(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】癌治療、予防及びアンチエイジングのための組み換えメチオニナーゼを含む製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/51 20060101AFI20221115BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221115BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221115BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
A61K38/51 ZMD
A61K9/08
A61K47/02
A61P35/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2018197153
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-09-16
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502326772
【氏名又は名称】アンチキャンサー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キンゴン ハン
(72)【発明者】
【氏名】シュクアン リ
(72)【発明者】
【氏名】ユイング タン
(72)【発明者】
【氏名】ケイ カワグチ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】サン チャウラ
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-531050(JP,A)
【文献】Oncotarget, 2017.12, Vol. 9, No. 1, pp.915-923
【文献】Oncotarget, 2017.8, Vol. 8, No. 49, pp.85516-85525
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00 - 38/58
A61P 35/00 - 35/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEG(Polyethylene glycol)化されていない組換えメチオニナーゼを有効成分として含み、抗腫瘍剤を含まない、腫瘍の生長の阻害又は退行用経口投与用製剤。
【請求項2】
前記腫瘍は、ヒト由来のメラノーマであることを特徴とする、請求項1に記載の経口投与用製剤。
【請求項3】
前記メラノーマは、変異メラノーマであることを特徴とする、請求項2に記載の経口投与用製剤。
【請求項4】
前記メラノーマは、BRAF-V600E変異メラノーマであることを特徴とする、請求項2又は3に記載の経口投与用製剤。
【請求項5】
前記組換えメチオニナーゼの濃度は、生理食塩水中にて1~1,000ユニット/mLの範囲である、請求項1又は4に記載の経口投与用製剤。
【請求項6】
ピリドキサール-L-リン酸と併用することを特徴とする、請求項1又は4に記載の経口投与用製剤。
【請求項7】
ピリドキサール-L-リン酸と少なくとも14日間併用することを特徴とする、請求項6に記載の経口投与用製剤。
【請求項8】
前記組換えメチオニナーゼがホモ四量体であることを特徴とする、請求項1に記載の経口投与用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えメチオニナーゼを含む製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
転移性黒色腫(metastatic melanoma)は予後の悪い癌である(非特許文献1~5)。メチオニンの過剰要求はメチオニン依存性と呼ばれ、癌における一般的な代謝欠陥のようである(非特許文献6)。我々は以前、組換えメチオナーゼ(rMETase)等でのメチオニンの欠乏によって癌細胞の成長が選択的に阻止され得ることを報告した。
【0003】
先の研究では、我々は、BRAF-V600E突然変異メラノーマの患者由来同所性異種移植(PDOX)ヌードマウスモデルを確立し、メラノーマの第一選択薬であるテモゾロミド(temozolomide (TEM))との組み合わせによるrMETaseのエフィカシーを決定した(非特許文献7~10)。最初に選択される治療であるTEMとrMETaseとを組み合わせた治療は、いずれか単独で治療した場合よりも、有意な効果があった(非特許文献10)。
【0004】
癌における一般的な代謝障害であるMET依存は、異常なメチル基転移反応に起因する過剰なMET消費によるものであり、ホフマン効果(Hoffman effect)と呼ばれている。これは癌におけるグルコース消費上昇のWarburg効果(好気的解糖)に類似している(非特許文献6及び11~16)。Warburg効果とは、がん細胞は有酸素下でもミトコンドリアの酸化的リン酸化よりも、解糖系でATPを産生する現象であり、50年以上も前にオットー・ワールブルグ(Otto Warburg)によって見出された。Warburg効果では、グルコースは、解糖系で代謝された後に、ミトコンドリアに入ることなく乳酸に変換されるため、解糖系は、酸化的リン酸化と比較して、ATP産生速度は速いがきわめて効率が悪く、その結果、がん細胞は大量のグルコースを消費することになる。
【0005】
癌における過剰かつ異常なMETの消費は11C MET PETイメージングにおいて強く見られる。11C METの高摂取は正常な組織のバックグラウンドに比べると非常に強く、選択的な腫瘍シグナルをもたらす。PETイメージングには、18Cフルオロデオキシグルコース(FDG)-PETより11C METが適しており、このことは、MET依存はグルコース依存よりもより腫瘍特異的であることを示唆している(非特許文献17及び18)。
【0006】
METは主に食品から摂取される。しかし、低タンパク含量の食事療法を通じたMET制限は、良好な栄養状態を維持する上では好ましくない。加えて、METはタンパク分解物をソースとしているため、食事指導によるMETレベルの低下効果は限定的である(非特許文献6)。血漿METのさらなる低下、及びそれによって腫瘍METの減少が、rMETaseの使用によって達成された(非特許文献10及び19~23)。
【0007】
我々の研究室では、シュードモナス・プチダ(pseudomonas putida)由来のrMETaseを、ラージスケールでの生産用に大腸菌(E.coli)にクローニングした(非特許文献24)。また、最近、PDOXモデルにおけるユーイング肉腫に対するrMETaseについて、rMETaseは、未処理のコントロールと比較して、効果的に腫瘍の生長を抑制したこと、及び血清及び腫瘍のメチオニンレベルが、rMETase投与群においてより低いことが報告された(非特許文献23)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Chapman PB, et al. N Engl. J. Med. 2011; 364:2507-2516.
【文献】Flaherty LE, et al. J. Clin Oncol. 2014; 32:3771-3778.
【文献】Tang H, et al. Cancer Cell. 2016; 29:285-296.
【文献】Brozyna AA, et al. Oncotarget. 2016; 7:17844-17853.
【文献】Slominski AT, et al. Mayo Clin. Proc. 2014; 89:429-433.
【0009】
【文献】Hoffman RM. Expert Opin. Biol. Ther. 2015;15:21-31.
【文献】Kawaguchi K, et al. Oncotarget. 2016; 7:71737-71743.
【文献】Kawaguchi K, et al. Oncotarget. 2016; 7:85929-85936.
【文献】Kawaguchi K, et al. J. Cell Biochem. 2017; 118:2314-2319.
【文献】Kawaguchi K, et al. Oncotarget, in press.
【0010】
【文献】Hoffman RM, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1976; 73:1523-1527.
【文献】Stern PH, et al. J. Cell Physiol. 1983; 117:9-14.
【文献】Stern PH, et al. J. Cell Physiol. 1984; 119:29-34.
【文献】Stern PH, et al. In Vitro. 1984; 20:663-670.
【文献】Hoffman RM. Biochim Biophys Acta. 1984; 738:49-87.
【0011】
【文献】Coalson DW, et al. Proc. Natl. Acad Sci U S A. 1982; 79:4248-4251.
【文献】Hoffman RM. Mol. Cytogenetics. 2017; 10:11
【文献】Hoffman RM. Cell Cycle. 2017; 16:825-829.
【文献】Tan Y, et al. Clinical Cancer Research 1999;5:2157-2163.
【文献】Tan Y, et al. Anticancer Res. 1996; 16:3937-3942.
【0012】
【文献】Tan Y, et al. Anticancer Res. 1997; 17:3857-3860.
【文献】Kokkinakis DM, et al. Cancer Res. 2001; 61:4017-4023.
【文献】Murakami T, et al. Oncotarget. 2017; 8:35630-35638.
【文献】Tan Y, et al. Protein Expr Purif. 1997; 9:233-245.
【文献】Guo H, et al. Cancer Res. 1993; 53:5676-5679
【0013】
【文献】Hoffman RM, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1980; 77:7306-7310.
【文献】Kokkinakis DM, et al. Br J Cancer. 1997; 75:779-788.
【文献】Kokkinakis DM, et al. Nutr Cancer. 1997; 29:195-204.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、癌の治療、癌の予防、及びアンチエイジングで使用するための組換えメチオニナーゼを含む製剤を提供すること、及び前記製剤中のピリドキサールリン酸と共に、長期的に投薬可能な製剤を提供することを目的とする。
上述した通り、転移性黒色腫(以下、単に「メラノーマ」ということがある。)は予後が悪く、有効な治療法がないため、ステージIII及びIVのメラノーマの5年生存率は7%から30%であるという問題があった。このため、メラノーマの有効な治療剤に対する高い社会的な要請があった。
【0015】
また、癌では、過剰かつ異常なMETの消費が起こるため、METを制限すると腫瘍の生長は理論上は抑制されるが、METは主に食品から摂取されるため、低タンパク含量の食事療法を通じたMETの制限は、良好な栄養状態を維持する上では好ましくないという問題があった。このため、良好な栄養状態を維持しつつ、METの摂取を制限できる手段に対する高い社会的要請があった。
【0016】
以前の研究では、BRAF V600E-突然変異メラノーマPDOXはrMETaseに対して感受性であり、TEMのエフィカシーは他の薬剤との併用で向上することが示された(非特許文献10)。しかしながら、十分な治療効果が得られるほどのエフィカシーの向上は見られなかった。このため、十分な治療効果が得られる薬剤との組み合わせに対する強い社会的要請があった。
【0017】
一方で、PDOXモデルにおけるユーイング肉腫に対してはrMETaseが腫瘍の生長を効果的に抑制したことが知られているが、MET依存はグルコース依存よりもより腫瘍特異的であるため、その効果はユーイング肉腫に限定的であるという問題があった。このため、メラノーマの生長を有効に阻害できる医薬製剤に対する強い社会的な要請があった。
したがって、
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の発明者等は、以上のような条件の下で鋭意研究を進め、MET欠乏が、癌細胞の生長を阻止し、そして腫瘍選択的なG2フェーズの細胞周期停止を誘導することを、インビトロおよびインビボで見出し(非特許文献25~28)、これに基づいて本発明を完成したものである。
【0019】
すなわち、本発明のある態様は、PEG化されていない組換えメチオニナーゼを有効成分として含み、抗腫瘍剤を含まない、腫瘍の生長の阻害又は退行用経口投与用製剤である。ここで、前記腫瘍は、ヒト由来のメラノーマであることが好ましい。また、前記メラノーマは、変異メラノーマであることが好ましく、BRAF-V600E変異メラノーマであることが好ましい。
【0020】
また、前記組換えメチオニナーゼの濃度は、生理食塩水中にて1~1,000ユニット/mLの範囲であることが好ましい。本発明の経口投与用製剤はまた、ピリドキサール-L-リン酸と併用することが好ましい。前記PEG化されていない組換えメチオニナーゼは、ホモ四量体であることが好ましい。
【0021】
本発明のさらにまた別の態様は、長期にわたって投薬可能な組換えメチオニナーゼを含む上記の製剤である。ここで、前記製剤中の前記組換えメチオニナーゼの含有量は、1~1,000ユニット/mL(生理食塩水中)の範囲であり、経口摂取用の製剤であってもよい。
なお、本発明の組換えメチオニナーゼを含む製剤は、経口製剤又は腹腔内投与用製剤であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、癌の治療、腫瘍の生長の阻害又は退行に有効な組換えメチオニナーゼを含む製剤を提供することができる。
本発明によれば、突然変異メラノーマに対して、インビボの実験系でip-rMETaseよりも非常に高い効果を有するo-rMETaseを含む製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施例における各群(対照群、ip-rMETase投与群、o-rMETase投与群、及びo-rMETaseとip-rMETaseの併用群)の腫瘍の大きさの相違を示す写真である。
【
図2】
図2は、上記実施例における上記各群の腫瘍体積比の時間経過による推移を示すグラフである。図中、*及び**は、群間で有意差があることを表す。
【0024】
【
図3】
図3は、上記実施例における各群のプラズマ(血漿)METレベルを示すグラフである。図中、*及び**は、群間で有意差があることを表す。
【
図4】
図4は、上記実施例における処理の前後における各処理群のマウスの体重を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の組換えメチオニナーゼを含む製剤の実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0026】
本実施形態においては、組換えメチオニナーゼ(recombinant methioninase)を使用するが、単にはrMETase」ということがある。また、投与経路によって、腹腔内注射により投与する場合には「ip-rMETase」と、経口投与する場合には「o-rMETase」ということがある。
【0027】
本発明の製剤は経口製剤であってもよく、癌の治療のための組換えメチオニナーゼを含む製剤、腫瘍の増殖を阻害又は退行させるための組換えメチオニナーゼを含む製剤、癌を予防するための組換えメチオニナーゼを含む製剤、アンチエイジングのための組換えメチオニナーゼを含む製剤等を挙げることができる。
【0028】
ここで、メチオニナーゼ(methionine)はメチオニンを分解する酵素であり、種々の細菌をソースとして精製することができる。
本実施形態で使用する組換えメチオニナーゼ(以下、「rMETase」ということがある。)は、例えば、細菌等から抽出されたメチオニナーゼをコードする遺伝子をクローニングして宿主に組込み、宿主の菌体内で生産させることができる。
【0029】
本発明のrMETaseとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来のメチオニナーゼ遺伝子をクローニングし、大腸菌(Escherichia coli)に組込み、その菌体内で発現させて作製された組換体(L-メチオニン α-デアミノ-γ-メルカプトメタンリアーゼ (L-methionin α-deamino-γ-mercaptomethanelyase))等を例示することができる。
【0030】
本発明のrMETaseを含有する製剤の有効性は、メラノーマの患者由来の同所性異種移植(a patient-derived orthotopic xenograft:PDOX)を用いて、動物実験系において確認することができる。例えば、BRAF-V600E変異メラノーマの患者由来同所性異種移植(PDOX)ヌードマウスモデルを用いると、ユーイング肉腫に対するrMETaseのエフィカシーを確認することができる。
【0031】
PDOXモデルは悪性癌の効果的な治療を特定するために用いることができるヌードマウスを用いるインビボのモデルである。PDOXヌードマウスモデルは、腫瘍学を正確に個別化するために、膵臓、胸部、卵巣、肺、子宮頚、大腸、胃、リンパ及びメラノーマを含む、従来の外科的同所性移植(SOI)技術を応用した技術である。従来の開発のコンセプト及び高選択的な腫瘍ターゲティングの戦略は、腫瘍の分子標的という利益を得ることができ、正常組織と腫瘍組織との間における特異的な相違点に焦点を当てる、組織選択的治療を含む。
【0032】
本発明の上記製剤中の組換えメチオニナーゼの含有量は特に限定されるものではなく、好適な効果を達成できるようにあらかじめ計算され、決定された任意の濃度であってもよい。また、一般に、患者の年齢、状態、性別、疾病の程度に応じて加減することもできる。例えば、組換えメチオニナーゼの濃度としては、1~1,000ユニット/mL/生理食塩水の範囲等を挙げることができる。
【0033】
本発明の上記製剤は、毒性を示さないために安全性が高く、長期間にわたって使用可能な癌の治療剤及び癌の予防剤としてのo-rMETaseの臨床開発における潜在的な可能性を示す。また、多くのインビボモデル(動物モデル)において、食餌中のMETの減少は一般的な寿命を延ばすこと、及びアンチエイジングにも効果があることから、延命の可能性を示唆している。
従って、本実施形態の製剤は、腫瘍の増殖を阻害又は退行させるための製剤、癌予防のための製剤、抗老化のための製剤のいずれも含むものである。
【0034】
また、本実施形態の製剤は、慢性的な癌治療や癌予防薬等として、長期にわたって服薬可能な経口製剤であってもよい。
【0035】
本発明の製剤は以上のとおりであるが、今回開示された発明の実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を、実施例を挙げて説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0037】
(実施例1)材料と方法
(1)実験動物
4~6週齢の無胸腺ヌードマウス(無胸腺 nu/nu ヌードマウス、アンチキャンサー社製、サンディエゴ、カリフォルニア)を使用した。上記マウスは、無菌施設内にて、HEPAフィルター付きのラック中、12時間の明/暗サイクルの標準条件で飼育した。これらの動物には、オートクレーブした実験動物用(げっ歯類用)の餌を与えた。すべての動物の研究は、米国国立衛生研究所の実験動物の管理と使用に関する指針(National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Animals under Assurance)のNumber A3873-1に記述された原理及び手順に従って行った。
【0038】
すべてのマウスの外科手術の手順及びイメージングは、0.02 mlのケタミン混合物(20 mg/kgのケタミン、15.2 mg/kgのキシラジン及び0.48 mg/kgのアセプロマジンマレイン酸塩の溶液を含む)の皮下注射による麻酔下で行った。動物の手術中の反応を、麻酔の深さが適切かどうかを確認するためにモニターした。動物は毎日観察し、以下のヒトのエンドポイントの基準に合う場合には、人道的にCO2吸入により屠殺した:
【0039】
深刻な腫瘍による負荷(直径20 mm以上)
衰弱
顕著な体重の減少
呼吸困難
回転行動及び体温低下
【0040】
(2)患者由来腫瘍
右胸壁のBRAF-V600E変異メラノーマであると診断された75歳の女性患者の患部から、以前にカリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)外科部にて切除された腫瘍を用いた。インフォームドコンセントは患者によって提出され、本実験の使用がUCLAの施設内倫理委員会によって承認された。
【0041】
(実施例2)
(1)外科的同所移植(Surgical Orthotopic Implantation (SOI))によるメラノーマPDOXモデルの確立
皮下で生長したBRAF V600E突然変異メラノーマを採取し、小片(3 mm3)にカットした。ヌードマウスをケタミン溶液で上述のように麻酔した後、5 mmの切り込みを右胸部の胸壁に入れ、メラノーマ組織片のためのスペースを作るべく開口させた。1個の腫瘍片をそのスペースに同所的に移植し、PDOXモデルを確立した。創傷を6-0ナイロン縫合糸(Ethilon, Ethicon Inc. NJ,USA)で閉じた。
【0042】
(2)組換えメチオニナーゼ(rMETase)の調製
シュードモナス・プチダ由来の組換えL-メチオニン α-デアミノ-γ-メルカプトメタンリアーゼ(メチオニナーゼ,METase)[EC4.4.4.11]を予め常法に従ってクローニングし、大腸菌(アンチキャンサー社製、サンディエゴ カリフォルニア)内で産生させた。rMETaseは、分子量172-kDaのホモ四量体PLP酵素である。
【0043】
(3)o-rMETase及びピリドキサールリン酸(pyridoxal phosphate、PLP)補助剤の処方
100 0mol/LのPLPを含有するマウス用飲料水を調製した。1.0 mLのPLP (20 mmol/L)を200 mlの飲料水に添加し、毎日新しく調製した。rMETase(100ユニット、2.0 mg)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のステンレスの経口ゾンデを用いた強制投与により毎日投与した。
【0044】
(4)メラノーマのPDOXモデルにおける処理研究のデザイン
BRAF V600E突然変異メラノーマを移植したPDOXヌードマウスを、1群5匹ずつ、以下の4群に無作為に分けた。
未処理の対照群
ip-rMETase(100ユニットのrMETase、皮下(i. p.)、14日間連続投与)
o-rMETase(100ユニットのrMETase、経口(p. o.)、14日間連続投与)
o-rMETase+ip-rMETase(100ユニットのrMETase,p. o. +100ユニットのi. p.,14日間連続投与)。
【0045】
(5)プラズマメチオニン(血漿メチオニン)の定量
プラズマメニオニン濃度は、“Jones BN, Gilligan JP. o-Phthaldialdehyde precolumn derivatization and reversed-phase high-performance liquid chromatography of polypeptide hydrolysates and physiological fluids. J. Chromatogr. 1983; 266: 471-482”に記載の方法を改変した、予備カラム誘導体化及びHPLC分離法を用いて測定した。測定時には、各10μLのプラズマサンプル又はメチオニン標品を用いた。プラズマメチオニンレベルは、メチオニン標準曲線の保持時間に基づいて特定した。検出限界は0.5 μMメチオニンであった。メチオニンアッセイのメチオニン検出の上限値は、100 μMであった。
【0046】
(6)統計分析
JMP Version 11.0をすべての統計分析に使用した。連続変数についての有意差は、Mann-Whitney U検定によって決定した。線グラフには、平均値及び標準偏差(SD)を示すエラーバーを示した。P < 0.05を有意な差であるとした。
【0047】
(7)結論及び考察
無作為に1群5匹の4群に分けられたメラノーマPDOXヌードマウスは、下記に示すように、未処理の対照群と比較して、処理開始後14日の時点において、全処理個体において腫瘍の増殖が抑制されていた。
【0048】
【0049】
o-rMETaseは、ip-rMETase(p = 0.0086)に比べて、格段に優れた効果(significantly more effective)を示した。また、o-rMETaseとip-rMETaseとの組み合わせは、他の単独の治療、ip-rMETase(p = 0.0005)、o-rMETase(p = 0.0367)、と比較したときに格段に優れた効果を示した。
【0050】
なお、BRAF V600E突然変異メラノーマPDOXの未処理群、及び処理群の動物から得られた腫瘍の代表例の写真を、
図1に示した。腫瘍は、処理開始後15日に摘出したものであり、写真中のスケールバー(白線)は5 mmである。
また、
図2に、BRAF V600E突然変異メラノーマPDOXの未処理群、及び処理群におけるip-rMETase、o-rMETase、及びo-rMETaseとip-rMETaseとの併用の定量的効果をグラフとして示した。折線グラフは、初期の腫瘍体積に対する各時点における腫瘍体積の比を表す(p
* < 0.01、p
** < 0.05、エラーバー:± SD)。
【0051】
図3には、ip-rMETase、o-rMETase、及びo-rMETaseとip-rMETaseとの併用の際のプラズマrMETレベルを棒グラフとして示した。いずれの群も、対照群と比較して、有意なプラズマrMETレベルの低下が見られた(p
* < 0.01、p
** < 0.05、エラーバー:± SD)。各群のp値は、ip-rMETase(p = 0.0122)、o-rMETase(p = 0.003)、及びo-rMETase+ip-rMETase(p = 0.0001)であった。
【0052】
図4には、BRAF V600E突然変異メラノーマPDOXマウスの体重の変動に対する、ip-rMETase、o-rMETase、及びip-rMETaseとo-rMETaseとの併用の効果を示した。棒グラフは、処理の前後における各処理群のマウスの体重を示す。各処理群と非処理群との間に、有意な差は見られず、処理の前後における重量減少は、いずれの処理群でも観察されなかった。また、いずれの群でも個体の死亡はなかった。
以上より、o-rMETaseの安全性と臨床での慢性癌治療に対するポテンシャルとが示された。
【0053】
以上のとおり、o-rMETaseは、BRAF-V600E突然変異メラノーマPDOXに対して、ip-rMETase単独よりも、はるかに効果的であるという驚くべき結果が得られた。
また、本発明の経口製剤は、製剤中のピリドキサール-L-リン酸(PLP)とともに長期にわたって摂取することができる組換えメチオニナーゼの経口製剤であり、癌治療、癌予防及びアンチエイジングに使用することができる。
また、本発明の経口製剤は、様々な濃度のo-rMETaseを、上述した特定の目的に使用することができる。
【0054】
本発明によれば、o-rMETaseは使用時にまったく毒性を示さなかった。文献(Lishko VK, Lishko OV, Hoffman RM, The preparation of endotoxin-free L-methionine-alpha-deamino-gamma-mercaptomethane-lyase (L-methioninase) from Pseudomonas putida. Protein Expr. Purif. 1993;4:529-533、及び、Tan Y, Zavala J Sr, Xu M, Zavala J. Jr., Hoffman RM, Serum methionine depletion without side effects by methioninase in metastatic breast cancer patients. Anticancer Res. 1996; 16:3937-3942.)に示すように、METは老化をもターゲットにし得るため、癌予防、慢性癌治療に加えて一般的な寿命の延長(アンチエイジング)のための臨床開発を含めて、多くの可能性を開くものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明は、医学の分野において有用である。