(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
F16H7/08 Z
(21)【出願番号】P 2018212141
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 太一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将成
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-017351(JP,A)
【文献】特開2009-275881(JP,A)
【文献】特開2007-032685(JP,A)
【文献】特開2004-095207(JP,A)
【文献】特開2012-149731(JP,A)
【文献】特開2011-179623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方が閉塞された円筒状のプランジャと、前記プランジャの内部に形成される圧油室に伸縮自在に収納される付勢手段と、前記付勢手段の弾性に抗って前記プランジャの後端側開口部に遊嵌状態で挿入された円筒状のベース部材とを備えたテンショナであって、
前記プランジャを収容するテンショナボディを具備せず、
前記ベース部材に対する前記プランジャの突出を防止する突出防止機構を有し、
前記突出防止機構は、前記プランジャの内周面の後方側端部に円周方向の全周にわたって延びるように設けられた係止溝部と、前記ベース部材の前方側端部に設けられ前記係止溝部により形成される係止段部に対して直接または他部材を介して係止解除可能に係止される係止部とにより構成
され、
前記ベース部材は、テンショナ取付対象物に対する装着部を有することを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記プランジャの係止段部には、前記ベース部材の係止部の後方側端面が係止されるCリングが配置され、前記Cリングは、前記係止溝部の内周面を径方向外方に向かって押圧するように縮径されており、
前記プランジャの内周面に、前記プランジャを後方側の圧縮方向にスライドさせたときに拡径する前記Cリングを受容する前記係止溝部より溝深さの大きい逃げ溝部を有することを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記プランジャの係止段部には、前記ベース部材の係止部の後方側端面が係止されるボールが配置されており、
前記プランジャの内周面および前記ベース部材の外周面の少なくとも一方に、前記ベース部材を前記プランジャに対して相対的に回転させたときに前記ボールを取出し可能に構成された軸方向に延びるボール取出し溝部を有することを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記ベース部材の係止部は、径方向外方に突出し後方側端面が前記係止段部の端面に係止される複数の板状突出片により構成されており、
前記プランジャの内周面に、前記ベース部材を前記プランジャに対して相対的に回転させたときに前記板状突出片がスライド移動可能に構成された軸方向に延びる複数の係止部案内溝部を有することを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項5】
前記装着部は、前記ベース部材の外周面に形成された螺合溝により構成されていることを特徴とする
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のテンショナ。
【請求項6】
前記装着部は、前記ベース部材の外周面において軸方向に延びるように形成された係合溝により構成されていることを特徴とする
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャと、プランジャの内部に形成される圧油室に伸縮自在に収納される付勢手段とを備えたテンショナであって、プランジャを支持するハウジングを具備しないテンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーンの張力を適正に保持するテンショナを用いることは慣用されている。例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンを走行案内シューによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、張力を適正に保持するためにテンショナによって走行案内シューを有する揺動チェーンガイドを付勢するものが公知である。
このようなチェーンガイド機構に用いられる公知のテンショナは、一般に、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するハウジングと、プランジャ収容穴の円筒面部に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、プランジャ収容穴からプランジャを突出方向である前方側に付勢する付勢手段とを備えた構成とされている。
テンショナは、組立後、エンジン等の使用箇所に固定し、実際にチェーン等にテンションを与えてよい状態になるまでは、プランジャを圧縮状態で固定しておく必要がある。そこで、従来から、プランジャを予めハウジング内に押し込んでおくプランジャの突出防止機構を有する種々のテンショナが提案されている(例えば特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-020206号公報
【文献】特開2003-035343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、テンショナにおけるハウジングは、一般に、鋳鉄やアルミニウム合金等の金属製であるため、それ自体重量が大きいものである。結果としてテンショナが搭載されるエンジン全体の重量が増加し、エンジンの燃費を悪化させることにつながる。従って、テンショナが搭載される自動車の低燃費化の需要のある昨今には芳しくないことから、テンショナの軽量化が求められている。テンショナの軽量化の観点からは、テンショナがハウジングを具備しない構成とされることが望ましい。しかしながら、公知のテンショナは、取付対象物に固定するための取付部をハウジングに形成し、必要に応じて適宜の締結部材を用いて取付対象物に固定する構成とされており、また、プランジャの突出防止機構は、プランジャをハウジングに対して固定するように構成されることから、ハウジングを具備しないものとして構成することが困難であるのが実情である。
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、部品点数の低減化、軽量化を図るとともに、組み付けが容易なテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のテンショナは、前方が閉塞された円筒状のプランジャと、前記プランジャの内部に形成される圧油室に伸縮自在に収納される付勢手段と、前記付勢手段の弾性に抗って前記プランジャの後端側開口部に遊嵌状態で挿入された円筒状のベース部材とを備えたテンショナであって、前記プランジャを収容するテンショナボディを具備せず、前記ベース部材に対する前記プランジャの突出を防止する突出防止機構を有し、前記突出防止機構は、前記プランジャの内周面の後方側端部に円周方向の全周にわたって延びるように設けられた係止溝部と、前記ベース部材の前方側端部に設けられ前記係止溝部により形成される係止段部に対して直接または他部材を介して係止解除可能に係止される係止部とにより構成され、前記ベース部材がテンショナ取付対象物に対する装着部を有することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に係るテンショナにおいては、プランジャの突出防止機構がプランジャの内周面に設けられ係止段部を形成する係止溝部と、プランジャの開口部に遊嵌状態で挿入されたベース部材に設けられ前記係止段部に対して直接または他部材を介して係止解除可能に係止される係止部とにより構成される。従って、本発明の請求項1に係るテンショナによれば、プランジャを支持するハウジングが不要となる。これにより、テンショナを構成する部品点数の低減化を図ることができる結果、テンショナの大幅な軽量化を図ることができる。テンショナの軽量化により、テンショナが搭載されるエンジンの燃費向上が期待される。
【0008】
本発明の請求項2に係る構成によれば、プランジャを後方側の圧縮方向にスライドさせる、という簡単な操作で、プランジャの係止解除を行うことができるため、取付対象物に対する組み付けを容易に行うことができ作業性を向上することができる。
また、本発明の請求項3および請求項4に係る構成によれば、プランジャをベース部材に対して相対的に回転させる、という簡単な操作で、プランジャの係止解除を行うことができるため、取付対象物に対する組み付けを容易に行うことができ作業性を向上することができる。特に、請求項4に係る構成によれば、プランジャのベース部材に対する係止をCリングやボールといった他部材を用いることなく行うことができる。このため、テンショナを構成する部品点数の更なる低減化を図ることができ、しかも、プランジャのベース部材に対する係止および係止解除が自在となり高い利便性を得ることができる。
【0009】
本発明の請求項5乃至請求項7に係る構成によれば、テンショナを極めて容易に組み付けることができ、また、取付対象物に対するボルトなどの固定部材が不要であるため、作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るテンショナの一構成例を示す、軸方向に沿った断面図である。
【
図2】
図1に示すテンショナの一部を示す拡大図である。
【
図3】
図1に示すテンショナにおけるプランジャの係止解除操作を示す説明図である。
【
図4】
図1に示すテンショナのテンショナ取付対象物に対する取付構造を概略的に示す断面図である。
【
図5】テンショナ取付対象物に対する装着部の構成の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図6】テンショナ取付対象物に対する装着部の構成の他の例を概略的に示す斜視図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るテンショナの一構成例の要部を示す、軸方向に沿った断面図である。
【
図9】
図7に示すテンショナにおけるプランジャの係止解除操作を示す説明図である。
【
図10】本発明の第3実施形態に係るテンショナの一構成例の要部を示す、軸方向に沿った断面図である。
【
図12】
図11に示すテンショナにおけるプランジャの係止解除操作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のテンショナは、プランジャを支持するハウジングを具備しないものであって、例えば、エンジンブロックなどの取付対象物における油吐出孔を有するテンショナ挿入用穴内に挿入されて組み付けられるものである。なお、本発明のテンショナは、適宜のハウジング部材に挿入されて用いられてもよい。
【実施例1】
【0012】
本発明の一実施形態に係るテンショナ100は、
図1に示すように、前方が閉塞された円筒状のプランジャ110と、プランジャ110の内部に形成される圧油室101に伸縮自在に収納される付勢手段であるコイルばね105とを備えている。
プランジャ110の内部には、圧油室101が所定以上の高圧となるのを抑制する圧力調整ユニットを備えたインナースリーブ120と、圧油室101に流入するオイルの逆流を抑制するチェックバルブユニット130とが配置されている。
インナースリーブ120は、後方側端部がプランジャ110の開口端面より軸方向外方に突出するように延在しており、インナースリーブ120の後方側端部には、コイルバネ105の弾性に抗ってプランジャ110の後方側開口部に遊嵌状態で挿入される円筒状のベース部材150が外嵌されている。
【0013】
プランジャ110には、
図2に示すように、内周面における後方側端部に、円周方向の全周にわたって延びるように設けられ係止段部113を形成する係止溝部111と、係止溝部111の前方側に位置され係止溝部111より溝深さの大きい逃げ溝部112とを有する。
【0014】
本実施形態におけるインナースリーブ120は、内筒部材121と、内筒部材121の圧油室101側に位置される前方側端部に外嵌され移動規制部を構成する外筒部材123とにより構成されている。なお、インナースリーブ120は、圧油室101側に位置される前方側端部に移動規制部が形成された構成とされていれば、一の部材により構成されていてもよい。
外筒部材123は、内筒部材121の前方側端面より前方側に突出しており、外筒部材123の内周面と内筒部材121の前方側端面とによって画成された空間によりチェックバルブユニット配置部が形成されている。
【0015】
チェックバルブユニット130は、チェックボール131と、チェックボール131を内挿するリテーナー132と、チェックボール131の着座により開閉するチェックバルブシート部133と、リテーナー132の内部でチェックボール131をチェックバルブシート部133側に軽く押圧するボール押えバネ134とを有している。
【0016】
圧力調整ユニットは、インナースリーブ120における内筒部材121の外周面に摺動可能に外嵌するとともにプランジャ110の内周面に摺動可能に内接する環状のリリーフバルブ140と、リリーフバルブ140を移動規制部側に付勢するリリーフスプリング145と、内筒部材121の外面の所定位置に設けられたリリーフバルブ140の後方側への移動を規制する規制部材146とを有している。本実施形態では、規制部材146は、例えばCリングなどのリング状部材により構成されており、内筒部材121の外面に外嵌されている。
リリーフバルブ140は、圧油室101からのオイルの流れを許容するリリーフ溝141を有し、前方側の端面には、インナースリーブ120の外筒部材123の後端面に当接し圧油室101を封止する前方シール面142を有している。
【0017】
以上の構成で、リリーフバルブ140に対して前方側に位置されるプランジャ110内部空間により圧油室101が形成され、リリーフバルブ140に対して後方側に位置されるインナースリーブ120の内部空間及びプランジャ110とインナースリーブ120との間に形成される環状空間により貯留油室102が形成される。プランジャ110およびインナースリーブ120の両者の間に形成される環状空間と、インナースリーブ120の内部空間とは、インナースリーブ120の内筒部材121に形成されたリザーブ孔122によって互いに連通している。
【0018】
ベース部材150には、
図2に示すように、外周面に円周方向の全周にわたって延びる周溝151が形成されており、周溝151に対して前方側端部に係止部153を構成するフランジ部154が形成され後方側端部にプランジャ110の後方側開口部に遊嵌状態で挿入される基部152が形成されている。
【0019】
而して、本実施形態のテンショナ100は、プランジャ110の係止溝部111と、係止溝部111により形成される係止段部113に対してCリング170を介して係止解除可能に係止されるベース部材150のフランジ部154とにより構成され、ベース部材150に対するプランジャ110の突出を防止する突出防止機構を備えている。
Cリング170は、係止溝部111の内周面を径方向外方に向かって押圧するように縮径された状態で、係止段部113上に配置されている。本実施形態のテンショナ100においては、Cリング170がコイルばね105の弾性およびリリーフスプリング145の弾性によって、プランジャ110における係止段部113の端面とベース部材150におけるフランジ部154の後端面とによって挟持され、プランジャ110がベース部材150に対して係止されている。
【0020】
本実施形態のテンショナ100は、Cリング170を縮径(径方向に圧縮)するように弾性変形させた状態でベース部材150における周溝151内に収容し、この状態で、ベース部材150(インナースリーブ120に嵌合固定された状態)をコイルばね105およびリリーフスプリング145の弾性に抗ってプランジャ110内に挿入することにより、組み立てることができる。Cリング170は、プランジャ110の内周面との当接状態から解放されることによりCリング170自体の弾性によって形状復帰するように拡径し、係止溝部111の周面を押圧する状態で係止段部113の端面上に配置されることとなる。
【0021】
本実施形態に係る突出防止機構は、プランジャ110の係止解除を極めて容易に行うことができる。すなわち、プランジャ110がベース部材150に対して係止された状態(
図3(a))から、
図3(b)に示すように、プランジャ110を後方側の圧縮方向にスライドさせることにより、Cリング170はプランジャ110の係止溝部111の周面との当接状態から解放されることとなる。その結果、Cリング170はCリング170自体の弾性によって形状復帰するように拡径され、逃げ溝部112の周面を押圧する状態で逃げ溝部112内に位置される。これにより、プランジャ110のベース部材150に対する係止状態が解除され、
図3(c)に示すように、テンショナ110が使用可能な状態(プランジャ110が出没可能な状態)とされる。
ここに、逃げ溝部112内に位置されたCリング170の内周縁は、プランジャ110の内周面より径方向外方側に位置しており、従って、プランジャ110内部に残留するCリング170がプランジャ110の動作を阻害することを確実に回避することができる。
以上のように、本実施形態のテンショナ100の突出防止機構は、ベース部材150の係止部153がプランジャ110の係止段部113に対してCリング170を介して係止解除可能に係止され、プランジャ110を圧縮方向にスライドさせることによりプランジャ110の係止解除が可能となるように構成されている。
【0022】
本実施形態のテンショナ100は、プランジャ110のベース部材150に対する係止状態が保持された状態で、
図4に示すように、例えば、エンジンブロックなどのテンショナ取付対象物180のテンショナ挿入穴181に挿入して用いることができる。テンショナ挿入穴181は、底面にベース部材装着用凹部182を有するとともにベース部材装着用凹部の底面に開口する油吐出孔183を有し、プランジャ110を摺動可能に受容するものとされる。
なお、本実施形態のテンショナ100においては、テンショナ取付対象物180に取り付けられた後、プランジャ110の係止解除を行うことができる。
【0023】
而して、本実施形態のテンショナ100においては、ベース部材150がテンショナ取付対象物180に対する装着部160を有する構成とされていることが好ましい。
装着部160は、例えば
図5に示すように、ベース部材150における基部152の外周面に螺合溝161を形成することにより構成することができる。
また、装着部160は、例えば
図6に示すように、ベース部材150における基部152の外周面に軸方向に延びる係合溝162を形成することにより構成することもでき、また、ベース部材150の後方側の端部をテンショナ取付対象物180のベース部材装着用凹部182に挿嵌されるように構成することもできる。
【実施例2】
【0024】
本発明の第2実施形態に係るテンショナは、プランジャの突出防止機構の構成が相違することの他は、前述の第1実施形態に係るテンショナ100と同様の構成を有するものである。
第2実施形態に係るテンショナにおけるプランジャの突出防止機構は、ベース部材をプランジャに対して相対的に回転させることによりプランジャの係止解除が行われるように構成されている。
【0025】
図7および
図8に示すように、第2実施形態に係るテンショナにおけるプランジャ110aは、内周面における開口側端部部分に、係止段部113を形成する係止溝部111を有する。
また、ベース部材150aは、外周面に円周方向の全周にわたって延びる周溝151を有し、周溝151に対して軸方向後方側にプランジャ110aの内周面に当接される基部152が形成され軸方向前方側に係止部153を構成するフランジ部154が形成されている。
【0026】
第2実施形態に係るテンショナにおいては、プランジャ110aの内周面およびベース部材150aの外周面の少なくとも一方に、ベース部材150aをプランジャ110aに対して相対的に回転させたときに後述するボール171を取出し可能に構成された軸方向に延びるボール取出し用溝部が形成される。本実施形態では、プランジャ110aの内周面およびベース部材150aにおける基部152の外周面の各々に、ボール取出し用溝部115,155が形成されている。
【0027】
本実施形態のテンショナにおける突出防止機構は、プランジャ110aの係止溝部111と、係止溝部111により形成される係止段部113に対してボール171を介して係止解除可能に係止されるベース部材150aのフランジ部154とにより構成されている。ボール171はベース部材150aの周溝151の深さより大きい外径を有する。
本実施形態のテンショナにおいては、コイルばね105の弾性およびリリーフスプリング145の弾性によって、ボール171がプランジャ110aにおける係止段部113の端面とベース部材150aにおけるフランジ部154の後端面とによって挟持され、プランジャ110aがベース部材150aに対して係止されている。
【0028】
本実施形態のテンショナは、次のようにして組み立てることができる。すなわち、先ずベース部材150a(インナースリーブ120に嵌合固定された状態)をコイルばね105およびリリーフスプリング145の弾性に抗ってプランジャ110a内に挿入する。次いで、プランジャ110aのボール取出し用溝部115とベース部材150aのボール取出し用溝部155との周方向位置を一致させ、この状態で、ボール171をボール取出し用溝部115,155からプランジャ110a内部に投入する。そして、ベース部材150aをプランジャ110aに対して相対的に回転させ、コイルばね105およびリリーフスプリング145の弾性を利用して、ボール171をプランジャ110aの係止溝部111の後方側端面とベース部材150aのフランジ部154とによって挟持させる。以って、プランジャ110aがベース部材150aに対して係止された状態を得ることができる。
【0029】
本実施形態における突出防止機構においても、プランジャ110aの係止解除を極めて容易に行うことができる。すなわち、プランジャ110aがベース部材150aに対して係止された状態(
図9(a))から、
図9(b)に示すように、プランジャ110aをベース部材150aに対して相対的に回転させることにより、プランジャ110aのボール取出し用溝部115とベース部材150aのボール取出し用溝部155との周方向位置を一致させる。そして、ボール取出し用溝部115,155を介してボール171をプランジャ110a内部から取り出すことにより、プランジャ110aのベース部材150aに対する係止状態が解除され、
図9(c)に示すように、テンショナが使用可能な状態(プランジャ110aが出没可能な状態)とされる。
以上のように、本実施形態のテンショナにおける突出防止機構は、ベース部材150aの係止部153がプランジャ110aの係止段部113に対してボール171を介して係止され、ベース部材150aをプランジャ110aに対して相対的に回転させることによりプランジャ110aの係止解除が可能となるように構成されている。
【実施例3】
【0030】
本発明の第3実施形態に係るテンショナは、プランジャの突出防止機構の構成が相違することの他は、前述の第1実施形態に係るテンショナ100と同様の構成を有するものである。
第3実施形態に係るテンショナにおける突出防止機構は、前述の第2実施形態に係るテンショナと同様に、ベース部材をプランジャに対して相対的に回転させることによりプランジャの係止解除が行われるように構成されている。
【0031】
図10および
図11に示すように、第3実施形態に係るテンショナにおけるプランジャ110bは、内周面における後方側端部に、係止段部113を形成する係止溝111を有するとともに開口端縁から軸方向に延びる係止部案内溝部118を有する。本実施形態では、2つの係止部案内溝部118が、円周方向における中心軸を挟んで互いに対向する位置に形成されている。
また、ベース部材150bは、プランジャ110bの内周面に当接される大径筒状部156と、大径筒状部156の前方側の端部に段部を介して連続する小径筒状部157とを有し、小径筒状部157の軸方向前方側の端部に係止部153を有する。本実施形態では、係止部153は、円周方向における中心軸を挟んで互いに対向する位置に形成され径方向外方に突出する一対の板状突出片158,158により構成されている。板状突出片158,158の外縁位置は、大径筒状部156の外周縁位置より径方向外方に位置されている。
【0032】
本実施形態のテンショナにおける突出防止機構は、プランジャ110bの係止溝部111と、係止溝部111により形成される係止段部113に対して直接的に係止解除可能に係止されるベース部材150bの板状突出片158とにより構成されている。
【0033】
本実施形態のテンショナは、次のようにして組み立てることができる。すなわち、先ずベース部材150b(インナースリーブ120に嵌合固定された状態)の板状突出片158,158をプランジャ110bにおける係止部案内溝部118,118に位置合わせし、ベース部材150bをコイルばね105およびリリーフスプリング145の弾性に抗ってプランジャ110b内に挿入する。次いで、ベース部材150bをプランジャ110bに対して相対的に回転させ、コイルばね105およびリリーフスプリング145の弾性を利用して、板状突出片158,158をプランジャ110bの係止段部113に係止させる。以って、プランジャ110bがベース部材150bに対して係止された状態を得ることができる。
【0034】
本実施形態における突出防止機構においても、プランジャ110bの係止解除を極めて容易に行うことができる。すなわち、プランジャ110bがベース部材150bに対して係止された状態(
図12(a))から、
図12(b)に示すように、プランジャ110bをベース部材150bに対して相対的に回転させることにより、プランジャ110bの係止部案内溝部118とベース部材150bの板状突出片158との周方向位置を一致させる。これにより、プランジャ110bのベース部材150bに対する係止状態が解除され、
図12(c)に示すように、テンショナ110bが使用可能な状態(プランジャ110bが出没可能な状態)とされる。
以上のように、本実施形態のテンショナにおける突出防止機構は、ベース部材150bの係止部153がプランジャ110bの係止段部113に対して直接的に係止され、ベース部材150bをプランジャ110bに対して相対的に回転させることによりプランジャ110bの係止解除が可能となるように構成されている。
【0035】
以上説明した実施形態は、本発明に係るテンショナの具体例であるが、本発明に係るテンショナがこれらに限定されるものではなく、各構成部材の形状、位置、寸法、配置関係等、他にも様々な変形が可能であり、また、それらを適宜組み合わせて構成されてもよい。
また、前述した実施形態において、プランジャが上方に突出する向きの図示を使用し、その方向で説明したが、プランジャの突出方向は使用形態に合わせて、いかなる方向に配置されてもよい。
特に、上記実施形態の場合、貯留油室がチェックバルブより上方に位置するようにチェーンテンショナを配置(図面とは逆)することで、リリーフバルブが圧油室の上部に位置する構造となって、エア抜けに対してロバスト性が高くなり好適である。
【0036】
また、本発明のテンショナは、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンを走行案内シューによって摺動案内を行うチェーンガイド機構に適用するものに限らず、プランジャの先端で直接チェーンの摺動案内を行ってもよい。
さらに、チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、種々の産業分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
100 ・・・テンショナ
101 ・・・圧油室
102 ・・・貯留油室
105 ・・・コイルばね(付勢手段)
110,110a,110b ・・・プランジャ
111 ・・・係止溝部
112 ・・・逃げ溝部
113 ・・・係止段部
115 ・・・ボール取出し用溝部
118 ・・・係止部案内溝部
120 ・・・インナースリーブ
121 ・・・内筒部材
122 ・・・リザーブ孔
123 ・・・外筒部材
130 ・・・チェックバルブユニット
131 ・・・チェックボール
132 ・・・リテーナー
133 ・・・チェックバルブシート部
134 ・・・ボール押えバネ
140 ・・・リリーフバルブ
141 ・・・リリーフ溝
142 ・・・前方シール面
145 ・・・リリーフスプリング
146 ・・・規制部材(Cリング)
150,150a,150b ・・・ベース部材
151 ・・・周溝
152 ・・・基部
153 ・・・係止部
154 ・・・フランジ部
155 ・・・ボール取出し用溝部
156 ・・・大径筒状部
157 ・・・小径筒状部
158 ・・・板状突出片
160 ・・・装着部
161 ・・・螺合溝
162 ・・・係合溝
170 ・・・Cリング
171 ・・・ボール
180 ・・・テンショナ取付対象物
181 ・・・テンショナ挿入穴
182 ・・・ベース部材装着用凹部
183 ・・・油吐出孔