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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
A61M1/36 111
A61M1/36 103
A61M1/36 101
A61M1/36 123
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018248124
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020103833
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古橋 智洋
(72)【発明者】
【氏名】真木 秀人
(72)【発明者】
【氏名】フェレンツ カヅィンツィ
(72)【発明者】
【氏名】江田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】古橋 憲治
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-217161(JP,A)
【文献】特開平08-057043(JP,A)
【文献】特開2006-263136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血液を体外循環させる血液回路と、
前記血液回路に設けられた血液浄化器と、
前記血液浄化器よりも血液の流れにおける下流側の前記血液回路に設けられ、流入した血液に含まれる気泡を分離する気液分離器と、
前記気液分離器内の液面高さを調整可能な液面調整部と、を備え、
前記液面調整部は、前記気液分離器の第1高さ位置に設けられ前記気液分離器内の前記第1高さ位置に気体が存在するかを検出可能な第1液面検知センサと、
前記気液分離器内に空気を導入あるいは前記気液分離器から空気を排出することで、液面高さを調整可能な液面調整機構と、
前記液面調整機構を制御することで、治療中には、前記第1高さ位置で気体が検出されるようにして液面高さを前記第1高さ位置より低くし、かつ、プライミング時には、前記第1高さ位置で気体が検出されないようにして液面高さを前記第1高さ位置以上にする液面制御部と、を有する、
血液浄化装置。
【請求項2】
前記液面制御部は、前記プライミングの開始を示す操作に基づいて、前記気液分離器内の液面高さが前記第1高さ位置以上となるように前記液面調整機構に対する制御を開始し、前記治療の開始を示す操作に基づいて、前記気液分離器内の液面高さが前記第1高さ位置より低くなるように前記液面調整機構に対する制御を開始する、
請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記液面調整部は、前記第1高さ位置よりも低い第2高さ位置に設けられ前記気液分離器内の前記第2高さ位置に気体が存在するかを検出可能な第2液面検知センサをさらに有し、
前記液面制御部は、前記液面調整機構を制御することで、治療中には、前記第2高さ位置で気体が検出されないようにして液面高さを前記第1高さ位置より低く前記第2高さ位置以上にし、患者に血液を戻す返血時には、前記第2高さ位置で気体が検出されるようにして液面高さを前記第2高さ位置より低くする、
請求項1又は2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記液面調整部は、
前記液面調整機構による液面高さの調整動作の履歴を基に、単位時間での液面高さの調整量を演算し、当該演算結果が所定の閾値を超えたとき、前記液面検知センサに異常が発生したと判定し、前記液面調整機構による液面高さの調整を中止させる、センサ異常判定部をさらに有する、
請求項1乃至の何れか1項に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記液面検知センサが、前記気液分離器を挟み込むように設けられた発信器と受信器とを有する超音波センサからなり、
前記液面検知センサを保持し、前記気液分離器に取り付けられるセンサホルダを備え、
前記センサホルダは、前記気液分離器内の液面が視認可能となるように構成されている、
請求項乃至4の何れか1項に記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記センサホルダは、その正面に前記気液分離器内の液面を視認可能とする窓部を有し、
前記センサホルダの側面の一方と他方とに、前記超音波センサの前記発信器と前記受信器とがそれぞれ配置されている、
請求項5に記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記液面調整機構は、前記気液分離器にエアフィルタを介して接続されたエアポンプと、前記エアポンプの前記エアフィルタ側の圧力を検出する圧力センサと、を有し、
前記液面調整部は、前記エアポンプが前記気液分離器から空気を排出させる動作を行っている際に、前記圧力センサの検出値が、予め設定した異常判定圧力よりも低くなったとき、前記エアポンプの駆動を停止する吸込異常判定部と、をさらに有する、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液浄化装置として、患者に戻す血液に気泡が含まれてしまうことを抑制するため、血液から気泡を分離除去する気液分離器(エアトラップチャンバとも呼称される)を備えたものが知られている。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-106976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液浄化装置では、治療前に血液回路等に生理食塩水を導入するプライミングが行われる。このプライミングの際には、気液分離器を上部まで洗浄するために、液面高さをなるべく高くすることが望まれる。しかしながら、気液分離器の液面高さを高く設定すると、治療時に、体外循環される血液量が多くなってしまい、好ましくない。
【0006】
従来、気液分離器の液面高さを、治療中に最適な液面高さに設定し、プライミング時には気液分離器を作業者が反転させることが行われているが、プライミングの作業が煩雑となり改善が望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、プライミングの作業を容易としつつも、治療時に体外循環される血液量の増加を抑制可能な血液浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することを目的として、請求項1に係る発明は、患者の血液を体外循環させる血液回路と、前記血液回路に設けられた血液浄化器と、前記血液浄化器よりも血液の流れにおける下流側の前記血液回路に設けられ、流入した血液に含まれる気泡を分離する気液分離器と、前記気液分離器内の液面高さを調整可能な液面調整部と、を備え、前記液面調整部は、前記気液分離器の第1高さ位置に設けられ前記気液分離器内の前記第1高さ位置に気体が存在するかを検出可能な第1液面検知センサと、前記気液分離器内に空気を導入あるいは前記気液分離器から空気を排出することで、液面高さを調整可能な液面調整機構と、前記液面調整機構を制御することで、治療中には、前記第1高さ位置で気体が検出されるようにして液面高さを前記第1高さ位置より低くし、かつ、プライミング時には、前記第1高さ位置で気体が検出されないようにして液面高さを前記第1高さ位置以上にする液面制御部と、を有する、血液浄化装置である。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記液面制御部は、前記プライミングの開始を示す操作に基づいて、前記気液分離器内の液面高さが前記第1高さ位置以上となるように前記液面調整機構に対する制御を開始し、前記治療の開始を示す操作に基づいて、前記気液分離器内の液面高さが前記第1高さ位置より低くなるように前記液面調整機構に対する制御を開始する、請求項1に記載の血液浄化装置。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記液面調整部は、前記第1高さ位置よりも低い第2高さ位置に設けられ前記気液分離器内の前記第2高さ位置に気体が存在するかを検出可能な第2液面検知センサをさらに有し、前記液面制御部は、前記液面調整機構を制御することで、治療中には、前記第2高さ位置で気体が検出されないようにして液面高さを前記第1高さ位置より低く前記第2高さ位置以上にし、患者に血液を戻す返血時には、前記第2高さ位置で気体が検出されるようにして液面高さを前記第2高さ位置より低くする、請求項1又は2に記載の血液浄化装置である。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記液面調整部は、前記液面調整機構による液面高さの調整動作の履歴を基に、単位時間での液面高さの調整量を演算し、当該演算結果が所定の閾値を超えたとき、前記液面検知センサに異常が発生したと判定し、前記液面調整機構による液面高さの調整を中止させる、センサ異常判定部をさらに有する、請求項1乃至の何れか1項に記載の血液浄化装置である。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記液面検知センサが、前記気液分離器を挟み込むように設けられた発信器と受信器とを有する超音波センサからなり、前記液面検知センサを保持し、前記気液分離器に取り付けられるセンサホルダを備え、前記センサホルダは、前記気液分離器内の液面が視認可能となるように構成されている、請求項乃至4の何れか1項に記載の血液浄化装置である。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記センサホルダは、その正面に前記気液分離器内の液面を視認可能とする窓部を有し、前記センサホルダの側面の一方と他方とに、前記超音波センサの前記発信器と前記受信器とがそれぞれ配置されている、請求項5に記載の血液浄化装置である。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記液面調整機構は、前記気液分離器にエアフィルタを介して接続されたエアポンプと、前記エアポンプの前記エアフィルタ側の圧力を検出する圧力センサと、を有し、前記液面調整機構は、前記エアポンプが前記気液分離器から空気を排出させる動作を行っている際に、前記圧力センサの検出値が、予め設定した異常判定圧力よりも低くなったとき、前記エアポンプの駆動を停止する吸込異常判定部と、をさらに有する、請求項1乃至5の何れか1項に記載の血液浄化装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、2に係る発明によれば、プライミングの作業を容易としつつも、治療時に体外循環される血液量の増加を抑制可能な血液浄化装置を提供でき、プライミング時に気液分離器の液面高さを高くして洗浄効果を高めることができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、治療中に気液分離器の液面高さを所定の高さ範囲に維持し、かつ、返血時に液面高さを低くして返血時に使用する生理食塩水等の液体の使用量を少なくし短時間で返血の作業を行うことが可能になる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、液面検知センサの異常を検知することができる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、液面検知センサとして超音波センサを用いた場合でも、気液分離器内の液面を視認可能とすることができる。
【0020】
請求項6に係る発明によれば、気液分離器内の液面を視認可能とする構成を容易に実現可能となる。
【0021】
請求項7に係る発明によれば、エアフィルタの濡れによる吸込異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態に係る血液浄化装置の概略構成図である。
図2】(a),(b)は、センサホルダの斜視図である。
図3】プライミング時の液面高さの制御フローを示すフロー図である。
図4】治療時の液面高さの制御フローを示すフロー図である。
図5】返血時の液面高さの制御フローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る血液浄化装置の概略構成図である。図1に示すように、血液浄化装置1は、患者の血液を体外循環させる血液回路2と、血液回路2に設けられ血液を浄化する血液浄化器3と、血液浄化器3、あるいは血液回路2に供給液を供給する液供給回路4と、血液浄化器3から排液が排出される排液回路5と、を備えている。
【0025】
血液回路2は、可撓性を有するチューブ等を用いて構成されている。血液回路2の一端には、動脈側穿刺針21が設けられ、他端には静脈側穿刺針22が設けられている。また、血液回路2には、動脈側穿刺針21側から静脈側穿刺針22側にかけて、血液ポンプ23、血液浄化器3、気液分離器24、気泡検出装置25が順次設けられている。気泡検出装置25は、気泡を検出する気泡検出センサを有し、気泡を検出したときに血液回路2をクランプする(挟み込んで閉塞する)機構を有している。
【0026】
血液ポンプ23は、チューブをしごいて血液を血液浄化器3側へと流動させる蠕動型のポンプからなる。血液浄化器3は、ダイアライザとも呼称されるものであり、図示しない血液浄化膜を介して血液と透析液とを接触させることで、血液を浄化するものである。気液分離器24の詳細については後述する。
【0027】
本実施の形態では、血液浄化装置1で様々な治療を可能とするため、液供給回路4として、血液浄化器3に透析液を供給する透析液回路41と、血液回路2内に直接補充液を供給する補充液回路42の両回路を有している。ただし、血液浄化装置1は、透析液回路41と補充液回路42のどちらか一方のみを有していてもよい。
【0028】
透析液回路41、補充液回路42、及び排液回路5は、可撓性を有するチューブ等を用いて構成されている。透析液回路41には、蠕動型のポンプからなる透析液ポンプ411が設けられている。補充液回路42には、蠕動型のポンプからなる補充液ポンプ421が設けられている。排液回路5には、蠕動型のポンプからなる排液ポンプ51が設けられている。本実施の形態では、補充液回路42が、気液分離器24に補充液を供給するように構成されているが、これに限らず、血液浄化器3よりも上流側(動脈側穿刺針21側)に補充液を供給するよう構成してもよい。
【0029】
(気液分離器24とその液面制御)
気液分離器24は、エアトラップチャンバとも呼称されるものであり、流入した血液に含まれる気泡を分離除去し、液体のみを静脈側穿刺針22側に通すように構成されている。気液分離器24は、例えばポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の透明性の高い材料から構成されている。
【0030】
本実施の形態に係る血液浄化装置1は、気液分離器24内の液面高さを調整可能な液面調整機構6を備えている。液面調整機構6は、気液分離器24に設けられた第1液面検知センサ71及び第2液面検知センサ72と、気液分離器24内に空気を導入あるいは気液分離器24から空気を排出することで、液面高さを調整可能な液面調整機構8と、両液面検知センサ71,72の検出結果を基に、液面調整機構8を制御し液面高さを調整する制御装置9と、を備えている。
【0031】
第1液面検知センサ71は、気液分離器24の第1高さ位置H1に設けられ、気液分離器24内の第1高さ位置H1に気体が存在するか(換言すれば、気液分離器24内の第1高さ位置H1が液体で満たされているか)を検出可能に構成されている。第2液面検知センサ72は、第1高さ位置H1よりも低い第2高さ位置H2に設けられ、気液分離器24内の第2高さ位置H2に気体が存在するか(換言すれば、気液分離器24内の第2高さ位置H2が液体で満たされているか)を検出可能に構成されている。
【0032】
本実施の形態では、両液面検知センサ71,72として、気液分離器24を挟み込むように設けられた発信器71a,72aと受信器71b,72bとを有する超音波センサを用いた。超音波センサでは、発信器71a,72aと受信器71b,72bとの間が液体で満たされていると、受信器71b,72bで検出される超音波が大きくなり、発信器71a,72aと受信器71b,72bとの間に気体が存在すると、受信器71b,72bで検出される超音波が小さくなる。よって、受信器71b,72bで検出される超音波の大きさを基に、気液分離器24内の所定の高さ位置H1,H2に、液面が達しているかを検出することができる。
【0033】
両液面検知センサ71,72として超音波センサを用いる場合、発信器71a,72aや受信器71b,72bと気液分離器24間に隙間ができないように、発信器71a,72aと受信器71b,72bとを気液分離器24に押し付けて保持する必要がある。そこで、本実施の形態では、血液浄化装置1は、液面検知センサ71,72を保持し、気液分離器24が取り付けられるセンサホルダ73を備えた。
【0034】
図1及び図2に示すように、センサホルダ73は、気液分離器24の周囲を覆うように取り付けられる。そのため、本実施の形態では、気液分離器24内の液面が視認可能となるように、センサホルダ73の正面に窓部(開口部)73aを設けている。なお、センサホルダ73の正面が、血液浄化装置1の正面(操作者が血液浄化装置1に相対する面)になるように、センサホルダ73が血液浄化装置1に取り付けられる。窓部73aは、気液分離器24にセンサホルダ73を取り付けた際に、視認し易い位置に形成されるとよく、その大きさ等は適宜調整することができる。なお、窓部73aを形成せずとも、センサホルダ73を透明性の高い部材で構成することで、気液分離器24内の液面を視認可能としてもよい。センサホルダ73の側面の一方と他方とに、超音波センサの発信器71a,72aと受信器71b,72bとがそれぞれ配置されている。発信器71a,72aと受信器71b,72bは、気液分離器24を挟んで対向するようにセンサホルダ73の側面における内周面に設けられている。
【0035】
なお、本実施の形態では、両液面検知センサ71,72として超音波センサを用いたが、これに限らず、両液面検知センサ71,72として、光学式、あるいは静電容量式のセンサ等を用いてもよい。
【0036】
液面調整機構8は、気液分離器24の上部に接続されたエアライン81と、エアライン81に設けられたエアフィルタ82、エアポンプ83、及び圧力センサ84を有している。
【0037】
エアライン81は、例えば可撓性を有するチューブ等を用いて構成されている。エアポンプ83は、チューブをしごいて空気を流動させる蠕動型のポンプからなる。エアポンプ83は、気液分離器24にエアフィルタ82を介して接続されている。エアフィルタ82は、所謂疎水性のフィルタであり、気体を通すが液体を通さない(液体を通す際の抵抗が非常に高い)ように構成されている。圧力センサ84は、エアポンプ83のエアフィルタ82側の圧力を検出するように構成されている。
【0038】
制御装置9には、気液分離器24の液面高さを制御する液面制御部91と、センサ異常判定部92と、吸込異常判定部93と、が搭載されている。これら液面制御部91、センサ異常判定部92、及び吸込異常判定部93は、CPU等の演算素子、メモリ、記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0039】
本実施の形態に係る血液浄化装置1では、液面制御部91は、治療中の液面高さよりも、各回路に生理食塩水を通すプライミング時の液面高さを高く制御する。より具体的には、液面制御部91は、第1液面検知センサ71の出力を監視しつつ液面調整機構8のエアポンプ83を制御することで、治療中には、第1高さ位置H1で気体が検出されるようにして液面高さを第1高さ位置H1より低くし、かつ、プライミング時には、第1高さ位置H1で気体が検出されないようにして液面高さを第1高さ位置H1以上にする。これにより、プライミング時に気液分離器24を反転させる等の作業を行わずとも、気液分離器24を十分に洗浄することが可能になる。また、治療時には適正な液面高さまで下げて、体外循環される血液量を少なくすることが可能になる。
【0040】
また、本実施の形態では、液面制御部91は、第2液面検知センサ72の出力を監視しつつ液面調整機構8のエアポンプ83を制御することで、治療中には、第2高さ位置H2で気体が検出されないようにして液面高さを前記第2高さ位置以上にし、患者に血液を戻す返血時には、第2高さ位置H2で気体が検出されるようにして液面高さを第2高さ位置H2より低くする。返血時の液面高さが高いと、返血用の生理食塩水を導入した際に気液分離器24内で血液と生理食塩水とが混ざり合い、返血に多くの生理食塩水を要してしまう場合がある。返血時の液面高さを低くすることで、このような不具合を抑制し、生理食塩水の使用量を少なくし短時間で返血の作業を行うことが可能になる。
【0041】
なお、体外循環される血液量を少なくするために、治療時の液面高さを、例えば返血時の液面高さと同程度の低い液面高さにすることも考えられる。しかし、この場合、血液中の気泡を十分に分離除去できず、気泡検出装置25で気泡が検出され治療が中断されてしまうおそれが大きくなる。気泡検出装置25での気泡検出による治療中断を抑制するために、血液の流量や気泡の浮力等を考慮し、治療時の液面高さは、気泡を十分に分離除去可能な液面高さに設定する必要がある。プライミング時の液面高さは、上述の「気泡を十分に分離除去可能な液面高さ」よりも高く設定され、返血時の液面高さは、上述の「気泡を十分に分離除去可能な液面高さ」よりも低く設定されるとよい。
【0042】
このように、本実施の形態では、プライミング時には第1高さ位置H1以上の液面高さ、治療時には第1高さ位置H1より低く第2高さ位置H2以上の液面高さ、返血時には第2高さ位置H2より低い液面高さに制御している。以下、液面検知センサ71,72において気体が検出されない(液体で満たされている)ことが検知された場合をオン、気体が検出された場合をオフという。液面制御部91は、プライミング時には両液面検知センサ71,72がオンとなり、治療中には第1液面検知センサ71がオフかつ第2液面検知センサ72がオンとなり、返血時には両液面検知センサ71,72がオフとなるように、エアポンプ83により気液分離器24内の空気量を調整し、液面高さの調整を行う。
【0043】
なお、液面検知センサ71,72が故障した場合、液面高さの調整が正常に行われず、意図しない不具合が生じるおそれがある。そこで、本実施の形態では、センサ異常判定部92により、液面検知センサ71,72に異常が発生しているか否かを診断している。センサ異常判定部92は、液面調整機構8による液面高さの調整動作の履歴を基に、単位時間での(予め設定された期間内での)液面高さの調整量を演算(積算)し、当該演算結果が所定の閾値を超えたとき、液面検知センサ71,72に異常が発生したと判定し、液面調整機構8による液面高さの調整を中止させる。
【0044】
例えば、第1液面検知センサ71が故障して常時オンの状態となった場合、治療時や返血時においては、エアポンプ83による気液分離器24内への空気の送り込みが続けられることになり、単位時間での液面高さの調整量が大きくなる。センサ異常判定部92は、単位時間での液面高さの調整量を監視し、予め設定された閾値を超えたときに、液面高さの調整を中止させる。
【0045】
また、エアフィルタ82が何らかの理由で濡れてしまうと、エアフィルタ82を空気が通りにくくなり、エアポンプ83による液面高さの制御が正常に行われなくなってしまうおそれがある。そこで、本実施の形態では、吸込異常判定部93により、エアフィルタ82の濡れの有無を監視している。吸込異常判定部93は、エアポンプ83が気液分離器24から空気を排出させる動作を行っている際に、圧力センサ84の検出値が、予め設定した異常判定圧力よりも低くなったとき(すなわち、過度の陰圧になったとき)、エアポンプ83の駆動を停止する。
【0046】
また、血液浄化装置1は、センサ異常判定部92または吸込異常判定部93で異常を検知した際に、警報を発する警報部10を備えている。
【0047】
警報部10は、光や音、振動、あるいはモニタ等の表示器に警告メッセージを表示する警報装置101と、警報装置101を制御する警報制御部102と、を有している。警報装置101は、例えば、音により警告音を発するブザーと、警告メッセージを表示する表示器とで構成される。警報制御部102は、例えば、ブザーを鳴動させ、表示器に警告メッセージを表示させる。警報制御部102は、制御装置9に搭載され、CPU等の演算素子、メモリ、記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0048】
(プライミング時における液面高さの制御)
図3は、プライミング時の液面高さの制御フローを示すフロー図である。プライミング時には、血液回路2の静脈側穿刺針22側の端部に生理食塩水を収容したバッグを接続すると共に、血液回路2の動脈側穿刺針21側の端部に排液容器を配置し、バッグ内の生理食塩水を血液回路2内に導入する。プライミング時に血液浄化器3内に空気が入ってしまうと空気が抜けにくくなる。そのため、プライミング開始時には、まずエアポンプ83を駆動(吸引動作)させて気液分離器24内に生理食塩水を導入し、その後血液ポンプ23を通常の治療時とは逆方向に駆動して、気液分離器24よりも動脈側穿刺針21側の血液回路2に生理食塩水を導入する。以下、気液分離器24内の空気を排出させるようにエアポンプ83を駆動する動作を吸引動作といい、気液分離器24内に空気を導入するようにエアポンプ83を駆動する動作を排出動作という。
【0049】
液面制御部91は、プライミングの開始時に、操作者の操作等をトリガとして図3の制御フローを実行する。まず、ステップS11にて、エアポンプ83を吸引動作させ、気液分離器24内に生理食塩水を引き込む。その後、ステップS12にて、プライミングが終了したかを判定する。ステップS12でYesと判定された場合、処理を終了する。
【0050】
ステップS12でNoと判定された場合、ステップS13にて、第1液面検知センサ71がオンであるか(第1高さ位置H1が液面で満たされているか)を判定する。ステップS13でNoと判定された場合、ステップS11に戻り、エアポンプ83の吸引動作を継続する。ステップS13でYesと判定された場合、ステップS14にてエアポンプ83を停止し、ステップS12に戻る。
【0051】
図3では示されていないが、プライミングの終了後には治療が行われることになるため、プライミングの終了時に、液面高さを治療時の液面高さ(第1高さ位置H1より低く第2高さ位置H2以上の液面高さ)に下降させる処理が行われてもよい。
【0052】
(治療時における液面高さの制御)
図4は、治療時の液面高さの制御フローを示すフロー図である。液面制御部91は、治療の開始時に、操作者の操作等をトリガとして図4の制御フローを実行する。まず、ステップS21にて、治療が終了したか判定する。ステップS21でYesと判定された場合、処理を終了する。ステップS21でNoと判定された場合、ステップS22にて、第1液面検知センサ71がオンであるか(第1高さ位置H1が液面で満たされているか)を判定する。ステップS22でYesと判定された場合、ステップS23にて、エアポンプ83を排出動作させ、ステップS21に戻る。
【0053】
ステップS23でNoと判定された場合、ステップS24にて、第2液面検知センサ72がオンであるか(第2高さ位置H2が液面で満たされているか)を判定する。ステップS24でNoと判定された場合、ステップS25にて、エアポンプ83を吸引動作させ、ステップS21に戻る。ステップS24でYesと判定された場合、ステップS26にてエアポンプ83を停止し、ステップS21に戻る。
【0054】
(返血時における液面高さの制御)
図5は、返血時の液面高さの制御フローを示すフロー図である。液面制御部91は、返血の開始時に、操作者の操作等をトリガとして図5の制御フローを実行する。治療の終了後自動で返血が行われる場合には、液面制御部91は、当該返血の制御の開始時に図5のフローを実行する。まず、ステップS31にて、エアポンプ83を排出動作させ、気液分離器24内の液面を下降させる。その後、ステップS32にて、返血が終了したかを判定する。ステップS32でYesと判定された場合、処理を終了する。
【0055】
ステップS32でNoと判定された場合、ステップS33にて、第2液面検知センサ72がオンであるか(高さ位置H2が液面で満たされているか)を判定する。ステップS33でYesと判定された場合、ステップS31に戻り、エアポンプ83の排出動作を継続する。ステップS33でNoと判定された場合、ステップS34にてエアポンプ83を停止し、ステップS32に戻る。
【0056】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る血液浄化装置1では、気液分離器24内の液面高さを調整可能な液面調整部6を備え、液面調整部6は、治療中の液面高さよりも、プライミング時の液面高さを高く制御している。
【0057】
これにより、プライミング時に気液分離器24を反転させる等の作業をせずとも気液分離器24を十分に洗浄することが可能になる。その結果、プライミングの作業が容易になり、プライミングの自動化も容易に実現可能となる。また、治療時には液面高さを下降させて体外循環される血液量を少なくすることも可能になる。つまり、本実施の形態によれば、プライミングの作業を容易としつつも、治療時に体外循環される血液量の増加を抑制可能な血液浄化装置1を実現できる。
【0058】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0059】
[1]患者の血液を体外循環させる血液回路(2)と、前記血液回路(2)に設けられた血液浄化器(3)と、前記血液浄化器(3)よりも血液の流れにおける下流側の前記血液回路(2)に設けられ、流入した血液に含まれる気泡を分離する気液分離器(24)と、前記気液分離器(24)内の液面高さを調整可能な液面調整部(6)と、を備え、前記液面調整部(6)は、治療中の液面高さよりも、プライミング時の液面高さを高く制御する、血液浄化装置(1)。
【0060】
[2]前記液面調整部(6)は、前記気液分離器(24)の第1高さ位置(H1)に設けられ前記気液分離器(24)内の前記第1高さ位置(H1)に気体が存在するかを検出可能な第1液面検知センサ(71)と、前記気液分離器(24)内に空気を導入あるいは前記気液分離器(24)から空気を排出することで、液面高さを調整可能な液面調整機構(8)と、前記液面調整機構(8)を制御することで、治療中には、前記第1高さ位置(1)で気体が検出されるようにして液面高さを前記第1高さ位置(H1)より低くし、かつ、プライミング時には、前記第1高さ位置(H1)で気体が検出されないようにして液面高さを前記第1高さ位置(H1)以上にする液面制御部(91)と、を有する、[1]に記載の血液浄化装置(1)。
【0061】
[3]前記液面調整部(6)は、前記第1高さ位置(H1)よりも低い第2高さ位置(H2)に設けられ前記気液分離器(24)内の前記第2高さ位置(H2)に気体が存在するかを検出可能な第2液面検知センサ(72)をさらに有し、前記液面制御部(91)は、前記液面調整機構(8)を制御することで、治療中には、前記第2高さ位置(H2)で気体が検出されないようにして液面高さを前記第1高さ位置(H1)より低く前記第2高さ位置(H2)以上にし、患者に血液を戻す返血時には、前記第2高さ位置(H2)で気体が検出されるようにして液面高さを前記第2高さ位置より低くする、[2]に記載の血液浄化装置(1)。
【0062】
[4]前記液面調整部(6)は、前記液面調整機構(8)による液面高さの調整動作の履歴を基に、単位時間での液面高さの調整量を演算し、当該演算結果が所定の閾値を超えたとき、前記液面検知センサ(71,72)に異常が発生したと判定し、前記液面調整機構(8)による液面高さの調整を中止させる、センサ異常判定部(92)をさらに有する、[2]または[3]に記載の血液浄化装置(1)。
【0063】
[5]前記液面検知センサ(71,72)が、前記気液分離器(24)を挟み込むように設けられた発信器(71a,72a)と受信器(71b,72b)とを有する超音波センサからなり、前記液面検知センサ(71,72)を保持し、前記気液分離器(24)に取り付けられるセンサホルダ(73)を備え、前記センサホルダ(73)は、前記気液分離器(24)内の液面が視認可能となるように構成されている、[2]乃至[4]の何れか1項に記載の血液浄化装置(1)。
【0064】
[6]前記センサホルダ(73)は、その正面に前記気液分離器(24)内の液面を視認可能とする窓部(73a)を有し、前記センサホルダ(73)の側面の一方と他方とに、前記超音波センサの前記発信器(71a,72a)と前記受信器(71b,72b)とがそれぞれ配置されている、[5]に記載の血液浄化装置(1)。
【0065】
[7]前記液面調整機構(8)は、前記気液分離器(24)にエアフィルタ(82)を介して接続されたエアポンプ(83)と、前記エアポンプ(83)の前記エアフィルタ(82)側の圧力を検出する圧力センサ(84)と、を有し、前記液面調整部(6)は、前記エアポンプ(83)が前記気液分離器(24)から空気を排出させる動作を行っている際に、前記圧力センサ(84)の検出値が、予め設定した異常判定圧力よりも低くなったとき、前記エアポンプ(83)の駆動を停止する吸込異常判定部(93)をさらに有する、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の血液浄化装置(1)。
【0066】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0067】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、液面調整機構8として蠕動型のエアポンプ83を用いる場合を説明したが、例えばカスケード型など、他のタイプのポンプをエアポンプ83として用いてもよい。また、ガス源から気液分離器24内にガスを導入するように構成したり、プライミング時に気液分離器24よりも上方に生理食塩水を収容するバッグを設ける等して、所定の流入圧で生理食塩水が気液分離器24に導入されるようにし、気液分離器24内の空気を大気解放弁等により排出可能に構成したりすることで、エアポンプ83を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…血液浄化装置
2…血液回路
24…気液分離器
3…血液浄化器
4…液供給回路
5…排液回路
6…液面調整部
71…第1液面検知センサ
72…第2液面検知センサ
71a,72a…発信器
71b,72b…受信器
73…センサホルダ
73a…窓部
8…液面調整機構
81…エアライン
82…エアフィルタ
83…エアポンプ
84…圧力センサ
9…制御装置
91…液面制御部
92…センサ異常判定部
93…吸込異常判定部
H1…第1高さ位置
H2…第2高さ位置
図1
図2
図3
図4
図5