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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】乳癌を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20221115BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221115BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221115BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221115BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/53 D
G01N33/574 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019565978
(86)(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2018054052
(87)【国際公開番号】W WO2018150031
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】17157020.3
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519299898
【氏名又は名称】パンカ キャンサー リサーチ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】パンテル クラウス
(72)【発明者】
【氏名】バルトコヴィアック カイ
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0099209(US,A1)
【文献】特表2004-509909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0223616(US,A1)
【文献】国際公開第2017/004092(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0086504(US,A1)
【文献】特表2012-513422(JP,A)
【文献】特表2012-528812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086565(US,A1)
【文献】国際公開第2005/005989(WO,A1)
【文献】特表2008-528812(JP,A)
【文献】特表2014-507160(JP,A)
【文献】特表2008-508895(JP,A)
【文献】特表2007-530047(JP,A)
【文献】SANCHEZ-BAILON, M. P. et al.,Cry61 as mediator of Src signaling in triple negative breast cancer cells,Oncotarget,Vol.6, No.15,pp.13520-13538
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
医中誌WEB
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌または乳癌細胞を検出する方法であって
対象から得た、細胞、微小胞および/またはエキソソームを含む液体試料中の可溶性または細胞表面結合性Cyr61の存在を測定することと、
を含み、
前記液体試料が血液および/または骨髄穿刺液から選択され、Cyr61の存在の測定がELISAを介した検出を含む、方法。
【請求項2】
前記ELISAが、別個のCyr61エピトープに結合する2つの異なる抗ヒトCyr61抗体を使用するサンドイッチELISAである、請求項1に記載の乳癌または乳癌細胞を検出する方法。
【請求項3】
異なる抗ヒトCyr61抗体が結合する前記別個のCyr61エピトープが、少なくとも50アミノ酸離れているか、または少なくとも75、85もしくは100アミノ酸離れている、請求項2に記載の乳癌または乳癌細胞を検出する方法。
【請求項4】
Cyr61の存在の検出が、前記液体試料中のCyr61の濃度の測定を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の、対象において乳癌または乳癌細胞を検出する方法。
【請求項5】
液体試料中のCyr61の濃度を参照試料中のCyr61の濃度と比較することをさらに含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の、対象において乳癌または乳癌細胞を検出する方法。
【請求項6】
前記参照試料が、
(i)50歳を超える健常女性の血漿試料、または
(ii)年齢および性別が一致する参照試料
である、請求項5に記載の、対象において乳癌または乳癌細胞を検出する方法。
【請求項7】
乳癌を検出するための方法であって、
(a)ヒト対象から得た血液試料血漿から細胞を分離することと、
(b)サンドイッチELISAを介して前記血漿中の可溶性Cyr61の濃度を測定し、前記ELISAが少なくとも50アミノ酸離れている別個のCyr61エピトープに結合する2つの異なる抗ヒトCyr61抗体を使用することと、
(c)前記血漿中の可溶性Cyr61の濃度を、参照試料中のCyr61の濃度と比較し、前記参照試料が50歳を超える健常女性の血漿試料であることと、
を含む、方法。
【請求項8】
前記血漿中のCyr61濃度が前記参照試料中よりも高い場合に乳癌が検出される、請求項7に記載の乳癌を検出する方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の癌または癌細胞を検出する方法を含む、癌の診断または鑑別診断のための方法。
【請求項10】
前記診断が、
(a)循環可溶性Cyr61、および/または
(b)細胞表面結合性Cyr61腫瘍細胞および/または播種性腫瘍細胞
を識別する鑑別診断を含む、請求項9に記載の癌の診断のための方法。
【請求項11】
HIF-1αおよび/またはPD-L1の検出をさらに含む、請求項9または10に記載の癌の診断または鑑別診断のための方法。
【請求項12】
前記診断が、乳癌細胞の転移能の鑑別診断である、請求項9~11のいずれか1項に記載の癌の診断または鑑別診断のための方法。
【請求項13】
前記診断が、早期癌炎症状態の鑑別診断である、請求項9~12のいずれか1項に記載の癌の診断または鑑別診断のための方法。
【請求項14】
抗癌薬のスクリーニング方法であって
(a薬物を投与された対象から、細胞を含む液体試料を得ることと、
)前記液体試料中の可溶性または細胞表面結合性Cyr61の存在および/または濃度を測定することと、
)前記試料中のCyr61の濃度が参照試料中のCyr61の濃度よりも低い場合に、前記薬物を抗癌薬として同定することと、
を含む、方法。
【請求項15】
前記液体試料中で可溶性または細胞表面結合性Cyr61の存在および/または濃度の測定が、ELISAにより行われる、請求項14に記載の抗癌薬のスクリーニング方法。
【請求項16】
前記ELISAが、少なくとも50アミノ酸離れている別個のCyr61エピトープに結合する2つの異なる抗ヒトCyr61抗体を用いたサンドイッチELISAである、請求項15に記載の抗癌薬のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞を検出する方法、特に癌を有する疑いがある対象から得られた液体試料中の循環および/または播種癌細胞を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌などの癌における転移性カスケードは、原発乳房腫瘍細胞の血中への放出(循環腫瘍細胞またはCTC)、それに続く二次臓器でのこのような腫瘍細胞の定着(播種性腫瘍細胞またはDTC)およびそれらの以後の転移性増殖を含む(1)。乳癌において、DTCは、骨髄(BM)に浸潤し、化学療法を生き延び、患者の臨床転帰不良が予測されることが多い(2、3)。
【0003】
しかし、乳癌、肺癌および前立腺癌での初回診断時にBMの所見が陰性にもかかわらず、多数の患者が再発している。最近、乳癌のCTCについても同様の所見が認められた。このような所見から、サイトケラチンのような上皮分化マーカーに対する抗体を使用する、CTCおよびDTCの検出のための現在のアッセイにおける技術的限界が指摘され得る。
【0004】
腫瘍細胞の可塑性は、上皮特性の喪失および中間表現型(EMT)を介した間葉性の特性の獲得につながり得る。ゆえに、上皮特性の発現が減少しているために、間葉性の特質を有するCTCおよびDTC(mCTC、mDTC)は、現在使用されている上皮分化マーカーのセットにより検出されない。最近の実験で、乳癌患者においてこのようなmCTCの存在が確認された(4)。
【0005】
mCTCおよびmDTCの生物学およびそれらの転移への寄与は完全には理解されていない。間葉性の特質の獲得および腫瘍細胞の播種を促進する1つの要因は低酸素である。低酸素は原発腫瘍に限定されず、ヒト骨髄でも起こり得、造血幹細胞ニッチの領域で僅か1%O2の値(低酸素)が検出された。前立腺癌マウスモデルにおいて、これらのニッチをDTCが占めることが示されており、これにより骨髄DTCが低酸素にさらされ得るという考えが裏付けられる。発明者らは以前、骨髄中の微小環境ストレス耐性mDTCを検出した。このようなDTCは上皮分化マーカーを低レベルで発現するが、低酸素応答プログラムの小胞体ストレス応答(UPR)のタンパク質に対して強く陽性である。
【0006】
このようにCTCおよびDTCはそれらが由来する癌と共通のいくつかの特徴を有する一方で、元の癌の上皮特性が失われ、同時にCTCおよびDTC形質転換の過程で間葉性の特性が獲得される(5)。上皮分化を伴う腫瘍細胞(癌腫)の前駆細胞である癌幹細胞も上皮特性を欠き、間葉性の特質を示し得る。ゆえに、CTC/DTCは癌幹細胞の特性に類似し得る。これは特に癌マーカー、すなわち癌細胞によって差次的に発現される配列の発現に当てはまる。
【0007】
CYR61はCCNファミリーの一員であるシグナル伝達タンパク質である。このタンパク質は分泌され得るか、または細胞外マトリクス(ECM)と会合し得る。CYR61は、細胞表面インテグリン受容体との相互作用によって様々な細胞活性の制御に寄与することが知られる。様々なCyr61活性が癌と関連付けられている。例えば、(6)は、性ステロイドまたは成長因子がCyr61遺伝子に結合し、これを誘導するのを妨害または阻止する組成物を用いて、乳癌細胞増殖を防ぐかまたは阻害する方法を開示する。この刊行物はさらに、Cyr61タンパク質発現を制御するリガンドについてスクリーニングする方法に言及している。同様に、(7)は、患者における癌の診断および予後のための迅速かつ容易なスクリーニングとしての、尿試料中のCyr61タンパク質の検出を開示する。
【0008】
癌細胞上でのCyr61の発現が観察され、癌細胞の細胞増殖、遊走および転移におけるそのタンパク質の役割が、(8)、(9)および(10)を含む多数の科学刊行物で概説されている一方で、先行技術文献には、液体試料中の非癌性細胞の発現に対してCTCおよびDTC上のCyr61の発現を分析し、比較したことを明らかにするものはない。したがって、このタンパク質が液体試料中でマーカーとして使用し得るか否かは全く不明であった。
【0009】
mCTCおよびmDTCは、利用可能なマーカータンパク質を用いて検出することが困難であるので、人体におけるCTCおよびDTCの検出および特徴付けを改善するさらなる新しいマーカーに対する大きなニーズがある。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、癌または癌細胞を検出する方法を提供し、本方法は、
(a)細胞、微小胞(microvesicles)および/またはエキソソームを含む液体試料を対象から得ることと、
(b)試料中の可溶性および/または細胞表面結合性Cyr61の存在を測定することと、
を含み、液体試料は血液および/または骨髄穿刺液から選択される。
【0011】
好ましい実施形態において、本発明は、癌または癌細胞を検出する方法を提供し、本方法は、
(a)細胞、微小胞および/またはエキソソームを含む液体試料を対象から得ることと、
(b)試料中の可溶性および/または細胞表面結合性Cyr61の存在を測定することと、
を含み、
液体試料は血液および/または骨髄穿刺液から選択され、Cyr61の存在の判定は、ELISAを介した検出を含む。
【0012】
驚くべきことに、発明者らは、Cyr61マーカーは癌細胞上で発現されるが、これらの液体試料中に存在する他の細胞上では発現されないので、Cyr61は、血液、血漿、血清および/または骨髄穿刺液中の癌および癌細胞および細胞断片に対する非常に有益なマーカーに相当することを発見した。
【0013】
本発明による病的状態を検出する方法は、循環腫瘍細胞および/または播種性腫瘍細胞の検出に特に適している。
【0014】
特に好ましい実施形態において、本発明は、
(a)ヒト対象から血液試料を得て、血漿から細胞を分離することと;
(b)サンドイッチELISAを介して血漿中の可溶性Cyr61の濃度を測定し、このELISAが、少なくとも50アミノ酸離れている別個のCyr61エピトープに結合する2つの異なる抗ヒトCyr61抗体を使用することと;
(c)試験試料中の可溶性Cyr61の濃度を、参照試料中のCyr61の濃度と比較し、この参照試料が、50歳を超える健常女性の血漿試料であることと、
を含む、乳癌の検出方法を提供する。
【0015】
これらの方法において、試験試料中のCyr61の濃度が参照試料中よりも高い場合、乳癌または乳癌細胞が検出される。
【0016】
さらなる実施形態において、本発明は、上記で特徴付けられるような液体試料中で癌細胞を検出する方法を含む、癌の診断または鑑別診断のための方法を提供する。
【0017】
さらなる他の実施形態において、本発明は、抗癌薬をスクリーニングするための方法を提供し、本方法は、
(a)対象に薬物を投与することと;
(b)対象から液体試料を得て、この液体試料が細胞を含むことと;
(c)液体試料中の可溶性もしくは細胞表面結合性Cyr61の存在および/または濃度を測定することと;
(d)試料中のCyr61の濃度が参照試料中のCyr61の濃度よりも低い場合には、その薬物を抗癌性として同定することと、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、癌または癌細胞を検出する方法を提供し、本方法は、
(a)細胞、微小胞および/またはエキソソームを含む液体試料を対象から得ることと、
(b)試料中の可溶性および/または細胞表面結合性Cyr61の存在を測定することと、
を含み、液体試料は血液および/または骨髄穿刺液から選択され、Cyr61の存在の測定は、ELISAを介した検出を含む。
【0019】
液体試料は、好ましくはヒトであるが動物でもあり得る対象から得られる。
【0020】
本願において、癌および腫瘍という用語は交換可能に使用される。癌細胞は、単一の腫瘍細胞または腫瘍細胞のより大きな凝集体の一部、すなわちCTCにおける細胞塊またはDTCおける微小転移巣である。癌細胞は本質的に不均一であり、全ての癌細胞を包含する定義を提供することは困難である。本発明の観点において、癌細胞は、上皮サイトケラチンを発現し、白血球マーカーCD45を発現しない細胞である。
【0021】
本方法は最も頻繁には、癌を有する疑いがある対象または以前に癌と診断された対象から得られた液体試料を用いて行われる。したがって、本発明の方法は、好ましくは、本発明の方法とは異なる方法を用いて、以前に癌と診断された対象からの液体試料を用いて行われる。以下でより詳細に説明するように、この実施形態において、本発明の方法は癌または炎症状態の鑑別診断を提供する。
【0022】
血液、血漿、血清および/または骨髄穿刺液から選択される液体試料を対象から得る方法は当技術分野で周知であり、本発明の方法の実施においてこれらの方法の何れか1つを使用し得る。最も単純な形態において、得られる液体試料は単純な血液試料である。全血または血漿試料から血清試料を得る方法は当技術分野において周知である。骨髄穿刺液を得る方法は、当技術分野において等しく周知である。本発明の方法は、癌細胞を検出するための、または癌の鑑別診断を提供するためのインビトロ法である。
【0023】
本発明の方法は、可溶性および/または細胞表面結合性Cyr61の検出に使用され得る。本願において使用される「可溶性Cyr61」という用語は、血液試料の血清中などの試料の液体画分中に存在するときの、タンパク質およびその同定可能な断片を指す。本願において使用される「細胞表面結合性Cyr61」という用語は、細胞、微小胞および/またはエキソソームの表面上に存在するとき、またはそれらの不可欠な部分として存在するときの、タンパク質またはその同定可能な断片を指す。
【0024】
一実施形態において、本発明は、癌または癌細胞を検出する方法を提供し、本方法は、
(a)細胞、微小胞および/またはエキソソームを含む液体試料を対象から得ることと、
(b)試料中の可溶性Cyr61の存在を測定することと、
を含み、液体試料は血液および/または骨髄穿刺液から選択される。
【0025】
同様に、本発明は、癌または癌細胞を検出する方法を提供し、本方法は、
(a)細胞、微小胞および/またはエキソソームを含む液体試料を対象から得ることと、
(b)試料中の細胞表面結合性Cyr61の存在を測定することと、
を含み、液体試料は血液および/または骨髄穿刺液から選択される。
【0026】
あるいは、本発明は、このようにして、癌または癌細胞を検出する方法を提供し、本方法は、
(a)細胞、微小胞および/またはエキソソームを含む液体試料を対象から得ることと、
(b)試料中の可溶性および細胞表面結合性Cyr61の存在を測定することと、
を含み、液体試料は血液および/または骨髄穿刺液から選択される。
【0027】
一態様において、本発明は、試料が血液試料であり、血清が単離され、血清中でCyr61が検出される、癌を検出する方法を提供する。検出は免疫細胞化学的分析を含み得る。好ましい実施形態において、検出はELISAで血清中のCyr61を検出することを含む。
【0028】
本発明の方法はまた、CTCおよび/またはDTCの検出にも特に有利である。CTCは、上皮性サイトケラチンを発現し、癌性起源から放出され、したがって体液中に存在する白血球マーカーCD45を発現しない腫瘍細胞である。発明者らは、驚くべきことに、CTCがCyr61の発現によって検出および特徴付けられ得ることを発見した。検出方法は、細胞、微小胞および/またはエキソソームあるいはそれらのホモジネートを、抗サイトケラチン抗体および抗CD45抗体から選択される少なくとも1つのさらなる抗体と接触させることを含む。
【0029】
DTCは、上皮性サイトケラチンを発現し、白血球マーカーCD45を発現せず、体内で癌性起源の外部に存在し、骨髄、肝臓、肺または脳などの二次的部位中に存在する腫瘍細胞または細胞である。二次的部位は、癌性起源の場所またはCTCに対する起源として定義された部位ではない人体内の何らかの部位であり得る。したがって、DTCは、癌性起源の場所ではない人体の部位から得られるCyr61を発現する癌細胞である。
【0030】
特に好ましい態様において、本発明の乳癌または乳癌細胞を検出する方法は、別個のCyr61エピトープに結合する2つの異なる抗ヒトCyr61抗体を使用するサンドイッチELISAを使用する。この態様において、試料は好ましくは血液であり、血清は単離され、Cyr61は別個のCyr61エピトープに結合する2つの異なる抗ヒトCyr61抗体を用いるサンドイッチELISAを使用して血清中で検出される。一態様において、異なる抗ヒトCyr61抗体が結合する別個のCyr61エピトープは、少なくとも50アミノ酸離れているか、または少なくとも75、85もしくは100アミノ酸離れている。これは、抗ヒトCyr61抗体が結合するCyr61エピトープのそれぞれが、他のCyr61エピトープから少なくとも75アミノ酸離れていることを意味する。
【0031】
さらなる好ましい実施形態において、本発明による対象における乳癌または乳癌細胞を検出する方法は、試験試料中のCyr61の濃度の測定を含む。一態様において、この方法は、試験試料中のCyr61の濃度を参照試料中のCyr61の濃度と比較する工程をさらに含む。
【0032】
発明者らは、対象における乳癌または乳癌細胞を検出する方法が以下:
(i)50歳を超える健常女性の血漿試料;および
(ii)年齢および性別が適合する参照試料
から選択される参照試料を使用する場合、個々の方法が特に有利であることを示した。
【0033】
参照試料中のCyr61の濃度は、1つの参照試料中、例えば50歳を超える健常女性の1つの試料中のCyr61の濃度を測定することによって得ることができる。あるいは、参照試料中のCyr61の濃度は、いくつかの参照試料中のCyr61の濃度の平均または平均値、例えば、50歳を超える健常女性のいくつかの参照試料中のCyr61の濃度の平均値として決定され得る。
【0034】
一般に、上記のような乳癌を検出する方法は、試験試料中のCyr61の濃度が参照試料中よりも高い場合、乳癌または乳癌細胞を検出する。
【0035】
病理学的状態を検出する工程は、液体試料中に存在する細胞、微小胞および/またはエキソソームをホモジナイズし、Cry61をホモジネート中で検出する工程を含み得る。試料中の細胞は、細胞膜を破壊し、細胞小器官および細胞質を放出させることによってホモジナイズされる。細胞をホモジナイズするための多数の方法が当技術分野で公知であり、細胞中にあるCyr61を検出するために本発明で使用され得る。別のアプローチでは、細胞表面結合性Cyr61を検出し、このアプローチは細胞ホモジナイズを明らかに必要としない。両方法において、Cyr61の存在を測定する前に細胞、微小胞および/またはエキソソームを液体試料から分離し得る。これは例えば遠心分離により行い得る。分離工程はまた、液体試料それ自体に関して、またはCyr61を発現していない他の細胞に関しての何れかで、細胞または細胞断片を濃縮する方法も包含し得る。
【0036】
Cyr61の存在の検出は、Cyr61の存在の検出または濃度の測定を含み得る。Cyr61の存在を検出するかまたは濃度を測定するための多数の様々な方法が当技術分野で公知であり、核酸(cyr61)またはタンパク質レベルで液体試料中のCyr61を検出するのに適している何らかの分析アプローチが本発明で使用され得る。
【0037】
本発明の好ましい方法において、Cyr61の濃度は、Cyr61レベルを検出するための抗体または抗体誘導体を用いて測定される。したがって、本発明の癌細胞検出方法は、検出が細胞、微小胞および/またはエキソソームまたはそれらのホモジネートを抗Cyr61抗体と接触させることを含む工程を特徴とし得る。抗Cyr61抗体は当技術分野で公知であり、本発明の目的のために使用され得る。例えば、本方法は、当技術分野で周知の抗体に基づく免疫細胞化学的分析方法を含み得る。
【0038】
特に好ましい実施形態において、本発明の癌または癌細胞を検出する方法は、細胞、微小胞および/またはエキソソームまたはそれらのホモジネートを抗Cyr61抗体と、および、抗サイトケラチン抗体および抗CD45抗体から選択される少なくとも1つのさらなる抗体と接触させる工程をさらに含む。多数の抗サイトケラチンおよび抗CD45抗体が当技術分野で公知であり、本発明の目的のために使用され得る。上記のように、CTCは、上皮サイトケラチンを発現するが白血球マーカーCD45を発現しない腫瘍細胞である。したがって、いくつかの抗体を用いる方法は、検出プロセスの一部として分析された細胞タイプのより完全な特徴付けを提供する。
【0039】
一態様において、癌または癌細胞を検出する方法は、
(a)少なくとも、抗Cyr61抗体と抗サイトケラチン抗体および/または抗CD45抗体とを含む第1の抗体セットを、細胞、微小胞および/またはエキソソームあるいはそれらのホモジネートに接触させることと;
(b)第1の抗体セットの各抗体に対して特異性を有する第2の抗体セットを試料に接触させることと;
(c)第2の抗体の結合によって放射されるシグナルを検出することと、
を含む。
【0040】
関連する態様において、癌または癌細胞を検出する方法は、
(a)少なくとも、抗Cyr61抗体と抗サイトケラチン抗体および/または抗CD45抗体とを含む少なくとも第1の抗体セットを、細胞、微小胞および/またはエキソソームまあるいはそれらのホモジネートに接触させることと;
(b)洗浄によって未結合抗体を除去することと;
(c)第1の抗体セットの各抗体に対して特異性を有する第2の抗体セットを試料にを接触させることと;
(d)洗浄によって未結合抗体を除去することと;
(e)第2の抗体の結合によって放射されるシグナルを検出することと、
を含む。
【0041】
第二の抗体の結合によって放射されるシグナルは蛍光シグナルであり得、自動検出装置によって検出され得る。
【0042】
抗体は、タンパク質全体またはCyr61の一部もしくは断片に結合し得る。さらなる検出方法もまた使用され得、これにはFACS、ELISA、ウエスタンブロット、酵素アッセイ、PCR、ハイブリッド形成およびアレイ技術が含まれる。さらに、顕微鏡分析を含む、生化学的または生物物理学的検出または分析に基づく方法、例えば全波長範囲分析、クロマトグラフィーまたは電気泳動法、例えば同位体もしくは化合物を使用する標識/誘導体化技術、ガスクロマトグラフィー、原子間力顕微鏡、例えばクロマトグラフィーおよび他の分光分析法と組み合わせるかもしくは組み合わせない質量分析、核磁気共鳴分光法および他の分光分析法など、が含まれる。さらに、免疫沈降によるCyr61の捕捉とそれに続く質量分析または質量分析と組み合わせたクロマトグラフィーを含め、これらの方法の様々な部分が先行技術において組み合わせられてきた。Cyr61の存在または濃度の検出が核酸の検出に基づく限りにおいては、RNA、特にmRNAの検出が好ましい。
【0043】
本発明による癌細胞検出方法は、得られた値と内部標準または外部標準との比較を含み得る。アッセイ方式に依存して、Cyr61の配列を有する、オリゴヌクレオチド(DNAまたはRNA)、タンパク質またはペプチドを標準物質として既知の濃度で使用し得る。
【0044】
本発明による病的状態を検出する方法は、試料中のCyr61の濃度を参照試料中のCyr61の濃度と比較する工程も含み得る。参照試料中のCyr61の濃度は、試験しようとする試料中のCyr61の濃度と同じアッセイで検出され得るが、必ずしもそうである必要はない。実際、参照試料中のCyr61の濃度は、試験しようとする試料中の濃度を測定するかなり前に標準として得られているものであり得、試験しようとする試料中の濃度と参照試料中の濃度との比較は、試験しようとする試料中のCyr61の濃度を分析する装置により自動的に行われ得る。
【0045】
本発明による癌細胞検出方法は、癌の診断に特に適している。したがって、本発明は、上記のような癌細胞検出方法を含む癌の診断方法を提供する。
【0046】
本発明の方法において癌のあらゆる診断形態が使用され得る。しかし、好ましくは、本発明の方法は、循環腫瘍細胞および/または播種性腫瘍細胞の同定のためなど、癌の鑑別診断のために使用される。
【0047】
本発明による癌の診断または鑑別診断のための方法は、例えばHIF-1および/またはPD-L1の検出を含む、さらなる癌マーカーの検出を含み得る。本願は、特定の癌のタイプにおいて、液体試料中に存在する癌細胞におけるCyr61の発現がHIF-1および/またはPD-L1の発現と密接に関連することを初めて示す。HIF-1および/またはPD-L1の発現を検出するための多数の様々な代替法が当技術分野で公知であり、HIF-1および/またはPD-L1を検出するための本発明の方法において使用され得る。Cyr61の、HIF-1および/またはPD-L1の検出は、単一のアッセイまたは完全に無関係のアッセイで実施され得る。
【0048】
特定の実施形態において、本発明によって提供されるような癌の診断は、上皮癌細胞または間葉性癌細胞タイプである癌細胞の診断に相当する。
【0049】
癌の診断のための方法は、乳癌細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞などの転移能の鑑別診断に特に適している。
【0050】
このようにして、本発明は、癌と診断され、外科手術によって原発腫瘍が除去された患者を含む、癌と診断された患者に対する治療計画を特定するために使用され得る。
【0051】
他の実施形態において、本発明による癌細胞検出方法は、早期癌の炎症状態の診断を対象とする。ある種の炎症状態が低酸素のような有害な微小環境状態を誘発することは周知であり、これにより、例えば膵炎または潰瘍性大腸炎などの状態における、初期悪性細胞の検出が可能になる。
【0052】
さらなる関連する実施形態において、本発明は、抗癌薬をスクリーニングするための方法を提供し、本方法は、
(a)対象に薬物を投与することと;
(b)対象から液体試料を得て、この液体試料が細胞を含むことと;
(c)対象の液体試料中のCyr61の存在および/または濃度を測定することと;
(d)試料中のCyr61の濃度が参照試料中のCyr61の濃度よりも低い場合、その薬物を抗癌性として同定することと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】A:ウエスタンブロット分析による、乳癌細胞株との、播種性腫瘍細胞株BC-M1(乳癌)およびLC-M1(肺癌)の上皮分化グレードの比較。細胞を標準的条件下で培養した。 B:SILAC LC-MS/MS分析によるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)の定量および同定。上の画像:MS1-スペクトルの関連質量範囲。下の画像:m/z 1180.55の陽イオンモードLC-ESI-QTOF-CIDスペクトル。 C:ウエスタンブロットによる癌細胞におけるCyr61発現の分析。ラミン-A/Cは、MDA-MB-468(MDA-468)とBC-M1との間で差次的に発現されないタンパク質の例として示される。 D:Cyr61発現の定量分析。シグナルをローディング対照アルファチューブリンに対して正規化した。3回の独立した実験の平均値を数値として与え、標準偏差を縦線のエラーバーにより示す。E:Cyr61に対する前立腺癌細胞株におけるウエスタンブロット分析。PC-E1およびPC-M1は前立腺癌DTC細胞株である。
図2】表1:SILACおよびLC-MS/MSによるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)の差次的発現の同定。MDA-MB-468およびBC-M1のタンパク質発現プロファイルを4つの生物学的複製物において比較した。ラミン-A/Cの発現値は、差次的に発現されないタンパク質に対する参照として示す。 a平均シグナル比の正の値は、BC-M1におけるタンパク質発現上昇を意味し、負の値はMDA-468におけるタンパク質発現上昇を意味する。b手作業で定量化を行った。cスチューデントt検定、p<0.05を有意とみなした。
図3】A:原発乳房腫瘍組織マイクロアレイ(TMA)の試料における免疫組織化学的分析によるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)シグナル。画像の中央は、TMAの切片を示し、左右の拡大切片は代表的な染色パターンを示す。分析症例数は147例であった。 B:乳癌患者の骨髄転移における免疫組織化学的Cyr61検出。核はヘマルム(hemalum)により染色した。スケールバー:A:100μm;B:67μm。
図4】表2:乳癌組織マイクロアレイおよびヒト原発肺癌試料におけるCyr61発現と臨床病理学的特性の関連。 aピアソンのカイ二乗またはフィッシャーの直接確率検定。 b全部で147例の原発乳房腫瘍についてCyr61染色の結果を得た。 これら症例全てについて臨床病理学的データが全て利用可能というわけではなかったので、症例数は個々のパラメーターについて147例より少ないことがあり得る。
図5】骨髄への腫瘍細胞播種に対するモデル系におけるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)レベルの分析;ウエスタンブロットによる分析。 A:標準的細胞培養条件下で細胞株を培養した後の開始条件。 B:骨髄中に見られるような低酸素(1%O2)微小環境へのDTCの定着のシミュレーション。MCF-7に対して、陽性対照(+)はMDA-MB-231(MDA-231)であった。 C:図2Bで特定した条件に対する、Cyr61についての定量的ウエスタンブロット分析。 D:Cyr61に対する低酸素誘導因子1-アルファ(HIF-1α)の安定化の効果。 E:MDA-231の骨転移亜系統(MDA-231 SAおよびMDA-231 B02)および脳転移亜系統(MDA-231 BR)におけるCyr61レベル。 F:Cyr61レベルに対するグルコース欠乏の影響。Grp78(78kDaグルコース制御タンパク質)を陽性対照とした。大量のMDA-231細胞が50時間のグルコース除去後に細胞培養フラスコから剥離したので、これらの細胞を別々に分析した。 G:非常に有害な条件下(低酸素およびグルコース欠乏)でのCyr61およびビメンチンの誘導。 縦線のエラーバーは標準偏差を示す。S:標準的培養条件。
図6】主に血管またはリンパ管を介して主に播種される(A)または腹膜播種の割合が高い(B)癌実体におけるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)およびPD-L1(プログラム細胞死1リガンド1)に対するウエスタンブロット分析。細胞株を標準的条件下で培養し、アルファ-チューブリンをローディング対照とした。他の実験との比較のために、BC-M1およびMDA-MB-468(MDA-468)を分析した。 A:分析した癌の実体:前立腺癌(LNCAP、Du145PC-3)、乳癌(BT20、BT474、ZR-75-1)、頭頸部癌(Cal27、SCC25)。 B:分析した癌の実体:膵臓癌(Panc1、Panc2、BxPC3、5061)。
図7】標準的細胞培養条件下(S)および低酸素条件下(1%O2)でのErbB-2に対するシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)の応答。MDA-MB-468(MDA-468)にErbB-2発現ベクターで遺伝子移入した(MDA-468 ErbB-2)。MDA-468PMは、1248位のチロシンがフェニルアラニンに置換されたErbB-2タンパク質を発現する。挿入物なしの発現ベクターでMDA-468対照に遺伝子移入を行った。 A:示されたタンパク質および条件に対するウエスタンブロット分析。 B:低酸素下でのCyr61およびビメンチンレベルの定量分析。 C:標準的細胞培養条件下(S)および1%O2で90時間での培養後にビメンチンおよび核(DAPI)に対して染色したMDA-468細胞の顕微鏡画像。ビメンチンおよびDAPIシグナルの合成画像を示す。ビメンチン陽性細胞を矢印で標識する。 D:MDA-468細胞株中のビメンチン陽性細胞の割合(%)。 E:乳癌細胞株BT20および3種類の扁平上皮癌細胞株に対するウエスタンブロット分析。 F:上皮増殖因子EGFでの細胞刺激後のCyr61誘導。刺激は標準的条件下で行った。
図8】MDA-MB-231(A)およびBC-M1(B)におけるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)分泌の検出。細胞をブレフェルジンAで処理してタンパク質分泌を遮断した。細胞培養培地の上清は分泌タンパク質分画を含有し、一方ペレットは剥離細胞を含有する。ウエスタンブロット画像は、Cyr61および78kDaグルコース制御タンパク質(Grp78;陽性対照)についての分析を示す。α-チューブリンを分析して、上清中の潜在的な細胞質タンパク質汚染を検出した。右側のグラフは、細胞培養フラスコからのタンパク質量に対するバランスシートを示す。3つの独立した実験の平均値を示し、数値として与える。標準偏差は縦線のエラーバーにより示す。MDA-231剥離細胞(未処理)の3つの複製物のうち2つについての総タンパク質量は50μgを下回ったので、この試料なしのウエスタンブロットを示す。(C)ウエスタンブロットによるインテグリンファミリーメンバーに対する、示される細胞株の分析。インテグリンファミリーからの最も顕著なCyr61受容体は、インテグリンαvおよびインテグリンβ3のヘテロ二量体であり、これらは両方とも高レベルでDTC細胞株に存在する。細胞を標準的条件下で培養した。
図9】ウエスタンブロットにおけるCyr61単離のためのウサギ抗Cyr61抗体(H78)およびCyr61検出のためのマウスモノクローナル抗体を用いた免疫沈降によるCyr61の単離。BC-M1およびMDA-MB-231からの全細胞溶解物を個々の免疫沈降に対する陽性対照とした。BC-M1からのCyr61免疫沈降物をBC-M1 Cyr61と命名し、MDA-MB-231についてはそれをMDA-MB-231 Cyr61と命名する。抗Cyr61抗体(H78)の代わりにIgGを使用するアッセイを免疫沈降の特異性に対する対照とした。陰性対照として、SDS試料緩衝液を分析した。実験は生物学的な3つ組(biological triplicates)で実施した。
図10】A:Santa Cruzの抗Cyr61抗体(H78)およびCell Signalingの抗体(CST)のウエスタンブロット分析。両抗体について、同じ細胞溶解物を適用した。CST抗体の分析のために、40μgのタンパク質を各レーンに適用し、一次抗体を1:500希釈した。H78抗体の分析のために、20μgのタンパク質を各レーンに適用し、一次抗体を1:1,000希釈した。定量分析はX線フィルムの濃度測定分析により行った。平均値は数値として与え、エラーバーは標準偏差を示す。B:1:10,000(左)および1:1,000(右)の希釈度での抗Cyr61抗体(H78)の評価のためのウエスタンブロット分析。ヒト組み換えCyr61の連続希釈物および特定の細胞株の全細胞溶解物を適用した。抗Cyr61抗体の非特異的検出の可視化のために、40μgのMCF-7細胞溶解物を適用した。これらのタンパク質試料を、様々な抗Cyr61抗体希釈物、ならびに様々なX線フィルムの露光時間で分析した。MDA-MB-468(MDA-468)、MDA-MB-231(MDA-231)およびBC-M1に対して、10μgの細胞溶解物を適用した。
図11】線形方程式の計算のための検量線。A.値は、図10Bで示されるようにウエスタンブロットの定量分析で測定した。x軸は組み換えCyr61に対するシグナル強度の値を示し、y軸は組み換えCyr61タンパク質のタンパク質量を示す。各測定点は3回の実験の平均値であり、x値の標準偏差は水平なエラーバーとして示す。嵌め込みは、式のパラメーターを示し、これはy=2.5678xとして計算され、yはCyr61のタンパク質量[μg]、xはX線フィルム上のシグナル強度[任意単位]である。B、C、D:組み換えCyr61に対するシグナル強度の値を伴うx軸および適用した組み換えCyr61タンパク質のタンパク質量を伴うy軸を含む検量線。各測定点は3回のELISAの平均値であり、x値の標準偏差は水平エラーバーとして示す。嵌め込みは、式のパラメーターを示し、これは、Cyr61のタンパク質量としてのy[μg]、ELISAリーダーにおけるシグナル強度(OD405nm)としてのx、および切片としての固定値からなる。B:MCF-7の分析用の検量線。C:細胞培養上清を分析するための検量線。D:MCF-7、MDA-MB-468、MDA-MB-231およびBC-M1の細胞溶解物および細胞培養上清の分析のための検量線。
図12】A:ELISAによる乳癌細胞株の細胞培養上清中のCyr61値の測定。細胞を標準的培養条件下で培養した。t=0時間の時点に対して、新鮮な培地を細胞に添加し、続いて各測定点に対してCyr61濃度を測定した。測定されたCyr61濃度(および既知の培地体積)および細胞数から、細胞あたりのCyr61数を計算した。B:BC-M1およびMDA-MB-231におけるCyr61分泌速度の測定。図12Aの実験以外に、細胞培養培地を12時間ごとに交換した。値は3回の独立した実験の平均値を示す。標準偏差は縦線のエラーバーで示す。C:Cyr61に対する健常ドナーからの血漿試料のウエスタンブロット分析。各ドナーから100μLの血漿を適用した。タンパク質精製工程を試料に適用したので、ドナー#1からの100μLの血漿に100ngの組み換えCyr61を添加することによってCyr61の回収率を分析した。BC-M1の細胞溶解物(精製工程なし)をさらなる対照とした。弱いシグナル強度を有する潜在的な非特異的バンドを特定するために、X線フィルムを15分間露光した。
図13】Sant Cruz H78(左)およびH2(右)の抗Cyr61抗体のウエスタンブロット分析。両抗体について、同じ細胞溶解物を適用した。H78およびH2抗体の分析のために、20μgのタンパク質を各レーンに適用し、一次抗体を1:1,000希釈した。α-チューブリンをローディング対照とした。
図14】マウス抗Cyr61抗体(H2)を用いた免疫沈降法によるCyr61の単離ウエスタンブロットによるCyr61の検出のために、ウサギ抗Cyr61抗体(H78)を使用した。MDA-MB-231からの細胞培養上清を免疫沈降に適用した(MDA-MB-231 Cyr61)。抗Cyr61抗体(H2)の代わりにIgGを適用して、免疫沈降の特異性に対する対照とした(MDA-MB-231 IgG)。組み換えCyr61は、単離Cyr61量の推定のための参照とした。陰性対照として、SDS試料緩衝液を分析した。細胞溶解物MDA-MB-231は、免疫沈降の特異性に対するさらなる対照とした。
図15】抗Cyr61抗体H78(左)およびH2(右)の評価のためのウエスタンブロット分析。一次抗体を1:10,000の希釈度で適用した。ヒト組み換えおよび精製Cyr61および特定の細胞株の全細胞溶解物の希釈系列を適用した。抗Cyr61抗体の潜在的な非特異的検出の可視化のために、40μgのMCF-7細胞溶解物をさらに分析した。MDA-MB-231(MDA-231)。
図16】線形方程式の計算のための検量線。検量線を図17で示す分析に使用した。x軸は組み換えCyr61に対するシグナル強度の値を示し、y軸は適用した組み換えCyr61タンパク質のタンパク質量を示す。嵌め込みは方程式のパラメーターを示し、Cyr61のタンパク質量としてのy[ng]、450nmでのELISAリーダーにおけるシグナル強度としてのx、および切片としての0.000928の固定値で、y=0.4118x+0.0009として計算した。
図17】ELISAによる、Cyr61量、5μg全細胞溶解物(A)および0.5μL細胞培養上清(B)の定量細胞溶解物および上清の純粋試料(薄灰色)、ならびに500pgの組み換えCyr61を添加した細胞溶解物および培養上清の試料(暗灰色)を試験した。数値は3回の実験の平均値を示す。標準偏差は縦線のエラーバーで示す。細胞を標準的培養条件下で培養し、細胞培養上清を72時間後に回収した。
図18】線形方程式の計算のための検量線。検量線を図19で示す分析に使用した。x軸は組み換えCyr61に対するシグナル強度の値を示し、y軸は適用した組み換えCyr61タンパク質のタンパク質量を示す。嵌め込みは方程式のパラメーターを示し、Cyr61のタンパク質量としてのy[ng]、450nmでのELISAリーダーにおけるシグナル強度としてのx、および切片としての0.00498の固定値で、y=0.40636x+0.00498として計算した。
図19】ELISAによるMCF-7の試料中のCyr61量の測定。A:細胞溶解物の分析。純粋な細胞溶解物(薄灰色)および組み換えヒトCyr61を添加した10μgの細胞溶解物(暗灰色)の試料を試験した。B:細胞培養上清の分析。純粋な細胞培養上清(薄灰色)および組み換えヒトCyr61を添加した20μLの細胞培養上清(暗灰色)の試料を試験した。数値は3回の実験の平均値を示す。標準偏差は縦線のエラーバーで示す。細胞を標準的培養条件下で培養し、細胞培養上清を72時間後に回収した。
図20】線形方程式の計算のための検量線。検量線を図21で示す分析に使用した。x軸は組み換えCyr61に対するシグナル強度の値を示し、y軸は適用した組み換えCyr61タンパク質のタンパク質量を示す。嵌め込みは方程式のパラメーターを示し、Cyr61のタンパク質量としてのy[ng]、450nmでのELISAリーダーにおけるシグナル強度としてのx、および切片としての0.00279の固定値で、y=0.40669x+0.00279として計算した。
図21】ELISAによるMDA-MB-231(MDA-231)の試料中のCyr61量の測定。A:細胞溶解物の分析。純粋な細胞溶解物(薄灰色)および組み換えヒトCyr61を添加した1μgの細胞溶解物(暗灰色)の試料を試験した。B:細胞培養上清の分析。純粋な細胞培養上清(薄灰色)および組み換えヒトCyr61を添加した75nLの細胞培養上清(暗灰色)の試料を試験した。数値は3回の実験の平均値を示す。標準偏差は縦線のエラーバーで示す。細胞を標準的培養条件下で培養し、細胞培養上清を72時間後に回収した。
図22】抗Cyr61抗体H78を用いたCyr61に対する健常ドナーからの血漿試料のウエスタンブロット分析。各ドナーから100μLの血漿を適用した。タンパク質精製工程を試料に適用したので、ドナー#1からの100μLの血漿に100ngの組み換えCyr61を添加することによってCyr61の回収率を分析した。BC-M1の細胞溶解物(精製工程なし)をさらなる対照とした。弱いシグナル強度を有する潜在的な非特異的バンドを特定するために、X線フィルムを15分間露光した。
図23】線形方程式の計算のための検量線。検量線を図24で示す分析に使用した。x軸は組み換えCyr61に対するシグナル強度の値を示し、y軸は適用した組み換えCyr61タンパク質のタンパク質量を示す。嵌め込みは方程式のパラメーターを示し、Cyr61のタンパク質量としてのy[ng]、450nmでのELISAリーダーにおけるシグナル強度としてのx、および切片としての0.00283の固定値で、y=0.40982x+0.00283として計算した。
図24】50歳を超える健常者の血漿試料へのCyr61 ELISAの適用。各データ点は、三つ組で分析した4名の個人からの血漿試料の平均値を示す。平均値は数値で、標準偏差は縦線のエラーバーとして示す。曲線は、値の非線形フィット(非比例的)を示す。対応する式は、形式y=2.341×x-1.050を有した。
図25】50歳を超える健常女性対照個体の血漿試料中のCyr61 ELISAの検出限界の測定。組み換えヒトCyr61を2.5μLの血漿体積に添加し、続いてELISAを適用した。検出限界を評価するために、各データ点についてスチューデントの両側t検定を使用して、添加したCyr61を含有する血漿と3種類の純粋血漿試料を比較した。各t検定のp値は数値として示す。0.05のp値は水平線として示す。
図26】乳癌患者の血漿中のCyr61の安定性試験全ての血漿試料は取得後-80℃で保存した。A:明白な転移の可視的徴候のない乳癌患者の血漿試料。試料は1998年および1999年に採取した。B:転移性乳癌患者の血漿試料。試料は2016年10月に採取し、購入後すぐに分析した。2016年10月、2017年4月および2017年8月に、全試料をELISAによりCyr61について反復して分析した。各試料を各時点で三つ組(in triplicates)で分析した。提示する値は平均値であり、標準偏差は縦線のエラーバーとして与える。経時的なCyr61値の僅かな増加は、試料処理の進行ゆえであり得る。
図27】ELISAによる健常対照者および乳癌患者からの100μL血漿中のCyr61レベルの測定。A:無差別に選択した健常ドナーのセットにおけるCyr61値。MDA-MB-231からの5マイクログラムの細胞溶解物(MDA-231)を陽性対照として使用した。B:試料取得時の50歳を超える女性健常者のセットにおけるCyr61値。C:転移性乳癌患者(薄灰色)および原発腫瘍の診断時に明白な転移の徴候がない患者(黒色)からの試料中のCyr61濃度。比較として、A(健常、暗灰色)およびB(女性50+、白いバー)で示されるCyr61濃度の平均値を示す。非特異的バックグラウンドの推定のために、100μL(100μL)の細胞培養培地を分析した。数値は3回の測定の平均値を示し、標準偏差は縦線のエラーバーにより示す。
図28】Cyr61サンドイッチELISAによる細胞培養上清の分析。MDA-MB-231およびMCF-7からの細胞培養上清を希釈系列で適用した。MDA-MB-231の場合、上清のCyr61濃度は1050μg/mLであり、100μLの試料を各測定点に適用した。単純化するために、MDA-MB-231上清100μLあたりのCyr61量の計算値をX軸上に指定する。各測定点について、MDA-MB-231およびMCF-7からの3つの値をスチューデントのt検定により分析した。0.125ngのCyr61量に対して0.031のp値が得られた。
図29】乳癌細胞におけるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)シグナルと健常対照者からの細胞との比較。 A:BC-M1、MDA-MB-468(MDA-468)、MDA-MB-231(MDA-231)および3名の健常志願者の血液単核球(PBMC)のウエスタンブロット分析。 B:サイトケラチンおよびCyr61に対する免疫細胞化学的二重染色による、健常ボランティアの血液(MDA-231およびBC-M1)および骨髄(MDA-231)試料への細胞株の添加後のCyr61検出。 C:乳癌患者のCyr61検出DTC。合成画像は、サイトケラチン、Cyr61およびDapiシグナルを重ね合わせたものである。単核細胞の濃縮は、フィコール密度遠心分離によって行った。顕微鏡倍率:400倍。
図30】乳癌細胞および健常対照者からの細胞におけるシステインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)の分析。A、B:免疫細胞化学的二重染色による、健常ボランティアの血液試料に乳癌細胞株BC-M1、MDA-MB-468(MDA-468)およびMCF-7を添加したものにおけるCyr61検出。全実験n=3。C:乳癌患者の末梢血の循環腫瘍細胞(CTC)におけるCyr61検出。CTCの位置を矢印で標識する。合成画像は、サイトケラチン、Cyr61、DapiおよびCD45(適用されている場合)シグナルを重ね合わせたものである。CTC分析の詳細については、図17を参照のこと。サイズに基づくCTC濃縮装置を用いて腫瘍細胞を単離した。顕微鏡倍率:400倍。D:低酸素微小環境から十分に酸素を含有する血液の区画への腫瘍細胞播種のシミュレーション。細胞株を1%O2下で14日間培養するか(14日)、または1%O2下で14日間培養して、続いて10%O2下で4時間培養した(14d 4時間)。Cyr61の応答をウエスタンブロットによって分析し(上)、定量的に分析した(下)。数値は、3回の独立した実験の平均値を示し、標準偏差は縦線のエラーバーにより示す。Cyr61はこの細胞株では検出されなかったので、MCF-7中のCyr61レベルは定量的に分析しなかった。S:標準的培養条件。
図31】患者6の血液試料からのCTCにおけるCyr61の検出(図27C参照)。核をDAPIで染色し、CD45を正常血液細胞に対する排除マーカーとし、汎サイトケラチンをCTC検出マーカーとして使用した。合成画像は、DAPI、CD45、サイトケラチンおよびCyr61チャネルを重ね合わせたものである。顕微鏡倍率は400倍であった。
図32】表3:CTCにおけるCyr61分析の詳細;実施例11。
図33】乳癌患者(n=786)対健常女性(年齢>50歳、n=124)の血漿中のCyr61レベルの感度および特異度の分析。受信者動作特性(ROC)曲線を、分析した全患者(A)、ステージT1サブグループ(B)およびDCISサブグループ(C)について示す。AUC:曲線下面積。CI:信頼区間。
【実施例
【0054】
実施例1
実施例1は、続く実施例2~11で使用される材料および方法に対する概要を提供する。
【0055】
材料および方法
患者。
Medical Association Hamburgの倫理委員会によって承認が得られた後、Helsinki rulesに従ってヒトの試験を行った。あらゆる研究関連手順の前に、全患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。University Medical Center Hamburg-Eppendorf,Germanyで治療を受けた乳癌の女性または健常対照者からの試料を使用した。CTC分析のために、遠隔転移について陽性の乳癌患者から血液を採取した。血漿中のCyr61検出のために、診断時に明白な転移の検出可能な徴候を示さなかった乳癌患者または転移性再発を有する患者からの血液を分析した。
【0056】
骨髄検体。
健常ボランティアの前腸骨稜および後腸骨稜の両方から骨髄を両側で吸引した(10mL/部位)。以下の手順は無菌条件下で行った。骨髄穿刺液をHBSS(Biochrom AG,Berlin,Germany)で洗浄し、PBS(Gibco/Life Technologies,Carlsbad,USA)中で希釈し、Ficoll Paque Plus(GE Healthcare,Munich,Germany)を用いた密度遠心分離によって分離した。単核細胞を相間の層(interphase layer)から回収し、10%ウシ胎児血清入りのPBS(Biological Industries,Kibbutz Beit Haemek,Israel)で2回洗浄した。骨髄単核細胞をガラススライド(Superfrost plus,Glaswarenfabrik Karl Hecht KG,Sondheim,Germany;スライドあたり単核細胞7×105個)上に遠心分離することによって、サイトスピンを調製した。スライドを一晩風乾し、-80℃で保存した。血液試料を、骨髄試料について記載のように処理し、スパイク実験(spiking experiments)については細胞株を健常個体の血液または骨髄に添加し、記載のように処理した。
【0057】
細胞株および培養条件(標準的細胞培養条件)。
DTC細胞株の培養は、基本的に記載のとおり行った(11)。DTC細胞株BC-M1(乳癌患者の骨髄から得られたもの)、LC-M1(肺癌患者の骨髄から得られたもの)、並びにPC-E1およびPC-M1(前立腺癌患者の骨髄から得たもの)の作製、認証および特性の詳細な概要が以前報告されている(12)。細胞株の詳細な特徴付けについては、参考文献(12、11)を参照のこと。簡潔に述べると、5%二酸化炭素および10%酸素の加湿環境にて37℃でDTC細胞株を培養した。培養培地は、10%ウシ胎児血清、2mM L-グルタミン、10mg/Lインスリン、5.5mg/Lトランスフェリン(全て、Life Technologies,Darmstadt,Germanyより)、50μg/L上皮増殖因子(EGF;Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,Germany)および10μg/Lヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF,Miltenyi Biotech)を補給したRPMI 1640であった。乳癌細胞株MCF-7は、American Type Culture Collectionから入手した。乳癌細胞株MDA-MB-468(MDA-468)、MDA-MB-231(MDA-231)およびBT-20は、Cell Lines Service(Eppelheim,Germany)から購入した。乳癌細胞株Hs578tは、Thomas Dittmar氏(university of Witten/Herdecke,Germany)の厚意により提供された。MDA-MB-231 MDA-MB-231 SA(13)およびMDA-MB-231 B02(14)の骨転移亜系統を10%FCSおよび2mM L-グルタミン入りのDMEM中で培養した。MDA-MB-231 B02は、Philippe Clezardin氏、MDA-MB-231 SAは、Theresa A.Guise氏の厚意により提供された。MDA-MB-231、MDA-MB-231 BRの(マウスにおける)脳転移性亜系統は、Frank Winkler氏(German Cancer Research Centre,Heidelberg,Germany)の厚意により贈られ、MDA-231に対して記載されるように培養した(以下参照)。
【0058】
10%ウシ胎児血清および2mM L-グルタミン(全てLife Technologiesより)を補給したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、MDA-468、MCF-7、PC-3、LNCAP、Du145、Hs578t、MDA-231、SCC25、Cal27およびBT-20を培養した。ErbB-2を過剰発現するMDA-468細胞(MDA-468 ErbB-2)、挿入物なしの発現ベクターを有する対応するG418耐性対照細胞(MDA-468対照)、および、Y1248リン酸化部位を欠くErbB-2発現ベクターのYF突然変異体(MDA-468PM)[23]を、培地に対して400μg/mLのG418を補充してMDA-468について記載のように培養した。細胞株は全て、加湿環境にて37℃で培養した。RPMI中で培養した細胞株を5%CO2存在下で維持し、DMEM中で培養した細胞株は10%CO2の存在下で維持した。DTC細胞株を除き、残留ガス混合物は大気であった。この研究において、これらの細胞培養条件を「標準的細胞培養条件」と呼ぶ。細胞株の蘇生後6か月以内にタンパク質試料を作製した。
【0059】
グルコース飢餓条件下または塩化コバルトの存在下、1%O2の存在下での細胞株の培養。
1%O2(低酸素)の存在下での細胞株の培養は、インキュベーターHeracell 15(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)を用いて行った。酸素分圧はN2によって調整した。グルコース不含培地(Glu0)中で細胞株を培養した場合、DMEM、グルコース不含およびRPMI、グルコース不含培地(両方ともLife Technologies)を使用した。1%O2の存在下でのグルコース飢餓実験のために、両条件を組み合わせた。他の培養条件は標準的培養条件と同じであった。HIF-1αの安定化のために、細胞を150μMの塩化コバルトとともに温置した。これらの実験に対して、他の全てのパラメーターは標準的細胞培養条件に対するものと同じであった。
【0060】
ブレフェルジンA処理。
培養細胞中のCyr61分泌を分析するためにブレフェルジンA(BFA)を適用した。BFAは、Merck(Calbiochem,Darmstadt,Germany)から購入し、10mg/mLの濃度でDMSOに溶解させた(保存溶液)。次いで、各75cm2細胞培養フラスコに対して5μg/mLの最終濃度まで、FCS不含の12mLの細胞培養培地中で保存溶液を希釈した。細胞を標準的細胞培養条件下でBFAとともに18時間温置した。対照細胞に対して、BFA不含のDMSOを適用した。培地のタンパク質が溶解緩衝液(9.8M尿素、15mM EDTA、30mM Tris)中で溶解しなくなるまで、遠心分離工程を0℃で行った。培地を回収し、2000×gで5分間遠心分離した。細胞ペレット(剥離細胞)を8mLのPBSで洗浄し、細胞を溶解緩衝液で溶解させ、以下のセクションに記載のように処理した。上清(細胞培養フラスコあたり12mL)をウルトラスピン遠心装置(Vivaspin 4、10,000Da MWCO、PESメンブレン;Sartorius-Stedim,Gottingen,Germany)によって200μLの体積に濃縮した。3mLの溶解混合物を添加した後、上清を再び200μLの体積に濃縮した。ウエスタンブロット用の細胞回収について記載のように、細胞ペレットを回収した。3つの分画(剥離細胞、細胞溶解物および上清)を下記のようにウエスタンブロットに供した。BFA実験のために、50μgのタンパク質をウエスタンブロットに適用した。
【0061】
サイズに基づくCTC濃縮。
腫瘍細胞濃縮のために、マーカー非依存性分離装置(Parsortix,ANGLE PLC,Surrey,United Kingdom)を適用した。Parsortixシステムは、癌患者の血液からCTCを捕捉するために、使い捨てカセット(細胞分離カセットcc3R、Parsortix)の形態でマイクロ流体技術を使用する。4mLの血液をBDバキュテナー(BD Belliver Industrial Estate,Plymouth,United Kingdom)に回収した。血液はカセットを通して自動的に送られた。カセットは、他の血液成分と比較してサイズがより大きい(≧10μm)ことに基づいてCTCを濃縮する。バックグラウンドを減少させるために、カセットがPBS(Life Technologies)で自動的に洗浄された。単離した腫瘍細胞を回収し、スライド(SuperFrost/Plus)上でサイトスピンし、下記のように染色した。健常者の血液を用いた細胞株スパイク実験のために、新鮮な血液をInstitute for Transfusion Medicine,University Medical Center Hamburg-Eppendorから受領した。乳癌患者からの臨床試料は、遠隔転移陽性の乳癌患者から採取した。
【0062】
細胞株、血液および骨髄試料中の免疫細胞化学的Cyr61検出。
細胞株を健常対照者の血液または骨髄試料に添加した。骨髄検体の分析またはサイズに基づくCTC濃縮のために、記載のように試料を処理した。サイトケラチン特異的抗体カクテルと組み合わせて抗Cyr61抗体(H78)を適用して免疫細胞化学的二重染色を行った。サイトケラチン抗体カクテルは、抗体AE1/AE3(マウスモノクローナル;affymetrix eBioscience,Frankfurt,Germany)およびC11(マウスモノクローナル;Cell Signaling Technology,Danvers,USA)からなる。個々の実験について述べた場合、AE1/AE3-Alexa Fluor488およびC11-Alexa Fluor 488の直接コンジュゲートを使用した。述べられる場合、Alexa Fluor 647(BioLegend,San Diego,USA)とカップリングされた抗CD45抗体を使用して、正常血液細胞の検出を行った。
【0063】
Epimet-Kit(AS Diagnostik,Huckeswagen,Germany)からの新たに希釈した溶液B(10mLのPBS中135μLの溶液B)とともに10分間温置する前に、スライドを30分間解凍した。PBSで3分間3回洗浄した後、細胞をPBS中の1%Triton X-100で10分間透過処理した。さらなる洗浄工程の後に、AB-Serum(Biotest,Dreieich,Germany)(PBS中10%)を用いて非特異的結合を20分間ブロッキング処理した。Cyr61に対する一次抗体を1:50希釈で添加し、室温で1時間温置した。希釈剤はPBS中10%AB-Serumであった。スライドをPBSで3回再度洗浄し、Alexa 546またはAlexa 532ウサギ抗マウス二次抗体(Molecular Probes,Eugene,USA)をPBS中の10%AB血清中で1:200希釈して45分間適用した。PBSで3回洗浄した後、サイトケラチン特異的抗体を適用し、60分間温置した。全ての場合において、希釈剤はPBS中10%AB-Serumであった。AE1/AE3 C11抗体カクテルについては、希釈はAE1/AE3の場合は1:700であり、C11は1:200希釈した。PBSでの3回の洗浄工程によって、残留しているサイトケラチン特異的抗体を除去した。非コンジュゲートサイトケラチン特異的抗体を適用した場合、二次Alexa 488ウサギ抗マウス蛍光色素抗体(Molecular Probes)を10%AB-Serum中1:200希釈で添加し、45分間温置した。さらなる洗浄工程(PBSで3回)の後、スライドをDapi(Vector Laboratories,Burlingame,USA)を含有するVectashield Mounting Mediumで被覆した。一次抗体および二次抗体の代わりに希釈培地を用いて染色対照を並行して実行し、顕微鏡Axioplan 2(Carl Zeiss AG,Oberkochen,Germany)を用いてスライドを手作業で評価した。
【0064】
Cyr61組織マイクロアレイ(TMA)。
以下に記載のように免疫組織化学的(IHC)染色によって、臨床乳房腫瘍試料中のCyr61のタンパク質発現を評価した。原発腫瘍におけるCyr61発現分析に対して、乳癌組織マイクロアレイ(TMA、参考文献[24]参照)を使用した。TMA生成のために、病理医によって選択され、3つの個別のアレイ上に配置された腫瘍の浸潤部分から0.6mmのコアを採取した。TMAブロックから6μmの切片を切り出した。組織学的タイプの評価およびグレード付けを含む術後診断は、全ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片に対して病理学者が評価した。陰性対照として、並行切片で一次抗体を省略した。245個の腫瘍試料が評価の対象となり、そのうち182個の原発腫瘍について臨床病理学的データが利用可能であった。染色強度および陽性細胞のパーセンテージに基づく免疫反応性スコアを用いて、病理学者Sabine RiethdorfがCyr61免疫染色を盲検的に評価した。各組織試料について、免疫染色された腫瘍細胞の割合を記録し、染色強度を3段階スケール(0、1、2)で推定した。次に、腫瘍を最初に、任意に事前に定められた基準に従って、非常に低い、強陽性および1つの中間群を含む3つの群に分類した。これらの群に対する正確な基準は次のとおりであった:0:非常に弱い(検出限界に近い、または全く染色なし);1:中程度((50%の細胞において)1+染色または(10%の細胞)で2+の染色);2:強い:(>50%の細胞で1+染色または>10%で2+の染色)。臨床的および病理学的可変要素の分布における比較のための統計学的分析は、ピアソンのカイ二乗検定またはフィッシャーの直接確率検定を使用して調べた。0.05未満のP値は統計学的に有意とみなした。臨床データは、最初の診断日から死亡まで、または最後のフォローアップまで評価した。統計学的分析は全て、SPSSソフトウェアバージョン21(Chicago,USA)を用いて実施した。
【0065】
Cyr61免疫組織化学染色。
TMAのIHC染色のために、抗Cyr61抗体(H78)ウサギポリクローナル(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,USA)を適用した。この抗体は前立腺癌でのTMA染色のために別のワーキンググループによって以前に適用された[39]。乳癌患者の顕微鏡スライド上のパラフィン包埋標本を適用した。標本を60℃で2時間温置し、続いて試料をそれぞれ10分間、キシレン中で2回温置することによって、パラフィンワックスを除去した。キシレンを除去するために、スライドを99%エタノール中で温置し、続いて96%エタノール中および80%エタノール中で温置した。各工程を2回行い、温置時間は各工程について2分間であった。水中での短時間の洗浄工程の後、試料をクエン酸緩衝液(pH6.0)中で120℃にて5分間オートクレーブ処理した。その後、切片をTBSTで5分間すすいだ。ペルオキシダーゼ処理は、Dako REAL Peroxidase-Blocking Solution(DAKO,Glostrup,Denmark)を用いて5分間行った。TBSTでの短時間の洗浄工程の後、抗Cyr61抗体を適用した。Dako Antibody Diluent(Dako)を用いて1:750希釈で抗体を使用し、4℃で一晩温置した。続いて、TBSTによる3分間の洗浄工程を3回行った。一次抗体の検出のために、製造元の説明に従って、DAKO REAL Detectionシステム Peroxidase/DAB(DAKO#K5001)からの標識されたポリマー-HRPおよび二次抗体を使用した。発色検出のために、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)を適用した。短時間の洗浄工程後、核をヘマルム(hemalum)染色(Merck,Darmstadt,Germany)によって可視化した。標本を80%エタノール中で温置し、続いて96%エタノール、99%エタノールおよびキシレン中で温置することによって乾燥させた。各工程はそれぞれ2分間2回行った。標本の保存には、Eukitt封入剤(Kindler,Freiburg,Germany)を使用した。骨髄転移の染色はTMAに対して記載のように行った。
【0066】
細胞株中のビメンチンの免疫細胞化学的検出。
Epimet-Kit(AS Diagnostik,Huckeswagen,Germany)からの新たに希釈した溶液B(10mLのPBS中135μLの溶液B)とともに10分間温置する前に、スライドを30分間解凍した。PBSで3分間3回洗浄した後、PBS中1%Triton X-100で10分間、細胞透過処理を行った。別の洗浄工程の後に、AB-Serum(Biotest,Dreieich,Germany)(リン酸緩衝食塩水中10%)を用いて非特異的結合を20分間ブロッキング処理した。ビメンチンの検出のために、ウエスタンブロットに対しても使用した抗ビメンチン抗体(BD Pharmingen,Erembodegem,Belgium;マウスモノクローナルクローンRV202)を適用した。抗ビメンチン抗体をPBS中10%AB-Serumで1:100希釈し、60分間温置した。希釈剤は、Background Reducing Components(DAKO)入りのDako Antibody Diluentであった。二次抗体として、Alexa 546ヤギ抗マウス蛍光色素抗体をPBS中10%AB-Serumで1:200希釈し、45分間温置した。さらなる洗浄工程(PBSで3回)の後、Dapi(Vector Laboratories)を含有するVectashield Mounting Mediumでスライドを被覆した。一次抗体および二次抗体の代わりに希釈培地を用いて染色対照を並行して実行し、顕微鏡Axioplan 2(Carl Zeiss AG,Oberkochen,Germany)を用いてスライドを手作業で評価した。
【0067】
ウエスタンブロットのための細胞回収および試料獲得。
細胞を37℃予熱リン酸緩衝食塩水で3回洗浄し、75cm2細胞培養フラスコあたり300μLの溶解緩衝液中で回収した。3つの同一工程(振幅100%;10秒)による超音波装置UP50H(Hielscher,Teltow,Germany)を用いた超音波処理によって細胞溶解物を氷上でホモジナイズし、室温で1時間温置した後、遠心分離し(15,000g、室温で5分間)、上清を回収した。末梢血単核細胞(PBMC)を1mLのPBSで洗浄した。次いで、細胞を溶解混合物中で温置し、超音波処理によってホモジナイズした。続いて、同量中、250μLの試料および共沈剤(2-D Quant Kitの構成成分)あたり600μLの沈殿剤(2-D Quant Kitの構成成分、GE,Healthcare,Uppsala,Sweden)を用いた沈殿によって、タンパク質を精製した(17)。精製タンパク質を100μLの9.8M尿素中で溶解させ、室温で1時間可溶化した。
【0068】
血漿試料からのタンパク質沈殿は、細胞株について以前に記載されたように実施した(33)。沈殿したタンパク質を9.8Mの尿素中で溶解させた。
【0069】
タンパク質濃度は、製造元の説明に従って、標準としてBSAを使用して、Pierce BCA Protein Asssay Kit(Pierce,Rockford,USA)を使用して測定した。試料を-80℃で保存した。試料の品質およびBCA試験結果の質は、コロイド状クーマシー染色SDSゲルによって確認した。染色手順は、Neuhoffに従って実施した(18)。
【0070】
SDS-PAGEおよびウエスタンブロット。
10%ポリアクリルアミド分離ゲルおよびLaemmli緩衝液系を用いて、Novex XCell Sure-Lockミニシステム(Invitrogen,Groningen,Netherlands)またはProtean II xi細胞(Bio-Rad,Hercules,USA)によってタンパク質分離を行った。試料をSDS試料緩衝液中で希釈し、95℃で5分間熱変性させ、ゲル上に載せた。分子サイズ標準は、peqGOLDタンパク質マーカーV(Peqlab,Erlangen,Germany)であった。ウエスタンブロット分析のために、他に特定される場合を除いて、試料あたり40μgのタンパク質を適用した。SDS-PAGE後、タンパク質をImmobilon-PSQ膜(Millipore GmbH,Schwalbach,Germany)に移した。タンクブロット転写ユニット(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を備えたminiVE垂直電気泳動システムを用いてタンクブロットによりタンパク質を転写した。「ウエスタンブロットのために使用する抗体(Antibodies used for western blot)」のセクションに記載される希釈液を使用して、製造元の説明に従って一次抗体を適用した。供給元からの実行可能な情報が利用可能でなかった場合、膜をTBST(ブロッキング緩衝液)中5%低脂肪粉乳(Roth,Karlsruhe,Germany)とともに1時間穏やかに撹拌しながらブロッキング処理した。これらの場合、一次抗体をブロッキング緩衝液中で希釈し、一晩穏やかに撹拌しながら4℃で膜に適用した。西洋ワサビペルオキシダーゼと複合化した適切な二次抗体(全てDAKO,Glostrup,Denmark)を個々の実験に対するシグナル強度に応じて1:500~1:10,000希釈で使用した。全ての二次抗体をブロッキング緩衝液で希釈した。製造元の指示に従って、ECL Prime Western Blotting Detection ReagentおよびX線フィルム(両方ともGE Healthcare)を使用してバンドを可視化した。GS-700画像デンシトメーター(Bio-Rad)を用いてX線フィルムをデジタル化した。デンシトメトリー分析は、Quantity oneソフトウェア(Bio-Rad)を用いて行った。各反応は生物学的三つ組(in biological triplicates)で行った。以下のストリッピング緩衝液を用いて膜をストリッピングした:7.56gのトリス、20gのSDS、7.8gの2-メルカプトエタノール、HCl用いてpH9.5に調整、1リットルになるまでH2O。使用前に、0.1gのDTTを25mLのストリッピング緩衝液に添加した。穏やかに撹拌しながら、膜を室温で1時間温置した。TBSTで洗浄した後、膜をブロッキング緩衝液とともに1時間温置し、異なる一次抗体を適用した。
【0071】
ウエスタンブロットのために使用する抗体。
抗体は以下の供給業者から購入した:抗AE1/AE3抗体、マウスモノクローナル、希釈率1:10,000。Affymetrix eBioscience,Frankfurt,Germany。BD Biosciences,Franklin Lakes,USA:抗インテグリンαv(CD51)、マウスモノクローナル、クローンClone 21/CD51、希釈率1:500。BD Pharmingen,Erembodegem,Belgium:抗ビメンチン抗体、マウスモノクローナルクローンRV202、希釈率1:5,000。Cell Signaling Technology,Danvers,USA:抗アルファチューブリン(11H10)抗体、ウサギモノクローナル、希釈率1:10,000。抗BiP(C50B12)抗体、ウサギモノクローナル(BiPはGrp78に対する同義語である)、希釈率1:1,000。抗Cyr61抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:1,000(MDA-MB-231、Hs578t、BC-M1、LC-M1)他の細胞株1:500。抗HIF-1α(D2U3T)、ウサギモノクローナル、希釈率1:1,1000。抗ラミンA/C抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:1000。抗PD-L1(E1L3N)抗体、ウサギモノクローナル、希釈率1:1000。抗インテグリン抗体は、抗インテグリンαvを除いて、インテグリン抗体サンプラーキット(Cell Signaling Technology)から得た。適用した希釈液は、抗インテグリンα5:1:1,000、インテグリンβ4(D8P6C)XP1:1,000、インテグリンα4(D2E1)XP1:500、インテグリンβ1(D2E5)1:2,000、インテグリンβ3(D7X3P)XP1:2,000、インテグリンβ5(D24A5)1:1,000。
【0072】
Abcam,Cambridge,United Kingdom:抗ErbB-2抗体、マウスモノクローナル(クローンCB11)、希釈率1:500。抗CXCR4抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:4,000。BD Biosciences,Heidelberg,Germany:抗インテグリンαv抗体、マウスモノクローナル(クローン21/CD51)、希釈率1:500。Cell Signaling Technology:抗AKT抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:5,000。抗ホスホAKT抗体(Ser473)、ウサギモノクローナル(クローン193H12)、希釈率1:500。抗αチューブリン抗体、ウサギモノクローナル(クローン11H10)、希釈率1:10,000。抗BiP抗体、ウサギモノクローナル(クローンC50B12)(BiPはGrp78に対する同義語である)、希釈率1:1,000。抗Cyr61抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:1,000(MDA-MB-231、Hs578t、BC-M1、LC-M1)他の細胞株1:500。抗EGF受容体抗体、ウサギモノクローナル(クローンD38B1)、希釈率1:1,000。抗HIF-1α、ウサギモノクローナル(クローンD2U3T)、希釈率1:1,000。抗インテグリンα5抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:1,000。抗インテグリンβ4抗体、ウサギモノクローナル(クローンD8P6C)、希釈率1:1,000。抗インテグリンα4抗体、ウサギモノクローナル(クローンD2E1)、希釈率1:500。抗インテグリンβ1抗体、ウサギモノクローナル(クローンD2E5)、希釈率1:2,000。抗インテグリンβ3抗体、ウサギモノクローナル(クローンD7X3P)、希釈率1:2,000。抗インテグリンβ5抗体、ウサギモノクローナル(クローンD24A5)、希釈率1:1,000。抗ラミンA/C抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:1,000。抗PD-L1抗体、ウサギモノクローナル(クローンE1L3N)、希釈率1:2,000。Epitomics,Burlingame,USA:抗Eカドヘリン抗体、ウサギモノクローナル(クローンEP700Y)、希釈率1:20,000。Merck(Calbiochem),Darmstadt,Germany:抗c-ErbB-2/c-Neu(Ab-3)抗体、マウスモノクローナル(クローン3B5)、希釈率1:4,000。Micromet,Munich.Germany:抗汎サイトケラチン抗体、マウスモノクローナル(クローンA45/BB3)、希釈率1:10,000。Novus Biologicals,Littleton,USA:抗N-カドヘリン抗体、ウサギモノクローナル(クローンEPR1792Y)、希釈率1:10,000。Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,USA:抗EGFR(1005)抗体、ウサギポリクローナル、希釈率1:5,000。抗Cyr61抗体(H78)、ウサギポリクローナル、希釈率1:1,000(MDA-MB-468、MCF-7、PBMC)または1:10,000(他の全ての細胞株)。抗Cyr61抗体(H2)、マウスモノクローナル、希釈率1:1,000(MDA-MB-468、MCF-7)または1:10,000(他の全ての細胞株)。
【0073】
細胞培養中のアミノ酸による安定同位体標識(SILAC)。
タンパク質発現プロファイルの分析のために、乳癌細胞株MDA-468およびBC-M1を選択し、他に特定したものを除いて、標準的細胞培養条件について記載のように培養した。他に記載がなければ、Pierce SILAC Protein Quantitation Kit(Pierce Biotechnology)からの指示に従った。DMEM以外、RPMIは、プロリンおよびヒドロキシプロリンを含有し、培地にプロリンを人工的に添加することなく、プロリンが誤って標識される可能性が避けられるので、タンパク質標識のためにBC-M1を選択した。SILACの場合はBC-M1 RPMI培地を、およびSILACの場合はMDA-468 DMEM培地を使用し、10%透析ウシ胎児血清(全てPierce Biotechnologyより)および2mM L-グルタミン(Life Technologies)を補給した。RPMIに、10mg/Lのインスリン、5.5mg/Lのトランスフェリン(両方ともLife Technologiesより)、50μg/LのEGFおよび10μg/Lのb-FGF(両方ともMiltenyi Biotec)をさらに補給した。136-アルギニン-HClおよび136-リジン-2HCl(両方ともPierce Biotechnology)を100mg/L RPMIの濃度で用いてBC-M1のタンパク質を標識した。MDA-468用のDMEMには、アルギニン-HClおよびリジン-2HCl(両方ともPierce Biotechnology)を補給した。滅菌濾過後にアミノ酸を培地に添加した。以下、これらの培地をSILAC培地(重および軽)と呼ぶ。顕微鏡による細胞の形態学的分析によって、7代の継代まで(それが±18日であることを含む)標準的細胞培養条件下で培養した細胞と比較して、SILAC培地中で培養した細胞の検出可能な形態変化は明らかにならなかった。
【0074】
質量分析のための分取用試料調製。
タンパク質の分取用標識化のために、標準条件下で75cm2細胞培養フラスコ中のSILAC培地中で3代にわたり細胞を継代培養した。細胞増殖に応じて、2~3日ごとに1:3または1:4の比率で細胞を分割した。異なる日付に培養した、それぞれが3代の継代の4本のフラスコを分析した。以下のプロトコールは1つのフラスコについて記載する。ウエスタンブロットに対して記載のように細胞回収を行い、細胞を400μLの溶解混合物(8M尿素/15mM EDTA/30mM Tris)中で溶解させた。超音波装置UP50H(3回の同一工程(振幅100%;10秒))を用いた超音波処理によって溶解物をホモジナイズ処理した。その後、室温で1時間試料を温置することによってタンパク質を溶解させ、続いて遠心分離(室温で12,000g、5分間)し、上清を回収した。その後、試料に0.05容量の1M DTT/1M Trisを補給し、激しく振盪しながら56℃で20分間温置した。DTTはまた、尿素からのイソシアネートイオンの潜在的形成に対する捕捉剤としても機能した。SH基の不可逆的遮断は、最終濃度200mMまでのIAAの添加により実施した。2M Trisを用いてpH値をpH9.5に調整した。次に、試料を室温で温置し、激しく振盪しながら30分間遮光した。その後、沈殿剤と同量で、500μLの試料および共沈剤(2-D Quant Kitの構成成分)あたり1.2mLの沈殿剤(2-D Quant Kit,GE Healthcareの構成成分)を用いた沈殿によって、タンパク質を精製した(17)。タンパク質を遠心分離(16,000gで5分間)によりペレット化し、80%アセトン中の1mLの80mMトリスで洗浄した。1mLの80mMアセトンでのさらなる洗浄工程によって残留汚染物質を除去した。精製タンパク質を100μLの9.8M尿素中で溶解させ、室温で1時間可溶化した。これに続いて、BCA試験を用いてタンパク質濃度を測定した。試料を9容量の100mM NH4HCO3 pH8.3で希釈した。試料のタンパク質20μgあたり1μgのトリプシンを添加することにより、タンパク質をトリプシン(トリプシンシークエンシンググレード、Roche,Mannheim,Germany)によって消化した。その後の分析のために、各細胞株(MDA-468およびBC-M1)のタンパク質380μgを1:1の比率で合わせた。その後、試料を激しく振盪しながら37℃で一晩温置した。
【0075】
ペプチド脱塩。
トリプシン消化後、逆相カートリッジ(Oasis HLB Plus Short Cartridge,225mg、60μm、Waters,Manchester,UK)を用いてペプチドを脱塩した。カートリッジを3mLの100%メタノール(MeOH)で調整し、5mLシリンジを用いて3mLの0.2%ギ酸(FA)、5%MeOH(洗浄緩衝液、HPLC-H2O中で溶解)で平衡化した。トリプシンペプチドを1mLの洗浄緩衝液中で溶解させ、1mLシリンジを使用してカートリッジ上に載せた。載せた後、カートリッジを3mLの洗浄緩衝液で洗浄し、3mLシリンジを用いて1.5mLの60%MeOHでペプチドを溶出した。スピードバックを用いて溶出液を蒸発させた。
【0076】
OFFGEL分画化。
OFFGEL分画装置(Agilent Technologies,3100 OFFGEL分画装置、Waldbron,Germany)を使用してそれらの等電点に従って脱塩ペプチドを分画化した。等電点電気泳動(IEF)に対して、24ウェル設定および直線的勾配pH4~7、24cmを有するIPGストリップ(GE Healthcare,Munich)を使用した。試料を3mLのローディング緩衝液(20%MeOH、1%IPG緩衝液[pH4~7]、HPLC-H2O中で溶解)中で溶解させ、150μLの試料体積を各ウェルに添加した。フォーカシングプロセス中の分画を乾燥から保護するために、試料なしの100μLローディング緩衝液を分画1および24に添加した。分画2および23に対して、50μLのローディング緩衝液を添加した。IEFは、50μAの最大電流および合計50kVhが達成されるまで300V~2500Vの範囲の典型的な電圧で行った。IEFの後、分画を回収し、スピードバックシステムを用いて乾燥させた。
【0077】
ナノUPLC-ESI-QTOF-MS/MS分析。
質量分析は、ナノUPLC(nanoAcQUITY,Waters,Manchester,UK)を備えたQTOF質量分析計(QTOF Premier,Micromass/Waters,Manchester,UK)で行った。QTOF測定のために、濃縮試料を30μLの0.1%FA中で溶解させ、4μLを捕捉カラム(nanoAcquity UPLC column,C18,180μm×20mm,Waters,Manchester,UK)に載せた。捕捉後、捕捉カラムを2%ACN、0.1%FA(5μL/分)で5分間洗浄した。ペプチドを分離カラム(nanoAcquity UPLCカラム、BEH 130 C18,Waters;100μm×100mm、500nL/min、勾配:A、HPLC-H2O中0.1%ギ酸;B、アセトニトリル中0.1%ギ酸、87分で2~50%B)に溶出させた。スプレーは、陽イオンモードにおいて、1520Vのキャピラリー電圧、100℃のイオン源温度および40Vのコーン電圧で、溶融石英エミッタ(I.D.10μm,New Objective,Woburn,USA)から生成させた。データはデータ依存性取得モード(DDA)で記録した。MSサーベイスキャンは、スキャン時間0.6秒およびスキャン間遅延0.05秒で、400~1500のm/z範囲にわたり行った。断片化のために、3つの最も多いシグナルを使用した。MS/MSスペクトルは、3.2秒のスキャン時間および15~35eVの衝突傾斜(collision ramp)で100~1500m/zから得た。多重断片化(multiple fragmentation)事象を防ぐためにオンライン排除(online exclusion)を使用した(排除時間:60秒、排除ウィンドウ:+/-0.1m/z)。較正のために、22eVの衝突エネルギーを用いて100~1500のm/z範囲にわたってロックスプレースペクトルを10秒ごとに記録した(1pMol/μL[Glu1]フィブリノペプチドB(Sigma,Munich,Germany))。
【0078】
以下の変更を加えて、定方向Cyr61ペプチドナノUPLC-ESI-QTOF-MS/MS分析を上記のように行った。ペプチドを分離カラム(nanoAcquity UPLCカラム、BEH 130 C18,Waters;75μm×200mm、200nL/min、勾配:A、HPLC-H2O中0.1%ギ酸;B、アセトニトリル中0.1%ギ酸、87分で2~50%B)上で溶出させた。MSサーベイスキャンは、スキャン時間0.6秒およびスキャン間遅延0.05秒で、400~1500のm/z範囲にわたり行った。断片化のために、2つの最も多いシグナルを使用した。MS/MSスペクトルは、0.95秒のスキャン時間および20~32eVの衝突傾斜(collision ramp)で100~1500m/zから得た。Cyr61検出のために包含リストを使用した:m/z1180.6389(+/-0.1Da)、保持時間:4174.8秒(+/-90秒)、スキャン時間:4.95秒、スキャン間遅延:0.05秒、衝突傾斜(collision ramp):20~32eV。
【0079】
ペプチドの同定。
ペプチド同定のために、生スペクトルを平滑化し(サビツキー・ゴーレイ法、平滑窓チャネル:3、平滑数:2)、中央に置いて(ピーク値の半分の最小ピーク幅:4、セントロイド:80%まで)、Protein Lynx Global Server version 2.5.2(Waters,Manchester,UK)を用いてロックマス補正した。結果のピークリストをmzMLファイルとしてエクスポートした。OpenMS Proteomic Pipeline(TOPP)(19)で、オープンソースのソフトウェアパッケージOpenMS(20)の一部であるグラフィカル・ユーザ・インタフェースTOPPASを使用して同定を行った。以下のパラメーター:前駆体の質量許容差を35ppmに設定し、フラグメントの質量許容差を0.1Daに設定し、2つの異なる検索エンジン(オープン質量分析検索アルゴリズム(OMSSA)(21)、XTANDEM(22)を用いて、ヒトデコイデータベース(ユニプロット、タンパク質知識ベース(UniProtKB)、www.uniprot.org)に対してmzMLファイルを検索した。さらに、切断の失敗を1回許容し、メチオニンの酸化、システイン上のカルバミドメチル化、ならびにリジンおよびアルギニンの両方上の136標識を可変修飾とみなした。その後、IDPostErrorProbabilityツールを用いて事後エラー確率を推定し、コンセンサスIDツールを用いて2つの検索エンジンからのペプチド同定に基づいてコンセンサス・アイデンティフィケーション(consensus identification)を計算した(23)。FalseDiscoveryRateツールを用いて、q値を計算し、正しいペプチド同定のための閾値をq値0.05に設定した。最後に、ペプチド同定ファイルをidXML-ファイルとしてエクスポートした。
【0080】
SILACの定量化。
SILAC定量化のために、massWolfファイルコンバーターを用いて生データファイルをプロファイルモードでmzXMLファイルに変換した。TOPPASを用いてシグナル処理を行った(19)。FileConverterツールを使用して、最初のmzXMLファイルをmzMLファイルに変換した。その後のデータ処理のために、mzMLファイルをFileFilterツールでフィルタリングした(MS1レベルのみ、rt-範囲[s]:1800-5000)。NoiseFilterSGolay(フレーム長:13、多項式次数:4)を用いて、フィルタ処理した生データを平滑化した。以下のパラメーターを使用し、SILACAnalyzerツールを用いて、SILACペアを同定および定量した。保持時間閾値を50秒に設定し、5カウントの強度カットオフを使用した。強度相関を0.6に設定し、2.5のモデル偏差を考慮した。SILACAnalyzerにより考慮されるために、ペプチドは少なくとも3つの同位体ピークおよび最大7つの同位体ピークを必要とした。標識は、リジンおよびアルギニンについては136に設定し、検出に対して、1つの誤切断を許容した。結果はコンセンサスXMLファイルとしてエクスポートした。同定したペプチドのデータセットは、idXMLファイルとして扱い、IDMapperツールを使用して対応するSILACペアと照合し、csvファイルとしてエクスポートした。CSVファイルをMathematicaにロードした。各SILACペアについて、軽ペプチドの強度を重ペプチドの強度で割ることによって比率を計算した。ペプチド比は、それらが割り当てられたタンパク質によって分類し、ペプチドの平均比はタンパク質比として使用した。
【0081】
データ分析のために、単一のタンパク質(ユニークペプチド)に適合するペプチド同定のみを考慮した。タンパク質は、4つの生物学的複製物のうち少なくとも3つにおいて特有のペプチドが検出された場合にのみさらに分析した。KまたはRで終わらなかったタンパク質のC末端由来のペプチドは手作業で除外した。1つのタンパク質について検出された全ペプチドの平均値および標準偏差を計算した。示差的に発現したと考えられるタンパク質は、p<0.05の統計学的有意性を有する倍数変化に関して2.0の値を超えなければならない(スチューデントのt検定)。
【0082】
細胞計数による増殖速度の測定。
増殖速度を測定するために、腫瘍細胞を最初に標準条件下にて6ウェルプレート中で培養した。1ウェルあたり15,000~25,000個の細胞を用い、1日間増殖させた。開始細胞数の測定のために、1つのウェルの細胞数を以下のように測定した。細胞をトリプシン処理によって剥離させ、死滅細胞を同定するために生体染色トリパンブルーを使用してNeubauer計数チャンバーに移した。細胞数を9つの正方形について測定し、ウェルあたりの細胞数をこれらの値について計算した。得られた細胞数を個々の実験に対する開始細胞数(t=0時間)の値とした。細胞をさらなるウェル中で並行して培養し、細胞培養のセクションに記載のように処理した。適切な時点の後、細胞を回収し、記載のように計数した。生物学的複製物は、独立した実験において同じ方法で実施した。
【0083】
グルコース飢餓下の細胞の形態学的分析は、顕微鏡Axiovert25(Carl Zeiss AG)を用いて行った。
【0084】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)。
試料調達:健常対照者または乳癌患者の血漿は、新鮮血液試料を2500×gで15分間遠心分離することによって得た。細胞培養上清を2500×gで15分間遠心分離することにより清澄化した。細胞株の全細胞溶解物については、細胞をLPIP緩衝液(140mM NaCl、50mM Tris HCl、pH7.5、1mM EDTA、0.05%NP40、10%グリセロール)で溶解させ、細胞溶解物を適切な希釈液中で適用した。希釈剤はPBSであった。血漿および細胞培養上清の場合、100μLの未希釈試料体積を適用した。組み換えヒトCyr61タンパク質は、Abnova(Taipei,Taiwan)から購入した。タンパク質濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kitを用いて測定した。
【0085】
腫瘍細胞試料中のCyr61の検出のために、ELISAを確立した。ピペッティング工程は100μLのマルチチャネルピペットを用いて行った。まず、96ウェルプレート(96ウェルプレート平底、costar,Sigma Aldrich)を抗Cyr61抗体(抗Cyr61抗体(H78)ウサギポリクローナル、Santa Cruz Biotechnology)でコーティングした。抗Cyr61抗体をPBS(Gibco/Life Technologies)中で3μg/mLの濃度に希釈し、25μLの希釈抗体を各ウェルに添加した。プレートを4℃で一晩温置した。未結合抗体を除去するために、ウェルを100μLの体積で3回洗浄した。最初にウェルをPBSで洗浄し、続いて0.02%Tween20入りのPBS(Roth,Karlsruhe,Germany)を用いて2工程行った。次に、ウェルあたり30μLのブロッキング緩衝液(0.02%Tween入りのPBS中5%脱脂粉乳[Roth])を用いて、ブロッキング緩衝液で2時間、室温にてブロッキング処理を行った。これに続いて、100μLの体積を用いて3回の洗浄工程を行った。最初にウェルをPBSで洗浄し、続いて0.02%Tween20入りのPBSを用いて2工程行った。試料中のCyr61検出のために、100μLの試料体積を各ウェルに添加し、室温で2時間温置した。次に、上記のように3回の洗浄工程でウェルを洗浄した。二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG-AP,Santa Cruz Biotechnology)をブロッキング緩衝液で1:3,000希釈し、その希釈液30μLを各ウェルに添加した後、室温で1時間温置した。記載のように、3回の洗浄工程でウェルを洗浄した。100μLの予め温めた基質溶液(パラ-ニトロフェニルホスフェート一成分マイクロウェル基質溶液、Southern Biotech,Birmingham,USA)を各ウェルに添加した後、反応物を暗所で室温にて30分間温置した。15μLの3N NaOHを添加することにより反応を停止させた。ELISAリーダー(NanoQuant infinite M200 pro,Tecan,Mannedorf,Switzerland)を用いて405~620nmで試料を分析した。患者群間のCyr61レベルの統計学的分析は、プログラムOriginPro 8.0(Northampton,USA)を用いて一元配置ANOVA検定で行い、p値<0.05を有意とみなした。
【0086】
サンドイッチELISAに対するCyr61 ELISAの改変が最近確立され、以下のように実施した。アッセイは、F8マキシソープ・ルーズ・ストリップ(maxisorp loose stripes)(Thermo Fisher,Waltham,USA)で行った。抗Cyr61抗体(H78)をPBS中で6μg/mLの濃度に希釈し、25μLの希釈抗体を各ウェルに添加した。アッセイを4℃で一晩温置した。次に、ウェルを100μLのPBSで洗浄し、100μLの0.02%Tween 20入りのPBS(Roth)で2回洗浄した。続いて、1ウェルあたり30μLを用いてウェルをブロッキング緩衝液でブロッキング処理し、室温で2時間温置した。ウェルを100μLのPBSで再度洗浄し、100μLの0.02%Tween 20入りPBS(Roth)で2回洗浄した。その後、100μLの試料、例えば未希釈血漿を各ウェルに添加し、室温で2時間温置し、続いて記載のように3回の洗浄工程を行った。検出抗体として、R & D Systems(Minneapolis,USA)の抗Cyr61抗体、マウスモノクローナル(クローン365108)を使用した。この抗体をPBS中で30μg/mLの濃度に希釈し、25μLの希釈物を各ウェルに適用し、続いて4℃で一晩温置した。記載のように、未結合抗体を3回の洗浄工程により除去した。二次抗体として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(P0447,Dako,Glostrup,Denmark)と結合したポリクローナルヤギ抗マウス抗体をブロッキング緩衝液で1:250に希釈し、30μLの希釈物を各ウェルに適用した。二次抗体を室温で1時間温置した。記載のようにアッセイを3回洗浄した。基質として、100μLのTMB一成分HRPマイクロウェル基質(E102,Bethyl Laboratories,Montgomery,USA)を各ウェルに添加した。15分間遮光して温置し、続いて100μLの1N硫酸を添加して反応を停止させた。ELISAリーダーNanoQuant infinite M200 proを用いて450nmでの吸光度を検出した。
【0087】
免疫沈降。
免疫沈降によるCyr61の分析のために、1~2×107個の細胞を適用した。細胞回収後、細胞を4℃で15分間、1450rpmでペレット化した。上清を廃棄し、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離によりペレット化した。細胞溶解のために、100μLのLPIP緩衝液、5μLの5M塩化ナトリウムおよび105μLの水を細胞ペレットに添加した。ホモジナイズ後、試料を4℃で5分間温置し、続いて4℃で15分間10,000×gで遠心分離した。ペレットを廃棄した。
【0088】
次に、400μLのLPIP緩衝液を各チューブに添加した。Cyr61の沈殿のために、20μLの抗Cyr61抗体(抗Cyr61抗体(H78)ウサギポリクローナル、Santa Cruz Biotechnology)を適用した。IgG対照アッセイのために、10μLの正常ウサギIgG-A(Santa Cruz Biotechnology)を使用した。試料を4℃にてローテータ中で温置した。3時間の温置後、25μLのビーズ(プロテインAセファロース、CL-4B/GE Healthcare)を各アッセイに添加し、さらに1時間4℃でローテータ上で温置した。その後、各アッセイにつき1mLのLPIP緩衝液を用いてビーズ-抗体コンジュゲートを洗浄し、続いて4℃で2,000rpmで遠心分離した。洗浄を4回繰り返した。50μLの試料緩衝液および5μLの還元剤(NuPAGE LDS試料緩衝剤4X、NuPAGE試料還元剤10X両者ともGibco/Life Technologies)を試料に添加し、続いてサーモサイクラー中で70℃にて温置することによって抗体を切断した。4℃、2000rpmで1分間スピンダウンした後、試料をSDS-PAGEによって分離した。SDS-PAGEは、XCell SureLock Mini-Cell 1ユニット、Thermo Fisher,Waltham,USA)、TruPageプレキャストゲル4~12%、12ウェル、およびTruPAGE TEA-トリシンSDSランニング緩衝液(両方ともSigma Aldrich)を使用して実施した。製造元の説明に従い、XCell IIブロットモジュール(Thermo Fisher)によって、Protanニトロセルロース膜(GE Healthcare)上にタンパク質を転写した。1:500希釈でR & D Systems(Minneapolis,USA)の抗Cyr61抗体、マウスモノクローナル(クローン365108)を使用して、Cyr61を検出した。
【0089】
改良酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)。
試料調達:健常対照者または乳癌患者の血漿は、新鮮血液試料を2500×gで15分間遠心分離する細胞培養上清を2500×gで15分間遠心分離することにより清澄化した。細胞株の全細胞溶解物については、細胞をLPIP緩衝液(140mM NaCl、50mM Tris HCl、pH7.5、1mM EDTA、0.05%NP40、10%グリセロール)で溶解させ、細胞溶解物を適切な希釈液中で適用した。希釈剤はPBS(Gibco/Life Technologies)であった。血漿試料の場合には、2.5μLの試料体積を適用した。組み換えヒトCyr61タンパク質は、Abnova(Taipei,Taiwan)から購入した。タンパク質濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kitを用いて測定した。
【0090】
ピペッティング工程は、TC-Plattes 96 Well,Standard,F(Sarstedt)を用いて100μLのマルチチャンネルピペットを用いて行った。ウェルのコーティングのために、Santa Cruz Biotechnology)の抗Cyr61抗体H2を適用した。抗体を10%FCS入りのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で1:250希釈し、35μLの希釈抗体を各ウェルに加えた。プレートを穏やかに撹拌しながら4℃で一晩温置した。未結合抗体を除去するために、ウェルを100μLの容量で3回洗浄した。最初にウェルをPBSで洗浄し、続いて0.02%Tween20入りのPBS(Roth,Karlsruhe,Germany)を用いて2工程行った。次に、ウェルあたり100μLのブロッキング緩衝液(0.02%Tween入りのPBS中5%脱脂粉乳[Roth])を用いて、ブロッキング緩衝液で非特異的結合に対してブロッキング処理を行った。穏やかに撹拌しながら4℃で一晩、アッセイを温置した。次に、記載のようにそれぞれ100μLの容量を用いて3回の洗浄工程を行った。血漿試料との温置のために、10%FCS入りの97.5μLのDMEM中で希釈した2.5μLの血漿をウェルに添加し、穏やかに撹拌しながら室温で2時間温置した。これに続いて、記載のようにそれぞれ100μLの容量を用いて3回の洗浄工程を行った。次に、抗Cyr61抗体H78(Santa Cruz Biotechnology)をウェルに添加した。抗Cyr61抗体を10%FCS入りのDMEMで1:500希釈し、35μLの希釈抗体を各ウェルに添加し、続いて室温で2時間、穏やかに撹拌しながら温置した。これに続いて、記載のようにそれぞれ100μLの容量を用いて3回の洗浄工程を行った。Cyr61の検出のために、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Dako,Glostrup,Denmark)と結合したポリクローナルヤギ抗ウサギ免疫グロブリン抗体をブロッキング緩衝液で1:250希釈し、35μLの希釈物を各ウェルに適用した。穏やかに撹拌しながら室温で1時間、反応物を温置した。これに続いて、記載のようにそれぞれ100μLの容量を用いて3回の洗浄工程を行った。次に、100μLのTMB一成分HRPマイクロウェル基質(Bethyl Laboratories,Montgomery,USA)を各ウェルに添加した。温置は室温で15分間遮光して行った。TMB基質用の停止溶液(Immunochemistry Technologies,Bloomington,USA)100μLを添加し、15分間穏やかに撹拌しながら暗所で温置することによって反応を停止させた。ELISAリーダーNanoQuant infinite M200 pro(Tecan,Mannedorf,Switzerland)を用いて450/620nmでの吸光度を検出した。標準として組み換えおよび精製Cyr61タンパク質を用いてOD値をCyr61濃度に変換した。
【0091】
改良Cyr61免疫沈降(IP)。
Cyr61の単離のために、MDA-MB-231細胞上で72時間であった、新たに回収した細胞培養上清100μLを使用した。ビーズ(Protein A Sepharose,CL-4B;GE Healthcare,Muhich,Germany)を500μLの冷IP緩衝液(Roche,Mannheim,GermanyのcOmplete ULTRA Tabletsプロテアーゼ阻害剤入りのLPIP緩衝液)中で懸濁した。次に、4μgのマウスモノクローナル抗Cyr61抗体H2(Santa Cruz Biotechnology)を添加した。対照アッセイにおいて、抗Cyr61抗体を正常マウスIgG-AC(Santa Cruz Biotechnology)で置き換えた。アッセイをローテータ上で4℃にて一晩温置した。未結合抗体を除去するために、ビーズを1mLのIP緩衝液で5回洗浄した(2,000×g、1分間)。ビーズを100μLの細胞培養上清および900μLの冷IP緩衝液中で懸濁し、ローテータ上で4℃にて3日間温置した。その後、各アッセイにつき1mLのLPIP緩衝液を用いてビーズ-抗体コンジュケートを洗浄し、続いて遠心分離した(2000×g、1分間)。洗浄を4回繰り返した。ペレット化したビーズに100μLのLaemmli試料緩衝液を加えることによって抗体を切断し、70℃に10分間加熱した。遠心分離(10,000×g、1分間)後、Cyr61の検出のために、抗Cyr61抗体H78(Santa Cruz Biotechnology)を用いたCyr61に対するウエスタンブロットによって上清のアリコートを分析した。
【0092】
実施例2- 間葉性マーカーとしてのCyr61の発見
癌患者の骨髄由来のmDTC細胞株(BC-M1:乳癌、LC-M1:肺癌、PC-E1およびPC-M1:前立腺癌)は、DTC生物学を研究するための有用なモデルとなった(12)。特に、BC-M1およびLC-M1は、ビメンチンの高発現などの間葉性の特徴を示したが、ある種のサイトケラチンの低発現など、一部の上皮特質を保持していた(図1A)。対照的に、基底様MDA-468乳癌細胞は、上皮表現型が優勢であるが、ビメンチンのような間葉性マーカータンパク質に富む腫瘍細胞の亜集団を含有する(下記参照)。播種過程へのより深い洞察を得るために、発明者らはSILAC(細胞培養中のアミノ酸を用いた安定同位体標識)およびLC-MS/MS質量分析によってBC-M1およびMDA-468のタンパク質プロファイルを分析した。BC-M1細胞は代謝性標識し、一方でMDA-468は対応する軽同位体の存在下で培養した。発明者らの要求を満たす唯一の検出タンパク質はCyr61であった。これらの実験において、Cyr61はMDA-468と比較してBC-M1で過剰発現した(図2の表1;図1B)。ラミン-A/Cは、LC-MS/MSアプローチにおいてBC-M1とMDA-468との間で差次的に発現されなかったタンパク質に対する例として提示される。これらの結果はウエスタンブロットにより確認された(図1C、D)。したがって、発明者らは、その後の分析においてCyr61に焦点を合わせた。
【0093】
実施例3- 間葉性特質を有する腫瘍細胞における高Cyr61タンパク質発現
顕著な間葉性表現型(Hs578t、BC-M1およびLC-M1)を有する腫瘍細胞は、Cyr61に対して陽性である(図1C、D)。上皮性および間葉性の特質を共有する乳癌細胞株MDA-MB-231(MDA-231)も高レベルのCyr61を示す。対照的に、上皮性の特質(MDA-468、MCF-7)を有する細胞株は、Cyr61の発現レベルが非常に低い。前立腺癌細胞株PC-E1およびPC-M1(図1E)におけるCyr61レベルは、BC-M1におけるレベルよりも低かった。したがって、発明者らの細胞株分析から、発明者らは、mCTC/mDTCが、サイトケラチンを僅かに発現しながら、Cyr61に対して陽性であると想定する。
【0094】
実施例4- 微小環境ストレスに対するCyr61応答およびPD-L1との同時発現
発明者らは、低酸素に重点を置いて、癌細胞を骨髄に播種する過程でCyr61レベルを分析するためのモデル系を確立した(図5)。
【0095】
発明者らは、発明者らのモデル系の開始条件(標準的細胞培養条件、図5A)で、Cyr61とHIF-1α(低酸素誘導因子1-アルファ)との非常に近い同時発現を認めた。HIF-1αは低酸素への代謝順応の主要な制御因子である。次に、発明者らは、時系列で1%O2に細胞を供することにより、骨髄の低酸素領域におけるDTCの定着をモデル化した(図5B)。MDA-231およびMDA-468において、Cyr61の下方制御には、低酸素の期間中、間葉性マーカータンパク質ビメンチンの誘導が付随した。Cyr61とHIF-1αとの逆相関は、Cyr61のHIF-1α依存性下方制御を示唆したが、この効果は1%O2下ではあまり明らかではなかった。これを明確にするために、発明者らは、標準的細胞培養条件の存在下で細胞を塩化コバルトで処理した(図5D)。コバルト(Co2+)はHIF-1αとフォンヒッペル-リンダウタンパク質との相互作用を阻害するが、これはHIF-1αの蓄積につながる(24)。これらの実験から、Cyr61のその後の下方制御を伴うHIF-1αの蓄積が明らかになった。次に、発明者らは、これらの腫瘍細胞が転移増殖中にインビボで低酸素状態に順応しなければならなかったと仮定して、MDA-231 MDA-231 SA(13)およびMDA-231 B02(14)の骨転移亜系統中のCyr61を分析した(図5E)。発明者らは、これらの細胞株においてCyr61およびHIF-1αの逆相関を認めたが、これはCo2+処理時のCyr61およびHIF-1αの細胞応答に合っている。発明者らはさらに、脳転移の観点での骨髄転移に関する発明者らの知見を試験するためにMDA-231、MDA-231 BRの脳転移亜系統を分析した。MDA-231 BRは、標準的培養条件下で培養したこの実験系統において分析した全ての細胞の中で最大のCyr61レベルを示す。
【0096】
低酸素症は、栄養素の不足が付随する腫瘍における非効率的な血液供給の結果であることが多い。したがって、発明者らは、グルコース飢餓に対する細胞応答を分析した(図5F)。BC-M1およびLC-M1では、グルコース飢餓時のCyr61発現の減少が検出されたが、一方で、MDA-231およびHs578t細胞ではCyr61誘導が観察された。MDA-468を低酸素およびグルコース飢餓に一緒に供した場合、Cyr61およびビメンチンの両方が誘導された(図5D、E)。
【0097】
腫瘍細胞が播種過程中に免疫監視から逃れなければならない患者の状況を考慮するために、発明者らはPD-L1(プログラム細胞死1リガンド1)レベルをモニターした。PD-L1は、T細胞による排除から腫瘍細胞を保護し、最近CTCで検出された(25)。PD-L1がHIF-1αを介して0.5%O2によって誘導され得ることに気付いたので(26)、発明者らは、骨髄に適切であるO2濃度(1%O2)に対する、またはCo2+処理による、PD-L1誘導の可能性を分析した。発明者らは、1%O2下でBC-M1およびHs578tにおいてPD-L1誘導を観察し(図5B)、両細胞株において、PD-L1はCo2+処理に応答して一時的に誘導される(図5D)。さらに、MDA-231 BRにおいて異常に高レベルのPD-L1が観察された(図5E)。これにより、BC-M1のような表現型を有するDTCが、インビボで骨髄に存在するような低酸素条件下でPD-L1レベルを維持することが可能であることが示され、発明者らのモデルがこの点で患者の状況と適合性であることが確認される。
【0098】
実施例5- PD-L1とのCyr61の同時発現および膵臓癌細胞株における頻繁なCyr61発現
発明者らは、Cyr61およびPD-L1のある一定の同時発現に気付いた(図5A)。この仮定を実証するために、発明者らは、異なる腫瘍実体のさらなる細胞株においてCyr61およびPD-L1を比較した(図6)。発明者らは、前立腺癌、乳癌ならびに頭頸部癌由来の細胞株について、Cyr61とPD-L1との間の同時発現を発見した(図6A)。これらの腫瘍実体において、腫瘍細胞播種は主に血行性またはリンパ系播種の何れかを介して起こる。
【0099】
対照的に、膵臓癌では、転移性の拡散は腹膜播種を介して起こることが多い(27)。分析した膵臓癌細胞株に対して、発明者らは、Cyr61レベルとPD-L1レベルとの間の逆相関を認めた(図6B)。
【0100】
さらに、膵臓癌は腫瘍細胞実体の一例であり、これは、炎症(膵炎)から発生し得、これは前悪性細胞の播種につながる(28)。発明者らは、4つ全ての分析において膵臓癌細胞株Cyr61を検出し、このことから、Cyr61膵臓癌の頻繁な発現が示唆される。
【0101】
実施例6- 低酸素条件下でのErbB-2発現に対するCyr61応答
トリプルネガティブ乳癌以外に、ErbB-2陽性腫瘍が示す間葉性特質を有する個々の腫瘍細胞は少数しかない(4)。したがって、発明者らは、ErbB-2が間葉性特質の獲得およびCyr61レベルに影響を及ぼし得ると想定した(図7A、B)。ErbB-2はMDA-468において過剰発現され、得られた細胞株はMDA-468 ErbB-2と名付けた。MDA-468対照細胞は挿入物なしの発現ベクターを担持し、MDA-468 PMはチロシン1248がフェニルアラニンにより置換されたErbB-2タンパク質を発現した(12)。標準的細胞培養条件下で、Cyr61発現は、MDA-468対照と比較して、MDA-468 ErbB-2において低下していた。低酸素状態に曝露した後、MDA-ErbB-2におけるCyr61発現値はさらにもっと減少した。MDA-468対照と比較して、MDA-ErbB-2およびMDA-468 PMは低酸素条件下でビメンチン誘導の減弱を示した。これは、ビメンチンに対する免疫蛍光染色によって細胞レベルで確認された(図7C、D)。
【0102】
実際、発現ベクターなしのMDA-468では低酸素下でCyr61が下方制御され(図5B)、一方でMDA-468対照についてはこれが観察されなかったので(図7A)、発明者らの細胞モデルは系統的誤差を含有する。したがって、発明者らは、独立した細胞株のセットにおいてCyr61の下方制御を確認した(図7E)。乳癌細胞株BT20および頭頸部癌からの3種類の扁平上皮癌細胞株を選択した。4種類全ての細胞株について、同時Cyr61下方制御を伴う低酸素下でのErbB-2誘導が観察された。
【0103】
さらに、MDA-468対照およびMDA-468 ErbB-2のEGF刺激は、Cyr61の大量の誘導につながる(図7F)。これらの実験は標準的細胞培養条件下で行った。
【0104】
実施例7- DTCにおけるCyr61分泌の発見
原発性腫瘍細胞はCyr61を細胞外間隙に分泌し得る。しかし、Cyr61がCTCまたはDTCによっても分泌され得るか否かは不明である。したがって、分泌されたCyr61の存在について、BC-M1 DTCの細胞培養培地を分析した(図8)。溶解した細胞がCyr61を放出し得ることを排除することはできないので、細胞をブレフェルジンA(BFA)で並行して処理した。BFAは小胞体からゴルジ装置へのタンパク質輸送を阻害する。細胞培養培地を剥離細胞から除去するために、培養培地を遠心分離した。可溶性分画を上清と名付け、不溶性破片を剥離細胞と名付けた。BFA処理はGrp78の活性化につながるので(30)、Grp78誘導を陽性対照とした。
【0105】
対応するBFA処理分画と比較した未処理上清対照におけるCyr61レベルの上昇が、MDA-231およびBC-M1において検出された(図8A、B)。さらに、非分泌細胞質タンパク質α-チューブリンの分析から、上清分画への細胞質タンパク質の検出可能な混入は明らかにならず、このことから、分析した細胞株における分泌Cyr61の検出が示唆される。
【0106】
分泌Cyr61の生物学的機能の誘導のために、細胞は適切なCyr61受容体の存在を必要とする。様々な異なるCyr61受容体の中で、インテグリンαvおよびインテグリンβ3のヘテロ二量体(インテグリンαvβ3)は最もよく研究されているCyr61受容体の1つである(34)。したがって、発明者らは、Cyr61受容体インテグリンαvβ3に重点を置いて、細胞株中の異なるインテグリンの存在を調べた(図8C)。インテグリンβ3が検出可能でなかったMCF-7を除いて、調べた全ての細胞株が機能的Cyr61-インテグリンαvβ3複合体の形成のための構造的前提条件を有する。DTC細胞株は非常に高レベルのインテグリンαvおよびインテグリンβ3を示す。さらに、MDA-231、MDA-231 SAおよびMDA-231 B02の骨転移亜系統は、親細胞株と比較して高レベルのインテグリンαVおよびインテグリンβ3を示す。
【0107】
実施例8- システインリッチ血管新生インデューサー61の検出のための酵素結合免疫吸着測定法の確立(Cyr61 ELISA)
ウエスタンブロットによる細胞株の分析。
最初に、抗Cyr61抗体(抗Cyr61抗体(H78)ウサギポリクローナル、Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,USA)が溶液中でCyr61に結合可能か否かを調べた。発明者らは、BC-M1およびMDA-MB-231の細胞溶解物についてCyr61免疫沈降(IP)を確立した(図9)。細胞株を標準的培養条件下で培養した。Cyr61タンパク質は、ウサギ抗Cyr61抗体(H78)を用いて捕捉し、マウス抗Cyr61抗体によってウエスタンブロットで検出した。これらのデータから、Cyr61が抗Cyr61抗体(H78)によって液体試料から単離され得ることが示される。
【0108】
次に、ウエスタンブロットにより、抗Cyr61抗体(H78)の品質をCell Signaling(CST)からの抗Cyr61抗体と比較した(図10A)。それらのCyr61レベルが異なる4種類の異なる細胞株からの細胞溶解物を分析した。両抗体が、およそ40kDaの分子量でシグナルを検出し、どちらの場合もウエスタンブロットにおいて優勢なシグナルであった。H78抗体は、特にMDA-MB-468のようなCyr61レベルが低い細胞溶解物において、CST抗体と比較して、バックグラウンドシグナルがより少なく、より明瞭なシグナルをもたらした。ウエスタンブロットの定量分析において、H78抗体を用いてBC-M1について最大のCyr61シグナルが検出され、一方でCST抗体の場合はMDA-MB-231について最大値が観察された。全実験について同じ細胞溶解物を使用したので、この効果が生体の効果の結果である可能性は低い。MDA-MB-231およびBC-M1の値に対するエラーバーが重なっているため、おそらくこれは測定精度の限界ゆえであり得る。あるいは、この効果は、2つの異なる抗体によるCyr61上の異なる認識部位ゆえであり得る。H78抗体によってバックグラウンドノイズのより少ないシグナルが得られたので、この抗体をELISAの確立に使用した。
【0109】
希釈系列のヒト組み換えCyr61の適用によってH78抗体をさらに分析した(図10B)。ウエスタンブロットによって、細胞溶解物中および組み換えCyr61タンパク質の試料中の両方でおよそ40kDaの分子量のバンドが示された。観察された分子量は、およそ39.5kDaの処理した(切断されたシグナルペプチド)の予想分子量と一致する。
【0110】
組み換えCyr61入りの試料の場合、およそ90kDaの分子量でさらなるシグナルが観察された。Cyr61は5個のジスルフィド架橋を有するので、これらのシグナルは、試料調製において完全には切断され得なかったCyr61二量体であり得る。
【0111】
X線フィルムの露光時間が長くなると、細胞株において弱い非特異的シグナルが検出された。これらの条件下で、特異的Cyr61シグナルは、メイヤー(mayor)部の全体シグナルを構成するが、非特異的シグナルが検出可能になる。特に、MCF-7の細胞溶解物からは検出可能な特異的Cyr61シグナルが得られず、分析した細胞株のうち非特異的バックグラウンドが最大であった。この知見はCyr61-ELISAの確立に極めて重要であるため、この細胞株における非特異的なバックグラウンドを可視化するために40μgのMCF-7細胞溶解物も適用した。
【0112】
組み換えCyr61希釈系列のシグナル強度から(図10B)、検量線を導き出した(図11A)。既知のCyr61タンパク質量のシグナル強度[任意単位]をプロットし、検量線(線形フィット)を導き出した。
【0113】
一次方程式は、y=2.5678x(式1)として決定され、yはCyr61のタンパク質量[μg]、xはX線フィルム上のシグナル強度とした。
【0114】
細胞株の細胞溶解物中の決定されたCyr61シグナル強度への式1の適用(図10B)により、細胞溶解物中のCyr61タンパク質の量(10μgの総タンパク質)の計算が可能になった。3回の実験のCyr61タンパク質の量の計算平均値は、
MCF-7:0.1ng±0.4ng
MDA-MB-468:6.5ng±5.4ng
MDA-MB-231:23.9ng±14.3ng
および
BC-M1:32.8ng±12.5ngであった。
【0115】
したがって、10μgのBC-M1細胞溶解物はおよそ33ngのCyr61を含有し、これは総タンパク質量の0.33%である。
【0116】
Cyr61 ELISA(下記参照)の場合とは異なり、細胞溶解物のタンパク質はそれらの質量に従って分離されたので、MCF-7におけるCyr61シグナル強度の値は、他の細胞株のCyr61シグナル強度から非特異的バックグラウンドとして差し引かなかった。これにより、これらの実験において特異的Cyr61シグナルからの非特異的シグナルの識別が可能になった。
【0117】
Cyr61 ELISAによる細胞株での技術的分析。
ウエスタンブロットによる細胞溶解物の分析と同様に、Cyr61をELISAにより分析した。最初に、既知のタンパク質量の組み換えCyr61を用いた検量線を希釈系列で作成した(図11B)。
【0118】
一次方程式は、y=64.104x+0.467として決定し(式2)、yはCyr61のタンパク質量[μg]、xはX線フィルム上のシグナル強度、切片は0.467の固定値であった。
【0119】
ウエスタンブロット分析において、MCF-7は、検出可能なCyr61シグナルはないが、ある程度の非特異的バックグラウンドを有する細胞株であることが認められた。これをさらに調べるために、タンパク質量を増加させた一連のMCF-7細胞溶解物を分析した。以下のOD405nm値が観察された:
【0120】
【表1】
【0121】
これらのデータは、非特異的バックグラウンドの量が細胞溶解物のタンパク質添加量に比例することを示す。例としてMCF-7の10μg値に式2を適用すると、その結果、17.26ng±0.67ngのCyr61の値が得られるが、これは、MCF-7においてCyr61に対する偽陽性(バックグラウンド値)と見なし得る。
【0122】
MCF-7試料からの値を分析しようとする試料から差し引いてバックグラウンドノイズのないCyr61定量を得ることができるという考えを検証するために、発明者らは、10μgのMCF-7細胞溶解物の試料に異なる量の組み換えCyr61タンパク質を添加して、OD405値を決定した。これらの値から、10μgのMCF-7細胞溶解物(0.261973327)について以前に測定されたOD405値を差し引いた後、式2をその値に適用した。得られる値はカラム4および5で示す:
【0123】
【表2】
【0124】
得られた値(カラム4)と入力値(カラム1)を比較したところ、偽陽性Cyr61値が大部分除去されることが示される。
【0125】
Cyr61 ELISAの確立の主な焦点は、分泌されたCyr61を分析するための細胞培養上清からの分析であった。したがって、発明者らはMCF-7細胞培養上清を分析した。
【0126】
Cyr61はウエスタンブロットにより分析されたMCF-7細胞溶解物中で検出可能ではなかったので、発明者らはCyr61がMCF-7中で合成されない(または非常に低いレベルでのみ合成される)と想定した。したがって、細胞溶解物において行われた実験と同様に、上清がバックグラウンドの減算に適用され得るように、Cyr61はMCF-7において分泌されないと想定する可能性がある。
【0127】
細胞溶解物における実験と同様に(図11B)、細胞培養上清の分析のために、組み換えCyr61を用いた検量線を作成した(図11C)。
【0128】
検量線に対する得られた式は、y=63.528x+1.1162(式3)であり、yはCyr61のタンパク質量[μg]、xはELISAリーダーにおけるシグナル強度(OD405nm)であり、切片は1.1162の固定値であった。
【0129】
MCF-7の細胞培養上清に対するOD405値が、培養上清の適用容量[μL]に比例するか否かを試験した。
【0130】
【表3】
【0131】
細胞株で行われた実験の結果と同様に、OD405値は、MCF-7細胞培養上清の量が増加するにつれて上昇する。MCF-7培養上清50μL値を式3に適用すると、その試料中のCyr61タンパク質量の計算値(偽陽性)は2.15ng±1.18ng Cyr61となる。
【0132】
次に、MCF-7試料からの値を分析しようとする試料から差し引いてバックグラウンドノイズなしでCyr61定量を得ることができるか否かを試験した。したがって、発明者らは、50μLのMCF-7細胞培養上清の試料に組み換えCyr61タンパク質を添加した。得られた値から、50μLのMCF-7上清に対して以前に測定されたOD405値(0.016325)を差し引いて、次いで式3をその値に適用した。得られる値は、カラム4および5で示す:
【0133】
【表4】
【0134】
得られた値(カラム4)と入力値(カラム1)を比較したところ、偽陽性Cyr61値が大部分除去されることが示される。
【0135】
これらの結果は、Cyr61レベルが細胞培養試料中で正確に測定され得ることを示唆するので、この手順を新しいセットの細胞株試料に適用した。再び、組み換えCyr61を用いた検量線を作成した(図11D)。検量線に対する対応式は、
y=63.914x+0.4226(式4)
であり、yはCyr61のタンパク質量[μg]、xはELISAリーダーにおけるシグナル強度(OD405nm)であり、切片は0.4226の固定値であった。
【0136】
次に、細胞株MCF-7、MDA-MB-468、MDA-MB-231およびBC-M1からの細胞培養上清50μLを分析した(以下のカラム1)。MCF-7の上清に対する値を他の細胞株の値から差し引いて、得られた値に式4を適用した。Cyr61のタンパク質量[ng]はカラム4で示す。
【0137】
【表5】
【0138】
したがって、BC-M1の細胞培養上清50μLは44.3ng±1.0ngのCyr61を含有した。
【0139】
50μLの個々の細胞培養上清に50ngの組み換えCyr61を添加することによってこれらの値の品質を評価し、再度分析した。この場合、50ngのCyr61を試料に添加したので、MC-7の値を処理した。したがって、他の細胞株と同様に、MCF-7の測定値から細胞培養上清の以前の値(0.018244)を差し引いた。これに続いて、4種類全ての細胞株からの値に式4を適用した。期待値は、Cyr61および添加した50ngの添加された組み換えCyr61について以前に計算した値の合計である。例 BC-M1:44.3ng+50ng=94.3ng:
【0140】
【表6】
【0141】
試料の細胞溶解物を用いて対応する実験を実施した。細胞溶解物のタンパク質5μgを添加した。MCF-7の値を他の細胞株の値から差し引いて、式4を用いることによって、得られた値を処理した:
【0142】
【表7】
【0143】
したがって、5μgのBC-M1全細胞溶解物は62.2ng±0.6ngのCyr61を含有する。
【0144】
細胞培養上清と同様に、50ngの組み換えCyr61を試料に添加することによって品質評価を実施した。試料から、MCF-7の以前の値(0.094796667)を差し引き、タンパク質量[ng]を式4によって計算した:
【0145】
【表8】
【0146】
MCF-7におけるこれらの試料中のCyr61の計算量が予想より少ない(検出45ng対50ng予想)にしても、他の3つの試料についての期待値は観察値(例えばBC-M1に対して計算値110.5ng対期待値112ng)に対して十分に適している。これは、Cyr61 ELISAが全細胞溶解物および細胞培養上清中のCyr61レベルの定量分析に対する適したツールであるという考えを裏付ける。
【0147】
試料中でCyr61のタンパク質量はngで測定し得るので、試料中のCyr61分子の量を計算することが可能である。計算は、44ngのCyr61の値を提供したBC-M1上清の試料について提示される。切断シグナルペプチドを用いて、処理されたCyr61について計算を行う。
【0148】
仮定:m(Cyr61)=44ngおよびM(Cyr61)=39438.4g/molとする。
【0149】
検索:n(物質量[mol])。
式は:m=n×M
変換率:n=m/M
値の挿入:n=44ng×39438.4g/mol
収量:n=1,12×10-12mol
【0150】
アボガドロ定数と物質量とを乗じると、試料中のCyr61分子数が得られる:
分子数=1.12×10-12mol×6,022×1023
分子数=6.77×1011
【0151】
したがって、この試料中の50μLのBC-M1上清は6.77×1011分子のCyr61を含有した。
【0152】
同様の計算過程により、他の細胞培養上清についても以下の値が得られる(50μLの体積の細胞培養上清について)。
BC-M1細胞培養上清:6.77×1011±1.48×1010個の分子、
MDA-MB-231細胞培養上清:5.23×1011±1.06×1010個の分子、
MDA-MB-468細胞培養上清:1.39×1011±8.68×109個の分子。
【0153】
細胞溶解物の計算により、5μgの細胞溶解物中に以下の量のCyr61分子が得られる:
BC-M1細胞溶解物:9.50×1011±9.66×109個の分子。
MDA-MB-231細胞溶解物:7.39×1011±8.86×109個の分子。
MDA-MB-468細胞溶解物:1.71×1011±9.71×109個の分子。
【0154】
これらの分析は、Cyr61の確立における技術的問題にのみ言及する。生物医学的結論を可能にする、細胞培養上清中の分泌されたCyr61の分析は、以下のセクションに記載する。
【0155】
ウエスタンブロットの結果とELISAによって得られる結果とを比較したところ、両方のアプローチが同等の値を提供したことが示された。両方のアプローチ間の違いは、ELISAと比較してウエスタンブロットアプローチの感度がより低いことが主な原因であり、これは、組み換えCyr61での検量線上で見られ得る。その結果、ELISAアプローチのダイナミックレンジは、ウエスタンブロット分析よりもはるかに大きい。さらに、ELISA測定に対するエラーバーは、ウエスタンブロット分析の場合よりもはるかに小さかった。その点から、ELISAは、感度、ダイナミックレンジおよび精度の点でウエスタンブロット法よりはるかに優れている。
【0156】
対照的に、ウエスタンブロット法の固有の利点は、SDS PAGEにおけるタンパク質分離ゆえに、特異的Cyr61シグナルと非特異的バックグラウンドシグナルとを識別することができることである。ELISAアプローチは、同様の分画工程を含有しないので、真のCyr61シグナルと非特異的バックグラウンドとを区別することはより困難である。この問題は、非常に特異的な抗Cyr61(H78)抗体を適用することによって、およびバックグラウンドノイズ低減工程を導入することによって対処し得る。したがって、ウエスタンブロット後のX線フィルムの大規模な過剰エクスポジション(exposition)後にMCF-7細胞溶解物中で非常に弱いシグナルが検出された場合でも、MCF-7に対するCyr61値が定義によりゼロであることに留意しなければならない。しかし、これらのシグナルは、非特異的結合でもあり得る。さらに、このようなバックグラウンド減算法には、MCF-7のプロテオームに存在するタンパク質しか含まれない。他のタンパク質、例えばMDA-MB-468では非特異的シグナルを生じさせ得るがMCF-7において欠如し得るタンパク質はこのアプローチでは考慮されない。それにもかかわらず、このアプローチはELISAにおいて信頼できる値を提供する。この分析は、非常に低いCyr61値では、計算値が実際よりも僅かに低くなるという考えを裏付ける。その限りにおいて、発明者らのアッセイは、ある程度、偽陽性の結果よりも偽陰性の結果を生じる傾向がある。
【0157】
Cyr61 ELISAによる細胞株での生物学的分析。
ウエスタンブロットによる細胞株中のCyr61値の測定は、SDS PAGE上の添加タンパク質の量を指す。このアプローチは分泌タンパク質には適用できないので、分泌Cyr61に対する代替の標準化参照系を確立した。この系は、細胞数および培養時間を含むので、Cyr61分泌速度は、細胞および1日あたりのCyr61分子の数におけるCyr61分泌速度として決定され得るようになる。
【0158】
したがって、定められた細胞数を播種した。定められた培養時間にわたり、細胞培養上清を回収し、各時点について細胞数を測定した。試料中のCyr61分子数を計算するために、組み換えおよび精製Cyr61の標準を分析した。Cyr61分子の数の計算は上記のとおり行った。これらの分析結果を図12Aで示す。細胞あたりのCyr61分子数は、各測定点に対する細胞数を考慮に入れており、一方でCyr61濃度は細胞数に関係なく計算される。t=0の時点に対して、新鮮な培地を細胞に添加した。
【0159】
細胞は迅速にCyr61を培地に分泌した(0時間対24時間)。その後、Cyr61濃度は経時的に著しく一定であり、個々の細胞株に特異的であると思われる。
【0160】
Cyr61の予想外の迅速な分泌ゆえに、改変してBC-M1およびMDA-MB-231について実験を繰り返した(図12B)。その場合、12時間ごとに細胞培養培地を新鮮な培地と交換し、回収した培地をCyr61について分析した。これらのデータは、BC-M1およびMDA-MB-231がその条件下で図12Aにおいて観察されるよりも48時間でより多くのCyr61を分泌可能であることを示す(例えばBC-M1 0時間対48時間:0対48時間に対して、図12Aの772ng/mLおよび図12Bでは469+463+527+527ng=1983ng/mL。特に、Cyr61分泌速度は、経時的に培地除去の繰り返しの後にMDA-MB-231において上昇した(図12B)。結果として、細胞は、12時間以内に、24時間にわたり図12Aで検出されたCyr61量の殆どを分泌した(図12A:0時間対24時間999ng/mLおよび図12B:48時間954ng/mL)。
【0161】
これらのデータから、局所的なCyr61濃度は細胞数よりもむしろ個々の細胞株に依存することが示唆される。Cyr61濃度のこの的確な維持は、細胞中のCyr61測定および調節装置を示唆し得る。おそらく、小さな腫瘍細胞コロニーでさえも、細胞を取り囲む局所的なCyr61濃縮微小環境を生じる。これらのCyr61値はCyr61分子の一定の新規合成および分解を伴う定常状態をおそらく反映することに留意しなければならない。
【0162】
実施例9- システインリッチ血管新生インデューサー61の検出のための酵素結合免疫吸着測定法(Cyr61 ELISA)の改良
細胞株
システインリッチ血管新生インデューサー61(Cyr61)の検出のための上記ELISAの改良のために、2つの抗Cyr61抗体を適用した。1つの抗体は、ヒトCyr61のアミノ酸163~240に対して産生されたウサギポリクローナル抗Cyr61抗体H78であった。他方の抗体は、ヒトCyr61のアミノ酸345~381に対して産生されたマウスモノクローナル抗Cyr61抗体H2であった。両抗体とも、Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,USAのものであった。
【0163】
第一に、ウエスタンブロットにより一連の細胞株において、H78およびH2抗体のCyr61認識プロファイルを調べた(図13)。両抗体とも、およそ40kDaに1本の単一バンドのみを示した。さらに、細胞株におけるCyr61シグナル強度の分布は両抗体について類似していた。
【0164】
次に、抗Cyr61抗体(H78)が溶液中でその標的Cyr61に結合可能であるか否かを調べた。したがって、発明者らは、MDA-MB-231の細胞培養上清におけるCyr61免疫沈降(IP)を確立した(図14)。細胞株を標準的培養条件下で培養した。Cyr61タンパク質は、マウス抗Cyr61抗体(H2)を用いて捕捉し、ウサギ抗Cyr61抗体(H78)によってウエスタンブロットで検出した。Cyr61のIPのために、1.05ng/mLのCyr61濃度を有する200μLのMDA-MB-231細胞培養上清、従って総量210ngのCyr61を適用した。免疫沈降物の20%をウエスタンブロットに対して適用した。免疫沈降Cyr61のシグナル強度は、50ngの組み換えCyr61のシグナル強度と同程度であり、このことから、培養上清からの単離Cyr61の収率が100%に近いことが示唆される。
【0165】
Cyr61 ELISAの確立のために、H78およびH2抗体を分析した。希釈系列でのヒト組み換えCyr61タンパク質および細胞溶解物の適用によって両抗体を調べた(図15)。
【0166】
ウエスタンブロットから、両抗体に対して、細胞溶解物中でおよそ40kDaの分子量の1本の単一バンドが示された。観察された分子量は、およそ39.5kDaの処理した(切断されたシグナルペプチド)の予想分子量と一致する。組み換えCyr61試料については、およそ80kDaの分子量でさらなるシグナルが観察された。Cyr61は5個のジスルフィド架橋を含有するので、これらのシグナルは、試料調製において完全には切断され得なかった、ジスルフィド架橋により連結されるCyr61二量体であり得る。
【0167】
組み換えCyr61に対して得られたシグナル強度をMDA-MB-231およびHs578t細胞溶解物中のシグナル強度と比較することにより、細胞溶解物中のCyr61量の推定が可能になる。H78抗体の場合、MDA-MB-231およびHs578tにおけるシグナル強度はおよそ1ngのCyr61に対応する。10μgの細胞溶解物を分析したので、1μgのMDA-MB-231またはHs578t細胞溶解物は、H78抗体によって検出する場合、100pgのCyr61を含有する。同様に、H2抗体の適用により、細胞溶解物は10μgあたりおよそ2.5ngのCyr61または1μgの細胞溶解物あたり250pgのCyr61を含有する。
【0168】
ウエスタンブロット分析から、抗Cyr61抗体H78およびH2がELISAにおける適用に適切であり得ることが示唆されたので、これらの抗体をさらに評価した。ウエスタンブロット分析は、MDA-MB-231(MDA-231)およびHs578tにおいて高レベルのCyr61を示し、MCF-7およびSKBR3においては検出可能なシグナルは示されなかった。したがって、Cyr61-ELISAの確立のための陽性対照または陰性対照としてこれらの細胞株を選択した。
【0169】
細胞株のELISA分析に対して、既知のタンパク質量の組み換えCyr61を用いた検量線を希釈系列で作成した(図16)。
【0170】
一次方程式は、y=0.4118x+0.0009(式1)として決定され、yはCyr61のタンパク質量[ng]、xは450nmでのOD(光学密度)であり、切片は0.0009の固定値であった。一連の試験試料の細胞溶解物および細胞培養上清中のCyr61量の決定のために式1を使用した(図17)。5μgのMDA-231細胞溶解物中413pgおよびHs578tの細胞溶解物中に414ngのCyr61が検出された一方で、MCF-7およびSKBR3ではシグナルは観察されなかった(図17A)。これらが特異的なCyr61シグナルであることを確認するために、500ngの組み換えCyr61を試料に添加した。その後、MDA-231に対する値は935pgに増加し、Hs578tについては930pgの値が検出された。MCF-7およびSKBR3の場合、500pgの組み換えCyr61を試料に添加した後、503pgのCyr61がそれぞれの細胞溶解物中で検出された。Cyr61は細胞外間隙に分泌され得るので、他の分泌タンパク質がELISAの特異性に影響を及ぼし得る可能性があり得る。ELISAがCyr61を他の分泌タンパク質と特異的に識別するか否かを試験するために、細胞培養上清を分析した(図17B)。細胞質Cyr61について陽性であった細胞株は、細胞培養上清中のCyr61についても陽性であった(MDA-231、Hs578t)が、一方で、細胞質においてCyr61に対して陰性であった細胞株(MCF-7、SKBR3)は細胞培養上清中のCyr61についても陰性であった。これらの細胞株の細胞培養上清中に500pgの組み換えCyr61を添加すると、検出されたCyr61値が、各細胞株に対しておよそ500ng上昇した。
【0171】
さらに、ELISAによる検出Cyr61量を、ウエスタンブロットによって検出されたものと比較し得た。MDA-231およびHs578tにおいて、H78抗体を使用しておよそ100pg/μgのCyr61が検出され、H2抗体を使用して、Cyr61の量はウエスタンブロットにより250pg/μg Cyr61であった。ELISAから、MDA-231およびHs578tに対して、およそ83pg/μgのCyr61の値が得られた。
【0172】
ELISAにおける潜在的な非特異的シグナルを同定するために、Cyr61陰性細胞株MCF-7の細胞溶解物および培養上清をさらに分析した。検量線に対する式は、
y=0.40636x+0.00498(式2)であり、yはCyr61のタンパク質の量[ng]、xは450nmでのODであり、切片は0.00498の固定値であった(図18)。MCF-7の一連の試験試料の細胞溶解物および細胞培養上清中のCyr61量の決定のために式2を使用した(図19)。
【0173】
非特異的タンパク質結合によるELISAでの偽陽性シグナルは、MCF-7における適用タンパク質量に比例するシグナル強度として検出可能である(図19A)。実際に、同様の値が検出され、これは適用したタンパク質量とは独立していた。MCF-7細胞溶解物10μgに異なる量の組み換えCyr61を添加すると、予想よりも僅かに低いCyr61値が得られた。このことから、このアッセイがCyr61値を過小評価する傾向があること、およびMCF-7細胞溶解物におけるバックグラウンド値が非特異的結合に由来しないことが示唆される。細胞培養上清に対して対応する実験を実施した(図19B)。MCF-7細胞培養上清の容量の増加は、バックグラウンドノイズとして割り当てられ得る一定の低い値を示した。20μLの細胞培養上清への異なる量の組み換えCyr61の添加は、精度範囲内でCyr61の量を正確に反映する。
【0174】
MDA-231の試料をMCF-7の試料と同様に分析した。MDA-231に対する検量線は図20で示され、検量線は、形態:y=0.40669x + 0.00279(式3)を有し、yはCyr61のタンパク質の量[ng]、xは450nmでのELISAリーダーにおけるシグナル強度であり、切片は0.00279の固定値であった。
【0175】
MDA-231細胞溶解物に対する分析は図21Aで示し、培養上清に対しては図21Bで示す。1マイクログラムのMDA-231細胞溶解物は、これらの測定において80pgのCyr61を含有し(図21A)、これは組み換えCyr61を用いたスパイク実験のための参照値とし得る。例えば、1μgのMDA-231細胞溶解物中に50pgの組み換えCyr61を添加した後、140pgのCyr61が試料中で検出され、これは予想よりも10pg多い。細胞培養上清の場合(図21)、75nLのMDA-231細胞培養上清に対して、93pgのCyr61が検出された。75nLの上清に50pgの組み換えCyr61を添加すると、151pgのCyr61の値が得られ、これは予想よりも8pgCyr61が多かった。
【0176】
潜在的に、細胞培養上清に対して、ELISAは、Cyr61量が少ないときに予想されるよりも僅かに高い値を与えた。これは、一連のMDA-231培養上清の希釈系列で見られ得、ここで、10倍の試料体積の増加は、Cyr61の量の計算値の10倍上昇未満であった。
【0177】
患者試料
血漿試料には細胞培養試料以外のタンパク質が含有され得るので、確立されたCyr61-ELISAを患者試料の分析に適用し得るか否かを調べた。第一に、H78抗体を用いたウエスタンブロットによって、健常対照者の血漿中のCyr61の状態を試験した(図22)。これは、抗Cyr61抗体の他のタンパク質への非特異的結合の情報を提供し得る。100μLの血漿の適用の結果、SDSゲルバンドが大きく歪んだので(図示せず)、発明者らはタンパク質精製工程を適用した。Cyr61がこの精製工程で回収されることを確認するために、100ngの組み換えCyr61を患者試料の1アリコートに添加した。
【0178】
ドナー#3の試料においてのみ、およそ40kDaの質量の弱く非特異的なシグナルが検出された。X線フィルムの他の部分は非特異的シグナルを示さず、このことから、健常者の血漿は非常に低いレベルの可溶性Cyr61しか示さず、抗Cyr61抗体は血清中でCyr61を特異的に検出することが示唆される。
【0179】
次に、健常ドナーからの血漿試料の分析に対してCyr61 ELISAを適用した。検量線は図23で示され、形態:y=0.40982x+0.00283(式4)を有し、yはCyr61のタンパク質量[ng]、xは450nmでのELISAリーダーにおけるシグナル強度であり、切片は0.00283の固定値であった。
【0180】
50歳を超える女性健常個体の血漿試料における分析を図24で示す。これらの分析から、血漿中のCyr61値がMDA-231の培養上清と比較して低いことが示された。さらに、試料中のCyr61量の計算値は血漿量の増加とともに低下した。この効果に対する1つの理由はバックグラウンド減算後の残存OD値が小さいことであり、それは、バックグラウンド減算が全ての場合において完全ではないからである。この残存する小さい値もまた、1ミリリットルあたりのナノグラムへの変換中に増倍されるので、この残存値は試料体積の減少とともに上昇する。
【0181】
乳癌患者ならびに健常対照者の血漿試料の分析について、2.5μLの血漿を分析した(図24)。これらの分析から、試料中のCyr61の真の存在ではなく不完全なバックグラウンド減算からの結果である1.1ng/mLのCyr61のバックグラウンド値の存在が示唆される。さらに、これらの分析から、健常個体の大きな体積の血漿を分析する場合、Cyr61測定結果がゼロに近いことが示唆された。
【0182】
50歳を超える健常女性個体の血漿試料を用いて、Cyr61 ELISAの検出限界を決定した。乳癌患者の分析には2.5μLの血漿を適用したので、図25で示される実験も2.5μLの血漿を用いて実施した。この実験において、組み換えCyr61を健常個体の血漿試料に添加し、検出されたOD値をCyr61添加なしの血漿のOD値と比較した。これらの分析から、陰性試料からのCyr61陽性試料の正しい識別の確率が、Cyr61の量の減少とともに低下したことが示された。陰性試料から有意に識別され得るCyr61の最低量(p=0.05;スチューデントのt検定)は、1.3pg Cyr61(p=0.022)であったが、0.6pgのCyr61は有意に同定され得なかった(p=0.299)。
【0183】
2.5μLの血漿中の1.3pgのCyr61の適用は、520pg/mLのCyr61濃度である。1.3pgのCyr61の場合、Cyr61濃度の計算値は1.707ng/mLであった。2.5μLの血漿体積に対して、1.109ng/mLの偽陽性値が測定された(図25)。検出値からこの偽陽性値を差し引くと、試料中に存在するCyr61濃度は、1.707ng/mL~1.109ng/mL=0.598ng/mLとなる。これは、1.3pgの検出限界で78pg/mLまたは質量0.195pg Cyr61の偏差である。
【0184】
血漿試料中のCyr61安定性
乳癌患者の血漿試料中でCyr61の安定性を分析した。加えて、これらの測定から、乳癌患者の血漿中のCyr61濃度に対する最初の洞察がもたらされた(図26)。最初の試料セットは、1998年および1999年に取得された、明白な転移の可視的徴候のない乳癌患者の血漿試料(ステージM0)を含んでいた(図26A)。発明者らは、試料取得時から発明者らの最初の測定までのCyr61濃度の潜在的な変化を評価し得なかった。このような潜在的な変化を特定するために、第2の試料セットを分析した。第2セットは、診断時の転移性乳癌患者からの新鮮血漿試料(M1、図26B)からなり、それらを2016年10月の血液試料の調達直後に分析した。全ての試料を-80℃で保存し、2.5μLの血漿の適用によるCyr61濃度の分析のために解凍した。
【0185】
Cyr61に対する最初の測定は2016年10月に行い、1.5~223.6ng/mLのM0乳癌患者(n=15)におけるCyr61濃度の平均値が112.5±71.5ng/mLとなった。M1乳癌患者(n=14)の場合、Cyr61濃度は58.3ng/mL~286.9ng/mLの範囲であり、平均値は141.1±78.1ng/mLであった。
【0186】
新たに取得した血漿試料中のCyr61濃度は、取得時(2016年10月)、2017年4月および2017年8月に測定した(図26B)。全体として、Cyr61濃度は経時的に著しく一定のままであり、その後の測定において初期Cyr61濃度(2016年10月)と同様であった。1998年および1999年に取得した試料中の初期Cyr61濃度(図26A)は未知であった。実際に、2016年10月、2017年4月および2017年8月に測定したCyr61濃度は、各時点について各試料で同様であった。大部分の試料について、反復測定においてCyr61濃度の僅かな上昇が観察されたが、これはELISAの取り扱いが経時的に漸進的進歩したが故であり得る。
【0187】
これらの分析から、Cyr61は少なくとも調達後最初の10か月間は血漿試料中で非常に安定しており、Cyr61レベルは凍結融解サイクルによって影響されないことが示唆された。1998年および1999年に取得した試料は、新たに分析した試料と同程度の安定性を示した。それゆえ、Cyr61の安定性のため、血漿試料は試料取得時のCyr61濃度を正しく反映し得ると考えられる。
【0188】
結論
確立されたCyr61 ELISAは、細胞株試料(全細胞溶解物および培養上清)から、ならびに患者試料からのCyr61の検出に適している。ELISAの重要な構成要素である、2つの一次抗体H2およびH78は、対照として組み換えヒトCyr61タンパク質を使用して、これらの試料中のCyr61への特異的結合を示した。特に、両抗体は、ELISAと比較してウエスタンブロットにおいて同様の定量的結果を提供し、これは発明者らが異なる用途に使用し得る非常に均質でロバストな系を確立したことを示す。
【0189】
他の市販のELISAについての詳細は通常業務上の秘密であり、一方で一次抗体は発明者らのアッセイで記載する。マウスモノクローナル抗Cyr61抗体とウサギ抗Cyr61抗体との組み合わせは、必要な特異性をアッセイに付与する。さらに、Cyr61に対する2つの抗体の認識部位は明確に分離され(H78についてはaa163~240、H2についてはaa345~381)、これにより、高感度で立体障害が最小限であるCyr61の特異的検出が可能になる。
【0190】
ELISAに対して、発明者らは、試料中に存在するCyr61に結合する捕捉抗体としてH2抗体を適用した。免疫沈降法を用いて、発明者らは、H2が試料中に存在するCyr61のおよそ100%を捕捉可能であることを示し得た。
【0191】
発明者らのELISAから、例えば1~1000pg Cyr61の、数桁の大きさにわたる線形ダイナミックレンジが示され、これにより、1回の実験で希釈度および濃縮度が高い試料から信頼性の高いCyr61の定量が可能となる。ELISAの検出限界は、血漿試料中の1.3pgのCyr61より低い。発明者らの経験からは、この感度は、乳癌、前立腺癌、肺癌または肝臓癌のような様々な異なる癌からの血漿試料を分析するのに間違いなく十分である。
【0192】
他のELISAではあまり対処されない1つの興味深い特質は、患者試料における不完全なバックグラウンド減算から生じ得る偽陽性値の影響である(図24参照)。発明者らは血漿試料に対してこの影響に対処し、この影響を考慮に入れる式を提供する。これらの研究により、偽陽性の結果の数が減少する。
【0193】
さらに、発明者らは、試料の具体的な要件に従いELISAを設計し、評価できるようにするプロテアーゼ阻害剤カクテル、尿素、塩化ナトリウム、SDSなどのような試料中に存在する可能性がある様々な物質との適合性についてELISAを分析した(結果は示さず)。
【0194】
発明者らのELISAは記載の成分から設計されるので、1つの個々の実験に対して必要なウェルの正確な量を調製することが可能であり、これにより実験の費用効率が高まる。さらに、シグナル強度を失うことなく、試料の温置の前後にELISAウェルを-20℃で保存することが可能であり、これにより、実験設計の柔軟性が高まり、より大きな実験設定の設計がさらにサポートされる。
【0195】
実施例10- Cyr61 ELISAによる乳癌患者の血漿中のCyr61レベルの分析。
血液試料のプロテオームは癌細胞株の場合とは異なるため、発明者らは、確立されたCyr61-ELISAを血液試料の分析に適用し得るか否かを調べた。血中の可溶性Cyr61を検出するために、血漿を分析した。
【0196】
第一に、ウエスタンブロットによって、健常対照個体の血漿中のCyr61の状態を試験した(図12C)。細胞株における分析と同様に、これは抗Cyr61抗体の非特異的結合の情報を提供し得る。100μLの血漿の適用の結果、SDS-ゲルバンドが大きく歪んだので、発明者らは、ここで分析した試料に対してタンパク質精製工程を適用した。Cyr61がこの精製工程で回収されることを確認するために、100ngの組み換えCyr61を患者試料の1アリコートに添加した。
【0197】
ドナー#3の試料においてのみ、およそ40kDaの質量の弱く非特異的なシグナルが検出された。X線フィルムの他の部分は非特異的シグナルを示さず、このことから、健常者の血漿は非常に低いレベルの可溶性Cyr61しか示さず、抗Cyr61抗体は血清中のCyr61を特異的に検出することが示唆される。
【0198】
ウエスタンブロットにより抗Cyr61抗体の特異性を確認した後、以前に記載されたようにCyr61-ELISAを血漿試料に適用した(図27)。ヒト材料に対して行われた全アッセイに対して、100μLの血漿を3つ組(in triplicates)で分析し、値をCyr61濃度[ng/mL]に対して計算した。患者試料をタンパク質精製工程なしで分析した。最初に、健常個体から自由裁量で選択された14名(性別、年齢に関係なく;図27A)の血漿を分析した。参考値として100ngの組み換えCyr61を分析した。
【0199】
血漿中に存在するメイヤー(mayor)タンパク質はアルブミンであるので、発明者らはさらに、主要タンパク質成分としてウシアルブミンを含有する10%の精製ウシ胎児血清を含む細胞培養培地を分析した。ゆえに、細胞培養培地について2.78±0.26ng/mLの得られた値は、非特異的バックグラウンド値と見なされ得る。
【0200】
健常対照者からの試料中のCyr61濃度計算値は2.27±0.35ng/mL~5.71±0.60ng/mLの範囲であった。全14試料の平均値は3.47±1.40ng/mLであった。乳癌は50歳を超える女性に頻繁に発生するので、発明者らは血液試料取得時に50歳を超えていた20名の健常女性からの血液試料を分析した(図27B)。この群において、血漿中のCyr61濃度は1.93±0.39ng/mL~3.98±0.66ng/mLの範囲であった。全20試料の平均値は3.07±0.26ng/mLであった。
【0201】
同様に、転移性乳癌患者および原発腫瘍の診断時に明白な転移がない乳癌患者(M0)からの血漿試料中のCyr61値を分析した(図27C)。転移性乳癌患者(n=7)からの試料の平均Cyr61値は115.4±84.1ng/mLであった。値は、個々の患者において56.6±1.1ng/mL~297.4±2.5ngの範囲であった。非転移性(ステージM0)の癌患者(n=17)については、13.9±0.49ng/mLのCyr61に対する平均値が検出され、その値は、個々の患者においては11.0±0.8ng/mL~15.4±1.2ng/mLの範囲であった。
【0202】
分析した全健常者(n=35)と分析した全癌患者(M0およびM1;n=22)との間のCyr61レベルは統計学的に有意に異なっていた(p=1.36×10-5)。非転移性(M0;n=17)および転移性患者(M1;n=7)の比較に対して、p=3.70×10-5の統計学的に有意な値が得られた。
【0203】
これらの分析から、乳癌患者の血漿が健常対照と比較して高いCyr61値を示し、Cyr61値が転移進行の過程で上昇したことが示された。
【0204】
癌患者からの血漿試料の分析に対してCyr61 ELISAを適用し得る。健常対照者、特に50歳を超える女性個体の血漿試料のCyr61値は非常に低かった。これらの値は、腫瘍細胞のない細胞培養培地の値に匹敵し、これを非特異的対照として分析した。それにもかかわらず、発明者らは、ヒト試料に対する実際の値が計算値よりも僅かに低くなり得るように、血漿試料での分析に対してバックグラウンド減算を行っていない。
【0205】
発明者らは、最近、Cyr61 ELISAをサンドイッチELISAに変更した。最適化プロトコールは方法のセクションに記載する。MDA-MB-231(陽性対照)およびMCF-7(陰性対照)からの細胞培養上清において得られたこのアッセイの例を図28で示す。このアッセイにより、0.125ngのCyr61量に対して、MDA-MB-231の上清中のCyr61を統計学的に有意に検出することが可能となった(p=0.031、スチューデントのt検定)。これらの実験のために、1050μg/mLのCyr61濃度を有するMDA-MB-231の細胞培養上清を適用した。標準として組み換えCyr61を用いて濃度を測定した。MDA-MB-231およびMCF-7の細胞培養上清を希釈系列で適用した。MDA-MB-231から得られた値の場合、検量線が導き出された。0.5ngの組み換えCyr61を添加した細胞培養培地の試料にこの検量線を適用した。この試料の吸光度に対する検量線の適用から、0.48ngのCyr61の値が得られた。
【0206】
このCyr61アッセイの最初の適用として、発明者らは、診断時からの、明白な転移の徴候のない5名の乳癌患者の試料を健常個体の5試料と比較した。乳癌患者に対して、発明者らは、平均値10.3ng/mL±9.2ng/mLが検出され、健常個体に対しては1.0ng/mL±0.4ng/mLの値が認められた。
【0207】
ELISAによるCyr61の検出の場合、メイヤー(mayor)構成成分は、抗Cyr61抗体(H78)ウサギポリクローナル(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,USA)、R&D Systems(Mnneapolis,USA)の抗Cyr61抗体、マウスモノクローナル(クローン365108)およびELISAリーダー(例えば、適用される個々の基質に適した波長での、NanoQuant infinite M200pro,Tecan,Mannedorf,Switzerland)である。陽性対照は、MDA-MB-231またはHs578tまたは市販の組み換えヒトCyr61(Abnova,Taipei,Taiwan)の細胞培養上清である。これらの細胞株の上清に対する値は、0.9~1.4μL/mLの範囲であるはずである。細胞培養上清は、細胞上で少なくとも48時間維持するべきである。陰性対照は、MCF-7もしくはGI101由来の細胞培養上清または新鮮な細胞培養培地であり得る。ヒト血漿試料の分析のための適切なアプローチは、血漿単独と比較される健常対照者の血漿に添加される組み換えCyr61を用いた希釈系列の作製である。血漿中のCyr61濃度は通常1ng/mL(健常者)、10ng/mL(転移のない乳癌)~100ng/mL(転移性乳癌)の範囲である。
【0208】
次に、発明者らは、Cyr61検出のために、抗Cyr61抗体H2およびH78を含むELISAを用いて、乳癌患者の血漿試料中のCyr61濃度を調べた(図24図25)。血中の可溶性Cyr61を検出するために、血漿を分析した。乳癌は50歳を超える女性に頻繁に発生することが多いので、発明者らは血液試料取得時に50歳を超えていた健常女性の血液試料を分析した。発明者らは、Cyr61タンパク質の検出用に特別に開発した発明者らの酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて、786名の乳癌患者および50歳を超える124名の健常女性の血漿2.5μLを分析した。健常女性は、0.588±0.187ng/mLのCyr61濃度を示したが、一方で乳癌患者(n=786)は25.6±41.3ng/mLという高いCyr61濃度であった。注目すべきことに、乳管内上皮内癌(DCIS、n=74)またはステージT1乳癌(n=386)を有する患者が示したCyr61レベルは既に上昇していた(それぞれ31.8±45.8ng/mLおよび29.0±44.3ng/mL)。健常対照と乳癌患者との間のこの異なるCyr61パターンゆえに、発明者らは、その後、ROC分析を使用して乳癌の検出のためのCyr61の感度および特異度を求めた(図33)。全乳癌患者に対して、発明者らは感度69.8%および特異度100%であると判断した。早期(T1)浸潤性乳癌の患者では、感度は71.5%、特異度はまた100%であった。意外にも、発明者らのアッセイは、同様の精度で乳房の乳管内上皮内癌(DCIS)病変さえも検出可能であった(感度74.3%;特異度100%)。これらの高い特異性は、全ての健常対照がCyr61に対して実質的に陰性であったという事実によるものであった。
【0209】
実施例11- 乳癌患者の固形腫瘍組織におけるCyr61発現
発明者らは、原発腫瘍におけるCyr61発現が骨髄への腫瘍細胞播種の決定因子であるか否かを評価した。発明者らは、147個の原発乳房腫瘍の免疫染色を行い(図3A図4の表2)、発明者らの標準化アッセイで検出したDTCの存在と知見を相関させた(3)。全部で35個の腫瘍(24%)が強いCyr61シグナルを示し、29個の腫瘍(20%)が中程度のシグナルを示し、83個の腫瘍(56%)が弱いCyr61シグナルを示すかまたは全く示さなかった。興味深いことに、原発腫瘍におけるCyr61の状態とDTCの状態との有意な相関は見られなかった。
【0210】
さらに、Cyr61染色は、乳癌患者の骨転移で観察された(図3B;n=4)。腫瘍細胞はCyr61について一様に陽性であったが、一方で、周囲の正常組織は非常に弱い染色を示したか、またはシグナルを全く示さなかった。残念ながら、同じ患者からの一致した原発腫瘍は入手できなかった。
【0211】
実施例12- 臨床試料からのCTC/DTCにおけるCyr61発現
続いて、発明者らは、癌患者から新たに得られたDTCおよびCTCにおけるCyr61発現を分析した。骨髄および血液中の腫瘍細胞に対するマーカーとしてのCyr61の可能性を評価するために、乳癌細胞のCyr61レベルを、健常ボランティアの単核血液細胞または骨髄細胞と比較した(図29)。第1の実験において、発明者らはウエスタンブロットにより単核血液細胞を分析し(図29A)、これらの細胞がCyr61に対して陰性であることを見出した。次に、健常ボランティアの単核血液(MDA-231もしくはBC-M1)または骨髄細胞(MDA-231)に対する内部陽性対照として細胞株を添加した。MDA-231およびBC-M1におけるCyr61シグナルは、血液細胞または骨髄細胞とは明らかに異なっていた(図29B)。DTC陽性乳癌患者の少数の3つの骨髄試料セットにおける方法の技術的評価から、殆どのDTCがCyr61シグナルを示さないことが明らかになったが、一方で大部分のDTCが示すCyr61シグナルは非常に弱いかまたは検出可能ではない(図29C)。
【0212】
高感度のCyr61検出は、それらのサイズによってCTCを濃縮し、さらに低いCyr61シグナル強度でも信頼性の高いその後の顕微鏡検出を可能にする、新規の標識不含技術によって得られた(図30)。EMTが起こっているCTCを検出するために重要であるサイトケラチン発現が弱い場合(図30B)でさえも、腫瘍細胞がサイトケラチン染色によって検出され(図30A)、さらに白血球をCD45抗体で対比染色することによってアッセイ特異性が確認された。
【0213】
次いで、このアッセイを33名の乳癌患者からの末梢血試料に適用した。合計で、8例でCTCが検出され、3名の患者でCyr61陽性CTCが発見された。3名の患者の69個のCTCから、17個の細胞(25%)がCyr61陽性であった。CTCにおけるCyr61分析の詳細は、図32の表3で提供する。
【0214】
強いCyr61シグナルを有するCTCは、一般に、明確なサイトケラチン陽性細胞質病巣のみを有する断片化サイトケラチン染色パターンおよびシグナル強度低下を示した(図30C上パネル)。対照的に、Cyr61弱陽性またはCyr61陰性CTCは一般に、細胞質全体にわたって広がる高いシグナル強度を有するフィラメント状サイトケラチンパターンを示した(図30C下パネル)。
【0215】
DTCおよびCTCにおけるCyr61発現の動態へのより深い洞察を得るために、発明者らは低酸素微小環境から血流への腫瘍細胞の播種のシミュレーションを行った。血中のCTCの半減期はおよそ1~2.4時間であり、4時間後にはCTCのおよそ3分の1が依然として血中で検出可能である(35)。より大きな血管中の酸素濃度は10%O2前後である。したがって、発明者らは、腫瘍低酸素をシミュレーションするために細胞株を低酸素(1%O2)条件下で14日間培養し、続いてこれらの細胞を4時間、10%O2に供した(図30D)。問題は、低酸素微小環境からのCTCが、血中の酸素濃度上昇に対するCTC応答においてCyr61よりも速く二次的部位に達するか否かということであった。
【0216】
Cyr61レベルは、標準的培養条件と比較して、持続性低酸素下で大きく変化し、MDA-231およびBC-M1はCyr61を強く誘導し、MDA-468はCyr61を下方制御した。再酸素負荷条件下(14日間1%O2+4時間10%O2対14日間1%O2)で、MDA-468およびMDA-231はCyr61レベルをほぼ一定に保ち、このことから、対応するCTC表現型が、Cyr61レベルの小さな変化のみで二次的部位に達することが示唆される。対照的に、BC-M1は再酸素負荷に応答してCyr61を16%に下方制御し(14日間1%O2+4時間10%O2対14日間1%O2)、このことから、BC-M1表現型を有する細胞が、それらがそのパッセージを開始した際のもの以外のCyr61表現型を有する遠隔部位に到達可能であり得ることを示唆する。
【0217】
転移性乳癌を有する患者(患者6)に対して、患者試料中のCyr61検出の高い診断値が示される。血中の可溶性Cyr61の分析(図27C)およびCTC中のCyr61の同時分析(図17)を実施し、これにより、この患者が血中で79.8±4.5ng/mLという高いCyr61レベルおよびCyr61陽性CTCを有したことが示された。
【0218】
実施例13- 考察
今回、発明者らは、播種性癌細胞における低酸素およびグルコース飢餓などの微小環境ストレス条件に敏感に応答する関連タンパク質としてCyr61を同定した。乳癌患者からの臨床試料を分析することによって、血漿中、原発腫瘍細胞、CTC、DTCおよび明白な骨転移におけるCyr61の存在を実証した。
【0219】
近年、癌患者の末梢血中の腫瘍細胞によって放出される循環腫瘍細胞または物質(DNA、タンパク質またはエキソソーム)の「液体生検」分析は著しい進歩を遂げてきた(37)。Cohenらの最近の研究において、循環DNAの突然変異分析と血清中の腫瘍関連タンパク質の測定とを組み合わせた新しい血液検査の開発により、さらに著しい進歩が報告された(38)。しかし、癌スクリーニングの顕著な特徴となる、癌の初期段階の検出率は依然として課題がある。合計で、ステージIの腫瘍のうち43%のみが陽性となった。乳癌試料では割合がさらに低く、全ステージにわたる感度は僅か33%にしか達しなかった(38)。癌の早期検出によって癌関連死亡率を減少させ得ることが知られているので、これは意義のある挑戦である(39)。
【0220】
対照的に、発明者らは、性別や年齢が合致する健常対照個体と比較して、乳癌の初期段階で血漿中のCyr61濃度が既に上昇していることを発見した。発明者らのELISAアッセイは、乳癌スクリーニングのための現在の標準的なツールとしてのマンモグラフィーと比較して優れた性能も示す。DCISサブグループの場合、マンモグラフィーを用いた感度が58%~81%、特異度が72%~79%であることが最近報告された(40)。ゆえに、発明者らのCyr61 ELISAにとって、僅か2.5μLの血漿の分析は、「健常な」状態と乳癌の初期段階とを識別するのに十分である。Cyr61 ELISAアッセイは、確立された液体生検アッセイに対する単純で安価な代替法である。将来的には、このアッセイは、乳癌のスクリーニングプログラムにおける女性のマンモグラフィーの使用を補完し、先導し得る有用なツールとなり得る。
【0221】
Cyr61は、細胞外間隙に分泌され得る42kDaの細胞質タンパク質であり、遠隔の明白な転移の徴候の全くない早期乳癌においてCyr61レベル上昇が既に観察され得る。発明者らは、血漿中の分泌Cyr61の検出が乳癌の早期検出およびリスク評価のための診断用途となる可能性があることを示すことができた(下記参照)。
【0222】
癌において、Cyr61は、分化、遊走に、および血管形成の誘導または細胞増殖の制御に関与する。乳癌において、Cyr61発現上昇は、細胞株における高い侵襲性およびマウスにおけるこれらの細胞株の注射後の転移形成と関連付けられることが報告された。
【0223】
実際、タンパク質は低酸素のような微小環境ストレス下で制御され得、これは間葉性の特質の誘導および腫瘍細胞の播種および転移にも影響を及ぼす。
【0224】
したがって、発明者らは骨髄中の酸素濃度の下限である1%O2に細胞株を供した。さらに、殆どのヒト細胞において1%O2はHIF-1αを安定化するのに十分である。BC-M1およびHs578tを除いて、分析した全ての細胞株はこれらの条件下でCyr61を下方制御した。BC-M1およびHs578tにおいて、Cyr61の下方制御は、Co2+処理によるHIF-1αの強力な安定化の際にのみ観察された。これは、1%O2が、これらの細胞においてHIF-1αのロバストな安定化およびその後のCyr61の下方制御を誘導するのに十分ではないことを示唆する。ゆえに、Hs578tおよびBC-M1の表現型を有するDTCは、骨髄微小環境においてCyr61レベルを維持することが可能であり、Cyr61発現によって検出可能である。Hs578tおよびBC-M1は上皮マーカータンパク質に対して弱い陽性しか示さない間葉性表現型を示すので、この知見は特に興味深いものである(12)。
【0225】
さらに、発明者らは、血行性またはリンパ系の何れかの拡散によって播種する腫瘍実体からの細胞株において、Cyr61およびPD-L1が同時発現することが多いことに気付いた。発明者らはまだPD-L1とCyr61との機能的関係を調べていない。それにもかかわらず、Cyr61とPD-L1との同時発現は、Cyr61陽性細胞が免疫細胞による排除から十分に保護されることを示唆する。ゆえに、乳癌、前立腺癌、肺癌および頭頸部癌患者由来のCTCまたはDTCにおける強力なCyr61発現の検出は、免疫細胞標的化からの細胞保護の指標となり得る。MDA-231の脳転移細胞株におけるCyr61およびPD-L1のレベル上昇は、Cyr61が骨への転移だけでなく他の遠隔部位、特に脳への転移にも関係し得ることを示唆する。ハーセプチンのような治療用抗体は血液脳関門を通過できないので、脳転移は乳癌転移の治療において特に興味深い。
【0226】
発明者らは、発明者ら自身の実験経験から、抗体によるCyr61検出(ウエスタンブロットおよび免疫細胞化学)は、抗体によるPD-L1検出よりもはるかに高感度でロバストであることを知っている。ゆえに、CTCおよびDTCにおけるCyr61検出はまた、CTCおよびDTCが免疫細胞破壊から逃れる能力に対する適切な代用マーカーであり得る。
【0227】
分析した全ての膵臓癌細胞株はCyr61に対して陽性であり、このことから、膵臓癌においてCyr61が発現されることが多いことが示唆される。特に、発明者らは膵臓癌細胞株でCyr61レベルが高く、BxPC3では間葉性の特質Panc1があり、Cyr61レベルが低い(上皮表現型)ことを発見した。乳癌および前立腺癌のような腫瘍実体とは異なり、転移性拡散は膵臓癌での腹膜播種を介して起こることが多い。膵臓癌において、EMTおよび播種は、膵炎の炎症段階、したがって膵臓癌の前悪性段階で既に起こり得る。ゆえに、Cyr61が膵炎の段階でEMT中に上方制御されること、およびCyr61が既に炎症段階にある膵臓疾患を検出するのに適している可能性がある。
【0228】
発明者らのインビトロ研究を検証するために、臨床検体中のCyr61タンパク質レベルを免疫組織化学によって評価した。染色強度のスコア付けから、原発性乳房腫瘍の24%が強いCyr61発現を示したことが明らかになったが、これは他のグループによる以前の観察と同様である。Cyr61発現は骨髄中のDTCの検出と相関しなかったが、これは実際の微小環境条件に応じたCyr61の多用途制御によって説明し得る。
【0229】
続いて、発明者らは、乳癌患者の播種性癌細胞におけるCyr61の発現に焦点を当てた。CTC中のCyr61を検出するために、高感度の多重免疫染色アッセイが開発され、それにより発明者らは低いCyr61レベルを有する腫瘍細胞さえも検出することが可能になった。発明者らは、患者間および患者内の変動性の両方に関して、CTCにおけるCyr61レベルの著しい不均一性を認めた。この知見は、CTCが様々な部位に由来し、Cyr61発現に影響を及ぼす様々な微小環境条件に遭遇したかもしれないという事実を反映し得る。CTC/DTCにおけるサイトケラチン検出のために、発明者らはここで、高感度かつ広範囲の汎サイトケラチン抗体カクテルを適用した。このカクテルは、腺癌に典型的なサイトケラチンの発現下方制御を伴うDTC細胞株におけるサイトケラチンの検出に適している(12、29)。興味深いことに、Cyr61陽性/サイトケラチン陰性細胞は発見されず、これにより、全てのサイトケラチンタンパク質を完全に欠く乳癌細胞は非常に稀であるという以前の発見が裏付けられる(32)。それはさらに、造血細胞におけるCyr61の欠如を強調し、CTC/DTCに対するマーカーとしてのCyr61の潜在的な有用性を示す。
【0230】
発明者らの知見は、播種性腫瘍細胞において上皮性から間葉性特性への滑らかな移行が起こり得るが、腺癌細胞の全体的に間葉性の表現型への完全な変換が生体内原位置で起こり得ることは(たとえあっても)少ないという見解を裏付ける。
【0231】
まとめると、本発明の知見は、乳癌細胞におけるCyr61発現が原発部位から転移部位への通過中の多様な制御の影響の根底にあり得、したがって原発腫瘍における細胞質Cyr61が、生存および転移性成長に必要な適応変化の良好な指標ではないという見解を裏付ける。
【0232】
発明者らは、正常な血液および骨髄細胞が極めて低いCyr61レベルを示すことを観察し、これによって、発明者らは、間葉性特質を有するCTCおよびDTCに対する検出マーカーとしてCyr61をさらに開発するようになり得る。これらの細胞は、偽陰性の所見を説明し得る、上皮抗原に基づく現在のアッセイでは見逃されることが多い。したがって、mCTCおよびmDTCに対する新しいマーカーが緊急に必要とされる。間葉性特質を有する腫瘍細胞におけるCyr61検出は、mCTC/mDTCの同定を裏付け得る。
【0233】
将来の診断用途のために最も重要なこととして、乳癌患者における有意により高い値と比較した場合、年齢が適合した健常者の血漿は、Cyr61 ELISAで検出される分泌Cyr61が非常に低いレベルであった。この重要な発見から、血漿中のCyr61レベルの上昇が乳癌細胞の特質であることが示唆される。
【0234】
分析した全ての細胞株において、発明者らは分泌されたCyr61の量が細胞質Cyr61の量に比例することを発見した。したがって、肺癌、前立腺癌、頭頸部癌または膵臓癌のような細胞質Cyr61に陽性である癌実体の細胞株もまたCyr61を分泌すると考えられる。任意に集めた健常ドナー群が示すCyr61レベルは非常に低いので、発明者らは、乳癌以外の実体の癌患者の血漿中の高Cyr61レベルの検出を予想する。
【0235】
診断時に癌患者から得られた分析血漿試料は全てCyr61陽性であったが、一方で発明者らは原発腫瘍のうち56%を組織マイクロアレイアレイ上でCyr61の陽性が弱いかまたは陰性であるものとして分類した。これに対する1つの理由は、Cyr61に対して異なる感度を有する異なる検出方法(免疫組織化学対ELISA)であり得る。IHCの場合、Cyr61分子がスライド表面上に広がるが、ELISAは、100μLの試料中の全Cyr61分子のシグナルを単一のOD値に統合する。このELISAアプローチは、感度を高め得、より多くのCyr61陽性測定につながるが、Cyr61陽性単一細胞とCyr61陰性単一細胞とを区別できない。
【0236】
さらに、腫瘍細胞はかなりの量のCyr61を細胞外間隙に分泌し得;特に持続的な流体交換の条件下では、分泌されるCyr61量が上昇する。患者において、これは腫瘍細胞が血管に近接している状況に類似している。これは、Cyr61分泌の定常的な離脱および腫瘍細胞によるCyr61分泌誘導につながり得る。これらの条件下で、新生Cyr61は直ちに分泌され得るので、Cyr61が細胞内に蓄積され得なくなる。ゆえに、液体交換条件下でのCyr61分泌を伴うELISAの感度は、腫瘍細胞が低レベルのCyr61を示すときまたは腫瘍細胞コロニーが比較的小さいときでさえ、血漿中のCyr61の検出を可能にし得る。
【0237】
したがって、血漿中のCyr61のELISAに基づく検出は、乳癌の早期検出に適切であり得、これは50歳を超える女性の現在のスクリーニングプログラムにおけるマンモグラフィーの数を減少させるのに役立ち得る。これによって、医療費および放射線により起こる副作用の可能性がかなり低下する。さらに、発明者らは、CYR61レベルが腫瘍進行とともに上昇する(すなわち、M0患者と比較してM1患者でより高値)ことを示し、このことから、癌関連死の第1位の原因である転移への進行のリスクを評価および監視し、抗転移療法の有効性を監視するための血液に基づくマーカーとしての使用の可能性が示される(36)。
【0238】
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