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特許7176990剥離剤組成物の塗布液およびセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】剥離剤組成物の塗布液およびセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20221115BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221115BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20221115BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20221115BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221115BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20221115BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20221115BHJP
【FI】
C09D183/04
B32B27/00 101
B32B27/00 L
B05D5/00 A
B05D7/00 H
B05D7/24 302Y
C08L83/04
C09D7/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019060410
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158657
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】梶間 篤人
(72)【発明者】
【氏名】市川 慎也
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141551(WO,A1)
【文献】特開2012-207126(JP,A)
【文献】特開2015-193171(JP,A)
【文献】特開2003-192987(JP,A)
【文献】国際公開第2015/058398(WO,A1)
【文献】特開2011-252142(JP,A)
【文献】特開2017-066194(JP,A)
【文献】特開2016-098286(JP,A)
【文献】特開平6-322295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/04
B32B 27/00
B05D 5/00
B05D 7/00
B05D 7/24
C08L 83/04
C09D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が7万以上、14万以下であるポリオルガノシロキサン(A)と、
重量平均分子量が40万以上、60万以下であるポリオルガノシロキサン(B)と、
分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)と
を含有し、
前記ポリオルガノシロキサン(A)、前記ポリオルガノシロキサン(B)および前記分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対する前記ポリオルガノシロキサン(A)の固形成分比率が75質量%以上、85質量%以下であり、
前記ポリオルガノシロキサン(B)および前記分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対する前記ポリオルガノシロキサン(B)の固形成分比率が30質量%以上、70質量%以下である
剥離剤組成物を、有機溶媒で固形分濃度2.5質量%以上、3.5質量%以下に希釈してなることを特徴とする剥離剤組成物の塗布液。
【請求項2】
前記有機溶媒は、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物の塗布液。
【請求項3】
基材と、前記基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムにおける前記剥離剤層を形成するために用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の剥離剤組成物の塗布液。
【請求項4】
基材と、前記基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の剥離剤組成物の塗布液を前記基材の片側に塗布し、前記基材の片側上に塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜中に含まれる前記有機溶媒を乾燥させ、乾燥後塗膜を形成する乾燥工程と、
前記乾燥後塗膜を硬化させ、前記剥離剤層を形成する硬化工程と
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程において、前記乾燥後塗膜の単位面積当たりの質量が0.06g/m以上、0.12g/m以下となるように、前記塗布液を塗布することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートを製造する工程で使用する剥離フィルムに関するものであり、特に、当該剥離フィルムの製造に使用することができる剥離剤組成物の塗布液、および当該剥離フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板といった積層セラミック製品を製造するには、セラミックグリーンシートを成形し、得られたセラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することが行われている。
【0003】
セラミックグリーンシートは、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを剥離フィルム上に塗工することにより成形される。剥離フィルムには、当該剥離フィルム上に成形した薄いセラミックグリーンシートを当該剥離フィルムから、変形、破断等が生じることなく、適度な剥離力により剥離できる剥離性が要求される。また、剥離フィルムには、セラミックスラリーを塗工し乾燥させたときに、セラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生しないよう、セラミックスラリーを塗工する面(セラミックスラリー・セラミックグリーンシートと接する面;以下「剥離面」という場合がある。)における平滑性が要求される。
【0004】
上述した剥離フィルムとしては、基材と、当該基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えたものが通常使用される。当該剥離剤層は、剥離剤組成物を有機溶媒で希釈してなる剥離剤組成物の塗布液を、上記基材の片側に塗布し、得られた塗膜を乾燥および硬化させることで形成される。このような剥離剤組成物の塗布液の例として、特許文献1には、所定のポリオルガノシロキサンや反応触媒等を有機溶媒に希釈してなる塗布液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-532312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した剥離フィルムの製造コストを抑える観点からは、剥離剤組成物を希釈するための有機溶媒の使用量を低減することが有効である。しかしながら、有機溶媒の使用量を低減した場合、塗布液中の固形分濃度が上昇し、それに伴って塗布液の粘度も上昇する。さらに、塗布液中の固形分濃度が高くなることに伴い、所定の厚さの剥離剤層を形成しようとしたときに、有機溶媒の使用量を低減する前と比較して、塗膜を薄く形成しなければならなくなる。
【0007】
上述のように、より粘度が高い塗布液を用いて、厚さのより薄い塗膜を形成しようとすると、塗布の際に使用する塗工バーによる溝状のスジが塗膜表面に残ったり、剥離剤組成物中の成分の凝集による微細な凹凸が塗膜表面に生じ易い。その結果、得られる剥離フィルムの剥離面が、十分な平滑性を有しないものとなってしまう。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、有機溶媒の使用量の低減を実現しながらも、優れた平滑性および剥離性を達成できるセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを製造することが可能な剥離剤組成物の塗布液、およびそのようなセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、重量平均分子量が7万以上、14万以下であるポリオルガノシロキサン(A)と、重量平均分子量が40万以上、60万以下であるポリオルガノシロキサン(B)と、分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)とを含有し、前記ポリオルガノシロキサン(A)、前記ポリオルガノシロキサン(B)および前記分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対する前記ポリオルガノシロキサン(A)の固形成分比率が75質量%以上、85質量%以下であり、前記ポリオルガノシロキサン(B)および前記分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対する前記ポリオルガノシロキサン(B)の固形成分比率が30質量%以上、70質量%以下である剥離剤組成物を、有機溶媒で固形分濃度2.5質量%以上、3.5質量%以下に希釈してなることを特徴とする剥離剤組成物の塗布液を提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)は、上述した組成を有する剥離剤組成物を、有機溶媒を用いて固形分濃度を2.5質量%以上、3.5質量%以下に希釈したものであることにより、有機溶媒の使用量を低減しながらも、優れた平滑性および剥離性を有するセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを製造することができる。
【0011】
上記発明(発明1)において、前記有機溶媒は、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒であることが好ましい(発明2)。
【0012】
上記発明(発明1,2)においては、基材と、前記基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムにおける前記剥離剤層を形成するために用いられることが好ましい(発明3)。
【0013】
第2に本発明は、基材と、前記基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法であって、前記剥離剤組成物の塗布液(発明1~3)を前記基材の片側に塗布し、前記基材の片側上に塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜中に含まれる前記有機溶媒を乾燥させ、乾燥後塗膜を形成する乾燥工程と、前記乾燥後塗膜を硬化させ、前記剥離剤層を形成する硬化工程とを含むことを特徴とする製造方法を提供する(発明4)。
【0014】
上記発明(発明4)においては、前記塗布工程において、前記乾燥後塗膜の単位面積当たりの質量が0.06g/m以上、0.12g/m以下となるように、前記塗布液を塗布することが好ましい(発明5)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る剥離剤組成物の塗布液によれば、有機溶媒の使用量の低減を実現しながらも、優れた平滑性および剥離性を達成できるセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを製造することができる。また、本発明に係る製造方法によれば、そのようなセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.剥離剤組成物の塗布液
本実施形態に係る剥離剤組成物の塗布液(以下、単に「塗布液」という場合がある。)は、剥離剤組成物を有機溶媒で固形分濃度2.5質量%以上、3.5質量%以下に希釈してなるものである。
【0017】
上述した剥離剤組成物は、重量平均分子量が7万以上、14万以下であるポリオルガノシロキサン(A)と、重量平均分子量が40万以上、60万以下であるポリオルガノシロキサン(B)と、分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)とを含有する。
【0018】
また、上述した剥離剤組成物では、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(A)の固形成分比率が、75質量%以上、85質量%以下である。
【0019】
さらに、上述した剥離剤組成物では、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(B)の固形成分比率が、30質量%以上、70質量%以下である。
【0020】
本実施形態に係る塗布液における上述した固形分濃度は、比較的高い値となっている。そのため、本実施形態に係る塗布液を製造するために必要となる有機溶媒の量は、従来と比較して少ないものとなる。その結果、本実施形態に係る塗布液の製造コスト、さらには当該塗布液を用いて製造される剥離フィルムの製造コストを効果的に低減することが可能となる。
【0021】
そして、本実施形態に係る塗布液では、剥離剤組成物が、上述したポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)を上述した配合量で含有するものであることにより、塗布液の固形分濃度が比較的高いにもかかわらず、平滑性に優れた剥離面を有する剥離フィルムを製造することができる。このように優れた平滑性を達成できる理由としては、以下が考えられる。但し、以下の理由のみに限定されるものではない。
【0022】
1つ目の理由として、本実施形態に係る塗布液では、塗膜の乾燥の際に、当該塗膜を構成する塗布液の粘度が過度に上昇し難いことが挙げられる。通常、塗膜を乾燥させる際には、有機溶媒の揮発が進行し、それに伴い、塗膜を構成する塗布液の粘度が上昇する。しかしながら、本実施形態に係る塗布液によれば、剥離剤組成物の組成が上述したものであることにより、そのような粘度の上昇が生じ難い。その結果、乾燥工程においても塗膜のレベリングが良好に生じ、塗膜表面の平滑化が生じ易くなる。特に、塗布液の塗布の際に塗工スジが生じていた場合であっても、当該塗工スジが良好に消失するものとなる。
【0023】
2つ目の理由として、本実施形態に係る塗布液では、剥離剤組成物中の成分の凝集が生じ難いことが挙げられる。本実施形態における剥離剤組成物は、上述したポリオルガノシロキサン(A)およびポリオルガノシロキサン(B)を上述した配合量で含有したものであることにより、塗膜の乾燥工程等において、剥離剤組成物中の成分の凝集が良好に抑制される。その結果、得られる剥離面における微細な凹凸の発生が抑制される。
【0024】
以上のように、本実施形態に係る塗布液によれば、少なくとも塗工スジおよび微細凹凸の発生を抑制することが可能となり、その結果、平滑性に優れる剥離面を有する剥離フィルムを製造することができる。
【0025】
(1)ポリオルガノシロキサン(A)
本実施形態におけるポリオルガノシロキサン(A)は、重量平均分子量が7万以上、14万以下であるとともに、下記の一般式(a)で示されるケイ素含有化合物の重合体である。
【化1】
【0026】
式(a)中、mは1以上の整数である。また、式(a)中、R~Rは、アルキル基、アリール基またはアルケニル基であることが好ましい。なお、R~Rは同一であっても異なっていてもよい。また、RおよびRが複数存在する場合、RおよびRは、繰り返し単位間で同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
上記アルキル基としては、炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。これらの中でも、上記アルキル基はメチル基であることが好ましい。
【0028】
上記アリール基としては、炭素数6~8のアリール基であることが好ましく、例えば、フェニル基、メチルフェニル基等が挙げられる。
【0029】
上記アルケニル基の好ましい例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられる。これらの中でも、上記アルケニル基はビニル基であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(A)がアルケニル基を有する場合、ポリオルガノシロキサン(A)とその他の成分とが架橋構造を形成すること可能となる。当該架橋構造を形成する際の反応性を向上させ易いという観点から、ポリオルガノシロキサン(A)がアルケニル基を有する場合には、ポリオルガノシロキサン(A)は、側鎖にアルケニル基を有することが好ましい。すなわち、R~Rの少なくとも1個がアルケニル基であることが好ましい
【0030】
ポリオルガノシロキサン(A)において、式(a)におけるR~Rの少なくとも1個がアルケニル基である場合、R~Rを構成する全ての官能基に対するアルケニル基の比率(以下、「アルケニル基比率」という場合がある。)は、1モル%以上であることが好ましく、特に2モル%以上であることが好ましく、さらには3モル%以上であることが好ましい。また、50モル%以下であることが好ましく、特に40モル%以下であることが好ましく、さらには30モル%以下であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(A)が上記比率でアルケニル基を有することで、形成される剥離剤層中において、ポリオルガノシロキサン(A)とその他の成分とが良好な架橋構造を形成し易いものとなる。
【0031】
また、上記式(a)においては、R~Rの少なくとも1個が、有機基であってもよい。なお、本明細書における「有機基」とは、上述したアルキル基、アリール基およびアルケニル基を含まない基をいう。このような有機基の例としては、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン等の繰り返し構造をもつ有機基が挙げられる。このような有機基では、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン等のそれぞれの片末端の原子がポリオルガノシロキサン(A)の末端または鎖中のケイ素原子に結合したものとなる。
【0032】
本実施形態におけるポリオルガノシロキサン(A)の重量平均分子量は、前述した通り14万以下である。ポリオルガノシロキサン(A)の重量平均分子量が14万を超えると、塗膜の乾燥の際に、当該塗膜を構成する塗布液の粘度が過度に上昇してしまう。これにより、塗膜のレベリングが生じ難くなり、塗膜表面に生じた塗工スジを良好に消失させることができないものとなる。このような問題をより回避し易い観点から、ポリオルガノシロキサン(A)の重量平均分子量は、13万以下であることが好ましく、特に12万以下であることが好ましく、さらには11万以下であることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態におけるポリオルガノシロキサン(A)の重量平均分子量は、前述した通り7万以上である。ポリオルガノシロキサン(A)の重量平均分子量が7万未満であると、塗布液の粘度が過度に低いものとなる。この傾向は、塗膜の乾燥の際に、有機溶媒の揮発が進行した場合にも当てはまる。そのため、塗膜において、ポリオルガノシロキサン(A)同士およびポリオルガノシロキサン(A)とその他の成分との凝集が生じ易くなり、形成される剥離剤層の表面には、微細な凹凸が発生してしまう。このような問題をより回避し易い観点から、ポリオルガノシロキサン(A)の重量平均分子量は、8万以上であることが好ましく、特に9万以上であることが好ましい。
【0034】
なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0035】
本実施形態における剥離剤組成物中のポリオルガノシロキサン(A)の配合量に関し、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(A)の固形成分比率は、前述した通り75質量%以上、85質量%以下である。上記固形成分比率が上記範囲であることで、優れた平滑性と優れた剥離性とを両立することが可能となる。この観点から、上記固形成分比率は、特に78質量%以上であることが好ましい。また、上記固形成分比率は特に82質量%以下であることが好ましい。
【0036】
(2)ポリオルガノシロキサン(B)
本実施形態におけるポリオルガノシロキサン(B)は、重量平均分子量が40万以上、60万以下であるとともに、前述した一般式(a)で示されるケイ素含有化合物の重合体である。
【0037】
ポリオルガノシロキサン(B)に係る式(a)における、mの値およびR~Rの構造は、それぞれポリオルガノシロキサン(A)について前述したものと同様である。
【0038】
なお、ポリオルガノシロキサン(B)において、式(a)におけるR~Rの少なくとも1個がアルケニル基である場合、アルケニル基比率は、1モル%以上であることが好ましく、特に2モル%以上であることが好ましく、さらには3モル%以上であることが好ましい。また、上記比率は、50モル%以下であることが好ましく、特に40モル%以下であることが好ましく、さらには30モル%以下であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(B)が上記比率でアルケニル基を有することで、形成される剥離剤層中において、ポリオルガノシロキサン(B)とその他の成分とが良好な架橋構造を形成し易いものとなる。
【0039】
本実施形態におけるポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、前述した通り60万以下である。ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量が60万を超えると、塗膜の乾燥の際に、当該塗膜を構成する塗布液の粘度が過度に上昇してしまう。これにより、塗膜のレベリングが生じ難くなり、塗膜表面に生じた塗工スジを良好に消失させることができないものとなる。このような問題をより回避し易い観点から、ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、55万以下であることが好ましく、特に50万以下であることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態におけるポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、前述した通り40万以上である。ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量が40万未満であると、塗布液の粘度が過度に低いものとなる。この傾向は、塗膜の乾燥の際に、有機溶媒の揮発が進行した場合にも当てはまる。そのため、塗膜において、ポリオルガノシロキサン(B)同士およびポリオルガノシロキサン(B)とその他の成分との凝集が生じ易くなり、形成される剥離剤層の表面には、微細な凹凸が発生してしまう。このような問題をより回避し易い観点から、ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、特に45万以上であることが好ましい。
【0041】
本実施形態における剥離剤組成物中のポリオルガノシロキサン(B)の配合量に関し、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(B)の固形成分比率は、前述した通り70質量%以下である。上記固形成分比率が70質量%を超えると、塗膜の乾燥の際に、当該塗膜を構成する塗布液の粘度が過度に上昇してしまう。これにより、塗膜のレベリングが生じ難くなり、塗膜表面に生じた塗工スジを良好に消失させることができないものとなる。このような問題をより回避し易い観点から、上記固形成分比率は、65質量%以下であることが好ましく、特に60質量%以下であることが好ましい。
【0042】
また、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(B)の固形成分比率は、前述した通り30質量%以上である。上記固形成分比率が30質量%未満であると、塗布液の粘度が過度に低いものとなる。この傾向は、塗膜の乾燥の際に、有機溶媒の揮発が進行した場合にも当てはまる。そのため、塗膜において、ポリオルガノシロキサン(B)同士およびポリオルガノシロキサン(B)とその他の成分との凝集が生じ易くなり、形成される剥離剤層の表面には、微細な凹凸が発生してしまう。このような問題をより回避し易い観点から、上記固形成分比率は、35質量%以上であることが好ましく、特に40質量%以上であることが好ましい。
【0043】
さらに、本実施形態における剥離剤組成物中のポリオルガノシロキサン(B)の配合量に関し、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(B)の固形成分比率は、5質量%以上であることが好ましい。また、上記固形成分比率は、15質量%以下であることが好ましい。上記固形成分比率が上記範囲であることで、優れた平滑性と優れた剥離性とを両立し易いものとなる。
【0044】
(3)分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)
本実施形態における分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)は、オルガノシロキサン骨格を含む分岐鎖を有するオルガノシロキサンオリゴマーであり、下記の一般式(b)で示される。本実施形態に係る塗布液では、剥離剤組成物が分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)を含有することにより、塗布液を用いて形成される剥離剤層が比較的高い弾性率を有し易いものとなり、それにより、所望の剥離性を達成することが可能となる。
【化2】
【0045】
式(b)中、p、q、rおよびsは1以上の整数である。また、Rの少なくとも2個はアルケニル基であることが好ましい。分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)がアルケニル基を有することで、分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)同士および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)とその他の成分との間で良好な架橋構造を形成し易いものとなり、それにより、形成される剥離剤層の弾性率をより向上させ易くなる。なお、分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)が、Rとしてアルケニル基を有する場合、当該アルケニル基が存在する部位は、主鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよいし、それら両方であってもよい。
【0046】
上記アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられ、中でもビニル基が好ましい。
【0047】
分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)において、式(b)におけるRの少なくとも1個がアルケニル基である場合、アルケニル基比率は、1モル%以上であることが好ましく、特に2モル%以上であることが好ましく、さらには3モル%以上であることが好ましい。また、上記比率は、50モル%以下であることが好ましく、特に45モル%以下であることが好ましく、さらには40モル%以下であることが好ましい。分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)が上記比率でアルケニル基を有することで、良好な架橋構造を効果的に形成し易いものとなる。
【0048】
Rにおけるアルケニル基以外の官能基は限定されないものの、好ましい例としては、炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。炭素数1~12のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。なお、各Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、特に2,000以上であることが好ましく、さらには3,000以上であることが好ましい。また、上記重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましく、特に50,000以下であることが好ましく、さらには10,000以下であることが好ましい。分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の重量平均分子量が上記範囲であることで、塗布液を用いて形成される剥離剤層の弾性率を比較的高い値に調整し易いものとなる。
【0050】
本実施形態における剥離剤組成物中の分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の配合量に関し、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対する分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の固形成分比率は、5質量%以上であることが好ましい。また、上記固形成分比率は、15質量%以下であることが好ましい。上記固形成分比率が上記範囲であることで、優れた平滑性と優れた剥離性とを両立し易いものとなる。
【0051】
(4)その他の成分
本実施形態における剥離剤組成物は、上述したポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の他に、架橋剤、触媒、反応抑制剤、密着向上剤等のその他の成分を含有してもよい。
【0052】
ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)または分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の少なくとも1種がアルケニル基を有する場合、本実施形態における剥離剤組成物は架橋剤を含有することが好ましい。これにより、形成される剥離剤層において架橋構造が良好に形成され、剥離剤層が比較的高い弾性率を有するものとなる。その結果、得られる剥離フィルムが、所望の剥離性を有し易いものとなる。
【0053】
上記架橋剤としては、上述した架橋構造を形成できる限り特に限定されないものの、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)以外の、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノシロキサンを使用することが好ましい。かかるポリオルガノシロキサンとしては、例えば、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等のポリオルガノハイドロジェンシロキサンが挙げられる。
【0054】
上記架橋剤としてのポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、500以上であることが好ましく、特に1000以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、5000以下であることが好ましく、特に2000以下であることが好ましい。
【0055】
本実施形態における剥離剤組成物が架橋剤を含有する場合、剥離剤組成物中における架橋剤(D)の含有量は、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)が含有するアルケニル基のモル量の合計に対する、架橋剤(D)が含有するヒドロシリル基等の架橋性官能基のモル量の比が、1.0以上であることが好ましく、特に1.5以上であることが好ましく、さらには1.8以上であることが好ましい。また、上記比は、5.0以下であることが好ましく、特に3.0以下であることが好ましく、さらには2.0以下であることが好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲であることで、形成される剥離剤層において良好な架橋構造を形成し易いものとなる。
【0056】
触媒としては、本実施形態における剥離剤組成物を硬化させることができるものであれば特に限定されないが、中でも白金族金属系化合物が好ましい。白金族金属系化合物としては、例えば、微粒子状白金、炭素粉末担体上に吸着された微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム等が挙げられる。剥離剤組成物がかかる触媒を含有することで、当該剥離剤組成物の硬化反応をより効率良く進行させることができる。
【0057】
本実施形態における剥離剤組成物が触媒を含有する場合、当該触媒の含有量は、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、特に2質量部以上であることが好ましく、さらには5質量部以上であることが好ましい。また、触媒の含有量は、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、特に15質量部以下であることが好ましく、さらには10質量部以下であることが好ましい。触媒の含有量が上記範囲であることで、剥離剤組成物の硬化をより効率良く進行させ易くなる。
【0058】
(5)有機溶媒
本実施形態における有機溶媒としては、剥離剤組成物を希釈することができる限り特に限定されず、例えば、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素化合物、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等を使用することができる。
【0059】
また、本実施形態における有機溶媒としては、上述した有機溶媒の混合物を使用してもよく、特に、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を使用することが好ましい。当該混合溶媒における、トルエンとメチルエチルケトンとの好ましい比率としては、トルエンとメチルエチルケトンとの合計量に対するトルエンの含有量の割合が、10質量%以上であることが好ましく、特に20質量%以上であることが好ましい。また、上記割合は、50質量%以下であることが好ましく、特に40質量%以下であることが好ましい。
【0060】
(6)塗布液の粘度
本実施形態における粘着剤組成物は、有機溶媒を用いて固形分濃度30質量%に希釈して得られる塗布液の粘度が、200mPa・s以下であることが好ましく、特に190mPa・s以下であることが好ましく、さらには180mPa・s以下であることが好ましい。ここで、固形分濃度30質量%の塗布液の粘度は、塗膜を乾燥させる際における、当該塗膜を構成する塗布液の粘度の指標とすることができる。上述した粘度が200mPa・s以下であることで、本実施形態に係る塗布液を用いて形成された塗膜は、乾燥工程の際にレベリングが良好に生じ易いものとなり、それにより塗工スジを消失させ易いものとなる。一方、上述した粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、特に110mPa・s以上であることが好ましく、さらには120mPa・s以上であることが好ましい。上述した粘度が100mPa・s以上であることで、本実施形態に係る塗布液中および当該塗布液を用いて形成される塗膜中において、成分の凝集を効果的に抑制することができ、その結果、形成される剥離剤層の表面における微細な凹凸の発生を抑制し易くなる。なお、上述した粘度は、B型粘度計を用いて、測定温度:23℃、スピンドル:L2、回転数:60rpmの条件で測定したものである。なお、その測定方法の詳細は後述する試験例に記載されている。
【0061】
上述した固形分濃度30質量%に希釈した場合の粘度を満たし易いものとする観点から、本実施形態に係る塗布液の粘度は、0.5mPa・s以上であることが好ましく、特に0.6mPa・s以上であることが好ましい。また、本実施形態に係る塗布液の粘度は、0.8mPa・s以下であることが好ましく、特に0.7mPa・s以下であることが好ましい。なお、上述した粘度は、振動式粘度計を用いて、測定温度:23℃で測定したものである。
【0062】
(7)塗布液の調製方法
本実施形態に係る塗布液は、前述した剥離剤組成物を有機溶媒で希釈することで得ることができる。この場合、剥離剤組成物の各成分を予め混合した後に、それらを有機溶媒で希釈してもよく、あるいは、剥離剤組成物の各成分を順に有機溶媒に添加し、希釈してもよい。
【0063】
また、前述した白金系触媒のように、有機溶媒に対して溶解し難い成分を使用する場合には、それ以外の成分を均一に混合し、それらを有機溶媒で希釈した後に、溶解し難い成分をそこへ添加して十分に撹拌することで、本実施形態に係る塗布液を得てもよい。
【0064】
有機溶媒で希釈する際には、塗布液の固形分濃度が2.5質量%以上、3.5質量%以下となるように希釈する。
【0065】
本実施形態に係る塗布液は、固形分濃度が2.5質量%以上という比較的高い濃度であることにより、本実施形態に係る塗布液を調製するために必要となる有機溶媒の使用量を低減することができる。これにより、本実施形態に係る塗布液の製造コスト、および当該塗布液を使用して製造される剥離フィルムの製造コストを良好に低減することができる。この観点から、有機溶媒で希釈する際、塗布液の固形分濃度が2.6量%以上となるように希釈することが好ましく、特に2.7質量%以上となるように希釈することが好ましい。
【0066】
また、本実施形態に係る塗布液は、固形分濃度が3.5質量%以下であることにより、塗布液の粘度が過度に上昇することを避けることができ、塗工し易いものとなる。この観点から、有機溶媒で希釈する際、塗布液の固形分濃度が3.4質量%以下となるように希釈することが好ましく、特に3.3質量%以下となるように希釈することが好ましい。
【0067】
2.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム
本実施形態に係る塗布液は、剥離フィルムの製造に用いることが好適であり、特にセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造に用いることが好適である。このような剥離フィルムは、基材と、当該基材の片側に設けられた剥離剤層とを備えたものであることが好ましい。
【0068】
(1)基材
基材としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等によるセラミックスラリー塗工不良等を効果的に防止することができる。さらに、ポリエチレンテレフタレートフィルムに帯電防止処理を行うことで、塗工不良等を防止する効果を高めることができる。
【0069】
また、基材においては、その表面に設けられる剥離剤層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0070】
基材は、以下のような表面粗さを有するものであることが好ましい。なお、以下では、基材における剥離剤層が設けられる面(本実施形態に係る塗布液が塗布される面)を「第1の面」とし、当該第1の面とは反対側の面を「第2の面」とする。
【0071】
基材における第1の面の算術平均粗さ(Ra)は、10.0nm以下であることが好ましく、特に8.0nm以下であることが好ましく、さらには6.0nm以下であることが好ましい。基材の第1の面の算術平均粗さ(Ra)が10.0nm以下であることで、得られる剥離フィルムの剥離面が優れた平滑性を有し易いものとなる。なお、基材における第1の面の算術平均粗さ(Ra)の下限値については特に限定されず、例えば、1.0nm以上であることが好ましく、特に1.5nm以上であることが好ましく、さらには2.0nm以上であることが好ましい。
【0072】
基材における第1の面の最大突起高さ(Rp)は、80nm以下であることが好ましく、特に70nm以下であることが好ましく、さらには40nm以下であることが好ましい。基材の第1の面の最大突起高さ(Rp)が80nm以下であることで、得られる剥離フィルムの剥離面が優れた平滑性を有し易いものとなる。なお、基材における第1の面の最大突起高さ(Rp)の下限値については特に限定されず、例えば、10nm以上であることが好ましく、特に15nm以上であることが好ましく、さらには20nm以上であることが好ましい。
【0073】
基材における第2の面の算術平均粗さ(Ra)は、20nm以上であることが好ましい。基材の第2の面の算術平均粗さ(Ra)が20nm以上であることで、剥離フィルムをロール状に巻き取った際に、剥離面と基材の第2の面とが密着し難いものとなり、それによりブロッキングの発生を抑制し易いものとなる。一方、基材における第2の面の算術平均粗さ(Ra)は、30nm以下であることが好ましい。基材の第2の面の算術平均粗さ(Ra)が30nm以下であることで、基材の第2の面の最大突起高さ(Rp)を後述する範囲に調整し易いものとなる。
【0074】
基材における第2の面の最大突起高さ(Rp)は、800nm以下であることが好ましく、特に600nm以下であることが好ましく、さらには400nm以下であることが好ましい。通常、長尺の剥離フィルムを用いてセラミックグリーンシートを成形した場合には、セラミックグリーンシートが積層された状態で剥離フィルムを巻き取り、ロール体として搬送や保管が行われる。ここで、基材の第2の面の最大突起高さ(Rp)が800nm以下であることで、上記ロール体において、基材の第2の面の凹凸形状がセラミックグリーンシートに転写され、セラミックグリーンシートの厚みが部分的に薄くなることを抑制し易くなる。また、基材における第2の面の最大突起高さ(Rp)は、200nm以上であることが好ましく、特に250nm以上であることが好ましく、さらには300nm以上であることが好ましい。基材の第2の面の最大突起高さ(Rp)が200nm以上であることで、剥離フィルムを製造する際の基材のハンドリング性がより良好なものとなる。特に、長尺の基材をガイドロールで送る際に、第2の面とガイドロールとの界面における空気の巻き込みを抑制し易くなり、その結果、基材の蛇行を抑制し、基材や得られた剥離フィルムを巻き取る際の巻きズレを抑制し易いものとなる。
【0075】
さらに、基材における第2の面の算術平均粗さ(Ra)および最大突起高さ(Rp)が、共に上述した範囲である場合には、巻き取り時の巻きズレを効果的に抑制し易くなる。これにより、巻き取り張力を過度に高める必要がなくなり、巻き取り張力に起因する巻き芯部の変形を抑制し易くなる。
【0076】
なお、基材における上述した表面粗さは、光干渉式表面形状観察装置等を用いて測定することができ、例えば、後述する試験例における剥離面の表面粗さと同様に測定することができる。
【0077】
基材の厚さは、例えば、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、基材の厚さは、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには125μm以下であることが好ましい。
【0078】
(2)剥離剤層
上述した剥離剤層は、前述した剥離剤組成物の塗布液を用いて形成したものである。当該剥離剤層の厚さは、60nm以上であることが好ましく、特に70nm以上であることが好ましく、さらには80nm以上であることが好ましい。剥離剤層の厚さが60nm以上であることで、塗工時に溶剤がレベリングし、塗工スジがない塗工面を形成し易いものとなる。また、剥離剤層の厚さは、120nm以下であることが好ましく、特に110nm以下であることが好ましく、さらには100nm以下であることが好ましい。剥離剤層の厚さが120nm以下であることで、塗工時の溶剤揮発が速く、ポリオルガノシロキサンの凝集が抑えられ、微細な凹凸のない塗工面を形成し易いものとなる。
【0079】
(3)剥離フィルムの物性
上述した剥離フィルムにおける剥離面の算術平均粗さ(Ra)は、5nm以下であることが好ましく、特に4nm以下であることが好ましく、さらには2nm以下であることが好ましい。剥離面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下であることで、ピンホールや厚みむら等の欠陥の発生が抑制された、優れた性能を有するセラミックグリーンシートを製造し易いものとなる。なお、上記算術平均粗さ(Ra)の下限値は特に限定されず、例えば、1nm以上であることが好ましく、特に1.3nm以上であることが好ましく、さらには1.5nm以上であることが好ましい。
【0080】
また、剥離フィルムにおける剥離面の最大突起高さ(Rp)は、80nm以下であることが好ましく、特に60nm以下であることが好ましく、さらには30nm以下であることが好ましい。剥離面の最大突起高さ(Rp)が80nm以下であることで、ピンホールや厚みむら等の欠陥の発生が抑制された、優れた性能を有するセラミックグリーンシートを製造し易いものとなる。なお、上記最大突起高さ(Rp)の下限値は特に限定されず、例えば、10nm以上であることが好ましく、特に15nm以上であることが好ましく、さらには20nm以上であることが好ましい。
【0081】
なお、本実施形態に係る塗布液を用いることで、上述したような、比較的低い剥離面の算術平均粗さ(Ra)および最大突起高さ(Rp)を実現することができる。また、剥離面における上述した表面粗さの測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0082】
上述した剥離フィルムでは、剥離面上に成形されたポリビニルブチラールフィルムから当該剥離フィルムを剥離する際に要する剥離力を、適宜設定することができるものの、例えば、50mN/40mm以下であることが好ましく、特に45mN/40mm以下であることが好ましく、さらには40mN/40mm以下であることが好ましい。上記剥離力が50mN/40mm以下であることにより、剥離フィルム上で成形されたセラミックグリーンシートを容易に剥離し易いものとなる。また、上記剥離力は、10mN/40mm以上であることが好ましく、特に20mN/40mm以上であることが好ましく、さらに30mN/40mm以上であることが好ましい。上記剥離力が10mN/40mm以上であることにより、成形されたセラミックグリーンシートを剥離フィルム上に積層したまま搬送や保管する際に、セラミックグリーンシートが剥離フィルムからズレたり脱落したりすることを抑制し易くなる。上述した剥離フィルムは、本実施形態に係る塗布液を用いて製造されたものであるが、当該塗布液は前述した組成を有する剥離剤組成物を希釈してなるものであることにより、上述のような剥離力に容易に設定することができる。なお、上述した剥離力の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0083】
(4)剥離フィルムの製造方法
上述した剥離フィルムの製造方法は、限定されないものの、以下の塗布工程、乾燥工程および硬化工程を含む方法であることが好ましい。すなわち、好ましい製造方法は、本実施形態に係る剥離剤組成物の塗布液を基材の片側に塗布し、基材の片側上に塗膜を形成する塗布工程と、塗膜中に含まれる前述した有機溶媒を乾燥させ、乾燥後塗膜を形成する乾燥工程と、乾燥後塗膜を硬化させ、剥離剤層を形成する硬化工程とを含む。
【0084】
上記塗布工程において、塗布液を塗布する方法としては、従来公知の方法を使用することができ、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等を使用することができる。
【0085】
また、上記塗布工程において、塗布液を塗布する量としては、形成しようとする剥離剤層の厚さ等に基づいて適宜設定することができるものの、例えば、上記乾燥工程において得られる乾燥後塗膜の単位面積当たりの質量が、0.06g/m以上となるように塗布することが好ましく、特に0.07g/m以上となるように塗布することが好ましく、さらには0.08g/m以上となるように塗布することが好ましい。上記質量が0.06g/m以上となるように塗布することで、塗工液がレベリングする時間を確保でき、塗工スジのない面状態を形成し易いものとなる。なお、本実施形態に係る塗布液は、前述した通り、固形分濃度が比較的高い値であることにより、上述したような比較的少ない量で塗布した場合であっても、十分な厚さを有する剥離剤層を形成することができる。また、上記乾燥工程において得られる乾燥後塗膜の単位面積当たりの質量が、0.12g/m以下となるように塗布することが好ましく、特に0.11g/m以下となるように塗布することが好ましく、さらには0.10g/m以下となるように塗布することが好ましい。上記質量が0.12g/m以下となるように塗布することで、溶剤揮発中の分子の凝集が抑えられ、微細な凹凸の無い面状態を形成し易いものとなる。
【0086】
また、塗布工程における塗布液の好ましい塗布量を、塗布直後の塗膜の厚さで示すと、当該厚さは、1500nm以上であることが好ましく、特に2000nm以上であることが好ましく、さらには2500nm以上であることが好ましい。また、上記厚さは、5000nm以下であることが好ましく、特に4000nm以下であることが好ましく、さらには3000nm以下であることが好ましい。
【0087】
上記乾燥工程においては、従来公知の方法により塗膜を乾燥させることができる。例えば、オーブン等を用いて塗膜を加熱することで、塗膜中の有機溶媒を揮発させ、塗膜を乾燥させることができる。この場合の加熱条件としては、加熱温度を90℃以上とすることが好ましく、特に110℃以上とすることが好ましい。また、加熱温度は、150℃以下とすることが好ましく、特に140℃以下とすることが好ましい。加熱時間としては、10秒以上とすることが好ましく、特に15秒以上とすることが好ましい。また、加熱時間は、120秒以下とすることが好ましく、特に60秒以下とすることが好ましい。なお、上記乾燥ための加熱は、後述する硬化工程における加熱を兼ねたものとすることもできる。
【0088】
上記硬化工程においては、従来公知の方法により乾燥後塗膜を硬化させることができるものの、乾燥後加熱を加熱することで硬化させることが好ましい。この場合の加熱条件としては、加熱温度を90℃以上とすることが好ましく、特に110℃以上とすることが好ましい。また、加熱温度は、150℃以下とすることが好ましく、特に140℃以下とすることが好ましい。加熱時間としては、10秒以上とすることが好ましく、特に15秒以上とすることが好ましい。また、加熱時間は、120秒以下とすることが好ましく、特に60秒以下とすることが好ましい。
【0089】
(5)剥離フィルムの使用方法
上述した剥離フィルムは、セラミックグリーンシートを製造するために使用することが好適である。この場合、例えば、剥離フィルムにおける剥離面に対し、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを塗工した後、当該セラミックスラリーを乾燥させることでセラミックグリーンシートを得ることができる。塗工は、例えば、スロットダイ塗工方式やドクターブレード方式等を用いて行うことができる。
【0090】
セラミックスラリーに含まれるバインダー成分の例としては、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。また、セラミックスラリーに含まれる溶媒の例としては、有機溶媒、水系溶媒等が挙げられる。
【0091】
上述した剥離フィルムは、本実施形態に係る塗布液を用いて製造されたものであるため、前述した通り、剥離面における平滑性に優れるとともに、優れた剥離性を有する。そのため、上述した剥離フィルムを使用することで、ピンホールや厚みむら等の欠陥の発生や抑制された、優れた性能を有するセラミックグリーンシートを容易に製造することが可能となる。
【0092】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0093】
例えば、上述した剥離フィルムにおいては、基材と剥離剤層との間、または基材における剥離剤層とは反対側の面には、帯電防止層等の他の層が設けられてもよい。
【実施例
【0094】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0095】
〔実施例1〕
(1)剥離剤組成物の塗布液の調製
ポリオルガノシロキサン(A)としての側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(アヅマックス社製,製品名「DMS-V46」,重量平均分子量:120,000,アルケニル基(ビニル基)比率:5モル%)80質量部(固形分として換算した量;以下同じ)と、ポリオルガノシロキサン(B)としての側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(アヅマックス社製,製品名「VDT-163」,重量平均分子量:430,000,アルケニル基(ビニル基)比率:6モル%)10質量部と、分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)としての側鎖にビニル基を有する分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(信越シリコーン社製,製品名「X62-1387」,重量平均分子量:5600,アルケニル基(ビニル基)比率:31モル%)10質量部と、架橋剤(D)としてのトリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(アヅマックス社製,製品名「HMS-991」,ヒドロシリル基比率:5モル%)と、反応抑制剤とを均一に混合し、剥離剤組成物を得た。ここで、架橋剤(D)の配合量は、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)が有するアルケニル基(ビニル基)のモル量の合計に対する、架橋剤(D)が含有するヒドロシリル基のモル量の比が2.0となる量とした。
【0096】
なお、上記剥離剤組成物中における、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(A)の固形成分比率を算出すると、80質量%となる。後述する表1では、当該固形成分比率を、「A/(A+B+C)」の欄に記載する。また、上記剥離剤組成物中における、ポリオルガノシロキサン(B)および分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の合計量に対するポリオルガノシロキサン(B)の固形成分比率を算出すると、50質量%となる。表1では、当該固形成分比率を、「B/(B+C)」の欄に記載する。
【0097】
次いで、得られた剥離剤組成物を、有機溶媒としてのトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=3:7)で希釈し、さらに、白金系触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製,製品名「SRX-212」)6.8質量部を添加して十分に撹拌することで、固形分濃度が3.0質量%である剥離剤組成物の塗布液を得た。
【0098】
(2)剥離剤層の形成
基材として、厚さ31μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを用意した。当該PETフィルムの一方の面(第1の面)の算術平均高さ(Ra)は3nmであり、最大突起高さ(Rp)は30nmであった。また、上記PETフィルムの他方の面(第2の面)の算術平均粗さ(Ra)は26.7nmであり、最大突起高さ(Rp)は368nmであった。
【0099】
上記基材における第1の面に対し、上記工程(1)において調製した剥離剤組成物の塗布液を、マイヤーバー♯2を用いて塗布した。このときの塗布量は、得られた塗膜を乾燥した後における単位面積当たりの質量が0.08g/mとなる量とした。上記塗布により得られた塗膜から有機溶媒を揮発させて乾燥させた後、オーブンにて125℃で30秒間加熱することにより、剥離剤組成物を硬化させ、厚さ90nm、塗布量0.09g/mの剥離剤層を形成した。これにより、基材と、当該基材の片面上に設けられた剥離剤層と備える剥離フィルムを得た。
【0100】
〔実施例2~4,比較例1~6〕
使用するポリオルガノシロキサンの種類、並びに、ポリオルガノシロキサン(A)、ポリオルガノシロキサン(B)、その他のポリオルガノシロキサンおよび分岐状オルガノシロキサンオリゴマー(C)の配合量を表1に記載の通りに変更した以外、実施例1と同様にして剥離フィルムを製造した。
【0101】
〔試験例1〕(30質量%のトルエン溶液の粘度の測定)
実施例および比較例と同様にして剥離剤組成物の塗布液を調製した。但し、有機溶媒としてトルエンを使用するとともに、得られる塗布液の固形分濃度が30質量%となるように希釈した。
【0102】
得られた塗布液の100g分について、B型粘度計(fungilab社製,製品名「VISCOLEAD」)を用いて、測定温度:23℃、スピンドル:L2、回転数:60rpmの条件で粘度(mPa・s)を測定した。その結果を表2に示す。
【0103】
〔試験例2〕(剥離面の平滑性の評価)
実施例および比較例にて製造した剥離フィルムにおける剥離面について、塗工スジの有無および微細凹凸の有無を目視にて確認し、以下の基準にて、剥離面の平滑性を評価した。結果を表2に示す。
(塗工スジ)
〇:塗工スジが確認できない。
×:塗工スジが確認できる。
(微細凹凸)
〇:微細凹凸が確認できない。
×:微細凹凸が確認できる。
【0104】
〔試験例3〕(剥離面の表面粗さの測定)
ガラス板に両面テープを貼付し、実施例および比較例で得られた剥離フィルムを、剥離剤層とは反対側の面がガラス板側となるように上記両面テープを介してガラス板に固定した。その剥離フィルムの剥離面について、算術平均粗さ(Ra;nm)および最大突起高さ(Rp;nm)を、光干渉式表面形状観察装置(日本ビーコ社製,製品名「NT1100」)を使用し、PSIモードにて50倍率で観察し、得られた表面形状画像における91.2×119.8μmの範囲に基づいて測定した。結果を表2に示す。
【0105】
〔試験例4〕(剥離力)
実施例および比較例にて製造してから常温で48時間保管した剥離フィルムにおいて、剥離剤層の剥離面に、アプリケーターを用いて、トルエンとエタノールとの混合溶媒(トルエン:エタノール=6:4)中にポリビニルブチラール(PVB)を溶解させてなる溶液(積水化学社製,製品名「BL-S」,PVB濃度:20質量%)を均一に塗布し、その後、乾燥機にて55℃で60秒間乾燥させた。これにより、剥離フィルム上に厚さ3μmのPVBフィルムが積層されてなる積層体を得た。
【0106】
得られた積層体を、室温23度、相対湿度50%の雰囲気下に24時間静置した後、当該積層体における剥離フィルムとは反対側の面に対し、アクリル粘着テープ(日東電工社製,製品名「31Bテープ」)を貼付し、その状態で40mm幅に裁断し、これを測定サンプルとした。
【0107】
当該測定サンプルの粘着テープ側を平板に固定し、引張試験機(島津製作所社製,製品名「AG-IS500N」)を用いて180°の剥離角度、100m/分の剥離速度でPVBフィルムから剥離フィルムを剥離し、剥離するのに必要な力(剥離力;mN/40mm)を測定した。当該測定を6回繰り返し、その平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【0108】
ここで、表1に示す略称の詳細は以下の通りである。
[ポリオルガノシロキサン(A)]
DMS-V46:側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(アヅマックス社製,製品名「DMS-V46」,重量平均分子量:120,000,アルケニル基(ビニル基)比率:5モル%)
DMS-V42:側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(アヅマックス社製,製品名「DMS-V42」,重量平均分子量:70,000,アルケニル基(ビニル基)比率:8モル%)
DMS-V35:側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(アヅマックス社製,製品名「DMS-V35」,重量平均分子量:50,000,アルケニル基(ビニル基)比率:12モル%)
[ポリオルガノシロキサン(B)]
VDT-163:側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(アヅマックス社製,製品名「VDT-163」,重量平均分子量:430,000,アルケニル基(ビニル基)比率:50モル%)
[その他のポリオルガノシロキサン]
DMS-V52:側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(アヅマックス社製,製品名「DMS-V52」,重量平均分子量:170,000,アルケニル基(ビニル基)比率:4モル%)
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表2から明らかなように、実施例に係る剥離フィルムでは、剥離面における塗工スジおよび微細凹凸が確認されなかった。すなわち、実施例に係る剥離フィルムは、優れた平滑性を有するものであった。このことは、当該剥離面における表面粗さ(RaおよびRp)の値が比較例と比較して低いこととも一致した。
【0112】
また、実施例に係る剥離剤組成物の塗布液は、固形分濃度が30質量%である場合の粘度が200mPa・s未満であった。このため、実施例に係る剥離剤組成物の塗布液では、塗膜を乾燥させる際に良好なレベリングが生じ易く、その結果として、上述した優れた平滑性に繋がったと推測される。
【0113】
さらに、実施例に係る剥離フィルムでは、良好な剥離性を有するものであることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の剥離剤組成物の塗布液は、セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを製造するのに好適である。