IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】凸版印刷版用水性洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B41N 3/06 20060101AFI20221116BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20221116BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20221116BHJP
   C11D 7/12 20060101ALI20221116BHJP
   C11D 7/06 20060101ALI20221116BHJP
   B41F 35/00 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B41N3/06
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/12
C11D7/06
B41F35/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018230036
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020090638
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 優惟子
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 紀宏
(72)【発明者】
【氏名】小宮 博之
(72)【発明者】
【氏名】江塚 博紀
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-221696(JP,A)
【文献】特開2000-098629(JP,A)
【文献】特開平11-288104(JP,A)
【文献】特開2012-171326(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102952425(CN,A)
【文献】特開2002-283764(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108546450(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107841383(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
B41F 31/00-35/06
B41N 1/00-99/00
G03F 7/00-7/42
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子量が800~100000のポリアクリル酸またはその塩2~18質量%、
(B)炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの少なくとも一方を2~12質量%、
(C)クエン酸三ナトリウムとテトラエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムとの少なくとも一方を0.7~7質量%、および

を含有し、pHが10~14であることを特徴とする、凸版印刷版用水性洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版の洗浄に使用される洗浄剤であって、詳細には、水系でありながら、低泡性であり、かつ溶液安定性に優れ、使用直後のインクが付着した印刷版、さらにはインクが乾燥して固着した印刷版に対しても洗浄に適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷版を用いて、包装材やラベル、雑誌等の被刷体に対して、凸版印刷、凹版印刷、あるいは平版印刷が行われている。このうち、凸版印刷は、凸版を用いて行われる。この凸版には、材質が柔らかいことから、被刷体を選ばず、種々の被刷体に適用可能なフレキソ印刷版がある。フレキソ印刷版の再使用を行うためには、使用後に速やかにフレキソ印刷版の洗浄を行う必要がある。
【0003】
従来、上記の洗浄には、塩素系のメチレンクロライド、或いは通常の抽出剤、溶剤、ドライクリーニングのシミ抜き剤としての四塩化炭素などを使用していた。これらは、溶解性が大きいため、印刷インキなど有機溶剤の洗浄剤として使用した場合に、印刷インキのみならず、版の画線部に対してもその溶解力が作用してしまうといった課題があった。
【0004】
特許文献1には、メチレンクロライドを必須成分とし、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エーテル類、低級アルコール類、多価アルコール及びその誘導体のうちから少なくとも一種以上の溶剤を配合することを特徴とする印刷用洗浄剤が記載されている。しかし、この洗浄剤は、版の画線部に対してもその溶解力が作用してしまう。
【0005】
特許文献2には、グリコールエーテル系とグリコールアセテート系化合物を含有する水系洗浄剤が記載されており、従来使用されている塩素系溶剤や芳香族炭化水素等よりも、印刷版に付着したインクの洗浄性に優れ、取扱いの面においても危険性が低いものである。しかし、この洗浄剤組成物は、インクが乾いていない使用直後の印刷版に対しては洗浄力があるものの、インクが乾燥して固着した印刷版にたいする洗浄力が不十分である。
【0006】
特許文献3には、非水混和性溶剤、アニオン性及び/又は非イオン性界面活性剤、錯化剤、バッファ剤、水混和性溶剤を含有する洗浄力の高い水系洗浄剤が記載されている。しかし、この洗浄剤は、攪拌や噴霧することによる泡立ちおよび溶液の低温安定性が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-175373号公報
【文献】特開1998-010744号公報
【文献】特表2017-524764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上より、乾燥して印刷版に固着したインク汚れに対しても、十分な洗浄力を有し、低泡性かつ安定性にすぐれる洗浄剤が必要とされている。
【0009】
本発明の課題は、使用直後の版面上のインクおよび使用後版面上に固着したインクを洗浄除去する能力に優れ、低泡性であり、溶液安定性に優れた洗浄剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討した結果、下記に示す特定の成分を組み合わせることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明に係る凸版印刷版用水性洗浄剤組成物は、
(A)分子量が800~100000のポリアクリル酸またはその塩2~18質量%、
(B)炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの少なくとも一方2~12質量%、
(C)クエン酸三ナトリウムとテトラエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムとの少なくとも一方を0.7~7質量%、および

を含有し、pHが10~14であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の印刷版用洗浄剤組成物は、水系でありながら、使用直後の版面上のインクを洗浄除去する優れた能力を有し、且つ使用後、版面上に硬化したインクを洗浄除去する能力に優れる。さらに低泡性に優れるので、印刷版に洗浄剤を噴霧する洗浄工程において使用することができ、溶液の低温安定性に優れるため、扱いやすい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の凸版印刷版用水性洗浄剤組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、(A)分子量が800~100000のポリアクリル酸またはその塩2~18質量%、(B)炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの少なくとも一方を2~12質量%、(C)クエン酸三ナトリウムとテトラエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムとの少なくとも一方を0.7~7質量%、および水を含有する。以下、各成分について説明する。
【0014】
〔成分(A)〕
本発明で用いられる成分(A)は、分子量が800~100000のポリアクリル酸またはその塩である。
【0015】
成分(A)の分子量は、印刷版洗浄剤として有用な重合体とするために、800~100000とする。成分(A)の分子量が100000より大きいと溶液の低温安定性が低下する。この観点からは、成分(A)の分子量を100000以上とするが、50000以下が好ましく、10000以下が更に好ましい。また、成分(A)の分子量が800より小さいと、泡が多く立つため低泡性が不十分となる。この観点からは、成分(A)の分子量を800以上とするが、2000以上が好ましく、4000以上が更に好ましい。
【0016】
成分(A)のポリアクリル酸の塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウムまたは有機アンモニウムが好ましい。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられ、好ましくは、ナトリウム塩、カリウムである塩。アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等が挙げられ、好ましくはカルシウム塩である。有機アンモニウムは、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンに由来するアルカノールアンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミンに由来するアルキルアンモニウムが挙げられる。
【0017】
本発明の組成物における成分(A)の含有量は、2~18質量%とする。成分(A)の含有量が2質量%未満では、良好な洗浄性が得られ難くなるので、質量%以上とするが、5質量%以上が更に好ましい。また、成分(A)の含有量が18質量%よりも多いと、溶液の低温安定性が低下するので、18質量%以下とするが、15質量%以下が更に好ましい。
ただし、成分(A)~(C)の各含有量は、本発明の組成物の全量を100質量%としたときの含有量である。
【0018】
〔アルカリ剤(B)〕
本発明で用いられるアルカリ剤(B)は、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの少なくとも一方であり、1種または2種用いることができる。
【0019】
本発明の組成物は、アルカリ剤(B)を12質量%含有する。アルカリ(B)の含有量が質量%未満では洗浄力が不十分となるので、質量%以上とするが、5質量%以上が更に好ましい。また、アルカリ(B)の含有量が12質量%より多いと、溶液の低温安定性が低下するので、12質量%以下とするが、10質量%以下が更に好ましい。
【0020】
本発明の組成物は、25℃における水溶液のpHが、10~14、より好ましくは11~14、更に好ましくは12~14である。
【0021】
〔キレート剤(C)〕
本発明で用いられるキレート剤(C)としては、クエン酸三ナトリウムとテトラエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムとの少なくとも一方である。
【0022】
アミノカルボン酸及びその塩としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
ヒドロキシカルボン酸及びその塩としては、クエン酸三ナトリウムが好ましい。
【0024】
キレート剤(C)は、クエン酸三ナトリウム(C1)およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム(C2)を含有することが好ましい。この場合には、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(C2)のクエン酸三ナトリウムの含有量(C1)に対する比率((C2)/(C1))を、90/10~20/80とすることが好ましく、85/15~40/60とすることが更に好ましい。
【0025】
本発明の組成物におけるキレート剤(C)の含有量は、溶液安定性の観点から、0.質量%とする。キレート剤(C)の含有量が0.質量%未満では溶液の低温安定性が低下する可能性があるので、0.質量%以上とするが、1.5質量%以上が更に好ましい。また、キレート剤(C)の含有量が質量%より多いと、溶液の低温安定性が低下する可能性があるので、質量%以下とするが、5質量%以下が好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、水を含有する。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、RO水、水道水、工業用水などが挙げられる。
本発明の組成物における水の含有量は、特に限定はされないが、好ましくは50~95質量%である。
【0027】
また、本発明の組成物には、一般の洗浄剤に配合される成分が配合されていてもよい。これらの成分としては、例えば、他の界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、防食材、増粘剤、着色剤、香料などが配合されていてもよい。こうした成分(A)~(C)および水以外の成分の含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0028】
本発明の組成物は、そのまま使用しても良く、必要に応じて水で希釈して使用することもできる。希釈倍率は、使用用途や目的などに応じて適宜決定され、例えば1.2~100倍、好ましくは2~50倍である。
【実施例
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1~7及び比較例1~4に使用した添加剤およびその含有量を表1、表2に示す。分子量6000のポリアクリル酸ナトリウムは、日油株式会社製(ポリスターA-1060)、分子量2000および85,000のポリアクリル酸ナトリウムは、テクノケミカル株式会社製のものを使用した。表1、表2に示した各成分を各含有量で混合することで、各例の印刷版用水性洗浄剤組成物を製造した。次いで、各実施例及び比較例の洗浄剤組成物を用いて下記のとおり評価を行った。その結果を表1、および表2に示す。なお、ポリアクリル酸の分子量は6000であり、ラウリン酸ナトリウムの分子量は222である。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
(1) 印刷版洗浄試験(I)
(A)洗浄試験
本試験では、文字サイズが約6×5mmのアルファベット(大文字、小文字)・数字・記号が144個彫られた縦51×横71×厚さ5mmのゴム製凸版印刷版に印鑑補充インク(三菱鉛筆 補充インク 朱色 HUS-353)30mgを塗布し、紙に印刷する操作を15回行った後、再度インクを30mgを塗布し、30分室温で乾燥させたものに対する洗浄試験を実施した。洗浄剤組成物は水で10倍に希釈して使用した。
【0033】
300mLビーカー中で上記のインクを塗布した印刷版を上記希釈液200gに対して、30秒間25℃で浸漬した。その後、液から取り出した際の印刷版の洗浄液を拭き取り、汚れ落ちについて、インクの残量から除去率を算出し、評価した。インク残量は式(1)より求めた。

インク残量(mg)=
洗浄後のゴム製凸版印刷版の質量(mg)-ゴム製凸版印刷版の質量(mg) ・・(1)
【0034】
また、除去率の算出法を式(2)に示す。

【数1】
【0035】
評価基準は以下のとおりである。

◎: 除去率が99%以上である。
○: 除去率が95%以上、99%未満である。
△: 除去率が95%未満である。
【0036】
(2) 印刷版洗浄試験(II)
(A) 洗浄試験
本試験では、文字サイズが約6×5mmのアルファベット(大文字、小文字)・数字・記号が144個彫られた縦51×横71×厚さ5mmのゴム製凸版印刷版に印鑑補充インク(三菱鉛筆 補充インク 朱色 HUS-353)30mgを塗布し、紙に印刷する操作を15回行った後、再度インクを30mgを塗布し、14日間室温で乾燥させた固着インクに対する洗浄試験を実施した。洗浄剤組成物は水で10倍に希釈して使用した。
【0037】
300mlビーカー中で上記のインクを塗布した印刷版を上記希釈液200gに対して、30秒間25℃で浸漬した。その後、液から取り出した際の印刷版の洗浄液を拭き取り、汚れ落ちについて、インクの残量から除去率を算出し、評価した。インク残量は式(1)、除去率は式(2)より求めた。
評価基準は以下のとおりである。

◎:除去率が99%以上である。
○:除去率が95%以上99%未満である。
△:除去率が95%未満である。
【0038】
(3) 低泡性試験
各洗浄剤組成物(原液)を100ml蓋付きメスシリンダーに50ml量りとった。その後、蓋をして10秒間激しく上下に振とうした後に静置した。静置して10秒後および1分後の泡体積より、低泡性を評価した。低泡性は下記の評価基準に従い評価を行った。

◎: 振とう10秒後の泡体積が10mL以下であり、かつ1分後の泡体積が5mL以下である。
○: 振とう10秒後の泡体積が50mL以下であり、かつ1分後の泡体積が25mL以下である。
△: 振とう10秒後の泡体積が50mLより多い、または1分後の泡体積が25mLより多い。
【0039】
(4) 原液安定性
各洗浄剤組成物を50mlスクリュー管に30ml入れて、5℃の恒温槽にそれぞれ1週間静置して外観を確認し、評価を行った。安定性の評価は、下記の評価基準に従い行った。

○:5℃においても均一かつ透明である。
△:5℃では溶液で白濁もしくは析出する。
【0040】
実施例1~7の組成物については、インクを塗布して乾燥させた印刷版に対する洗浄力が高く、さらには高い低泡性を有することが明らかとなった。また、溶液の低温安定性も高いことが確認された。
【0041】
これに対して、比較例1~4の洗浄剤組成物は、実施例1~7の洗浄剤組成物に比して十分な性能が得られていない。
【0042】
比較例1の組成物は、成分(A)を含有しないため、洗浄効果が良好ではなかった
比較例2の組成物は、アルカリ剤(B)を含有しないため、洗浄効果が良好ではなかった。
比較例3の組成物は、キレート剤(C)を含有しないため、低泡性、溶液の低温安定性が良好ではなかった。
比較例4の組成物は、成分(A)が分子量が800~100,000のカルボキシ基を有する水溶性重合体でないため、低泡性が良好ではなかった。