(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20221115BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221115BHJP
C08J 9/32 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08J9/32 CFF
(21)【出願番号】P 2017197600
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 博仁
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】三國 匠
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-208165(JP,A)
【文献】特開2016-074044(JP,A)
【文献】特開平11-322877(JP,A)
【文献】特開昭63-249787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0063856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08J 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に接着層を介して設けられ、
ポットライフが150秒未満のプレポリマーと硬化剤との重合反応により形成されたポリウレタン樹脂と、
前記ポリウレタン樹脂に分散され、熱可塑性樹脂によって構成され、前記ポリウレタン樹脂よりも軟らかい外殻と前記外殻に囲まれた内部空間とを有する微小球体と
を有する研磨層と
を具備し、
前記微小球体は、加熱膨張性球体であり、加熱される前の平均粒径が5μm以上20μm以下であり、
前記微小球体の平均粒径は、20μm以下であり、
前記研磨層の密度は、0.6g/cm
3以上0.9g/cm
3以下である
研磨パッド。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂に分散された前記微小球体の平均粒径は、10μm以上20μm以下である
研磨パッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載の研磨パッドであって、
前記研磨層の単位体積(mm
-3)あたりに存在する前記微小球体は、50000個以上であり、
前記研磨層における前記微小球体の占有体積率は、20%以下である
研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨対象物の研磨に利用される研磨パッド、及びその研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料、半導体デバイス、または、ハードディスク用基板等の研磨には研磨パッドが用いられる。研磨パッドは、ポリウレタン等の合成樹脂を有し、合成樹脂中には空隙が形成されている。研磨の際に、空隙は研磨パッドの表面で開口しており、この開口に研磨スラリーが保持されることにより、研磨対象物の研磨が進行する。
【0003】
空隙の形成方法としては、樹脂中に混在させた未発泡の加熱膨張性微小球体を樹脂中で膨張させる方法がある(例えば、特許文献1、2参照)。例えば、特許文献1では、粒径が20μm以上の加熱膨張性微小球体を用い、この加熱膨張性微小球体を樹脂中で150μm付近まで膨張させて空隙を形成することで低密度の研磨パッドを得られることが開示されている。一方、特許文献2では、未膨張の液体充填ポリマーミクロスフェア(加熱膨張性微小球体)と予備膨張の液体充填ポリマーミクロスフェアを混合し、未膨張の液体充填ポリマーミクロスフェアを樹脂中で1000~10000%(20~150μmの平均径)まで膨張させることで、低密度・高空隙率の研磨パッドが得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-274362号公報
【文献】特開2016-128204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献ではいずれも加熱膨張性微小球体を大きく膨張させ、低密度の研磨パッドを得ている。研磨パッドでは、被研磨物の多様化・高精度化に伴い、高密度・小気泡径(20μm以下)の要求がある。しかしながら、既膨張タイプの微小球体は20μm以上の市販品しかなく、加熱膨張性微小球体は混合する樹脂の反応熱等によって容易に20μm以上に膨張してしまい、20μm以下の気泡径の研磨パッドを製造するのが困難であった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、より精密な研磨を実現する研磨パッド及び研磨パッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る研磨パッドは、基材と、研磨層とを具備する。上記研磨層は、上記基材上に設けられる。上記研磨層は、ポリウレタン樹脂と、上記ポリウレタン樹脂に分散され、熱可塑性樹脂によって構成された外殻を有する微小球体を有する。上記微小球体の平均粒径は、20μm以下である。上記研磨層の密度は、0.6g/cm3以上0.9g/cm3以下である。
このような研磨パッドであれば、研磨層に含まれる微小球体の平均粒径が20μm以下であることから、研磨層によって研磨対象物をより精密に研磨することができる。
【0008】
上記の研磨パッドにおいては、上記微小球体は、加熱膨張性球体であり、加熱前の平均粒径が5μm以上20μm以下であってもよい。
このような研磨パッドであれば、加熱膨張性球体を膨張させても、研磨層に含まれる微小球体の平均粒径が20μm以下に抑えられ、研磨層によって研磨対象物をより精密に研磨することができる。
【0009】
上記の研磨パッドにおいては、上記ポリウレタン樹脂に分散された上記微小球体の平均粒径は、10以上20μm以下であってもよい。
このような研磨パッドであれば、研磨層に含まれる微小球体の平均粒径が10μm以上20μm以下であることから、研磨層によって研磨対象物をより精密に研磨することができる。
【0010】
上記の研磨パッドにおいては、上記研磨層の単位体積あたりに存在する上記微小球体は、50000個以上であってもよい。上記研磨層における上記微小球体の占有体積率は、20%以下であってもよい。
このような研磨パッドであれば、研磨パッドの単位体積あたりに存在する微小球体は、50000個以上であり、研磨パッドにおける微小球体の占有体積率は、20%以下であることから、研磨層によって研磨対象物をより精密に研磨することができる。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る研磨パッドの製造方法は、平均粒径が5μm以上20μm以下であり、熱可塑性樹脂によって構成された外殻を有する微小球体と、プレポリマーとを含む液体を準備することを含む。上記液体に硬化剤を混合して研磨材料が形成される。上記研磨材料を硬化させつつ、上記微小球体の上記平均粒径が1倍以上4倍未満となるように上記平均粒径を調整して研磨層が形成される。
このような研磨パッドの製造方法であれば、加熱膨張性球体を膨張させても、微小球体の平均粒径が1倍以上4倍未満となるように微小球体の膨張が抑えられつつ研磨層が形成されるので、研磨層に含まれる微小球体の平均粒径が20μm以下に抑えられ、研磨層によって研磨対象物をより精密に研磨することができる。
【0012】
上記の研磨パッドの製造方法においては、上記液体を準備する工程において、上記微小球体とプレポリマーとは、80℃以下で混合されてもよい。上記研磨層を形成する工程において、上記研磨材料を硬化させる際に用いる型の温度は100℃以下であり、上記研磨材料を硬化させるに要する時間が150秒未満であってもよい。
このような研磨パッドの製造方法であれば、加熱膨張性球体を膨張させても、研磨層に含まれる微小球体の平均粒径が20μm以下に確実に抑えられ、研磨層によって研磨対象物をより精密に研磨することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明によれば、より精密な研磨を実現する研磨パッド及び研磨パッドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】図(a)は、本実施形態に係る研磨パッド100を示す模式的斜視図である。図(b)は、本実施形態に係る研磨パッド100の模式的断面図である。図(c)は、本実施形態に係る微小球体111の模式的断面図である。
【
図2】本実施形態に係る研磨パッド100を製造する製造装置200の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。
【0016】
[研磨パッドの概要]
図1(a)は、本実施形態に係る研磨パッド100を示す模式的斜視図である。
【0017】
研磨パッド100は、研磨層101、接着層102及びクッション層103を具備する。
【0018】
研磨層101は、研磨対象物に当接し、研磨を行う層である。以下、研磨層101の表面を研磨面101aとする。研磨面101aには、スラリー液の流れをよくするための溝及び孔(不図示)が形成されてもよい。
【0019】
接着層102は、研磨層101とクッション層103を接着する層であり、例えば、粘着テープである。
【0020】
クッション層103は、研磨パッド100の基材であって、研磨層101の研磨対象物への当接をより均一にする層である。クッション層103は、不織布や合成樹脂等の可撓性を有する材料からなるものとすることができる。
【0021】
研磨パッド100は、クッション層103に配設された粘着テープ等によって研磨装置に貼付される。研磨パッド100の大きさ(径)は研磨装置のサイズ等に応じて決定することができ、例えば、直径10cm~1m程度とすることができる。なお、研磨パッド100の形状は円板状に限られず、帯状等であってもよい。
【0022】
研磨パッド100は、研磨装置によって研磨対象物に押圧された状態で回転駆動され、研磨対象物を研磨する。その際、研磨パッド100と研磨対象物の間には、スラリー液が供給される。スラリー液は溝又は孔を介して研磨面101aに供給され、排出される。
【0023】
[研磨層の構成]
図1(b)は、本実施形態に係る研磨パッド100の模式的断面図である。
【0024】
研磨パッド100において、研磨層101は、ポリマー110及び微小球体111を含む。研磨層101は、接着層102を介してクッション層103上に設けられている。研磨層101の密度は、0.6g/cm3以上0.9g/cm3以下である。なお、本実施形態での微小球体とは、その外周面が真球面である球体に限らず、外周面が若干歪んだ球体面を持つ球体も含む。研磨層101の単位体積あたりに存在する微小球体111は、50000個以上である。研磨層101における微小球体111の占有体積率は、20%以下である。
【0025】
ポリマー110は、研磨材料の主な構成材料である。ポリマー110は、プレポリマーと硬化剤の重合反応によって生成するポリマーであるものとすることができる。このようなポリマーとしては、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。ポリウレタンは、入手性及び加工性がよく、好適な研磨特性を有するため、ポリマー110として好適である。
【0026】
プレポリマーは、イソシアネート基末端を有する化合物(以下、イソシアネート化合物)とすることができ、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを、通常用いられる条件で反応させることにより得られる化合物であり、ポリウレタン結合とイソシアネート基を分子内に含むものである。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の成分がポリウレタン結合含有イソシアネート化合物に含まれてもよい。
【0027】
ポリイソシアネート化合物は、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を意味し、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアート等を用いることができる。
【0028】
この他にもポリイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ビフェニルジイソシアネート、3,3'-ジメチルジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4'-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソフォロンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート(水添MDI)、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート及びエチリジンジイソチオシアネートが挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
また、ポリオール化合物とは、分子内に2つ以上のアルコール性水酸基(OH)を有する化合物を意味し、例えば、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(又はポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)、ポリプロピレングリコ-ル(PPG)、ジエチレングリコール(DEG)等を用いることができる。
【0030】
この他にもポリオール化合物としては、エチレングリコール、ブチレングリコール等のジオール化合物、トリオール化合物等;PTMGなどのポリエーテルポリオール化合物;エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物;ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等を挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
硬化剤は、ポリアミン系硬化剤を利用することができる。ポリアミン系硬化剤は、2つ以上のアミノ基を有する物質であり、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン;イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジアミンなどの脂肪族環を有するジアミン;MOCA(3,3-ジクロロ-4,4-ジアミノジフェニルメタン)などの芳香族環を有するジアミン;2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン、特にヒドロキシアルキルアルキレンジアミン;などを用いることができる。また、3官能のトリアミン化合物、4官能以上のポリアミン化合物も使用可能である。
【0032】
また、硬化剤は、ポリオール系硬化剤を利用することもできる。ポリオール系硬化剤は2つ以上のヒドロキシル基を有する物質であり、例えば、エチレングリコール又はポリエーテルポリオールとすることができる。
【0033】
この他にも、ポリオール系硬化剤として、ブチレングリコール及びヘキサンジオール等の低分子量のポリオール化合物、並びに、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ビスフェノールAとプロピレンオキサイドとの反応物等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物、ブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物及びポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物が挙げられる。
【0034】
硬化剤は、ポリアミン系硬化剤とポリオール系硬化剤のうちの1種又は複数種を利用することが可能である。
【0035】
ここで、プレポリマーの末端に存在するイソシアネート基に対する、硬化剤に存在するアミノ基又はヒドロキシル基活性水素基の当量比であるR値が、0.70~1.20となるよう、各成分を混合する。R値は、0.70~1.20が好ましく、0.80~1.00がより好ましく、さらに好ましくは0.85~0.95である。R値を1以下とすることで、過剰となったイソシアネート基が後述する架橋反応に用いられる。
【0036】
微小球体111は、ポリマー110に分散されている。微小球体111は、外殻を有する球体状の物体である。研磨面101aにおいて露出している半球状の微小球体111は、研磨層101を形成した後に、切断加工によって表出したものである。微小球体111の平均粒径は、10μm以上20μm以下である。より好ましくは、微小球体111の平均粒径は、10μm以上20μm未満に設定してもよい。微小球体111の粒径または数量は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置、X線CT(Computed Tomography)、電子顕微鏡像等から算出される。
【0037】
図1(c)は、本実施形態に係る微小球体111の模式的断面図である。
【0038】
微小球体111は、熱可塑性樹脂からなる球殻状の外殻111aと、外殻111aに囲まれた内部空間111bを有する。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニリデンやアクリロニトリルが用いられる。微小球体111は、低沸点炭化水素を熱可塑性樹脂の殻で包んだものである。微小球体111は、加熱膨張性球体であり、加熱前の平均粒径が5μm以上20μm以下の加熱膨張性球体が用いられる。
【0039】
微小球体111は、プレポリマーの重合反応における反応条件の調整によって膨張が抑制される。例えば、重合反応によって生成する反応熱を迅速に冷却したり、プレポリマーの重合反応を迅速に促進させて、微小球体111の周りに存在するポリマーによって強制的に膨張が抑制されたりする。または、微小球体111は、ポリウレタンの生成反応に伴う生成熱により僅かに膨張してもよい。但し、研磨層101に含まれる微小球体111の平均粒径は、10μm以上20μm以下に調整されている。例えば、ポリマー110に分散された微小球体111の平均粒径は、15μmである。
【0040】
微小球体111においては、外殻111a内に低沸点炭化水素等が充填されている。例えば、低沸点炭化水素は、イソブタン、ペンタン等である。
【0041】
微小球体111は、市販品を利用することも可能である。例えばマツモトマイクロスフェアーシリーズ(松本油脂製薬株式会社製)やエクスパンセルシリーズ(AkzoNobel社製)を微小球体111として利用することができる。
【0042】
本実施形態においては、径の異なる微小球体111を2種類以上用いてよい。研磨材料における微小球体111の含有割合は、研磨材料に対して、5体積%以上60体積%以下が好適であり、10体積%以上45体積%以下であるとより好適であり、15体積%以上30体積%以下がさらに好適である。微小球体111は、研磨層101が研磨によって磨耗すると研磨面101aに露出し、研磨面101aの研磨特性に影響する。
【0043】
[研磨パッドの製造方法]
【0044】
図2は、本実施形態に係る研磨パッド100を製造する製造装置200の模式図である。
【0045】
製造装置200は、第1貯槽201、第2貯槽202、撹拌槽203(混合容器)、型204、容器212、ポンプ401、ポンプ402、切替弁410、切替弁420、流路501a、流路501b、流路501c、流路502a、流路502b、流路502c及び流路503を具備する。
【0046】
第1貯槽201は、微小球体111とプレポリマーとを含む内容物(液体)を収容することができる。微小球体111は、第1貯槽201の上に設けられた容器212に予め収容される。微小球体111は、流路503を介して容器212から第1貯槽201に投入される。このような流路503を介して微小球体111を容器212から第1貯槽201に投入することにより、微小球体111の第1貯槽201外への飛散が抑制される。第2貯槽202は、プレポリマーを硬化する硬化剤を収容することができる。撹拌槽203は、微小球体111とプレポリマーとを含む液体と、硬化剤とを混合して研磨材料301を形成する。
【0047】
このような樹脂製の微小球体111を研磨層101に分散させることにより、研磨層101中の空隙の大きさを均一にすることができる。さらに、微小球体111の投入量によって研磨パッド100の研磨特性を調整できる。
【0048】
ポンプ401は、微小球体111とプレポリマーとを含む液体を第1貯槽201から撹拌槽203に供給することができる。ポンプ401は、流路501aの途中に設けられている。切替弁410によって流路501aと流路501bとが連通し、ポンプ401が作動すると、流路501a、501bを介して、微小球体111とプレポリマーとを含む液体が第1貯槽201から撹拌槽203に供給される。
【0049】
ポンプ402は、硬化剤を第2貯槽202から撹拌槽203に供給することができる。ポンプ402は、流路502aの途中に設けられている。切替弁420によって流路502aと流路502bとが連通し、ポンプ402が作動すると、流路502a、502bを介して、硬化剤が第2貯槽202から撹拌槽203に供給される。
【0050】
また、製造装置200においては、切替弁410によって流路501aと流路501cとが連通し、ポンプ401が作動すると、流路501a、501cを介して、微小球体111とプレポリマーとを含む液体が第1貯槽201とポンプ401との間で循環する。また、切替弁420によって流路502aと流路502cとが連通し、ポンプ402が作動すると、流路502a、502cを介して、硬化剤が第2貯槽202とポンプ402との間で循環する。型204は、撹拌槽203から研磨材料301を受容し研磨材料301から研磨層101を形成する。
【0051】
このような製造装置200を用いて、例えば、第1貯槽201にプレポリマーと微小球体111とが投入される。第1貯槽201に投入される前の微小球体111の平均粒径は、5μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上15μm以下である。プレポリマーは、イソシアネート化合物とすることができる。第2貯槽202には、硬化剤が投入される。硬化剤は、ポリオール系硬化剤及びポリアミン系硬化剤の両方又は一方である。各原料の流動性を安定させるために、第1貯槽201及び第2貯槽202は所定温度に加熱される。但し、微小球体111の膨張を極力抑えるため、第1貯槽201の温度は50℃以上80℃以下とするのが好ましい。80℃より高い温度とすると微小球体111が膨張してしまう可能性がある。
【0052】
次に、第1貯槽201から第1貯槽201内の内容物(以下、第1溶液)が流路501a、ポンプ401、切替弁410及び流路501bを通過して撹拌槽203に送出される。第2貯槽202からは、第2貯槽202の内容物(以下、第2溶液)が流路502a、ポンプ402、切替弁420及び流路502bを通過して撹拌槽203に送出される。これにより、撹拌槽203において第1溶液及び第2溶液が混合した流体状の研磨材料301が形成される。
【0053】
次に、研磨材料301が型204に流し込まれ、注型が行われる。型204内の研磨材料301においては、プレポリマーと硬化剤が重合反応する。ここで、重合反応の進行と共に混合物は硬化し、ポリマーからなるブロック状物が形成される。この際、反応条件が制御されて、研磨材料301が硬化されつつ、重合反応後における微小球体111の平均粒径が調整される。また、型204の温度によっても微小球体111が膨張する可能性があるので、型204の温度は、60℃以上100℃以下とするのが好ましい。60℃以下とすると重合反応の進行が妨げられてしまい、100℃より高温とすると微小球体111が膨張してしまう可能性がある。
【0054】
例えば、本実施形態では、ポットライフ(重合反応が進行し硬化するまでの時間)が150秒未満でプレポリマーの重合反応を迅速に促進させることにより、微小球体111の膨張する速度よりも速く重合反応の促進により混合物の粘度を増加させ、重合反応後の微小球体111の平均粒径が第1貯槽201に微小球体111を投入する前の微小球体111の平均粒径の1倍以上4倍未満となるように研磨層101が形成される。但し、微小球体111の平均粒径は、10μm以上20μm以下に調整される。これにより、研磨層101の密度が0.6g/cm3以上0.9g/cm3以下に調整される。微小球体111の膨張を制御することを考慮し、ポットライフは60秒以上150秒以下であるのが好ましい。
【0055】
さらに、ブロック状物をスライスすることにより、研磨層101が得られる。研磨層101に接着層102及びクッション層103を積層して所望の形状に裁断し、研磨パッド100が形成される。必要に応じて研磨層101には溝等が形成されてもよい。
【0056】
なお、微小球体111は、細かな微粒子であり、微小球体111を第1貯槽201の上方から第1貯槽201に投入すると、第1貯槽201内で舞い上がり、第1貯槽201の内壁に微小球体111に付着する可能性がある。この結果、微小球体111が効率よくプレポリマー中に分散されない可能性がある。従って、微小球体111は、第1貯槽201の下側から流路を介して投入されてもよい。これにより、微小球体111は、第1貯槽201に投入直後から第1貯槽201の底に溜ったプレポリマーに直接的に混入される。
【0057】
微小球体111は、第2貯槽202に投入されてもよい。この場合も第1貯槽201に投入する方法と同様に、第2貯槽202の下側から流路を利用して微小球体111を第2貯槽202に投入することができる。
【0058】
このような方法で製造された研磨パッド100であれば、研磨層101に含まれる微小球体111の平均粒径が10μm以上20μm以下に制御され、研磨層101の密度が0.6g/cm3以上0.9g/cm3以下に調整される、これにより、平均粒径が20μmより大きい微小球体111が分散された研磨層に比べて、研磨対象物をより精密に研磨することができる。さらに、研磨パッド100による研磨速度も向上する。
【0059】
また、本実施形態においては、第1溶液に含まれる微小球体111の平均粒径が5μm以上20μm以下であることから、第1溶液が流路501a、ポンプ401、切替弁410及び流路501bを通過する際の第1溶液の流動性が向上する。これにより、流路501a、ポンプ401、切替弁410及び流路501bのそれぞれにおける第1溶液の目詰まりが抑制される。この結果、研磨材料310中に異物が残存しにくくなる。
【実施例】
【0060】
以下、同一のポリウレタン樹脂製の研磨層101に、平均粒径の異なる微小球体111を形成させ、比較検討を行った。表1に、実施例、比較例の微小球体111の平均粒径を示す。平均粒径は、後述するX線CT装置によって算出された。
【0061】
【0062】
実施例、比較例において、微小球体111の平均粒径以外については、研磨層101が同条件で形成された。X線CTで測定した単位体積あたりの微小球体111の平均粒径、個数、占有体積率等、及び研磨レートの測定方法は、以下の通りである。
【0063】
<X線CT装置>
測定装置:三次元計測X線CT装置 TDM1000H-II(2K)(ヤマト科学株式会社製)
・解析ソフト:VGStudio MAX3.0(VG ACADEMY社製)
・拡大軸:10mm
【0064】
研磨パッドを3mm角に切り出し、粘着テープで固定したものを、X線CT装置で撮影し、X線CT画像を得た(測定体積1mm3程度)。撮影したX線CT画像を上記解析ソフトに読み込ませ、0.5mm3程度の体積相当部分について多孔質構造解析を行い、試料内の微小球体111の空洞部分の総体積及び個数を得た。得られた微小球体111の総体積及び個数から微小球体111の1個あたりの直径を平均粒径として算出するとともに、研磨パッドにおける単位体積あたりの微小球体の個数及び占有体積率を算出した。
【0065】
なお、走査型電子顕微鏡など用いた表面観察により微小球体111の平均粒径を測定する方法などもあるが、表面観察では微小球体111の切断面のサイズしか測定できず、実際の微小球体111の直径よりも小さく測定されてしまうために正確な数値を測定するのが難しい。また、これら表面観察では切断面がつぶれたり、表面がドレスされたりした状態では測定が困難である。そこで、本実施例・比較例ではX線CT装置を用いて得られる空洞部分の直径を微小球体111の平均粒径とすることで、より実際の微小球体111の直径に近い値を求めた。
【0066】
<研磨試験>
使用研磨機:荏原製作所社製、F-REX300
Disk:旭ダイヤモンド工業社製、C100
回転数:(定盤)70rpm、(トップリング)71rpm
研磨圧力:3.5psi
研磨剤温度:20℃
研磨剤吐出量:200ml/min
【0067】
<被研磨物及び研磨剤>
(TEOS膜研磨)
使用ワーク(被研磨物):12インチφシリコンウェーハ上にテトラエトキシシランをプラズマCVD(PE-CVD)で絶縁膜1μmの厚さになるように形成した基板
研磨剤:キャボット社製、品番:SS25(原液:純水=1:1の混合液を使用)
(Cu膜研磨)
使用ワーク(被研磨物):Cuメッキ基板
研磨剤:キャボット社製Cu用スラリー
【0068】
結果を表2に示す。研磨速度は、1分間あたりの研磨量を厚さ(nm)で表したものである。研磨加工後のウェーハ上のTEOS膜またはCu膜について、121箇所で厚みを測定し、研磨された厚さの平均値を求めた。研磨された厚さの平均値を研磨時間で除することにより研磨速度(nm/分)を求めた。TEOS膜基板、Cu膜基板ともに50枚の基板を研磨加工し、立ち上がりを考慮し、10枚目以降50枚目までの平均値を求めた。なお、厚さ測定は、光学式膜厚膜質測定器(KLAテンコール社製、型番「ASET-F5x」)のDBSモードで測定した。
【0069】
【0070】
表2に示すように、実施例では、研磨層101の単位体積あたりに存在する微小球体111が50000個以上であり、例えば、71250個である。これに対し、比較例では、32750個である。また、実施例では、研磨層101における微小球体111の占有体積率が20%以下であり、例えば、18.1%である。これに対し、比較例は、22.9%である。実施例では、絶縁膜(TEOS膜)の研磨速度及び金属膜(Cu膜)の研磨速度が比較例に比べて増加することが分かった。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合させることができる。
【符号の説明】
【0072】
100…研磨パッド
101…研磨層
101a…研磨面
102…接着層
103…クッション層
110…ポリマー
111…微小球体
111a…外殻
111b…内部空間
200…製造装置
201…第1貯槽
202…第2貯槽
203…撹拌槽
204…型
212…容器
301…研磨材料
401、402…ポンプ
410、420…切替弁
501a、501b、501c、502a、502b、502c、503…流路