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特許7176958212Pb標識モノクローナル抗体の調製
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】212Pb標識モノクローナル抗体の調製
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/13 20060101AFI20221115BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20221115BHJP
   C07K 2/00 20060101ALI20221115BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20221115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221115BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20221115BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20221115BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20221115BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C07K1/13
C07K1/16
C07K2/00
C07K16/00
A61P35/00
A61K47/68
A61K51/08 100
A61K51/10 100
A61K39/395 N
A61K39/395 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018566836
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2017065508
(87)【国際公開番号】W WO2017220767
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-22
(31)【優先権主張番号】16176263.8
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517296949
【氏名又は名称】サイエンコンス アクスイェ セルスカプ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ロイ ハルトビク ラーセン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/032043(WO,A1)
【文献】特許第6442072(JP,B2)
【文献】CANCER BIOTHERAPY & RADIOPHARMACEUTICALS,2005年,Vol.20, No.5,p.557 - 568
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF RADIATION ONCOLOGY BIOLOGY PHYSICS,1996年,Vol.34, No.3,p.609 - 616
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種標識タンパク質を生成する方法であって、
a)224Ra及び212Pbを含む水溶液であって、前記水溶液における212Pbと224RaのMBqでの活性比が0.5~2である水溶液、並びに、二官能性キレート剤と結合したタンパク質を含む水溶液を用意すること、
b)a)で用意された前記溶液を混合及びインキュベーションして放射性核種標識タンパク質を含む反応溶液を提供すること、
c)ゲル濾過クロマトグラフィーによる前記反応溶液の精製、並びに
d)ステップc)の前記精製から前記放射性核種標識タンパク質を回収すること
を含む方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、合成タンパク質、及びペプチドからなる群より選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質が500~500.000ダルトンのサイズを有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)の224Ra及び212Pbを含む前記溶液が、1~10000MBqの224Ra及び212Pbから生じた放射能を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップd)で回収されたキレート剤と結合した抗体が、0.05~50mgの量で存在する請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)の反応溶液が、100μL~1000mLの体積である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)のキレート剤と結合した抗体を含む前記溶液が、0.1~4mg/mlの濃度を有する請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)の前記混合及びインキュベーションが、1~180分で行われる請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)の前記ゲル濾過クロマトグラフィーが、脱塩精製、脱塩とバッファー交換、及び脱塩ゲル排除分離からなる群より選択される請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記脱塩精製、脱塩とバッファー交換、又は脱塩ゲル排除分離が純度を高めるために繰り返される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップc)の前記精製が、遠心分離駆動、圧力駆動、真空駆動、又は重力駆動からなる群より選択される方法の1つによって駆動される請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記二官能性キレート剤がTCMCである請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、トラスツズマブ、リツキシマブ、HH1、セツキシマブ、ベバシズマブ、ダラツムマブ、アレムツズマブ、ペンブロリズマブ、エピラツズマブ、L19、F8、F16、ガリキシマブ、トラリズマブ、アレムツズマブ、オファツムマブ、ベルツズマブ、アフツズマブ、トシツモマブ、Reditux、及びイブリツモマブからなる群のうちの1つ以上から選択される請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
放射性核種標識タンパク質の生成用のキットであって、
(i)224Ra及び212Pbを含む水溶液であって、前記水溶液における212Pbと224RaのMBqでの活性比が0.5~2である水溶液、
(ii)二官能性キレート剤と結合したタンパク質を含む水溶液、
(iii)ゲル濾過クロマトグラフィーのための手段、並びに
(iv)任意選択で、放射性核種標識タンパク質の生成のための取扱説明書
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療に使用するための鉛212の生成に関する。具体的には、本発明の実施形態である放射性免疫複合体などの鉛212をベースとする放射性標識タンパク質の生成に関連する方法である。
【背景技術】
【0002】
鉛212(212Pb)は短寿命のアルファ放出娘核種を介して壊変し、212Pbの壊変ごとに平均1つのアルファ粒子が生じるので有望な治療用放射性核種である。
【0003】
12Pbの10.6時間の半減期はその使用を制限し、迅速で且つ安全な製造及び精製手順が必要である。鉛212をベースとする放射性免疫複合体は現在、陽イオン交換カラム中の224Raから分離され、放射性標識前に再溶解されなければならない鉱酸中に溶出された212Pbを使用して腹膜がんに対する臨床試験に入っている。
【0004】
現在の方法は、定量に満たない溶出アウトプット及び溶出と標識の間の時間のために損失をもたらす。
【0005】
したがって、これらの問題を考慮に入れた新しい方法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、放射性核種標識タンパク質を生成する方法に関し、その方法は、a)224Ra及び212Pbを含む水溶液並びにキレート剤と結合したタンパク質を含む水溶液又は容易に溶解可能な製剤(formulation)を用意すること、b)a)で用意された溶液を混合及びインキュベーションして放射性核種標識タンパク質を含む反応溶液を形成すること、c)ゲル濾過クロマトグラフィーによる反応溶液の精製、並びにd)ステップc)の精製から放射性核種標識タンパク質を回収することを含む。
【0007】
タンパク質は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、合成タンパク質、及びペプチドからなる群から選択されうる。
【0008】
ステップd)の回収された放射性核種標識タンパク質は、212Bi及び212Pbを含んでいてもよい。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、ステップa)の224Ra及び212Pbを含む溶液は、1~10 000MBq、例えば50~1000MBqなど、1kBq~1GBq、例えば10kBq~100MBqなど、100kBq~10MBqなど、10MBq~200MBqなどの224Ra及び212Pbから生じた放射能を有する。
【0010】
本発明の別の実施形態では、ステップa)の水溶液における212Pbと224RaのMBqでの活性比が、0.5~2、例えば0.8~1.5など、若しくは0.8~1.3など、又は好ましくは0.9~1.15などである。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態では、ステップd)で回収されるキレート剤と結合したタンパク質は、0.01~50mg、例えば0.1~25mgなど、0,5~10mgなど、1~5mgなどの量で存在する。
【0012】
本発明のさらなる実施形態では、ステップa)の溶液は、体積が、10μL~1000mL、例えば500μL~100mLなど、1mL~10mLなどである。
【0013】
本発明の別の実施形態では、ステップa)のキレート剤と結合したタンパク質を含む溶液は、0.1~4mg/ml、例えば0.25~2mg/mlなど、0.5~1.5mg/mlなど、0.1~10mg/mlなどのキレート剤と結合した抗体の濃度を有する。
【0014】
本発明のさらに別の実施形態では、ステップb)の混合及びインキュベーションは、1~180分、例えば5~120分など、15~60分など、20~40分など、30~60分などで行われる。
【0015】
本発明の別の実施形態では、ステップc)のゲル濾過クロマトグラフィーは、脱塩精製、脱塩とバッファー交換、及び脱塩ゲル排除分離からなる群より選択される。
【0016】
本発明の別の実施形態では、脱塩は純度を高めるために繰り返される。
【0017】
別の実施形態では、精製対象の原溶液は、キレート剤を添加されて未複合化放射性核種を複合体化して、脱塩ステップから回収される最終の放射性複合体の純度をさらに高める。
【0018】
本発明のさらなる実施形態では、ステップc)の精製は、遠心分離駆動、圧力駆動、真空駆動、又は重力駆動からなる群より選択される方法の1つによって駆動される。
【0019】
本発明の別の実施形態では、キレート剤はTCMCである。
【0020】
本発明の別の実施形態では、抗体は、トラスツズマブ、リツキシマブ、HH1、セツキシマブ、ベバシズマブ、ダラツムマブ、アレムツズマブ、ペンブロリズマブ、エピラツズマブ、L19、F8、F16、ガリキシマブ、トラリズマブ、アレムツズマブ、オファツムマブ、ベルツズマブ、アフツズマブ、トシツモマブ、Reditux、及びイブリツモマブからなる群のうちの1つ以上から選択される。
【0021】
本発明の別の実施形態では、抗体は、CD19、CD20、CD22、CD33、CD37、CD38、CD45、CD74、CD138、PSMA、HER-2、EGFR、MUC-1、MUC-18、CEA、FBP、NG2、EPCAM、シンデカン-1、Ca-125、LK-26、HMFG、CS-1、及びBCMAからなる群より選択される抗原に特異的である。
【0022】
本発明の別の態様は、本発明による方法から回収された放射性核種標識タンパク質に関する。
【0023】
本発明の別の態様は、224Ra及び212Pbを含む水溶液、キレート剤と結合したタンパク質を含む水溶液、ゲル濾過クロマトグラフィーのための手段、並びに任意選択で、放射性核種標識タンパク質の生成のための取扱説明書を含む放射性核種標識タンパク質の生成用キットに関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
224Raで標識されたタンパク質、例えば抗体などを生成するための現在の方法は、定量に満たない溶出アウトプット及び溶出と標識の間の時間に起因して損失をもたらす。
【0025】
本発明の目的は、これらの問題を考慮に入れた代替的な新しい進歩性のある方法である。
【0026】
1つの解決方法は、212Pbをベースとする放射性標識タンパク質、例えば放射性免疫複合体などを調製する代替的な方法としての、224Ra溶液中でモノクローナルの抗体などのタンパク質を212Pbで、その場で(in situ)標識し、続いて224Raを除去する方法である。
【0027】
本発明の文脈では、放射性免疫複合体は、放射性核種、複合剤(conjugator)、及び抗体などのタンパク質を含む物質と定義される。またこれは、放射性核種標識タンパク質又は放射性核種標識抗体とも呼ばれる。
【0028】
本発明は、放射性核種標識タンパク質を生成する方法に関し、その方法は、a)224Ra及び212Pbを含む水溶液並びにキレート剤と結合したタンパク質を含む水溶液又は容易に溶解可能な製剤を用意すること、b)a)で用意された溶液を混合及びインキュベーションして放射性核種標識タンパク質を含む反応溶液を形成すること、c)ゲル濾過クロマトグラフィーによる反応溶液の精製、並びにd)ステップc)の精製から放射性核種標識タンパク質を回収することを含む。
【0029】
タンパク質は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、合成タンパク質、及びペプチドからなる群より選択することができる。
【0030】
タンパク質はまた、Glu-尿素モチーフ(Glu-urea motif)であってもよい。Glu-尿素モチーフはPSMAを標的とする。PSMAを標的とするGlu-尿素モチーフは、PSMA-617、PSMA-11、MIP-1427からなる群から選択することができる。タンパク質はまた、ビオチン又はアビジン又は類似体、並びに葉酸及び誘導体からなる群から選択することもできる。
【0031】
本発明のタンパク質のサイズは、本発明のサイズ排除による識別に起因して、224Raより大きい任意のものでありうる。したがって、タンパク質のサイズは分子量Mrで約300より大きい。本発明の1つの実施形態では、タンパク質のサイズは分子量Mrで500~500.000である。サイズはまた、分子量Mrで40.000~200.000又は500~5000であってもよい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、タンパク質は抗体である。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、本発明の方法で使用される224Raは、228Thに結合したキレート樹脂、例えばAc-樹脂若しくはTRU-樹脂を用いて、又はThOスラリーから作ることができる。ThOスラリーは、例えば、米国特許第7,887,782号明細書に記載されている。
【0034】
本発明の例は、モノクローナル抗体によって例示されるTCMC結合タンパク質は、212Pbと平衡状態にある224Raの溶液中で212Pbで効率的に標識できることを示す。
【0035】
続いて、212Pb標識複合体は、例えば脱塩ゲル排除分離を用いてカチオン性の224Raから分離することができる。これは、すぐに使用できる224Ra/212Pb溶液が、集中供給元(centralized supplier)からエンドユーザーに出荷できることを意味する。
【0036】
溶液中で224Raを使用する利点は2つあり、(1)酸抽出ステップが回避されるので手順を実行するのに費やす時間が少ないこと及び(2)労力が少なく、酸などの蒸発などを必要としないことある。収率もより高い。
【0037】
強直性脊椎炎の治療に224Raを使用する研究から、適度な量(典型的には10MBq未満)が、無視できない骨髄毒性を伴わずに患者に投与できることが知られており、212Pbをベースとする生成物中の1~2%の含量、例えば100MBqは、212Pb生成物が高い程度の骨髄毒性を生じさせない限り耐容されると思われることを示している。
【0038】
224Raに関してより純粋な生成物が必要と思われる場合は、第2のPD-10カラムで精製を繰り返すことでこれを達成しうる。(能力は急速に減少するが)数回「ミルキング」することができる現在のイオン交換に基づくジェネレータと比較して、記載の224Ra溶液に基づくジェネレータは単回使用のみのためであることになる。
【0039】
さらに、第2の、好ましくは低分子量のキレート剤、例えばEDTMPを加えて、複合体との反応が終了し脱塩ステップを行う前に原溶液中の未複合化放射性核種を複合体化することは、最終の生成物の純度をさらに高めることができる。
【0040】
したがって、本発明の例は、現在のイオン交換に基づく方法と比較して簡単で時間がかからない、212Pbをベースとする放射性免疫複合体を作製するための出荷可能なジェネレータとして224Raを使用する代替的なやり方を示す。
【0041】
濃縮物の比と量
本発明の方法の溶液中の放射能は、目的の用途に応じて異なる強度でありうる。本発明の1つの実施形態では、ステップa)の224Ra及び212Pbを含む溶液は、224Ra及び212Pbから生じた放射能が、1~10000MBq、例えば50~1000MBqなど、1kBq~1GBq、例えば10kBq~100MBqなど、100kBq~10MBqなど、10MBq~200MBqなどである。
【0042】
1つの実施形態では、放射能は10kBq~10MBqである。
【0043】
好ましい実施形態では、放射能は10kBq~100MBqである。
【0044】
224Ra及び212Pbを含む本発明の溶液は、228Thから生成することができる。
【0045】
回収された放射性核種標識タンパク質は、212Pbからさらに崩壊するため、212Biを含む可能性がある。したがって、本発明の組成物のタンパク質の212Bi/212Pb比は、+/-30%以内の1/1の比での212Bi/224Raでありうる。ラジオは、+/-20%以内の1/1又は+/-10%以内の1/1でもよい。
【0046】
本発明の1つの実施形態では、抗体などの回収された放射性核種標識タンパク質は、投与及び投薬に必要な量になるように調整されている。
【0047】
したがって、本発明の1つの実施形態では、抗体などの回収された放射性核種標識タンパク質はその後医薬組成物として製剤化される。
【0048】
医薬組成物は、本発明による抗体などの回収された放射性核種標識タンパク質と、希釈剤、担体、界面活性剤、及び/又は賦形剤とを含む。
【0049】
許容される医薬担体としては、非毒性のバッファー、充填剤、等張溶液、溶媒及び共溶媒、抗菌防腐剤、抗酸化剤、湿潤剤、消泡剤、並びに増粘剤が挙げられるが、これらに限定されない。より具体的には、医薬担体は、限定されないが、通常の生理食塩水(0.9%)、半生理食塩水、乳酸リンゲル液、溶解スクロース、デキストロース、例えば3.3%デキストロース/0.3%生理食塩水であることができる。生理学的に許容される担体は、放射線分解安定剤(radiolytic stabilizer)、例えば、アスコルビン酸、ヒト血清アルブミンであり、保存及び出荷中の放射性医薬の完全な状態を保護する。
【0050】
1つの実施形態では、回収ステップd)の後に行われる医薬組成物として製剤がある。
【0051】
224Raの崩壊系列にはラドン娘核種が含まれており、空気中に拡散する可能性があるので、220Rnの漏出を防ぐために生成物が入ったバイアルを密封する必要がある。
【0052】
高度に局在したアルファ線照射の性質のために、放射線分解は潜在的な問題として考慮されなければならず、放射性医薬はこれを最小限に抑えるように設計されなければならない。当該分野の知識によれば、抗体などの放射性標識タンパク質は放射線分解の影響を受けやすく、したがって、キットシステムは212Pb及び/又は212Bを捕捉するためのキレーター結合抗体と組み合せることができる224Ra溶液に有利である。
【0053】
モノクローナル抗体の場合、放射線分解による結合特性の低下を避けるために、放射性医薬溶液を作るアルファ粒子の自己線量を0.5kGy未満に保つことが通常は推奨される。したがって、遠方への出荷を意図した濃縮溶液については、抗体などのキレート剤結合タンパク質が注射の数時間~10分間前に224Ra(娘核種を含む)溶液に添加されるキットシステムが推奨される。
【0054】
投薬1回当たり1kBq~10GBqの放射性核種の量で医薬組成物は調製される。
【0055】
本発明の別の実施形態では、ステップa)の水溶液における212Pbと224RaのMBqでの活性比は、0.5~2、例えば0.8~1.5など、若しくは0.8~1.3など、又は好ましくは0.9~1.15などである。活性比は好ましくは0.5~2である。
【0056】
例えば、212Pbと224Raの「活性比」という用語は、212Pbの224Raに対するMBqの比に関する。
【0057】
本発明のさらに別の実施形態では、ステップd)で回収されるキレート剤と結合した抗体などのタンパク質は、0.05~50mg、例えば0.1~25mgなど、0,5~10mgなど、1~5mgなどの量で存在する。その量は好ましくは0.05~50mgである。
【0058】
本発明のさらなる実施形態では、ステップa)の溶液は、100μL~1000mL、例えば500μL~100mLなど、1mL~10mLなどの体積である。その体積は好ましくは100μL~1000mLである。
【0059】
本発明の別の実施形態では、ステップa)のキレート剤と結合した抗体などのタンパク質を含む溶液は、0.1~4mg/ml、例えば0.25~2mg/mlなど、0.5~1.5mg/mlなど、0.1~10mg/mlなどのキレート剤と結合した抗体などのタンパク質の濃度を有する。その濃度は好ましくは0.1~4mg/mlである。
【0060】
混合及びインキュベーション
本発明のさらに別の実施形態では、ステップb)の混合及びインキュベーションは、1~180分、例えば5~120分など、15~60分など、20~40分など、30~60分などで行われる。その時間は好ましくは30~60分である。
【0061】
混合は自動振盪器で行われうる。温度は、好ましくは30~40℃、より好ましくは37℃である。
【0062】
ゲル濾過クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、分子篩クロマトグラフィーとしても知られ、溶液中の分子をそのサイズ、場合によっては分子量によって分離するクロマトグラフィー法である。これは通常、タンパク質や工業用ポリマーなどの大きい分子や高分子複合体に適用される。典型的には、水溶液を用いて試料をカラムに通す場合、この技術はゲル濾過クロマトグラフィーとして知られるのに対して、有機溶媒を移動相として用いる場合にはゲル浸透クロマトグラフィーという名称が使用される。SECは、ポリマーについて良好なモル質量分布(Mw)結果を提供できるので、広く使用されているポリマーキャラクタリゼーション法である。
【0063】
したがって、本発明の別の実施形態では、ステップc)のゲル濾過クロマトグラフィーは、脱塩精製、脱塩とバッファー交換、及び脱塩ゲル排除分離からなる群より選択される。
【0064】
したがって、本発明のゲル濾過クロマトグラフィーは、カラムに通すために水溶液を使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)としても知られる。
【0065】
本発明の別の実施形態では、脱塩は純度を高めるために繰り返される。脱塩は、1回、2回、3回、又はそれより多く繰り返すことができる。
【0066】
別の実施形態では、第2の、好ましくは低分子量のキレート剤、例えばEDTMPが加えられて、複合体との反応が終了し脱塩ステップを行う前に原溶液中の未複合化放射性核種を複合体化して、最終の生成物の純度をさらに高める。
【0067】
カラムの例としては、PD10脱塩カラム(セファデックスG-25 PD-10カラム)及びエコノパック10DG脱塩カラム(バイオ・ラッド)が挙げられる。
【0068】
本明細書に提示の方法における精製のサイズ範囲はさまざまでありうる。1つの実施形態では、分子量Mrは1000~500000の範囲である。
【0069】
選ばれた範囲は、確実に本発明の放射性免疫複合体などの放射性標識タンパク質が精製されるようにする。最適な精製のために他の範囲、例えば、分子量Mrで500~5000、分子量Mrで1000~10000が選ばれうる。
【0070】
本発明のさらなる実施形態では、ステップc)の精製は、遠心分離駆動、圧力駆動、真空駆動、又は重力駆動からなる群より選択される方法の1つによって駆動される。
【0071】
キレート剤
好ましくは、本発明の放射性核種は、キレート剤、又はより好ましくは二官能性キレート剤を使用することによって、抗体などのタンパク質に結合されることになる。
【0072】
これらは、環状、直鎖状、又は分枝状のキレーターでありうる。主鎖窒素に結合した酸性(例えばカルボキシアルキル)基をもつ直鎖、環状、又は分岐ポリアザアルカン主鎖を含むポリアミノポリ酸キレート剤が特に参照することができる。
【0073】
本発明のキレート剤は、212Pbとの結合に敵している。これは、共有結合及び静電結合を含む当業者に公知の任意の従来の結合によってタンパク質に結合されうる。
【0074】
好適なキレート剤の例としては、DOTA、及びp-イソチオシアナトベンジル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(p-SCN-Bz-DOTA)などのDOTA誘導体、並びにp-イソチオシアナトベンジル-ジエチレントリアミン五酢酸(p-SCN-Bz-DTPA)などのDTPA誘導体が挙げられ、最初のものは環状キレート剤であり、後者は直鎖キレート剤である。
【0075】
1つの実施形態では、キレート剤はEDTMP又はDOTMPである。
【0076】
本発明の別の実施形態では、キレート剤は、TCMCとしても知られる2-(4-イソチオシアナトベンジル-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10,テトラ-(2-カルバモニルメチル(carbamonylmethyl))-シクロドデカンである。
【0077】
抗体
本発明の抗体はモノクローナルでもポリクローナルでもよい。
【0078】
本発明の1つの実施形態では、抗体は、トラスツズマブ、リツキシマブ、HH1、セツキシマブ、ベバシズマブ、ダラツムマブ、アレムツズマブ、ペンブロリズマブ、エピラツズマブ、L19、F8、F16、ガリキシマブ、トラリズマブ、アレムツズマブ、オファツムマブ、ベルツズマブ、アフツズマブ、トシツモマブ、Reditux、及びイブリツモマブからなる群のうちの1つ以上から選択される。
【0079】
本発明の別の実施形態では、抗体は、CD19、CD20、CD22、CD33、CD37、CD38、CD45、CD74、CD138、PSMA、HER-2、EGFR、MUC-1、MUC-18、CEA、FBP、NG2、EPCAM、シンデカン-1、Ca-125、LK-26、HMFG、CS-1、及びBCMAからなる群より選択される抗原に特異的である。
【0080】
放射性ヌクレオチド標識タンパク質
本発明の別の態様は、本発明による方法から回収される放射性核種標識抗体などの放射性核種標識タンパク質に関する。
【0081】
本発明の別の態様は、遊離224Ra及び抗体に結合した212Pbを含む放射性核種標識抗体組成物などの放射性核種標識タンパク質に関する。
【0082】
本発明の1つの実施形態では、この組成物は10%未満の遊離224Raを含む。
【0083】
本発明の1つの実施形態では、この組成物は5%未満の遊離224Raを含む。
【0084】
本発明の別の実施形態では、この組成物は4%未満の遊離224Raを含む。
【0085】
本発明のさらなる実施形態では、この組成物は3%未満の遊離224Raを含む。
【0086】
本発明のさらなる実施形態では、この組成物は2%未満の遊離224Raを含む。
【0087】
本発明のさらなる実施形態では、この組成物は1%未満の遊離224Raを含む。
【0088】
本発明の別の実施形態では、この組成物は0.1%超の遊離224Raを含む。
【0089】
組成物はまた、0.1~3%の遊離224Raを含みうる。この範囲は、0.1~2%の遊離224Ra又は0.1~1%の遊離224Raであることもできる。
【0090】
組成物は50%未満の遊離212Biを含みうる。この量は10~50%又は30~50%であることもできる。
【0091】
212Pbの一部も遊離して、キレート剤-抗体に結合していないことがある。したがって、遊離212Pbの量は10%未満などの20%未満でありうる。
【0092】
したがって、本発明の態様は、タンパク質に結合した212Pb、タンパク質に結合した212Bi、0,1%~2%の遊離224Ra、50%未満の遊離212Bi、及び20%未満の遊離212Pbを含む放射性核種標識タンパク質組成物に関する。
【0093】
「遊離」という用語は、キレート剤-抗体に結合していない放射性核種を指す。これは本明細書に記載され、当業者に公知の技術で測定することができる。
【0094】
キット
本発明の別の態様は、224Ra及び212Pbを含む水溶液、キレート剤と結合した抗体などのタンパク質を含む水溶液、ゲル濾過クロマトグラフィーのための手段、並びに任意選択で、放射性核種標識抗体などの放射性核種標識タンパク質の生成のための取扱説明書を含む、放射性核種標識抗体などの放射性核種標識タンパク質を生成するためのキットに関する。
【0095】
ある実施形態では、キットは、患者への投与前に放射性医薬溶液のpH及び/又は等張性を調整するための中和溶液を含むバイアルを含む。
【0096】
本発明の1つの実施形態では、抗体などのキレート剤結合タンパク質は、放射性結合タンパク質又は放射性免疫複合体の回収の30分~60分前に224Ra及び212Pb溶液に加えられる。
【0097】
本発明の1つの実施形態では、抗体などのキレート剤結合タンパク質は、放射性免疫複合体の回収の1分~45分前に224Ra及び212Pb溶液に加えられる。
【0098】
本発明の1つの実施形態では、抗体などのキレート剤結合タンパク質は、放射性免疫複合体の回収の20分~45分前に224Ra及び212Pb溶液に加えられる。
【0099】
一般
本発明による化合物との関連で上述したいずれの特徴及び/又は態様も、本明細書に記載の方法への類推によって適用されることが理解されよう。
【0100】
用語XとYは互換可能に使用される。
【0101】
以下の図及び実施例は、本発明を説明するために下に提供される。これらは説明のためのものであり、決して限定と解釈されるべきではない。
【実施例
【0102】
実施例1 放射能測定
γ線分光分析を液体窒素で冷却した高純度ゲルマニウムウェル検出器システム(GWC6021、Canberra Industries、メリデン、コネチカット州、米国)をDSA1000デジタルシグナルアナライザーに連結して行った。スペクトルを、Genie 2000ソフトウェア(バージョン3.1、Canberra Industries、メリデン、コネチカット州、米国)で解析した。
【0103】
より多くの量の放射能を測定するために、放射性同位体キャリブレーター(CRC-25R、Capintec Inc.、ラムジー、ニュージャージー州、米国)を使用した。
【0104】
放射性試料は、Cobra II Autogammaカウンター(Packard Instruments、Downer Grove、イリノイ州、米国)又はHidex Automatic Gamma Counter(Hidex、Turku、フィンランド)でカウントした。
【0105】
実施例2 224Raジェネレータ
224Raジェネレータは、カラムにアクチノイド樹脂とともに充填された228Th源から構成された。カラムは228Thを保持するが、224Ra(及び娘核種)は1M HClで溶出することができる。溶媒の蒸発を含む濃縮放射性調製物を用いた作業はすべて、グローブボックス内で行った。
【0106】
1M HNO3中の228Th源は供給業者(commercial supplier)から入手し、DIPEX(登録商標)Extractantをベースとするアクチノイド樹脂は、2mlの予め充填したカートリッジの形でEichrom Technologies LLC(ライル、イリノイ州、米国)から入手した。アクチニド樹脂カートリッジの材料を抽出し、樹脂を1M HClで前処理した。より少量の溶媒を使用するために、約25%(0.5ml)の樹脂を、より小さい1mlカラムであるIsolute SPE(Biotage AB、Uppsala、スウェーデン)に再充填した。ジェネレータが動いている間に若干の228Th放出がある場合、少量の228Thのキャッチャー層(catcher layer)として機能するように、不活性樹脂をカラムの底部に導入した。0.1M HNO3中の約40%(0.4ml)のカートリッジ内容物と600μlの228Thのスラリーをバイアル(4mlバイアル、E-C sample、Wheaton、Millville、ニュージャージー州、米国)中で調製し、228Thを固定するために少なくとも4時間穏やかに攪拌しながらインキュベーションした。その後、放射性スラリーをカラムに載せた。
【0107】
このカラムから2mlの1M HClでラジウムを常時(regularly)溶出することができた。さらなる精製では、2mlの1M 粗HClを蒸発させずに使用し、第2のアクチノイド樹脂カートリッジに載せ、1M HClを0.5ml追加して洗浄し、224Raを含有する2.5mlの溶出液を生成した。この溶液を、ヒーターブロックを用いて、バイアル瓶のゴム/テフロン(登録商標)セプタムのテフロン(登録商標)チューブの入口及び出口を通してバイアルにN2ガスを流し、N2ガスの流れによって酸蒸気を飽和NaOHのビーカーに導くことで蒸発乾固させた。蒸発後の残渣を0.2ml以上の0.1M HClに溶かした。
【0108】
溶出液中の228Thのブレークスルー(breakthrough)の可能性を、溶出液からの試料を224Raの最低10半減期(36日)の間保存することによって調べ、活性を検定した。
【0109】
224Ra溶液の純度
生成した224Ra溶液の5%試料を保存することによって、228Thに対する224Raの純度を評価することができた。少なくとも3か月間保存した、無作為に選択した5つの試料を使用した。存在するいずれの228Thも、測定時に224Ra及び娘核種と平衡状態にあったであろう。測定は、228Thについて較正したHidexガンマカウンターを使用して行った。
【0110】
実施例3 抗体の放射性標識
キレート剤であるTCMC(2-(4-イソチオシアナトベンジル-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10,テトラ-(2-カルバモニルメチル(carbamonylmethyl)-シクロドデカン)に結合したヒト化抗-HER2 IgG1モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン、ロシュ、バーゼル、スイス)を、212Pbでの放射性標識に使用した。TCMCに結合する前に、遠心濃縮機(Vivaspin15R、50kDa MWCO、Sartorius Stedim Biotech、ゲッティンゲン、ドイツ)で4時間洗浄することによってトラスツズマブ試料のバッファーを炭酸バッファー(金属を含まない水中の0.1M NaHCO3及び5mM Na2CO3)に交換した。バッファー交換後、抗体濃度を分光光度法で測定した。5mM HClに溶かしたTCMCの溶液を、炭酸バッファー中のトラスツズマブに5倍モル過剰で加えた。混合物を穏やかに撹拌しながら室温で2時間反応させた。TCMC-トラスツズマブから非結合キレート剤を分離し、同時に炭酸バッファーを0.9%NaClに交換するために、遠心分離濾過カートリッジ(Vivaspin 15R、50kDa MWCO)を使用した。試料を0.9%NaClで1:10に希釈し、抗体複合体を遠心分離によって10倍に濃縮した。この手順を合計3回繰り返した。TCMC-トラスツズマブ複合体を放射性標識するまで4℃で保存した。
【0111】
娘核種と平衡した224Raの溶液を10%の5M NH4OAcで緩衝化した。pHを用いて溶液のpHが5~6であることを確認した。TCMC-トラスツズマブと放射性溶液を混合し、サーモシェーカーで750rpm及び37℃にて最低30分間インキュベーションした。以下では、212Pb標識トラスツズマブ、遊離224Ra、及び娘核種からなるこの溶液を「反応混合物」と呼ぶ。標識は、0.1~4mg/mlの範囲の、最終反応混合物中のさまざまなTCMC-トラスツズマブ濃度で行った。
【0112】
実施例4 インスタント薄層クロマトグラフィー(Instant thin layer chromatography)アッセイ手順
反応混合物中の212Pb標識抗体の放射化学的純度を、インスタント薄層クロマトグラフィー(ITLC)ストリップ(モデル#150-772、Biodex Medical Systems Inc、シャーリー、ニューヨーク州、米国)で評価した。反応混合物のアリコートを、2倍過剰(体積に基づく)の、DPBS中に7.5% ヒト血清アルブミンと5mM EDTAからなる調合バッファー(formulation buffer)と混ぜ、NaOHで約pH7に調整した。混合物を4~5秒間回転混合(whirlmix)し、さらに5~10分間放置した。原点(origin line)に典型的には1~4μlの試料を用いてストリップをスポットし、展開のために約0.5mlの0.9%NaClの入った小さなビーカーに入れた。溶媒フロントが指定の溶媒フロントラインに移動した後、ストリップをカットラインで半分に切り、各半分を計数用の5ml試験管に入れた。この系では、212Pb標識抗体は、下半分から移動せず、EDTAとの複合212Pbは上半分に移動する。
【0113】
実施例5 放射性標識抗体の精製
この研究に記載の方法の所望の最終生成物は、212Pb標識TCMC-トラスツズマブの純粋な溶液である。これを達成するために、遊離224Raと他の非結合娘核種を除去するように我々の反応混合物を精製する必要がある。2つの異なる精製方法、遠心濃縮による精製及び脱塩カラムによる精製を評価した。
【0114】
遠心濃縮による精製は、50kDa MWCOのVivaspin4を用いて行った。反応混合物を濃縮器スピンチューブに入れ、総体積が4mlになるまで0.9%NaClで希釈した。さらに内容物を遠心分離により約10倍に濃縮した。濾液と精製抗体溶液の両方を集め、放射能を測定した。これらの測定値から、本発明の方法の収率を推定した。
【0115】
【数1】
【0116】
次いで、224Raと212Pbを再測定する前に、それらの間の平衡を確立するために試料を最低48時間壊変させ、精製抗体溶液中の224Raの%割合を計算した。
【0117】
【数2】
【0118】
セファデックスG-25 PD-10カラム(アマシャム・バイオサイエンス、Uppsal、スウェーデン)を反応混合物の精製に使用した。最初に、溶出バッファーとして0.5%BSAを補充したダルベッコのPBSを用いて、製造元のプロトコールに従ってカラムを平衡化した。PD10精製を粗反応混合物と、10倍過剰の(体積に基づく)調合バッファーを加えた反応混合物で行った。
【0119】
調合バッファーは、遊離放射性核種と複合体形成するEDTAを含有した。混合物をPD10カラムに加える前に最低10分間反応させた。反応混合物をカラムの上部に載せ、追加の溶出バッファーを加える前にカラムに完全に入るようにした。さらなる放射能測定のために、各1mlの7つの画分をエッペンドルフチューブに集めるまで溶出過程を続けた。放射性標識された抗体は典型的には画分3~5に溶出され、この方法の収率を測定値から推定した。
【0120】
【数3】
【0121】
画分4の生成物のRCPを前述のITLC手順で決定した。次いで、224Raと212Pbを再測定する前に、それらの間の平衡を確立するために試料を最低48時間壊変させ、画分3~5中の224Raの%割合を計算した。
【0122】
【数4】
【0123】
実施例6 結果
224Raの放射化学的純度
遡って測定された5つの試料すべてについて、228Thは、224Raの1MBq当たり1Bqと推定される検出限界(壊変補正済み)を下回っていた。したがって、精製方法は、生物医学用途のための224Raを調製するのに非常に適していると思われる。
【0124】
TCMC-トラスツズマブの鉛212標識
224Raの存在下での溶液中の212Pbの標識は、抗体複合体の0.15mg/ml以上で90%を超える収率で良好に機能した(表1)。
【0125】
微小濃縮(microconcentration)遠心分離装置を用いた本発明の224Raカチオンからの212Pb標識抗体複合体の精製
カチオン性224Raに対する212Pb標識トラスツズマブの濃縮及び分離に関するデータを表2に示す。表から分かるように、手順に起因する、212Pb標識トラスツズマブの約3分の1の有意な損失がある。放射性複合体からの224Raの分離は75%完了し、212Pb標識トラスツズマブの224Raに対する比が1:1から約3:1に向上することを示し、これは212Pb標識放射性免疫複合体の生物医学的な使用に満足いくものではない。
【0126】
PD-10ゲル濾過使い捨てカラムによる脱塩を用いた本発明の224Raカチオンからの212Pb標識抗体複合体の精製
カチオン性の224Raに対する212Pb標識トラスツズマブの濃縮及び分離に関するデータを表2に示す。212Pb-トラスツズマブの回収率は典型的には80%又はそれ以上であり、これは非常に好ましい。また、212Pb-トラスツズマブのRCPは95%超に増加する傾向がある。そのうえ、EDTAを使用して反応混合物をクエンチした場合、溶液からの224Raの除去は非常に効果的であり、典型的には212Pb-トラスツズマブ画分に2%未満の溶出である。したがって、224Ra/212Pb混合物から調製したPD-10精製212Pb-トラスツズマブの使用が実行可能でありうる。
【0127】
表1 224Ra溶液における212PbでのTCMC-抗体複合体標識
【0128】
【表1】
【0129】
表2 224Ra溶液における212PbでのTCMC-抗体複合体標識
遠心分離微小濃縮器を使用した224Ra溶液に対する212Pb標識TCMC-抗体複合体の精製
【0130】
【表2】
【0131】
PD10:
表3 セファデックスG-25 PD10ゲル濾過脱塩使い捨てカラムを使用した224Ra溶液に対する212Pb標識TCMC-抗体複合体の精製
【0132】
【表3】
【0133】
実施例7 考察
今回の研究は、212Pbと平衡状態にある224Raの溶液中で、効率的にTCMC-結合モノクローナル抗体を212Pbで標識できることを示している。それに続いて、脱塩ゲル排除分離を用いて、212Pb標識複合体をカチオン性の224Raから分離することができる。これは、すぐに使える224Ra/212Pb溶液が、集中供給元からエンドユーザーに出荷できることを意味する。溶液中で224Raを使用する利点は2つあり、(1)酸抽出ステップが回避されるので手順を実行するのに費やす時間が少ない及び(2)労力が少なく、酸の蒸発などを必要としないことある。強直性脊椎炎の治療に224Raを使用する研究から、適度な量(典型的には10MBq未満)が、無視できない骨髄毒性を伴わずに患者に投与できることが知られており、(3)212Pbをベースとする生成物中の1~2%の含量、例えば100MBqは、212Pb生成物が高い程度の骨髄毒性を生じさせない限り許容されると思われることを示している。224Raに関してより純粋な生成物が必要と思われる場合は、第2のPD-10カラムで精製を繰り返すことでこれを達成しうる。(能力は急速に減少するが)数回「ミルキング」することができる現在のイオン交換に基づくジェネレータと比較して、記載の224Ra溶液に基づくジェネレータは単回使用のみのためであることになる。結論として、今回の研究は、現在のイオン交換に基づく方法と比較して、簡単で費やす時間を少なくできる、212Pbをベースとする放射性免疫複合体を作製するための出荷可能なジェネレータとして224Raを使用する代替的なやり方を示す。
【0134】
実施例8 新規の224Raをベースとするジェネレータ溶液を用いた212Pb標識モノクローナル抗体の調製
方法
放射能測定
放射性試料は、Cobra II Autogammaカウンター(Packard Instruments、Downer Grove、イリノイ州、米国)の70~80keVウィンドウ又はHidex Automatic Gamma Counter(Hidex、Turku、フィンランド)の60~110keVウィンドウと520~640keVウィンドウで測定した。110keV未満のエネルギー範囲は、系列の他の放射性核種からの寄与が非常に小さく、212Pbからのγ放射線を主にカウントすると考えられた。224Ra壊変は、212Pbからのより豊富なγ線を含むエネルギー領域での適度なγ線放出を有するので、224Ra活性は70~80keV又は60~110keVのウィンドウでのカウントから間接的に決定した。これは、試料中に存在する初期の212Pbが崩壊し、224Raと新しく生成された212Pbとの平衡が達せられた3日後又はそれ以降に、試料を再測定することによって行った。非常に豊富な208Tlγ線から間接的に212Biを測定するための520~640keVのウィンドウを評価した。212Pbと208Tl 212Biの間の過渡平衡を得るために212Biの試料を約20分間保ち、その後に測定した。表1には、1%より高い存在度(abundancy)を有する224Ra系列のγ線が示されている。これは、60~110keV及び520~640keVのウィンドウにX線及び/又はγ線を有する放射性核種の概要を示す。50kBqを超える放射能の量は、ラジオアイソトープキャリブレーター(CRC-25R、Capintec Inc.、ラムジー、ニュージャージー州、米国)で測定した。
【0135】
224Raジェネレータ
トリウム228(Eckert & Ziegler、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)を、カラムカートリッジ内のDIPEX(登録商標)(Eichrom Technologies LLC、ライル、イリノイ州、米国)アクチニド樹脂上に固定した。カートリッジをHClで溶出することにより、224Raをジェネレータから抽出した。224Ra発生装置のセットアップの詳細は他の文献で示されている(米国特許第9433690(B1)号明細書)。
【0136】
抗体の放射性標識
モノクローナル抗体トラスツズマブ(ハーセプチン、ロシュ、バーゼル、スイス)をキレート剤TCMC(Macrocyclics Inc.、ダラス、テキサス州、米国)に結合し、212Pbで放射性標識するのに使用した。
【0137】
TCMC標識の前に、トラスツズマブの元のバッファーを炭酸バッファー(pH Eurグレードの金属を含まない水中の0.1M NaHCO3及び5mM Na2CO3)で交換した。遠心濃縮器(Vivaspin15R、30又は50kDa MWCO、Sartorius Stedim Biotech、ゲッティンゲン、ドイツ)を使用して、炭酸バッファーでトラスツズマブの溶液を洗浄し、4倍に濃縮した。各繰り返しステップの間、トラスツズマブは10倍に濃縮された。濃度測定には、0.1%溶液について280nmでの免疫グロブリンの標準吸光度値1.4を使用するUV分光光度法(日立U-1900、日立ハイテクノロジーズ株式会社、東京、日本)を用いた。TCMCを抗体に結合させるために、5mM HClに溶かしたTCMCの溶液を炭酸バッファー中のトラスツズマブに5~10倍モル過剰で加えた。混合物を穏やかに撹拌しながら、室温で2時間反応させた後、上記のように遠心濃縮器カートリッジ(Vivaspin 15R、30又は50kDa MWCO)を用いて炭酸バッファーを0.9%NaClと繰り返し交換することによって、非結合キレート剤をTCMC-トラスツズマブから分離し、pHを下げた。TCMC-トラスツズマブ複合体を放射性標識するまで冷蔵庫に保存した。
【0138】
0.1M HCl及び0.5M NH4OAc中の子孫核種と平衡状態のラジウム224を放射性標識に使用した。溶液のpHは、pH指示紙(メルクミリポアの一般的なpH指示紙、メルクKGaA、ダルムシュタット、ドイツ)を用いて約5~6であることを確認した。TCMC-トラスツズマブを、ThermoMixerR(エッペンドルフAG、ハンブルク、ドイツ)で37℃及び750rpmにて、224Ra溶液と最低30分間インキュベーションした。この溶液を「反応混合物」と呼ぶ。224Ra溶液中のさまざまな濃度(0.1~6mg/mLの範囲)のTCMC-トラスツズマブ複合体を記載の方法で試験した。典型的には、反応混合物の体積は30~130μLlであった。
【0139】
TCMC-トラスツズマブ(4mg/ml)の212Pbと212Biの標識を評価する特別な実験では、試料を5分後、15分後、及び25分後に反応バイアルから取り出し、インスタント薄層クロマトグラフィーで分析した。
【0140】
くわえて、反応混合物を一晩インキュベーションして放射性標識された生成物に対する高い放射線量を得ることによって、放射線分解実験を行った。続いて、生成物を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0141】
さらに、免疫反応性画分を、以前に記載されているようにワンポイントアッセイ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27776176)を使用することによって、抗原陽性腫瘍細胞を用いて決定した。
【0142】
インスタント薄層クロマトグラフィーアッセイ手順
標識収率は、反応混合物中の212Pb標識抗体の放射化学的純度(RCP)も意味し、即時薄層クロマトグラフィー(ITLC)ストリップ(モデル#150-772、Biodex Medical Systems Inc、シャーリー、ニューヨーク州、米国)で測定した。反応混合物の試料を、ダルベッコPBS中の7.5%ヒト血清アルブミンと5mM EDTAからなる2倍過剰の調合バッファー(FB)と混合し、NaOHでpH7に調整した。反応混合物/FBを約5秒間振盪し、少なくとも5分間放置して、未結合の放射性同位体がEDTAと複合体を形成できるようにした。原点に典型的には3μLの試料を用いてITLCストリップをスポットし、展開のために少量の0.9%NaClの入った小さなビーカーに入れた。溶媒フロントがほぼ上端に移動した後、ストリップを引き出し、ストリップをカットラインで半分に切り、各半分をカウント用ガラス管に入れた。この系では、212Pb-TCMC-トラスツズマブは、下半分に固定された状態のままで(B)、EDTAとの複合212Pb(及び他の遊離放射性核種)は上半分に移動する(U)。抗体付いた%割合としての212Pbの画分を次のように決定した。
【0143】
【数5】
【0144】
式中、CPMは1分当たりの計数率を表す。
【0145】
免疫反応性画分の決定
212Pb-TCMC-トラスツズマブの免疫反応性画分を、以前に論文報告されているようにワンポイント細胞結合アッセイ(Westrom et al 2016)で決定した。
【0146】
手短に言えば、16~20×106個のHER2を発現するヒト骨肉腫細胞OHSの試料を、212Pb-TCMC-トラスツズマブと室温でインキュベーションするか、又は212Pb-TCMC-トラスツズマブを加える前に過剰のトラスツズマブでブロックした。洗浄前に加えた全活性及び洗浄後の結合活性を各試料について測定した。212Pb-TCMC-トラスツズマブの免疫反応性画分は、洗浄前に加えた合計で割り、ブロックした試料について決定した同じ画分を引いた洗浄後の全結合で決定した分画であると推定した。
【0147】
高速液体クロマトグラフィー
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムは、サイズ排除TSKゲルG3000SWxlカラム(Tosoh Bioscience、製品番号08541)、UV(220と280nm)、と放射検出器(Radiomatic 150TR Flow Scincillator Analyzer、パーキンエルマー)を組み合わせた1260 Infinity VLシステムから構成した。移動相は、250mM NaClを含有する50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)から作製した。0.8ml/分の流量を用いた。
【0148】
放射性標識抗体の精製
遠心濃縮器と精製又は脱塩カラムのいずれかを使用して精製を行った。遠心濃縮を用いた場合、反応混合物を濃縮器スピンチューブ(Vivaspin4、50kDa MWCO、Sartorius Stedim Biotech、ゲッティンゲン、ドイツ)に載せ、総体積が4mlになるまで0.9%NaClで希釈した。内容物を遠心分離により約10倍に濃縮した。濃縮物(C)を集め、直ちに測定した(t=0)。この精製方法の収率(Y)を濃縮物中の抗体結合212Pb活性の%割合として推定した。
【0149】
【数6】
【0150】
遠心濃縮器に載せた全活性(T)を、精製前に採取した反応混合物から取り出し、密封した試料から決定した。224Raと212Pbの平衡に達した、最初の測定の最低3日後(t=eq)に、すべての試料を再度測定し、濃縮物に残存する224Raの%割合を計算した。
【0151】
【数7】
【0152】
評価した代替精製法では、非結合放射性核種から放射性標識TCMC-トラスツズマブを分離するためにセファデックスG-25 PD-10カラム(ヘルスケアバイオサイエンスAB、Uppsala、スウェーデン)を使用した。カラムを、0.5%ウシ血清アルブミンを補充した少なくとも20mLのダルベッコPBSで洗浄した後、精製に使用した。粗反応混合物及び調合バッファーを加えた反応混合物をPD-10で精製した。反応混合物を調合バッファーと少なくとも10分間反応させて、添加前にEDTAが未結合放射性同位体と複合体を形成できるようにした。
【0153】
精製にPD-10カラムを使用する場合、試料をカラムの上部に載せ、追加の溶出バッファーを加える前にカラムベッドに完全に入るようにした。エッペンドルフチューブにそれぞれ1mLの少なくとも7つの画分を集めるまで、溶出過程を続けた。すべての画分の活性を直ちに測定した。放射性標識された抗体は、通常、画分3~5(F3~F5)に溶出された。これはTLC分析で確認された。本発明の方法の収率は、全添加212Pb活性に対するこれらの画分中の抗体結合212Pb活性の%割合であると推定された。
【0154】
【数8】
【0155】
PD-10カラムに載せた、全添加212Pb活性(T)を、精製の前に採取した反応混合物のアリコートから調製した密封標準試料から決定した。画分4の生成物のRCPは前述のITLC手順によって決定した。少なくとも3日後、試料を再測定し、画分3~5に残存する224Raの%割合を計算した。
【0156】
【数9】
【0157】
放射性核種とタンパク質画分との共溶出を評価するために、放射性標識及びPD-10精製を上記のように行ったが、TCMC結合トラスツズマブの代わりに非結合トラスツズマブを用いた実験を行った。7つの回収画分中の212Pbと212Biの存在は、60~110と520~640keVのウィンドウでの測定によって決定した。PD-10の精製が完了した5分後、20分後、1時間後、1日後、及び5日後の試料を測定することによって、壊変率も評価することができた。これは、520~640keVのウィンドウでのγ線活性が、208Tlに加えて212Biの存在を反映しているかどうかを確認するために必要であった。すべての試料が平衡に達した5日目の測定から、224Raの量を測定した。
【0158】
TCMCキレート剤によるα線放出212Pb娘核種212Biの保持
平衡状態にある224Ra溶液において、212Pb活性に対する212Bi活性の比はほぼ1に等しい。子孫核種と平衡状態にある密封した224Ra試料を、60~110keVと520~640keVのウィンドウの効率係数(efficiency factor)(Bq/cpm)を決定するための標準物質として使用した。EDTAでクエンチした反応混合物をPD-10精製した後、画分4を、精製終了の10分後、20分後、60分後、及び22時間後に測定した。さまざまな時点における212Bi対212Pbの比を、効率係数を用いて評価した。オンラインユニバーサル減衰計算機(online universal decay calculator)(http://www.wise-uranium.org/rcc.html)を使用して、212Biが存在しない純粋な212Pbの試料から、活性比が1に等しい試料までの範囲にある、異なる初期の212Bi対212Pb比に基づく時間の関数として理論的な212Bi対212Pb比を求めた。精製後直ちに画分4中のすべての活性が抗体複合体に結合したと仮定して、TCMC-キレート剤中に保持された212Biの部分の推定値は、実験的に決定された比を、異なる理論的な212Bi対212Pb比の内部増殖のプロットと比較することによって演繹することができた。
【0159】
結果及び考察
娘核種と平衡状態にある224Raの溶液中の212Pbを用いたTCMC-トラスツズマブの放射性標識が成功した。この手順によって、0.15mg/mLの抗体複合体で既に90%超のRCPをもつ生成物及び1mg/mL以上の高い濃度で95%超のRCPをもつ生成物が得られた。3つの標識実験において、生成物の免疫反応性画分を測定した。それは57~66%の範囲であり、212Pb-TCMC-トラスツズマブの免疫反応性に関して以前に論文報告された結果と一致している。
【0160】
標識は娘核種と平衡状態にある224Raの溶液中で行ったので、インキュベーションの間に212Biが存在することになる。したがって、永続平衡に達して212Biを構成した後、RCPを208Tlウィンドウでも測定した。この測定から、50~80の範囲の値が得られた。4mg/mlTCMC-トラスツズマブ濃度において、212Pbは反応の5分後に既に定量的に複合体を形成しており、80%を超える212Biも複合体を形成していたことが判明した。
【0161】
さまざまな範囲の抗体濃度にわたる212Pb標識の成功は、放射性免疫複合体の多様な比活性が得られうること示す。
【0162】
この研究は主に概念の証明を示すことを目的としていたので、臨床の現場で期待されるものと比較して比較的低い活性レベルが用いられた。したがって、放射性標識は、関連する臨床的な活性濃度をシミュレーションするために、非常に少量、典型的には30~130μLで実施した。少量であるために、使用した活性が低いにもかかわらず、最終生成物の比較的高い比活性を得ることが可能であった。この研究で達成された212Pb-TCMC-トラスツズマブの最高比活性は、約30MBq/mgであり、212Pb-TCMC-トラスツズマブを用いた最近の臨床試験で使用されたものに匹敵する。
【0163】
224Raの完全な壊変に際し、安定した208Pbが形成されるが、それはTCMCキレート剤への結合に関して212Pbと競合する可能性がある。ここで使用された活性レベルでは、208Pbの存在が、達成することが可能である比較的高い比活性に起因する放射性標識の収率に影響を及ぼしたということを示唆するものはなかった。しかし、より高い224Ra活性が使用され、以下の推定が行われた場合、状況は異なる可能性がある:100MBqの224Raの溶液中に1mgの標識された抗体を仮定する。これは、4×1015分子に相当し、1つの抗体当たり2~5つのTCMCキレート剤を想定でき、8~20×1015個の利用可能な鉛結合部位を与える。100MBqの224Raの完全な壊変は約4.5×1013個の208Pb原子を形成することになる。これらの数字は、これらの数字は、208Pbの存在が放射性標識の収率に有意な程度影響してはならないことを示している。
【0164】
この研究に記載の方法の所望の最終生成物は、純粋な212Pb標識TCMC-抗体の溶液である。所望の最終生成物を達成するために212Pb標識抗体複合体を含む溶液を精製して遊離224Ra及び他の非結合娘核種を除去した。遠心分離による精製と脱塩カラムによる精製の2つの異なる精製方法を評価した。両方法は、遊離イオン、結合していないキレート剤分子、及び塩などの低分子量化合物からの抗体-複合体のサイズに依存する分離に基づく。
【0165】
カチオン性224Ra及び他の非結合娘核種から212Pb-TCMC-トラスツズマブを分離するための遠心濃縮機の使用は、70.5±9.6%(n=6)の濃縮物中の抗体結合212Pb活性をもたらした。この手順に起因する212Pb標識トラスツズマブの約3分の1の損失は有意であるが、それでもPD-10カラム精製後の212Pb-TCMC-トラスツズマブの既報の収率(73±3%)と一致する。濃縮物中に残存する224Raの量は25.9±13.1%(n=6)であり、すなわち、放射性免疫複合体からの224Raの分離は75%しか完了しなかった。212Pb-TCMC-トラスツズマブの224Raに対する比は、1:1からわずかに約3:1に改善したが、これは212Pb標識放射性免疫複合体の生物医学的使用にとって満足のいく結果ではない。くわえて、我々は、より多くの量の抗体-複合体が適用された場合、精製後の濃縮物中に224Raがより高い%割合で残るというわずかな傾向に気付いた。この観察結果は、膜を通るイオンの濾過効率を低下させるタンパク質による膜の飽和又は詰まりを示しうる。
【0166】
PD-10ゲル濾過カラムを使用した場合、224Ra及び他の非結合娘核種からの212Pb-TCMC-トラスツズマブの分離が一段と成功した。PD-10のようなゲル濾過カラムの使用は、放射性標識抗体の精製に一般的であり、抗体含有溶液からの非結合放射性核種などの低分子量物質の迅速な除去を可能にする。212Pb-トラスツズマブの回収率は非常に好ましいものであり、反応混合物をEDTAでクエンチすることとは無関係に、画分3~5において約80%の収率であった。表3から、タンパク質複合体の大部分(約70%)が3~4mL(画分4)から溶出されたことも明らかである。これは、2.5~4.2mLから回収されたPD-10溶出液における収率が73%(1.7mL)であることを報告しているBaidooらと一致する。212Pb-TCMC-トラスツズマブを含有する溶液からの224Raの除去は非常に効率的であり、典型的には画分3~5に4%未満の224Raが残り、EDTAを使用して反応混合物をクエンチした場合、分離がより効率的である傾向があった。224Raが4.5mLの後に溶出し始めることがいくつかの実験で見られ、224Raの量を最小限にするために、画分5を分析から除外することを決定した。次いで、224Raのブレークスルーは、EDTAを用いた場合及び用いなかった場合で、0.9±0.8%及び2.7±3.6%に低下する可能性があったが、しかし、約5%の212Pb-TCMC-トラスツズマブの収率の控えめな低下を犠牲にして、それぞれ76.7±11.7%及び76.1±5.9%になった。画分4のITLC分析は、精製前と比較して212Pb-トラスツズマブのRCPの増加をもたらし、平均98±1%(n=8)であった。結果はすべて、224Ra/212Pb混合物から調製したPD-10精製212Pb-トラスツズマブの使用が実行可能であることを明らかに示している。
【0167】
224Ra溶液中の放射性核種のいずれかがトラスツズマブに非特異的に結合し、それによってタンパク質画分と共溶出するかどうかを調べるために実験を行い、そこでは、TCMC-トラスツズマブをトラスツズマブで置き換えたことを除いて、放射性標識プロトコール及びPD-10精製を通常通り行った。212Bi、212Pb、及び224Rの存在を、PD-10精製が完了した後のさまざまな時点で7つの回収画分を測定することによって評価した。60~110keV及び520~640keVのウィンドウにおける全活性の%割合をそれぞれ試験した。EDTAが存在しない場合、相当量(32%)の212Biが画分4と画分5の抗体と共溶出した。崩壊率から、このウィンドウ(520~640keV)で測定された活性は、親核種212Biの半減期とともに壊変するにつれて、212Biから208Tlへの内部増殖(in-growth)から明らかに生じることが分かる。
【0168】
EDTAを使用して反応混合物をクエンチした場合、212Biの共溶出は同じ画分で1.3%に減少した。EDTAが存在する場合、212Pbの共溶出はPD-10溶出液の画分3と画分4において重要ではなく、画分5では2%未満であった。EDTAが存在しない場合、画分3~5において、全212Pb活性の約5%が抗体と共溶出した。5日目の測定値からわかるように、224Raの共溶出はどちらの場合もごくわずかであった(0.7%未満)。まとめると、結果は、212Pbをベースとする放射性免疫複合体の調製に224Ra溶液を使用したとき、PD-10カラムでの精製前にEDTAを使用して反応混合物をクエンチすることは、生成物純度を最大にすることを明らかに示している。この手段は、抗体画分からの非特異的結合212Bi及び212Pbを除去すると同時に、最終生成物中に残存する224Raをより少なくする。
【0169】
TCMCにキレートされた212Pbが壊変する場合、212Biの最終的にどうなるかについての知識を持つことは興味深い。遊離212Biによって引き起こされる放射能毒性を回避するためには、212Biの実質的な部分が崩壊に際してTCMC-キレート剤によって保持されることが望ましい。Mirzadehらは、212Pbが崩壊したときに212Biの36%がDOTA-キレート剤から放出されることを見出し、複合体の分解は、励起された212Bi核から放出されたγ線からの内部変換によるものであると主張した。我々は、212Pbが崩壊するときにTCMC-キレート剤による212Biの保持についての対応する試験を見出さなかったので、我々のデータに基づいて推定を行った。我々は精製を終了した後のさまざまな時点でのPD-10精製生成物の画分4の212Bi対212Pb比を決定した。存在する212Biの初期量に依存して、212Bi/212Pb比は、核種が過度平衡状態にある最大プラトーに達する前に、程度の差はあるものの増加する。画分4のすべての活性が精製後直ちに抗体複合体に結合するという仮定の下、精製終了時から測定時まで間の212Pbからの212Biの内部増殖を考慮に入れて、最小でも212Biの60%が、212Pbの崩壊後にTCMC-キレート剤と結合していたと推定される。我々が見出した値は、DOTA-キレート剤による212Bi保持に関する既述のデータとよく一致している。TCMC-キレート剤の4つのN-ドナー原子及び4つのO-ドナー原子は、ビスマスとの良好な結合能をもたらすことになり、したがってTCMC-キレート剤の212Biの比較的高い保持は起こりそうにないと主張されている。
【0170】
今回の研究は、TCMC-結合モノクローナル抗体が、子孫との平衡状態にある224Raの溶液からの212Pbで効率的に標識できることを示す。4mg/mlのTCMC-トラスツズマブの濃度を用いた場合、わずか5分後に212Pbでの標識は定量的であろう。この濃度では、212Biの大部分が抗体複合体によってキレート化されることになることも観察された。その後続いて、212Pb標識複合体は、脱塩ゲル排除分離を用いてカチオン性の224Raから分離することができる。(最大で2週間にわたって)数回溶出できるイオン交換に基づく現在のジェネレータとは対照的に、ここに記載の212Pbジェネレータは、単回投与量のみの調製のために設計されている。
【0171】
ここで提案する方法では、すぐに使える224Ra溶液を集中供給者元からエンドユーザーに出荷することができる。これは、ロジスティックの観点からも、エンドユーザーに必要な作業が軽減され、簡素化されるので、有益である。我々は、放射能レベルが高い濃縮酸溶液の取扱いと蒸発を伴うステップが、病院又は放射性医薬取り扱い薬局(radiopharmacy)の設定で完全に回避できることが、本発明の方法の利点であると考えている。酸消化手順を排除することに伴うさらなる利点は、実施される必要があるのが、実際の抗体の標識及び精製のみであるため、病院での総調製時間が短くなることであろう。Baidooらは、この方法のこの部分は、注射による投薬の総調製時間約210分のうちのわずか80分を必要とすることを報告した。より短い調製時間は、壊変によって引き起こされる活性損失を減らし、したがって、患者に投与される212Pbの量の増加につながる。これは、注射時に製品中の遊離娘核種の量を制限すること及び抗体の放射線分解に伴う潜在的な問題のリスクを最小限にすることの両方に有益である。
【0172】
抗体の放射性標識のための提案の方法の評価において、放射線安全要求事項に対処することも重要である。α線放出放射性核種のオープンソースにかかわるすべての手順と同様に、吸入や摂取を避けるために事前に注意を払わなければならない。したがって、すべての取扱いは、作業者を保護するために、バイオセーフティーベンチ又は陰圧下のグローブボックスのいずれかで行われるべきである。これは特に、224Ra系列を取り扱う場合、220Rnが娘核種の1つであるので重要である。さらに、作業スペースを適切に遮蔽する必要がある。224Raの娘核種の1つは208Tlであり、基本的に必要とされる遮蔽材の厚さを決定することになる放出率36%の2.6MeVの高エネルギーγ線を有する。Baidooらには、224Raの最大で740MBqmまでの活性に対する適切な遮蔽材は約15cmの鉛であることが記載されている。娘核種と平衡状態にある、この活性をもつ224Raの点線源から30cmの距離での線量率は、15cmの鉛遮蔽材を使用した場合、約1600から3μSv/hに減少することになる。我々がここで提示した212Pbジェネレータ溶液は、単回患者投与量の調製を目的としているので、遮蔽の要件がBaidooらによって記載されたものを超えることになるのが妥当であるとは我々は考えない。Baidooらによって提示された方法に従って作業する場合のカラム上でのみではなく、我々の方法で224Raが精製するまでが存在したとしても、これは、系列のγ線活性の99%が212Pb及び娘核種、特に208Tlからの前述の高エネルギーγ線に由来するので、遮蔽要件を変更しないであろう。Baidooらによって記載の方法に含まれる蒸発ステップは、グローブボックス又はある種の閉鎖系で実施すべきであり、そこで空気中の放射性汚染物質を生み出すリスクを最小限に抑えるために蒸気が集められ、この過程に専用の設備を必要とすることになる。我々の提案する方法にはそのような設備は必要ないであろう。
【0173】
考察で前述のように、今回の研究は比較的低い活性レベルで実施した。より高い、臨床に関連する活性の224Ra溶液を使用する場合に放射線曝露の問題が生じる可能性がある。放射性標識反応において純粋な212Pbの代わりに212Pbと平衡状態にある224Raを使用することの潜在的な欠点は、α粒子活性の増加による反応溶液への放射線量の増加である。抗体-複合体への放射線曝露は、放射性標識手順の間に最も高くなる可能性が高い。その時点で、224Ra及びすべての子孫核種は線量に寄与することになるが、精製後は主に212Pb及び娘核種から出る線量であることになる。212Pbと娘核種の壊変から放出されるわずか8.8MeVと比較して、224Raと子孫核種からの全壊変エネルギー(光子を除く)は27.8MeVである。抗体を高放射線量に曝露するために、30分間のインキュベーション時間の後、我々は、約700Gyの線量が達成されるまで、212Pb標識TCMC-トラスツズマブを224Ra溶液中に平衡状態で保存し続けた。サイズ排除HPLCを用いた分析は、未変化のTCMC-トラスツズマブと一致する時点で総放射能の96%を含むピークを示し、1.3及び2.9%未満がそれぞれ、より高い分子量及びより低い分子量の化合物に関連していた。700Gyに曝露された212Pb-TCMC-トラスツズマブも、280nmでの吸収の検出を用いて非標識TCMC-トラスツズマブと比較した。放射性標識された抗体を分析すると、結果はIgGよりも低い分子量化合物のピークを示した。
【0174】
このピークは約11%を占め、非標識TCMC-トラスツズマブでは見られなかった。したがって、タンパク質の放射線分解によって生じている可能性が高い。高分子種の量は2つの試料間で類似していた(1.6%未満)。しかし、抗体の画分に対する明らかな放射線分解損傷は、生成物の免疫反応性画分に影響しないようであった。100及び700Gyに曝露した212Pb標識TCMC-トラスツズマブの2つの試料をPD-10カラムで精製した。画分4の免疫反応性は、それぞれ60及び57%であると決定された。どちらの場合も非特異的結合は低かった(3%未満)。これは、抗体の細胞結合画分を有意に減少させることなく最大で1000Gyまでの曝露が許容された文献の結果と一致している。
【0175】
まとめると、高線量での放射線分解の可能性に関する試験は、抗体に対する線量を700Gy未満に保つべきであることを示している。腹腔内投与212Pb-TCMC-トラスツズマブの第I相試験では、患者が受けた最高線量は27.4MBq/m2であった。成人がん患者の研究で見出された平均体表面積1.79m2を用いることによって、この線量は患者当たり49MBqに相当する。この活性を有する患者線量を調製するために、100MBqの224Raの活性が充分であると仮定することは合理的である。これは、Pb-TCMC-トラスツズマブを第I相試験で患者に投与した212Pb-TCMC-トラスツズマブの最高線量の約2倍に相当するからである。PD-10ゲル排除精製フォーマットと適合する1.5mLの反応体積で100MBqの224Raを用いて30分間標識する間の抗体溶液に対する放射線量は、534Gyと推定された。これらの計算に基づいて、本明細書に記載の方法は、高い活性レベルが使用される臨床の現場においても有用でありうることが予測される。
【0176】
224Raに対する212Pbの純度は、212Pb標識放射性免疫複合体に関する重要な品質パラメーターである。この論文で提案されているその場での(in situ)標識方法が現行のプロトコールの実行可能な代替法であるためには、最終生成物中の224Raの許容限度を定義するのに熟考が必要である。幸いにも、224Raは動物とヒトの両方で広範に研究されており、毒性プロフィールはよく知られている。他のラジウム放射性同位体と同様に、静脈注射後、224Raは主に骨に沈着する。その本来備わっている骨親和性のために、1940年代に既に強直性脊椎炎の対症療法として導入された。これは数十年(1990年まで)使用され、その後2000年から2005年の間に別の製造元が同じ適応症に対して一時的に再導入した。週に1回の1MBqの注射の合計10回の注射までの導入が成人患者の治療レジメンとしてとして使用されており、国際放射線防護委員会が提案するモデルに従って行った線量計算は、224Ra二塩化物の静脈注射後の吸収線量は骨表面及び赤色骨髄で最も高いことを示した。この投与量を受けた約1000人の患者を含む報告から、そのような量の224Ra二塩化物は、無視できない骨髄毒性なしに投与できることが示されている。これらの歴史的データは、212Pb生成物自体が高い程度の骨髄毒性を引き起こさない限り、投薬1回当たり1MBq又は累積で計10MBqの224Raは、成人患者に許容されうることを示す。
【0177】
腹腔内投与された212Pb-TCMC-トラスツズマブの第I相試験において、有意な骨髄抑制は見出されなかった。ここで得られた結果から、EDTAを使用してPD-10精製前に反応混合物をクエンチした場合、最終生成物中の224Rの残存量を1%未満に保つことができた。これは、50MBqの212Pbをベースとする生成物を与えられた患者に投与された0.5MBqの224Raに相当する。約49MBqの患者線量が、前述の第I相試験で投与された212Pb-TCMC-トラスツズマブ(27.4MBq/m2)の最高線量であった。まとめると、これらの推定値は、224Ra溶液から調製した212Pb標識放射性免疫複合体の最終生成物中の224Raに対する212Pbの充分な純度が、投与1回当たり最大で1MBqの224Raが許容量であるという前提のもとで達成されうることを示す。
【0178】
結論
今回の研究は、212Pbをベースとする放射性免疫複合体を作製するための出荷可能なジェネレータ溶液としての224Ra溶液の利便性を示す。本発明の212Pb標識複合体の生成は、現在のイオン交換に基づく方法と比較して、エンドユーザーにとって使用が容易で且つ費やす時間が少ない。