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特許7176941N値及び細粒分含有率の推定方法、地盤改良体及び情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】N値及び細粒分含有率の推定方法、地盤改良体及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/02 20060101AFI20221115BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
E02D1/02
E02D3/12 101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018237961
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020100949
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134066(JP,A)
【文献】特開2002-133391(JP,A)
【文献】特開平08-179047(JP,A)
【文献】特開2017-002677(JP,A)
【文献】特開2015-212513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/02
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、送水圧を含む削孔データを検出する検出ステップと、
削孔時の送水圧を含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップと
を備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項2】
地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、回転トルクを含む削孔データを検出する検出ステップと、
削孔時の回転トルクを含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップと
を備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項3】
地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、ビット荷重を含む削孔データを検出する検出ステップと、
削孔時のビット荷重を含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップと
を備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項4】
地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、削孔速度を含む削孔データを検出する検出ステップと、
削孔時の削孔速度を含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップと
を備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項5】
記推定ステップにおいて、前記マルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、前記削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたシングルタスクの1以上の学習モデルとを用い、各々の前記学習モデルに応じた重みづけを行って前記推定を行う
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のN値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項6】
記学習モデルにおいて、目的変数となるN値及び細粒分含有率を計測するためのボーリングの位置から前記削孔の位置までの距離に応じた重み付けがなされたデータが入力変数として含まれている
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のN値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項7】
記学習モデルにおいて、前記削孔データの分散又は標準偏差が入力変数として含まれている
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のN値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項8】
記学習モデルにおいて、削孔時における地盤の表面からの前記削孔データの履歴が入力変数として含まれている
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のN値及び細粒分含有率の推定方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のN値及び細粒分含有率の推定方法によって推定されたN値及び細粒分含有率に基づいて薬剤が注入されて液状化対策が施された地盤改良体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のN値及び細粒分含有率の推定方法を実行することを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N値及び細粒分含有率の推定方法、地盤改良体及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液状化対策として地盤を改良する場合、事前に地盤調査を実施して地盤改良の範囲や深度を判定(液状化判定という)して、液状化する可能性がある地盤を改良するのが一般的である。複雑な土質構成となっている埋立地盤等に対して薬剤注入で地盤改良を行うためには、その土質に応じた注入諸元(薬剤の注入量や注入速度)を選定する必要がある。地表面への薬剤リークや地表面の隆起等の問題が発生しないような適切な注入諸元を決定するためには、地盤の細粒分含有率(以下、Fcという)を精度よく求める必要がある。また、液状化判定を行うためには、上記のFcに加えて地盤のN値の正確な値が必要である。
【0003】
事前の地盤調査を綿密に実施することは工程や費用面での負担が大きいことから、薬剤を注入するための削孔時に削孔データを収集して教師データを作成し、ニューラルネットワークで学習させた装置を用いて、地層を判別する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、貫入試験において、荷重、回転トルク及び貫入量に基づいて複数の試験パラメータを定義してこれを説明変数とし、目的変数をFcとして重回帰分析を実行することにより回帰式を求め、この回帰式からFcを推定する方法、及び、貫入試験において、荷重、回転トルク及び貫入量に基づいて複数の試験パラメータを定義してこれを説明変数とし、目的変数をN値として重回帰分析を実行することにより回帰式を求め、この回帰式からN値を推定する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-133391号公報
【文献】特開2014-134066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
注入諸元を決定するために重要な条件がFcであることを踏まえると、特許文献1に記載の方法では、地層を区分することはできるものの、正確なFcを求めることはできないため、最適な注入諸元を決定することはできない。また、液状化判定を実施するためにはN値とFcの正確な値が必要であることを踏まえると、特許文献1に記載の方法では、N値とFcを求めていないから液状化判定を行うことができず、この結果、液状化の可能性が低い地盤を改良してしまう恐れがある。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法では、FcとN値とをそれぞれ個別に推定するための回帰式を用いているが、精度の高い液状化対策のためには、よりいっそう正確なFc及びN値の推定手法が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、地盤のN値及び細粒分含有率をより精度よく求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、送水圧を含む削孔データを検出する検出ステップと、削孔時の送水圧を含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップとを備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法を提供する。
また、本発明は、地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、回転トルクを含む削孔データを検出する検出ステップと、削孔時の回転トルクを含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップとを備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法を提供する。
また、本発明は、地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、ビット荷重を含む削孔データを検出する検出ステップと、削孔時のビット荷重を含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップとを備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法を提供する。
また、本発明は、地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための削孔時において、削孔速度を含む削孔データを検出する検出ステップと、削孔時の削孔速度を含む削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、検出された前記削孔データとを用いて、液状化対策の対象となる地盤のN値及び細粒分含有率を推定する推定ステップとを備えることを特徴とする、N値及び細粒分含有率の推定方法を提供する。
【0010】
前記推定ステップにおいて、前記マルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、前記削孔データを入力変数として地盤のN値及び細粒分含有率を目的変数としたシングルタスクの1以上の学習モデルとを用い、各々の前記学習モデルに応じた重みづけを行って前記推定を行うようにしてもよい。
【0011】
前記学習モデルにおいて、目的変数となるN値及び細粒分含有率を計測するためのボーリングの位置から前記削孔の位置までの距離に応じた重み付けがなされたデータが入力変数として含まれているようにしてもよい。
【0012】
前記学習モデルにおいて、前記削孔データの分散又は標準偏差が入力変数として含まれているようにしてもよい。
【0013】
前記学習モデルにおいて、削孔時における地盤の表面からの前記削孔データの履歴が入力変数として含まれているようにしてもよい。
【0014】
また、本発明は、上記のいずれかのN値及び細粒分含有率の推定方法によって推定されたN値及び細粒分含有率に基づいて薬剤が注入されて液状化対策が施された地盤改良体を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記のN値及び細粒分含有率の推定方法のいずれかを実行することを特徴とする情報処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地盤のN値及び細粒分含有率をより精度よく求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るシステム全体の構成の一例を示すブロック図。
図2】同実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
図3】同情報処理装置の機能構成の一例を示すブロック図。
図4】同実施形態において学習モデルを生成する方法の一例を示すフローチャート。
図5】同実施形態において学習モデルを用いてN値及び細粒分含有率を推定する方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。
[構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るシステム1の全体構成の一例を示すブロック図である。システム1は、地盤に円筒状の穴を掘削してボーリングを行うボーリングシステム10と、地盤の液状化対策に用いられる薬剤を注入するための穴を削孔する削孔システム20と、地盤のN値及び細粒分含有率(以下、Fcという)を推定する情報処理装置30とを備える。削孔システム20と情報処理装置30とは通信線を介して接続される。ボーリングシステム10が行うボーリングによって地盤のN値及びFcが計測される(これは標準貫入試験と呼ばれる)。削孔システム20は、薬剤注入前の削孔工程においてその削孔時のデータ(削孔データという)を収集する機能を備えている。この削孔データには、例えば削孔時の送水圧、回転トルク、ビット荷重、回転数、削孔速度及び削孔エネルギー等が含まれる。
【0019】
システム1において、本施工に先立って行われる事前作業として、ボーリングデータと多数の削孔データとに基づいて教師データが作成され、この教師データに対してマルチタスクのニューラルネットワークによる機械学習が行われて、N値とFcを推定する学習モデルが生成される。そして、改良対象となる地盤における本施工では、この学習モデルに対して当該地盤の削孔データが適用されて当該地盤のN値とFcとが同時に推定される。
【0020】
図2は、情報処理装置30のハードウェア構成を示す図である。情報処理装置30は、物理的には、プロセッサ3001、メモリ3002、ストレージ3003、通信装置3004、入力装置3005、出力装置3006及びこれらを接続するバスなどを含むコンピュータ装置として構成されている。これらの各装置は図示せぬ電池から供給される電力によって動作する。なお、以下の説明では、「装置」という文言は、回路、デバイス、ユニットなどに読み替えることができる。情報処理装置30のハードウェア構成は、図に示した各装置を1つ又は複数含むように構成されてもよいし、一部の装置を含まずに構成されてもよい。
【0021】
情報処理装置30における各機能は、プロセッサ3001、メモリ3002などのハードウェア上に所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることによって、プロセッサ3001が演算を行い、通信装置3004による通信を制御したり、メモリ3002及びストレージ3003におけるデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を制御したりすることによって実現される。
【0022】
プロセッサ3001は、例えば、オペレーティングシステムを動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ3001は、周辺装置とのインターフェース、制御装置、演算装置、レジスタなどを含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)によって構成されてもよい。また、例えばベースバンド信号処理部や呼処理部などがプロセッサ3001によって実現されてもよい。
【0023】
プロセッサ3001は、プログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュール、データなどを、ストレージ3003及び通信装置3004の少なくとも一方からメモリ3002に読み出し、これらに従って各種の処理を実行する。プログラムとしては、後述する動作の少なくとも一部をコンピュータに実行させるプログラムが用いられる。情報処理装置30の機能ブロックは、メモリ3002に格納され、プロセッサ3001において動作する制御プログラムによって実現されてもよい。各種の処理は、1つのプロセッサ3001によって実行されてもよいが、2以上のプロセッサ3001により同時又は逐次に実行されてもよい。プロセッサ3001は、1以上のチップによって実装されてもよい。なお、プログラムは、電気通信回線を介してネットワークから情報処理装置30に送信されてもよい。
【0024】
メモリ3002は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、RAM(Random Access Memory)などの少なくとも1つによって構成されてもよい。メモリ3002は、レジスタ、キャッシュ、メインメモリ(主記憶装置)などと呼ばれてもよい。メモリ3002は、本実施形態に係る方法を実施するために実行可能なプログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュールなどを保存することができる。
【0025】
ストレージ3003は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、CD-ROM(Compact Disc ROM)などの光ディスク、ハードディスクドライブ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク(例えば、コンパクトディスク、デジタル多用途ディスク、Blu-ray(登録商標)ディスク)、スマートカード、フラッシュメモリ(例えば、カード、スティック、キードライブ)、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気ストリップなどの少なくとも1つによって構成されてもよい。ストレージ3003は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0026】
通信装置3004は、有線ネットワーク及び無線ネットワークの少なくとも一方を介してコンピュータ間の通信を行うためのハードウェア(送受信デバイス)であり、例えばネットワークデバイス、ネットワークコントローラ、ネットワークカード、通信モジュールなどともいう。
【0027】
入力装置3005は、外部からの入力を受け付ける入力デバイス(例えば、キーボード、マウス、マイクロフォン、スイッチ、ボタン、センサ、ジョイスティック、ボールコントローラなど)である。出力装置3006は、外部への出力を実施する出力デバイス(例えば、ディスプレイ、スピーカー、LEDランプなど)である。なお、入力装置3005及び出力装置3006は、一体となった構成(例えば、タッチパネル)であってもよい。
【0028】
情報処理装置30は、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアを含んで構成されてもよく、当該ハードウェアにより、各機能ブロックの一部又は全てが実現されてもよい。例えば、プロセッサ3001は、これらのハードウェアの少なくとも1つを用いて実装されてもよい。
【0029】
図3は、情報処理装置30の機能構成の一例を示す図である。データ取得部31は、外部から各種のデータを取得する。このデータには、ボーリングシステム10によるボーリング時に計測された地盤のN値及びFcと、削孔システム20による削孔時に検出された削孔データとが含まれる。事前作業においてデータ取得部31が取得するデータは、事前作業の対象となった地盤のN値及びFcと削孔データであり、本施工時においてデータ取得部31が取得するデータは、本施工の対象となった地盤の削孔データである。
【0030】
教師データ生成部32は、事前作業においてデータ取得部31によって取得されたデータを用いて、学習モデルにおける教師データを生成する。より具体的には、教師データ生成部32は、削孔データを入力変数とし、地盤のN値及びFcを目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデル(同時回帰モデル)における教師データを生成する。
【0031】
モデル生成部33は、入力変数たる削孔データ及び目的変数たるN値及びFcを、例えば8:2程度の比で学習用データと検証用データとに分け、学習用データを教師データとしてニューラルネットワークによるマルチタスク学習を実施して、学習モデルを生成する。
【0032】
モデル格納部34は、モデル生成部33により生成された学習モデルを格納する。
【0033】
検証部35は、上述した検証用データを用いて学習モデルの精度を検証する。具体的には、検証部35は、モデル格納部34に格納された学習モデルに対して、検証用データに含まれる削孔データを適用してN値及びFcを推定し、その推定値を検証用データに含まれるN値及びFcと比較してその差分を評価する。ここで学習モデルの精度が不十分であれば、モデル生成部33が学習モデルにおけるハイパーパラメータ等を見直して、精度が十分となるような学習モデルを生成する。
【0034】
推定部36は、モデル格納部34に格納された学習モデルと、本施工においてデータ取得部31によって取得された削孔データとを用いて、改良対象となる地盤のN値及びFcを推定して出力する。このN値及びFcに基づいて、液状化判定や注入諸元の決定がなされ、薬剤を用いた地盤改良が実施される。
【0035】
[動作]
[学習モデルの生成動作]
図4は、N値及びFcの学習モデルを生成する方法の一例を示すフローチャートである。まず、任意の地盤にて事前作業としてのボーリングがボーリングシステム10により実施される(ステップS11)。これにより、その地盤のN値及びFcが計測される。
【0036】
次に、削孔システム20により、上記ボーリング実施個所の近傍の複数地点に対してそれぞれ削孔が行われる(ステップS12)。例えばボーリング実施個所を中心とした半径7mの範囲において1個所あたり例えば5地点程度(合計で例えば32個所、160地点)に対する削孔が行われる。これにより、ボーリング実施個所の近傍の各削孔地点における削孔データが得られる。
【0037】
次に、これらのN値、Fc及び削孔データが情報処理装置30に入力される。N値及びFcは、例えば任意の記録媒体を介して情報処理装置30に入力される(ステップS13)。削孔データは、例えば削孔システム20から通信線を介して、又は任意の記録媒体を介して情報処理装置30に入力される。これにより、情報処理装置30のデータ取得部31は、事前作業の対象となった地盤のN値、Fc及び削孔データを取得する。
【0038】
次に、情報処理装置30の教師データ生成部32は、データ取得部31によって取得された削孔データを入力変数とし、データ取得部31によって取得された地盤のN値及びFcを目的変数としたマルチタスクのニューラルネットワークの学習モデル(同時回帰モデル)における教師データを生成する(ステップS14)。
【0039】
次に、モデル生成部33は、入力変数たる削孔データ及び目的変数たるN値及びFcを、例えば8:2程度の比で学習用データと検証用データとに分ける(ステップS15)。
【0040】
次に、モデル生成部33は、上記の学習用データを教師データとしてニューラルネットワークによるマルチタスク学習を実施し(ステップS16)、これにより、学習モデルを生成してモデル格納部34に格納する(ステップS17)。
【0041】
次に、検証部35は、上述した検証用データを用いて、モデル格納部34に格納されている学習モデルの精度を検証する(ステップS18)。ここで学習モデルの精度が不十分であれば(ステップS19;No)、前述したように、モデル生成部33が学習モデルにおけるハイパーパラメータ等を見直して、精度が十分となるような学習モデルを生成する(ステップS16~S17)。学習モデルの精度が十分と判断されると(ステップS19;Yes)、図4に示す処理は終了する。
【0042】
[N値及びFcの推定動作]
図5は、N値及びFcを推定する方法の一例を示すフローチャートである。まず、削孔システム20により、本施工の対象となる地盤(つまり改良対象となる地盤)に対して複数の削孔が行われる(ステップS21)。これにより、各削孔地点における削孔データが得られる。
【0043】
次に、これらの削孔データが削孔システム20から通信線を介して、又は任意の記録媒体を介して情報処理装置30に入力される(ステップS22)。これにより、情報処理装置30のデータ取得部31は、改良対象となる地盤の削孔データを取得する。
【0044】
次に、推定部36は、モデル格納部34に格納された学習モデルと、データ取得部31によって取得された削孔データとを用いて、改良対象となる地盤のN値及びFcを推定して出力する(ステップS23)。
【0045】
このN値及びFcに基づいて、液状化判定や注入諸元の決定がなされ、薬剤を用いた地盤改良(施工)が実施される(ステップS24)。これにより液状化対策として薬剤により地盤改良がなされた地盤改良体が作成される。
【0046】
以上が本実施形態の説明である。この実施形態によれば、削孔データからN値及びFcを推定する機械学習として、ニューラルネットワークによるマルチタスク学習を行うことで、精度のよい推定が可能となり、適切な注入諸元の設定や適切な改良範囲及び改良深度の設定が可能となる。また、液状化対策の薬剤を注入するための削孔時に得られる削孔データを用いているので、例えばボーリングを行ってN値及びFcを計測する場合に比べて、その工程が格段に削減される。
【0047】
ここで、削孔データからN値及びFcを推定する機械学習としてニューラルネットワークによるマルチタスク学習を行うことの効果を検証する。以下は、複数の学習モデルを用いて削孔データからN値及びFcを推定したときのN値及びFcの誤差を示す表である。
【0048】
【0049】
このときの誤差は、(各学習モデルにおいて削孔データから推定したN値及びFc)と(ボーリングにより計測されたN値及びFc)との平均二乗誤差を1/2乗した値である。ただし、誤差の評価方法はこれに限らない。
【0050】
上記表のように、削孔データからN値及びFcを推定する機械学習としてニューラルネットワークによるマルチタスク学習を行うことで、他の学習モデルを用いたときより格段に精度の高いN値及びFcを推定することが可能となる。マルチタスク学習は、複数のタスクを行う1つのモデルを学習する手法であり、それぞれのタスクのために学習するパラメータを共有することで、双方の精度向上を期待する方法である。
【0051】
ただし、共有する複数のパラメータの間に何らかの相関関係がなければ、精度向上には寄与しない。本実施形態では、従来においては相関関係がないと考えられていたN値とFcとを共有するマルチタスク学習を行うことで、実はこれらN値とFcには、機械学習においては双方に共通する有用な特徴量や性質があるということが分かった。なぜなら、削孔データからN値及びFcを推定する機械学習としてニューラルネットワークによるマルチタスク学習を行うことで、他の学習モデルを用いたときより格段に精度の高いN値及びFcを推定することができたからである。従って、削孔データからN値とFcとを個別に推定するシングルタスクで実施した場合(前述した特開2014-134066号公報に記載の方法を採用した場合)は、本実施形態において採用した方法に比べると、高い精度を得ることはできない。
【0052】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態に限定されない。上述した実施形態を以下のように変形してもよい。また、以下の2つ以上の変形例を組み合わせて実施してもよい。
【0053】
[変形例1]
教師データが多いほど推定精度が向上すると考えられるから、モデル生成部33は、本施工で取得したデータを教師データとして追加して学習モデルを生成するようにしてもよい。
【0054】
[変形例2]
例えばシングルタスクモデルのランダムフォレスト、サポートベクタマシン、ニューラルネットワーク等による推定をあわせて行い、実施形態で用いたマルチタスクモデルと上記の各シングルタスクモデルの精緻さに応じた重み付けをしてもよい。つまり、推定部36は、マルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、削孔データを入力変数として地盤のN値及びFcを目的変数としたシングルタスクの1以上の学習モデルとを用い、各々の学習モデルに応じた重み付けを行って推定を行うようにしてもよい。推定ステップにおいて、推定マルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルと、削孔データを入力変数として地盤のN値及びFcを目的変数としたシングルタスクの1以上の学習モデルとを用い、各々の学習モデルに応じた重み付けを行って推定を行うようにしてもよい。例えば推定部36は、マルチタスクのニューラルネットワークの学習モデルに対して0.5の重みを付与し、N個のシングルタスクの学習モデルに対して0.5/Nの重みを付与して推定を行うようにしてもよい。
【0055】
[変形例3]
学習モデルにおいて、目的変数となるN値及びFcを計測するためのボーリング実施個所から削孔の地点までの距離に応じた重み付けがなされた削孔データが入力変数として含まれているようにしてもよい。例えば、モデル生成部33は、ボーリング実施個所から各削孔の地点までの距離とその距離における削孔データとの加重平均により重みを付与するようにしてもよい。具体的には、ボーリング実施個所から各削孔の地点までの距離をX1,X2,X3・・・Xnとし、その距離X1,X2,X3・・・Xnにおける削孔データをD1,D2,D3・・・Dnとしたとき、
(D1/X1+D2/X2+D3/X3・・・・+Dn/Xn)/(1/X1+1/X2+1/X3・・・+1/Xn)
という加重平均計算式を用いるようにしてもよい。ただし、重みの付与方法はこれに限らない。
【0056】
[変形例4]
学習モデルにおいて、削孔時の送水圧、回転トルク、ビット荷重、回転数、削孔速度及び削孔エネルギー等の削孔データそのもの以外に、例えばボーリングによって地盤深度1mごとに統計解析を行って得られる、削孔データの分散又は標準偏差が入力変数として含まれているようにしてもよい。これにより、各深度における削孔データのばらつきを考慮した学習モデルを生成可能となる。
【0057】
[変形例5]
学習モデルにおいて、削孔時の送水圧、回転トルク、ビット荷重、回転数、削孔速度及び削孔エネルギー等の削孔データそのもの以外に、削孔時における地盤の表面からの削孔データの履歴が入力変数として含まれているようにしてもよい。削孔時に計測される送水圧、回転トルク、ビット荷重、回転数、削孔速度及び削孔エネルギーは、削孔を行う部材の先端部の個所(削孔が実施される地中の個所)の土質性状のみならず、地盤の地表面からその個所に至るまでの範囲の影響を受けるため、教師データの作成とN値及びFcの推定にあたっては、削孔時における地盤の表面からの削孔データの履歴を入力変数として用いることが望ましい。
【0058】
[変形例6]
本発明によれば、上述したN値及びFcの推定方法によって推定されたN値及びFcに基づいて薬剤が注入されて液状化対策が施された、高品質の地盤改良体が構築される。本発明をこのような地盤改良体として観念してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1:システム、10:ボーリングシステム、20:削孔システム、30:情報処理装置、31:データ取得部、32:教師データ生成部、33:モデル生成部、34:モデル格納部、35:検証部、36:推定部、3001:プロセッサ、3002:メモリ、3003:ストレージ、3004:通信装置、3005:入力装置、3006:出力装置。
図1
図2
図3
図4
図5