(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ニトロキシル精密重合によるポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 212/14 20060101AFI20221115BHJP
C08F 212/08 20060101ALI20221115BHJP
C08F 8/02 20060101ALI20221115BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20221115BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C08F212/14
C08F212/08
C08F8/02
C08F8/12
C08F2/38
(21)【出願番号】P 2019522751
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2017077626
(87)【国際公開番号】W WO2018078108
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2019-12-04
(31)【優先権主張番号】102016221346.6
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】クライン ローラント
(72)【発明者】
【氏名】マズロフスキー マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ブルロン コンラート
(72)【発明者】
【氏名】ヴィットマン マティーアス
(72)【発明者】
【氏名】プファエンドナー ルドルフ
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-518843(JP,A)
【文献】特開2004-067680(JP,A)
【文献】米国特許第06107425(US,A)
【文献】特開2000-026535(JP,A)
【文献】特表2006-506480(JP,A)
【文献】特表2017-507237(JP,A)
【文献】特表2010-525148(JP,A)
【文献】Synthesis of three- and six-arms polystyrene via living/controlled free radical polymerization,POLYMER,2001年,42,9347-9353
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/44
C08F 4/00-4/82
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロキシル精密重合によるポリマーの製造方法であって、
a)ラジカル重合されやすい混合物であって、
i)ラジカル重合によって重合可能な少なくとも1種のモノマーA1、又は少なくとも1種のモノマーA1およびモノマーA1とは異なるラジカル重合可能な少なくとも1種のさらなるモノマーA2、を含む又はから成るモノマー混合物と、
ii)アルキルラジカルとニトロキシルラジカルに開裂することによりラジカル重合を開始するアルコキシアミンB1と、
少なくとも1種のラジカル開始剤と、少なくとも1種のニトロキシルラジカルを含む開始剤B2と、
から成る群から選択される少なくとも1種の開始剤Bと、
を含む又はから成る混合物を用意し、
b)ラジカル重合を開始し、10~100%の転化率まで重合を可能にする期間にわたって該重合を維持し、
c)10%~100%の重合転化後に、ニトロキシル精密ラジカル重合において生成された、ポリマーのアルコキシアミン末端基の少なくとも一部又は全部を非重合性基に変換する量で、少なくとも1種の反応剤Cを添加し、および
d)工程a)~c)の1以上に対して、ニトロキシル精密重合反応および/又はポリマーのアルコキシアミン末端基の非重合性基への変換を促進する、少なくとも1種の添加剤Dを添加する、
工程を含
み、
添加剤Dがカルボン酸の誘導体およびケトン並びにそれらの組み合わせから成る群から選択され、前記カルボン酸の誘導体が、カルボン酸無水物およびカルボニトリルからなる群から選択される、ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記工程a)~d)の全てがワンポット反応で行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1種のモノマーA1が、それらのヒドロキシル基がラジカル重合の条件下で不活性である保護基で保護されているヒドロキシスチレンモノマーの群から選択され、および/又は
前記モノマー混合物は、少なくとも1種のヒドロキシスチレンモノマーA1と、ヒドロキシスチレンモノマーA1とは異なるラジカル重合可能な少なくとも1種のさらなるモノマーA2を含む又はから成る、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1以上の前記ヒドロキシスチレンモノマーがアルコキシ-、アリールオキシ-、アシルオキシ-、シリルオキシ-、カルバミルオキシ-、又はスルホニルオキシ-置換されたヒドロキシスチレン、特には、4-アセトキシスチレン、4-tert-ブトキシスチレン、4-トリメチルシリルオキシスチレン、4-tert-ブチルジメチルシリルオキシスチレン、4-トリエチルシリルオキシスチレン、4-トリイソプロピルシリルオキシスチレン、4-メトキシスチレン、4-メトキシ-メトキシスチレン、4-ベンゾキシスチレン、4-p-メトキシベンゾキシスチレン、4-ベンジルオキシメトキシスチレン、4-tert-ブチル-オキシカルボニルオキシスチレン、4-トリ-フェニル-メチルオキシスチレン、4-ピバロイルオキシスチレン、4-ベンゾイルオキシスチレン、4-p-トルエンスルホニルオキシスチレン、および4-メチルスルホニル-オキシ-スチレン、並びにそれらの混合物および組み合わせから成る群から選択される、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前
記カルボン酸無水
物およびカルボニトリル
が無水酢酸、無水トリフルオロ酢
酸および/又はマロニトリルから成る群から選択され、
前記ケトンがアセチルアセトンである、ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種の添加剤Dが、開始剤Bの量に対して、5~600モル%、好ましくは20~200モル%、より好ましくは100~150モル%の量で使用される、ことを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種のさらなるモノマーA2がスチレン、イソプレン、ブタジエン、およびアクリレート、特には、以下の式を有する、
【化7】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
1は水素又はアルキル基、特にはメチル基であり、
R
2はメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、t-アミル、ベンジル、シクロヘキシル、9-アントラセニル、2-ヒドロキシ-エチル、3-フェニル-2-プロペニル、アダマンチル、メチルアダマンチル、エチルアダマンチル、イソボルニル、2-エトキシエチル、n-ヘプチル、n-ヘキシル、2-ヒドロキシプロピル、2-エチルブチル、2-メトキシプロピル、2-(2-メトキシ-エトキシ)、2-ナフチル、2-フェニルエチル、フェニル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリル、セリル、イソデシル、2-エチルヘキシル、エチル-トリグリコール、テトラヒドロフルフリル、ブチルジグリコール、2-ジメチル-アミノ-エチル、ポリエチレングリコール、メチルポリエチレングリコール、又はグリシジル基である、
アクリレートから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
モノマー混合物中の少なくとも1種のヒドロキシスチレンモノマーA1と少なくとも1種のさらなるモノマーA2の全体に対する、少なくとも1種のヒドロキシスチレンモノマーA1のモル分率が0.1~99.9モル%、好ましくは5~95モル%、特には20~90モル%である、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種のアルコキシアミンB1が以下の一般式を有する化合物から選択されることを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の方法。
【化8】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
3は、酸素原子と残基R
3との間の結合のホモリティック開裂を起こし、且つラジカル・R
3を形成する位置にある少なくとも1個の炭素原子を有する基であり、残基R
3は、特には、1-フェニルエチル、tert-ブチル、シアノイソプロピル、フェニル、メチルから成る群から選択され、
R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なり、直鎖状、分岐状、又は環状、および/又は非置換又は置換のアルキル残基から成る群から選択され、特には、残基R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なり、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシルから成る群から選択される、又は部分R
4-C-R
5および/又はR
7-C-R
8であり、残基R
4とR
5、および/又はR
7とR
8を介して、置換又は非置換であってもよい環状構造を形成し、
R
6およびR
9は同一又は異なり、直鎖状、分岐状、又は環状、および/又は非置換又は置換のアルキル残基から成る群から選択され、又は部分R
6-C-N-C-R
9であり、残基R
6とR
9を介し、置換又は非置換であってもよい、および/又は脂肪族又は芳香族環構造に融合されてもよい環状構造を形成し、該環状構造は、特には以下の一般式を有する構造から選択され、
【化9】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
10およびR
11は同一又は異なり、直鎖状又は分岐状、および/又は非置換又は置換のアルキル残基から成る群から選択され、特には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシル、および水素から成る群から選択される、を有する化合物から選択される。
【請求項10】
少なくとも1種の開始剤B2が
過酸化物;アゾ化合物、特には、ジベンゾイルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、1,1-ジ(tert-ブチル-ペルオキシ)-シクロヘキサン、tert-アミルペルオキシアセテート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ペルオキソジサルフェート、アゾビス(イソブチロニトリル);レドックス系、および光開始剤から成る群から選択される、少なくとも1種のラジカル開始剤、および
以下の一般式を有するニトロキシルラジカルからなる群から選択される少なくとも1種のニトロキシルラジカルを、
含む又はから成る、ことを特徴とする請求項1~
9のいずれかに記載の方法。
【化10】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なり、直鎖状、分岐状、又は環状、および/又は非置換又は置換のアルキル残基から成る群から選択され、特には、R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なり、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシルから成る群から選択される、又は部分R
4-C-R
5および/又はR
7-C-R
8であり、残基R
4とR
5、および/又はR
7とR
8を介して、置換又は非置換であってもよい環状構造を形成し、
R
6およびR
9は同一又は異なり、直鎖状、分岐状、又は環状、および/又は非置換又は置換のアルキル残基から成る群から選択され、又は部分R
6-C-N-C-R
9であり、残基R
6およびR
9を介し、置換又は非置換であってもよい、および/又は脂肪族又は芳香族環構造に融合されてもよい環状構造を形成し、該環状構造は、特には以下の一般式を有する構造から選択され、
【化11】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
10およびR
11は同一又は異なり、直鎖状又は分岐状、および/又は非置換又は置換のアルキル残基から成る群から選択され、特には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシル、および水素から成る群から選択される。
【請求項11】
モノマーA1、又はモノマーA1およびA2の物質の総量に対して、開始剤Bが0.1~20モル%、より好ましくは0.2~10モル%、非常に好ましくは1~5モル%の量で使用される、
ことを特徴とする請求項1~
10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種の反応剤Cが置換フェノール、特には2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、ヒドロキノン;および非ホモ重合性モノマー、特には無水マレイン酸又はイソブチルビニルエーテルから成る群から選択される、
ことを特徴とする請求項1~
11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の反応剤Cが、開始剤Bの濃度に対して、10~1000モル%、好ましくは90~200モル%、非常に好ましくは100~150モル%の量で使用される、
ことを特徴とする請求項1~
12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ラジカル重合されやすい混合物が、特には、PGMEA、酢酸エチル、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、アセトン、2-ブタノン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、並びにそれらの混合物および組み合わせから成る群から選択される溶媒を含む又はから成る、
ことを特徴とする請求項1~
13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記重合反応が熱的又は化学線的に開始される、ことを特徴とする請求項1~
14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記開始および/又は前記重合反応ための温度が60~180℃、好ましくは90~140℃、さらに好ましくは100~130℃に調整される、ことを特徴とする請求項1~
15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記工程c)の終了後に、ポリマー中に結合しているヒドロキシスチレンモノマーA1の保護基が除去される、ことを特徴とする請求項3又は
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニトロキシル精密重合(nitroxyl-controlled polymerization)によるポリマーの製造方法に関する。この方法では、少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマーを含み、さらに、少なくとも1種の開始剤と、ラジカル重合で生成されたアルコキシアミン末端基の少なくとも一部を非重合性基に変換する少なくとも1種の反応剤と、ニトロキシル精密重合および/又はアルコキシアミン末端基の非重合性基への変換、を促進する少なくとも1種の添加剤とを含む混合物が用いられる。
【0002】
フォトリソグラフィは電子半導体部品を製造するにあたり不可欠な工程である。この手順では、必要な構造を形成するために、基板をフォトレジストでコーティングし、その後にマスクを介して露光する。ポジ型レジストの場合、露光処理によって化学構造を変化させ、露光部を特定の溶剤に可溶にする一方、未露光部の不溶性を維持する。これに対し、ネガ型レジストの場合、ポリマーの架橋により露光部が不溶となる。その後の選択的な溶媒による処理を介して、可溶性部分が除去され、さらなる選択的な処理のためにレジストの下の基板を露出させる。フォトレジストは少なくとも、感光剤と、感光剤によって露光領域で、その溶解度が変化するポリマーのバインダーとから成る。
【0003】
ますます小型かつ高性能となっている電子装置を製造するためには、さらに高い部品密度が必要とされており、さらなる微細構造が要求されている。その結果、フォトレジスト中のバインダーに対する要求も高まっており、それは、百~数百ナノメートルのオーダーの範囲内にあるこれらの構造をイメージング(imaging)することができるものでなければならない。分子量の広い分布は溶解度の局所的な差異をもたらし、微細構造が鮮明な精細度でイメージング化されない可能性を生ずるので、構造の鮮明なイメージング化はバインダーが狭い分子量分布を有することを必要とする。バインダーに対する更なる重要な要求は、それらが導電性を持たないようにするため、そして着色された金属イオンによる露光性の悪化が生じないようにするために、金属イオンによって生ずる不純物の濃度を極めて低くすることである。さらに、バインダーは、それらの化学組成又は分子量の分布が、例えば130℃に達する処理中の温度によって変化しないように、熱的に安定でなければならない。製造処理が経済的に実施可能であるということも重要である。
【0004】
これらの製造上の目的は、例えば、米国特許第6107425号、欧州特許出願第0542523A1号、C. Mack “Fundamental Principles of Optical Lithography: The Science of Microfabrication”、John Wiley & Sons Ltd、Chichester、2007年;H. Steppan, D. C. Mammato、T. Stoudt、M. C. P. Watts “Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry”の”Imaging Technology, 4. Imaging for Electronics”、Wiley-VCH、Weinheim、2012年、又はZ. J. Wang, M. Maric、Polymers、2014年6月、565~582頁に記載されている。
【0005】
フォトレジスト用のバインダーとして適したポリマーの例は、他の多様なモノマーとの組み合わせを含む、4-ヒドロキシスチレンおよび以下に示される一般式を有するその誘導体のポリマーが挙げられる。
【化1】
この化学式中の残基Rは水素、アルキル基、又はアシル基であってもよい。また、上に示したスチレン誘導体の芳香族プロトンおよびオレフィンプロトンは他の残基によって置換されていてもよい。上記のコモノマーはスチレン、並びに多様なアクリレートおよびメタクリレートを含む。
【0006】
この用途に適しているポリマーの詳細な説明は例えば、R. Leuschner, G. Pawlowski”Handbook of Semiconductor Technology - Volume 2”の”Photolithography”、K. A. Jackson、W. Schroter (Eds.)、Wiley VCH、2000年等の多数の総論および書籍に示されている。
【0007】
狭い分子量分布を有するビニルモノマーからのポリマーの製造は同様に最新技術であり、例えば、A.H.E. Muller、K. Matyjaszewski”Controlled and Living Polymerizations”Wiley VCH、2009年等の刊行物および書籍に記載されている。この目的のための適切な重合技術はリビング重合、イオン重合、および精密ラジカル重合を含む。イオン重合はアニオンおよびカチオン開始重合を含む。精密ラジカル重合の例は、ATRP(原子移動ラジカル重合)、RAFT(可逆的付加開裂連鎖移動)重合、又はNMP(ニトロキシド媒介重合)がある。ここで列挙された狭い分子量分布を有するポリマーを合成するための公知の方法はフォトレジスト用のバインダーの合成に対して既に説明されている。バインダーは従来のフリーラジカル重合によって製造することもできるが、それらは広い分子量分布を有するポリマーとなる。
【0008】
記載された全ての方法において、4-ヒドロキシスチレンのホモポリマーおよびコポリマーは直接的に重合することができない。そのため、一般に、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)およびそのコポリマーは少なくとも2段階法によって合成される。ここで、まず、フェノール性OH基が重合反応に関与しない基(保護基)で置換されている4-ヒドロキシスチレンの誘導体を、選択的に他のモノマーと共に、上記の方法の1つにより重合する。そして、ポリマー類似反応(polymer-analogous reaction)において、合成されたポリマーの保護基を除去し、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)や、そのコポリマーを得る。米国特許第4898916A号は、例えば、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)および対応するコポリマーを得るための、ポリ(4-アセトキシスチレン)とそのコポリマーとの酸触媒ポリマー類似反応を記載している。
【0009】
特開第1992-209661号は、例えば、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)を得るための、4-メトキシメトキシスチレンのアニオン重合、およびその後の合成されたポリマーのポリマー類似反応を記載している。この方法の不利な点は、装置のコストおよび複雑さ、並びにモノマーおよび溶媒の純度に課される厳密な要求である。
【0010】
モノマーの純度に関するそれらの要求がそれほど厳密でなく、技術的に実施がより簡単な処理は精密ラジカル重合である。B. Gao.、X. Chen、B. Ivan、J. Kops、およびW. Batsbergは、例えばMacromol. Rapid Commun. 、1997年、18、1095~1100頁において、狭い分子量分布を有するポリ(4-アセトキシスチレン)を得るためのATRPによる4-アセトキシスチレンの重合を記載している。その後、上記のポリマーに対してポリマー類似加水分解を実施して、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)を得ることができる。
【0011】
もう1つの例(欧州特許出願第1479700A1号)においては、連鎖移動剤の存在下での保護された4-ヒドロキシスチレンのラジカル重合(RAFT重合)、およびその後のフェノール性OH基のポリマー類似脱保護によって狭い分子量分布を有するポリ(4-ヒドロキシスチレン)およびそのコポリマーを合成している。どちらの方法も、純度又は分子量分布の点において、合成されたポリマーをフォトレジスト用のバインダーとして使用するには不都合である。
【0012】
選択的な他のモノマーと共に保護された4-ヒドロキシスチレンの誘導体の合成を可能にする精密ラジカル重合のもう1つの例としてNMPによるものがある。この場合のラジカル重合の進行は、持続性のニトロキシドラジカルが連鎖末端においてアルコキシアミン基の一時的な形成とともに、ラジカル連鎖末端と可逆的に再結合することができるという利点によって、該持続性ニトロキシドラジカルの存在によって制御される。通常の重合温度は100~140℃の範囲である。フリーラジカル重合と比べ、NMPの場合の成長速度は大幅に低い。使用される開始剤とモノマーとの比および選択された溶媒中の成分の濃度にもよるが、完全な転化が達成されるまでの反応時間は数日に達することがある。合成をより経済的にするために、促進剤の添加により反応速度を増大させることができる。E. Malmstrom、R. D. MillerおよびC. J. Hawkerは、例えばTetrahedron、1997年、53(45)、15225~15236頁において、アルコキシアミン中のアミン官能基をアセチル化し、それによりC-O結合を弱める、無水酢酸の能力を記載している。これにより、反応時間を48時間から4時間に短縮することが可能である。H. Jianying、L. Jian、L. Minghua、L. Qiang、D. Lizong、Z. Yousiは、例えば、Sci. A Polym. Chem.、2005年、43、5246~5256頁において、例えば、無水トリフルオロ酢酸、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、又はマロニトリル等の他の促進剤の活性を記載している。
【0013】
規定の分子量および狭い分子量分布を有するポリマーを生成するためには、一分子(unimolecular)の開始が適切であることが証明されている。ここで用いられる開始剤は、温度が上昇すると解離して持続性ニトロキシドラジカルとアルキルラジカルを生じ、それによって重合を開始するアルコキシアミンを含む。
【0014】
重合は通常、温度を室温まで下げることにより終了する。これにより、連鎖の末端に、ラジカル連鎖末端と持続性ニトロキシドラジカルとの再結合によって形成されるアルコキシアミン基が残る。
【0015】
適切なモノマー、ニトロキシド、および重合プロセス、並びに、速度論的側面および適切な特徴づけ方法との関連する包括的な説明は、Progress in Polymer Science、2013年、38、63~235頁におけるJ. Nicolas、Y. Guillaneuf、C. Lefay、D. Bertin、D. Gigmes、B. Charleuxによる総論に記載されている。
【0016】
NMPによるフォトレジスト用のバインダーとして適したポリマーの合成も既に説明されている。米国特許第6107425号は、例えば、持続性ニトロキシドラジカルの存在下での4-アセトキシスチレン等の保護された4-ヒドロキシスチレンのラジカル重合を記載している。アルコキシアミンによる一分子(unimolecular)の開始反応についても記載されている。重合は温度を室温まで下げることによって終了する。所望のポリ(4-ヒドロキシスチレン)および/又はそのコポリマーはポリマー類似反応により得られる。
【0017】
4-ヒドロキシスチレンの誘導体のNMPもまた、例えば、以下の多数の科学刊行物に記載されている。
Generation of organic/inorganic hybrid particles:C. Anger、F. Deubel、S. Salzinger、J. Stohrer、T. Halbach、R. Jordan、J. G. C. Veinot、B. Rieger、ACS Macro Lett.、2013、2、121~124頁。
Fundamental studies on the NMP of 4-acetoxystyrene、hydrolysis to poly(4-hydroxystyrene)、investigation of the molecular weight-dependent solubility behaviour;G. G. Barclay、C. J. Hawker、H. Ito、A. Orellana、P. R. L. Malenfant、R. F. Sinta Macromolecules、1998年、31、1024~1031頁。
New generation of nitroxides for polymerization of, among others, 4-acetoxystyrene and 4-tert-butoxystyrene:J. Areephong、K. M. Mattson、N. J. Treat、S. O. Poelma、J. W. Kramer、H. A. Sprafke、A. A. Latimer、J. Read de Alaniza、C. J. Hawker Polym. Chem.、2016年、7、370頁。
Polymerization of variously protected 4-hydroxystyrenes by NMP to give block copolymers, with the aim of generating amphiphilic block copolymers by selective deprotection:M. Messerschmidt、M. Millaruelo、H. Komber、L. Haussler、B. Voit、T. Krause、M. Yin、W.-D. Habicher、Macromolecules、2008年、41、2821~2831頁。
【0018】
これらの刊行物では、温度を室温まで下げることによって反応が終了する。結果として、ラジカル連鎖末端と持続性ニトロキシドラジカルとの再結合によって形成されたアルコキシアミン末端基が連鎖末端に残る。このようにして調製されたポリマーのその後の再処理の過程で、例えば、熱可塑処理操作だけでなくフォトリソグラフィにおいても起こり得る100℃以上の温度において、引き続き不安定かつ反応性である上記の末端基は、連鎖末端のアルキルラジカルとニトロキシドラジカルに再び開裂される可能性があり、その結果、二次反応が起こり、不要な追加の生成物を生成してしまう可能性がある。
【0019】
高温でのポリマー鎖のこの再活性化を防ぐために、アルコキシアミン基は多様な方法により、不活性又は他の官能基によって置換させてもよい。例えば、H. Malz、H. Komber、D. Voigt、J. Pionteck Macromol. Chem. Phys.、1998年、199、583~588頁は、NMPによって合成されたポリスチレンのアルコキシアミン末端基の、例えば、多様な物質の存在下での再加熱による、水素原子、アルコール基、又はカルボニル官能基での置換の可能性を記載している。Y. Guillaneuf、P.-E. Dufils、L. Autissier、M. Rollet、D Gigmes、およびD. Bertin は、Macromolecules、2010年、43、91~100頁において、多様な試薬の存在下で、アルコキシアミン末端ポリスチレンを加熱することによるさらなる官能基の導入を記載している。アルコキシアミン末端基の置換は、保護されたポリ(4-ヒドロキシスチレン誘導体)およびコポリマーに対しても記載されている。例えば、欧州特許1572751B1号には、ハロシランの存在下における、NMPで調製された、保護されたポリ(4-ヒドロキシスチレン)の加熱が、ヒドロキシスチレン単位の保護基の除去及びアルコキシアミン末端基の不活性基による置換の両方として記載されている。これらの例および他の多数の例において、保護基は、重合後に、対応する作用剤(agent)と共にポリマーを再加熱することによって、不活性基で置換される。これらの産業上の使用に対する決定的な欠点は、さらなる精製手順を伴う追加の操作工程が必要であるということである。この問題を解決するために、L. Petton、A. E. Ciolino、B. Dervaux、および F E. Du Prezは、Polym. Chem.、2012年、3、1867~1878頁において、所望の変換の後に、置換剤を反応混合物に直接添加し、末端基が全て置換されるまで重合温度で撹拌を継続することを提案している。ここで使用される置換剤はドデカンチオール、チオフェノール、過酸化ベンゾイル(BPO)、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、およびテトラブロモメタンである。ここに述べた全ての置換剤の欠点は、置換剤を添加したときに混合物中にモノマーが残っていると、それらが新しいポリマー鎖を開始する可能性があることである。ここで、水素ラジカルを放出した後に新しい連鎖を開始することができない化合物の使用は重要な長所となるだろう。
【0020】
したがって、本発明の目的は、ニトロキシル精密重合による、狭い分子量分布を有するポリマー、特に4-ヒドロキシスチレンのホモポリマーおよびコポリマーの製造方法であって、上述の欠点を有さず、したがって重合中および末端基置換中の二次反応および不要なオリゴマーの形成がほとんどなく、それと同時に、迅速であり、したがって経済的である製造処理を可能にする、ポリマーの製造方法を提供することである。さらに、本発明によれば、二次生成物又は不純物の形成を最小化又は防止することができる方法を提供することを意図している。
【0021】
この目的は請求項1の特徴による方法、および請求項20の特徴によるポリマーとして達成される。それぞれの従属請求項は有利な展開を表している。
【0022】
したがって、本発明はニトロキシル精密重合によるポリマーの製造方法に関し、該ポリマーの製造方法は、
a)ラジカル重合されやすい混合物であって、
i)ラジカル重合によって重合可能な少なくとも1種のモノマーA1、又は少なくとも1種のモノマーA1およびモノマーA1とは異なるラジカル重合可能な少なくとも1種のさらなるモノマーA2、を含む又はから成るモノマー混合物と、
ii)アルキルラジカルとニトロキシルラジカルに開裂することによりラジカル重合を開始するアルコキシアミンB1と、少なくとも1種のラジカル開始剤および少なくとも1種のニトロキシルラジカルを含む開始剤B2と、から成る群から選択される少なくとも1種の開始剤Bと、
を含む又はから成る混合物を用意し、
b)ラジカル重合を開始し、10~100%の転化率まで重合を可能にする期間にわたって該重合を維持し、
c)10%~100%の重合転化後に、ニトロキシル精密ラジカル重合において生成された、ポリマーのアルコキシアミン末端基の少なくとも一部又は全部を非重合性基に変換する量で、少なくとも1種の反応剤Cを添加し、および
d)工程a)~c)の1以上に対して、ニトロキシル精密重合反応および/又はポリマーのアルコキシアミン末端基の非重合性基への変換を促進する、少なくとも1種の添加剤Dを添加する、
工程を含む。
【0023】
ここで、工程a)およびb)は列挙した順序で行われてもよいし、逆の順序で行われてもよいし、又は同時に行われてもよい。工程c)は、好ましくは、工程a)およびb)の後に、工程a)およびb)で所望の転換率(10~100%)が得られた後に行われる。特に好ましくは、工程c)は50~100%、より好ましくは75~100%、非常に好ましくは90~100%、特には95~100%の転換率が得られた後に行われる。
【0024】
工程d)は、各工程a)~c)の前に、又はそれらと同時に行われてもよい。特には工程d)は、工程c)の後、および/又は工程c)中に行われる。
【0025】
上記の処理によって、特に、狭い分子量分布を有し、比較的簡単で迅速な処理で調製することができるポリヒドロキシスチレンのホモポリマーおよびコポリマーを調製することが可能である。本発明の方法のもう1つの特徴は、最終生成物中に不純物をもたらす、反応中の副生成物の形成を抑制することができることである。従って、本発明に従って調製されたポリマーは高純度を特徴とする。
【0026】
驚くべきことに、促進剤(添加剤D)の添加は、最初に重合反応自体を促進することを可能にし、次に反応剤Cによってポリマー中に導入された末端基の除去を促進することがわかった。従って、本発明の方法はワンポット反応として実施することができ、プロセス体制の経済性が大幅に向上する。
【0027】
さらに、驚くべきことに、末端基置換が促進される形態で行われる生成物は副生物をほとんど含まないので、促進された末端基置換の場合、二次反応がより少ないことがわかった。
【0028】
具体的には、工程a)~d)の全てはワンポット反応で行われる。これにより、本発明の合成処理の簡便性および経済性をさらに高めることができ、同時に装置のコストおよび複雑さを最小にすることができる。
【0029】
驚くべきことに、上記との関連で、ワンポット反応の状況における、その場(in situ)での促進された重合と末端基置換との組み合わせは、保護基の除去後にポリヒドロキシスチレンのホモポリマーおよびコポリマーを形成するポリマーをもたらし、向上した温度安定性を示すことがわかった。
【0030】
したがって、上記のポリマーは、経済的な操作において狭い分子量分布および高い温度安定性を可能にするPHS含有ポリマーの合成方法を特定するという本願の目的を達成することができる。この目的は、本発明に従って、促進剤(accelerator)の存在下でNMPによりポリマーを生成し、所望の転化後に、ポリマー鎖のアルコキシアミン末端基を不活性基で置換することにより達成され、置換反応中に依然として促進剤が存在し続けるので、末端基置換も促進された様式で進行することにより達成される。この置換反応は、例えば、事前の重合と共にワンポット反応として行われてもよい。その場合、促進剤が重合後にのみ添加された場合、つまり、反応剤Cの添加の前に又はそれと同時に添加された場合、末端基置換もまた促進された様式で進行する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1つの好ましい実施形態において、少なくとも1種のモノマーA1は、それらのヒドロキシル基がラジカル重合の条件下で不活性である保護基で保護されているヒドロキシスチレンモノマーの群から選択され、および/又はそのモノマー混合物は少なくとも1種のヒドロキシスチレンモノマーA1と、ヒドロキシスチレンモノマーA1とは異なるラジカル重合可能な少なくとも1種のさらなるモノマーA2を含む又はから成る。
【0032】
特に好ましくは、ヒドロキシスチレンモノマー(モノマーA1)は、アルコキシ-、アリールオキシ-、アシルオキシ-、シリルオキシ-、カルバミルオキシ-、又はスルホニルオキシ置換ヒドロキシスチレンがある。特には、4-アセトキシスチレン、4-tert-ブトキシスチレン、4-トリメチルシリルオキシスチレン、4-tert-ブチルジメチルシリルオキシスチレン、4-トリエチルシリルオキシスチレン、4-トリイソプロピル-シリルオキシ-スチレン、4-メトキシスチレン、4-メトキシ-メトキシスチレン、4-ベンゾキシスチレン、4-p-メトキシ-ベンゾキシスチレン、4-ベンジルオキシメトキシスチレン、4-tert-ブチル-オキシカルボニルオキシスチレン、4-トリ-フェニルメチルオキシスチレン、4-ピバロイルオキシスチレン、4-ベンゾイルオキシスチレン、4-p-トルエンスルホニルオキシスチレン、および4-メチルスルホニル-オキシ-スチレン、並びにそれらの混合物および組み合わせから成る群から選択される。
【0033】
重合反応を促進する添加剤Dは、好ましくは、工程a)、工程b)および/又は工程c)において添加される。
【0034】
特に、少なくとも1種の添加剤Dはカルボン酸の誘導体およびケトン並びにそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0035】
上記との関連で、カルボン酸の誘導体は、好ましくは、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、およびカルボニトリル、特には、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、および/又はマロニトリルから成る群から選択される。ケトンは、特にはアセチルアセトンである。
【0036】
少なくとも1種の添加剤は、好ましくは、開始剤Bの量に対して、5~600モル%、好ましくは20~200モル%、より好ましくは100~150モル%の量で使用される。
【0037】
モノマーA1に加えてモノマー混合物中に存在してもよい、さらなる付加的なモノマーA2は、好ましくは、スチレン、イソプレン、ブタジエン、およびアクリレート、特に以下の式を有するアクリレートから成る群から選択される。
【化2】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
1は水素又はアルキル基、特にメチル基であり、
R
2はメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、t-アミル、ベンジル、シクロヘキシル、9-アントラセニル、2-ヒドロキシエチル、3-フェニル-2-プロペニル、アダマンチル、メチルアダマンチル、エチルアダマンチル、イソボルニル、2-エトキシエチル、n-ヘプチル、n-ヘキシル、2-ヒドロキシプロピル、2-エチルブチル、2-メトキシプロピル、2-(2-メトキシエトキシ)、2-ナフチル、2-フェニルエチル、フェニル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリル、セリル、イソデシル、2-エチルヘキシル、エチル-トリグリコール、テトラヒドロフルフリル、ブチルジグリコール、2-ジメチルアミノエチル、ポリエチレングリコール、メチルポリエチレングリコール、又はグリシジル基である。
【0038】
モノマーA1、特にヒドロキシスチレンモノマーA1と、さらなるモノマーA2から成るモノマー混合物が使用される場合、好ましくは、モノマー混合物中の少なくとも1種のヒドロキシスチレンモノマーA1と少なくとも1種のさらなるモノマーA2の全体に対する、少なくとも1種のヒドロキシスチレンモノマーA1のモル分率は0.1~99.9モル%、好ましくは5~95モル%、特には20~90モル%である。
【0039】
少なくとも1種のアルコキシアミンB1は、好ましくは、以下の一般式を有する化合物から選択される。
【化3】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
3は、酸素原子と残基R
3との間の結合がホモリティック開裂(homolytic cleavage)してラジカルR
3・を形成する位置にある少なくとも1個の炭素原子を有する基であり、残基R
3は、特に1-フェニルエチル、tert-ブチル、シアノイソプロピル、フェニル、メチルから成る群から選択され、
R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なるものであり、直鎖状、分岐状、又は環状の、および/又は非置換の又は置換されたアルキル残基から成る群から選択され、特に残基R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なるものであり、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシルから成る群から選択される、又は部分R
4-C-R
5および/又はR
7-C-R
8は、残基R
4とR
5、および/又はR
7とR
8を介して、置換された又は非置換の環状構造を形成していてもよい。
R
6およびR
9は同一又は異なるものであり、直鎖状、分岐状、又は環状の、および/又は非置換の又は置換されたアルキル残基から成る群から選択され、又は部分R
6-C-N-C-R
9は、残基R
6およびR
9を介し、置換された又は非置換の、および/又は脂肪族環構造又は芳香族環構造に融合されていてもよい環状構造を形成し、該環状構造は、特には以下の一般式を有する構造から選択される。
【化4】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
10およびR
11は同一又は異なるものであり、直鎖状又は分岐状、および/又は非置換の又は置換されているアルキル残基から成る群から選択され、特に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシル、および水素から成る群から選択される。
【0040】
特に、本発明の目的のためにも使用することができる例としてのアルコキシアミンB1は、NicolasらによってProgress in Polymer Science 38(2013年)、63~235頁に記載されている。
【0041】
代替的に又は付加的に、少なくとも1種の開始剤B2は、好ましくは、過酸化物;アゾ化合物、特には、ジベンゾイルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、1,1-ジ(tert-ブチル-ペルオキシ)-シクロヘキサン、tert-アミルペルオキシアセテート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ペルオキソジサルフェート、アゾビス(イソブチロニトリル);レドックス系および光開始剤から成る群から選択される、少なくとも1種のラジカル開始剤、並びに
以下の一般式を有するニトロキシルラジカルから成る群から選択される少なくとも1種のニトロキシルラジカルであってもよい。
【化5】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なっており、直鎖状、分岐状、又は環状、および/又は非置換の又は置換されたアルキル残基から成る群から選択され、特には、残基R
4、R
5、R
7、およびR
8は同一又は異なっており、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシルから成る群から選択される、又は部分R
4-C-R
5および/又はR
7-C-R
8であり、残基R
4とR
5、および/又はR
7とR
8を介して、置換された又は非置換の環状構造を形成し、
R
6およびR
9は同一又は異なっており、直鎖状、分岐状、又は環状、および/又は非置換の又は置換されたアルキル残基から成る群から選択され、又は部分R
6-C-N-C-R
9であり、残基R
6およびR
9を介し、置換された又は非置換の、および/又は脂肪族環構造又は芳香族環構造に融合されてもよい環状構造を形成し、該環構状造は、特には以下の一般式を有する構造から選択される。
【化6】
ここで、各ケースにおいて、それぞれの場合に互いに独立に、
R
10およびR
11は同一又は異なり、直鎖状又は分岐状、および/又は非置換又は置換のアルキル残基から成る群から選択され、特に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、ベンジル、シクロヘキシル、および水素から成る群から選択される。
【0042】
特に、本発明の目的のためにも使用することができる例としての開始剤B2は、NicolasらによってProgress in Polymer Science 38(2013年)、63~235頁に記載されているアルコキシアミンから得られる。
【0043】
モノマーA1の物質の総量に対して、又はモノマー混合物の場合、モノマーA1およびA2の物質の総量に対して、開始剤Bは、好ましくは0.1~20モル%、より好ましくは0.2~10モル%、非常に好ましくは1~5モル%の量で使用される。
【0044】
少なくとも1種の反応剤Cは、好ましくは、置換フェノール、特に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、ヒドロキノン;非ホモ重合性モノマー、特に、無水マレイン酸又はイソブチルビニルエーテルから成る群から選択される。
【0045】
特に、少なくとも1種の反応剤Cは、開始剤Bの濃度に対して、10~1000モル%、好ましくは90~200モル%、非常に好ましくは100~150モル%の量で使用するのが有利である。
【0046】
ラジカル重合に使用される混合物は、好ましくは、特に、PGMEA、酢酸エチル、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、アセトン、2-ブタノン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、並びにそれらの混合物および組み合わせから成る群から選択される溶媒を含む。
【0047】
重合反応は熱的又は化学線的に開始されてもよい。
【0048】
重合の開始および/又は重合反応の維持のために、温度を60~180℃、好ましくは90~140℃、さらに好ましくは100~130℃に調整することが好ましい。上述の温度は、特に、反応を開始させるために使用され、反応が終わるまで維持される。
【0049】
工程c)の終了後に、ポリマー中に結合しているヒドロキシスチレンモノマーA1の保護基が除去されると、さらに有利である。
【0050】
本発明はまた、上述の本発明の方法によって調製可能なポリマーに関する。これらのポリマーは、特に、以下の点で注目に値する。
5~1000の範囲、より好ましくは10~500の範囲、非常に好ましくは20~100の範囲である重合Pの好ましい平均重合度、
1.01~1.50の多分散指数(PDI)を有する分子量分布、
請求項1の工程c)において生成される非重合性基、特に、水素に対応する、特徴的な末端基の存在が挙げられる。
【0051】
平均重合度は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー等の分子量測定のための標準的な方法から得られる数平均分子量を使用し、モノマーA1のホモポリマーの場合、それをモノマーA1のモル質量で割ることによって決定してもよい。また、2種以上のモノマーのコポリマーの場合は、該数平均分子量を、以下の式に従って、使用されるモノマーの全モル質量から平均したモル質量で割ることによって決定してもよい。
【数1】
ここで、
は使用されるモノマーの全モル質量から平均したモル質量であり、x
iはポリマーに組み込まれたモノマーiのモル分率であり、M
iはポリマーに組み込まれたモノマーiのモル質量である。
【0052】
多分散指数PDIは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、(対応する標準又は光散乱のいずれかを用いた)方法の較正後に、エルグラム(elugram)からMwおよびMnの値を決定することによって決定される。MwをMnで割るとPDIが得られる。
【0053】
数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を決定するために好ましい方法は、SDV1000、SDV100000、およびSDV1000000タイプから成るPolymer Standards Service GmbH(マインツ)のGPCカラムセットを介してテトラヒドロフラン(2mg/ml)中のポリマーの溶液をテトラヒドロフランで溶出することである。溶出時間はUV検出器を用いて決定される。ポリスチレン標準を使用して事前に実施する方法の較正、およびPSS WinGPC Unityソフトウェア(Polymer Standards Service GmbH、マインツ)を使用した評価によって、数平均分子量および重量平均分子量の値、並びに多分散性指数の値を溶出量に依存する、UV検出器のシグナル強度から決定する。
【0054】
開始剤との関連で上述した一般式中の基R3に対応する特徴的な出発基が存在することが好ましい。特には、この基は水素である。
【0055】
さらに有利なこととして、ポリマーは15分から180分の間の、100℃から130℃の間の温度への加熱に対して、その分子量が不変に維持されることを特徴とする。
【0056】
原則として、本発明の方法により調製されるポリマーは、可能なプラスチック用途全ての成形用化合物として使用することが可能である。
【0057】
原則として、その方法は、ポリマーが狭い分子量分布を有する、又は特定のポリマー構造を有する(例えば、ブロックコポリマーや星形ポリマー)ことが要求される場合に有利である。例えば、フォトレジスト中のバインダー、それらの規定された放出のための活性成分の封入、ホットメルト接着剤との使用、又は較正標準の場合に、狭い範囲の分子量分布が要求される。特定のポリマー構造の用途は熱可塑性エラストマー、界面活性剤および/又は分散剤、発泡安定剤、又はポリマー混合物用の相媒体(phase mediators)である。
【0058】
狭い分子量分布を有するポリヒドロキシスチレンの最も重要な産業上の用途は、フォトレジストにおけるバインダーとしての使用である。ポリ(4-ヒドロキシスチレン)の他の用途は、例えば、(例えば、ホットメルトにおける)接着促進剤等のコーティングとして、フィルム又はホイルとして、又は、例えば、プラスチック用途における酸化防止剤又は難燃剤等のプラスチック中の添加剤としての使用である。しかしながら、これらの用途においては、分子量および分子量分布に関する要求はそれほど高くない。さらに、これらの製品はフォトレジスト用のバインダーよりも実質的に有利な価格で販売されているので、ここに記載された方法によって調製された製品は競争力が弱いであろう。
【0059】
本発明のヒドロキシスチレンの別の好ましい用途は、例えば、3D印刷等の生成製造(積層造形)方法に使用されるポリマー材料である。
【0060】
それらの意図する用途にも依るが、プロセス操作において特定の所望の品質を達成するために本発明のポリヒドロキシスチレンに添加剤を添加してもよい。
【0061】
これらの補助剤は、特には、UV吸収剤、光安定剤、安定剤、ヒドロキシルアミン、ベンゾフラノン、金属不活性剤、充填剤不活性剤、難燃剤、耐衝撃性強化剤、接着促進剤、可塑剤、潤滑剤、レオロジー調整剤、処理助剤、流動制御剤、顔料、染料、充填剤、強化剤、蛍光増白剤、活性抗菌成分、帯電防止剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、カップリング剤、分散剤、相溶化剤、酸素捕捉剤、酸捕捉剤、タギング剤、防曇剤、並びにこれらの補助剤の少なくとも2つの混合物および組み合わせから成る群から選択される。
【0062】
コーティング又はフィルムとしての用途に対しては、UV吸収剤、光保護剤、安定剤、可塑剤、流動制御剤、潤滑剤、蛍光増白剤、染料、および/又は顔料の群から選択される添加剤を使用することが好ましい。
【0063】
好適な光安定剤およびUV安定剤は、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、ヒドロキシフェニルトリアジン、オキサミド、又はHALS化合物として知られている立体障害アミンに基づく化合物である。
【0064】
好適な安定剤は、特に、フェノール酸化防止剤、亜リン酸塩、ホスホナイト、ヒドロキシルアミン、N-オキシド(ニトロン)、チオエーテル、又はジスルフィドである。
【0065】
好適な可塑剤は、例えば、フタル酸、アジピン酸、又はセバシン酸の長鎖エステルである。
【0066】
好適な流動制御剤は、例えば、フッ素変性ポリアクリレート又はシリコーン変性アクリレートである。
【0067】
好適な潤滑剤は、例えば、モンタンワックス等のワックス、又はステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の長鎖脂肪酸の塩である。
【0068】
蛍光増白剤は、例えばビスベンゾオキサゾール、フェニルクマリン、又はビス(スチリル)ビフェニルである。好適な染料および顔料は無機のものであってもよいし、有機のものであってもよい。
【0069】
好適な無機顔料は、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化鉄、群青、およびカーボンブラックである。好適な有機顔料および染料は、例えば、アントラキノン、アンタントロン、ベンズイミダゾロン、キナクリドン、キノフタロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジン、フラバントロン、インダントロン、イソインドリン、イソインドリノン、アゾ化合物、ナフトール、ペリノン、ペリレン、フタロシアニン又はピラントロンである。より好適な顔料は金属系効果顔料又は金属酸化物系真珠光沢顔料である。
【0070】
本発明のヒドロキシスチレンに基づいたフォトレジストは、好ましくは、溶媒、(光)増感剤又は酸発生剤、および流動制御剤を含む。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明を具体的に表された内容に限定することなく、本発明を以下の記載を参照しながら、より詳細に説明する。
【0072】
使用されるモノマーは、それらのOH基が保護基を保持する4-ヒドロキシスチレンの誘導体である。選択的に、コモノマーを使用することも可能である。下記の実施例では、4-アセトキシスチレンがホモ重合又はスチレンと共重合される。使用される重合処理はニトロキシル精密ラジカル重合の処理である。この場合、アルコキシアミンにより一分子的に開始され、それはここで示されている例においては、エチルベンゼンと2,2,6,6-テトラメチルピペリジンN-オキシド(TEMPO)の付加生成物である、(2,2,6,6-テトラメチル-1-(1-フェニルエトキシ)ピペリジン(EBTEMPO)である。
【0073】
この重合は、促進剤としての無水酢酸の存在下で行われる。本文献に記載されているように、この効果は重合を促進することであり、本発明によれば、末端基置換反応も促進する。所望の変換の後、重合を停止し、アルコキシアミン末端基を不活性基で置換するために、ラジカル連鎖末端に対して反応性であり、かつ、不活性基のラジカル連鎖末端への移動の後に新しい重合を開始するポジションではない作用剤が添加される。フェノールの誘導体がこの目的に適していることが実証された。実施例においては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)をこの目的のために使用した。ここで、末端基置換は重合混合物中で、ワンポット反応で行われる。
【0074】
比較例1:末端基置換を伴わない重合およびその後の加水分解
この比較例では、4-アセトキシスチレンをNMPによってスチレンと共重合させ、合成されたポリマーを、重合可能な末端基を予め置換することなく、ポリ(4-ヒドロキシスチレン-co-スチレン)に加水分解した。この目的のための重合反応は、温度を室温まで下げることによって中断した。加水分解前後の分子量およびそれらの分布の決定により、加水分解が分子量分布の幅を増大させることが実証されている。
【0075】
a)重合
攪拌機、滴下漏斗、および窒素供給ラインを備えた2Lの外装付き反応器に、750mL(4.36mol)の不安定な4-アセトキシスチレンおよび166mL(1.45mol)のスチレンを入れる。72.4g(0.28mol)のEBTEMPO、100mLのメトキシ-2-プロピルアセテート(PGMEA)、および79mL(0.83mol)の無水酢酸を100mLのモノマー混合物に溶解し、窒素の導入により脱気し、滴下漏斗に導入する。同様に、モノマー混合物の残りを窒素の導入により脱気する。モノマー混合物を130℃に加熱した後、開始剤混合物を反応器に入れ、130℃で6時間撹拌を行う。室温まで冷却する過程で、混合物を1Lのトルエンで希釈し、そして室温に達したとき、12Lのメタノールと水の混合物(5:1)からポリマーを沈殿させる。ポリマーを濾過し、60℃、減圧下で恒量に達するまで乾燥する。
【0076】
b)加水分解
a)で得られた15gのポリ(4-アセトキシスチレン-co-スチレン)を150mLのメタノール中に分散させ、窒素の導入により脱気する。混合物を1.05mLのメタンスルホン酸と混合し、窒素下で、室温で一晩撹拌すると、反応の過程でポリマーが溶液になる。続いて、生成物を水から沈殿させ、濾過により単離する。残渣を酢酸エチルに溶解し、水で2回抽出する。ヘキサンからの最終沈殿により、ポリマーを単離する。
【0077】
c)特徴付け
a)およびb)で合成したコポリマーの分子量分布をサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)により調べた(表1)。
【0078】
【0079】
表1から、加水分解後の平均分子量が加水分解前のものより低いことが明らかである。これは、アセテート基が除去されたことにより、モル質量が低下するためである。さらに、表1において、加水分解後に分子量分布の幅が著しく増加したことは明白である(加水分解前の多分散性指数= 1.28;加水分解後=1.45)。これは、加水分解中にアルコキシアミン末端基が二次反応を起こし、より大きい分子量を有する、ポリマー鎖同士の結合による産物をもたらすことに起因するものであり、フォトレジストにおけるバインダーとしての利用可能性に対しては望ましくない。
【0080】
実施例1:促進された末端基置換およびその後の加水分解
実施例1では、比較例1a)で調製したポリ(4-アセトキシスチレン-co-スチレン)からの重合可能なアルコキシアミン末端基を重合促進添加剤の存在下で、水素原子で置換した。続いて、末端基置換ポリマーをポリ(4-ヒドロキシスチレン-co-スチレン)に加水分解した。加水分解前後の分子量およびそれらの分布の決定は、分子量分布の幅が加水分解によって変化しなかったことを実証している。
【0081】
a)末端基置換
比較例1a)で調製した20gのポリマーを、2.6g(0.016モル)のBHTおよび2.27g(0.022モル)の無水酢酸と共に40mLのPGMEAに溶解する。溶液を窒素の導入によって脱気する。反応混合物を130℃で2時間撹拌する。撹拌中に溶液は橙赤色の着色を有し、TEMPOの放出を示す。室温まで冷却した後、ポリマーをヘキサンから沈殿させ、濾過により単離する。
【0082】
b)加水分解
実施例a)からの15gのポリ(4-アセトキシスチレン-co-スチレン)を150mLのメタノール中に分散し、窒素の導入によって脱気する。混合物を1.05mLのメタンスルホン酸と混合し、窒素下で、室温で一晩撹拌すると、反応の過程でポリマーが溶液になる。続いて、生成物を水から沈殿させ、濾過により単離する。残渣を酢酸エチルに溶解し、水で2回抽出する。ヘキサンからの最終沈殿により、ポリマーを単離する。
【0083】
c)特徴付け
a)およびb)で調製したコポリマーの分子量分布をサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)により調べた(表2)。
【0084】
【0085】
表2から、比較例1で既に示されているように、加水分解後の平均分子量が加水分解前のものより低いことが明らかである。比較例1とは異なり、加水分解後に示される分布の広がりは、測定の誤差の範囲内であり、無視できる程度のものである。
【0086】
比較例2 促進されていない末端基置換
比較例2では、4-アセトキシスチレンとスチレンとをNMPで再度、共重合した。重合中に存在する促進剤を除去するために、ポリマーを沈殿により単離した。その後、下流工程で重合可能なアルコキシアミン末端基を水素原子で置換した。実施例1とは異なり、この比較例においては、置換反応に対して重合促進添加剤を添加しなかった。置換反応の進行はNMR分光法により決定した。
【0087】
a)重合
攪拌機、滴下漏斗、および窒素供給ラインを備えた2Lの外装付き反応器に、750mL(4.36mol)の不安定な4-アセトキシスチレンおよび125mL(1.09mol)のスチレンを入れる。71.27g(0.27mol)のEBTEMPO、100mLのメトキシ-2-プロピルアセテート(PGMEA)、および77mL(0.82mol)の無水酢酸を100mLのモノマー混合物に溶解し、窒素の導入により脱気し、滴下漏斗に導入する。同様に、モノマー混合物の残りを窒素の導入により脱気する。モノマー混合物を130℃に加熱した後、開始剤混合物を反応器に入れ、130℃で6時間撹拌を行う。室温まで冷却する過程で、混合物を1Lのトルエンで希釈し、そして室温に達したとき、12Lのメタノールと水の混合物(5:1)からポリマーを沈殿させる。ポリマーを濾過し、60℃、減圧下で恒量に達するまで乾燥する。
【0088】
b)末端基置換
a)で得られた5gのポリマーを10mLのPGMEAに溶解する。2当量のBHTを添加し、反応混合物を窒素の導入により脱ガスする。続いて、反応混合物を130℃で6時間、撹拌しながら加熱する。ここでの反応混合物の橙赤色の着色は持続性TEMPOラジカルの放出を示す。2時間後、残っているアルコキシアミン末端基の割合を決定するために混合物のサンプルを取り出す。ヘキサンからの沈殿により、ポリマーを単離する。
【0089】
c)特徴付け
1HNMR分光法により、アルコキシアミン基の置換を調べる。ポリマー鎖の数に基づいて決定された末端基の百分率を表3に列挙する。
【0090】
【0091】
表3から、促進されてない置換反応の場合の末端基は2時間後でも47%であり、6時間の反応時間後でも2%のアルコキシアミン末端基がポリマー中に残っていることが明らかである。さらに、ポリマーの1HNMRスペクトルにおいて、1.3~1.5ppmの範囲で、所望のポリマーに帰することができない(そうでなければ、特定できない不純物に帰する)明らかなシグナルがあった。
【0092】
実施例2:促進された末端基置換の実証
実施例2では、促進剤の添加が重合だけでなく末端基置換も促進することが実証される。さらに、末端基置換の促進を介して、二次反応の形成を減少させることができることが実証される。この効果を視覚化するために、比較例2a)からの4-アセトキシスチレンを出発材料として使用した。この材料中で重合可能なアルコキシアミン末端基を下流工程で水素原子によって置換した。置換反応を促進するために無水酢酸を添加した。置換反応の進行はNMR分光法により測定した。
【0093】
a)末端基置換
比較例2a)で得られた5gのポリマーを10mLのPGMEAに溶解する。開始剤の濃度に対して、2当量のBHTおよび3当量の無水酢酸を添加し、反応混合物を窒素の導入により脱ガスする。続いて、反応混合物を撹拌しながら130℃で加熱する。2時間後、反応混合物を室温まで冷却する。ここで、反応混合物の橙赤色の着色は持続性TEMPOラジカルの放出を示す。ヘキサンからの沈殿により、ポリマーを単離する。
【0094】
b)特徴付け
1HNMR分光法により、アルコキシアミン基の置換を調べた。ポリマー鎖の数に基づいて決定された末端基の百分率を表4に列挙する。
【0095】
【0096】
表4から、促進された置換の場合の末端基が、わずか2時間後に定量的に除去されたことが明らかである。さらに、ポリマーの1HNMRスペクトルにおいて、1.3~1.5ppmの範囲で、所望のポリマーに帰することができない明らかなシグナルは存在しなかった。
【0097】
実施例3:ワンポット反応としての末端基置換による向上した温度安定性の実証
実施例2はワンポット反応で末端基置換を行うことの有利な性質を説明する。この目的のために、この例では末端基置換がワンポット反応として行われ、重合促進剤が末端基置換中にも存在していることを除いて、上記の実施例と同じ処理でさらなるポリマーを調製した。このポリマーも比較例1b)および実施例1b)で説明されたように加水分解した。この例では、さらなる特徴付け工程として温度安定性試験を加えた。
【0098】
a)重合および末端基置換
攪拌機、滴下漏斗、および窒素供給ラインを備えた2Lの外装付き反応器に、750mL(4.36mol)の不安定な4-アセトキシスチレンおよび166mL(1.45mol)のスチレンを入れる。72.4g(0.28mol)のEBTEMPO、100mLのメトキシ-2-プロピルアセテート(PGMEA)、および79mL(0.83mol)の無水酢酸を100mLのモノマー混合物に溶解し、窒素の導入により脱気し、滴下漏斗に導入する。同様に、モノマー混合物の残りを窒素の導入により脱気する。モノマー混合物を130℃に加熱した後、開始剤混合物を反応器に入れ、130℃で6時間撹拌を行う。6時間後、反応混合物を100mLのPGMEAの溶液中の102g(0.46モル)のBHTと混合する。130℃でさらに2時間撹拌した後、室温まで冷却する。室温まで冷却する過程で、混合物を1Lのトルエンで希釈し、そして室温に達したとき、12Lのメタノールと水の混合物(5:1)からポリマーを沈殿させる。ポリマーを濾過し、60℃、減圧下で恒量に達するまで乾燥する。
【0099】
b)加水分解
a)で調整された15gのポリ(4-アセトキシスチレン-co-スチレン)を150mLのメタノール中に分散し、窒素の導入によって脱気する。混合物を1.05mLのメタンスルホン酸と混合し、窒素下で、室温で一晩撹拌すると、反応の過程でポリマーが溶液になる。続いて、生成物を水から沈殿させ、濾過により単離する。残渣を酢酸エチルに溶解し、水で2回抽出する。ヘキサンからの最終沈殿により、ポリマーを単離する。
【0100】
c)温度安定性試験
この試験で比較して調べるのは、別々の末端基置換後のb)からのポリマーおよび実施例1b)からのポリマーである。この試験のために、固体のポリマーを大気下で130℃の炉で3時間加熱する。室温まで冷却した後、両方のサンプルの分子量分布をGPCによって決定し、温度安定性試験前のものと比較する。
【0101】
【0102】
表5から、重合の下流の操作工程において末端基が置換されたサンプルの場合、温度安定性を試験するために、その後に130℃で3時間加熱すると、4000g/mol~9000g/molの間にショルダーで明白に示される高分子質量分率が生じることが明らかである。末端基置換がワンポット反応として行われたサンプルの場合、このショルダーは確認されていない。これはおそらく、下流操作としての末端基置換の前又は末端基置換中に二次反応が起こり、その後の温度安定性試験においてのみ分子量の広がりを生じさせる種を形成することを意味する。これらの二次反応は、例えば、ラジカルがアルコキシアミン末端基の解離によってまだ中間的に形成されている場合、重合混合物の冷却中に起こり得るが、これらのラジカルは反応相手のモノマーを見つけることができない。
【0103】
実施例4:促進された末端基置換およびワンポット反応における結果的に向上した温度安定性の実証
実施例4において、ワンポット反応においても、重合可能な末端基の置換が、重合促進添加剤の存在する場合、それが存在しない場合よりも迅速に進行することが示される。さらに、合成される最終生成物は、それらの末端基がワンポット反応において促進なしで置換されたものと比較して、向上した温度安定性を有することが実証される。促進されない末端基置換を実施することを可能にするために、促進添加剤なしで重合自体を実施することが必要である。したがって、この実施例の重合時間は上述の実施例における重合時間よりも長くした。この目的のために、促進剤を添加せずに4-ヒドロキシスチレンとスチレンの共重合を実施し、モノマーの完全な転化後に反応混合物を2つのフラクションに分割した。反応温度において、促進添加剤および重合性末端基を水素原子で置換する添加剤を分割された第1のフラクションに添加した。分割された第2のフラクションには、重合性末端基を水素原子で置き換える添加剤のみを添加した。次に、両方のフラクションをポリ-4-ヒドロキシスチレンコポリマーに加水分解し、最後に温度安定性試験を行った。
【0104】
a)重合
磁気撹拌棒、セプタム、および窒素供給ラインを備えた50mLの丸底フラスコに15mL(98.1ミリモル)の不安定な4-アセトキシスチレン、2.2mL(19.2ミリモル)のスチレン、1.209g(4.69ミリモル)のEBTEMPO、および2mLのメトキシ-2-プロピルアセテート(PGMEA)を入れ、これの初期内容物を窒素の導入によって脱気する。フラスコを130℃に予熱した油浴に入れ、モノマーが混合物の1HNMRスペクトルで検出されなくなるまで(48時間後)、混合物を130℃で撹拌する。その後、反応混合物の半分を除去し、窒素下で、130℃に予熱した第2の丸底フラスコ中に入れ、そこにおいて3.2gのIrganox1076と混合する(フラクションII)。元のフラスコ中の混合物(フラクションI)を1.2mL(12.7ミリモル)の無水酢酸および3.2gのIrganox1076と混合する。反応性末端基が1HNMRスペクトルで特定できなくなるまで、両方の反応混合物を130℃で撹拌する(表6)。
【0105】
【0106】
表6の結果に従うと、フラクションIは2時間後に室温まで冷却され、フラクションIIは7時間後に室温まで冷却される。両方の反応混合物の各々を、10mLの酢酸エチルで希釈し、n-ヘプタンから沈殿させる。ポリマーを濾過し、60℃、減圧下で恒量に達するまで乾燥する。
【0107】
a)加水分解
a)で合成したポリ(4-アセトキシスチレン-co-スチレン)の各々を5gずつ、50mLのメタノール中に分散させ、窒素の導入により脱気する。混合物を0.35mLのメタンスルホン酸と混合し、窒素下で、室温で一晩撹拌すると、反応の過程でポリマーが溶液になる。続いて、生成物を水から沈殿させ、濾過により単離する。残渣を酢酸エチルに溶解し、水で2回抽出する。ヘキサンからの最終的な沈殿により、ポリマーを単離する。
【0108】
b)温度安定性試験
固体としてのフラクションIおよびフラクションIIの加水分解されたポリマーを大気下で130℃の炉中で3時間加熱する。室温まで冷却した後、両方のサンプルの数平均分子量をGPCによって決定し、温度安定性試験前のものと比較する(表7)。
【0109】
【0110】
表6から、ワンポット反応においても、重合可能な末端基の置換が、重合促進添加剤の存在する場合、それが存在しない場合よりも迅速に進行することが明白である。促進添加剤を含有するフラクションIでは、わずか2時間後に全ての末端基が置換されるのに対し、促進剤を含まないフラクションIIでは、7時間後になってやっと全ての末端基が置換される。
【0111】
さらに、表7から、促進された末端基置換によって得られる最終生成物が、末端基が促進なしで置換されたものと比較して向上した温度耐性を有することが明らかである。フラクションI(促進剤有り)から得られるポリマーの数平均分子量が、温度安定性試験の結果、わずか6%しか増加しないのに対し、フラクションII(促進剤無し)から得られるポリマーは、130℃で3時間加熱した結果、ほぼ19%の分子量増加を記録する。
【0112】
実施例5:ポリマーの事前単離後の促進および非促進末端基置換と直接比較した、ワンポット反応における促進された末端基置換による向上した温度安定性の実証
実施例5では、重合と末端基置換との間でポリマーの単離を行わない、重合促進添加剤の存在下でのアルコキシアミン末端基の非重合性基への変換(したがって、それは末端基置換も促進する)が向上した温度安定性を有するポリマーをもたらすことを実証する。
【0113】
この目的のために、促進剤の存在下で4-ヒドロキシスチレンとスチレンの共重合を行い、モノマーの完全な転化後に反応混合物を3つのフラクションに分割した。反応温度において、第1のフラクションを、重合性末端基を水素原子で置換する添加剤と混合した。他の2つのフラクションを沈殿により単離し、次の工程において、促進剤を添加したものと添加しないものとの両方に対して末端基置換を実施した。次に、3つのフラクションの全てをポリ-4-ヒドロキシスチレンコポリマーに加水分解し、最後に温度安定性試験を行った。
【0114】
a)重合
磁気撹拌棒、セプタム、および窒素供給ラインを備えた50mLの丸底フラスコに15mL(98.1ミリモル)の不安定な4-アセトキシスチレン、2.2mL(19.2ミリモル)のスチレン、1.209g(4.69ミリモル)のEBTEMPO、1.32mL(14.0ミリモル)の無水酢酸、および2mLのメトキシ-2-プロピルアセテート(PGMEA)を入れ、これの初期内容物を窒素の導入によって脱気する。フラスコを130℃に予熱した油浴に入れ、混合物を130℃で2時間撹拌する。この後、反応混合物の1/3を2回除去し、室温まで冷却し、ヘプタンから沈殿させ、濾過し、乾燥させる(フラクションIIおよびフラクションIII)。元のフラスコ中のフラクション(フラクションI)を、反応温度で1.6gのIrganox1076と混合する。この温度でさらに2時間撹拌した後、混合物を室温まで冷却する。
【0115】
フラクションIIおよびフラクションIIIからのポリマー各々を、磁気撹拌棒、セプタム、および窒素供給ラインを備えた50mL丸底フラスコ中の3mLのメトキシ-2-プロピルアセテート(PGMEA)に溶解し、それぞれに1.6gのIrganox1076を加える。フラクションIIをさらに0.4mL(4.24ミリモル)の無水酢酸と混合する。溶解したフラクションIIおよびフラクションIIIを窒素の導入により脱気し、130℃に予熱した油浴中に入れ、さらに、反応性末端基が1HNMRスペクトルに特定できなくなるまで、この温度で撹拌する。したがって、フラクションIIは2時間後に室温まで冷却され、フラクションIIIは7時間後に室温まで冷却される。3つの反応混合物(フラクションI、フラクションII、およびフラクションIII)の各々を、10mLの酢酸エチルで希釈し、n-ヘプタンから沈殿させる。ポリマーを濾過により単離し、60℃、減圧下で恒量に達するまで乾燥する。
【0116】
a)加水分解
a)で調製したポリ(4-アセトキシスチレン-co-スチレン)の各々を5gずつ、50mLのメタノール中に分散させ、窒素の導入により脱気する。混合物を0.35mLのメタンスルホン酸と混合し、窒素下で、室温で一晩撹拌すると、反応の過程でポリマーが溶液になる。続いて、生成物を水から沈殿させ、濾過により単離する。残渣を酢酸エチルに溶解し、水で2回抽出する。ヘキサンからの最終的な沈殿により、ポリマーを単離する。
【0117】
b)温度安定性試験
固体としてのフラクションI、フラクションII、およびフラクションIIIの加水分解されたポリマーを大気下で130℃の炉中で3時間加熱する。室温まで冷却した後、全てのサンプルの分子量分布をGPCによって決定し、温度安定性試験前のものと比較する(表8)。
【0118】
【0119】
表8から、末端基置換の方法が加水分解ポリマーの耐熱性に大きな影響を及ぼすことは明らかである。フラクションIの分子量分布の幅、すなわち末端基がワンポット反応で促進置換されたポリマーの幅は、130℃で3時間加熱した後に、わずか2.3%しか増加しない。フラクションIIの分子量分布の幅、すなわち末端基が事前の単離後に促進置換されたポリマーの幅は、130℃で3時間加熱した後、既に7.5%増加している。フラクションIIIの分子量分布の幅、すなわち末端基が事前の単離後に非促進置換されたポリマーの幅は、130℃で3時間加熱後に、8.5%も増加する。このことから、ワンポット反応における促進された末端基置換が最良の温度耐性を有する生成物を生じるが、ポリマーの事前単離後の末端基置換の促進もポリマーの温度耐性に対して安定化の効果を与えると推論することができる。