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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】携帯型環境計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/17 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
G01W1/17 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019110742
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020204467
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】522193547
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(72)【発明者】
【氏名】石川 宇
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0009119(US,A1)
【文献】特開2016-132835(JP,A)
【文献】特開2014-203241(JP,A)
【文献】特開2019-086307(JP,A)
【文献】特開2013-220236(JP,A)
【文献】特開2018-116584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者に装着するための装着部を有する本体と、該本体から突出して設けられた略球状の黒球内に温度センサを有する黒球センサ部と、該黒球センサ部の計測値に基づいて指標を算出する前記本体内の制御部とを備えた携帯型環境計測装置において、
前記黒球は、前記本体に対する位置を調節する位置調節機構を介して前記本体に連結されることを特徴とする携帯型環境計測装置。
【請求項2】
前記位置調節機構は、前記黒球と前記本体を連結するアーム部を備え、該アーム部は、前記本体に対して角度調節自在に連結され、且つ、調節した角度に保持されることを特徴とする請求項1に記載の携帯型環境計測装置。
【請求項3】
前記本体には、前記アーム部の角度を操作する角度操作部が設けられることを特徴とする請求項2に記載の携帯型環境計測装置。
【請求項4】
前記黒球は、前記位置調節機構によって、前記作業者に装着された状態の前記本体に対して位置が調節されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の携帯型環境計測装置。
【請求項5】
前記装着部は、前記作業者に装着するための装着具、または、前記装着具を取り付けるための前記本体の係合部であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載の携帯型環境計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は携帯型環境計測装置に係り、特に作業者が装着した状態で使用し、暑さ指数を求めて熱中症の危険度を知らせる携帯型環境計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
暑熱環境下での作業は熱中症を引き起こすことが知られており、その対策として携帯型環境計測装置(いわゆる熱中症指数計)を作業者が持つ機会が増えている。携帯型環境計測装置は一般に、湿球黒球温度(或いは暑さ指数WBGT)を指標としており、その算出のために黒球温度を計測する必要がある。黒球温度は本来、直径15cmの黒球の中心温度を計測することになっているが、携帯型では大きな黒球を持ち歩くことができないため、小さな黒球を設けてその中心で温度を計測し、その値を補正することで黒球温度として使用している。例えば特許文献1の携帯型環境計測装置は、本体の上方に小さな黒球が突出して設けられており、この黒球内の中心温度を計測することによって、熱中症の指数を求めている。
【0003】
ところで、このような携帯型環境計測装置は、作業場に置いて使用するほか、作業者に装着した状態で使用することが多い。このため、携帯型環境計測装置の本体には、装着具(たとえばベルト、ホルダ、紐、ストラップ、クリップ等)が設けられていたり、或いは、装着具を後付けできるような係合部(孔やフック等)が設けられており、本体を作業者に装着して使用できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6047801号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の携帯型環境計測装置は、その本体を作業者に装着した際に、本体上方の黒球が作業者に密着して黒球に熱が伝わったり、黒球が作業者の影に入ってしまったりすることがあった。このため、本体を作業者に装着した状態では、黒球温度のずれが大きく、熱中症の指数を正確に求めることができないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、作業者に装着した状態であっても黒球温度を正確に求めることができ、熱中症の指数等を正確に求めることができる携帯型環境計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、作業者に装着するための装着部を有する本体と、該本体から突出して設けられた略球状の黒球内に温度センサを有する黒球センサ部と、該黒球センサ部の計測値に基づいて指標を算出する前記本体内の制御部とを備えた携帯型環境計測装置において、前記黒球は、前記本体に対する位置を調節する位置調節機構を介して前記本体に連結されることを特徴とする携帯型環境計測装置を特徴とする。
【0008】
本発明によれば黒球が本体に対して位置調節自在に連結されるので、本体を装着した作業者に対する黒球の位置を調節することができる。したがって、作業者から黒球を離すことによって、作業者の熱や影が黒球内の温度センサに影響することを防止することができる。
【0009】
請求項2の発明は請求項1の発明において、前記位置調節機構は、前記黒球と前記本体を連結するアーム部を備え、該アーム部は、前記本体に対して角度調節自在に連結され、且つ、調節した角度に保持されることを特徴とする。本発明によれば、アーム部の角度を調節することによって本体に対する黒球の位置を調節することができる。
【0010】
請求項3の発明は請求項2の発明において、前記本体には、前記アーム部の角度を操作する角度操作部が設けられることを特徴とする。本発明によれば、本体に角度操作部が設けられているので、黒球を触らずに角度調整することができる。
【0011】
請求項4の発明は請求項1~3のいずれか1の発明において、前記黒球は、前記位置調節機構によって、前記作業者に装着された状態の前記本体に対して位置が調節されることを特徴とする。本発明によれば、本体を作業者に装着したまま、黒球の位置を調節することができる。したがって、黒球を作業者から確実に離すことができる。
【0012】
請求項5の発明は請求項1~4のいずれか1の発明において、前記装着部は、前記作業者に装着するための装着具、または、前記装着具を取り付けるための前記本体の係合部であることを特徴とする。本発明によれば、本体に装着具(たとえばベルト、ホルダ、紐、ストラップ、クリップ等)、または、装着具用の係合部(たとえば穴、フック等)が設けられており、本体を作業者に装着することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、黒球が本体に対して位置調節自在に連結されるので、本体を装着した作業者から黒球を離すことができ、作業者の熱や影が黒球内の温度センサに影響することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の携帯型環境計測装置が適用された熱中症指数計の正面図
図2図1の熱中症指数計の右側面図
図3図1の熱中症指数計の背面図
図4】別の実施形態の熱中症指数計を示す正面図
図5図4の熱中症指数計の右側面図
図6】別の実施形態の熱中症指数計を示す正面図
図7】別の実施形態の熱中症指数計を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面に従って本発明に係る携帯型環境計測装置の好ましい実施形態について熱中症指数計の例で説明する。図1は、本発明が適用された熱中症指数計10を示す正面図であり、図2図3はそれぞれ、熱中症指数計10の右側面図、背面図である。
【0016】
これらの図に示す熱中症指数計10は、本体12と、黒球センサ部14を備えている。黒球センサ部14は黒球温度を計測するセンサであり、略球状に形成された黒球15と、その内部の中心に配置された温度計(不図示)で構成されている。この黒球15はアーム部16を介して本体12に支持されており、本体12の上部に突出した状態で取り付けられている。
【0017】
アーム部16はその先端に黒球15が固定されるとともに、基端部が本体12の上部に回動自在に連結されている。具体的には、本体12の上部は中央が凹んだ凹状に形成されており、この凹状部分にアーム部16の基端部が入り込んだ状態で回動自在に連結されている。したがって、図2に示すように、アーム部16を本体12に対して回動させ、角度を変えることによって、黒球センサ部14の黒球15の位置を本体12に対して調節することができる。
【0018】
アーム部16の基端部と本体12との間には不図示の摩擦板が設けられており、通常時(アーム部16や黒球15に力を与えていない時)には、その摩擦力によってアーム部16の角度が維持されるようになっている。また、摩擦力を上回る力をアーム部16(または黒球15)に与えた際には、アーム部16が本体12に対して回動し、アーム部16の角度、すなわち本体12に対する黒球15の位置を調節することができる。アーム部16の角度調節の可動範囲は、図2に示すように、黒球15が本体12の真上の位置から本体12の正面の位置までの略90度になっている。また、アーム部16は所定の回転角度(たとえば、30度、45度、60度等)で摩擦抵抗が大きくなり、回動操作時に一時的に停止するように構成されている。
【0019】
一方、本体12の正面には、図1に示すように画面18が設けられており、この画面18に温度や湿度、熱中症の指数、さらには熱中症の警告表示が行われる。画面18の周囲には、電源ボタンや設定ボタンなどの各種操作ボタン20が設けられている。なお、図1は、画面18や操作ボタン20の配置の一例であり、これに限定するものでは無く、様々な態様が可能である。また、画面18や操作ボタン20とは異なる部材、例えば熱中症の警告灯を設けても良い。
【0020】
本体12の内部には、回路基板等から成る制御部と、電源としての電池と、温湿度センサが設けられている(いずれも不図示)。温湿度センサは、温度と湿度を計測するセンサであり、その計測信号が制御部に送信される。制御部は各種の演算処理を行っており、黒球センサ部14の計測値から得られる黒球温度と、温湿度センサの計測値から得られる湿球温度、乾球温度とを用いて、湿球黒球温度を算出する。そして、算出した湿球黒球温度を熱中症の指数として画面18に表示し、さらにその指数が所定値を超えた場合には、画面18に警告表示を行ったり、不図示のマイクから警告音を発したりする。なお、本実施の形態では、温度と湿度の両方を計測する温湿度センサを用いたが、温度センサと湿度センサを別々に設けてもよい。
【0021】
図3に示すように、本体12の背面側には、作業者に装着するための装着部として、装着具用の係合部が設けられている。具体的には、付属のベルト22(図2参照)を通すための細長い孔24、24が本体12の背面の両サイドに形成されている。この孔24、24は、本体12の背面と側面を貫通するように形成されており、この孔24にベルト30を通して作業者の一部(たとえば腕等)に巻き付けることによって、本体12が作業者に装着される。その際、孔24、24を背面の両サイドに設けたことによって、本体12は背面が作業者に当接した状態で安定して装着される。上述したアーム部16の角度調整は、作業者との当接面(本体12の背面)に対して角度(姿勢)を調節できるように構成することが好ましく、それによって黒球15と作業者との間隔を変えることができる。
【0022】
なお、本実施の形態では、装着具用の係合部としてベルト用の細長い孔24、24を形成したが、これに限定するものではなく、装着具を取り付けるための係合部として様々な態様が可能である。たとえば、紐やストラップを係合させるための小さい孔や、硬質のホルダを係合させるための凸部や凹部を係合部として本体12に設けてもよい。また、本実施の形態では、装着具用の係合部を本体12に設けたが、本体12に装着具を直接設けてもよく、たとえばホルダやクリップ等の装着具を本体12に設けてもよい。
【0023】
次に上記の如く構成された熱中症指数計10の作用について説明する。熱中症指数計10を作業者に装着して使用する場合、図2に示すベルト22によって、本体12を作業者に装着する。その際、本体12の背面(図2の右側の面)が作業者に当接した状態になり、黒球センサ部14の黒球15も作業者に接しやすくなる。このため、作業者の熱が黒球15に伝わりやすいという問題がある。また、黒球15が作業者に接しやすいために、黒球15の一部が作業者の影に入りやすいという問題もある。その結果、黒球温度の値がズレてしまい、熱中症の指数が実際と異なった値になってしまうため、熱中症の警告を正しいタイミングで発することができなくなる。
【0024】
このような問題を解消するため、本実施の形態の熱中症指数計10は、アーム部16の角度を本体12に対して調節できるようになっている。たとえば、アーム部16を調節前の状態(図2の実線の位置)から90度の位置(図2の二点鎖線の位置)に回転させる。これにより、黒球センサ部14の黒球15は作業者から離れた位置に配置されるので、作業者の熱が黒球15に伝わったり、作業者の影に黒球15が入ったりしにくくなる。したがって、黒球温度の計測精度が向上するので、熱中症の指数を正しく求めることができ、適切なタイミングで熱中症の警告を発することができる。
【0025】
特に本実施の形態では、本体12の背面側が作業者に装着される一方で、黒球15が本体12の上方から正面側に移動するようになっているので、本体12を作業者に装着した状態のまま黒球15の位置を調節することができる。したがって、黒球15の位置を作業者から離れた位置に、確実且つ簡単に移動させることができる。
【0026】
さらに本実施の形態では、黒球15を元の位置(本体12の上方)に戻すことによって、据え置き型としても安定して使用することができる。すなわち、据え置き型として床等に置いて使用する場合には、黒球15を本体12の上方に配置するとともに本体12を立てて置くことによって、黒球15が床から離れた位置に配置され、黒球温度を正確に測定することができる。
【0027】
なお、上述した説明では、アーム部16の角度を90度間隔で調節したが、これに限定するものでは無く、30度、45度、60度など、作業者が作業しやすい角度に、あるいは日陰となる角度に適宜調節することができる。
【0028】
また、上述した実施形態では、アーム部16や黒球15を直接操作して位置調節するようにしたが、これに限定するものでは無く、たとえば、本体12の側面に角度調節ツマミ(不図示)を設け、このツマミを回動操作することによって、アーム部16の角度、すなわち黒球15の位置を調節するようにしてもよい。この場合、黒球15に触れることなく、角度を調節することができる。
【0029】
さらに上述した実施形態では、本体12とアーム部16の間に不図示の摩擦板を設けることによってアーム部16の角度が保持されるようにしたが、アーム部16の角度調節機構はこれに限定するものでは無く、様々な態様が可能である。たとえば、ギア等を利用してアーム部16の角度を調節・保持するようにしてもよい。
【0030】
図4図5は、別の実施形態の熱中症指数計30であり、それぞれ熱中症30の正面図と右側面図を示している。これらの図に示す熱中症指数計30は、図1図3に示した熱中症指数計10と比較して、黒球15の位置調節機構が異なっている。具体的には、黒球15が関節付きアーム部32を介して本体12に連結されている。関節付きアーム部32は、先端側と基端側に分かれており、ピン34(図5参照)を介して回動自在に連結されている。したがって、関節付きアーム部32を屈曲させることができ、黒球15の位置を二点鎖線で示す如く調節することができる。この熱中症指数計30の場合にも黒球15を作業者から離すことができ、精度の良い計測を行うことができる。
【0031】
なお、上述した実施形態では関節付きアーム部32の関節が1個の例で説明したが、これに限定するものでは無く、複数個の関節を設けてもよい。その際、関節の回転軸は一方向に限定されるものでは無く、複数方向であってもよい。また、関節付きアーム部32の関節として、ユニバーサルジョイントを用いて、全方向に角度調節できるようにしてもよい。
【0032】
図6は、別の実施形態の熱中症指数計40を示している。同図に示す熱中症指数計40も黒球15の位置調節機構が異なっている。具体的には、黒球15がフレキシブルケーブル42を介して本体12に連結されている。このフレキシブルケーブル42は帯状の金属板をらせん状に巻いたものであり、自在に湾曲させることができ、且つ、湾曲した姿勢を維持するように構成されている。このようなフレキシブルケーブル42を用いた場合にも、黒球15を本体12に対して位置調節することができる。このように、黒球15の位置調節機構は様々な態様が可能であり、本体12に対する黒球15の位置を調節できるものであれば良い。
【0033】
なお、上述した実施形態では、黒球15が本体12の上部中央から突出して設けられた例で説明したが、黒球15の位置はこれに限定するものでは無く、たとえば本体12の左右側面や下面、或いは正面から突出するように設けて良い。また、図7に示す熱中症指数計50のように、本体12の右上コーナー部に黒球15を突出して設け、本体12に対して回動自在に連結しても良い。
【0034】
また、上述した実施形態では、黒球15を本体12に対して位置調節自在に構成したが、同様に温湿度センサを本体12に対して位置調節自在に構成してもよい。たとえば、温湿度センサ部を本体12の下方に突出して設けるとともに、この温湿度センサ部を関節付きアーム部を介して本体に連結する。これにより、温湿度センサ部の位置を本体12に対して調節することができ、温湿度センサ部を作業者から離して配置することができる。
【0035】
さらに上述した実施形態は、携帯型環境計測装置の例として熱中症指数計の例で説明したが、これに限定するものでは無く、環境を計測する装置であれば適用することができ、たとえばインフルエンザの指標や乾燥指数を表示する装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
10…熱中症指数計、12…本体、14…黒球センサ部、15…黒球、16…アーム部、18…画面、20…操作ボタン、22…ベルト、24…孔、30…熱中症指数計、32…アーム部、34…関節部、40…熱中症指数計、42…フレキシブルケーブル、50…熱中症指数計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7