(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】化粧品の試験及び移植のためのモデルとして使用するための、新規のプリンティングヘッドを用いたヒト皮膚の3Dバイオプリンティングのための、フィブリン含有又は非含有のRGD接合多糖類バイオインクの調製及び適用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20221115BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20221115BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20221115BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20221115BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20221115BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20221115BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20221115BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20221115BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221115BHJP
【FI】
C12N5/077
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/40
A61L27/44
A61L27/60
A61L27/36 100
B29C64/106
B33Y70/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2019516082
(86)(22)【出願日】2017-06-03
(86)【国際出願番号】 US2017035861
(87)【国際公開番号】W WO2017210663
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-06-03
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518429296
【氏名又は名称】ビコ グループ アー・ベー
【氏名又は名称原語表記】BICO Group AB
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ゲーテンホルム,ポール
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0375453(US,A1)
【文献】国際公開第2016/073782(WO,A1)
【文献】Chung J. H. Y. et al.,Bio-ink properties and printability for extrusion printing living cells.,Biomaterials Science,2013年,vol. 1, no. 7,pp 763,doi:10.1039/c3bm00012e
【文献】Panwar A et al.,Current status of bioinks for micro-extrusion-based 3D bioprinting.,Molecules,2016年05月25日,vol. 21, no. 6,p 685,doi:10.3390/molecules21060685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド及び
ii)ナノセルロー
スを含む、3Dプリント可能なバイオインク。
【請求項2】
フィブリン又はヒト線維芽細胞をさらに含む、請求項1に記載の3Dプリント可能なバイオインク。
【請求項3】
ヒト線維芽細胞と共に、3Dバイオプリントするための、3Dプリント可能なバイオインクの使用であって、前記3Dプリント可能なバイオインクが
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド及び
ii)ナノセルロースを含む、使用。
【請求項4】
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド及び
ii)フィブリンを含む
、3Dプリント可能なバイオインク。
【請求項5】
ヒト線維芽細胞と共に、3Dバイオプリントするための、3Dプリント可能なバイオインクの使用であって、前記3Dプリント可能なバイオインクが
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド及び
ii)フィブリンを含む、使用。
【請求項6】
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド、
ii)ナノセルロース及び
iii)フィブリンを含む、ヒト細胞を含有する又は含有しない、3Dプリント可能なバイオインク。
【請求項7】
i)ヒト細胞、ii)ナノセルロース、
iii)アルギネート
に接合したRGDペプチド、及び
iv)フィブリンを含む
、3Dプリント可能なバイオインク。
【請求項8】
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド及び
ii)フィブリンを含む、ヒト細胞を含有する又は含有しない、3Dプリント可能なバイオインク。
【請求項9】
ヒト細胞と共に又はなしで、3Dバイオプリントするための、3Dプリント可能なバイオインクの使用であって、前記3Dプリント可能なバイオインクが、
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド、
ii)ナノセルロース、及び
iii)フィブリンを含む、使用。
【請求項10】
ヒト細胞と共に、3Dバイオプリントするための、3Dプリント可能なバイオインクの使用であって、前記3Dプリント可能なバイオインクが、
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド、
ii)ナノセルロース及び
iii)フィブリンを含む、使用。
【請求項11】
ヒト細胞と共に又はなしで、3Dバイオプリントするための、3Dプリント可能なバイオインクの使用であって、前記3Dプリント可能なバイオインクが、
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド及び
ii)フィブリンを含む、使用。
【請求項12】
前
記アルギネート
に接合したRGDペプチドの架橋を提供するために、少なくとも1つの同軸ニードルが使用される、請求項
1~11のいずれか一項に記載のバイオインク又は使用。
【請求項13】
細胞と共に又はなしで、バイオインクとして、ヒト線維芽細胞と共に
i)アルギネート
に接合したRGDペプチドと
ii)ナノセルロースを使用することを含む、3D構築物を生産するための3Dバイオプリンティングの方法。
【請求項14】
細胞と共に又はなしで、バイオインクとして、請求項1、2、4、6~
8及び
12のいずれか一項に記載のバイオインクを使用することを含む、3D構築物を生産するための3Dバイオプリンティングの方法。
【請求項15】
細胞と共に、請求項1、2、4、6~
8及び
12のいずれか一項に記載のバイオインクを使用することを含む、3D構築物を生産するための3Dバイオプリンティングの方法。
【請求項16】
真皮様構築物を生産する、請求項
13~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記真皮様構築物が、創薬及び/又は化粧品の試験のために、並びに/或いは疾患モデルとして使用される、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前
記アルギネート
に接合したRGDペプチドの架橋を提供するために、少なくとも1つの同軸ニードルが使用される、請求項
13~
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
i)生きた線維芽細胞、
ii)アルギネートに接合したRGDペプチド、及びiii)フィブリンを含む、3Dバイオプリントされた生きた組織であって、バイオインクでプリントされたグリッド間のスペースが、栄養素、酸素、タンパク質、及び/又は成長因子の拡散を可能にする、組織。
【請求項20】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のバイオインク又は使用を使用して生産された3Dバイオプリントされた生きた組織であって、線維芽細胞が、3Dバイオプリントされた生きた真皮組織を生産するための成長培地にTGFベータを添加することによって刺激される、組織。
【請求項21】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のバイオインク又は使用を使用して生産された3Dバイオプリントされた生きた組織であって、前記組織上でケラチノサイトが培養されて、表皮が構築され、皮膚様の組織が形成される、組織。
【請求項22】
請求項
19~
21のいずれか一項に記載の組織、或いは請求項1~
18のいずれか一項に記載の前記バイオインク、使用又は方法を使用して生産された組織であって、組織の欠陥を患う動物及び/又はヒトを処置するための組織。
【請求項23】
請求項1~
22のいずれか一項に記載のバイオインク、使用若しくは方法を用いて生産された3Dバイオプリントされた組織又は3Dバイオプリントされた生きた組織であって、組織の欠損を患う動物及び/又はヒトを処置するための組織。
【請求項24】
請求項1~
23のいずれか一項に記載のバイオインク、使用若しくは方法を用いて生産された3Dバイオプリントされた組織又は3Dバイオプリントされた生きた組織であって、これに限定されないが皮膚の欠陥などの組織を置き換えるために、組織を置き換えることによって動物及び/又はヒトを処置するための組織。
【請求項25】
3Dバイオプリンティングの方法であって、
線維芽細胞と共に又は線維芽細胞なしで、
i)アルギネート
に接合したRGDペプチドと
ii)ナノセルロースを含むバイオインクを使用すること、及び
真皮様構築物を形成すること
を含む、方法。
【請求項26】
線維芽細胞なしでの、
i)アルギネート
に接合したRGDペプチドと
ii)ナノセルロースを含むバイオインクの使用であって、それによって線維芽細胞が、3Dバイオプリントされた足場上に植え付けられる、使用。
【請求項27】
創薬及び/又は化粧品の試験のために、並びに/或いは疾患モデルとして、前記真皮様構築物が使用される、請求項
25に記載の3Dバイオプリンティングの方法。
【請求項28】
ヒト細胞なしでの、3Dバイオプリント用の、
i)アルギネート
に接合したRGDペプチドと
ii)ナノセルロース又はフィブリンとを含むバイオインクの使用であって、創薬及び/又は化粧品の試験のための、並びに/或いは疾患モデルとして組織を生産するための、使用。
【請求項29】
創薬及び/又は化粧品の試験のための、並びに/或いは疾患モデルとして組織を生産するための、
i)アルギネートに接合したRGDペプチド、ii)ナノセルロース、
及びii)フィブリンを含
むバイオインクの使用であって、繊維芽細胞と共に使用される、3Dバイオプリント用の使用。
【請求項30】
再建術及び組織修復で使用される組織を生産するための、
i)アルギネートに接合したRGDペプチド、ii)ナノセルロース、
及びii)フィブリンを含
むバイオインクの使用であって、繊維芽細胞と共に使用される、3Dバイオプリント用の使用。
【請求項31】
細胞と共に又はなしでの、3Dバイオプリントされた物体を構築するための、
i)アルギネートに接合したRGDペプチド、及びii)ナノセルロー
スを含
むバイオインクの使用であって、3Dバイオプリントされる物体は、足場、生きた組織、及び/又は臓器である、使用。
【請求項32】
請求項
28~
31のいずれか一項に記載の使用によって生産又は構築された組織又は臓器であって、皮膚、軟骨、骨、大動脈、気管、半月板又は耳である、組織又は臓器。
【請求項33】
創薬及び/又は化粧品の試験のための、並びに/或いは疾患モデルとしての、請求項
32に記載の組織又は臓器の使用。
【請求項34】
細胞と共に又はなしでの、真皮様構築物を3Dバイオプリントするための、
i)フィブリン及びii)アルギネート
に接合したRGDペプチドを含むバイオインクの使用。
【請求項35】
創薬及び/又は化粧品の試験のための、並びに/或いは疾患モデルとしての、前記真皮様構築物の使用を更に含む、請求項
34に記載の使用。
【請求項36】
3Dバイオプリントするための、
i)アルギネート
に接合したRGDペプチドを含むバイオインクの使用であって、ナノセルロー
スが、アルギネート及びフィブリンと共に使用される、使用。
【請求項37】
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド中に生きた線維芽細胞
、及びii)ナノセルロースを含む3Dバイオプリントされた生きた組織であって、バイオインクでプリントされたグリッド間のスペースが、栄養素、酸素、タンパク質及び成長因子の拡散を可能にする、組織。
【請求項38】
i)アルギネート
に接合したRGDペプチド中に生きた線維芽細胞
、ii)ナノセルロース及びiii)フィブリンを含む3Dバイオプリントされた生きた組織であって、バイオインクでプリントされたグリッド間のスペースが、栄養素、酸素、タンパク質及び成長因子の拡散を可能にする、組織。
【請求項39】
培地にTGFベータを添加することによって、前記線維芽細胞が刺激される、請求項
37又は
38に記載の3Dバイオプリントされた生きた組織。
【請求項40】
前記組織上でケラチノサイトが培養されて、表皮が構築され、皮膚様の組織が形成される、請求項
37~
39のいずれか一項に記載の3Dバイオプリントされた生きた組織。
【請求項41】
請求項
26~
31及び
33~
36のいずれか一項に記載のバイオインク、使用又は方法によって生産された組織又は臓器、或いは請求項
22~
24、
32及び
37~
40のいずれか一項に記載の組織又は臓器であって、組織の欠陥を患う動物及び/又はヒトを処置するための組織又は臓器。
【請求項42】
請求項
26~
31及び
33~
36のいずれか一項に記載のバイオインク、使用又は方法によって生産された組織又は臓器、或いは請求項
23、
24、
32及び
33~
36のいずれか一項に記載の組織又は臓器であって、組織の欠損を患う動物及び/又はヒトを処置するための組織又は臓器。
【請求項43】
I型コラーゲンの生産を上方調節するための、請求項1、2、4、
6~
8及び
12のいずれか一項に記載の3Dプリント可能なバイオインクの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、3Dバイオプリンティング技術と共に使用される新規のバイオインクとして使用するための、フィブリンと組み合わせた、多糖類、例えばアルギネート及びナノセルロース、特にRGD接合アルギネート及びRGD接合ナノセルロースをベースとしたヒドロゲル、及びこれらの新規のバイオインクと同軸プリンティングニードルとの組合せに関する。これらの新規のバイオインクは、ヒト線維芽細胞の3D細胞培養及びヒト皮膚の成長に特に好適である。本発明において、RGD接合アルギネートは、接合していないアルギネート含有の3Dバイオプリンティング用バイオインクの調合物に使用される。バイオインクの組成は、高い印刷忠実度を付与する最適なレオロジー特性が提供されるように設計される。ナノセルロースは、レオロジー特性を制御するために添加され、それに対してフィブリンは、線維芽細胞が増殖し、細胞外マトリックス、好ましくはI型コラーゲンを生産するのに好適な環境を提供するために添加される。本発明によって特許請求される重要な態様は、アルギネートに接合したRGDペプチドの存在であり、これは、ヒト線維芽細胞の接着及び伸展に加えてフィブリンの存在に影響を与える。ヒト線維芽細胞の伸展は、細胞を活性化し、皮膚の主成分であるI型コラーゲン生産の上方調節を引き起こす。本明細書に記載されるバイオインクを同軸ニードル使用及び不使用でプリントしたところ、バイオプリンティング時の迅速な架橋と、高い細胞生存率を生じる最適な印刷忠実度の付与がもたらされた。本発明に記載されるバイオインクは、ヒト線維芽細胞と共に又はなしで、3Dバイオプリントできるが、細胞含有ヒドロゲルとして公知の様式でヒト線維芽細胞と混合されて3Dバイオプリントされることが好ましい。本発明の実施形態は、ヒト皮膚、特に皮膚の真皮層に関する。表皮は、皮膚の最上層であり、ケラチノサイト、メラニン細胞及びランゲルハンス細胞などの数々のタイプの細胞からなる。ケラチノサイトは、最も豊富な細胞型である。表皮は、真皮よりかなり薄く、典型的には、体の位置に応じて1~4mmの厚さである。本発明は、どのようにバイオインクを細胞と混合し、3Dバイオプリントし、培養して、化粧品、スキンケア製品の試験に使用でき、移植にも使用できる皮膚のモデルになるかを説明する。これはまた、ハイスループットの創薬、スクリーニング、及び毒性試験にも使用できる。代替として、これは、創傷中に直接埋め込むことができる。
【背景技術】
【0002】
[0002] 皮膚は、人体の最も大きい器官である。皮膚は、2つの層で構成されており、そのうちの表皮は、最も外側の層であり、主としてケラチノサイトからなり、層化と呼ばれるプロセス中に、バリアとして作用するケラチンの高密度の層に変換される。第2の層である真皮は、主として細胞外マトリックスの生産に関与する皮膚線維芽細胞で構成される。真皮の細胞外マトリックスの主成分は、I型コラーゲンである。ヒトが老化する過程で、I型コラーゲンの生産は減少し、I型コラーゲンのネットワークと線維芽細胞との結合も減少する。これは、皮膚にダメージを与えるだけでなく、しわも生じさせる。化粧品及びスキンケア産業は、線維芽細胞の増殖を強化し、I型コラーゲンの生産を増加させることができる活性物質を含有する製品を開発することに取り組んできた。欧州では、2013年まで、新しい製品は、ほとんど動物試験により皮膚用製品を試験することによって評価された。2013年から欧州では化粧品の動物試験に対する禁止令が課されたことから、化粧品産業は、ヒト皮膚の他のモデルを開発するための研究を続けている。
【0003】
[0003] 加えて、世界中で1100万人の人が、医療介入を必要とする熱傷に苦しんでいる。毎年300,000人の人が熱傷により死亡する。2度、3度又は4度の火傷は、緊急処置を必要とする。現在のところ、これらの患者を助けるために皮膚移植が使用されている。自己皮膚移植が好ましいが、熱傷を負った患者は、移植可能なダメージを受けていない皮膚がないことが多い。患者自身の皮膚は、実験室で成長させることができ、何千人もの患者の命を救う助けになると予想される。
【0004】
[0004] 3Dバイオプリンティングは、組織や臓器のバイオファブリケーションを可能にする新興の技術である。この技術は、3Dバイオプリンターの動きを制御するためのCADファイルの青写真によって画定されたパターンで液状のバイオマテリアルと細胞を分配するロボットアームを含む3Dバイオプリンターの使用に基づく。3Dバイオプリンティング技術は、高分解能で異なる層を様々な細胞密度でプリントできるため、ヒト皮膚のバイオファブリケーションに使用できることが本明細書で教示される。3Dバイオプリンティングプロセスの結果は、使用されるバイオインクによって左右されることになる。バイオインクは、3Dバイオプリンティング中の好適なレオロジー特性、細胞生存を提供する役割を有し、さらに組織発達中の足場として作用する役割も有する。
【0005】
[0005] 細胞外マトリックスを活発に生産するために、ヒト線維芽細胞を付着させる必要がある。自然の環境では、このような付着は、膜貫通型の細胞接着受容体であるインテグリンを介して細胞と相互作用するArg-Gly-Asp(RGD)ドメインを含有するフィブロネクチンに結合することによって起こる。アルギネートは、長年にわたり、細胞のカプセル化のためのバイオマテリアルとして使用されてきており、多くの生物医学的な用途を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0006] 細胞は、純粋なアルギネートには結合しない。様々なペプチドの接合が、細胞の付着を容易にし、それを促進する。ペプチドがカップリングされたアルギネートは、J.A.Rowley,G.Madlambayan,D.J.Mooney,Alginate hydrogels as synthetic extracellular matrix materials,Biomaterials 20(1999),45-53によって記載されているような水性カルボジイミドの化学的性質を使用して調製することができる。この革新的技術に記載される材料の例は、FMC Biopolymers、NovaMatrix、Norwayによって生産された、NOVATACH G/M RGD(GRGDSPがカップリングされた高G又は高Mのアルギネート)、NOVATACH G VAPG(VAPGがカップリングされた高Gのアルギネート)、NOVATACH M REDV(REDVがカップリングされた高Mのアルギネート)である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007] 本発明では、新しいバイオインク、例えば、RGD改変アルギネート;ナノセルロース又はRGD改変ナノセルロースが添加された又は添加されていないフィブリン;及びアルギネートが添加されたフィブリンで構成されるバイオインクの調製が記載される。本発明はまた、ヒト線維芽細胞と共に、このようなプリントのためにバイオインクを使用することも教示する。RGD改変アルギネートは、線維芽細胞の表面におけるインテグリンのための付着部位を提供し、結果として細胞の延伸が起こる。細胞の延伸は、I型コラーゲンの生産を上方調節することが示されており、それによって、このような3Dバイオプリントされた構築物が、化粧品又はスキンケア製品中の活性物質を試験するための真皮モデルとして使用するために、又は皮膚移植のために好ましいものになる。本発明はまた、3Dバイオプリンティングプロセス中にアルギネートを架橋するために、同軸ニードルを使用することも記載する。真皮が発達したら、このような真皮層の上部にケラチノサイトを植え付けるか又は3Dバイオプリントすることができ、その間に完全な皮膚を発達させる。
【0008】
[0008] 添付の図面は、本発明の実施形態の特定の態様を例示するものであり、本発明を限定又は定義するのに使用されないこととする。図面は、記載された説明と共に、本発明の特定の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】[0009]真皮構築物をプリントするCELLINK AB、Swedenからの3DバイオプリンターINKREDIBLEを示す図である。
【
図2】[0010]好ましい印刷忠実度を有する線維芽細胞含有バイオインク構築物を示す図である。
【
図3】[0011]RGD-アルギネートを含むプリントされた構築物における細胞生存を例示する図である。
【
図4】[0012]14日の培養後のプリントされた構築物における細胞の形態を示す図である。a)改変されていないバイオインク、b)RGD改変アルギネート、c)RGD改変アルギネート及び培地へのTGFベータの添加。
【
図5】[0013]同軸ニードルを使用した3Dバイオプリンティング及び好ましいニードルの配置の実例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0014] 本発明は、様々な特徴を有する特定の実施形態を参照しながら説明されている。本発明の範囲又は本質から逸脱することなく本発明の実施において様々な改変及びバリエーションをなし得ることは、当業者には明らかであると予想される。当業者であれば、これらの特徴は、所与の適用又は設計の必要条件と詳細に基づき、単独で、又はあらゆる組合せで使用される可能性があることを認識していると予想される。様々な特徴を含む実施形態もまた、そのような様々な特徴からなっていてもよいし、又はそれらから本質的になっていてもよい。本発明の他の実施形態は、本発明の詳細と実施の考察から当業者には明らかであると予想される。提供される本発明の説明は実際に単なる例示であり、したがって、本発明の本質から逸脱しないバリエーションは、本発明の範囲内であること意図される。
【0011】
[0015] 本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に記載の、又は図面で例示された構築の詳細及び要素の配置に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、又は様々な方法で実施又は実行することが可能である。また、本明細書において採用される表現及び用語は、説明の目的のためであり、限定とみなすべきではないことも理解されたい。
【0012】
[0016] 本発明の実施形態は、記載された方法によって調製されたRGD改変アルギネートバイオインク製品を包含し、3Dバイオプリンティングのオペレーションで該製品を使用することを包含する。
【0013】
[0017]
図1は、真皮構築物をプリントするCELLINK AB、Swedenからの3DバイオプリンターINKREDIBLEを示す図である。これらの3Dプリントされた真皮構築物は、培養されて、化粧品、スキンケア製品の試験に使用でき、移植にも使用できる皮膚のモデルにすることができる。これらはまた、ハイスループットの創薬、スクリーニング、及び毒性試験にも使用できる。代替として、これらは、創傷中に直接埋め込むことができる。
【0014】
[0018]
図2は、好ましい印刷忠実度を有する線維芽細胞含有バイオインク構築物を示す図である。これは、構築物内の細胞のために栄養素及び酸素を輸送するのに重要である。
【0015】
[0019]
図3は、RGD-アルギネートを含むプリントされた構築物における細胞生存を例示する図である。緑色のスポットは、生きている細胞を表し、一方で赤色のスポットは、死んだ細胞を示す。この図において、細胞生存率は、70%より高い。
【0016】
[0020]
図4は、14日の培養後のプリントされた構築物における細胞の形態を示す図である。緑色のスポットは、細胞骨格を表し、青色のスポットは、細胞核を表す。
a)改変されていないバイオインク、b)RGD改変アルギネート、c)RGD改変アルギネート及び培地へのTGFベータの添加。
【0017】
[0021]
図5は、同軸ニードルを使用した3Dバイオプリンティング及び好ましいニードルの配置の実例を示す図である。同軸ニードルは、バイオプリンティング時のより速い架橋をもたらし、最適な印刷忠実度を与え、それにより好ましい実施形態において、高い細胞生存率がもたらされる。
【0018】
[0022] 本発明のより優れた理解を容易にするために、以下の一部の実施形態の特定の態様の実施例を記載する。以下の実施例は、本発明の範囲を限定するか、又はそれを定義すると決して理解されないものとする。
【実施例】
【0019】
[0023] 実施例1
[0024] 真皮様モデルの3Dバイオプリンティング
[0025] 2つの異なるバイオインクを調製した。第1のバイオインクは、レオロジー特性を制御するためにナノセルロースが添加された純粋なアルギネートで構成した。第2のバイオインクは、RGD改変アルギネートをナノセルロースと組み合わせて、レオロジー特性を制御することによって調製した。両方のバイオインクとも、優れた印刷特性を有していた。600万個の初代ヒト線維芽細胞の継代番号3を融解し、2つの150cm2のT-フラスコに植え付けた。培養物がおよそ90%の密集度に達したら、TrypLEを使用して細胞を回収し、フラスコを穏やかにタップして細胞を表面から取り外した。細胞をトリパンブルー染色で計数し(細胞190万個/mL)、細胞生存率を計算して、細胞が生きていることを確認した。次いで細胞を遠心分離し、培地に再懸濁し、次いでT150フラスコに細胞2,500個/cm2で植え付けた。培地(DMEM、1%GlutaMAX、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有、フェノールレッド含有)を1週間当たり3回交換した。細胞をバイオインクと共に混合して、最終濃度を細胞520万個/mlにし、次いで慎重にプリンターカートリッジに移した。構築物を、CELLINK AB、Swedenからの3DバイオプリンターINKREDIBLE(
図1を参照)を使用して、6mm×6mm×1mmの寸法を有する3層のグリッドパターンでプリントした(圧力:24kPa、フィード速度:10mm/秒)。プリンティング後、構築物を100mMのCaCl
2で5分架橋した。その後、CaCl
2を除去し、構築物を培地で濯いだ。構築物を、インキュベーター中、37℃で14日間静置培養し、3日毎に培地を交換した。構築物の一部に、TGFベータを培地1ml当たり5ngの濃度で添加した。14日後、構築物を細胞生存率、形態及びコラーゲン生産について分析した。1日目、7日目、及び14日目における静置培養物の各バイオインクからの3つの構築物に、ライブ/デッドセルイメージングキット(LIVE/DEAD Cell Imaging Kit)(R37601 Life Technologies)を使用して生死に関する染色を実行した。
図3は、全てのプリントされた構築物についての優れた細胞生存率(70%より高い)を示す。14日目に、静置培養構築物を共焦点顕微鏡を使用して画像化した。FITCを使用して細胞骨格(緑色)を可視化し、DAPIを使用して細胞の核(青色)を可視化した。画像を4×、10×、及び20×の倍率で撮り、細胞の形態を分析した。ImageJを使用して、細胞骨格及び核の画像を重ねた。
図4a)は、ナノセルロースが添加されたアルギネートバイオインク中の線維芽細胞の形態を示す。細胞は丸みを帯びており、延伸されていない。
図4b)は、ナノセルロースが添加されたRGD改変アルギネートバイオインク中の線維芽細胞を示す。細胞はアルギネートと接合したRGDペプチドに付着できたため、細胞は延伸された。
図4c)は、TGFベータを添加して培養された、ナノセルロースが添加されたRGD改変アルギネートバイオインク中の線維芽細胞を示す。作用は、細胞増殖の増加、及び延伸の継続として記録される。RGDで改変されなかったバイオインクでプリントされた細胞では、これらの作用は見られなかった。構築物をPCRを用いて分析したところ、RGD改変アルギネートを有する構築物は、I型コラーゲンの生産に関する遺伝子の上方調節を示した。
【0020】
[0026] 実施例2
[0027] ナノセルロース、アルギネートRGD及びフィブリンバイオインクを用いた完全な皮膚の3Dバイオプリンティング
[0028] Sigmaより購入したフィブリノーゲン粉末、並びにFMC Biopolymersから得たGRGDSP-ペプチドであるNovaMatrixと接合した3%ナノセルロース及び2.6%アルギネートのヒドロゲルから、無菌技術を使用して、バイオインクを調製した。成分を均一なヒドロゲルに混合することによってインクを作製した。フィブリノーゲンを含有するインクの場合、ナノセルロース及びアルギネートのヒドロゲルをまず混合し、フィブリノーゲンを、Fisher BioReagentsから得た200μL/10mgのフィブリノーゲントリス緩衝塩類溶液(TBS)で溶解させた。SpeedMixer(商標)DAC150.1FV-Kを使用することによって、フィブリノーゲンをヒドロゲル中に混合して、フィブリノーゲン、ナノセルロース及びアルギネートで構成された均一なヒドロゲルを得た。バイオインク1ml当たり10mgから500mgの範囲の様々な量のフィブリノーゲンを、ヒドロゲルバイオインクに添加した。2つの異なるタイプの細胞、すなわち、初代成人ヒト皮膚線維芽細胞(aHDF)及び初代ヒト表皮ケラチノサイト(HEK)を使用した。これらは両方とも、LifeLine(登録商標)Cell Technologyから得た。これらを両方とも、供給元からのプロトコールに従って、細胞特異的な培養培地(それぞれFibroLife(登録商標)及びDermaLife(登録商標))中で培養し、その後、バイオインクと混合し、バイオプリントした。アルギネートを架橋して同時にフィブリノーゲンを重合できるように、100mMのCaCl2中10ユニット/mlのトロンビンを用いて、トロンビン溶液を調製した。選ばれた構築物モデルは、2層のグリッドパターンであった。aHDFを、細胞1000万個/mlの濃度でバイオインク中に混合した。それより低い細胞濃度及びそれより高い細胞濃度のどちらも使用することができる。使用されたプリンターは押出しバイオプリンター(INKREDIBLE(登録商標)、CELLINK(登録商標))であった。フィブリンベースのバイオインクの場合の印圧は、12~23kPaであった。プリンティング後、100mMのCaCl2中のトロンビン溶液を使用して構築物を5分間架橋及び重合し、その後、培養培地に入れた。次いで構築物をFibroLife(登録商標)培地中で2週間培養した。2週間後、HEK細胞を植え付け(3000万個/ml培地)、サンプルをさらに2週間インキュベートした。7日及び14日及び28日に分析用サンプルを採った。構築物をスライスして、プロコラーゲンをマッソントリクローム染色で染色した後、構築物中でのコラーゲン生産の可視化を達成した。細胞の形態及びI型コラーゲンの生産に対して、フィブリン添加のプラス効果がみられた。
【0021】
[0029] 実施例3
[0030] 同軸ニードルを用いた構築物の3Dバイオプリンティング
[0031] 線維芽細胞含有RGD-アルギネートで構成される構築物を、同軸ニードルを使用した3Dバイオプリンティングによって調製した(
図5を参照)。ニードルの内部は、RGD-アルギネートと混合された線維芽細胞でプリントするのに使用され、それに対してニードルの外部は、CaCl
2の100mmol溶液を射出するのに使用された。この方法を使用して、優れた印刷忠実度が達成された。別の実験において、線維芽細胞含有RGD-アルギネートをフィブリノーゲンと組み合わせ、同軸ニードルを使用して3Dバイオプリントした。ニードルの内部は、RGD-アルギネート及びフィブリノーゲンと混合された線維芽細胞をプリントするのに使用され、それに対してニードルの外部は、100mmolのCaCl
2溶液中に溶解させたトロンビン溶液を射出するのに使用された。この方法を使用して、優れた印刷忠実度が達成された。
【0022】
[0032] 当業者は、開示された特徴は、所与の適用又は設計の必要条件と詳細に基づき、単独で、あらゆる組合せで使用されてもよいし、又は省略されてもよいことを認識していると予想される。実施形態が特定の特徴を「含む」と言及される場合、その実施形態は、代替として、それらの特徴のいずれか1つ又は複数「からなる」又は「から本質的になる」でもよいことを理解されたい。本発明の他の実施形態は、本発明の詳細と実施の考察から当業者には明らかであると予想される。
【0023】
[0033] 特に、本明細書において値の範囲が示されているが、その範囲の上限と下限の間の各値も具体的に開示されることに留意されたい。これらのより狭い範囲の上限及び下限が、独立して、その範囲に包含される場合もあるし、又は同様に排除される場合もある。単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形の指示対象を包含する。詳細と実施例は、実際には例示とみなされ、本発明の本質から逸脱しないバリエーションは本発明の範囲内に含まれることが意図される。さらに、この開示で引用された参考文献の全ては、それぞれ個々に参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられ、そのようなものとして、本発明の実現可能な開示を補充する効率的な方法を提供することに加えて、当業界における通常の技術レベルを詳述する背景も提供することが意図される。
【0024】
(要約)
本発明は、ヒト皮膚、特に真皮の3Dバイオプリンティングのための新規のバイオインクとしての、ナノセルロース及び/又はフィブリンが添加された及び添加されていないRGD接合アルギネートに基づくヒドロゲルの使用に関する。RGD接合アルギネートは、I型コラーゲンを生産する遺伝子の上方調節に寄与する細胞の接着及び延伸を引き起こすヒト線維芽細胞のための接着部位を提供する。本発明において、RGD接合アルギネートは、3Dバイオプリンティングのためのバイオインクの成分の1つとして使用される。ここに記載される別の革新は、アルギネート及びRGD改変アルギネートのバイオインクを用いて3Dバイオプリントする場合に同軸ニードルを使用することである。同軸ニードルは、3Dバイオプリンティングのオペレーション時にバイオインクを架橋することを可能にし、したがって細胞外マトリックスの高い細胞生存率、増殖及び生産に必要な高い印刷忠実度の達成を可能にする。本発明において、新規のRGD改変アルギネートバイオインクは、ヒト線維芽細胞と共に3Dバイオプリントされ、得られた構築物は、線維芽細胞の高い細胞生存率、高い細胞増殖、高い程度の延伸及びI型コラーゲンの高い生産性を示す。本発明を用いてバイオファブリケーション化された細胞のバイオインク構築物は、化粧品及びスキンケア製品の活性成分、特に皮膚再生に使用されるものを試験するのに理想的である。また、ダメージを受けた又は熱傷を負った皮膚を有する患者の皮膚修復のための皮膚移植として使用されることも理想的である。