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特許7176801変換方法、変換剤、ローヤルゼリー組成物の製造方法、及びラクトバチルス属細菌
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】変換方法、変換剤、ローヤルゼリー組成物の製造方法、及びラクトバチルス属細菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20221115BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20221115BHJP
   C12P 7/6409 20220101ALI20221115BHJP
   A23L 33/00 20160101ALI20221115BHJP
   A23L 21/20 20160101ALI20221115BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12N1/20 A
C12P7/6409
A23L33/00
A23L21/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021540969
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2020031319
(87)【国際公開番号】W WO2021033726
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2019152210
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03106
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】板谷 颯
(72)【発明者】
【氏名】八巻 礼訓
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221845(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/108347(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101092346(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109402182(CN,A)
【文献】J. Vet. Med. Sci., 2014, Vol.76, No.4, pp.491-498
【文献】Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 2018, Vol.68, pp.703-708
【文献】Database GenBank, [online], Accession No. AB777202 <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AB777202> 2014.05.01, [検索日2020.10.02] Definition: Lactobacillus sp. DAT705 gene for 16S ribosomal RNA,partial sequence
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するラクトバチルス・パニサピウムM1株(NITE BP-03106)を10-ヒドロキシ-2-デセン酸と反応させることを含む、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する方法。
【請求項2】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するラクトバチルス・パニサピウムM1株(NITE BP-03106)を、ローヤルゼリー中の10-ヒドロキシ-2-デセン酸と反応させることを含む、ローヤルゼリー組成物の製造方法。
【請求項3】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するラクトバチルス・パニサピウムM1株(NITE BP-03106)を含む、10-ヒドロキシ-2-デセン酸から10-ヒドロキシデカン酸への変換剤。
【請求項4】
クトバチルス・パニサピウムM1株(NITE BP-03106)
【請求項5】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有する、請求項に記載の細菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換方法、変換剤、ローヤルゼリー組成物の製造方法、及びラクトバチルス属細菌に関する。
【背景技術】
【0002】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び10-ヒドロキシデカン酸は、天然のローヤルゼリーに含まれる成分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際出願第2016/170959号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ローヤルゼリーに含まれる成分によるいくつかの生理活性は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸よりも10-ヒドロキシデカン酸において高いことが確認されている(例えば特許文献1)。10-ヒドロキシ-2-デセン酸の存在は、10-ヒドロキシデカン酸による生理活性を阻害する場合もある。
【0005】
本発明の一側面は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換することができる方法及び変換剤を提供することを目的とする。また、本発明の別の一側面は、10-ヒドロキシデカン酸含有量が高められたローヤルゼリー組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明の別の一側面は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を高効率で10-ヒドロキシデカン酸に変換することができるラクトバチルス属細菌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するラクトバチルス属細菌を10-ヒドロキシ-2-デセン酸と反応させることを含む、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する方法を提供する。
【0007】
上記製造方法において、ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・プランタルム、又は配列番号1若しくは2で特定される塩基配列に対して95%以上の相同率を示す16s rDNA塩基配列を有する細菌であることが好ましい。
【0008】
本発明の別の一側面は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するラクトバチルス属細菌を、ローヤルゼリー中の10-ヒドロキシ-2-デセン酸と反応させることを含む、ローヤルゼリー組成物の製造方法を提供する。
【0009】
上記製造方法において、ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・プランタルム、又は配列番号1若しくは2で特定される塩基配列に対して95%以上の相同率を示す16s rDNA塩基配列を有する細菌であることが好ましい。
【0010】
本発明の更に別の一側面は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するラクトバチルス属細菌を含む、10-ヒドロキシ-2-デセン酸から10-ヒドロキシデカン酸への変換剤を提供する。
【0011】
上記変換剤において、ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・プランタルム、又は配列番号1若しくは2で特定される塩基配列に対して95%以上の相同率を示す16s rDNA塩基配列を有する細菌であることが好ましい。
【0012】
本発明の更にまた別の一側面は、配列番号1又は2で特定される塩基配列に対して99%以上の相同率を示す16s rDNA塩基配列を有するラクトバチルス属細菌を提供する。
【0013】
上記ラクトバチルス属細菌は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するものであってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によれば、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換することができる方法及び変換剤を提供することができる。また、本発明の別の一側面によれば、10-ヒドロキシデカン酸含有量が高められたローヤルゼリー組成物を提供することができる。本発明の更に別の一側面によれば、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を高効率で10-ヒドロキシデカン酸に変換することができるラクトバチルス属細菌を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、10-ヒドロキシ-2-デセン酸は、trans-10-ヒドロキシ-2-デセン酸を指し、「10-HDA」とも表記される。本明細書において、10-ヒドロキシデカン酸は「10HDAA」とも表記される。
【0016】
[変換方法]
本発明の一側面は、10-HDAを10HDAAに変換する方法(以下、単に「変換方法」ともいう。)に関する。該変換方法は、10-HDAを10HDAAに変換する能力を有するラクトバチルス属細菌を10-HDAと反応させることを含む。該ラクトバチルス属細菌と10-HDAとを反応させることにより、10-HDAの少なくとも一部を10HDAAに変換することができる。したがって本実施形態に係る変換方法は、該ラクトバチルス属細菌と10-HDAとを反応させることにより10HDAAを生成する方法ということもできる。
【0017】
(ラクトバチルス属細菌)
本実施形態に係る変換方法において用いられるラクトバチルス属細菌は、10-HDAを10HDAAに変換する能力を有するものであればよい。ラクトバチルス属細菌は、好気条件及び嫌気条件のいずれでも培養可能なものであることが好ましい。ラクトバチルス属細菌は、グルコース、マルトース、フルクトース、スクロース、セロビオース及びラクチュロースからなる群から選ばれる1種以上の糖に対して資化性を示すものであることが好ましく、グルコース、マルトース、フルクトース、スクロース、セロビオース及びラクチュロースに対して資化性を示すものであることがより好ましい。
【0018】
10-HDAを10HDAAに変換する能力を有するラクトバチルス属細菌は、例えば、様々な環境から採取したラクトバチルス属細菌を単離し、それぞれの細菌を10-HDAを含む培地中で培養し、10-HDAから10HDAAへの変換能を評価し、変換能を有するものを選択して得ることができる。
【0019】
10-HDAから10HDAAへの変換能は、例えば、10-HDAを含む培地で細菌を培養することにより評価することができる。具体的には例えば、次の方法で評価することができる。10-HDAを含む培地にサンプルを添加し、培養器中で適切な条件下(例えば30~37℃、MRS培地)で培養する。得られた培養液の上清を採取する。培養液上清に含まれる10-HDA及び10HDAAの濃度を高速液体クロマトグラフィーによって測定する。培養前後の10-HDA及び10HDAAの濃度に基づき、変換能を評価する。
【0020】
本実施形態に係る変換方法において用いられるラクトバチルス属細菌は、10-HDAを約0.18%の濃度になるように添加したMRS液体培地(pH6.5)を用いて35℃で120時間培養した後に培養液中に検出される10HDAA量が、培養前に添加した10-HDA量の5質量%以上であるものであってよく、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であるものであることが好ましい。
【0021】
上述の方法で採取したサンプルから単離した細菌の同定、及び性質等の解析は、公知の種々の同定試験方法又は市販の同定キットを用いて行うことができる。また、16s rDNA塩基配列を解析し、相同性検索等により細菌の同定を行うことができる。
【0022】
本実施形態に係る変換方法において用いられるラクトバチルス属細菌は、配列番号1又は2で特定される塩基配列に対して95%以上の相同率を示す16s rDNA塩基配列を有することが好ましい。このようなラクトバチルス属細菌は、10-HDAから10HDAAへの変換能が高いため好ましい。ラクトバチルス属細菌の16s rDNA塩基配列は、配列番号1又は配列番号2で特定される塩基配列に対する相同率が、95%以上であってよく、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、99.9%以上であることが好ましい。相同率は100%であってもよい。
【0023】
本実施形態に係る変換方法において用いられるラクトバチルス属細菌は、例えば、ラクトバチルス・パニサピウム(Lactobacillus panisapium)であってもよい。ラクトバチルス・パニサピウムとしては、後述の実施例に示すQB3-1-4、QB3-1-9、QB3-1-10、QB3-2-4(これら4株を総称して「ラクトバチルス・パニサピウムM2株」とも称する。)又はQB9-1-6(「ラクトバチルス・パニサピウムM1株」とも称する。)であることが好ましい。これらの菌株は、10-HDAから10HDAAへの変換能が極めて高いため好ましい。
【0024】
ラクトバチルス・パニサピウムM1株は、受託番号NITE BP-03106として独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されており、入手可能である。
【0025】
本実施形態に係る変換方法において用いられるラクトバチルス属細菌は、ラクトバチルス・パニサピウムM1株に対してANI(Average Nucleotide Identity)値が98.3%以上であるものであってもよく、ANI値が98.5%以上、99%以上、99.5%以上のものであってもよい。ANI値はANI解析によりANI calculator(http://enve-omics.ce.gatech.edu/ani/index)を用いて算出することができる。
【0026】
本実施形態に係る変換方法において用いられるラクトバチルス属細菌は、例えば、ラクトバチルス・プランタルムであってもよい。ラクトバチルス・プランタルムとしては例えば、ラクトバチルス・プランタルムb240(FERM BP-10065)であってよい。
【0027】
(基質)
本実施形態に係る変換方法における基質としては、合成又は単離された10-HDAを単独で用いてもよく、10-HDA含有組成物を用いてもよい。10-HDA含有組成物としては、例えばローヤルゼリーであってよい。
【0028】
本実施形態に係る変換方法における基質としてのローヤルゼリーは、例えば生ローヤルゼリーであってよく、生ローヤルゼリーに処理を施したローヤルゼリー処理物であってもよい。生ローヤルゼリーは、例えば、常法に従い養蜂産品として入手することができる。
【0029】
ローヤルゼリー処理物としては、生ローヤルゼリーを濃縮又は希釈したローヤルゼリー濃縮物又は希釈物、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末、生ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理した酵素分解ローヤルゼリー、生ローヤルゼリーをエタノール等の有機溶媒で抽出したローヤルゼリーエタノール抽出物等のローヤルゼリー有機溶媒抽出物などが挙げられる。ローヤルゼリー処理物は複数の処理が施されたものであってもよい。ローヤルゼリーは酵素分解及び粉末化された酵素分解ローヤルゼリー粉末であることが好ましい。酵素分解ローヤルゼリー粉末を用いると、より高い生理活性を得ることができ、また、アレルギー性が低減されているため好ましい。
【0030】
ローヤルゼリー濃縮物は、例えば、生ローヤルゼリーから水分を除去することにより得ることができる。ローヤルゼリー希釈物は、例えば、生ローヤルゼリーに水分を添加することにより得ることができる。
【0031】
ローヤルゼリー粉末は、例えば、凍結乾燥及び噴霧乾燥等の本技術分野における公知の方法により生ローヤルゼリーを粉末化することにより得ることができる。また、凍結乾燥又は噴霧乾燥後に粉砕機(例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル)により粉砕してローヤルゼリー粉末を得てもよい。
【0032】
酵素分解ローヤルゼリーは、例えば、生ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理することで得ることができる。タンパク質分解酵素としては、例えば、エンドペプチダーゼ作用を有する酵素、エキソペプチダーゼ作用を有する酵素、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素が挙げられる。タンパク質分解酵素としては、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の少なくとも一方を有している酵素であればよく、少なくともエンドペプチダーゼ作用を有する酵素が好ましく、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方の作用を有する酵素がより好ましい。ここで、エンドペプチダーゼ作用は、非末端のアミノ酸のペプチド結合を分解する作用であり、エキソペプチダーゼ作用は、末端のアミノ酸のペプチド結合を分解する作用である。
【0033】
タンパク質分解酵素には、エキソペプチダーゼ作用のみを有する酵素、エンドペプチダーゼ作用のみを有する酵素、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素が存在する。エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素は、エンドペプチダーゼ作用の方が強い場合には、「エンドペプチダーゼ作用を有する酵素」とし、エキソペプチダーゼ活性の方が強い場合には、「エキソペプチダーゼ作用を有する酵素」とし、エキソペプチダーゼ作用とエンドペプチダーゼ作用が同等又はほぼ同等の場合には、「エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素」とする。なお、同等又はほぼ同等とは、エキソペプチダーゼ作用に対するエンドペプチダーゼ作用の割合(活性比)が、0.8倍~1.2倍であることを意味する。
【0034】
エンドペプチダーゼ作用を有する酵素としては、例えば、動物由来のエンドペプチダーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、植物由来のエンドペプチダーゼ(例えば、パパイン等)、又は乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌若しくは放線菌等の微生物由来のエンドペプチダーゼが挙げられる。エンドペプチダーゼ作用を有する酵素のより具体的な例としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)産生ペプチダーゼ(商品名:オリエンターゼ22BF、ヌクレイシン)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)産生ペプチダーゼ(商品名:アルカラーゼ)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillusstearothermophilus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼS)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)産生ペプチダーゼ(商品名:ニュートラーゼ)、バチルス属産生ペプチダーゼ(商品名:プロタメックス)を挙げることができる。
【0035】
エキソペプチダーゼ作用を有する酵素としては、例えば、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、又は乳酸菌、アスペルギルス属菌若しくはリゾープス属菌等の微生物由来のエキソペプチダーゼが挙げられる。エキソペプチダーゼ作用を有する酵素のより具体的な例としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)産生ペプチダーゼ(商品名:ウマミザイムG、Promod 192P、Promod 194P、スミチームFLAP)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)産生ペプチダーゼ(商品名:Sternzyme B15024)、アスペルギルス属産生ペプチダーゼ(商品名:コクラーゼP)、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ペプチダーゼR)を挙げることができる。
【0036】
エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素としては、例えば、パンクレアチン、ペプシン等が挙げられる。エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方の作用を有する酵素のより具体的な例としては、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)産生ペプチダーゼ(商品名:アクチナーゼAS)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼA、フレーバーザイム、プロテアックス)、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼP)を挙げることができる。
【0037】
生ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理する際の反応条件(タンパク質分解酵素の使用量、反応時の温度、pH、反応時間等)は、使用するタンパク質分解酵素の種類等に応じて、適宜設定すればよい。具体的な反応条件として、例えば、タンパク質分解酵素としてエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有するアクチナーゼAS(科研製薬株式会社)を用いる場合、タンパク質分解酵素の使用量はローヤルゼリー100gあたり1g、反応時の温度45~55℃、pH8.5~9.5、反応時間2~4時間を例示することができる。
【0038】
ローヤルゼリー有機溶媒抽出物は、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン等の有機溶媒を溶媒として生ローヤルゼリーを抽出することで得ることができる。抽出時間は、原料として用いられる生ローヤルゼリーの形態、溶媒の種類及び量、抽出の際の温度及び攪拌条件等に応じて適宜設定することができる。抽出後、ろ過、遠心分離等により固形分を除去してもよい。また、抽出された溶液をそのまま用いてもよいし、当該溶液から溶媒を除去して、濃縮液又は粉末として用いてもよい。ローヤルゼリー有機溶媒抽出物としては、ローヤルゼリーエタノール抽出物であることが好ましい。
【0039】
ローヤルゼリーは、市販されているものを用いてもよい。ローヤルゼリーの具体例としては、例えば、ローヤルゼリーFD末(株式会社中原)、ローヤルゼリーエキスSF(松浦薬業株式会社)、脱蛋白ローヤルゼリー粉末F(丸善製薬株式会社)、脱蛋白ローヤルゼリーエキス(アピ株式会社)等が挙げられる。
【0040】
基質としての10-HDAとラクトバチルス属細菌とを反応させることにより、10-HDAの少なくとも一部を10HDAAに変換することができる。10-HDAとラクトバチルス属細菌との反応は、例えば、上記ラクトバチルス属細菌を10-HDAの共存下で培養することにより、又は予め培養して用意したラクトバチルス属細菌と10-HDAを含む媒体とを混合することにより行うことができる。具体的には例えば、前培養したラクトバチルス属細菌を、10-HDA含有培地で培養(本培養)することにより、10-HDAの少なくとも一部が変換することにより生じた10HDAAを含む培養液を得ることができる。
【0041】
ラクトバチルス属細菌の培養は、例えば、各ラクトバチルス属細菌の培養に適した一般的な条件で行うことができる。培養温度は例えば、25~40℃であってよく、好ましくは30~38℃である。培地のpHは例えば5~8であってよく、好ましくは6~7である。前培養の培養時間は、例えば12~60時間であってよい。10-HDA含有培地での本培養の培養時間は、例えば60~300時間であってよく、90~180時間が好ましく、100~130時間がより好ましい。
【0042】
ラクトバチルス属細菌の培養は、好気条件であってもよく、嫌気条件であってもよい。より効率的に10-HDAを10HDAAに変換する観点から、培養は嫌気条件で行うことが好ましい。
【0043】
ラクトバチルス属細菌を培養するための培地としては、ラクトバチルス属細菌培養に一般的に用いられる、炭素源、窒素源、無機塩類等の栄養成分を含む各種の培地を用いることができる。ラクトバチルス属細菌に適した培地としては、例えば、MRS培地が挙げられる。本培養用の培地としては、これらの培地に10-HDA又は10-HDA含有組成物を添加したものを用いることができる。また、本培養用の培地としては、ローヤルゼリー等の10-HDA含有組成物を、適宜水又は緩衝液等の溶媒で希釈したものを用いてもよい。
【0044】
本培養に用いる10-HDA含有培地における10-HDAの濃度は、例えば、0.001~5質量%であってよく、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.2質量%であることがより好ましい。
【0045】
本培養に用いる10-HDA含有培地として、ローヤルゼリー含有培地を用いる場合は、培地全量に対するローヤルゼリー濃度(固形分)は0.1~20質量%であってよく、0.2~10質量%であることが好ましく、0.5~3.5質量%であることがより好ましい。本培養用の培地としてローヤルゼリー含有培地を用いる場合は、培地におけるローヤルゼリー濃度が低いほどより効率的に10-HDAを10HDAAに変換できる傾向がある。
【0046】
10-HDAとラクトバチルス属細菌との反応により生成した10HDAAは、例えば、培養液から菌体を分離して上清を回収し、必要に応じて濃縮、精製等の処理を行って回収することができる。10HDAAを含む培養液は、そのまま食品、化粧品、医薬品、医薬部外品等の製品に用いてもよい。
【0047】
[ローヤルゼリー組成物の製造方法]
本実施形態の一側面は、10-HDAを10HDAAに変換する能力を有するラクトバチルス属細菌を、ローヤルゼリー中の10-HDAと反応させることを含む、ローヤルゼリー組成物の製造方法に関する。当該製造方法により得られるローヤルゼリー組成物においては、原料のローヤルゼリーよりも、10-HDAの濃度が低減され、10HDAAの濃度が高められている。そのため、上記製造方法によって、10HDAAに基づく各種生理活性効果が高められたローヤルゼリー組成物を得ることができる。このようなローヤルゼリー組成物は、10HDAAに基づく生理活性を期待して摂取する際の摂取量を低減することができるため好ましい。
【0048】
本実施形態に係るローヤルゼリー組成物の製造方法は、上述の変換方法において、基質としてローヤルゼリーを用いることにより行うことができる。基質として用いるローヤルゼリーの具体的な実施態様は、上述の変換方法において述べたローヤルゼリーと同様の態様を適用できる。基質としてのローヤルゼリーは、生ローヤルゼリー又は酵素分解ローヤルゼリーであることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係るローヤルゼリー組成物の製造方法によって得られるローヤルゼリー組成物は、10HDAAを含む。得られるローヤルゼリー組成物は、その他に例えば、残存10-HDA、タンパク質、炭水化物、脂質、灰分、遊離アミノ酸、ビタミン、ミネラル等のローヤルゼリー由来成分を含んでいてよい。また、得られるローヤルゼリー組成物は、例えば、上述のラクトバチルス属細菌の菌体(生菌体又は死菌体)、培養に用いた培地に由来する成分等の、ローヤルゼリーに由来しない成分を含んでいてもよい。
【0050】
上記製造方法によって得られるローヤルゼリー組成物における10HDAA含有量は、ローヤルゼリー組成物の固形分全量に対して、例えば、1.1質量%超であってよく、1.2質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、2.5質量%以上、3.0質量%以上、3.5質量%以上、4.0質量%以上、4.5質量%以上、5.0質量%以上、5.5質量%以上、6.0質量%以上、6.5質量%以上、7.0質量%以上、8.0質量%以上、又は10.0質量%以上であってよい。10HDAA含有量は、ローヤルゼリー組成物の固形分全量に対して、例えば、50質量%以下、又は10質量%以下であってもよい。
【0051】
上記製造方法によって得られるローヤルゼリー組成物における10-HDA含有量は、ローヤルゼリー組成物の固形分全量に対して、例えば、7.0質量%以下であってよく、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.2質量%以下、1.0質量%以下、0.8質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下であってよい。上記ローヤルゼリー組成物は、10-HDAを含有しない、すなわち10-HDA含有量が0質量%であってもよい。
【0052】
上記製造方法によって得られるローヤルゼリー組成物は、医薬品、医薬部外品、食品組成物又は化粧品等の製品としてそのまま用いられてもよく、医薬品、医薬部外品、食品組成物又は化粧品等の製品の一成分として用いられてもよい。ローヤルゼリー組成物を含む製品は、例えば、製品の製造工程における中間製品に、上述の方法で得られたローヤルゼリー組成物を添加することにより得ることができる。
【0053】
医薬品、医薬部外品又は食品組成物の一成分としてローヤルゼリー組成物を用いる場合、医薬品、医薬部外品又は食品組成物は、ローヤルゼリー組成物以外の成分として、例えば、薬学的に許容される成分(例えば、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤)、食品として許容される成分(例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤)を含んでいてもよい。
【0054】
ローヤルゼリー組成物を含む製品は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)等の剤形であってもよい。これらの各種製剤は、例えば、上述の方法により得られたローヤルゼリー組成物と、必要に応じて他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。
【0055】
上述の方法により得られるローヤルゼリー組成物を食品組成物として又は食品組成物の一成分として用いる場合、該食品組成物は、食品の3次機能、すなわち体調調節機能が強調されたものであることが好ましい。食品の3次機能が強調された製品としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント及び特定保健用食品を挙げることができる。
【0056】
食品組成物としては例えば、コーヒー、ジュース及び茶飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、並びに、日本酒、洋酒、果実酒及びハチミツ酒等の酒などの飲料;カスタードクリーム等のスプレッド;フルーツペースト等のペースト;チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ及びプリン等の洋菓子;大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ及び羊羹等の和菓子;アイスクリーム、アイスキャンデー及びシャーベット等の氷菓;カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等の調理済みの食品;ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料及びスープの素等の調味料などが挙げられる。
【0057】
化粧品の一成分としてローヤルゼリー組成物を用いる場合、化粧品は、ローヤルゼリー組成物以外の成分として、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて含んでいてよい。
【0058】
化粧品には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等の部位に適用されるあらゆる化粧品が含まれる。
【0059】
本実施形態に係る化粧品の剤形は、例えば、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等であってよい。上記化粧品は、例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク、ミスト、UV予防化粧品等の基礎化粧品、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧品、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、へアートリートメント、整髪料、へアートニック剤、ヘアミスト、ヘアフォーム、ヘアリキッド、ヘアジェル、ヘアスプレー、育毛剤、制汗剤、入浴剤、マウスリンス、口腔化粧品、歯磨剤などであってよい。
【0060】
[変換剤]
本実施形態の一側面は、10-HDAから10HDAAへの変換剤(以下、単に「変換剤」ともいう。)に関する。変換剤は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を10-ヒドロキシデカン酸に変換する能力を有するラクトバチルス属細菌を含む。本実施形態に係る変換剤は、上記ラクトバチルス属細菌に加え、上記ラクトバチルス属細菌の培養時に用いられる培地となる少なくとも一部の成分を含んでいてもよい。
【0061】
本実施形態に係る変換剤は、例えば、10-HDAを含有する培地に播種して用いることができる。本実施形態に係る変換剤を10-HDA含有培地に播種して、該ラクトバチルス属細菌を10-HDAを反応させることにより、10-HDAの少なくとも一部を10HDAAに変換する、すなわち10HDAAを生成することができる。また、変換剤が培地成分を含む場合は、変換剤を10-HDA又は10-HDA含有組成物と混合し、必要に応じて更に培地成分を添加して培養することにより、10-HDAを10HDAAに変換することができる。
【0062】
本実施形態に係る変換剤において用いられるラクトバチルス属細菌の具体的な実施態様は、上述の変換方法において述べたラクトバチルス属細菌の態様と同様の態様を適用できる。また、本実施形態に係る変換剤に必要に応じて含まれる培地成分、及び変換剤を適用する10-HDA含有培地についても、上述の変換方法における10-HDA含有培地の場合と同様の態様を適用できる。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
各試験例に用いた培地及び培養方法の詳細を以下に示す。
【0065】
[MRS平板培地の調製]
蒸留水1600mlにMRS88g及び寒天19.2gを溶解することにより、MRS培地を調製した。MRS培地を、オートクレーブを用いて121℃、20分間滅菌した後、60℃で保温した。滅菌したMRS培地を平板に20mlずつ投入して冷却することによりMRS平板培地を作製した。
【0066】
[MRS液体培地の調製]
蒸留水2000mlにMRS Brothを110g添加して撹拌し、得られた混合液を、オートクレーブを用いて121℃で20分間滅菌することにより、MRS液体培地を得た。
【0067】
[10-HDA含有MRS液体培地の調製]
蒸留水2000mlにMRS Brothを110g添加して撹拌し、得られた混合液を、オートクレーブを用いて121℃で20分間滅菌した。滅菌後に冷却した混合液に4gの10-HDAを添加して混合した後、pHを6.5に調整することにより、10-HDA含有MRS液体培地を得た。
【0068】
[希釈ローヤルゼリー含有培地の調製]
生ローヤルゼリー(株式会社山田養蜂場)又は酵素分解ローヤルゼリー(粉末)を、固形分が3%(10倍希釈)又は0.6%(50倍希釈)となるように滅菌水に添加して混合した。得られた混合液のpHを6.5に調整することにより、希釈ローヤルゼリー含有培地を得た。酵素分解ローヤルゼリーとしては、pH7.8に調整したローヤルゼリー水溶液をプロテアックス(天野エンザイム株式会社)で50℃、2時間反応させることにより加水分解したものに、結晶セルロース及びローカストビーンガムを添加したものを用いた。
【0069】
[平板培養]
各種菌株を含むグリセロールストックを白金耳でかき取り、上記MRS平板培地に播種した。播種したMRS平板培地を、嫌気培養キット(アネロパック、三菱化学株式会社)を用いて96時間35℃の嫌気条件下でインキュベートした。
【0070】
[前培養]
容量10mlのコニカルチューブに上記MRS液体培地を6mlずつ分注した。96時間培養したMRS平板培地から、シングルコロニーを白金耳でかき取り、該コニカルチューブに添加した。コニカルチューブに入れた菌株を、35℃で48時間、アネロパックを用いて嫌気条件下で、又は好気条件下でインキュベートすることにより、前培養液を得た。
【0071】
[本培養]
容量10mlのコニカルチューブに、上記10-HDA含有MRS液体培地又は上記希釈ローヤルゼリー含有培地を6mlずつ分注した。該コニカルチューブに、上記前培養液を60μl添加し、35℃で120時間、アネロパックを用いて嫌気条件下で、又は好気条件下でインキュベートした。コントロールとしては、10-HDA又はローヤルゼリーを含まない培地を用いて同様に本培養を行い、培養後に10HDAAが検出されないこと、及び、10-HDAを含む培地に前培養液を添加せずに上記条件にて静置後に10HDAAが検出されないことを確認した。
【0072】
[10-HDAから10HDAAへの変換能評価]
各種菌株の本培養により得られた培養液の上清を採取した。上清中の10-HDA濃度及び10HDAA濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。HPLCの分析条件は下記のとおりとした。
機器:prominence(株式会社島津製作所)
カラム:Sunniest C18(5μm、4.6mmi.d.×250mm)
ガードカラム:Sunniest C18(5μm、4.0mmi.d.×10mm)
カラムオーブン:40℃
流速:1mL/min
移動相:A;TFA/超純水=1/1000、B;アセトニトリル
溶出法:25%B(Isocratic elution method)
注入量:10μL
検出器:10-HDA→PDA:215nm、10HDAA→ELSD:30℃;ガス圧約300Pa;Gain9
【0073】
本培養により得られた培養液上清中に残存した10-HDA量に基づき、10-HDAから10HDAAへの変換率を求めた。10-HDAから10HDAAへの変換率は以下の式により算出した。
変換率(%)=(1―(上清中に残存した10-HDAの濃度/培養開始時の基質に含まれる10-HDAの濃度))×100
【0074】
[試験例1]
ラクトバチルス・クンキーBPS362株(NITE P-01835)及びパン酵母について、それぞれ上記方法により10-HDAから10HDAAへの変換能を調べた。本培養の培地として希釈ローヤルゼリー含有培地(10倍希釈、生ローヤルゼリー)を用いて、好気条件で培養した。ラクトバチルス・クンキーBPS362及びパン酵母を用いた場合には、培養後の上清に10HDAAは検出されなかった。ラクトバチルス・クンキーBPS362及びパン酵母には、10-HDAから10HDAAへの変換能がないことが示された。
【0075】
[試験例2]
表1に示すラクトバチルス属細菌について、それぞれ上記方法で10-HDAから10HDAAへの変換能を調べた。本培養の培地として上記10-HDA含有MRS液体培地を用い、好気条件で培養した。得られた培養液の上清中の10-HDA量及び10HDAAを測定し、上清中の10HDAA濃度が検出未満であったものを変換能なし、上清中に10HDAAが検出されたものを変換能ありと評価した。変換能ありのものについては、上記方法により変換率を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
調べたラクトバチルス属細菌のうち、ラクトバチルス・プランタルムb240についてのみ、培養液上清中に多量の10-HDAが残るものの、一部10HDAAの存在が確認された。ラクトバチルス・プランタルムb240は、やや弱い変換能を有することが確認された。ラクトバチルス・プランタルムb240による変換率は20%であった。
【0078】
[試験例3]
働き蜂、蜂の子、及び女王蜂成虫の腸内から細菌群を採取した。働き蜂腸内から単離された5つの菌株、蜂の子から単離された1つの菌株、及び女王蜂成虫の腸内から単離された9つの菌株を用いて、上記10-HDA含有MRS液体培地を用いて嫌気条件でそれぞれ変換能評価を行った。
【0079】
9つの菌株のうち、女王蜂成虫の腸内から単離された5つの菌株(QB3-1-4、QB3-1-9、QB3-1-10、QB3-2-4、及びQB9-1-6)を用いると、いずれも培養液上清中の10-HDA濃度は検出限界未満であり、高濃度の10HDAAが検出され、実質的に全量の10-HDAが10HDAAに変換されたことが確認された。すなわち変換率は100%であった。該5つの菌株は、非常に強い変換能を有することが示された。
【0080】
一方、働き蜂腸内から単離された5つの菌株、蜂の子から単離された1つの菌株、及び女王蜂成虫の腸内から単離された残りの4つの菌株では、培養液上清において10HDAAは検出されなかった。10-HDAから10HDAAへの変換能が確認されなかったこれら10の菌株は、Matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry(MALDI-TOF MS、マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型マススペクトロメトリー)を用いた細菌同定法により、いずれもビフィドバクテリウム属細菌であることが確認された。ビフィドバクテリウム属細菌には10-HDAから10HDAAへの変換能がないことが示唆された。
【0081】
[試験例4]
試験例3で強い変換能が確認された上記5つの菌株(QB3-1-4、QB3-1-9、QB3-1-10、QB3-2-4、QB9-1-6)について、下記に示す条件で、16s rDNAの塩基配列解析を行った。
(培養条件)
培地:MRS Broth(Oxoid、GBR)+寒天
培養温度:37℃
培養時間:48時間
嫌気培養
(16s rDNA塩基配列解析)
DNA抽出:アクロモベプチダーゼ(富士フィルム和光純薬株式会社)
PCR増幅:Tks Gflex DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)
サイクルシークエンス:BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)
使用プライマー:PCR増幅:9F,1510R
シークエンス:9F,515F,1099F,53.6R,926R,1510R
シークエンス:ABI PRISM3130xi Genetic Analyzer System(Applied Biosystems)
塩基配列決定:ChromasPro2.1(Technelysium)
BLAST相同性検索:解析ソフトウェア:ENKI(TechnoSuruga Laboratory, Japan)
データベース:国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)
【0082】
5つの菌株のうち、4つの菌株(QB3-1-4、QB3-1-9、QB3-1-10及びQB3-2-4:M2株)は、配列番号1の塩基配列を有し、1つの菌株(QB9-1-6:M1株)は、配列番号2の塩基配列を有することが確認された。また、これら5つの菌株について、国際塩基配列データベースに対して相同性検索を行った結果、いずれも相同率の高い上位30塩基配列は実質全てラクトバチルス属に属するものであり、上記5つの菌株はいずれもラクトバチルス属に属することが示された。
【0083】
[試験例5]
QB9-1-6(M1株)について、上記10-HDA含有MRS液体培地を用いて、嫌気条件下で本培養を行う場合と、好気条件下で本培養を行う場合との変換能評価を比較した。その結果、嫌気培養と好気培養とでは、いずれも変換率は100%であり、同様の変換能が確認された。
【0084】
[試験例6:ローヤルゼリー試験]
強い変換能が確認されたQB9-1-6(M1株)について、生ローヤルゼリー又は酵素分解ローヤルゼリーを含む希釈ローヤルゼリー含有培地を用いて、嫌気条件下で変換能を評価した。その結果、10倍又は50倍希釈の生ローヤルゼリー又は酵素分解ローヤルゼリーを含む培地では、培養後の上清に一部残存10-HDAが検出されるものの、培養前と比べて10HDAA濃度が増加していることが確認された。基質としてローヤルゼリーを用いた場合でもQB9-1-6株の変換能が発揮されることが確認された。また、10倍希釈よりも50倍希釈の方が、より高い割合で10-HDAから10HDAAへ変換されたことが確認された。また、生ローヤルゼリー又は酵素分解ローヤルゼリーを用いた場合で同様の傾向が示された。各条件における変換率を測定した。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
QB9-1-6(M1株)について、酵素分解ローヤルゼリーを含む10倍希釈又は50倍希釈の希釈ローヤルゼリー含有培地を用いて、好気条件下で変換能を評価した。その結果、希釈倍率が高いほどより高い割合で10-HDAから10HDAAへ変換されたことが確認された。好気条件下においてもローヤルゼリーの希釈倍率が高い方が変換効率が高いことが示された。
【0087】
[試験例7]
試験例4で用いた5つの菌株を用いて、同一条件にて培養を行った。培地として酵素分解ローヤルゼリー粉末を10倍希釈で含む希釈ローヤルゼリー含有培地を用い、35℃で120時間、嫌気条件で培養を行った。各菌株の変換率を表3に示す。M1株の変換率が特に高いことが示された。
【0088】
【表3】
【0089】
[試験例8]
M1株及びM2株について、株式会社テクノスラボにより、ラクトバチルス・パニサピウムの基準株(Bb2-3、GenBankアクセッション番号:GCA_002916935)に対するANI(Average Nucleotide Identity)解析を行った。ANI値(相同値)の算出には、ANI calculator(http://enve-omics.ce.gatech.edu/ani/index)を用いた。ANI値が95%以上の場合、同一種と判断される。基準株、M1株及びM2株間でのANI値を表4に示す。M1株及びM2株はいずれも基準株とのANI値が95%を超えており、ラクトバチルス・パニサピウムであることが判明した。
【0090】
【表4】
【配列表】
0007176801000001.app