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  • 特許-セルロースアセテート組成物及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】セルロースアセテート組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/12 20060101AFI20221115BHJP
   A24F 47/00 20200101ALI20221115BHJP
   A24D 3/10 20060101ALI20221115BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20221115BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
C08L1/12 ZBP
A24F47/00
A24D3/10
C08K5/11
C08L101/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018150229
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020026444
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】賀 旭東
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅彦
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0058425(US,A1)
【文献】特表2017-500021(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107565(WO,A1)
【文献】特表2013-531720(JP,A)
【文献】特表2014-520945(JP,A)
【文献】特開2001-048840(JP,A)
【文献】国際公開第2009/037461(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/142166(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第02489491(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
A24F 40/00 - 47/00
A24D 1/00 - 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル置換度が0.4以上1.1以下のセルロースアセテート、及び
クエン酸エステル系可塑剤を含有し、
前記クエン酸エステル系可塑剤の含有量が、前記セルロースアセテート及び前記クエン酸エステル系可塑剤の合計量100重量部に対し、3重量部以上である、セルロースアセテート組成物。
【請求項2】
前記クエン酸エステル系可塑剤がクエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項3】
前記セルロースアセテート組成物が熱成形用である、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のセルロースアセテート組成物を成形してなる成形
体。
【請求項5】
前記成形体がフィルムである、請求項に記載の成形体。
【請求項6】
前記成形体が中空円柱状である、請求項に記載の成形体。
【請求項7】
前記成形体が電子タバコの紙巻タバコ用部材である、請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテート組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紙巻きタバコに対し、近年、火を使わない電子タバコの需要が伸びている。電子タバコの種類は、概ね2種に分けられ、ニコチンを有機溶剤に溶解した溶液を加熱して、生じるエアロゾルや気体を吸引するタイプと、タバコ葉(ここで、タバコ葉は、タバコ葉を加工した物、又はタバコ成分を浸み込ませた基材等の擬似タバコ葉を含む)を加熱(燃焼はさせない)させた上で飛散するニコチンを含むエアロゾルを吸引するタイプがある。しかし、日本では、ニコチンそのものは医薬品に指定され、原則として販売が禁止される等、ニコチンの取扱いが規制されている。このような場合には、ニコチンを有機溶剤に溶解した溶液を加熱して、生じるエアロゾルや気体を吸引するタイプの電子タバコは販売できない。また、日本以外の国でも医薬品となっている国は多い。なお、フィリップ・モリス社のiQOS(登録商標)は、専用の紙巻タバコを用い、タバコ葉を加熱させた上で飛散するニコチンを含むエアロゾルを吸引するタイプである。
【0003】
電子タバコに用いる紙巻タバコとして、例えば、特許文献1には、吸い口に近い方から、マウスピース、エアロゾル冷却要素、支持要素、及びエアロゾル形成基材が順に並んだ構造を有するものがあり、マウスピースとしてはセルロースアセテートトウフィルタ、エアロゾル冷却要素としてはポリ乳酸シート、支持要素としては中空のセルロース・アセテート管体、及びエアロゾル形成基材としてタバコを含むことが記載される。
【0004】
タバコ葉を加熱するタイプの電子タバコは、喫煙を終えた後、専用の紙巻タバコのタバコ葉以外の部材が残ることとなる。したがって、この残った部材が投げ捨てられることによる環境問題が生じ得る。この環境問題に対応するため、上述のとおり、電子タバコに用いる紙巻タバコの冷却部には、生分解性のあるポリ乳酸を材料として使用している。
【0005】
生分解性に優れる観点からは、セルロースアセテートトウフィルタやセルロース・アセテート管体に用いられるセルロースアセテートのアセチル置換度は、一般的により低い方が好ましいが、熱成形による加工が容易であること、また喫味に対する影響が少ないこと等から、ある程度のアセチル置換度を必要とする。そして、より優れた熱成形加工性や物性を得るためにセルロースアセテートに可塑剤等の添加剤を添加することがある(特許文献2、3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-503335号公報
【文献】国際公開第2016/203657号
【文献】特開2015-140432号公報
【文献】特開2001-048840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2には、アセチル総置換度が0.4~1.6である酢酸セルロースにポリビニルアルコールを添加することが記載される。特許文献3には、アセチル置換度が0.5から1.0のセルロースアセテートに添加する可塑剤として、ポリエチレングリコールを用いることが記載される。
【0008】
しかし、特に、従来のタバコフィルタや、電子タバコの各部材(セルロースアセテートトウフィルタ等の吸い口に用いられる部材、エアロゾルの冷却要素としての部材、及び中空のセルロース・アセテート管体等の支持要素としての部材を含む喫煙に係る部材)に、ポリビニルアルコールやポリエチレングリコールを添加する場合、喫味に対する影響が懸念される。
【0009】
ポリエチレングリコールは、重合度の違いに応じて状態が変化し、室温下、重合度が低い場合に液体状、重合度が高い場合に固体状を有する。液体状のポリエチレングリコールは、セルロースアセテート中に均一に分散しやすい点で好ましいものの、セルロースアセテートからブリードアウトしやすく、また、固体状のポリエチレングリコールは、セルロースアセテート中に均一に分散しにくいという懸念がある。したがって、ポリエチレングリコールはセルロースアセテートの可塑剤としての取り扱いが実質的に容易ではない。
【0010】
また、特許文献4には、クエン酸エステル化合物を含有してなる酢酸セルロース系樹脂組成物、及び酢酸セルロース系樹脂の酢化度が40.03~62.55%、即ち置換度が1.5~3.0であることが記載されるが、このような酢酸セルロース系樹脂組成物は、水解性に乏しい。
【0011】
従来の可塑剤を添加する方法によって、セルロースアセテートの熱成形性を高めることはできたものの、得られるセルロースアセテート組成物の生分解性と熱成形性を両立するものではなかった。本発明は、優れた生分解性及び水解性、並びに優れた熱成形性を有するセルロースアセテート組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一は、アセチル置換度が0.4以上1.4未満のセルロースアセテート、及びクエン酸エステル系可塑剤を含有し、前記クエン酸エステル系可塑剤の含有量が、前記セルロースアセテート及び前記クエン酸エステル系可塑剤の合計量100重量部に対し、3重量部以上である、セルロースアセテート組成物に関する。
【0013】
前記セルロースアセテート組成物において、前記クエン酸エステル系可塑剤がクエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
【0014】
前記セルロースアセテート組成物において、前記セルロースアセテートのアセチル置換度が0.4以上1.1以下であってよい。
【0015】
前記セルロースアセテート組成物において、前記セルロースアセテート組成物が熱成形用であってよい。
【0016】
本発明の第二は、前記セルロースアセテート組成物を成形してなる成形体に関する。
【0017】
前記成形体がフィルムであってよい。
【0018】
前記成形体が中空円柱状であってよい。
【0019】
前記成形体が電子タバコの紙巻タバコ用部材であってよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた生分解性及び水解性、並びに優れた熱成形性を有するセルロースアセテート組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】生分解度(重量%)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[セルロースアセテート組成物]
本開示のセルロースアセテート組成物は、アセチル置換度が0.4以上1.4未満のセルロースアセテート、及びクエン酸エステル系可塑剤を含有し、前記クエン酸エステル系可塑剤の含有量が、前記セルロースアセテート及び前記クエン酸エステル系可塑剤の合計量100重量部に対し、3重量部以上である。
【0023】
[セルロースアセテート]
(アセチル置換度)
本開示のセルロースアセテート組成物が含有するセルロースアセテートは、アセチル置換度が0.4以上1.4未満であるところ、アセチル置換度は、0.4以上1.1以下が好ましく、0.7以上1.0以下がより好ましい。アセチル置換度がこの範囲であると、本開示のセルロースアセテート組成物は、セルロース以上に優れた生分解性を有すると共に、水解性及び熱成形性にも優れる。
【0024】
ここで、熱成形性に優れるとは、具体的には例えば、溶融物(melt)の溶融状態を熱成形に適した範囲に調整することが可能、つまり、溶融時の粘度を熱成形に適した範囲とすることが可能であることをいう。
【0025】
また、本開示において、熱成形とは、加熱により変形可能な可塑性を発揮し、冷却により所定の形状を作ることをいい、熱成形の方法としては、例えば、加熱圧縮成形、溶融押出成形や射出成形などが挙げられる。
【0026】
一方、アセチル置換度が0.4未満であると得られるセルロースアセテート組成物は、生分解性、水分解性、及び熱成形性に劣る。また、アセチル置換度が1.4以上であると生分解性に劣る傾向がある。
【0027】
セルロースアセテートのアセチル置換度は、セルロースアセテートを置換度に応じた適切な溶媒に溶解し、セルロースアセテートの置換度を求める公知の滴定法により測定できる。アセチル置換度は、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従い、セルロースアセテートの水酸基を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、重クロロホルムに溶解し、NMRにより測定することもできる。
【0028】
さらに、アセチル置換度は、ASTM:D-817-91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度を次式で換算することにより求められる。これは、最も一般的なセルロースアセテートの置換度の求め方である。
DS=162.14×AV×0.01/(60.052-42.037×AV×0.01)
DS:アセチル置換度
AV:酢化度(%)
【0029】
まず、乾燥したセルロースアセテート(試料)500mgを精秤し、超純水とアセトンとの混合溶媒(容量比4:1)50mlに溶解した後、0.2N-水酸化ナトリウム水溶液50mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。次に、0.2N-塩酸50mlを添加し、フェノールフタレインを指示薬として、0.2N-水酸化ナトリウム水溶液(0.2N-水酸化ナトリウム規定液)で、脱離した酢酸量を滴定する。また、同様の方法によりブランク試験(試料を用いない試験)を行う。そして、下記式にしたがってAV(酢化度)(%)を算出する。
AV(%)=(A-B)×F×1.201/試料重量(g)
A:0.2N-水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
B:ブランクテストにおける0.2N-水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
F:0.2N-水酸化ナトリウム規定液のファクター
【0030】
なお、本開示において、アセチル置換度とは、アセチル総置換度、つまり、セルロースアセテートのグルコース環の2,3,6位の各アセチル平均置換度の和と言い換えることもできる。
【0031】
(組成分布指数(CDI))
本開示のセルロースアセテート組成物が含有するセルロースアセテートは、組成分布指数(CDI)が3.0以下(例えば、1.0~3.0)であることが好ましい。組成分布指数(CDI)は、2.8以下、2.0以下、1.8以下、1.6以下、さらに1.3以下の順により小さい方が好ましい。下限値は、特に限定されるものではないが、1.0以上であってよい。
【0032】
計算上、組成分布指数(CDI)の下限値は0であるが、これは例えば100%の選択性でグルコース残基の6位のみをアセチル化し、他の位置はアセチル化しない等の特別な合成技術をもって実現されるものであり、そのような合成技術は知られていない。グルコース残基の水酸基の全てが同じ確率でアセチル化および脱アセチル化される状況において、CDIは1.0となるが、実際のセルロースの反応においてはこのような理想状態に近付けるためには相当の工夫を要する。従来の技術においては、このような組成分布の制御についてはあまり関心が払われていなかった。
【0033】
セルロースアセテートは組成分布指数(CDI)が小さく、組成分布(分子間置換度分布)が均一となることにより、本開示のセルロースアセテート組成物は、熱成形性により優れるものとなる。
【0034】
ここで、組成分布指数(Compositional Distribution Index, CDI)とは、組成分布半値幅の理論値に対する実測値の比率[(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)]で定義される。組成分布半値幅は「分子間置換度分布半値幅」又は単に「置換度分布半値幅」ともいう。
【0035】
セルロースアセテートのアセチル置換度の均一性を評価するのに、セルロースアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅(「半価幅」ともいう)の大きさを指標とすることができる。なお、半値幅は、アセチル置換度を横軸(x軸)に、この置換度における存在量を縦軸(y軸)としたとき、チャートのピークの高さの半分の高さにおけるチャートの幅であり、分布のバラツキの目安を表す指標である。組成分布半値幅(置換度分布半値幅)は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により求めることができる。なお、HPLCにおけるセルロースエステルの溶出曲線の横軸(溶出時間)を置換度(0~3)に換算する方法については、特開2003-201301号公報(段落0037~0040)に説明されている。
【0036】
(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅(置換度分布半値幅)は確率論的に理論値を算出できる。すなわち、組成分布半値幅の理論値は以下の式(1)で求められる。
【数1】

m:セルロースアセテート1分子中の水酸基とアセチル基の全数
p:セルロースアセテート1分子中の水酸基がアセチル置換されている確率
q=1-p
DPw:重量平均重合度(セルロースアセテートの残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC-光散乱法により求めた値)
【0037】
さらに、組成分布半値幅の理論値を置換度と重合度で表すと、以下のように表される。下記式(2)を組成分布半値幅の理論値を求める定義式とする。
【数2】

DS:アセチル置換度
DPw:重量平均重合度(セルロースアセテートの残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC-光散乱法により求めた値)
【0038】
ところで、式(1)および式(2)においては、より厳密には重合度分布を考慮に入れるべきであり、この場合には式(1)および式(2)の「DPw」は、重合度分布関数に置き換え、式全体を重合度0から無限大までで積分すべきである。しかしながら、DPwを使う限り、式(1)および式(2)は近似的に十分な精度の理論値を与える。DPn(数平均重合度)を使うと、重合度分布の影響が無視できなくなるので、DPwを使うべきである。
【0039】
(組成分布半値幅の実測値)
本開示において、組成分布半値幅の実測値とは、セルロースアセテート(試料)の残存水酸基(未置換水酸基)をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅である。
【0040】
一般的に、アセチル置換度2~3のセルロースアセテートに対しては、前処理なしに高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析を行うことができ、それによって組成分布半値幅を求めることができる。例えば、特開2011-158664号公報には、置換度2.27~2.56のセルロースアセテートに対する組成分布分析法が記載されている。
【0041】
一方、組成分布半値幅(置換度分布半値幅)の実測値は、HPLC分析前に前処理としてセルロースアセテートの分子内残存水酸基の誘導体化を行い、しかる後にHPLC分析を行って求める。この前処理の目的は、置換度の低いセルロースアセテートを有機溶剤に溶解しやすい誘導体に変換してHPLC分析可能とすることである。すなわち、分子内の残存水酸基を完全にプロピオニル化し、その完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)をHPLC分析して組成分布半値幅(実測値)を求める。ここで、誘導体化は完全に行われ、分子内に残存水酸基はなく、アセチル基とプロピオニル基のみ存在していなければいけない。すなわち、アセチル置換度(DSac)とプロピオニル置換度(DSpr)の和は3である。これは、CAPのHPLC溶出曲線の横軸(溶出時間)をアセチル置換度(0~3)に変換するための較正曲線を作成するために関係式:DSac+DSpr=3を使用するためである。
【0042】
セルロースアセテートの完全誘導体化は、ピリジン/N,N-ジメチルアセトアミド混合溶媒中でN,N-ジメチルアミノピリジンを触媒とし、無水プロピオン酸を作用させることにより行うことができる。より具体的には、溶媒として混合溶媒[ピリジン/N,N-ジメチルアセトアミド=1/1(v/v)]をセルロースアセテート(試料)に対して20重量部、プロピオニル化剤として無水プロピオン酸を該セルロースアセテートの水酸基に対して6.0~7.5当量、触媒としてN,N-ジメチルアミノピリジンを該セルロースアセテートの水酸基に対して6.5~8.0mol%使用し、温度100℃、反応時間1.5~3.0時間の条件でプロピオニル化を行う。そして、反応後、沈澱溶媒としてメタノールを用い、沈澱させることにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネートを得る。より詳細には、例えば、室温で、反応混合物1重量部をメタノール10重量部に投入して沈澱させ、得られた沈澱物をメタノールで5回洗浄し、60℃で真空乾燥を3時間行うことにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を得ることができる。なお、重量平均重合度(DPw)も、セルロースアセテート(試料)をこの方法により完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とし、測定したものである。
【0043】
上記HPLC分析では、異なるアセチル置換度を有する複数のセルロースアセテートプロピオネートを標準試料として用いて所定の測定装置および測定条件でHPLC分析を行い、これらの標準試料の分析値を用いて作成した較正曲線[セルロースアセテートプロピオネートの溶出時間とアセチル置換度(0~3)との関係を示す曲線、通常、三次曲線]から、セルロースアセテート(試料)の組成分布半値幅(実測値)を求めることができる。HPLC分析で求められるのは溶出時間とセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度分布の関係である。これは、試料分子内の残存ヒドロキシ基のすべてがプロピオニルオキシ基に変換された物質の溶出時間とアセチル置換度分布の関係であるから、本開示のセルロースアセテートのアセチル置換度分布を求めていることと本質的には変わらない。
【0044】
上記HPLC分析の条件は以下の通りである。
装置: Agilent 1100 Series
カラム: Waters Nova-Pak phenyl 60Å 4μm(150mm×3.9mmΦ)+ガードカラム
カラム温度:30℃
検出: Varian 380-LC
注入量: 5.0μL(試料濃度:0.1%(wt/vol))
溶離液: A液:MeOH/HO=8/1(v/v),B液:CHCl MeOH=8/1(v/v)
グラジェント:A/B=80/20→0/100(28min);流量:0.7mL/min
【0045】
較正曲線から求めた置換度分布曲線[セルロースアセテートプロピオネートの存在量を縦軸とし、アセチル置換度を横軸とするセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布曲線](「分子間置換度分布曲線」ともいう)において、平均置換度に対応する最大ピーク(E)に関し、以下のようにして置換度分布半値幅を求める。ピーク(E)の低置換度側の基部(A)と、高置換度側の基部(B)に接するベースライン(A-B)を引き、このベースラインに対して、最大ピーク(E)から横軸に垂線をおろす。垂線とベースライン(A-B)との交点(C)を決定し、最大ピーク(E)と交点(C)との中間点(D)を求める。中間点(D)を通って、ベースライン(A-B)と平行な直線を引き、分子間置換度分布曲線との二つの交点(A’、B’)を求める。二つの交点(A’、B’)から横軸まで垂線をおろして、横軸上の二つの交点間の幅を、最大ピークの半値幅(すなわち、置換度分布半値幅)とする。
【0046】
このような置換度分布半値幅は、試料中のセルロースアセテートプロピオネートの分子鎖について、その構成する高分子鎖一本一本のグルコース環の水酸基がどの程度アセチル化されているかにより、保持時間(リテンションタイム)が異なることを反映している。したがって、理想的には、保持時間の幅が、(置換度単位の)組成分布の幅を示すことになる。しかしながら、HPLCには分配に寄与しない管部(カラムを保護するためのガイドカラムなど)が存在する。それゆえ、測定装置の構成により、組成分布の幅に起因しない保持時間の幅が誤差として内包されることが多い。この誤差は、上記の通り、カラムの長さ、内径、カラムから検出器までの長さや取り回しなどに影響され、装置構成により異なる。このため、セルロースアセテートプロピオネートの置換度分布半値幅は、通常、下式で表される補正式に基づいて、補正値Zとして求めることができる。このような補正式を用いると、測定装置(および測定条件)が異なっても、同じ(ほぼ同じ)値として、より正確な置換度分布半値幅(実測値)を求めることができる。
Z=(X-Y1/2
[式中、Xは所定の測定装置および測定条件で求めた置換度分布半値幅(未補正値)である。Y=(a-b)x/3+b(0≦x≦3)である。ここで、aは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた置換度3のセルロースアセテートの見掛けの置換度分布半値幅(実際は置換度3なので、置換度分布は存在しない)、bは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた置換度3のセルロースプロピオネートの見掛けの置換度分布半値幅である。xは測定試料のアセチル置換度(0≦x≦3)である]
【0047】
なお、上記置換度3のセルロースアセテート(もしくはセルロースプロピオネート)とは、セルロースのヒドロキシル基の全てがエステル化されたセルロースエステルを示し、実際には(理想的には)置換度分布半値幅を有しない(すなわち、置換度分布半値幅0の)セルロースエステルである。
【0048】
先に説明した置換度分布理論式は、すべてのアセチル化と脱アセチル化が独立かつ均等に進行することを仮定した確率論的計算値である。すなわち、二項分布に従った計算値である。このような理想的な状況は現実的にはあり得ない。セルロースアセテートの加水分解反応が理想的なランダム反応に近づくような、及び/又は、反応後の後処理について組成について分画が生じるような特別な工夫をしない限り、セルロースエステルの置換度分布は確率論的に二項分布で定まるものよりも大幅に広くなる。
【0049】
反応の特別な工夫の一つとしては、例えば、脱アセチル化とアセチル化が平衡する条件で系を維持することが考えられる。しかし、この場合には酸触媒によりセルロースの分解が進行するので好ましくない。他の反応の特別な工夫としては、脱アセチル化速度が低置換度物について遅くなる反応条件を採用することである。しかし、従来、そのような具体的な方法は知られていない。つまり、セルロースエステルの置換度分布を反応確率論通り二項分布にしたがうよう制御するような反応の特別な工夫は知られていない。さらに、酢化過程(セルロースのアセチル化工程)の不均一性や、熟成過程(セルロースアセテートの加水分解工程)で段階的に添加する水による部分的、一時的な沈澱の発生などの様々な事情は、置換度分布を二項分布よりも広くする方向に働き、これらを全て回避し、理想条件を実現することは、現実的には不可能である。これは、理想気体があくまで理想の産物であり、実在する気体の挙動はそれとは多かれ少なかれ異なることと似ている。
【0050】
従来の置換度が低いセルロースアセテートの合成と後処理においては、このような置換度分布の問題について殆ど関心が払われておらず、置換度分布の測定や検証、考察が行われていなかった。例えば、文献(繊維学会誌、42、p25 (1986))によれば、置換度の低いセルロースアセテートの溶解性は、グルコース残基2、3、6位へのアセチル基の分配で決まると論じられており、組成分布は全く考慮されていない。
【0051】
本開示によれば、後述するように、セルロースアセテートの置換度分布は、驚くべきことにセルロースアセテートの加水分解工程の後の後処理条件の工夫で制御することができる。文献(CiBment, L., and Rivibre, C., Bull. SOC. chim., (5) 1, 1075 (1934)、Sookne, A. M., Rutherford, H. A., Mark, H., and Harris, M. J . Research Natl. Bur. Standards, 29, 123 (1942)、A. J. Rosenthal , B. B. White Ind. Eng. Chem., 1952, 44 (11), pp 2693-2696.)によれば、置換度2.3のセルロースアセテートの沈澱分別では、分子量に依存した分画と置換度(化学組成)に伴う微々たる分画が起こるとされており、本開示のように置換度(化学組成)で顕著な分画ができるとの報告はない。さらに、本開示のような置換度の低いセルロースアセテートについて、溶解分別や沈澱分別で置換度分布(化学組成)を制御できることは検証されていなかった。
【0052】
本発明者らが見出した置換度分布を狭くするもう1つの工夫は、セルロースアセテートの90℃以上の(又は90℃を超える)高温での加水分解反応(熟成反応)である。従来、高温反応で得られた生成物の重合度について詳細な分析や考察がなされて来なかったにもかかわらず、90℃以上の高温反応ではセルロースの分解が優先するとされてきた。この考えは、粘度に関する考察のみに基づいた思い込み(ステレオタイプ)と言える。本発明者らは、セルロースアセテートを加水分解して置換度の低いセルロースアセテートを得るに際し、90℃以上の(又は90℃を超える)高温下、好ましくは硫酸等の強酸の存在下、多量の酢酸中で反応させると、重合度の低下は見られない一方で、CDIの減少に伴い粘度が低下することを見出した。すなわち、高温反応に伴う粘度低下は、重合度の低下に起因するものではなく、置換度分布が狭くなることによる構造粘性の減少に基づくものであることを解明した。上記の条件でセルロースアセテートの加水分解を行うと、正反応だけでなく逆反応も起こるため、生成物(置換度の低いセルロースアセテート)のCDIが極めて小さい値となり、本開示のセルロースアセテート組成物を構成した場合は、溶融状態が安定し(言い換えれば、溶融時の粘度を熱成形に適した範囲とすることができる)、特に優れた熱成形性が実現できる。これに対し、逆反応が起こりにくい条件でセルロースアセテートの加水分解を行うと、置換度分布は様々な要因で広くなり、本開示のセルロースアセテート組成物を構成した場合は、溶融状態が安定しにくく、良好な熱成形性が得られない場合がある。
【0053】
(重量平均重合度(DPw))
重量平均重合度(DPw)は、セルロースアセテート(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC-光散乱法により求めた値である。
【0054】
本開示のセルロースアセテートの重量平均重合度(DPw)は、100~1000の範囲であることが好ましい。重量平均重合度(DPw)が低すぎると熱成形性に劣る傾向がある。また、重量平均重合度(DPw)が高すぎると、生分解性に劣る傾向がある。前記重量平均重合度(DPw)は、好ましくは100~800、さらに好ましくは200~700である。
【0055】
上記重量平均重合度(DPw)は、前記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、セルロースアセテート(試料)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、サイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより求められる(GPC-光散乱法)。
【0056】
上述のように、セルロースアセテートの重合度(分子量)は、GPC-光散乱法(GPC-MALLS、GPC-LALLSなど)により測定される。セルロースアセテートは置換度によって溶媒への溶解性が変化するため、広い範囲の置換度の重合度を測定する場合に、異なった溶媒系で測定して比較しなければならないことがある、この問題を回避するための有効な方法の一つは、セルロースアセテートを誘導体化し、同じ有機溶媒に溶解するようにし、同じ有機溶媒でGPC-光散乱測定を行うことである。この目的のセルロースアセテートの誘導体化としてはプロピオニル化が有効であり、具体的な反応条件及び後処理は前記組成分布半値幅の実測値の説明箇所で記載した通りである。
【0057】
(分子量分布Mw/Mn)
本開示のセルロースアセテートの分子量分布(重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した分子量分布Mw/Mn)は、3.0以下1.8以上が好ましく、2.5以下1.9以上がより好ましく、2.4以下2.0以上がさらに好ましい。3.0を超えたり1.8未満であると、成形体とした場合、成形加工の安定性(例えば、成形体の寸法安定性及び強度等の物性安定性など、これら安定性としては、より具体的には、例えば、成形体の表面に不要な凹凸が生じにくい;成形体内部に空孔が生じにくい;成形体全体の機械強度のばらつきが小さい;成形直後からの短時間での変形が生じにくいことなどが挙げられる)が悪くなる。セルロースアセテートの分子量分布が3.0以下1.8以上であることにより、良好な熱成形加工性を実現できる。
【0058】
セルロースアセテートの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、HPLCを用いた公知の方法で求めることができる。本開示において、セルロースアセテートの分子量分布(Mw/Mn)は、測定試料を有機溶剤に可溶とするため、前記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、セルロースアセテート(試料)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、以下の条件でサイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより決定される(GPC-光散乱法)。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM-21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、同ガードカラム
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN-EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0059】
測定結果により得られた重量平均分子量と数平均分子量より下式に従い、分子量分布を算出することができる。
分子量分布=Mw/Mn
Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量
【0060】
[クエン酸エステル系可塑剤]
本開示のセルロースアセテート組成物が含有するクエン酸エステル系可塑剤は、クエン酸のエステル化合物であれば、特に限定されるものではない。
【0061】
前記クエン酸エステル系可塑剤は、本開示のセルロースアセテートに添加することにより、得られるセルロースアセテート組成物のガラス転移温度を効率よく低下させることができるため、加熱により容易に溶融させることができるようになり、セルロースアセテートに優れた熱成形性を付与することもできる。
【0062】
本開示のセルロースアセテート組成物におけるクエン酸エステル系可塑剤の含有量は、前記セルロースアセテート及び前記クエン酸エステル系可塑剤の合計量100重量部に対し、3重量部以上である。上限は特にないが、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上35重量部以下がより好ましく、15重量部以上30重量部以下がさらに好ましく、20重量部以上30重量部以下が最も好ましい。3重量部未満であると、セルロースアセテートに熱成形性を十分に付与できない場合がある。40重量部を超えると、クエン酸エステル系可塑剤がブリードアウトする可能性が高くなる。
【0063】
クエン酸エステル系可塑剤は、クエン酸とアルコールとを縮合して得られる。このようなアルコールは、1価アルコール、または2価以上である多価アルコールであってよい。
【0064】
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリブチル、及びクエン酸アセチル2-エチルヘキシルよりなる群から選択される少なくとも一種であってよい。これらの中でも、クエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0065】
クエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種のクエン酸エステル系可塑剤は、水への溶解性にも優れるため、本開示のセルロースアセテート組成物の優れた水解性に寄与する。尚、この他のクエン酸エステル系可塑剤としても、水溶性があるものであれば、本開示のクエン酸エステル系可塑剤として好適に用いることができる。
【0066】
また、クエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種のクエン酸エステル系可塑剤は、セルロースアセテート組成物からもブリードアウトしにくく、室温で液体であり、セルロースアセテート中に均一に分散しやすいため、可塑剤としての取り扱いが容易である。
【0067】
さらに、本開示のセルロースアセテート組成物を加熱した場合においても、クエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種のクエン酸エステル系可塑剤は当該組成物中に比較的留まりやすく、組成物の物性は安定性に優れると共に、組成物の取扱性にも優れる。
【0068】
クエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種のクエン酸エステル系可塑剤は、人が摂取しても安全と認められる成分であり、容易に生分解されるため環境への負荷が小さい。また、クエン酸エステル系可塑剤を本開示のセルロースアセテートに添加することにより得られるセルロースアセテート組成物は、セルロースアセテート単体の場合よりも生分解性が向上する。
【0069】
そして、上述のとおり、クエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種のクエン酸エステル系可塑剤は、人が摂取しても安全であり、セルロースアセテートに優れた熱成形性を付与することができることから、いわゆるドラッグデリバリーシステムに用いるドラッグデリバリー用のカプセルの材料としても用いることができる。さらに、クエン酸トリエチル、及びクエン酸アセチルトリエチルよりなる群から選択される少なくとも一種のクエン酸エステル系可塑剤をセルロースアセテートに添加することにより、得られるセルロースアセテート組成物をタバコの部材として用いる場合にも、タバコの喫味を害する恐れがない。
【0070】
本開示のセルロースアセテート組成物は、優れた熱成形性を有するため、熱成形用として好適である。
【0071】
[セルロースアセテート組成物の製造]
本開示のセルロースアセテート組成物は、アセチル置換度が0.4以上1.4未満セルロースアセテートに、クエン酸エステル系可塑剤を添加することにより製造することができる。
【0072】
そして、セルロースアセテートは、例えば、(A)中乃至高置換度セルロースアセテートの加水分解工程(熟成工程)、(B)沈澱工程、及び、必要に応じて行う(C)洗浄、中和工程により製造できる。
【0073】
((A)加水分解工程(熟成工程))
この工程では、中乃至高置換度セルロースアセテート(以下、「原料セルロースアセテート」と称する場合がある)を加水分解する。原料として用いる中乃至高置換度セルロースアセテートのアセチル置換度は、例えば、1.5~3、好ましくは2~3である。
【0074】
加水分解反応は、有機溶媒中、触媒(熟成触媒)の存在下、原料セルロースアセテートと水を反応させることにより行うことができる。有機溶媒としては、例えば、酢酸、アセトン、アルコール(メタノール等)、これらの混合溶媒などが挙げられる。触媒としては、一般に脱アセチル化触媒として用いられる触媒を使用できる。触媒としては、特に硫酸が好ましい。
【0075】
有機溶媒(例えば、酢酸)の使用量は、原料セルロースアセテート1重量部に対して、例えば、0.5~50重量部である。
【0076】
触媒(例えば、硫酸)の使用量は、原料セルロースアセテート1重量部に対して、例えば、0.005~1重量部である。
【0077】
加水分解工程における水の量は、原料セルロースアセテート1重量部に対して、例えば、0.5~20重量部である。また、該水の量は、有機溶媒(例えば、酢酸)1重量部に対して、例えば、0.1~5重量部である。
【0078】
加水分解工程における反応温度は、例えば、40~130℃である。
【0079】
((B)沈澱工程)
この工程では、加水分解反応終了後、反応系の温度を室温まで冷却し、沈澱溶媒を加えて置換度の低いセルロースアセテートを沈澱させる。沈澱溶媒としては、水と混和する有機溶剤若しくは水に対する溶解度の大きい有機溶剤を使用できる。例えば、アセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン;並びにメタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール等のアルコールなどが挙げられる。
【0080】
沈澱溶媒として2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いると、後述する沈澱分別と同様の効果が得られ、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数(CDI)が小さい、置換度の低いセルロースアセテートを得ることができる。
【0081】
また、沈澱して得られた置換度の低いセルロースアセテートに対して、さらに沈澱分別(分別沈澱)及び/又は溶解分別(分別溶解)を行うことにより、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数CDIが非常に小さい置換度の低いセルロースアセテートを得ることができる。
【0082】
沈澱分別は、例えば、沈澱して得られた置換度の低いセルロースアセテート(固形物)を水又は水と親水性溶媒(例えばアセトン)の混合溶媒に溶解し、適当な濃度(例えば、2~10重量%、好ましくは3~8重量%)の水系溶液とし、この水系溶液に貧溶媒を加え(又は、貧溶媒に前記水系溶液を加え)、適宜な温度(例えば、30℃以下、好ましくは20℃以下)に保持して、置換度の低いセルロースアセテートを沈澱させ、沈澱物を回収することにより行うことができる。
【0083】
((C)洗浄、中和工程)
沈澱工程(B)で得られた沈澱物(固形物)は、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどの有機溶媒(貧溶媒)で洗浄するのが好ましい。また、塩基性物質を含む有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなど)で洗浄、中和することも好ましい。洗浄、中和により、加水分解工程で用いた触媒(硫酸等)などの不純物を効率よく除去することができる。
【0084】
前記塩基性物質としては、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物など)、及びアルカリ土類金属化合物(例えば、酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩など)などを使用できる。
【0085】
(クエン酸エステル系可塑剤の添加)
得られたセルロースアセテートにクエン酸エステル系可塑剤を添加する場合、セルロースアセテートとクエン酸エステル系可塑剤とを混合することが好ましく、混合は、遊星ミル、ヘンシェルミキサー、振動ミル、ボールミルなどの混合機により行うことができる。短時間で均質な混合分散が可能であるため、ヘンシェルミキサーを用いることが好ましい。また、混合の程度は特に限定されるものではないが、例えば、ヘンシェルミキサーの場合、好ましくは10分~1時間混合する。
【0086】
さらに、セルロースアセテートとクエン酸エステル系可塑剤との混合後、乾燥を行うことができる。乾燥方法としては、例えば、50~105℃下で、1~48時間静置して乾燥する方法が挙げられる。
【0087】
その他、得られたセルロースアセテートにクエン酸エステル系可塑剤を添加する方法としては、セルロースアセテート及びグリセリンエステル系可塑剤を共通良溶媒に溶解し、均一に混合した後に溶媒を揮発させる方法でも良い。共通良溶媒としては、例えば、水、及び塩化メチレン/メタノール(重量比9:1)の混合溶媒等が挙げられる。
【0088】
セルロースアセテートとクエン酸エステル系可塑剤との混合時に、成形体の用途・仕様に応じ、着色剤、耐熱安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤などを添加することが出来る。
【0089】
[成形体]
本開示の成形体は、上記セルロースアセテート組成物を成形してなるものである。その成形体の形状としては、特に制限されず、例えば、繊維等の一次元的成形体;フィルム等の二次元的成形体;並びにペレット、チューブ及び中空円柱状等の三次元的成形体が挙げられる。
【0090】
繊維等の一次元的成形体を製造する場合、本開示のセルロースアセテート組成物を紡糸することによって得ることができ、その紡糸方法としては、溶融紡糸(メルトブロー紡糸法を含む)が挙げられる。
【0091】
例えば、前記セルロースアセテート組成物(ペレット等)を、公知の溶融押出紡糸機において、加熱溶融した後、口金から紡糸し、紡出された連続長繊維フィラメント群をエジェクターにより高速高圧エアーで延伸し巻き取るか、あるいは、開繊して捕集用の支持体面上に捕集してウェブを形成することにより繊維状のセルロースアセテート複合体成形品を得ることができる。また、押出機で溶融した前記セルロースアセテート組成物を、例えば幅方向1m当たり数百から数千個の口金を持つダイから、高温・高速の空気流で糸状に吹き出し、繊維状に延伸された樹脂をコンベア上で集積し、その間に繊維同士の絡み合い及び融着を生じさせることにより不織布を製造することができる(メルトブロー紡糸法)。溶融紡糸時の紡糸温度は、例えば、130~240℃、好ましくは140~200℃、より好ましくは150~188℃である。紡糸温度が高すぎると成形品の着色が顕著になる。また、紡糸温度が低すぎると、組成物の粘度が低くなり、紡糸ドラフト比を高くするのが困難となり生産性が低下しやすくなる。紡糸ドラフト比は、例えば200~600程度である。
【0092】
上記溶融紡糸法により得られる糸の繊度は、例えば20~800デニール(d)、好ましくは40~800デニール(d)である。
【0093】
特に、電子タバコに用いる紙巻タバコのセルロースアセテートトウフィルタとして使用する場合、繊度は20~600デニール(d)であってよい。電子タバコは、従来の紙巻きタバコと異なり、燃焼させないので燃焼に伴って生じる副生物を除去する必要がなく、電子タバコに用いる紙巻タバコのセルロースアセテートトウフィルタの濾過性能(性)は、従来の紙巻きタバコに用いられるフィルタと比較して遥かに低くてもよいためである。なお、電子タバコに用いる紙巻タバコの中空のセルロース・アセテート管体は、トウから製造するのは、中空状の形状への成形を含めて製造過程に時間がかかり、製造コストの上昇にも関わる。また、フィルタの低濾過性を実現するのに、トウ繊維のデニールを大きくする(繊維を太くする)手法もあるが、従来の乾式紡糸による太いデニールトウ繊維の製造には太さに技術的限界がある。すなわち、太くなりすぎると中央部の溶媒が揮発しないため、糸の形状が安定化しないためである。将来的に電子タバコ向けの更なる低濾過性フィルタの需要に対して、トウでは達成困難であるため、溶融紡糸で太いトウを用いるか、後述するように、三次元的成形体として形成してもよい。
【0094】
次に、フィルム等の二次元的成形体を製造する場合、溶融製膜方法を採用することができる。溶融製膜方法としては、押出成形、ブロー成形等が挙げられる。押出成形について、具体的には、例えば、本開示のセルロースアセテート組成物を一軸又は二軸押出機などの押出機で溶融混練して、ダイのスリットからフィルム状に押出成形し、冷却することによりフィルム又はシートを製造することができる。
【0095】
溶融製膜方法によって得られるフィルムの厚さは、例えば、1μm~1000μm、好ましくは5μm~500μm、さらに好ましくは10μm~250μmである。特に、電子タバコに用いる紙巻タバコの冷却要素として使用する場合、フィルムの厚さが15μm~200μm、20~150、25~100、35~70μmであってよい。電子タバコは、従来の紙巻タバコに比べ、タバコ葉を加熱することにより飛散するニコチンの量は僅かであるので、なるべく損失することなく喫煙者(電子タバコを吸っている人)にデリバリー(配分)する必要がある。また、タバコ葉を加熱するタイプでは、ニコチンはエアロゾル中の液滴に含まれているが、この液滴は吸引するには高温であるので、予め冷却する必要がある。これらの要件を満たすため、フィルムの厚さは上記範囲であってよい。
【0096】
さらに、中空円柱状等の三次元的成形体を製造する場合、熱成形によって製造することができる。具体的には、例えば、ペレット状の本開示のセルロースアセテート組成物を、加熱圧縮成形、溶融押出成形、及び射出成形することにより、中空円柱状を含む所望の三次元的成形体を製造することができる。機器としては、例えば、株式会社メイホー 射出成形機Micro-1や、丸東製作所 FRP試験片成形用加熱圧縮成形機 ML-48などを使うことができる。成形時の加熱温度としては、240~180℃の間であってよく、クエン酸エステル系可塑剤を含む添加剤の添加量は適宜調整すればよい。
【0097】
本開示のセルロースアセテート組成物をペレット状とする方法は、特に限定されないが、例えば、まず、本開示のセルロースアセテート及びクエン酸エステル系可塑剤を、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式又は湿式で予備混合して調製し、次に、一軸又は二軸押出機などの押出機で溶融混練して、ストランド状に押出してカットしペレット状に調製する方法が挙げられる。
【0098】
ペレット状の本開示のセルロースアセテート組成物から溶融押出成形によって三次元的成形体を形成する具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、射出成形、押出成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形等を用いることができる。
【0099】
上記のとおり、本開示のセルロースアセテート及びクエン酸エステル系可塑剤を押出機で溶融混練して、ペレットを調製してから成形体を得る方法の他、セルロースアセテートのフレーク表面にクエン酸エステル系可塑剤を付着させたものを、加熱して、圧縮成形を行うことにより中空円柱状を含む所望の三次元的成形体を製造することができる。
【0100】
圧縮成形は、市販の圧縮成形機を用いて、温度は150℃から240℃、望ましくは230℃、圧力は0.01MPa以上、望ましくは0.5MPaで、30秒以上望ましくは2分間程度加工すればよい。セルロースエステルのフレークとは、セルロースをアセチル化した後、平均置換度を調整するために加水分解反応を行い、精製・乾燥して得られたフレーク状のセルロースエステルのことをいう。
【0101】
中空円柱状の三次元的成形体は、電子タバコに用いる紙巻タバコの中空のセルロース・アセテート管体としてそのまま用いることができるものであってもよいし、また、軸方向に垂直に切り出すことで、電子タバコに用いる紙巻タバコの中空のセルロース・アセテート管体を得ることができる切断前の長尺の部材であってもよい。
【実施例
【0102】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【0103】
後述する実施例および比較例に記載の各物性は、以下の方法で評価した。
【0104】
<アセチル置換度、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び組成分布指数CDI>
アセチル置換度、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び組成分布指数CDIは、上記の方法により求めた。
【0105】
<熱成形性評価>
熱成形性評価は、以下の方法により行った。比較例3を除き、各実施例比較例は各試料1重量部に対し、純水5重量部の割合で溶解し、ガラス基板を用いて溶液流延法(solution casting)で、厚み約120μmのフィルムを作製した。比較例3は、溶媒として、純水に代えて、アセトン/水(重量比9:1)の混合溶媒を用い、試料1重量部に対し、溶媒5重量部の割合で溶解し、上記と同様に溶液流延法でフィルムを作製した。作製した各フィルムから、サイズ0.3cm×1cmのサンプルを切り取り、評価用サンプルとした。
【0106】
小型熱プレス機 HC300-01(AS ONE 製)を用いて、以下の条件で、加熱及び加圧した。
加熱設定温度:150℃;175℃;200℃;225℃
プレス圧:14.14Mpa
加熱及び加圧時間:2min
【0107】
加熱及び加圧後、サンプルの溶融状態を確認することにより、以下の基準により、熱成形性評価を行った。サンプルが溶融する場合、可塑性が付与されていることが示唆されている。
1:完全不溶融であり、各試験片が融合しない(言い換えれば、融合部分が0%)。
2:一部溶融であり、各試験片の重なる部分の一部が融合した(言い換えれば、融合部分が約30%)。
3:半分以上溶融であり、各試験片の重なる部分が半分以上融合した。
【0108】
<生分解性評価>
生分解性評価は、JIS K 6950に準じた活性汚泥を使用して生分解度を測定する方法により行った。活性汚泥は、福岡県多々良川浄化センターから入手した。その活性汚泥を1時間程度放置して得られる上澄み液(活性汚泥濃度:約360ppm)を1培養瓶あたり約300mL使用した。サンプル30mgを当該上澄み液中で撹拌した時点を測定開始とし、その後24時間おきに、720時間後つまり30日後まで合計31回測定した。測定の詳細は以下のとおりである。大倉電気(株)製クーロメータ OM3001を用いて、各培養瓶中の生物化学的酸素要求量(BOD)を測定した。各試料の化学組成に基づく完全分解における理論上の生物化学的酸素要求量(BOD)に対する、生物化学的酸素要求量(BOD)のパーセンテージを生分解度(重量%)とした。このうち、240時間後までの測定データーをもって生分解性を評価した。
【0109】
<水解性評価>
水解性評価は、以下の方法により行った。熱成形性評価用に作製した各フィルムから、サイズ2cm×2cmのサンプルを切り取り、水解性評価用サンプルとした。
【0110】
純水80mlを入れた100mlサイズの瓶に、フィルムサンプルを入れ、回転機にて14rpmの回転速度で回転を開始し、フィルムサンプルの形状及び重量の経時変化を確認した。形状は肉眼で観察した。重量については、フィルムサンプルを純水から取り出し、水滴を拭き、105℃乾燥機にて1時間乾燥した後に分析用精密電子天秤にて重量を測定し、回転開始時のフィルムサンプルの重量からの重量変化量(%)を評価した。表1に示す評価基準は次のとおりである。
×:回転開始から1時間後、フィルムサンプルに破損も変形もなく、フィルムサンプルの重量変化量が10%未満の減少である。
△:回転開始から1時間後、フィルムサンプルの重量変化量が10%未満の減少であるが、破損若しくは変形がある。;又は、フィルムサンプルに破損も変形もないが、フィルムサンプルの重量変化量が10%以上の減少である。
○:回転開始から1時間以内にフィルムサンプルが全て溶解した。
【0111】
<製造例1>
原料セルロースアセテート(ダイセル社製、商品名「L-50」、アセチル総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、混合物を3時間攪拌してセルロースアセテートを溶解した。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を100℃に保持し、加水分解を行った。加水分解の間にセルロースアセテートが沈澱するのを防止するために、系への水の添加を2回に分けて行った。すなわち、反応を開始して0.25時間後に0.67重量部の水を5分間にわたって系に加えた。さらに0.5時間後、1.33重量部の水を10分間にわたって系に加え、さらに1.25時間反応させた。合計の加水分解時間は2時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1加水分解工程(第1熟成工程)、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2加水分解工程(第2熟成工程)、2回目の水の添加から反応終了までを第3加水分解工程(第3熟成工程)という。
【0112】
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部の沈澱溶媒(メタノール)を加えて沈澱を生成させた。
【0113】
固形分15重量%のウェットケーキとして沈澱を回収し、8重量部のメタノールを加え、固形分15重量%まで脱液することにより洗浄した。これを3回繰り返した。洗浄した沈澱物を、酢酸カリウムを0.004重量%含有するメタノール8重量部でさらに2回洗浄して中和し、乾燥して、アセチル置換度0.87のセルロースアセテートを得た。得られたセルロースアセテートについて、アセチル置換度、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び組成分布指数(CDI)を測定した。結果は、表1に示す。
【0114】
<実施例1>
製造例1によって得られたアセチル置換度0.87のセルロースアセテート95重量部と、クエン酸エステル系可塑剤としてクエン酸トリエチル5重量部を、溶媒である純水500重量部に溶解させ、均一に混合させた。その後、室温で3min、45℃乾燥機で30min、150℃乾燥機で30minと順に条件を変え、溶媒を揮発させてセルロースアセテート組成物を得た。
【0115】
得られたセルロースアセテート組成物について、前記の方法で、熱成形性評価、生分解性評価、及び水解性評価を行なった。結果は、表1に示す。
【0116】
<実施例2-4>
製造例1によって得られたアセチル置換度0.87のセルロースアセテート、及びクエン酸トリエチルをそれぞれ表1に示す量に代えた以外は実施例1と同様にして、セルロースアセテート組成物を得た。
【0117】
得られたセルロースアセテート組成物について、前記の方法で、熱成形性評価、生分解性評価、及び水解性評価を行なった。結果は、表1、表2及び図1に示す。
【0118】
<比較例1>
製造例1によって得られたアセチル置換度0.87のセルロースアセテート、及びクエン酸トリエチルを表1に示す量に代えた以外は実施例1と同様にして、セルロースアセテート組成物を得た。
【0119】
得られたセルロースアセテート組成物について、前記の方法で、熱成形性評価、生分解性評価、及び水解性評価を行なった。結果は、表1に示す。
【0120】
<比較例2>
製造例1によって得られたアセチル置換度0.87のセルロースアセテート100重量部を、溶媒である純水100重量部に溶解させ、均一に混合させた。室温で3min、45℃乾燥機で30min、150℃乾燥機で30minと順に条件を変え、溶媒を揮発させた。
【0121】
得られたものについて、前記の方法で、熱成形性評価、生分解性評価、及び水解性評価を行なった。結果は、表1、表2及び図1に示す。
【0122】
<製造例2>
原料セルロースアセテート(ダイセル社製、商品名「L-50」、アセチル総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、混合物を3時間攪拌してセルロースアセテートを溶解した。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を95℃に保持し、加水分解を行った。加水分解の間にセルロースアセテートが沈澱するのを防止するために、系への水の添加を2回に分けて行った。すなわち、反応を開始して0.3時間後に0.67重量部の水を5分間にわたって系に加えた。さらに0.7時間後、1.33重量部の水を10分間にわたって系に加え、さらに1.5時間反応させた。合計の加水分解時間は2.5時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1加水分解工程(第1熟成工程)、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2加水分解工程(第2熟成工程)、2回目の水の添加から反応終了までを第3加水分解工程(第3熟成工程)という。
【0123】
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部の沈澱溶媒(メタノール)を加えて沈澱を生成させた。
【0124】
固形分15重量%のウェットケーキとして沈澱を回収し、8重量部のメタノールを加え、固形分15重量%まで脱液することにより洗浄した。これを3回繰り返した。洗浄した沈澱物を、酢酸カリウムを0.004重量%含有するメタノール8重量部でさらに2回洗浄して中和し、乾燥して、アセチル置換度1.7のセルロースアセテートを得た。得られたセルロースアセテートについて、アセチル置換度、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び組成分布指数(CDI)を測定した。結果は、表1に示す。
【0125】
<比較例3>
製造例2によって得られたアセチル置換度1.7のセルロースアセテート100重量部を、塩化メチレン/メタノール(重量比9:1)の混合溶媒500重量部に溶解させ、均一に混合させた。室温で3min、45℃乾燥機で30min、150℃乾燥機で30minと順に条件を変え、溶媒を揮発させた。
【0126】
得られたものについて、前記の方法で、熱成形性評価、生分解性評価、及び水解性評価を行なった。結果は、表1、表2及び図1に示す。
【0127】
<参考例1>
アセチル置換度2.1のセルロースアセテート100重量部を、塩化メチレン/メタノール(重量比9:1)の混合溶媒500重量部に溶解させ、均一に混合させた。室温で3min、45℃乾燥機で30min、150℃乾燥機で30minと順に条件を変え、溶媒を揮発させた。
【0128】
得られたものについて、前記の方法で、生分解性評価を行なった。結果は、図1に示す。
【0129】
<参考例2>
アセチル置換度2.1のセルロースアセテートに代えて、アセチル置換度2.9のセルロースアセテートを用いた以外は、参考例1と同様にして、生分解性評価を行なった。結果は、図1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
表1に示されるように、比較例1及び2では、アセチル置換度が0.4以上1.4未満のセルロースアセテートを用いるので、優れた生分解性を有するものの、クエン酸トリエチルの含有量が少ないか、又は含有されないため、加熱及び加圧によっても、全く溶融せず、熱成形ができなかった。
【0133】
比較例3では、アセチル置換度が1.4以上のセルロースアセテートを用い、クエン酸エステル系可塑剤を含有しないので、加熱及び加圧によっても、全く溶融せず、熱成形ができなかった。また、水解性にも劣るものであった。
【0134】
一方、実施例1-4のセルロースアセテート組成物は、アセチル置換度が0.4以上1.4未満のセルロースアセテートを用い、適切な量のクエン酸トリエチルを含有するため、優れた生分解性だけでなく、優れた熱成形性、さらには、優れた水解性を有することが分かる。
図1