(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】滑り軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/20 20060101AFI20221115BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
F16C33/20 Z
F16C17/02 Z
(21)【出願番号】P 2019546667
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018036065
(87)【国際公開番号】W WO2019069795
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017196263
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】森重 晃一
(72)【発明者】
【氏名】今川 圭介
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122646(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/119409(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重を支持する滑り軸受であって、
アッパーケースと、
前記アッパーケースと組み合わされるロワーケースと、
前記アッパーケースと前記ロワーケースとの間に配された環状のセンタープレートと、
前記センタープレートと前記アッパーケースあるいは前記ロワーケースとの間に配された環状の摺動シートと、を備え、
前記センタープレートは、
前記摺動シートと摺動する軸受面と、
前記軸受面の反対側に位置する裏面と、
前記軸受面に形成され
た環状溝と、を有し、
前記環状溝は、
当該環状溝の溝底に配置された環状凹部と、
前記軸受面の内周側から前記環状凹部の内周縁へ向けて径方向外方に傾斜する内周面と、
前記軸受面の外周側から前記環状凹部の外周縁へ向けて径方向内方に傾斜する外周面と、を有し、
前記内周面と前記外周面との交線が、前記センタープレートの
前記裏面よりも前記軸受面側に位置し
ており、
前記環状凹部は、前記交線より前記裏面側に位置しており、
前記内周面は、
傾斜方向に平坦な第1内周傾斜面と、
前記第1内周傾斜面より径方向外方側に位置し、前記第1内周傾斜面よりも傾斜角の小さい、傾斜方向に平坦な第2内周傾斜面と、を有し、
前記外周面は、
傾斜方向に平坦な第1外周傾斜面と、
前記第1外周傾斜面より径方向内方側に位置し、前記第1外周傾斜面よりも傾斜角の小さい、傾斜方向に平坦な第2外周傾斜面と、を有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
請求項
1に記載の滑り軸受であって、
前記センタープレートの前記裏面は、平坦面である
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の滑り軸受であって、
前記センタープレートは、
前記裏面の内縁部および外縁部に形成されたテーパをさらに有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項4】
請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の滑り軸受であって、
前記軸受面は、
前記裏面から
当該軸受面の内周側までの距離が、
前記裏面から
当該軸受面の外周側までの距離より大きい
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の滑り軸受であって、
前記センタープレートは、弾性体で形成されている
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項6】
請求項1ないし
5のいずれか一項に記載の滑り軸受であって
前記アッパーケースと前記ロワーケースとの隙間を外部から遮断するシール材をさらに備える
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項7】
請求項1ないし
6のいずれか一項に記載の滑り軸受であって、
前記滑り軸受は、軸部材の回動を許容しつつ、当該軸部材に加わる荷重を支持し、
前記アッパーケースは、前記軸部材が挿入された状態で前記軸部材の支持対象に取り付けられ、
前記ロワーケースは、前記軸部材が挿入された状態で前記アッパーケースに回動自在に組み合わされ、
前記センタープレートおよび前記摺動シートは、前記軸部材が挿入された状態で、前記アッパーケースと前記ロワーケースとの間に配される
ことを特徴とする滑り軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重を支持する滑り軸受に関し、特に、車両のサスペンション等の軸部材に加わる荷重を支持する滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前輪に用いられるストラット式サスペンションは、ピストンロッド、ショックアブソーバ、およびコイルスプリングを組み合わせた構造を有しており、ステアリング操作によってショックアブソーバがコイルスプリングとともに回動する。このため、ショックアブソーバおよびコイルスプリングの円滑な回動を許容しつつ、ストラット式サスペンションに加わる荷重を支持するべく、通常、ストラット式サスペンションの車体への取付機構であるアッパーマウントとコイルスプリングの上端部を支持するばね座であるアッパースプリングシートとの間に、軸受が配置されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ストラット式サスペンション用の滑り軸受が開示されている。この滑り軸受は、アッパーマウント側に取り付けられるアッパーケースと、アッパースプリングシート側に取り付けられ、アッパーケースに回動自在に組み合わされるロワーケースと、アッパーケースおよびロワーケースを組み合わせることにより形成される環状空間に配置された環状のセンタープレートおよび環状の摺動シートと、を備えている。
【0004】
ここで、アッパーケースは、ロワーケースと組み合わされることにより形成される環状空間の上面を構成する環状の荷重伝達面を有する。センタープレートは、摺動シートを介してアッパーケースの荷重伝達面から伝達された荷重を支持する環状の軸受面を有する。この軸受面には、円周方向に沿って環状溝が形成されており、この環状溝に潤滑剤が充填される。摺動シートは、アッパーケースの荷重伝達面とセンタープレートの軸受面との間に配置され、センタープレートの軸受面と摺動自在に接触する摺動面を有する。
【0005】
上記構成の滑り軸受は、ストラット式サスペンションに加わる荷重を、アッパーケースの荷重伝達面および摺動シートを介して、センタープレートの軸受面により支持する。また、センタープレートの軸受面の環状溝に充填された潤滑剤によりこの軸受面が潤滑され、これにより、ショックアブソーバおよびコイルスプリングの円滑な回動を許容する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ストラット式サスペンションに加わる荷重は、車両の走行状態等によって、その方向が変動する。特許文献1に記載の滑り軸受では、ストラット式サスペンションに加わる荷重の方向変化により摺動シートおよびセンタープレートに偏荷重が加わって、摺動シートの摺動面とセンタープレートの軸受面とが片当たりすることがある。この場合、摺動シートの摺動面とセンタープレートの軸受面との間に隙間ができて、この隙間から潤滑剤が押し出されてしまう。長年の使用により、このような状態が繰り返されると、センタープレートの軸受面の環状溝に充填された潤滑剤が減少して、軸受面を十分に潤滑できなくなる。その結果、アッパーケースおよびロワーケースを相対的に回転させるために必要なトルクが初期状態から増大して、ステアリング操作のフィーリングが変化してしまう。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期に亘り、摺動性能を維持することができる滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の滑り軸受では、摺動シートと対面するセンタープレートの軸受面に設けられ、開口部および溝底部を備えた環状溝を、開口部側から溝底部側へ向けて径方向外方に傾斜する内周面と、開口部側から溝底部側へ向けて径方向内方に傾斜する外周面と、を有し、内周面と外周面との交線が、センタープレートの軸受面と反対側の面である裏面よりも軸受面側に位置する構成とした。
【0010】
例えば、本発明は、
荷重を支持する滑り軸受であって、
アッパーケースと、
前記アッパーケースと組み合わされるロワーケースと、
前記アッパーケースと前記ロワーケースとの間に配された環状のセンタープレートと、
前記センタープレートと前記アッパーケースあるいは前記ロワーケースとの間に配された環状の摺動シートと、を備え、
前記センタープレートは、
前記摺動シートと摺動する軸受面と、
前記軸受面の反対側に位置する裏面と、
前記軸受面に形成された環状溝と、を有し、
前記環状溝は、
当該環状溝の溝底に配置された環状凹部と、
前記軸受面の内周側から前記環状凹部の内周縁へ向けて径方向外方に傾斜する内周面と、
前記軸受面の外周側から前記環状凹部の外周縁へ向けて径方向内方に傾斜する外周面と、を有し、
前記内周面と前記外周面との交線が、前記センタープレートの前記裏面よりも前記軸受面側に位置しており、
前記環状凹部は、前記交線より前記裏面側に位置しており、
前記内周面は、
傾斜方向に平坦な第1内周傾斜面と、
前記第1内周傾斜面より径方向外方側に位置し、前記第1内周傾斜面よりも傾斜角の小さい、傾斜方向に平坦な第2内周傾斜面と、を有し、
前記外周面は、
傾斜方向に平坦な第1外周傾斜面と、
前記第1外周傾斜面より径方向内方側に位置し、前記第1外周傾斜面よりも傾斜角の小さい、傾斜方向に平坦な第2外周傾斜面と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、滑り軸受に荷重が加わってセンタープレートが摺動シートに押圧されると、センタープレートの軸受面に形成された環状溝は、内周面が径方向内方に撓んで摺動シートと接触し、外周面が径方向外方に撓んで摺動シートと接触する。また、内周面と外周面との交線がセンタープレートの裏面よりも軸受面側に位置しているので、環状溝の内周面および外周面は軸に垂直な面に対してなだらかに傾斜し、軸方向の荷重に対して、内周面は径方向内方に撓み易く、外周面は径方向外方に撓み易い。このため、センタープレートが摺動シートに押圧されることにより、センタープレートと摺動シートとの接触面積が大きくなり、環状溝に充填された潤滑剤の封止性が向上するので、摺動シートおよびセンタープレートに偏荷重が加わった場合でも、軸受面上の潤滑剤が外部へ押し出されるのを防止して、環状溝に充填された潤滑剤が減少するのを抑制することができる。したがって、長期に亘り、摺動性能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(A)、
図1(B)および
図1(C)は、本発明の一実施の形態に係る滑り軸受1の平面図、底面図および正面図であり、
図1(D)は、
図1(A)に示す滑り軸受1のA-A断面図である。
【
図2】
図2は、
図1(D)に示す滑り軸受1のB部拡大図である。
【
図3】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、アッパーケース2の平面図、底面図および正面図であり、
図3(D)は、
図3(A)に示すアッパーケース2のC-C断面図である。
【
図4】
図4(A)、
図4(B)および
図4(C)は、ロワーケース3の平面図、底面図および正面図であり、
図4(D)は、
図4(A)に示すロワーケース3のD-D断面図である。
【
図5】
図5(A)は、センタープレート4の平面図であり、
図5(B)は、
図5(A)に示すセンタープレート4のE-E断面図であり、
図5(C)は、
図5(B)に示すセンタープレート4のF部拡大図である。
【
図6】
図6(A)は、摺動シート5の平面図であり、
図6(B)は、
図6(A)に示す摺動シート5のG-G断面図である。
【
図7】
図7(A)および
図7(B)は、ダストシール6の平面図および底面図であり、
図7(C)は、
図7(A)に示すダストシール6のH-H断面図であり、
図7(D)は、
図7(C)に示すダストシール6のI部拡大図である。
【
図8】
図8は、センタープレート4の変形例4aを説明するための
図5(C)に相当する図(
図5(B)のF部拡大図)である。
【
図9】
図9は、センタープレート4の変形例4bを説明するための
図5(C)に相当する図(
図5(B)のF部拡大図)である。
【
図10】
図10は、滑り軸受1の変形例を説明するための
図2に相当する図(
図1(D)のB部拡大図)である。
【
図11】
図11は、滑り軸受1の変形例を説明するための
図2に相当する図(
図1(D)のB部拡大図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
【0014】
図1(A)、
図1(B)および
図1(C)は、本発明の一実施の形態に係る滑り軸受1の平面図、底面図および正面図であり、
図1(D)は、
図1(A)に示す滑り軸受1のA-A断面図である。また、
図2は、
図1(D)に示す滑り軸受1のB部拡大図である。
【0015】
本実施の形態に係る滑り軸受1は、車両のサスペンション(例えばストラット式サスペンション)のショックアブソーバ(不図示)を収容するための収容孔10を備え、この収容孔10に収容されたショックアブソーバの回動を許容しつつ、サスペンションに加わる車体の荷重を支持する。
【0016】
図示するように、滑り軸受1は、アッパーケース2と、アッパーケース2と回動自在に組み合わされて、アッパーケース2との間に環状空間7を形成するロワーケース3と、この環状空間7に配置された環状のセンタープレート4および環状の摺動シート5と、この環状空間7へのダストの侵入を防止するダストシール6と、図示していないが、センタープレート4に保持された潤滑グリース等の潤滑剤と、を備えている。
【0017】
アッパーケース2は、必要に応じて潤滑油が含浸されたポリアセタール樹脂等の摺動特性に優れた熱可塑性プラスチックで形成され、サスペンションのショックアブソーバが挿入された状態で、サスペンションの車体への取付機構であるアッパーマウント(不図示)に取り付けられる。
【0018】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、アッパーケース2の平面図、底面図および正面図であり、
図3(D)は、
図3(A)に示すアッパーケース2のC-C断面図である。
【0019】
図示するように、アッパーケース2は、ショックアブソーバを挿入するための挿入孔20を備えた環状のアッパーケース本体21と、アッパーケース本体21の上面22に形成され、滑り軸受1をアッパーマウントに取り付けるための取付面23と、アッパーケース本体21の下面24に形成され、ロワーケース3と回動自在に組み合わされることにより環状空間7を形成する環状凹部25と、を備えている。
【0020】
環状凹部25の底面26には、環状空間7の上面を構成する荷重伝達面27が形成されている。荷重伝達面27は、サスペンションに加わる車体の荷重を摺動シート5およびセンタープレート4に伝達する。
【0021】
ロワーケース3は、ポリアミド樹脂等の熱可塑性プラスチックで成形され、サスペンションのショックアブソーバが挿入された状態でサスペンションのコイルスプリング(不図示)の上端部を支持するアッパースプリングシート(不図示)に取り付けられる。
【0022】
図4(A)、
図4(B)および
図4(C)は、ロワーケース3の平面図、底面図および正面図であり、
図4(D)は、
図4(A)に示すロワーケース3のD-D断面図である。
【0023】
図示するように、ロワーケース3は、ショックアブソーバを挿入するための挿入孔30を備えた筒状のロワーケース本体31と、ロワーケース本体31の上端部35側に形成され、ロワーケース本体31の外周面36から径方向外方へ張り出したフランジ部32と、フランジ部32の上面33に形成され、ロワーケース3がアッパーケース2と回動自在に組み合わされた場合に、アッパーケース2のアッパーケース本体21の下面24に形成された環状凹部25に収容されて環状空間7を形成する環状凹部34と、を備えている。フランジ部32の下面37には、アッパースプリングシートが取り付けられる。
【0024】
センタープレート4は、摺動特性に優れた弾性体で形成される。このような弾性体として、例えば、必要に応じてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、潤滑油、シリコーン等の潤滑剤が添加されたポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等がある。センタープレート4は、ロワーケース3のフランジ部32の上面33に形成された環状凹部34内に配置され、この環状凹部34とともに環状空間7を構成するアッパーケース2の環状凹部25の荷重伝達面27、および摺動シート5を介して、サスペンションに加わる車体の荷重を支持する(
図2参照)。
【0025】
図5(A)は、センタープレート4の平面図であり、
図5(B)は、
図5(A)に示すセンタープレート4のE-E断面図であり、
図5(C)は、
図5(B)に示すセンタープレート4のF部拡大図である。
【0026】
図示するように、センタープレート4は、環状体であり、アッパーケース2の環状凹部25の底面26に形成された荷重伝達面27および摺動シート5を介して加わる荷重を支持する軸受面40と、軸受面40と反対側に位置する面である裏面41と、軸受面40に形成され、潤滑グリース等の潤滑剤を保持するための環状溝42と、を有する。
【0027】
環状溝42は、開口側から溝底側へ向けて径方向外方に傾斜する内周面43aと、開口側から溝底側へ向けて径方向内方に傾斜する外周面43bと、内周面43aと外周面43bとの交線P部分に形成された環状凹部44と、を有する。
【0028】
内周面43aは、径方向内方側に位置する第1内周傾斜面431aと、第1内周傾斜面431aより径方向外方側に位置し、第1内周傾斜面431aよりなだらかに傾斜する第2内周傾斜面432aと、を有する。また、外周面43bは、径方向外方側に位置する第1外周傾斜面431bと、第1外周傾斜面431bより径方向内方側に位置し、第1外周傾斜面431bよりなだらかに傾斜する第2外周傾斜面432bと、を有する。
【0029】
ここで、内周面43aの第2内周傾斜面432aと外周面43bの第2外周傾斜面432bとの交線Pは、裏面41よりも軸受面40側に位置している。また、内周面43aの第2内周傾斜面432aは、環状凹部44の内縁部46aと連結し、外周面43bの第2外周傾斜面432bは、環状凹部44の外縁部46bと連結している。また、内周面43aの第1内周傾斜面431aの開口側端部45aにおける厚み(裏面41から開口側端部45aまでの距離)S1は、外周面43bの第1外周傾斜面431bの開口側端部45bにおける厚み(裏面41から開口側端部45bまでの距離)S2よりも大きい。
【0030】
上述のS1、S2に加え、
図5(C)に示すように、環状凹部44における厚み(裏面41から環状凹部44までの距離)をS3、開口側端部45a、45bそれぞれの平坦部分の径方向の幅をW1、W2、第1内周傾斜面431aの径方向の幅をW3、第1外周傾斜面431bの径方向の幅をW4、軸受面40の径方向の幅をW5、環状凹部44の径方向の幅をW6、第1内周傾斜面431aの裏面41とのなす角をθ1、第1外周傾斜面431bの裏面41とのなす角をθ2、第2内周傾斜面432aの裏面41とのなす角をθ3、第2外周傾斜面432bの裏面41とのなす角をθ4、そして、環状凹部44の側壁の裏面41とのなす角をθ5とした場合、センタープレート4の各部S1~S3、W1~W6、θ1~θ5の寸法は、例えば次の表1のように設定される。
【0031】
【0032】
裏面41は、平坦面であり、環状凹部34の溝底38と対面して接触する。
【0033】
摺動シート5は、PTFE、TFE(テトラフルオロエチレン)に他原料(コモノマー)を微量共重合させた変性PTFE等のフッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の摺動特性に優れた熱可塑性プラスチックで形成され、必要に応じてPTFE(ただし、熱可塑性プラスチックがPTFE、変性PTFEの場合を除く)、潤滑油、シリコーン、黒鉛等の潤滑剤、および/またはアラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の補強材が添加される。あるいは、黄銅合金等の摺動特性に優れた金属で形成される。また、摺動シート5は、環状空間7において、センタープレート4の軸受面40とアッパーケース2の荷重伝達面27との間に配置されている。
【0034】
図6(A)は、摺動シート5の平面図であり、
図6(B)は、
図6(A)に示す摺動シート5のG-G断面図である。
【0035】
図示するように、摺動シート5は、軸O方向の断面形状が平板状に形成された環状体であり、アッパーケース2の環状凹部25の底面26に形成された荷重伝達面27と接触する接触面50と、接触面50の反対側に位置し、センタープレート4の軸受面40と摺接する摺動面51と、を有する。摺動シート5の摺動面51がセンタープレート4の軸受面40と摺接することにより、アッパーケース2およびロワーケース3間の自在な回動が可能となる。
【0036】
ダストシール6は、ウレタン樹脂等の弾性体で形成されており、
図2に示すように、ロワーケース3のロワーケース本体31のフランジ部32に装着されて、環状空間7に繋がるアッパーケース2およびロワーケース3の隙間を塞ぐ。
【0037】
図7(A)および
図7(B)は、ダストシール6の平面図および底面図であり、
図7(C)は、
図7(A)に示すダストシール6のH-H断面図であり、
図7(D)は、
図7(C)に示すダストシール6のI部拡大図である。
【0038】
図示するように、ダストシール6は、ロワーケース3のロワーケース本体31のフランジ部32に装着される筒状のダストシール本体60と、ダストシール本体60の外周面61から径方向外方に延びる環状のリップ部62と、を有する。リップ部62は、ダストシール本体60がロワーケース3のロワーケース本体31のフランジ部32に装着された状態において、アッパーケース2の環状凹部25の外周側内壁28と当接する。これにより、環状空間7に繋がるアッパーケース2およびロワーケース3の隙間を塞いで、この環状空間7へのダストの侵入を防止する(
図2参照)。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について説明した。
【0040】
本実施の形態において、センタープレート4は、アッパーケース2の環状凹部25とともに環状空間7を構成するロワーケース3の環状凹部34内に配置され、アッパーケース2の環状凹部25の荷重伝達面27および摺動シート5を介して加わる荷重を支持する軸受面40を有している。また、摺動シート5は、環状空間7において、センタープレート4の軸受面40とアッパーケース2の荷重伝達面27との間に配置され、センタープレート4の軸受面40と摺接する摺動面51を有している。そして、アッパーケース2およびロワーケース3は、センタープレート4および摺動シート5を介在させることにより、互いに回動自在に組み合わされる。これにより、滑り軸受1は、収容孔10に挿入されたサスペンションのショックアブソーバの回動を許容しつつ、サスペンションに加わる車体の荷重を支持することができる。
【0041】
また、本実施の形態において、センタープレート4の軸受面40には、潤滑グリース等の潤滑剤を保持するための環状溝42が形成されており、この環状溝42は、開口側から溝底側へ向けて径方向外方に傾斜する内周面43aと、開口側から溝底側へ向けて径方向内方に傾斜する外周面43bと、を有している。このため、滑り軸受1に荷重が加わってセンタープレート4が摺動シート5に押圧されると、センタープレート4の軸受面40に形成された環状溝42は、内周面43aが径方向内方に撓んで摺動シート5の摺動面51と接触し、外周面43bが径方向外方に撓んで摺動シート5の摺動面51と接触する。また、内周面43aと外周面43bとの交線Pは、裏面41よりも軸受面40側に位置しているので、内周面43aおよび外周面43bは、軸Oに垂直な面に対してなだらかに傾斜し、軸O方向の荷重(スラスト方向の荷重)に対して、内周面43aは径方向内方に撓み易く、外周面43bは径方向外方に撓み易い。これにより、センタープレート4が摺動シート5に押圧されることにより、センタープレート4と摺動シート5との接触面積が大きくなり、環状溝42に充填された潤滑剤の封止性が向上するので、センタープレート4および摺動シート5に偏荷重が加わった場合でも、軸受面40上の潤滑剤が外部へ押し出されるのを防止して、環状溝42に充填された潤滑剤が減少するのを抑制することができる。したがって、長期に亘り、摺動性能を維持することができる。
【0042】
また、本実施の形態において、センタープレート4の軸受面40の環状溝42の内周面43aは、径方向内方側に位置する第1内周傾斜面431aと、第1内周傾斜面431aより径方向外方側に位置し、第1内周傾斜面431aよりなだらかに傾斜する第2内周傾斜面432aと、を有し、外周面43bは、径方向外方側に位置する第1外周傾斜面431bと、第1外周傾斜面431bより径方向内方側に位置し、第1外周傾斜面431bよりなだらかに傾斜する第2外周傾斜面432bと、を有する。このため、滑り軸受1に荷重が加わってセンタープレート4が摺動シート5に押圧された場合に、内周面43aを径方向内方に撓み易くして摺動シート5の摺動面51との接触面を平坦に近づけるとともに、外周面43bを径方向外方に撓み易くして摺動シート5の摺動面51との接触面を平坦に近づけることができ、これにより、局所荷重を軽減することができる。また、環状溝42の容量を大きくして潤滑剤の保持量を増やすことができる。したがって、より長期に亘り、摺動性能を維持することができる。
【0043】
また、本実施の形態において、センタープレート4の裏面41を平坦面としている。このため、滑り軸受1に荷重が加わってセンタープレート4が摺動シート5に押圧された場合に、センタープレート4の裏面41側よりも軸受面40側でより多く変形し、センタープレート4と摺動シート5との接触面積が大きくなる。これにより、環状溝42に充填された潤滑剤の封止性がさらに向上し、したがって、より長期に亘り、摺動性能を維持することができる。
【0044】
また、本実施の形態において、センタープレート4の軸受面40に形成された環状溝42は、内周面43aと外周面43bとの交線P部分に形成され、内縁部46aが内周面43aと連結し、外縁部46bが外周面43bと連結する環状凹部44を有している。この環状凹部44により、軸O方向の荷重に対して、内周面43aは径方向内方にさらに撓み易くなり、外周面43bは径方向外方にさらに撓み易くなり、環状溝42に充填された潤滑剤の封止性がさらに向上する。したがって、より長期に亘り、摺動性能を維持することができる。
【0045】
また、本実施の形態において、センタープレート4の軸受面40に形成された環状溝42は、内周面43aの開口側端部45aにおける厚みS1を、外周面43bの開口側端部45bの厚みS2より大きくしている。一般に、アッパースプリングシートは、一方の端部にフランジが形成された筒状部材であり、ロワーケース3のロワーケース本体31に装着されることにより、フランジがロワーケース3のフランジ部32の下面37に取り付けられる。また、コイルスプリングは、アッパースプリングシートの筒状部分との不要な接触を避けるため、アッパースプリングシートの筒状部分の外径に対して大きめに設計される。このため、コイルスプリングの上端部とアッパースプリングシートのフランジとの当接位置がセンタープレート4の外周側となるので、センタープレート4の外周側、すなわち、センタープレート4の軸受面40に形成された環状溝42において、内周面43aの開口側端部45aよりも外周面43bの開口側端部45bに、コイルスプリングの反力がより多く伝わる。しかし、上述したように、環状溝42の内周面43aの開口側端部45aにおける厚みS1を外周面43bの開口側端部45bの厚みS2より大きくしているので、内周面43aの開口側端部45aの厚みS1と外周面43bの開口側端部45bの厚みS2とが同じ場合に比べて、内周面43aの開口側端部45aでより多く圧縮し、すなわち、外周面43bの開口側端部45bと同様に十分な圧縮量が得られ、これにより、軸受面40に加わる荷重をより均一に分散させることができる。したがって、環状溝42に充填された潤滑剤の封止性がさらに向上し、より長期に亘り、摺動性能を維持することができる。
【0046】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形は可能である。
【0047】
例えば、
図8に示すセンタープレート4の変形例4aのように、裏面41の内縁部および外縁部にそれぞれテーパ47a、47bを形成してもよい。このようにすることで、軸O方向の荷重に対して、軸受面40に形成された環状溝42の内周面43aは径方向内方にさらに撓み易くなり、外周面43bは径方向外方にさらに撓み易くなり、環状溝42に充填された潤滑剤の封止性がさらに向上する。したがって、より長期に亘り、摺動性能を維持することができる。なお、裏面41の内縁部および外縁部のテーパ47a、47bを、センタープレート4の変形例4aの軸受面40に荷重が加わった際に、ロワーケース本体31の環状凹部34の溝底38に接触させるようにしてもよい。
【0048】
また、
図9に示すセンタープレート4の変形例4bのように、裏面41にも、軸受面40と同様に、開口側から軸受面側へ向けて径方向外方に傾斜する内周面43cと、開口側から軸受面側へ向けて径方向内方に傾斜する外周面43dと、内周面43cおよび外周面43dを連結する環状凹部44aと、を有する環状溝42aを設けてもよい。このようにすることで、裏面41側にも潤滑グリース等の潤滑剤を保持させることが可能となり、摺動性能をさらに向上させることができる。
【0049】
また、上記の実施の形態では、
図2に示すように、センタープレート4に形成された軸受面40によりスラスト方向(軸O方向)の荷重を支持しているが、
図10に示すセンタープレート4の変形例4cのように、アッパーケース2の環状凹部25の内周側内壁29と摺接する軸受面49が内周面に形成された円筒状のボス48を、裏面41の内縁部に一体的に形成してもよい。そして、このボス48をアッパーケース2の環状凹部25の内周側内壁29とロワーケース3のロワーケース本体31の内周面39との間に配置して、軸受面40によるスラスト方向の荷重の支持に加えて、軸受面49によりラジアル方向(軸Oに垂直な方向)の荷重を支持してもよい。なお、ボス48の外径R1は、センタープレート4cの内径R2より小さくてもよい。あるいは、
図11に示すように、アッパーケース2の環状凹部25の内周側内壁29と摺接する軸受面80が内周面に形成されたブッシュ8を、アッパーケース2の環状凹部25の内周側内壁29とロワーケース3のロワーケース本体31の内周面39との間に配置して、センタープレート4によるスラスト方向の荷重の支持に加えて、ブッシュ8によりラジアル方向の荷重を支持してもよい。
【0050】
また、上記の実施の形態では、
図2に示すように、軸受面40を上方に向けてセンタープレート4を環状空間7のロワーケース3側に配置し、摺動面51を下方に向けて摺動シート5を環状空間7のアッパーケース2側に配置している。しかし、本発明はこれに限定されない。軸受面40を下方に向けてセンタープレート4を環状空間7のアッパーケース2側に配置し、摺動面51を上方に向けて摺動シート5を環状空間7のロワーケース3側に配置してもよい。
【0051】
本発明は、車両のサスペンションを含む様々な機構において、荷重を支持する滑り軸受に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1:滑り軸受、 2:アッパーケース、 3:ロワーケース、 4、4a、4b、4c:センタープレート、 5:摺動シート、 6:ダストシール、 7:環状空間、 8:ブッシュ、 10:滑り軸受1の収容孔、 20:アッパーケース2の挿入孔、 21:アッパーケース本体、 22:アッパーケース本体21の上面、 23:アッパーケース本体21の取付面、 24:アッパーケース本体21の下面、 25:アッパーケース本体21の環状凹部、 26:環状凹部25の底面、 27:アッパーケース2の荷重伝達面、 28:環状凹部25の外周側内壁、 29:環状凹部25の内周側内壁、 30:ロワーケース3の挿入孔、 31:ロワーケース本体、 32:ロワーケース本体31のフランジ部、 33:フランジ部32の上面、 34:ロワーケース本体31の環状凹部、 35:ロワーケース本体31の上端部、 36:ロワーケース本体31の外周面、 37:フランジ部32の下面、 38:環状凹部34の溝底、 39:ロワーケース本体31の内周面、 40:センタープレート4の軸受面、 41:センタープレート4の裏面、 42:軸受面40の環状溝、 42a:裏面41の環状溝、 43a:環状溝42の内周面、 43b:環状溝42の外周面、 43c:環状溝42aの内周面、 43d:環状溝43aの外周面、 44:環状溝42の環状凹部、 44a:環状溝42aの環状凹部、 45a:内周面43aの開口側端部、 45b:外周面43bの開口側端部、 46a:環状凹部44の内縁部、 46b:環状凹部44の外縁部、 47a、47b:裏面41のテーパ、 48:ボス、 49:軸受面、 50:摺動シート5の接触面、 51:摺動シート5の摺動面、 60:ダストシール6のダストシール本体、 61:ダストシール本体60の外周面、 62:ダストシール6のリップ部、 80:軸受面、 431a:第1内周傾斜面、 431b:第1外周傾斜面、 432a:第2内周傾斜面、 432b:第2外周傾斜面