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特許7176900変形撮影装置、変形撮影支援装置および変形撮影方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】変形撮影装置、変形撮影支援装置および変形撮影方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
G01B11/16 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018171273
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041967
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】金子 征太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 叡
(72)【発明者】
【氏名】梶本 裕之
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-075285(JP,A)
【文献】特開2017-067690(JP,A)
【文献】国際公開第2018/029286(WO,A1)
【文献】実開平07-028507(JP,U)
【文献】特開2017-001628(JP,A)
【文献】特開2015-114169(JP,A)
【文献】特開2018-004585(JP,A)
【文献】国際公開第2012/143977(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0061681(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0000370(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の前記変形物の変形を撮影するための変形撮影装置であって、
対象面を有する対象物と、
変形物が前記対象面に接する領域に設けられ、前記領域が移動する方向と直交する方向を前記変形物で覆うことが可能で、前記対象物を貫通する開口と、
前記開口に接する前記対象面を前記領域が移動する間、前記対象物の前記対象面に対向する面の方向から、前記開口を介して、前記領域の移動に伴う前記変形物の変化を撮影するカメラ
を備え
前記変形物が、人の皮膚または人の皮膚を模した物である場合、
前記領域が移動する方向と直交する方向の前記開口の幅は、前記領域が移動した際に、人が前記皮膚で開口を知覚できる幅よりも狭いことを特徴とする変形撮影装置。
【請求項2】
対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の前記変形物の変形を撮影するための変形撮影装置であって、
対象面を有する対象物と、
変形物が前記対象面に接する領域に設けられ、前記領域が移動する方向と直交する方向を前記変形物で覆うことが可能で、前記対象物を貫通する開口と、
前記開口に接する前記対象面を前記領域が移動する間、前記対象物の前記対象面に対向する面の方向から、前記開口を介して、前記領域の移動に伴う前記変形物の変化を撮影するカメラ
を備え
前記対象物に、更なる開口が、前記領域が移動する方向と直交する方向に設けられ、
前記変形物で、前記開口と前記更なる開口を、同時に覆うことが可能に形成されることを特徴とする変形撮影装置。
【請求項3】
前記カメラは、前記変形物を、前記開口を介して異なる視点で撮影する複数のカメラである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の変形撮影装置。
【請求項4】
前記変形物の前記開口を覆う部分にマーカーが付される
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の変形撮影装置。
【請求項5】
前記マーカーは、線で構成され、
前記線は、前記領域が移動する方向の前記開口の対向する2辺を延長した2つの直線と交わるように配設される
ことを特徴とする請求項4に記載の変形撮影装置。
【請求項6】
対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の前記変形物の変形を撮影するための変形撮影支援装置であって、
対象面を有する対象物と、
変形物が前記対象面に接する領域に設けられ、前記領域が移動する方向と直交する方向を前記変形物で覆うことが可能で、前記対象物を貫通する開口とを備え、
前記開口に接する前記対象面を前記領域が移動する間、前記対象物の前記対象面に対向する面の方向から、前記開口を介して、前記領域の移動に伴う前記変形物の変化が、カメラで撮影され、
前記変形物が、人の皮膚または人の皮膚を模した物である場合、
前記領域が移動する方向と直交する方向の前記開口の幅は、前記領域が移動した際に、人が前記皮膚で開口を知覚できる幅よりも狭いことを特徴とする変形撮影支援装置。
【請求項7】
対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の前記変形物の変形を撮影するための変形撮影支援装置であって、
対象面を有する対象物と、
変形物が前記対象面に接する領域に設けられ、前記領域が移動する方向と直交する方向を前記変形物で覆うことが可能で、前記対象物を貫通する開口とを備え、
前記開口に接する前記対象面を前記領域が移動する間、前記対象物の前記対象面に対向する面の方向から、前記開口を介して、前記領域の移動に伴う前記変形物の変化が、カメラで撮影され、
前記対象物に、更なる開口が、前記領域が移動する方向と直交する方向に設けられ、
前記変形物で、前記開口と前記更なる開口を、同時に覆うことが可能に形成されることを特徴とする変形撮影支援装置。
【請求項8】
対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の前記変形物の変形を撮影するための変形撮影支援装置を用いた変形撮影方法であって、
前記変形撮影支援装置は、
対象面を有する対象物と、
変形物が前記対象面に接する領域に設けられ、前記領域が移動する方向と直交する方向を前記変形物で覆うことが可能で、前記対象物を貫通する開口とを備え、
前記変形撮影方法は、
カメラが、前記開口に接する前記対象面を前記領域が移動する間、前記対象物の前記対象面に対向する面の方向から、前記開口を介して、前記領域の移動に伴う前記変形物の変化を撮影するステップ
を備え
前記変形物が、人の皮膚または人の皮膚を模した物である場合、
前記領域が移動する方向と直交する方向の前記開口の幅は、前記領域が移動した際に、人が前記皮膚で開口を知覚できる幅よりも狭いことを特徴とする変形撮影方法。
【請求項9】
対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の前記変形物の変形を撮影するための変形撮影支援装置を用いた変形撮影方法であって、
前記変形撮影支援装置は、
対象面を有する対象物と、
変形物が前記対象面に接する領域に設けられ、前記領域が移動する方向と直交する方向を前記変形物で覆うことが可能で、前記対象物を貫通する開口とを備え、
前記変形撮影方法は、
カメラが、前記開口に接する前記対象面を前記領域が移動する間、前記対象物の前記対象面に対向する面の方向から、前記開口を介して、前記領域の移動に伴う前記変形物の変化を撮影するステップ
を備え
前記対象物に、更なる開口が、前記領域が移動する方向と直交する方向に設けられ、
前記変形物で、前記開口と前記更なる開口を、同時に覆うことが可能に形成されることを特徴とする変形撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の変形物の変形を撮影するための変形撮影装置、変形撮影支援装置および変形撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルリアリティ環境の実現のため、触感が生じるメカニズムを解明し、そのメカニズムに基づいて、理工学的に触感を実現することが期待されている。また化粧品等の触感が重要な工業製品の開発においても、触感が生じるメカニズムを解明することが求められている。
【0003】
ここで、「触感が生じるメカニズム」は、(1)皮膚と対象物の物理的相互作用、(2)物理的相互作用に伴う皮膚の変形から神経活動への変換、および(3)神経活動から脳内情報処理への変換と、(1)ないし(3)の複数層を経ることが知られている。触感が生じるメカニズムの各層のうち、(1)皮膚と対象物の物理的相互作用が、最も基礎的であると考えられる。
【0004】
しかしながら、触感は、皮膚と対象物が接触することで生じるので、接触に伴う皮膚の変形を直接的に観察できない場合がある。
【0005】
例えば、対象物表面に圧力分布センサを貼付して、皮膚の接触による圧力の変化を計測する方法が考えられる。しかしながら、対象物表面に圧力分布センサを貼付することによって、対象物の表面材質が大きく変化してしまい、対象物に対する触感を観察できない。
【0006】
また対象物を透明に変化させ、対象物越しに皮膚の変形を観察する方法がある(非特許文献1参照)。しかしながら、非特許文献1に記載の方法において、紙やすりのザラザラ表面のように、対象物の表面に微細な凹凸がある場合、対象物越しに皮膚を観察しようとしても、微細な凹凸によって対象物が曇りガラスのようにぼやけ、皮膚の変形を光学的に観察することができない。非特許文献1に記載の方法は、表面に微細な凹凸がなく、透明化が可能な対象物の場合に限られ、対象物に制限が生じる。
【0007】
このような問題を解決するために、透明かつ凹凸のある対象物を、シリコンオイル等の油であって同じ屈折率の液体に沈めることで、対象物を光学的に透明化する手法がある(非特許文献2参照)。非特許文献2に記載の方法によると、対象物の凹凸による光の屈折や散乱は原理的に生じないため、対象物の制限なく、対象物越しに皮膚の変形を観察することが出来る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】広光 慎一、前野 隆司、“物体把持時におけるヒト指腹部の固着・滑り分布と触覚受容器応答”、日本機械学會論文集 C編 68(667), 914-919, 2002年3月25日
【文献】金子 征太郎、梶本 裕之、“テクスチャ面に対する指表面挙動の観察に関する諸考察”、一般社団法人 日本機械学会、ロボティクス・メカトロニクス 講演会2017、2017年11月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、何れの非特許文献も、対象物の制限なく、触感を適切に測定することはできない問題がある。
【0010】
非特許文献1は、表面に微細な凹凸がなく、透明化が可能な対象物の場合に限り、触感を測定可能である。非特許文献1は、布、木材のように、表面に微細な凹凸がある物、または透明化できない物を、対象物として選択できない問題がある。また非特許文献2において皮膚自体を液体に沈めるので、皮膚は液体の影響を受けて、対象物との本来の接触状況とは異なる変形が生じてしまう可能性がある。
【0011】
そこで、皮膚等の変形物が対象物上で動く際の変形物の変形を、適切に観察する方法の開発が期待されている。
【0012】
従って本発明の目的は、対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の変形物の変形を適切に撮影するための変形撮影装置、変形撮影支援装置および変形撮影方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の特徴は、対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の変形物の変形を撮影するための変形撮影装置に関する。本発明の第1の特徴に係る変形撮影装置は、対象面を有する対象物と、変形物が対象面に接する領域に設けられ、領域が移動する方向と直交する方向を変形物で覆うことが可能で、対象物を貫通する開口と、開口に接する対象面を領域が移動する間、対象物の対象面に対向する面の方向から、開口を介して、領域の移動に伴う変形物の変化を撮影するカメラを備える。
【0014】
変形物が、人の皮膚または人の皮膚を模した物である場合、領域が移動する方向と直交する方向の開口の幅は、領域が移動した際に、人が皮膚で開口を知覚できる幅よりも狭くても良い。
【0015】
カメラは、変形物を、開口を介して異なる視点で撮影する複数のカメラであっても良い。
【0016】
変形物の開口を覆う部分にマーカーが付されても良い。
【0017】
マーカーは、線で構成され、線は、領域が移動する方向の開口の対向する2辺を延長した2つの直線と交わるように配設されても良い。
【0018】
対象物に、更なる開口が、領域が移動する方向と直交する方向に設けられ、変形物で、開口と更なる開口を、同時に覆うことが可能に形成されても良い。
【0019】
本発明の第2の特徴は、対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の変形物の変形を撮影するための変形撮影支援装置に関する。本発明の第2の特徴に係る変形撮影支援装置は、対象面を有する対象物と、変形物が対象面に接する領域に設けられ、領域が移動する方向と直交する方向を変形物で覆うことが可能で、対象物を貫通する開口とを備える。第2の特徴において、開口に接する対象面を領域が移動する間、対象物の対象面に対向する面の方向から、開口を介して、領域の移動に伴う変形物の変化が、カメラで撮影される。
【0020】
本発明の第3の特徴は、対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の変形物の変形を撮影するための変形撮影支援装置を用いた変形撮影方法に関する。本発明の第3の特徴に係る変形撮影支援装置は、対象面を有する対象物と、変形物が対象面に接する領域に設けられ、領域が移動する方向と直交する方向を変形物で覆うことが可能で、対象物を貫通する開口とを備える。変形撮影方法は、カメラが、開口に接する対象面を領域が移動する間、対象物の対象面に対向する面の方向から、開口を介して、領域の移動に伴う変形物の変化を撮影するステップを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の変形物の変形を適切に撮影するための変形撮影装置、変形撮影支援装置および変形撮影方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る変形撮影装置の斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る変形撮影装置の上面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る変形撮影装置の側面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る変形撮影装置のA-A断面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る変形撮影装置のB-Bの断面図である。
図6】本発明の実施の形態において、変形物に付されるマーカーを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。
【0024】
(変形撮影装置)
図1ないし図5を参照して、本発明の実施の形態に係る変形撮影装置1を説明する。本発明の実施の形態において変形撮影装置1は、対象物2の対象面3を変形物8が移動した際の変形物8の変形を撮影する。変形撮影装置1は、紙やすりを指で摺動するなど、移動を伴う変形物8による触感の変化を撮影する。変形撮影装置1が撮影した画像データは、対象面3を変形物8が移動した際の、変形物8の変形の時間的変化を表す。変形撮影装置1は、対象物2上を変形物8が移動することにより、変形物8が対象物2のテクスチャの影響を受けて変形した際の、対象物2と変形物8の物理的相互作用を把握することを可能にし、触感が生じるメカニズムの一つを解明することができる。
【0025】
図2ないし図5に示すように、対象物2は、変形物8が対象物2に接して移動することにより、変形物8の変形を引き起こす。対象物2は、粘弾性物体であって、紙ヤスリ、人の皮膚、人の皮膚を模した物、布、木、タイヤの走行面等である。対象物2は、皮膚または皮膚を模した物でも良いし、これらに化粧品が塗布された物であっても良い。また対象物2は、固体に限らず、人肌ゲルのような柔軟物、スプレーのりのような粘着物であっても良い。なお、本発明の実施の形態において対象物2は、透明でなくてもよく、任意の色を有する。
【0026】
変形物8は、対象物2に接して移動することにより変形が生じる。変形物8は、人の皮膚、人の皮膚を模した物、タイヤ等である。
【0027】
本発明の実施の形態において、変形物8が、指等の人の皮膚であって、移動は、対象面3上を指で滑らせて動かす(摺動する)場合を説明するが、変形物8および移動は、これに限らない。例えば変形物8は、対象面3上の移動によって変形を伴うものであれば良く、例えば、道路上を走行するタイヤ等であっても良い。また移動は、指を摺動するなど、変形物8のうち対象面3に接する領域を変更することなく移動する(ずらす)場合、タイヤで走行するなど、変形物8のうち対象面3に接する領域を変更しながら移動する(回転して移動する)場合などを含む。
【0028】
図1に示すように、変形撮影装置1は、対象物2(第1の対象物2aおよび第2の対象物2b)、支持台5、力覚センサ6およびカメラ7(第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7b)を備える。
【0029】
対象物2は、対象面3を有する。対象面3は、指などの変形物8に触感を生じさせる面である。対象面3を変形物8が移動する際、対象面3のテクスチャによって、変形物8における変形が引き起こされる。
【0030】
対象物2に、対象物2を貫通する開口4が設けられる。開口4は、変形物8が対象面を移動する位置に設けられる。開口4は、長手方向と短手方向を有する矩形形状であって、長手方向はX軸方向であり、短手方向はY軸方向である。変形物8は、開口4の長手方向(X軸方向)に、開口4に接する対象面3上を摺動する。図3等に示すように、開口4の長手方向を変形物8が移動する際、図3および図5に示すように、移動する方向と直交する方向(開口4の短手方向、Y軸方向)を変形物8で覆うことが可能に形成される。
【0031】
本発明の実施の形態において、対象物2が、第1の対象物2aおよび第2の対象物2bにより構成され、第1の対象物2aおよび第2の対象物2bを離して設置することで開口4を形成する場合を説明するが、これに限らない。例えば、1つの板状に形成される対象物2に、対象物2を分断することなく開口4が設けられても良い。
【0032】
支持台5は、板状に形成される。支持台5の上に、第1の対象物2aおよび第2の対象物2bが設けられる。支持台5は、開口4の位置に、支持台5を貫通する開口が設けられる。支持台5の開口は、X軸方向において、変形物8が移動するX軸方向の長さと比べて同じまたは長く形成され、Y軸方向において、開口4のY軸方向の長さと比べて同じまたは長く形成される。また支持台5の4角のそれぞれに、力覚センサ6が設けられる。
【0033】
力覚センサ6は、変形物8が対象面3に接しながら移動する際に生じた加重を計測する三軸力センサ、六軸力センサ等である。本発明の実施の形態では、支持台5の4角のそれぞれに、合計4つの力覚センサ6が設けられる場合を説明するが、力覚センサの数は、3つ以下でも良いし、5つ以上でも良い。力覚センサ6により計測された加重は、変形物8の変形との相関関係を求めるために用いられる。
【0034】
第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bは、変形物8を、開口4を介して異なる視点で撮影する。第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bは、開口4に接する対象面3を変形物8が移動する間、対象物2の対象面3に対向する面の方向から、開口4を介して、対象面3の移動に伴う変形物8の変化を撮影する。第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bは、第2の対象物2bおよび支持台5よりも下方であって、変形物8の移動方向に離れて設けられる。より理想的には、第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bは、開口4に対して垂直なXZ平面の異なる位置にそれぞれ設けられる。
【0035】
第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bの撮影範囲は、図2に示すように、それぞれ、開口4を覆いながら移動する変形物8を含む。第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bから伸びる一点鎖線は、各カメラの撮影範囲を示す。第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bで、変形物8を撮影して得られた各画像データから、ステレオビジョン方式により、変形物8のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の3次元の動きを把握することができる。対象物2が、人肌ゲルのような柔軟物、スプレーのりのような粘着物である場合、変形物8の変形はZ軸方向にも発生すると考えられるので、ステレオビジョン方式を採用することは好適である。
【0036】
なお本発明の実施の形態において、2台のカメラ7を有する場合を説明するが、これに限られない。例えば3台以上のカメラ7を設けて、ステレオビジョン方式により変形物8の三次元の変形を把握しても良い。また1台のカメラ7を設けて、変形物8の二次元の変形(XY平面上の変形)を把握しても良い。
【0037】
第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bは、変形物8の変形を把握するために、変形物8の変形時の振動周波数よりも高い周波数で撮影される。皮膚の触覚は、数Hzから1kHz程度までの振動を捉えることが出来ることが知られている。特に振動を捉える二種類の受容器Meissner小体およびPacini小体は、それぞれ30Hzおよび240Hz付近に共振ピークを持つ。従って、変形物8が皮膚である場合、カメラ7は、これらの周波数よりも充分に高い周波数で撮影可能である必要があり、例えば、1kHz等の周波数で撮影可能な高速カメラが好ましい。
【0038】
また、第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bがそれぞれ同時に撮影した画像データを特定するために、変形撮影装置1は、発光と点滅を繰り返す発光素子(図示せず)をさらに備えても良い。発光素子による発光は、第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bの各撮影範囲の重複範囲で観察可能に形成される。第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bがそれぞれ撮影した動画データのうち、発光素子による発光が確認されるタイミングの画像データが、同時に撮影した画像データとして特定される。これにより、高周波数で撮影される2つの画像データを同期させ、ステレオビジョン方式に用いることができる。
【0039】
なお本発明の実施の形態において、変形撮影装置1の各部のうち、第1のカメラ7aおよび第2のカメラ7bを除く構成を、変形撮影支援装置と称しても良い。
【0040】
(開口)
第1の対象物2aおよび第2の対象物2bの間に形成される開口4は、変形物8の移動方向(X軸方向)に長く形成される。移動方向に直交する方向(Y軸方向)の幅は、移動方向に比べて、ごく狭く形成され、変形物8によって覆われる。
【0041】
開口4の幅は、変形物8の種類は、変形物8の変形を測定する精度等に応じて適宜設定される。例えば変形物8が人の皮膚の場合、開口4の幅は、具体的には、0.1mmないし5.0mmの範囲で、より好ましくは、0.1mmないし0.5mmの範囲である。
【0042】
変形物8のうち開口4を覆う領域は、対象面3に接しないので、対象面3による直接的な物理的相互作用の影響を受けない。一方、変形物8のうち開口4を覆う領域に隣接する領域は、開口4に隣接する対象面3に当接するので、対象面3による物理的相互作用の影響を受けて変形する。変形物8のうち開口4を覆う領域は、隣接領域における変形が伝播し、対象面3による変形が生じる。本発明の実施の形態に係る変形撮影装置1は、このように、対象面3に当接する領域における変形の伝播により、変形物8のうち開口4を覆う領域に生じた変形を、開口4を介してカメラ7で撮影した画像データを出力する。このような画像データによって、変形物8で対象物2の対象面を移動する際の変形が、高い時間的かつ空間的解像度で、観察することが可能になる。
【0043】
本発明の実施の形態において、開口4のY軸方向の中心において変形が生じるように、開口4の幅(Y軸方向の長さ)は、形成されることが好ましい。開口4のY軸方向の中心では、開口4のX軸方向の対向する2辺のそれぞれから伝播した変形が生じるため、開口4がない状態で対象面3を変形物8が移動した状態に近い状態で、変形を観察することが可能になる。
【0044】
また、人の触覚に依存する変形を観察する場合、カメラ7は、人が知覚可能な変形を撮影できれば足りる。従って、変形物8が、人の皮膚または人の皮膚を模した物である場合、移動する方向と直交する方向の開口4の幅は、対象面3を移動した際に、人が皮膚で開口4を知覚できる幅よりも狭い。開口4の有無によって人の知覚が変化しないように、開口4の幅が形成されることにより、人が知覚可能な皮膚の変形を撮影し、分析することが可能になる。
【0045】
発明者らの知見によると、変形物8が、人の指先の皮膚または人の指先の皮膚を模した物である場合、開口4の幅は、0.2mm以下が好ましい。また個人差等を考慮して、開口4の幅が0.1mm程度であれば、人が知覚可能な変形を撮影できると考えられる。
【0046】
例えば、平滑な鉄板に設けられた開口を指先で触る場合、人は、0.9mm程度の幅まで知覚できず、開口の長手方向に摺動する場合、0.2mm程度の幅まで知覚できないことが知られている。また発明者らの知見によると、指先が触る対象面が荒くなると、摺動時の知覚閾値は上昇する。従って、化粧品を塗布した皮膚変形を観察する際、対象面3は顔の頬等になり、開口4の幅が2mm程度であっても変形を観察できる可能性があると考えられる。
【0047】
また身体部位によって感度は変わるため、開口4の幅は、開口をふさぐ身体部位によっても異なると考えられる。皮膚の二点弁別閾は、指先で1.5mm程度である一方、掌で8mm程度、腕で数cm程度となる。このため、指以外の身体部位で対象面3を摺動する場合、開口4に求められる幅の上限値は、指で摺動する場合の上限値より大きくなると予想される。例えば、掌で頬を摺動する際の指の変形を測定するための開口4の幅は、指で頬を摺動する際の指の変形を測定するための開口4の幅よりも広い場合がある。
【0048】
このように、開口4の幅は、対象面3および変形物8の特性により適宜設定される。また上記では、変形物8が人の身体部位である場合を説明したが、対象物2がタイヤ等の場合でも、変形を特定する目的に対応する精度等に応じて、開口4の幅は適宜設定される。
【0049】
(マーカー)
図2等に示すように、変形物8の開口4を覆う部分にマーカー9が付されることが好ましい。マーカーを付すことにより、カメラ7が撮影した画像データにおいて、マーカーを追尾して変形を観測することができる。マーカー9は、点でも線でもよく、また、指紋または黒子、タイヤの溝など、変形物8に元々付されているものでも良い。
【0050】
マーカー9が線で構成される場合、マーカー9の移動を視覚化できるように、マーカー9は、変形物8が移動する方向よりXY平面上で傾く様に形成される。具体的には、マーカー9の線は、開口4の移動する方向(X軸方向)の対向する2辺を延長した2つの直線と交わるように配設される。
【0051】
またマーカー9は、互いに平行な複数の線で構成されることが好ましい。マーカーが複数の線で構成されることにより、変形物8のより広い領域の変形を、観察することができる。このとき、複数の線が等間隔で配設されることにより、マーカー9の線の間隔によって、変形物8の変形の特定が容易になる。
【0052】
マーカー9は、図6(a)に示すように、マーカー9を構成する各線が、変形物8の移動方向(X軸方向)に直交するように、Y軸方向に沿って設けられることが好ましい。これにより、マーカー9の移動を容易に視認できる。
【0053】
さらに、カメラ7が撮影した画像データにおいて、マーカー9を構成する各線と、格子状に配設される画素の行とが平行になるように形成されることが好ましい。この場合、図6(b)に示すように、画像データの格子状に配設される画素の行(Y軸方向の行)と、マーカー9を表示する画素が平行になり、マーカー9を表示する画素の数が抑制される。マーカー9を表示する画素とマーカー9以外を表示する画素の画素値の差分が大きくなり、マーカー9を表示する画素を容易に特定でき、好適である。
【0054】
これに対し、マーカー9を表示する画素が、格子状に配設される画素の行に対して傾きを有する場合、マーカーを構成する画素が多くの画素で観察されることになる。マーカーを表示する画素とマーカー以外を表示する画素の画素値の差分が小さくなり、マーカーを表示する画素の特定が困難な場合がある。
【0055】
このような本発明の実施の形態に係る撮影装置1によれば、対象物の対象面を変形物が動く際の変形物の変形を適切に撮影する。これにより、対象面3を摺動する際に人が感じる触覚を定量化することが可能になる。ザラザラ、サラサラ、ツルツル、ゴツゴツ等のオノマトペで表現される主観的触感と、皮膚等の変形物8の空間的な変形やその周波数成分等との対応関係を発見することが可能になる。
【0056】
また触覚を定量化することにより、その触覚を提示する触感ディスプレイを設計することも可能になる。例えば、ある素材の感覚を提示するために、その素材を対象面に設定した変形撮影装置1で変形物8の変形を撮影して、変形を定量化する。さらに触感ディスプレイが、定量化された変形を提示することにより、その素材がなくとも、その素材と同様の触感を提示することが可能になる。
【0057】
また、主観的触感と変形物8の変形の対応関係を発見し、変形物8の変形を提示する触感ディスプレイを設計可能であるので、ある主観的触感を発生させるためのディスプレイを設計することが可能になる。
【0058】
また手触りの必要な工業製品の開発に適用して、開発工程の短縮化にも寄与する。例えば、化粧品の開発においては「試作品」と「主観的触感」の対応関係を、試作品ごとに大量の被験者によって行う場合がある。大量の被験者が必要となる一つの理由は、主観的触感は個人差が大きく、各被験者の回答が安定しないためである。
【0059】
主観的触感は、「対象物体」→「皮膚変形」→「主観的触感」という経路で生成されると考えられるが、本発明の実施の形態に係る変形撮影装置1によれば、「皮膚変形」→「主観的触感」のマッピングが明らかになる。従って、化粧品を塗布した皮膚、またはそれを模した物を対象面3に設定して変形撮影装置1で撮影することで、被験者から主観的触感を得ることなく、化粧品等が発揮する主観的触感を推測することが可能になる。被験者に対する試験を行わないことから、開発過程の短縮化に貢献する。また、皮膚のかわりに、皮膚と同等の表面材質を持った人工皮膚を用いても良い。
【0060】
さらに、本発明の実施の形態に係る変形撮影装置1は、皮膚における変形を撮影するのみならず、その他の物にも適用することが可能になる。例えば変形物8にゴム製のタイヤを用いることにより、タイヤと路面との間で生じる物理現象の詳細な解明に貢献することも可能である。
【0061】
(第1の変形例)
本発明の実施の形態において、対象面3の上を変形物8が移動する場合を説明したが、これに限られない。変形物8が固定され、対象面3(または対象面3を含む対象物2)が移動しても良い。換言すると、変形撮影装置1において、対象面3のうち、変形物8が接する領域が移動すれば良い。
【0062】
この場合、対象物2に設けられる開口4の位置は、変形物8が対象面3に接する領域である。変形物8は、開口4の変形物8が対象面3に接する領域が移動する方向と直交する方向(開口4の短手方向)を覆う。
【0063】
またカメラ7は、開口4に接する対象面3において、変形物8が接する領域が移動する間、対象物2の対象面3に対向する面の方向から、開口4を介して、変形物8が接する領域の移動に伴う変形物8の変化を撮影する。
【0064】
変形物8が、人の皮膚または人の皮膚を模した物である場合、変形物8が接する領域が移動する方向と直交する方向の開口4の幅(開口4の短手方向の長さ)は、変形物8が接する領域が移動した際に、人が皮膚で開口を知覚できる幅よりも狭い。
【0065】
マーカー9が、線で構成される場合、線は、開口4の、変形物8が接する領域が移動する方向の対向する2辺を延長した2つの直線と交わるように配設される。
【0066】
開口4が複数ある場合、これら複数の開口4は、変形物8が接する領域が移動する方向と直交する方向に並べられる。このとき変形物8は、これら複数の開口4を同時に覆うことができるように、複数の開口4の距離は調整される。
【0067】
これにより変形撮影装置1は、対象物の対象面のうち変形物が接する領域が移動する際の変形物の変形を適切に撮影することが可能になる。
【0068】
(第2の変形例)
本発明の実施の形態において、変形物8が、1本の開口4のみを覆う場合を説明したがこれに限らない。変形物8が、複数の開口を覆っても良い。具体的には、対象物2に、更なる開口が、開口4の移動する方向と直交する方向(Y軸方向)に設けられ、変形物8で、開口4と更なる開口を、同時に覆うことが可能に形成される。変形物8は、Y軸方向に平行して並ぶ2つの開口を同時に覆って、X軸方向に摺動する。例えば、指の腹の部分と脇の部分とでは、形状、感覚等が異なり、触覚も異なる場合がある。複数の開口を変形物8で同時に覆うことにより、開口を覆う変形物8の位置に応じて異なる変形を、同時に観察することが可能になる。
【0069】
(第3の変形例)
変形物8は、変形物8の自力で動いても良いし、変形物8を有するロボットアームにより動かされても良い。変形物8が人の指の場合、人が、変形物8を開口4に沿って動かしても良いし、ロボットアームが、変形物8を開口4に沿って動かしても良い。また指等の変形物8を支持する単軸ロボット等が、変形物8を開口4に沿って動かしても良い。変形物8が、ロボットアーム、単軸ロボット等によりにより動かされる場合、変形物8が移動する速度等を測定して、変形物8における変換との相関関係を導くことも可能になる。
【0070】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態と第1ないし第3の変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなる。
【0071】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0072】
1 変形撮影装置
2 対象物
3 対象面
4 開口
5 支持台
6 力覚センサ
7 カメラ
8 変形物
9 マーカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6