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特許7177289二酸化炭素の地層内貯留方法、二酸化炭素含有天然ガス田の開発方法、および二酸化炭素の海水内貯留方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】二酸化炭素の地層内貯留方法、二酸化炭素含有天然ガス田の開発方法、および二酸化炭素の海水内貯留方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20221115BHJP
   B01F 23/2373 20220101ALI20221115BHJP
   B01F 21/00 20220101ALI20221115BHJP
   C09K 8/594 20060101ALI20221115BHJP
   C10L 3/06 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B01J19/00 A
B01F23/2373
B01F21/00
C09K8/594
C10L3/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021562786
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012525
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591090736
【氏名又は名称】石油資源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】山田 知己
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-206103(JP,A)
【文献】特開2004-321952(JP,A)
【文献】特開2004-050167(JP,A)
【文献】特開2020-138149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B01F 21/00-25/90
C09K 8/594
C10L 3/06
C01B 32/50
B01D 53/34-53/85、
53/92、53/96
E21B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を溶解させた水溶液に、二酸化炭素流体の微細泡を分散させて、二酸化炭素過飽和水を生成する工程と、
前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水を地層内の注入箇所にある地層水に注入する工程とを有し、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の分散量は、前記注入箇所の圧力および温度において、3vol%以上かつ30vol%以下であり、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径は、前記注入箇所の圧力および温度において、10nm以上80nm以下であり、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径および分散量を調整することにより、前記微細泡内の二酸化炭素ガスをラプラス圧で圧縮し、前記微細泡を取り囲み前記ラプラス圧の二酸化炭素ガスに触れている水塊に二酸化炭素ガスを飽和状態で溶け込ませ、前記水塊の比重を外側の水相よりも大きくし、前記水塊を前記外側の水相に対して沈降させ、前記微細泡の前記周囲の水塊に対する上向き相対速度よりも前記周囲の水塊の沈降速度が上回わるようにし、前記微細泡が前記周囲の水塊につられて沈降するようにして、前記地層水中に、前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成し、
前記注入箇所の圧力および温度における単位体積の前記二酸化炭素過飽和水に含まれる二酸化炭素の総量は、前記注入箇所の圧力および温度における単位体積の二酸化炭素ガスの20%以上かつ200%以下であることを特徴とする二酸化炭素の地層内貯留方法。
【請求項6】
二酸化炭素および炭化水素ガスを含む天然ガスコラムと、前記天然ガスコラムよりも下方にある地層水とを有するガス田から、炭化水素ガスを回収するガス田からの炭化水素ガスの回収方法であって、
前記天然ガス層から前記天然ガスを回収する工程と、
回収された前記天然ガスから二酸化炭素および炭化水素ガスを分離する工程と、
前記分離された二酸化炭素を用い、二酸化炭素を溶解させた水溶液に、二酸化炭素流体の微細泡を分散させて、二酸化炭素過飽和水を生成する工程と、
前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水を前記地層内の注入箇所において前記地層水に注入する工程とを有し、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の分散量は、前記注入箇所の圧力および温度において、3vol%以上かつ30vol%以下であり、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径は、前記注入箇所の圧力および温度において、10nm以上80nm以下であり、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径および分散量を調整することにより、前記微細泡内の二酸化炭素ガスをラプラス圧で圧縮し、前記微細泡を取り囲み前記ラプラス圧の二酸化炭素ガスに触れている水塊に二酸化炭素ガスを飽和状態で溶け込ませ、前記水塊の比重を外側の水相よりも大きくし、前記水塊を前記外側の水相に対して沈降させ、前記微細泡の前記周囲の水塊に対する上向き相対速度よりも前記周囲の水塊の沈降速度が上回わるようにし、前記微細泡が前記周囲の水塊につられて沈降するようにして、前記地層水中に、前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成し、
前記注入箇所の圧力および温度における単位体積の前記二酸化炭素過飽和水に含まれる二酸化炭素の総量は、前記注入箇所の圧力および温度における単位体積の二酸化炭素ガスの20%以上かつ200%以下であることを特徴とするガス田からの炭化水素ガスの回収方法。
【請求項12】
二酸化炭素を溶解させた塩水に、二酸化炭素流体の微細泡を分散させて、二酸化炭素過飽和水を生成する工程と、
前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水を注入箇所にある海水に注入する工程とを有し、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の分散量は、前記注入箇所の圧力および温度において、3vol%以上かつ30vol%以下であり、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径は、前記注入箇所の圧力および温度において、10nm以上80nm以下であり、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径および分散量を調整することにより、前記微細泡内の二酸化炭素ガスをラプラス圧で圧縮し、前記微細泡を取り囲み前記ラプラス圧の二酸化炭素ガスに触れている水塊に二酸化炭素ガスを飽和状態で溶け込ませ、前記水塊の比重を外側の水相よりも大きくし、前記水塊を前記外側の水相に対して沈降させ、前記微細泡の前記周囲の水塊に対する上向き相対速度よりも前記周囲の水塊の沈降速度が上回わるようにし、前記微細泡が前記周囲の水塊につられて沈降するようにして、前記海水中に、前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成し、
前記注入箇所の圧力および温度における単位体積の前記二酸化炭素過飽和水に含まれる二酸化炭素の総量は、前記注入箇所の圧力および温度における単位体積の二酸化炭素ガスの20%以上かつ200%以下であることを特徴とする二酸化炭素の海水内貯留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素流体(本明細書でいう二酸化炭素流体にはガス、超臨界流体および液体も含むものとする)の微小径の微細泡を含む二酸化炭素過飽和水を用いた二酸化炭素の、上方シール (遮蔽層)に拠らない地層内貯留方法、分離後の二酸化炭素を炭化水素ガスに混入させることなくガス層に還元する二酸化炭素含有天然ガス田の開発方法、および注入時点での海水への溶解のみに拠らない二酸化炭素の海水内貯留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスである二酸化炭素の排出量削減を目的として、二酸化炭素を地中または海中に貯留する技術が様々に開発されている。
地中に二酸化炭素を貯留する技術としては、ガスを長期に亘って気密的に閉じ込めることができる、いわゆる上方シール性を有する地下空間に二酸化炭素を高圧ガスまたは超臨界流体の状態で吹き込むことが考えられるが、このような気相シール能力を有する地下空間は、廃止された油ガス田や、ごく一部の帯水層に限定され、適切な場所を捜すことが困難であった。また、地震の際に地層に亀裂が生じると、上方シール性が損なわれるおそれもあった。
【0003】
一方、深海底に二酸化炭素を貯留する技術としては、二酸化炭素のハイドレートや超臨界流体を深海底に送り込むことも考えられている。しかし、それらは技術的に解決すべき課題が多く、コストがかかるため工業的な実施は難しかった。
【0004】
特許文献1には、より現実的な技術として、地表下に存在する地層水から水溶性天然ガス及びヨウ素を回収する際に、地層水の汲み上げに合わせて、二酸化炭素溶解水を地層水貯留層に圧入し、二酸化炭素溶解水が前記地層水よりも高密度であることを利用して、前記地層水を前記生産井に向けて押し上げる技術が開示されている。この方法によれば、地層水の下に二酸化炭素溶解水を貯留し、二酸化炭素溶解水によって希釈されることなく、効果的な天然ガス及びヨウ素の回収が行える。
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、二酸化炭素を溶解させた水を用いるため、貯留層の体積に比して貯留できる二酸化炭素の量が限られる。このため、より多量の二酸化炭素を貯留できる技術が望まれていた。
【0006】
特許文献2は、二酸化炭素の地中貯留方法を開示しており、この方法では、深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げて注入水を作り、前記注入水を前記深部帯水層にとどくように設けられた注入井に脈動圧で圧入し、前記注入井の上部の前記圧入された注入水に二酸化炭素を微細気泡化して混合または溶解させることにより気液混合流体を作るとされている。
【0007】
しかし、特許文献2の方法では、二酸化炭素ガスを微細気泡化するものの、その径は、浮上を妨げる措置を取れない10μm~50μmであると記載されており、やがては注入水から二酸化炭素ガスが分離して浮き上がり、多くは連続相となって上方シールに拠りトラップされることになる。上方シールによって二酸化炭素ガスを長期に安定してトラップできる地層とその容量には限りがあるため、やはり、より多量の二酸化炭素を貯留できる技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3908780号
【文献】特開2008-307483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上方シール性がない地層水貯留層や海底にも大量の二酸化炭素を安定して貯留できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の二酸化炭素の地層内貯留方法は、
二酸化炭素を溶解させた水溶液に、二酸化炭素流体の微細泡を分散させて、二酸化炭素過飽和水を生成する工程と、
前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水を地層内の注入箇所にある地層水に注入する工程とを有し、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径および分散量を調整することにより、前記地層水中に、前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成する。
なお、本明細書における「二酸化炭素過飽和水」とは、「水への溶解可能量を超えて微細泡すなわち水に溶解していない二酸化炭素を含む見掛け上の過飽和水」を意味するものとする。また、「微細泡状態の二酸化炭素流体」は、ガスまたは液体または超臨界流体の状態を取り得るものとする。
【0011】
本発明の他の態様に係るガス田からの炭化水素ガスの回収方法は、
二酸化炭素および炭化水素ガスを含む天然ガスコラムと、前記天然ガスコラムよりも下方にある地層水とを有するガス田から、炭化水素ガスを回収する方法であって、
前記天然ガスコラムから前記天然ガスを回収する工程と、
回収された前記天然ガスから二酸化炭素および炭化水素ガスを分離する工程と、
前記分離された二酸化炭素を用い、二酸化炭素を溶解させた水溶液に、二酸化炭素流体の微細泡を分散させて、二酸化炭素過飽和水を生成する工程と、
前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水を前記地層内の注入箇所において前記地層水に注入する工程とを有し、
前記二酸化炭素過飽和水中に分散させる二酸化炭素流体の前記粒径および分散量を調整することにより、前記地層水中に前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成する。
【0012】
本発明の他の態様に係る二酸化炭素の海水内貯留方法は、
二酸化炭素を溶解させた塩水に、二酸化炭素流体の微細泡を分散させて、二酸化炭素過飽和水を生成する工程と、
前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水を注入箇所にある海水に注入する工程とを有し、
前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径および分散量を調整することにより、前記海水中に前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成する。
【0013】
いずれの態様においても、前記注入箇所の圧力および温度において、前記二酸化炭素過飽和水中での前記微細泡の浮力と前記微細泡の周囲の水塊の粘性抵抗とのつり合いで決まる前記微細泡の終端浮上速度が、前記沈降流の沈降速度よりも小さくなるように、前記二酸化炭素過飽和水中に分散させる二酸化炭素流体の前記粒径および二酸化炭素過飽和水に対する分散量を調整することが好ましい。前記二酸化炭素過飽和水中での前記微細泡の浮力と周囲の水塊の粘性抵抗とのつり合いで決まる前記微細泡の終端浮上速度とは、例えばストークスの式で近似的に表現できると考えられるが、将来的にはより正確に近似できる新たな理論式もしくは実験式が得られることも考えられる。その場合は、ストークスの式に限らず、前記新たな理論式もしくは実験式を用いて求められる終端浮上速度を用いてもよいものとする。
【0014】
また、いずれの態様においても、前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径は限定されないが、前記注入箇所の圧力および温度において粒径100nm以下であることが好ましい。この場合には前述した効果が顕著となる。微細泡の粒径は小さければ小さい程、本発明の効果を得る上では良いが、粒径が小さい程生成コストが上がるため、効果とコストとの見合いで目標径を設計すべきである。現在の技術では、コストも考慮して、微細泡の粒径は10nm以上80nm以下であることが現実的であり、20nm以上70nm以下であってもよく、30nm以上60nm以下であってもよい。しかし、20nm以下の微小泡が低コストで生成できれば例えば、5nm以上40nm以下であってもよい。
【0015】
また、いずれの態様においても、前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の分散量は、微小泡の体積比率が高ければ高い程良く、限定はされないが、生成コストとの見合いで設計すべきである。現在の技術では効果とコストを考慮すると、3vol%以上かつ30vol%以下であることが現実的である。この範囲は5vol%以上かつ20vol%以下であってもよく、8vol%以上かつ15vol%以下であってもよい。技術開発により分散量をさらに高められるのであれば、30vol%以上であってもよい。
【0016】
また、いずれの態様においても、前記注入箇所の圧力および温度における単位孔隙容積の前記二酸化炭素過飽和水に含まれる二酸化炭素の総量は、限定はされないが、前記注入箇所の圧力および温度における前記単位体積の二酸化炭素流体の5%以上かつ700%以下であることが好ましい。より好ましくは20%以上かつ200%以下であり、さらに好ましくは50%以上かつ150%以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様に係る二酸化炭素の地層内貯留方法によれば、二酸化炭素過飽和水中の微細泡の粒径および分散量を調整することにより、前記地層水中に、前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成する。したがって、二酸化炭素流体の微細泡は二酸化炭素過飽和水から浮き上がることなく、二酸化炭素過飽和水が地下水脈の底に向かって沈降する間に鉱物固定もしくは残留トラップされ、もしくは地層水と接触して溶解消滅する。
【0018】
本発明において沈降流が形成され、微細泡が浮上しないメカニズムは次のように説明できる。二酸化炭素過飽和水内の微細泡は、微細泡を取り巻く周囲の水塊に対して、常に上向きの相対速度(浮上速度)を持つ。一方、微細泡の内部はラプラス圧によって高圧となるため、微細泡周囲の水塊には微細泡から常に二酸化炭素が供給され、二酸化炭素が飽和された状態となる。これにより、微細泡周囲の水塊は、さらに外側の水相よりも比重が大きくなり、外側の水相に対してゆっくり沈降する。微細泡の径が十分小さい場合には、回りの水塊に対する微細泡の上向きの相対速度を、周囲の水塊の沈降速度が上回るため、微細泡もつられて沈降する。微細泡とそれを取り巻く周囲の水塊は、一体となって沈降するという訳ではなく、微細泡はあくまで周囲の水塊に対して上向きの相対速度を維持したまま、水塊の沈降に飲み込まれて沈降していくと考えられる。これは、本発明者等が見いだした特異な現象である。
【0019】
微細泡の内部圧力は、ヤング・ラプラスの式に基づいて計算されるラプラス圧のように、微細泡の周囲の水相の圧力よりも高くなる。ラプラス圧は微細泡の直径に反比例するから、微細泡が小さければ小さいほど、微細泡の内部圧力は高くなる。なお、本発明が対象とする主にナノメートルサイズの微細泡において、ヤング・ラプラスの式で得られる内部圧力の値が厳密に当てはまるかどうかは分かっていないが、微細泡の内部に、周囲の流体圧に界面張力を加味した力に釣り合う泡内部の余剰圧が生じることは、ヤング・ラプラスの式から理解できる。
【0020】
したがって、二酸化炭素過飽和水中の微細泡の粒径および分散量を調整することにより、地層水中に、微細泡を含んだままの前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成でき、微細泡の浮き上がりを防止しつつ前記二酸化炭素過飽和水とともに沈降させることが可能である。よって、上方にシール性を持つ地層がない非シール性の帯水層であっても、貯留後の二酸化炭素流体が分離して吹き出すおそれがなく、安定して二酸化炭素の貯留が行える。
【0021】
また、二酸化炭素過飽和水には、二酸化炭素が溶質として溶け込んでいるだけでなく、多量の二酸化炭素流体の微細泡を懸濁状態で、かつ周囲より高い泡内圧にて含むから、単に二酸化炭素を溶解させた溶解水に比べて、単位体積中に遙かに多くの二酸化炭素を含有させることが可能である。よって、本発明によれば、二酸化炭素の貯留効率が高められ、貯留コストも低減することができる。
【0022】
本発明の他の態様のガス田からの炭化水素ガスの回収方法によれば、天然ガス層から回収された天然ガスから二酸化炭素および炭化水素ガスを分離し、分離された二酸化炭素を溶解させた水溶液に、さらに二酸化炭素流体の微細泡を分散させて二酸化炭素過飽和水を生成し、微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水を前記地層内のガス水界面以深の注入箇所において前記地層水に注入する。したがって、天然ガス層から回収される大量の二酸化炭素を再び地層内に戻しつつ、その二酸化炭素を天然ガスに再び混入させることなく、効率よく炭化水素ガスを生産することができる。よって、従来は大量の二酸化炭素が生じるために採掘困難であった二酸化炭素含有率の高い天然ガス田においても、分離された二酸化炭素の処分に多大なコストをかけることなく、炭化水素ガスの回収が効率よく行える。
【0023】
また、本発明の他の態様の二酸化炭素の海水内貯留方法は、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水を注入箇所にある海水に注入する際に、前記二酸化炭素過飽和水中の前記微細泡の粒径および分散量を調整することにより、周囲の水塊に対する微細泡の上向き相対速度よりも、さらに外側の水相に対する水塊の沈降速度を大きくして、微細泡も水塊につられて沈降させることができるから、従来法に比べて遙かに早く、多くの二酸化炭素を海水中に貯留することが可能である。よって、この方法によれば、海水中での二酸化炭素の貯留効率が高められ、貯留コストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態として、二酸化炭素の地層内貯留方法を行っている状態を示す地層の縦断面図である。
図2】本発明における二酸化炭素流体の微細泡の作用を説明する模式図である。
図3】本発明における二酸化炭素流体の微細泡の作用を説明する模式図である。
図4】本発明の第2実施形態として、ガス田からの炭化水素ガスの回収方法を行っている状態を示す地層の縦断面図である。
図5】本発明の第3実施形態として、二酸化炭素の海水内貯留方法を行っている状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態として、二酸化炭素の地層内貯留方法および装置を示す縦断面図である。図中符号1は地層であり、例えばシール泥岩層などであってもよい。地層1中には地層水で満たされた帯水層2があり、帯水層2は例えば、砂岩層などの鉱物粒子の間の孔隙を地層水が満たしている層である。地表から圧入井3が垂直に設けられ、その下端が帯水層2に達している。なお、この実施形態および後続する実施形態では、圧入井3が垂直に設けられている状態を図示しているが、本発明は傾斜井や水平井にも適用可能である。
【0026】
圧入井3には、その上端から微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4が供給され、下端に形成された噴出口5から微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4が放出されるようになっている。噴出口5は帯水層2内に開口している。噴出口5の形状は限定されず、圧入井3の下端の全周に亘って均等に微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を放出してもよいし、非構造性帯水層が下っていく方向に向けて噴出口5が形成されていてもよい。噴出口5の位置が注入箇所に該当する。噴出口5が上下に離間して複数形成されている場合には、複数の噴出口5の平均位置を注入箇所と定義する。
【0027】
この実施形態では、微細泡を地上で生成して圧入井3に供給しているが、地上で微細泡を生成する代わりに、坑内に二酸化炭素と水を送る2流路を設けて、坑底で微細泡を生成することも可能である。さらに、坑底に二酸化炭素だけを送り、地層水と二酸化炭素を混ぜて微細泡を生成することも可能である。
【0028】
噴出口5から噴出された微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4は、微細泡を含んだまま微細泡が分離することなく、下降流6となって帯水層2の地層水内をゆっくり下降する。その理由は後述する。
【0029】
圧入井3の上端には、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を圧入するための圧入ポンプ7が設けられ、ナノバブル生成機8が接続されている。ナノバブル生成機8にはパイプライン10を経て二酸化炭素タンク12が接続され、二酸化炭素タンク12にはパイプライン14を経て二酸化炭素源16が接続されている。二酸化炭素源16は二酸化炭素を排出する設備であり、例えば発電設備、ガス処理施設、各種工場、化学処理設備などいかなるものでもよい。二酸化炭素源16が排出した二酸化炭素はパイプライン14を通じて二酸化炭素タンク12に蓄えられ、パイプライン10を経てナノバブル生成機8に供給される。
【0030】
ナノバブル生成機8には、パイプライン18を経て貯水タンク20が接続され、さらにパイプライン22を介して図示しない給水源に接続されている。給水源は限定されないが、例えば、地層水と似た組成の水、例えば地層水から天然ガス等の資源を回収し、かん水を排出する設備であってもよい。給水源からの原水はパイプライン22を経て貯水タンク20で蓄えられ、パイプライン18を介してナノバブル生成機8に供給される。
【0031】
ナノバブル生成機8は、原水と二酸化炭素流体、特に二酸化炭素ガスを混合して、二酸化炭素流体の微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を製造する。微細泡の粒径、および内部圧力によっては、微細泡内に二酸化炭素ガスだけでなく、二酸化炭素の超臨界流体や液体、あるいはこれらの混合物が生じることもある。以下の説明では、便宜上、二酸化炭素流体を代表して二酸化炭素ガスと記載する。ナノバブル生成機8の構造は限定されず、原水中に極めて細いノズルを介して高速で二酸化炭素ガスを吹き込み微細泡を発生させる細孔方式でもよいし、原水中に二酸化炭素ガスを吹き込みながら高速で旋回流を発生させて微細泡を生じる旋回流方式であってもよいし、原水と二酸化炭素ガスを混合しながら高速回転する刃で気液混合物を剪断して微細泡を形成する剪断方式であってもよい。その他の形式も使用可能である。ナノバブル生成機8が生成する微細泡は、ナノバブル生成機8への二酸化炭素の吹き込み量、旋回流の旋回速度、回転刃の回転速度、原水の供給量、ガス噴出ノズルの開口径などによって、コントロールできる。
【0032】
二酸化炭素過飽和水4中の微細泡の直径は限定はされず、粒径が小さければ小さい程、本発明の効果を得る上では良いが、粒径が小さいほど生成コストがかかるため、効果とコストとの見合いで目標径を設計すべきである。現在の技術では、コストも考慮して、注入箇所の圧力および温度において粒径100nm以下であることが好ましい。注入箇所、すなわち噴出口5の位置では、ナノバブル生成機8が吐出した直後の微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4の圧力よりも通常高いので、ナノバブル生成機8が吐出した直後の微細泡の大きさは、粒径100nmより多少大きくても、噴出口5から吐出される際には、圧力で若干縮小することになる。この縮小率は考慮してナノバブル生成機8が生成する微細泡の粒径を設定すればよい。
【0033】
注入箇所の圧力および温度において、微細泡の粒径は10nm以上80nm以下であることが現実的であり、20nm以上70nm以下であってもよく、30nm以上60nm以下であってもよい。しかし、20nm以下の微小泡が低コストで生成できれば例えば、5nm以上40nm以下であってもよい。微細泡の粒径が小さいほど生成が困難になって厳しい運転条件が必要となり、運転コストが上昇する。また、微細泡の粒径が大きすぎると微細泡が二酸化炭素過飽和水4内で浮上する速度が大きくなり、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4の下降流が形成されにくくなるとともに、下降につれて微細泡が二酸化炭素過飽和水4に溶解して消滅しにくくなる。
【0034】
微細泡の粒径を測定する方法としては、一般的に知られている、動的光散乱法やレーザー回折散乱法が使用可能である。測定方法によって得られる値に若干の際が生じるため、本明細書においては、動的光散乱法によって計測した値、もしくは他の方法による測定結果を動的光散乱法で得られる粒径に換算した値を採用するものとする。動的光散乱法による計測手段としては、例えば、大塚電子株式会社製の濃厚系粒径アナライザー「FPAR-1000」が使用できる。「FPAR-1000」が使用できない場合は、「FPAR-1000」であれば得られる値に換算するものとする。
【0035】
二酸化炭素過飽和水中の微細泡の分散量は、本発明では限定はされないが、微小泡の体積比率が高ければ高い程良く、限定はされないが、生成コストとの見合いで設計すべきである。現在の技術では、効果とコストを考慮すると、注入箇所の圧力および温度において、3vol%以上かつ30vol%以下であることが現実的である。3vol%未満では微細泡が不足し、30vol%以上は現実には難しい。この範囲は5vol%以上かつ20vol%以下であってもよく、8vol%以上かつ15vol%以下であってもよい。技術開発により分散量をさらに高められるのであれば、30vol%以上であってもよい。
【0036】
注入箇所の圧力および温度における単位体積の二酸化炭素過飽和水に含まれる二酸化炭素の総量は、本発明では限定はされないが、注入箇所の圧力および温度における単位体積の二酸化炭素ガスの5%以上かつ700%以下であることが好ましい。より好ましくは20%以上かつ200%以下であり、さらに好ましくは50%以上かつ150%以下である。
【0037】
図2は、二酸化炭素過飽和水4内の微細泡の挙動を示す模式図である。
下記の式(1)はストークスの式(Stokes' law)であり、小さなガス粒子が流体中を浮上する際の終端速度を示す。本発明における微細泡の浮上速度、すなわち「泡の浮力と粘性抵抗のつり合いで定義さる微細泡の終端速度」は、ストークスの式に従うと予測されるが、将来的に実験により新たな近似式が得られることも考えられる。その場合は、ストークスの式に限らず、前記新たな近似式を用いて求められる終端速度を用いてもよい。
【数1】
【0038】
式(1)において各記号は以下の意味である。
:微細泡の終端速度(m/s)
:微細泡の粒子径(m)
ρ:流体の密度(kg/m
ρ:微細泡の密度(kg/m
g:重力加速度(m/s
μ:流体の粘度(Pa・s)
ストークスの式(1)から、微細泡の粒子径dの二乗に比例して浮上速度uが小さくなることがわかる。理論的には、粒子径が1/10になれば、浮上速度は1/100になる。
【0039】
下記の式(2)はヤング・ラプラスの式を変形したものであり、微細泡の内部圧と外部圧の差、すなわちラプラス圧を示している。ラプラス圧は式(3)のように表される。なお、本発明が対象とする主にナノメートルサイズの微細泡において、ヤング・ラプラスの式で得られる内部圧力の数値が厳密に当てはまるかどうかは分かっていないが、微細泡の内部に、周囲の流体圧に界面張力を加味した力に釣り合う泡内部の余剰圧が生じることはヤング・ラプラスの式から理解できる。
【数2】
【数3】
【0040】
式(2)および式(3)において各記号は以下の意味である。
:微細泡の粒子径(m)
γ:流体の表面張力(kg/m
PG:微細泡内の圧力(Pa)
PW:流体の圧力(Pa)
ΔP:ラプラス圧(Pa)
【0041】
したがって、例えば理論的には、dB = 50nmのときΔP =2.88×10Paという高圧になり、微細泡の内部の二酸化炭素ガスは周囲の水相に比べて高い圧力で圧縮されている。
【0042】
図3は、微細泡内の二酸化炭素ガスの挙動を示す模式図である。二酸化炭素過飽和水内の微細泡は、微細泡を取り巻く周囲の水相に対して、常に上向きの相対速度(浮上速度)を持つ。しかし、前述のように、ナノメートルサイズの微細泡A1内の二酸化炭素ガスは極めて高い圧力で圧縮されているため、微細泡A1を取り囲み高圧の二酸化炭素ガスに触れている水塊A3には、微細泡A1内の二酸化炭素ガスが飽和状態で溶け込む。このため、水塊A3は、溶け込んだ二酸化炭素の分だけさらに外側の水相よりも比重が大きくなり、外側の水相に対してゆっくり沈降する。微細泡A1の径が十分小さい場合には、微細泡A1の上向き相対速度を、周囲の水塊A3の沈降速度が上回るため、微細泡A1もつられて沈降する。このように、微細泡A1とそれを取り巻く周囲の水塊A3は、一体となって沈降するという訳ではなく、微細泡A1はあくまで周囲の水塊A3に対して上向きの相対速度を維持したまま、水塊A3の沈降に飲み込まれて沈降していく。
【0043】
したがって、微細泡の粒径をコントロールすることにより、微細泡を含んだままの二酸化炭素過飽和水4が帯水層2の地層水内でゆっくり沈降する沈降流6を生じさせることが可能である。これが本発明者らの見いだした解決策であり、特許文献1、2からも決して推し量ることができないものである。
【0044】
沈降流6の速度は、非常にゆっくりしたものであり、年間に数メートル程度であると考えられる。地層水に二酸化炭素溶解水(本発明と異なり微細泡なしである)を注入した場合に関する論文として、「Yamamoto, H., S. Nanai, K. Zhang, P. Audigane, C. Chiaberge, R. Ogata, N. Nishikawa, Y. Hirokawa, S. Shingu, and K. Nakajima, 2013, Numerical Simulation of Long-term Fate of CO2 Stored in Deep Reservoir Rocks on Massively Parallel Vector Supercomputer, Lecture Notes in Computer Science Vol. 7851, pp.80-92, 2013.」が公表されている。この論文には、二酸化炭素溶解水(微細泡なし)の沈降速度が1~3m/年であったことが記載されている。
【0045】
帯水層2の地層水中を微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4が沈降することにより、上方シールを有しない帯水層に微細泡を含む状態で二酸化炭素過飽和水4を大量に貯留でき、二酸化炭素ガスの吹き出しのおそれもない。また、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4は、二酸化炭素溶解水よりも遙かに大量の二酸化炭素を含むことができるから、単位体積あたりの注入量における二酸化炭素量を増やして、貯留効率を高め、二酸化炭素貯留に要するコストを下げることが可能となる。
【0046】
微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4は、二酸化炭素溶解水よりも遙かに大量の二酸化炭素を含むことができる点について、試算結果を説明する。微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4の貯留条件を、圧力:10MPa、温度:60℃、塩分濃度:3wt%、二酸化炭素最終飽和率:0.5、二酸化炭素貯留率(構造性帯水層における):0.5とした。塩分濃度の、界面張力、二酸化炭素溶解度、微細泡安定性への影響は計算が複雑であり影響が小さいため無視した。表1は、微細泡の粒径に対応して、静止した水相に対する微細泡の浮上速度と、同圧かつ同温度において、現在のCCS貯留容量評価で使われている、炭酸ガス飽和率50%、貯留率(圧入された炭酸ガスが接触できる孔隙容積の比率)50%を適用した「炭酸ガス単相圧入」と同等の二酸化炭素含有量となる、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4の微細泡/水相の体積比を示している。なお、本発明が対象とする主にナノメートルサイズの微細泡において、ヤング・ラプラスの式で得られる内部圧力の数値が厳密に当てはまるかどうかは分かっていないため、若干の誤差が生じている可能性はある。
【0047】
【表1】
【0048】
以上のように、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4は、微細泡の粒子径が50(nm)になると、微細泡の浮上速度は0.06(m/年)にまで遅くなり、二酸化炭素過飽和水4中に微細泡を9vol%保持させるだけで、現在のCCS貯留容量評価で使われている、炭酸ガス飽和率50%、貯留率(圧入された炭酸ガスが接触できる孔隙容積の比率)50%を適用した「炭酸ガス単相圧入」と同等の量の二酸化炭素を含有できる。しかも、それだけの二酸化炭素を含む二酸化炭素過飽和水4を、シール性が不要な帯水層2の地層水内において、数メートル/年程度の下降流6を生じさせつつ沈降させることができるのである。
【0049】
図1に示すように、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4が沈降流6となって流れるうち、微細泡A1内の二酸化炭素ガスは周囲の水塊A3に溶け続け、周囲の水塊A3の水は微細泡の相対的浮上に伴って徐々に入れ替わっていくので、微細泡内の二酸化炭素ガスは漸次減少していく。こうして、微細泡内の二酸化炭素ガスが減少すると、微細泡の粒径はさらに小さくなり、ラプラス圧が上昇して内圧がさらに高くなる。内圧が高くなると水塊A3への溶解速度はさらに上昇するから、やがて微細泡は消失する(溶解消滅)。また、沈降流6中の二酸化炭素の一部は、帯水層2の砂岩層などに含まれる鉱物と反応して固相化される(鉱物固定)。
【0050】
図3に示すように、平均的な微細泡A1よりも大きい微細泡A2が存在した場合、相対的に大きい微細泡A2が水塊A3に近づくと、水塊A3に微細泡A1の内圧と平衡する形で溶けていた高濃度の二酸化炭素ガスが、相対的に大きく内圧がA1のそれより低い微細泡A2内に析出する現象が起きる。これを繰り返すと、相対的に大きい微細泡A2はさらに粒径を増し、その一部は自身の存在していた孔隙空間を満たした結果、自身と周囲の水との界面張力によって動けなくなる(残留トラップ)。したがって、地上に吹き出すおそれはなく、これも上方シールに拠らない炭酸ガス貯留の一形態である。
【0051】
以上の作用により、本実施形態の二酸化炭素の地層内貯留方法によれば、二酸化炭素源16の発生する二酸化炭素を二酸化炭素タンク12で貯留したのち、貯水タンク20からの原水にナノバブル生成機8で微細泡を加え、圧入ポンプ7で微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4として圧入井3へ圧入して噴出口5から帯水層2の地層水内に導入させ、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を沈降流6として大量に貯留させることができる。さらに微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4には多量の二酸化炭素を含有させることができるから、二酸化炭素の貯留効率を高め、貯留コストを安くすることが可能である。貯留された二酸化炭素はやがて鉱物固定、溶解消滅、もしくは残留トラップされて安定化されるため、長期に亘って稼働を続けることができるという優れた効果を奏する。
【0052】
なお、地上で微細泡を生成する代わりに、坑内に二酸化炭素と水を送る2流路を設けて、坑底で微細泡を生成したり、坑底に二酸化炭素だけを送り、地層水と二酸化炭素を混ぜるて微細泡を生成した場合にも、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0053】
[第2実施形態]
次に、図4を用いて、本発明の第2実施形態に係るガス田からの炭化水素ガスの回収方法および装置を説明する。第2実施形態では、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を帯水層2の地層水内に圧入する一方、帯水層2の地層水の上に賦存する天然ガスを回収して精製し、その過程で生じた二酸化炭素を、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4の製造に利用することを特徴としている。なお、第1実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を援用する。
【0054】
地層1内の天然ガス貯留層25に到達するように、生産井32が地層1内に設置されている。生産井32の下端には回収口34が多数形成され、ここから吸い込まれた天然ガスは、自圧もしくは汲上ポンプ30によりセパレーター26に送られる。セパレーター26は気相と液相を重力分離するものであり、天然ガスに混ざって回収された地層水を除去する。セパレーター26で地層水が分離された天然ガスは、炭酸ガス分離改修装置27へ送られる。炭酸ガス分離改修装置27は、天然ガスを炭化水素ガスと二酸化炭素に分離するものであり、具体的には、アミン吸収等を用いた吸収法による分離システム、冷却液化法による分離システム、膜分離法による分離システムなど、いずれの分離システムも使用可能である。
【0055】
吸収法による分離システムは、二酸化炭素を吸収するアミン等の溶剤と天然ガスを接触させて二酸化炭素を溶剤に吸収させ、溶剤から二酸化炭素を再度取り出す。冷却液化法による分離システムは、天然ガスを冷却して液化させ、蒸留塔を用いて沸点の差により炭化水素と二酸化炭素を分離する。膜分離法による分離システムは、炭化水素と二酸化炭素の膜の透過速度の違いを利用し、炭化水素と二酸化炭素を分離する。
【0056】
炭酸ガス分離改修装置27からの炭化水素は貯留タンク28を経て図示しない精製工程へ供給される。一方、炭酸ガス分離改修装置27からの二酸化炭素はパイプライン24を経て前述の二酸化炭素タンク12へ送られ、さらにナノバブル生成機8へ送られる。ナノバブル生成機8にて二酸化炭素ガスと貯水タンク20からの原水を混合し、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を生成させ、圧入ポンプ7で圧入井3へ圧入し、噴出口5から帯水層2の地層水内に微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を放出する。セパレータ26で分離された地層水を貯水タンク20に送り、原水として利用することも可能である。微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を地層水内に放出することにより、帯水層2の地層水の液面が上昇するから、天然ガス層25内の天然ガスの生産井32での産出を増進することが可能である。
【0057】
以後の作用は第1実施形態と同じである。この実施形態においても、地上で微細泡を生成する代わりに、坑内に二酸化炭素と水を送る2流路を設けて、坑底で微細泡を生成することも可能である。さらに、坑底に二酸化炭素だけを送り、地層水と二酸化炭素を混ぜるて微細泡を生成することが可能である 。
【0058】
上記のガス田からの炭化水素ガスの回収方法によれば、天然ガス層25から回収された天然ガスから二酸化炭素および炭化水素ガスを分離し、分離された二酸化炭素を用い、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を生成し、圧入井3から帯水層2の地層水に注入するから、天然ガスから炭化水素を精製する際の副産物である大量の二酸化炭素を再び地層1内に戻しつつ、その二酸化炭素を天然ガスに再び混入させることなく、効率よく炭化水素ガスを製造することができる。このため、埋蔵されている天然ガスに高濃度の二酸化炭素が含まれるために採掘できなかった二酸化炭素含有量の高い天然ガス田においても、分離された二酸化炭素の処分に多大なコストをかけることなく、炭化水素ガスの製造が行える。
【0059】
海外には、炭酸ガス濃度が高い為に未開発のガス田が多数存在する。特に、インドネシアやマレーシアでは、天然ガスから発生する二酸化炭素の処分先確保が課題となっており、地中への圧入貯留が検討されているが、従来の方法では、地下に貯留できる二酸化炭素容量は、天然ガス埋蔵量と二酸化炭素濃度から予測される必要量に遠く及ばない。
一方、本実施形態によれば、ガス田において分離された二酸化炭素を端水面下に高含有量で圧入し、しかも二酸化炭素ガスの浮上を阻止できることにより、これら高二酸化炭素濃度のガス田群の開発における最大のハードルがクリアできる可能性を有する。
【0060】
[第3実施形態]
次に、図5を用いて、本発明の第3実施形態に係る二酸化炭素の海水内貯留方法および装置を説明する。この実施形態は、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を海中に流出させ、海水中に微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4の沈降流を形成するものである。なお、第1~第2実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を援用する。
【0061】
第3実施形態では、図5に示すように、海洋40において、海中に達する圧入井3が設けられている。この図では圧入井3が垂直に延びているが、処理設備が海岸に設けられる場合には、海岸から圧入井3が傾斜して海洋40中に入り、その下端が海洋40中に開口していてもよい。いずれの場合も、圧入井3の下端は海底に達する必要はないが、達していてもよい。圧入井3の下端には噴出口5が形成され、ここから微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4が海洋40中に放出される。
【0062】
第3実施形態では、二酸化炭素源16が発生する二酸化炭素が二酸化炭素タンク12で蓄えられた後、ナノバブル生成機8に送られ、貯水タンク20からの海水(または同様の塩濃度を有する塩水やかん水)と混合され、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4を生じる。微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4は圧入ポンプ7で圧入井3を通じて圧入され、噴出口5から海中に放出される。放出された微細泡を含む二酸化炭素過飽和水4は、前述した作用により海水よりも比重が大きく調整されているから、海中を下降する沈降流6を形成する。したがって、二酸化炭素のハイドレートや超臨界流体を深海底に送り込む方法よりも、技術的に容易に、低コストで大量の二酸化炭素を貯留することが可能である。
なお、この実施形態においても、地上で微細泡を生成する代わりに、坑内に二酸化炭素と水を送る2流路を設けて、坑底で微細泡を生成することも可能である。さらに、坑底に二酸化炭素だけを送り、地層水と二酸化炭素を混ぜて微細泡を生成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、二酸化炭素過飽和水中の二酸化炭素流体の微細泡の粒径および分散量を調整することにより、前記地層水中に、前記微細泡を含む前記二酸化炭素過飽和水の沈降流を形成するから、従来法に比して大量の二酸化炭素を安定して低コストで貯留することが可能である。したがって、本発明は産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1:地層 2:帯水層
3:圧入井 4:微細泡を含む二酸化炭素過飽和水
5:噴出口 6:沈降流
7:圧入ポンプ 8:ナノバブル生成機
10:パイプライン 12:二酸化炭素タンク
14:パイプライン 16:二酸化炭素源
18:パイプライン 20:貯水タンク
22:パイプライン 24:パイプライン
25:天然ガス層 26:セパレーター
27:炭酸ガス分離改修装置
28:貯留タンク 30:汲上ポンプ
32:生産井 34:回収口
40:海洋 A1:微細泡
A2:相対的に大きい微細泡 A3:微細泡A1を取り囲む水塊
【要約】
この二酸化炭素の地層内貯留方法では、二酸化炭素流体のナノメートルサイズの微細泡を分散させた二酸化炭素過飽和水(4)を生成し、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水を地層(1)内の地層水(2)に注入する。その際、二酸化炭素過飽和水中の微細泡の粒径および分散量を調整することにより、地層水中に、微細泡を含む二酸化炭素過飽和水の沈降流(6)を形成する。これにより、上方シール(遮蔽層)に拠らずに二酸化炭素の地層内貯留が行える。
図1
図2
図3
図4
図5