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特許7176845動物性食材の食感改質剤および成分溶出促進剤、ならびに容器詰飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】動物性食材の食感改質剤および成分溶出促進剤、ならびに容器詰飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20221115BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20221115BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20221115BHJP
   A23L 15/00 20160101ALI20221115BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20221115BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23L13/00 A
A23L17/00 A
A23L15/00 Z
A23L23/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018012841
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019129729
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
(72)【発明者】
【氏名】越智 貴之
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-079707(JP,A)
【文献】特開2005-348706(JP,A)
【文献】特開2016-198001(JP,A)
【文献】特許第5746411(JP,B1)
【文献】特開2006-304762(JP,A)
【文献】勲章料理人 大田忠道氏に聞きました!和食の命は、水。私が水素水を選んだ理由。,日本トリム株式会社 News Letter,2014年01月30日,https://www.nihon-trim.co.jp/wp/wp-content/uploads/2021/01/140130newsletter.pdf,[検索日2021年9月8日]
【文献】日本トリム株式会社 facebook,2017年04月19日,https://www.facebook.com/hashtag/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E6%96%B0%E7%BF%92%E6%85%A3,[検索日2021年9月8日]
【文献】お米や味噌汁の味を劇的に上げる裏技! | 水素水探偵団,2016年08月19日,水素水探偵団.com/other/nomikata/水素水は料理に使うとどうなる?お米を炊いたり/ ,[検索日2021年9月8日]
【文献】お肉が柔らかい~水素水,2017年04月11日,om-otto888.com/blog/1412/,[検索日2021年9月8日]
【文献】ブリしゃぶを美味しく食べよう!~水素水AQUA CLOVER(アクアクローバー)で出汁をとる~ | 広島のLIFE*田舎のLife,2014年02月20日,https://ameblo.jp/misya0705-0705/entry-11777187023.html,[検索日2021年9月8日]
【文献】お肉を水素水に浸ける _ アクアバンクの正規代理店アクア・マーケティング,2016年03月17日,https://aquabank.jp/blog/136/,[検索日2021年9月8日]
【文献】水素水でお肉を柔らかく _ アクアバンクの正規代理店アクア・マーケティング,2016年02月09日,https://aquabank.jp/voice/218/,[検索日2021年9月8日]
【文献】伊藤園、独自の水素封入方式で「水素」を溶け込ませた「水素水」を発売,日経プレスリリース,2016年03月31日,日経テレコン[online],[検索日2022.05.27]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物性食材に水素を接触させる工程を含む、動物性食材の食感改質方法であって、
前記動物性食材が、肉類、魚類、貝類および卵類から成る群から選択され、
前記工程は、中空糸法で得られた水素濃度1~3ppmの水素含有液、前記動物性食材に接触させる工程である、
動物性食材の食感改質方法。
【請求項2】
動物性食材に水素を接触させる工程を含む、動物性食材の成分溶出促進方法であって、
前記動物性食材が、肉類、魚類、貝類および卵類から成る群から選択され、
前記工程は、中空糸法で得られた水素濃度1~3ppmの水素含有液、前記動物性食材に接触させる工程である、
動物性食材の成分溶出促進方法。
【請求項3】
動物性食材に水素を接触させる工程を含む、動物性食材に由来する出汁の製造方法であって、
前記動物性食材が、肉類、魚類、貝類および卵類から成る群から選択され、
前記工程は、中空糸法で得られた水素濃度1~3ppmの水素含有液、前記動物性食材に接触させる工程である、
動物性食材に由来する出汁の製造方法。
【請求項4】
動物性食材に水素を接触させる工程と、
水素を接触させた動物性食材を調理する工程と、
を含む、容器詰飲食品の製造方法であって、
前記動物性食材が、肉類、魚類、貝類および卵類から成る群から選択され、
前記工程は、中空糸法で得られた水素濃度1~3ppmの水素含有液、前記動物性食材に接触させる工程である、
容器詰飲食品の製造方法。
【請求項5】
得られた容器詰飲食品の動物性食材および/または出汁に水素が含まれている、請求項4に記載の容器詰飲食品の製造方法。
【請求項6】
前記動物性食材および/または前記出汁中の水素濃度が0.1~3ppmである、請求項5に記載の容器詰飲食品の製造方法。
【請求項7】
容器がパウチまたは金属缶の形態である、請求項4~6のいずれか一項に記載の容器詰飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来にはない作用機序を利用した動物性食材の食感改質剤および成分溶出促進剤に関するものである。また、本発明は、当該作用機序を利用した容器詰飲食品、動物性食材の食感改質方法および成分溶出促進方法、ならびに動物性食材に由来する出汁の製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
食材の調理方法には、焼く、蒸す、茹でる、煮るなどの多種多様な方法があり、その食材や調理の目的など多様な観点に基づき適宜選択される。その選択に当たり着目される観点の一つに、食感の変化が挙げられる。
【0003】
また、例えばスープ状の飲食品等を調製する場合には、スープ状の旨味や香味を強化するため、調味料や香味料を用いることが多い。ここで、昨今の消費者の健康志向の高まりから、合成調味料等の使用は低減されることが好ましく、原材料となる食材から旨味成分や香味成分等の溶出を高めることができれば、合成調味料等の使用量を低減することができる。
【0004】
このような中、動物性食材における食感の改質については、例えば、特許文献1には、調味液が所定量の炭酸水素ナトリウムを含み、加熱調理により乳化破壊が起こる畜肉加熱食品とすることで、ソフトで高級感のある食感で、さらにジューシー感を高めた畜肉加熱食品が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-070267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、動物性食材の食感を改質し、また、動物性食材からの成分の溶出を促進することのできる方法、またこれに用いることのできる成分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水素の存在下で調理されたお粥の粥粒がふんわりと柔らかいものとなり、それにも拘らず粒が崩れにくくなること、また、風味も改質されていることを見出し、特許出願している(特願2016-231505)。
かかる知見に基づき、多様な食材について検討を進めたところ、動物性食材については、水素を接触させることで、食感の改質および含有成分の溶出促進が認められることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明者らは、以下の発明を提供する。
【0008】
〔1〕 水素を含む、動物性食材の食感改質剤。
〔2〕 水素を含む、動物性食材の成分溶出促進剤。
〔3〕 水素が動物性食材および/または出汁に含まれている、容器詰飲食品。
〔4〕 前記動物性食材および/または前記出汁中の水素濃度が0.1~3ppmである、〔3〕に記載の容器詰飲食品。
〔5〕 前記動物性食材が肉類、魚類、貝類、卵類及び乳類から成る群から選択される、〔3〕〔4〕に記載の容器詰飲食品。
〔6〕 容器がパウチまたは金属缶の形態である、〔3〕~〔5〕のいずれかに記載の容器詰飲食品。
〔7〕 動物性食材に水素を接触させる工程を含む、動物性食材の食感改質方法。
〔8〕 動物性食材に水素を接触させる工程を含む、動物性食材の成分溶出促進方法。
〔9〕 動物性食材に水素を接触させる工程を含む、動物性食材に由来する出汁の製造方法。
〔10〕 動物性食材に水素を接触させる工程と、
水素を接触させた動物性食材を調理する工程と、
を含む、容器詰飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水素を接触させるという比較的単純な工程により、動物性食材の食感を改質し、また、動物性食材からの成分の溶出を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.食感改質剤,成分溶出促進剤
本実施形態に係る食感改質剤および成分溶出促進剤は、動物性食材を対象とするものであって、水素を含むものである。
【0011】
本実施形態において、水素による食感改質作用および成分溶出促進作用の作用機序は必ずしも明らかでないが、水素が最小の分子であり、動物性食材等の内部を自由拡散しやすいことが、その一因として考えられる。例えば、動物性食材に水素を接触させ、当該食材中における水素濃度が高まった状態で、加熱殺菌やボイル等の加熱条件に付すと、食材内部において水素の自由拡散が促進され、食材の構造が改質され、食感が改質されたり、含有成分の溶出が促進されたりする可能性が考えられる。ただし、本実施形態は上記の内容に理論的に拘束されるものではない。
また、前述したとおり本実施形態は、粥粒で得られていた知見を発展させたものであるが、植物性食材の全般については上記の可能性は必ずしも一般化されず、その原因についても現時点では解明の途上にある。
【0012】
(動物性食材)
本実施形態の対象となる動物性食材は、特に制限されず、例えば、肉類、魚類、貝類、甲殻類、卵類、乳類などが挙げられる。
上記肉類としては、例えば、牛肉、豚肉、内臓肉、鶏肉、羊肉、馬肉、猪肉、鴨肉、鯨肉等が挙げられる。
上記魚類としては、例えば、サバ、マグロ、イワシ、サバ、アジ等が挙げられる。
上記貝類としては、例えば、カキ、ハマグリ、ホタテ、アサリ、シジミ等が挙げられる。
上記甲殻類としては、例えば、カニ、エビ等が挙げられる。
上記卵類としては、例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル等が挙げられる。
これらの動物性食材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
(水素の接触)
有効成分としての水素の由来やその製造方法は限定されず、例えば、市販のものを好適に使用することができる。動物性食材に水素を接触させる方法は特に限定されず、例えば、動物性食材を浸漬する調理液(加熱殺菌調理における煮液、ボイル調理におけるボイル液等)、動物性食材の下処理に用いる浸漬液やブランチング液等に、水素を含む液体を用いてもよく、また、水素を高濃度に含む気相を動物性食材に接触させてもよい。
【0014】
水素の量または濃度も所望とする食感や風味に応じて適宜調節されるものであり、特に限定されない。例えば、調理液や下処理浸漬液等に水素含有液を用いる場合、当該水素含有液における溶存水素濃度は、例えば0.1ppm以上、好ましくは0.2~3ppm、より好ましくは0.25~2.5ppm、特に好ましくは0.3~2ppmとすることができる。
水素含有液における水素濃度の調節は、特に限定されるものではないが、例えば、特許第5746411号に記載の中空糸モジュールを用いる方法により行うことができる。この方法によれば、水素含有液に溶存する水素を長期間保持し、ひいては所望とする効果を達成しやすくすることができる。
なお、水素濃度は、例えば中空糸法の場合、給気する水素ガスの圧力を高めることで増えていくが、安全性や効率性及び常圧下に戻した場合の抜け等を考慮し、3ppm程度を上限とすることが望ましい。すなわち、かかる好ましい範囲の上限値3ppmは水素の製造技術上の制約であって、3ppm超の水素濃度により本発明の効果が奏されないことを意味するものではない。
【0015】
(調理)
水素を接触させた動物性食材の調理方法は特に制限されないが、加熱されることが好ましい。加熱されることで、動物性食材の内部において水素の自由拡散が激しくなり、水素による動物性食材の食感改質作用や含有成分溶出促進作用がより効果的に発揮されるものと推測される。
加熱するタイミングは、動物性食材に水素を接触させた時点以降であれば特に制限されず、例えば、加熱調理において動物性食材を浸漬する調理液に水素を含有させ、水素の接触と加熱とを同時に行ってもよく、加熱調理前の下処理に水素含有液を用い、その後別の調理液により加熱調理に付してもよい。
加熱条件も、動物性食材の調理における一般的な条件を挙げることができ、特に限定されるものではないが、例えば、70~200℃、また100~180℃、さらには120~150℃とすることができる。
【0016】
(食感改質方法,含有成分溶出促進方法)
本実施形態において、動物性食材の「食感の改質」とは、用いる食材の種類、大きさ等により異なるが、水素を接触させない以外は同条件で調理した食材との比較で、個々の食材の食感を硬く(あるいはやわらかく)感じられることを意味する。かかる食感の改質は、動物性食材の含有成分が多く溶出が促進されることに起因するものと推測されるが、本実施形態の「食感の改質」は必ずしもかかる因果関係に制限されるものではない。
かかる食感の評価は、動物性食材のやわらかさや崩れにくさを官能試験で評価することができるが、必ずしも官能試験による必要はなく、例えば、調理前の食材の大きさを揃え調理による型くずれの有無等を比較したり、電子顕微鏡により動物性食材の断面形状を観察したり、動物性食材に物理的負荷をかけ応力等を測定することで、官能評価を実質的に代替することもできる。
【0017】
また、本実施形態において、動物性食材の「含有成分の溶出促進」とは、用いる食材の種類、大きさ等により異なるが、水素を接触させない以外は同条件で調理した食材との比較で、動物性食材の含有成分をより多く調味液に溶出させることを意味する。
含有成分の溶出は、調味液全般を対象とし分光光度計やBx計等を用いて測定したり、特定の成分に着目してHPLC法や酵素法等により濃度を測定したり、官能評価により風味・香味等を評価したりすることで評価できる。
【0018】
以上の実施形態に係る食感改質剤および成分溶出促進剤は、水素を含むため、動物性食材の食感を改質できるとともに、含有成分の溶出を促進することができる。
なお、上記実施形態は、動物性食材に水素を接触させる工程を含む、動物性食材の食感改質方法および成分溶出促進方法をも提供するものである。
【0019】
(出汁の製造方法)
また、本実施形態によれば、水素の作用により、動物性食材の含有成分の溶出を促進できるため、動物性食材に由来する出汁を製造する方法としても特に好適である。
この場合において、得られる出汁は、そのまま容器詰飲食品の原材料とすることができるほか(後述する)、動物性食材を濾別し、各種スープや調味料等の原材料として使用することもできる。
【0020】
2.容器詰飲食品
本実施形態における容器詰飲食品は、上記のとおり水素を接触させ調理された動物性食材、および/または、当該動物性食材から得られる出汁を含有する。なお、本実施形態においては、調理時に水素が所望の効果を発揮していればよく、調理後の動物性食材または出汁が水素を含有することを必要としない。
【0021】
ただし、本実施形態の容器詰飲食品は、調理後においても、水素が動物性食材および/または出汁に含まれていると、より好ましい。この場合において、 動物性食材および/または出汁中の水素濃度は、例えば0.1ppm以上、好ましくは0.2~3ppm、より好ましくは0.25~2.5ppm、特に好ましくは0.3~2ppm含まれていてもよい。
なお、容器詰飲食品に含まれる水素は経時的に、特に使用する容器の種類によって徐々に減少する。例えば、レトルトパウチ製品の賞味期限は通常製造日から1~2年程度であるが、使用する容器や製造からの経過時間次第で当然その内容物中の水素濃度が変化するため、容器詰飲食品の製造から一定時間が経過すると飲食品中に水素が含まれていない場合もある。また、開封によっても容器の内容物中に残存している水素濃度は減少するが、開封直後には残存していることもあり、例えば、開封3時間後でもある程度の水素が残存していた場合もあった。
【0022】
(その他の成分)
本実施形態の容器詰飲食品は、水素の接触による食感の改質および/または含有成分の溶出促進が生じているため、別途の調味料を添加しなくとも動物性食材の食感/風味・香味などを十分に味わうことができる。ただし、飲食品全体の風味・香味、食感などを調節する観点から、調味料、甘味付与剤、香料、糊料などをさらに配合してもよい。
また、そのほか、ビタミン類、酸味料、ミネラル分、機能性成分、各種エステル類、乳化剤、保存料、油、pH調整剤、品質安定剤等を含有してもよい。
さらに、本実施形態の容器詰飲食品は、そのほかの具材、例えば植物性食材や、水素を接触させない動物性食材などを併用してもよい。
【0023】
(容器)
調理に使用する容器は、動物性食材またはこれを浸漬する調理液に含まれる水素が調理工程(例えば、加熱殺菌工程)により減少するのを防ぐことができるよう、密閉可能なものが好ましい。このような容器としてはレトルト食品に使用されるアルミパウチ、金属缶などがある。
このようなレトルトタイプの容器詰粥類で通常使用されるアルミやプラスチックを用いて構成されるパウチは、耐熱性があり、水素を逃がしにくく、且つ、酸素バリア性のある材料で構成されるのが好ましい。これらの性質に加え、水素を透過しにくい性質を有する材料、例えば特許第5746411号に記載の可撓性包装材料などから構成される容器が本発明において好適に使用され得る。
なお、酸素に起因する酸化又は風味劣化を防止する観点から、容器のヘッドスペースは極力少ない方がよい。ヘッドスペース中の酸素量は窒素置換等の当業者に常用の手段により減少させることができる。
【0024】
(容器詰飲食品の製造方法)
レトルトタイプの容器詰飲食品を例に容器詰飲食品の製造方法の一例を説明すると、まず、動物性食材、調理液としての水素含有液(さらに調味料等を含んでいてもよい)、さらには任意の具材を、これらの材料の容量に匹敵する容量を有するレトルト容器に含めて密封する。この工程で動物性食材に水素が接触する。その後、密封したレトルト容器を、加熱殺菌処理に付し、調理する。加熱殺菌処理は常法にしたがって行えばよく、その条件は特に制限されない。
【0025】
他の一例として、下処理として、動物性食材を水素含有液に浸漬する、動物性食材を水素含有液にてブランチングする、動物性食材を水素含有雰囲気に接触させる、などの方法により、動物性食材に水素を接触させる。この場合、得られた動物性食材は水素を含有しており、その後の調理において、動物性食材の食感の改質や含有成分の溶出促進に寄与する。かかる動物性食材を、加熱等の調理に付す。この場合の調理工程で用いる調理液は、必ずしも水素を含有する必要はない。
【0026】
以上述べた実施形態に係る容器詰飲食品は、動物性食材の食感が改質されており、また動物性食材の含有成分が煮汁に効果的に溶出されており、嗜好的に好ましいものとなる。
【0027】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0028】
以下、具体例を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の具体例に何ら限定されるものではない。
【0029】
1.レトルト食品の製造
後述する試験例において、レトルト食品を製造するにあたっては、以下の手順で試料調製を行った。なお、実施例毎の設定条件については、各実施例において述べる。
【0030】
(1)使用水の調製
加熱調理の煮液、ならびに下処理(ブランチング)の使用水については、特に指定がない限り、イオン交換水を使用した。また、煮液や下処理使用水に添加する水素は、特許5746411号に記載の中空糸モジュールを用いる方法(以下、「中空糸法」と言う)で製造した。より具体的には、中空糸モジュール(永柳工業株式会社製「ナガセップ」:M40μ(6000本)又はM60μ(4400本))に純水素ガスを給気しつつ、前記イオン交換水を流速約0.8L/min、給気圧0.24~0.25MPaで通液することで、約2.0~3.0ppm程度の水素を含有する水素水を製造した。
【0031】
(水素濃度の調整)
煮液および下処理使用水の水素濃度の調整は、中空糸法で得られた水素水にイオン交換水を所定割合で混合することで行い、ニードル型水素濃度測定機(ユニセンス社製)を用いて水素濃度を確認した。
【0032】
(2)レトルト容器
後述する試験例において、レトルト食品の封入容器には容量250mlのアルミパウチ容器(レトルト用,自立式:細川洋行社製)を用いた。
上記容器に、下処理後の食材および所定の煮液を合計250gとなるように重量を調整し、ヘッドスペースを生じないようにしてヒートシールにより封入した。
【0033】
(3)レトルト殺菌処理
上記アルミパウチ容器に封入した食材および煮液は、各実施例の設定に合わせて所定時間浸漬状態で保持した後レトルト殺菌を行った。レトルト殺菌は126℃・21分間(差圧式)、若しくはこれと同等以上の条件(厚生労働省食品の規格基準D「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」2.容器包装詰加圧加熱殺菌食品(6)-2)で行った。上記殺菌処理完了後、25℃で各実施例の設定に合わせて所定期間保管した。
【0034】
(4)評価基準
各試料について、食材の官能評価を行った。官能評価は、株式会社伊藤園の研究開発部門に所属する研究者等の中から選抜した、訓練された6人のパネラーに各試料をブラインドで提示して行った。採点は食材毎に比較例(水素添加されていない試料)の評価点を基準点0点とし、夫々の項目について採点は1点刻みで行った。評価基準の詳細を表1に示す。
後述する各試料の評価点は、パネラーの評価の平均値である(小数点以下は四捨五入)。
【0035】
【表1】
【0036】
また、煮汁の評価(色・性状,香味)については、パネラーの感想のなかで最も多かったものを示した。
【0037】
<試験例1>鶏ムネ肉への水素処理
食材としての鶏ムネ肉(知床若鶏ムネ肉,小間切れ)約40gと、煮液としてのイオン交換水(試料1,対照)または水素水(水素濃度1.9ppm,試料2)約210gとを、それぞれアルミパウチ容器に封入し、室温にて2~3分保持した後、上記条件にてレトルト殺菌を行った。その後、25℃にて1週間保管した後に開封し、得られた食材(鶏ムネ肉)の官能評価を行うとともに、煮汁の香味を評価した。各試料の調製条件および評価結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
煮液に水素水を用いて加熱殺菌すると、食材のやわらかさが改質され、また煮汁で鶏肉の味が強くなった。
【0040】
<試験例2>サバへの水素処理
食材としてのサバ(三重県産ゴマサバ,切り身(3等分))約45gと、煮液としてのイオン交換水(試料3,対照)または水素水(水素濃度1.9ppm,試料4)約205gとを、それぞれアルミパウチ容器に封入し、室温にて2~3分保持した後、上記条件にてレトルト殺菌を行った。その後、25℃にて1週間保管した後に開封し、得られた食材(サバ)の官能評価を行うとともに、煮汁の香味を評価した。
試料5~6については、サバ(三重県産ゴマサバ,切り身(3等分))約45gを、下処理として、純水(試料5)または水素水(水素濃度1.7ppm,試料6)を用い、常温にて30秒浸漬した。また、試料7~8については、サバ(三重県産ゴマサバ,切り身(3等分))約45gを、下処理として、純水(試料7)または水素水(水素濃度1.0ppm,試料8)を用い、80℃3分間のブランチングを行った。
その後、浸漬またはブランチングしたサバ切り身とイオン交換水約205gとをそれぞれアルミパウチ容器に封入し、試料3と同様に、室温保持、レトルト殺菌、25℃保管の後に、得られた食材の官能評価を行った。
各試料の調製条件および評価結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
煮液に水素水を用いて加熱殺菌すると、食材のやわらかさが改質され、煮汁の旨味が強くなった。
また、加熱殺菌前に水素水で浸漬またはブランチングし、その後純水を煮液として加熱殺菌を行っても、食材のやわらかさが改質されるとともに、煮汁への成分の溶出が認められた。
【0043】
<試験例3>たまごへの水素処理
水煮したうずら卵(国産,4個)約27gと、煮液としてのイオン交換水(試料9,対照)または水素水(水素濃度1.9ppm,試料10)約223gとを、それぞれアルミパウチ容器に封入し、室温にて2~3分保持した後、レトルト殺菌を行った。その後、25℃にて2日間保管した後に開封し、得られた食材の官能評価を行うとともに、煮汁の香味を評価した。
各試料の調製条件および評価結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
水煮したうずら卵を用い、水素水を煮液として加熱殺菌すると、やわらかさが改質され、煮汁の旨味が強くなった。
【0046】
<試験例4>グリーンピースへの水素処理
食材としてのグリーンピース(鹿児島県産むきピース)約27gと、煮液としてのイオン交換水(試料11,対照)または水素水(水素濃度1.9ppm,試料12)約223とを、それぞれアルミパウチ容器に封入し、室温にて2~3分保持した後、レトルト殺菌を行った。その後、25℃にて2日間保管した後に開封し、得られた食品の官能評価を行うとともに、煮汁の香味を評価した。各試料の調製条件および評価結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
グリーンピースについては、煮液に水素水を用いて加熱殺菌しても、食感の改質、煮汁への成分の溶出の促進などは認められなかった。
【0049】
<試験例5>大根への水素処理
食材としての大根(3等分)約65gと、煮液としてのイオン交換水(試料13,対照)または水素水(水素濃度1.9ppm,試料14)約185gとを、それぞれアルミパウチ容器に封入し、室温にて2~3分保持した後、レトルト殺菌を行った。その後、25℃にて2日間保管した後に開封し、得られた食品の官能評価を行うとともに、煮汁の香味を評価した。
試料15~16については、大根(3等分)約65gを、下処理として、純水(試料15)または水素水(水素濃度1.7ppm,試料16)を用い、常温にて30秒浸漬した。また、試料17~18については、大根(3等分)約65gを、下処理として、純水(試料17)または水素水(水素濃度1.0ppm,試料18)を用い、80℃3分間のブランチングを行った。
その後、浸漬またはブランチングした大根とイオン交換水約185gとをそれぞれアルミパウチ容器に封入し、試料13と同様に、室温保持、レトルト殺菌、25℃保管の後に、得られた食品の官能評価を行った。
各試料の調製条件および評価結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
大根については、煮液に水素水を用いて加熱殺菌しても、加熱殺菌前に水素水で浸漬またはブランチングし、その後純水を煮液として加熱殺菌を行っても、食感の改質、煮汁への成分の溶出の促進などは認められなかった。
【0052】
以上のとおり、鶏ムネ肉(試験例1)、サバ切り身(試験例2)、たまご(試験例3)については、水素による食感改質効果および成分溶出促進効果が確認されたが、一方でグリーンピース(試験例4)および大根(試験例5)ではこれらの効果は確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本実施形態の食感改質剤および成分溶出促進剤によれば、水素を接触させるという簡便な方法にて動物性食材の食感改質・含有成分の溶出を促進することができ、容器詰飲食品の製造のみならず、多種多様な飲食品における合成調味料等の使用量の低減、各種スープ類の製造工程の効率化など、産業上に与えるインパクトは大きい。