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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】船体位置保持装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20221115BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20221115BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B63H25/04 Z
G05B11/36 G
G05B11/32 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020070533
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167131
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】羽根 冬希
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-167132(JP,A)
【文献】特開2009-241738(JP,A)
【文献】特開2009-248896(JP,A)
【文献】特開2001-219899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/04
G05B 11/36
G05B 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
surge方向及びsway方向の速度とyaw周りの角速度とを制御可能な推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船体位置保持装置であって、
surge方向の参照位置と時刻とが対応付けられた時系列信号を第1参照信号として生成するsurge信号生成部と、
sway方向の参照位置と時刻とが対応付けられた時系列信号を第2参照信号として生成するsway信号生成部と、
参照方位と時刻とが対応付けられた時系列信号を第3参照信号として生成するyaw信号生成部と、
前記surge信号生成部、前記sway信号生成部、前記yaw信号生成部に対して互いに異なる時間帯に前記第1参照信号、前記第2参照信号、及び前記第3参照信号を生成させる生成制御部と、
前記第1参照信号、前記第2参照信号、及び前記第3参照信号のそれぞれに追従するように前記船舶の船体位置及び船首方位のフィードバック制御を行うフィードバック制御部と
を備える船体位置保持装置。
【請求項2】
前記第1参照信号、前記第2参照信号、及び前記第3参照信号は、目標位置における船首方位、surge方向の船体位置、sway方向の船体位置である目標値に漸近するランプ信号と該ランプ信号直後の一定信号とを含む誘導信号に基づいて生成されることを特徴とする請求項1に記載の船体位置保持装置。
【請求項3】
前記第1参照信号、前記第2参照信号、及び前記第3参照信号は、前記誘導信号をローパスフィルタに通過させて生成されることを特徴とする請求項2に記載の船体位置保持装置。
【請求項4】
前記第1参照信号、前記第2参照信号、及び前記第3参照信号は、surge方向の船体位置前記目標値との差が所定の閾値以下である場合に前記誘導信号に基づいて生成されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の船体位置保持装置。
【請求項5】
前記フィードバック制御部は、前記surge信号生成部により生成された前記第1参照信号にsurge方向の船体位置を追従させるsurge制御部と、前記sway信号生成部により生成された前記第2参照信号にsway方向の船体位置を追従させるsway制御部と、前記yaw信号生成部により生成された前記第3参照信号に船首方位を追従させるyaw制御部とを有することを特徴とする請求項~請求項4のいずれか一項に記載の船体位置保持装置。
【請求項6】
前記surge制御部は、前記船舶の船体モデルにおけるsurgeモデルに基づく状態フィードバック制御を行い、
前記sway制御部は、前記船体モデルにおけるswayモデルに基づく状態フィードバック制御を行い、
前記yaw制御部は、前記船体モデルにおけるyawモデルに基づく状態フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項5に記載の船体位置保持装置。
【請求項7】
前記船体モデルは、前記surgeモデルと、swayとyawとの連成モデルとにより構成され、
前記swayモデル及び前記yawモデルは、swayとyawとの連成モデルを非干渉化することにより分割されたモデルであることを特徴とする請求項6に記載の船体位置保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体位置保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船体制御を船速により分類すると、中高速におけるオートパイロット(AP:Auto Pilot)と、低速における船体位置保持装置(DPS:Dynamic Positioning System)に分類することができる。APとDPSとにおいて速度の扱いは異なっており、APが受動的に対象船の速度に従うのに対し、DPSは能動的に速度を制御する。
【0003】
また、DPSは、船体運動の前進方向(surge方向)、左右方向(sway方向)、方位(yaw方向)の3自由度を制御して、目標値としての目標方位と目標位置に船体位置と船首方位を変位、保持させるものである。このような働きによって、DPSは、船舶の離着桟操船を自動で制御する離着桟制御システム(以下、BCS:Berthing Control System)や自律操船を実現する基本技術として用いられている。
【0004】
また、DPSに関連する技術として、LQG(Linear Quadratic Gaussian)手法を用いてPIDゲインを調整する技術が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Asgeir J Sorensen,Svein I Sagatun,and Thor I Fossen.Design of a dynamic positioning system using model-based control.IFAC Proceedings Volumes,28(2):16-26,1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、3自由度に対する制御を行う場合、一軸の制御に対して他軸の制御が影響して干渉が生じることにより操船が不安定になってしまう、という問題がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、一軸の制御に対する他軸の制御による影響を低減することができる船体位置保持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態においては、surge方向及びsway方向の速度とyaw周りの角速度とを制御可能な推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船体位置保持装置であって、surge方向の参照位置の時系列信号を参照信号として生成するsurge信号生成部と、sway方向の参照位置の時系列信号を前記参照信号として生成するsway信号生成部と、参照方位の時系列信号を前記参照信号として生成するyaw信号生成部と、前記surge信号生成部、前記sway信号生成部、前記yaw信号生成部に対して互いに異なる時間帯に前記参照信号を生成させる生成制御部と、前記参照信号に追従するように前記船舶の船体位置及び船首方位のフィードバック制御を行うフィードバック制御部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】船体位置保持装置と制御対象とを含むシステム全体のブロック図である。
図2】フィードバック制御部の構成を示すブロック図である。
図3】船体位置保持装置の動作を示す図である。
図4】船体モデルを示す図である。
図5】アジマススラスターの特性を示す図である。
図6】船体速度と潮流成分とを示す図である。
図7】連成要素の干渉化を示す図である。
図8】yaw制御部による閉ループ制御系を示す図である。
図9】潮流が入力されるsurgeモデルを示す図である。
図10】潮流成分がバイアス成分項に移動されたsurgeモデルを示す図である。
図11】参照信号生成部の構成を示すブロック図である。
図12】surge参照信号を示す図である。
図13】参照信号のシーケンスを示す図である。
図14】シミュレーション結果における船体位置、方位及びこれらの誤差を示す図である。
図15】シミュレーション結果における船体位置航跡を示す図である。
図16】シミュレーション結果における制御量を示す図である。
図17】シミュレーション結果における推進機出力を示す図である。
図18】シミュレーション結果における船体位置、方位及びこれらの誤差を示す図である。
図19】シミュレーション結果における船体位置航跡を示す図である。
図20】シミュレーション結果における制御量を示す図である。
図21】シミュレーション結果における推進機出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以降の説明において、各記号は、変数、修飾、添字として、以下の表のように定義される。
【0011】
【表1】
【0012】
(1 船体位置保持装置の構成)
まず、本実施形態に係る船体位置保持装置を含むシステムについて説明する。図1は、船体位置保持装置と制御対象とを含むシステム全体のブロック図である。図2は、フィードバック制御部の構成を示すブロック図である。図3は、船体位置保持装置の動作を示す図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態における船体位置保持装置1は、推進駆動装置4及びセンサ類5が備えられた船体3を制御するものであって、surge方向及びsway方向の速度n,θ、yaw周りの角速度θを制御可能な推進駆動装置4によって、図3に示すように、船体3の位置P及び方位ψを目標位置P及び目標方位ψに一致するように船体の位置及び方位を制御する装置である。ここで推進駆動装置4は、船首と船尾とに設けられたアジマススラスターとする。
【0014】
船体位置保持装置1は、参照信号生成11、誤差演算部12、フィードバック制御部13を備えている。上位装置からの目標位置及び目標方位と後述するセンサ類5による船首方位ψ及び船体位置(x,y)が参照信号生成部11に入力され、参照信号生成部11からは参照方位ψ、参照位置x、yを含む参照信号が出力される。
【0015】
船体3のセンサ類5は、船体3の船首方位ψを検出するジャイロコンパス、GPS等の衛星測位システム(GNSS)からの船体位置(x,y)を検出するGNSSセンサを含む。なお、センサ類5は、船首方位ψ、船体位置(x,y)をそれぞれ検出可能なセンサを含むものであれば良い。
【0016】
誤差演算部12には、船首方位ψ、船体位置(x,y)等のセンサ類5からの検出信号と参照信号生成部11からの参照信号が入力され、誤差演算部12は、参照信号と検出信号との比較を行い、方位誤差ψ、位置誤差x,yを出力する。
【0017】
フィードバック制御部13は、参照信号生成部11により生成された参照信号に追従するようにフィードバック制御を行うものであり、図2に示すように、surge制御部131と、sway制御部132と、yaw制御部133とを備える。surge制御部131は、位置誤差xを低減させるsurge速度nを制御量として推進駆動装置4へ出力する。sway制御部132は、位置誤差yを低減させるsway速度θを制御量として推進駆動装置4へ出力する。yaw制御部133は、方位誤差ψを低減させるyaw角速度θを制御量として推進駆動装置4へ出力する。
【0018】
(2.1 船体モデル)
船体モデルについて説明する。図4は、船体モデルを示す図である。
【0019】
図4において、O-XYは地球固定座標、O-Xは船体固定座標を示し、符号は右手系として、推進機(推進駆動装置4)としてのアジマススラスターが船首foreと船尾aftに配備された船体モデルが示される。また、f,θは推進機の出力であり、それぞれ、推力、推力の角度を示す。
【0020】
船体運動モデルは、3自由度の線形項で表すと、次式になる。
【0021】
【数1】
ここで、太字はベクトルを表し、
【0022】
【数2】
は推進駆動装置4の推力とモーメントを表し、添字は転置行列を表し、添字のそれぞれはsurge,sway,yawを表し、
【0023】
【数3】
要素は船体3の変数からなる。
【0024】
船体モデルは(1)式をsurgeの成分と、sway及びyawの成分とに分離し、ラプラス変換する。surgeモデルは、
【0025】
【数4】
になる。ここで、sはラプラス演算子、P(s)は伝達関数
【0026】
【数5】
である。ここで、T,Kは船体パラメータであり、それぞれ時定数、ゲインである。
【0027】
swayモデルとyawモデルは連成運動し、
【0028】
【数6】
とする。ここで、伝達関数は分子1次、分母2次を分子0次、分母1次に近似し、
【0029】
【数7】
ここで、T,Tは時定数、K,Kはゲインである。
【0030】
船体速度は船体固定座標系を、船体位置は地球固定座標系をそれぞれ用いるので、両者の関係は
【0031】
【数8】
になる。ここで、x,yはそれぞれ北向き、東向きの船体位置、u,vはそれぞれ北向き、東向きの船体速度成分、
【0032】
【数9】
Ω(太字) は船体固定座標から地球固定座標に変換する行列で
【0033】
【数10】
ここで、ψは方位である。
【0034】
(2.2 推進機モデル)
推進機モデルについて説明する。
【0035】
推進機のアジマススラスターモデル(以下、ATMと呼称)は、そのプロペラ回転数とその方向によって推力ベクトルを制御する。図4に示した船体モデルにおいて、2機のATMから発生するγは
【0036】
【数11】
になる。ここで、添字は船首fore、船尾aftを表し、Fは対水推力、nはプロペラ回転数、nは一定回転数、θは船の基線からの推力方向であり、lはミッドシップから駆動機までのレバー長でl=l=lである。
【0037】
ATMの回転数と推力の特性を図5に示す。図5において、nでの推力微係数を
【0038】
【数12】
とする。ここで、nf0=na0=nであり、fn0は推力微係数である。
【0039】
(11)式に(12)式を代入し近似すると、γ(太字)は
【0040】
【数13】
となる。ここで、近似はcosθ≒1,sinθ≒θ、θ=θ≒0を用いる。
【0041】
一方、ATMの入力を制御量n,θで置き換えると
【0042】
【数14】
になる関係をもつ。ここで、nはsurge速度、θはsway速度,θはyaw角速度である。(14)式及び(15)式を(13)式に代入すると
【0043】
【数15】
になる。船体モデルは推進機を含んだものとするので,そのゲインを
【0044】
【数16】
に置換する。ここで、添字={u,v,r}、添字は船体、添字は推進機を表し、
【0045】
【数17】
である。
【0046】
(2.3 外乱モデル)
外乱モデルについて説明する。図6は、船体速度と潮流成分とを示す図である。
【0047】
外乱モデルはバイアス成分b、潮流成分u,v、角速度成分rmomと波浪成分{x,y,ψ}とする。ここで,添字i={u,v,r}である。これらの特性はつぎのようになる。
【0048】
・bは船体や推進機の特性に誘起された偏りである。bはsurge方向に作用する推力を回転数換算したものであり、bはsway方向に作用する推力を角度換算したものであり、bはyaw軸まわりに作用するモーメントを角度換算したものである。bは航路誤差、方位誤差を発生させる。
・u,v図6に示すように対地速度成分であり、船体を移動させて航路誤差を発生させる。
・rmomは風力などがyaw周りに作用してモーメントを発生させ、それを角速度換算したものであり、方位誤差を発生させる。
・波浪成分は白色ノイズが入力された狭帯域フィルタの出力である。x,yはそれぞれsurge,sway方向の船体位置に換算し,ψはyaw軸まわりの方位に換算したものである。波浪成分はいずれも検出信号に混入して無効信号を発生させる。
【0049】
外乱モデルを定式化すると、次式になる。
【0050】
【数18】
ここで、(22)式はyawの場合を示してその他は省き、x=[χ ψ,χは変数、wは白色ノイズ、
【0051】
【数19】
であり、ζ,ωは波浪モデルのそれぞれ減衰係数、固有周波数であり、σは波浪の強さを表す定数である。
【0052】
対地速度は船体運動と潮流の対地速度の和となるため,(8)式は
【0053】
【数20】
に変更される。このように得られた船体位置保持に関するモデルを用いて、後述するように制御システムを定める。
【0054】
(3 制御システム)
制御システムについて説明する。図7は、連成要素の干渉化を示す図である。
【0055】
船体モデルはsurgeモデルと、swayとyawの連成モデルからなる。surgeモデルは(4)式から1自由度である。連成モデルが分離化できれば、制御システムは図2に示したように、同型の3つの制御部でそれぞれが1自由度で扱うことができる。図2において添字は偏差を表す。よって、1つの制御システムを設計すれば十分である。
【0056】
(3.1 連成モデルの非干渉化)
【0057】
(8)式において、方位をψ=0で線形化すると次式になる。
【0058】
【数21】
【0059】
(3.1.1 制御対象)
連成モデルを次式とする。
【0060】
【数22】
ここで
【0061】
【数23】
であり、
【0062】
【数24】
であり、さらに要素は、
【0063】
【数25】
である。
【0064】
(3.1.2 状態フィードバックによる非干渉化)
状態フィードバックを
【0065】
【数26】
にする。ここで、F(太字)はフィードバックゲインであり、
【0066】
【数27】
である。(31)式を(26)式に代入すると、
【0067】
【数28】
になる。ここで、
【0068】
【数29】
である。この(34)式において、要素(3,2),(3,4),(4,1),(4,3)は干渉項である。
【0069】
干渉項をゼロにする条件は、図7に示すように内積がゼロになることと等価で
【0070】
【数30】
になる。(35)式を解くと、干渉項のフィードバックゲイン(干渉ゲイン)は
【0071】
【数31】
の関係になり、非干渉ゲイン{f22,f24,f11,f13}から定まる。
【0072】
非干渉項の要素は(36)式を用いると
【0073】
【数32】
になる。ここで、
【0074】
【数33】
である。
【0075】
よって、(26)式の連成モデルに(36)式の干渉ゲインのフィードバックF(太字)を行うと、閉ループ制御系は
【0076】
【数34】
になり、swayモデルとyawモデルとに等価的に分割化できる。
【0077】
(3.2 制御システム)
(3.2.1 分割化された制御対象)
surgeモデル、swayモデル、yawモデルは同じ構成に分割化され、
【0078】
【数35】
になる。ここで、
【0079】
【数36】
である。
【0080】
(3.2.2 閉ループ制御系)
yawモデルの閉ループ制御系について示す。制御対象は船体モデルと外乱モデルから
【0081】
【数37】
になる。ここで、添字ψはyaw制御を意味し、
【0082】
【数38】
は検出方位、アクセントは検出値を意味し、
【0083】
【数39】
ここで、Oi×jはi行j列のゼロ行列である。
【0084】
制御システムは状態推定器(推定器)と状態フィードバックから構成され、閉ループ安定性および外乱除去性を確保する。推定器は制御対象の状態量を推定し、状態フィードバックは推定状態量にフィードバックゲインを乗じて制御信号を出力する。制御システムは、次式のようになる。
【0085】
【数40】
ここで、
【0086】
【数41】
アクセント^は推定値を意味し、K(太字)ψは5行1列の推定ゲイン、F(太字)ψは2行5列のフィードバックゲインである。
【0087】
surgeモデルとswayモデルの場合は、外乱モデルに潮流成分が含まれる。だが、それらの推定器は上記yawモデルの場合と同じ構成で対応できる。その理由を図9図10に示すsurgeモデルの場合で説明する。図9に示すように、surgeモデルにおいては、バイアス成分bと潮流成分ucBとが入力される。ここで、
【0088】
【数42】
である。それぞれの外乱成分が一定値
【0089】
【数43】
とすれば、図10に示すように、潮流成分をバイアス成分項に移動することができる。
【0090】
よって、推定器はバイアス項を推定できれば、等価的に潮流成分を推定でき、フィードバックによってそれを補償できる。ただし、(45)式から船体3が旋回すると潮流成分は変化するため、位置誤差は過渡現象を生じる。(44)式の閉ループ制御系は図8に示すようになる。制御ゲインであるフィードバックゲインと推定ゲインについては後述する。
【0091】
(3.3 フィードバックゲイン)
フィードバックゲインは(44)式に示す拡張化したものを定める。状態フィードバックを
【0092】
【数44】
とする。ここで、フィードバックゲインF(太字)は
【0093】
【数45】
である。(47)式を(40)式に代入すると
【0094】
【数46】
になる。(49)式の閉ループ制御系の仕様を
【0095】
【数47】
とする。ここで、添字はi={u,v,r}を意味し、D(s)は特性多項式、ζは減衰係数、ωは固有角周波数である。
【0096】
設計パラメータをζと{fu1,f11,f22}(比例ゲイン相当)として、{fu2,f13,f24}(微分ゲイン相当)を求める。よって、surgeゲインF(太字)と非干渉ゲインf11,f13,f22,f24は求まり、干渉ゲインf12,f14,f21,f23は(36)式から求まる。
【0097】
(3.3.1 surgeモデルの場合)
F(太字)を設定する。(49)式の特性多項式は
【0098】
【数48】
になる。このとき、fu2は(51)式と(50)式とを比較すると
【0099】
【数49】
になる。
【0100】
(3.3.2 yawモデルの場合)
F(太字)を設定する。surgeモデルの場合を参照する。(49)式の特性多項式は
【0101】
【数50】
になる。このとき,f24は(53)式と(50)式とを比較すると
【0102】
【数51】
になる。
【0103】
(3.3.3 swayモデルの場合)
F(太字)を設定する。swayモデルの場合を参照すると、f13
【0104】
【数52】
になる。
【0105】
(3.3.4 状態フィードバックゲイン)
フィードバックゲインをそれぞれの推定器の状態量に対応させるため、拡張すると、
【0106】
【数53】
になる。ここで、(56)式において追加される1は、バイアス成分をフィードバックするために設定されるものである。
【0107】
(3.4 状態推定器)
状態推定器(推定器)を設定するために必要な推定ゲインを求める。推定器はyawモデルの場合を(44)式に示す。なお、surgeモデル、swayモデルの場合も同様であるため説明を省略する。なお、推定ゲインの導出については後述する。
【0108】
(4. 参照信号の生成)
(4.1 参照信号生成部)
参照信号生成部の構成について説明する。図11は、参照信号生成部の構成を示すブロック図である。図12は、surge参照信号を示す図である。図13は、参照信号のシーケンスを示す図である。
【0109】
図11に示すように、参照信号生成部11は、生成制御部110、surge信号生成部111、sway信号生成部112、yaw信号生成部113を備える。surge信号生成部111、sway信号生成部112、yaw信号生成部113は、それぞれ、surge,sway,yawに関する参照信号を生成する。また、生成制御部110は、互いに異なるタイミングで参照信号を生成するように、surge信号生成部111、sway信号生成部112、yaw信号生成部113を、これらに管理信号を与えることによって制御する。
【0110】
船体3を初期位置から目標位置に移動させる場合、surge,sway,yawに関する参照信号が同時に出力された場合には無軌道状態で収束する。これに対して、生成制御部110が、初期位置及び初期方位から目標位置及び目標方位までの経路を計画し、この経路に則った管理信号をsurge信号生成部111、sway信号生成部112、yaw信号生成部113に与える。
【0111】
surge信号生成部111、sway信号生成部112、yaw信号生成部113のそれぞれは、ランプ入力をローパスフィルタに通過させた出力を参照信号として用いる。図12に示すように、このような参照信号を用いることによって、開始と終端で滑らかな軌道となり、制御信号の過渡現象を抑制することができる。図12は、参照信号のうち、surgeに関する参照信号を代表して示すものであり、図12において、xはランプ入力、その後の一定入力を含む誘導信号を示し、xは参照信号、t,t,t,はランプ入力、一定入力、誘導信号全体のそれぞれの入力時間を示す。
【0112】
フィードバック制御部13におけるsarge制御部131、sway制御部132、yaw制御部133のそれぞれは図13に示すように、船体位置x,yと方位ψを参照信号x,y,ψに追従せるように動作する。なお、図13において、t,t,tψは、それぞれ、surge,sway,yawの参照信号の入力時間であり、tΣはこれらの参照信号の合計入力時間である。このように、参照信号は、他の参照信号と異なるタイミングで、望ましくは、他の参照信号と時間的に重複しないようにフィードバック制御部13に入力される。
【0113】
(4.1 参照信号の生成)
参照信号はsurge方向、sway方向、yaw周りのものが生成される。ここでは、代表してsurge方向の参照信号xの場合について説明する。なお、簡単化のため、xの初期値はゼロとする。その動作条件は経路順序が終了するまで保持され、
【数54】
になる。ここで、xは目標位置Pにおけるsurge方向の値である目標値、xcriは船体3の現在位置に対する判定に用いる閾値である動作基準値である。参照信号は、x=xの場合はステップ入力で船体3を移動させる。
【0114】
誘導信号x図12に示すように、ランプ入力と一定入力とからなり、
【0115】
【数55】
になる。ここで、sはラプラス演算子、rampは速度設定値である。xはxをローパスフィルタしたもので、
【0116】
【数56】
になる。ここで、TFxはフィルタ時定数、ηは係数で0<η<1である。最後にx=xにするため、次の(60)式の処理がなされる。
【0117】
【数57】
ここで、フィルタの初期値はη/s,tΣは経路時間の合計
【0118】
【数58】
である。経路時間がわかれば、経路計画の目安になり好都合である。
【0119】
(4.2 参照信号の時間)
参照信号の時間について説明する。surge方向の参照信号xの場合を以下に示す。xはランプ入力後に一定入力を経過した出力になる。xの時間tは図に示すように、ランプ時間tと一定時間tとの合計t=t+tになる。
【0120】
(4.2.1 ランプ状態)
ランプ入力の時間tは、その入力が目標値xに達するまでの時間になるから、
【数59】
になる。なお、参照信号x=xである場合、即ちxの絶対値が動作基準値xcri未満である場合には、tを参照信号xの入力時間とする。
【0121】
ランプ入力時の参照信号x の時間応答は
【0122】
【数60】
になる。時刻tでのx は(63)式でt≫TFxとすれば
【0123】
【数61】
になる。
【0124】
(4.2.2 一定状態)
一定状態は、時刻tのランプ状態に一定入力を与えた場合である。そのときの参照信号x (t)の時間応答は
【0125】
【数62】
になる。ここで、
【0126】
【数63】
である。一定入力の時間tは、その出力x (t)が
【0127】
【数64】
に達するまでの時間に相当する。よって、tはx (1-e-tc/Tfx)=x (t)から
【0128】
【数65】
になる。
【0129】
したがって、参照信号xの時間tはt=t+tによって求まる。
【0130】
以下に図21に示す参照信号xに関する計算例を示す。
【0131】
=30m,ramp=0.5m・s-1,TFx=20s,x (t)=20m,x =10m,x (t)=0.999・30-20=9.97m,t=60s,tc=-20log(1-9.97/10)=116.18s,t=t+t=176.18sになる。
(5.推定ゲインの導出)
補足として、推定ゲインの導出について説明する。
【0132】
yawモデルの推定ゲインK(太字)ψの導出を以下に説明する。なお、surgeモデルの推定ゲインK(太字)、swayモデルの推定ゲインK(太字)については、yawモデルと同様に求まるため説明を省略する。
【0133】
(5.1 状態推定器)
状態推定器(推定器)は、(44)式の制御対象の状態量を推定する。推定した状態量はフィードバックゲインF(太字)ψを乗じて、制御量θになる。推定ゲインは推定器の特性多項式を仕様のものに一致させることによって求める。特性多項式はその行列式に相当し、
【0134】
【数66】
となる。ここで、Dest(s)は推定器の特性多項式、detは行列式、I(太字)は適当な次元をもつ単位行列、Deψ(s),Dew(s),Deb(s)は仕様のもので、それぞれ方位推定(ψ^,r^,添字)、波浪推定(χ^,ψ^,添字ew)とバイアス推定(br^,添字eb)に対応する。
【0135】
仕様の特性多項式は,それぞれ次式となる。
【0136】
【数67】
ここで、固有角周波数および減衰係数を次のように設定する。
【0137】
・Deψ(s)では、ωeψは推定係数と呼ぶρψを、ζeψは設計パラメータを用いて
【0138】
【数68】
とする。ここで、ωは(54)式である。
【0139】
・Dew(s)では、波浪モデルの特性多項式は(22)式から
【0140】
【数69】
になる。波浪成分をノッチフィルタ特性で低減させるために
【0141】
【数70】
とする。ここで、ω≫ωである。
【0142】
・Deb(s)では、ωeb推定係数ρψbを用いて
【数71】
とする。ρψbはρψに比べて十分に小さいため、バイアス推定を推定器から除いても閉ループ制御系への影響は無視できる程小さい。
【0143】
(5.2 推定ゲイン)
推定ゲインを導出する。推定器の特性多項式は(69)式の右辺を展開すると
【0144】
【数72】
になる。右辺の係数を
【0145】
【数73】
とすれば
【0146】
【数74】
になる。ここで、K(太字)ψ,P(太字),Q(太字)は次式になる。
【0147】
【数75】
【0148】
一方、仕様の特性多項式は(70)式の右辺を展開すると
【0149】
【数76】
になる。ここで、右辺の係数を
【0150】
【数77】
とすれば、次式になる。
【0151】
【数78】
【0152】
よって、推定ゲインは上記の係数H,E(いずれも太字)を一致させることで
【0153】
【数79】
として求まる。
【0154】
(6. 検証)
本提案法をシミュレーションによって検証し、その有効性を確認する。
【0155】
(6.1 条件)
シミュレーションの条件について説明する。
【0156】
シミュレーションにおける船体モデルは、L=30m,l=L/2=15m,n=300rpm,x=0.7,開度制限値45degである。サンプリング時間はΔt=0.1sとする。
【0157】
船体パラメータ(単位表記を省く)は以下の通りである。
【数80】
【0158】
フィードバックゲインは(単位表記を省く)は以下の通りである。
【0159】
【数81】
【0160】
推定ゲイン(単位表記を省く)は以下の通りである。
【0161】
【数82】
【0162】
参照信号に関するパラメータは以下の通りである。
【0163】
【数83】
(6.2 フィードバック制御部による効果)
フィードバック制御部により外乱が補償されていることを確認する。図14図17は、それぞれ、シミュレーション結果における船体位置、方位及びこれらの誤差、船体位置航跡、制御量、推進機出力を示す図である。なお、図14図17においては、フィードバック制御部による効果を示すため、時間的に重複して参照信号が入力されている。
【0164】
シミュレーションにおいて、潮流成分u=v=1m/s、角速度成分rmom=1deg/sとする。また、船体3の方位を時刻t≧600sから,0.3deg/s,180deg旋回させる。
【0165】
図14に示すように、初期応答は誤差ゼロに収束し、過渡応答はx,yで10mの誤差を生じる。また、図15に示すように、初期応答は過渡応答より大きく移動している。
【0166】
図16に示すように、初期応答は発振を伴うが静定し、過渡応答は追従誤差を生じる。図17では,推進器信号の角度θ,θは初期応答で飽和状態を生じ、過渡応答で方位180度反転のため交差している。
【0167】
(6.3 参照信号生成部による効果)
タイミングをずらした参照信号の生成が推進機の飽和対策と船体移動に有効であることを確認する。図18図21は、それぞれ、シミュレーション結果における船体位置、方位及びこれらの誤差、船体位置航跡、制御量、推進機出力を示す図である。
【0168】
シミュレーションにおいて、時刻t<600sまで,初期応答(x=y=-5m,ψ=-90deg)をする。また、t≧600sは経路応答(x,y,ψの順序による参照信号の生成、x=y=30m,ψ=60deg)をする。
【0169】
図18に示すように、初期応答は誤差が生じて静定し、経路応答は誤差の発生が小さい。また、図19に示すように、初期応答は大きく変動するが、経路応答は参照信号に沿って移動している。
【0170】
図20に示すように、初期応答は信号レベルが大きくなり、経路応答はそれが小さい。また、図21に示すように、初期応答は推進器が飽和し、経路応答は飽和しない。
【0171】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0172】
1 船体位置保持装置
3 船体
4 推進駆動装置
5 センサ類
11 参照信号生成部
13 フィードバック制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21