(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、近赤外光吸収色素、光電変換素子、近赤外光センサー及び撮像素子
(51)【国際特許分類】
C09B 55/00 20060101AFI20221115BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20221115BHJP
H01L 51/42 20060101ALI20221115BHJP
H01S 5/36 20060101ALI20221115BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20221115BHJP
H01L 51/46 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
C09B55/00 B
C09K3/00 105
H01L31/08 T
H01S5/36
H01L27/146 A
H01L31/04 154Z
H01L31/04 154B
H01L31/04 154D
H01L31/04 154C
(21)【出願番号】P 2019096458
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青竹 達也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智史
(72)【発明者】
【氏名】貞光 雄一
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/011456(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079653(WO,A1)
【文献】特開2016-166284(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104926846(CN,A)
【文献】米国特許第05525516(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 55/00
C09K 3/00
H01L 51/42
H01S 5/36
H01L 27/146
H01L 51/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1乃至R
8はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、又はアシル基を表す。R
9及びR
10はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族基、又は複素環基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、又は複素環基を表す。Z
1及びZ
2はそれぞれ独立に芳香族化合物の芳香環から水素原子を二つ除いた二価の連結基、又は複素環化合物の複素環から水素原子を二つ除いた二価の連結基を表す。nはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。)で表されるジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物。
【請求項2】
nが1である請求項1に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物。
【請求項3】
R
9及びR
10が水素原子である請求項1又は2に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物。
【請求項4】
R
11及びR
12が芳香族基、又は複素環基である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物含む近赤外吸収色素。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物含む有機薄膜。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物を含む光電変換素子。
【請求項8】
請求項7に記載の光電変換素子を備える近赤外光センサー。
【請求項9】
請求項7に記載の光電変換素子を備える撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジベンゾピロメテンホウ素キレート構造を有する新規な化合物、光電変換素子、光センサー、撮像素子に関する。特に、近赤外領域に主たる吸収帯を有する光電変換素子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
780乃至2000nmの近赤外領域(国際電気標準会議規格IEC60050-841;1983)に吸収帯を有する近赤外光吸収色素は、従来から産業上の様々な用途への応用が検討されている。例を挙げると、近赤外光吸収色素は、CD-R(Compact Disk-Recordable)等の光情報記録媒体;サーマルCTP(Computer To Plate)、フラッシュトナー定着、レーザー感熱記録等の印刷用途;熱遮断フィルム等の用途に利用されている。さらには、近赤外光吸収色素は、選択的に特定波長域の光を吸収するというその特性を用いて、PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)のフィルター等に用いられる近赤外線カットフィルターや、植物成長調整用フィルム等にも使用されている。また、近赤外光吸収色素は、溶媒に溶解又は分散させることにより、近赤外光吸収インクとして使用することも可能である。該近赤外光吸収インクによる印字物は、目視では認識が困難であり、近赤外光検出器等でのみ読み取りが可能であることから、例えば偽造防止等を目的とした印字等に使用される。
【0003】
このような不可視画像形成用の近赤外光吸収材料としては、無機系の近赤外光吸収材料と、有機系の近赤外光吸収材料とが既に知られている。このうち、無機系の近赤外光吸収材料としては、イッテルビウム等の希土類金属や、銅リン酸結晶化ガラス等が知られている。しかしながら、無機系の近赤外光吸収材料は、近赤外領域の光の吸収性が十分でないために、不可視画像の単位面積あたりに多量の近赤外光吸収材料が必要となる。そのため、無機系の近赤外光吸収材料によって不可視画像を形成した場合、その表面上にさらに可視画像を形成すると、下側の不可視画像の凹凸が表面側の可視画像に影響を与えてしまう。
【0004】
それに対し、有機系の近赤外光吸収材料は、近赤外領域の光の吸収性が十分であるために、不可視画像の単位面積あたりの使用量が少なくてすむので、無機系の近赤外光吸収材料を使用した場合のような不都合は生じない。そのため、現在に至るまで多くの有機系近赤外光吸収材料の開発が進められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、有機系の近赤外光吸収材料として、ナフタロシアニン系化合物が開示されている。しかしながら、ナフタロシアニン系化合物は、製造方法の煩雑さ、及び溶解性の調整の困難さがあることから、一般の工業的には、対イオン性色素化合物を近赤外光吸収材料として用いることが通常となっている。
また、さらに特許文献2には、近赤外領域に蛍光波長を有する近赤外蛍光色素の例として、ナフトフルオレセイン化合物が開示されている。
【0006】
一方、有機エレクトロニクスデバイスは、原材料に希少金属などを含まず,安定した供給が可能であるのみならず、無機材料には無い屈曲性や湿式成膜法による製造が可能な点から、近年非常に関心が高まっている。有機エレクトロニクスデバイスの具体例としては有機EL素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子及び有機トランジスタ素子等が挙げられ、デバイスとしての性能は勿論のこと、有機材料の特色を活かした用途が検討されている。
【0007】
非特許文献1では、赤色又は近赤外光領域に吸収帯から蛍光帯を示し、堅牢性の優れた色素としてボロンジピロメテン色素(boron-dipyrromethene、以下「BODIPY」と称す。)に関する報告がなされている。
また、特許文献3乃至5には、BODIPY骨格を有する化合物をB-Oキレート化することにより、化合物の光に対する堅牢性が更に向上すると共に、吸収波長を長波長側にシフトさせることができることが記載されている。しかしながら、BODIPY骨格を有する化合物はB-Oキレート化することにより分子の剛直性が高くなるため、溶解性が著しく低下するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-3944号公報
【文献】特開2012-219258号公報
【文献】特開2016-166284号公報
【文献】国際公開第2013/035303号
【文献】国際公開第2018/079653号
【0009】
【文献】Chem.Soc.Rev.,2014,43,4778-4823
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在用いられている近赤外光吸収色素には、更なる耐久性の向上が求められている。しかも工業的に用いるための加工容易性を考慮すると、溶剤に対する高い溶解性を有しつつ、近赤外光吸収特性を維持することが必要である。
【0011】
本発明の目的は、近赤外領域帯に吸収特性を有すると共に、溶剤に対する高い溶解性を示すことによって溶液プロセスで薄膜を形成し得る近赤外光吸収材料、該近赤外光吸収材料を含む有機薄膜、該有機薄膜を含む有機エレクトロデバイス及び該有機薄膜を含む有機光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記諸課題を解決するべく考究した結果、分子内にアゾメチン骨格を導入したジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物を用いることにより上記の課題が解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
[1]下記一般式(1)
【0013】
【0014】
(式中、R1乃至R8はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、又はアシル基を表す。R9及びR10はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族基、又は複素環基を表す。R11及びR12はそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、又は複素環基を表す。Z1及びZ2はそれぞれ独立に芳香族化合物の芳香環から水素原子を二つ除いた二価の連結基、又は複素環化合物の複素環から水素原子を二つ除いた二価の連結基を表す。nはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。)で表されるジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、
[2]nが1である前項[1]に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、
[3]R9及びR10が水素原子である前項[1]又は[2]に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、
[4]R11及びR12が芳香族基、又は複素環基である前項[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物、
[5]前項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物含む近赤外吸収色素、
[6]前項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物含む有機薄膜、
[7]前項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物を含む光電変換素子、
[8]前項[7]に記載の光電変換素子を備える近赤外光センサー、及び
[9]前項[7]に記載の光電変換素子を備える撮像素子、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物は、近赤外領域に吸収特性を有し、高い溶解性を有することで溶液塗布による成膜が可能なことから、ウェットプロセスによる光電素子の作製及びそれを含む有機撮像素子、光センサー、赤外センサー等のデバイスやそれらを用いたカメラ、ビデオカメラ、赤外線カメラ等の分野へ応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の光電変換素子の実施態様を例示した断面図を示す。
【
図2】
図2は、実施例3の有機薄膜の吸収スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、実施例4の有機薄膜の吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。ここに記載する構成要件の説明については、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づくものである一方、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されない。なお、本発明において近赤外領域とは、780乃至2000nmの範囲内にある波長領域をいい、近赤外光吸収材料(色素)とは近赤外光領域に主たる吸収波長をもつ材料をいい、近赤外発光材料(色素)とは近赤外光領域において発光する材料をいう。
【0018】
本発明のジベンゾピロメテンホウ素キレート化合物は上記式(1)で表される。尚、上記の式(1)は共鳴構造の一つを示したものにすぎず、本発明の化合物は図示した共鳴構造に限定されるものではない。
式(1)中のR1乃至R8はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、置換アミノ基、非置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、又はアシル基を表す。
【0019】
上記式(1)中のR1乃至R8が表す脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の直鎖状、分岐状又は環状のいずれにも限定されず、その炭素数は1乃至30が好ましく、1乃至20がより好ましい。ここで、飽和又は不飽和の直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、アリル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-セチル基、n-ヘプタデシル基、n-ブテニル基、2-エチルへキシル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3-ブチルノニル基、4-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、3-オクチルウンデシル基、4-オクチルドデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
式(1)中のR1乃至R8が表す脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることがより好ましく、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、2-エチルへキシル基、2-メチルプロピル基又は2-ブチルオクチル基であることが更に好ましく、n-ヘキシル基、n-オクチル基又は2-メチルプロピル基であることが特に好ましい。
【0020】
上記式(1)中のR1乃至R8が表すアルコキシ基とは、酸素原子とアルキル基が結合した置換基であり、アルコキシ基が有するアルキル基としては、例えば式(1)中のR1乃至R8が表す脂肪族炭化水素基の項に具体例として記載したアルキル基が挙げられる。
式(1)中のR1乃至R8が表すアルコキシ基は、例えばアルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
上記式(1)中のR1乃至R8が表すアルキルチオ基とは、硫黄原子とアルキル基が結合した置換基であり、アルキルチオ基が有するアルキル基としては、例えば式(1)中のR1乃至R8が表す脂肪族炭化水素基の項に具体例として記載したアルキル基が挙げられる。
式(1)中のR1乃至R8が表すアルキルチオ基は、例えばアルキルチオ基等の置換基を有していてもよい。
【0021】
上記式(1)中のR1乃至R8が表す芳香族基とは、芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基である。式(1)のR1乃至R8が表す芳香族基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、トリル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、フェナンスニル基又はメシチル基等が挙げられるが、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、ナフチル基又はメシチル基が好ましく、フェニル基、トリル基又はメシチル基がより好ましい。
尚、芳香族基と成り得る芳香族化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
【0022】
上記式(1)中のR1乃至R8が表す複素環基とは、複素環化合物の複素環から水素原子を一つ除いた残基である。式(1)のR1乃至R8が表す複素環基としては、例えばフラニル基、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、N-メチルイミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、インドリル基、ベンゾピラジル基、ベンゾピリミジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、ピリジノチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピリジノイミダゾリル基、N-メチルベンゾイミダゾリル基、ピリジノ-N-メチルイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリジノオキサゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、ピリジノチアジアゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ピリジノオキサジアゾリル基、カルバゾリル基、フェノキサジニル基又はフェノチアジニル基等が挙げられ、チエニル基、チエノチエニル基、チアゾリル基、ピリジル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基又はピリジノチアジアゾリル基が好ましく、チエニル基、チアゾリル基、ピリジル基がより好ましい。
尚、複素環基と成り得る複素環化合物は置換基を有していてもよく、該有していても良い置換基は特に限定されない。
【0023】
上記式(1)中のR1乃至R8が表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、フッ素原子がさらに好ましい。
【0024】
上記式(1)中のR1乃至R8が表す置換アミノ基は、アミノ基の水素原子が一つ又は二つ置換基で置換された置換基である。置換アミノ基の有する置換基としては、アルキル基又は芳香族基が好ましく、芳香族基がより好ましい。これら置換基の具体例としては、式(1)中のR1乃至R8が表す脂肪族炭化水素基の項に記載したアルキル基及び式(1)中のR1乃至R8が表す芳香族基と同じものが挙げられる。
上記式(1)中のR1乃至R8が表すアシル基とは、カルボニル基と芳香族基又はアルキル基が結合した置換基であり、アシル基の有するアルキル基及び芳香族基としては、式(1)中のR1乃至R8が表す脂肪族炭化水素基の項に記載したアルキル基、及び式(1)中のR1乃至R8が表す芳香族基と同じものが挙げられる。
【0025】
式(1)におけるR1乃至R8としてはそれぞれ独立に水素原子、芳香族基、複素環基又はハロゲン原子が好ましく、それぞれ独立に水素原子、芳香族基又はハロゲン原子がより好ましい。
また、R1とR8が同一であることが好ましく、R2とR7が同一であることが好ましく、R3とR6が同一であることが好ましく、R4とR5が同一であることが好ましい。
【0026】
式(1)中のR9及びR10はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族基、又は複素環基を表す。
上記式(1)中のR9及びR10が表す脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の直鎖状、分岐状又は環状のいずれにも限定されず、その炭素数は1乃至10が好ましく、1乃至6がより好ましい。ここで、飽和又は不飽和の直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、アリル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-セチル基、n-ヘプタデシル基、n-ブテニル基、2-エチルへキシル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3-ブチルノニル基、4-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、3-オクチルウンデシル基、4-オクチルドデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
式(1)中のR9及びR10が表す脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基又は2-ヘキシル基であることが更に好ましく、nメチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが特に好ましい。
【0027】
上記式(1)中のR9及びR10が表す芳香族基とは、芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基である。式(1)のR9乃至R10が表す芳香族基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、トリル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、フェナンスニル基及びメシチル基等が挙げられるが、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、ナフチル基又はメシチル基が好ましく、フェニル基、トリル基又はメシチル基がより好ましい。
尚、芳香族基と成り得る芳香族化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
【0028】
上記式(1)中のR9及びR10が表す複素環基とは、複素環化合物の複素環から水素原子を一つ除いた残基である。式(1)のR9乃至R10が表す複素環基としては、例えばフラニル基、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、N-メチルイミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、インドリル基、ベンゾピラジル基、ベンゾピリミジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、ピリジノチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピリジノイミダゾリル基、N-メチルベンゾイミダゾリル基、ピリジノ-N-メチルイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリジノオキサゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、ピリジノチアジアゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ピリジノオキサジアゾリル基、カルバゾリル基、フェノキサジニル基及びフェノチアジニル基等が挙げられ、チエニル基、チエノチエニル基、チアゾリル基、ピリジル基又はベンゾチアゾリル基が好ましく、チエニル基、チアゾリル基又はピリジル基がより好ましい。
尚、複素環基と成り得る複素環化合物は置換基を有していてもよく、該有していても良い置換基は特に限定されない。
【0029】
式(1)におけるR9及びR10としては、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香族基又は複素環基が好ましく、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0030】
式(1)中のR11及びR12はそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族基、複素環基を表す。
上記式(1)中のR11及びR12が表す脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の直鎖状、分岐状又は環状のいずれにも限定されず、その炭素数は1乃至10が好ましく、1乃至6がより好ましい。ここで、飽和又は不飽和の直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、アリル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-セチル基、n-ヘプタデシル基、n-ブテニル基、2-エチルへキシル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3-ブチルノニル基、4-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、3-オクチルウンデシル基、4-オクチルドデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0031】
上記式(1)中のR11及びR12が表す芳香族基とは、芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基である。式(1)のR11乃至R12が表す芳香族基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、トリル基、フルオロフェニル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、フェナンスニル基及びメシチル基等が挙げられるが、フェニル基、ビフェニル基、トリル基又はメシチル基が好ましく、フェニル基、トリル基、フルオロフェニル基又はメシチル基がより好ましい。
尚、芳香族基と成り得る芳香族化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
【0032】
上記式(1)中のR11及びR12が表す複素環基とは、複素環化合物の複素環から水素原子を一つ除いた残基である。式(1)のR11乃至R12が表す複素環基としては、例えばフラニル基、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、N-メチルイミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、インドリル基、ベンゾピラジル基、ベンゾピリミジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、ピリジノチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピリジノイミダゾリル基、N-メチルベンゾイミダゾリル基、ピリジノ-N-メチルイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリジノオキサゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、ピリジノチアジアゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ピリジノオキサジアゾリル基、カルバゾリル基、フェノキサジニル基及びフェノチアジニル基等が挙げられ、チエニル基、チエノチエニル基、チアゾリル基、ピリジル基、オキサゾリル基又はベンゾチアゾリル基が好ましく、チエニル基、チアゾリル基又はベンゾチアゾリル基がより好ましい。
尚、複素環基と成り得る複素環化合物は置換基を有していてもよく、該有していても良い置換基は特に限定されない。
【0033】
式(1)におけるR11及びR12としては、それぞれ独立に芳香族基又は複素環基が好ましく、芳香族基がより好ましい。
【0034】
式(1)中のZ1及びZ2はそれぞれ独立に芳香族化合物の芳香環から水素原子を二つ除いた二価の連結基、又は複素環化合物の複素環から水素原子を二つ除いた二価の連結基を表す。
上記式(1)中のZ1及びZ2が表す芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた二価の連結基となり得る芳香族化合物としては、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、フルオレン及びフェナントレン等が挙げられ、ベンゼン又はナフタレンが好ましく、ベンゼンがより好ましい。
尚、二価の連結基と成り得る芳香族化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
【0035】
上記式(1)中のZ1及びZ2が表す複素環化合物の複素環から水素原子を一つ除いた二価の連結基となり得る芳香族化合物としては、例えばチオフェン、フラン、ピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン及びキノリン等が挙げられ、チオフェン、チアゾール又はピリジンが好ましく、チオフェンがより好ましい。
尚、二価の連結基と成り得る複素環化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
【0036】
式(1)中、二価の連結基Z1及びZ2の数を意味するnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、それぞれ独立に0又は1が好ましく、1がより好ましい。
【0037】
次に、本発明の一般式(1)で表される化合物の合成方法について詳細に説明する。
前記式(1)で表される化合物は例えば以下の示す合成スキームにより合成することができる。化合物(a)は、公知の方法(特許文献5)を参考に合成可能であり、得られた化合物(a)を2級アミン誘導体と反応させて、化合物(b)とした後に、三臭化ホウ素を反応させることでB-Oキレート化することにより式(1)で表される化合物が得られる。これらの化合物の精製方法は特に限定されず、例えば洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー、真空昇華等が採用でき、必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
【0038】
【0039】
前記式(1)で表される化合物の具体例として、式(1-1)乃至(1-128)で表される化合物を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。なお、具体例として示した構造式は共鳴構造の一つを表したものにすぎず、図示した共鳴構造に限定されない。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
本発明の近赤外光吸収色素は、上記式(1)で表される化合物を含有する。
本発明の近赤外光吸収色素中の式(1)で表される化合物の含有量は、近赤外光吸収色素を用いる用途において必要とされる近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されないが、通常は50質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
本発明の近赤外光吸収色素には、式(1)で表される化合物以外の化合物(例えば式(1)で表される化合物以外の近赤外光吸収色素等)や添加剤等を併用してもよい。併用し得る化合物や添加剤等は、近赤外光吸収材料を用いる用途において必要とされる近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されない。
【0046】
本発明の化合物を用いて、薄膜を作製することができる。当該薄膜は本発明の化合物のみで構成されていてもよいが、別途公知の近赤外光吸収色素を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の薄膜の形成方法には、一般的な乾式成膜法や湿式成膜法が挙げられる。具体的には真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等が挙げられる。
一般的な近赤外光吸収色素は、加工の容易性という観点からは化合物を溶液状態で塗布するようなプロセスが望まれているが、有機膜を積層するような有機エレクトロニクスデバイスの場合、塗布溶液が下層の有機膜を侵す恐れがあることから不向きである。
【0048】
この様な多層積層構造を実現するためには、乾式成膜法、例えば抵抗加熱蒸着の様な蒸着可能な材料を用いることが適切である。したがって、近赤外領域に主たる吸収波長を有し、且つ蒸着可能な近赤外光吸収色素が近赤外光電変換材料として好ましい。
【0049】
各層の成膜には上記の手法を複数組み合わせた方法を採用してもよい。各層の厚みは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5乃至5000nmの範囲であり、好ましくは1乃至1000nmの範囲、より好ましくは5乃至500nmの範囲である。
【0050】
〔有機エレクトロニクスデバイス〕
本発明の化合物、近赤外光吸収材料或いは近赤外発光材料又はこれらを用いた有機薄膜を含む有機エレクトロニクスデバイスを作製することができる。有機エレクトロニクスデバイスとしては、例えば、薄膜トランジスタ、有機光電変換素子、有機太陽電池素子、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」又は「有機発光素子」と表す。)、有機発光トランジスタ素子、有機半導体レーザー素子などが挙げられる。本発明では、特に近赤外用途の展開が期待される有機光電変換素子、有機EL素子に着目する。ここでは本発明の実施形態の一つである近赤外光吸収材料として用いた近赤外有機光電変換素子、近赤外発光特性を利用した有機EL素子、有機半導体レーザー素子について説明する。
なお、ここでは詳細に説明しないが、700nmを超える近赤外光は、生体組織に対する透過性が高い。従って、生体内組織の観測のため利用も可能であるため、近赤外蛍光プローブ等、医療分野での病理解明、診断等において、その目的に応じて、いろいろな態様での適用が可能である。
【0051】
〔有機光電変換素子〕
上記式(1)で表される化合物は近赤外光吸収特性を有する化合物であることから、近赤外有機光電変換素子としての利用が期待される。特に、本発明の有機光電変換素子に於ける光電変換層に用いることができる。当該素子に於いては、光に対する応答波長光の吸収帯の極大吸収が780nm以上2500nm以下であることが好ましい。ここで、近赤外有機光電変換素子としては近赤外光センサ、有機撮像素子、近赤外光イメージセンサ等が挙げられる。
【0052】
有機光電変換素子は、対向する一対の電極膜間に光電変換部(膜)を配置した素子であって、電極膜の上方から光が光電変換部に入射されるものである。光電変換部は前記の入射光に応じて電子と正孔を発生するものであり、半導体により前記電荷に応じた信号が読み出され、光電変換膜部の吸収波長に応じた入射光量を示す素子である。光が入射しない側の電極膜には読み出しのためのトランジスタが接続される場合もある。光電変換素子は、アレイ状に多数配置されている場合、入射光量に加え入射位置情報をも示すため、撮像素子となる。又、より光源近くに配置された光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合は、複数の光電変換素子を積層して用いてもよい。
【0053】
本発明の有機光電変換素子は、前記式(1)で表される化合物を上記光電変換部の構成材料として用いることができる。
光電変換部は、光電変換層と、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層及び層間接触改良層等から成る群より選択される一種又は複数種の光電変換層以外の有機薄膜層とから成ることが多い。本発明の化合物は光電変換層以外にも用いることもできるが、光電変換層の有機薄膜層として用いることが好ましい。光電変換層は前記式(1)で表される化合物のみで構成されていてもよいが、前記式(1)で表される化合物以外に、公知の近赤外光吸収材料やその他を含んでいてもよい。
【0054】
本発明の有機光電変換素子で用いられる電極膜は、後述する光電変換部に含まれる光電変換層が、正孔輸送性を有する場合や光電変換層以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たし、又光電変換部に含まれる光電変換層が電子輸送性を有する場合や、有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。よって、電極膜として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換層やその他の有機薄膜層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極膜として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質:ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー:炭素等が挙げられる。これらの材料は、必要により複数を混合して用いてもよいし、複数を2層以上に積層して用いてもよい。電極膜に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度や、消費電力の観点からできるだけ高いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極膜として充分機能するが、数Ω/□程度の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能となっていることから、この様な高い導電性を有する基板を使用することが望ましい。ITO膜(電極膜)の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nm程度である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法等が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理等を施してもよい。
【0055】
電極膜のうち、少なくとも光が入射する側の何れか一方に用いられる透明電極膜の材料としては、ITO、IZO、SnO2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO2、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等が挙げられる。光電変換層の吸収ピーク波長における透明電極膜を介して入射した光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0056】
又、検出する波長の異なる光電変換層を複数積層する場合、それぞれの光電変換層の間に用いられる電極膜(これは上記記載の一対の電極膜以外の電極膜である)は、それぞれの光電変換層が検出する光以外の波長の光を透過させる必要があり、該電極膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0057】
電極膜はプラズマフリーで作製することが好ましい。プラズマフリーでこれらの電極膜を作成することにより、電極膜が設けられる基板にプラズマが与える影響が低減され、光電変換素子の光電変換特性を良好にすることができる。ここで、プラズマフリーとは、電極膜の成膜時にプラズマが発生しないか、又はプラズマ発生源から基板までの距離が2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上であり、基板に到達するプラズマが減ぜられるような状態を意味する。
【0058】
電極膜の成膜時にプラズマが発生しない装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置等が挙げられる。EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と称し、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と称する。
【0059】
成膜中プラズマを減ずることができるような状態を実現できる装置(以下、プラズマフリーである成膜装置という)としては、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着装置等が考えられる。
【0060】
透明導電膜を電極膜(例えば第一の導電膜)とした場合、DCショート、あるいはリーク電流の増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層に発生する微細なクラックがTCO(Transparent Conductive Oxide)などの緻密な膜によって被覆され、透明導電膜とは反対側の電極膜との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る材料を電極に用いた場合、リーク電流の増大は生じにくい。電極膜の膜厚を、光電変換層の膜厚(クラックの深さ)に応じて制御することにより、リーク電流の増大を抑制することができる。
【0061】
通常、導電膜を所定の値より薄くすると、急激な抵抗値の増加が起こる。本実施形態の光センサ用光電変換素子における導電膜のシート抵抗は、通常100乃至10000Ω/□であり、膜厚の自由度が大きい。又、透明導電膜が薄いほど吸収する光の量が少なくなり、一般に光透過率が高くなる。光透過率が高くなると、光電変換層で吸収される光が増加して光電変換能が向上するため非常に好ましい。
【0062】
本発明の有機光電変換素子が有する光電変換部は、光電変換層及び光電変換層以外の有機薄膜層を含む場合もある。光電変換部を構成する光電変換層には一般的に有機半導体膜が用いられるが、その有機半導体膜は一層若しくは複数の層であってもよく、一層の場合は、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。一方、複数の層である場合は、2乃至10層程度であり、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)の何れかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていてもよい。なお、上記の混合膜により光電変換層を形成する場合、本発明の一般式(1)で表される化合物をp型半導体材料として用い、n型半導体材料としては一般的なフラーレンや、その誘導体を用いることが好ましい。
【0063】
本発明の有機光電変換素子において、光電変換部を構成する光電変換層以外の有機薄膜層は、光電変換層以外の層、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層又は層間接触改良層等としても用いられる。特に電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層及び正孔ブロック層(以下「キャリアブロック層」とも表す。)から成る群より選択される一種以上の薄膜層として用いることにより、弱い光エネルギーでも効率よく電気信号に変換する素子が得られるため好ましい。
【0064】
加えて、例えば有機撮像素子は、一般的には高コントラスト化や省電力化を目的として、暗電流の低減により性能向上を目指すと考えられため、層構造内にキャリアブロック層を挿入する手法が好ましい。これらのキャリアブロック層は、有機エレクトロニクスデバイス分野では一般に用いられており、其々デバイスの構成膜中において正孔若しくは電子の逆移動を制御する機能を有する。
【0065】
電子輸送層は、光電変換層で発生した電子を電極膜へ輸送する役割と、電子輸送先の電極膜から光電変換層に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層から電極膜へ輸送する役割と、正孔輸送先の電極膜から光電変換層に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。電子ブロック層は、電極膜から光電変換層への電子の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。正孔ブロック層は、電極膜から光電変換層への正孔の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する機能を有する。
【0066】
図1に本発明の有機光電変換素子の代表的な素子構造を示すが、本発明はこの構造に限定されるものではない。
図1の態様例においては、1が絶縁部、2が一方の電極膜、3が電子ブロック層、4が光電変換層、5が正孔ブロック層、6が他方の電極膜、7が絶縁基材又は他の有機光電変換素子をそれぞれ表す。図中には読み出し用のトランジスタを記載していないが、2又は6の電極膜と接続されていればよく、更には光電変換層4が透明であれば、光が入射する側とは反対側の電極膜の外側に成膜されていてもよい。有機光電変換素子への光の入射は、光電変換層4を除く構成要素が、光電変換層の主たる吸収波長の光を入射することを極度に阻害することがなければ、上部若しくは下部からの何れからでもよい。
【0067】
[有機半導体レーザー素子について]
上記一般式(1)で表される化合物は近赤外発光特性を有する化合物であることから、有機半導体レーザー素子としての利用が期待される。すなわち、上記一般式(1)で表される化合物を含有する有機半導体レーザー素子に共振器構造を組み込み、効率的にキャリアを注入して励起状態の密度を十分に高めることができれば、光が増幅されレーザー発振に至る事が期待される。従来、光励起によるレーザー発振が観測されるのみで、電気励起によるレーザー発振に必要とされる、高密度のキャリアを有機半導体素子に注入し、高密度の励起状態を発生させるのは非常に困難と提唱されているが、上記一般式(1)で表される化合物を含有する有機半導体素子を用いることで、高効率な発光(電界発光)が起こる可能性が期待される。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。合成例に記載の化合物は、必要に応じて質量分析スペクトル、核磁気共鳴スペクトル(NMR)により構造を決定した。実施例における1H NMRの測定は、JNM-ECS400(JEOL社製)を用いて、分子量の測定はISQ LT GC-MS(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、また吸収スペクトルのλmaxの値はUV-1700(島津製作所製)を用いてそれぞれ行った。
【0069】
実施例1(本発明の化合物の合成)
下記のスキームにより式(1-68)で表される本発明の化合物を合成した。
【0070】
【0071】
(工程1)上記スキーム中、式(2-2)で表される中間体化合物の合成
フラスコ中で、上記式(2-1)で表される化合物(0.55mmol)とアニリン(5.4mmol)をトルエン(36mL)に溶解し、95℃に加熱して4時間撹拌した。反応液を放冷して、溶媒を濃縮乾燥した後に、エタノールで懸濁ろ過することにより、式(2-2)で表される中間体化合物を得た(0.34mmol、収率62質量%)。式(2-2)で表される化合物の分子量の測定結果は以下のとおりであった。
EI-MS(m/z):910[M]+
【0072】
(工程2)上記具体例の式(1-68)で表される化合物の合成
フラスコ中で、工程1で得られた式(2-2)で表される中間体化合物(0.29mmol)をジクロロメタン(25mL)に溶解させた。次いで、三臭化ホウ素(5.7mL)を反応系に加え、18時間攪拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に加えることで中和したのち、有機層を濃縮乾燥した。メタノールを加えて、懸濁ろ過することにより式(1-68)で表される本発明の化合物を得た。(0.12mmol、収率:41質量%)。
式(1-68)で表される化合物の分子量の測定結果は以下のとおりであった。
EI-MS(m/z):842[M]+
1H NMR(CDCl3)δ(ppm)=8.46(s、2H)、7.92(m、6H)、7.78(d、4H)、7.71(d、2H)、7.48(s、1H)、7.40(t、4H)、7.30-7.21(m、10H)
【0073】
実施例2(本発明の化合物の合成)
(工程3)上記具体例の式(1-101)で表される本発明の化合物の合成
フラスコ中で、ジ((ホルミルチエニル)-メトキシチエニル)ジフルオロジベンゾピロメテンーBF2錯体(0.033mmol)と3,5―ジメチルアニリン(0.30mmol)をトルエン(2mL)に溶解し、95℃に加熱して3時間撹拌した。反応液を放冷して、溶媒を濃縮乾燥した後に、エタノールで懸濁ろ過することにより、中間体化合物を得た(0.020mmol)。前記で得られた中間体化合物をフラスコ中でジクロロメタン(2mL)に溶解させた。次いで、三臭化ホウ素(0.5mL)を反応系に加え、7時間攪拌した。反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に加えることで中和したのち、有機層を濃縮乾燥した。メタノールを加えて、懸濁ろ過することにより式(1-101)で表される本発明の化合物を得た。(0.11mmol、収率:33質量%)。
式(1-101)で表される化合物の分子量の測定結果は以下のとおりであった。
EI-MS(m/z):910[M]+
1H NMR(CDCl3)δ(ppm)=8.52(s、2H)、7.93(dd、2H)、7.65(d、2H)、7.45(s、1H)、7.40(d、2H)、7.34(d、2H)、7.28(d、2H)、7.08(s、2H)、6.89(s、2H)、6.87(s、4H)、2.34(s、12H)
【0074】
比較例1(比較用の化合物の合成)
特許文献5に記載の方法に準じて、下記式(3-1)で表される比較用の化合物を得た。
【0075】
【0076】
(本発明の化合物及び比較用の化合物のクロロホルムに対する溶解度測定)
実施例1、2及び比較例1で得られた本発明の化合物及び比較用の化合物のクロロホルムへの溶解度を測定し、結果を表1に示した。
【0077】
【0078】
実施例1及び2で得られた本発明の化合物(式(1-68)、(1-101))はいずれも10mg/mL以上の溶解度を示したのに対して。比較例1で得られた比較用の化合物(式(3-1))は2mg/mL以下の溶解度であった。この結果より、本発明の化合物が比較用の化合物よりも高い溶解度を有する事は明らかである。
【0079】
(本発明の化合物及び比較用の化合物のクロロホルム溶液の吸収スペクトルのλmaxの測定)
実施例1、2及び比較例1で得られた化合物のクロロホルム溶液(濃度1.0×10-5mol/L)を調製し、吸収スペクトルの測定結果に基づいて求めたλmaxの値を表2に示した。
【0080】
【0081】
表2の結果より、実施例1及び2で得られた本発明の化合物(式(1-68)、(1-101))は比較用の化合物(式(3-1))よりも長波長領域にλmaxを有しており、近赤外光をより効率的に吸収できることは明らかである。
【0082】
実施例3(本発明の化合物を含む有機薄膜の作成と評価)
実施例1で得られた式(1-68)で表される化合物を用いて、0.5wt%のクロロホルム溶液を調製した後、石英基板上に100μL塗布し、1000rpm、30秒の条件でスピンコーティングをすることで本発明の有機薄膜を得た。得られた有機薄膜について吸収スペクトルを測定し、結果を
図2に示した。実施例3の有機薄膜のλmaxは897nmであった。
【0083】
実施例4(本発明の化合物を含む有機薄膜の作成と評価)
実施例2で得られた式(1-101)で表される化合物を用いて、0.5wt%のクロロホルム溶液を調製した後、石英基板上に100μL塗布し、1000rpm、30秒間の条件でスピンコーティングをすることで本発明の有機薄膜を得た。得られた有機薄膜について吸収スペクトルを測定し、結果を
図3に示した。実施例4の有機薄膜のλmaxは933nmであった。
【0084】
図3及び4の結果より、本発明の化合物を含む有機薄膜が、近赤外光領域でも良好な光吸収特性を示すことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の化合物は、合成上の簡便さと、溶媒に対する高い溶解性、溶液プロセスによる成膜性、近赤外領域における吸収特性を兼ね備えており、近赤外領域における光吸収色素として非常に有用である。
【符号の説明】
【0086】
(
図1)
1 絶縁部
2 上部電極
3 電子ブロック層
4 光電変換層
5 正孔ブロック層
6 下部電極
7 絶縁基材若しくは他光電変換素子