(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20221115BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20221115BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20221115BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20221115BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20221115BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16J15/447
B60B35/18 C
(21)【出願番号】P 2018215720
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 英将
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054095(JP,A)
【文献】特開2017-207124(JP,A)
【文献】特開2008-106931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-33/82
F16J 15/32、15/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が取り付けられるフランジ部を車両アウタ側に有するハブ軸と、前記フランジ部よりも車両インナ側において前記ハブ軸の外周面の径方向外方に配置された外輪と、前記ハブ軸と前記外輪との間に設けられた複数の転動体と、を備えた車輪用軸受装置に用いられる密封装置であって、
前記ハブ軸の外周面に嵌合して前記ハブ軸に固定される第1円筒部、前記第1円筒部の車両アウタ側の端部から前記フランジ部の側面に沿って径方向外方に延びる円板部、及び前記円板部の外周端部から車両インナ側に延びる第2円筒部を有するスリンガと、
前記外輪の車両アウタ側の端部に嵌合して前記外輪に固定される芯金と、
前記芯金に固定され、前記第1円筒部及び前記円板部の少なくとも一方に摺接するシールリップと、
前記芯金に固定され、外周面が前記第2円筒部の内周面に対向して配置されることで当該第2円筒部との間でラビリンス隙間を形成する円筒状のデフレクタと、を備え、
前記第2円筒部の車両インナ側の端面が、前記デフレクタの車両インナ側の端面と同一面上に配置されてい
て、
前記デフレクタの前記端面の径方向寸法は、前記第2円筒部の前記端面の径方向寸法と前記ラビリンス隙間の車両インナ側の開口における径方向寸法との和よりも大きい、密封装置。
【請求項2】
車輪が取り付けられるフランジ部を車両アウタ側に有するハブ軸と、前記フランジ部よりも車両インナ側において前記ハブ軸の外周面の径方向外方に配置された外輪と、前記ハブ軸と前記外輪との間に設けられた複数の転動体と、を備えた車輪用軸受装置に用いられる密封装置であって、
前記ハブ軸の外周面に嵌合して前記ハブ軸に固定される第1円筒部、前記第1円筒部の車両アウタ側の端部から前記フランジ部の側面に沿って径方向外方に延びる円板部、及び前記円板部の外周端部から車両インナ側に延びる第2円筒部を有するスリンガと、
前記外輪の車両アウタ側の端部に嵌合して前記外輪に固定される芯金と、
前記芯金に固定され、前記第1円筒部及び前記円板部の少なくとも一方に摺接する
ゴム製のシールリップと、
前記芯金に固定され、外周面が前記第2円筒部の内周面に対向して配置されることで当該第2円筒部との間でラビリンス隙間を形成する円筒状のデフレクタと、を備え、
前記デフレクタは、前記シールリップとともに前記芯金に固定されていて前記シールリップと繋がっているゴム製であり、
前記第2円筒部の車両インナ側の端面が、前記デフレクタの車両インナ側の端面よりも所定長さだけ車両アウタ側に配置されてい
て、
前記デフレクタの外周面の車両インナ側の端であるインナ端は、前記デフレクタの外周面の車両アウタ側の端であるアウタ端よりも径方向について外側に位置することなく、前記インナ端は前記アウタ端と径方向について同じ位置にあり、
前記ラビリンス隙間の車両インナ側の開口は、車両インナ側において前記デフレクタによって軸方向について覆われておらず、前記開口は全体として車両インナ側に向かって軸方向に開放されている、密封装置。
【請求項3】
前記所定長さが1.0mmである、請求項2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、車輪を回転自在に支持するために車輪用軸受装置(ハブユニット)が用いられている。車輪用軸受装置は、車体側の懸架装置に固定される外輪と、車輪が取り付けられるハブ軸と、外輪とハブ軸との間に設けられている転動体とを備えている。また、このような車輪用軸受装置には、軸受外部から泥水等の異物が軸受内部に浸入するのを防ぐために、密封装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の密封装置は、ハブ軸の外周側に嵌合して固定されるスリンガと、外輪の車両アウタ側の端部に嵌合して固定される芯金と、この芯金に固着されてスリンガに摺接するシール部材と、を備えている。シール部材は、外輪の外周面に沿って車両アウタ側から車両インナ側に延びるリップを有しており、このリップの径方向外方には、スリンガの径方向外端部から車両インナ側に延びる円筒部が近接して対向している。これにより、リップと円筒部との間にはラビリンス隙間が形成され、泥水等がシール部材とスリンガとの摺接部分に浸入するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記密封装置では、その使用環境下における泥水等の流量を想定し、この想定した流量に基づいて、対泥水性を確保することが行われている。しかし、最近では、より過酷な使用環境にも対応できるように、泥水等の想定流量として、従来よりも多い量を採用することが多くなってきている。このため、耐泥水性を従来よりも向上させることが望まれている。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、耐泥水性を向上させることができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、車輪が取り付けられるフランジ部を車両アウタ側に有するハブ軸と、前記フランジ部よりも車両インナ側において前記ハブ軸の外周面の径方向外方に配置された外輪と、前記ハブ軸と前記外輪との間に設けられた複数の転動体と、を備えた車輪用軸受装置に用いられる密封装置であって、前記ハブ軸の外周面に嵌合して前記ハブ軸に固定される第1円筒部、前記第1円筒部の車両アウタ側の端部から前記フランジ部の側面に沿って径方向外方に延びる円板部、及び前記円板部の外周端部から車両インナ側に延びる第2円筒部を有するスリンガと、前記外輪の車両アウタ側の端部に嵌合して前記外輪に固定される芯金と、前記芯金に固定され、前記第1円筒部及び前記円板部の少なくとも一方に摺接するシールリップと、前記芯金に固定され、外周面が前記第2円筒部の内周面に対向して配置されることで当該第2円筒部との間でラビリンス隙間を形成する円筒状のデフレクタと、を備え、前記第2円筒部の車両インナ側の端面が、前記デフレクタの車両インナ側の端面と同一面上に配置されている。
【0008】
上記(1)のように構成された密封装置によれば、第2円筒部の車両インナ側の端面が、デフレクタの車両インナ側の端面と同一面上に配置されることで、泥水等が、第2円筒部とデフレクタとの間から、シールリップとスリンガとの摺接部分に浸入するのを効果的に抑制することができる。これにより、密封装置の耐泥水性を向上させることができる。
すなわち、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、互いにラビリンス隙間を形成する第2円筒部及びデフレクタに着目し、これら両部材の車両インナ側の端面同士を同一面上に配置することで、泥水等が前記両部材の間からシールリップ側に浸入し難くなることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
(2)他の観点から見た本発明は、車輪が取り付けられるフランジ部を車両アウタ側に有するハブ軸と、前記フランジ部よりも車両インナ側において前記ハブ軸の外周面の径方向外方に配置された外輪と、前記ハブ軸と前記外輪との間に設けられた複数の転動体と、を備えた車輪用軸受装置に用いられる密封装置であって、前記ハブ軸の外周面に嵌合して前記ハブ軸に固定される第1円筒部、前記第1円筒部の車両アウタ側の端部から前記フランジ部の側面に沿って径方向外方に延びる円板部、及び前記円板部の外周端部から車両インナ側に延びる第2円筒部を有するスリンガと、前記外輪の車両アウタ側の端部に嵌合して前記外輪に固定される芯金と、前記芯金に固定され、前記第1円筒部及び前記円板部の少なくとも一方に摺接するシールリップと、前記芯金に固定され、外周面が前記第2円筒部の内周面に対向して配置されることで当該第2円筒部との間でラビリンス隙間を形成する円筒状のデフレクタと、を備え、前記第2円筒部の車両インナ側の端面が、前記デフレクタの車両インナ側の端面よりも所定長さだけ車両アウタ側に配置されている。
【0010】
上記(2)のように構成された密封装置によれば、第2円筒部の車両インナ側の端面が、デフレクタの車両インナ側の端面よりも所定長さだけ車両アウタ側に配置されることで、泥水等が、第2円筒部とデフレクタとの間から、シールリップとスリンガとの摺接部分に浸入するのを効果的に抑制することができる。これにより、密封装置の耐泥水性を向上させることができる。
すなわち、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、互いにラビリンス隙間を形成する第2円筒部及びデフレクタに着目し、第2円筒部の車両インナ側の端面を、デフレクタの車両インナ側の端面よりも所定長さだけ車両アウタ側に配置することで、これら両部材の間から、泥水等がシールリップ側に浸入し難くなることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させた。
【0011】
前記所定長さは1.0mmであるのが好ましい。
この場合、密封装置の耐泥水性を効果的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の密封装置によれば、耐泥水性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る密封装置を備えた車輪用軸受装置を示す断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る密封装置を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車輪用軸受装置を示す断面図である。この車輪用軸受装置(ハブユニット)10は、例えば自動車の車体側の懸架装置(ナックル)に取り付けられ、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置10は、ハブ軸11と、外輪12と、転動体13と、保持器14と、密封装置15,17とを備えている。
【0015】
外輪12は、円筒状の部材であり、例えば機械構造用炭素鋼により製造されている。外輪12は、円筒形状である外輪本体51と、この外輪本体51から径方向外側に延びて設けられている固定用のフランジ部52とを有している。このフランジ部52が車体側部材であるナックル(図示せず)に固定されることで、外輪12を含む車輪用軸受装置10はナックルに固定される。
【0016】
車輪用軸受装置10が車体側に固定された状態で、ハブ軸11が有する後述の車輪取り付け用のフランジ部56側が車両の外側となる。つまり、
図1の左側(フランジ部56側)が車両アウタ側となり、
図1の右側が車両インナ側となる。また、
図1の左右方向が車輪用軸受装置10の軸方向となる。
【0017】
ハブ軸11は、軸本体部55と、車輪が取り付けられるフランジ部56と、内輪部材57とを有している。これらは、例えば機械構造用炭素鋼により製造されている。軸本体部55は軸方向に長い軸部材である。フランジ部56は、軸本体部55の車両アウタ側から径方向外方に延びて設けられており、円環形状を有している。フランジ部56には、周方向に沿って複数の穴が形成されており、この穴に、車輪取り付け用のボルト69が取り付けられている。フランジ部56には、図外の車輪の他にブレーキロータが取り付けられる。内輪部材57は、環状の部材であり、軸本体部55の車両インナ側に嵌合して取り付けられている。軸本体部55の車両アウタ側の外周面には軸軌道面11aが形成され、内輪部材57の外周面には内輪軌道面11bが形成されている。
【0018】
外輪12は、フランジ部56よりも車両インナ側においてハブ軸11の外周面の径方向外方に配置されている。外輪12の内周には、車両アウタ側の外輪軌道面12aと、車両インナ側の外輪軌道面12bとが形成されている。
【0019】
車両アウタ側の軸軌道面11aと外輪軌道面12aとは径方向に対向し、これらの軌道面11a,12a間には転動体13である玉が配置されている。同様に、車両インナ側の内輪軌道面11bと外輪軌道面12bとは径方向に対向し、これらの軌道面11b,12b間には転動体13である玉が配置されている。これにより、転動体(玉)13は二列設けられている。
【0020】
各列の転動体(玉)13は、環状の保持器14によって保持されている。車両アウタ側の保持器14は、車両アウタ側に位置する転動体列に含まれる複数の転動体13を、周方向に間隔をあけて保持する。車両インナ側の保持器14は、車両インナ側に位置する転動体列に含まれる複数の転動体13を、周方向に間隔をあけて保持する。保持器14は、例えば樹脂製とすることができる。このように、ハブ軸11と外輪12との間に複数の転動体13が保持器14により保持されることで、外輪12は、ハブ軸11(軸本体部55)の径方向外方においてハブ軸11と同心状に設けられている。
【0021】
車両インナ側の密封装置17は、環状のシール部材40と、環状のスリンガ50とによって構成されている。シール部材40は、外輪12(外輪本体51)の内周側であって車両インナ側に嵌合して取り付けられている。スリンガ50は、内輪部材57の外周面に締り嵌めの状態で嵌合して取り付けられている。シール部材40の一部が、スリンガ50に摺接することで、車両インナ側の外部から異物が軸受内部に浸入するのを抑制することができる。軸受内部とは、ハブ軸11と外輪12との間であって、二列の転動体13が設けられている領域である。
【0022】
車両アウタ側の密封装置15は、車両アウタ側の外部から異物が軸受内部に浸入するのを抑制するものであり、環状のシール部材20と、環状のスリンガ30とを備えている。シール部材20は、外輪12(外輪本体51)の内周側であって車両アウタ側に嵌合して取り付けられている。スリンガ30は、軸本体部55の外周面であって車両アウタ側に締り嵌めの状態で嵌合して取り付けられている。
【0023】
図2は、密封装置15を示す拡大断面図である。シール部材20は、金属製の芯金25と、ゴム製のシール本体26とを有している。芯金25は、外輪12(外輪本体51)の車両アウタ側の端部12cの内周面に締り嵌めの状態で嵌合して取り付けられている。シール本体26は、芯金25に固定(加硫接着)されており、シールリップ21と、円筒状のデフレクタ23とを有している。シールリップ21は、環状の第1リップ21aと、環状の第2リップ21bとを有している。
【0024】
第1リップ21aは、芯金25の径方向内端部から車両アウタ側かつ径方向外方に延びており、スリンガ30の円板部32(後述)に対して軸方向から摺接する。これにより、第1リップ21aは、スリンガ30との間から泥水等の異物(以下、単に「泥水等」という)が軸受内部に浸入するのを防ぐ機能を有している。なお、
図2では、第1リップ21aを自由状態で示している。
【0025】
第2リップ21bは、芯金25の径方向内端部から車両インナ側かつ径方向内方に延びており、スリンガ30の第1円筒部31(後述)に対して径方向から摺接する。これにより、第2リップ21bは、主として軸受内部のグリースが外部へ流出するのを防ぐ機能を有している。
【0026】
デフレクタ23は、芯金25の径方向外端部から軸方向に延びており、車両インナ側の内周面は外輪本体51の外周面に密着している。デフレクタ23の車両アウタ側の端面は、スリンガ30の円板部32に対して軸方向に間隔をあけて配置されている。
【0027】
スリンガ30は、金属製の環状部材であり、第1円筒部31、円板部32、及び第2円筒部33を有している。第1円筒部31は、円筒状の部材であり、軸本体部55における車両アウタ側の外周面に締り嵌めの状態で嵌合して取り付けられている。
【0028】
円板部32は、円環状の平板部材であり、第1円筒部31の車両アウタ側の端部から径方向外方に延びている。円板部32は、フランジ部56の車両インナ側の側面56aに沿って配置され、当該側面56aに当接している。
【0029】
第2円筒部33は、円板部32の外周端部から車両インナ側に延びている。第2円筒部33は、デフレクタ23の径方向外方に近接して配置されている。これにより、デフレクタ23の外周面と第2円筒部33の内周面とが対向して配置され、デフレクタ23と第2円筒部33と間にラビリンス隙間Sが形成されている。ラビリンス隙間Sは、第1リップ21aと円板部32との摺接部分に、外部から泥水等が浸入するのを抑制する機能を有している。
【0030】
本実施形態では、ラビリンス隙間Sから前記摺接部分に泥水等が浸入するのをさらに抑制するために、第2円筒部33の車両インナ側の端面33aが、デフレクタ23の車両インナ側の端面23aと同一面上に配置されている。
【0031】
図3は、本発明の第2実施形態に係る密封装置を示す拡大断面図である。本実施形態の密封装置15では、第2円筒部33の軸方向の長さが、第1実施形態における第2円筒部33の軸方向の長さよりも短く形成されている。すなわち、本実施形態では、ラビリンス隙間Sから前記摺接部分に泥水等が浸入するのをさらに抑制するために、第2円筒部33の車両インナ側の端面33aが、デフレクタ23の車両インナ側の端面23aよりも軸方向の所定長さLだけ車両アウタ側に配置されている。
【0032】
前記所定長さLは、1.0mmに設定するのが好ましい。前記所定長さLを1.0mm未満又は1.0mmよりも長くすると、耐泥水性能が低下し、ラビリンス隙間Sから前記摺接部分に泥水等が浸入し易くなるからである。
なお、第2実施形態において説明を省略した点は、第1実施形態と同様である。
【0033】
図4は、本実施形態の密封装置15により得られる効果を検証するために、本発明者が行った評価試験に用いた試験装置の説明図である。この試験装置90は、ハブ軸に相当する回転軸91と、外輪に相当する円筒状の外側部材92と、外側部材92の上方に配置されて泥水を注水する注水ノズル93と、外側部材92の径方向内側に配置された水受け容器94とを備えている。
【0034】
本評価試験では、試験装置90の回転軸91と外側部材92との間に、以下に示す実施例1、実施例2及び比較例の3種類の密封装置をそれぞれ配置した状態で、回転軸91を回転させながら注水ノズル93から泥水を注水したときに、密封装置を通過して水受け容器94に溜まる泥水浸入量を比較した。
【0035】
実施例1:第2円筒部の車両インナ側の端面を、デフレクタの車両インナ側の端面と同一面上に配置した密封装置(第1実施形態の密封装置に相当)
実施例2:第2円筒部の車両インナ側の端面を、デフレクタの車両インナ側の端面よりも1.0mmだけ車両アウタ側に配置した密封装置(第2実施形態の密封装置に相当)
比較例:第2円筒部の車両インナ側の端面を、デフレクタの車両インナ側の端面よりも1.0mmだけ車両インナ側に配置した密封装置(従来の密封装置に相当)
なお、上記3種類の密封装置は、いずれも第1シールリップ及び第2シールリップを有していない。
【0036】
本評価試験は、以下の試験条件で行った。
泥水の組成:水1Lに対してJIS8種の関東ローム125gを懸濁
泥水の注水量:7.2L/min
注水ノズル93の個数:2個(1個当たりの注水量:3.6L/min)
各注水ノズル93の内径:12.7mm
各注水ノズル93の外側部材92に対する周方向の位置:一方の注水ノズル93は、外側部材92の真上の位置から周方向一方側へ30°傾いた位置、他方の注水ノズル93は、外側部材92の真上の位置から周方向他方側へ30°傾いた位置
各注水ノズル93の外側部材92に対する径方向の位置:外側部材92の外周面から径方向外方に32mm離れた位置
回転軸91の回転数:0rpmから500rpmまでの間で100rpm毎に測定
測定時間:1min
【0037】
図5は、本評価試験の試験結果を示すグラフである。
図5に示すように、実施例1、実施例2及び比較例は、いずれも回転軸91の回転数が低くなるほど泥水浸入量が多くなっているが、実施例1及び実施例2の泥水浸入量のほうが、比較例の泥水浸入量よりも少ないことが分かる。特に、回転軸91の回転数が100rpm以下になると、実施例1及び実施例2の泥水浸入量と比較例の泥水浸入量との差が40g以上となり、実施例1及び実施例2は、回転軸91の回転数が低くなるほど泥水浸入量を効果的に減少できることが分かる。
【0038】
以上より、
図2に示す第1実施形態の密封装置15によれば、スリンガ30における第2円筒部33の車両インナ側の端面33aが、シール部材20におけるデフレクタ23の車両インナ側の端面23aと同一面上に配置されることで、泥水等が、第2円筒部33とデフレクタ23との間から、シールリップ21とスリンガ30との摺接部分に浸入するのを効果的に抑制することができる。これにより、密封装置15の耐泥水性を向上させることができる。
【0039】
また、
図3に示す第2実施形態の密封装置15によれば、第2円筒部33の車両インナ側の端面33aが、デフレクタ23の車両インナ側の端面23aよりも所定長さLだけ車両アウタ側に配置されることで、泥水等が、第2円筒部33とデフレクタ23との間から、シールリップ21とスリンガ30との摺接部分に浸入するのを効果的に抑制することができる。これにより、密封装置15の耐泥水性を向上させることができる。
【0040】
なお、本発明の車輪用軸受装置は、上記実施形態で示すハブユニットに限らず、他の形態のハブユニットにも適用することができる。例えば、転動体として玉ではなく円すいころを用いたハブユニットにも適用することができる。
また、上記実施形態のシールリップ21は、第1リップ21a及び第2リップ21bを有しているが、少なくとも一方のリップを有していればよい。
【0041】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
10 車輪用軸受装置
11 ハブ軸
12 外輪
13 転動体
21 シールリップ
23 デフレクタ
23a 端面
25 芯金
30 スリンガ
31 第1円筒部
32 円板部
33 第2円筒部
33a 端面
56 フランジ部
L 所定長さ
S ラビリンス隙間