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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】粘着剤及び粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/16 20060101AFI20221115BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20221115BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20221115BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20221115BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C09J133/16
C09J133/04
C09J11/06
C09J7/38
B32B27/00 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018167816
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2019048973
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017172409
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】足立 絢
(72)【発明者】
【氏名】内田 徳之
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-209001(JP,A)
【文献】国際公開第2015/132888(WO,A1)
【文献】特開2014-065775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル共重合体を含有する粘着剤であって、
前記アクリル共重合体は、炭素数が4以下、フッ素数が3以上のフッ素含有基をエステル末端に有するフッ素含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位を30~80重量%含有し、
前記アクリル共重合体は、更に、炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、
前記粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率が80重量%以下である
ことを特徴とする粘着剤。
【請求項2】
炭素数が4以下、フッ素数が3以上のフッ素含有基をエステル末端に有するフッ素含有(メタ)アクリレートは、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート及び2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤。
【請求項3】
前記炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位は、エチルアクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の粘着剤。
【請求項4】
前記アクリル共重合体における前記炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量が15重量%以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の粘着剤。
【請求項5】
更に、シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の粘着剤。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の粘着剤からなる粘着剤層を有することを特徴とする粘着テープ。
【請求項7】
前記粘着テープを10mm幅の短冊状に裁断して試験片を作製し、該試験片をステンレス板に、粘着剤層がステンレス板に対向した状態となるように載せた後、試験片上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラを一往復させることにより、試験片とステンレス板とを貼り合わせ、その後、23℃で24時間静置することにより作製した試験サンプルを、イソプロパノ-ル80重量%と水20重量%との混合液のバスに60℃、湿度90%の条件で100時間浸漬し、取り出した後水で洗浄し、24時間静置した後の該試験サンプルについて、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行ったときの180°引きはがし粘着力が0.66N/mm以上であることを特徴とする請求項6記載の記載の粘着テープ。
【請求項8】
電子機器の部品を固定するために用いられることを特徴とする請求項6又は7記載の粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤に関する。また、本発明は、該粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器において部品を固定する際、粘着テープが広く用いられている。具体的には、例えば、携帯電子機器の表面を保護するためのカバーパネルをタッチパネルモジュール又はディスプレイパネルモジュールに接着したり、タッチパネルモジュールとディスプレイパネルモジュールとを接着したりするために粘着テープが用いられている。このような電子機器部品の固定に用いられる粘着テープは高い粘着性に加え、使用される部位の環境に応じて、耐熱性や熱伝導性、耐衝撃性といった機能が要求されている(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-052050号公報
【文献】特開2015-021067号公報
【文献】特開2015-120876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の小型化、軽量化及び低コスト化によって、携帯電話、スマートフォン、ウェアラブル端末等の常に身に着けたり、手元に置いたりするタイプの携帯型の電子機器が広く普及している。携帯型の電子機器は、頻繁に使用され、また、タッチパネル等により素手で操作が行われることから、粘着テープには、頻繁に手が触れる部分に用いられていても皮脂によって劣化しない性能が望まれる。
一方、携帯型の電子機器は、日常的に使用される消毒液、洗浄液、アルコール飲料等に触れる機会も多いことから、粘着テープには、これら消毒液等が電子機器に付着し、仮に粘着テープに付着しても、消毒液等に含まれるアルコールによって劣化しない性能も望まれる。しかしながら、従来の粘着剤を用いた粘着テープにおいては、皮脂への耐性に着目しつつ、かつ、アルコールに対する耐性と両立させることについては考慮されていなかった。
【0005】
本発明は、皮脂への耐性及びアルコール耐性に優れた粘着剤を提供することを目的とする。また、本発明は、該粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アクリル共重合体を含有する粘着剤であって、前記アクリル共重合体は、炭素数が4以下、フッ素数が3以上のフッ素含有基をエステル末端に有するフッ素含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位を30~80重量%含有し、前記アクリル共重合体は、更に、炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、前記粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率が80重量%以下である粘着剤である。
以下、本発明を詳述する。
【0007】
従来の粘着剤に用いられるアクリル共重合体では、皮脂への耐性とアルコール耐性との両立は困難であった。本発明者らは、アクリル共重合体を含有する粘着剤において、アクリル共重合体にフッ素含有(メタ)アクリレートを用いることを検討した。その結果、本発明者らは、種々のフッ素含有(メタ)アクリレートのなかでも特に、炭素数が4以下、フッ素数が3以上のフッ素含有基をエステル末端に有するフッ素含有(メタ)アクリレートを用い、かつ、粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率を特定範囲に調整することにより、皮脂への耐性とアルコール耐性との両方を向上できることを見出した。これにより、本発明を完成させるに至った。
なお、本明細書における「アルコール」とは、炭素数4以下の低級アルコールを単一成分とするもの、又は、その混合物を意味する。炭素数4以下の低級アルコール又はその混合物を主成分(含有量が50重量%以上)としていれば、水やより炭素数の多いアルコール等の他の溶媒、添加剤等を含んでいてもよい。
【0008】
本発明の粘着剤は、アクリル共重合体を含有する。上記アクリル共重合体は、炭素数が4以下、フッ素数が3以上のフッ素含有基をエステル末端に有するフッ素含有(メタ)アクリレート(以下、単に「フッ素含有(メタ)アクリレート」ともいう)に由来する構成単位を30~80重量%含有する。
上記アクリル共重合体がフッ素含有基をエステル末端に有するフッ素含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することにより、フッ素自身の高い撥水撥油性と、フッ素原子の密なパッキングとにより、上記アクリル共重合体の分子鎖内へのオレイン酸(皮脂の主成分)の浸入が抑えられる。また、上記アクリル共重合体が上記フッ素含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することにより、フッ素含有基の炭素数が4を超える場合と比べて、粘着剤の凝集力が高くなる。これらの結果、粘着剤の皮脂への耐性が向上する。
また、上記アクリル共重合体が上記フッ素含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することにより、フッ素含有基の炭素数が4を超える場合と比べて、凝集力が高くなることから、粘着剤のアルコール耐性も向上する。
【0009】
上記フッ素含有基は、炭素数が4以下、フッ素数が3以上であれば特に限定されず、炭素及びフッ素のみからなるフルオロアルキル基であってもよいし、炭素及びフッ素に加えて別の元素(例えば、酸素)を含んでいてもよい。上記炭素及びフッ素に加えて別の元素を含むフッ素含有基として、例えば、水酸基を含むフッ素含有基、エーテル結合を含むフッ素含有基等が挙げられる。
【0010】
上記フッ素含有(メタ)アクリレートは特に限定されず、例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H-1-(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、1,2,2,2-テトラフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチルアクリレート等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートであってもメタクリレートであってもよいことを意味する。これらのフッ素含有(メタ)アクリレートは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なかでも、溶解度パラメータ(SP値)が比較的高いものが好ましい。具体的には、上記溶解度パラメータ(SP値)が8.3以上であるフッ素含有(メタ)アクリレートが好ましい。上記溶解度パラメータ(SP値)が8.3以上であるフッ素含有(メタ)アクリレートとしては、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート及び2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、これらのアクリレートがより好ましい。皮脂への耐性及びアルコール耐性が特に高いことから、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレートが特に好ましい。
なお、上記溶解度パラメータ(SP値)は、Fedors法(R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14,147(1974))を用いて算出することができる。上記2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピルアクリレート及び2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルアクリレートのSP値は、それぞれ、8.93、9.95、8.57である。
【0011】
上記アクリル共重合体において、上記フッ素含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量の下限は30重量%、上限は80重量%である。上記含有量が30重量%以上であれば、上記アクリル共重合体の分子鎖内へのオレイン酸の浸入が抑えられるとともに粘着剤の凝集力が高くなり、粘着剤の皮脂への耐性及びアルコール耐性が向上する。上記含有量が80重量%以下であれば、粘着剤が固くなり過ぎず、充分な粘着力を発揮することができる。上記含有量の好ましい下限は40重量%、好ましい上限は70重量%であり、より好ましい下限は45重量%、より好ましい上限は60重量%である。
【0012】
上記アクリル共重合体は、更に、炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することが好ましい。
上記アクリル共重合体が上記炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有することにより、粘着剤の凝集力がより高くなり、皮脂への耐性及びアルコール耐性がより向上する。
【0013】
上記炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なかでも、粘着剤が固くなり過ぎず、より充分な粘着力を発揮できることから、エチルアクリレートが好ましい。
【0014】
上記アクリル共重合体において、上記炭素数が2以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は15重量%、好ましい上限は40重量%である。上記含有量が15重量%以上であれば、粘着剤の凝集力がより高くなり、皮脂への耐性及びアルコール耐性がより向上する。上記含有量が40重量%以下であれば、粘着剤が固くなり過ぎず、充分な粘着力を発揮することができる。上記含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0015】
上記アクリル共重合体は、更に、架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を含有することが好ましい。
上記アクリル共重合体が上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を含有することにより、架橋剤を併用したときに上記アクリル共重合体の鎖間が架橋される。その際、架橋度を調整することにより、粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率を後述するような特定範囲に調整することができる。
【0016】
上記架橋性官能基として、例えば、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基等が挙げられる。なかでも、粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率の調整が容易であることから、水酸基又はカルボキシル基が好ましい。
上記水酸基を有するモノマーとして、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。上記カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸が挙げられる。上記グリシジル基を有するモノマーとして、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。上記アミド基を有するモノマーとして、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられる。上記ニトリル基を有するモノマーとして、例えば、アクリロニトリル等が挙げられる。これらの架橋性官能基を有するモノマーは単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0017】
上記アクリル共重合体において、上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は0.05重量%、好ましい上限は10重量%であり、より好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は5重量%である。上記含有量が上記範囲内であることで、粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率を後述するような特定範囲に調整しやすくなる。
【0018】
上記アクリル共重合体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0019】
また、上記アクリル共重合体を紫外線重合法により調製する場合には、上記アクリル共重合体は、更に、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーに由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0020】
上記アクリル共重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限が30万である。上記アクリル共重合体の重量平均分子量が30万以上であれば、粘着剤にせん断方向の荷重がかかった際のずれ量が抑制される。また、粘着剤の皮脂への耐性及びアルコール耐性がより向上する。上記アクリル共重合体の重量平均分子量のより好ましい下限は40万、更に好ましい下限は50万、特に好ましい下限は60万である。
上記アクリル共重合体の重量平均分子量の上限は特に限定されないが、好ましい上限は200万、より好ましい上限は120万である。
なお、重量平均分子量は、重合条件(例えば、重合開始剤の種類又は量、重合温度、モノマー濃度等)によって調整できる。
【0021】
上記含アクリル共重合体を合成するには、上記構成単位の由来となるモノマーを重合開始剤の存在下にてラジカル反応させればよい。重合方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、溶液重合(沸点重合又は定温重合)、エマルジョン重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。なかでも、合成が簡便であることから、溶液重合が好ましい。
【0022】
重合方法として溶液重合を用いる場合、反応溶剤として、例えば、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルスルホキシド、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル等が挙げられる。これらの反応溶剤は単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0023】
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
上記有機過酸化物として、例えば、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート等が挙げられる。上記アゾ化合物として、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0024】
本発明の粘着剤は、上記アクリル共重合体に加えて、架橋剤を含有することが好ましい。
上記アクリル共重合体が上記架橋性官能基を有するモノマーに由来する構成単位を含有する場合、上記架橋剤によって上記アクリル共重合体の鎖間に架橋構造を構築することができる。その際、架橋度を調整することにより、粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率を後述するような特定範囲に調整することができる。
【0025】
上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤等が挙げられる。なかでも、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤が好ましい。
本発明の粘着剤において、上記架橋剤の含有量は特に限定されないが、上記アクリル共重合体100重量部に対する好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が10重量部であり、より好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0026】
本発明の粘着剤は、更に、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
上記シランカップリング剤を含有することにより、粘着剤の被着体に対する密着性が向上するため、皮脂への耐性及びアルコール耐性がより向上する。
【0027】
上記シランカップリング剤は特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトブチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。なかでも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0028】
本発明の粘着剤において、上記シランカップリング剤の含有量は特に限定されないが、上記アクリル共重合体100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記シランカップリング剤の含有量が0.1重量部以上であれば、粘着剤の被着体に対する密着性がより向上し、皮脂への耐性及びアルコール耐性がより向上する。上記シランカップリング剤の含有量が10重量部以下であれば、粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープを剥離した際の糊残りを抑えることができ、粘着テープのリワーク性が向上する。上記シランカップリング剤の含有量のより好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0029】
本発明の粘着剤は、必要に応じて、可塑剤、乳化剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料等の添加剤、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等の粘着付与剤、その他の樹脂等を含有していてもよい。
【0030】
本発明の粘着剤からなる粘着剤層のゲル分率は、上限が80重量%である。
上記ゲル分率が80重量%以下であれば、粘着剤の凝集力が適度な範囲となるとともに被着体に対する密着性が向上し、皮脂への耐性及びアルコール耐性が向上する。上記ゲル分率の好ましい上限は60重量%、より好ましい上限は40重量%である。
なお、上記ゲル分率が80重量%を超えると粘着剤のアルコール耐性が低下するが、このとき、アルコールに浸漬した後で被着体に力が加わった際の剥離モードが変化する。即ち、上記ゲル分率が80重量%以下であれば、粘着剤の凝集力が適度な範囲となるため、アルコールに浸漬した後であっても被着体に対する密着性が維持され、力が加わった際には、通常、被着体との界面での接着状態は保ったまま、粘着剤層が凝集破壊することで剥離する。一方、上記ゲル分率が80重量%を超えると、粘着剤層の凝集力が高くなり過ぎて、アルコールに浸漬した後の被着体に対する密着性が低下するため、力が加わった際には、粘着剤層が凝集破壊する前に、被着体との界面において剥離してしまう。
【0031】
上記ゲル分率の下限は特に限定されないが、好ましい下限は5重量%である。上記ゲル分率が5重量%以上であれば、粘着剤からなる粘着剤層をオレイン酸又はアルコールに浸漬した際にも粘着剤層が膨潤しにくく、皮脂への耐性及びアルコール耐性がより向上する。上記ゲル分率のより好ましい下限は10重量%、更に好ましい下限は15重量%、特に好ましい下限は20重量%である。
なお、本明細書における「ゲル分率」とは、下記式(1)のように酢酸エチルに浸漬する前の粘着剤層の重量に対する酢酸エチルに浸漬し、乾燥した後の粘着剤層の重量の割合を百分率で表した値である。
ゲル分率(重量%)=100×(W-W)/(W-W) (1)
(W:基材の重量、W:粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ試験片の酢酸エチル浸漬前の重量、W:粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ試験片の酢酸エチル浸漬、乾燥後の重量)
【0032】
本発明の粘着剤からなる粘着剤層は、60℃、湿度90%の条件でオレイン酸に24時間浸漬した後の膨潤率(「オレイン酸膨潤率」ともいう)が100重量%以上、130重量%以下であることが好ましい。上記オレイン酸膨潤率のより好ましい上限は120重量%、更に好ましい上限は115重量%である。
なお、本明細書における「オレイン酸膨潤率」とは、下記式(2)のようにオレイン酸に浸漬する前の粘着剤層の重量に対するオレイン酸に浸漬し、乾燥した後の粘着剤層の重量の割合を百分率で表した値である。オレイン酸への粘着剤成分の溶出がある場合、オレイン酸膨潤率は100重量%を下回る。
オレイン酸膨潤率(重量%)=100×(W-W)/(W-W) (2)
(W:基材の重量、W:粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ試験片のオレイン酸浸漬前の重量、W:粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ試験片のオレイン酸浸漬、乾燥後の重量)
【0033】
本発明の粘着剤からなる粘着剤層は、60℃、湿度90%の条件でイソプロパノ-ル80重量%と水20重量%との混合液に24時間浸漬した後の膨潤率(「アルコール膨潤率」ともいう)が100重量%以上、180重量%以下であることが好ましい。上記アルコール膨潤率のより好ましい上限は160重量%、更に好ましい上限は140重量%である。
なお、本明細書における「アルコール膨潤率」とは、下記式(3)のようにイソプロパノ-ル80重量%と水20重量%との混合液に浸漬する前の粘着剤層の重量に対するイソプロパノ-ル80重量%と水20重量%との混合液に浸漬し、乾燥した後の粘着剤層の重量の割合を百分率で表した値である。混合液への粘着剤成分の溶出がある場合、アルコール膨潤率は100重量%を下回る。
アルコール膨潤率(重量%)=100×(W-W)/(W-W) (3)
(W:基材の重量、W:粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ試験片のイソプロパノ-ル80重量%と水20重量%との混合液浸漬前の重量、W:粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープ試験片のイソプロパノ-ル80重量%と水20重量%との混合液浸漬、乾燥後の重量)
【0034】
本発明の粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープもまた、本発明の1つである。
上記粘着剤層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は100μmである。上記粘着剤層の厚みが5μm以上であれば、粘着テープの粘着力が向上する。上記粘着剤層の厚みが100μm以下であれば、粘着テープの加工性が向上する。
【0035】
本発明の粘着テープは、基材を有するサポートタイプであってもよいし、基材を有さないノンサポートタイプであってもよい。サポートタイプの場合には、基材の片面に上記粘着剤層が形成されていてもよいし、両面に上記粘着剤層が形成されていてもよい。
【0036】
上記基材は特に限定されず、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系樹脂フィルム、PETフィルム等のポリエステル系樹脂フィルム等が挙げられる。更に、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエチレン発泡体シート、ポリプロピレン発泡体シート等のポリオレフィン発泡体シート、ポリウレタン発泡体シート等が挙げられる。なかでも、PETフィルムが好ましい。また、耐衝撃性の観点からはポリオレフィン発泡体シートが好ましい。
また、上記基材として、光透過防止のために黒色印刷された基材、光反射性向上のために白色印刷された基材、金属蒸着された基材等も用いることができる。
【0037】
本発明の粘着テープの製造方法は特に限定されず、例えば、本発明の粘着テープが基材を有する両面粘着テープである場合は以下のような方法が挙げられる。
まず、アクリル共重合体、必要に応じて架橋剤及びシランカップリング剤等に溶剤を加えてアクリル粘着剤aの溶液を作製する。得られたアクリル粘着剤aの溶液を基材の表面に塗布し、溶液中の溶剤を完全に乾燥除去して粘着剤層aを形成する。次に、形成された粘着剤層aの上に離型フィルムをその離型処理面が粘着剤層aに対向した状態に重ね合わせる。次いで、上記離型フィルムとは別の離型フィルムを用意し、この離型フィルムの離型処理面にアクリル粘着剤bの溶液を塗布し、溶液中の溶剤を完全に乾燥除去することにより、離型フィルムの表面に粘着剤層bが形成された積層フィルムを作製する。得られた積層フィルムを粘着剤層aが形成された基材の裏面に、粘着剤層bが基材の裏面に対向した状態に重ね合わせて積層体を作製する。そして、上記積層体をゴムローラ等によって加圧することによって、基材の両面に粘着剤層を有し、かつ、粘着剤層の表面が離型フィルムで覆われた粘着テープを得ることができる。
【0038】
また、同様の要領で積層フィルムを2組作製し、これらの積層フィルムを基材の両面のそれぞれに、積層フィルムの粘着剤層を基材に対向させた状態に重ね合わせて積層体を作製し、この積層体をゴムローラ等によって加圧することによって、基材の両面に粘着剤層を有し、かつ、粘着剤層の表面が離型フィルムで覆われた粘着テープを得てもよい。
【0039】
本発明の粘着剤及び粘着テープの用途は特に限定されないが、皮脂への耐性に優れているため、人の手が頻繁に触れる電子機器の部品を固定するために特に好ましく用いることができる。また、アルコール耐性に優れているため、日常的に使用される消毒液、洗浄液、アルコール飲料等に触れる機会が多い電子機器の部品を固定するために特に好ましく用いることができる。具体的には、スマートフォンやタブレット端末等の携帯電子機器のタッチパネル部分を固定したり、カーナビ等の車載電子機器のディスプレイパネル部分を固定したりするのに本発明の粘着剤及び粘着テープを好ましく用いることができる。
また、本発明の粘着剤及び粘着テープは、光学用透明粘着剤及び光学用透明粘着テープとしても好ましく用いることができる。このような光学用途として、例えば、偏光板等を製造する際の構成部材の貼り合わせや、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の画像表示装置を製造する際における画像表示装置の表面を保護するための保護板とディスプレイパネルとの貼り合わせ等が挙げられる。更に、タッチパネルのガラス板、ポリカーボネート板又はアクリル板と、ディスプレイパネルとの貼り合わせ等も挙げられる。
【0040】
本発明の粘着テープの形状は特に限定されず、長方形等であってもよいし、シート状であってもよい。上述のようにタッチパネル部分又はディスプレイパネル部分の固定に好適であることから、額縁状が好ましい。本発明の粘着テープは、皮脂への耐性及びアルコール耐性に優れるため、粘着テープの幅が狭くても好ましく用いることができ、粘着テープの幅が5mm以下の場合に特に好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、皮脂への耐性及びアルコール耐性に優れた粘着剤を提供することができる。また、本発明によれば、該粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0043】
参考例1)
(1)アクリル共重合体の製造
反応容器内に、重合溶媒として酢酸エチルを加え、窒素でバブリングした後、窒素を流入しながら反応容器を加熱して還流を開始した。続いて、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を酢酸エチルで10倍希釈した重合開始剤溶液を反応容器内に投入し、ブチルアクリレート47重量部、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート(フッ素含有基の炭素数=2、フッ素数=3(表中、3F))50重量部、アクリル酸3重量部を2時間かけて滴下添加した。滴下終了後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を酢酸エチルで10倍希釈した重合開始剤溶液を反応容器内に再度投入し、4時間重合反応を行い、アクリル共重合体含有溶液を得た。
【0044】
(2)アクリル共重合体の重量平均分子量測定
得られたアクリル共重合体をテトラヒドロフラン(THF)によって50倍希釈して得られた希釈液をフィルター(材質:ポリテトラフルオロエチレン、ポア径:0.2μm)で濾過し、測定サンプルを調製した。この測定サンプルをゲルパーミエーションクロマトグラフ(Waters社製、2690 Separations Model)に供給して、サンプル流量1ミリリットル/min、カラム温度40℃の条件でGPC測定を行い、アクリル共重合体のポリスチレン換算分子量を測定して、重量平均分子量(Mw)を求めた。カラムとしてはGPC LF-804(昭和電工社製)を用い、検出器としては示差屈折計を用いた。
【0045】
(3)片面粘着テープの製造
得られたアクリル共重合体含有溶液に、架橋剤(イソシアネート系架橋剤、コロネートL-45、東ソー社製)をアクリル共重合体100重量部に対して1重量部加え、粘着剤溶液を調製した。この粘着剤溶液を厚み75μmの離型処理したPETフィルムに、乾燥後の粘着剤層の厚みが35μmとなるように塗工した後、110℃で5分間乾燥させた。この粘着剤層を、基材となる厚み50μmのコロナ処理したPETフィルムに転着させ、40℃で48時間養生し、片面粘着テープを得た。
【0046】
(4)ゲル分率の測定
得られた片面粘着テープを20mm×40mmの平面長方形状に裁断して試験片を作製し、重量を測定した。試験片を酢酸エチル中に23℃にて24時間浸漬した後、試験片を酢酸エチルから取り出して、110℃の条件下で1時間乾燥させた。乾燥後の試験片の重量を測定し、下記式(1)を用いてゲル分率を算出した。
ゲル分率(重量%)=100×(W-W)/(W-W) (1)
(W:基材の重量、W:酢酸エチル浸漬前の試験片の重量、W:酢酸エチル浸漬、乾燥後の試験片の重量)
【0047】
参考例、3、9~13、実施例4~8、比較例1~9)
アクリル共重合体の組成、架橋剤の種類又は量、シランカップリング剤の量を表1又は2に示すように変更したこと以外は参考例1と同様にして、片面粘着テープを得た。なお、表1又は2に示す材料の詳細は下記のとおりである。
【0048】
・架橋剤(エポキシ系架橋剤、E-5C、綜研化学社製)
・シランカップリング剤(KBM-403、信越化学工業社製)
【0049】
<評価>
参考例、実施例及び比較例で得られた片面粘着テープについて、下記の評価を行った。結果を表1又は2に示した。
【0050】
(1)180°引きはがし粘着力の測定
得られた片面粘着テープを10mm幅の短冊状に裁断して試験片を作製し、離型フィルムを剥離除去して粘着剤層を露出させた。この試験片をステンレス板に、その粘着剤層がステンレス板に対向した状態となるように載せた後、試験片上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラを一往復させることにより、試験片とステンレス板とを貼り合わせ、その後、23℃で24時間静置して試験サンプルを作製した。
【0051】
この試験サンプルを60℃、湿度90%のオーブンで100時間加熱し、23℃で24時間静置した後に、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行い、薬品浸漬前の180°引きはがし粘着力(N/mm)を測定した。なお、180°引きはがし粘着力が機器の測定限界値未満であった場合は0とした。
【0052】
上記試験サンプルをオレイン酸又はイソプロパノール(IPA:より詳細にはイソプロパノ-ル80重量%と水20重量%との混合液)のバスに60℃、湿度90%の条件で100時間浸漬し、取り出した後水で洗浄し、24時間静置した。その後、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行い、オレイン酸又はIPA浸漬後の180°引きはがし粘着力(N/mm)を測定した。
(判定基準)
180°引きはがし粘着力(N/mm)の値が0.2N/mm未満であった場合を×、0.2N/mm以上0.4N/mm未満であった場合を△、0.4N/mm以上0.6N/mm未満であった場合を○、0.6N/mm以上であった場合を◎とした。なお、表1及び2には、粘着剤層の剥離モードについても示した。凝集破壊の場合を「凝集」、界面剥離の場合を「界面」とした。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、皮脂への耐性及びアルコール耐性に優れた粘着剤を提供することができる。また、本発明によれば、該粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着テープを提供することができる。