(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】巻取体および巻取体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 55/04 20060101AFI20221116BHJP
B65H 43/04 20060101ALI20221116BHJP
B65H 18/28 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B65H55/04
B65H43/04
B65H18/28
(21)【出願番号】P 2018164476
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】302027675
【氏名又は名称】カジレーネ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】仲井 朝美
(72)【発明者】
【氏名】梶 政隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 光朗
(72)【発明者】
【氏名】本近 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-179829(JP,A)
【文献】特開昭62-171871(JP,A)
【文献】実開昭49-143543(JP,U)
【文献】国際公開第2016/159340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 7/00-7/20
B65H18/00-18/28
B65H43/00-43/08
B65H54/00-54/553
B65H55/00-55/04
B65H61/00-63/08
D02G 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、前記芯材に対し、トラバース巻きされた混繊糸を有する巻取体であって、
前記混繊糸は、直近の同じ方向にトラバース巻きされている混繊糸との間に隙間があるようにトラバース巻きされており、
前記混繊糸は、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維から構成され、
前記連続強化繊維の連続熱可塑性樹脂に対する分散度は90%以上であり、
前記連続熱可塑性樹脂繊維の連続強化繊維に対する含浸率は5%以下であり、
前記混繊糸が2方向~4方向にトラバース巻きされており、
前記混繊糸が、少なくとも、芯材の中心軸に直交する直線に対し、3~25°の方向および-3~-25°の方向にトラバース巻きされており、
前記混繊糸が芯材に対して、トラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸方向の中央部分において移動した距離と、前記混繊糸の幅の比率である、移動した距離/混繊糸の幅が2.0~12.0であり、
前記混繊糸は、幅が7~20mmのテープ状であり、
前記混繊糸が芯材に対して、トラバース巻きされている幅と、前記混繊糸の幅の比率である、トラバース巻きの幅/混繊糸の幅が15~40であり、
前記芯材の直径が、5~20cmである、巻取体;
前記分散度とは、混繊糸をエポキシ樹脂で包埋し、前記包埋した混繊糸の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面図を超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影し、撮影画像において、放射状に補助線を等間隔に6本ひき、各補助線上にある連続強化繊維領域の長さをa1, a2, a3・・・ai(i=n)と測量し、各補助線上にある連続熱可塑性樹脂繊維の領域の長さをb1, b2, b3・・・bi(i=m)と測量し、次式により算出した値をいう;
【数1】
前記含浸率とは、連続熱可塑性樹脂繊維が連続強化繊維に含浸している割合を意味し、混繊糸の長手方向に垂直な断面の面積に対する含浸している連続熱可塑性樹脂繊維の長手方向に垂直な断面の面積の割合を基準として示される値である。
【請求項2】
前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の巻取体。
【請求項3】
前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、請求項1に記載の巻取体。
【請求項4】
前記連続強化繊維が、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の巻取体。
【請求項5】
前記混繊糸が無撚りである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の巻取体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の巻取体の製造方法であって、
前記混繊糸を芯材にトラバース巻きするに際し、芯材に直交する直線に対して、3~25°の方向および-3~-25°の2方向以上にトラバース巻きし、かつ、直近の同じ方向にトラバース巻きされている混繊糸との間に隙間があるようにトラバース巻きすることを含む、巻取体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取体および巻取体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の機械的強度を向上させるため、強化繊維を配合することは広く行われている。その中で、熱可塑性樹脂繊維に連続強化繊維を分散させた混繊糸が提案されている(特許文献1等)。このような混繊糸は、高い強度を有しながら、適度なしなやかさを併せ持っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報第2016/159340号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維とを組み合わせた混繊糸は、製造時の巻き取りにおいて注意を要する場合がある。具体的には、混繊糸は、いわゆるプリプレグと異なり、熱可塑性樹脂の連続強化繊維に対する含浸率が格段に低いため、巻き取りの際や使用時にほつれやたるみ、あるいはより内側に巻きとられた混繊糸(以下、「下層」ということがある)の乱れが生じやすくなる。また、混繊糸の巻き取り時や使用時に切れが生じることがある。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、混繊糸のほつれやたるみ、下層の乱れ、あるいは切れを抑制ないし防止することができる混繊糸の巻取体および巻取体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<15>により、上記課題は解決された。
<1>芯材と、前記芯材に対し、トラバース巻きされた混繊糸を有する巻取体であって、前記混繊糸は、前記芯材に対し、2方向以上にトラバース巻きされており、遮光空間内の白色基板上に、前記巻取体を前記芯材の円筒方向が直立するように置き、前記白色基板面上であって、前記芯材の中心軸と前記白色基板の交点から中心軸に垂直な方向に芯材の半径+180cm移動し、さらに、白色基板の基板面に垂直な方向に210cm移動した点から、前記円筒の中心軸を含む面に対向するように光照射したとき、前記トラバース巻きする方向と等しい数の直線状の反射線が前記トラバース巻きされた混繊糸の表面に形成される、巻取体。
<2>前記混繊糸が連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維から構成されている、<1>に記載の巻取体。
<3>前記混繊糸は、直近の同じ方向にトラバース巻きされている混繊糸との間に隙間があるようにトラバース巻きされており、前記混繊糸は、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維から構成され、前記連続強化繊維の連続熱可塑性樹脂繊維に対する分散度は90%以上であり、前記連続熱可塑性樹脂繊維の連続強化繊維に対する含浸率は5%以下である、<1>または<2>に記載の巻取体;
前記分散度とは、混繊糸をエポキシ樹脂で包埋し、前記包埋した混繊糸の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面図を超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影し、撮影画像において、放射状に補助線を等間隔に6本ひき、各補助線上にある連続強化繊維領域の長さをa1, a2, a3・・・ai(i=n)と測量し、各補助線上にある連続熱可塑性樹脂繊維の領域の長さをb1, b2, b3・・・bi(i=m)と測量し、次式により算出した値をいう;
【数1】
前記含浸率とは、連続熱可塑性樹脂繊維が連続強化繊維に含浸している割合を意味し、混繊糸の長手方向に垂直な断面の面積に対する含浸している連続熱可塑性樹脂繊維の長手方向に垂直な断面の面積の割合を基準として示される値である。
<4>前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂の少なくとも1種を含む、<2>または<3>に記載の巻取体。
<5>前記連続熱可塑性樹脂繊維が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、<2>または<3>に記載の巻取体。
<6>前記連続強化繊維が、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含む、<2>~<5>のいずれか1つに記載の巻取体。
<7>前記混繊糸が2方向~4方向にトラバース巻きされている、<1>~<6>のいずれか1つに記載の巻取体。
<8>前記混繊糸が、少なくとも、芯材の中心軸に直交する直線に対し、3~35°の方向および-3~-35°の方向にトラバース巻きされている、<1>~<7>のいずれか1つに記載の巻取体。
<9>前記混繊糸を、前記芯材に対してトラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸方向の中央部分において14~45mm移動している、<1>~<8>のいずれか1つに記載の巻取体。
<10>前記混繊糸は、幅が7~20mmのテープ状である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の巻取体。
<11>前記混繊糸は、芯材に対して、トラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸方向の中央部分において移動した距離と、前記混繊糸の幅の比率である、移動した距離/混繊糸の幅が2.0~12.0である、<10>に記載の巻取体。
<12>前記芯材の直径が、5~20cmである、<1>~<11>のいずれか1つに記載の巻取体。
<13>芯材と、前記芯材に対し、トラバース巻きされた混繊糸を有する巻取体であって、前記混繊糸は、直近の同じ方向にトラバース巻きされている混繊糸との間に隙間があるようにトラバース巻きされており、前記混繊糸は、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維から構成され、前記連続強化繊維の連続熱可塑性樹脂に対する分散度は90%以上であり、前記連続熱可塑性樹脂繊維の連続強化繊維に対する含浸率は5%以下であり、前記混繊糸が2方向~4方向にトラバース巻きされており、前記混繊糸が、少なくとも、芯材の中心軸に直交する直線に対し、3~25°の方向および-3~-25°の方向にトラバース巻きされており、前記混繊糸が芯材に対して、トラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸方向の中央部分において移動した距離と、前記混繊糸の幅の比率である、移動した距離/混繊糸の幅が2.0~12.0であり、前記混繊糸は、幅が7~20mmのテープ状であり、前記混繊糸が芯材に対して、トラバース巻きされている幅と、前記混繊糸の幅の比率である、トラバース巻きの幅/混繊糸の幅が1.1~3.0であり、前記芯材の直径が、5~20cmである、巻取体;
前記分散度とは、混繊糸をエポキシ樹脂で包埋し、前記包埋した混繊糸の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面図を超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影し、撮影画像において、放射状に補助線を等間隔に6本ひき、各補助線上にある連続強化繊維領域の長さをa1, a2, a3・・・ai(i=n)と測量し、各補助線上にある連続熱可塑性樹脂繊維の領域の長さをb1, b2, b3・・・bi(i=m)と測量し、次式により算出した値をいう;
【数2】
前記含浸率とは、連続熱可塑性樹脂繊維が連続強化繊維に含浸している割合を意味し、混繊糸の長手方向に垂直な断面の面積に対する含浸している連続熱可塑性樹脂繊維の長手方向に垂直な断面の面積の割合を基準として示される値である。
<14>前記混繊糸が無撚りである、<1>~<13>のいずれか1つに記載の巻取体。
<15><1>~<14>のいずれか1つに記載の混繊糸の製造方法であって、前記混繊糸を芯材にトラバース巻きするに際し、芯材に直交する直線に対して、3~25°の方向および-3~-25°の2方向以上にトラバース巻きし、かつ、直近の同じ方向にトラバース巻きされている混繊糸との間に隙間があるようにトラバース巻きすることを含む、巻取体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、混繊糸のほつれやたるみ、下層の乱れ、あるいは切れを効果的に抑制することができる混繊糸の巻取体および巻取体の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る巻取体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る混繊糸の一部を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の巻取体において混繊糸を芯材に巻き取る工程を側面視で模式的に示した工程説明図である。
【
図4】巻取体の光照射に採用される遮光空間の好ましい実施形態を模式的に示した斜視図である。
【
図5】巻取体に光照射する試験の形態を側方から見た状態(a)および上方からみた状態(b)で模式的に示す試験状態の説明図である。
【
図6】混繊糸の断面図を顕微鏡観察した画像である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る巻取体の外観を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0010】
本発明の巻取体は、芯材と、前記芯材に対し、トラバース巻きされた混繊糸を有する巻取体であって、前記混繊糸は、前記芯材に対し、2方向以上にトラバース巻きされており、遮光空間内の白色基板上に、前記巻取体を前記芯材の円筒方向が直立するように置き、前記白色基板面上であって、前記芯材の中心軸と前記白色基板の交点から中心軸に垂直な方向に芯材の半径+180cm移動し、さらに、白色基板の基板面に垂直な方向に210cm移動した点から、前記円筒の中心軸を含む面に対向するように光照射したとき、前記トラバース巻きする方向と等しい数の直線状の反射線が前記トラバース巻きされた混繊糸の表面に形成されることを特徴とする。かかる構成を採用することにより、ほつれやたるみ、下層の乱れ、および切れを効果的に抑制することができる。特に、混繊糸の巻き取り時や使用時(巻き出し時、成形加工時)のほつれやたるみ、下層の乱れ、および切れを効果的に抑制することができる。ここで、切れとしては、連続強化繊維が連続熱可塑性樹脂繊維や隣接する混繊糸に引っかかる等によって、起こりやすいが、本発明ではかかる切れを効果的に抑制できる。
【0011】
<反射線>
図1は本発明の一実施形態に係る巻取体を模式的に示す斜視図である。
図1に示す巻取体10では、芯材1と芯材1にトラバース巻きされた混繊糸2とを有する。ここで、トラバース巻きとは、芯材の中心軸cに垂直な線に対して斜めの方向に混繊糸を巻き取ることを言う。
図1の巻取体においては、混繊糸2が2方向にトラバース巻きされている。トラバース巻きの方向は、芯材の中心軸cに対して垂直な線に対して斜めに巻き取る際の角度を意味する。すなわち、混繊糸2が2方向以上にトラバース巻きされているとは、巻き取り角度を2つ以上設定してトラバース巻きされていることを意味する。例えば、詳細を後述する
図3に示す通り、一巻き目(1層目)はd1方向に巻き、二巻き目(2層目)はd2方向に巻くことが挙げられる。なお、
図1では、理解の便宜を考慮し、トラバース巻きされた混繊糸のうち一部を、色を変えて示している。
トラバース巻の方向、すなわち、反射線の数は、好ましくは2~6であり、より好ましくは2~4であり、さらに好ましくは3または4である。3以上とすることにより、隣接する下層または上層の混繊糸と絡まりにくくなり、より適切に混繊糸を巻き取ることができる。また、トラバース巻の方向の数を奇数とすることにより、より美観に優れた巻取体とすることができる。
【0012】
本発明の巻取体においては、反射線は、トラバース巻の方向の数と同数になるように調整される。反射線は、例えば、後述する<照射条件>に記載する所定の位置から光を照射したときに現れる。反射線71、72は、光照射によって、反射する線であり、巻取体に巻き取られた混繊糸の表面に芯の中心軸c方向に概ね真っ直ぐに形成される。また、3方向にトラバース巻きする場合、トラバース巻きされた混繊糸の表面に3つの反射線が現れるように調整する。さらに、4方向であれば4つの反射線が現れ、5つの方向であれば5つの反射線が現れるように調整する。前記反射線の数の調整は、例えば、分散度が高く、含浸率が低い混繊糸を、直近の同じ方向にトラバース巻きされている混繊糸との間に隙間があるようにトラバース巻きすることによって達成できる。また、トラバース巻の角度、芯材の径、混繊糸の巻取幅、巻取幅/混繊糸幅、巻き取る混繊糸の長さなどを適切に調整することによっても、達成できる。
【0013】
本実施形態の反射線71、72は芯材の中心軸c方向(通常は、巻取体の長手方向となる)に現れる。反射線71、72の幅は特に限定されないが、芯材の径(
図3)に対して40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。下限としては、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましい。このような幅の反射線とすることにより、ほつれやたるみ、下層の乱れ、および切れをより効果的に抑制することができる。
なお、反射線が現れる向きの直線状態としては、幾何学的な意味での直線の他、
図1に示したように、多少折れ線状になったり、曲線状の部分が混在している場合も含む趣旨である。また、反射線は巻取体の芯材の中心軸c方向の全長にわたって現れてもよいが、端部では必ずしもこの限りではない。
反射線の色は特に限定されないが、光源から照射される光の色と同系統の色に見えることが通常であり、白から黄色みがかった白に見えることが通常である。
【0014】
<混繊糸>
混繊糸2は、幅のあるテープ状のものが好ましく用いられる。しかしながら、混繊糸は、糸状や束状のものであってもよい。
図1の円の中には、混繊糸2の状態を拡大した模式図が描写されている。また、混繊糸2の模式的な断面図が
図2に示されている。このように、本実施形態の混繊糸2は、連続熱可塑性樹脂繊維21および連続強化繊維22から構成されている。連続熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維は、それぞれ、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。ここで、連続熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維22から構成されるとは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の構成要素を含んでいてよい趣旨である。
本実施形態の混繊糸2においては、
図1に示したように、連続熱可塑性樹脂繊維21と連続強化繊維22とは互いに撚られていないことが好ましく、並列した状態でテープ状に調製されていることがより好ましい。本実施形態における混繊糸2は、プリプレグとは異なり、連続熱可塑性樹脂繊維21の大半が連続強化繊維22中に、繊維の形状を保ったまま存在し、連続熱可塑性樹脂繊維21と連続強化繊維22を混繊した状態で、テープ状、束状、あるいは糸状にまとまっている。これらの繊維は、連続熱可塑性樹脂繊維21の表面処理剤、さらには、連続強化繊維22の表面処理剤によって、テープ状等にまとめられる。
【0015】
本発明において、混繊糸の厚みt(
図2)は、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることがより一層好ましい。上限としては、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることがさらに好ましく、210μm以下であることがより一層好ましい。
本発明において、混繊糸の幅w11(
図3)は、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましく、5mm以上であることが一層好ましく、7mm以上であることがより一層好ましい。上限としては、100mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることがさらに好ましい。
混繊糸の長手方向の長さ(テープの長さ)は、特に限定されないが、10m以上であることが好ましく、80m以上であることがさらに好ましい。上限としては、100,000m以下であることが実際的であり、10,000m以下であることがより実際的であり、5,000m以下であることがさらに実際的である。混繊糸の長さを10m以上とすることにより、混繊糸を十分に束縛できる。
混繊糸の厚みtと幅w11の関係である、w11/tが1以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましく、30以上であることがより一層好ましい。上限としては、1000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましく、80以下であることがより一層好ましく、60以下であることがさらに一層好ましい。このような範囲とすることにより、よりしなやかな材料が得られる。
【0016】
<トラバース巻き>
図3は本実施形態で採用されるトラバース巻きの形態を模式的に示した図である。
図3は、3つの方向にトラバース巻きする態様である。
図3の(a)は、芯材1に対し、一巻き目の状態である。一巻き目では、混繊糸2が、芯材1に、D1方向かつd1方向に巻き取られている。
混繊糸は、通常、トラバース巻きの幅の一方の端部から、他方の端部に向かってトラバース巻きされるが、必ずしも、一方の端部から巻き始める必要はなく、中心部付近から巻き始めてもよい。
本実施形態では、また、芯材1の中心軸c方向に対して傾斜した方向(トラバース巻きする方向)d1に混繊糸が巻き取られている。
このように、D1方向かつd1方向に巻き取る方法は、公知の方法を採用できる。例えば、混繊糸を一定の方向から供給するのに対して、芯材を回転させながら、その巻き取る角度を適宜変更することで実施することができる。本実施形態においては、混繊糸2が芯材1に巻き取られるに際して、直近の同じ方向にトラバース巻きされた混繊糸間で隙間w1を維持して巻き取られていることが好ましい。このように、隙間をもってトラバース巻きすることで、ほつれをより効果的に抑制できる。さらに、隙間をもってトラバース巻きすることで、二巻き目以上に巻き取った時に、下側(より芯材に近い側)の混繊糸の乱れを効果的に抑制できる。
巻き取り方法は、例えば、芯材を固定し、ガイドを振ってトラバースする方法や、ガイドを固定し、芯材を振ってトラバース巻きする方法が例示される。混繊糸がテープ状(扁平状)の形状である場合には、芯材を振ってトラバース巻きする方法が好ましい。芯材を振ってトラバース巻きすることにより、テープ状(扁平状)の形状を維持しやすくなる。さらに、混繊糸を巻き取る際に、混繊糸に撚りがかからないように巻き取ることが好ましい。
【0017】
本発明において、トラバース巻きする際の混繊糸の隙間w1は、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、7mm以上であることがさらに好ましく、10mm以上であることが一層好ましく、13mm以上であることがより一層好ましい。上限としては、100mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましく、40mm以下であることがさらに好ましく、30mm以下であることが一層好ましく、25mm以下であることがより一層好ましく、20mm以下であることがさらに一層好ましい。トラバース巻きする混繊糸に、上記範囲の隙間を設けることで、混繊糸のずり落ちや乱れをより効果的に抑制できる。
混繊糸の幅w11と隙間w1の比(w1/w11)は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。上限としては、2以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0018】
図3(b)は二巻き目の状態を示している。同図に示したとおり、ここでは混繊糸2がD2方向かつd2方向に移動して巻き取られている。前記方向d2は、一巻き目の方向d1と異なる方向とされている。具体的に、中心軸に垂直の線vに対するトラバース巻きする角度θ2は、垂直線vに対して角度θ1とは反対側となっている。本明細書においては、このように垂直線vを挟んで両側の方向を、トラバース巻きする角度θにおいて、プラスの角度およびマイナスの角度として定義する。例えば、角度θ1が+20°であるとき、角度θ2は-15°というかたちで表示されることとなる。
二巻き目のトラバース巻きする隙間w2は、一巻き目(1層目)のw1と同じであっても異なっていてもよい。隙間w2の好ましい範囲としては隙間w1と同じである。
【0019】
図3(c)は三巻き目の状態を示している。このときの巻き取り方向は、方向D1かつd3方向である。これは、垂直線vに対して一巻き目の方向d1と同じ側であり、トラバース巻きする角度θ3はプラスの角度(例えば+7°)とされている。
三巻き目のトラバース巻きする隙間w3は、一巻き目のw1、二巻き目のw2と同じであっても異なっていてもよい。隙間w3の好ましい範囲としては隙間w1と同じである。
このように、
図3の実施形態においては、3つ方向(d1、d2、d3)においてトラバース巻きされている。換言すれば、トラバース巻きする角度(θ1、θ2、θ3)が3つの角度とされている。このような3つの方向をさらに繰り返しながらさらに巻き付ければ、3つの方向に巻き取られた巻取体が形成される。
【0020】
トラバース巻きする角度θ(例えば、
図3におけるθ1~θ3)は、3°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましい。上限としては、35°以下であることが好ましく、25°以下であることがより好ましく、18°以下であることがさらに好ましく、15°以下であることが一層好ましい。マイナス方向においても好ましい角度θは同じであるが、具体的には、-3°以下であることが好ましく、-5°以下であることがより好ましい。下限としては、-35°以上であることが好ましく、-25°以上であることがより好ましく、-18°以上であることがさらに好ましく、-15°以下であることが一層好ましい。トラバース巻の角度θを±35°以下とすることにより、芯材の端部で混繊糸を折り返す際に、ほつれをより効果的に抑制できる。
なお、トラバース巻の角度は、幾何学的な意味における角度ではなく、本発明の技術分野における、通常の誤差を含んでいてもよい。例えば、1°未満の差は、誤差として、同じ方向にトラバース巻きされていると解釈される。
前記混繊糸を、芯材に対してトラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸c方向の中央部分において移動した距離(例えば、
図3における「wt」の距離)は、14mm以上であることが好ましく、15mm以上であることがより好ましく、16mm以上であることがさらに好ましい。上限としては、110mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましく、45mm以下であることがさらに好ましく、42mm以下であることが一層好ましく、40mm以下であることがより一層好ましい。尚、芯材に対してトラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸c方向において移動する距離は、端部を除き、一定である。一方、端部では、混繊糸の折り返し地点となり、この限りではない。
前記wtの値が、一巻き目(1層目)と二巻き目(2層目)以上とで、同じでも異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
前記混繊糸は、芯材に対して、トラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸方向の中央部分において移動した距離と、前記混繊糸の幅の比率である、移動した距離/混繊糸の幅が2.0~12.0であることが好ましく、2.3~6.0であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、ほつれをより効果的に抑制できる。
【0021】
芯材1に混繊糸2がトラバース巻きされる際に芯材1の中心軸c方向に移動する幅、すなわち、巻取幅(
図3のwa、wb、wc)は特に限定されないが、10cm以上であることが好ましく、15cm以上であることがより好ましく、20cm以上であることがさらに好ましい。上限としては、40cm以下であることが好ましく、35cm以下であることがより好ましく、30cm以下であることがさらに好ましい。本実施形態においては、
図3に一巻き目の巻取幅wa、二巻き目の巻取幅wb、三巻き目の巻取幅wcとしてそれぞれ示されている。wa、wb、wcはそれぞれ異なっていてもよいが、巻取幅を均一にする観点からは、各巻取幅の差が巻取幅の20%以内であることが好ましく、10%以内であることがより好ましく、5%以内であることがさらに好ましい。
巻取幅waと混繊糸の幅w11との比率(巻取幅/混繊糸幅)は、15以上であることが好ましく、18以上であることがより好ましく、21以上であることがさらに好ましい。上限としては、40以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、32以下であることがさらに好ましい。巻取幅/混繊糸幅を15以上とすることにより、下層となる混繊糸を十分に押さえつけ、下層の乱れをより効果的に抑制することができる。
【0022】
混繊糸中における熱可塑性樹脂繊維の体積(Vt)と連続強化繊維の体積(Vc)の比率は、Vt/Vcの比率で、0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。上限としては、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
混繊糸中の連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維との比率は特に限定されないが、連続熱可塑性樹脂繊維の質量(Mt)と連続強化繊維の質量(Mc)との比率(Mc/Mt)が0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。上限としては、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
混繊糸中の連続強化繊維の質量比率は、50~80質量%であることが好ましく、55~75質量%であることがより好ましい。混繊糸とすることにより、このように多くの連続強化繊維を配合することが可能になる。
【0023】
本発明で用いる混繊糸は、混繊糸を構成する繊維の95質量%以上が連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維で構成されることが好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。混繊糸を構成する繊維の100質量%が連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維で構成されていてもよい。
【0024】
<芯材>
本実施形態において、芯材は直円柱の形態のものが採用されている。芯材の内部は中空のものであっても、中実のものであってもよいが、一般的には中空である円筒形のものが採用される。芯材の材質は特に限定されないが、樹脂成形品や、紙、金属性のものであってもよい。芯材の表面は、エンボス加工を施してもよい。これにより、トラバース巻きをするにあたり、一巻き目の混繊糸がずれるのをより効果的に抑制することが可能になる。
芯材の直径dc(
図3(a))は、1cm以上であることが好ましく、5cm以上であることがより好ましく、6cm以上であることがさらに好ましい。上限としては、50cm以下であることが好ましく、20cm以下であることがより好ましく、16cm以下であることがさらに好ましく、13cm以下であることが一層好ましい。
芯材の幅(直径dcに垂直な方向の芯剤の長さ)は特に定めるものではないが、例えば、25~50cmとすることができる。
また、芯材の幅に対する、巻取幅(例えば、
図3のwa、wb、wc)は、巻取幅/芯材の幅として、0.5~0.95が好ましく、0.7~0.93がより好ましく、0.8~0.91がより好ましい。
【0025】
<照射条件>
本発明においては、上記の反射線を得るための光の照射条件は以下の通りとすることができる。
・遮光空間内の白色基板上に、巻取体を芯材の円筒方向が直立するように置く
・白色基板面上であって、芯材の中心軸と白色基板の交点から中心軸に垂直な方向に芯材の半径+180cm移動し、さらに、白色基板の基板面に垂直な方向に210cm移動した点から、前記円筒の中心軸を含む面に対向するように光照射する
【0026】
図4は光照射に採用される遮光空間の好ましい実施形態を模式的に示した斜視図である。本実施形態に係る遮光空間60は、白色基板よりなる底面63、白色基板からなる左右の側面61、64、青色基板62からなる背面を有している。本実施形態において底面63は矩形(正方形)とされておりその対角線の交点が底面の中心点となっている。この中心点に合わせて、巻取体の芯材の中心軸cが位置するように、巻取体10が配置されている。巻取体は、その芯材1の円筒方向が直立するように白色基板(底面)63上に載置されている。
図4には、遮光空間の寸法が示されているが、これは本実施形態の一例であり、必ずしもこれと同一でなくてもよい。
【0027】
図5は、巻取体に光照射する試験の様子を側方から見た状態(a)および上方からみた状態(b)で模式的に示す図の一例である。
図5では、巻取体の芯材1の中心軸cから芯材の半径+180cmの距離を移動した位置pから、さらに、白色基板の基板面に垂直な方向に210cmの距離を移動した点に照明9が設置されている。ここから、光を、巻取体の中心軸を含む面に対向するように、巻取体に向けて照射する。
図5では、さらに、照明9の方向に沿って、芯材の中心軸cから芯材の半径+35cmの距離を移動した位置qから、さらに、白色基板の基板面に垂直な方向に35cm移動した点に撮影装置(カメラ)を配置している。撮影装置(カメラ)8は特に限定されないが、市販のカメラを好適に使用することができる。撮影モードも一般的なものでよく、オートモードでもよい。
この状態で、本実施形態の巻取体(混繊糸の表面)に光を照射しその外観を撮像することで、
図1に示した反射線が2つ以上現れる巻取体の像が得られる。
【0028】
照射する光の一例は、光束 520lmであり、色温度5000Kである。この照射条件で何ら反射線を視認できない場合、波長420nm~700nmの1つの波長で、かつ、2750lm以上5200lm以下の光束の1つの波長を任意に定めることができる。また、色温度は、2000~5000Kである。
【0029】
<分散度>
本発明の巻取体においては、連続強化繊維の連続熱可塑性樹脂繊維に対する分散度が90%以上であることが好ましく、91%以上であることがより好ましく、92%以上であることがさらに好ましく、93%以上であることが一層好ましい。上限としては、100%であってもよく、99%以下であってもよい。分散度をこのように高くすることにより、ほつれやたるみ、切れを効果的に抑制することができる。
本発明において分散度とは、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維とが均一に混ざり合っているかの指標であり、この値が100%に近いほど均一に混ざり合っていることを意味する。分散度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0030】
<含浸率>
本発明においては、連続熱可塑性樹脂繊維の連続強化繊維に対する含浸率が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが一層好ましい。下限値としては、0%であってもよい。含浸率を5%以下とすることにより、混繊糸のしなやかさを保ち、混繊糸が直線になろうと反発したり、乱れやすくなることを効果的に抑制できる。その結果、たるみを効果的に抑制できる。
【0031】
含浸率とは、連続熱可塑性樹脂繊維が連続強化繊維に含浸している割合を意味し、混繊糸の長手方向に垂直な断面の面積に対する含浸している連続熱可塑性樹脂繊維の長手方向に垂直な断面の面積の割合を基準として示される値である。含浸率は後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0032】
<連続熱可塑性樹脂繊維>
本発明の連続熱可塑性樹脂繊維は熱可塑性樹脂組成物から形成することができる。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の1種または2種以上のみからなってもよく、その他の成分を含んでいてもよい。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂類、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂類、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂(ポリアセタール樹脂)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン樹脂類、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、全芳香族ポリイミド、半芳香族ポリイミド等の熱可塑性ポリイミド樹脂類等を用いることができ、ポリアミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂の少なくとも1種であることが好ましく、少なくともポリアミド樹脂であることがより好ましい。
【0034】
本発明で用いるポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド66/6T、ポリキシリレンアジパミド、ポリキシリレンセバカミド、ポリキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT、ポリアミド6I/6T等が挙げられる。
【0035】
上述のようなポリアミド樹脂の中でも、成形性、耐熱性の観点から、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂(以下、「XD系ポリアミド」ということがある)であることが好ましい。
また、ポリアミド樹脂が混合物である場合は、ポリアミド樹脂中のXD系ポリアミドの比率が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、さらには90質量%以上、特には95質量%以上であってもよい。
【0036】
XD系ポリアミドは、ジアミン由来の構成単位の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上が、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が好ましくは4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
上記キシリレンジアミンは、少なくともメタキシリレンジアミンを含むことが好ましく、30~100モル%のメタキシリレンジアミンと、70~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがより好ましく、50~100モル%のメタキシリレンジアミンと、50~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがさらに好ましい。
【0037】
XD系ポリアミドの原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の50モル%未満であり、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1~25モル%、特に好ましくは5~20モル%の割合で用いる。
【0038】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸が好ましい。
【0039】
上記炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0040】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性、バリア性の点から、テレフタル酸、イソフタル酸を用いることが好ましい。テレフタル酸、イソフタル酸の割合は、好ましくはジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1~30モル%、特に好ましくは5~20モル%の範囲である。
さらに、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。
【0041】
本発明で用いるポリアミド樹脂の第一の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の80モル%以上がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がアジピン酸に由来する態様である。
本発明で用いるポリアミド樹脂の第二の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の10~90モル%がメタキシリレンジアミンに由来し、90~10モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がセバシン酸に由来する態様である。
【0042】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)が6,000~30,000であることが好ましく、より好ましくは8,000~28,000であり、さらに好ましくは9,000~26,000であり、一層好ましくは10,000~24,000であり、より一層好ましくは11,000~22,000である。このような範囲であると、得られる成形品の耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0043】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度[NH2](μ当量/g)と末端カルボキシル基濃度[COOH](μ当量/g)から、次式で算出される。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH2])
【0044】
ポリアミド樹脂の製造方法は、特開2014-173196号公報公報の段落0052~0053の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0045】
ポリアミド樹脂の融点は、150~310℃であることが好ましく、180~300℃であることがより好ましく、180~250℃であることがさらに好ましい。
また、ポリアミド樹脂のガラス転移点は、50~100℃が好ましく、55~100℃がより好ましく、特に好ましくは60~100℃である。この範囲であると、得られる成形品の耐熱性がより良好となる傾向にある。
ガラス転移点とは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるガラス転移点をいう。測定には、示差走査熱量計(DSC)を用い、試料量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移点、融点を求めることができる。
示差走査熱量計(DSC)は、例えば、島津製作所(SHIMADZU CORPORATION)製、DSC-60を用いることができる。
ポリアミド樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0046】
さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、各種の含有成分を含めてもよい。例えば、エラストマー、連続強化繊維以外のフィラー、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、滑剤等の添加剤等を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。尚、本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物は、上記フィラーを含んでいてもよいが、上記フィラーを含まないことが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂組成物中の上記フィラーの含有量が、3質量%以下であることをいう。
【0047】
本発明の好ましい実施形態で用いる熱可塑性樹脂において、80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)が、ポリアミド樹脂である形態が例示される。
【0048】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、通常、上記熱可塑性樹脂組成物から構成される連続繊維である。ここで、連続繊維とは、50mmを超える繊維をいい、1mを超えるものが実際的である。本発明で使用する連続熱可塑性樹脂繊維の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1~100,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100~10,000m、さらに好ましくは1,000~5,000mである。
本発明における連続熱可塑性樹脂繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。
連続熱可塑性樹脂繊維は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0049】
本発明で用いる連続熱可塑性樹脂繊維は、通常、連続熱可塑性樹脂繊維が束状になった連続熱可塑性樹脂繊維束を用いて製造するが、かかる連続熱可塑性樹脂繊維束1本の当たりの合計繊度が、40~600dtexであることが好ましく、50~500dtexであることがより好ましく、100~400dtexであることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、得られる混繊糸中での連続熱可塑性樹脂繊維の分散状態がより良好となる。かかる連続熱可塑性樹脂繊維束を構成する繊維数は、1~200fであることが好ましく、5~100fであることがより好ましく、10~80fであることがさらに好ましく、20~50fであることが特に好ましい。特に、詳細を後述するとおり、混繊糸を用いて本発明の材料を形成する場合、連続熱可塑性樹脂繊維の分散状態がより良好となる。
【0050】
本発明における連続熱可塑性樹脂繊維は、連続熱可塑性樹脂繊維の処理剤を表面に有する連続熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。これらの詳細は、WO2016/159340号パンフレットの段落0064~0065の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0051】
連続熱可塑性樹脂繊維が表面処理剤を有することにより、混繊糸の製造工程やその後の加工工程で、連続熱可塑性樹脂繊維の切れを抑制することができる。
【0052】
連続熱可塑性樹脂繊維の表面処理剤の量は、例えば、熱可塑性樹脂繊維の0.1~2.0質量%である。下限値は、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。上限値としては、1.8質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。このような範囲とすることにより、連続熱可塑性樹脂繊維の分散が良好となり、より均質な混繊糸を得られやすい。また、混繊糸を製造する際には連続熱可塑性樹脂繊維には機械との摩擦力や繊維同士の摩擦力が生じ、その際に連続熱可塑性樹脂繊維が切れることがあるが、上記の範囲とすることによって繊維の切断をより効果的に防ぐことができる。また、均質な混繊糸を得るために機械的な応力を連続熱可塑性樹脂繊維に加えるが、その際の応力により連続熱可塑性樹脂繊維が切断することをより効果的に防ぐことができる。
表面処理剤は、連続熱可塑性樹脂繊維や連続強化繊維を収束する機能を有するものであれば、その種類は特に定めるものではない。処理剤としては、エステル系化合物、アルキレングリコール系化合物、ポリオレフィン系化合物、フェニルエーテル系化合物、ポリエーテル系化合物、シリコーン系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、アミド系化合物、スルホネート系化合物、ホスフェート系化合物、カルボキシレート系化合物およびこれらを2種以上組み合わせたものが好ましく、エステル系化合物がより好ましい。
【0053】
連続熱可塑性樹脂繊維の表面処理剤による処理方法は、所期の目的を達成できる限り特に定めるものではない。例えば、連続熱可塑性樹脂繊維に、表面処理剤を溶液に溶解させたものを付加し、連続熱可塑性樹脂繊維の表面に処理剤を付着させることが挙げられる。あるいは処理剤を連続熱可塑性樹脂繊維の表面に対してエアブローすることによってもできる。
【0054】
<連続強化繊維>
本発明の好ましい実施形態に係る強化繊維は、連続繊維である。ここで、連続繊維とは、50mmを超える繊維をいい、1mを超えるものが実際的である。本発明における強化繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。強化繊維は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0055】
本発明で用いる強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維(スチール繊維等)等の無機繊維、および、植物繊維(ケナフ(Kenaf)、竹繊維等を含む)、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維などが挙げられる。なかでも、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含むことがより好ましく、炭素繊維の少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0056】
本発明の好ましい実施形態で用いる強化繊維は、処理剤で処理されたものを用いることが好ましい。このような処理剤としては、集束剤や表面処理剤が例示され、特許第4894982号公報の段落番号0093および0094に記載のものが好ましく採用され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0057】
表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物からなるものが挙げられ、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等であり、シラン系カップリング剤が好ましい。
【0058】
また、収束剤としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シラン系化合物、イソシアネート系化合物、チタネート系化合物、ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シラン系カップリング剤、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがより好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがさらに好ましく、水溶性ポリアミド樹脂であることが一層好ましい。
【0059】
前記処理剤の量は、強化繊維の0.001~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることがより好ましく、0.3~1.1質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
強化繊維の処理剤による処理方法は、公知の方法を採用できる。例えば、強化繊維を、処理剤を溶液に溶解させたものに浸漬し、強化繊維の表面に処理剤を付着させることが挙げられる。また、処理剤を強化繊維の表面にエアブローすることもできる。さらに、既に、表面処理剤や処理剤で処理されている強化繊維を用いてもよいし、市販品の表面処理剤や処理剤を洗い落してから、再度、所望の処理剤量となるように、表面処理しなおしてもよい。
【0061】
<混繊糸の製造方法>
まず、熱可塑性樹脂組成物を押出機にて溶融押出しし、ストランド状に押出し、ロールにて巻き取りながら延伸し、巻取体に巻き取った連続熱可塑性樹脂繊維束を得る。
上記で得た連続熱可塑性樹脂繊維の巻取体、および、あらかじめ準備された連続強化繊維の巻取体からそれぞれの繊維を引き出し、複数のガイドを通しながらエアブローにより開繊する。開繊しながら、連続熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維を一束とする。このとき、複数のガイドを通しながらエアブローを与え、テープ状に混繊糸を調製しながら均一化を進めることが好ましい。このエアブローの際に連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維を上記の処理剤で表面処理してもよいし、あらかじめ表面処理した繊維束の繊維を巻取体から繰り出して用いてもよい。
【0062】
本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸は、連続熱可塑性樹脂繊維束と連続強化繊維束を用いて製造することが好ましい。一本の混繊糸の製造に用いられる繊維の合計繊度(一本の混繊糸の製造に用いられる連続熱可塑性樹脂繊維の繊度の合計および連続強化繊維の繊度の合計を足し合わせた値)は、1000~100000dtexであることが好ましく、1500~50000dtexであることがより好ましく、2000~50000dtexであることがさらに好ましく、3000~30000dtexであることが特に好ましい。
【0063】
一本の混繊糸の製造に用いる繊維数の合計(連続熱可塑性樹脂繊維の繊維数の合計と連続強化繊維の繊維数の合計を合計した繊維数)は、繊維数の合計は、100~100000fであることが好ましく、1000~100000fであることがより好ましく、1500~70000fであることがさらに好ましく、2000~20000fであることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、混繊糸の混繊性が向上し、物性と質感により優れた成形品が得られる。また、いずれかの繊維が偏る領域が少なく互いの繊維がより均一に分散し易い。
【0064】
本発明で用いる混繊糸は、撚りがかっていてもよい。ただし、本発明の混繊糸の繊維は撚りがかかっていない(混繊糸に積極的に撚りをかけていないことをいう)ことが好ましい。また、巻取体の端部には、巻取り時に、撚りがかかってしまうことがあるが、かかる撚りは、積極的にかける撚りではない。また、かかる端部の撚りは、巻き取り時に解消される撚りである。
本発明では、例えば、連続熱可塑性樹脂繊維ないし連続強化繊維の繊維材料を開繊して、繊維が互いに並列した状態で繊維束にした形態であることが好ましい。
【0065】
<混繊糸の用途>
本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸は、微含浸の状態のまま、ロールに巻き取って巻取体としたり、さらに、各種成形材料へ加工することもできる。混繊糸を用いた成形材料としては、織物、組物、組紐、不織布、ランダムマット、編み物等が例示される。本発明の混繊糸は、適度にしなやかで、繊維の剥離が少ないので、織物や編み物、特に、織物に優れている。
組紐の形態としては、特に制限はなく、角打ち紐、平打紐、丸打紐等が例示される。
織物の形態としては、特に制限はなく、平織、八枚朱子織、四枚朱子織、綾織等のいずれでもよい。また、いわゆるバイヤス織でもよい。さらに、特開昭55-30974号公報に記載されているように実質的に屈曲を有しないいわゆるノンクリンプ織物であってもよい。
織物の場合、経糸および緯糸の少なくとも一方が、本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸である態様が例示される。経糸および緯糸の他方は、本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸としてもよいが、所望の特性に応じて、強化繊維や熱可塑性樹脂繊維であってもよい。経糸および緯糸の他方に熱可塑性樹脂繊維を用いる場合の一形態として、本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸を構成する熱可塑性樹脂と同じ熱可塑性樹脂を主成分とする繊維を用いることが例示される。
編み物の形態としては、特に制限はなく、たて編み、よこ編み、ラッセル編み等公知の編み方を自由に選択できる。
不織布の形態としては、特に制限はなく、例えば、本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸を切断してフリースを形成し、混繊糸間を結合し、不織布とすることができる。フリースの形成は、乾式法、湿式法などを用いることができる。また、混繊糸間の結合は、ケミカルボンド法、サーマルボンド法等を採用できる。
また、本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸を一方向に引き揃えたテープ状もしくはシート状の基材、組紐、縄状の基材、またはこれらの基材を2枚以上積層した積層物としても用いることができる。
さらに、本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸や組紐、織物、編み物または不織布等を積層し、加熱加工した複合材料としても、好ましく用いられる。加熱加工は、例えば、熱可塑性樹脂の融点+10~30℃の温度で行うことができる。
本発明の好ましい実施形態に係る混繊糸、成形材料または複合材料を用いた成形品は、例えば、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話などの電気・電子機器、光学機器、精密機器、玩具、家庭・事務電気製品などの部品やハウジング、さらには自動車、航空機、船舶などの部品に好適に利用することができる。特に、凹部や凸部を有する成形品の製造に適している。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0067】
<熱可塑性樹脂>
MXD6:メタキシリレンアジパミド樹脂(三菱ガス化学(株)製、グレードS6001)、融点237℃、数平均分子量16800
PA6:ポリアミド樹脂6、宇部興産社製、1022B、融点220℃
MPXD10:キシリレンセバカミド樹脂、融点213℃、数平均分子量15400
<<MPXD10の合成例>>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、更に少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂MPXD10を得た。
得られたポリアミド樹脂の融点は、213℃、数平均分子量は、15400であった。
【0068】
<連続強化繊維>
<<連続炭素繊維(CF)>>
三菱レイヨン社製、Pyrofil-TR-50S-12000-AD、8000dtex、繊維数12000f。エポキシ樹脂で表面処理されている。
<<連続ガラス繊維(GF)>>
日東紡績社製、ECG 75 1/0 0.7Z、繊度687dtex、繊維数400f、集束剤で表面処理されている。
【0069】
<芯材>
芯材径 3インチ、幅280mm、中空、紙製、エンボス加工表面紙、端面加工、昭和丸筒社製
芯材径 6インチ、幅280mm、中空、紙製、エンボス加工表面紙、端面加工、昭和丸筒社製
【0070】
実施例1~10および比較例1~3
<連続熱可塑性樹脂繊維の製造>
表1に示す熱可塑性樹脂を直径30mmのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、60穴のダイからストランド状に押出し、ロールにて巻き取りながら延伸し、連続熱可塑性樹脂の繊維束を巻取体に800m巻き取った。溶融温度は、連続熱可塑性樹脂の融点+15℃とした。
【0071】
<熱可塑性樹脂繊維の表面処理>
油剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王製、エマノーン 1112))を深型のバットに満たし、表面をゴム処理したローラーをローラーの下部分が油剤に接するように設置してローラーを回転させることで、常に油剤がローラー表面に付着している状態にした。上記連続熱可塑性樹脂繊維をこのローラーに接触させることで連続熱可塑性樹脂繊維の表面に油剤を塗布した。
【0072】
<混繊糸の製造>
混繊糸は、以下の方法に従って製造した。
1m以上の長さを有する連続熱可塑性樹脂繊維の巻取体、および、1m以上の長さを有する連続強化繊維の巻取体からそれぞれの繊維を引き出し、複数のガイドを通しながらエアブローにより開繊を行った。開繊しながら、連続熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維を一束とし、さらに、複数のガイドを通しながらエアブローを与え、均一化を進めた。
得られた混繊糸は、炭素繊維を用いたものが繊度約13000dtex、繊維数約13500f、ガラス繊維を用いたものが繊度約15000dtex、繊維数約10000f、連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維の体積比率が1:1、また、連続強化繊維の割合は、炭素繊維を用いた混繊糸が61質量%、ガラス繊維を用いた混繊糸が69質量%であった。
【0073】
<分散度の測定方法>
混繊糸をエポキシ樹脂で包埋し、混繊糸の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面図を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影した。
図6に示すように、撮影画像において、放射状に補助線を等間隔に6本ひき、各補助線上にある連続強化繊維領域の長さをa1, a2, a3・・・ai(i=n)と測量した。また、各補助線上にある連続熱可塑性樹脂繊維の領域の長さをb1, b2, b3・・・bi(i=m)と測量した。その結果に基づき、次式により分散度を算出した。
【数3】
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス製)を使用した。
【0074】
<含浸率の測定方法>
混繊糸を切り取り、エポキシ樹脂で包埋し、混繊糸の断面部にあたる面を研磨し、断面図を超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影した。作製した成形品の断面をデジタルマイクロスコープで観察した。得られた断面写真に対し、連続強化繊維の熱可塑性樹脂が含浸した領域を画像解析ソフトImageJを用いて選択し、その面積を測定した。含浸率は、連続強化繊維の熱可塑性樹脂が含浸した領域/断面積(単位%)として示した。
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス製)を使用した。
【0075】
<巻取体の製造(実施例1~10、比較例2、3)>
混繊糸を固定されたガイドに通し、芯材を長軸方向に水平に移動させながら巻き取った。トラバース巻きの方向の数、トラバース間の隙間、トラバース巻きの角度、移動距離は、各実施例および比較例に合わせた芯材の移動速度および移動方向で調整して、巻取体を製造した。芯材末端からの折り返しは、混繊糸に撚りが入らないように速度と角度を調整した。
【0076】
<巻取体の製造(比較例1)>
芯材を長軸方向に移動させず、固定し、他は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0077】
<ほつれの測定>
混繊糸を巻取り方向に1m巻き出し、混繊糸同士のほつれを目視で確認した。
A:なし
B:ややあり
C:あり
【0078】
<下層のみだれの測定>
巻取体を芯材の円筒方向が直立するように置き、上層の混繊糸を巻き出し、下層の乱れを目視で確認した。
A:なし
B:ややあり
C:あり
【0079】
<たるみの測定>
巻取体を芯材の円筒方向が直立するように置き、混繊糸がトラバース巻きの角度よりも大きな角度のたるみを目視で確認した。
A:なし
B:ややあり
C:あり
【0080】
<切れ測定>
混繊糸を巻取り方向に1m巻き出し、切れを目視で確認した。
A:混繊糸を構成する繊維に切れがなかった
B:混繊糸を構成する繊維に多少の切れがあった
C:混繊糸を構成する繊維にかなりの数が切れがあった
【0081】
【0082】
上記表1および表2において、樹脂の種類とは、連続熱可塑性樹脂繊維の樹脂の種類を、強化繊維の種類とは、連続強化繊維の種類をそれぞれ示している。
移動距離とは、芯材に対してトラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸方向の中央部分における移動距離をいう。
巻取幅/混繊糸幅は、混繊糸の巻取幅を混繊糸の幅で除した値である。
【0083】
直線状の反射線:上記<照射条件>に示された条件で光を照射したときに巻取体の表面に現れた反射線の数を示す。
また、実施例1の巻取体に光を照射したときの反射線の状態を
図7に示した。光照射に用いた照明とカメラは以下のものを用いた。
照明:パナソニック製、Natural色 FHF32EX-N-H 1198mm、25mm管
カメラ:オリンパス製Tough Stylus TG-3 CmIII オートモード
【0084】
上記結果から明らかなとおり、実施例の巻取体はトラバース巻きの方向が2方向から4方向であり、その巻取体の表面に、光を照射したときに巻き方向の数に対応した直線状の反射線が現れることが確認された。これらの実施例の巻取体はほつれ、下層のみだれ、たるみ、切れが抑制されることが分かった。これらの項目については、巻取幅/混繊糸幅が適切で、巻き取る混繊糸の長さが適切で、芯材の直径が3インチ(76.2mm)のとき、トラバース巻きの角度が±10°以下のとき、特に高い効果が得られた。特に、実施例2および3では、実施例1のように±5°に巻かれた2つの層(混繊糸)の間に、異なる角度の層(混繊糸)が存在し、より絡まりにくく巻き取ることができた。
一方、反射線が認められなかった比較例1、2および3の巻取体はほつれ、下層のみだれが認められた。さらに、比較例1では、たるみも認められた。さらに、比較例3では、たるみと切れが認められた。
一方、実施例1において、含浸率を20%とした場合、樹脂のかなりの割合が溶融しており、テープが固く、混繊糸とならなかった。
【符号の説明】
【0085】
1 芯材
2 混繊糸(テープ)
8 撮影装置(カメラ)
9 照明
10 巻取体
21 連続熱可塑性樹脂繊維(ポリアミド樹脂の連続繊維)
22 連続強化繊維(連続炭素繊維)
60 遮光空間
61、64 反射試験の試験台(側面板)(白色基板)
62 反射試験の試験台(背面板)(青色基板)
63 反射試験の試験台(底面板)(白色基板)
71、72 反射線
c 芯材の中心軸
v 中心軸に直交する直線方向
θ1、θ2、θ3 トラバース巻きする角度
d1、d2、d3 トラバース巻きする方向
w1、w2、w3 混繊糸の隙間
w11 混繊糸の幅
wt 芯材に対してトラバース巻きで一周したとき、芯材の中心軸c方向の中央部分において移動する距離
t 混繊糸の厚さ
wa、wb、wc トラバース巻きする幅(巻取幅)