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特許7177078埋め込み式サーミスタを有するカテーテルマウント式心臓内血液ポンプにより心臓支持を持続しながら自己心拍出量を決定するためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】埋め込み式サーミスタを有するカテーテルマウント式心臓内血液ポンプにより心臓支持を持続しながら自己心拍出量を決定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/029 20060101AFI20221115BHJP
   A61M 60/139 20210101ALI20221115BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20221115BHJP
   A61B 5/028 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
A61B5/029
A61M60/139
A61B5/01 250
A61B5/028
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019552617
(86)(22)【出願日】2018-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 US2018023539
(87)【国際公開番号】W WO2018175563
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】62/474,278
(32)【優先日】2017-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】513321467
【氏名又は名称】アイカーン スクール オブ メディシン アット マウント サイナイ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カーラン ジェラルド ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】石川 清猛
(72)【発明者】
【氏名】ハヤール ロジャー ジェイ.
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/001440(WO,A1)
【文献】特表2005-517502(JP,A)
【文献】特表2000-512191(JP,A)
【文献】特開昭63-216540(JP,A)
【文献】特開2007-283109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/028-5/029
A61B 5/01
A61M 60/00-60/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位開口部と遠位開口部とを有するカニューレ、該近位開口部と該遠位開口部の間に配され、かつ患者の大動脈内に配置されるよう構成された表
を有する、心臓内血液ポンプ;
電気駆動式モーターおよび該心臓内血液ポンプが該患者の大動脈内に配置されたときに該心臓内血液ポンプに該カニューレを通して血液をポンピングさせるべく該モーターに電流を供給するよう構成された電線;
近位端領域と、該カニューレに接続された遠位端領域とを有する、カテーテル
該心臓内血液ポンプが該患者の大動脈内に配置されたときに心臓の上行大動脈内を流れる血液の血液温度を検出するよう構成されたサーミスタ
該心臓内血液ポンプの稼働中にモーター電流の変化を検出するよう構成された第一のセンサー;
該心臓内血液ポンプが該患者の大動脈内に配置されたときに上行大動脈内の血圧を検出するよう構成された第二のセンサー;ならびに
該モーター電流の変化を示す第一の信号を該第一のセンサーから受け取り、上行大動脈内の血圧を示す第二の信号を該第二のセンサーから受け取り、かつ、心臓の上行大動脈を流れる血液の温度を示す第三の信号を該サーミスタから受け取り、
該第一の信号および該第二の信号に基づいてポンプ出力流量を算出し、
該第三の信号に基づいて全心拍出量を算出し、かつ
該ポンプ出力流量および該全心拍出量に基づいて、該心臓内血液ポンプの稼働中に拍動中の心臓の自己心拍出量(native cardiac output)を算出する
よう構成されたプロセッサ
を備える、拍動中の心臓の機能を測定するためのシステム。
【請求項2】
前記第三の信号が、心臓内に流入する血液の温度の変化を示し、該変化が前記心臓内血液ポンプよりも上流の位置において前記患者の脈管構造内に導入された流体のボーラスによって引き起こされ、該導入された流体のボーラスは生理学的な血液温度と異なる初期温度にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第三の信号が、前記カニューレの前記近位開口部の近くを流れるかまたはこれを通って流れる血液の温度の変化を示す、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記第三の信号の変化を時間の関数として検出することによって前記全心拍出量を決定するよう構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記自己心拍出量が、前記全心拍出量から前記ポンプ出力流量を減算することによって算出される、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記サーミスタが前記カテーテルの前記遠位端領域上に配される、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムが、前記カニューレの前記近位開口部の近くの前記心臓内血液ポンプ上に配された第二のサーミスタをさらに備え、該第二のサーミスタが、該カテーテル近くの血液温度を検出するよう構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサが、全拡張終期容量、胸腔内血液容量、胸腔内熱容量、肺熱容量、心係数、一回拍出量、肺血管外水分量、心拍出力、および心室全体の駆出分画のうちの少なくとも1つを前記第一の信号、前記第二の信号、および前記第三の信号から算出するようさらに構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサが、前記自己心拍出量を画面上に表示するようさらに構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記プロセッサが、前記自己心拍出量を記録および保存するようかつ該自己心拍出量の履歴を時間の関数として表示するようさらに構成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
以下の段階を含む、患者の拍動中の心臓の自己心拍出量を決定するための方法:

上行大動脈内に配置された血管内血液ポンプによって患者の左心室から患者の上行大動脈内へとポンピングされている血液の温度の変化を、サーミスタによって検出する段階であって、該血管内血液ポンプに血液をポンピングさせるために該血管内血液ポンプ内のモーターに電流が供給される、段階
該血管内血液ポンプの稼働中に、該血管内血液ポンプのモーターのモーター電流の変化を、第一のセンサーによって検出する段階;
上行大動脈内の血圧、第二のセンサーによって検出する段階;
プロセッサによって全心拍出量を、検出された該温度変化に基づき算出する段階;
該プロセッサによってポンプ出力流量を、該モーター電流の検出された変化、および検出された該圧力に基づき算出する段階;ならびに
該血管内血液ポンプの稼働中に該自己心拍出量を決定するために、該プロセッサによって該全心拍出量から該ポンプ出力流量を減算する段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその内容全体が本明細書に組み入れられる、2017年3月21日に提出されかつ「サーミスタが埋め込まれた治療カテーテル(THERMISTOR IMBEDDED THERAPEUTIC CATHETER)」という名称の米国特許仮出願第62/474,278号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
心拍出量は、1分間に心臓が循環系を通してポンピングする血液の体積の測定単位である。しかし、機械的な血行力学的支持を受けている患者の場合、心拍出量は、自己心拍出量(native cardiac output)と機械的心拍出量という2つの成分で構成される。自己心拍出量は自己心(native heart)の機能による血流を指し、そして機械的心拍出量は、心臓ポンプ(例えばAbiomed, Inc.によるImpella 2.5ポンプ)などの心臓内機械的デバイスによって提供される、血流における補助を指す。機械的循環支持デバイスによって血行力学的に支持されている患者において、自己心拍出量は、患者の治療および進行を評価するために用いられる。
【0003】
血行力学的支持を必要とする患者において自己心拍出量を測定するには、現在利用可能な技術およびアプローチを用いると、技術的および臨床的な困難がある。そのような技法および技術として、ドップラー超音波、連続波ドップラー、経食道的ドップラー、心エコー、脈圧法、校正脈圧、インピーダンスカルジオグラフィー、心臓コンピュータ断層撮影、シンチグラフィー、磁気共鳴映像法、および熱希釈などがある。
【0004】
現在利用可能な技術には複数の注目すべき問題がある。第一に、利用可能な技術の各々が、全心拍出量を測定できるにすぎず、そして、機械的に支持されている患者から取得された心拍出量の測定において、作動中のポンプを通る連続フローおよび差分フローについて説明できない。したがって、これらの技術で自己心拍出量を直接測定するには、心臓内デバイスが測定に干渉しないよう、機械的支持を一時的に中止または最小化しなければならない。支持の一時中断は、一時中断の間に自己心機能で十分な心拍出量を提供できないのであれば、患者を不要なリスクにさらすことになる。これらの問題は、機械的循環デバイスによって支持されている患者の治療において、これら技術の有用性を限定する。これらの技術には、反復的かつ再現可能な様式で自己心拍出量と全心拍出量とを瞬時に測定するうえで限界がある。
【0005】
他の課題もまた広く存在する。例えば、脈圧法および心エコーは、熱希釈と比較して心拍出量の推定の正確性が低いことが臨床的に公知である。ドップラー心エコーはポンプフローからの干渉を受けやすい。心臓コンピュータ断層撮影およびシンチグラフィーは患者を放射線に曝露し、そして、これらのモダリティを用いると、ポンプの離脱が可能かどうかを判定するために異なるフローで反復的に測定することは実際的でない。加えて、磁気共鳴映像法は機械的支持デバイスと相容れず;そして、右心側における熱希釈は別の中心血管ルートを必要とし、それは血管合併症および感染のリスクを増大させうる。Swan-Ganzカテーテルの留置は、時に困難であり、急性心筋梗塞の患者では不整脈を誘発する可能性があり、かつ、カテーテルが動いたら位置を確認するためにX線が必要となる。
【発明の概要】
【0006】
概要
本開示の方法およびシステムは、現在用いられている方法に関連する上述の難点を解決し、かつ、患者が機械的な血行力学的支持を受けている間に、心機能についてのより正確かつ有用な情報を提供する。さらに、この生理学的情報は、機械的な循環支持が除去された(支持から離脱する)場合に患者がどのように応答するかについて臨床医により多くの洞察を提供でき、これにより、臨床医が患者の応答をより良好に予測することを可能にする。この情報は、現在のところ、クリニックにおいて利用不可能である。
【0007】
本明細書において、全心拍出量、機械的心拍出量、および自己心拍出量のうち1つまたは複数を測定するための方法およびシステムを説明する。例示的なシステムおよび方法は、例えば血液ポンプに関連付けられたカテーテルシース内など、血管内血液ポンプ内に埋め込まれたサーミスタを用いる。血管内血液ポンプで心臓への機械的支持を提供しつづけながら、自己心拍出量の測定が行われてもよい。心臓の状態と条件とに関するリアルタイムの情報を提供するために、自己心拍出量、および自己心拍出量の測定から導出された他の変数が、医師またはポンプオペレーター向けに表示されてもよい。
【0008】
1つの局面において、拍動中の心臓の機能を測定するためのシステムが提供される。システムは、心臓内ポンプ中で使用するための少なくとも1つのサーミスタを含むセンサーシステムを備え、センサーシステムは、患者が血行力学的支持を受けている間に、患者の心拍出量(全心拍出量、自己心拍出量、および機械的心拍出量のうちの1つまたは複数)ならびに任意で他の生理学的パラメータを測定するよう構成される。好適な心臓内血液ポンプの例は、近位開口部と遠位開口部とを有する管状のカニューレ、近位開口部と遠位開口部の間に配され、かつ大動脈内に配置されるよう構成された円筒形表面、電気駆動式モーターおよびカニューレ内に配されたローター、ならびにモーターに電流を供給するよう構成された電線を有する。近位端領域と、カニューレに接続された遠位端領域とを有する、カテーテルが提供されてもよい。再配置用シースもまたカテーテルの周りに配されてもよい。サーミスタが血液ポンプの遠位端領域内またはカテーテル内に配される。サーミスタは、心臓の大動脈内を流れる血液温度を検出するよう構成される。システムはまた、例えば冷流体源を通るなどして、ボーラスを提供するよう構成された流体源も提供する。ボーラスは、生理学的な血液温度と異なる既定の温度(例えば血液温度より低い温度)であり、したがって拍動中の心臓に流入または流出する脈管構造内の血液温度を変えることができる、好適な流体のものであってもよい。
【0009】
複数のセンサーと1つのプロセッサとが用いられる。プロセッサは、センサーから1つまたは複数の信号を受け取り、かつこれを処理する。血液温度センサーに加えて、他のパラメータを測定するために他のセンサーが配備されてもよい。例えば、モーター電流を検出するためにセンサーが用いられてもよく、かつ別のセンサーが心臓内の血圧を検出する。1つの実施形態において、プロセッサは、稼働中にモーター電流の変化を示す第一の信号をモーター電流センサーから受け取るよう構成される。プロセッサはまた、上行大動脈内または大動脈弓近くの圧力を示す第二の信号を血液圧力センサーから受け取り、かつ、上行大動脈内を流れるかまたは心臓から上行大動脈まで流れる血液の温度を示す第三の信号をサーミスタから受け取る。プロセッサは次に、第一の信号および第二の信号に基づいてポンプ出力流量を算出し;第三の信号に基づいて全心拍出量を算出し;かつ、全心拍出量からポンプ出力流量を減算することによって、ポンプ出力流量および全心拍出量に基づいて、拍動中の心臓の自己心拍出量を算出する。次に、全拡張終期容量(GEDV)、胸腔内血液容量(ITBV)、胸腔内熱容量(ITTV)、肺熱容量(PTV)、肺血管外水分量(EVLW)、心係数、心室全体の駆出分画、および一回拍出量を含む、臨床的関連性のある変数を決定するために第三の信号が用いられる。
【0010】
1つの局面において、近位開口部および遠位開口部と、近位開口部と遠位開口部の間に配された円筒形表面とを有する管状のカニューレを有する心臓内血液ポンプを備える、拍動中の心臓の機能を測定するためのシステムが提供される。管状のカニューレは大動脈内に配置されるよう構成される。心臓内血液ポンプはまた、電気駆動式モーターと、血液ポンプ内部(例えばカニューレ内)に配置されたローターと、モーターに電流を供給するよう構成された電線とを含む。いくつかの態様において、モーターにローターがはめ込まれている。任意で、ポンプは、カテーテルを通りそして患者の体外に位置する駆動ユニットまで延在している駆動ケーブルを有する外部モーターによって動力供給されてもよい。
【0011】
前記システムはまた、カテーテルと再配置用シースとを備えてもよい。サーミスタが、心臓に流入または流出する血流中に流体のボーラスを提供するよう構成された流体源とともに、含まれる。モーター電流および血圧の変化を測定するためのセンサーを含む、1つまたは複数の追加的なセンサーと、プロセッサとが用いられる。カテーテルは近位端領域と遠位端領域とを有し、遠位端領域はカニューレに接続される。再配置用シースはカテーテルの周りに配され、かつサーミスタはカテーテルの遠位端領域内に配されて、そこで心臓の大動脈内を流れる血液温度を検出するよう構成される。流体のボーラスは、拍動中の心臓に流入または流出する脈管構造内の血液温度を変化させる。第一のセンサーが稼働中にモーター電流の変化を検出し、かつ第二のセンサーが上行大動脈内の血圧を検出する。プロセッサは、モーター電流の変化を示す第一の信号を第一のセンサーから受け取り、上行大動脈内の血圧を示す第二の信号を第二のセンサーから受け取り、かつ、心臓の上行大動脈内を流れる血液の温度を示す第三の信号をサーミスタから受け取るよう構成される。プロセッサは、第一の信号および第二の信号に基づいてポンプ出力流量を算出し、第三の信号に基づいて全心拍出量を算出し、かつ、ポンプ出力流量および全心拍出量に基づいて拍動中の心臓の自己心拍出量を算出するよう、さらに構成される。
【0012】
いくつかの実施形態において、第三の信号は、流体のボーラスによって引き起こされた、心臓内に流入する血液の温度の変化を示す。いくつかの実施形態において、第三の信号は、カニューレの近位開口部の近くを流れるかまたはこれを通って流れる血液の温度の変化を示す。いくつかの実施形態において、プロセッサは、第三の信号の変化を時間の関数として検出することによって全心拍出量を決定するよう構成される。いくつかの実施形態において、自己心拍出量は、全心拍出量からポンプ出力流量を減算することによって算出される。いくつかの実施形態において、サーミスタはカテーテルの近位端領域内に配される。いくつかの実施形態において、システムは、カテーテル上に配された第二のサーミスタをさらに備え、第二のサーミスタは、カテーテル近くの血液温度を検出するよう構成される。
【0013】
いくつかの実施形態において、プロセッサは、全拡張終期容量、胸腔内血液容量、胸腔内熱容量、肺熱容量、心係数、一回拍出量、肺血管外水分量、心拍出力、および心室全体の駆出分画のうちの少なくとも1つを第一の信号、第二の信号、および第三の信号から算出するようさらに構成される。いくつかの実施形態において、プロセッサは、自己心拍出量を画面上に表示するようさらに構成される。いくつかの実施形態において、プロセッサは、自己心拍出量を記録および保存するよう、かつ、自己心拍出量の履歴を時間の関数として表示するようさらに構成される。
【0014】
別の局面において、換気補助手技中に心臓の自己心拍出量を決定するための方法が提供される。該方法は、カテーテルによって再配置用シースおよび血管内血液ポンプを患者の大動脈内に配置する段階、および、ポンプ内部のモーターに血液を左心室からそして患者の上行大動脈内へとポンピングさせるために血管内血液ポンプをモーター電流で駆動する段階を含む。該方法はまた、左心室から上行大動脈内へとポンピングされている血液の温度の変化を検出する段階;ポンピング中のモーター電流の変化を検出する段階;上行大動脈内の圧力を検出する段階;プロセッサによって全心拍出量を、検出された温度変化に基づき算出する段階;プロセッサによってポンプ出力流量を、モーター電流の検出された変化、および検出された圧力に基づき算出する段階;および、自己心拍出量を決定するために、プロセッサによって全心拍出量からポンプ出力流量を減算する段階も含む。
[本発明1001]
近位開口部と遠位開口部とを有する管状のカニューレ、該近位開口部と該遠位開口部の間に配され、かつ大動脈内に配置されるよう構成された円筒形表面
を有する、心臓内血液ポンプ;
電気駆動式モーター、および該カニューレ内に配されたローター、および該モーターに電流を供給するよう構成された電線;
近位端領域と、該カニューレに接続された遠位端領域とを有する、カテーテル;
該カテーテルの周りに配された再配置用シース;
該カテーテルの該遠位端領域内に配され、心臓の大動脈内を流れる血液温度を検出するよう構成されたサーミスタ;
生理学的な血液温度と異なる初期温度の、流体のボーラス;
稼働中にモーター電流の変化を検出する第一のセンサー;
上行大動脈内の圧力を検出するよう構成された第二のセンサー;ならびに
該モーター電流の変化を示す第一の信号を該第一のセンサーから受け取り、上行大動脈内の圧力を示す第二の信号を該第二のセンサーから受け取り、かつ、心臓の上行大動脈を流れる血液の温度を示す第三の信号を該サーミスタから受け取り、
該第一の信号および該第二の信号に基づいてポンプ出力流量を算出し、
該第三の信号に基づいて全心拍出量を算出し、かつ
該ポンプ出力流量および該全心拍出量に基づいて、拍動中の心臓の自己心拍出量(native cardiac output)を算出する
よう構成されたプロセッサ
を備える、拍動中の心臓の機能を測定するためのシステム。
[本発明1002]
前記第三の信号が、心臓内に流入する血液の温度の変化を示し、該変化が流体のボーラスによって引き起こされる、本発明1001のシステム。
[本発明1003]
前記第三の信号が、前記カニューレの前記近位開口部の近くを流れるかまたはこれを通って流れる血液の温度の変化を示す、本発明1001または1002のシステム。
[本発明1004]
前記プロセッサが、前記第三の信号の変化を時間の関数として検出することによって前記全心拍出量を決定するよう構成されている、本発明1001~1003のいずれかのシステム。
[本発明1005]
前記自己心拍出量が、前記全心拍出量から前記ポンプ出力流量を減算することによって算出される、本発明1004のシステム。
[本発明1006]
前記サーミスタが前記カテーテルの前記近位端領域内に配される、本発明1001~1005のいずれかのシステム。
[本発明1007]
前記システムが、前記カテーテル上に配された第二のサーミスタをさらに備え、該第二のサーミスタが、該カテーテル近くの血液温度を検出するよう構成されている、本発明1001~1006のいずれかのシステム。
[本発明1008]
前記プロセッサが、全拡張終期容量、胸腔内血液容量、胸腔内熱容量、肺熱容量、心係数、一回拍出量、肺血管外水分量、心拍出力、および心室全体の駆出分画のうちの少なくとも1つを前記第一の信号、前記第二の信号、および前記第三の信号から算出するようさらに構成されている、本発明1001~1007のいずれかのシステム。
[本発明1009]
前記プロセッサが、前記自己心拍出量を画面上に表示するようさらに構成されている、本発明1001~1008のいずれかのシステム。
[本発明1010]
前記プロセッサが、前記自己心拍出量を記録および保存するようかつ該自己心拍出量の履歴を時間の関数として表示するようさらに構成されている、本発明1001~1009のいずれかのシステム。
[本発明1011]
以下の段階を含む、換気補助手技中に心臓の自己心拍出量を決定するための方法:
カテーテルおよび再配置用シースによって血管内血液ポンプを患者の大動脈内に配置し、かつ、該ポンプ内部のモーターに血液を左心室からそして該患者の上行大動脈内へとポンピングさせるために該血管内血液ポンプをモーター電流で駆動する段階;
左心室から上行大動脈内へとポンピングされている血液の温度の変化を検出する段階;
ポンピング中のモーター電流の変化を検出する段階;
上行大動脈内の圧力を検出する段階;
プロセッサによって全心拍出量を、検出された該温度変化に基づき算出する段階;
該プロセッサによってポンプ出力流量を、該モーター電流の検出された変化、および検出された該圧力に基づき算出する段階;ならびに
該自己心拍出量を決定するために、該プロセッサによって該全心拍出量から該ポンプ出力流量を減算する段階。
【図面の簡単な説明】
【0015】
以上および他の目的と利点とは、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて検討することによって明らかになるであろう。添付の図面を通して、同様の参照符号は同様の部品を参照する。
図1図1Aは、1つの態様に基づく、拍動中の心臓の全心拍出量を測定するための標準的な熱希釈法を示した図である。図1Bは、動脈内の血液の温度変動ΔTを示す曲線を示した図である。
図2】1つの態様に基づく、拍動中の心臓の全心拍出量を測定するための経肺熱希釈法を示した図である。
図3】1つの態様に基づく、拍動中の心臓内に心臓ポンプが置かれた状態で用いた熱希釈法によって生成された信号を用いて、拍動中の心臓の自己心拍出量を決定する方法の、ブロック図である。
図4】1つの態様に基づく経皮ポンプの斜視図である。
図5】1つの態様に基づく、製造中にデュアル管腔シース内に挿入された経皮ポンプとサーミスタとを備える経肺熱希釈(TPTD)アセンブリの斜視図である。
図6】1つの態様に基づく、心臓が拍動中である患者の上行大動脈内における、図5のTPTDアセンブリの留置を示した図である。
図7】自己心拍出量および他の変数を表示している例示的コントローラを示した図である。
図8】1つの態様に基づく、図5のセットアップを用いて自己心拍出量を決定するための方法を示した図である。
図9】Impella熱希釈カテーテルによって測定された心拍出量を、参照心拍出量測定と比較して示した図である。
図10】順次的実験において観察された、Impellaサーミスタシステムの百分率誤差を示した図である。
図11図11Aおよび11Bは、心拍出量が低い間にImpellaサーミスタシステムを用いて得られた結果を示した図である。
図12図12Aおよび12Bは、心拍出量が高い間にImpellaサーミスタシステムを用いて得られた結果を示した図である。
図13】Impellaカテーテル内に置かれたサーミスタと、Impellaポンプのコンポーネント部品に対する相対位置とを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
以下に、例えば機械的支持デバイスに関連付けられたカテーテルシース内など、血管内血液ポンプ内に埋め込まれたサーミスタを用いて、全心拍出量、機械的心拍出量、および自己心拍出量を測定するための、本発明の方法およびシステムに関する、様々な概念をより詳しく説明する。これらの算出は、心臓の自己心拍出量の決定を可能にするために、その心臓が拍動している間に同時に行われうる。理解されるべき点として、本開示の諸概念はいかなる特定の様式の実施形態にも限定されず、よって、以上に紹介しかつ以下により詳しく論じる様々な概念は、任意の数の方式において実施されてもよい。実施および用途の例は、例示の目的にのみ提供されるのであり、限定的なものではない。
【0017】
本明細書に説明する方法およびシステムは、熱希釈法に基づいて、血管内血液ポンプのカテーテルシース内に埋め込まれたサーミスタを用いて全心拍出量、機械的心拍出量、および自己心拍出量を測定することを可能にする。自己心拍出量の測定は、心臓に対する最大限の機械的支持を血管内血液ポンプで提供しつづけながら行われてもよい。心臓の状態と条件とに関する情報を提供するために、自己心拍出量、および測定から導出された他の変数が、医師またはポンプオペレーター向けに表示されてもよい。
【0018】
図1Aは、熱源の適用後に患者の血液の温度変化を検出することによって、患者の心拍出量を測定するために用いられる、熱希釈法を示した図である。図には、肺動脈110と、管腔内デバイス120と、温度センサー130と、流体リザーバ140と、流体ボーラス150とが含まれている。この手法において、臨床医は、管腔内デバイス120を用いて患者の肺動脈110へのアクセスを得る。特定の実施形態において、管腔内デバイス120はシリンジである。温度センサー130は、Swan-Ganzカテーテルなどの右心カテーテルを用いて肺動脈110内に挿入される。そうしたカテーテルは、管腔内デバイス120によって用いられる部位とは異なる部位から肺動脈110へのアクセスを得る。温度センサー130は、管腔内デバイス120のアクセス点からの血流の方向において、脈管構造内に配置される。次に、管腔内デバイス120を用いて冷流体ボーラス150が上大静脈110内に導入される。精密量の流体ボーラス150が、シリンジ内に含有された流体リザーバ140から肺動脈110内に導入される。流体ボーラス150は、生理学的な血液温度とは異なる温度であるべきである。いくつかの実施形態において、流体ボーラス150は患者の血液より低い温度である;すなわち流体は冷たい。いくつかの実施形態において、流体ボーラス150は約4℃の温度を有する。いくつかの実施形態において、流体ボーラス150は生理食塩水である。いくつかの実施形態において、流体ボーラス150は、5%グルコース溶液など、生理学的に適合する流体を含む。流体ボーラスが上大静脈または下大静脈内に注入されかつサーミスタが肺動脈内にある、旧来の熱希釈法において、冷流体は右心房および右心室のみを通り抜ける。さらに、旧来の熱希釈法は、患者の右心にアクセスする必要がある。
【0019】
図1Bに、温度センサー130によって検出された、患者の肺動脈110内の血液の温度変動ΔTを示す熱希釈曲線210を表示したプロット200を示す。流体ボーラス150は時刻t_0において導入されて、温度変化はピークに達し、かつ低下および消失しはじめる。これは、注入された冷流体がサーミスタを通って流れるのに要する時間の長さを示す。全心拍出量は、図1Bにおける時刻t_1と時刻t_2との間など、既定の時間220にわたる曲線下面積210を、よく確立されたアルゴリズムおよび数学的手法を用いて算出することによって決定される。平均通過時間(MTt)213およびダウンスロープ時間(DSt)211を含む、追加的な変数が熱希釈曲線から抽出されてもよい。MTt 213は流体ボーラス150の半分がサーミスタを通過するのに要する時間を表し、一方、DSt 211は熱希釈曲線の指数的下り勾配から算出される。MTt 213およびDSt 211は、熱希釈曲線、全心拍出量、および他の測定値と併せて、臨床的関連性のある様々な変数の算出に用いることができる。
【0020】
全心拍出量を決定するために図1Aに示すような旧来の熱希釈法を用いることの1つの欠点は、右心を横断して肺動脈内にサーミスタおよびSwan-Ganzカテーテルを留置する必要があることである(例えば、図1Aにおいて、管腔内デバイス120によって肺動脈110にアクセスし、かつ、異なるアクセス部位からカテーテルを用いて温度センサー130によって肺動脈110にアクセスするなど)。心臓の周りにそうした複数のアクセス部位があることは、血管合併症のリスクも感染のリスクも増大させうる。加えて、肺動脈内へのカテーテルの留置は、時に困難であり、血管傷害および不整脈のリスクを有し、かつ、カテーテルが動くたびにX線を用いて正しい位置にあることを確認する必要がある。
【0021】
図2に、1つの態様に基づく、拍動中の心臓301の全心拍出量を測定するための経肺熱希釈法を示す。この図は、右心房302と、右心室304と、左心房306と、左心室308とを含む心臓301、大動脈309、および大動脈弓310を含む。この図はまた、末梢静脈312と末梢動脈314とを含む、肺循環の諸局面も含む。血液は、左心房306から、左心室308に、大動脈309内に、そして大動脈弓310を超えて全身に流れる。血液は右心房302および右心室304を通って心臓301に戻る。経肺熱希釈法において、冷流体ボーラスはポイント316において末梢静脈312内に注入される。血液は肺循環を通り抜け、そして血液の温度は、ポイント318において大動脈309内に配置されたサーミスタ(図には示していない)によって測定される。冷流体ボーラスを末梢静脈内に注入することにより、流体を注入するための追加的な右心用カテーテルを心臓内に留置する必要がなくなる。流体ボーラスの注入用に末梢静脈を用いることは、Swan-Ganzカテーテルなどの追加的なカテーテルを心臓内に留置することより、患者にもたらすリスクが少ない。いくつかの実施形態において、流体ボーラスは下大静脈内に注入される。いくつかの実施形態において、サーミスタは大動脈弁の近くに配置される。
【0022】
測定された温度変化から全心拍出量が算出される。ポイント318においてサーミスタによって測定された温度は、熱希釈の応答曲線として経時的に記録される。全心拍出量は、図1Bに描写したように、測定された温度の経時的変化を示す曲線下面積に基づいて、記録された温度測定値から算出されてもよい。全心拍出量は、自己心拍出量と、心臓補助デバイスの出力との合計に等しい。熱希釈を用いて自己心拍出量を決定することにより、ポンプ稼働中に自己心拍出量を即時に決定することが可能になる。自己心拍出量は、心臓補助デバイスの使用に関する意思決定において医療専門家を補助するために用いられうる。
【0023】
加えて、時間に対するΔTの曲線下面積の平均通過時間(MTt)とダウンスロープ時間(DSt)とを測定することによって(例えば図1Bを参照)、臨床的関連性のある追加的な変数を算出することも可能になる。サーミスタによって測定されかつ熱希釈曲線として記録される、経時的な温度変動はまた、全拡張終期容量(GEDV)、胸腔内血液容量(ITBV)、胸腔内熱容量(ITTV)、肺熱容量(PTV)、肺血管外水分量(EVLW)、心係数、心室全体の駆出分画、および一回拍出量の算出にも用いられてよい。これらの変数は、心臓の機能および肺鬱血の程度について、治療上の決定の指針となりうる追加的な情報を医師またはオペレーターに提供する可能性がある。
【0024】
PTVは全心拍出量にDStを乗算することによって算出できる。PTVは肺循環中の冷流体体積の分布を表す。ITTVは全心拍出量にMTtを乗算することによって算出される。ITTVは冷流体体積の分布を表す。GEDVは、心臓の4つの部屋全部に含有される血液の体積を表し、心臓前負荷の指標であり、ITTVからPTVを減算することによって算出される。これは、代替的に、GEDV = 全心拍出量×(MTt - DSt) によって表現できる。GEDVは、容積負荷に対する患者の応答を臨床的に評価するために用いることができ、医師が心臓前負荷をより正確に評価することを可能にする。ITBVは、心臓内および肺循環中の血液の体積を表し、心臓の容積状態と心機能とについて臨床医に情報をもたらすために用いられうる。ITBVは、GEDVに1.25を乗算することによって、または代替的に、1.25×CO (全心拍出量)×(MTt - DSt) の乗算を行うことによって、算出できる。EVLWはITBVおよびITTVから算出される。EVLWは胸膜腔内の水分量の容積尺度である。EVLWはITTVからITBVを減算することによって算出される。EVLWは、急性心筋梗塞後の左心室不全に伴うことが多い肺鬱血を測定するために用いられうる。心係数は、式 CI = CO/BSA で算出される、心機能の全体的な尺度であり、式中、CIは心係数、COは心拍出量、BSAは体表面積である。全心拍出量または自己心拍出量のいずれかを用いた心係数の算出から、臨床的関連性のある情報が得られる可能性がある。一回拍出量は、式 SV = CO/HR を用いる左心室機能の指標であり、式中、SVは一回拍出量、COは心拍出量、HRは心拍数である。心拍出力は、等式 CPO = mAoP * CO/451 を用いて算出される、ワットを単位とする心機能の尺度であり、式中、CPOは心拍出力、mAoPは平均大動脈圧、COは心拍出量、451は mmHG×L/分 をワットに変換するために用いられる定数である。等式:
に基づいて、熱希釈測定値から追加的な変数も算出でき、式中、Qは流量;Tbは大腿動脈内の初期温度;Tiは注入された流体の温度;Kは、選択された流体および血液の密度を考慮に入れた、血液および流体の比熱に相当する定数(生理食塩水が用いられる場合、Kは1.1021に等しい);Viは注入された体積、Vdは、流体が体内に注入される際に通るカテーテル内の死腔容積;AUCは、℃・sを単位とする、熱希釈曲線の曲線下面積である。心臓に関する前述の変数のいずれも、サーミスタと経皮ポンプとによって得られた測定値を用いて、すみやかに算出できる。
【0025】
図3に、拍動中の心臓の自己心拍出量を決定するために使用できる経肺熱希釈システムを示したブロック図405を示す。このシステムは、心臓補助デバイスと埋め込み型温度センサーとによって測定された信号を用いる。このシステムは、シース452内に含有されたポンプ400およびサーミスタ424と、第一のセンサー425と、第二のセンサー423と、第一の信号(SIG 1)427と、第二の信号(SIG 2)435と、第三の信号(SIG 3)429と、プロセッサ431と、出力変数(CONAT)433とを備える。ポンプ400およびサーミスタ424は、シース452を通って、心臓および大動脈内のポジションまで送達される。ポンプ400は、第一の信号427をプロセッサ431に出力する第一のセンサー425と、第二の信号435をプロセッサ431に出力する第二のセンサー423とを含む。第一のセンサー425はモーター電流センサーであってもよく、かつ、ポンプモーターによって引き込まれた電流の信号である第一の信号427をプロセッサ431に出力してもよい。第二のセンサー423は、大動脈内の圧力の信号である第二の信号435をプロセッサ431に出力する圧力センサーであってもよい。サーミスタ424はポンプ400の近位端の近くでシース452内に置かれ、そして、ポンプおよびサーミスタを囲む血液の温度変化を測定し、かつ、サーミスタの位置における血液中の温度変化を示す第三の信号429をプロセッサ431に出力する。諸態様において、冷たい生理食塩水のボーラスが脈管構造内に導入されるが、他の流体もまた用いられてもよい。サーミスタ424によって測定される温度変化は、生理食塩水のボーラスが脈管構造内を流れて、心臓に流入または流出する血液の温度を変化させる際に生じる。第一の信号427および第二の信号435はプロセッサ431において収集され、かつポンプ出力流量437を算出するために用いられる。サーミスタ424に由来する第三の信号429は、プロセッサ431において収集され、かつ、心臓が拍動している間または停止していない間に全心拍出量439を算出するために用いられる。例えば自己心拍出量(CONAT)など、心臓が拍動している間の心臓の状態を表す自己心拍出量433を決定するため、全心拍出量439からポンプ出力流量437が減算される。
【0026】
いくつかの実施形態において、ポンプ400は任意の好適な肺補助デバイスである。いくつかの実施形態において、ポンプ400は心臓内血液ポンプである。ポンプ400は、ポンプ400を通して血液を引いて心臓のポンプ機能に支持を提供する、モーターを含む。ポンプ400はカテーテルによって外部コントローラまたはプロセッサ431に接続される。ポンプ400は、シース452を通して、例えば大動脈弁を横切るなど、心臓内の望ましいポジションに送達される。いくつかの実施形態において、第一の信号427は、ポンプ400上の第二のセンサー423における圧力測定と、第一のセンサー425からのモーター電流との両方を含む。いくつかの実施形態において、プロセッサ431は、第一の信号427によって報告されるモーター電流および第二の信号435によって報告される圧力に基づいて、ポンプ出力流量437を決定するために用いられる、ルックアップ表を含む。
【0027】
脈管構造内に注入される流体ボーラスは血液の温度より冷たいので、流体ボーラスは血液の温度を変化させる。サーミスタ424は、ボーラスがサーミスタ424に到達しそしてこれを通過する際に血液温度の変化を検出してもよい。全心拍出量を、図1Bに関して説明したように算出できる。
【0028】
図4に、心臓内での使用中に血液温度を測定するよう構成された経皮ポンプ500の斜視図を示す。経皮ポンプ500は、カニューレ520と、ポンプハウジング521と、カテーテル534と、遠位端540と、近位端541と、遠位突出部528と、流入アパーチャ538と、流出アパーチャ536と、センサー523とを含む。カテーテル534は、経皮ポンプ500の近位端541においてポンプハウジング521に連結される。いくつかの実施形態において、経皮ポンプ500はモーターを含む。そのような場合、カテーテル534は、ポンプモーターを1つまたは複数の電気的なコントローラまたはセンサーに連結する電線を収容してもよい。特定の実施形態において、経皮ポンプ500は、患者の体外に位置する(かつ可撓性のドライブシャフトによってポンプに接続された)モーターを有するポンプによって駆動される。カテーテル534はまた、パージ用流体コンジット、ガイドワイヤコンジット、または他のコンジットなど、他のコンポーネントも収容してもよい。ポンプハウジング521は、カニューレ520内に引かれた血液を経皮ポンプ500の外に放出または排出するよう構成された、1つまたは複数の流出アパーチャ536を含む。いくつかの実施形態において、経皮ポンプ500は、カニューレ520上、ポンプハウジング521上、またはカテーテル534上に配置された、1つまたは複数のセンサーを含む。例えば、心臓内の圧力の変化を感知するため、1つまたは複数の圧力センサー523が経皮ポンプ500上に配置されてもよい。圧力センサー523は、心臓内の圧力測定の指標となる信号をプロセッサ(図には示していない)に送る。圧力測定値は、心臓補助デバイスの出力または経皮ポンプ500によって心臓に提供されている心臓補助を理解するために、モーター電流情報から得られたモーター電流測定値とともにプロセッサによって用いられてもよい。
【0029】
図5に、シース652内に挿入された経皮ポンプ600(例えば図4の経皮ポンプ500または任意の好適な経皮ポンプ)と第一のサーミスタ624とを備える経肺熱希釈(TPTD)アセンブリ603の斜視図を示す。経皮ポンプ600は、カニューレ620と、ポンプハウジング621と、カテーテル634と、遠位端640と、近位端641と、遠位突出部628と、流入アパーチャ638と、流出アパーチャ636と、センサー623とを含む。第一のサーミスタ624は温度感受性ヘッド630を含む。第二のサーミスタ634がカニューレ620上に配置される。経皮ポンプ600および第一のサーミスタ624は、再配置可能なシース652を用いて患者の心臓に送達される。シース652は、経皮ポンプ600を送達できるようサイズ決定された第一の管腔642と、第一のサーミスタ624を送達できるようサイズ決定された第二の管腔644とを含む。いくつかの実施形態において、経皮ポンプ600は、製造中にシース652内にあらかじめ装填されてもよい。図示のように、シース652は、経皮ポンプ600および第一のサーミスタ624を心臓に送達するためのデュアル管腔シースであってもよい。デュアル管腔シースは、参照により本明細書に組み入れられる、同時係属中の米国特許出願第14/827,741号「Dual Lumen Sheath for Arterial Access」に、より詳しく説明されている。
【0030】
第一のサーミスタ624は、経皮ポンプ600の近位端641に近接して配置されるよう、シース652を通って心臓に送達される。このポジションにおいて、第一のサーミスタ624は、脈管構造への追加的なアクセスを必要とせずに置かれるよう、経皮ポンプ600と同じシースを介して脈管構造にアクセスできる。第一のサーミスタ624の温度感受性ヘッド630を経皮ポンプ600の近くに配置することにより、第一のサーミスタ624が、大動脈を通って流れる血液および流出アパーチャ636において経皮ポンプ600から出る血液の温度の変化を検出することが可能になる。第一のサーミスタ624は経皮ポンプ600の近位端641に近接したポジションに描写されているが、第一のサーミスタ624は、大動脈弓内または大腿動脈内を含む、脈管構造内の他所に配置されてもよいことが、当業者には明らかであろう。
【0031】
示すとおり、いくつかの態様において、心臓および大動脈内の2つの位置における温度変化を導出するために、第二のサーミスタ643が経皮ポンプ600に追加されてもよい。いくつかの実施形態において、第二のサーミスタ643が存在することにより、単一の第一のサーミスタ624を有するポンプに比べて、より正確な読み取りと、より正確な心拍出量測定とが可能になる。例えば、第一のサーミスタ624はシース652内に描写されているが、代替的に、シース652内または経皮ポンプ600のカテーテル634内に埋め込まれてもよい。同様に、第一のサーミスタ624がシース内に配置されてもよく、かつ第二のサーミスタ643がカテーテル上に配置されてもよい。例えば、アウトレットアパーチャ636を通って出る血液の流体温度を正確に検出するために、第二のサーミスタ643が流出アパーチャ636に近接して配置されてもよい。いくつかの実施形態において、シース652はシングル管腔シースである。いくつかの実施形態において、第一のサーミスタ624は、上行大動脈内ではなく大腿動脈内に置かれる。経皮ポンプ600は単一のサーミスタまたは複数のサーミスタを含むよう設計されてもよいことが当業者に認識されるであろう。
【0032】
いくつかの実施形態において、第一のサーミスタ624は第二の管腔644を通って送達されるのではなく、シース652内または経皮ポンプ600のカテーテル634内に埋め込まれる。第二の管腔644を通って装填されるのではなく、アセンブリの一部としてシース652内またはカテーテル634内に埋め込まれたサーミスタは、必要とするセットアップがより少なく、かつ結果として、アセンブリの留置がより容易になりかつ要する時間もより少なくなる可能性がある。
【0033】
いくつかの実施形態において、サーミスタ624の温度感受性ヘッド630は、エポキシまたはガラス内に封入された焼結酸化金属などの半導体材料から形成されてもよい。サーミスタ624は、シース652を通って、患者の体外に位置するプロセッサ(図には示していない)にサーミスタ624を接続する、カテーテル645を含む。プロセッサは、サーミスタ624の温度感受性ヘッド630によって感知された血液の温度を記録する。医師またはオペレーターは、生理食塩水または他の流体のボーラスを患者の脈管構造内に注入して、これにより血液の温度を変化させてもよい。サーミスタ624は、血液が心臓/大動脈を通って流れる際にその温度を測定し、かつその測定値は、サーミスタ624を用いて全心拍出量を決定するために用いられてもよい。経皮ポンプ600の上または近くに配置されたサーミスタ624は、経皮ポンプ600が心臓に持続的な機械的支持を送達している間に全心拍出量を決定するために用いることができる。
【0034】
1つの例において、冷たい生理食塩水のボーラスが、例えば大腿静脈において、患者の脈管構造内に導入される。次に、サーミスタ624を通過して流れる血液の温度がモニターされ、かつ、全心拍出量および心機能を表す他の変数を含む変数を抽出するために、経時的な温度変化が測定および使用される。臨床的関連性のあるこれらの変数は、経皮ポンプ支持を止めることなく医師およびオペレーターに提供されてもよく、それにより、機械的循環支持の作動中に自己心拍出量のリアルタイム評価が提供される。この方式において、心拍出量についての重要な情報が得られている間も血行力学的支持を維持できる。加えて、ポンプ流量に対する応答も、患者を動かすことなく瞬時に評価できる。サーミスタおよび他のセンターの測定値から算出された変数は、患者のケアおよびどのくらい心臓補助が必要かについて決定できるよう、医師またはオペレーターに提示されてもよい。サーミスタ624の温度測定と、経皮ポンプ上のモーター電流センサーおよび圧力センサーを含む他のセンサーに由来する情報とから、抽出された変数に基づいて、自己心拍出量が決定されてもよい。
【0035】
サーミスタ624によって測定される経時的な温度変化、および、経皮ポンプ600上の他のセンサーに由来する測定値は、プロセッサによって入力信号として受け取られる。プロセッサは、プロセッサが入力信号を受け取りかつ記録し、かつそれらを、自己心拍出量および/または他の関連変数を算出するために使用できる変数に変換することを可能にするプログラミングを含む、ソフトウェアおよび/またはファームウェアを含む。自己心拍出量は、式:
CON = COTOT - CDFlow
によって決定される。式中、CONは心臓それ自体の自己心拍出量であり;COTOTはサーミスタの温度測定から導出される全心拍出量であり;CDflowは、ポンプモーターによって引き込まれるモーター電流と圧力とから算出される、心臓デバイスまたは経皮ポンプの流量である。医師またはオペレーターは、算出された自己心拍出量、およびプロセッサによって算出できる他の変数に基づいて、患者が心臓補助デバイスから離脱されるべきであると、または支持の増大が必要であると判定してもよい。これらの変数を医師および臨床医に提供するためにサーミスタを使用することにより、離脱プロセス中の患者の安全が増大する。
【0036】
図6に、拍動中の心臓701の上行大動脈710内の、図5のTPTDアセンブリ603の留置を示す。心臓701は、右心房702と、右心室704と、左心室708とを含み、かつ、大動脈弓709と、大動脈710と、大動脈弁719とを含む肺循環の諸局面もまた含まれている。大動脈710は大腿動脈712に接続されている。経皮ポンプ700が心臓701内に置かれている。経皮ポンプ700は、シース752と、カニューレ720と、ポンプハウジング721と、カテーテル734と、圧力センサー723と、遠位突出部728とを含む。経皮ポンプ700は、経皮ポンプ700のカニューレ720の遠位部分が左心室708内にあり、かつ経皮ポンプ700のカニューレ720の近位部分が大動脈710内にあるよう、大動脈弁719を横切って延在する。サーミスタ724が、大動脈710内において経皮ポンプ700の近位端に位置しており、かつ、シース752またはカテーテル734内に埋め込まれていてもよい。ポンプ700は、患者の体外に位置する、表示画面707を含むプロセッサ731に連結される。ポンプハウジング721は、モーター(図には示していない)とインペラー(図には示していない)とを収容してもよい。経皮ポンプ700は、ポンプハウジング721内に配された埋め込み可能なモーターによって動力供給されてもよい。インペラーおよびモーターは、血液を左心室708からカニューレ720内に引き、大動脈弁719を横切ってカニューレ720を通し、そして血液を大動脈710内に駆出する。経皮ポンプ700はまた、ポンプハウジングに近接して圧力センサー723も含む。経皮ポンプ700は、シース752など、ガイドワイヤまたはシースによって置かれてもよい。シース752は、図5に図示したようなデュアル管腔シース、またはシングル管腔シースであってもよい。カテーテル734は、経皮ポンプ700から、患者の脈管構造を通り、そして大腿動脈712における切開部716から出るよう延在する。いくつかの実施形態において、カテーテル734は、患者の体外から経皮ポンプ700まで延在する、ドライブシャフト、パージライン、生理食塩水ライン、または他のラインもしくは管腔を収容する。
【0037】
サーミスタ724を経皮ポンプ700の近位端においてポンプハウジング721の近くに置くことにより、心臓を通って動く血液の温度の変化を測定できる。サーミスタ724からの信号は、自己心の心拍出量と経皮ポンプ700の補助とを両方とも含む全心拍出量を算出するために、プロセッサ731に送られてもよい。経皮ポンプ700に供給されるモーター電流の測定値と、圧力センサー723からの圧力測定値とに由来する、流量推定を用いることによって、自己心拍出量と、心機能の指標である他の変数とが、速やかに決定されかつ医師またはデバイスのオペレーターに供給されてもよい。
【0038】
使用中、医師またはデバイスオペレーターは、プロセッサ731に連結された表示画面707上で経皮ポンプ700の機能をモニターしてもよい。表示画面707は、モーターから引き込まれる電流に基づいて、経皮ポンプ700を通る流量の推定値を提供してもよい。ポンプおよび心臓機能に関する追加的な情報を医師およびオペレーターに提供するために、サーミスタ724は、生理食塩水ボーラスの注入部位より下流の方向において、ポンプハウジング721の近くに配置される。経皮ポンプおよび生理食塩水ボーラス注入に対する、サーミスタのこの配置は、一貫性および信頼性がある温度変化測定と熱希釈曲線とをもたらす。サーミスタ724は、カテーテル734内、シース752内、またはポンプ700内に埋め込まれてもよい。サーミスタ724は、大動脈710内において経皮ポンプ700を通過して流れる血液の温度を検出するために配置される。サーミスタ724の配置は、経肺熱希釈法を用いて、経皮ポンプ700の稼働中に全心拍出量または他の重要な血行力学的パラメータを測定することを可能にする。サーミスタ724による全心拍出量の測定と同時に、経皮ポンプ700を通る流量を算出するために、ポンプモーターによって引き込まれるモーター電流と、心臓内で測定される圧力とを用いて、経皮ポンプ700によって提供される心臓補助が測定されてもよい。この情報は、医師またはオペレーターにとって、継続される患者のケアについて決定を行う上で有用である。患者を心臓補助デバイスから離脱させるか、または、デバイスにより提供される支持を増大させるかについての判定に、経皮ポンプ700とともに使用されるサーミスタ724によって提供される、心機能についての追加的な情報が、役立つ可能性がある。
【0039】
サーミスタ724は、周りの血液の温度を測定するためのセンサーとして使用できる温度感受性先端を有する。いくつかの実施形態において、サーミスタ724は、約38~42ゲージにサイズ決定される。いくつかの実施形態において、サーミスタ724は、経皮ポンプ700が心臓701内に置かれた後に該ポンプのカテーテル734に通される。いくつかの実施形態において、温度感受性先端は、ポンプハウジング721に近接して置かれる。いくつかの実施形態において、温度感受性先端は、ポンプハウジング721から約3 cm、4 cm、5 cm、6 cm、または他の任意の好適な距離に置かれる。いくつかの実施形態において、心臓および大動脈内の2つの位置における温度変化を決定するために、複数の温度感受性サーミスタが置かれる。上行大動脈710内でポンプハウジング721に近接してサーミスタ724が置かれることにより、全心拍出量の測定が可能となる。いくつかの実施形態において、サーミスタ724は、周りの血液の温度を測定し、かつその温度を、時間の関数として記録する体外のプロセッサ731に報告する。いくつかの実施形態において、プロセッサ731は、自己心機能を追跡するために、間隔をおいて自己心拍出量を算出および記録する。
【0040】
サーミスタ724および経皮ポンプ700からの測定値は、ディスプレイ707上にリアルタイムで医師および臨床医向けに表示されてもよい。加えて、時間依存的な測定値を縦方向に比較および表示できるよう、個々の患者について履歴データが記録されてもよい。その情報は、心臓補助デバイスによる支持の調整、または心臓補助デバイスからの患者の離脱に関して、医師および臨床医が決定を行うことを可能にしうる。インターフェースまたはディスプレイ707はまた、自己心拍出量の増加または減少によって示される、患者が経時的に改善しているかまたは衰えているかについても、示してもよい。この情報は、心臓補助デバイスから心臓を外すことを伴わずに、医師および臨床医に提供されうる。
【0041】
図7に、全心拍出量および他の心臓変数を表示している例示的なコントローラ画面807を示す。例示的なコントローラ画面807は、留置信号846と、モーター電流信号827と、全心拍出量829と、自己心拍出量830と、連続自己心拍出量833と、自己心の傾向841と、肺血管外水分量測定値866と、全拡張終期容量測定値868と、フロー状態インジケーター854と、パージシステムインジケーター852と、システム電力インジケーター850と、アラームボタン856と、フロー制御ボタン858と、ディスプレイボタン860と、パージシステムボタン862と、メニューボタン864とを表示する。
【0042】
留置信号846は血圧の測定値を表示する。留置信号846は経時的な血圧を表示し、かつ、表示される測定値は、血管内ポンプ(図4の血管内ポンプ500、図5の血管内ポンプ600、または図6の血管内のポンプ700など)上のセンサーから、ポンプの稼働中に導出されてもよい。ポンプがいつ心臓内の正しい留置に存在するのかを判定するために、留置信号846は、測定された圧力をモニターすることによって、心臓内のポンプの配置を決定するために、医師によって用いられてもよい。モーター電流信号827は、ポンプモーターによって引き込まれる電流の経時的な測定をmAの単位で表示する。モーター電流信号827は、ポンプ内のポンプモーター上にあるか、またはプロセッサもしくはコントローラ自体の中にあるセンサーによって測定される測定結果を表示してもよい。モーター電流および心臓内の圧力に基づきルックアップ表にアクセスすることによって血管内ポンプの流量を算出するために、留置信号846およびモーター電流信号827が圧力測定値とともに用いられてもよい。その流量は、血管内ポンプによって心臓に提供される機械的補助またはポンプ出力流量の尺度を提供する。
【0043】
全心拍出量829は、心臓内の熱希釈法によって測定される、心臓の自然な拍動と機械的補助とに由来する全心拍出量の尺度を表示する。全心拍出量は、生理食塩水のボーラスが脈管構造内に注入されたことに応答して心臓内の血液温度の変化を検出する、サーミスタによって測定される。検出された、血液温度の経時的変化に基づき、全心拍出量が算出される。全心拍出量はL/minで表示される。自己心拍出量830は、全心拍出量829からポンプ出力流量を減算することによって算出できる。L/minで表示される、自己心総拍出量は、心臓自体によってもたらされる拍出量についての情報をオペレーターに提供する。これは、特に患者を血管内ポンプなどの心臓補助デバイスから離脱させることに関して、治療上の決定を行ううえで有用となりうる。連続自己心拍出量833は、オペレーターに履歴データを提供するために、複数のインターバルについて、算出された自己心拍出量を表示する。自己心の傾向841は、連続心拍出量833の履歴データに基づいて、心機能の簡単な概要をオペレーターに追加的に提供する。例えば、コントローラ画面807上において、連続自己心拍出量833のリスト中で報告されている最新の自己心拍出量(CONAT3)は、その前に記録された自己心拍出量(CONAT2およびCONAT1)より大きく、このことは、現在、心臓の自己拍出量が増大していることを示す。したがって、自己心の傾向841は「改善」という状態を表示する。いくつかの実施形態において、コントローラ画面807は連続自己心拍出量833の表示内に、より多いかまたはより少ないエントリーを含む。いくつかの実施形態において、コントローラ画面の追加的画面上で、記録された追加的エントリーへのアクセスが行われる。自己心拍出量の履歴をオペレーターに提示することにより、患者の心臓機能および健康の傾向をオペレーターが理解することが可能になる。この情報は、心臓支持を増大または低減するかどうかを判定するうえで有用となりうる。
【0044】
臨床的関連性のある追加的な情報をオペレーターに提供するために、追加的な心臓測定値がコントロール画面807上に報告されてもよい。例えば、肺血管外水分量測定値866および全拡張終期容量測定値868がコントロール画面807に表示される。図2に関して論じたように、自己心拍出量からEVLWおよびGEDVを算出できる。他の血行力学的測定値も、留置信号846と、モーター電流信号827と、全心拍出量829とから算出されてもよく、かつコントロール画面807の1つまたは複数の画面上に表示されてもよい。コントロール画面807はまた、血管内ポンプの現在の流量、ならびに、現在の作動セッション中に達した最大流量および最小流量を表示する、フロー状態インジケーター854も含む。パージシステムインジケーター852は、パージ用流体の現在の流量を含む、パージフローシステムの現在の状態を表示する。システム電力インジケーター850は、内部バックアップ電池の充電状態、ならびに、電池が充電中および/またはプラグ接続中であるかを表示する。コントロール画面807は、例えばパージシステムボタン862およびフロー制御ボタン858など、ポンプおよびパージシステムを制御するためにオペレーターが追加的画面にアクセスすることを可能にする、一連のボタンを含む。アラームボタン856は、オペレーターがアラームを設定するかもしくは切ることを可能にしてもよいか、または、測定値が事前設定限界を上回るかもしくは下回るかした場合に音もしくは光を発してもよい。ディスプレイボタン860はオペレーターが追加的な表示画面にアクセスすることを可能にし、かつメニューボタン864はオペレーターがメニューにアクセスすることを可能にする。
【0045】
コントロール画面807は、追加的なまたは異なる、情報の表示、ボタン、および状態インジケーターを含んでもよい。コントロール画面807は、図5および図6のシステムに関連して用いられるコントロール画面の非限定的な例として提供されている。
【0046】
図8に、1つの例示的な態様に基づく、図5のセットアップを用いて自己心拍出量を決定するための方法900を示す。段階902において、図4の血管内血液ポンプ500、図5の血管内血液ポンプ600、図6の血管内血液ポンプ700、または他の任意の好適な血管内血液ポンプなどの血管内血液ポンプが、(例えば図6に示すように)大動脈内に配置される。血管内血液ポンプは、ガイドワイヤおよび/または再配置可能なカテーテルの使用を伴って送達されてもよい。血管内血液ポンプの配置は、蛍光透視法の使用によって、心臓内でポンプの周りの圧力をモニターすることによって、または、他の任意の好適な手段によって、モニターされてもよい。血管内血液ポンプは、流入アパーチャが左心室内に配置されかつ流出アパーチャが大動脈内に配置されるように、大動脈内に置かれる。いくつかの実施形態において、血管内血液ポンプは大動脈弁を横切って置かれる。
【0047】
段階904において、血管内血液ポンプは、血液を左心室から上行大動脈内にポンピングするためにモーター電流によって駆動される。血管内血液ポンプは、心臓の自己心機能を支持するために、左心室内に位置する流入アパーチャを通して血液をポンプ内に引き、そしてその血液を、流出アパーチャを通して上行大動脈内に放出する。放出された血液は、大動脈を通って流れる血液中に運ばれる。
【0048】
段階906において、精密量の生理食塩水ボーラスが、血管内ポンプの位置より上流の位置において(例えば大腿静脈内において)脈管構造内に注入される。生理食塩水のボーラスは脈管構造内の血液より冷たく、かつ、脈管構造を通り左心室そして大動脈内へと流れる血液の温度に変化を生じさせる。
【0049】
段階908において、左心室から上行大動脈内にポンピングされている血液の温度の変化が検出される。血液温度の変化は、血管内ポンプの近位端に位置するセンサーまたはサーミスタによって検出される。生理食塩水のボーラスが、脈管構造を通りそして心臓を通って通過する際に、サーミスタは、通過して流れる血液の温度を検出する。血液が、自己心機能およびポンプの補助によって左心室から上行大動脈にポンピングされる際に、サーミスタが温度の変化を検出し、かつその変化を示すアナログ信号をプロセッサに送る。
【0050】
段階910において、稼働中のポンプに供給されるモーター電流の変化が検出される。モーター電流は、ポンプモーター部に位置するかまたはポンプの外部に位置するセンサーによって検出されてもよい。段階912において、ポンプの駆動中に上行大動脈内の圧力が検出される。大動脈内の血圧はポンプ上の圧力センサーによって検出される。検出されたモーター電流および検出された圧力もまた、プロセッサに出力される。
【0051】
段階914において、検出された温度変化に基づいて第一の心拍出量が算出される。サーミスタによって検出された温度変化は、図1Bおよび図5に関して説明したように、全心拍出量を算出するために用いられる。いくつかの実施形態において、段階914は、例えば段階908の直後など、サーミスタによって検出された温度変化がプロセッサに送信された直後に生じてもよい。段階916において、検出されたモーター電流および検出された圧力に基づいてポンプ流量が算出される。プロセッサは、所与のモーター電流と検出された圧力とに対する流量を提供するルックアップ表にアクセスする。ルックアップ表から決定される流量は血管内ポンプのポンプ出力流量であり、かつ、ポンプによって心臓に提供されている補助の量を示す。段階918において、自己心拍出量を決定するために第一の心拍出量からポンプ流量が減算される。自己心拍出量は、患者の心臓自体によって提供されている、拍出量およびポンピングパワーを示す。自己心拍出量は、血管内ポンプによって提供される補助を増大もしくは低減するか、または、患者をポンプの補助から離脱させるか、といった治療上の決定を行うため、医師またはポンプオペレーターによって用いられてもよい。段階914、916、および918は、ポンプに連結されたプロセッサ内で生じる。
【0052】
自己心拍出量、および、第一の心拍出量とポンプ流量とから算出される他の変数は、いくつかの実施形態において、図7に描写されるようなディスプレイ上などにおいて、医師またはポンプのオペレーター向けに表示されてもよい。これらの変数を医師に提供することにより、医師は患者のケアについて、情報に基づく決定を行うことができる。これらの変数から、医師は、患者の心臓の状態についてより多くの知識を導出および理解でき、それは、特に血管内ポンプに頼る状態から離脱する際に、患者の安全を高める。
【0053】
図9に、Impella熱希釈カテーテルによって測定された心拍出量を、参照心拍出量測定と比較して示す。すべての測定は3回行われた;個々の測定が丸記号(o)、3回測定ごとの平均が十字記号(x)で示されている。黒い実線は理論上の完全一致を示し、一点鎖線は全測定ポイントの線形回帰を示す。破線は上下の10%誤差の境界を示す。図9に見られるように、Impellaシステムは、測定した心拍出量の全範囲にわたって良好な一致を示した。
【0054】
図10に、順次的実験において観察されたImpellaサーミスタシステムの百分率誤差を示す。黒い点は3回測定ごとの誤差を表す。データは実験の順に表示されている。図に見られるように、算出された誤差は、順次的実験全体を通して一貫していた。
【0055】
図11Aおよび11Bに、心拍出量が低い間にImpellaサーミスタシステムを用いて得られた結果を示す。図11Aは、心拍出量が低い間にImpellaサーミスタシステムを用いて測定された温度変化の生データのトレースを表している。白丸は4℃の生理食塩水の注入時を示す。点線は平均通過時間の時間限界を示す。アスタリスクで境界が示された曲線部分は、ダウンスロープ時間の測定に用いられた曲線部分を示す。図11Bは、図11Aに示した熱希釈曲線から導出された、測定および算出された諸変数を示している。
【0056】
図12Aおよび12Bに、心拍出量が高い間にImpellaサーミスタシステムを用いて得られた結果を示す。図11Aは、心拍出量が高い間にImpellaサーミスタシステムを用いて測定された温度変化の生データのトレースを表している。白丸は4℃の生理食塩水の注入時を示す。点線は平均通過時間の時間限界を示す。アスタリスクで境界が示された曲線部分は、ダウンスロープ時間の測定に用いられた曲線部分を示す。図12Bは、図12Aに示した熱希釈曲線から導出された、測定および算出された諸変数を示している。
【0057】
図13に、Impellaカテーテル内に置かれたサーミスタと、Impellaポンプのコンポーネント部品に対する相対位置とを図示する。
【0058】
以上は本開示の原理を例示したものにすぎず、本発明の方法およびシステムは、限定ではなく例示の目的で提示される本説明の実施形態以外でも実施されうる。理解されるべき点として、本明細書に開示する方法およびシステムは、血管内血液ポンプシステムにおける使用について示されているが、他の心臓補助デバイスに適用されてもよい。
【0059】
当業者には、本開示の検討後にバリエーションおよび改変が考えられるであろう。例えば、血液ポンプシステムの血液ポンプ、シース、およびカテーテルに対する、サーミスタの配置は、患者の心臓内の血液温度の変化を検出するためにサーミスタが構成されるよう、任意の好適な様式にアレンジされてもよい。本開示の諸特徴は、本明細書に説明する1つまたは複数の他の特徴との、任意の組み合わせおよび下位組み合わせ(複数の従属的な組み合わせおよび下位組み合わせを含む)において実施されてもよい。以上に説明または例証した様々な特徴は、そのコンポーネントも含めて、他のシステムに組み合わせまたは統合されてもよい。さらに、特定の特徴が省略されるかまたは実施されなくてもよい。
【0060】
変更、置換、および代替の例は当業者によって確認可能であり、かつ、本明細書に開示する情報の範囲から逸脱することなく行われうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図13