(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/117 20060101AFI20221115BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20221115BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B60C11/117 100Z
B60C11/03 B
B60C11/03 C
B60C5/00 H
(21)【出願番号】P 2019110819
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】大澤 靖雄
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521845(JP,A)
【文献】特開2002-225509(JP,A)
【文献】特開2005-119480(JP,A)
【文献】特開2008-062749(JP,A)
【文献】特開2017-197149(JP,A)
【文献】特開2017-087966(JP,A)
【文献】特開2007-090980(JP,A)
【文献】国際公開第2019/027423(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0240192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 11/03
B60C 11/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド踏面に、吸水孔を1つ以上有する空気入りタイヤであって、
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側に位置する細径部と、孔底側に位置する、径が前記細径部の径より大きい拡径部と、を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、前記吸水孔は、前記トレッド踏面の法線方向に対して傾斜して延びており、
前記基準状態において、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での断面積の、前記細径部の延在長さにわたる平均値である平均断面積は、0.2~20mm
2であり、
且つ、前記拡径部の径は、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での径の1.4倍以上であり、
前記基準状態における、前記トレッド踏面側から見た透過平面視において、前記細径部の前記トレッド踏面への開口部と前記拡径部とが、重なって
おり、
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、タイヤ周方向に傾斜しており、
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、前記空気入りタイヤの車両装着時の踏み込み側に向かって傾斜していることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド踏面に、吸水孔を1つ以上有する空気入りタイヤであって、
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側に位置する細径部と、孔底側に位置する、径が前記細径部の径より大きい拡径部と、を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、前記吸水孔は、前記トレッド踏面の法線方向に対して傾斜して延びており、
前記基準状態において、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での断面積の、前記細径部の延在長さにわたる平均値である平均断面積は、0.2~20mm
2であり、
且つ、前記拡径部の径は、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での径の1.4倍以上であり、
前記基準状態における、前記トレッド踏面側から見た透過平面視において、前記細径部の前記トレッド踏面への開口部と前記拡径部とが、重なって
おり、
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、タイヤ幅方向に傾斜していることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、前記空気入りタイヤの車両装着時の車両装着外側に向かって傾斜している、請求項
2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、前記空気入りタイヤの車両装着時の車両装着内側に向かって傾斜している、請求項
2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
トレッド踏面に、吸水孔を1つ以上有する空気入りタイヤであって、
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側に位置する細径部と、孔底側に位置する、径が前記細径部の径より大きい拡径部と、を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、前記吸水孔は、前記トレッド踏面の法線方向に対して傾斜して延びており、
前記基準状態において、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での断面積の、前記細径部の延在長さにわたる平均値である平均断面積は、0.2~20mm
2であり、
且つ、前記拡径部の径は、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での径の1.4倍以上であり、
前記基準状態における、前記トレッド踏面側から見た透過平面視において、前記細径部の前記トレッド踏面への開口部と前記拡径部とが、重なって
おり、
前記細径部は、柱状であり、該細径部の延在方向に垂直な断面が、円形又は楕円形であることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記拡径部は、球状である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド踏面にピン状のサイプを設けることにより、排水性を向上させた空気入りタイヤが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の技術では、氷上での排水性を向上させることができるものの、水量の多い湿潤路面においては、湾曲部により吸水が阻害されやすい等の理由により、排水性が十分に向上しない場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、湿潤路面での排水性を向上させることのできる、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明の空気入りタイヤは、トレッド踏面に、吸水孔を1つ以上有し、
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側に位置する細径部と、孔底側に位置する、径が前記細径部の径より大きい拡径部と、を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、前記吸水孔は、前記トレッド踏面の法線方向に対して傾斜して延びており、
前記基準状態において、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での断面積の、前記細径部の延在長さにわたる平均値である平均断面積は、0.2~20mm2であり、且つ、前記拡径部の径は、前記細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での径の1.4倍以上であり、
前記基準状態における、前記トレッド踏面側から見た透過平面視において、前記細径部の前記トレッド踏面への開口部と前記拡径部とが、重なっていることを特徴とする。
本発明の空気入りタイヤによれば、湿潤路面での排水性を向上させることができる。
【0007】
ここで、「トレッド踏面」とは、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填して、最大負荷荷重を負荷した際に、路面と接地することとなるトレッド表面の、トレッド周方向全域にわたる面をいう。
後述の「トレッド端」とは、上記トレッド踏面のタイヤ幅方向両側の最外側点をいう。
また、上記「細径部の該細径部の延在方向に垂直な断面での径」は、該断面内で径が一定でない(断面が円形でない)場合には、該断面の面積を求め、該面積と同じ面積となる円の直径をいうものとする。
また、上記「拡径部の径」は、径が一定でない場合(拡径部が球でない場合)には、拡径部の体積を求め、該体積と同じ体積となる球の直径をいうものとする。
また、「重なっている」とは、接する場合も含まれる。
【0008】
本明細書において、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(即ち、上記の「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
また、「規定内圧」とは、上記JATMA等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を指し、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「規定内圧」は、タイヤを装着する車両毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
また、「最大負荷荷重」とは、上記最大負荷能力に対応する荷重をいうものとする。
【0009】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、タイヤ周方向に傾斜していることが好ましい。
この構成によれば、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0010】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、前記空気入りタイヤの車両装着時の蹴り出し側に向かって傾斜していることが好ましい。
この構成によれば、拡径部に水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0011】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、前記空気入りタイヤの車両装着時の踏み込み側に向かって傾斜していることも好ましい。
この構成によれば、吸水効果を向上させて、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0012】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、タイヤ幅方向に傾斜していることが好ましい。
この構成によれば、コーナリング時に、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0013】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、前記空気入りタイヤの車両装着時の車両装着外側に向かって傾斜していることが好ましい。
この構成によれば、コーナリング時に、吸水効果を向上させて、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0014】
前記吸水孔は、前記トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、前記空気入りタイヤの車両装着時の車両装着内側に向かって傾斜していることが好ましい。
この構成によれば、コーナリング時に、拡径部に水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0015】
前記細径部は、柱状であり、該細径部の延在方向に垂直な断面が、円形又は楕円形であることが好ましい。
この構成によれば、細径部での壁面粘性抵抗を低減して、湿潤路面での排水性をより一層向上させることができる。
【0016】
前記拡径部は、球状であることが好ましい。
この構成によれば、拡径部に水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をさらに向上させることができる。
なお、「球状」とは、球のみならず、例えば断面楕円形となるような断面を有するような場合も含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、湿潤路面での排水性を向上させることのできる、空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
【
図2】一例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該一例にかかる吸水孔のトレッド周方向断面図(下図)である。
【
図3】他の例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該他の例にかかる吸水孔のトレッド周方向断面図(下図)である。
【
図4】別の例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該別の例にかかる吸水孔のトレッド幅方向断面図(下図)である。
【
図5】さらに別の例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該さらに別の例にかかる吸水孔のトレッド幅方向断面図(下図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
ここで、空気入りタイヤ(以下、単にタイヤとも称する)の内部構造等については、従来のものと同様の構造とすることができる。一例としては、該タイヤは、一対のビード部と、該一対のビード部に連なる一対のサイドウォール部と、該一対のサイドウォール部間に配置されたトレッド部とを有するものとすることができる。また、該タイヤは、一対のビード部間をトロイダル状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルトと、を有するものとすることができる。
以下、特に断りのない限り、寸法等は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態(本明細書において、「基準状態」という)での寸法等を指す。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
【0021】
図1に示すように、本例のタイヤは、トレッド踏面1に、トレッド周方向に延びる複数本(図示例では3本)の周方向主溝2(2a、2b、2c)と、複数本の周方向主溝2のうちトレッド幅方向に隣接する周方向主溝2間に、又は、周方向主溝2(2a、2c)とトレッド端TEとにより、区画される複数(図示例では4つ)の陸部3(3a、3b、3c、3d)と、を有している。この例では、1つの周方向主溝2bは、タイヤ赤道面CL上に位置しており、他の周方向主溝2a、2cは、それぞれタイヤ赤道面CLを境界としたトレッド幅方向の一方の半部、他方の半部に位置している。そして、この例では、各トレッド幅方向半部に2つずつの陸部3が配置されている。図示のように、陸部3b、3cは、トレッド幅方向中央側の陸部であり、陸部3a、3dは、トレッド端TEに隣接する陸部である。なお、
図1に示した例では、周方向主溝2の本数は、3本であるが、2本以下(0~2本)又は4本以上とすることもできる。従って、陸部3の個数も、3つ以下(1~3つ)又は5つ以上とすることができる。
【0022】
また、
図1に示すように、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dは、トレッド幅方向に延びる複数本(図示の範囲では2本)の幅方向溝4によりブロック5に区画されている。このように、本例では、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cは、リブ状陸部であり、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dは、非リブ状陸部、すなわちブロック状陸部である。なお、「リブ状陸部」とは、陸部が、トレッド幅方向に延びる幅方向溝や幅方向サイプによってトレッド周方向に完全に分断されていない陸部をいう。一方で、全ての陸部がリブ状陸部であっても良く、あるいは、全ての陸部がブロック状陸部であっても良い。あるいは、本例のように、一部の陸部がリブ状陸部であり、残りの陸部がブロック状陸部である場合、トレッド幅方向のいずれの位置の陸部をリブ状陸部としても良い。幅方向溝4を有する陸部において、幅方向溝4の本数は、ネガティブ率等を考慮して適宜決定することができ、特には限定されない。
【0023】
図示例では、トレッド踏面1の平面視において、周方向主溝2は、いずれも、トレッド周方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1つの周方向主溝2がトレッド周方向に対して傾斜して延びていても良く、その場合、トレッド周方向に対して、例えば5°以下の角度で傾斜して延びるものとすることができる。また、図示例では、周方向主溝2は、いずれも、トレッド周方向に真っ直ぐ延びているが、少なくとも1本の周方向主溝2が、ジグザグ状、湾曲状などの形状を有していても良い。
【0024】
また、図示例では、いずれの幅方向溝4も、トレッド幅方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1本の幅方向溝4がトレッド幅方向に対して傾斜して延びていても良い。
なお、図示例では、トレッド幅方向一方側の半部のトレッド端TEに隣接する陸部3aの幅方向溝4と、トレッド幅方向他方側の半部のトレッド端TEに隣接する陸部3dの幅方向溝4とが、トレッド幅方向に投影した際に互いに重なるように、トレッド周方向の位置を揃えて配置されているが、各陸部3間の幅方向溝4は、トレッド幅方向に投影した際に互いに重ならないように、トレッド周方向の位置をずらして配置することもできる。
【0025】
なお、図示例では、各陸部3は、いずれもサイプを有していない。一方で、少なくとも1以上の陸部3において、サイプを有する構成とすることもできる。その場合、サイプを有する陸部は、トレッド幅方向に延びる幅方向サイプを有しても良く、トレッド周方向に延びる周方向サイプを有しても良く、あるいは、両方有することもできる。
なお、「サイプ」とは、上記基準状態におけるトレッド踏面への開口幅(平面視において、サイプの延在方向に対して垂直に測った開口幅)が2mm以下のものをいう。
【0026】
図1に示す本例のタイヤは、トレッド踏面1に、吸水孔6を1つ以上(本例では、図示の範囲で12個)有している。図示例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3d及びトレッド幅方向中央側の陸部3b、3cのそれぞれが、吸水孔6を1つ以上有している。一方で、トレッド踏面1が1つ以上の陸部3を有している場合、いずれかの陸部3が1つ以上の吸水孔6を有していれば良く、吸水孔6を有しない陸部があっても良い。また、本例では、ブロック状の陸部3a、3dにおいては、各ブロック5が1つ以上(図示例では1つ)の吸水孔6を有しているが、ブロック状の陸部3a、3dが吸水孔6を有している場合、いずれかのブロックが吸水孔6を有していれば良く、吸水孔6を有しないブロックがあっても良い。
【0027】
また、トレッド踏面1に、吸水孔6を1つ以上有していれば、各陸部3における吸水孔6の個数は、特に限定されない。例えば、
図1に示す例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dにおいて、各ブロック5が1つのみの吸水孔6を有しているが、各ブロック5又はいずれかのブロック5が、複数の吸水孔6を有していても良く、各ブロック5又はいずれかのブロック5が、上述したように吸水孔6を有していなくても良い。また、ブロック5間で吸水孔6の個数が異なっていても良い。また、
図1に示す例では、トレッド幅方向中央側のリブ状の陸部3b、3cにおいて、図示の範囲で3つの吸水孔6を有しているが、リブ状の陸部3b、3cにおける吸水孔6の個数も特に限定されない。
【0028】
図1に示す例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dにおいては、各ブロック5において、1つの吸水孔6がブロック5の略中央に設けられているが、この配置には限定されない。一例としては、吸水孔6は、ブロック5のいずれかの角部に設けることもできる。また、ブロック5間で吸水孔6を設ける位置を異ならせることもできる。さらに、
図1に示す例では、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cにおいては、各吸水孔6は、陸部3b、3cのトレッド幅方向略中央に設けられているが、この場合に限定されない。一例として、吸水孔6は、いずれかの周方向主溝2に近い位置に設けることもできる。また、本例では、リブ状の陸部3b、3cにおいて、吸水孔6は、トレッド周方向に等間隔に配置されているが、非等間隔に配置することもできる。図示例では、陸部3bと陸部3cとで、吸水孔6は、トレッド幅方向に投影した際に互いに重なるように、トレッド周方向の位置を揃えて設けられているが、リブ状の陸部3間で、一部又は全部の吸水孔6を設けるトレッド周方向の位置を異ならせることもできる。また、図示例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dに設けられた吸水孔6と、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cに設けられた吸水孔6とでも、トレッド幅方向に投影した際に互いに重なるように、トレッド周方向の位置を揃えて設けられているが、陸部3間で、一部又は全部の吸水孔6を設けるトレッド周方向の位置を異ならせることもできる。
あるいは、例えば、トレッド踏面1の一部又は全体に、吸水孔6を、(トレッド踏面1が有する陸部3が、リブ状の陸部であるかブロック状の陸部であるかを問わず)ランダムに配置することもできる。
【0029】
図2は、一例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該一例にかかる吸水孔のトレッド周方向断面図(下図)である。
図2の上図においては、説明の便宜上、細径部6aの開口部(実線)及び拡径部6bの輪郭線の投影線(破線)を示している。
【0030】
図2、
図3に示すように、吸水孔6は、トレッド踏面1側に位置する細径部6aと、孔底側に位置する、径が細径部6aの径より大きい拡径部6bと、を有する。図示例では、細径部6aは、柱状であり、細径部6aの延在方向に垂直な断面で円形を有する。なお、
図1に示すように、トレッド踏面1側から見た平面視においては、細径部6aのトレッド踏面1への開口部は、楕円形である。一方で、細径部6aは、この形状には限定されず、例えば、柱状であって、細径部6aの延在方向に垂直な断面で楕円形を有するものとすることもできる。あるいは、細径部6aは、柱状であって、細径部6aの延在方向に垂直な断面で他の形状(例えば多角形状)とすることもできる。なお、
図2に示した例では、細径部6aの該細径部6aの延在方向に垂直な断面での径W1が一定であるが、径W1が細径部6aの延在方向に変化していても良く、例えば、径W1が、孔底側からトレッド踏面1側に向かうに従い、漸増又は漸減するように構成することもできる。また、図示例では、拡径部6bは、球状であり、より具体的には球形である。一方で、拡径部6bは、球状であって、例えば断面楕円形となるような断面を有するものとすることもでき、あるいは、拡径部6bは、断面で角部を有する形状であっても良い。なお、図示例では、細径部6a及び拡径部6bは、いわばスポイト状の形状をなしている。
【0031】
また、
図2、
図3に示すように、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態において、細径部6aの該細径部6aの延在方向に垂直な断面での断面積の、細径部6aの延在長さにわたる平均値である平均断面積は、0.2~20mm
2であり、且つ、拡径部6bの径W2は、細径部6aの該細径部6aの延在方向に垂直な断面での径W1の1.4倍以上である。
なお、細径部6aと拡径部6bとは、細径部6aと拡径部6bとの境界縁を含む最小面積の面を境界面とするものとする。
また、上記平均断面積は、例えば、細径部6aの容積を該細径部6aの延在長さ(細径部6aの中心線の延在長さ)で除することにより求めることができる。
ここで、細径部6aの延在長さは、特には限定されないが、例えば乗用車用空気入りタイヤの場合には、一例としては、1.5~5.5mmとすることができる。また、拡径部6bの溝底は、特には限定されないが、例えば乗用車用空気入りタイヤの場合には、一例としては、周方向主溝2の溝底よりタイヤ径方向外側に0.5~1.5mmの位置であることが好ましい。また、細径部6aと拡径部6bとの接続位置は、特には限定されないが、例えば乗用車用空気入りタイヤの場合には、一例としては、周方向主溝2の溝底よりタイヤ径方向外側に2.5~3.5mmの位置であることが好ましい。ライトトラック用タイヤ、トラックバス用タイヤ等の場合には、例えば、乗用車用タイヤの場合の溝深さと上記形状との関係性を考慮して、類似な関係性を用いる等して、調整することができる。
【0032】
また、
図2、
図3に示すように、吸水孔6は、トレッド踏面1の法線方向に対して傾斜して延びている。より具体的には、吸水孔6の細径部6aが、トレッド踏面1の法線方向に対して傾斜して延びている。ここで、「法線方向」は、吸水孔がないと仮定したトレッド表面の仮想線に対し、吸水孔の中心線と該仮想線との交点での接線に垂直な線とする。
図2に示す例では、吸水孔6は、トレッド踏面1側から孔底側に向かうに従い、タイヤ周方向に傾斜している。
なお、本例では、トレッド踏面1に設けた1つ以上の吸水孔6は、いずれも、トレッド踏面1の法線方向に対して同じ方向に(同じ傾斜角度で)傾斜して延びている。
【0033】
また、
図2に示すように、上記基準状態において、トレッド踏面1側から見た透過平面視において、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとが、重なっている(
図2の例では、重なり幅をもって重なっている)。
なお、例えば、細径部6aの平均断面積が上記の範囲内にある場合、細径部6aの延在長さ、細径部6aのトレッド踏面1の法線方向に対する傾斜角度、及び拡径部6bの径のうち、いずれか1つ以上を調整することにより、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとを重ならせるように調整することができる。例えば、他の条件が同じである場合、細径部6aの延在長さをある程度短くすることで、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとを重ならせるように調整することができる。あるいは、他の条件が同じである場合、細径部6aのトレッド踏面1の法線方向に対する傾斜角度をある程度小さくすることで、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとを重ならせるように調整することができる。あるいは、他の条件が同じである場合、拡径部6bの径をある程度大きくすることで、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとを重ならせるように調整することができる。
以下、本実施形態の空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0034】
まず、本実施形態の空気入りタイヤは、トレッド踏面1に、吸水孔6を1つ以上有し、吸水孔6は、トレッド踏面1側に位置する細径部6aと、孔底側に位置する、径が細径部6aの径より大きい拡径部6bと、を有する。これにより、タイヤの転動歪により、吸水孔6が縮小して復元する際に、トレッド踏面1側の細径部6aから路面上の水を吸い上げて、孔底側の径が上記のように相対的に大きい拡径部6bへと送り込んで、該拡径部6bで貯留することができる。すわなち、吸水孔6は、全体としてミクロなスポイトとして機能することができる。そして、タイヤの転動により、上記の縮小及び復元を繰り返すことにより、吸水を繰り返し行うことができる。
また、本実施形態では、上記基準状態において、細径部6aの該細径部6aの延在方向に垂直な断面での断面積の、細径部6aの延在長さにわたる平均値である平均断面積は、0.2~20mm2であり、且つ、拡径部6bの径W2は、細径部6aの該細径部6aの延在方向に垂直な断面での径W1の1.4倍以上である。これにより、上記の吸水及び貯留の性能を十分に向上させることができる。すなわち、上記平均断面積が0.2mm2未満であると、細径部6aの壁面粘性抵抗の影響が相対的に大きくなって十分な吸水ができず、一方で、上記平均断面積が、20mm2超であると、タイヤの転動時の変形により細径部6aが閉塞して流路が潰れやすくなってしまい十分な吸水ができない。また、拡径部6bの径W2が、細径部6aの該細径部6aの延在方向に垂直な断面での径W1の1.4倍未満であると、細径部6aにより吸水した水を貯留する効果を十分に得られない。
さらに、本実施形態では、上記基準状態において、吸水孔6は、トレッド踏面1の法線方向に対して傾斜して延びている。これにより、拡径部6bが路面からの圧力により潰れやすくなるため、上記のようにスポイトにように吸水する効果を十分に得ることができる。
また、本実施形態では、上記基準状態において、トレッド踏面1側から見た透過平面視において、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとが、重なっている。これにより、上記の吸水及び貯留の効果を十分に得ることができる。例えば、細径部6aの延在長さを短くして、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとを重ならせた場合には、壁面粘性抵抗を受ける距離を短くして、上記の吸水及び貯留効果を十分に得ることができる。また、例えば、細径部6aのトレッド踏面1の法線方向に対する傾斜角度をある程度小さくして、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとを重ならせた場合には、細径部6aと拡径部6bとの接続位置が潰れることによる壁面粘性抵抗の増大を抑制して、上記の吸水及び貯留効果を十分に得ることができる。
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤによれば、湿潤路面での排水性を向上させることができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、吸水孔6は、トレッド踏面側1から孔底側に向かうに従い、タイヤ周方向に傾斜している。これにより、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
例えば、吸水孔6が、トレッド踏面1側から孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の蹴り出し側に向かって傾斜していることが好ましい。この場合、接地時に拡径部6bが潰れるタイミングが遅くなるため、接地面の水を拡径部6bまで流しやすくなり、拡径部6bに水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
また、例えば、吸水孔6は、トレッド踏面1側から孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の踏み込み側に向かって傾斜していることも好ましい。この場合、拡径部6bの潰れが開放されるタイミングが早まり、接地面の水を吸水する効果を向上させて、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0036】
また、本実施形態では、細径部6aは、柱状であり、細径部6aの延在方向に垂直な断面で円形又は楕円形(本例では円形)を有する。これにより、細径部6aでの壁面粘性抵抗を低減して、湿潤路面での排水性をより一層向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態では、拡径部6bは、球状(本例では球形)である。これにより、(例えば、角部を有する形状である場合と比べて壁面粘性抵抗が低減するため)拡径部6bに水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をさらに向上させることができる。
【0038】
図3は、他の例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該他の例にかかる吸水孔のトレッド周方向断面図(下図)である。
図3の上図においては、説明の便宜上、細径部6aの開口部(実線)及び拡径部6bの輪郭線の投影線(破線)を示している。
図3に示す他の例にかかる吸水孔6は、上記基準状態において、トレッド踏面1側から見た透過平面視において、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとが、重なっているが、重なり幅をもたずに接している(外接している)点で、
図2に示した一例にかかる吸水孔6と異なっている。
トレッド踏面1に、
図3に示したような吸水孔6を1つ以上有するタイヤにおいても、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
図4は、別の例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該別の例にかかる吸水孔のトレッド幅方向断面図(下図)である。
図4の上図においては、説明の便宜上、細径部6aの開口部(実線)及び拡径部6bの輪郭線の投影線(破線)を示している。
図4に示す別の例にかかる吸水孔6は、トレッド踏面1側から孔底側に向かうに従い、タイヤ幅方向に傾斜している。これにより、
図2に示した例と同様の作用効果(周方向に傾斜していることの作用効果を除く)を得ることができると共に、コーナリング時に、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
例えば、吸水孔6は、トレッド踏面1側から孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の車両装着外側に向かって傾斜していることが好ましい。これによれば、接地する圧力が大きい車両装着外側に拡径部6bが位置するため、潰れが大きくなって、スポイト効果を高く発揮し吸水効果が向上する。よって、コーナリング時に、吸水効果を向上させて、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
また、例えば、吸水孔6は、トレッド踏面1側から孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の車両装着内側に向かって傾斜していることが好ましい。車両装着内側の方が、接地長が短いため、接地時に拡径部6bが潰れるタイミングが遅くなり、接地面の水を拡径部6bまで流しやすくなり、拡径部6bに水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得る。
【0040】
図5は、さらに別の例にかかる吸水孔をトレッド踏面側から見た平面図(上図)及び当該さらに別の例にかかる吸水孔のトレッド幅方向断面図(下図)である。
図5の上図においては、説明の便宜上、細径部6aの開口部(実線)及び拡径部6bの輪郭線の投影線(破線)を示している。
図5に示すさらに別の例にかかる吸水孔6は、上記基準状態において、トレッド踏面1側から見た透過平面視において、細径部6aのトレッド踏面1への開口部と拡径部6bとが、重なっているが、重なり幅をもたずに接している(外接している)点で、
図4に示した別の例にかかる吸水孔6と異なっている。
トレッド踏面1に、
図5に示したような吸水孔6を1つ以上有するタイヤにおいても、上記
図4の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
また、トレッド踏面1を構成するトレッドゴムの100%伸長時の引張応力は0.5~20MPaの範囲が好ましい。上記の範囲であれば、上記した吸水孔6の縮小及び復元の作用による効果を十分に得ることができる。
【0042】
また、
図2、
図3に示したように、吸水孔は、トレッド踏面側から孔底側に向かうに従い、タイヤ周方向に傾斜していることが好ましい。湿潤路面での排水性をより一層向上させ得るからである。この場合、吸水孔は、トレッド踏面側から孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の蹴り出し側に向かって傾斜していることが好ましい。拡径部に水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得るからである。あるいは、吸水孔は、トレッド踏面側から孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の踏み込み側に向かって傾斜していることも好ましい。吸水効果を向上させて、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得るからである。
【0043】
あるいは、
図4、
図5に示したように、吸水孔は、トレッド踏面側から孔底側に向かうに従い、タイヤ幅方向に傾斜していることも好ましい。コーナリング時における、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得るからである。この場合、吸水孔は、トレッド踏面側から前記孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の車両装着外側に向かって傾斜していることが好ましい。接地する圧力が大きい車両装着外側に拡径部が位置するため、潰れが大きくなり、スポイト効果を高く発揮し吸水効果が向上するからである。あるいは、吸水孔は、トレッド踏面側から孔底側に向かうに従い、空気入りタイヤの車両装着時の車両装着内側に向かって傾斜していることが好ましい。車両装着内側の方が、接地長が短いため、接地時に拡径部6bが潰れるタイミングが遅くなり、接地面の水を拡径部6bまで流しやすくなり、拡径部6bに水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をより一層向上させ得るからである。
【0044】
上記の各例において、細径部は、柱状であり、細径部の延在方向に垂直な断面で円形又は楕円形を有することが好ましい。細径部での壁面粘性抵抗を低減して、湿潤路面での排水性をより一層向上させることができるからである。
【0045】
上記の各例において、拡径部は、球状であることが好ましい。拡径部に水が貯留しやすくなって、湿潤路面での排水性をさらに向上させることができるからである。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記の各例では、トレッド踏面に設けた1つ以上の吸水孔は、いずれも、トレッド踏面の法線方向に対して同じ方向に傾斜して延びているものとしたが、傾斜する方向を異ならせることもできる。あるいは、同じ方向であっても傾斜角度を異ならせることもできる。
【符号の説明】
【0047】
1:トレッド踏面、
2:周方向主溝、
3:陸部、
4:幅方向溝、
5:ブロック、
6:吸水孔、
6a:細径部、
6b:拡径部、
CL:タイヤ赤道面、
TE:トレッド端