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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】位置計測システム、及び位置計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20221115BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20221115BHJP
【FI】
G01C15/00 101
G05D1/02 H
G01C15/00 103A
G01C15/00 104C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019070352
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169848
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】505466295
【氏名又は名称】株式会社イクシス
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安保 篤康
(72)【発明者】
【氏名】石松 博幸
(72)【発明者】
【氏名】山崎 文敬
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 均
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一也
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-113603(JP,A)
【文献】特開2018-136143(JP,A)
【文献】特開2018-063147(JP,A)
【文献】特開2002-005660(JP,A)
【文献】特開2007-017318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00- 1/14
G01C 5/00-15/14
G01B 11/00-11/30
G05D 1/00- 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的地まで自走する移動装置の位置を計測するシステムであって、
現在位置を計測する位置計測手段と、全周囲反射型の反射体と、を有する前記移動装置と、
基準位置に据えられ、前記反射体を自動追尾して該反射体の位置を計測する測量機器と、
前記目的地を入力する目的地入力手段と、
前記移動装置の位置を特定する位置特定手段と、を備え、
前記移動装置は、前記位置計測手段によって計測された現在位置と、前記目的地と、に基づいて該目的地まで移動し、
前記位置特定手段は、前記移動装置が前記目的地まで移動する間は、前記位置計測手段により計測された結果に基づいて該移動装置の位置を求め、前記移動装置が前記目的地又は前記目的地付近で停止したときは、前記測量機器により計測された結果に基づいて該移動装置の位置を求める、
ことを特徴とする位置計測システム。
【請求項2】
前記移動装置は、1直線上に並ばない3以上の前記反射体を有し、
前記反射体を、前記測量機器による計測が可能となる反射状態と、該測量機器による計測が不可となる非反射状態と、に切り替える反射体制御手段と、
前記移動装置の姿勢を特定する姿勢特定手段と、をさらに備え、
前記反射体制御手段は、1の前記反射体を前記反射状態として、他の前記反射体は前記非反射状態とし、さらに3以上の前記反射体をそれぞれ順次前記反射状態とし、
前記測量機器は、前記反射状態となった前記反射体を検出するとともに、該反射体の位置をそれぞれ計測し、
前記位置特定手段は、3以上の前記反射体の位置に基づいて前記移動装置の位置を求め、
前記姿勢特定手段は、3以上の前記反射体の位置に基づいて前記移動装置の姿勢を求める、
ことを特徴とする請求項1記載の位置計測システム。
【請求項3】
3以上の前記反射体の設置高さがそれぞれ異なる、
ことを特徴とする請求項2記載の位置計測システム。
【請求項4】
前記測量機器を制御する測量機器制御手段を、さらに備え、
前記測量機器制御手段は、前記移動装置が前記目的地まで移動する間であって、前記測量機器が前記反射体を自動追尾しないときに、該移動装置の現在位置に基づいて該反射体が位置する範囲を推定するとともに、前記測量機器に該範囲内で該反射体を探索させる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の位置計測システム。
【請求項5】
目的地まで自走する移動装置の位置を計測する方法であって、
前記移動装置は、現在位置を計測する位置計測手段と、全周囲反射型の反射体と、を有し、
前記反射体を自動追尾して該反射体の位置を計測する測量機器を、基準位置に据えるとともに、停止状態の前記移動装置の前記反射体を該測量機器によって計測する初期計測工程と、
前記位置計測手段によって前記移動装置の現在位置を計測しながら、指定された前記目的地まで該移動装置が自走する移動工程と、
前記移動装置が前記目的地又は前記目的地付近で停止すると、前記測量機器によって前記反射体の位置を計測するとともに、計測された結果に基づいて該移動装置の位置を求める目的地計測工程と、
を備えたことを特徴とする位置計測方法。
【請求項6】
前記移動装置は、1直線上に並ばない3以上の前記反射体を有し、
前記初期計測工程及び前記目的地計測工程では、1の前記反射体を反射状態として他の前記反射体を非反射状態とし、さらに3以上の該反射体をそれぞれ順次該反射状態としながら、前記測量機器によって該反射状態となった該反射体を検出するとともに、該反射体の位置をそれぞれ計測し、
前記反射状態は、前記測量機器による前記反射体の計測が可能となる状態であって、前記非反射状態は、該測量機器による該反射体の計測が不可となる状態である、
ことを特徴とする請求項5記載の位置計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、自律走行する移動装置の位置を計測する技術であり、より具体的には、移動装置とともに移動しながら位置を計測する手段と、反射体を自動追尾する固定式の測量機器とを併用して、移動装置の位置を計測する位置計測システムと、これを用いた位置計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では少子高齢化の進行もあって労働者不足が大きな問題となっている。平成30年12月に「出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)」の改正法が成立したのも、国内の人材不足を改善するため外国人労働者を受け入れやすくするためといわれている。特に建設業では、2020年の東京オリンピックに関連する建設工事が急ピッチで進められているうえ、度重なる自然災害の発生により至るところで対策工事が行われており、慢性的な労働者不足に陥っている。そのため、これまでにも増して自動化施工が研究されており、簡易作業等を行うためのロボット化が進められている。
【0003】
建設作業用のロボットや、工場内の作業用ロボット、あるいは原子力発電所の内部など人が立ち入ることができない場所で任務を果たすロボットなどは、通常、目的とする場所までの移動を伴う。ロボットの移動は、2足歩行に限らず、タイヤやクローラ、あるいは飛行用の回転翼などが利用される。特に、タイヤを利用して移動する場合、いわゆる台車が利用されることがある。目的の場所まで台車で移動した後、台車に搭載された種々の装置で所定の作業を行うわけである。例えば、目的地まで移動した後、台車に搭載されたカメラで画像を取得したり、台車に搭載された各種センサーで計測を行ったり、あるいは台車に搭載された器具で種々の作業(例えば溶接など)を行うことができる。
【0004】
このような台車が移動する場合、当然ながら無人の自走式とされ、すなわち指令された目的地まで自律走行していくのが一般的である。そして台車が目的地に到達するため、移動中は適宜、台車の現在位置(以下、「自位置」という。)が計測される。自位置と目的地の関係から今後の経路を修正することができ、また目的地周辺に到達したことを把握できるからである。
【0005】
従来、自走式の台車の自位置を計測するにあたっては、屋外であれば衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)が利用され、屋内であれば様々な屋内測位手法が採用されていた。この屋内測位手法としては、無線LANのアクセスポイントを利用する測位方法や、室内に電波発信機を配置して測位するIMES(Indoor Messaging System)、LEDの高速点滅を信号として伝送する可視光通信を利用した測位方法、赤外線通信を利用した測位方法、あるいはレーザーセンサーや光学センサーによる計測結果を用いたSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)などが挙げられる。例えば特許文献1では、自走式検査装置が進行支障部に遭遇した際にSLAMの手法を利用して自位置を推定する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-161577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のようにSLAMの手法を用いれば、自位置を計測できるうえ同時に環境地図も作成できるという長所がある反面、得られる自位置の精度が高くないという短所もある。一般的に、SLAMの手法による自位置の精度はcmオーダーであって、mmオーダーでは把握できないとされている。ところが、上記したように画像を取得したり、各種センサーで計測を行ったり、溶接等の作業を行ったりするケースでは、台車を正確な位置に設置する必要があり、すなわち相当に高い精度で(例えばmmオーダー)台車の位置を計測することが求められる。この場合、少なくともSLAMの手法のみでは対応できない。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、自走する移動体を高い精度で目的地に到達させることができる位置計測システムと、これを用いた位置計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、移動装置が目的地まで移動する間は屋内(屋外)測位によって移動しながら自位置を計測するが、移動装置が目的地付近で停止したときは固定された測量機器によって移動装置の位置を計測する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0010】
本願発明の位置計測システムは、目的地まで自走する移動装置の位置を計測するシステムであって、移動装置と測量機器、目的地入力手段、位置特定手段を備えたものである。このうち移動装置は、現在位置を計測する位置計測手段と、全周囲反射型の反射体を有し、目的地まで自走するものである。また測量機器は、基準位置に据えられ、反射体を自動追尾して反射体の位置を計測するものである。目的地入力手段は、目的地を入力する手段であり、位置特定手段は、移動装置の位置を特定する手段である。移動装置は、位置計測手段によって計測された現在位置と、目的地とに基づいて目的地まで移動する。そして位置特定手段は、移動装置が目的地まで移動する間は、位置計測手段により計測された結果に基づいて移動装置の位置を求め、移動装置が目的地付近(あるいは目的地)で停止したときは、測量機器により計測された結果に基づいて移動装置の位置を求める。
【0011】
本願発明の位置計測システムは、反射体制御手段と姿勢特定手段をさらに備えたものとすることもできる。この場合の移動装置は、1直線上に並ばない3以上の反射体が設けられる。反射体制御手段は、反射体を「反射状態(測量機器による計測が可能となる状態)」と「非反射状態(測量機器による計測が不可となる状態)」に切り替える手段であり、姿勢特定手段は、移動装置の姿勢を特定する手段である。反射体制御手段は、1の反射体を反射状態として他の反射体は非反射状態とし、さらに3以上の反射体をそれぞれ順次反射状態としていく。この場合、測量機器は、反射状態となった反射体を検出するとともに反射体の位置をそれぞれ計測していく。そして位置特定手段が、3以上の反射体の位置に基づいて移動装置の位置を求め、姿勢特定手段が、3以上の反射体の位置に基づいて移動装置の姿勢を求める。
【0012】
本願発明の位置計測システムは、3以上の反射体の設置高さがそれぞれ異なるものとすることもできる。
【0013】
本願発明の位置計測システムは、測量機器を制御する測量機器制御手段をさらに備えるものとすることもできる。測量機器制御手段は、移動装置が目的地まで移動する間であって、測量機器が反射体を自動追尾しない(見失った)ときに、移動装置の現在位置に基づいて反射体が位置する範囲を推定するとともに、測量機器に範囲内にある反射体を探索させる。
【0014】
本願発明の位置計測方法は、目的地まで自走する移動装置の位置を計測する方法であって、初期計測工程と移動工程、目的地計測工程を備えた方法である。このうち初期計測工程では、追尾式の測量機器を基準位置に据えるとともに、停止状態の移動装置の反射体をこの測量機器によって計測する。また移動工程では、位置計測手段によって移動装置の現在位置を計測しながら、指定された目的地まで移動装置が自走する。そして目的地計測工程では、移動装置が目的地付近(あるいは目的地)で停止すると、測量機器によって反射体の位置を計測するとともに、計測された結果に基づいて移動装置の位置を求める。
【0015】
本願発明の位置計測方法は、1直線上に並ばない3以上の反射体を有する移動装置の位置を計測する方法とすることもできる。この場合、初期計測工程と目的地計測工程では、1の反射体を「反射状態」として他の反射体を「非反射状態」とし、さらに3以上の反射体をそれぞれ順次反射状態としながら、測量機器によって反射状態となった反射体を検出するとともに、反射体の位置をそれぞれ計測していく。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の位置計測システム、及び位置計測方法には、次のような効果がある。
(1)停止時の移動装置に関しては、従来に比して高い精度(mmオーダー)で自位置を計測することができる。
(2)移動中の移動装置に関しては、外乱(障害物や人など)の影響を受けにくいSLAMの手法を用いるため、移動装置を高速で移動させることができる。
(3)1直線上に並ばない3以上の反射体を移動装置に設置すれば、移動装置の姿勢も把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願発明の位置計測システムを用いて、本願発明の位置計測方法を実施している状況を示すモデル図。
図2】本願発明の位置計測システムの主な構成を示すブロック図。
図3】(a)は移動装置を示す側面図、(b)は移動装置を上方から見た平面図。
図4】本願発明の位置計測システムの主な処理の流れを示すフロー図。
図5】現地座標系を説明する平面図。
図6】壁面で囲まれた室内に設置された測量機器を示す斜視図。
図7】(a)は遮蔽手段が下方に位置することで「反射状態」となった反射体を示す側面図、(b)は遮蔽手段が上方に移動することによって「非反射状態」となった反射体を示す側面図。
図8】(a)は支柱の上方に位置することで「反射状態」となった反射体を示す側面図、(b)は降下して支柱内に収められたことによって「非反射状態」となった反射体を示す側面図。
図9】本願発明の位置計測方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の位置計測システム、及び位置計測方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0019】
1.全体概要
図1は、本願発明の位置計測システム100を用いて、本願発明の位置計測方法を実施している状況を示すモデル図である。本願発明は、指定した目的地まで移動装置110を移動させるとともに、目的地周辺で停止した移動装置110の位置や姿勢を高い精度で計測することをひとつの特徴としている。この移動装置110は、例えばコンピュータを利用した演算処理関連手段130の制御にしたがって移動していき、そして移動装置110が停止すると、測量機器120が移動装置110に搭載された反射体を計測する。なお、移動装置110の自位置(現在位置)や目的地の座標を規定する任意の座標系(以下、「現地座標系」という。)は、所定位置に設置された測量機器120が参照反射体140を視準することで設定される。
【0020】
2.位置計測システム
本願発明の位置計測システム100の例を、図に基づいて説明する。なお、本願発明の位置計測方法は、本願発明の位置計測システムを用いて計測する方法であり、したがってまずは本願発明の位置計測システムについて説明し、その後に本願発明の位置計測方法について説明することとする。
【0021】
図2は、本願発明の位置計測システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の位置計測システム100は、移動装置110と測量機器120、演算処理関連手段130を含んで構成され、さらに参照反射体140を含んで構成することもできる。
【0022】
移動装置110は、自走台車115に位置計測手段111と反射体112を設置したものであり、さらに遮蔽手段113や速度計測手段114を設置したものとすることもできる。図3は、移動装置110を説明する図であり、(a)はその側面図、(b)は上方から見たその平面図である。図3(a)に示す位置計測手段111は、自走台車115の上部に設置されており、反射体112は、支柱116を介してやはり自走台車115の上部に設置されている。
【0023】
位置計測手段111は、移動中における移動装置110の自位置を計測するものであり、例えばレーザーセンサーを利用することができる。位置計測手段111としてレーザーセンサーを用いる場合は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)によって自位置を計測するとよい。そのほか、移動装置110の自位置を計測する手法としては、屋内であればステレオ写真を用いたSLAMや、無線LANのアクセスポイントを利用する測位方法、室内に電波発信機を配置して測位するIMES、LEDの高速点滅を信号として伝送する可視光通信を利用した測位方法、赤外線通信を利用した測位方法、屋外であれば衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)など、従来用いられている様々な測位方法を採用することができる。なお位置計測手段111は、自位置の計測ができる位置であれば、自走台車115の上部に限らず、自走台車115の内部などあらゆる場所に設置することができる。
【0024】
反射体112は、測量用プリズム(ミラーやターゲットとも呼ばれる)であり、後述するように移動装置110が自走している間も測量機器120によって追尾されることから、全周囲反射型の測量用プリズムを採用するとよい。なお図3(a)では、自走台車115の上部に設置された支柱116上に反射体112を配置しているが、測量機器120から視準できる状況であれば。自走台車115の上に直接、反射体112を設置してもよい。また自走台車115には、複数(図3では4個)の反射体112を設置してもよいし、1の反射体112を設置してもよい。ただし、移動装置110(自走台車115)の姿勢を把握する場合は、1直線上に並ばないように3以上の反射体112を配置する必要がある。
【0025】
自走台車115は、蓄電池やエンジン等を動力とする自走(無人走行)式であり、少なくとも直交する2方向に移動することができるものである。例えば図3(b)に示す自走台車115は、X軸方向(図では左右方向)と、Y軸方向(図では上下方向)の直交2方向に移動することができる。直交する2方向に移動するには、図3に示す車輪の向きを90°変更できる仕組みとすることもできるし、球状の車輪を利用することもできる。あるいは、クローラなど他の手段を採用してもよい。
【0026】
測量機器120は、移動装置110の反射体112や参照反射体140といった測量用プリズムを視準して距離や角度を計測するものであり、トータルステーション(TS)を好適に利用することができる。ただし、移動装置110が自走している間も反射体112を視準することから、測量用プリズムを自動追尾するトータルステーション(自動追尾式トータルステーション)の採用が望ましい。
【0027】
演算処理関連手段130は、目的地入力手段131と位置特定手段132を有するものであり、さらに反射体制御手段133や姿勢特定手段134、測量機器制御手段135、走行制御手段136、座標系設定手段137、座標系記憶手段138を有するものとすることもできる。この演算処理関連手段130は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。コンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもある。また、座標系記憶手段138は汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、そのほかデータベースサーバに構築することもでき、この場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0028】
演算処理関連手段130は、移動装置110に搭載することもできるし、図1に示すようにパーソナルコンピュータ(PC)を利用して移動装置110とは異なる場所に設置することもできる。演算処理関連手段130を移動装置110とは異なる場所に設置する場合は、移動装置110(特に、位置計測手段111と遮蔽手段113、速度計測手段114、自走台車115)と情報(データ)の送受信を行うための無線通信手段(状況によっては有線通信手段)を設けるとよい。
【0029】
以下、主に図4を参照しながら位置計測システム100の主な処理について詳しく説明する。図4は、本願発明の位置計測システム100の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこれらのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0030】
まず、座標系設定手段137が現地座標系を設定する処理について説明する。現地座標系は、平面上に設定される直交2軸とこれらに直交する軸(つまり直交3軸)によって設定される。図5は、現地座標系を説明する平面図であり、この図では平面(例えば水平面)上に設定される直交2軸としてX軸-Y軸を示している。そして図示しない第3軸(Z軸)が紙面に対して垂直方向(例えば鉛直方向)となるように決定され、X軸-Y軸-Z軸による現地座標系が設定される。以下、図5に示す現地座標系(X軸-Y軸-Z軸)を設定する手順について詳しく説明する。
【0031】
図5に示すように、あらかじめ定められた「原点」上に測量機器120を設置するとともに、あらかじめ定められた「参照点」上に参照反射体140を設置する。あるいは、測量機器120を設置した位置を事後的に「原点」とし、参照反射体140を設置した位置を事後的に「参照点」としてもよい。図6では、壁面で囲まれた室内に測量機器120を設置しており、壁面に対して平行に設定した基準平面線の交点を原点とし、この原点上に測量機器120を設置している。また測量機器120は、壁面上であって床面に対して平行に設定した基準陸線と同じ高さ(あるいは基準陸線から所定距離を設けた高さ)となるように設置されている。
【0032】
測量機器120と参照反射体140を所定位置に設置すると、測量機器120によって参照反射体140を視準する(図4のStep101)。そして座標系設定手段137が、測量機器120の設置位置である原点と、参照反射体140の視準方向をX軸。これに直交する方向をY軸、さらにX軸-Y軸(床面)に直交する方向をZ軸として現地座標系を設定する(図4のStep102)。
【0033】
現地座標系が設定されると、自走開始前、すなわちスタート地点で停止した状態の移動装置110の位置(以下、「移動前位置」という。)を計測する(図4のStep103)。具体的には、原点に設置された(据えられた)測量機器120が移動装置110の反射体112を視準し、その結果得られた座標から位置特定手段132が移動装置110の位置を特定する。例えば、移動装置110に1の反射体112が設置されている場合は、その反射体112の座標を移動装置110の位置として特定し、移動装置110に複数の反射体112が設置されている場合は、複数の反射体112の位置から算出される座標を移動装置110の位置として特定する。
【0034】
ところで、既述したとおり測量機器120は反射体112を自動追尾する。そのため、図3に示すように複数の反射体112が移動装置110に設置されている場合、測量機器120は、どの反射体112を視準すべきか、あるいは視準した反射体112はどれかを、特定することができない。そこで、移動装置110に複数の反射体112が設置されている場合は、反射体制御手段133が、1の反射体112のみを「測量機器120による計測が可能となる状態(以下、「反射状態」という。)」とし、他の反射体112は「測量機器120による計測が不可となる状態(以下、「非反射状態」という。)」とする。以下、図3を参照しながら具体的に説明する。
【0035】
まず反射体制御手段133が、反射体112aを「反射状態」、他の反射体112b、112c、112dを「非反射状態」とした状態で、測量機器120が反射体112aを視準して計測する。次いで、反射体制御手段133が、反射体112bを「反射状態」、他の反射体112a、112c、112dを「非反射状態」とした状態で、測量機器120が反射体112bを視準して計測する。このように、繰り返し反射体112a~112dを「反射状態」としつつ他の反射体112を「非反射状態」としながら、測量機器120がそれぞれ「反射状態」の反射体112を視準して計測していく。なお、反射体制御手段133が反射体112(例えば、反射体112a)を「反射状態」に制御した時刻と、測量機器120が反射体112(例えば、反射体112a)を視準した時刻とを関連付けて(つまり同期して)記憶すれば、測量機器120が視準した反射体112を特定することができる。
【0036】
反射体112は、反射体制御手段133が遮蔽手段113を操作することによって、「反射状態」とし、「非反射状態」とすることができる。図7は、遮蔽手段113を上下することによって反射体112の状態を変化させる状況を示す側面図である。図7(a)では、遮蔽手段113が下方に位置することで反射体112は「反射状態」とされ、図7(b)では、反射体制御手段133が遮蔽手段113を上方に移動させたことによって反射体112が「非反射状態」とされている。
【0037】
図8は、反射体112そのものが上下することによって反射体112の状態を変化させる状況を示す側面図である。図8(a)では、反射体112が支柱116の上方に位置することで反射体112は「反射状態」とされ、図8(b)では、反射体制御手段133が反射体112を降下させて支柱116内に収めたことによって反射体112が「非反射状態」とされている。すなわち図8では、支柱116が遮蔽手段113を兼用するわけである。なお、図7図8に示す例のほか、反射体112を倒すことで「非反射状態」とするなど、種々の手法で反射体112の状態(反射状態/非反射状態)を変更することができる。
【0038】
また、複数の反射体112が移動装置110に設置されている場合、測量機器120から見て手前側の反射体112が障壁となって、後方の反射体112を視準することができないことも考えられる。この場合、図3(a)に示すように、反射体112の設置高さ(自走台車115や床面からの高さ)をそれぞれ異なる高さにするとよい。例えば、測量機器120からの相対距離が変わらないときは、測量機器120に近い方の反射体112(図3では反射体112aと112b)を低い設置高さとし、測量機器120から遠い方の反射体112(図3では反射体112cと112d)を高い設置高さとする。また同様の理由から、図3(b)に示すように、測量機器120に近い方の反射体112(図3では反射体112aと112b)を自走台車115の内側に配置し、測量機器120から遠い方の反射体112(図3では反射体112cと112d)を自走台車115の外側に配置するとよい。
【0039】
移動装置110の移動前位置を計測すると、オペレータが目的地入力手段131を用いて目的地を入力する(図4のStep104)。例えば、対象とする室内の環境地図を液晶ディスプレイに表示し、オペレータがマウス等の入力デバイスを用いて所望の地点を指定(クリック)することで目的地を入力することができる。なお、目的地の入力(図4のStep104)は、移動装置110の移動前位置を計測する(図4のStep103)前に行ってもよい。
【0040】
移動装置110の移動前位置と目的地が特定されると、走行制御手段136が移動前位置と目的地に基づいて移動装置110が自走する経路(以下、「計画経路」という。)を設定するとともに、この計画経路にしたがって移動装置110を自走させる(図4のStep105、Step106)。移動装置110が自走している間は、移動装置110の位置計測手段111によって連続的(あるいは、定期的、断続的)に自位置が計測される(図4のStep107)。そして走行制御手段136が、位置計測手段111によって計測された自位置を取得し、必要に応じて計画経路を調整したうえで、適宜、移動装置110の自走を制御する。走行制御手段136が移動装置110の自走制御を行うにあたっては、例えば図5に示すように、X軸方向に進むべき距離と、Y軸方向に進むべき距離(あるいはZ軸方向に進むべき距離)を繰り返し伝達して自走させることができる。このように、移動装置110が自走している間は、測量機器120に依らず位置計測手段111によって自位置を計測することから、外乱(障害物や人など)の影響を受けにくく、そのため移動装置110は高速で移動できるわけである。
【0041】
移動装置110が自走している間も、測量機器120は移動装置110の反射体112を自動追尾している。しかしながら、現地の状況によっては測量機器120が反射体112を自動追尾できない(つまり見失う)こともある。この場合は、測量機器制御手段135が測量機器120のおおよその位置を推定するとともに、測量機器120をその位置の方に向けさせる。具体的には、測量機器制御手段135が自走中の測量機器120の自位置を取得するとともに、その自位置を中心とする所定範囲を設定し、この所定範囲内で探索するよう測量機器120に指令するわけである。
【0042】
位置計測手段111によって計測された自位置が目的地付近になると、走行制御手段136は移動装置110が停止するよう制御する(図4のStep108)。そして移動装置110が停止したと判断されると、測量機器120が移動装置110の反射体112を視準して計測する。なお、移動装置110の停止判断は、走行制御手段136による停止制御後に所定時間が経過したときをもって停止と判断してもよいし、速度計測手段114が計測した自走台車115の走行速度に基づいて判断することもできる。
【0043】
移動装置110が目的地付近で停止したときも、位置計測手段111によって自位置を計測することができるが、既述したとおり、SLAM等の手法による自位置の計測精度はcmオーダーであって要求を満たさないこともある。そこで、測量機器120が移動装置110の反射体112を視準して計測するわけである。なお、ここまで測量機器120は反射体112を自動追尾していることから、容易かつ速やかに計測を行うことができるわけである。
【0044】
測量機器120が、目的地付近で停止した移動装置110の反射体112を計測する手順は、既述した「移動装置110の移動前位置を計測する手順」と同様である。すなわち、原点に設置された測量機器120が、移動装置110の反射体112を視準してその方向と距離から座標を求める。また、移動装置110に複数の反射体112が設置されている場合は、反射体制御手段133が、繰り返し反射体112を「反射状態」としつつ他の反射体112を「非反射状態」としながら(図4のStep109)、測量機器120がそれぞれ「反射状態」の反射体112を視準して計測していく(図4のStep110)。
【0045】
測量機器120が、目的地付近で停止した移動装置110の反射体112を計測すると、その結果得られた座標から位置特定手段132が移動装置110の位置を特定する(図4のStep111)。例えば、移動装置110に1の反射体112が設置されている場合は、その反射体112の座標を移動装置110の位置として特定し、移動装置110に複数の反射体112が設置されている場合は、複数の反射体112の位置から算出される座標を移動装置110の位置として特定する。また、1直線上に並ばないように3以上の反射体112が配置されている場合は、姿勢特定手段134が、3以上の反射体112の位置から算出される座標に基づいて移動装置110(自走台車115)の姿勢(ω,φ,κ)を特定する(図4のStep111)。具体的には、3以上の反射体112の座標に基づいて自走台車115を構成する平面(例えば上面や下面)上にある3以上の点の座標を求め(例えば図3(a)に示すケースでは支柱116分の高さを差し引く等)、これら平面上の点から現地座標系における平面の一般式を決定し、その平面の傾きを自走台車115の移動装置110の姿勢として特定する。
【0046】
3.位置計測方法
続いて、本願発明の位置計測方法について図9を参照しながら説明する。なお、本願発明の位置計測方法は、ここまで説明した位置計測システム100を用いて計測を行う方法であり、したがって位置計測システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明位置計測方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.位置計測システム」で説明したものと同様である。
【0047】
図9は、本願発明の位置計測方法の主な工程を示すフロー図である。まず、測量機器120と参照反射体140を指定位置に設置するとともに、測量機器120によって参照反射体140を視準して計測し(初期計測工程:Step201)、座標系設定手段137によって現地座標系を設定する(座標系設定工程:Step202)。
【0048】
現地座標系を設定すると、測量機器120によって移動装置110の移動前位置を計測する(初期位置計測工程:Step203)とともに、オペレータが目的地入力手段131を用いて目的地を入力する(目的地入力工程:Step204)。なお、初期位置計測工程(Step203)と目的地入力工程(Step204)は、どちらの工程を先行して実施してもよい。
【0049】
移動装置110の移動前位置と目的地が特定されると、走行制御手段136によって計画経路を設定するとともに、この計画経路にしたがって移動装置110を自走させる(移動工程:Step205)。移動装置110が自走している間は、位置計測手段111によって連続的(あるいは、定期的、断続的)に移動装置110の自位置が計測され、測量機器120によって反射体112が自動追尾される。
【0050】
位置計測手段111によって計測された自位置が目的地付近になると、走行制御手段136の制御によって移動装置110が停止する(停止工程:Step206)。そして移動装置110が停止したと判断されると、測量機器120が移動装置110の反射体112を視準して計測し(計測工程:Step207)、その結果得られた座標から、位置特定手段132が移動装置110の位置を特定し、姿勢特定手段134が移動装置110(自走台車115)の姿勢を特定する(位置・姿勢の特定工程:Step208)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願発明の位置計測システム、及び位置計測方法は、カメラを搭載した自走台車や、計測用センサーを搭載した自走台車、溶接器具を搭載した自走台車といった自走台車の位置計測に特に有効に利用することができる。本願発明によれば、我が国の喫緊の課題である労働者不足の改善につながるとともに、原子力発電所の内部など人が立ち入ることができない場所での作業を前進させることができることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0052】

100 本願発明の位置計測システム
110 (位置計測システムの)移動装置
111 (移動装置の)位置計測手段
112 (移動装置の)反射体
113 (移動装置の)遮蔽手段
114 (移動装置の)速度計測手段
115 (移動装置の)自走台車
116 (移動装置の)支柱
120 (位置計測システムの)測量機器
130 (位置計測システムの)演算処理関連手段
131 (演算処理関連手段の)目的地入力手段
132 (演算処理関連手段の)位置特定手段
133 (演算処理関連手段の)反射体制御手段
134 (演算処理関連手段の)姿勢特定手段
135 (演算処理関連手段の)測量機器制御手段
136 (演算処理関連手段の)走行制御手段
137 (演算処理関連手段の)座標系設定手段
138 (演算処理関連手段の)座標系記憶手段
140 (位置計測システムの)参照反射体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9