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特許7177133水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー及びシリカを含む加硫可能な組成物
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  • 特許-水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー及びシリカを含む加硫可能な組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー及びシリカを含む加硫可能な組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 47/00 20060101AFI20221115BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221115BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20221115BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20221115BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20221115BHJP
   C08F 8/04 20060101ALI20221115BHJP
   C08F 236/04 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C08L47/00
C08K3/36
C08K5/14
C08K5/16
C08K5/36
C08F8/04
C08F236/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020500717
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2018068917
(87)【国際公開番号】W WO2019020392
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】17183169.6
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スザンナ・リーバー
(72)【発明者】
【氏名】カローラ・シュナイダース
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119424(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/087431(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/175877(WO,A1)
【文献】特開平09-003246(JP,A)
【文献】特表2016-534173(JP,A)
【文献】国際公開第2015/063162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08F 6/00-246/00
C08F283/00-283/14
C08F290/00-290/14
C08F299/00-299/08
C08F301/00
C08C 19/00- 19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫可能な組成物であって、
i)
(a)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、又はそれらの混合物である、0.1重量%~38重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
(b)1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)、又はそれらの混合物である、15重量%~89.9重量%の少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
(c)10重量%~65重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位、
を含み、
ここで、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、少なくとも10重量%の前記α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、一般式(I)
【化1】
[式中、
Rは、メチル、エチル、ブチル、又はエチルヘキシルであり、
nは、~12であり、
は、水素又はCH-である]
のPEGアクリレート(d)である、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー、
ii)水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)の100重量部を基準にして、10~250重量部の少なくとも1種のシリカ、並びに
iii)少なくとも1種の架橋剤、
を含む、加硫可能な組成物。
【請求項2】
前記水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーが、
a)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、又はそれらの混合物である、10重量%~33重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
(b)1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)、又はそれらの混合物である、21重量%~79重量%の少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
(c)11重量%~60重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位、
を含み、
ここで、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、少なくとも15重量%の前記α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、前記一般式(I)のPEGアクリレート(d)である、請求項1に記載の加硫可能な組成物。
【請求項3】
前記水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーが、
(a)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、又はそれらの混合物である、8重量%~25重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
(b)1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)、又はそれらの混合物である、25重量%~65重量%の少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
(c)25重量%~55重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位、
を含み、
ここで、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、少なくとも20重量%の前記α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、前記一般式(I)のPEGアクリレート(d)である、請求項1又は2に記載の加硫可能な組成物。
【請求項4】
前記共役ジエン単位(b)が、50%~100%の程度まで水素化されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物。
【請求項5】
前記共役ジエン単位(b)が、1,3-ブタジエンであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物。
【請求項6】
nが2又は3であり、Rがエチル又はブチルであり、Rが水素又はメチルであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物。
【請求項7】
前記水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーが、8重量%~25重量%のアクリロニトリル単位、25重量%~65重量%の1,3-ブタジエン単位、及び25重量%~55重量%のPEG-2アクリレート単位又はPEG-3アクリレート単位を含むコポリマーであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物。
【請求項8】
前記シリカ(ii)が、非シラン化処理シリカ又はシラン化処理したシリカであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物。
【請求項9】
前記架橋剤(iii)が、ペルオキシド系、硫黄含有若しくはアミン系架橋剤、好ましくは少なくとも1種のペルオキシド系架橋剤、より好ましくは、ペルオキシド系架橋剤であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物。
【請求項10】
100重量部の水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)、
10~250重量部の少なくとも1種のシリカ(ii)、好ましくは少なくとも1種のシラン化処理したシリカ、
0.1~20重量部の少なくとも1種の架橋剤(iii)、
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを、シリカ及び少なくとも1種の架橋剤と混合することによる、請求項1~9のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物を製造するためのプロセス。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物を、成形プロセスにおいて、さらに100℃~250℃の範囲の温度で、加硫にかけることを特徴とする、加硫物を、成形物の形態で製造するためのプロセス。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のプロセスによって得ることが可能な、請求項1~10のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物から製造される加硫物。
【請求項14】
前記成形物が、ベルト、ガスケット、ローラー、履物の部品、ホース、制震要素、ステーター、及びケーブルシースから選択されることを特徴とする、請求項13に記載の加硫物。
【請求項15】
成形物を製造するため、ベルト、ガスケット、ローラー、履物の部品、ホース、制震要素、ステーター、及びケーブルシースからなる群から選択される成形物を製造するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の加硫可能な組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー及びシリカを含む加硫可能な組成物、それらの製造及び加硫物、並びにガスケット及びベルトにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリル-ブタジエンコポリマー(ニトリルゴム、略して「NBR」とも呼ばれる)、すなわち、α,β-エチレン性不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン及び場合によっては1種又は複数のさらなる共重合性モノマーとのコポリマー、ターポリマー、又は四元ポリマー、並びに水素化ニトリル-ブタジエンコポリマー(「HNBR」)(その中では、共重合されたジエン単位の中のC=C二重結合を合計したものが、全面的又は部分的に水素化されている)のいずれもが、スペシャルティエラストマーの分野で、多年にわたって、確たる地位を占めてきた。それらは、優れた耐油性、良好な熱安定性、並びに優れた耐オゾン性及び耐薬品性(後者では、NBRの場合よりもHNBRの場合の方がさらに一段と優れている)の形態において優れた性能プロファイルを有している。NBR及びHNBRはさらに、極めて良好な機械的及び実用特性も有している。この理由から、それらは、広く各種の異なった利用分野において広く使用されており、たとえば、自動車分野におけるガスケット、ホース、及び制振要素の製造のため、さらには石油製造分野におけるステーター、油井シール及びバルブシールのため、さらには電気産業において、バッテリーにおけるバインダー及びセパレーターとして、機械工学及び造船において、無数の部品のために使用されている。多くの用途においては、HNBRをベースとする加硫物が、低いガラス転移温度(Tg)を有していて、たとえ低い温度であってもその加硫物の官能性が保持されていることが極めて重要である。それに加えて、その加硫物が、たとえばオイル又は燃料と接触したときに、可能な限り低い膨潤性しか示さないことも必要とされるが、その理由は、そうでないと、その加硫物の体積が膨張して、もはや用途に適合しなくなるからである。
【0003】
動的な用途においては、水素化ニトリル-ジエンコポリマー(HNBR;ARLANXEOから、Therban(登録商標)の商品名で、市販されている)が、しばしば使用されている。特に自動車分野においては、ベルト又はガスケットのような成形物の場合、低い膨潤性及び優れた低温安定性に加えて、同時に得られる良好な熱安定性の面で、かってない程大きな価値がさらに認められている。動的応力下では、多くの場合、内部摩擦が、その材料の温度を、その周囲温度に比較して高くするが、この現象は発熱性(heat buildup=HBU)と呼ばれている。材料で、可能な限り最適な安定性を得るためには、HBUが低いことが有利である。HBUは、充填剤-充填剤の相互作用及びポリマー-充填剤の相互作用の影響を顕著に受ける。充填剤とポリマーマトリックスとの間の良好な結合性又は相溶性が、HBUを低く保つ。
【0004】
したがって、加硫可能な組成物から形成される加硫物では、良好な熱安定性、低いオイル膨潤度、低い損失弾性率G”、及び好ましくは、応力下での低い熱の発生(発熱性)が期待される。
【0005】
数多くの、異なるタイプのHNBRが、市場で入手可能であり、それらは、適用分野に応じて、異なるモノマー、分子量、及び多分散性を特徴とし、それにより、異なる機械的及び物理的性質を特徴としている。ニトリル及びジエンモノマーから構成されている標準的なHNBRのタイプと同様に、特定のターモノマーを含むか、又は特定の官能化を特徴とするスペシャルティタイプを望む声が特に増加しつつある。
【0006】
特定のターモノマーの公知の例としては、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸(たとえば、アクリル酸及びメタクリル酸)が挙げられる。それらのターモノマーを含むターポリマーは、総称して「HXNBR」と呼ばれるが、ここで「X」は、酸基を表している。そのようなものの例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、及びジカルボン酸モノエステル(たとえば、モノメチルマレエート又はモノブチルマレエート)が挙げられる。
【0007】
同様に(特許文献1)、(特許文献2)、及び(特許文献3)より公知なのが、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(たとえば、モノカルボン酸エステルたとえば、メチルアクリレート、及びブチルアクリレート、又はジカルボン酸モノエステルたとえば、モノブチルマレエート)を含むターポリマーである。
【0008】
PEGアクリレート単位を有する水素化ニトリル-ジエンコポリマーもまた公知である。
【0009】
(特許文献4)には、1重量%~9重量%のモノカルボン酸モノエステル単位を有し、-20℃未満のガラス転移温度と20%未満のオイル膨潤度とを有する、水素化ニトリル-ジエンコポリマーが開示されている。そこに明確に開示されているのは、少量のPEGアクリレート単位、たとえば4.8重量%及び7.7重量%のアクリル酸メトキシエチル、すなわち、PEG-1アクリレートを有するか、又は4.1重量%のPEG-5メタクリレートを含む、ターポリマーである。
【0010】
(特許文献5)には、1重量%~9重量%のカルボニル基を含むα,β-エチレン性不飽和モノマー単位を有する水素化ニトリル-ジエンコポリマーが開示されている。明確に開示されている実施例には、PEG-11モノマーを有する水素化ターポリマーが含まれている。
【0011】
ターポリマーは、多くの場合、所望されるポリマーの性能をより正確に調節するには不十分である。四元ポリマー、すなわち4種のモノマー単位で構成されているポリマーが、多くの用途を見出すようになってきた。α,β-エチレン性不飽和カルボン酸及びα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステルを含む四元ポリマーは、公知である。
【0012】
(特許文献6)には、5重量%~60重量%のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、20重量%~83.9重量%の共役ジエン単位、0.1重量%~20重量%のジカルボン酸のモノエステル単位、11重量%~50重量%の2~8個の炭素原子を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレート単位を含む、少なくとも部分的に水素化されたニトリル-ブタジエンコポリマーが開示されている。表2には、とりわけ、21.3重量%又は24.8重量%(27mol%~30mol%)のアクリロニトリル、46.6重量%又は47.3重量%(57mol%)のブタジエン、4.5重量%~5重量%(2mol%)のモノ-n-ブチルマレエート、及び23.0重量%又は27.1重量%(11mol%~14mol%)のメトキシエチルアクリレートの含量を有する、四元ポリマーが記載されている。シリカを含む加硫可能な組成物は、何も開示されていない。
【0013】
(特許文献7)には、ニトリル基を含み、(a)10.0重量%~40.0重量%のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、(b)5.5重量%~10.0重量%のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単位、(c)11.0重量%~30.0重量%の2~8個の炭素原子を有するアルコキシアルキル基を含む(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単位、及び(d)20.0重量%~73.5重量%の共役ジエン単位を含む、高度に飽和されたコポリマーゴムが開示されており、その共役ジエン単位の少なくとも幾分かは水素化されている。ポリエチレングリコールアクリレート単位を有するHNBRターポリマーについては、明らかに開示されていない。シリカを含む加硫可能な組成物は、何も開示されていない。
【0014】
(特許文献8)には、PEG5メタクリレートHNBR及びシリカに担持された架橋剤を含む組成物が開示されている。PEG5メタクリレートモノマーの量は、極めて少量であって、モノマー単位の合計量を基準にして、わずか4.1重量%である。
【0015】
(特許文献9)には、HNBRターポリマー及びシリカに担持されたペルオキシド架橋剤を含む組成物が開示されている。ポリエチレングリコールで官能化されたターモノマーの量は少量であって、モノマー単位の合計量を基準にして10重量%未満である。
【0016】
(特許文献10)には、カルボキシル化ニトリルゴム(XNBR)、シリカ系充填剤及びシラン、並びに架橋剤としてのレゾールからなる組成物が開示されている。PEGアクリレート-HNBRターポリマーをベースとする組成物の開示はまったくない。
【0017】
(特許文献11)には、30重量%未満のニトリル単位、(b)共役ジエン単位、(c)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単位、及び(d)メトキシエチルアクリレートを含む、ニトリル含有の、高度に飽和されたコポリマーが開示されている。それらの実施例には、24重量%のアクリロニトリル単位、46重量%のブタジエン単位、23重量%のメトキシエチルアクリレート、及び7重量%のモノ-n-ブチルマレエートを含む四元ポリマーが明示されている。シリカを含む加硫可能な組成物については、開示されていない。
【0018】
(特許文献12)には、(a)0.1重量%~15重量%のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、(b)1重量%~10重量%のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単位、(c)40重量%~75重量%のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単位、及び(d)20重量%~58.9重量%のジエン単位を含むコポリマーが開示されている。ポリエチレングリコールアクリレート単位を有するHNBRターポリマーについては、明らかに開示されていない。
【0019】
(特許文献13)(本出願の時点では公表されていた)には、0.1重量%~20重量%のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、15重量%~74.9重量%の共役ジエン単位、及び25重量%~65重量%のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位を含む水素化ニトリル-ジエンカルボン酸コポリマーが開示されているが、ここで、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、少なくとも15重量%のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、1~12個の繰り返しエチレングリコール単位を有するPEGアクリレートから誘導されている。
【0020】
モノマーの選択及び使用されるモノマーの量が、ポリマーの性質に決定的な影響を及ぼすが、その影響は、容易には予見できない。
【0021】
(特許文献14)には、ニトリル単位、ジエン単位及びカルボン酸単位、たとえばジカルボン酸モノエステル単位からなるターポリマー、70g/cm以下の比表面積を有するシリカ、並びにポリアミン系架橋剤を含む組成物が開示されている。例を挙げれば、20.8重量%のアクリロニトリル、44.2重量%のブタジエン、4.5重量%のマレイン酸モノ-n-ブチル及び30.5重量%のアクリル酸n-ブチルの水素化ターポリマー、シリカ、及びポリアミン系架橋剤を含む加硫可能な組成物である。ポリマー架橋剤には、架橋のための遊離のカルボキシル基が存在している必要がある。ペリオキシド系の架橋についての記述はない。
【0022】
今日までに知られている加硫可能な組成物から形成された加硫物は、低温安定性、オイル膨潤度、及び発熱性に関しては、満足のいくものではなく、自動車産業からの高い要求に応えることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】欧州特許出願公開第A-1852447号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-1247835号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-1243602号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-2868677号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-2868676号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A-2392599号明細書
【文献】特開2012-031311号公報
【文献】国際公開第2015/063162号
【文献】国際公開第2015/063164号
【文献】国際公開第2014/111451号
【文献】欧州特許出願公開第A-3124533号明細書
【文献】国際公開第2016/059855号
【文献】欧州特許第16203271.6号明細書
【文献】国際公開第2017/010370号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、本発明が扱う一つの課題は、低い損失係数G”、優れた低温安定性、低いオイル膨潤度、及び応力下での低い発熱性を有する、加硫可能な組成物及びそれから製造される加硫物を提供することであった。
【0025】
さらなる課題は、従来技術から公知のものよりも、悪くない、すなわち高くない圧縮永久歪み(CS)を有する加硫可能な組成物を提供することであった。
【0026】
HNBRに淡色の充填剤を添加すると、カーボンブラックを添加した場合よりも、圧縮強度が低くなるということは公知である。したがって、扱うべきさらなる課題は、それから製造した加硫物の引張強度における低下が、カーボンブラックを添加した場合に比べて、最小限となるような加硫可能な組成物を提供することであった。扱うべきさらなる課題は、提供された加硫可能な組成物から形成される加硫物の動的機械的性質におけるバランスを、すでに公知の加硫物と同程度に達成することであった。
【課題を解決するための手段】
【0027】
その課題に対する解決法及び本発明の主題は、したがって、以下のものを含む加硫可能な組成物である:
i)
(a)0.1重量%~38重量%、好ましくは10重量%~33重量%、より好ましくは8重量%~25重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
(b)15重量%~89.9重量%、好ましくは21重量%~79重量%、より好ましくは25重量%~65重量%の少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
(c)10重量%~65重量%、好ましくは11重量%~60重量%、特に好ましくは25重量%~55重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位、
を含み、
ここで、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、一般式(I)
【化1】
[式中、
Rは、分岐状若しくは非分岐状のC~C20-アルキル、好ましくはC~C10-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、ブチル、又はエチルヘキシルであり、
nは、1~12、好ましくは2~12、より好ましくは2~8、最も好ましくは2又は3であり、
は、水素又はCH-である]
のPEGアクリレート(d)である、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー、
ii)少なくとも1種のシリカ、好ましくは少なくとも1種のシラン化処理した(silanized)シリカ、並びに
iii)架橋剤。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】損失弾性率の振幅依存法測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この時点で、本発明の範囲には、これまでに記述し、以後において記述する、一般的な項目又は好ましい範囲とされた、成分、値の範囲、基の定義、及び/又はプロセスパラメーターのすべての可能な組合せが含まれるということに留意すべきである。
【0030】
i)水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー
「コポリマー」という用語には、2つ以上のモノマー単位を有するポリマーが包含される。
【0031】
本発明の一つの実施形態においては、そのコポリマーがもっぱら、たとえば、先に述べた3種のモノマーのタイプ(a)、(b)及び(d)から誘導され、そのため、それはターポリマーである。したがって、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーのすべてのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、一般式(I)のPEGアクリレート単位(d)である。
【0032】
同様にして、「コポリマー」という用語に包含されるものはさらに、たとえば、3種のモノマータイプ(a)、(b)及び(d)、並びにPEGアクリレート単位(d)とは異なるさらなるα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)から誘導される、四元ポリマーである。
【0033】
「ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー」という用語は、本発明の文脈においては、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、少なくとも1種の共役ジエン単位、及び少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位を含むコポリマーを指している。したがって、その用語にはさらに、2種以上のα,β-エチレン性不飽和ニトリルモノマー単位、2種以上の共役ジエンモノマー単位、及び2種以上のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位を有するコポリマーもまた包含される。
【0034】
「水素化された(hydrogenated)」という用語は、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの中のブタジエン単位の水素化の程度が、50%~100%、好ましくは90%~100%、より好ましくは95%~100%、最も好ましくは99%~100%であることを意味している。
【0035】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル
使用される、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)を形成するα,β-エチレン性不飽和ニトリルは、公知のいかなるα,β-エチレン性不飽和ニトリルであってもよい。好ましいのは、以下のものである:(C~C)-α,β-エチレン性不飽和ニトリル、たとえばアクリロニトリル、α-ハロアクリロニトリル、たとえばα-クロロアクリロニトリル及びα-ブロモアクリロニトリル、α-アルキルアクリロニトリル、たとえばメタクリロニトリル、エタクリロニトリル、又は2種以上のα,β-エチレン性不飽和ニトリルの混合物。特に好ましいのは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル又はそれらの混合物である。極めて特に好ましいのは、アクリロニトリルである。
【0036】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)の量は、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーのすべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、典型的には0.1重量%~38重量%、好ましくは10重量%~33重量%、より好ましくは8重量%~25重量%の範囲である。
【0037】
共役ジエン
共役ジエン単位(b)を形成する共役ジエンは、いかなるタイプであってもよいが、特には共役のC~C12ジエンである。特に好ましいのは、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)、又はそれらの混合物である。特に好ましいのは、1,3-ブタジエン及びイソプレン又はそれらの混合物である。極めて特に好ましいのは1,3-ブタジエンである。
【0038】
共役ジエンの量は、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーのすべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、典型的には15重量%~89.9重量%、好ましくは21重量%~79重量%、より好ましくは25重量%~65重量%の範囲である。
【0039】
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位及び共役ジエン単位に加えて、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーには、第三の単位として、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)を含むが、ここですべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%が、一般式(I)
【化2】
[式中、
Rは、分岐状若しくは非分岐状のC~C20-アルキル、好ましくはC~C10-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、ブチル、又はエチルヘキシルであり、
nは、1~12、好ましくは2~12、より好ましくは2~8、最も好ましくは2又は3であり、
は、水素又はCH-である]
のPEGアクリレート(d)である。
【0040】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本発明の文脈においては、「アクリレート」及び「メタクリレート」を表している。一般式(I)の中のR基が、CH-である場合には、その分子はメタクリレートである。
【0041】
「ポリエチレングリコール」及び略して「PEG」は、本発明の文脈においては、1個の繰り返しエチレングリコール単位(PEG-1;n=1)~12個の繰り返しエチレングリコール単位(PEG-1~PEG-12;n=1~12)を有するエチレングリコール部分を表す。
【0042】
「PEGアクリレート」という用語もまた、略してPEG-X-(M)Aとされるが、ここで「X」は、エチレングリコールの繰り返し単位の数であり、「MA」はメタクリレートであり、「A」は、アクリレートである。
【0043】
一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるアクリレート単位は、本発明の文脈においては、「PEGアクリレート単位」(d)と呼ばれる。
【0044】
好ましいPEGアクリレート単位(d)は、以下の式番号1~番号8を有するPEGアクリレートから誘導されるが、ここでnは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12、好ましくは2、3、4、5、6、7、又は8、特に好ましくは2、3、4、又は5、極めて特に好ましくは2又は3である。
【0045】
【表1】
【0046】
エトキシポリエチレングリコールアクリレート(式番号1)に対して一般的に使用されているその他の呼び方は、たとえばポリ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート、エトキシPEGアクリレート、エトキシポリ(エチレングリコール)モノアクリレート、又はポリ(エチレングリコール)モノエチルエーテルモノアクリレートなどである。
【0047】
これらのPEGアクリレートは、たとえば、ArkemaからSartomer(登録商標)の商品名で、EvonikからVisiomer(登録商標)の商品名で、或いはSigma Aldrichから市販されている。
【0048】
本発明のコポリマーの中でのPEGアクリレート単位(d)の量は、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、10重量%~65重量%、好ましくは15重量%~65重量%、より好ましくは25重量%~55重量%の範囲である。
【0049】
また別の実施形態においては、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、PEGアクリレート単位(d)の量が10重量%~65重量%、PEGアクリレート単位(d)とは異なるα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)の量が0重量%~55重量%であるが、ただしカルボン酸エステル単位の合計量が65重量%を超えることはない。
【0050】
したがって、PEGアクリレート単位(d)が、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)の一部又は全部を占める。
【0051】
PEGアクリレート単位(d)とは異なる、典型的なα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)としては以下のものが挙げられる:
・ (メタ)アクリル酸アルキル、特には(メタ)アクリル酸C~C18-アルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、又は(メタ)アクリル酸n-ヘキシル;
・ (メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C~C18-アルコキシアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C~C12-アルコキシアルキル;
・ (メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C~C18-ヒドロキシアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C~C12-ヒドロキシアルキル;
・ (メタ)アクリル酸シクロアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C~C18-シクロアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C~C12-シクロアルキル、より好ましくは(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル;
・ (メタ)アクリル酸アルキルシクロアルキル、特には、(メタ)アクリル酸C~C12-アルキルシクロアルキル、好ましくは(メタ)アクリル酸C~C10-アルキルシクロアルキル、より好ましくは(メタ)アクリル酸メチルシクロペンチル、及び(メタ)アクリル酸エチルシクロヘキシル;
・ アリールモノエステル、特には、C~C14-アリールモノエステル、好ましくは(メタ)アクリル酸フェニル又は(メタ)アクリル酸ベンジル;
・ アミノ含有α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル、たとえばアクリル酸ジメチルアミノメチル又はアクリル酸ジエチルアミノエチル;
・ α,β-エチレン性不飽和モノアルキルのジカルボキシレート、好ましくは、
・ アルキル、特にC~C18-アルキル、好ましくはn-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル又はn-ヘキシル(のジカルボキシレート)、より好ましくはマレイン酸モノ-n-ブチル、フマル酸モノ-n-ブチル、シトラコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-ブチル;
・ アルコキシアルキル、特にC~C18-アルコキシアルキル、好ましくはC~C12-アルコキシアルキル(のジカルボキシレート);
・ ヒドロキシアルキル、特にC~C18-ヒドロキシアルキル、好ましくはC~C12-ヒドロキシアルキル(のジカルボキシレート);
・ シクロアルキル、特にC~C18-シクロアルキル、好ましくはC~C12-シクロアルキル(のジカルボキシレート)、より好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチル、シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチル、イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、及びイタコン酸モノシクロヘプチル;
・ アルキルシクロアルキル、特にC~C12-アルキルシクロアルキル、好ましくはC~C10-アルキルシクロアルキル(のジカルボキシレート)、より好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル及びマレイン酸モノエチルシクロヘキシル、フマル酸モノメチルシクロペンチル及びフマル酸モノエチルシクロヘキシル、シトラコン酸モノメチルシクロペンチル及びシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル及びイタコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ アリール、特にC~C14-アリールのモノエステル、好ましくはマレイン酸モノアリール、フマル酸モノアリール、シトラコン酸モノアリール、又はイタコン酸モノアリール、特に好ましくはマレイン酸モノフェニル若しくはマレイン酸モノベンジル、フマル酸モノフェニル若しくはフマル酸モノベンジル、シトラコン酸モノフェニル若しくはシトラコン酸モノベンジル、イタコン酸モノフェニル若しくはイタコン酸モノベンジル、
・ 不飽和ポリアルキルポリカルボン酸エステル、たとえばマレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、又はイタコン酸ジエチル;
又はそれらの混合物。
【0052】
また別の実施形態においては、本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーには、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)、共役ジエン単位(b)、及び一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されたPEGアクリレート単位(d)のみではなく、不飽和カルボン酸エステル単位(c)としての、モノアルキルジカルボキシレート単位、好ましくはモノブチルマレエートも含まれる。
【0053】
本発明における好ましい水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの中では、そのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)が、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルから、より好ましくはアクリロニトリルから誘導され、その共役ジエン単位(b)が、イソプレン又は1,3-ブタジエンから、より好ましくは1,3-ブタジエンから誘導され、そのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、もっぱら、n=2~12である一般式(I)のPEGアクリレート、より好ましくはn=2又は3である一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位(d)であるが、ここで、さらなるカルボン酸エステル単位(c)は存在させない。
【0054】
本発明におけるさらに好ましい水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーにおいては、そのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)が、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルから、より好ましくはアクリロニトリルから誘導され、その共役ジエン単位(b)が、イソプレン又は1,3-ブタジエンから、より好ましくは1,3-ブタジエンかれ誘導され、そのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、n=2~12である第一の一般式(I)のPEGアクリレート、より好ましくはn=2又は3である一般式(I)のPEGアクリレートから誘導され、、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、PEGアクリレート単位(d)とは異なっている。
【0055】
水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーにはさらに、1種又は複数のさらなる共重合性モノマー(e)を、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、0重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%の量で含んでいてもよい。それには、それ以外のモノマー単位(a)、(b)、(c)及び(d)を適切に減らして、すべてのモノマー単位を合計したものが必ず100重量%になるようにする。水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーには、以下のものからの1種又は複数のさらなる共重合性モノマー(e)を含んでいてもよい:
・ 芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン、α-メチルスチレン、及びビニルピリジン、
・ フッ素含有ビニルモノマー、好ましくはフルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-フルオロメチルスチレン、ビニルペンタフルオロベンゾエート、ジフルオロエチレン、及びテトラフルオロエチレンなど、
・ α-オレフィン、好ましくはC~C12-オレフィン、たとえばエチレン、1-ブテン、4-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、又は1-オクテン、
・ 非共役ジエン、好ましくはC~C12-ジエン、たとえば1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、4-シアノシクロヘキセン、4-ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなど、
・ アルキン、たとえば1-ブチン又は2-ブチン、
・ α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、又はケイ皮酸、
・ α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、
・ 共重合性抗酸化剤、たとえばN-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリン、又は
・ 架橋性モノマー、たとえばジビニル成分、たとえばジビニルベンゼン。
【0056】
また別な実施態様においては、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーには、PEGアクリレート単位(c)として、1~12個の繰り返しエチレングリコール単位、好ましくは2~12個の繰り返しエチレングリコール単位を含む、エトキシ、ブトキシ若しくはエチルヘキシルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、より好ましくは、2~8個の繰り返しエチレングリコール単位を含む、エトキシ若しくはブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、最も好ましくは、2又は3個の繰り返しのエチレングリコール単位を含むエトキシ若しくはブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが含まれる。
【0057】
さらにまた別な、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの実施態様においては、一般式(I)のカルボン酸エステルモノマーにおいて、nが2又は3であり、Rがエチル又はブチルであり、Rが水素又はメチルであるが、好ましくはnが2であり、Rがブチルであり、Rがメチルである。
【0058】
少なくとも1種の遊離のカルボン酸基、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル又はエチレン性不飽和ジカルボン酸を有するモノマー単位が共重合されていると、一般的には、耐老化性の低下がもたらされる。ポリマー中に遊離の酸基があることの結果として、高温での老化試験の後での伸びの低下が見出されるようになった。それと同時に、ガラス転移温度の上昇も観察されるようになったが、このことは、本明細書で達成した優れた低温可撓性の要件に対しては悪影響を及ぼす。耐老化性への影響は、共重合されたPEGアクリレート単位の長さも含めた因子に依存するが、特にPEG-1単位が共重合されている場合、すなわち、(アルコキシ)モノエチレングリコール(メタ)アクリレートから誘導されたPEGアクリレート単位の場合に、耐老化性における劣化が顕著である。
【0059】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位は別として、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー、共役ジエン単位、及びPEGアクリレート単位には、好ましくは、遊離のカルボン酸基を有するいかなるモノマー単も含まれない。
【0060】
さらなるまた別な実施態様においては、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーには、(n=1ならば)、遊離のカルボン酸基を有するいかなる共重合性モノマー単位も含まれない。
【0061】
さらなるまた別な実施態様においては、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーには、遊離のカルボン酸基(-COOH)を有するいかなる共重合性モノマー単位も含まれない。
【0062】
水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーには、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位は別として、その共役ジエン単位及びPEGアクリレート単位には、好ましくは、いかなるさらなるモノマー単位も含まない。これが意味しているのは、この実施態様は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位、及び一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位のみで構成されているということである。
【0063】
さらにまた別の実施形態においては、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーに、8重量%~25重量%のアクリロニトリル単位、25重量%~65重量%の1,3-ブタジエン単位、及び25重量%~55重量%のPEG-2アクリレート単位又はPEG-3アクリレート単位が含まれる。
【0064】
さらにまた別の実施形態においては、その水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーが以下のものを含んでいる:
・ 13重量%~17重量%のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)、好ましくはアクリロニトリル、
・ 36重量%~44重量%の共役ジエン単位(b)、好ましくは1,3-ブタジエン、及び
・ 43重量%~47重量%のPEGアクリレート単位(d)、一般式(I)のPEGアクリレートから誘導された、好ましくはブトキシジエチレングリコールメタクリレート。
【0065】
本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーは、典型的には10,000g/mol~2,000,000g/mol、好ましくは50,000g/mol~1,000,000g/mol、より好ましくは100,000g/mol~500,000g/mol、最も好ましくは150,000g/mol~300,000g/molの数平均分子量(Mn)を有している。
【0066】
本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーは、典型的には1.5~6、好ましくは2~5、より好ましくは2.5~4の多分散性指数(PDI=M/M、ここでMは重量平均分子量である)を有している。
【0067】
本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーは、典型的には10~150、好ましくは20~120、より好ましくは25~100のムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有している。
【0068】
PEG-2-MA単位を含む、本発明におけるターポリマー及び四元ポリマーは、極めて特に低いゲル含量を有していることを特徴としている。
【0069】
本発明における最も好ましい水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーは、DIN 53765に従って測定して、-40℃以下のガラス転移温度Tgを有していることを特徴としている。
【0070】
本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの具体的な実施態様は、以下のいずれかである、加硫物の製造を可能とすることを特徴としている:
・ DIN 53765に従って測定したガラス転移温度Tgが、-40℃未満の値、好ましくは-44℃以下の値、より好ましくは-47℃以下の値を有し、
・ DIN ISO 1817に従い、150℃で7日かけて測定したIRM 903中での膨潤度が、51%以下の値、好ましくは45%以下の値、より好ましくは43%以下の値をするか、又は、
・ DIN ISO 1817に従い、150℃で7日かけて測定したIRM 903中での膨潤度が、20%以下の値、好ましくは18%以下の値、より好ましくは15%以下の値を有し、
・ DIN 53765に従って測定したガラス転移温度Tgが、-20℃未満の値、好ましくは-23℃以下の値、より好ましくは-25℃以下の値を有する。
【0071】
非水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを製造するためのプロセス
本発明は、好ましくは、非水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを調製するためのプロセスを提供し、それは、0.1重量%~38重量%、好ましくは10重量%~33重量%、より好ましくは8重量%~25重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル、15重量%~89.9重量%、好ましくは21重量%~79重量%、より好ましくは25重量%~65重量%の少なくとも1種の共役ジエン、並びに10重量%~65重量%、好ましくは11重量%~60重量%、より好ましくは25重量%~55重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル(ここで、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を規準にして、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステルの、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは20重量%が、一般式(I)
【化3】
[式中、
Rは、分岐状若しくは非分岐状のC~C20-アルキル、好ましくはC~C10-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、ブチル、又はエチルヘキシルであり、
nは、1~12、好ましくは2~12、より好ましくは2~8、最も好ましくは2又は3であり、
は、水素又はCH-である]
のPEGアクリレートである)
を乳化重合にかけることを特徴としている。
【0072】
水素化のために必要とされる中間体としての非水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの調整は、上述のモノマーを重合させることにより実施できるが、文献(たとえば、Houben-Weyl,Methoden der Organischen Chemie,vol.14/1,30 Georg Thieme Verlag,Stuttgart,1961)にも詳しく書かれており、特別な制限はない。それは、一般的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位及びPEGアクリレート単位を望むように共重合させるプロセスである。使用される重合プロセスは、各種公知の乳化重合プロセス、懸濁重合プロセス、バルク重合プロセス、及び溶液重合プロセスであってよい。好ましいのは、乳化重合プロセスである。乳化重合とは、通常そこで使用される反応媒体が水であるような、自体公知のプロセスを特に意味していると理解されたい(参照、とりわけ、Roempp Lexikon der Chemie,[Roempp’s Chemistry Lexicon],volume 2,10th edition,1997;P.A.Lovell,M.S.El-Aasser,Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers,John Wiley & Sons,ISBN:0471 96746 7;H.Gerrens,Fortschr.Hochpolym.Forsch.,1,234(1959))。本発明のターポリマーが得られるようなターモノマーの組み込み比率は、当業者が容易に調節することができる。モノマー類を最初に仕込んでもよいし、或いは、2段以上の工程で追加しながら反応させてもよい。
【0073】
本発明は、本発明において水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを調製するために必要な、非水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを提供するが、それには、
(a)0.1重量%~38重量%、好ましくは10重量%~33重量%、より好ましくは8重量%~25重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
(b)15重量%~89.9重量%、好ましくは21重量%~79重量%、より好ましくは25重量%~65重量%の少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
(c)10重量%~65重量%、好ましくは11重量%~60重量%、特に好ましくは25重量%~55重量%の少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位、
を含み、
ここで、すべてのモノマー単位の合計量である100重量%を基準にして、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位(c)が、一般式(I)
【化4】
[式中、
Rは、分岐状若しくは非分岐状のC~C20-アルキル、好ましくはC~C10-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、ブチル、又はエチルヘキシルであり、
nは、1~12、好ましくは2~12、より好ましくは2~8、最も好ましくは2又は3であり、
は、水素又はCH-である]
のPEGアクリレート(d)から誘導され、
並びに、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを製造するためのそれらの使用を提供する。
【0074】
メタセシス及び/又は水素化:
非水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの製造に続けてのそのニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの分子量を低下させるためのメタセシス反応、又はメタセシス反応とそれに続く水素化反応、又は水素化のみを実施することもまた可能である。これらのメタセシス反応又は水素化反応は、当業者には周知であり、文献にも記載されている。メタセシスは、たとえば国際公開第02/100941号及び国際公開第02/100905号から知られており、分子量を低下させるために使用することができる。
【0075】
水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを製造するためのプロセス
本発明はさらに、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを調製するためのプロセスも提供するが、それは、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、及び少なくとも1種の、一般式(I)のPEGアクリレートを乳化重合にかけ、次いで水素化することを特徴としている。
【0076】
非水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを共重合させた後で、前記コポリマーを、少なくとも部分的に水素化させる(水素添加反応)。その少なくとも部分的に水素化されたニトリル-ジエンコポリマーの中では、その共役ジエンから誘導された繰り返し単位のC=C二重結合の少なくとも一部が、選択的に水素化されている。本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの中の共役ジエン単位(b)の水素化度は、50%~100%、好ましくは90%~100%、特に好ましくは99%~100%である。
【0077】
したがって、「水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー」という用語は、本発明の文脈においては、なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリルモノマー単位、少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位、及び少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位を含み、その共役ジエン単位が50%~100%、好ましくは90%~100%、より好ましくは99%~100%の程度まで水素化されているコポリマーに関する。
【0078】
ニトリル-ジエンコポリマーの水素化反応は、たとえば以下の特許からも公知である:米国特許第A-3 700 637号明細書、独国特許出願公開第A-2 539 132号明細書、独国特許出願公開第A-3 046 008号明細書、独国特許出願公開第A-3 046 251号明細書、独国特許出願公開第A-3 227 650号明細書、独国特許出願公開第A-3 329 974号明細書、欧州特許出願公開第A-111 412号明細書、仏国特許第B2 540 503号明細書。水素化ニトリル-ジエンコポリマーの特徴は、高破壊強度、低摩耗性、圧縮及び引張応力後でも依然として低い変形、及び良好な耐油性ばかりでななく、さらに、熱作用及び酸化作用に対する特に顕著な安定性である。
【0079】
(ii)シリカ
本発明における加硫可能な組成物、さらにはその水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(a)には、さらにシリカが含まれる。本発明の文脈においては、「シリカ」という用語には、非シラン化処理シリカ及びシラン化処理したシリカの両方が包含される。
【0080】
本発明における加硫可能な組成物中のシリカには、制限はなく、天然シリカ、たとえば摩砕シリカ、シリカ粉体、シリカ無水物(シリカゲル、アエロジルなど)、合成シリカ、沈降シリカなどが挙げられる。
【0081】
シリカの比表面積は、ASTM D3037-81に従い、BET法により測定することができる。
【0082】
好適なシリカの例は公知であり、とりわけ、EvonikからCoupsil又はUltrasilの商品名、LanxessからVulkasilの商品名、東ソー・シリカ(株)からNipsilの商品名で入手可能である。
【0083】
本発明における加硫可能な組成物の中におけるシリカ(ii)の含量は、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)の100重量部を基準にして、典型的には10~250重量部、好ましくは15~90重量部、より好ましくは20~80重量部である。
【0084】
本発明における加硫可能な組成物におけるシリカ(ii)の効果は、それから製造された加硫物が、たとえば破断時伸び、引張強度、圧縮強度、又は硬度のような物理的性質を維持しながらも、応力下での発熱性が低いところにある。
【0085】
好ましい実施態様においては、そのシリカ(ii)が、シラン化処理したシリカである。シラン化処理したシリカは、典型的には、本発明における加硫可能な組成物に添加する前に、シラン化処理剤を用いて非シラン化処理シリカを前処理することにより製造することが可能であるか、又は単に、加硫可能な組成物を製造する過程で非シラン化処理シリカ及びシラン化処理剤を添加することによって(すなわち、in situで)製造することが可能であるか、のいずれかである。
【0086】
シラン化処理したシリカは、当業者には公知である。公知のシラン化処理したシリカは、たとえば、Coupsil(登録商標)又はNipsil SS(登録商標)である。好適なシラン化処理したシリカは、Evonik製のCoupsil(登録商標)である。
【0087】
本発明における加硫可能な組成物の中におけるシラン化処理したシリカの含量は、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)の100重量部を基準にして、典型的には10~250重量部、好ましくは15~90重量部、より好ましくは20~80重量部である。
【0088】
シラン化処理剤(iv)
したがって、本発明における加硫可能な組成物には、さらには水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)、シリカ(ii)及び架橋剤(iii)も同様に、そのシリカ(ii)が非シラン化処理シリカであるならば、シラン化処理剤(iv)をさらに含んでいてもよい。
【0089】
加硫可能な組成物の製造において、シラン化処理剤(iv)を添加した結果として、その組成物を100℃に保持することにより、シラン化処理したシリカがin situで調製される。
【0090】
シラン化処理したシリカの効果は、ポリマー中での充填剤の分配が改良されること、特に充填剤-充填剤の相互作用が低下することにある。ビニルシランをシラン化処理剤として使用した場合には、ゴムに対して充填剤を結合させることができる。
【0091】
シラン化処理剤については、さらなる制約はない。特に考えられるものとしては、たとえば以下の有機シランが挙げられる:ビニルトリメチルオキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、N-シクロヘキシル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、又は(オクタデシル)メチルジメトキシシラン、3-メルカプトメチルトリメトキシシラン、3-メルカプトメチルトリエトキシシラン。シラン化処理剤の他にも、さらなる充填剤-活性化剤、たとえば界面活性物質たとえば、トリエタノールアミン及び74~10,000g/molの分子量を有するエチレングリコールを使用することもまた可能である。充填剤-活性化剤の量は、100重量部のニトリルゴムを規準にして、典型的には0重量部~10重量部である。
【0092】
好ましいシラン化処理剤は、Dynasylan(登録商標)VTEO(Evonikから市販)、又は、Wackerからの商品名Geniosil(登録商標)である。
【0093】
本発明における加硫可能な組成物におけるシラン化処理剤(iv)の含量は、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)の100重量部を基準にして、0.1~5重量部、好ましくは0.2~3重量部、より好ましくは0.3~1.5重量部である。
【0094】
特に好ましい実施態様においては、本発明における加硫可能な組成物、さらには水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー及びペルオキシド系架橋剤には、シリカ及びシラン化処理剤が含まれる。
【0095】
iii)架橋剤
有用な架橋剤の例としては、ペルオキシド系架橋剤、硫黄含有架橋剤、又はアミン系架橋剤が挙げられるが、好ましいのは、ペルオキシド系架橋剤である。
【0096】
好適なペルオキシド系架橋剤の例としては、以下のものが挙げられる:ペルオキシド系架橋剤たとえば、ビス(2,4-ジクロロベンジル)ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(4-クロロベンゾイル)ペルオキシド、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、tert-ブチルペルベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブテン、4,4-ジ-tert-ブチルペルオキシノニルバレレート、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルペルオキシド、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルペルオキシド、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシ-3-イン。
【0097】
好適な硫黄含有架橋剤及びアミン系架橋剤は、当業者には公知である。
【0098】
使用される硫黄含有架橋剤は、たとえば、可溶性又は不溶性の形態にある元素状の硫黄、又は硫黄供与体であってよい。
【0099】
有用な硫黄供与体の例としては、以下のものが挙げられる:ジモルホリルジスルフィド(DTDM)、2-モルホリノジチオベンゾチアゾール(MBSS)、カプロラクタムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、及びテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)。
【0100】
本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの硫黄加硫においては、架橋収率を向上させるのに役立つことが可能なさらなる添加剤を使用することもできる。原理的には、その架橋は、硫黄又は硫黄供与体を単独で用いて実施することも可能である。
【0101】
しかしながら、逆に、上述の添加物を存在させるだけ、すなわち元素状の硫黄又は硫黄供与体を添加することなく、本発明の水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)の架橋を実施することもまた可能である。
【0102】
架橋収率を向上させるのに役立つ可能性がある好適な添加物としては、たとえば以下のものが挙げられる:ジチオカルバミン酸塩、チウラム、チアゾール、スルフェンアミド、キサントゲン酸塩、グアニジン誘導体、カプロラクタム、及びチオ尿素誘導体。
【0103】
使用されるジチオカルバミン酸塩は、たとえば以下のものであってよい:ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDBC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDMC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZEPC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(Z5MC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル、及びジイソノニルジチオカルバミン酸亜鉛。使用されるチウラムは、たとえば以下のものであってよい:テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジメチルジフェニルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、及びテトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)。使用されるチアゾールは、たとえば以下のものであってよい:2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、亜鉛メルカプトベンゾチアゾール(ZMBT)、及び銅2-メルカプトベンゾチアゾール。使用されるスルフェンアミド誘導体は、たとえば以下のものであってよい:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(DCBS)、2-モルホリノチオベンゾチアゾール(MBS)、N-オキシジエチレンチオカルバミル-N-tert-ブチルスルフェンアミド、及びオキシジエチレンチオカルバミル-N-オキシエチレンスルフェンアミド。使用されるキサントゲン酸塩は、たとえば以下のものであってよい:ジブチルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルジブチルキサントゲン酸亜鉛、及びジブチルキサントゲン酸亜鉛。使用されるグアニジン誘導体は、たとえば以下のものであってよい:ジフェニルグアニジン(DPG)、ジ-o-トリルグアニジン(DOTG)、及びo-トリルビグアニジエン(OTBG)。使用されるジチオリン酸塩は、たとえば以下のものであってよい:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基の鎖長:C~C16)、ジアルキルジチオリン酸銅(アルキル基の鎖長:C~C16)、及びジチオホスフォリルポリスルフィド。使用されるカプロラクタムは、たとえば、ジチオビスカプロラクタムであってよい。使用されるチオ尿素誘導体は、たとえば以下のものであってよい:N,N’-ジフェニルチオ尿素(DPTU)、ジエチルチオ尿素(DETU)、及びエチレンチオ尿素(ETU)。同様に添加物として好適なものとしては、たとえば以下のものが挙げられる:亜鉛ジアミンジイソシアネート、ヘキサメチレンテトラミン、1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、及び環状ジスルファン。
【0104】
列記した添加物及び架橋剤は、個別に使用しても、或いは混合物として使用してもよい。水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを架橋させるためには、次の物質を採用するのが好ましい:硫黄、2-メルカプトベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、亜鉛ジベンジルジチオカルバメート、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、ジモルホリルジスルフィド、テルルジエチルジチオカルバメート、ニッケルジブチルジチオカルバメート、亜鉛ジブチルジチオカルバメート、亜鉛ジメチルジチオカルバメート、及びジチオビスカプロラクタム。
【0105】
それらの架橋剤と同様にして、架橋収率を向上させるのに役立つ可能性がある、さらなる添加物を使用するのも有利となりうる:それらの好適な例としては、以下のものが挙げられる:トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、亜鉛ジアクリレート、亜鉛ジメタクリレート、1,2-ポリブタジエン、又はN,N’-m-フェニレンビスマレイミド。
【0106】
架橋剤の合計量は、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)の100重量部を基準にして、典型的には1~20重量部の範囲、好ましくは1.5~15重量部の範囲、より好ましくは2~10重量部の範囲である。
【0107】
架橋剤及び上述の添加物はそれぞれ、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)の100重量部を基準にして、0.05重量部~10重量部、好ましくは0.1重量部~8重量部、特には0.5重量部~5重量部(それぞれの場合において、活性物質基準での単一使用量(single dose))の量で使用するのがよい。
【0108】
その他の任意成分:
任意選択的に、このような種類の加硫可能な組成物には、さらに、ゴム関連の当業者には馴染みの、1種又は複数のよく知られた添加剤及び繊維状物質が含まれていてもよい。そのようなものとしては、以下のものが挙げられる:老化安定剤、加硫戻り安定剤、光安定剤、オゾン安定剤、加工助剤、離型剤、可塑剤、たとえば、ポリエーテルエステル可塑剤、鉱油、粘着付与剤、発泡剤、染料、顔料、ワックス、樹脂、エクステンダー、充填剤、たとえば硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミノシリケート、珪藻土、タルク、カオリン、ベントナイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、Teflon(好ましくは後者は粉体の形態)若しくはシリケート、カーボンブラック天然産物、たとえばアルミナ、カオリン、ウォラストナイト、有機酸、加硫抑制剤、金属酸化物、ガラス、コード、布製の強化材料、脂肪族及び芳香族ポリアミド(Nylon(登録商標)、Aramid(登録商標))製の繊維、ポリエステル及び天然繊維製品、不飽和カルボン酸の塩、たとえば亜鉛ジアクリレート(ZDA)、亜鉛メタクリレート(ZMA)及び亜鉛ジメタクリレート(ZDMA)、液状アクリレート、又はゴム業界で公知のその他の添加剤(Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,VCH Verlagsgesellschaft mbH,D-69451 Weinheim,1993,vol.A23“Chemicals and Additives”,pp.366-417)。
【0109】
添加剤と繊維物質とを合計した量が、100重量部のニトリルゴムを基準にして、典型的には1重量部~300重量部の範囲である。
【0110】
水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを含む加硫可能な組成物を製造するためのプロセス
本発明はさらに、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)を、シリカ(ii)、好ましくはシラン化処理したシリカ、並びに少なくとも1種の架橋剤(iii)及び場合によっては存在させるその他の成分と接触させることによる、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを含む加硫可能な組成物を製造するためのプロセスも提供する。この混合操作は、ゴム産業において慣用される各種の混合ユニット、たとえばインターナルミキサー、バンバリーミキサー、又はローラーの中で実施すればよい。当業者ならば、適切な試験をすることによって、計量添加の順序を容易に決めることができるであろう。
【0111】
例として、可能性のある2種のプロセス変法を、以下に記載する。
【0112】
プロセスA:インターナルミキサー中での製造
好ましいのは、かみ合いタイプ(intermeshing)のローター構造を有するインターナルミキサーである。
【0113】
開始時には、ベールの形態の水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーをインターナルミキサーに仕込み、そのベールを微粉砕させる。適切な混合時間の後に、充填剤及び添加剤を加える。その混合は温度制御下で実施するが、ただし、混合物が、80℃~150℃の範囲の温度に適切な時間滞留するようにする。さらなる適切な混合時間の後に、さらなる組成物構成成分、たとえば、任意選択的にステアリン酸、抗酸化剤、可塑剤、白色顔料(たとえば二酸化チタン)、染料、及びその他の加工活性化剤を添加する。さらなる適切な時間の後に、インターナルミキサーのガス抜きをし、シャフトをきれいにする。さらなる適切な時間の後に、インターナルミキサーを空にして、加硫可能な組成物を得る。適切な時間とは、数秒~数分を意味していると理解されたい。シリカ及びシランを使用する場合、インターナルミキサーの中で充填剤を良好にシラン化処理することが、有利となり得る。この目的のためには、混合物を、100℃より高い温度で少なくとも3分間混合して、シリカの表面を均質にシラン化処理するのが有利である。別な方法として、シラン化処理したシリカを使用することも可能であるが、このことは、混合時間を短縮することが可能となるということを意味している。架橋用薬剤は、(特に高い混合温度で混合を実施する場合には)ローラー上で別々の工程で組み入れてもよいし、或いはインターナルミキサーの中に直接同時に添加してもよい。この場合、その混合温度が、それらの架橋用薬剤の反応温度よりも低くなるようにしなければならない。
【0114】
そのようにして製造された加硫可能な組成物は、慣用される方法、たとえばムーニー粘度、ムーニースコーチ、又はレオメーター試験によって評価することができる。
【0115】
プロセスB:ローラー上での製造
混合ユニットとしてローラーを使用する場合には、最初に、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸コポリマーをローラーの上にフィードする。均質なミルドシートが形成されたら、充填剤、可塑剤、及び他の添加剤(架橋用薬剤は除く)を添加する。すべての成分を組み入れた後で、架橋用薬剤を添加し、組み入れる。次いで、その混合物の右側に3回、左側に3回刻み目を入れ、5回折り重ねる。そのようにして仕上がったミルドシートにロールがけして所望の厚みとし、所望の試験方法に合わせて、さらなる加工にかける。
【0116】
水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを含む加硫物を製造するためのプロセス
本発明はさらに、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを含む、好ましくは成形物の形態にある、加硫物を製造するためのプロセス(加硫)を提供するが、それが特徴としているのは、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー、シリカ、及び架橋剤を含む加硫可能な混合物を、好ましくは成形プロセスにおいて、さらに好ましくは100℃~250℃の範囲の温度、より好ましくは120℃~250℃の範囲の温度、最も好ましくは130℃~250℃の範囲の温度で、加硫にかけることである。この目的のためには、その加硫可能な混合物を、カレンダー、ロール、又はエクストルーダーを用いたさらなる加工にかける。そのようにして得られたものを、次いで、プレス、オートクレーブ、加熱空気系、又は自動マット加硫系(「Auma」)と呼ばれるものの中で加硫させるが、好ましい温度は100℃~250℃の範囲、特に好ましい温度は120℃~250℃の範囲、極めて特に好ましい温度は130℃~250℃の範囲であることが見出された。その加硫時間は、典型的には1分~24時間、好ましくは2分~1時間である。加硫物の形状及びサイズによっては、完全な加硫を得るために、再加熱による第二の加硫が必要になることもある。
【0117】
本発明はさらに、そのようにして得ることが可能な水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを含む本発明における加硫可能な組成物の加硫物も提供する。
【0118】
本発明はさらに、以下のものからなる群から選択される成形物を製造するための、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを含む本発明における加硫可能な組成物から製造された加硫物の使用も提供する:ベルト、ガスケット、ローラー、履物の部品、ホース、制震要素、ステーター、及びケーブルシース、好ましくはベルト、及びガスケット。
【0119】
したがって、本発明は、好ましくはベルト、ガスケット、ローラー、履物の部品、ホース、制震要素、ステーター、及びケーブルシース、好ましくはベルト及びガスケットから選択される成形物の形態にある、本発明における加硫可能な組成物からなる加硫物も提供する。たとえばこの目的のために使用することが可能な方法、たとえば、型込め成形、射出成形、又は押出し成形の方法、並びにそれらに対応する射出成形装置又はエクストルーダーは、当業者には十分公知である。これらの成形物の製造においては、本発明による加硫可能な組成物に対して、当業者には公知であり、慣用される技術知識を使用して適切に選択されなければならない標準的な助剤を補助的に使用することも可能であるが、そのようなものとしてはたとえば以下のものが挙げられる:充填剤、充填剤-活性剤、加硫促進剤、架橋剤、オゾン劣化防止剤、抗酸化剤、加工オイル、エクステンダーオイル、可塑剤、活性化剤、又はスコーチ防止剤。
【0120】
本明の特定な効果は、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー、シリカ、及び架橋剤を含む本発明における加硫可能な組成物が、公知のHNBRコポリマーをベースとする加硫物よりも優れた加硫物を製造するのに好適であるという点にある。
【実施例
【0121】
試験方法:
RDB含量(残存二重結合含量)(単位:%)は、以下のFT-IR測定法に従って求める。水素化の前、途中、及び後の水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーのIRスペクトルを、AVATAR360 Thermo Nicolet FT-IR分光計IR装置の手段により記録する。この目的のためには、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーのモノクロロベンゼン溶液をNaCl板に塗布し、乾燥させてフィルムとし、分析する。水素化度は、ASTM D 567095方法に従ったFT-IR分析法によって求める。
【0122】
ムーニー粘度の値(ML1+4@100℃)は、それぞれの場合において、ASTM D1646-07に従って、剪断ディスク粘度計の手段により求める。
【0123】
引張試験のために、加硫可能な混合物を180℃で加硫させることによって、2mmのシートを作成した。それらのプラックからダンベル形状の試験片を打ち抜き、ASTM D2240-81に従って引張強度及び伸びを測定した。
【0124】
硬度は、ASTM D2240-81に従い、硬度計を用いて測定した。
【0125】
ガラス転移温度は、ASTM E 1356-03に従うか、又はDIN 53765に従うDSC測定の手段によって得た。この目的のためには、10mg~15mgの間のサンプルをアルミニウムボートの上に秤込み、封入した。TA Instruments製のDSC装置の中で、そのボートを、-150℃から150℃まで、10K/分の加熱速度で2回加熱した。ガラス転移温度は、2回目の加熱曲線から、標準平均値法により求めた。
【0126】
膨潤度:膨潤度を求めるために、引張試験に使用されるのと同じようなダンベル形状の試験片を、DIN ISO 1817に従って、IRM903中に、150℃で168時間貯蔵した。その後、それらのサンプルを計測及び秤量して、体積膨潤度及び質量増加を求めた。次いで、ASTM D2240-81に従って、引張強度及び伸びを測定した。
【0127】
圧縮永久歪みは、DIN ISO 815-2に従って測定した。
【0128】
損失弾性率G”の測定
損失弾性率は、Alpha RPA 2000 Rubber Process Analyzerを、1Hz、60℃で使用して、振幅依存法(amplitude-dependent)測定により求めた。その剪断速度は、10%で0.65/s、20%で1.29/s、30%で1.94/s、50%で3.23/s、100%で6.46/sであった。
【0129】
実施例においては以下の物質を使用した:
以下の薬剤は、それぞれの場合において特定した会社からの商品として購入するか、又は特定した会社の製造プラント由来のものである。
【0130】
重合のため:
PEG-2-MA:ブトキシジエチレングリコールメタクリレート(BDGMA)、分子量30.3g/mol、Evonik Industries AG
PEG-3-MA:エトキシトリエチレングリコールメタクリレート、分子量246.3g/mol、Evonik Industries AG
Disponil(登録商標)SDS G:ラウリル硫酸ナトリウム;BASF
不均化樹脂酸のNa塩:CAS 61790-51-0
NaCO:Merck KGaA
t-DDM:三級ドデシルメルカプタン;LANXESS Deutschland GmbH
Glidox(登録商標)500:ピナンヒドロペルオキシド;Renessenz
「プレミックス溶液Fe(II)SO」:400gの水の中に、0.986gのFe(II)SO・7HO及び2.0gのRongalit(登録商標)Cを含む
Rongalit C(登録商標):スルフィン酸のナトリウム塩誘導体;BASFからの商品
ジエチルヒドロキシルアミン:Merck KGaA
Vulkanox(登録商標)BKF:2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチル-フェノール);LANXESS Deutschland GmbH
【0131】
加硫可能な組成物において使用された物質:
Therban(登録商標)3407:水素化ニトリル-ジエンゴム(HNBR)、アクリロニトリル含量=34重量%;RDB=0.9%未満、及びムーニー粘度ML(1+4@100℃)=70
Therban(登録商標)LT1707:水素化ニトリル-ジエンゴム(HNBR)、アクリロニトリル含量=17重量%;RDB=0.9%未満、及びムーニー粘度ML(1+4@100℃)=70
Corax(登録商標)N330:カーボンブラック;Orion Engineered Carbons
Coupsil(登録商標)VP 6508:シラン化処理したシリカ(Evonikから入手可能)
Vulkasil(登録商標)N:シリカ(沈降シリカ)(LANXESS Deutschland GmbHから入手可能)
Dynasylan(登録商標)VTEO:ビニルトリエトキシシラン、シラン化処理剤(Evonikから入手可能)
Rhenofit(登録商標)DDA:オクチル化ジフェニルアミンをベースとする70%マスターバッチ;Rheinchemie
Vulkanox(登録商標)ZMB2/C5:4-及び5-メチル-2-メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩;LANXESS Deutschland GmbH
Maglite(登録商標)DE:酸化マグネシウム;CP Hall
Kettlitz(登録商標)-TAIC:トリアリルイソシアヌレート、70%マスターバッチ;Kettlitz Chemie GmbH & Co KG
Perkadox(登録商標)14-40 B-PD:ジ(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(シリカ上、40%担持);Akzo Nobel Polymer Chemicals BV
【0132】
I ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマー(PEG-NBR1及び2)の調製
下記の実施例シリーズで使用されたPEG-NBR1及び2は、表1に記載された基本配合に従って製造されたが、原料はすべて、モノマー混合物の100重量%を規準にした重量%で記載されている。表1にはさらに、それぞれの重合条件(温度、転化率、及び時間)も含まれている。
【0133】
【表2】
【0134】
ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを、攪拌機系を備えた20Lのオートクレーブの中で、バッチ式で調製した。オートクレーブバッチのそれぞれにおいて、4.73kgのモノマー混合物と、合計して10kgの量の水とを使用し、EDTAを、Fe(II)を基準にして等モル量で使用した。オートクレーブの中に、最初に9kgの量の水を乳化剤と共に仕込み、窒素流を用いてパージした。その後で、モノマー及び表1に規定された量のt-DDM分子量調節剤を添加し、反応器を閉じた。反応器の内容物の温度調節ができたら、プレミックス溶液と、ピナンヒドロペルオキシド(Glidox(登録商標)500)を添加することにより、重合を開始させた。
【0135】
重合の進行は、重量法の転化率測定によりモニターした。表1に記載した転化率に達したら、ジエチルヒドロキシルアミンの水溶液を添加することにより重合を停止させた。水蒸気蒸留の手段によって、未転化モノマー及びその他の揮発性成分を除去した。
【0136】
それぞれのNBRラテックスをコアグレートさせる前に、Vulkanox(登録商標)BKF(NBRゴムを基準にして、0.1重量%のVulkanox(登録商標)BKF)の45%分散液を、それぞれに添加した。それに続けて、CaClを用いてコアグレートさせ、得られたクラムを洗浄及び乾燥させた。
【0137】
その乾燥させたPEG-NBRゴムは、ムーニー粘度、ACN含量、及びガラス転移温度により特性解析し、ターモノマーの含量を1H NMR分析により求めた(表2)。
【0138】
【表3】
【0139】
II 水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマー(PEG-HNBR1及び2)の調製
水素化の手順
それに続く水素化は、上で合成したニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマー(PEG-NBR1及び2)を使用して実施した。
【0140】
乾燥モノクロロベンゼン(MCB)はVWRから、Wilkinson触媒はMateria Inc.から、トリフェニルホスフィンはVWRから入手し、これらは入手したままで使用した。水素化実験の結果を表2にまとめた。
【0141】
水素化1~5は、10Lの高圧反応器の中で、以下の条件下で実施した。
溶媒:モノクロロベンゼン
固形分濃度:MCB(518g)中、12重量%~13重量%のPEG-NBRターポリマー
反応器温度:137~140℃
反応時間:最長4時間まで
触媒及び担持量:ウィルキンソン触媒:0.337g(0.065phr)
助触媒:トリフェニルホスフィン:5.18g(1.0phr)
水素圧(p H):8.4MPa
攪拌機速度:600rpm
【0142】
PEG-NBR含有ポリマー溶液を、激しく撹拌しながら、H(23℃、2MPa)を用い、3回脱気する。反応器の温度を上げて100℃とし、H圧を6MPaに上げた。ウィルキンソン触媒(0.337g)及びトリフェニルホスフィン(5.18g)からなる123.9gのクロロベンゼン溶液を加え、圧力を上げて8.4MPaとしたが、その間反応器の温度は137~140℃に調節した。反応の間ずっと、両方のパラメーターは一定に維持した。反応の経過は、IR分光光度法によってニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーの残存二重結合含量(RDB)を測定することによりモニターした。4時間以下か、及び/又はRDB含量が1%未満となるかの後に、水素圧を解放することによって反応を停止させた。
【0143】
そのようにして作製された水素化PEG-HNBRを、スチームコアグレーションの手段によって、その溶液から単離した。この目的のためには、そのクロロベンゼン溶液をポリマー含量7重量%になるまで希釈して、100℃に予め加熱した水を充満させ、撹拌しているガラス反応器の中に連続的に計量仕込みした。それと同時に、0.5barのスチームをそのコアグレーション水の中に導入した。そのようにして析出させたポリマーのクラムについて、水をざっと切り、次いで減圧下55℃で、恒量になるまで乾燥させた。
【0144】
【表4】
【0145】
III 水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの加硫物の製造
加硫可能な組成物の製造:
組成物はすべて、ミキシングロールミル上で製造した。ローラーの直径は80mm、長さは200mmであった。ローラーは予熱して40℃とし、フロントローラーの速度を16.5rpm、リアローラーのそれを20rpmとして、それにより1:1.2の摩擦が得られるようにした。
【0146】
最初にゴムを仕込み、1分間混合させて、滑らかなミルドシートを形成させた。次いで、最初にカーボンブラック、次いで添加剤類、最後に架橋用薬剤を組み入れた。混合時間は合計して5~8分であった。
【0147】
【表5】
【0148】
慣用されるHNBRのTherban(登録商標)3407及びシラン化処理したシリカ(Coupsil(登録商標))を含む加硫物(V3)、又は、シリカ及びシラン化処理剤(Vulkasil(登録商標)N及びDynasilan(登録商標)VTEO)を含む加硫物(V4)は、慣用されるHNBRのTherban(登録商標)3407及びカーボンブラック(Corax(登録商標)N330)を含む加硫物(V2)と比較して、引張強度が11~12MPa高くなっている。
【0149】
それに比べて、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーをベースとした加硫物の場合には、シリカ及びシランを使用した場合の引張強度は、先にシラン化処理したシリカ(Coupsil(登録商標)VP 6508)を使用した場合よりも、顕著に低いレベル(すなわち、わずか7MPa)の低下しかない。これは、水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーと、シリカをシラン化処理剤でin situでシラン化処理したこととの、相乗効果をもたらしている。
【0150】
【表6】
【0151】
シラン化処理したシランを使用した場合の、本発明の混合物のI3は、カーボンブラック含有の比較例加硫物V5と比較して、引張強度が、わずか2.9MPaしか低くない。それとは対照的に、比較例加硫物V6におけるカーボンブラックを、比較例加硫物V7におけるシラン化処理したシリカに置き換えた場合、5.1MPaの低下が起きる。
【0152】
【表7】
【0153】
慣用されている水素化ニトリル-ジエンコポリマーのTherban(登録商標)3407の場合においては、加硫物を150℃で2週間かけて老化させると、硬度が上昇し、そのため7ポイント劣化して62から69になる(V2)。シラン化処理したシリカ(V3)を添加、又はシリカ及びシラン化処理剤(V4)を添加しても、この場合もまた、硬度で6又は7ポイントの上昇があるので、実質的には変り無い。
【0154】
それとは対照的に、シラン化処理したシリカの添加(I1)並びにシリカ及びシラン化処理剤の添加(I2)では、本発明におけるPEG-HNBRは含むが、シラン化処理したシリカ、又はシリカ及びシラン化処理剤を含まない加硫物(V1)に比較して、硬度の上昇が9及び10ポイントとより少なくなる。
【0155】
したがって、シリカを使用することによって、PEG-HNBRをベースとする加硫物の老化の過程での、硬度の上昇が低くなる。
【0156】
【表8】
【0157】
本発明の加硫物のI1及びI2は、慣用される水素化ニトリル-ジエンコポリマーTherban(登録商標)3407をベースとする比較例加硫物のV2、V3及びV4と同等、又はそれらよりも低い、従ってより良好な圧縮永久歪みを有している。
【0158】
本発明の混合物I3は、比較例加硫物V5と比較して、-20℃での改良された圧縮永久歪みを有しており、CSにおける低下は、シリカを加えたTherban LT 1707を使用した場合に比べて、シリカを加えたPEG-HNBRを使用した場合では、最適化されている。
【0159】
【表9】
【0160】
本発明の加硫物のI1及びI2は、同一の体積変化を有しているので、劣化はしていない。
【0161】
【表10】
【0162】
本発明の加硫物のI3は、V5と同等の膨潤性(=体積変化)を有しており、従って、充填剤を変化させると同時に、30重量部から25重量部へと下げても、物性における変化はない。
【0163】
【表11】
【0164】
PEG-HNBR及びシリカ/シラン化処理したシランを含む、本発明の加硫物のI1及びI2は、カーボンブラックを充填したPEG-HNBRよりは顕著に低い損失係数G”を有している。PEGアクリレートを全く含まないTherban 3407及びTherban LT 1707の場合においては、その損失係数G”の変化は、顕著に小さい。したがって、シリカとPEGアクリレート単位との相乗効果が、より低い損失係数を与え、そのため、それらの製品では、動的応力下での発熱が低くなることが期待される。
【0165】
水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマー(i)を使用した結果として、好ましくはシラン化処理されたシリカ(ii)が、ポリマーのマトリックスに、より良好に結合し、それによって、充填剤-充填剤の相互作用が低下する。このことは、図1に示したような、損失弾性率の振幅依存法測定からも明らかである。カーボンブラック又はシラン化処理したシリカ(Coupsil)を含む、慣用される、水素化ニトリル-ジエンコポリマーのTherban(登録商標)3407の加硫物は、低い振幅で、より高い損失弾性率G”を有しているのに対して、シリカを含む水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーの加硫物は、カーボンブラックに比較して、顕著に低い損失弾性率を有している。
【0166】
それと同時に、より高い振幅では、充填剤-充填剤のネットワークの解離が起きた結果として、そのコポリマーでは、損失弾性率の大きな低下が観察される。水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーを含む加硫物の場合においては、振幅を高くするこのよる変化が顕著に小さく、シリカ/シラン化処理剤又はシラン化処理したシリカ(Coupsil)を使用した場合には、特に小さい。
【0167】
本発明の具体的な利点は、本発明における水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーをベースとし、シリカ及び好ましくはシラン化処理したシリカと組み合わせた加硫物が、HNBRをベースとする慣用される加硫物よりも低い、従って改良された圧縮永久歪み、より低い発熱性、並びに、DIN 53765に従って測定した低いガラス転移温度TgとDIN ISO 1817に従い、150℃で7日間かけて測定した、IRM 903におけるより低い膨潤度との組合せを有しているというところにある。
【0168】
これらの物性の組合せの点で、本発明による水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーは、現在市販されている水素化ニトリル-ジエン-カルボン酸エステルコポリマーよりも優れている。
図1