(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】複数の金属上での、中性pH付近の酸洗い溶液
(51)【国際特許分類】
C23G 1/26 20060101AFI20221115BHJP
C23G 1/04 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C23G1/26
C23G1/04
(21)【出願番号】P 2020558921
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(86)【国際出願番号】 US2019030531
(87)【国際公開番号】W WO2019217227
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-10-22
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501407311
【氏名又は名称】マクダーミッド エンソン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】アウン、チャロ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-072164(JP,A)
【文献】特開昭52-020337(JP,A)
【文献】特開昭52-020338(JP,A)
【文献】特開平04-041687(JP,A)
【文献】特開平05-098479(JP,A)
【文献】国際公開第2010/095231(WO,A1)
【文献】特開昭56-096083(JP,A)
【文献】特開平10-036986(JP,A)
【文献】特表2014-518752(JP,A)
【文献】特開2015-200020(JP,A)
【文献】特開平05-255874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0257057(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1355863(KR,B1)
【文献】米国特許第06194369(US,B1)
【文献】特表2017-531735(JP,A)
【文献】特表2012-506951(JP,A)
【文献】特開昭64-056889(JP,A)
【文献】特開2016-050354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面上の金属酸化物を除去可能な酸洗い溶液であって、
a.水溶性の有機又は無機ニトロ化合物であって、中心のN原子が+3の酸化状態を有する、ニトロ化合物;
b.ニトロ化合物用の分極剤であって、
ニトロ基に対するホスホネートのモル比が1:1~10:1の範囲となる含有量のホスホネート
、及び
、ニトロ基に対するカルボキシレートのモル比が2:1~20:1となる含有量のカルボキシレートのうちの少なくとも
いずれかを含む分極剤;
c.pH緩衝液;及び
d.少なくとも1つの金属錯化剤
を含
み、
pH4.5~7.5の範囲であることを特徴とする金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項2】
前記水溶性ニトロ化合物が、2-ニトロ-1-ブタノール、2-ニトロ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ニトロ-2-メチル-1-プロパノール、5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン、トリス(ヒドロキシメチル)ニトロメタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、3-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、5-ニトロベンゼン-1,3-ジカルボン酸、加水分解性ニトロフェニルエステル、水に溶解可能なその他のニトロ安息香酸誘導体、及び、前述の1つ以上の組み合わせからなる群から選択されるニトロ有機化合物を含む、請求項1に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項3】
前記ニトロ有機化合物がアミン官能基を含有しない、請求項2に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項4】
前記水溶性ニトロ化合物が、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸コバルトカリウム、亜硝酸のあらゆる水溶性塩、及び、前述の1つ以上の組み合わせからなる群から選択される無機ニトロ化合物を含む、請求項1に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項5】
前記pH緩衝液が、4.9~6.0の範囲内のpHにて、前記酸洗い溶液を維持する、請求項1に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項6】
前記pH緩衝液が、5.0~5.5の範囲内のpHにて、前記酸洗い溶液を維持する、請求項4に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項7】
前記分極剤が、アセテート、シトレート、サクシネート、アスコルベート、ラクテート、グルコネート、グルコヘプトネート、グリコレート、サリチレート、及び前述の1つ以上の組み合わせからなる群から選択されるカルボキシレートを含む、請求項1に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項8】
前記カルボキシレートが、前記pH緩衝液及び前記少なくとも1つの金属錯化剤のうちの少なくとも1つとしても機能する、請求項7に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項9】
前記分極剤が、ホスホン酸ナトリウム、ポリ(イソプロペニルホスホン酸)ナトリウム、2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネート、オクタンホスホン酸、ポリ(イソプロペニルホスホン酸)ナトリウム、エチドロン酸四ナトリウム、アミノトリ(メチレンホスホン酸)ナトリウム、ベンゼンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ココアミノ-ジ-メチレンホスホン酸、ジアミノテトラメチルホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸ペンタナトリウム、アミノトリメチレンホスホン酸、アザシクロヘプタンジホスホン酸二ナトリウム、及び、前述の1つ以上の組み合わせからなる群から選択されるホスホネートを含む、請求項1に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項10】
ニトロ基に対するホスホネートのモル比が1:1~10:1の範囲
となる含有量のホスホネートを含む、請求項1又は9に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項11】
前記ニトロ基に対する前記ホスホネートの前記モル比が、1:1~5:1の範囲である、請求項10に記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液。
【請求項12】
表面を酸洗いして、表面上の金属酸化物を除去する、請求項1から11のいずれかに記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液の使用方法であって、
a)請求項1から11のいずれかに記載の金属酸化物除去用酸洗い溶液を前記表面と接触させる工程と、
b)前記表面をすすいで、前記表面から金属酸化物を取り除く工程と、
を含む、方法。
【請求項13】
前記表面が、鋼鉄、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金、及び前述の1つ以上の組み合わせからなる群から選択される金属表面である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記表面が、金属表面及び非金属表面を含む複合表面である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記表面を、前記金属酸化物除去用酸洗い溶液と接触させる工程が、前記表面を一定時間、前記金属酸化物除去用酸洗い溶液に浸漬させることにより実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記一定時間は1分~24時間を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記金属酸化物除去用酸洗い溶液が
21.1~82.2°Cの温度にて維持される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記金属酸化物除去用酸洗い溶液が
48.9~60°Cの温度にて維持される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記金属酸化物除去用酸洗い溶液が室温で維持される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記金属酸化物が酸化鉄及び熱処理したスケールのうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記金属酸化物が鉄を含み、鉄除去速度が少なくとも4μm/時である、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記鉄除去速度が少なくとも5μm/時である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記鉄除去速度が少なくとも7μm/時である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記鉄除去速度が少なくとも20μm/時である、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、表面から金属酸化物を取り除くための組成物、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面から金属酸化物を取り除くことは、別様においては酸洗いとして知られており、鋼鉄、マグネシウム及びマグネシウム合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、亜鉛及び亜鉛合金、銅及び銅合金などの金属を、例えば電気メッキ、化学メッキ、浸漬メッキ、塗装、又は化成被覆を含む、任意の種類の仕上げでコーティングする前に必要である。
【0003】
歴史的に、約0.5~3.0の範囲の典型的なpHを有する、塩酸、硫酸、硝酸、及びリン酸などの強酸は、酸洗い剤として使用されてきた。塩酸及び硝酸により最良の酸洗い表面が得られるが、これらは周囲環境及び設備に対して腐食性である。硫酸及びリン酸は揮発性ではないものの、これらの第一鉄塩は、塩化第一鉄及び硝酸第一鉄ほど可溶性ではなく、得られる酸洗い表面はむしろ傷む場合があり、コーティングの外観に影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
錆を含むあらゆる金属酸化物の中でも、鋼鉄における熱処理したスケールが、取り除くには最も困難である。FeO、Fe2O3、及びFe3O4(マグネタイト)を含む、熱処理中に形成する酸化鉄は、酸の中で異なる溶解度を有し、層状となっている。FeOは最も可溶性であり、卑金属に隣接する第1層を構成し、マグネタイトは最も可溶性が低く、外側の層を形成する。典型的には、鋼鉄における、熱の影響を受けた領域は、溶接又はアニーリング後の冷却によりひび割れる。酸洗い酸は、上層を、ひび割れを通して浸潤させ、下層のFeOを、プロトン化により速やかに溶解させることにより作用する。
【0005】
卑金属であるFe(s)はH+により酸化され、H+はH2(g)に還元される。結果的に、小さな電解槽が作製され、ここでは、露出金属であるFeが陽極であり、酸が電解質であり、上層であるマグネタイトFe3O4が陰極である。発生したH2(g)はマグネタイトを第一鉄イオンに還元する。これは、以下の等式に従い、可溶性である:
Fe3O4+H2(g)+6H+ →3Fe+++4H2O (1)
【0006】
マグネタイトは、他の酸化物よりも遅い速度にて、酸化還元反応により溶解する。これもまた磁気によるものであり、除去するのが困難である。例えば、米国特許第5,743,968号(Leeker et al.)、及び同第5,879,465号(McKevitt et al.)(そのそれぞれの主題全体が参照により本明細書に組み込まれている)に記載されているように、炉の状態及びサイクルに応じて、マグネタイト層は厚く、緊密に均一であり接着性であることができ、これにより、酸洗いの前にスケールを離すための、ショットブラスト又はローラベンドなどの機械式スケールクラッキングを必要とする、酸耐性スケールを作製することができる。フッ化物を酸洗い組成物に添加することで、スケールのひび割れを補助することが発見されてきた。
【0007】
マグネタイト層が不均一である場合、マグネタイト層を取り除くために、より長い浸漬時間が必要となる可能性がある。過剰に酸洗いをすることにより(特に、硫酸による)しみ及びスマットが形成され、コーティングの外観が損なわれる可能性があるため、これは問題である。酸における長い浸漬時間もまた、孔食を作製する可能性がある。ここでは、酸がトラップされ、コーティング下における遅延したブリスター、又は単に、許容されない外観をもたらす。最後に、酸とFe(s)との反応により作製されたH2(g)は、鋼鉄表面に吸収されて鋼鉄表面を貫通し、水素脆性を生み出して、特に硬化鋼との領域において機械的破損を引き起こす。適切な業界の仕様では、酸浴での浸漬時間を最大10分に制限することにより、酸洗い工程の硬化鋼における水素脆性を回避する。
【0008】
機械式スケール除去を使用することができるが、これは高価であり、管状鋼鉄の内部表面を洗浄することができない。媒体吹きつけ及び振動仕上げは、熱処理したスケールを取り除くために依然として幅広く使われているものの、管状部品及び凹み表面では不十分な洗浄がもたらされ得るものの、時間とコストがかかる。強酸での酸洗いは、鋳鉄においては、酸をトラップできる鋳鉄内の孔が原因で問題となる。コーティング前に取り除かれなければならない酸化被膜を有する、亜鉛及アルミニウムなどの両性金属も同様に困難である。しかし、卑金属は酸又はアルカリ溶液中で激しく腐食する可能性がある。
【0009】
塩酸及び硝酸における酸洗いの懸念により、業界は、非発煙性の酸、弱い有機酸、及び中性の酸洗い液を使用する方向に舵を切ってきた。H+による、酸から酸化物へのプロトン化が十分ではなく、酸化還元反応が必要とされるため、表面のスケールを取り除くために、卑金属の鉄、銅、スズ及び亜鉛を酸化するための、多くの酸化剤含有プロセスが作製されてきた。硝酸、過酸化水素、過マンガン酸塩、過硫酸塩、及びニトロ化合物などのこれらの酸化剤は、酸、H+、又は、金属酸化物を溶解する錯化剤と組み合わせられる。腐食防止剤を添加し、酸洗い溶液の出口における急速な大気酸化を防止する。硝酸及び過酸化水素は特に、すすぎ液を、第二鉄イオンで急速に汚し、数秒程度の間に、表面の鋳ばりの錆を促進する。例えば米国特許第6,500,328号(Fortunati et al.)に記載されている酸洗い、例えば米国特許第5,377,398号(Bessey)に記載されているスケール除去、例えば米国特許第6,750,128号(Kondo et al.)に記載されている研磨、並びに、例えば米国特許第4,687,545号(Williams et al.)及び同第4,720,332号(Coffey)に記載されている、鋼鉄及び他の金属のストリッピング(そのそれぞれの主題全体が参照により本明細書に組み込まれている)を含むこれらの組み合わせは、異なる機能の元で金属業界に貢献してきた。
【0010】
酸化剤がm-ニトロベンゼンスルホン酸、又はその塩類のうちの1つであり、かつ有機ホスホネートと組み合わせられるとき、プロセスは、例えば米国特許第6,407,047号(Mehta et al.)に記載されるように酸性であるか、又は、米国特許第4,042,451号(Lash)に記載されるように、アルカリ性(即ち、約6~14のpH)のいずれかである(そのそれぞれの主題全体が参照により本明細書に組み込まれている)。これらの酸化剤は、金属ストリッパーとして使用することができる。しかし、これらは表面上に暗色の接着性膜を残す傾向にあり、後での洗浄及び酸洗いが必要となる。
【0011】
pHが中性であり、目的が、例えば米国特許第8,323,416号(Bradley)(その主題全体が参照により本明細書に組み込まれている)に記載されているように、鋼鉄のスケール除去であるとき、使用する化学物質は、本発明に記載するものとは完全に異なっていてよい。例えば、米国特許第4,437,898号(Drosdziok)(その主題全体が参照により本明細書に組み込まれている)は、鋼鉄表面に腐食阻害を付与するパッシベーションプロセスについて記載している。これは、pHが7.5~10.5の、有機ホスホネートを含有するが、ニトロ化合物は言うまでもなく酸化剤を含有しない弱アルカリ性プロセスであり、熱処理したスケールを取り除くことができる。
【0012】
米国特許第7,344,602号(Varrin et al.)(その主題全体が参照により本明細書に組み込まれている)は、錯化剤を含有する、pHが中性の化学溶液を用い、油圧機械式洗浄の補助によってスケールを軟化させて、スケールを完全に取り除く、マグネタイトスケール除去プロセスについて記載している。米国特許第7,396,417号(Fischer et al.)(その主題全体が参照により本明細書に組み込まれている)は、pH2.5~4.0で作動するが、ニトロ化合物もホスホネートも含有しないカルボン酸を含む、酸洗い用水溶液について記載している。
【0013】
従来の先行技術のプロセスのいずれもが、中性pH付近で作動し、改善されたスケール除去メカニズムを提供し、腐食阻害を改善し、基板の穏やかな腐食を有する、水性酸洗いプロセスについて記載していない。
【0014】
当該技術分野においては、効率的な方法で、マグネタイト、及び他の問題のある金属酸化物を含む金属酸化物を取り除くことが可能であり、周囲温度にて、中性pH付近に作動可能な改善された酸洗い組成物に対する必要性もまた存在している。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、中性pH付近にて作動することができる、水性酸洗い組成物を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、周囲温度にて作動可能な、改善された水性酸洗い組成物を提供することである。
【0017】
本発明の更に別の目的は、効率的な方法で、表面から問題のある金属酸化物を取り除くことが可能な水性酸洗い組成物を提供することである。
【0018】
本発明の更に別の目的は、金属部分及び非金属部分の両方を含む、金属表面及び複合材料表面を処理することが可能な水性酸洗い組成物を提供することである。
【0019】
本発明の更に別の目的は、改善された腐食阻害を提供する水性酸洗い組成物を提供することである。
【0020】
最後に、一実施形態において、本発明は概して、以下を含む、中性pH付近の酸洗い溶液に関する:
【0021】
A)水溶性の有機又は無機ニトロ化合物であって、中心のN原子が+3の酸化状態を有する、ニトロ化合物;
【0022】
B)ニトロ化合物用の分極剤であって、ホスホネート及びカルボキシレートのうちの少なくとも1つを含む分極剤;
【0023】
C)pH緩衝液;及び
【0024】
D)少なくとも1つの金属錯化剤。
【0025】
別の実施形態では、本発明はまた、概して、表面を酸洗いして、表面上の金属酸化物を取り除く方法であって、本方法が、
【0026】
A)以下を含む中性pH付近の酸洗い組成物をc表面と接触させる工程と、
【0027】
i)水溶性の有機又は無機ニトロ化合物であって、中心のN原子が+3の酸化状態を有する、ニトロ化合物;
【0028】
ii)ニトロ化合物用の分極剤であって、ホスホネート及びカルボキシレートのうちの少なくとも1つを含む分極剤;
【0029】
iii)pH緩衝液;及び
【0030】
iv)少なくとも1つの金属錯化剤;並びに
【0031】
B)表面をすすいで、表面から金属酸化物を取り除く工程と、
を含む、方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明のより完全な理解のために、添付の図面に関連してなされた以下の説明を参照する。
【0033】
【
図1】実施例4、試験5に記載のとおりに、組成物で処理する前後の、重いマグネタイトの腐食試験片の写真を表す。
【0034】
【
図2A】開始5分後の、きれいな鋼鉄と実施例1の組成物との反応を示す。
【
図2B】数日間、いかなる沈殿もなく赤色が安定して残ることを示す。
【0035】
【
図3】対照サンプル、及び実施例3に従い調製した試験用サンプルを示す。
【0036】
【
図4】重いスケールを含む熱処理した鋼鉄腐食試験片における、1時間の反応の後の、試験1、2、3、4、及び5の結果を示す。
【0037】
【
図5】実施例4の試験5の組成物の、溶液の色と濁度の拡大図を示す。
【
図6】鉄除去比率速度における、実施例6の組成物を使用する、ニトライトに対するホスホネートの比率効果を示すグラフを表す。
【0038】
【
図7】実施例6の組成物を使用した、持続性と酸を示すグラフを示す。
【0039】
【
図8】実施例7の組成物を使用する、鉄除去速度における温度の効果を示すグラフを示す。
【0040】
【
図9】実施例7に従った、溶液への浸漬前後の両方のドライバーを示す写真を示す。
【0041】
【
図10】左側が未処理の、及び、右側が、本発明に従い、中性pH付近の酸洗い溶液に浸漬した後の、錆びた鋼鉄ブラシの写真を示す。
【0042】
【
図11】本発明に従った中性pH付近の酸洗い溶液中での、鋼鉄工具洗浄の光景を示す。
【0043】
【
図12】本発明に従った中性pH付近の酸洗い溶液に浸漬した直後及び2日後の、錆びた炭素鋼部分の写真を示す。
【0044】
【
図13】洗浄前、及び、本発明に従った中性pH付近の組成物に浸漬した直後の、ステンレス鋼容器を示す。
【0045】
【
図14】本発明に従った中性pH付近の組成物への浸漬前後の、亜鉛、アルミニウム、及び銅部品を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、中性pH付近の水性酸洗い組成物、及び、後の表面上での処理のために表面を準備するための、その使用方法に関する。
【0047】
本明細書で使用する場合、用語「中性pH付近」が意味するものは、約4.5~約7.5の範囲のpHである。
【0048】
本明細書で使用するとき、「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでない旨を明確に指示しない限り、単数及び複数の両方を指す。
【0049】
本明細書で使用するとき、「約」という用語は、パラメータ、量、持続時間などの測定可能な値を指し、具体的に列挙された値の、及びその値からの、+/-15%以下の変動、好ましくは+/-10%以下の変動、より好ましくは+/-5%以下の変動、更により好ましくは+/-1%以下の変動、及びまた更により好ましくは+/-0.1%以下の変動を、そのような変動が本明細書に説明される本発明で実施するために適切である限り、含むことを意味する。更に、修飾語「約」が指す値は、それ自体が本明細書に具体的に開示されていることも理解されたい。
【0050】
本明細書で使用するとき、「下(beneath)」、「下方(below)」、「下側(lower)」、「上方(above)」、「上側(upper)」、「前部(front)」、「後部(back)」のような空間的に相対的な用語は、別の要素(複数可)又は特徴(複数可)に対する1つの要素又は特徴の関係を説明するために使用される。用語「前部(front)」及び「後部(back)」は、限定することを意図するものではなく、適切な場合に交換可能であることが意図されていることが更に理解される。
【0051】
本明細書で使用するとき、用語「含む(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」という用語は、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/又は構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/又はそれらの群の存在又は追加を除外しない。
【0052】
好ましい一実施形態において、本発明は、以下を含む中性pH付近の酸洗い溶液に関する:
【0053】
A)水溶性の有機又は無機ニトロ化合物であって、中心のN原子が+3の酸化状態を有する、ニトロ化合物;
【0054】
B)ニトロ化合物用の分極剤であって、ホスホネート及びカルボキシレートのうちの少なくとも1つを含む分極剤;
【0055】
C)pH緩衝液;及び
【0056】
D)少なくとも1つの金属錯化剤。
【0057】
本明細書で記載した中性pH付近の酸洗い組成物は、周囲温度にてガス発生、並びに錯体Fe
2+及びFe
3+イオン無しで鋼鉄と速やかに反応するが、マグネタイトに影響は及ぼさない。マグネタイト層に、ひび割れを通して浸潤し、かつ、卑金属の鉄を酸化することにより、酸洗い組成物は熱処理した鋼鉄上で作用する。亜鉛、アルミニウム、及びマグネシウムなどの両性金属を処理する際に、中性pH付近の酸洗い組成物は良好な結果をもたらす。銅及び銅合金を含む、他の金属基板及び金属合金基板もまた、本明細書で記載される方法にて、有益に処理することができる。その他の用途としては、例えば
図9及び10に示すような、木材、プラスチック、又はその他の物と共にいくつかの金属を含有する、酸洗い複合材料が挙げられる。
【0058】
有益な結果としては、貯蔵の際の短期間の錆防止、並びに、くぼみ及び難しい構造を有する部品での、取るに足らない溶液のトラップがある。これは、鋼鉄の酸洗いとコーティングの適用との間の、長い移動時間に導入するのが理想的である。スケール除去メカニズムを利用して、マンガン/鉄、シリケート及びクロム、マンガン酸化物などの、任意の他の熱関連スケール、又は単に、硫酸水素塩及びリン酸水素塩、及び/若しくはこれらの水素添加塩由来の、不溶性の金属塩からの黒色スマットを剥離することができる。部品の摩擦がマグネタイト層を引っ掻き、溶液が卑金属に到達して不溶性スケールを除去し、かつ、孔食及び鋳ばりの錆がないくぼんだ表面をきれいにすることができる、媒体非含有振動装置中が理想的である。
【0059】
水溶性有機又は無機ニトロ化合物は、Nが3+の酸化状態を有する場合、少なくとも1つの無機又は有機ニトロ化合物(脂肪族若しくは芳香族)を含むのが好ましい。
【0060】
ニトロ基NO2は、鉄を取り除く酸化剤である。好ましい実施形態では、ニトロ基は、無機塩の亜硝酸イオン、又は、脂肪族若しくは芳香族であることができるニトロ有機化合物に由来する。これらのニトロ化合物は、使用するのに安全であり、金属酸化物と接触するときに非爆発性であり、中性pH付近にて水溶性でなければならない。
【0061】
ニトライトは、鋼鉄に対する酸化防止剤及び腐食防止剤であることが知られている。これらは単純に、強力な電子求引性であるために、湿り大気に曝露された鋼鉄表面に形成する、腐食物の電気化学電池における電子移動を遮断する。
【0062】
一実施形態では、無機ニトライト基は、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸コバルトカリウム、亜硝酸のあらゆる水溶性塩、及び、前述の1つ以上の組み合わせからなる群から選択される化合物を含む。
【0063】
アミンは除去速度を低下させることもまた、発見されている。したがって、アミン官能基を有するニトロ化合物は避けるのが好ましく、一般的に、本発明の組成物での使用には適していない。好適なニトロ有機化合物としては、2-ニトロ-1-ブタノール、2-ニトロ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ニトロ-2-メチル-1-プロパノール、5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン、トリス(ヒドロキシメチル)ニトロメタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、3-ニトロベンゼンスルホン酸、ナトリウム塩、5-ニトロベンゼン-1,3-ジカルボン酸、加水分解性ニトロフェニルエステル、水に溶解可能なその他のニトロ安息香酸誘導体、及び、前述の1つ以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
ニトロ化合物用の分極剤は、少なくとも1つの、無機又は有機水溶性の電子豊富なオキシアニオンを含むのが好ましい。この分極剤は、ニトロ基に対して特定のモル比で、酸洗い組成物中に存在するのが好ましい。
【0065】
好ましい一実施形態において、分極剤は有機ホスホネートを含む。好適なホスホネートの例としては、無機又は有機ホスホン酸、又はジホスホン酸誘導体の塩が挙げられ、これらを使用して、本明細書で記載されるプロセスに従い、所望のpHに調製することができる。好ましい一実施形態において、使用が簡単で、ニトロ芳香族基にて最も分極効果を示し、最も大きな鉄除去速度をもたらしたため、有機ホスホネートが好ましいことが発見された。しかし、この相互作用の極致は、高濃度(1M)及びpH(>5.3)における、エステル化による、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムによるホスホネートの沈殿であり、これ故に、鉄除去速度が0に落ちる。
【0066】
本明細書で記載した中性pH付近の酸洗い組成物は、沈殿閾値よりもわずかに低いpH及び濃度にて作用することが発見されたために、2つの群の立体相互作用を最大限に利用する。有機ホスホネートは、腐食阻害及び金属錯体化が生じる際に、値が増加する。しかし、特に、C骨格に2つ以上のアミンが存在する、又はアミンが分枝している場合、有機ホスフェートの大部分は、鉄除去速度を遅らすことができるアミンラジカルを有する。
【0067】
本発明の組成物で使用するための好適なホスホネートの例としては、ホスホン酸ナトリウム、2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネートとしての、ポリ(イソプロペニルホスホン酸)ナトリウム、オクタンホスホン酸、ポリ(イソプロペニルホスホン酸)ナトリウム、エチドロン酸四ナトリウム、アミノトリ(メチレンホスホン酸)ナトリウム、ベンゼンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、ココアミノ-ジ-メチレンホスホン酸、ジアミノテトラメチルホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸ペンタナトリウム、アミノトリメチレンホスホン酸、アザシクロヘプタンジホスホン酸二ナトリウム、及び、前述の1つ以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
加えて、ホスホネートは、ニトライトに対するホスホネートのモル比が低い場合、無機ニトライトと激しく反応する可能性がある。したがって、ホスホネートの選択は、コヒーレントな系を作るためのニトロ化合物、緩衝液、及び、他の錯化剤の選択において偶発的である。好ましい実施形態では、ホスホネートは有機ホスホネートである。更に、ニトロ基に対するホスホネートのモル比は、約1:1~10:1、より好ましくは約1:1~約5:1、最も好ましくは約2:1~約3:1の、幅広い範囲を有する。モル比は、実施例6に表し、
図6に示すように、鉄除去速度において重大な影響を有する。
【0069】
電子豊富なオキシアニオンもまた、NO2を更に分極させて反応性にするために、本プロセスにおいて必要である。多くの群を試験すると、反応において変動的な効果を有することが示された。好ましいオキシアニオンは、ニトロ基に立体機能以上のものを有し、緩衝剤又は金属錯化剤として機能する、更なる能力を有する。オキシアニオンは、電子豊富な酸素含有イオンであり、水溶性であり、pH範囲の最下部にてpKaを有する弱酸の塩であるために、これは、カルボキシレートを本発明の組成物のトップの選択肢として配置し、故に、理想的な緩衝剤としても機能する。好ましいオキシアニオンとしては、アセテート、シトレート、サクシネート、アスコルベート、ラクテート、グルコネート、グルコヘプトネート、グリコレート、サリチレート、及び、前述の1つ以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。この群の、さほど重要でないオキシアニオンとしては、ホスフェート及びボレートが挙げられ、これらもまた、好ましくはないものの、本発明の実施に際して使用することができる。
【0070】
有機ホスホネートの不存在下にて、ニトロ基と組み合わせて使用する場合、はるかに高い、ニトロ基に対するカルボキシレートのモル比が、反応を開始するために必要である。例えば、アセテート/無機ニトライトのモル比は、約5~20の範囲、より好ましくは約10~15の範囲であり、アセテート/ニトロ芳香族のモル比は、約2~10の範囲、好ましくは約2~3の範囲である。
【0071】
本発明の式のいくつかは、pH7にて作用を維持し、いくつかの実施形態では、組成物は、約4.5~約7.5の範囲内のpHにて維持することができるものの、緩衝液を使用して、組成物を、約4.9~約6.0の範囲内、より好ましくは約5~約5.5の範囲内のpHに維持するのが、一般的に好ましい。反応はH+を消費し、pHが上がる傾向にある。したがって、緩衝液が強力であればあるほど、反応は長く続く。緩衝液の強度を調節して、反応が完了するようにしなければならない。好ましい緩衝液の強度は、約0.3~約1Mの範囲である。
【0072】
緩衝液は反応を持続させ、ニトロ基を安定させる。本明細書に記載した無機ニトライトは、pH4でも、激しく反応して亜硝酸の蒸気を放出するため、酸性溶液で使用することはできない。より高いpHでは、鋼鉄における無機ニトライトの除去速度はゼロである。芳香族ニトロ化合物は、はるかに安定している。m-ニトロベンゼンスルホン酸のナトリウム塩は、酸安定性かつ塩基安定性である。しかし、約4.5より低いpHにおいては、溶解が困難な、接着性の黒色酸化被膜をもたらす。例えば、pH3の溶液で形成した黒色膜は、表面にて26.63重量%の酸素を示した。高pHにおいて、表面酸化は観察されなかったが、一方で除去速度も存在しなかった。
【0073】
大部分の用途において、本発明の中性pH付近の酸洗い組成物は、周囲温度にて作動される必要がある。コーティングの前に、熱処理した鋼鉄を酸洗いするために工業用装置で使用する場合、温度は、鉄除去速度を加速させるのに、機器を用いて決めることができ、約70~約180°Fの範囲内、好ましくは約120~約140°Fの範囲内の温度で維持することができる。組成物の劣化はトレードオフとなる。高温でより活性となる一方、溶液はより速く劣化する。周囲温度では、高温と比較して除去速度が半分遅くなるが、溶液はより長期間持続する。
【0074】
1つの化学生成物が2つ以上の機能を消費する可能性があるため、本発明の所与の式において、上で引用した組成物の構成成分を、2つ又は3つの化学物質に変換することができる。例えば、カルボキシレートは緩衝液、及び鉄錯化剤の両方として機能することができる。ニトロ基の立体化学及び部分電荷、並びにニトロ基と対になったオキシアニオン、並びに濃度、モル比、及びpHは、ここで鉄除去速度により測定すると、反応速度に重大な影響を有する。他の利点としては、改善された腐食耐性、及び、傷み/くぼみの存在しない表面が挙げられる。
【0075】
本明細書で記載した組成物のいずれかを、仕上げ用途のためのゲル又はペーストとして製造することができる。これは例えば、すすぎもまた容易な、化学的に不活性なゲル化剤又は増粘剤を添加することにより達成することができる。これらのゲル化剤又は増粘剤としては、シリカ、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、フラー土、キサンタンガム、アクリル/アクリレートポリマー、及びポリビニルピロリドンポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
別の実施形態では、本発明はまた、概して、表面を酸洗いして、表面上の金属酸化物を取り除く方法であって、該方法が、
【0077】
A)以下を含む中性pH付近の酸洗い組成物をc表面と接触させる工程と、
【0078】
i)水溶性の有機又は無機ニトロ化合物であって、中心のN原子が+3の酸化状態を有する、ニトロ化合物;
【0079】
ii)ニトロ化合物用の分極剤であって、ホスホネート及びカルボキシレートのうちの少なくとも1つを含む分極剤;
【0080】
iii)pH緩衝液;及び
【0081】
iv)少なくとも1つの金属錯化剤;並びに
【0082】
B)表面をすすいで、該面から金属酸化物を取り除く工程と、
を含む、方法にも関する。
【0083】
一実施形態では、表面を、中性pH付近の酸洗い組成物と接触させる工程は、表面を一定時間、中性pH付近の酸洗い組成物に浸漬させることにより実施される。この一定時間は典型的には、約3分~約24分、より好ましくは約10~約30分である。
【0084】
本明細書に記載するように、一実施形態において、表面が中性pH付近の酸洗い組成物と接触する時間の間、中性pH付近の酸洗い組成物は、約70~約180°Fの温度にて、より好ましくは約120~約140°Fの温度にて維持される。別の好ましい実施形態では、表面が中性pH付近の酸洗い組成物と接触する時間の間、中性pH付近の酸洗い組成物は室温で維持される。
【0085】
本発明は、強酸の酸洗いの鉄除去速度より優れた鉄除去速度を達成することができ、様々な材料に非攻撃的であり、環境にやさしく、仕上げ用途及び一段階浸漬の分野で使用可能な、一段階酸洗い/腐食防止剤を付与する組成物について記載する。
様々な試薬間の相乗作用を使用して、選択的な成分、濃度、及び動作温度を調節して、以下の実施例7に示すように、鋼鉄にて20μm/時の除去速度を達成することができる。
【0086】
中性pH付近の酸洗い組成物は低濃度、低温、及び短時間で使用して、亜鉛及びアルミニウムなどの両性金属を脱酸することができる。本実施形態において、中性pH付近の酸洗い組成物は、約0.1~0.5Mのニトロ化合物、約0.2~約0.5Mの分極剤、1~2MのpH緩衝液、及び、約0.2M~約1Mの、少なくとも1つの金属錯化剤を含む。両性金属を脱酸するための例示的な組成物の例としては、0.25Mのニトロ化合物;0.5Mの分極剤;1Mの緩衝液、及び0.6Mの錯化剤を含む。接触温度は約70°F~約100°Fの範囲内であり、接触時間は約1分~約1時間である。
【0087】
中性pH付近の酸洗い組成物はまた、高濃度/高温で使用して、鋼鉄上での溶接及び熱処理スケールに取り組むことができる。本実施形態において、中性pH付近の酸洗い組成物は、約0.1~0.5Mのニトロ化合物、約0.1~約0.5Mの分極剤、0.1~1MのpH緩衝液、及び、約0.1M~約0.5Mの、少なくとも1つの金属錯化剤を含む。両性金属を脱酸するための例示的な組成物の例としては、0.1Mのニトロ;0.2Mの分極剤;0.2Mの緩衝液;0.3Mの錯化剤を含む。接触温度は約120°F~約140°Fの範囲内であり、接触時間は約20分~約40分である。
【0088】
1μm/時以下のあらゆる除去速度は無とみなされ、5μm/時以下は許容され、軽い錆の除去、及び非第一鉄金属酸洗い液用の酸に相当し、7μm/時以上は、
図7に示すように、良好であり、強酸酸洗い液より優れるとみなされる。本明細書では鉄の除去速度に焦点を当て、他の金属を推定することはできないことに注意されたい。例えば、亜鉛除去速度(実施例1及び2に示すとおり)はpHに大きく依存しており、タンデムに測定すると、鉄除去速度と完全に不一致である。
【0089】
実施例3に示すように、上記官能基のいずれによっても、あらゆる鉄除去速度のみを達成することはできない。2つの構成成分を組み合わせることにより、低い除去速度を達成することができる。
【0090】
以下の実施例5、6及び7で示すように、4つ全ての官能基が存在する場合のみ、正しい比率において反応が開始し、自立して、強酸のFe除去速度を超え、銀色の鋼鉄表面が得られる。鉄除去速度は、剥離プロセスを説明するために使用する基準の1つである。熱処理したスケールを除去することが、本発明を最も強力に説明するものであるものの、腐食阻害、及びキレート化による第一鉄/第二鉄化合物の溶解といった、酸化還元反応を必要としない、他のさほど重要でない能力も存在する。
【0091】
本発明の中性pH付近の酸洗い組成物は、
【0092】
1)緩い多孔質の酸化第二鉄である錆を除去する
ために使用することができる。本明細書に記載するように、ゲル状組成物はここで、仕上げ用途;及び
【0093】
2)硫酸、リン酸、及びこれらの水素添加化合物などの酸洗い液中で、黒色の接着性スマットを形成する不溶性第一鉄/第二鉄塩の除去;及び
【0094】
3)亜鉛及び銅などの非鉄金属からの、傷み及び酸化物の除去
に非常に有用であり得る。
【0095】
これらの機能、即ち腐食阻害及び金属のキレート化を、鉄酸化に要求される、狭いpH範囲を超えて伸ばすことができる。例えば、本発明の弱い式を、pH12における腐食防止剤として使用することができる。pH8~9において、式を使用して、金属表面の酸化物及び傷みをきれいにすることができる。
【0096】
本発明の任意の配合物を、ニトロ基以外のあらゆる構成成分と混合したとき、表面は黒くなり、表面に残留酸素が存在した。NO2
-含有化合物を添加しなおした場合にのみ表面が銀色になり、EDSにより酸素0%を示した。
【0097】
錯化剤がないと、反応は、表面に形成した酸化鉄が除去されず、元素Feとしての鋼鉄が再び反応するために、ゆっくりになる。構成成分間の相乗作用は重要であるが、ニトロ基が駆動力となっている。濃度範囲及びpH作用範囲は、無機ニトライト及びニトロ有機化合物とで異なる。ニトロ芳香族化合物は熱及びpH安定性であり、無機ニトライトよりも、本プロセスにおいてよりFeと反応性である。
【0098】
高濃度において、0.5~1Mのニトロ芳香族は、5.3以上のpHにてブレンドした場合、0.7~1Mの有機ホスホネートと共に軟化し得る。しかし、高濃度は必要ではなく、ニトロ芳香族化合物は0.03~0.5Mの低濃度で非常に効率的であり、Fe除去速度が、より広範囲のpH範囲である4.9~7.6にて高いままである。逆に、無機ニトライトは高濃度で軟化せず、オキシアニオンの比率が低い場合、窒素酸化物ガスを放出する。無機ニトライトは、0.1~0.8Mにて作動するにはより高い閾値を必要とし、より狭いpH範囲である4.9~6を有する。両方の場合において、高濃度のニトロ基は避けられるべきである。
【0099】
本発明は、ここで、以下の非限定的な実施例に関連して論じられる。全ての実施例において、重いマグネタイトを有する熱処理した鋼鉄腐食試験片を、実施例に記載する中性pH付近の酸洗い組成物に浸漬した、又は別様において、これと接触させた。
【実施例】
【0100】
実施例1:
酢酸ナトリウム=2M
酢酸=0.42M
亜硝酸ナトリウム=0.27M
pH=5.58、75°F
アセテート/ニトライトのモル比9:1
混合後1時間待機
混合後、熱処理した鋼鉄腐食試験片を、実施例1の組成物に浸漬した。鉄及び亜鉛除去速度は以下のとおりであった:
Fe除去速度:5.8μm/時
Zn除去速度:1μm/時
【0101】
実施例1は、最良の除去速度及び持続性を示しはしないものの、亜硝酸ナトリウム含有の酢酸溶液が、その単純性により、ニトロ基との相互作用に最良の識見を与える。亜硝酸ナトリウムは真新しい溶液中で安定し、溶液が使用されない限り(高可溶性Fe及び強力な空気撹拌にて、7.5を超えるpHにて生じる)ニトレートに分解しない。したがって、鋼鉄の酸化は、NO3
-ではなくNO2
-により開始されることが理解できる。
【0102】
反応が開始するとすぐに鉄が酸化され、
図2A及び2Bに示すように、赤褐色の呈色が鋼鉄表面に現れ、溶液中に拡散する。
図2Aは開始5分後の、きれいな鋼鉄と実施例1の組成物との反応を示す。赤色は、可溶性ニトロ第一鉄錯体の形成により、鋼鉄表面に現れる。
図2A及び2Bは、赤色が数日間、いかなる沈殿もなく安定して残ることを表す。
【0103】
これは、亜硝酸水溶液に希釈するのが典型的な、窒素モノオキシドFeNO(H
2O)
5
2+の第一鉄錯体の形成により説明することができる。赤色は数週間安定するが、より強力な錯化剤を添加すると消える。反応経路についての明確な文献集は存在しないが、アセテート、又は他の、負電荷を帯びるオキシアニオンと、電子求引性ニトロ基との、ニトロ基の極性を、NO
2
-の共鳴
8が、過酸化水素の酸素に類似しFe(2)を酸化可能な、2つのO(-1)のうちの1つにおける
δ-の部分荷電をもたらす箇所まで増加させる相互作用が存在する、と考えられている。
【化1】
【0104】
NO(窒素モノオキシド)はイオンと錯体化して、FeNO(H2O)5
2+として形成し、更なるNOは空気からO2(g)を吸収して、ニトレートに転換することができる。H+が消費されるにつれpHは増加し、これが、緩衝液の強度が鍵となる理由である。亜硝酸イオンに対する酢酸イオンのモル比が少なくとも8:1とならない限り、反応は生じない。そして、2つの成分を1~2時間混合するのを終えた後、鋼鉄上で反応が開始する。この比率を下回ると、Feとの反応、及び危険な窒素酸化物の放出が発生しない。範囲5~6のpH範囲にて、ニトライトは安定しないが、6を上回るpHにて、ニトライトは反応性ではない。
【0105】
本プロセスで酸洗いし、DI水ですすいでソフトティッシュで乾燥させた鋼鉄にて、元素表面分析を行った。処理の3週間後、表面にて0重量%の酸素を示した。
【0106】
本プロセスを用いる酸洗いの別の特徴は、傷みと孔食のない、均一な鋼鉄表面である。これは恐らく、反応(2)が、孔食及び水素脆性を担うH
2(g)を生成せず、硝酸及びペルオキシド酸洗い液にて孔食及び鋳ばりの錆を引き起こすO
2(g)も生成しないからである。したがって、表面に埋め込まれたあらゆる不溶性マグネタイトを除去するのに十分な程度にまで、浸漬時間を伸ばすことができる。第一鉄/第二鉄錯化剤が存在して酸化物を可溶化しない限り、この反応は持続することができず、完了することができない。鉄錯化剤及び緩衝液の濃度に応じて、可溶性鉄が15g/Lに達するまで、溶液は作用を続けることができ、これは典型的には、成分のうちの1つが、別の成分より前に枯渇する場合に生じる。例えば、実施例7における15g/LのFeは、1リットルの溶液が、補充することなく1ft
2の鋼鉄表面から20μm除去することができることを意味する。これは、20ft
2から1μm、又は5ft
2から4μmに移ることができる。Feが蓄積されるとpHが増加し、除去速度がゆっくりになる。正しい比率を有する4つ全ての成分の混合物により溶液を再生することで、pHが強制され、除去速度が再現される。通常、3回の交代(3回の添加は、組み立て濃度に等しい)の後、再生は除去速度の加速を補助せず、溶液は廃棄されなければならない。
実施例2:
酢酸ナトリウム=2M
酢酸=1.48M
亜硝酸ナトリウム=0.24M
pH=5.08,75°F
アセテート/ニトライトのモル比14.5:1
混合後1時間待機
Fe除去速度:5μm/時
Zn除去速度:90μm/時
実施例3:(
図5)
対照:0.44Mのm-ニトロベンゼンスルホン酸、Na塩、1Nの硫酸でpHを5.3に調節。Fe除去速度:0.2μm/時、鋼鉄表面に錆
試験:
酢酸ナトリウム=1M
酢酸=0.27M
m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム=0.44M
pH=5.3、75°F
アセテート/ニトロベンゼンスルホネートのモル比=3:1
Fe除去速度:5μm/時
【0107】
実施例3に示す芳香族ニトロ化合物との、アセテートの反応は、実施例1におけるものと同じ反応パターンを有する。溶液は赤褐色に変わり、鉄除去速度は劇的に増加し、
図3に示すように、鋼鉄表面は銀色できれいであり、短時間の大気腐食に対して耐性がある。しかし、実施例3のm-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩は、実施例1の亜硝酸ナトリウムよりも一層pHが安定しており、開始するのに、低いモル比3:1(アセテート/ニトロ)を必要とする。
図3は対照サンプル、及び実施例3に従い調製した試験用サンプルを示す。
実施例4:
【0108】
実施例4を実施し、個別の構成成分が単独では作用しないことを示した。最初の1時間の反応の間に、きれいな冷間圧延鋼上で最も使用した酸からの除去速度は、35体積%のHClに関しては4.66μm/時、及び20体積%のH
2SO
4に関しては4.9μm/時であることに注意されたい。
【表1】
【0109】
図4は、重いスケールを含む熱処理した鋼鉄腐食試験片における、1時間の反応の後の、試験1、2、3、4、及び5の結果を示す。
【0110】
図1は、実施例4の試験5の組成物での処理の前後の、重いマグネタイトを含む熱処理した鋼鉄腐食試験片を示す。
図1に図示するように、表面はきれいな銀色になり、数ヶ月間大気に曝すことで変色しない。
【0111】
酸洗い溶液中とは異なり、本明細書で記載される酸洗い組成物は、酸化還元反応によりマグネタイトを溶解しない。代わりに、本明細書で記載される酸洗い組成物は、磁気性の破片としてマグネタイトを除去し、
図5に示すように、マグネット上で収集することができる。本研究での反応速度は、除去したマグネタイトの重量を除外して、酸洗いしたきれいな冷間圧延鋼にて測定した。
図5は実施例4の試験5の組成物の、溶液の色と濁度の拡大図を示す。マグネットを使用して、ビーカー内の濁度を捉え、溶液をきれいにした。マグネットを取り除くと、熱処理した腐食試験片から落ちたマグネタイトの破片は、マグネット上にて目視できる。
実施例5:
酢酸ナトリウム=0.52M
酢酸=0.2M
亜硝酸ナトリウム=0.7M
1-ヒドロキシチリデン-1,1-ジホスホン酸ナトリウム塩=0.4M
pH5.6
アセテート及びホスホネート/ニトライトの比率=2:1
Fe除去速度=14.6μm/時
実施例6:
1-ヒドロキシチリデン-1,1-ジホスホン酸ナトリウム塩=0.47M
亜硝酸ナトリウム=0.348M
クエン酸ナトリウム=0.38M
クエン酸=0.08M
pH5.4
ホスホネート/ニトライトの比率=2.7:1
Fe除去速度=8.9μm/時
【0112】
本実施例では、ニトライトに対するホスホネートの比率を徐々に高め、最終値を2.7とした。
図6は、比率増加に伴うFe除去速度の増加を示す。
【0113】
図7はグラフを示し、ここでは、69時間後に、35体積%のHClを使用して、表面から除去したスケールの総量(全μm)は65μmであり、20体積%のH
2SO
4を使用して、表面から除去したスケールの総量は96.6μmであり、実施例6の溶液を使用して除去したスケールの総量は、233μmであった。したがって、実施例6の組成物により達成した除去速度は、強酸酸洗いによる除去速度を超えていたことが理解できる。
【0114】
対照的に、Nの酸化状態が+5であるニトレートでは、ホスホネート及びカルボキシレートと組み合わせたときに、この除去速度は示されず、かつ、銀色の表面も示されない。
実施例7:
1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸=0.1M
グルコン酸ナトリウム=0.1M
クエン酸ナトリウム=0.1M
m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム=0.06M
pHを5.4にするための水酸化ナトリウム
ホスホネート/ニトライトの比率=1.7:1
Fe除去速度:75°Fにて4.7μm/時;120°Fにて12.3μm/時140°Fにて17.5μm/時
【0115】
有機ホスホネートは、無機ニトライト及び芳香族ニトロ化合物に対して、低いモル比において、アセテートよりも高い鉄除去速度を示す。m-ニトロベンゼンスルホネート及びホスホネートの間には、特に、溶液をリスクなく加熱可能であるという点において、明確な相乗作用が存在する。正しい比率、緩衝液、錯化剤、濃度、及び温度を用いると、これらの酸洗い液の鋼鉄除去速度は、20μm/時に達することができる。
図8は、鉄除去速度における温度の影響を示す。
図8に示すように、腐食孔除去速度は、35体積%のHCl、及び20体積%のH
2SO
4といった、一般的に用いられる酸の腐食孔除去速度よりも大きい場合がある。
【0116】
図9は、室温で24時間、実施例7の組成物に浸漬した金属部分及び非金属部分の両方を有するドライバーを示す。
図9に見られるように、プラスチック部分は無傷のまま残り、表面の酸化物は、金属部分及びプラスチック部分から取り除かれた。
【0117】
図10は、右側を、実施例7の中性pH付近の酸洗い組成物に浸漬してすすぎ、乾燥させ、左側を未処理のまま残した、木製基部を有する錆びたスチールブラシを示す。
図10に見られるように、錆の酸化物を、錆びたスチールブラシ、及び木製基部の表面から取り除いた。
実施例8:
【0118】
6重量%のヒュームドシリカを、実施例7の組成物に添加した。溶液を軟化して、金属表面に広げて拭き取ることができた。この組成物はまた、単純に塗布した後、素早く水ですすぐことで、軽い錆を取り除くのに使用することができる。
【0119】
本明細書で記載するプロセスにおいて、無機又は有機に関係なく、ニトロ化合物のみが、中性pH付近にて鋼鉄上にて、無視できる除去速度を有することが観察された。ホスホネート及びカルボキシレートなどのオキシアニオンと特定の比率で混合すると、除去速度は、実施例3及び4に示すように数等級増加し、除去速度は、
図7、並びに実施例5及び6に示す強酸の除去速度を超過することができる。
【0120】
先行技術の酸洗い組成物とは異なり、本発明に従った中性pH付近の酸洗い組成物は、
図11及び12に示すように、錆びた道具、及び他の一般的に使用される金属物体上で長時間の浸漬時間のために安全に使用し、次いで速やかにすすいで乾燥させることができる。
図11は、本発明に従った中性pH付近の酸洗い組成物中での、浸漬によりきれいになった鋼鉄道具を表す。
図12は、浸漬前、及び、本発明に従った中性pH付近の酸洗い組成物中での浸漬後の、錆びた炭素鋼を表す。2日後に写真を撮影すると、細孔からは錆が再び現れていないことが示される。
図13は、洗浄前、及び、本発明に従った中性pH付近の組成物に浸漬した直後の、ステンレス鋼容器を示す。
図14は、本発明に従った中性pH付近の組成物への浸漬前後の、亜鉛、アルミニウム、及び銅部品を示す。
【0121】
対照的に、先行技術の組成物のいずれもが、ニトロ化合物、ホスホネート、及びカルボキシレートの組み合わせを用い、一工程で短時間の腐食保護を付与することができる、中性pH付近での熱処理したスケールの除去について記載していない。また、先行技術の組成物によって、孔食、変色、及び/又はH2脆化を伴わずに、無制限の浸漬時間は可能にならない。
【0122】
最後に、以下の「特許請求の範囲」は、本明細書に記載の本発明の一般的な特徴及び具体的な特徴の全て、並びに言語の問題としてその間にあり得る本発明の範囲の全ての記述を網羅することを意図していることも理解されたい。