(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】CEMアセンブリおよび電子増倍デバイス
(51)【国際特許分類】
H01J 43/30 20060101AFI20221115BHJP
H01J 43/24 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01J43/30
H01J43/24
(21)【出願番号】P 2018204147
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩之
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-066394(JP,A)
【文献】特開2014-067545(JP,A)
【文献】特開2013-219001(JP,A)
【文献】特許第6395906(JP,B1)
【文献】特開2017-208345(JP,A)
【文献】特開2007-141131(JP,A)
【文献】特開2007-143292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 43/30
H01J 43/24
G01J 1/42
G01J 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を取り込む入力端、二次電子を放出する出力端、および、前記入力端から前記出力端に向かって連続して設けられた二次電子放出層を含む増倍チャネルと、前記二次電子放出層に接触した状態で前記入力端に設けられた入力電極と、前記二次電子放出層に接触した状態で前記出力端に設けられた出力電極と、を有するチャネル型電子増倍体と、
前記入力電極と前記出力電極との間に所定の電圧を印加するための電圧供給回路と、
を備え、
前記入力電極と前記出力電極との間に位置する前記増倍チャネルの抵抗値は、10MΩ未満であり、
前記電圧供給回路は、
第1基準電位に設定される第1端子と、
前記入力電極に接続された第2端子と、
前記出力電極に接続された第3端子と、
第2基準電位に設定された第4端子と、
前記第1端子と前記第2端子との間に配置された電源部であって、前記第1端子と、前記第2端子を介して前記入力電極と同電位に設定される入力側基準ノードと、の間の電位差を確保するための起電力を生じさせる電源部と、
前記第3端子と前記第4端子との間に配置された、前記出力電極の電位を調整するための目標電位を保持する定電圧発生部であって、前記第3端子と前記第4端子との間に位置するとともに前記目標電位に設定される出力側基準ノードと、前記第4端子と前記出力側基準ノードとの間の電位差を確保するための電圧降下を生じさせる定電圧供給部を含む定電圧発生部と、を有する、
CEMアセンブリ。
【請求項2】
前記定電圧発生部は、
前記入力側基準ノードと前記出力側基準ノードとの間に配置された第1抵抗と、
前記第3端子を介して前記出力電極と前記出力側基準ノードとの電位差を解消する電位固定素子と、を更に備えた請求項1に記載のCEMアセンブリ。
【請求項3】
前記定電圧供給部は、前記出力側基準ノードと前記第4端子との間に配置された第2抵抗を含むことを特徴とする請求項2に記載のCEMアセンブリ。
【請求項4】
前記第1抵抗の抵抗値は、前記第2抵抗の抵抗値よりも高いことを特徴とする請求項3に記載のCEMアセンブリ。
【請求項5】
前記第1抵抗と前記第2抵抗の抵抗比は、100対1から2対1の範囲内に収まることを特徴とする請求項3または4に記載のCEMアセンブリ。
【請求項6】
前記定電圧供給部は、前記出力側基準ノードと前記第4端子との間に配置されたツェナーダイオードを含むことを特徴とする請求項2に記載のCEMアセンブリ。
【請求項7】
前記電位固定素子は、MOSトランジスタ、FET、および、バイポーラトランジスタのうち何れかを含むことを特徴とする請求項2~6の何れか一項に記載のCEMアセンブリ。
【請求項8】
前記定電圧供給部は、前記出力側基準ノードと前記第4端子との間で直列接続された1またはそれ以上のICユニットを含み、前記ICユニットのそれぞれが、シャントレギュレータICと、前記シャントレギュレータICの入力端と出力端の間において所定の抵抗比で直列接続された第3抵抗および第4抵抗と、を有することを特徴とする請求項1に記載のCEMアセンブリ。
【請求項9】
前記増倍チャネルは、前記二次電子放出層を支持する、絶縁材料からなる構造体と、前記二次電子放出層と前記構造体との間に設けられた抵抗膜と、を更に含むことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載のCEMアセンブリ。
【請求項10】
前記絶縁材料は、鉛ガラスを除くガラス、または、セラミックからなることを特徴とする請求項9に記載のCEMアセンブリ。
【請求項11】
請求項1~
10の何れか一項に記載のCEMアセンブリと、
前記CEMアセンブリの一部を構成する前記チャネル型電子増倍体の前記出力端に対面するよう配置されたアノードと、を備えた電子増倍デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャネル型電子増倍体(Channel ElectronMultiplier、以下、「CEM」と記す)を含むCEMアセンブリと、該CEMアセンブリを含む電子増倍デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子増倍機能を有するCEMは、構造体に形成された貫通孔の内壁面や該構造体の表面に設けられた溝を規定する面上に、抵抗層を介して二次電子放出層が設けられた増倍チャネルを有する。また、増倍チャネルの入力端には入力電極が設けられ、増倍チャネルの出力端には、該入力電極の設定電位よりも高い電位に設定される出力電極が設けられている。入力端から取り込まれた荷電粒子が二次電子放出面に到達すると該二次電子放出面から二次電子が放出され、該放出された二次電子が入力電極から出力電極に向かって伝搬しながらカスケード増倍される。
【0003】
なお、上述のCEMは、入力電極と出力電極間に所定の電圧を印加するための電圧供給回路とともにCEMアセンブリを構成し、このCEMアセンブリは、種々のセンシングデバイスに適用される。一例として、当該CEMアセンブリは、CEMから放出された電子を収集する構造(例えば、アノード等の電極)と組み合わされることにより、イオン検出などの技術分野で広く利用されている電子増倍デバイス等へ適用され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、従来のCEM(チャネル型電子増倍体)およびそれに適用される電圧供給回路で構成されるCEMアセンブリについて検討した結果、以下のような課題を発見した。
【0005】
すなわち、鉛ガラスからなる構造体に二次電子放出層等が形成された従来のCEMは、安定動作を確保するために10MΩ以上の抵抗値(増倍チャネルの入力端から出力端までの抵抗値)が必要であった。なお、鉛ガラスが構造体に適用された従来のCEMでは、PbOの還元処理により析出された鉛の層が抵抗層として利用される。また、近年では、絶縁材料またはセラミックからなる構造体の表面に、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、以下、「ALD」と記す)により抵抗膜および二次電子放出膜が形成された低抵抗CEMが製造されるようになって来た。
【0006】
特に、上述の低抵抗CEM単体では、動作時の発熱に起因して当該CEMの抵抗値の低下や、出力電流の増加に伴う出力端での電圧降下が生じてしまう。このようなCEMの出力電位の低下は、当該CEMのゲイン上昇を引き起こすため、直流電圧制御によるCEMのリニアリティ(以下、「DCリニアリティ」と記す)が失われるという課題があった。一方、製造される複数のCEM間には抵抗値に関して個体差が存在する。そのため、該CEMの出力側電位の固定には、この「抵抗値に関するCEM間の個体差」についても考慮されなければならない。
【0007】
なお、本明細書において「DCリニアリティ」とは、CEMへの荷電粒子の入力量(電流値換算)とCEMの出力電流との比(以下、「入出力電流比」と記す)によって算出される当該CEMの動作特性を意味する。CEMへの荷電粒子の入力量が少ないときには上記入出力電流比が一定値(リニアリティ)を示すが、過大な量の荷電粒子がCEMに入力された場合、上記入出力電流比が基準値を逸脱(±10%)してしまう。この基準値(a.u.)は、DCリニアリティが十分に確保できる範囲(出力電流が1~100nA程度の低い範囲)における入出力電流比であって、以下の式(1)で与えられる。
出力電流(A)/荷電粒子の入力量(A) …(1)
一方、DCリニアリティ(%)は、以下の式(2)で与えられる。したがって、出力電流が比較的低い範囲であれば、必然的に入出力電流比は基準値にほぼ一致することとなる(DCリニアリティは100%)。ところが、出力電流が上記範囲を超えて大きくなるほど、CEMの出力端側での電圧降下が大きくなり、入出力電流比と基準値との差が顕著になる(DCリニアリティが崩れる)。
出力電流(A)/荷電粒子の入力量(A)/基準値(a.u.)×100 …(2)
ここで、「荷電粒子の入力量」は、CEMの入力端に到達する荷電粒子に起因した電流値で与えられ、「出力電流」は、CEMからアノードに到達する電子に起因した電流値で与えられる。
【0008】
上述のようなCEMにおける出力側電位の変動に起因したDCリニアリティの劣化を解消する手段としては、例えばCEMの入力側電位を設定するための電源部と、CEMの出力側電位を設定するための別の電源部を用意することも考えられる。しかしながら、このような2つの電源部を有する電圧供給回路は、当該CEMを有するCEMアセンブリの製造コストの増大を招くとともに、CEMアセンブリ自体の小型化を困難にするという課題があった。
【0009】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、CEMを備えたCEMアセンブリ自体の大型化を避けるとともにCEMの出力側電位を実質的に固定するための構造を備えたCEMアセンブリと、その応用技術の一例として、該CEMアセンブリを含む電子増倍デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態に係るCEMアセンブリは、チャネル型電子増倍体と、該チャネル型電子増倍体に所定の電圧を印加するための電源部(この電源部が回路内の全起電力を発生させる)を含む電圧供給回路と、を備える。チャネル型電子増倍体は、増倍チャネルと、入力電極と、出力電極を少なくとも有する。増倍チャネルは、荷電粒子を取り込む入力端、二次電子を放出する出力端、および、該入力端から該出力端に向かって連続して設けられた二次電子放出層を含む。入力電極は、二次電子放出層に接触した状態で、増倍チャネルの入力端に設けられ、出力電極は、二次電子放出層に接触した状態で、増倍チャネルの出力端に設けられている。電圧供給回路は、回路全体として1つの電源部を含み、該電源部により、入力電極と出力電極との間に所定の電圧が印加される。特に、電圧供給回路は、電源部の他、第1基準電位に設定される第1端子と、入力電極に接続された第2端子と、出力電極に接続された第3端子と、第2基準電位に設定された第4端子と、定電圧発生部を有する。ここで、電源部は、第1端子と入力側基準ノードとの間の電位差を確保するための起電力を生じさせる。定電圧発生部は、第3端子および第4端子の間に配置され、出力電極の電位を調整するための目標電位を保持する。また、定電圧発生部は、第4端子と出力側基準ノードとの間の電位差を確保するための電圧降下を生じさせる定電圧供給部を含む。
【0011】
更に、上述のような構造を有するCEMアセンブリが適用される応用技術の一例として、本実施形態に係る電子増倍デバイスは、上述のような構造を有するCEMアセンブリと、該CEMの出力端に対面するよう配置された電極であって、該CEMの出力端から出力される電子を収集するためのアノードと、を備える。
【0012】
なお、本発明に係る各実施形態は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施例は単に例示のために示されるものであって、本発明を限定するものと考えるべきではない。
【0013】
また、本発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施形態を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、本発明の範囲における様々な変形および改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態によれば、CEMの出力側電位の変動に影響されない出力側基準ノードに、出力側電位の調節目標となる目標電位を設定しておくことにより、単一の電源部のみを含む電圧供給回路においても、出力側電位を目標電位に固定することが可能になる。特に、目標電位の固定に関しては、製造される複数のCEM間における抵抗値の個体差を考慮する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る電子増倍デバイス(本実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の代表的な構成例(信号出力用構成と電流測定用構成)を示す図である。
【
図2】増倍チャネルの断面構造の例を示す図と、増倍チャネルにおける抵抗値の温度依存性の一般的な傾向を示すグラフである。
【
図3】第1比較例に係る電子増倍デバイス(単一の電源部を有するCEMアセンブリを含む)の構成例(電流測定用構成)を示す図と、該第1比較例に係る電子増倍デバイスにおけるDCリニアリティ(%)および出力電圧(-V)の双方と出力電流(A)との関係をそれぞれ示すグラフである。
【
図4】第1実施形態に係る電子増倍デバイス(第1実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例(電流測定用構成)を示す図である。
【
図5】
図3(a)の第1比較例に係る電子増倍デバイスおよび
図4の第1実施形態に係る電子増倍デバイスのそれぞれについて、DCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示すグラフである。
【
図6】第2実施形態に係る電子増倍デバイス(第2実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例(電流測定用構成)を示す図である。
【
図7】
第3実施形態に係る電子増倍デバイス(第3実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例(電流測定用構成)を示す図である。
【
図8】
第4実施形態に係る電子増倍デバイス(第4実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例(電流測定用構成)を示す図である。
【
図9】
第2比較例に係る電子増倍デバイス(2つの電源部を有するCEMアセンブリを含む)および図8の第4実施形態に係る電子増倍デバイスのそれぞれについて、DCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0017】
(1)本実施形態に係るCEMアセンブリは、その一態様として、CEM(チャネル型電子増倍体)と、該CEMに所定の電圧を印加するための電源部(この電源部が回路内の全起電力を発生させる)を含む電圧供給回路と、を備える。CEMは、増倍チャネルと、入力電極と、出力電極を少なくとも有する。増倍チャネルは、荷電粒子を取り込む入力端、二次電子を放出する出力端、および、該入力端から該出力端に向かって連続して設けられた二次電子放出層を含む。入力電極は、二次電子放出層に接触した状態で、増倍チャネルの入力端に設けられている。出力電極は、二次電子放出層に接触した状態で、増倍チャネルの出力端に設けられている。一方、電圧供給回路は、回路全体として1つの電源部を含み、該電源部により、入力電極と出力電極との間に所定の電圧が印加される。
【0018】
特に、電圧供給回路は、電源部の他、第1基準電位に設定される第1端子と、入力電極に接続された第2端子と、出力電極に接続された第3端子と、第2基準電位に設定された第4端子と、定電圧発生部を有する。なお、第1基準電位と第2基準電位のそれぞれは、例えばグランド電位に設定された共通端子に接続されてもよい(第1基準電位と第2基準電位は一致していてもよい)。電源部は、第1端子と第2端子との間に配置される。また、電源部は、第1端子と入力側基準ノードとの間の電位差を確保するための起電力を生じさせる。入力側基準ノードは、第2端子を介して入力電極と同電位に設定される、第1端子と第2端子との間に位置するノードである。一方、定電圧発生部は、第3端子と第4端子との間に配置され、出力電極の電位を調整するための目標電位を保持する。該定電圧発生部は、出力側基準ノードと、第4端子と出力側基準ノードとの間の電位差を確保するための電圧降下を生じさせる定電圧供給部と、を含む。すなわち、当該定電圧供給回路において、第3端子と第4端子との間には起電力を発生させる電源部は配置されない。出力側基準ノードは、出力電極に対する電位調整のための目標電位に設定されるノードであって、第3端子と第4端子との間に位置するノードである。
【0019】
(2)本実施形態の一態様として、定電圧発生部は、第1抵抗と、電位固定素子と、を更に備えるが好ましい。第1抵抗は、入力側基準ノードと出力側基準ノードとの間に配置される。電位固定素子は、第3端子を介して出力電極と出力側基準ノードとの電位差を解消するよう機能する。
【0020】
(3)本実施形態の一態様として、定電圧供給部は、出力側基準ノードと第4端子との間に配置された第2抵抗を含むのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、該第1抵抗の抵抗値は、第2抵抗の抵抗値よりも高いのが好ましい。更に、本実施形態の一態様として、第1抵抗と第2抵抗の抵抗比は、100対1から2対1の範囲内に収まるよう設定されるのが好ましい。
【0021】
(4)本実施形態の一態様として、定電圧供給部は、出力側基準ノードと第4端子との間に配置されたツェナーダイオードを含むのが好ましい。
【0022】
(5)本実施形態の一態様として、電位固定素子は、MOSトランジスタ、FET、および、バイポーラトランジスタのうち何れかを含むのが好ましい。電位固定素子として、このような3端子素子が適用される場合、当該電位固定素子は、出力側基準ノードに接続される第1素子端と、第3端子に接続される第1素子端と、第4端子に接続される第3素子端と、を有する。
【0023】
(6)本実施形態の一態様として、定電圧供給部は、出力側基準ノードと第4端子との間で直列接続された1またはそれ以上のICユニットを含んでもよい。この場合、出力側基準ノードは、第3端子を介して出力電極に電気的に接続される。各ICユニットは、シャントレギュレータICと、該シャントレギュレータICの入力端と出力端との間に所定の抵抗比で直列接続された第3抵抗および第4抵抗と、を有する。
【0024】
(7)本実施形態の一態様として、増倍チャネルは、二次電子放出層を支持する、絶縁材料からなる構造体と、該二次電子放出層と構造体との間に設けられた抵抗膜と、を更に含むのが好ましい。また、本実施形態の一態様として、絶縁材料は、鉛ガラスを除くガラス、または、セラミックからなるのが好ましい。
【0025】
(8)本実施形態の一態様として、入力電極と出力電極との間に位置する増倍チャネルの抵抗値は、10MΩ未満であるのが好ましい。
【0026】
(9)上述のような構造を有するCEMアセンブリが適用される応用技術の一例として、本実施形態に係る電子増倍デバイスは、その一態様として、上述のような構造を有するCEMアセンブリと、アノードと、を備える。アノードは、CEMの出力端に対面するよう配置された電極であって、該CEMの出力端から出力される電子を収集するよう機能する。
【0027】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0028】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明に係るCEMアセンブリおよびそれを含む電子増倍デバイスの具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に開示される実施形態は、本発明に係るCEMアセンブリが適用される種々のセンシングデバイスのうち、電子増倍デバイスの例について説明するものとする。また、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0029】
図1は、本実施形態に係る電子増倍デバイス(本実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の代表的な構成例を示す図である。
図1に示された本実施形態に係る電子増倍デバイスは、本実施形態に係るCEMアセンブリと、アノード150と、信号出力回路と、を備え、該CEMアセンブリは、CEM(チャネル型電子増倍体)100と、電圧供給回路200と、を備える。なお、
図1の例において、信号出力回路(信号出力用構成)は、アノード150に到達した電子を電気信号として取り出すための信号出力端子170とアノード150との間に配置された増幅器160(図中、「Amp」と記す)を含む。また、アノード150には、上記の信号出力回路に替え、電流計(図中、「A」と記す)を含む電流測定回路180が接続されてもよい(電流測定用構成)。
【0030】
まず、
図1の例において、CEM100は、増倍チャネル110と、増倍チャネルの入力端120Aに設けられた入力電極130Aと、増倍チャネル110の出力端120Bに設けられた出力電極130Bと、により構成される。増倍チャネル110の内壁面上には入力電極130Aから出力電極130Bに向かって連続して形成された二次電子放出層が設けられている。なお、二次電子放出層の入力端側は入力電極130Aに接触しており、二次電子放出層の出力端側は出力電極130Bに接触している。荷電粒子10が入力端120Aから二次電子放出層に到達すると、該二次電子放出層から二次電子が放出される。該放出された二次電子は、入力電極130Aから出力電極130Bへ向かって進行しながらカスケード増倍される。
【0031】
入力電極130Aと出力電極130Bとの間に所定の電圧を印加するための電圧供給回路200は、回路内の全起電力を発生させる単一の電源部300(回路全体として電源部300のみが起電力を発生させる)と、第1~第4端子210A~210Dと、定電圧発生部400と、を備える。特に、第1端子210Aは、第1基準電位(
図1の例では、共通端子を介してグランド電位に設定されている)に設定されている。第2端子210Bは、入力電極130Aに接続されている。第3端子210Cは、出力電極130Bに接続されている。第4端子210Dは、第2基準電位(
図1の例では、共通端子を介してグランド電位に設定されている)に設定されている。
【0032】
電圧供給回路200において、電源部300と第2端子210Bとの間には、入力側基準ノード310が位置している。この入力側基準ノード310は、第2端子210Bを介して入力電極130Aと同電位に設定されるノードであり、電源部300は、第1端子210Aと入力側基準ノード310との間の電位差を確保するための起電力を生じさせる。
【0033】
また、電圧供給回路200において、定電圧発生部400は、第3端子210Cと第4端子210Dとの間に配置され、出力電極130Bの電位を固定するための目標電位を保持する。この目標電位は、出力電極130Bの電位変動に影響されない出力側基準ノード410に設定される。具体的に、第4端子210Dと出力側基準ノード410との間の電位差は、定電圧供給部500による電圧降下により確保される。なお、出力側基準ノード410は、出力電極130Bに対する電位調整のための目標電位に設定されるノードであって、第3端子210C直接または間接に接続される。
【0034】
図2(a)は、増倍チャネル110の断面構造の例を示す図であり、
図2(b)は、増倍チャネル110における抵抗値の温度依存性の一般的な傾向を示すグラフである。
【0035】
図2(a)に示されたように、増倍チャネル110は、絶縁材料(鉛ガラスを除く)またはセラミックからなる構造体111の上に、抵抗層112および二次電子放出層113が順次積層された構造を有する。このような断面構造を有する増倍チャネル110において、抵抗層112の抵抗値は、10MΩ未満が好ましく、本実施形態の例では2MΩである。また、荷電粒子10が二次電子放出層113の表面に到達すると、該二次電子放出層113から二次電子が放出される。なお、
図1の例では、増倍チャネル110は、円筒形の構造体の内壁面上に形成されているが、CEM100の形状は円筒形状には限定されない。例えば、板状の構造体の表面に形成された溝の構成面(溝の断面形状を規定する面)上に増倍チャネル110が形成されてもよい。
【0036】
図2(b)は、上述のような断面構造を有する増倍チャネル110における抵抗値の温度依存性の一般的な傾向を示すグラフである。
図2(b)において、縦軸は抵抗値(MΩ)を示し、横軸は温度(℃)を示す。
図2(b)中のグラフG210のように、本実施形態のようなCEM(抵抗値が10MΩ未満の低抵抗CEM)100では、温度上昇に伴って抵抗値が低下することが確認された。このように、CEM100では、電子増倍の動作中、発熱により増倍チャネル110の温度が上昇すると、出力端120B側において電圧降下が発生するという温度特性が確認できる。
【0037】
なお、
図3(a)は、電圧供給回路全体で見たときに単一の電源部を有するCEMアセンブリを含む、第1比較例に係る電子増倍デバイスの構成例を示す図である。
図3(a)の例では、電流測定用構成として、CEM100からの二次電子を捕獲するアノード150に、電流測定回路180(電流計を含む)に接続されている。また、第2比較例に係る電子増倍デバイスの構成例については特に図示しないが、
図3(a)の第1比較例のCEMアセンブリの構成のうち、抵抗により構成された定電圧供給部500Aに替えて起電力を発生させる別の電源部が配置された構成を有する。
【0038】
この第1比較例に係る電子増倍デバイスにおいて、CEMアセンブリの一部を構成するCEM(2MΩの抵抗値を有する低抵抗CEM)100、アノード150、電流測定回路180(または、増幅器160を含む信号出力回路)の構成は、
図1の構成例と同じである。CEMアセンブリの一部を構成する電圧供給回路200Aは、
図1の構成例と同様に電源部300を有するが、
図1の構成例と比較して、出力電極130Bの電位設定構造が異なる。すなわち、電圧供給回路200Aに含まれる定電圧発生部400Aにおいて、出力側基準ノード410は、第3端子210Cを介して出力電極130Bに接続されている。また、定電圧発生部400Aにおいて、定電圧供給部500Aは、一端が出力側基準ノード410に接続されるとともに他端が第4端子210Dに接続された抵抗により構成されている。なお、
図3(a)の例では、電源部300により、入力側基準ノード310は、-1000~-4000Vに設定され、第1端子210Aと第4端子210Dは、共通端子を介してグランド電位に設定されている。
【0039】
図3(b)は、上述のように構成されている
図3(a)の電子増倍デバイス(第1比較例)におけるDCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係、および、出力電圧(-V)と出力電流(A)との関係をそれぞれ示すグラフである。なお、定電圧供給部500Aの抵抗値は0.1MΩに設定されている(CEM100の抵抗値は2MΩ)。また、入力側基準ノード310は-2200V、出力側基準ノード410は-200Vにそれぞれ設定されている。
【0040】
図3(b)に示されたように、第1比較例に係る電子増倍デバイスによれば、電流測定回路180により得られた出力電流が1~10μAの範囲で急激に悪化している。また、出力電極130Bにおける電位を示す出力電圧も、出力電流が10μAを超えたあたりから急激に低下することが確認できる(電圧降下の発生)。なお、「DCリニアリティ」は、上述のように、出力電流の範囲が1~100nA程度の範囲における入出力電流比(出力電流/荷電粒子の入力量)を基準値とし、該基準値に対する測定された入出力電流比の割合を百分率表示した値で規定される。
【0041】
図4は、第1実施形態に係る電子増倍デバイス(第1実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例を示す図である。なお、この
図4の例において、CEM100からの二次電子を捕獲するアノード150には、電流測定用構成として、電流測定回路180(電流計を含む)に接続されている。また、
図4に示された構成は、
図1に示された構成に対応している。
【0042】
第1実施形態に係る電子増倍デバイスの構成は、第1実施形態に係るCEMアセンブリの一部を構成する電圧供給回路200Bを除き、
図3(a)に示された第1比較例の構成と同様である。すなわち、第1実施形態に係る電子増倍デバイスは、第1実施形態に係るCEMアセンブリと、アノード150と、該アノード150に接続された電流測定回路180(または、信号出力用構成として、増幅器160を含む信号出力回路)、を備え、該CEMアセンブリは、CEM(2MΩの抵抗値を有する低抵抗CEM)100と、電圧供給回路200Bと、を備える。CEM100の入力端側には入力電極130Aが設けられるとともに、CEM100の出力端側に出力電極130Bが設けられている。
【0043】
一方、入力電極130Aと出力電極130Bとの間に所定の電圧を印加するための電圧供給回路200Bは、回路内の全起電力を発生させる電源部300と、第1~第4端子210A~210Dと、定電圧発生部400Bと、を備える。第1端子210Aは、共通端子を介してグランド電位(第1および第2基準電位)に設定されている。第2端子210Bは、入力電極130Aに接続されている。第3端子210Cは、出力電極130Bに接続されている。第4端子210Dは、第1端子210Aと同様に、共通端子を介してグランド電位に設定されている。
【0044】
電圧供給回路200Bにおいて、電源部300と第2端子210Bとの間には、入力側基準ノード310が位置しており、電源部300は、第1端子210Aと入力側基準ノード310との間の電位差を確保するための起電力を生じさせる。この構成により、入力側基準ノード310は、-1000V~-4000Vに設定される。
【0045】
また、電圧供給回路200Bにおいて、定電圧発生部400Bは、第1抵抗420と、電位固定素子430Aと、定電圧供給部500Aと、を備える。第1抵抗420は、入力側基準ノード310と出力側基準ノード410に間に配置される。定電圧発生部400Bは、第3端子210Cと第4端子210Dとの間に配置され、出力電極130Bの電位を固定するための目標電位を保持する。この目標電位は、出力電極130Bの電位変動に影響されない出力側基準ノード410に設定される。具体的に、第4端子210Dと出力側基準ノード410との間との電位差は、抵抗(第2抵抗)で構成された定電圧供給部500Aによる電圧降下により確保される。また、出力側基準ノード410と第3端子210Cとの間にはN型MOSトランジスタ(以下、「NMOS」と記す)により構成された電位固定素子430Aが配置されている。
【0046】
なお、NMOSのゲートG(第1素子端)は出力側基準ノード410に接続されている。NMOSのソースS(第2素子端)は第3端子210Cに接続されている。NMOSのドレインD(第3素子端)は第4端子210Dに接続されている。電位固定素子としては、本実施形態のようなMOSトランジスタ、FETおよびバイポーラトランジスタの何れも適用可能である。第1抵抗420の抵抗値は、定電圧供給部500Aを構成する第2抵抗の抵抗値よりも高いのが好ましい。また、第1抵抗420と第2抵抗の抵抗比は、100対1から2対1の範囲内に収まるよう設定されるのが好ましい。
【0047】
本実施形態において、電子増倍の動作中、出力電流が増加すると(CEM100からアノード150へ向けて放出される電子が増大すると)、CEM100の出力側(出力電極130B)では電圧降下が発生する。このとき、電位固定素子(NMOS)430AのゲートG-ソースS間の電圧VGSが大きくなり、VGSがしきい電圧を超えた時点でNMOSがオン状態となる。NMOSがオン状態のとき、瞬間的に、第3端子210Cを介して出力電極130Bから第4端子210Dに向かって電子が流れることにより、CEM100の出力電極130Bの電圧降下が解消される。電圧降下が解消されると、VGSも減少するため、NMOSはオフ状態となる。すなわち、出力電極130Bの電位が、出力側基準ノード410の目標電位に固定されることなる。このように、本実施形態によれば、第1抵抗420と第2抵抗(定電圧供給部500A)の抵抗比を完全に固定することが可能になる(出力側基準ノード410の設定電位は出力電極130Bの電位変動の影響を受けない)。
【0048】
図5は、
図3(a)の第1比較例に係る電子増倍デバイスおよび
図4の第1実施形態に係る電子増倍デバイスのそれぞれについて、DCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示すグラフである。特に、
図5において、記号「○」でプロットされたグラフは、
図3(a)の第1比較例に係る電子増倍デバイスにおけるDCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示し、記号「●」でプロットされたグラフは、
図4の第1実施形態に係る電子増倍デバイスにおけるDCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示す。
【0049】
なお、第1実施形態において、第1抵抗420の抵抗値は20MΩ、第2抵抗(定電圧供給部500A)の抵抗値は2MΩに設定されている。また、入力側基準ノード310は-1100Vに設定され、出力側基準ノード410は-100Vに設定されている。
図3(a)の第1比較例は、
図3(b)の測定条件と同じである。
【0050】
図5から分かるように、第1比較例は、出力電流が10μAを越えたあたりから急激にDCリニアリティが悪化するが、本実施形態では、出力電流が100μAを超えるまでDCリニアリティが安定している。
【0051】
図6は、第2実施形態に係る電子増倍デバイス(第2実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例を示す図である。なお、この
図6の例において、CEM100からの二次電子を捕獲するアノード150には、電流測定用構成として、電流測定回路180(電流計Aを含む)に接続されている。また、
図6に示された構成は、
図1に示された構成に対応している。
【0052】
第2実施形態に係る電子増倍デバイスは、CEMアセンブリの構成において、
図4に示された第1実施形態と異なる。具体的には、第2実施形態に係るCEMアセンブリの構成は、
図4に示された第2抵抗で構成された定電圧供給部500Aに換えてツェナーダイオードで構成された定電圧供給部500Bを備えた点で、第1実施形態と異なる。すなわち、第2実施形態に係る電子増倍デバイスは、第2実施形態に係るCEMアセンブリと、アノード150と、該アノード150に接続された電流測定回路180(または、信号出力用構成として、増幅器160を含む信号出力回路)と、を備え、該CEMアセンブリは、CEM(抵抗値が2MΩの低抵抗CEM)100と、電圧供給回路200Cと、を備える。CEM100は、増倍チャネル110、入力電極130A、および出力電極130Bで構成されている。電圧供給回路200Cは、第1~第4端子210A~210Dを有するとともに、第1端子210Aと入力側基準ノード310との間に配置された電源部300、および、第3端子210Cと第4端子210Dとの間に配置された定電圧発生部400Cで構成されている。入力側基準ノード310の電位は、電源部300により-1000~-4000Vに設定される。定電圧発生部400Cは、入力側基準ノード310と出力側基準ノード410との間に配置された第1抵抗420、出力側基準ノード410と第4端子210Dとの間に配置された定電圧供給部500B、第3端子210Cと出力側基準ノード410の電位差を解消するよう配置された電位固定素子(NMOS)430Aで構成されている。なお、定電圧供給部500Bは、ツェナーダイオードである。このツェナーダイオードにより、出力側基準ノード410と第4端子210Dとの間に-100~-500Vの電位差が確保される。
【0053】
上述のような構成を備えた第2実施形態に係るCEMアセンブリによっても、CEM100における出力電極130Bの電位を出力側基準ノード410に固定することが可能になる。なお、CEM100の出力側電位(出力電極130Bの電位)は、-100V程度必要になる。一例として、第1抵抗420と第2抵抗(定電圧供給部500A)の抵抗比を10対1に設定した場合、入力電極130Aの設定電位(入力側基準ノード310の電位)が-1100Vの時は、出力電極130Bの設定電位が-100Vとなり、理想的である。ただし、入力電極130Aの設定電位が-2200Vに変更されると、出力電極130Bの設定電位は-200Vとなり、100Vの電圧ロスとなる。そこで、第2実施形態のように、第2抵抗(定電圧供給部500A)に換えてVZ=100Vのツェナーダイオード(定電圧供給部500B)が適用されることにより、電圧ロスのない動作が可能になる。
【0057】
図7は、第3実施形態に係る電子増倍デバイス(第3実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例を示す図である。この
図7の例において、CEM100からの二次電子を捕獲するアノード150には、電流測定用構成として、電流測定回路180(電流計Aを含む)に接続されている。また、
図7に示された構成は、
図1に示された構成に対応している。
【0058】
第3実施形態に係る電子増倍デバイスの構成は、第3実施形態に係るCEMアセンブリの一部を構成する電位固定素子430Bを除き、
図4に示された第1実施形態の構成と同様である。すなわち、第3実施形態に係る電子増倍デバイスは、第3実施形態に係るCEMアセンブリと、アノード150と、該アノード150に接続された電流測定回路180(または、信号測定用構成として、増幅器160を含む信号出力回路)と、を備え、該CEMアセンブリは、CEM(2MΩの抵抗値を有する低抵抗CEM)100と、電圧供給回路200Dと、を備える。CEM100の入力端側には入力電極130Aが設けられるとともに、CEM100の出力端側に出力電極130Bが設けられている。
【0059】
一方、入力電極130Aと出力電極130Bとの間に所定の電圧を印加するための電圧供給回路200Dは、回路内の全起電力を発生させる電源部300と、第1~第4端子210A~210Dと、定電圧発生部400Dと、を備える。第1端子210Aは、共通端子を介してグランド電位(第1および第2基準電位)に設定されている。第2端子210Bは、入力電極130Aに接続されている。第3端子210Cは、出力電極130Bに接続されている。第4端子210Dは、第1端子210Aと同様に、共通端子を介してグランド電位に設定されている。
【0060】
電圧供給回路200Dにおいて、電源部300と第2端子210Bとの間には、入力側基準ノード310が位置しており、電源部300は、第1端子210Aと入力側基準ノード310との間の電位差を確保するための起電力を生じさせる。この構成により、入力側基準ノード310は、-1000V~-4000Vに設定される。
【0061】
また、電圧供給回路200Dにおいて、定電圧発生部400Dは、第1抵抗420と、電位固定素子430Bと、定電圧供給部500Aと、を備える。第1抵抗420は、入力側基準ノード310と出力側基準ノード410に間に配置される。定電圧発生部400Dは、第3端子210Cと第4端子210Dとの間に配置され、出力電極130Bの電位を固定するための目標電位を保持する。この目標電位は、出力電極130Bの電位変動に影響されない出力側基準ノード410に設定される。具体的に、第4端子210Dと出力側基準ノード410との間との電位差は、抵抗(第2抵抗)で構成された定電圧供給部500Aによる電圧降下により確保される。また、出力側基準ノード410と第3端子210Cとの間にはP型MOSトランジスタ(以下、「PMOS」と記す)により構成された電位固定素子430Bが配置されている。
【0062】
なお、第1抵抗420の抵抗値は、定電圧供給部500Aを構成する第2抵抗の抵抗値よりも高いのが好ましい。第1抵抗420と第2抵抗の抵抗比は、100対1から2対1の範囲内に収まるよう設定されるのが好ましい。また、PMOSのゲートG(第1素子端)は出力側基準ノード410に接続されている。PMOSのドレインD(第2素子端)は第3端子210Cに接続されている。PMOSのソースS(第3素子端)は第4端子210Dに接続されている。PMOSのVDSが出力側基準ノード410と第4端子210Dとの間の電位差と略一致するよう設定されることにより、CEM100の高出力時における出力電極130Bの電位を安定させることが可能になる。
【0063】
本実施形態において、電位固定素子430Bは、ソースSが第4端子210Dに接続される一方、ゲートGが出力側基準ノード410に接続されている。通常、この構成では定電圧供給部500Aの電圧降下によりVGSがしきい電圧を超えているため、電位固定素子(PMOS)430Bはオン状態となっている。オン状態では、第3端子210Cを介して出力電極130Bから第4端子210Dへ電子が流れるが、一定量以上の電子は流れない。そのため、CEM100の出力端側で電圧降下は生じた場合でも、常に電圧降下を解消する方向にバイアスがかかった状態が維持される(少なくとも、出力電極130Bと第4端子210Dとの間に電位差VDSが確保されている)。
【0064】
図8は、第4実施形態に係る電子増倍デバイス(第4実施形態に係るCEMアセンブリを含む)の具体的な構成例を示す図である。なお、この
図8の例において、CEM100からの二次電子を捕獲するアノード150には、電流測定用構成として、電流測定回路180(電流計Aを含む)に接続されている。また、
図8に示された構成は、
図1に示された構成に対応している。
【0065】
第4実施形態に係る電子増倍デバイスの構成は、第4実施形態に係るCEMアセンブリの一部を構成する電圧供給回路200Eを除き、
図3(a)に示された第1比較例の構成と同様である。すなわち、第4実施形態に係る電子増倍デバイスは、第4実施形態に係るCEMアセンブリと、アノード150と、該アノード150に接続された電流測定回路180(または、信号出力用構成として、増幅器160を含む信号出力回路)と、を備え、該CEMアセンブリは、CEM(2MΩの抵抗値を有する低抵抗CEM)100と、電圧供給回路200Eと、を備える。CEM100の入力端側には入力電極130Aが設けられるとともに、CEM100の出力端側に出力電極130Bが設けられている。
【0066】
一方、入力電極130Aと出力電極130Bとの間に所定の電圧を印加するための電圧供給回路200Eは、回路内の全起電力を発生させる電源部300と、第1~第4端子210A~210Dと、定電圧発生部400Eと、を備える。第1端子210Aは、共通端子を介してグランド電位(第1および第2基準電位)に設定されている。第2端子210Bは、入力電極130Aに接続されている。第3端子210Cは、出力電極130Bに接続されている。第4端子210Dは、第1端子210Aと同様に、共通端子を介してグランド電位に設定されている。
【0067】
電圧供給回路200Eにおいて、電源部300と第2端子210Bとの間には、入力側基準ノード310が位置しており、電源部300は、第1端子210Aと入力側基準ノード310との間の電位差を確保するための起電力を生じさせる。この構成により、入力側基準ノード310は、-1000V~-4000Vに設定される。
【0068】
また、電圧供給回路200Eにおいて、定電圧発生部400Eは、出力側基準ノード410と、
図1に示された定電圧供給部500、
図3(a)、
図4および
図7に示された定電圧供給部500A、
図6の定電圧供給部500Bに相当する複数のICユニット500C1~500C3を含む。出力側基準ノード410は第3端子210Cを介して出力電極130Bに接続されている(出力電極130Bと同電位)。ICユニット500C1~500C3は、出力側基準ノード410と第4端子210Dとの間において、直接配置されている。ICユニット500C1~500C3のそれぞれは、シャントレギュレータIC510と、該シャントレギュレータIC510の入力端と出力端との間に所定の抵抗比で直接接続された第3抵抗520と第4抵抗530により構成されている。
【0069】
例えば、CEM100の出力側において電圧降下が生じた場合(出力電極130Bの電位が低下)を考える。この場合、ICユニット500C1では、第4端子210Dと出力側基準ノード410の電位差が大きくなるため、第3抵抗520と第4抵抗530の抵抗比で設定されるシャントレギュレータIC510の基準電圧を超えた時点でシャントレギュレータIC510は、出力電極130Bからの電子を通過させる(短絡状態)。電子がシャントレギュレータIC510を通過している期間、出力側基準ノード410の目標電位は上昇するため、該出力側基準ノード410に接続された出力電極130Bも上昇する(CEM100の出力端における電圧降下の解消)。なお、電圧降下が大きい場合には、ICユニット500C2、ICユニット500C3の順で上述の動作が行われる。一方、CEM100の出力側の電圧降下は解消されると、ICユニット500C1~500C3それぞれにおいて直列接続された第3抵抗520および第4抵抗530の電圧降下により、出力側基準ノード410の電位が、ICユニット500C1~500C3それぞれの動作前の目標電位に回復することになる。
【0070】
図9は、第2比較例に係る電子増倍デバイス(2つの電源部を有するCEMアセンブリを含む)および
図8の第4実施形態に係る電子増倍デバイスのそれぞれについて、DCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示すグラフである。
【0071】
図9において、記号「○」でプロットされたグラフは、
図8の第4実施形態に係る電子増倍デバイスにおけるDCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示し、記号「●」でプロットされたグラフは、第2比較例の電子増倍デバイス(
図3(a)に示された構成に更に別の電源を備えた構成)におけるDCリニアリティ(%)と出力電流(A)の関係を示す。第4実施形態において、入力側基準ノード310の電位は、-1600Vに設定され、出力側基準ノード410の電位は、ICユニット500C1~500C3それぞれにおける第3抵抗520および第4抵抗530の電圧降下に相当する-100Vに設定されている。なお、第1抵抗420の抵抗値は、20MΩである。一方、第2比較例は、
図3(a)に示された抵抗で構成された定電圧供給部500Aに換え、100Vの起電力を発生させる電源部を備える。この場合、第2比較例において、入力側基準ノード310が電源部300により-1600Vに設定され、出力側基準ノード410が別の電源部により-100Vに設定されている。
【0072】
図9から分かるように、この第4実施形態のDCリニアリティは、2電源のCEMアセンブリを有する第2比較例のDCリニアリティに十分に追随していることが確認できる。なお、第4実施形態のDCリニアリティが第2比較例のDCリニアリティよりも僅かに低いのは、第4実施形態がICユニット単位での電位調節をしていることに起因している。
【0073】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
100…CEM(チャネル型電子増倍体)、110…増倍チャネル、120A…入力端、120B…出力端、130A…入力電極、130B…出力電極、200、200B~200E…電圧供給回路、210A…第1端子、210B…第2端子、210C…第3端子、210D…第4端子、300…電源部、310…入力側基準ノード、400、400B~400E…定電圧発生部、410…出力側基準ノード、420…第1抵抗、430A、430B…電位固定素子、500、500A、500B…定電圧供給部、500C1~500C3…ICユニット、510…シャントレギュレータIC、520…第3抵抗、530…第4抵抗。