
前記薬剤投下点制御部は、現在の前記姿勢角と無風状態の姿勢角との差、前記薬剤投下点の変位量、および風速のうち少なくとも1個を複数の段階に区分けし、区分けされる段階に応じて前記作業態様を制御するように構成されていてもよい。
【0020】
前記薬剤投下点制御部により制御された前記作業態様に基づいて、前記ドローンが消費する消費エネルギーを予測する消費エネルギー予測部をさらに備えていてもよい。
【0021】
前記消費エネルギーに基づいて、前記ドローンに搭載されるバッテリの交換タイミング、および前記バッテリによる飛行可能時間の予測値の少なくともいずれかを更新するものとしてもよい。
【0022】
前記バッテリの交換タイミング、および前記飛行可能時間の予測値の少なくともいずれかの情報を操作器に送信し、当該情報を、前記操作器を介して使用者に通知するものとしてもよい。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明の別の観点に係るドローンの制御方法は、飛行制御部と、前記飛行制御部による飛行中において薬剤を散布する吐出部と、を備える薬剤散布用のドローンの制御方法であって、前記ドローンの姿勢角を検出するステップと、前記姿勢角に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤の薬剤投下点を予測するステップと、予測される前記薬剤投下点に基づいて、前記ドローンの作業態様を制御するステップと、を含む。
【0024】
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の観点に係るドローンの制御プログラムは、飛行制御部と、前記飛行制御部による飛行中において薬剤を散布する吐出部と、を備える薬剤散布用のドローンの制御プログラムであって、前記ドローンの姿勢角を検出する命令と、前記姿勢角に基づいて、前記ドローンから吐出される前記薬剤の薬剤投下点を予測する命令と、予測される前記薬剤投下点に基づいて、前記ドローンの作業態様を制御する命令と、をコンピュータに実行させる。
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、CD-ROMなどのコンピュータ読取可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【発明の効果】
【0025】
機体の姿勢角に応じて飛行を制御することで、薬剤の投下点を調整し、薬剤による圃場への効果を実効たらしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明に係るドローンの実施形態を示す平面図である。
図2】上記ドローンの正面図である。
図3】上記ドローンの右側面図である。
図4】上記ドローンの背面図である。
図5】上記ドローンの斜視図である。
図6】上記ドローンが有する薬剤散布システムの全体概念図である。
図7】上記ドローンが有する薬剤散布システムの、第2実施形態に係る全体概念図である。
図8】上記ドローンが有する薬剤散布システムの、第3実施形態に係る全体概念図である。
図9】上記ドローンの制御機能を表した模式図である。
図10】上記ドローンが、薬剤を散布しながら圃場を飛行する経路の例を示す模式図である。
図11】上記ドローンが飛行している様子を示す概略左側面図であって、(a)ホバリング中の概略左側面図、(b)進行中の概略左側面図である。
図12】上記ドローンが有する、上記ドローンから吐出される薬剤の投下点を予測し、上記ドローンの動作を制御するための構成に関する機能ブロック図である。
図13】上記ドローンに吹き付ける風の向きと、当該風の向きに応じて変化する上記ドローンの動作の関係を示すテーブルである。
図14】上記ドローンの圃場内の運転経路における薬剤の吐出開始点および吐出停止点を示す模式図である。
図15】上記ドローンが薬剤の投下点を予測して動作を制御する工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図を参照しながら、本願発明を実施するための形態について説明する。図はすべて例示である。以下の詳細な説明では、説明のために、開示された実施形態の完全な理解を促すために、ある特定の詳細について述べられている。しかしながら、実施形態は、これらの特定の詳細に限られない。また、図面を単純化するために、周知の構造および装置については概略的に示されている。
【0028】
本願明細書において、ドローンとは、動力手段(電力、原動機等)、操縦方式(無線であるか有線であるか、および、自律飛行型であるか手動操縦型であるか等)を問わず、複数の回転翼を有する飛行体全般を指すこととする。
【0029】
図1乃至図5に示すように、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4b(ローターとも呼ばれる)は、ドローン100を飛行させるための手段であり、飛行の安定性、機体サイズ、および、電力消費量のバランスを考慮し、8機(2段構成の回転翼が4セット)備えられている。各回転翼101は、ドローン100の本体110からのび出たアームにより本体110の四方に配置されている。すなわち、進行方向左後方に回転翼101-1a、101-1b、左前方に回転翼101-2a、101-2b、右後方に回転翼101-3a、101-3b、右前方に回転翼101-4a、101-4bがそれぞれ配置されている。なお、ドローン100は図1における紙面下向きを進行方向とする。回転翼101の回転軸から下方には、それぞれ棒状の足107-1,107-2,107-3,107-4が伸び出ている。
【0030】
モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、102-4a、102-4bは、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4bを回転させる手段(典型的には電動機だが発動機等であってもよい)であり、一つの回転翼に対して1機設けられている。モーター102は、推進器の例である。1セット内の上下の回転翼(たとえば、101-1aと101-1b)、および、それらに対応するモーター(たとえば、102-1aと102-1b)は、ドローンの飛行の安定性等のために軸が同一直線上にあり、かつ、互いに反対方向に回転する。図2、および、図3に示されるように、ローターが異物と干渉しないよう設けられたプロペラガードを支えるための放射状の部材は水平ではなくやぐら状の構造である。衝突時に当該部材が回転翼の外側に座屈することを促し、ローターと干渉することを防ぐためである。
【0031】
薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4は、薬剤を下方に向けて散布するための手段であり4機備えられている。薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4は、吐出部の例である。なお、本願明細書において、薬剤とは、農薬、除草剤、液肥、殺虫剤、種、および、水などの圃場に散布される液体または粉体を一般的に指すこととする。
【0032】
薬剤タンク104は散布される薬剤を保管するためのタンクであり、重量バランスの観点からドローン100の重心に近い位置でかつ重心より低い位置に設けられている。薬剤ホース105-1、105-2、105-3、105-4は、薬剤タンク104と各薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4とを接続する手段であり、硬質の素材から成り、当該薬剤ノズルを支持する役割を兼ねていてもよい。ポンプ106は、薬剤をノズルから吐出するための手段である。
【0033】
図6に本願発明に係るドローン100の薬剤散布用途の実施例を使用したシステムの全体概念図を示す。本図は模式図であって、縮尺は正確ではない。同図において、ドローン100、操作器401、および基地局404は、営農クラウド405にそれぞれ接続されている。また、小型携帯端末401aは、基地局404に接続されている。これらの接続は、Wi-Fiや移動通信システム等による無線通信を行ってもよいし、一部又は全部が有線接続されていてもよい。
【0034】
操作器401は、使用者402の操作によりドローン100に指令を送信し、また、ドローン100から受信した情報(たとえば、位置、薬剤量、電池残量、カメラ映像等)を表示するための手段であり、コンピューター・プログラムを稼働する一般的なタブレット端末等の携帯情報機器によって実現されてよい。本願発明に係るドローン100は自律飛行を行なうよう制御されるが、離陸や帰還などの基本操作時、および、緊急時にはマニュアル操作が行なえるようになっていてもよい。携帯情報機器に加えて、緊急停止専用の機能を有する非常用操作機(図示していない)を使用してもよい(非常用操作機は緊急時に迅速に対応が取れるよう大型の緊急停止ボタン等を備えた専用機器であってもよい)。さらに、操作器401とは別に、操作器401に表示される情報の一部又は全部を表示可能な小型携帯端末401a、例えばスマートホンがシステムに含まれていてもよい。また、小型携帯端末401aから入力される情報に基づいて、ドローン100の動作が変更される機能を有していてもよい。小型携帯端末401aは、例えば基地局404と接続されていて、基地局404を介して営農クラウド405からの情報等を受信可能である。
【0035】
圃場403は、ドローン100による薬剤散布の対象となる田圃や畑等である。実際には、圃場403の地形は複雑であり、事前に地形図が入手できない場合、あるいは、地形図と現場の状況が食い違っている場合がある。通常、圃場403は家屋、病院、学校、他作物圃場、道路、鉄道等と隣接している。また、圃場403内に、建築物や電線等の障害物が存在する場合もある。
【0036】
基地局404は、Wi-Fi通信の親機機能等を提供する装置であり、RTK-GPS基地局としても機能し、ドローン100の正確な位置を提供できるようになっていてもよい(Wi-Fi通信の親機機能とRTK-GPS基地局が独立した装置であってもよい)。また、基地局404は、3G、4G、およびLTE等の移動通信システムを用いて、営農クラウド405と互いに通信可能であってもよい。基地局404は、本実施の形態においては、発着地点406と共に移動体406aに積載されている。
【0037】
営農クラウド405は、典型的にはクラウドサービス上で運営されているコンピュータ群と関連ソフトウェアであり、操作器401と携帯電話回線等で無線接続されていてもよい。営農クラウド405は、ドローン100が撮影した圃場403の画像を分析し、作物の生育状況を把握して、飛行ルートを決定するための処理を行ってよい。また、保存していた圃場403の地形情報等をドローン100に提供してよい。加えて、ドローン100の飛行および撮影映像の履歴を蓄積し、様々な分析処理を行ってもよい。
【0038】
通常、ドローン100は圃場403の外部にある発着地点406から離陸し、圃場403に薬剤を散布した後に、あるいは、薬剤補充や充電等が必要になった時に発着地点406に帰還する。発着地点406から目的の圃場403に至るまでの飛行経路(侵入経路)は、営農クラウド405等で事前に保存されていてもよいし、使用者402が離陸開始前に入力してもよい。
【0039】
なお、図7に示す第2実施形態のように、本願発明に係るドローン100の薬剤散布システムは、ドローン100、操作器401、小型携帯端末401a、および営農クラウド405が、それぞれ基地局404と接続されている構成であってもよい。
【0040】
また、図8に示す第3実施形態のように、本願発明に係るドローン100の薬剤散布システムは、ドローン100、操作器401、および小型携帯端末401aが、それぞれ基地局404と接続されていて、操作器401のみが営農クラウド405と接続されている構成であってもよい。
【0041】
図9に本願発明に係る薬剤散布用ドローンの実施例の制御機能を表したブロック図を示す。フライトコントローラー501は、ドローン全体の制御を司る構成要素であり、具体的にはCPU、メモリー、関連ソフトウェア等を含む組み込み型コンピュータであってよい。フライトコントローラー501は、操作器401から受信した入力情報、および、後述の各種センサーから得た入力情報に基づき、ESC(Electronic Speed Control)等の制御手段を介して、モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの回転数を制御することで、ドローン100の飛行を制御する。モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの実際の回転数はフライトコントローラー501にフィードバックされ、正常な回転が行なわれているかを監視できる構成になっている。あるいは、回転翼101に光学センサー等を設けて回転翼101の回転がフライトコントローラー501にフィードバックされる構成でもよい。
【0042】
フライトコントローラー501が使用するソフトウェアは、機能拡張・変更、問題修正等のために記憶媒体等を通じて、または、Wi-Fi通信やUSB等の通信手段を通じて書き換え可能になっている。この場合において、不正なソフトウェアによる書き換えが行なわれないように、暗号化、チェックサム、電子署名、ウィルスチェックソフト等による保護が行われている。また、フライトコントローラー501が制御に使用する計算処理の一部が、操作器401上、または、営農クラウド405上や他の場所に存在する別のコンピュータによって実行されてもよい。フライトコントローラー501は重要性が高いため、その構成要素の一部または全部が二重化されていてもよい。
【0043】
フライトコントローラー501は、Wi-Fi子機503を介して、さらに、基地局404を介して操作器401とやり取りを行ない、必要な指令を操作器401から受信すると共に、必要な情報を操作器401に送信できる。この場合に、通信には暗号化を施し、傍受、成り済まし、機器の乗っ取り等の不正行為を防止できるようにしておいてもよい。基地局404は、Wi-Fiによる通信機能に加えて、RTK-GPS基地局の機能も備えている。RTK基地局の信号とGPS(GNSS)測位衛星からの信号を組み合わせることで、フライトコントローラー501により、ドローン100の絶対位置を数センチメートル程度の精度で測定可能となる。フライトコントローラー501は重要性が高いため、二重化・多重化されていてもよく、また、特定のGPS衛星の障害に対応するため、冗長化されたそれぞれのフライトコントローラー501は別の衛星を使用するよう制御されていてもよい。
【0044】
6軸ジャイロセンサ505はドローン機体の互いに直交する3方向の加速度を測定する手段(さらに、加速度の積分により速度を計算する手段)である。6軸ジャイロセンサ505は、上述の3方向におけるドローン機体の姿勢角の変化、すなわち角速度を測定する手段である。地磁気センサー506は、地磁気の測定によりドローン機体の方向を測定する手段である。気圧センサー507は、気圧を測定する手段であり、間接的にドローンの高度も測定することもできる。レーザーセンサー508は、レーザー光の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段であり、IR(赤外線)レーザーであってもよい。ソナー509は、超音波等の音波の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段である。これらのセンサー類は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよい。また、機体の傾きを測定するためのジャイロセンサ(角速度センサー)、風力を測定するための風力センサーなどが追加されていてもよい。また、これらのセンサー類は、二重化または多重化されていてもよい。同一目的複数のセンサーが存在する場合には、フライトコントローラー501はそのうちの一つのみを使用し、それが障害を起こした際には、代替のセンサーに切り替えて使用するようにしてもよい。あるいは、複数のセンサーを同時に使用し、それぞれの測定結果が一致しない場合には障害が発生したと見なすようにしてもよい。
【0045】
流量センサー510は薬剤の流量を測定するための手段であり、薬剤タンク104から薬剤ノズル103に至る経路の複数の場所に設けられている。液切れセンサー511は薬剤の量が所定の量以下になったことを検知するセンサーである。マルチスペクトルカメラ512は圃場403を撮影し、画像分析のためのデータを取得する手段である。障害物検知カメラ513はドローン障害物を検知するためのカメラであり、画像特性とレンズの向きがマルチスペクトルカメラ512とは異なるため、マルチスペクトルカメラ512とは別の機器である。スイッチ514はドローン100の使用者402が様々な設定を行なうための手段である。障害物接触センサー515はドローン100、特に、そのローターやプロペラガード部分が電線、建築物、人体、立木、鳥、または、他のドローン等の障害物に接触したことを検知するためのセンサーである。カバーセンサー516は、ドローン100の操作パネルや内部保守用のカバーが開放状態であることを検知するセンサーである。薬剤注入口センサー517は薬剤タンク104の注入口が開放状態であることを検知するセンサーである。これらのセンサー類はドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。また、ドローン100外部の基地局404、操作器401、または、その他の場所にセンサーを設けて、読み取った情報をドローンに送信してもよい。たとえば、基地局404に風力センサーを設け、風力・風向に関する情報をWi-Fi通信経由でドローン100に送信するようにしてもよい。
【0046】
フライトコントローラー501はポンプ106に対して制御信号を送信し、薬剤吐出量の調整や薬剤吐出の停止を行なう。ポンプ106の現時点の状況(たとえば、回転数等)は、フライトコントローラー501にフィードバックされる構成となっている。
【0047】
LED107は、ドローンの操作者に対して、ドローンの状態を知らせるための表示手段である。LEDに替えて、または、それに加えて液晶ディスプレイ等の表示手段を使用してもよい。ブザー518は、音声信号によりドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるための出力手段である。Wi-Fi子機機能519は操作器401とは別に、たとえば、ソフトウェアの転送などのために外部のコンピュータ等と通信するためのオプショナルな構成要素である。Wi-Fi子機機能に替えて、または、それに加えて、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、NFC等の他の無線通信手段、または、USB接続などの有線通信手段を使用してもよい。また、Wi-Fi子機機能に替えて、3G、4G、およびLTE等の移動通信システムにより相互に通信可能であってもよい。スピーカー520は、録音した人声や合成音声等により、ドローンの状態(特にエラー状態)を知らせる出力手段である。天候状態によっては飛行中のドローン100の視覚的表示が見にくいことがあるため、そのような場合には音声による状況伝達が有効である。警告灯521はドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるストロボライト等の表示手段である。これらの入出力手段は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。
【0048】
図10に示すように、ドローン100は、圃場403内を往復して走査する飛行を行い、薬剤散布を行う。すなわち、ドローン100は、圃場403内を直線的に移動し(以下、「直線移動」ともいう。)、圃場403の端部付近に到達すると、薬剤の散布を停止して旋回し、以降これを繰り返す。旋回中および旋回前後においては、ドローン100の速度が所定以下になり、過剰な薬剤を投下してしまうおそれがあるため、薬剤の散布を停止する。なお、旋回の方法は、機首を進行方向に向けて回転移動する旋回に限られず、最終的に機首の向きが旋回される適宜の移動を含む。ドローン100は、圃場403内の運転経路があらかじめ計画されていて、当該運転経路に沿って飛行を行う。当該運転経路は、圃場403の大きさや形状に基づいて、営農クラウド405、ドローン100又は別途の外部装置により算出されている。運転経路のうち薬剤の散布が計画されている経路、すなわち、特に直線移動の経路は、無風状態における薬剤投下点を連続して繋ぎ合わせたものである。
【0049】
図11(a)および(b)に示すように、ドローン100は、その姿勢角を傾かせることにより、速度および加速度を変化させる。姿勢角θとすると、図11(a)に示すように、無風状態においてドローン100がその場でホバリングしているときの姿勢角θは、ロール角、ピッチ角ともに0である。無風状態においては、薬剤600は薬剤ノズル103の真下に投下される。
【0050】
図11(b)に示すように、ドローン100に風が吹いている場合、ドローン100は、風に対抗する速度および加速度を発生させることで、ドローン100の風による移動を抑制する。すなわち、ドローン100は風上に向かって大きく前傾する。
【0051】
例えば、ドローン100に時速1kmの風が吹き付けている場合、ドローン100は、その場に留まってホバリングをするために、風上方向に向かって傾き、時速1kmの速度を発揮する。言い換えれば、地面に対して実際に実現されるドローン100の速度、すなわちドローン100の対地速度を0にするために、ドローン100は、風上方向に向かって風の風速と同等の対気速度を発揮する。対気速度とは、ドローン100の推進器が所定の対地速度を実現するために、風の影響を加味して発揮する稼働力を、無風状態における速度に変換したときの速度である。逆に言えば、対気速度から対地速度を除することにより、ドローン100に吹いている風の風速を求めることができる。
【0052】
ドローン100が地面からの高度L、姿勢角0度で飛行しているときの薬剤投下点と、姿勢角がθで飛行しているときの薬剤投下点との変位量Dは、以下の式の通り求められる。
D=L×tanθ (1)
【0053】
また、ドローン100は、地面に対して所定の対地速度を実現するために、対地速度に風速を足し合わせた対気速度を発揮するように、推進器を稼働させる。
【0054】
ドローン100には360度いずれの方向からも風が吹き付け得る。以降の説明においては、ドローン100に吹き付ける風の風速ベクトルのうち地面に水平な成分のうち、ドローン100の意図する進行方向と同方向の風を「追い風」、進行方向とは逆向きに吹く風を「向かい風」、および進行方向に直交する方向に吹く風を「横風」ともいう。追い風又は向かい風においては、ドローン100のピッチ角が変化する。横風においては、ドローン100のロール角が変化する。実際の風は、追い風又は向かい風、および横風が合成されたような風であるが、以降の説明においては、実際の風を各方向に分解して説明する。
【0055】
なお、ドローン100のピッチ角は、吹き付けている風の影響に関わらず、加減速の際に等速飛行中よりも大きくなる。したがって、以降の制御は、加減速時の姿勢角に基づいて行ってもよい。
【0056】
ドローン100が傾くと、ドローン100に付属する薬剤ホース105-1、105-2、105-3、105-4、およびこれに固定される各薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4が傾斜し、薬剤600の吐出方向が変化する。したがって、ドローン100の姿勢角度に応じて、薬剤600の投下点が変化する。そこで、本発明におけるドローン100は、薬剤600を意図する地点に投下させるために、ドローン100の姿勢角度に応じて、ドローン100の作業態様を制御する。
【0057】
ドローン100の作業態様とは、ドローン100の速度、高度、水平方向の位置、薬剤600の散布流量、ならびに薬剤600の吐出開始点および吐出停止点の設定値のうち、少なくともいずれかを含む。
【0058】
また、ドローン100周辺に風が吹いている場合、吐出される薬剤600が圃場又は作物に到達するまでの間に風によって吹き飛ばされ、無風状態とは異なる地点に薬剤600が投下されることが予想される。本実施形態のドローン100においては、回転翼101によって発生するダウンウォッシュの風力が十分大きいため、大抵の場合、ドローン100から下方に投下される薬剤600は風に流されることなく地面又は作物に到達する。例えば、ダウンウォッシュの風速が秒速20mから秒速45m程度であるのに対し、自然に吹いている風の風速は通常秒速3mから秒速5m程度であり、ダウンウォッシュの風速は吹いている風の風速に比べて十分大きい。ただし、ドローン100は、ドローン100に対して所定以上の風速の風が吹いている場合には、風の風速を考慮して予測される薬剤投下点を補正する。すなわち、ドローン100の飛行時における薬剤投下点の総変位量Dtは、姿勢角θによる変位量Dと、風による薬剤投下点の変位量dとを足した値である。
【0059】
また、ドローンの地面からの高度Lが、ドローン100で想定されている通常の高度より所定以上高い場合にも、薬剤が風に流される場合がある。そこで、ドローン100は、ドローン100の高度と、ドローン100に吹いている風の風速とに基づいて、風の影響を考慮するか否かを決定し、風速に基づいて、予測される薬剤投下点を補正する。
【0060】
なお、本説明において、ドローン100の速度および加速度、ならびに風速は、明示の有無に関わらずすべてベクトルであり、絶対値以外に方向を含む概念である。
【0061】
図12に示すように、ドローン100は、ドローン100から吐出される薬剤600の投下点を予測するための構成として、薬剤投下点予測部20を備える。また、ドローン100は、薬剤600の投下点を制御するための構成として、薬剤投下点制御部30を備える。さらにまた、ドローン100は、薬剤投下点の制御により変更される消費江ネルギーを予測するための構成として、消費エネルギー予測部40を備える。
【0062】
薬剤投下点予測部20は、飛行制御部21と、姿勢角検出部22と、高度算出部23と、補正部24と、退避決定部25と、を備える。
【0063】
飛行制御部21は、ドローン100の推進器の動作を調整することによりドローン100に生じる発揮推力を制御する機能部であり、例えばフライトコントローラー501により実現される。ドローン100の推進器とは、例えば回転翼101およびモーター102である。飛行制御部21は、それぞれのモーター102の回転数を調整することで回転翼101がそれぞれ生じる推力を制御する。飛行制御部21は、各モーター102の回転数を独立して制御可能であり、1又は複数のモーター102の回転数を他のモーター102の回転数と異ならせることによって、ドローン100を傾斜させ、速度および加速度を発揮させる。より具体的には、モーター102の回転数が大きい機体部分の高さが、回転数が小さい機体部分に比べて上昇する。飛行制御部21は、ドローン100のロール角およびピッチ角を制御することが可能である。
【0064】
姿勢角検出部22は、飛行しているドローン100の姿勢角、特にロール角およびピッチ角を検出する機能部である。姿勢角検出部22は、例えば6軸ジャイロセンサ505又は適宜の水準器により姿勢角を検出することができる。具体的には、姿勢角は、6軸ジャイロセンサ505により取得される角速度ωを積分することにより求められる。
【0065】
高度算出部23は、ドローン100の高度、特に、ドローン100の薬剤ノズル103の地面に対する高度Lを算出する機能部である。高度算出部23は、例えばソナー509、レーザーセンサー508、又はRTK-GPS(GPSモジュールRTK504-1、504-2)により高度Lを算出することができる。
【0066】
図11(b)に示すように、薬剤投下点予測部20は、姿勢角および高度Lに基づいて、薬剤投下点の変位量DをD=L×tanθにより求めることができる。ロール角は、進行方向に沿う変位量に寄与し、ピッチ角は、進行方向側方への変位量に寄与する。
【0067】
補正部24は、ドローン100に吹き付ける風の風速と、ドローン100の高度Lと、に基づいて、ドローン100から吐出される薬剤が風により流される影響があるか否かを判定し、薬剤の流される距離が所定以上である場合には予測される薬剤投下点を補正する機能部である。
【0068】
補正部24は、重量推定部241と、対地速度算出部242と、対気速度算出部243と、風速算出部244と、補正要否判定部245と、補正実行部246と、を備える。
【0069】
重量推定部241は、ドローン100の総重量mを推定する機能部である。重量推定部241は、積載物の積載重量を含むドローン100の総重量mを推定してもよいし、変化し得る積載物の積載重量を推定した上で、重量が変化しない構成、例えばドローン100のフライトコントローラー501、回転翼101、モーター102その他補機の重量を加算することにより、積載物を含むドローン100の総重量mを推定してもよい。重量が変化し得る積載物は、本実施形態においては薬剤である。
【0070】
重量推定部241は、ドローン100の高度が変化しない状態において推進器が発揮する高さ方向の推力Tに基づいて、積載物の積載重量を含むドローン100の総重量mを推定してもよい。ドローン100の推進器が発揮する高さ方向の推力Tは、ドローン100の高度が変化しない状態において、ドローン100が受ける重力加速度gと釣り合っているためである。
【0071】
重量推定部241は、流量センサー510によって測定される薬剤タンク104からの吐出流量を積算して薬剤吐出量を求め、当初積載された薬剤量から薬剤吐出量を減算することにより、薬剤タンク104の重量を推定してもよい。本構成によれば、ドローン100の飛行状態に関わらず薬剤タンク104の重量を推定することができる。また、重量推定部241は、例えば薬剤タンク104内の液面高さを推定する機能を有していてもよい。重量推定部241は、薬剤タンク104内に配置される液面計又は水圧センサー等を用いて重量を推定してもよい。
【0072】
対地速度算出部242は、地面に対して実際に実現されるドローン100の速度、すなわちドローン100の対地速度を算出する機能部である。対地速度は、GPSドップラー504から空間の絶対速度を求めることで算出できる。また、対地速度は、ドローン100が有するGPSモジュールRTK504-1,504-2により求めることができる。さらに、対地速度は、6軸ジャイロセンサ505により取得されるドローン100の加速度を積分することによっても求めることが可能である。
【0073】
対気速度算出部243は、ドローン100の推進器が所定の対地速度を実現するために、風の影響を加味して発揮する稼働力を、無風状態における速度に変換したときの速度、すなわち対気速度を算出する機能部である。
【0074】
対気速度は、ドローン100の姿勢角θおよび重量に基づいて求めることができる。ドローン100が等速移動中又はホバリング中において、空気抵抗による抗力Fdと、対気速度vaとは、以下の式が成り立つ。
Fd=(1/2) × ρva 2 S×Cd (2)
なお、空気密度ρ、空気抵抗係数Cdである。前方投影面積等の代表面積Sは、ドローン100の大きさおよび形状に基づいてあらかじめ求められる値である。
また、姿勢角θは、抗力Fdとの間に、以下の式が成り立つ。
Fd=mg tanθ (3)
なお、mはドローン100の重量である。ドローン100が等速移動中又はホバリング中において、対気速度vaは、式(1)および(2)を解くことで、以下の式により求めることができる。
(4)
gは、重力加速度である。このように、ドローン100の姿勢角θおよび重量mに基づいて、ドローン100の対気速度vaを求めることができる。
【0075】
本実施形態においては、ドローン100の対気速度vaを等速移動中又はホバリング中、すなわち加速度が0の時に求めるものとして説明したが、加速度aを有する移動中においては、重量mと加速度aを掛け合わせた値を式(3)の抗力Fdに足すことで対気速度vaを求めることもできる。
【0076】
なお、姿勢角θは、ドローン100の回転翼101による発揮推力Tとの間に、以下の式が成り立つ。
Fd=T sinθ (5)
したがって、対気速度vaは、姿勢角θおよび発揮推力Tに基づいて求めることもできる。なお、発揮推力は、例えば回転翼101の回転数に基づいて推定することができる。
【0077】
風速算出部244は、ドローン100に吹き付ける風速を算出する機能部である。風速算出部244は、対気速度から対地速度を差し引くことにより、ドローン100に吹き付ける進行方向の風速を求めることができる。また、ドローン100の進行方向に直交する方向の対気速度は0であるから、対地速度を求めることで進行方向に直交する風の風速を求めることができる。風速算出部244は、対地速度および対気速度を、方向を加味してベクトルとして計算することにより、ドローン100に吹き付ける風の方向を求めることができる。すなわち、本構成によれば、ドローン100に別途の風速測定手段を搭載することなく、簡易な構成で、ドローン100に吹き付ける風の風速を求めることができる。
【0078】
なお、風速算出部244は、風速を直接検知する別途のセンサを有していてもよい。風速算出部244は、現在の姿勢角と無風状態の姿勢角との差に基づいて風速を算出してもよい。
【0079】
補正要否判定部245は、風速算出部244により算出される風速と、高度Lとに基づいて、薬剤が風により流される距離により薬剤投下点を補正する必要があるか否かを判定する機能部である。補正要否判定部245は、風速が所定以上、かつ高度Lが所定以上であるとき、薬剤投下点の補正が必要であると判定する。ダウンウォッシュが小さいドローンに本発明にかかる構成を搭載する場合においては、補正要否判定の閾値を小さく構成するとよい。
【0080】
補正実行部246は、補正要否判定部245により薬剤投下点の補正が必要であると判定される場合において、予測される薬剤投下点を補正する。補正実行部246は、風速に基づいて、予測される薬剤投下点を風下側に移動させる。薬剤投下点の変位量は、所定の風速未満においては十分無視できる。所定の風速以上においては、薬剤投下点の変位量は風速が大きいほど大きく、例えば風速の2乗に比例している。
【0081】
このように、薬剤投下点予測部20は、ドローン100の姿勢角θ、高度Lならびに風速および風向に基づいて、ある地点で吐出される薬剤が到達する薬剤投下点の、無風状態での投下点からの変位量を予測することができる。また、薬剤投下点予測部20は、予定されているドローン100の運転経路に当該変位量を足し合わせることで、薬剤投下点の座標を予測することができる。薬剤投下点予測部20は、上述に加えて、圃場の3次元形状を考慮することにより、薬剤が到達する地点の3次元位置座標を予測するように構成されていてもよい。
【0082】
退避決定部25は、ドローン100の姿勢角θが所定以上であるとき、ドローン100に退避行動を取らせることを決定する機能部である。姿勢角θが所定以上であるとき、モータ102は上限値に近い範囲で使用されるため、モータ102への制御値がモータ102の許容上限値を超える蓋然性が高くなる。モータ102への制御値が許容上限値を超えると墜落するおそれがあるため、ドローン100を退避させるとよい。
【0083】
退避行動とは、例えば、その場で通常の着陸動作を行う「緊急着陸」、ホバリングを例とする空中停止や、最短のルートで直ちに所定の帰還地点まで移動する、「緊急帰還」を含む。所定の帰還地点とは、あらかじめ飛行制御部21に記憶させた地点であり、例えば発着地点406である。所定の帰還地点とは、例えば使用者402がドローン100に近づくことが可能な陸上の地点であり、使用者402は帰還地点に到達したドローン100を点検したり、手動で別の場所に運んだりすることができる。
【0084】
緊急帰還においては、目標とする飛行速度および加速度を通常より低下させてもよい。モータ102への制御値がモータ102の上限許容値を超えるのを防ぐためである。
【0085】
さらに、退避行動は、すべての回転翼を停止させてドローン100をその場から下方に落下させる「緊急停止」も含んでもよい。
【0086】
さらにまた、退避行動とは、ドローン100の離陸を中断して離陸を禁止とする動作も含む。この離陸禁止動作は、例えばドローン100が地面から離れた直後において姿勢角を検知し、姿勢角が所定以上の場合に行う。また、離陸禁止動作は、離陸前において直前の飛行における姿勢角を参照し、当該姿勢角が所定以上だった場合には離陸を禁止する措置であってもよい。
【0087】
図12に示すように、薬剤投下点制御部30は、ドローン100の飛行態様を変更する構成として、飛行変更指令部31を備える。また、薬剤投下点制御部30は、薬剤600の散布態様を変更する構成として、薬剤制御部32を備える。
【0088】
飛行変更指令部31は、予測される薬剤投下点の変位量に基づいて、飛行制御部21に指令を送信し、ドローン100の速度、高度および水平方向の位置を変更させる機能部である。飛行変更指令部31は、吹き付ける風の風速ベクトルを、追い風、向かい風、および進行方向に直交する横風、ならびに地面に垂直な成分に分解し、それぞれの風速ベクトルに対応する指令を飛行制御部21に送信する。実際には、進行方向に沿う風および進行方向とは反対の風以外の風は、水平面において進行方向とは異なる方向に吹く風である。なお、地面に垂直な方向に分解される風速ベクトルは、各モーター102の回転数を一律に変化させるものであるので、ドローン100の姿勢角には影響を与えない。したがって、飛行変更指令部31は、地面に垂直な方向に分解される風速ベクトルに対しては、姿勢角の変化に基づく飛行変更の指令を生成しない。なお、垂直方向の風に対してドローン100の高度を維持するために、スラスト方向に生じる推力を調整する制御は適宜行われる。すなわち、上から下へ吹く風に対しては、モータ102の回転数を均等に情上昇させることで上向きの推力を生じさせ、下から上へ吹く風に対しては、モータ102の回転数を均等に推力を低下させる制御は行われてもよい。
【0089】
飛行変更指令部31は、速度変更指令部311と、高度変更指令部312と、経路変更指令部313と、を備える。
【0090】
速度変更指令部311は、予測される薬剤投下点の変位量に基づいて、ドローン100の速度を変更する指令を飛行制御部21に送信する。図13に示すように、追い風に対しては速度を上げる指令を送信する。追い風を受けているドローン100の対気速度は、対地速度よりも小さくなるため、ドローン100のピッチ角は、無風状態に比べて小さくなる。すなわち、薬剤投下点は、追い風により進行方向前方に変位する。そこで、速度変更指令部311は、ドローン100の速度を上げることで、ドローン100のピッチ角を大きくし、薬剤投下点を後方に変位させる。
【0091】
速度変更指令部311は、向かい風に対しては速度を下げる指令を送信する。向かい風を受けているドローン100の対気速度は、対地速度よりも大きくなるため、ドローン100のピッチ角は、無風状態に比べて大きくなる。すなわち、薬剤投下点は、進行方向後方に変位する。そこで、速度変更指令部311は、ドローン100の速度を下げることで、ドローン100のピッチ角を小さくし、薬剤投下点を前方に変位させる。速度変更指令部311は、ピッチ角が大きいほど速度を大きく変化させる。
【0092】
速度変更指令部311は、横風に対しては速度の変更を指令しない。速度変更指令部311は、速度を維持する指令を送信してもよいし、指令を送信しなくてもよい。横風は、ドローン100のピッチ角に影響を与えず、薬剤投下点を進行方向前後に変位させないためである。
【0093】
また、速度変更指令部311は、姿勢角が所定以上であるとき、風向に関わらず、目標とする飛行速度および加速度を低下させてもよい。姿勢角が所定以上であるとき、モータ102を上限値に近い範囲で使用するため、モータ102への制御値がモータ102の許容上限値を超えてしまうことにより、墜落するおそれがあるためである。
【0094】
高度変更指令部312は、予測される薬剤投下点の変位量に基づいて、ドローン100の高度を変更する指令を飛行制御部21に送信する。図13に示すように、高度変更指令部312は、向かい風、追い風および横風のいずれに対しても、高度を下げる指令を送信する。高度を下げることにより、姿勢角および風による薬剤投下点の変位量を少なくするためである。高度変更指令部312は、姿勢角および風速が大きいほど、高度を低下させる。
【0095】
経路変更指令部313は、予測される薬剤投下点の変位量に基づいて、ドローン100の水平方向の位置を変更する指令を飛行制御部21に送信する。経路変更指令部313は、追い風および向かい風に対しては、水平方向の位置の変更を指令しない。経路変更指令部313は、位置を維持する指令を送信してもよいし、指令を送信しなくてもよい。
【0096】
経路変更指令部313は、横風の成分を含む、水平面においてドローンの進行方向とは異なる方向に吹く風に対して、水平方向の位置を進行方向左右側方であって風上側に移動させる指令を、飛行制御部21に送信する。ドローン100は、横風によってロール角が大きくなり、薬剤投下点が運転経路から側方に変位するためである。
【0097】
図12に示すように、薬剤制御部32は、散布流量制御部321と、吐出点制御部322と、を備える。
【0098】
図13に示すように、散布流量制御部321は、ドローン100の姿勢角に基づいて、薬剤ノズル103-1,103-2,103-3,103-4から吐出される薬剤600の流量、すなわち散布流量を制御する。散布流量制御部321は、追い風に対しては散布流量を上げる処理を行う。追い風の場合、ドローン100の速度が上がるため、通常の速度で飛行して散布を行う場合と同様の散布密度を担保するためには、散布流量を上げる必要があるためである。
【0099】
散布流量制御部321は、向かい風に対しては散布流量を下げる処理を行う。向かい風の場合、ドローン100の速度が下がるため、通常の速度で飛行して散布を行う場合と同様の散布密度を担保するためには、散布流量を下げる必要があるためである。
【0100】
散布流量制御部321は、ピッチ角が大きいほど流量を大きく変化させる。投下される薬剤600は、投下点に到達するまでの間に風で流される可能性があるため、薬剤投下点は、ピッチ角と風の強さが重畳的に影響する。しかしながら、向かい風および追い風により風で流される薬剤の薬剤投下点は、ドローン100が直線的に移動する場合においてはドローン100の運転経路上において一律に移動されることになる。したがって、散布流量制御部321は、主に姿勢角θに基づいて散布流量を変更すれば足りる。散布流量制御部321は、ドローン100の速度に基づいて散布流量を変化させてもよい。すなわち、ドローン100の速度が速いほど、散布流量を上げてもよい。
【0101】
散布流量制御部321は、横風に対しては散布流量を変化させる処理を行わない。横風の場合、ドローン100の速度は変化しないためである。
【0102】
散布流量制御部321は、姿勢角の絶対値が所定以上となる場合、薬剤の吐出を停止させてもよい。姿勢角が正の値において所定以上となると、薬剤600を前方へ巻き上げてしまい、薬剤600が意図しない地点へ飛散してしまうおそれがあるためである。また、姿勢角が負の値において所定以下となると、薬剤600の吐出方向とドローン100の進行方向が同方向になり、薬剤を後方へ巻き上げてしまうためである。このとき、ドローン100は、風速が小さくなるのをホバリングで待機してもよいし、発着地点406に帰還してもよい。
【0103】
吐出点制御部322は、予測される薬剤投下点の変位量に基づいて、ドローン100が薬剤散布を開始する地点又は旋回後の所定地点において、直線移動中に薬剤600の吐出を開始する吐出開始点、および旋回前の所定地点又は薬剤を終了する地点において、薬剤600の吐出を停止する吐出停止点を制御する機能部である。なお、吐出点制御部322は、吐出開始点および吐出停止点を、水平方向の座標に代えて、旋回地点又は動作を中断する地点への到達予定時刻等を基準とした時間又は時刻で決定してもよい。
【0104】
図14に示すように、無風状態における吐出開始点601および吐出停止点602は、直線移動の開始位置付近および終了位置付近に規定される。無風状態においては、薬剤投下点は、ドローン100の位置に対して進行方向やや後方に位置する。ドローン100は移動中において進行方向にやや前傾しているためである。したがって、無風状態における吐出開始点601および吐出停止点602は、散布範囲の端部より進行方向やや前方に規定される。
【0105】
図13および図14に示すように、吐出点制御部322は、追い風に対しては吐出開始点601aおよび吐出停止点602aを進行方向後方に移動させる。ドローン100の対地速度が同一の場合、追い風を受けているドローン100の対気速度は、無風状態のドローン100の対気速度に比べて小さい。したがって、ドローン100の姿勢角は小さくなる。すなわち、薬剤投下点は、ドローン100の位置に対してやや前方になるためである。吐出開始点601bおよび吐出停止点602bを進行方向後方に移動させることで、薬剤投下点を意図した地点とすることができる。
【0106】
吐出点制御部322は、向かい風に対しては吐出開始点601bおよび吐出停止点602bを進行方向前方に移動させる。ドローン100の対地速度が同一の場合、追い風を受けているドローン100の対気速度は、無風状態のドローン100の対気速度に比べて大きい。したがって、ドローン100の姿勢角は大きくなる。すなわち、薬剤投下点は、ドローン100の位置に対してやや後方になるため、吐出開始点601bおよび吐出停止点602bを進行方向前方に移動させることで、薬剤投下点を意図した地点とすることができる。
【0107】
吐出点制御部322は、横風に対しては吐出開始点および吐出停止点を変化させる処理を行わない。横風の場合、薬剤投下点は進行方向に変化しないためである。
【0108】
なお、薬剤投下点制御部30は、それぞれ姿勢角θおよび風速のいずれか、もしくは薬剤投下点の変位量に関し所定の閾値を有し、風速が所定閾値以上である場合に所定の指令および制御を行うように構成されていてもよい。わずかな風速の変化に応じて過度に応答する制御とすると、過剰な計算負荷が発生するおそれがあるためである。
【0109】
なお、薬剤投下点制御部30は、薬剤投下点の変位量に応じて高度、速度、水平方向の位置、吐出流量、ならびに吐出開始点および吐出停止点の各制御値を無段階に変更するものとして説明したが、これに代えて、現在の姿勢角と無風状態の姿勢角との差、薬剤投下点の変位量、又は風速を複数の段階に区分けし、区分けされる段階に応じて各制御値を切り替えるように構成されていてもよい。この構成によれば、計算負荷をより低減することができる。なお、薬剤投下点制御部30は、無風状態の姿勢角と速度との対応関係があらかじめ記憶されていて、対気速度に基づいて無風状態の姿勢角を算出することができるように構成されていてもよい。
【0110】
消費エネルギー予測部40は、薬剤投下点制御部30により行われる、ドローン100の作業態様の制御に関する情報を取得して、予想される消費エネルギー量を補正する機能部である。薬剤投下点制御部30により、ドローン100の動作が変更されると、消費エネルギー量が増加する可能性があるためである。特に、ドローン100に加減速を行わせる場合、消費エネルギー量は増大する。
【0111】
消費エネルギー予測部40は、薬剤投下点制御部30によりドローン100の動作が継続して変更される場合、運転経路全体における消費エネルギーを予測する。消費エネルギー予測部40は、動作の変更に伴う消費エネルギーの増加量を計算して、当初予測された消費エネルギーに加算することで補正後の消費エネルギーを算出してもよいし、動作の変更後の飛行計画に基づいて、全ての消費エネルギーを積算してもよい。消費エネルギー予測部40は、補正後の消費エネルギーに基づいて、バッテリ502の交換タイミングや、搭載されるバッテリ502による飛行可能時間の予測値を更新する。更新された交換タイミングおよび飛行可能時間の予測値は、操作器401等が有する表示手段により、使用者に通知されてもよい。
【0112】
●フローチャート
図15に示すように、まず、重量推定部241は、ドローン100の総重量を推定する(S11)。次いで、姿勢角検出部22は、ドローン100の水平方向に対する進行方向の姿勢角を検出する(S12)。対地速度算出部242は、ドローン100の対地速度を算出する(S13)。対気速度算出部243は、ドローン100の対気速度を算出する(S14)。風速算出部244は、対地速度および対気速度に基づいて、ドローン100に吹き付ける風速を算出する(S15)。なお、ステップS11およびS12と、ステップS13と、ステップS14と、は順不同であり、同時に行ってもよい。また、風速算出部244が別途風速を計測するセンサを有している場合は、対地速度および対気速度を算出するステップに代えて、当該センサにより風速を計測するステップを実行してもよい。
【0113】
散布流量制御部321は、風速が第1閾値以上か否かを判定し(S16)、第1閾値以上である場合、薬剤600の散布を停止する(S17)。このとき、操作器401、小型携帯端末401a、又はドローン100自身が有する通知方法により、使用者にその旨を理由と共に発報してもよい。
【0114】
風速が第1閾値未満であるとき、高度変更指令部312は、風速が第1閾値未満であって第1閾値より小さい第2閾値以上であるか否かを判定する(S18)。風速が第2閾値以上であるとき、高度変更指令部312は、高度を下げる(S19)。
【0115】
補正要否判定部245は、風速に基づいて、風の影響による薬剤投下点の補正を行うか否かを判定する(S20)。具体的には、補正要否判定部245は、ドローン100に吹き付けている風の風速が第3閾値以上であるかを判定する。第3閾値は、第2閾値以上および以下であってもよいし、第2閾値と同一であってもよい。当該風の風速が第3閾値以上であるとき、補正実行部246は、風速に基づいて予想される薬剤投下点を補正する(S21)。
【0116】
経路変更指令部313は、ドローン100に横風が吹き付けているか否かを判定し(S22)、横風が吹き付けている場合は、水平方向の位置を進行方向と直交する方向に移動させる(S23)。
【0117】
速度変更指令部311は、追い風又は向かい風があるか否かを判定し(S24)、追い風又は向かい風がある場合は、速度を変更する(S25)。また、散布流量制御部321は、追い風又は向かい風の風速、もしくはドローン100の速度に基づいて薬剤600の散布流量を制御する(S26)。さらに、吐出点制御部322は、吐出開始点および吐出終了点を変更する(S27)。ステップS22乃至S23と、ステップS24乃至S26は、順不同である。また、ステップS23乃至S25は、同時に実行されてもよい。
【0118】
ステップS18乃至S19は、ステップS22乃至S27のいずれかの工程と同時、又は、ステップS22乃至S27の後に実行されてもよい。ただし、ドローン100の高度が変更されるか否かによって、速度、水平方向の位置、散布流量、および吐出点の各最適値は異なるため、変更後の高度を算出した上で、当該高度に基づいてステップS22乃至S27を実行する必要がある。
【0119】
ステップS11乃至S26の処理は、ドローン100の重量を検出可能なタイミングで実行可能であり、例えば等速飛行中又はホバリング中に実行可能である。したがって、ドローン100の離陸直後や、等速飛行中、旋回時に行うことが想定される。ただし、モーター102の発揮推力が急激に大きくなった場合など、風速が大きく変化したことが予想される場合は、動作を中断してホバリングを行い、ステップS11乃至S27の処理を実行してもよい。
【0120】
各ステップにおいて、各ステップで消費される消費エネルギーを予測し、バッテリ502残量や飛行可能時間の予測値を再計算してもよい。また、再計算の都度又は別途のタイミングで、再計算で得られる情報を操作器401等に表示してもよい。
【0121】
(本願発明による技術的に顕著な効果)
本発明に係るドローンにおいては、機体の姿勢角に応じて飛行を制御することで、薬剤の投下点を調整し、薬剤による圃場への効果を実効たらしめることができる。また、ドローンに搭載されている薬剤ノズルの吐出方向を機構的に制御する構成に比べて、構成が簡素になり、軽量化することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15