(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】チタン系圧粉体の製造方法及び、チタン系焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/02 20060101AFI20221115BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20221115BHJP
B22F 3/04 20060101ALI20221115BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20221115BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221115BHJP
B29C 64/00 20170101ALI20221115BHJP
C22C 14/00 20060101ALN20221115BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20221115BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20221115BHJP
【FI】
B22F3/02 T
B22F3/15 Z
B22F3/04 A
C22C1/04 E
B33Y80/00
B29C64/00
C22C14/00 Z
C22C21/00 Z
B22F1/00 R
(21)【出願番号】P 2022524725
(86)(22)【出願日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2022000148
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021040624
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌志
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0016661(US,A1)
【文献】特開平07-090313(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054303(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/054306(WO,A1)
【文献】特開2019-108595(JP,A)
【文献】特開2016-175202(JP,A)
【文献】特開平06-330104(JP,A)
【文献】特開昭61-063399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 5/10
C22C 14/00
B33Y 10/00
B29C 64/10
B22F 3/02
B22F 3/04
B22F 3/10
B22F 3/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有するチタン系圧粉体を製造する方法であって、
前記チタン系圧粉体の前記凹部が、当該凹部の中心軸の少なくとも一部を含む断面の一つ以上にて、当該凹部の中心軸方向の少なくとも一部で幅が変化する形状、並びに/あるいは、当該凹部の中心軸の湾曲部分及び/又は屈曲部分を含む形状を有し、
樹脂製のモールドにおける前記凹部に対応する芯材配置スペース内に、
硬化樹脂または粘土である芯材構成材料を流動させて充填し、前記凹部に対応する形状の芯材を配置する工程と、
前記モールドの成形空間に原料粉末を充填する工程と、
前記芯材配置スペース内に前記芯材が配置された状態で、前記成形空間に前記原料粉末を充填した前記モールドに対して300MPa以上の静水圧加圧にて冷間等方圧加圧を行う工程とを含
む、チタン系圧粉体の製造方法。
【請求項2】
前記チタン系圧粉体の前記凹部の内面が段差部を含み、
前記芯材配置スペースが段差を含む、請求項1に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項3】
前記チタン系圧粉体の前記凹部が、前記断面の少なくとも一つにて、相対的に幅の広い広幅部と、前記広幅部に対して相対的に前記幅の狭い狭幅部とを含み、
前記芯材配置スペースが、前記凹部の前記広幅部を形成する広幅箇所と、前記凹部の前記狭幅部を形成する狭幅箇所とを有する、請求項1又は2に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項4】
前記芯材構成材料として前記硬化樹脂を使用し、
前記芯材構成材料を前記芯材配置スペース内に充填したとき、芯材構成材料の少なくとも、芯材構成材料の注入に用いられた芯材配置スペー
スの開
口に存在する表層部分を硬化させる、請求項1~3のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項5】
前記モールドとして、ショアD硬さが30~120の範囲内である熱可塑性樹脂からなるモールドを用いる、請求項1~4のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項6】
前記モールドとして、三次元造形装置を用いて作製されたモールドを用いる、請求項1~5のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項7】
前記モールドとして、アクリル樹脂、エラストマーを含有するアクリル樹脂または、ポリ乳酸樹脂で形成されたモールドを用いる、請求項1~6のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項8】
前記冷間等方圧加圧で前記モールドに対して400MPa以上の加圧力を作用させる、請求項1~
7のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項9】
前記芯材構成材料として、湿気硬化型、乾燥硬化型又は光硬化型の硬化樹脂を用いる、請求項1~8のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項10】
前記冷間等方圧加圧を行う工程の後、前記芯材の流動性により、前記凹部内から前記芯材を排出させる、請求項1~9のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法。
【請求項11】
チタン系焼結体を製造する方法であって、
請求項1~
10のいずれか一項に記載のチタン系圧粉体の製造方法により製造されたチタン系圧粉体に対し、焼結及び/又は熱間等方圧加圧を行う工程を含む、チタン系焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタン系圧粉体の製造方法及び、チタン系焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばチタンやチタン合金は、耐疲労性、耐食性、軽量かつ高い比強度といった所定の優れた特性の故に、種々の部品に用いることが検討されている。
しかるに、チタン又はチタン合金からなる部品を製造するには一般に、電子ビーム溶解や真空アーク溶解等による溶解、鋳造、場合によってはさらに熱間圧延、熱処理及び機械加工、溶接等の多数の工程を行う必要があり、それに伴って製造コストが嵩む。このような高コストに起因して、チタンやチタン合金の適用範囲が十分に広がっているとは言い難い。
【0003】
かかる状況の下、近年は、いわゆるニアネットシェイプとして、チタンを含む原料粉末を樹脂製のモールド内に充填して、当該原料粉末に対して冷間等方圧加圧を施し、所定の形状のチタン系圧粉体を得る粉末冶金法が注目されている。粉末冶金法では、冷間等方圧加圧の後、必要に応じて焼結及び/又は熱間等方圧加圧を施し、密度を高めることが行われる場合がある。
【0004】
これに関する技術として、特許文献1には、「原料粉末を充填したゴム型を金型内で一軸方向に加圧することにより該原料粉末の圧密成形体を成形する圧密成形体の製造方法において、前記加圧方向と略直角方向にある前記圧密成形体の外表面の一部が前記ゴム型に配設された高剛性型部材により形成されることを特徴とする圧密成形体の製造方法」が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、「素粉末混合法によって焼結チタン合金を製造する方法において、チタン粉末の代わりに、チタン粉末及び(Ti-H)合金粉末及び水素化チタン粉末を水素:チタンが質量比で0.002以上で0.030未満となるように配合した粉末を原料粉末として使用することを特徴とする焼結チタン合金の製造方法」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-131605号公報
【文献】特開平6-33165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、貫通孔又は非貫通の窪み等の凹部を有するチタン系圧粉体を、上述した粉末冶金法により製造するには、その凹部に対応する樹脂製のモールドの箇所に中子等の芯材を配置し、モールド内に充填した原料粉末に対して冷間等方圧加圧を行うことがある。そのような中子等の芯材として、特許文献1では、スチール製の円筒状部材である高剛性中子を用いている(段落0035参照)。
【0008】
ここで、凹部が深さ方向の途中で幅が変化する形状や、凹部に湾曲部分ないし屈曲部分が存在する形状等の複雑な形状を有するチタン系圧粉体を製造する場合、使用する中子が高剛性中子では、原料粉末を充填する前のモールドの所定の箇所への前記中子の配置が困難になる場合がある。分割可能な構造の高剛性中子とすれば、ある程度の複雑な形状の凹部に対応することができるが、分割された中子は加圧成形中の位置ずれが生じうるので、凹部を所要の高い精度で形成できないことがある。また、チタン系粉末に冷間等方圧加圧を施す際は比較的大きな圧力をかける必要があり、分割された高剛性中子が位置ずれを起こしやすい。それ故に、チタン系圧粉体の凹部を形成する芯材としての高剛性中子は、凹部の形状の制約を受けて種々のチタン系圧粉体の製造に用いることができず、汎用性に乏しいといえる。
【0009】
特許文献2は、チタン系圧粉体の凹部等の具体的な形状や、モールドに配置する芯材について何ら着目されていない。
【0010】
この発明の目的は、比較的簡易な手法にて、ある程度複雑な形状の凹部を有するチタン系圧粉体を製造することができるチタン系圧粉体の製造方法及び、チタン系焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、樹脂製のモールドにおけるチタン系圧粉体の凹部に対応する芯材配置スペースに芯材を配置するに当り、芯材配置スペースに流し込むことができる芯材構成材料を用いることを案出した。このような流動性のある芯材構成材料であれば、芯材配置スペース内に十分に行き渡らせることができる。例えば、芯材配置スペースの開口部から芯材構成材料を注入し、芯材配置スペースの深部から開口部側に徐々に芯材構成材料が充填されるようにすれば、芯材配置スペース内で芯材構成材料が十分に行き渡って芯材(中子)となる。なお必要に応じて、冷間等方圧加圧前に開口部を閉じることにより、仮に冷間等方圧加圧時にも芯材構成材料が流動性を有する場合であっても、当該芯材構成材料を芯材として機能させることができる。この場合、冷間等方圧加圧時に芯材は樹脂製のモールド内の原料粉末の締固めに伴い適切に変形し得る。すなわち、分割した高剛性中子では各中子の接触部位のみ極端に移動しやすいため中子のずれが生じるが、流動性のある芯材構成材料ではこういった不具合を回避できる。これにより、チタン系圧粉体に複雑な形状の凹部を形成することが可能となる。
【0012】
この発明のチタン系圧粉体の製造方法は、凹部を有するチタン系圧粉体を製造する方法であって、前記チタン系圧粉体の前記凹部が、当該凹部の中心軸の少なくとも一部を含む断面の一つ以上にて、当該凹部の中心軸方向の少なくとも一部で幅が変化する形状、並びに/あるいは、当該凹部の中心軸の湾曲部分及び/又は屈曲部分を含む形状を有し、樹脂製のモールドにおける前記凹部に対応する芯材配置スペース内に、芯材構成材料を流動させて充填し、前記凹部に対応する形状の芯材を配置する工程と、前記モールドの成形空間に原料粉末を充填する工程と、前記芯材配置スペース内に前記芯材が配置された状態で、前記成形空間に前記原料粉末を充填した前記モールドに対して300MPa以上の静水圧加圧にて冷間等方圧加圧を行う工程とを含むものである。
【0013】
上述したチタン系圧粉体の製造方法では、前記チタン系圧粉体の前記凹部の内面が段差部を含み、前記芯材配置スペースが段差を含むことがある。
また、上述したチタン系圧粉体の製造方法では、前記チタン系圧粉体の前記凹部が、前記断面の少なくとも一つにて、相対的に幅の広い広幅部と、前記広幅部に対して相対的に前記幅の狭い狭幅部とを含み、前記芯材配置スペースが、前記凹部の前記広幅部を形成する広幅箇所と、前記凹部の前記狭幅部を形成する狭幅箇所とを有することがある。
【0014】
この発明のチタン系圧粉体の製造方法では、前記芯材構成材料として、硬化樹脂または粘土を用いることが好ましい。
前記芯材構成材料として硬化樹脂を使用した場合、前記芯材構成材料を前記芯材配置スペース内に充填したとき、芯材構成材料の少なくとも、芯材構成材料の注入に用いられた芯材配置スペースの一端側の開口又は他端側の開口に存在する表層部分を硬化させることが好ましい。
【0015】
前記モールドとしては、ショアD硬さが30~120の範囲内である熱可塑性樹脂からなるモールドを用いることが好ましい。
また、前記モールドとしては、三次元造形装置を用いて作製されたモールドを用いることが好ましい。
前記冷間等方圧加圧では、前記モールドに対して400MPa以上の加圧力を作用させることが好ましい。
【0016】
この発明のチタン系焼結体の製造方法は、上記のいずれかのチタン系圧粉体の製造方法により製造されたチタン系圧粉体に対し、焼結及び/又は熱間等方圧加圧を行う工程を含むものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明のチタン系圧粉体の製造方法によれば、比較的簡易な手法にて、ある程度複雑な形状の凹部を有するチタン系圧粉体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の一の実施形態に係るチタン系圧粉体の製造方法に用いることができる樹脂製のモールドの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1のモールドの芯材配置スペースに芯材構成材料を流し込む状態を示す、モールドの中心軸に沿う断面図である。
【
図3】
図1のモールドを、
図2の芯材構成材料により形成された芯材とともに示す断面図である。
【
図4】
図3のモールド及び芯材を用いて製造されるチタン系圧粉体を示す、凹部の中心軸に沿う断面図である。
【
図5】
図3のモールド及び芯材を用いて冷間等方圧加圧を行う状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図5の冷間等方圧加圧により得られたチタン系圧粉体を、芯材及びモールドの一部を取り除く前の状態で示す断面図である。
【
図7】樹脂製のモールドの他の例を示す断面図である。
【
図8】樹脂製のモールドの他の例を示す断面図である。
【
図9】樹脂製のモールドの他の例を示す断面図である。
【
図10】樹脂製のモールドの他の例を示す断面図である。
【
図11】樹脂製のモールドの他の例を示す断面図である。
【
図12】樹脂製のモールドの他の例を示す断面図である。
【
図13】樹脂製のモールドの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るチタン系圧粉体の製造方法は、たとえば、
図1~3に示すような樹脂製のモールド1及び、芯材11を用いて、モールド1の成形空間2に原料粉末を充填して冷間等方圧加圧を行う工程を含み、たとえば
図4に示すようなチタン系圧粉体101を製造するというものである。ここでいう「チタン系」には、純チタンからなるチタン製だけでなくチタン合金製も含まれるものとする。
【0020】
図4に示すチタン系圧粉体101は、全体としてほぼ円筒状の形状を有するとともに、外表面(
図4では上方側及び下方側の各端面)に開口部102a、102bを有する凹部102が形成されている。
【0021】
チタン系圧粉体101に形成する凹部102は、この例では、当該凹部102の中心軸Ccの少なくとも一部を含む断面にて、
図4の上下方向と一致する当該凹部102の中心軸Ccに沿う方向(「中心軸方向」ともいう。)の少なくとも一部で、その中心軸Ccに直交する幅が変化する形状を有する。より詳細には、この凹部102は、
図4の下方側である一端面の開口部102a側では幅Waを有するが、上方側である他端面の開口部102b側に向かう途中で内面の段差部102cを介して幅が減少し、他端面側の開口部102bでは幅Wbになる。つまり、凹部102はこの断面にて、一端面の開口部102aと段差部102cとの間の、幅Waで相対的に幅が広い広幅部102dと、他端面の開口部102bと段差部102cとの間の、幅Wbを有して広幅部102dに比して相対的に幅が狭い狭幅部102eとを含むものである。但し、後述するように、凹部の形状はこれに限らず、チタン系圧粉体の用途等に応じて適宜変更され得る。
【0022】
このような複雑な形状の凹部102を有するチタン系圧粉体101を製造するため、冷間等方圧加圧で用いるモールド1は、当該チタン系圧粉体101の形状に対応する形状の成形空間2を有する。このモールド1は、チタン系圧粉体101の外周面に整合する内周面を有する円筒状の外筒壁部3と、外側で外筒壁部3との間に成形空間2が区画されるとともに内側に芯材配置スペース5aを区画する内筒壁部5と、外筒壁部3の一端部(
図2では下端部)に設けられ、その一端部側で外筒壁部3と内筒壁部5とを連結する円環状の環状壁部4とを備えるものである。
【0023】
モールド1の内筒壁部5の内側には、先述したチタン系圧粉体101の凹部102の形状に対応する芯材配置スペース5aが区画されている。芯材配置スペース5aは、この例では、図示の断面にて、芯材配置スペース5aの中心軸Cmに直交する幅が段差を介して変化する形状であり、中心軸Cmの方向で外筒壁部3の一端部側に位置して凹部102の広幅部102dを形成する広幅箇所と、広幅箇所に隣接して他端部側(
図2では上端部)に位置し、凹部102の狭幅部102eを形成する狭幅箇所とを有する。なお、芯材配置スペース5aの中心軸Cmや、先述した凹部102の中心軸Ccは、内筒壁部5の内側の芯材配置スペース5a又は、チタン系圧粉体101の内部の凹部102の延びる方向に沿っており、当該中心軸Cm又はCcに直交する断面で、芯材配置スペース5a又は凹部102の中心ないし図心を通るものとする。
【0024】
かかる芯材配置スペース5aでは、高剛性中子は、配置が困難であることや、チタン系圧粉体101の凹部102を高精度に形成できないこと等の理由より適切に使用できない場合がある。例えば、ステンレス鋼等の融点が相当に高くかつ高剛性の材質の中子は、冷間等方圧加圧の際に変形しにくいため位置ずれを起こすおそれがある。中子が位置ずれを起こすとチタン系圧粉体の凹部は所望の形状に成形できない。
【0025】
これに対し、この実施形態では、
図2に示すように、たとえば、流動性を有する芯材構成材料が入っている注入器具111等からモールド1の芯材配置スペース5a内に、芯材構成材料を流動させて充填する。このとき、内筒壁部5の芯材配置スペース5aの一端側の開口又は他端側の開口のいずれか一方(
図2では下方側である一端側の開口)を、板状等の密閉部材6aで予め密閉しておき、他方の開口(
図2では上方側である他端側の開口)から芯材構成材料を流し込むことができる。またたとえば、芯材構成材料が後述の硬化樹脂または粘土のいずれであっても、当該芯材構成材料を芯材配置スペース5a内に押し込んだりすること等により充填することが可能である。このように芯材構成材料を流動させて充填することにより、
図3に示すように、モールド1の芯材配置スペース5a内に、凹部102の形状に対応する芯材11を配置することができる。
【0026】
モールド1の芯材配置スペース5a内への芯材11の配置前又は配置後、モールド1の成形空間2に原料粉末を充填し、モールド1の外筒壁部3の他端部を円盤状部材6bで密閉する。芯材配置スペース5a内に芯材11を配置する工程と、モールド1の成形空間2に原料粉末を充填する工程を行う順序の先後は問わず、いずれの工程を先に行ってもよい。そして、芯材配置スペース5a内に芯材11が配置された状態で、図示しない冷間等方圧加圧装置の内部にて、
図5に示すように、モールド1の外側からモールド1を加圧し、原料粉末を圧縮させる冷間等方圧加圧(CIP)を行う。なおここでは、密閉部材6a及び円盤状部材6bはモールド1の一部を構成するものとする。
【0027】
冷間等方圧加圧でモールド1に作用させる加圧力は、300MPa以上とし、好ましくは400MPa以上である。加圧力を300MPa未満にすると、原料粉末が十分に圧縮されず、チタン系圧粉体の凹部内の形状精度が不十分となる。なお加圧力は、たとえば600MPa以下、典型的には500MPa以下とすることがある。また、そのような加圧力での保持時間は、たとえば0.5分~30分とする場合がある。冷間等方圧加圧により、モールド1の成形空間2の原料粉末は加圧されて締め固められ、チタン系圧粉体101になる。
なお、冷間等方圧加圧では、モールド1は、その周囲の流体により等方圧(静水圧)で加圧される。そのため、冷間等方圧加圧によると、種々の形状のモールド1を用いてチタン系圧粉体101を製造することができる。またここでは、芯材配置スペース5a内に充填されて芯材11を構成する芯材構成材料は、上記の流体による等方圧の作用に際し、原料粉末及びモールド1に追従して変形できるので、芯材配置スペース5aを様々な任意の形状にすることができる。その結果、多様な形状の凹部102を有するチタン系圧粉体101を製造することができる。
【0028】
冷間等方圧加圧で加圧した後は、冷間等方圧加圧装置からチタン系圧粉体101をモールド1及び芯材11とともに取り出す。その後、チタン系圧粉体101の周囲の外筒壁部3、環状壁部4、密閉部材6a及び円盤状部材6bを除去し、
図6に示すように、チタン系圧粉体101の凹部102内の芯材11及び内筒壁部5を取り出す。外筒壁部3等を除去する前に芯材11を取り出してもよい。これにより、チタン系圧粉体101を製造することができる。
【0029】
チタン系焼結体を製造する場合、冷間等方圧加圧の後に、チタン系圧粉体101に対し、焼結及び/又は熱間等方圧加圧(HIP)を行う工程が含まれる。焼結では、チタン系圧粉体101の材質に応じて、たとえば1200℃~1300℃の温度にて1時間~3時間にわたって、チタン系圧粉体101を加熱することができる。熱間等方圧加圧では、たとえば、800℃~1000℃の温度にて、チタン系圧粉体101に対し、アルゴンガス等の圧力媒体により100MPa~200MPa程度の等方圧を30分~90分にわたって作用させることができる。これにより、チタン系焼結体を製造することができる。なお、熱間等方圧加圧では一般に、高温で処理することから焼結が進行する。それ故に、ここでは、チタン系圧粉体101に対して熱間等方圧加圧のみを行って得られたものについても、チタン系焼結体という。焼結及び熱間等方圧加圧の両方を行う場合は、その順序は特に問わないが、たとえば焼結の後に熱間等方圧加圧を行うことができる。
【0030】
上述したような製造方法で用いる芯材構成材料は、少なくとも芯材配置スペース5a内への充填時に流動性を有する材料とする。仮に芯材構成材料が芯材配置スペース5a内への充填時のみならず、冷間等方圧加圧後も流動性を有するような材料である場合、芯材11は、チタン系圧粉体101の凹部102内から流出させることにより容易に取り出すことができる。
【0031】
より具体的には、芯材構成材料は、油性コーキング材等の非硬化樹脂とすることも可能であるが、湿気硬化型、乾燥硬化型、混合反応硬化型又は光硬化型等の硬化樹脂や粘土とすることが好ましい。このような硬化樹脂や粘土を使用することにより、芯材配置スペース5a内への充填時は流動性を示しつつ、その後に硬化して冷間等方圧加圧時は、芯材11に求められる所要の特性が発揮されやすくなる。空気中の水分等と反応して硬化する湿気硬化樹脂としては、たとえば、シリコーン系、変成シリコーン系、ポリウレタン系、ポリサルファイド系等を挙げることができる。乾燥硬化樹脂は、溶剤や水が揮発して乾燥することにより硬化するものであり、たとえば、アクリル系、ブチルゴム系等がある。混合反応硬化樹脂は、主剤と硬化剤との混合による化学反応で硬化するものであり、たとえば、変成シリコーン系、ポリウレタン系、ポリサルファイド系、シリコーン系、ポリイソブチレン等が挙げられる。光硬化樹脂は、紫外線等の特定の波長の光が照射されることにより硬化するものであり、ラジカル重合型のアクリレート系光硬化樹脂、カチオン重合型のエポキシ系光硬化樹脂等がある。なかでもシリコーン系の湿気硬化樹脂(シリコーン樹脂、シリコーンシーラント等)は、湿気にさらされる部位が容易かつ迅速に硬化するので芯材構成材料として特に好ましく、また価格面からも好適である。粘土とは、土、砂、油脂、パルプ等を含み所定の粘着性を有する人工もしくは自然の土又は粒子の集合体であり、たとえば油粘土や紙粘土等を使用可能である。
芯材構成材料は単独で使用してもよいし、複数を同時に使用してもよい。また、一つのモールドに複数の芯材配置スペースが存在する場合、各芯材配置スペースに使用される芯材構成材料は同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0032】
芯材構成材料を上述したような硬化樹脂とした場合、芯材配置スペース5a内に充填したときに、芯材構成材料の少なくとも、芯材構成材料の注入に用いられた芯材配置スペース5aの一端側の開口又は他端側の開口に存在する表層部分を硬化させることが好適である。湿気硬化型や乾燥硬化型の硬化樹脂はこのような表層部分硬化に対応でき好適である。芯材配置スペース5a内の芯材構成材料の少なくとも表層部分を硬化させることにより、その一端側の開口又は他端側の開口を円盤状部材6b等で密閉するまでの間の、芯材配置スペース5a内からの芯材構成材料の漏出を抑制することができる。なお、円盤状部材6bを用いなくとも開口を適切に閉じることができる場合もある。また、芯材構成材料の表層部分だけを硬化させた場合は、冷間等方圧加圧後、当該表層部分を剥がすことにより、凹部102内から芯材11の流動性を利用して排出させることができるので、芯材11の取出しが容易になる。芯材配置スペース5a内に充填した後の芯材構成材料の表層部分の硬化は、その芯材構成材料を構成する硬化樹脂の種類に応じた適切な態様にて行うことができる。なお、シリコーン系や変成シリコーン系の湿気硬化樹脂には、芯材配置スペース5a内へ充填したときから、空気との接触により1時間~2時間程度で表層部分が硬化するものがある。芯材構成材料の表層部分は、一端側の開口又は他端側の開口から、中心軸Cmの方向に沿って芯材配置スペース5aの内部に3mmの距離の深さまでの部分とすることができる。
芯材構成材料を上述したような粘土とした場合、芯材配置スペース5aへの充填時には適切な流動性を示し、充填後には適切な粘性を示して凹部102内に粘土が残留する。このため、粘土を充填した芯材配置スペース5aの開口を閉じるための特段の手段をしなくてもよい場合がある他、ビニールテープ等で開口を覆うというような簡便な処置を施すだけで冷間等方圧加圧に供することができる。
【0033】
芯材11が配置される樹脂製のモールド1は、好ましくは熱可塑性樹脂製とし、特にアクリル樹脂、エラストマーを含有するアクリル樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂等で形成されたものとすることが好適である。樹脂製のモールド1は、所要の強度を確保して原料粉末の充填時にもその形状を維持するため、ショアD硬さが30~120の範囲内である熱可塑性樹脂からなることが好ましく、30~85の範囲内である熱可塑性樹脂としてもよい。ショアD硬さは、JIS K7215(1986)に準拠する試験方法によって測定することができる。また同様の観点から、樹脂製のモールド1の厚みは、0.5mm~2.0mmであるものとすることが好ましい。
【0034】
樹脂製のモールド1は種々の方法により作製することが可能であるが、三次元造形装置(いわゆる3Dプリンタ)を用いて作製されたものであることが好ましい。これにより、様々な形状のモールド1を容易に作製することができる。三次元造形装置の造形方式は特に問わず、たとえば光造形方式、インクジェット方式、インクジェット粉末積層方式、粉末焼結積層造形方式、熱溶解積層方式又は粉末固着方式等のいずれであってもよい。
【0035】
図1~3に示すモールド1の他、たとえば、
図7~13に例示するモールド21、31、41、51、61、71、81とすることもできる。
【0036】
図7、8のモールド21、31により製造されるチタン系圧粉体の凹部は、チタン系圧粉体の外表面上での凹部の開口部を含む平面に直交する断面にて、凹部の中心軸方向の少なくとも一部で幅が変化する形状を有するものであり、
図1~3のモールド1によるチタン系圧粉体の101の凹部102とは、その幅の変化の態様が異なるものになる。
【0037】
図7のモールド21では、内筒壁部25の内側に区画される芯材配置スペース25aが、外筒壁部23の一端部側及び他端部側のそれぞれに位置して開口する広幅箇所と、該広幅箇所に対して相対的に幅が狭く、それらの広幅箇所の間に設けられた狭幅箇所とを有する。広幅箇所のそれぞれと狭幅箇所とは段差を介して連通されている。これにより、
図7のモールド21により成形されるチタン系圧粉体は、一端面側及び他端面側の各開口部でそれぞれ開口する広幅部と、各広幅部との間にて内面の段差部で幅が狭くなり、それらの広幅部間に延びる狭幅部とを含むものとなる。
【0038】
図8のモールド31では、内筒壁部35はその内側に、中心軸Cmの方向のほぼ中央域に設けられた広幅箇所と、中心軸Cmの方向で、その広幅箇所を隔てて外筒壁部33の一端部側及び他端部側の両側に位置してそれぞれ開口する狭幅箇所とを有する芯材配置スペース35aが区画されている。このモールド31によるチタン系圧粉体の凹部は、一端面側及び他端面側の各開口部につながる狭幅部と、それらの狭幅部間の中心軸方向の中央域あたりで内面の段差部を介して幅が増大する広幅部とを含むものになる。
【0039】
図9のモールド41で成形されるチタン系圧粉体も、凹部が中心軸方向の少なくとも一部で幅が変化する形状を有するものであるが、この凹部は、一端面側の開口部から他端面側の開口部に向かうに従って幅が漸減するテーパ状になる。この凹部も、一端面側の開口部側の相対的に幅が広い広幅部と、他端面側の開口部の相対的に幅が狭い狭幅部とを含むものであるといえる。これに応じてモールド41の内筒壁部45は、外筒壁部43の一端部側から他端部側にかけて幅が次第に減少する芯材配置スペース45aを有する。
【0040】
図10に示すモールド51は、一定の幅を有する芯材配置スペース55aの中心軸Cmが一端部側と他端部側との間にて、三か所で幅方向(
図10の左右方向)の外側に突き出る向きに交互に曲がって蛇行している。これにより成形されるチタン系圧粉体の凹部は、凹部の中心軸の湾曲部分を含む形状になる。
図11のモールド61では、芯材配置スペース65aが一定の幅にて、一端部から他端部に至る途中の二箇所で直角に折れ曲がるクランク状のような中心軸Cmを有する。このモールド61で成形可能なチタン系圧粉体の凹部は、中心軸の二箇所の屈曲部分を含むものになる。
なお、
図10や
図11の湾曲部分や屈曲部分の個数や、曲率ないし角度その他の態様は、適宜変更することが可能である。
【0041】
上述したところでは、一端面側の開口部から他端面側の開口部まで延びる貫通孔状の凹部を有するチタン系圧粉体を製造するモールドについて説明したが、
図12のモールド71は、それらとは異なり、非貫通の窪み状の凹部を有するチタン系圧粉体を製造するものである。このモールド71は、芯材配置スペース75aが図示の断面にて、外筒壁部73の一端部側で環状壁部74から窪むものであって、外筒壁部73の一端部側の幅が広い広幅箇所と、最深部の幅方向中央を隔てた両端側の狭幅箇所とを有するものである。モールド71によるチタン系圧粉体の凹部は、最深部で幅が変化するものになり、一端面側の開口部に連通する広幅部と、最深部の幅方向両端側の狭幅部とを含む。このチタン系圧粉体は、凹部が最深部の手前で中心軸の屈曲部分を含むものであるともいえる。
【0042】
図13に示すモールド81は、芯材配置スペース85aが、外筒壁部83の一端部側から他端部側まで貫通するとともに、その途中に幅方向に延びて外筒壁部83に開口するものである。この芯材配置スペース85aでは、幅方向に延びる箇所を、中心軸Cmに直交する方向の幅が広い広幅箇所とみなすことができる他、中心軸Cmが直角に折れ曲がる屈曲箇所ということもできる。モールド81で成形されるチタン系圧粉体の凹部は、一端面側の開口部及び他端面側の開口部のそれぞれにつながる狭幅部と、それらの狭幅部の間で段差を介して幅方向に延びて外周面に開口する広幅部とを有するものとなる。また、当該凹部は、狭幅部から広幅部に移行する部分に、中心軸の屈曲部分を含む形状になる。
【0043】
上述したように、チタン系圧粉体に設ける凹部は、貫通孔状又は、底を有する非貫通の窪み状等とすることができる。また、チタン系圧粉体の凹部の個数は一個とする場合に限らず、複数個とすることもできる。
【0044】
なおチタン系圧粉体は、例えば中心軸に沿って切断すると特定の断面が得られ、また例えば、チタン系圧粉体を中心軸周りに回転させた所定の位置で中心軸に沿って切断すると、上記の特定の断面とは異なる断面が得られる。このようにチタン系圧粉体は、切断する位置に応じた多数の断面が存在する。そして、それらの断面は互いに異なる断面形状になることがある。この場合、多数の断面のうちの少なくとも一つにて、上述した例のように、凹部の中心軸方向の少なくとも一部で幅が変化する形状、並びに/あるいは、当該凹部の中心軸の湾曲部分及び/又は屈曲部分を含む形状を有するものであれば、この発明に含まれる。そのような凹部は複雑な形状であり、当該凹部を有するチタン系圧粉体を製造するには、この発明の実施形態のように、モールドの芯材配置スペース内に芯材構成材料を流動させて充填することが有効である。
【0045】
以上に述べた方法でチタン系圧粉体もしくはチタン系焼結体を製造する場合、原料粉末として、純チタン粉末、合金元素粉末、母合金粉末等の様々な粉末を、必要に応じて組み合わせて用いることができる。ここでいう純チタン粉末は主としてチタンを含む粉末、合金元素粉末はチタン合金等の合金元素を単独で含む粉末、母合金粉末は複数の元素を含む粉末をそれぞれ意味する。純チタン粉末は、チタンの他、5質量%以下の水素を含む場合がある。原料粉末は、たとえば、純チタン粉末のみとすることができる他、純チタン粉末に、鉄、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、錫、モリブデン、銅及びニッケルからなる群から選択される一種の合金元素粉末及び/又は、それらの二種以上の元素を含む母合金粉末を混合させたものとしてもよい。あるいは、チタンと合金元素を含む粉末を原料粉末とすることも可能である。なお、純チタンとは、金属元素としてのチタン含有量が99質量%以上であることが好ましい。原料粉末における金属の質量比はチタン:合金元素=100:0~75:25とすることができ、チタン:合金元素=90:10とすることができる。
【0046】
原料粉末の平均粒径は、10μm~150μmとすることが好ましい。このように比較的微細な粒子を使用することにより、冷間等方圧加圧後のチタン系圧粉体、さらには焼結又は熱間等方圧加圧後のチタン系焼結体の圧縮密度を向上させることができる。平均粒径は、レーザー回折散乱法によって得られた粒度分布(体積基準)の粒子径D50(メジアン径)を意味する。
原料粉末には、粉砕粉末やアトマイズ粉末等の公知の粉末を使用可能である。
【0047】
このような原料粉末を用いることにより、たとえば、純チタンからなるチタン製、又は、Ti-5Al-1Fe、Ti-5Al-2Fe、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-6V-2Sn、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Moもしくは、Ti-10V-2Fe-3Al等からなるチタン合金製のチタン系圧粉体、チタン系焼結体が製造され得る。また、Ti-3Al-2.5V等からなるチタン合金製のチタン系圧粉体、チタン系焼結体が製造され得る。なお、上記において、各合金金属の前に付されている数字は、含有量(質量%)を指す。例えば、「Ti-6Al-4V」とは、合金金属としては、6質量%のAlと4質量%のVとを含有するチタン合金を指す。
【実施例】
【0048】
次に、この発明のチタン系圧粉体を試験的に製造したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的とするものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0049】
<試験例1>
(製造方法)
3Dプリンタを用いて、外輪郭が円柱状で
図11に示す形状を有するモールドを造形した。モールドを構成する樹脂材料は、ポリ乳酸(PLA)とし、ショアD硬さが83であった。モールドの厚みは1mmとした。モールドに設けた芯材配置スペースは、
図11に示すように、同図の断面で、モールドの一端部から他端部に至る途中の二箇所で折れ曲がるクランク状とした。この芯材配置スペースは、一辺の長さが15mmの正方形状の開口部を有し、その中心軸に直交する断面形状が、一端部から他端部までのいずれの位置においても矩形状であった。モールドの円筒状の外筒壁部の外径は62mmとした。
【0050】
このモールドを用いて、芯材配置スペースに芯材を配置し、成形空間に原料粉末を充填した後に成形空間を密閉し、静水圧加圧にて冷間等方圧加圧(CIP)を行った。なお原料粉末には、トーホーテック株式会社製のHDH純チタン粉末TC-150(D50=66μm)を用いた。実施例1~6及び比較例1~6の条件を表1に示す。
【0051】
【0052】
実施例1~6及び比較例1~3では、モールドの一端部(
図11の下端部)側の端面にPLA製シートを貼り付けて、芯材配置スペースの一端部側の開口を塞いだ状態で、他端部(
図11の上端部)側の開口から芯材配置スペース内に、所定の芯材構成材料を流動させて充填し、芯材を構成した。芯材として、実施例1及び2ならびに比較例1では湿気硬化型樹脂であるシリコーンシーラント(セメダイン株式会社製、セメダイン8000シリコーンシーラント)を使用し、実施例3及び4ならびに比較例2では粘土(関東器材工業株式会社製、エアコンパテ)を使用し、実施例5及び6ならびに比較例3では混合反応硬化型のシリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製KE-12)を使用した。
比較例4~6では、芯材としてのSUS製の中子及び、分割モールドを用いた。より詳細には、モールドを
図11に示す断面に沿って分割した分割モールドとし、分割モールドの一方の半部における芯材配置スペースに中子を配置した後、その一方の半部に他方の半部を合わせて他方の半部の芯材配置スペースに上記の中子を嵌め込み、半部どうしを接着した。なお、比較例4~6では中子は三分割されたSUS製の角柱材を組み合わせて使用したため、前記接着後モールドの開口部を、PLA製シートを貼り付けて閉じた。
【0053】
冷間等方圧加圧による加圧時間は、いずれの実施例1~6及び比較例1~6でも1分とした。
【0054】
(評価)
モールドの芯材配置スペースへの芯材の配置の容易さについて、所定の芯材構成材料を用いた実施例1~6及び比較例1~3では容易であったが、SUS製の中子を用いた比較例4~6では、モールドを分割しなければ中子を配置できなかった。よって、比較例4~6は、実施例1~6及び比較例1~3に対し中子の配置のしやすさが大きく劣る結果となった。すなわち、中子の配置のしやすさの評価では、比較例4~6は不合格、実施例1~6及び比較例1~3は合格であった。
【0055】
実施例1~6及び比較例1~6のそれぞれにより得られた各チタン系圧粉体の外観(凹部内面を含まない外表面の様子)を観察した。その結果を表1に示す。ここで、「◎」は、ひびも割れも無かったことを意味する。「〇」は、当該外表面の端部に欠けがあったが、外表面の主要な部分に目立った割れがなかったことを意味する。「×」は、ひびまたは割れがあったことを意味する。表1から解かるように、比較例4のチタン系圧粉体を除き、概ね良好な外観であった。
【0056】
実施例1~6及び比較例1~6のそれぞれについて、CIP後のチタン系圧粉体からの芯材の取出し性を評価した。その結果を表1に示す。
なお、芯材を使用せずに圧粉体を成形する通常のプロセスでは、CIP後のサンプルを約100℃で加熱してモールドを軟化・除去して圧粉体を得る。一方、実施例1~6及び比較例1~6では、芯材を使用したことから、その芯材の材質によって、モールドを除去するとともに該芯材を取り出す工程が必要となり、その取出しに要する負荷が実施例及び比較例のそれぞれで異なっていた。
表1中、「◎」は、モールドの除去と同時に芯材を取り出せたことを意味する。このような芯材取出しの容易さは、チタン系圧粉体の成形後も芯材が流動性を有することに起因する。「〇」は、ある程度の芯材を取り出してから、モールドを剥がすという二段階の工程を経て圧粉体が得られたことを意味する。ある程度の芯材を取り出さないとモールドを剥がせない理由は、配置時には流動性を有していた芯材が完全に硬化したことによるものであった。「×」は、圧粉体の形状を維持しつつ芯材を取り出すことが不可能であったことを意味する。なお、実施例5及び6ならびに比較例3では、芯材内部が完全に硬化していたため、取出し性が「〇」となった。
【0057】
凹部の成形性を評価するため、各チタン系圧粉体を、
図11に示す断面が現れるように中心軸に沿って切断し、凹部の折れ曲がり箇所を形作る角部が、所期したとおりの直角に形成されているかどうかを確認した。表1中、「〇」は、角部が直角であったことを意味し、「×」は、角部に欠けがあるか又は面取りされた形状になっていたことを意味する。表1に示すように、実施例1~6のチタン系圧粉体はいずれも、角部が良好であった。一方、比較例1~6のチタン系圧粉体は、角部に欠けがあり又は面取りがなされていた。比較例4~6は、チタン系圧粉体を解体しなければ芯材を分離できなかったので、チタン系圧粉体の製造において所望する凹部の形成に失敗した例であるとも言える。
【0058】
<試験例2>
原料粉末として、上記のHDH純チタン粉末と、60Al-40Vの母合金粉末(D50=55μm、粉砕粉末)とを9:1の質量比で混合させた混合粉末を用いて、Ti-6Al-4V製のチタン系圧粉体を製造した。他の製造条件は、実施例2と同様とした。このチタン系圧粉体について、試験例1と同様にして外観、芯材取出し性及び、凹部の成形性を評価した結果、実施例2と同様に、外観は「◎」、芯材取出し性は「◎」、凹部の成形性は「〇」であった。
【0059】
また、原料粉末として、上記のHDH純チタン粉末と、アルミニウム製のアトマイズ粉末(D50=30μm)と、鉄製の球状粉末(D50=30μm)とを94:5:1の質量比で混合させた混合粉末を用いて、Ti-5Al-1Fe製のチタン系圧粉体を製造した。他の製造条件は、実施例2と同様とした。このチタン系圧粉体について、試験例1と同様にして外観、芯材取出し性及び、凹部の成形性を評価した結果、実施例2と同様に、外観は「◎」、芯材取出し性は「◎」、凹部の成形性は「〇」であった。
【符号の説明】
【0060】
1、21、31、41、51、61、71、81 モールド
2、22、32、42、52、62、72、82 成形空間
3、23、33、43、53、63、73、83 外筒壁部
4、24、34、44、54、64、74、84 環状壁部
5、25、35、45、55、65、75、85 内筒壁部
5a、25a、35a、45a、55a、65a、75a、85a 芯材配置スペース
6a 密閉部材
6b 円盤状部材
11 芯材
101 チタン系圧粉体
102 凹部
102a、102b 開口部
102c 段差部
102d 広幅部
102e 狭幅部
111 注入器具
Cm 芯材配置スペースの中心軸
Cc 凹部の中心軸
Wa、Wb 幅
【要約】
この発明のチタン系圧粉体の製造方法は、凹部102を有するチタン系圧粉体101を製造する方法であって、前記チタン系圧粉体101の前記凹部102が、当該凹部102の中心軸Ccの少なくとも一部を含む断面の一つ以上にて、当該凹部102の中心軸方向の少なくとも一部で幅が変化する形状、並びに/あるいは、当該凹部102の中心軸Ccの湾曲部分及び/又は屈曲部分を含む形状を有し、樹脂製のモールド1における前記凹部102に対応する芯材配置スペース5a内に、芯材構成材料を流動させて充填し、前記凹部102に対応する形状の芯材11を配置する工程と、前記モールド1の成形空間2に原料粉末を充填する工程と、前記芯材配置スペース5a内に前記芯材11が配置された状態で、前記成形空間2に前記原料粉末を充填した前記モールド1に対して300MPa以上の静水圧加圧にて冷間等方圧加圧を行う工程とを含むものである。